廃石膏を用いた改良材の適用土質の研究

廃石膏を用いた改良材の適用土質の研究
Technical Study of Application Soil Quality of Soil Quality
Improved Material that Waste Gypsum is the main ingredient
三田村 文寛・篠原 久雄*1
要旨
12年度から14年度まで火力発電所から発生する産業廃棄物の脱硫石膏の有効利用を図るために行った「脱
硫石膏を用いた土質改良に関する研究」1)~3)で、石膏と消石灰を配合した固化材(以下石膏・消石灰固化材とす
る。)は土質改良効果があり、施工上も問題がないことが分かった。ところが脱硫石膏は県内の福井火力発電所、
三国共同火力発電所が閉鎖・合併され、排出量が大幅に減少したことや敦賀火力発電所から発生するものは安全性
に疑いがあることから当面県内では、この有効利用を図る必要性は少なくなった。しかし年々、建築物の解体等の
増加にともなって廃石膏ボードの排出量の増加が予測されていることや県内の建設発生土の利用促進が求められ
ること、
あるいは六価クロムの土壌汚染の問題など、
廃石膏を用いた土質改良材に関する研究の意義は充分にある。
そこで今年度は、石膏・消石灰固化材の適用土質の傾向を探るため、セメント系固化材と化学組成が近いセメン
トの固化処理で一般的に問題がある土から有機質土を用いて室内試験を行った。
その結果、強熱減量20%程度までの有機質土で第3種処理土程度までなら概ね改良可能、低液性限界の有機質
土で有機質分10%程度までならば処理後の強度に問題はないことがわかった。
また適用条件には強熱減量と相関
がある土粒子の密度に関わりがあると考えられた。
キーワード:石膏、土質改良材、有機質、土粒子の密度
度は土に石膏と消石灰を添加すると、針状のエトリン
1.はじめに
平成12年度の石膏ボードの年間生産量は468万トン
ガイドを生成し、土粒子を架橋することや土中成分と
で今後もますます増加することが予想される。このう
消石灰とでポゾラン反応を起こし、土粒子間を固結さ
ち、実際の建築物に使用されるものが426万トン、新
せることが知られていることから、これらを用いた土
築時廃材42万トンである。また、産業廃棄物として排
質改良に関する研究を行った。その結果、これらを添
出される廃石膏ボードは53万トン と推計されている。
加した土は予想どおり強度が増加し、土質改良効果が
新築時の廃石膏ボードの再資源化率は平成12年度38.
あることが実証された。13年度は福井市内の道路工
3% で廃石膏ボードの資源化が求められているとこ
事現場で試験施工を行い、実際に現場で石膏と消石灰
ろである。一方、建設発生土の利用率は、平成14年度
を軟弱土に添加し、現場で締め固めて性能の確認を行
の全国平均値65% に対し福井県は55%であり、原因
った。その結果、これらを用いた固化材は、強度的に
は現場内利用が進められていないためと思われ、有効
は問題なく、現場で石膏と消石灰を混合するため施工
な土質改良技術の確立は急務である。また、六価クロ
性は低下するものの、単価的に安く、土質改良材とし
ムの問題も取りざたされることが多く、セメントを含
て十分使用可能であることが明らかとなった。このた
まない固化材の開発が求められている。これらのこと
め、14年度は、あらかじめ脱硫石膏と消石灰を混合
から今回、前年度までの研究に引続き、廃石膏用いた
した固化材を福井市内で地下水位が高いような現場へ
土質改良に関する研究を行うこととなった。
の適用性の検討を行った。その結果、あらかじめ消石
*2
*3
*3
灰と脱硫石膏を混合しておくことにより、通常の固化
前年度までの研究について経過を述べると、12年
材と同様の作業で施工でき、強度的にも問題ないこと
*1武生土木事務所
*2(社)石膏ボード工業会
*3平成 14 年度建設副産物実態調査
が明らかとなった。
そこで今回は、石膏・消石灰固化材の実用化に向け
1
シルト分(5~75μm)(%)
粘土分(5μm未満)(%)
PH
強熱減量(%)
液性限界(%)
塑性限界(%)
塑性指数IP
分類記号
湿潤密度(g/cm3)
乾燥密度(g/cm3)
飽和度(%)
六価クロム溶出量(mg/L)
て適用土質の検討を行った。
2.石膏の性状
石膏とは、硫酸カルシウム(CaSO4)の化学組成を
もつ鉱物の総称であるが、結晶水により二水石膏(Ca
SO4・2H2O)半水石膏(CaSO4・1/2H2O)無水石膏
(CaSO4)に分類される。
石膏ボードから出る廃石膏は二水石膏であり、形状
36.5
11.5
6.8
9.1
44.63
32.41
12.22
(SCs)
1.658
1.192
87.30
0.01未満
53.5
39.8
5.8
7.2
48.88
22.82
26.06
(CL-S)
1.786
1.205
106.00
0.01未満
は砂状である。前年度まで研究に用いた脱硫石膏も同
表-2 試料土(OH)の性状
じ二水石膏であり、性状的には同じである。したがっ
北潟湖
土粒子の密度(g/cm3)
2.449
自然含水比(%)
189.02
レキ分(2~75mm)(%)
0.0
砂分(75μm~2mm)(%)
2.5
シルト分(5~75μm)(%)
75.3
粘土分(5μm未満)(%)
22.2
PH
4.6
強熱減量(%)
19.3
液性限界(%)
107.97
塑性限界(%)
67.25
塑性指数IP
40.72
分類記号
(MH)
湿潤密度(g/cm3)
1.249
乾燥密度(g/cm3)
0.435
飽和度(%)
99.05
六価クロム溶出量(mg/L)
-
て今回の試験でも脱硫石膏を使用しているが性状的
には問題ない。ちなみに、単に石膏といえば二水石膏
を指す。脱硫石膏は燃料(石炭、石油)の燃焼により
発生する亜硫酸ガスを排煙脱硫する過程で得られるも
ので、今回用いた脱硫石膏は溶出試験の結果、重金属
等の有害物質は検出されておらず、ダイオキシンにつ
いても測定下限値以下であった。
3.試験用試料
セメント系固化材はその使用目的に応じていろいろ
な種類があるが、化学組成はセメントに近いため固化
三方五湖
2.614
120.25
0.0
20.3
57.1
22.6
6.8
11.4
106.61
43.54
63.07
(MHS)
1.453
0.659
106.15
0.01未満
処理の形態の傾向はセメントに似ているものと思われ
4.固化材
る。一般的にセメントの固化処理が検討される軟弱土
固化材は、石膏・消石灰固化材とセメント系固化材
は次の条件が上げられる。
・細粒分が多い。
・高含水である。
・フミン酸等の有機物を含んでいる。
の2種類を用いた。石膏・消石灰固化材はセメント系
固化材と経済的に同等以上となるよう石膏と消石灰を
1:1で混合するものとした。セメント系固化材は一
したがって、これらの条件に合った試料土を用いて
般軟弱土用のもので六価クロム対応型(+2,000円/
検討を行えば、石膏・消石灰固化材の優位性が実証され
t)のものを用いた。
る可能性が高いと考えた。試料土は、低液性限界(含
水比<50%)の有機質土(OL)として、大野市土打
5.強度試験
の粘性土質砂(SCs)と福井市浅水町の砂まじり粘土
配合材料はミキサーで10分間混合した後、一軸圧
(CL‐S)を用い、高液性限界(含水比≧50%)の
縮試験用供試体については、セメント協会標準試験方
有機質土(OH)として北潟湖浚渫土のシルト(MH)
法JCAS L-01-1990「セメント系固化材による安定処理
と三方五湖浚渫土の砂質シルト(MHS)を用いた。
土の試験方法」に規定するφ5cmモールドと1.5kg
試料土の性状を表-1、2に示す。
ランマーにより突固め回数4層90回で作製した。供
試体の養生は、空中(室内)養生(温度20±3度C)
表-1 試料土(OL)の性状
土粒子の密度(g/cm3)
自然含水比(%)
レキ分(2~75mm)(%)
砂分(75μm~2mm)(%)
大野市土打
2.561
39.14
0.0
51.2
で10日とした(セメント系固化材は7日)。養生終
福井市浅水町
2.663
48.57
0.0
6.7
了後、JIS A 1216に規定する一軸圧縮試験を行った。
また、養生はあくまでも地下水の影響を受けないこと
を前提として空中養生で行った。なお、低液性限界の
2
有機質土(OL)と高液性限界の有機質土(OH)とで
高液性限界の有機質土(OH)は固化材を大量に使用
は、改良後の強度に大きな差が生じるため各々で比
しなければ、改良効果が得られない。また、実際の施
較・検討を行った。
工でも含水比を下げる必要が出てくる可能性もあるこ
とから固化材の添加率を20%に固定し含水比を表-
5.1 低液性限界の有機質土(OL)
4のとおり調整して試験を行った。
低液性限界の有機質土(OL)では比較的強度が高く
なるので、固化材の添加量を変えて強度試験を行った。
表-4 調整試料の含水比
なお、固化材の添加率は乾燥重量比である。
試料名
結果を表-3、図-1に示す。
北潟湖
三方五湖
表-3 強度試験(低液性限界の有機質土)
5
10
15
一軸圧縮強度(kN/m2)
大野市土打
福井市浅水町
152.5
50.5
805.5
554.6
1468.1
903.8
20
5
10
15
20
2124.3
104.4
204.8
536.7
1223.0
添加量
(%)
固化材
石膏・消石灰
セメント系
固化材
土打(石膏)
浅水(石膏)
190
188.99
189.92
一軸圧縮試験の結果を表-5、図-2に示す。
表-5 強度試験(高液性限界の有機質土)
固化材
1306.6
169.6
358.3
1078.4
2212.3
石膏・消石灰
セメント系
固化材
含水比
(%)
50
120
190
一軸圧縮強度(kN/m2)
北潟湖
三方五湖
396.7
1306.6
196.5
37.3
39.4
12.9
50
120
190
284.9
76.2
22.5
2212.3
316.3
72.2
土打(セメント)
浅水(セメント)
北潟湖(石膏)
三方五湖(石膏)
2500
北潟湖(セメント)
三方五湖(セメント)
3000
2000
一軸圧縮強度(kN/㎡)
一軸圧縮強度(kN./㎡)
含水比(%)
120
121.14
121.01
50
50.65
50.09
1500
1000
500
0
0
5
10
添加率(%)
15
20
2500
2000
1500
1000
500
0
図-1 強度試験(低液性限界の有機質土)
50
有機質分の割合は両者に大差がない。むしろ大野市
120
含水比(%)
190
図-2 強度試験(高液性限界の有機質土)
土打の粘性土質砂(SCs)の粒度が比較的大きく、酸
性度も弱いため、セメントの固化には有利な要素が多
高液性限界の有機質土では一軸圧縮強度が小さく処
いと思われる。したがって強度の差は土粒子の密度の
理土としての品質基準を満たすか否か判りにくい。例
差からくるものと考えるが、もう少し多くの試料土で
外として三方五湖の土で含水比を50%まで下げた
試験を行いたいところである。
試料土はかなりの強度が出ているが、砂質シルトであ
ることが原因と考えられる。
5.2 高液性限界の有機質土(OH)
浚渫土の処理土としての品質評価は、建設汚泥再生
3
表-8 処理結果と処理土区分
利用基準(案)(旧建設省通知)に定める表-6に基づき
コーン指数で行うこととし、今回は適用土質の検討で
固化材
あるので一軸圧縮強度から換算することとした。
石膏・消石灰
表-6 処理土の土質材料としての品質区分と品質
基準値
基準値
区分
セメント系
固化材
コ-ン指数
備
qc(kN/㎡)
考
固結強度が高く礫、砂
飽和度
(%)
60
80
100
60
80
100
換算コーン指数(kN/m2)
北潟湖
三方五湖
第1種
第1種
概ね第3種
第2種
概ね第3種
第4種
第1種
第1種
概ね第3種
第1種
第1種
第1種
6.まとめ
第1種処理土
-
第2種処理土
800以上
機質土ならば、第3種処理土程度まで改良可能であり、
第3種処理土
400以上
自然乾燥させる仮置ヤードがあれば第1種改良土ま
第4種処理土
200以上
で可能である。
状を呈するもの
石膏・消石膏固化材は強熱減量20%程度までの有
また、低液性限界の有機質土で強熱減量10%程度
また、実施時にストックヤードがあり自然乾燥によ
までならば、強度は充分発現可能である。低液性限界
る改良を想定し、飽和度を100%、80%、60%
および高液性限界の有機質土、各々では強熱減量の大
と変化させた。一軸圧縮強度のコーン指数への換算は
きい方が改良効果は出ているが、大野市土打と三方五
建設汚泥リサイクル指針にある次式を用いた。
湖の有機質土を比較すると大野市土打の方が、強熱減
qc=(10~15)・qu
量が小さいにも関わらず石膏・消石膏固化材の方が効
qc:一軸圧縮強度(kN/m2)
果は高く、強熱減量と石膏・消石膏固化材の適否の関
qu:コーン指数(kN/m2)
係はよくわからない。
しかし、土粒子の密度に着目すれば低液性限界、高
以上の結果を表-7に示す。
液性限界に関わらず、2.6
g/cm3前後を境に石膏・消石
膏固化材のセメント系固化材に対する優位性が変わ
表-7 換算コーン指数による強度試験結果
るので、土粒子の密度と石膏・消石膏固化材の適否は
なんらかの関連性があると思われる。今後、機会があ
固化材
石膏・消石灰
セメント系
固化材
飽和度
(%)
60
80
100
60
80
100
換算コーン指数(kN/m2)
北潟湖
三方五湖
2,000以上
1,190~1,780
390~590
830~1,250
390~590
230~340
ればもう少し他の試料土で効果を調べ、結論をみたい。
2,000以上
980~1,480
370~560
2,000以上
2,000以上
2,000以上
謝辞
本研究に当たり、三国土木事務所、敦賀土木事務所
(株)サンケン試錐コンサルタント、湖北建設興業(有)
など多くの方々に助言と多大な協力を頂いたことを記
し謝辞とする。
表-7の結果に処理土区分を当てはめたものを表
-8に示す。
参考文献
1)篠原:雪対策・建設技術研究所年報、14(2001)
セメント系固化材の処理結果は強熱減量の大小で
2)篠原:雪対策・建設技術研究所年報、15(2002)
異なった結果が出るのに対し石膏・消石灰はあまり変
3)篠原:雪対策・建設技術研究所年報、16(2003)
化がない。土粒子の密度については、低液性限界の有
4)建設汚泥リサイクル指針(財)先端建設技術センター
機質土と同様に有機質分の大きい方が小さかった。
4