データの価値 - 金融広報中央委員会

特選
2013
金融広報中央
委員会会長賞
第 11 回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール
データの価値
岐阜県・岐阜県立大垣商業高等学校 2年 鈴木 颯太
は
や
「ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ」と友人が言った。話題は、今流行りの
音楽についてだった。
平成 24 年通常国会での著作権法一部改正案の審議の過程において、いわゆる
「違法ダウンロードの刑事罰化」を内容とする修正案が提出され、6月に可決、
成立した。違法にアップロードされていると知りながら音楽や映画作品をダウ
ンロードすることを禁止する、といった内容だ。
私達が好きなアーティストの曲が欲しいと思った場合、手に入れる方法は主
に三つある。CDショップに行きCDを買う方法、レンタルビデオ店に行き
CDを借りる方法、インターネットの音楽配信サイトでダウンロードする方法
の三つだ。
これらの方法で曲が売れるとその売上は一旦、販売代理店の利益となり、そ
こから、レコード会社、JASRAC、アーティスト等、CDの製作・出荷ま
でにかかわった人物、会社等の利益となる。
しかし、ばれなきゃいい、という私の友人はこの三つのどの方法をもとって
いない。インターネット上に違法にアップロードされた曲をそのまま取り込ん
でいるのだ。つまり、アーティスト等の利益には一切ならない。
ここまで、通常に音楽を手に入れた場合と違法ダウンロードで手に入れた場
合を比べてみたが、私が注目したい点は、「デジタルデータに対する商品価値の
認識」についてだ。
音楽の違法ダウンロードという行為の、音楽の部分を例えば、書籍に置き換
えてみると、
「万引き」になる。万引きは犯罪であり、普通ならしない。それは、
売り物はお金を支払って手に入れるということを当たり前だと考えているから
であり、お金を払わずに盗むという行為をおかしいと思うからである。
しかし、これがデジタルデータ(音楽や動画)になると、どういうわけか、
© 金融広報中央委員会 2013
1
第 11 回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール
犯罪だということを認識せず、捕まらなければいいと考える人が多いようだ。
目に見えるものと目に見えないものではこれだけ、物の価値の捉え方が変わっ
てしまう。
違法行為をする人間が悪いと決めつけてしまうことは簡単だが、私にはもう
一つ、供給する側、つまり売り手が考えなおすべきことがあると考える。
ある日、父がテレビを見ながらこうつぶやいた。「昔はこんなのありえなかっ
たのになぁ」と。その時テレビに映っていたのは、某人気アイドルグループが
CDシングルで 13 作連続ミリオンセールスを記録したという話題だった。彼女
達がなぜここまでミリオンを連発することができたのかというと、それは「握
手券商法」による効果が大きいだろう。CDを買う目的といえば、音楽を手に
入れることに決まっているが、それに加え、アイドル本人と握手ができるという、
「付加価値」をつけた。
この握手ができるという付加価値はファンからするととても魅力的で、握手
券を目当てにCDを大量に買い、むしろCDがオマケのような状態になってし
まった。この商法を発想の転換と感心し評価する人もいるが、大半の人はあま
り良い理解を示したとは言えないだろう。「おっ、この曲いいな。CDを買って
みよう」とそれまでファンでなかった人々がCDショップを訪れCDを買うよ
うに、万人に受け入れられてミリオンセールスを達成したならばそれは音楽史
に残る名曲なのだろう。しかし、一部の熱狂的なファンが握手券を目当てに複
数買いするような、売上数と購入者数が釣り合わない曲がミリオンセールスに
なった場合、それがみんなから認められる名曲だと言えるのだろうか。
他にも、日本のCDは海外のCDと比べると比較的高価という事実や、イン
ターネットで音楽を 250 円でダウンロードできる時代に、たったの2曲ばかり
入っているCDを 1,000 円で売るのはどうなのかという意見もある。
ミリオンセラーがあまり珍しいことではなかった時代と比べると、音楽の聴
き方や立ち位置も変わり、人々の音楽に対する評価の仕方や想いも大きく変わっ
てしまった。
音楽の評価は、その時代の状況や風潮、人々のセンス等によって変わっていく。
売り方も形を変えていく必要があるのではないだろうか。
違法ダウンロード禁止法の施行から約1年がたった。未だに逮捕者は実質0人
© 金融広報中央委員会 2013
2
第 11 回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール
だ。だが、違法ダウンロード件数は激減しているそうだ。今回の施行は違法ダ
ウンロードの抑制に十分な役割を果たしていると言えるだろう。友人も「逮捕
されたら困る」と大人しくしかるべき方法で音楽をダウンロードしている。
だが、しかし、まだ私は捕まるから違法ダウンロードしないというのは寂し
いと思う。
私には大好きなアーティストがいる。違法ダウンロードしようと思えば難し
くはない。だが、CDはすべて自分自身のお小遣いとアルバイトで得た収入か
ら購入している。CD代が惜しいと思ったことはない。私がそうする理由は、
CDを購入することにより、私自身が楽しむため、そしてなにより、私が払っ
たCD代がこれからのアーティストの活動のためになると信じているからだ。
インターネットでどんな商品でも買える時代になってしまったが、その商品
の裏には作った人の苦労や想いがあるのは昔から変わらない。
目に見えないものが多い時代。目には見えないが、しっかりと見つめなけれ
ばならないことがある。そのことをしっかりと忘れないようにする。これが当
面の私達の課題だ。
<参考文献>
・文化庁 「違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A」
URL http://www.bunka.go.jp/chosakuken/download_qa/
© 金融広報中央委員会 2013
3