説明活動と専門知識の有無による創造性への影響の検討 A Study on Effects of Explanation Activities and Expert Knowledge on Creative Idea Generation 柴田 麻千子, 梅田 恭子 Machiko SHIBATA, Kyoko UMEDA 愛知教育大学教育学部 Faculty of Education, Aichi University of Education Email: [email protected] あらまし:これまでの研究によれば,創造性は実用性と独創性の二つの観点から評価され,説明活動よ りアイデア生成の際の実用性の観点が維持されること,専門知識を有さない人は,独創性が高く評価さ れる事が分かっている.そこで,プログラミング知識のある学生とない学生に同一のプログラミング課 題を解いてもらう実験を行い,プログラミングにおける説明活動と専門知識の有無による創造性の影響 を検討した. キーワード:創造的アイデア生成,説明活動,専門知識 1. はじめに 創造性に関する研究は 1950 年代から増え始め,さ まざまな手法の研究が行われているが,そのひとつ の手法として創造的認知アプローチと呼ばれるもの がある(1).この手法を用いた創造的アイデア生成に 関する以下の 2 つの実験がある. 1.1 創造的アイデア生成における説明活動の効果 神崎・三輪(1)は説明活動群と非説明活動群がそれ ぞれ創造的なアイデア生成に与える影響についての 実験的検討を行った.その結果,独創性においては 両者とも同程度に評価得点が上昇しており,創造的 アイデア生成における説明活動の効果を認めること はなかった.一方,実用性において,非説明活動群 は独創的なアイデアを生成しようとすると実用性が 下がる傾向があり,説明活動群は実用性を保持して いることが確認されている. 1.2 専門知識の有無のアイデア生成における影響 Kristensson, Gustafsson, & Archer(2)と植田・鷲田・ 有田・清水(3)は,一般的なユーザが「創造的な」能 力をもっているのかどうかを検証した.生成したア イデアを評定者に Originality, Value, Realization の 3 項目に関して評定させたところ,一般的なユーザが 出したアイデアの Originality,Value の評点が専門家 の出したアイデアの評点よりも有意に高かった.ま た,専門家かそうではないかという「個人特性」と 先行する「情報」の両方が重要である可能性を示し た. として,実用性の保持に効果のあった説明活動と独 創性に効果のあった専門的知識の有無を組み合わせ ることで成り立つのかを明らかにする.尚,本研究 では課題としてプログラミングの仕様書作成を選択 した. 3. 実験方法 被験者は以下の各群 15 人ずつ計 90 人で行った. 3.1 要因 1:説明活動の有無 生成したアイデアを口頭で説明する説明活動群と, 頭の中でのみで新たなアイデアを考える非説明活動 群の 2 群に分けた. 3.2 要因 2:専門知識の有無 文系学生・理系学生・プログラミング経験学生の 3 群で検討した. 3.3 課題 TopCoder(4) の過去問を改良したものを使った(図 1). 2つの異なって配置されたカード(3×3)がある。 ①のカードの色の配置を自由に動かせたとき②の カードの色と同じ配置にすることができるか・でき ないかのプログラムを考えて見ましょう。様々なカ ード配置が渡されても使えるものとします。 2. 本研究の目的 以上の先行研究によれば,説明活動により実用性 が保たれ,専門的知識のない人が先行情報を持って 生成したアイデアは独創性に優れていると示されて いる.そこで本研究では,実用性の保持と高い独創 性が共にある創造活動はないのかを探る.その 1 つ 図1 プログラミング課題 3.4 手順 被験者は次の手順で課題に取り組んだ. (1) 先行情報としてスクイーク (5)を用いたプログラ ミングの基礎概念を聞く. (2) 課題の 1 回目のプログラム作成(以下,プログ ラム①)を行う. (3) 説明活動群は説明を,非説明活動群は頭の中で 新たなアイデアを考える. (4) プログラム①の改良を行う(以下,プログラム ②). (5) 自己評価を行う. 3.5 評価 先行研究により創造性の具体的な評価として,独 創性と実用性の 2 点から評価することとした(1).本 研究では 2 名のプログラミング知識の豊富な評価者 に独創性(一般的によくある解答,見たことはないが 多くの人が思いつきそうである,見たことがなくほ とんどの人が思いつかなさそうである,誰も思いつ かない解答)・実用性(手間がかかる解答,手間が少 しかかる解答,手間があまりかからない解答,手間 がかからない解答)のそれぞれ 4 段階の基準で評価 してもらった.評価は他の評価者の意見に影響され ないように独立して行われ,2 名の評価の平均を採 用した.尚,被験者の解答パターンは 5 つに分類さ れた.また,独創性の評価が他者評価によって埋も れてしまうことを防ぐため,被験者による自己評価 も行った. 4. 仮説 文系学生が説明活動を伴うアイデア生成を行った 場合,独創性・実用性ともに他の被験者群よりも高 い評価となり,プログラミング知識のある学生が説 明活動を伴わないアイデア生成を行った場合,独創 性・実用性ともに低い評価となると考えた. 5. 結果 説明活動と専門知識の交互作用はみられず,説明 活動は,実用性・独創性ともに主効果が見られなか った.専門的知識の有無においては有意差がみられ たので以下に述べる. 5.1 実用性への影響 専門知識の有無の主効果(F(1,84)=3.45, p<.05)が見 られた.文系学生が理系学生よりも高く評価されて いた (表 1) . 実用性 文系学生 理系学生 プログラミング 学生 プログラム① 2.98 2.15 2.43 プログラム② 3.08 2.58 2.65 平均 3.03 2.37 2.54 表1 実用性の平均点 5.2 独創性への影響 専門知識の有無とプログラム①と②に有意な差 (F(2,84)= 5.26, p<.01)が見られた.特に文系学生は, プログラム①において,理系・プログラミング知識 のある学生より有意に低い評価ではあったが,プロ グラム②では文系学生,理系学生,プログラミング 知識のある学生の間には有意差が見られなかった (表 2). 独創性 文系学生 1.53 プログラム① プログラム② 表2 理系学生 プログラミング 学生 1.87 1.83 1.77 1.82 独創性の平均点 1.63 6. 考察 以上より実用性,独創性ともに文系学生が良い結 果であることがわかる.その理由として,まず,文 系学生の社会的志向(3)により実用性が理系学生より も有意に高かったのではないかと考える.また独創 性においてプログラミング知識がないゆえに自由な 発想に広げることができたと考えられる.一方,プ ログラミング学生は専門知識あるゆえ,また日頃, 出来上がったプログラムを改善するという訓練を受 けているため,プログラミング①の改善点をプログ ラミング②では考える傾向にあるのではないかと考 える.このことより,文系学生はプログラミングに おいて実用性も高く,独創性も高いアイデア生成を 行えるのではないだろうか. 7. 今後の課題 本実験では,説明活動の効果がみられなかった. この原因として,被験者の群別の分け方にあると考 える.実験者により,ランダムに被験者を分けたの ではあるが,結果として偏りができてしまった.事 前にアイデアを問う課題を被験者に課し,被験者群 別に評価が平均になるように,分けた後に実験を行 うことで,説明活動による効果も見られるのではな いかと考えられる. 参考文献 (1) 神崎・三輪(2010) 創造活動における説明の効果 に関する実験的検討,認知科学 17(3) 589-598 (2) Kristensson, Gustafsson, & Archer, (2004) Harnessing the creative potential among users. The Journal of Product Innovation Management, 21 4-14 (3) 植田・鷲田・有田・清水(2010) イノベーション のためのアイデア生成における情報と認知特性 の役割,認知科学 17(3) 611-634 (4) TopCoder:http://www.topcoder.com/ (5) スクイーク:http://etoys.jp/squeak/squeak.html
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