ロシア産業の「内部」: Rostecにみる現状と課題

特
集
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
油価低迷・通貨安とロシア経済
■ Research Report ■
ロシア産業の「内部」:
Rostecにみる現状と課題
高知大学 人文学部
塩原 俊彦
はじめに
た。正式名称は「ハイテク工業製品の開発・生
ウクライナ危機後のロシアによるクリミア
産・輸出助成国家コーポレーション」で、ロシ
併合に対する日欧米諸国の対ロ制裁に加えて、
ア語で「ロステクノロギー」
(«Ростехнологии»)
2014年末の通貨ルーブルの暴落によって、ロシ
と簡略化されて呼ばれることが多かった。2014
1)
ア経済は危機に瀕している 。本稿の目的は、
年7月、ロシア語で「ロステク」
(«Ростех»)と
こうした状況下でのロシア産業の「内部」で何
改称した。本稿では、同社が用いているローマ
が起きているかを個別具体的に明らかにし、そ
字表記“Rostec”を以下で使用することとする。
の問題点を探ることである。2015年6月に刊行
Rostecは基本的には、国有企業であった連邦
した拙著『ウクライナ2.0』のなかで、主にロシ
国家単独企業「ロシア国防輸出」(ROE)の社
アのマクロ経済的観点からの考察は行ったが、
長であったセルゲイ・チェメゾフ主導で設立さ
ここでは、「国家コーポレーション・ロシアテ
れた組織である。ロシア製武器の輸出や外国か
クノロジー」
(Rostec)の傘下にある企業に絞っ
らの武器輸入に従事するROEは武器輸出独占
て分析することで、ロシア産業のかかえている
権を握る過程において、生産基盤をもたないと
2)
問題点を示したい 。Rostecは多岐にわたる産
生き残れないとの見方を強め、それがROEを中
業部門の活動にかかわっているため、その研究
心とする巨大企業集団の構築の必要性を高め
がロシア産業、とくに国防産業の直面する課題
た。武器製造から武器輸出までの垂直統合型企
を示唆してくれるからである。最初に、Rostec
業集団の設立こそRostec設立の目的であった
を概観し、ついで、Rostec傘下の15の持ち株会
と言える。その際、「国家コーポレーション」
社のうち、工作機械、情報技術、資源開発に関
という形態がとられ、親会社としてのRostecは
連する分野について掘り下げた考察を行う。
株式会社ではないが、ROEは株式会社化し、そ
の株式100%をRostecが保有する形態がとられ
1.Rostecの概要
た4)。
「2014~2016年の連邦資産・民営化予測計画
軍事関連企業を中心とする企業集団である
Rostecについては、かつて何度も分析対象とし
3)
(プログラム)の遂行に関する2014年報告書」
によれば、Rostecへの国家資産の委譲を決めた
てきた 。ごく簡単に言えば、Rostecは、2007
2008年7月10日付大統領令No.1052では、181の
年11月23日付連邦法No.270で設立が決められ
連邦国家単独企業の民営化の結果設立される
32
ロシアNIS調査月報2015年12月号
■ Research Report
株式会社と、227の株式会社の株式がRostecに
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
ーター・シチ」が開発したヘリコプター向けエ
渡されることになっていた。2014年の実績では、 ンジンのTVZ-117やD-136の代替品として、
前者が155社、後者が225社、それぞれRostecに
ODKの100%子会社、会社「クルモフ」はエン
譲渡された。この結果、Rostecは軍事産業・民
ジンVK-2500やTVZ-117のシリーズ生産の増強
間産業からなる15の持ち株会社と、32の直接管
を計画している5)。前者については、2014年の
理組織、14のインフラ関連子会社からなり、組
50基から2017年までに350基の製造を予定して
織 数 は 700 以 上 に お よ ぶ ま で に 至 っ て い る
いる。
(2014年の年次報告書)。
表1に示したのは、15の持ち株会社である。
表1のKRETも注目企業である。同社は、い
わゆる「サイバー産業複合体」
(cyber-industrial
2014年の売上高に応じて順序づけている。実は、 complex)の代表例で、情報技術と軍事を結び
Rostecは当初、傘下に入った企業をリストラし
つけているロシアでもっとも重要な軍産複合
て経営を立て直し、その会社の株式を新規株式
体だ6)。2年に一度モスクワで開催されている
公開(IPO)することで利益を得ることを計画
航空ショー(MAKS)では、防空ミサイル防衛
していた。そのIPOの第一弾の候補が最も大き
のための地上でのラジオエレクトロニクス複
な売上高の「ロシア・ヘリコプター」である。
合体などへの注文や関心が集まっている。
2011年にいったんはIPO直前にまで至ったが、
KRET傘下の企業数は2015年8月の情報では、
市況の不振から計画が見送られた。現在は、個
97に増加した。統一機器製造コーポレーション
別の会社との資本提携を模索している。イタリ
(OPK)は2014年3月に設立された会社で、新
アの機械・造船業などの持ち株会社、フィンメ
世代の通信システム開発のほか、防衛装備品の
カニカ(Finmeccanica)傘下のヘリコプターメ
開発などに着手する。他方で、プーチン大統領
ー カ ー 、 ア グ ス タ ウ エ ス ト ラ ン ド ( Agusta
は2015年8月25日、MAKSを訪問し、「シュワ
Westland)との間で合弁会社HeliVertが設立さ
ーベ」(表1の9)のブースに立ち寄り、同社
れ、エンジン2基を搭載するAW139ヘリコプ
の開発した、地球表面を監視する光学ハイテク
ターの最終組み立てがモスクワ近郊で行われ
システムの革新性を称賛したという。メドヴェ
ているから、同社との資本提携の可能性がある。
ージェフ首相は9月10日、Russia Arms Expo
ほかにも、ロシア・ヘリコプターは戦略的パー
2015という武器の展示場を訪問し、同じくシュ
トナーとして、エアバス・ヘリコプターズ(旧
ワーベの暗視スコープなどを評価した。
称はユーロコプター・グループ)を想定してい
る。
Rostecが直接、経営管理する組織には、①株
式会社「ロシア国防輸出」(軍民用途の最終生
2014年末のルーブル暴落による外貨建て債
産物や技術・サービスの輸出入の仲介をする国
務の評価上の悪化で赤字化した「統一エンジン
営企業)、②株式会社「アヴィアテクプリヨー
製造コーポレーション」
(ODK)のヴラディス
ムカ」(航空機・宇宙・国防技術や官民使用技
ラフ・マサロフ社長は2015年7月、解任された。
術の製造に際して利用される生産物の品質の
後任には、ウファモーター製造・生産合同の再
コントロールや検収や監視など)、③株式会社
建に実績をあげたアレクサンドル・アルチュホ
「航空医学センター」
(外来患者の診察・治療、
フが就いた。ウクライナからの輸入代替品とし
出張医療支援など)、④株式会社「航空試験構
てフリゲート艦向けエンジンM-90の製造を
成員検査中央病院」(パイロットのための医療
2019年に計画しているほか、ウクライナの「モ
施設)、⑤株式会社「研究所ギンツヴェトメト」
ロシアNIS調査月報2015年12月号
33
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
(非鉄金属などのハイテク鉄鋼製品生産のた
発注契約に基づく完全前払い制が導入される
めの研究所)、⑥株式会社「ギプロツヴェトメ
という未確認情報もある。
Rostecはほかにも、
「大規模プロジェクト」と
ト」(鉱物原料採掘の発展や鉱業・冶金企業の
ためのプロジェクト開発のための調査・研究)
、
称して、比較的将来性があるとみられる4つの
⑦株式会社「療養所・グリーングローブ」(医
事業を展開している(一部は後述)。第1は、
療活動)、⑧株式会社「ネフチガスアフトマチ
2014年に設立した「RT-ビジネス開発」による
カ」
(石油ガス施設の設計・サービス)
、⑨株式
携帯電話事業などへの展開である。第2は、原
会社「ツニートチマシ」(小型武器や弾薬の開
料やインフラのプロジェクトの発意・管理をす
発・生産)――などがある。このなかでは、
るための組織である「RT-グローバル資源」に
Rostec設立の母体となった「ロシア国防輸出」
よる展開だ。ただ、同社株100%は「RT-ビジネ
がもっとも重要な組織である。
ス開発」に移される計画がある。第3は、Rostec
プーチン大統領によれば、2014年のロシアの
と国営通信会社、ロステレコムが2014年に設立
武器輸出額は155億ドルを上回った。このうち、
を決めた「ナショナル情報化センター」
(後述)
約132億ドル分はロシア国防輸出による売り上
に基づくプロジェクトで、「ロシア郵政」のビ
げだったが、実際に入金されたのは20億ドル少
ジネスパートナーを務めるほか、保健部面での
ない112億ドルにとどまった。欧米の銀行が対
「単一国家情報システム」のサブシステムに関
ロ制裁を理由にロシア国防輸出への支払いに
与するなどしている。第4は、企業向け情報安
ブレーキをかけているためとみられている。な
全保障サービスなどを行う「RT-インフォルム」
お、軍産複合体の資金難を見越してそれらへの
(Rostecの100%子会社)による事業だ。
銀行融資の利子補給に代えて、2016年から国防
表1 Rostecの15の持ち株会社
順
位
社 名
1
ロシア・ヘリコプター
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
統一エンジン製造コーポレー
ション
RT-アフト
コンツェルン・ラジオ電気工学
技術(KRET)
科学生産合同・高精密コンプレ
クス
2014年
売上高
純利益
(10億
(10億
ルーブル) ルーブル)
概 要
社員数
Mi-8/17、Mi-26(t)、Ka-32A11VSなどを製造。傘下に19の子会社・関
連会社
165.3
20.5
42,000
航空機向けエンジンなどの開発・製造。傘下に23の子会社・関連会社
163.8
▲ 17.4
80,000
110.2
▲ 0.2
35,000
90.9
7.2
54,000
90.4
11.1
25,000
89.7
2.6
40,000
73.3
6.3
45,000
48.3
33.2
3.2
0.7
35,000
19,000
17.6
1.5
30,000
11.8
7.0
5.4
4.4
3.1
0.5
▲ 4.3
0.4
▲ 0.9
0.0
8,800
11,000
4,500
3,996
5,000
傘下には、AvtoVAZやKamAZも。傘下に7の子会社・関連会社
Su-35S、Ka-52、Mi-171A2、Yak-130、Il-476向け航空部品などを製
造。傘下に94の子会社・関連会社
軍事技術(イスカンデル-M、パンツィリS-1、イグラ-Sなど)の開発・製
造・修理など。傘下に19の子会社・関連会社
大規模持ち株会社である「星座」、「ヴェガ」、「管理システム」を統合。
科学生産合同・統一機器製造
軍事関連の自動制御システムなどの開発・製造。傘下に61の子会社・
コーポレーション
関連会社
科学生産コンツェルン・機械製 軍事関連の非接触センサー、合金、ポリマーなどの開発・製造。傘下
作テクノロジー(テクマシ)
に48の子会社・関連会社
ロスエレクトロニカ
加速器、監視機器などの開発・製造。傘下に120の子会社・関連会社
シュワーベ
オプトエレクトロニクス関連企業。傘下に64の子会社・関連会社
航空機設備(2015年に「テクノ
航空機向け機器製造。傘下に33の子会社・関連会社
ジナミカ」に改称)
コンツェルン・アフトマチカ
各種制御システムの開発・製造。傘下に8の子会社・関連会社
コンツェルン・カラシニコフ
銃器の開発・製造。傘下に2の子会社・関連会社
RT-ヒムコンポジト
新素材や複合素材などの開発・製造。傘下に17の子会社・関連会社
スタンコプロム
工作機械製造。傘下に11の子会社・関連会社
ナショナル免疫生成会社
免疫にかかわる製剤研究。傘下に9の子会社・関連会社
(出所)Rostecの年次報告(2014年).
34
ロシアNIS調査月報2015年12月号
■ Research Report
2.工作機械分野
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
産や作業遂行、サービス提供が存在しないか、
あるいは、国家発注者の要求に照応しない場合
本稿では、軍需品においても民需品において
を除いて許容されない」としたのである。附則
も重要な役割を担っている工作機械分野との
として、「ロシア連邦内での生産不在の確認が
Rostec の 関 連 に つ い て 掘 り 下 げ て み た い 。
必要な商品リスト」が収載され、レーザー光な
Rostecは表1に示した「スタンコプロム」を中
どによる切断のための工作機械などが具体的
心に工作機械分野を改革する計画だが、事態は
にあげられた。
そう簡単ではない。
2013年12月24日付政府決定No.1224では、同
金属や木材などを切断したり加工したりす
年4月5日制定の「国家・自治体向けの商品・
るための道具である旋盤、フライス盤などの工
作業・サービス買付契約システム法」に対応す
作機械はとくに国防産業にとって重要な意義
る形で、国防発注における外国の商品・サービ
をもっている。にもかかわらず、工作機械消費
スに対するアクセスを禁止・規制する規定が定
に占めるロシア製品のシェアは2008年の19%
められた。加えて、「ロシア連邦領内での生産
から2012年には9%まで落ち込んだとされて
不在が確認されている商品リスト」がつけられ
いる(
「エクスペルト」2014, No.37)。あるいは、
た。同リストにも、多種類の工作機械が記され
最近20年間にロシアにおける工作機械生産は
ており、このリストに収載されていれば、国内
ほぼ20分の1に減少した(同2014, No.46)。工
生産がないから輸入できたことになる。しかも、
作機械企業の苦境は、クラスノダル工作機械製
付加価値税の課税が免除された。ロシア政府は
作工場「セディン」が2015年4月、クラスノダ
ロシアが工作機械分野で国際的に遅れをとっ
ル地方仲裁裁判所に自己破産を申請したこと
ていることを強く認識していたと言える8)。
や、2014年6月、イヴァノヴォ州仲裁裁判所に
だからこそ、連邦特定目的プログラム「2007
「イヴァノヴォ重工作機械製作工場」に対する
~2011年ナショナル技術基盤」(2007年1月29
破産認定を求める訴訟が起こされたことなど
日付政府決定で承認)のサブプログラムとして
に現れている。
の「2011~2016年の国内の工作機械製造および
国防産業の基礎とも呼べる工作機械メーカ
工具産業の発展」が2011年7月1日付政府決定
ーの再建の重要性は早くから知られている。ゆ
で承認された9)。同月13日付産業・商業省令に
えに、政府は外国からの経済制裁で輸入が困難
より、その実施運営規程が承認されるに至る10)。
になって国防に支障が生じないようにするた
2014年4月15日付政府決定No.328「ロシア連邦
めに、2011年2月7日付政府決定No.56によっ
政府国家プログラム「産業の発展およびその競
て、国防上のニーズのための商品・サービスを
争力の向上」の承認について」では、同プログ
発注する際、外国や外国企業によって提供され
ラムの「サブプログラム7」として、「工作機
る商品・サービスへのアクセスを禁止・制限す
械工具工業」が含まれていた11)。このように、
る規定が設けられた7)。その第1項で、「国の
工作機械産業の改革は焦眉の急であった。この
防衛ニーズや国家の安全保障のための商品提
サブプログラムの枠内で工作機械工具のシリ
供、作業遂行、サービス提供への発注配分の枠
ーズ生産実現のためにRostec経由で助成金を
内での、外国ないし外国集団からの商品および
供給することが2014年11月27日付政府決定に
外国人によって遂行される作業(サービス)の
よって承認された。2014~2016年に総額55億ル
取得は、ロシア連邦領内に照応する生産物の生
ーブルが分与される見込み。2015年から研究開
ロシアNIS調査月報2015年12月号
35
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
発費の半分が助成対象となる。具体的には、
ヴォ重工作機械製作工場、③株式会社STP-
Rostec傘下の持ち株会社スタンコプロムが民
SASTA傘下の株式会社Sasta、④株式会社STP-
間会社と合弁会社を創設するなどしてサブプ
VMZ傘下のヴォルガ機械製作工場、⑤科学生
ログラムの実現に取り組む。
産合同・工作機械製作――の5社が収載されて
スタンコプロムは2013年に工作機械メーカ
いる。リャザン工作機械工場は、工業グループ
ーの「統合体」として設立された。同年4月、
「ロス・スタン・コム」のなかに入っている。
社長には国営石油会社ロスネフチの元副社長
同グループの傘下には、フライス盤を製造する
で2012年8月まで「ストロイトランスガス」の
「フライス工作機械工場」などもある。実は、
社長だったセルゲイ・マカロフが社長に就任し
①と②は、スタングループ(STAN Group)が傘
た(2014年10月に取締役会議長に)。2013年5
下に入れようと目論んでいる会社である。2012
月の情報では、Rostecのもとには、
「RT-スタン
年9月、⑤の科学生産合同・工作機械製作がバ
コインストルメント」という工作機械関連の持
シコルトスタン共和国にあるステルリタマク
ち株会社があった(「コメルサント」2013年5
工作機械製作工場をもとに設立され、その管理
月27日付)
。その後、スタンコプロムはRT-スタ
会社として同年末、スタングループが創設され
ンコインストルメントとRT-機械製作の継承機
たのである。③の株式会社Sastaは、1971年に建
関となった。この経緯からわかるように、スタ
設が開始された、リャザン州サソヴォ自動化ラ
ンコプロムはわかりやすく言えば、かつてソ連
イン工場をもととしており、この工場の敷地内
時代にあった「機械製作省」のような役割を担
に2014年にSTP-SASTAが設立され、この傘下
っていると言える。購入される設備のすべての
にSastaが入った。④のヴォルガ機械製作工場
情報を統括し、もっとも重要な国家発注に国内
は、株式会社スタンコプロム・ヴォルガ機械製
工作機械メーカーを傾注させるのである。その
作工場(STP-VMZ)の傘下にある。つまり同社
意味で、こうした重要な役割をもつ組織が
はスタンコプロムの傘下にある企業である13)。
Rostec傘下にある意義はきわめて重大だ。
ここで紹介した企業には、政府から助成金が支
スタンコプロム株の47.16%はRostecの子会
給される見通しとなっている。
社である株式会社「工業コーポレーション合
だが、こうした支援がうまくいく保証はまっ
同・アバロンプロム」が、残りの52.84%はRostec
たくない。政府は2011年から、工作機械メーカ
が保有している(2015年8月現在)。Rostecのサ
ーへの研究開発費補助を行った過去がある。し
イト情報によれば(8月時点)、表1よりも構
かし、クラスノダル地方の「セディン」という
成組織数が増え、18にのぼっており、その傘下
工場のフライス盤開発に2億6,000万ルーブル
にある職員数も約6,500人に膨らんでいる。
が分与され、同社も同額を投資したが、結局、
もちろん、スタンコプロム以外にも多数の工
作機械メーカーが存在する。一説によると、
成果は市場に出されることはなかった(「エク
スペルト」2014年, No.46)
。
2014年1月1日現在、工作機械製造に従事する
おそらく重要なのは、日欧米からの技術導入
のは60組織で、約2万8,500人が雇用されてい
だろう。その意味では、工作機械をめぐって過
12)
る 。2015年2月20日付ロシア連邦産業・商業
去にどのような技術導入がはかられてきたの
省令で承認された「産業貿易部門に大きな影響
かが問題になる。ソ連時代から、工作機械分野
をおよぼす組織リスト」をみると、工作機械分
において、ドイツ、スイス、イタリア、日本、
野では、①リャザン工作機械工場、②イヴァノ
英国、フランス、ブルガリア、チェコとの関係
36
ロシアNIS調査月報2015年12月号
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
■ Research Report
が維持されてきた。近年の例をあげると、①ド
14)
輸入代替を後押しするために、2015年9月2日
イツとの合弁会社ドンプレスマシ 、②DMG
付政府決定で政府資金などによる商品サービ
MORI SEIKIのウリヤノフスク工作機械製作工
スの買付価格が制限されることになった。高級
15)
場 、③スタンコプロム傘下のサビョロフスカ
外国車の購入などが難しくなったことになる。
ヤ機械製作工場とスイスのGALIKA AGとの協
2014年末のルーブル安や欧米諸国による経済
力
16 )
、 ④ MTE グ ル ー プ と チ ェ コ の Kovosvit
17)
制裁で、輸入代替への関心が強まっており、技
MASとの合弁会社MTE Kovosvit MASの設立 、
術移転による輸入代替を模索する動きは情報
⑤コヴロフ・エレクトロメカニカル工場と滝澤
技術(IT)分野でも広がっている22)。
鉄工所の業務提携18)、⑥オーストリアのEMCO
Groupとの共同生産19)――などがある。ほかに
3.情報技術分野
も、スタンコプロムはベラルーシの「10月革命
記念ミンスク工作機械製作工場」(MZOR)と
ITにおける輸入代替はIT関連設備などのハ
の協力関係構築の協議をしている。ただし、日
ードと、ソフトウェアにかかわるソフトの両面
欧米の対ロ経済制裁で、先進国からの技術導入
から喫緊の課題となっている。すでに指摘した
はきわめて困難な状況にある。
ように、ITは軍事に密接に結びついているため
現地調達率については、産業分野ごとにアプ
でもある23)。プーチンは首相当時の2010年5月
ローチが異なっている。組み立て協定締結時に
31日付の政令で、産業・商業省に経済発展省と
現地調達率を定める場合があるほか、契約制度
ともに2ヵ月以内に、ロシア内で生産されるテ
法の改正により7年までの長期契約での現地
レコミュニケーション設備にロシア製という
調達率に関する協定締結の義務化が検討され
地位を授けるのに必要なパラメーターやその
たりしている。産業・商業省は自動車組み立て
地位を授与する方式などを策定・承認するよう
における現地調達率の計算方法の変更を含め
に求めていた。2011年8月17日付の産業・商業
た制度変更を検討しているという情報もある
省と経済発展省の指令でようやくプーチンの
20)
(「ヴェードモスチ」2015年8月26日付) 。
依頼が実現し、こうしたパラメーターや授与方
注目されるのは、2014年7月14日付政府決定
式が定められた。これを受けて、ハード面での
No.656で、国家や自治体向けの買付をする際、
輸入代替がまず本格化する計画であった。2011
外国製の個別の機械製作商品の購入が禁止さ
年7月18日には、国家コーポレーション、自然
れたことである。2015年1月31日政府決定によ
独占企業などによる商品・作業・サービス買付
って、No.656の内容が拡大され、55品目が買付
法が制定され、こうした企業の買付を規制する
禁止になった。対ロ制裁国だけでなく、原則と
法整備が進んだ。2013年4月5日には、逆に「国
してユーラシア経済連合に加盟していないす
家や自治体の必要を保障するための商品・作
べての国のブルドーザー、トラック、トラクタ
業・サービス買付部面での契約システム法」が
ーなどの輸入が禁止されたことになる。機械製
制定され、インターネットを介した国家発注制
作関連品だけでなく、医療関連品でも同じよう
度が法的に整備された。
21)
な禁輸策がとられている 。ドヴォルコヴィチ
だが実際の輸入代替政策が本格化したのは、
副首相によれば、国家発注で輸入代替を推進す
産業・商業省令「ロシア連邦のラジオエレクト
ることで、現地調達率を現在の30~40%から
ロニクス産業における輸入代替施策の部面別
2018年までに60~70%に引き上げたいという。
計画の承認について」(2015年3月31日付)で
ロシアNIS調査月報2015年12月号
37
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
同計画が承認されて以降である。534種類のコ
ロシアがIT設備を短期間に自国製造に切り
ンピューター、テレコミュニケーション設備、
替えるのは困難だと思われるが、Rostecとして
半導体、周辺機器などが収載されている。計画
は、ハード面の輸入代替で上記のOPKに大きな
では、「産業発展とその競争力向上」という国
役割を担わせようとしている。2017年末までに、
家プログラムの枠内で設置されたロシア技術
OPKは40種類以上のテレコミュニケーション
発展基金からの借り入れを輸入代替の実践企
設備の大量生産に着手する計画だ。OPKはIPネ
24)
業が受けられるようにする 。ただし、ソフト
ットワーク内でIP電話の回線交換を行う装置
面の輸入代替を主導する通信マスコミュニケ
(IP-PBX)やルーターをすでに製造している。
ーション省のニコライ・ニキフォロフ大臣は
2015 年 5 月 時 点 の 情 報 (「 コ メ ル サ ン ト 」
2015年5月、ハード面の輸入代替を主導する産
Business Guide, 2015年5月26日付)によると、
業・商業省のデニス・マントゥーロフ大臣に書
同社は国内半導体Elbrus-4Cを内蔵するコンピ
簡を送り、65種類は代替リストからはずすべき
ューター向け装置の注文の受付も開始した25)。
であると提言するなど、管轄をめぐって鞘当て
を行っている。それは通信マスコミュニケーシ
ソフト面の輸入代替とRostec
ソフト面に
ョン省がその関連設備の国家発注に際して、設
ついては、2014年11月17日付の「ヴェードモス
備メーカーにソフトウェアと同じような特恵
チ」紙に興味深い記事が掲載されている。通信
を導入しようとしていることにも現れている。
マスコミュニケーション省のニキフォロフ大
臣がプーチン大統領に書簡を送り、そのなかで
ハード面の輸入代替とRostec
興味位深い
国家情報システムや電子政府の完璧な活動に
のは、Rostecがハード、ソフトの両面で輸入代
必要なエレクトロニクス産業、コンピューター
替を積極化し、国内の軍需品の強化につなげよ
関連インフラ、データ加工センター、ソフトウ
うと戦略的に動いていることである。IT関連だ
ェアの包括的発展国家システムを創出するこ
けでなく、石油ガス部門の設備代替にも後述す
とを提案していたというのだ。そうすれば、情
る合弁会社「OMKネフチガス」を使って積極
報システムへの外国人の干渉を通じた国家主
的に取り組もうとしている。ここではまず、IT
権の侵犯を抑止し、ロシアのIT産業の発展を促
関連のハード面について考察したい。
すことにもつながり、権力当局の技術的独立性
International Data Corporation(IDC)によると、
を保障することになるというわけだ。そこで問
ロシアへのIT設備供給総額は217億ドルで、う
題になったのが民営化途上の国営株式会社、
ちネットワーク向け設備が34.7億ドル、全体の
「ロステレコム」をこの問題にどうかかわらせ
16%であった。ロシアにおける通信ネットワー
るかであった。民間会社にITの重要機能を任せ
クの9割が輸入設備でできており、その基本供
たくない政府はRostecにソフトや設備の輸入
給者はCisco Systemsである。ほかにもIT関連の
代替により深く関与させるようになる。とりあ
設備供給先として、中国のファーウェイ
えず2014年4月、Rostecの子会社、RT-ビジネス
(Huawei, 華為技術有限公司)、スウェーデン
開発の100%子会社として「ナショナル情報化
のエリクソン(Ericsson)、スランスのアルカテ
センター」が登録された。国家機関や国営企業
ル・ルーセント(Alcatel-Lucent)、フィンラン
のプログラム開発のほか、輸入代替のためのソ
ドのノキア・ネットワークス(Nokia Networks)
フト開発にも従事する。その後、Rostecとロス
がある。
テレコムはそれぞれの子会社である「RTエレ
38
ロシアNIS調査月報2015年12月号
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
■ Research Report
クトロサービス」(保健部面での「単一国家情
業の設備・ソフトウェアの買付システムを中央
報システム」に従事)とRT-labs(電子政府に従
集権化する作業に着手している。こうした企業
事)との合併を決めた。これらを合わせた機能
の年間の買付額は約500億ルーブルにのぼり、
を「ナショナル情報化センター」にもたせ、そ
中央集権的な買付に移行すれば、毎年150億ル
の株式を買い取る形でロステレコムが参加す
ーブルの節約につながるとの見方もある。
る。当初はロステレコムが50%を購入する計画
2015年5月、プーチン大統領はニキフォロフ
だったが、75%を買い取る検討が加えられてい
大臣らに10月1日までにインターネットのロ
る(「コメルサント」2015年9月24日付)。
シア部分の発展に関する提案を委任した。ロシ
通信マスコミュニケーション省は2014年夏
ア官庁のインターネット・オペレーションを
の段階で、外国製ソフトの国家買付を制限する
Windowsの基本ソフト(OS)から、ソースコー
方針を決め、ロシアの開発者を支援する基金創
ドへのアクセスがオープンなLinuxのOSへの
26)
設の計画を明らかにした 。2015年4月、同省
転換が模索されている。
はソフトウェア輸入代替計画を承認し、2025年
2015年8月になって、ドイツのソフトウェア
までにもっとも重要なタイプのソフトの輸入
メーカー、SAP Deutschland SE & Co. KGがロシ
依存度をいまの50~95%から10~50%に引き
アのRostecないしロステレコムと合弁会社を
下げることをめざす。そのために、自発的非営
設立する交渉を断ったことが明らかになった
利組織(ANO)として「共同ソフトウェア開発
(「コメルサント」2015年8月18日付)27)。ロ
機構」を設立する。2018年までに180億ルーブ
シア側は合弁会社にロシアの国家部門への外
ルの予算資金拠出が検討されている。
国製ソフト供給に対するアクセス権を保障す
他方で、2015年6月末、プーチン大統領は国
家買付時のロシアの開発者によるソフトウェ
る代わりにソフトの知的所有権を同社に譲渡
することを求めていた。
アに優先権を供与する法案に署名した。法律で
は、ロシア、ロシア市民、ロシア非営利組織、
社長チェメゾフと富豪ウスマノフ
Rostecのチ
ロシア会社(ロシアの恩恵享受者が50%を超え
ェメゾフ社長は周知のように、ドレスデンでプ
る)に属する、「コンピューター・データベー
ーチンと同じアパートに住んでいた。チェメゾ
ス向けのロシア単一プログラムリスト」の策定
フは「実験産業合同ルーチ」の東ドイツ代表を
が定められ、このリストにない3つの例外(①
1983~1988年まで務めていたのだが、同社がど
リストにソフトウェア情報がない、②リストに
んな会社であったかは判然としない。おそらく
あっても買付予定ソフトに対する要求に照応
人工衛星に絡む会社ではないかと推測される。
していない、③ソフトウェアに関する独占権が
一説には1980年代の末に、彼は現在、ロシア有
ロシア法令に従って形成された法人に属し、そ
数の富豪として知られるアリシェル・ウスマノ
のソフトウェアや買付に関する情報が国家機
フと友達となった。このウスマノフとの関係は
密である)に際してのみ、外国ソフトの購入が
Rostecの事業展開にいまでも大いに影響を与
認められる。ただ、一時、検討された国営会社
えている。通信分野と銅資源にかかわるウドカ
は規制からはずされ、国家機関の買付について
ン鉱区の開発である。
だけ規制が課せられることになった。
まず、通信分野について紹介したい。2007年
一方、すでに紹介したRostecの「RT-インフォ
5月、セルゲイ・アドニエフらによって基地局
ルム」は、国家コーポレーション形態をとる企
移動仕様の無線接続システムサービスを行う
ロシアNIS調査月報2015年12月号
39
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
会社、スカルテルが設立され、“Yota”というブ
と、スカルテルに基づく単一LTE網の構築議定
ランドで、Mobile WiMAXに基づく無線インタ
書に署名した。これにより、「ボリショイ・ト
ーネット・プロバイダーとなる。スカルテル株
ロイカ」と呼ばれるメガフォン、MTS、ヴィン
の33%はキプロスにあるWiMax Holding Ltd.、
ペルコムと、ロステレコムがスカルテル株各
67%はKristiva Holdingsが保有していた(「ヴェ
20%、Rostecが20%を保有することも合意され
ードモスチ」2010年2月16日付)。後者はWiMax
たが、この合意は進まないまま頓挫してしまう。
Holingの支配下だったから、事実上、スカルテ
MTSを支配するシスチェーマはコスモスTV株
ル株すべてがWiMax Holdingによって支配され
50%を保有しており、このコスモスTVをもと
ていることになる。WiMax Holding株の74.9%
にLTEを展開できないか模索するなどの動き
はTelconet Capital基金、25.1%はRostecが保有し
から、各社間の利害に違いがみられたためだ。
ていた。RostecがWiMax Holding株25.1%を取得
同年9月になって、無線周波数国家委員会はス
したのは2008年10月になってからだが、スカル
カルテルに対して帯域2.5-2.7GHzのLTE構築許
テル設立時から、WiMax Holding株25.1%の購
可を無競争で与えた。同時に、同委員会はMTS
入権(オプション)を有していた結果である。
のオペレーターであるWiMaxとコスモスTVか
だが、2012年4月10日付の「ヴェードモスチ」
らモスクワでの同じ帯域の周波数が没収され
によると、スカルテル株100%は、Yota Holding
ることになった。これにMTSなどは反発し、裁
に属するChristiva Holdings Ltd.が保有していた
判所に訴える事態にまで発展する28)。
(スペルが変更されている)。Yota Holding株
他方、当時、メガフォン株31.1%を保有して
74.9%はTelconet Capital(アドニエフが唯一の
いた企業家ウスマノフ(8%はAF-テレコム・
著名な共同保有者)
、25.1%はRostecが保有して
ホールディングが、23.1%はテレコムインヴェ
いたという。おそらくWiMax HoldingがYota
ストを通じて)は、同じくメガフォン株25.1%
Holdingに改組されたものと思われる。
を保有していたAltimoからこの持ち分を買い
実は、Rostecは2009年初め、エレクトロニク
取り、合計56.2%を、スカルテル株と交換する
ス関連の下流持ち株会社に基づいてロッシー
協議に入っていることが明らかになる。連邦反
スカヤ・ロスエレクトロニカ(ロスエレクトロ
独占局は2012年6月、スカルテル株100%を保
ニカ)という新たな持ち株会社を設立、同社は
有するYota Holdingと、メガフォン株の過半数
マイクロチップの開発・製造に従事するアング
を、新しいホールディングに移して統合する申
ストレムの株式25%などを保有していた。ロス
請を承認した。こうして、ウスマノフは、2012
エレクトロニカは2012年7月初めに、アングス
年7月に設立されたホールディングGarsdale
トレムの株式を31%まで引き上げる方針を示
Services Ltd.株82%と交換にメガフォン株50%
し、Rostecはアングストレムに基づいてLSIの
+ 1 株 を Garsdale に 繰 り 入 れ た 。 残 り の
生産に乗り出す方針だった。つまり、Rostecは
Garsdale 株 18 % は 、 ス カ ル テ ル 株 100 % を
早くから通信やエレクトロニクスに関心をい
Garsdaleに繰り入れた、元のスカルテル株の共
だいていたことになる。
同保有者に渡された。その結果、スカルテル株
2011年3月、携帯電話サービスを行っていた、
100%はGarsdaleが保有することになったわけ
メガフォン、MTS、ヴィンペルコム、ロステレ
である。当時のGarsdaleの持ち株構成は、ウス
コム、Rostecの各代表とスカルテルを支配する
マノフが82%、基金Telconetが13.5%、Rostecが
アドニエフはプーチン首相(当時)の列席のも
4.5%だった。その後、ウスマノフが支配するメ
40
ロシアNIS調査月報2015年12月号
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
■ Research Report
ガフォンの株主総会は2014年6月、スカルテル
ドニエフらの関係するTelconet Capital Linted
を保有する会社Maxiten Co Limitedの持ち分
PartnershipはOEX株の50%を取得した。OEXは
100%をもつGarsdaleに対して、11.8億ドルとも
上記鉱区近くのゲルビカノ・オゴジンスコエ石
16.7億ドルとも言われる購入総額の90%まで
炭鉱区の開発を主導しており、残りの株式50%
の金額を同年10月までに支払うことを決めた。
はRT-グローバル資源が保有している。
こうして、いまでは、Rostecとスカルテルとの
2つの石炭鉱区の開発に関連して、アジア太
資本関係は切れているが、チェメゾフとウスマ
平洋諸国への輸出のために石炭積み出し用の
29)
ノフとのパイプはつながっている 。
ターミナル「ヴェーラ港」が沿海地方に整備さ
れる計画もある。石炭燃焼型火力発電所や石炭
4.資源開発分野
化学工場の建設も予定されている。加えて、ウ
ドカン鉱区やモンゴルのエルデネト鉱区の銅
ウスマノフはもともと冶金会社の支配から
30)
を石炭で溶解し、加工するコンビナートの建設
台頭した人物である 。彼の冶金分野を統括す
も検討されている32)。Rostecのチェメゾフは中
る会社であるメタロインヴェスト、Rostec、中
国の石炭エネルギー企業、神華能源の協力を取
国の厚樸(Hopu)投資基金は2014年5月、協力
りつけようとしているが、現段階ではプロジェ
協定を結び、バイカル鉱山会社(BGK)を支配
クトの将来性は判然としていない。
するメタロインヴェストのもとからBGK株の
RT-グローバル資源は2013年のヤクート(サ
10%をHopu、25%をRostecが同年末までに購入
ハ共和国)の北西にあるトムトルスコエ稀少金
する計画であった。メタロインヴェストは世界
属鉱区の入札を前に、アレクサンドル・ネシス
第3位の銅鉱石の埋蔵量をもつチタ近辺にあ
率いるイーストグループ(ICT Group)などと
るウドカン鉱区の開発許可(40年)をもつBGK
ともに、合弁会社トリ・アルク・マイニングを
を2008年に買収していた。一説には、開発費60
設立し、同社の子会社が2014年、落札に成功し
億ドルとも言われる巨大プロジェクトだが、実
た33)。トリ・アルク・マイニングの株主構成(資
際には上記の計画は実現されていない31)。2015
本金は2,000万ルーブル)は当初、ICT Groupの
年7月、メタロインヴェストとHopuとの協議
ICT-プライムが50.005%、RT-グローバル資源
は停止された。鉄道敷設や電力供給といった投
が25.005%、アドニエフが関連するキプロスの
資に付帯する関連施設整備の計画がうまく進
Decerno Co. Ltd.が24.99%であったが、2015年
んでいないことがネックになっている。
6月になって、スカルテル社長を務め、2012年
他方で、Rostecの子会社、
「RT-グローバル資
には通信マスコミュニケーション省次官であ
源」が出資する「オゴジンスキー・エネルギー
ったデニス・スヴェスドロフがDecernoの保有
ホールディング」
(OEX)の子会社、オゴジン
分から5%を購入していたことが明らかにな
スキー石炭会社は2015年7月1日、アムール州
った。つまり、YotaというブランドのIT関連で
にあるスゴディンスコ・オゴジンスコエ石炭鉱
結びついていた人々がRostecを介して、資源分
区の入札において勝利した。2040年までの25年
野でも一儲けを目論んでいるように思える。こ
間にわたって石炭の地質調査、探査、採掘を行
の稀少金属開発は10億ドル規模の投資が必要
うライセンスを得たことになる。2015年末まで
とみられているから、早い段階でプロジェクト
に鉱区発展戦略が定められ、2018~2019年の採
にかかわることで多くの利得が見込まれるの
掘開始がめざされる。2015年8月、上述したア
だ。
ロシアNIS調査月報2015年12月号
41
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
興味深いのは、RT-グローバル資源、Telconet
が強い35)。これは、ロシア産業全体が安全保障
のほかに、VTB Capital、タトネフチ、韓国のGS
の名目のもとに軍事産業と一段と深いつなが
Engineering & Construction Corporationはウガン
りをもたざるをえなくなっている状況を示し
ダで製油所を建設するコンソーシアムを創設
ているように思えてならない。拙著『「軍事大
し、2015年2月の入札で勝利したことである。
国」ロシアの虚実』
(岩波書店, 2009年)は軍事
総額40億ドルもの巨大プロジェクトになる。さ
大国としてのソ連を継承したロシアのその後
らに、RT-グローバル資源、Telconet、タトネフ
までを分析したものだが、軍事国家ロシアとい
チ、インドのONGC Vedishからなるコンソーシ
う側面がさらに強まっていると指摘しなけれ
アムはウガンダでの石油ガス採掘権をめぐる
ばならない36)。
入札も落札した。
同じように、RT-グローバル資源は、セルゲ
イ・ヤンチュコフが率いるマンガゼヤグループ
【注】
とザバイカル地方で金鉱区を開発するための
1)ウクライナ危機が米国の「ネオコン」と呼ばれ
る勢力によって煽動された軍事クーデターで
あったことは拙著『ウクライナ・ゲート:
「ネオ
コン」の情報操作と野望』(社会評論社, 2014)
に詳しい。このなかでも、ウクライナ危機がロ
シア経済に与えた影響を分析している。
2)『ウクライナ2.0:地政学・通貨・ロビイスト』
(社会評論社, 2015)の第2章「ロシア情勢」に
おいて、輸入代替政策を中心にロシア政府の
2015年前半の政策を考察した。
3)Rostecについては、『ロシアNIS調査月報』のな
かで、
「「国家コーポレーション」と「ロシアテ
クノロジー」」
(2007年12月号)および「国家コ
ーポレーションを探る:ロシアテクノロジーを
中心に」
(2010年9-10月号)という拙稿を収載し、
Rostecを詳しく取り上げたことがある。軍事産
業については、拙著『ロシアの軍需産業』
(岩波
新書, 2003)、
『「軍事大国」ロシアの虚実』
(岩波
書店, 2009)、『ロシアの最新国防分析』(Kindle
版, 2013)を参考にしてほしい。
4)
「国家コーポレーション」については、注3)の
2つの拙稿を参照してほしい。国家コーポレー
ション形態の組織は、預金保険庁、ヴニェシエ
コノム銀行、住宅公共サービス再組織化助成基
金、Rostec、ロスアトム、オリンプストロイ(2007
~2014年)、ロスナノ(2011年に株式会社化)が
あり、2015年7月13日制定の宇宙活動に関する
国家コーポレーション・ロスコスモス法制定に
より、同社が連邦宇宙庁と統一ミサイル宇宙コ
ーポレーション(2013年12月2日付大統領令に
よって設立され、2014年3月5日に登録。株式
の100%は国家保有)に基づいて設立されるこ
とになった。
5)ウクライナ政府は2014年6月以降、デュアル・
ユーズ(二重使用)の軍事品を含めた軍事品の
対ロ輸出禁止措置をとっている。
「ロシア・ヘリ
コプター」が民生用やロシアからの輸出用とし
合弁会社を設立しようとしている。さらに、RTグローバル資源はイルクーツク州にある大規
模な金鉱区(スホイ・ログ)についても、同じ
ような形での関与を検討している。
他方で、すでに指摘したように、Rostecは石
油ガス部門の設備の輸入代替もグループ内で
担おうとしている。2015年2月17日、RT-グロ
ーバル資源と「統一機械製作コーポレーション」
(OMK)との50対50の合弁会社「OMKネフチ
ガス」が登録された。OMKは石油会社ロスネ
フチなどにパイプをもつミハイル・ダエフらに
よって2014年10月に設立された会社だ。OMK
ネフチガスは燃料エネルギーコンプレクスに
設備や化学材料、エンジニアリング技術などを
提供する生産複合体をめざしている。
5.結びにかえて
Rostecはほかにも、産業廃棄物の処理やワク
チン開発など、さまざまな分野に手を広げてい
る34)。とくに重要なのは、本稿で考察した工作
機械、情報技術、資源開発の分野において、
Rostecの役割が強まっている事実である。いず
れも国防上、安全保障にかかわりの深い分野に
おいてその影響力が強まっているという印象
42
ロシアNIS調査月報2015年12月号
■ Research Report
て「モーター・シチ」からエンジンを輸入する
契約期間3年(総額約10億ドル)が2015年に満
了する。総額1億ドル強の契約によって、2016
年の輸入も検討されているが、実際にはロシア
側は輸入代替を進めており、モーター・シチは
苦しい状況に追い込まれている。
6)
「サイバー産業複合体」をめぐっては、拙稿「サ
イバー空間と国家主権」
『境界研究』
(2015, No.5)
を参照。
7)1996年にスタートしたワッセナー・アレンジメ
ント(通常兵器および関連汎用品・技術の輸出
管理に関するワッセナー・アレンジメント)に
よって輸出管理対象品目リストが作成され、紳
士協定として、参加各国は国内法令により輸出
管理を実施している。ロシアも2005年2月に加
盟している。このため、欧米の制裁はワッセナ
ー・アレンジメントのリストを参考に実施され
ている。この場合、工作機械の禁輸によって、
ロシアが大きな打撃を受ける懸念がある。
8)ロシアの名誉のために付言すると、プレス機を
フランス、イタリア、日本などに輸出するヴォ
ロネジ重機械プレス工場(TMP)のような企業
もある。
9)2009年3月10日付政府決定No.205では、農業・
トラクター産業、石油ガスコンプレクス向け機
械製作、工作機械工具産業のロシア組織への予
算上の助成として、5年までの期間内の技術再
装備向け融資の金利支払い支出の一部を補填
するルールが承認された。
10)このサブプログラムに基づいて、2011~2013年
に2億2,000万ドル相当が拠出され、その結果、
国家エンジニアリングセンター・モスクワ国立
工科大学「スタンキン」が設立された。
「スタン
キン」は産業用ロボットの国際生産技術の開発
主体となっている。
11)この決定No.328によると、2014~2016年に1億
5,800万ドル相当が分与される見込み。
12)Информация о результатах анализа, состояния и
развития
отрасли
станкостроения
в
государствах-членах ТС и ЕЭП (2014)
Евразийсеая
Экономическая
Коммисия,
Департамент промышленной политики, p. 29.
13)ほかにも金融・機械製作分野などの資産を管理
するために2003年に設立された民間投資会社
で あ る MTE グ ル ー プ は 工 作 機 械 製 作 会 社
MTE Kovosvit Masを傘下に入れている。クラス
ノダル地方には、
「セディングループ」があるが、
そのなかのクラスノダル工作機械製作工場「セ
ディン」はすでに紹介したように、2015年4月、
仲裁裁判所に自己破産申請を行った。
14)2010年5月、アゾフ・プレス鍛造出版工場とド
イツのSTS-Turnpress GmbHとによって合弁会
社が設立された。
15)株式100%はDMG MORI SEIKIが保有している。
もともとは、
「ザヴォルジエ」産業パーク(団地)
ロシアNIS調査月報2015年12月号
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
内に税制優遇を与えて外国誘致をはかろうと
していたセルゲイ・モロゾフ・ウリヤノフスク
州知事とドイツのギルドマイスター
(Gildemeister)社の社長が同工場建設協定に
2011年に調印したのが契機となっている。同年、
Gildemeisterは日本の森精機との協力関係を欧
州で拡大し、後者は前者の株式の20.1%を保有
する大株主となった。ついで、Gildemeisterも森
精機株を取得するに至り、2013年から「DMG
MORI SEIKI」という単一ブランドでの活動を
開始した。2015年9月、工場の建設が完了する
見込みだ(「コメルサント」2015年5月20日付)。
16)サビョロフスカヤ機械製作工場(SMZ)は2012
年3月、Rostec傘下のアバロンプロムの100%子
会社として設立され、2014年はじめに、スタン
コプロム傘下に移された。SMZはスイスのGF
Machining Solutions (GFMS)とも協力関係を築
いている。
17)合弁会社MTE Kovosvit MASの設立協定は2013
年3月に締結された。翌年5月、対外経済活動
発展銀行(VEB)、ロストフ州政府、グループ
MTE、Kovosvit MASが協力協定を締結した。
2015年5月、グループMTEとKovosvit MASはロ
ストフ州に合弁会社MTE Kovosvit MASに基づ
く投資プロジェクト実施継続を確認した。各種
工作機械の現地化が計画されている。
18)2013年7月31日に両社の協力協定が締結された。
コヴロフでの工作機械製造の現地化がはから
れる。
19)エカテリンブルクの会社「ウニマチク」は2015
年7月、オーストリアのEMCO Groupと工作機
械製津の組み立てに関する共同生産に合意し
た。投資額は3億5,000万ルーブルを予定してお
り、5年間で70%の現地化をめざしている。
20)自動車組み立てについては2005年4月15日付で
出された当時の経済発展・貿易省、産業・エネ
ルギー省、財務省の共同命令が重要である。輸
送手段の「産業組み立て」という概念の定義が
定められたためだ。ついで、2006年9月16日付
政府決定、同年10月5日付の産業エネルギー省、
経済発展省、財務省の共同命令により、年産2
万5,000台以上の生産義務を前提に7年間の部
品輸入に対する輸入税率の低減や、4年半後の
30%までの現地化比率の達成などが決められ
た。2011年2月にルール変更がなされ、一定条
件下で8年までの部品に対する輸入税の軽減
が認められた一方、現地化比率は5年で60%に
引き上げられた。完全ノックダウン(CKD)生
産は全体の5%を超えてはならないことにな
った。
21)2015年2月5日付政府決定で、政府・自治体向
け買付で外国製医療品へのアクセス制限が決
められた。同年6月2日付政府決定で禁輸品目
数が拡大、さらなる拡大の動きもある。
22)IT関連の代表例は光ファイバーケーブルであろ
43
特集◆油価低迷・通貨安とロシア経済
う。輸入代替は、光ファイバーケーブルの生産
を1970年から開始した米コーニング社の代替
をはかるために1970年代にはソ連時代に始ま
った。1980年代には、ソ連製光ファイバーケー
ブルの生産が行われるに至ったが、生産規模が
小さく、1991年以降、生産は停止した。現在、
ロシアのサランスクで輸入代替プロジェクト
が進んでいる。ロスナノ、ガスプロム銀行、モ
ルドヴィア共和国行政府が出資している。年産
240万kmの生産能力にとどまっているため、生
産コストが相対的に高く、それが輸入品よりも
販売価格が高いという問題を引き起こしてい
る。しかも、ビレットと呼ばれる原料は輸入に
頼っており、完全な輸入代替にはまだ課題が残
されている。
23)2015年2月、セルゲイ・ショイグ国防相は「2020
年までの軍事力の情報・テレコミュニケーショ
ン技術発展の概念」を承認した。その内容は公
表されていないが、軍事にITを積極的に活用す
る姿勢が鮮明に打ち出されたと考えられてい
る。軍事以外でも、同年9月1日、個人データ
法が施行され、ロシア内の居住者企業だけでな
くインターネットを通じてロシア領内でビジ
ネスを行う外国企業もロシア人の個人データ
をロシア内にとどめておく(現地化する)こと
が義務づけられる。このように、ロシアは情報
統制に神経を尖らせている。なお、この結果、
サーバーを置くデータセンターを比較的寒冷
なシベリアに置く動きが広がっている。たとえ
ばデリパスカの支配するEn+グループはITサー
ビス会社「ラニト」、中国のHuawei(ファーウェ
イ、華為技術有限公司)は3.55億ドルをかけて
シベリアにデータセンターを開設する方針だ。
24)産業・商業省は「産業国家情報システム」
(GISP)
の創設を主導し、そのための予算約4,300万ルー
ブルも得る。GISPの創設は2014年12月31日制定
の「ロシア連邦産業政策法」の第14条に明文化
されており、2015年7月25日付政府決定によっ
てその創設・利用・改善方式が定められた。GISP
は産業政策実現を保障したり、産業部面での活
動を刺激する連邦執行権力機関の全権を行使
したり、産業部面での活動主体への支援提供を
情報化したり、産業状況やその発展予測に関す
る情報交換の効率を高めたりするために必要
な情報収集過程の自動化および情報分析のた
めに創出されるものである。産業政策法は2015
年7月に施行されたが、GISPは2016年から運用
開始になる見通しだ。
25)ソ連時代の1970年代、精密メカニズム・計算技
術研究所で開発されたのがロシアの半導体ブ
ランドElbrusである。Elbrus-4Cはモスクワ工科
大学の一部に基づいて設立されたMCST、およ
びINEUMによって生産されている。2015年から
は、前者によってElbus-8Cの生産も始まった。
MCSTはOPK傘下のブルク記念エレクトロニク
44
ス機械制御研究所と共同でPCを組み立ててい
る。ロシアで開発され台湾企業のTSMCによっ
て生産されてきた半導体Baikal-T1もロシア企
業のバイカル・エレクトロニクス(企業家フセ
ヴォロド・オパナセンコ支配のTプラトフォー
ルムィの子会社)が国内生産をすでに開始した。
中国のレノボがこの半導体利用で協議に入っ
ている。他方、企業家エフトゥシェンコフが主
導するシスチェーマの子会社ミクロンでも半
導体生産が行われているが、新型の半導体生産
を計画中で、彼はプーチンに国家支援として低
利融資250億ルーブルを求めている。
26)2014年9月の段階では、2005年に設置された「ユ
ニバーサル通信サービス基金」(通信サービス
による売上高の1.2%をすべての通信オペレー
ターから徴収する。年間約150億ルーブルにな
る)に類似したものとして「ユニバーサル・ソ
フトウェア基金」の創設が検討されていた。だ
が、これが現段階でどうなっているかは判然と
しない。外国製ソフトの販売ライセンス得た会
社にその国内での販売高の10%を基金に繰り
入れさせるという案もある。いずれにしても、
Rostecはこの基金設立後の資金管理をねらって
いる。
27)SAPは代わりに2015年9月、顧客の注文に合わ
せてソフトウェアを開発するセンターをロシ
アに設置した。同様のビジネス展開をしてきた
企業に米LuxoftやEPAM Systemsがある。
28)2013年3月になって、仲裁裁判所の控訴審で、
ヴォルゴグラードのオペレーター、エレクトロ
ニクス・ラジオ光学システム(EROS)が2011年
9月8日付の無線周波数国家委員会決定(スカ
ルテルに対して帯域2.5-2.7GHzのLTE構築許可
を無競争で与えた)を無効であると主張して件
で、2012年11月の一審の原告敗訴の判決を覆す
判断を示した。裁判所の判断としては、コンク
ール形式での売却が望ましいとした。さらに同
月、連邦反独占局は2012年4月の協定締結にも
かかわらず、ロステレコムによるスカルテルの
LTE網へのアクセスを認めないスカルテルに対
して、差別的であるとの嫌疑をかけ、告発する
姿勢を示した。だが、モスクワ管区連邦仲裁裁
判所は5月29日、3月の決定を再び覆した。
2011年9月8日付決定の不備を部分的に認め
たものの、控訴審を破棄し第一審を残したので
ある。
29)2013年2月、ノリリスクニッケル株を4%強保
有するメタロインヴェスト社を支配するウス
マノフは同社の利益だけではなく、独立系の取
締役として、チェメゾフをノリリスクニッケル
の取締役候補に推挙し、同年3月の臨時株主総
会でチェメゾフの取締役就任が決まった(2014
年、チェメゾフは取締役を降りたが、それは同
年3月から肥料会社、ウラルカリーの取締役会
議長就任のためだ)。このように、両者は緊密な
ロシアNIS調査月報2015年12月号
■ Research Report
関係にある。
30)詳しくは拙稿「ロシア石炭企業の統合問題」
(法
政大学イノベーション・マネジメント研究セン
ターWorking Paper, No.126, 2012)を参照。ウス
マノフについては、ほかにも拙著『プーチン2.0』
(東洋書店, 2012)を参考にしてほしい。ウスマ
ノフはプーチンの意向もあってか、メディア支
配を拡大している。出版社コメルサント、電子
新 聞 Газета.Ru 、 ブ ロ グ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の
LiveJournal、e-mailサービス会社のMail.ru、SNS
サービス会社であるVKontakteなどを次々に支
配下においている。
31)ウドカン開発資金を得るため、Rostecとメタロ
インヴェストは2011年11月、国営のヴニェシエ
コノム銀行(VEB)に60億ドルの融資を求めた
経緯がある。当時、プーチンがVEBの監査会議
議長を兼務していたためプーチンに融資を要
請する手紙を出したわけである。2012年になっ
て、VEBは52億ドルを上限とする資金供給を承
認したほか、ウドカン開発向けの設備の前払い
などに3億ドル相当のブリッジローンを承認
した。だが、VEBが融資にあたり、BGK株を取
得するなどの詳細が定まっていなかったが、
2015年9月、VEBはBGK株25%の取得により資
金供与することを決めたようだ。
32)エルデネト鉱区については、ソ連時代にモンゴ
ルとの間の合弁会社として、1974年に設立され
た鉱山選鉱コンビナート「エルネデト」が採掘
に従事している。ソ連崩壊後、ロシア側の持ち
分(49%)はRostecが管理している。
33)ロシア語では、ICT GroupはГруппа «ИСТ»で、
これをそのまま英語に変換すると、Group ISTに
なるが、ここでは、ICT Groupと表記している。
34)Rostecは中堅銀行であるノヴィコム銀行の支配
を通じて金融分野にもかかわっている。2014年
8月、Rostecは同行株を25.37%から34.04%まで
買い増した。Rostec傘下のロシア国防輸出も同
行株23.63%を保有していたから、Rosutecはこ
の段階で同行株を57.67%保有していたとみな
すことができる。ただし、同行の取締役会議長
を兼務していたチェメゾフは2014年夏から、議
長兼務とならず、Rostecの会計部門長が後継と
なる体制をとっている。ほかにも、Rostecは中
国のアリババと組んで、イルクーツクに新国際
空港を建設するためのコンソーシアムを組織
し、その構成物である貨物ターミナル建設にア
リババの資金を誘致することも計画している。
なお、中国側のRostecに近い組織に中国保利集
団公司傘下のPoly Technologies(保利科技有限
公司)がある。ロシア側への進出も開始してお
り、大いに注目しなければならない。
35)筆者は拙著『ネオKGB帝国:ロシアの闇に迫る』
(東洋書店, 2008)において、
「ソ連時代、国家
所有のもとにあった企業には、
「第一課」
(ペー
ルヴィ・アトジェール)と呼ばれるKGBの「細
ロシアNIS調査月報2015年12月号
ロシア産業の「内部」:Rostecにみる現状と課題
胞」があり、企業の機密保持活動に従事してい
た」と紹介したことがある。
「この組織[上記の
細胞のこと:引用者註]はソ連崩壊後なくなっ
たが、その後、FSB[国家保安局:引用者註]
から担当者(クーラートル)と呼ばれる者が大
規模企業に出向き企業を監視する制度が生ま
れた。国防発注を受けている軍産複合体には、
FSBだけでなく地方検事局からの監視者もいる。
これがロシア企業の実態なのだ。このように、
KGBおよびFSBの人脈はビジネスの世界に広
範に広がっている」と指摘したことがある。こ
れを裏づけているのが1995年4月3日に制定
された連邦保安局機関法であり、その第15条に
おいて、「ロシア連邦の安全を保障する課題を
解決するために、連邦保安局の軍人は国家機関、
所有形態と無関係の企業・施設・組織にそれら
の指導者の合意のもとに、軍人を軍事勤務に残
したまま、ロシア連邦大統領によって定められ
た方式で一時的に派遣されうる」とされた。つ
まり、FSBの軍人と同じような将校などの肩書
きをもつ職員が「一時派遣者」として企業にお
いて「屋根」の役割を果たすことが可能になっ
たわけである。おそらくこの規定がプーチン政
権になって積極的に利用され、それが前述した
FEBの担当者(クーラートル)の活用につなが
っているものと考えられる。ついでに重要な指
摘をしておくと、2006年1月から施行された中
国会社法の第19条には、「中国共産党規約に基
づき、会社内に中国共産党の組織を設立し、党
の活動を行うものとする。会社は党組織の活動
のために必要な条件を提供しなければならな
い」と規定されている。この条項にしたがわな
ければならない会社は規模に応じて決められ
ているようだが、官民の差は問われていない。
まさに、ソ連時代と同じように、企業に共産党
の「細胞」を置き、監視するシステムがいまも
なお中国で息づいていることになる。
36)情報分野で国家管理が強まっていることについ
ては、Andrei Soldatov & Irina Borogan (2015) The
Red Web, PublicAffairsが参考になる。プーチンを
取り巻く人々が政治的影響力を強めている現
状 に つ い て は 、 Dawisha Karen (2015) Putin’s
Kleptocracy: Who Owns Russia?, Simon & Schuster
Paperbacksを参照。
45