ベッド上での排泄介助を考える

特集
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る
ベッド上での排泄介助を考える
齋藤君枝 SAITO Kimie
新潟大学医学部保健学科
ベッド上で排泄が必要な患者とは
*自然排尿は,排尿機構が維持され,膀胱や尿道,骨盤底の位置と機能が正常であることで可能になる.
*廃用症候群やADL 可動域に制限がありポータブルトイレへの移動・移乗が困難な患者や,人工股関節
置換術後,脊髄障害,ベッド上安静が必要な患者などがベッド上排泄の対象となる.
解剖学的視点からのベッド上における排泄体位の基本
*ベッド上での排泄は,上半身を挙上し,膝を屈曲させた腹圧をかけやすい体位が基本とされ,これは排
便機構が根拠となっている.
*排尿に関しては,男性の場合,仰臥位では尿道が上向きのS 字となり,側臥位になると尿道の高低差が
なくなるため排尿しやすいとの見方があるが,エビデンスは見当たらない.
排泄障害とベッド上における姿勢の評価
*体幹や骨盤,姿勢評価による身体機能をアセスメントしたうえで,排泄に関連する筋肉を適切に使用で
きるよう支援する必要がある.
*身体障害のある患者がベッド上で排泄する姿勢の共通点は「可能な範囲の上半身の挙上」
「膝の内角
90 °
保持」
「肛門の真下に便器中央がくるよう脊柱の直線上に便器を挿入すること」である.
ベッド上における自然排尿を促すケア
*自然排尿を促すケアは経験的方法にとどまっており,基礎的な検証は行われていない.
*足浴の効果は,交感神経を優位にし,尿量の顕著な増加をみる人と,副交感神経への効果により心地よ
さ,リラクセーションを感じ,短時間での尿量の増加がみられない人がいる.
*排便と排尿は同じ神経反射路が機能している部分もあるため,便秘ケアは排尿効果も得られると考えら
れるが,検証は行われていない.
*水分摂取により自尿を促すことも提唱されているが,エビデンスは見当たらない.
*プライバシーを保ち,安心して排尿ができる環境において自然排尿がみられることが明らかになってい
る.
●
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EBNURSING Vol.9 No.4 2009
ベッド上で排泄が必要な患者とは
自然排尿は,大脳皮質や脳幹部,脊髄,末梢神経による排尿機構が維持され,膀胱や尿道,
骨盤底の位置と機能が正常であることにより可能となる.ベッド上排泄は,廃用症候群や
ADL 可動域に制限がありポータブルトイレへの移動・移乗が困難な患者,人工股関節置換術
後や脊髄障害,ベッド上安静が必要な患者が対象となる.ベッド上での排泄は自然排尿が可能
な患者だけでなく,残尿や排尿障害を有する場合がある.また,排泄機構が保たれていても,
心理的要因からベッド上排泄が困難な状況がある.
排尿機能には蓄尿と排尿があり,排尿障害には尿量の異常と排尿回数の異常がある.排尿困
難は,主に尿道の通過障害や神経因性膀胱に起因する.通常,成人では1 日に5 ∼6 回の排尿
があるが,排尿困難では排尿回数や尿意の減少により,尿意があってもなかなか排尿できない
状態や排尿後の残尿感がみられる.尿閉は膀胱に多量の尿が貯留していても排尿ができない状
態であり,患者は不安や身体的苦痛を感じる.
排泄障害をもつ患者には,合併症を防止し,薬物治療や尿道カテーテル留置,導尿,リハビ
リテーションを行いながら,適切な排泄介助や心理的支援を行う必要がある 1).
エビデンス
排尿困難は術後患者や安静のためベッド上排泄が必要な患者にもみられる.術後の排尿障害
の発症率は7 ∼52 %で,排尿障害のある患者は術後回復室における滞在時間が排尿障害のない
患者に比べて26 分長かったとの報告がある 2).排尿障害は,高齢者や男性により発症しやすい
が,それは加齢に伴い前立腺肥大が生じることが主な理由である.急性排尿障害を発症した男
性を対象とした調査では,原因疾患として前立腺肥大が53.0 %と最も多く,次に原因不特定が
16.0 %であった 3).
回復期病棟の入院患者に対し,残尿量測定を実施した研究では残尿量が 150ml 以上あり,
排尿困難を有する患者の割合は21.5 %で,関連要因はFIM(機能的自立度評価)の点数が低
い,失禁,前立腺もしくは膀胱障害,床上安静であった 4).この調査では,排尿困難をもつ患
者の割合が高かったことから,全入院患者に対し残尿量測定を実施し,残尿量が150 ∼390ml
の場合,自然排尿試行後の導尿実施を推奨している.
排尿困難な患者が自然排尿に成功する要因に,65 歳未満であることや排尿障害後の経過日
数が長いことが挙げられ,排尿障害を再発しやすい患者は,高齢者や排尿障害時の残尿量が多
い場合との報告がある 5).
排泄障害患者に自然排尿を促すケアは,大脳皮質の高次排尿支配領域と橋排尿反射中枢機能
が保たれ,排泄障害の合併症のリスクが低い場合に実施可能であると考えられる.ベッド上排
泄が必要な患者に対し,排尿を困難にする要因をアセスメントし,排泄が可能であるか判断す
る必要がある.
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●
解剖学的視点からのベッド上における排泄の体位の基本
排便機構を考慮した姿勢とは
ベッド上排泄は,
「上半身を挙上し,膝を屈曲させた腹圧をかけやすい体位」が基本とされ,
臨床で実践されている.これは排便機構を根拠としている.直腸肛門部は環状の肛門管が2.5
∼4cm あり,直腸と直腸肛門部の角度である直腸肛門角は90 ∼100 °
で直腸内容物が肛門管に
進入しないようになっている 6).仰臥位では肛門管に向かう直腸肛門部が上向きとなるため便
が肛門管に進入しにくいが,上半身を60 °
挙上すると,直腸肛門部は30 °
の下向きとなり便が
肛門管に進入しやすくなる.また,仰臥位では肛門角度が床に対して60 °
となるが,側臥位で
は90 °
となるため排泄しやすい(笊)
.
直腸に便が貯留し大蠕動が起こり,肛門管に便が進入すると,内肛門括約筋が弛緩し,外肛
門括約筋が収縮して直腸肛門角は直線化して鈍角となる.さらに,腹直筋や横隔膜を使ってい
きみをかけて腹圧を上昇させると骨盤底が低下し,外肛門括約筋が弛緩して排便となる.膝を
屈曲させることで,より骨盤底が低下し,骨盤底筋群が弛緩しやすくなり排便を促進する.脊
柱が自然なS 字型であることから,90 °
の座位は怒責時に体幹が前傾し姿勢が不安定となり骨
盤底筋群の弛緩を妨げる.ベッド上排泄では,加齢に伴い脊柱の彎曲は強くなるため,円背の
程度と肛門角を考慮した上半身の挙上と,膝立て姿勢を保持した体位が望ましい.
通常,便器の当て方は,便器の中心に肛門がくることが目安となっている.また,排便時に
排尿を伴うため,女性では尿の飛散防止と消音のため20cm ほどのティッシュを陰部に当てる
とされる.尿道口は肛門の上部に位置するため,仰臥位では尿道口は便器に対して60 °
以上と
なり,上半身挙上でも斜角のため飛散しやすい.
エビデンス
ベッド上排泄時の体位を考慮するうえで参考となる基礎的調査として,腹壁の筋電図測定や
血流,循環動態の変化などが行われている 7,8).便器挿入時は,広背筋の負担や血圧上昇,怒
責時の外腹斜筋の強い活動や腹圧上昇が認められる 8).また,挿入する便器の高さは洋式便器
よりも和式便器が低いため,骨盤底筋
群を弛緩させることができ排泄に効果
下肢
腹部
下肢
腹部
直腸肛門部
直腸肛門部
肛門管
上半身60°の挙上
肛門角度が床に対して60°で直腸肛門部
が上向きとなるため排泄しにくい.
肛門角度が床に対してほぼ90°で直腸
肛門部は下向きとなり便が肛門管に進
入しやすい.
笊 上半身挙上に伴う直腸肛門部の向きと肛門角度
●
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排便促進を目的としており,被検者は
健常な成人を対象としている.今後,
肛門管
仰臥位
的との報告がある.これらの調査は,
姿勢保持が困難な場合や心負荷が禁忌
の患者,高齢者,A D L の低下が著し
い患者を対象に,上半身の挙上角度や
体位,排尿姿勢に伴う生理的変化など
についてデータの蓄積が望まれる.
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
排尿機構と姿勢
尿器を用いた排泄では,尿の飛散防止のため膝を閉じるといった実践技術にとどまっており,
排尿機構を考慮した体位の工夫の報告はない.
男性が尿器を使用する場合,可能であれば患者自身が尿器に陰茎を入れ排尿する.尿道は男
性15 ∼20cm,女性4 ∼6cm であり,男性の尿道は女性に比べて著しく長く,正中断面で見
るとS 字状に曲がり2 つの屈曲部がある.仰臥位では尿道が上向きのS 字であり,側臥位にな
ると尿道の高低差がなくなるため排尿しやすいとの見方があるが,エビデンスは見当たらない.
エビデンス
若年男性における排尿失神の予防や排尿障害のある患者の排尿姿勢の工夫を目的として,立
位および座位での排尿中の循環動態と残尿量について比較検討を行った研究がある 9).その結
果,排尿姿勢の違いによる血圧や心拍数,残尿量の影響は認められなかった.しかし,立位,
座位による排尿それぞれでは「安静時」の平均血圧や心拍数に比べ,
「排尿前30 秒間」
「排尿
開始から5 秒間」
「排尿終了前5 秒間」
「排尿終了から30 秒間」で有意に上昇し,排尿行動や膀
胱内圧変化に伴う循環動態の変調が示唆された.ベッド上排尿において仰臥位や側臥位,頭部
挙上といった姿勢の変化に伴う生理的変化の検証が体位の工夫につながる可能性がある.
排泄障害とベッド上における姿勢の評価
排泄障害はADL と関連することから 2),体幹や骨盤,姿勢評価による身体機能のアセスメ
ントは重要である.ベッド上排泄において,正しい姿勢で排泄に関連する筋肉を適切に使用で
きるよう支援する必要がある.
すなわちベッド上排泄が必要な排泄障害患者に対して姿勢の評価を行い,体幹機能の問題点
を推測し介入を行う必要性が指摘されている 10).評価項目は,体幹部分と呼吸,骨盤部分,姿
勢などである.体幹部分では前額面,矢状面,水平面から変位がないか判断する.骨盤部分は,
骨盤の傾斜,仙腸関節のアライメント(正常な可動域で正しく動かすこと)
,骨盤周囲筋のイ
ンバランスをみる.筋肉の状態を動作や関節の可動性から評価し,姿勢の正中化を図ることが
重要である.排尿障害患者は,大腿直筋やハムストリングス,大腿筋膜張筋,内転筋,梨状筋
の短縮を認めることが多いため,短縮している部分にはストレッチが効果的としている.
横隔膜と骨盤底筋群は拮抗する働きがあり,吸気時に横隔膜が下がると骨盤底筋群は弛緩し,
呼気時に横隔膜が上がると骨盤底筋群は収縮する.排泄障害の重要な運動療法は,呼吸運動に
併用させた骨盤底筋群の運動感覚促進であると提言されている 10).
身体機能に障害がありベッド上排泄が必要な患者に対し,実践で行われているベッド上排泄
姿勢を示す(笆)
.身体機能障害に伴い排泄障害が生じる場合が多く,排泄姿勢のアセスメン
トが重要である.これらの排泄姿勢の共通点は「可能な範囲の上半身挙上」
「膝の内角90 °
保
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障害部位
頸部
脊椎∼腰部
留意点
排泄姿勢
頸部の固定と安静
頸部を固定したまま膝関節を90°に屈曲させた体位.
脊柱に対しひねりの
負荷の禁忌
仰臥位,もしくは完全な側臥位の保持で臀部を露出し,肛門の真下に便
器中央がくるように便器をあてた後,便器がずれないよう仰臥位に戻し
膝関節を屈曲させた体位.
90°
股関節
人工股関節置換術後
は特に不良体位によ
る脱臼防止
外転枕や座布団を下股に挟みベルトで固定し外転位30°
を保持し,膝関
節を屈曲させた体位.
30°
90°
膝関節
患者の固定と安静
患肢を伸展させたまま健肢の膝関節を屈曲させた体位.健肢側から便器
を挿入する.
90°
笆 主な身体機能障害部位と実践で行われているベッド上排泄姿勢
持」
「肛門の真下に便器中央がくるよう脊柱の直線上に便器を挿入すること」である.
排泄障害に応じた姿勢評価や身体機能の障害部位に応じた排泄姿勢の研究報告は見当たらな
い.
ベッド上における自然排尿を促すケア
経験的方法
自然排尿を促すケアについて経験的知識から紹介されている方法として,
「水の流れる音を
聞かせながら,外陰部に微温湯をかけてみる」
「茶,または紅茶をカップ一杯勧めてみる」
「患
者の手を温かい湯につける」
「仙骨部の皮膚S 1 ∼S 4 の支配領域を,すぼめた指先で軽くなでる
か,温湿布をする」
「下腹部(恥骨上部)を握りこぶしでマッサージしたり,臍の両側線上5
∼6cm を指圧する」
「腹臥位にして下腹部に小枕を当てる」
「グリセリン浣腸を試みる」
「排尿
ができないと思いこんでいる気持を和らげる会話を行う」がある(笳)11,12).しかし,これら
の方法は現在も経験的方法にとどまっており,基礎的検証は行われていない.
また,
「体位の工夫」
「陰部の刺激」も自然排尿に効果的とされ,これらの技術について科学
的分析が行われている 13).
「排尿筋が収縮し,内尿道口が開いて,尿道括約筋と骨盤底筋群が
弛緩するという3 者の連携が成立し,さらに腹圧がかかると排尿できる」
「安定して腹圧をか
けられる体位の工夫は必要」
「自律神経系を刺激し,副交感神経を優位にさせる」などが経験
的方法を裏づけるメカニズムであるとしている.
●
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排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
①
水の流れる音
⑥
②
③
④
⑤
温かい茶か紅茶
温かい湯に手を入れる
すぼめた指先で軽くたたく
ブラシでこする.ガーゼ
に包んだ氷片でこする.
⑦
下腹部をマッサージ
または圧迫する
⑧
⑨
腹臥位→下腹部に硬い小枕
浣腸
緊張をやわらげる会話
笳 自然排尿を促すケア,経験的方法
(川島みどり:改訂版 実践的看護マニュアルー共通技術編. 看護の科学社 2 0 0 2 ; 1 3 4 . 9 )より)
自然排尿を促すケアとしての足浴の有効性
(ml)
450
尿増加量:尿量増群
尿量:尿量増群
尿増加量:尿量緩群
尿量:尿量緩群
(ml)
450
足浴の副交感神経系に対する効果に着目し,足浴に
400
400
よる排尿を促す効果について実証した基礎的研究 14)が
350
350
300
300
ある.健康な成人 11 名に対し,41 ℃の湯で 20 分間密
封式足浴法を施行し,自律神経活動,尿量,バイタルサ
インの変動,主観的反応を評価した.その結果,足浴中
と足浴後60 分間において,平均163.6ml の尿量増加が
あり,11 名中5 名には169 ∼381ml の顕著な尿量の増
加がみられ,交感神経活動が増加した.残りの6 名は緩
やかな尿量の増加がみられ,副交感神経活動量が増加し
ていた.
足浴に対する反応は,交感神経を優位にし尿量の顕
著な増加をみるタイプと,副交感神経への効果により心
尿
増 250
加
量 200
尿
250 量
200
150
150
100
100
50
50
0
足浴
20分前
足浴
直前
足浴終了
直前
足浴後
20分
足浴後
40分
0
笘 自然排尿を促すケアとしての足浴の有効性
(足浴前後の尿量および尿増加量の変化/豊田久美子:排尿を促
すケアとしての可能性. 臨床看護 2007 ; 33(14): 21142119. 15)より)
地よさ,リラクセーションを感じ,短時間での急激な尿
の増加をみないという2 つのタイプがある可能性が示唆されている(笘)
.また,コントロー
ル実験で足浴を行わなかった場合,足浴時381ml の尿量増加をみた対象者の尿量は87ml であ
り,副交感神経の活動量が高かったことから,足浴が尿量増加に介在していると裏づけている.
これらの結果から,排尿困難の理由により足浴の作用を見極め,統制した実験や臨床研究を
積まなければならないとしている 15).
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●
便秘ケア
排尿困難と便秘の発現は関連している 5).肛門の収縮に関与する内肛門括約筋と外肛門括約
筋は肛門管を取り囲んでいる.内肛門括約筋は遠位側の輪状平滑筋で通常収縮しており,特定
の刺激が加わると短時間のみ弛緩し,外肛門括約筋は近位側の横紋筋で一定の静止圧があり排
便時に圧が低くなる.内肛門括約筋の働きは,自律神経と外肛門括約筋の支配を受ける.交感
神経はL 5 からの下腹神経,副交感神経はS 2 ∼S 4 の骨盤神経,外肛門括約筋は陰部神経の支配
であり 6),排尿相の神経反射路と同様である.このため,通常排便時に排尿がみられ,交感神
経作用により排尿困難と便秘が生じうる.排便を促す下腹部の温罨法やマッサージは,副交感
神経優位による排便効果を得るとともに,排尿も誘引すると考えられる.
水分摂取
自尿を促すとして「できるだけ水分摂取を行う」
「コーヒーや紅茶などカフェインを摂取す
る」
「身体を温かくする」
「2 ∼5 分便座に座る」
「排尿の間隔をあけない」なども提唱されてい
るが,過剰な水分摂取が排尿障害を助長することや,排尿間隔が短いと膀胱の貯留機能の回復
を妨げるとの見方もあり,いずれもエビデンスは見当たらない 16,17).
環境調整
排泄支援を目的とした調査に,排尿時の音のレベル測定,苦痛が少なく漏れる心配がない排
泄用具の検討,ベッド上排泄を行う患者の心理状況などがあり,これらの結果からプライバシ
ーを保ち安心して排泄ができる環境において自然排尿がみられることが明らかになってい
る 7,8).自然排尿に対する副交感神経の強い関与が裏づけられている.
* * *
排泄ケアは,排泄障害をもつ患者とともに,排泄障害を発症する可能性が高い患者を把握し,
自然排尿やベッド上排泄が可能であるか判断することが大切である.フィジカルアセスメント
や身体機能評価,姿勢評価などアセスメント技術を高め,疾患や症状に応じた排尿姿勢や自然
排尿を促すケアに関する研究を積み重ねる必要がある.排尿障害の合併症を防ぎ,いかに本来
の自然排尿に近い形で排泄できるかが課題である.
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医学中央雑誌,メディカルオンライン
キーワード:排尿困難,排尿障害,自然排尿,排泄介助,姿勢,体位,足浴,脊椎損傷
蘆 CHINAHL,PubMed
キーワード: urinary retention, anesthesia, void, care, spinal
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EBNURSING Vol.9 No.4 2009
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
文献
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2) Feliciano T, Montero J, McCarthy M, et al.: A retrospective, descriptive, exploratory study evaluating incidence of postoperative urinary retention after spinal anesthesia and its effect on PACU discharge. J Perianesth Nurs 2008 ; 23(6)
: 394-400.
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5) Steggall MJ : Acute urinary retention causes, clinical features and patient care. Nurs Stand 2007 ;
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7) 村上みち子,山口瑞穂子,鈴木淳子ほか:看護技術を支える知識に関する−考察−排泄の援助に関する文献を通して.
順天堂医療短期大学紀要 1993 ; 4 : 1-15.
8) 服部恵子,山口瑞穂子,村上みち子ほか:看護技術を支える知識に関する−考察−排泄の援助に関する文献を通して
(2)
.順天堂医療短期大学紀要 2000 ; 11 : 72-87.
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本看護研究学会雑誌 2007 ; 30(3)
: 207.
10)田舎中真由美:泌尿器系障害に対する理学療法.理学療法 2004 ; 21(6)
: 843-847.
11)川島みどり:第 11 章 排尿を促す技術 排尿援助の効果 経験的知識.川島みどり,菱沼典子編:看護技術の科学と
検証 日常ケアの根拠を明らかにする〈別冊ナーシング・トゥデイ 9〉
.日本看護協会出版会; 2002. p.67-72.
12)川島みどり:改訂版実践的看護マニュアル−共通技術編. 看護の科学社; 2002. p.134.
13)菱沼典子:第 12 章 排尿を促す技術 排尿援助の効果 科学的分析.前掲書 11)
.p.73-78.
14)豊田久美子:足浴が排尿に与える影響に関する基礎的検証.人間看護学研究 2006 ; 3 : 51-61.
15)豊田久美子:排尿を促すケアとしての可能性. 臨床看護 2007 ; 33(14)
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16)Gray M : Urinary retention : management in the acute care setting Part 1. Am J Nurs 2000 ; 100
(7)
: 40-48.
17)Gray M : Urinary retention : management in the acute care setting Part 2. Am J Nurs 2000 ; 100
(8): 36-44.
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●
特集
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る
排尿を促すツボと経絡
安野富美子 YASUNO Fumiko
高梨知揚 TAKANASHI
坂井友実 SAKAI
Tomoaki
Tomomi
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科
排尿のツボと臓腑−経絡
さんしょう
*尿の生成と排泄には,主に肺・脾・腎の3 つの臓と,膀胱・三 焦の2 つの腑がかかわっている.この働
きに変調をきたすと排尿に異常が生じる.
たいいん ひ けい
しょういんじんけい
たいようぼうこうけい
にんみゃく
*排尿に関連する主な経絡は,足の太陰脾経,少 陰腎経,太陽膀胱経,任 脈である.体全体の水分代謝
しょうようさんしょうけい
には手の少 陽三 焦 経も関係する.
いんりょうせん
さんいんこう
ゆうせん
たいけい
しょうかい
じん ゆ
し しつ
,湧泉・太谿・ 照 海(腎経)
,腰仙骨部の腎兪・志室・膀胱
*ツボでは,下腿の陰 陵 泉・三陰交(脾経)
じ りょう
兪・次
ちゅうきょく
かんげん
・中 (膀胱経)
,下腹部の 中 極 ・関元(任脈)が排尿とかかわりが深い.
排尿を促すツボ刺激のメカニズム
*マッサージや指圧,鍼灸などツボ刺激の効果のメカニズムとして,体性−内臓反射機転によることが知
られている.
*体性−内臓反射とは,体性感覚刺激による情報が求心性神経を介して中枢神経系に伝えられて統合され,
その結果,自律神経遠心路を介して反射性に内臓機能に影響を及ぼすものである.
排尿を促すケアとしてのマッサージ・指圧の効果に関する研究報告
*排尿障害に対するマッサージや指圧の効果,および関連論文として鍼灸の効果について少ないながらも
報告されているが,エビデンスレベルの高い研究は今後の課題である.
指圧の実践
*「触れる」
「押す」
「離す」の3 操作があり,漸増・漸減圧が基本である.
*手技には,ツボなどの反応点や治療点に圧を加えたいときに用いる母指圧迫と比較的広い面積の部位を
押す手掌圧迫などがある.
*排尿ケアを行う場合の一例として,仰臥位(下腿内側)→側臥位(腰仙骨部・下腿後側)→仰臥位(腹
部)の順で行うとよい.
排尿を促すツボと経絡−東洋医学的メカニズム
1)
知識
排尿のツボや経絡を臨床に応用するには,東洋医学における「尿」の生成と「排尿」のメカ
ニズムを理解する必要がある.以下にそれらについて概略する.
●
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経絡とは
しんえき
経絡は,東洋医学独特の生体制御システムで,生命エネルギー(気・血・津液)を供給する
通路で,伝達系として考えられている.また,全身の機能を正常にする調節系でもある.体内
では臓腑と結びつき,臓腑−経絡経穴系として機能する.外部では体表に分布し,体表と内臓
を結びつける経路としての役割もある.
経絡は,体の隅々を流れ,多くのツボと関連をもち,臓腑の異常や乱れなどを体表のツボに
伝える生体情報の伝達経路でもある.
気・血・津液と尿
気は身体各部の機能をつかさどるのに欠かせない「基本的なエネルギー」であり,血は身体各
部の組織を滋養する「基本な物質」である.血は気の働きによって摂取した飲食物の栄養素から
生成され,脈中を循環する.一方,気は血によって養われる組織の働きによって生成される.
もう一つの重要な物質である津液は,体内の水分(体液)のことである.これには,体外に
排泄される唾液,涙,汗,尿なども含まれる.津液は,皮膚や粘膜を潤し,臓腑を滋潤し,関
節液として関節運動を円滑にするとともに内部環境を良好な状態に維持するよう働いている.
今回のテーマである尿は,津液の一部である.津液から尿が生成されるには,関係する臓腑
の気の作用が必要である.臓腑の気が不足したり,滞ったりすると全身の水分代謝に異常をき
たし,尿の生成にも影響を及ぼすことになる.また,排尿においても関係する臓腑の気が必要
であり,それらの気の異常によって排尿障害が生じる.
臓腑と尿
「五臓六腑」という言葉は東洋医学の用語である.東洋医学でいう臓腑は,現代医学の解剖
学でいう臓器とは本質的に異なるもので,主として機能体としての臓器として捉えられる.
五臓とは肝・心・脾・肺・腎のことであり,人体の成長発育に必要なエネルギーを生成し,
貯蔵するとともに精神や感情を宿し,精神活動をもつかさどる.一方,六腑は胃,小腸,大腸,
膀胱,胆,三焦のことで,飲食物を消化し,消化物や水分を輸送し,排泄するとともに臓の働
きを補助する.なかでも三焦は,水分代謝を調節する重要な器官である.
尿の生成と排尿のメカニズム
尿の生成と排尿には,主に肺・脾・腎の3 つの臓と膀胱・三焦の2 つの腑がかかわる.肺・
脾・腎の3 つの臓は,水分代謝を担う重要な臓である.3 つの臓の働きが正常であれば,飲食
物から水分を吸収し,体内を充たし,余分な水分は体外へ排泄するという一連の水分の代謝が
行われる.
このことについて,もう少し具体的に説明すると,脾は胃によって消化された飲食物から水
分を吸収し,これを肺に送る.肺は脾から送られてきた水分(津液)を体表および身体各部に
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送る.体表にめぐらされた水分の一部は,肺の機能によって汗として排泄される.また全身に
送られた水分で不要なものは膀胱に送られ,腎の働きによって尿として蓄える.膀胱に蓄えら
れた尿は,腎気の働きによって排尿される.したがって,腎気に変調をきたすと,排尿に異常
が生じることになる.
排尿困難
りゅうへい
排尿困難は,東洋医学的では「小便不通」
「 閉」などと表現される.これには,
「滞りがあ
ることによって流れない」ものと,
「押し出すだけの力がない」ことによるものとがある.前
者は「津液」の通路に湿熱がたまって通路を塞いだり,津液の流れが停滞することによって発
症する.後者は,肺・脾・腎の気が不足して津液を押し出す力がなくなっている状態で,特に
腎気の不足によるところが大きい.高齢者の排尿障害は,基本的には腎気不足による.
ツボ・経絡と排尿
たいいん ひ けい
しょういんじんけい
たいようぼうこうけい
にんみゃく
排尿に関連する主な経絡は,足の太陰脾経,足の少 陰腎経,足の太陽膀胱経,任 脈である.
しょうようさんしょうけい
全身の水分代謝に関与する手の少 陽三 焦 経も関係する.
足の太陰脾経,足の少陰腎経は,下肢の内側から体幹前面にかけて走行する経絡で,ツボで
いんりょうせん
さんいんこう
ゆうせん
たいけい
しょうかい
は,陰 陵 泉・三陰交(脾経)
,湧泉・太谿・ 照 海(腎経)などが排尿と関係する.
足の太陽膀胱経は,頭から足にかけて体の後面を走行する長い経絡で,主に腰仙骨部に分布
じん ゆ し しつ
じ りょう
しているツボ(腎兪・志室・膀胱兪・次
・中 )が排尿とかかわりが深い.任脈は,会陰部
ちゅうきょく
かんげん
から始まり体の前面正中を通る経絡で,特に下腹部にあるツボ(中 極 ・関元)が排尿とかか
わりが深い.
排尿困難を訴える患者に対し,マッサージ・指圧などの手技を行う際,これらの経絡の機能
を念頭に置き,排尿とかかわりが深いツボを考慮しながら行うと,よりよい効果が期待できる.
排尿を促すマッサージ・指圧のメカニズム
知識
経絡上のツボ刺激(あん摩・マッサージ・指圧・鍼灸)の効果について,そのメカニズムと
して,体性−内臓反射機転によることが知られている 2).
体性−内臓反射とは,体性感覚刺激による情報が求心性神経を介して中枢神経系に伝えられ
て統合され,その結果,自律神経遠心路を介して反射性に内臓機能に影響を及ぼすものである.
体性−内臓反射には,中枢内経路を脊髄,延髄,上延髄にもつものが知られている.脊髄内
に反射中枢をもつ脊髄性反射の場合,入力する求心性神経の分節と出力する遠心性神経の分節
が同じ,あるいは近い場合にのみ反射が起こる.つまり,脊髄性反射は強い脊髄分節性を示す.
「排尿を促す」体性−膀胱促進反射は,主としてこの脊髄性反射であることが明らかにされて
いる 3).
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排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
排尿を促すケアとしてのマッサージ・指圧の効果
−マッサージ・指圧および鍼灸の有効性に関する研究
「排尿を促す」マッサージ・指圧の有効性に関する研究報告は,検索したところ1 論文のみ
であった 4).また,排尿障害(尿閉,排尿遅延などの排出障害,頻尿や尿意切迫,尿失禁など)
に対するマッサージの効果についても1 論文のみであった 5).関連論文として腎・尿管結石の
疼痛に対する指圧の効果については2 件検索された 6,7).また,鍼刺激が排尿に及ぼす効果につ
いての検討では,
「中
」8),
「中極」9),
「三陰交」10,11),
「腎兪」12)などの経穴(ツボ)への効果
が報告されていた.
研究報告
仙骨部のマッサージと排尿
工藤ら 4)は,尿意を伝えることのできない乳幼児44 例を対象に,マッサージ群(仙骨部の
マッサージを行った)22 例とコントロール群(無刺激)22 例に分け,排尿時間を比較検討し
た.その結果,30 分以内に排尿がみられたのは,コントロール群12 例(54.5 %)
,マッサー
ジ群18 例(81.8 %)で,対象を2 歳未満に限定した場合も,コントロール群11 例(55 %)に
マッサージ群17 例(85 %)と,排尿時間に有意差がみられた.
以上により,乳幼児,特に2 歳未満児への仙骨部マッサージ刺激は排尿を促し,30 分以内に
80 %以上の確率で採尿できることが示唆されたと報告している.
足裏マッサージと排尿障害
Siev-Ner ら 5)は,多発性硬化症患者の症候に対するリフレクソロジーの治療効果を検討し
た.対象は71 例で,対象群(足部の指圧とふくらはぎのマッサージを行った群)とコントロ
ール群(ふくらはぎのマッサージのみの群)をランダムに分け,11 週間施術を行った.その
結果,対象群では異常感覚,排尿障害,けいれんにおいて有意な改善を示したことを報告して
いる.
結石の疼痛発作に対する指圧の効果
戸澤ら 6)は,結石疼痛発作に対する日常臨床での処置方法を98 名の泌尿器科医にアンケー
ト調査し,その結果をもとに新たなプロトコールを作成し46 例の結石疼痛に対する効果を検
証した.その結果,指圧は症例数が少ないながらも非常に効果が高かったと報告している.
石井ら 7)は,尿管結石のために疝痛発作で来院した63 例に,圧痛のある経穴に指圧を行い,
けいもん
鎮痛効果を検討した.圧痛のある経穴は志室 1 0 0 %,腎兪 3 7 . 5 %,大腸兪 3 6 . 4 %,京門
い そう
33.3 %,胃倉 33.4 %であった.すべての症例に圧痛を示した志室を指圧すると,瞬時に疝痛
発作が治まり,軽度の鈍痛を残すのみとなり著効を示した.指圧は西洋医学の注射よりも,尿
管結石の疝痛発作には即効性があり,鎮痛効果が高く,副作用がまったく認められなかったと
報告している.
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ツボに対する鍼刺激による効果
北小路は 8),前立腺肥大症(第Ⅰ期)患者24 例を対象に,左右の「中
」に鍼治療を行い,
平均尿流率が鍼治療前に比べ,鍼治療直後は有意に改善し,排尿症状(IPSS ・夜間頻尿)に
ついては鍼治療終了後に有意な症状改善がみられたと報告している 3).
手塚は 9),健康なボランティア20 例を対象に,
「中極」への鍼刺激が尿噴流に及ぼす影響につ
いて超音波カラードップラ法にて検討した.その結果,尿噴流の出現頻度,最高速流は鍼刺激群
で増大したが,無刺激コントロール群では変化がなかった.持続時間は鍼刺激群で短縮がみられ
たことより,
「中極」への鍼刺激は尿管機能に作用し,尿管蠕動運動を促進させると報告してい
る.
佐々木ら 10)は,健康な成人男子30 例を対象に,
「三陰交」への鍼通電が,尿管より膀胱内へ
の尿噴流に与える効果を超音波カラードップラで観察した.方法は鍼通電前1 回,鍼通電中2
回,鍼通電後1 回,おのおの5 分間の左右の尿管画像から噴出される尿噴流の回数を測定した.
その結果,尿噴流の回数は鍼通電中に有意な増加を認めたと報告している.
Chang 11)は,
「三陰交」への鍼治療が,女性の頻尿,尿切迫,排尿障害に効果的であったと
報告している.
鈴木は 12)腰部にある「腎兪」に対する鍼刺激が利尿作用をもたらすと報告している.
以上,
「排尿を促す」マッサージ・指圧の効果に関して臨床報告は少なく,今後さらなる検
討が必要であるが,現時点で明らかにされている施術の効果,体性−内臓反射機転によるメカ
ニズムから,機能障害による排尿困難や神経因性膀胱,前立腺肥大による排尿障害などを対象
として,下腿,下腹部,腰仙骨部への指圧やマッサージが適用できると考えられる.
排尿を促すケアとしての指圧の実施方法
知識
ここでは,主として指圧の実施方法について述べる.なお,マッサージの方法については前
号 13)を参照されたい.
指圧の意義 14)
指圧は,術者の手指・手掌など徒手で,患者の体表の一定部位を押圧して生体の変調を整え,
賦活させ,自然治癒力を高めて疾病の予防および治療,あるいは健康の保持増進に寄与する療
法である.
前号(Vol.9 No.3)でも述べたが,医療の原点は“手当て”である.指圧もマッサージと同
様に,身体への効果だけでなく,患者との触れ合いを通じて良好な患者−看護師関係を形成し
て心へのアプローチもできるという,心身両面からケアできる手段の一つである.
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指圧の方法 14,15)
基本操作
指圧は,母指,四指,手掌,母指球,小指球などを用いて,主として押圧により施術を行う
手技療法の一つである.指圧の基本操作は,
「触れる」
「押す」
「離す」の3 操作である.
「触れ方」は,
「軽く柔らかく触れる」のが基本である.それは,圧刺激に対する患者の抵抗
や,過敏反応を少なくし,心地のよい施術を行うためである.押し方はゆっくりと圧を加え
(漸増圧)
,離し方は逆にゆっくりと力を抜いて離す(漸減圧)ことが基本である.
効果的な指圧のポイントは,手(手のひら,指腹)を体の表面にぴったりと当て,手や指に
うまく体重を乗せること,および患者の呼吸に合わせて行うこと(息を吐くときに押し,息を
吸うときに力を抜く)である.
指圧の三原則
指圧は,ただ押せばいいという手技ではなく,以下の三原則がある.
①垂直圧の原則:施術部位に対して垂直に圧を加える.
②持続の原則:漸増的に圧を加えていき,ピークの圧を一定時間(通常は3 秒程度)持続させ
る.
③集中の原則:施術部位に術者の意識を集中させて指圧を行う.
これらの原則を守りながら,患者の反応によって圧の程度を定めることが大切である.目安
としては,患者が心地よい,もしくは痛いが気持ちよいと感ずる程度とする.
手技
ここでは主に排尿を促す場合に用いる手技を紹介する.
①母指圧迫:指圧の基本である.主にツボなどの反応点や治療点に圧を加えたいときに用いる
手技で,片手母指圧(笊)
,両手母指圧(笆)
,重ね母指圧(笳)がある.
片方の母指で押す.四指は支えとして,母指
の安定をはかる
笊 片手母指圧
両母指で同時に押す
笆 両手母指圧
片方の母指の上に,もう一方の母指を軽く重
ねて下の母指を安定させて,両母指で同時に
押す.このときの圧の加減は下になっている
母指が 7 割で,上になっている母指が 3 割く
らいの配分とする.片手母指で術者の指に負
担がかかる場合に用いる
笳 重ね母指圧
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片手で行う.5 本の指をそろえ,手掌全体で
押す
両手を重ねて行う.5 指をそろえてつけた片
方の手背に,もう一方の手掌を合わせて押す
笘 片手掌圧
笙 両手重ね掌圧
②手掌圧迫:手掌を用いる手技で,片手掌圧(笘)
,両手重ね掌圧(笙)などがある.背部,
腰臀部,下肢後面,腹部などに用いられる手技である.掌圧は大きな面積で押す
ので,当たりはソフトで心地よい.通常は母指圧迫の前に行う.心身の緊張を緩
める目的で行われることが多い.
排尿ケアに効果的なマッサージ・指圧の手技
知識
推奨
ケア
ここでは,看護師が「排尿困難」の入院患者に行う場合を想定して施術方法を紹介する.腰
部から下肢にかけて冷えている場合,温熱療
脾経
腎経
陰陵泉…脾
法を施術前に行うとよい.冷えたまま行うと
効果が低くなる.
指圧は,仰臥位(下腿内側)→側臥位(腰仙
骨部・下腿後側)→仰臥位(腹部)の順で行う.
三陰交…脾
湧泉…腎
下腿・足底部に対するアプローチ(仰
(笞)
臥位)
太谿…腎
施術部位(膝窩から踵までの下腿内側)に
手掌軽擦 13)
(手掌全体を患者の皮膚に密着させ,
照海…腎
やや圧を加えて患者の皮膚をゆっくりさする)
を軽く行う.下腿内側には太陰脾経,少陰腎
すいせん
水泉…腎
陰陵泉:脛骨内側の骨際,陥凹部.脛骨内側縁を擦上して指の止まるところ
三陰交:脛骨の後縁で内果の指4本分上方
太 谿:内果とアキレス腱の間で後脛骨動脈の拍動が触れる部
照 海:内果下縁から指2本分下方
水 泉:太谿から指2本分下方
湧 泉:足底の土踏まずの中で第2・3趾の間.趾を曲げるとへの字にしわが寄る部
笞 下腿内側と足底のツボ(経穴)
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経という経絡が走行しており,排尿とのかか
わりが深いツボ(太谿,照海,三陰交,陰陵
泉など)がある.それらのツボに母指圧迫を
行う.母指圧迫(重ね母指圧迫でもよい)は
片方ずつ,または両側同時に行う.加えて足
底部のツボ(湧泉)へ重ね母指圧迫を行うと
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
膝窩部
1点目
三焦兪
志室
腎兪
膀胱兪
次 ,第2後仙骨孔
8点目
中 ,第3後仙骨孔
膀胱経
下鞁後側部
三焦兪:第1・2腰椎棘突起間の指2本分外側
腎 兪:第2・3腰椎棘突起間の指2本分外側
志 室:第2・3腰椎棘突起間の指4本分外側
次 :第2後仙骨孔
中 :第3後仙骨孔
膀胱兪:第2・3仙骨棘突起間の高さで仙骨外縁
膝窩よりかかとの間を8か所ほどの
間隔で片手掌圧を行う
笨 下腿後面の掌圧
任脈
笵 腰部から仙骨部のツボ(経穴)
へそ
よい.ツボへの母指圧迫は3 回繰り返す.
気海
腰仙骨部・下腿後面に対するアプ
(笵,笨)
ローチ(側臥位)
すいどう
水道
関元
腰仙骨部への手掌軽擦を軽く行う.次
に腰仙骨部のツボ(腎兪・志室・膀胱
兪・次
・中
曲骨
中極
)に母指圧迫を行う.そ
の際,指圧を行う反対側の手で骨盤部を
気海:臍と恥骨上縁を結んだ線上で臍から指2本分下
把持して固定して行う(3 回繰り返す)
. 関元:臍と恥骨上縁を結んだ線上で臍から指4本分下
母指圧迫の強さは,
「痛いが気持ちがよ 中極:臍と恥骨上縁を結んだ線上で関元から指2本分下
い」程度の刺激量を目安に行う.
曲骨:恥骨上縁の正中
水道:関元から指2本分外側
続いて下腿後面への手掌軽擦を行い, 笶 腹部のツボ(経穴)
片手掌圧を行う.その場合も指圧を行う
反対側の手で下腿部外側を把持して固定して行うとよい.下腿後側には足の太陽膀胱経が走行
している.
片方が終わったら反対側を同じように施術する.
腹部に対するアプローチ(仰臥位)
(笶)
最後は,再び仰臥位とし,腹部への施術を行う.下腹部に手掌軽擦を行う(なで下ろすよう
に行う)
.次いで,臍の下から恥骨の方向に向かって,両手重ね掌圧を行う.1 回の指圧で3 秒
きょっこつ
の持続的な圧を加えて行う.同部位には任脈が走行し,関元,中極,曲 骨などのツボがある.
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これらのツボは,排尿に効果的とされている.
腹部に対する施術は,不快感を引き起こす場合があるので,決して強く施術してはならない.
また,常に患者とコミュニケーションをとりながら行う.
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医学中央雑誌
キーワード:排尿,排尿障害,尿閉,残尿,マッサージ,指圧,鍼(ハリ)
,経穴
蘆 PubMed
キーワード: urination, dysuria, residual urine, urinary retention, massage, acupuncture
参考文献
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