まちづくり・地域づくり部門 No.19 市民参加による茅葺き屋根施工と環境保全 国営明石海峡公園事務所 工務課 建築設備係長 前田保雄 1 はじめに 国営公園には、2つの種類があります。ひとつは、都道府県の範囲を超えた目的のため につくる公園で「イ号公園」といいます。もうひとつは、国の記念事業や日本固有の文化遺 産を保存・活用するための公園で「ロ号公園」と呼ばれています。 国営明石海峡公園は「イ号公園」であり、淡路島にある『淡路地区』と神戸市北区山田町 にある『神戸地区』より構成されています。 今回施工した場所は、神戸地区内の4つのゾーン(中心ゾーン、野遊びゾーン、林間宿 泊ゾーン、棚田ゾーン)のうち、過去・現在の伝統的な里山を保全、継承していく棚田ゾー ンにあります。 工事概要は、築350年近い古民家の解体材を用いた再築であり、本物の里山空間を構 成する中心的役割の母屋(おもや)として屋根完成までを市民参加で実施するものです。 神戸地区 4つのゾーン 2 具体的取り組み 2.1 茅葺き材料の存在 遠い過去から、人々の住む家はその土地で調達できる材料でつくられてきました。石や 木、竹、草などです。屋根に使われる草(ススキやヨシ、稲ワラなど)を総称して茅(かや) と呼んでいます。稲作の米を取った後に稲ワラが発生しますし、川原ではヨシが群生して います。ススキは、痩せた土地で育ち、肥料もいらず、刈っても刈っても育ちます。乾燥に も強く、のり面では土砂の流出も防ぎます。竹も、成長が早く、手間の掛からない建築材料 です。また、屋根材としての使命を終えて廃棄される時も、竹は炭になり、茅は腐らせて畑 の肥料となります。 2.2工事開始まで 工事開始に先駆けて、茅葺き屋根はその集落に住む人々の共同作業であったことを考 え、建設のプロだけでなく、素人でも参加できる部分を広く一般公募による実施としました。 竹、ヨシ、ススキの調達と竹組み、ススキ葺き、茅の散髪(成形)の参加者をポスターやH P、地域紙、記者発表などで広報しながら、募集作業を行いました。 -1- まちづくり・地域づくり部門 No.19 2.3施工段階では 一般市民の方々は、小学生から70歳代まで幅広い層が参加していただくこととなりまし た。まず、材料の調達ですが、園内の竹、淀川河川敷のヨシ、須磨区のニュータウン内の ススキ、園内のススキを刈り取りました。 竹採り ヨシ刈り 神戸地区 淀川河川公園 公園内にて 西中島地区にて ススキ刈り ススキ刈り 神戸市須磨区 神戸地区 団地内にて 公園内にて 茅葺きの実施では、安全管理には非常に気を遣い、素屋根(現場を全て覆う仮設屋根) を設置し、安全帯、命綱、ヘルメットの装着はもちろん、危険箇所の説明と心構えなどを聞 いていただきました。 実際に作業が始まると、自ら応募された方々だけあって、生き生きと楽しみながら、どんど ん工事は進んでいきました。 2.4サポート体制 市民参加実施日は全6日でしたが、賃金を支払わないボランティアであり、周辺に商店も 無いようなところですので、昼食は、現地での炊き出しを実施しました(1回目は弁当と味噌 汁のみ)。その炊き出しを公園のある藍那地区のみなさん(団体名:あいな茶屋)にお願い し、その地区の材料、味(鹿や猪)を堪能することができました。 心休まるひととき -2- まちづくり・地域づくり部門 No.19 2.5実施結果 市民参加の結果としては、延べ参加者約350名、ヨシ24〆(5尺締め)、ススキ72〆(5尺 締め)です。全体必要量からすれば1割程度の量ですが、参加された方々は「自分が刈っ た材で、自分で葺いた」ことを絶対に忘れないでしょうし、公園が開園した時に良き公園サ ポーターとして、来園していただけることを確信しています。 3 環境保全について 3.1公園計画上の意義 里山の自然や景観、歴史文化の源は、永年にわたり人が土地・自然と関わりを持って生 きてきたことにあります。神戸地区では、昔の里山の景観を外観のみ再現するのではなく、 人が自然と関わり合う里山の活動そのものを公園の活動と位置づけています。その仕組み として、土地の材料で家を建て、山で木を切り薪にしたり、水を溜め田畑を耕し食べ物をつ くるという里山の営み、それによって生み出されるもの・自然・景観を受け、本物の里山空 間をつくることを目指しています。 今回、市民参加により茅葺き屋根を施工したことは、 ① 昔の里山の景観として、私たちに馴染みの深い茅葺きの景観を再現すること ② 里山に存在していた、人と自然の関わりの一つを将来の公園利用者である一般の 方々に体験してもらえたこと ③ 本物の里山空間を作るためには、茅葺きに限らず公園の整備や管理に市民の参 加が必要であり、本公園のこうした整備の方法を先行的に実施するものであること という意義があるものと考えます。また、将来は里山の伝統的技術をはじめ、バイオマス技 術、自然エネルギーの利用などエコロジカルな技術の導入と展示を行う公園の中で、茅葺 き民家はシンボル的存在であり、各種プログラムを実施することによって、環境学習(体験 学習)の拠点となります。 3.2地球環境への寄与 今回茅葺き民家に使用されている材料のほとんどは、植物(木、竹、草)であり、それらの 成長過程では二酸化炭素が取り込まれています。永年使用されて廃棄物となるときに出る 二酸化炭素も取り込んだ量と変わりません。それに大気を浄化するというおまけ付きです。 3R(リデュース、リユース、リサイクル)という言葉がありますが、必要なものを必要な部分 だけ交換できる(発生抑制)し、屋根葺き替え時、程度のいい茅はまた屋根になる(再使 用)し、腐った茅は肥料になります(再利用)。ゴミは全く出ません。 3.3学習結果の実践 環境保全については、今回の体験会の中で、パネルやチラシ等でいろいろな角度から 参加者に知識として学んでもらいました。その実践は今後の公園の整備や管理に参加し てもらいながら、また、将来の公園利用者として体験してもらいたいと考えています。 つまり、今回学んだことをまた、公園にきてもらって実践してもらい、環境学習を未来にも -3- まちづくり・地域づくり部門 No.19 つなげていきたいと考えています。 4 全体のまとめ 4.1まちづくり・地域づくり 神戸市は日本一茅葺き民家が多いまちです(900∼1000棟)。 今回参加されたみなさんが、体験・学習された茅葺きの良さをより多くの人々に伝えるこ と、また、公園サイドでもどんどん情報を発信し、体験してもらい、茅葺き屋根を理解しても らうことで、神戸から茅葺き民家を減らさない、そして、その屋根の維持に関連して、地球 環境に大いに貢献してもらい、より多くの人々が携わることで、人の輪を強く広くすることが できると思います。併せて、材料提供の場としての里山がより良いものになるでしょう。 4.2本物志向 宮大工の小川三夫氏も語っておられましたが、建物に使えなくなった木は削って家具に したり、着物は雑巾にしたり、最後は焚きつけにしたりという「本物を使い切る」精神を大事 にしていきたいと思います。今回の工事でも古木材を大事に半分は使用しています。 4.3今後の課題と進むべき道 茅葺き民家は建てて終わりというものではありません。何年かに一度は部分補修が発生 するでしょうし、北面の屋根は15年くらいで葺き替える可能性があります。その為には、毎 年、茅刈りを継続しストックする、茅場(ススキを毎年刈っているところ)を充実させておくな どが必要です。そして、一番大事な人材を育てることも進めていかなければなりません。 当公園では、今回の茅葺き民家が第1号ですが、これから10棟あまり建設予定ですの で、茅をはじめとする里山の本物の循環を計画的に進める予定です。 茅を刈り、茅を葺くことで、昔の里山の文化を知り、環境を守り、あらゆる物の循環を実践 していく中で、里山の知恵をいかに現代社会に生かしていくか、里山公園は教育の場と研 究の場として、新しい公園のあり方を模索していきます。 屋根まで完成しました 子ども向けチラシも作成 -4-
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