JIA 建築家 賠償責任保険 事故事例集 2010年版 編 集 社団法人 発 行 日本建築家協会 業務委員会 株式会社 建 築 家 会 館 〒 150−0001 東京都渋谷区神宮前2−3−16 TEL (03)3401−6281 FAX (03)3401−8010 2010年2月発行(非売品) は じ め に 中田準一 (建築家賠償責任保険審議会委員長) 建築家賠償責任保険は、1971年に設立し40年近く経過しました。専門家の賠償保険としては、 医師賠償保険の1963年に次いで古く、弁護士賠償保険(1976年)と共に専門家の主要保険の一 つといわれています。 YYYYYYYYYY YYYYYYYYYY 我々の先輩たちは、建築家の自立を支える仕組みとして、建築家自身の健康保持のための健 YYYYYYYYYYYY 本書は最近の事故例をもとに、現行約款・ 規定に準拠した「JIA建築家賠償責任保険 事故事例集(2010年版) 」として発行したも のです。 過去に複数回発行の事例集等には、一部現 行約款・規定に準拠しない事例があります ので廃棄をお願いします。 康保険を、継続的生活の安定のために厚生年金保険を、社会的責任を果たせるために建築家賠 償責任保険の設立に奔走したと聞いています。 この保険で、社会的責任を果たすことのできた建築家は何人もいらっしゃいます。近年、事 故は増えています。毎月の審議会に5∼6件ほど上程され、年間70件におよぶ事故が起きて います。 事故の事例から見ると、事故の発生の要因のひとつに、建物を作り上げていく経験の伝達が うまくいっていないことがうかがえます。社会全体がデジタル化していく中で、建築の世界も 例外ではなく、情報の入手は容易になった反面、長年の経験を通して培われた知恵が、若い世 代に伝達されにくく、そのギャップのところで事故の多くが発生しているように思われます。 誰もが事故を経験するわけではないのですが、事故の設計者に与える精神的ダメージは大きく、 経済的負担を伴います。事故はケアレスミスから、予見不可能なものまで千差万別です。 建 築家賠償責任保険で扱った事故の内容も、社会の変化に伴い変わってきています。近年では、 品確法を反映しての共同住宅の遮音性の問題に加え、設備上の機能不具合など、以前には見ら れなかった事故に対しても保険が適用されるようになり、その範囲が広がってきております。 建築家賠償責任保険で扱った事故を、個人情報の問題を配慮して整理し、設計者にフィードバ ックすることで、事故の内容を経験として共有し、事故の発生を未然に防げればと願い、最近 の事故例をもとに、この冊子をまとめました。 YYYYYY あらためて、事故の事例から以下のことを学びました。 建築は、「経験工学」であること。 事故は、自然の摂理に反したところで発生すること。 事故を防ぐには、素材の持つ性状を正面から受け止め、基本的作法に 基づいて組み立てること。 建築家賠償責任保険は、建築家全体で建築家自身の業務の社会的責任を果たす役割を担って います。建築家賠償責任保険の加入率は、未だJIA会員事務所の4割に達せず、先輩たちの思い が伝わっていないと反省しています。今後様々な活動を通じて、全員加入が達成できるように 努力したいと思います。皆様のご支援ご協力をお願いします。 1 YYYYYY 「ケンバイ」お支払内容の分析について ケンバイの事故はなぜ増えているのか? 過去の「ケンバイ」お支払い事故を事故内容別に分析した結果は以下のとおりです。 一番多いのは「水関係(結露・漏水・浸水など)」で、続いて「構造」「地盤」「設備(空調・給排水 など)」と続いています。 事故原因別割合 JIA 業務委員会(ケンバイWG) 26% 36% 自分だけは事故を起こさない、事故は他人事だ、と考えている建築家も多いと思います。し かし、事故を起こした時に保険がなかった場合の不安は無いのでしょうか。 JIAの建築家賠償責任保険(ケンバイ)の存在意義は、「不測の事故に対し、責任を持って その他 構造 対処できる態勢を整えておくことが建築家の責任」であると考えます。 設計ミスによる事故は増え続ける一方です。 とくに最近起きる事故の主な要因は、JIA会員とは思えないものが多いのが現状です。 事故例の多くとしては、以下のことに起因すると思われます。 ①設計者および施工者の経験不足と想像力の欠如 ②関係者相互の情報交換・意思疎通の不足 ③調査・情報不足 ④ケアレスミス 水関係 (浸水・ 結露など) 15% 設備 (空調・ 地盤 給排水など) 11% 12% <主な事例>お支払の対象となった各事故内容の主な原因です。 水関連の事故(結露・漏水などの事故)について 設計者は先輩たちの背中を見ながら設計技術を学び、建築現場においては先輩の指導を受け ながら監理を経験し、総合的に設計の「コツ」を修得してきました。しかし、最近は情報化時 代への移行が進み、あらゆる情報が容易に入手できるようになりました。それにより、誰でも 簡単に建築を構成する要素、材料の組成などをよく理解しないまま、ディテールの大事さに気 づかないで設計をすることができてしまうのではないでしょうか。 施工者側も熟達した職人の高齢化による引退、および、今日の経済状況下で、建設業界全体 がスリム化を図ってきたため人的能力の低下があります。以前であれば、不的確な設計図を見 た職人の親方は、これでは仕事にならないと文句を言ってきて、あるべき正しい納まりを提案 してくれたものです。ところが、最近の事故例を見るとこの納まりで施工をすれば事故になる というケースでもそのまま施工して事故に至ったという例も少なくありません。想像力を少し でも働かせてくれていれば大事に至らなかったと思われるケースがほとんどです。 ケンバイの事故申請で一番多いのは、上記の要因が重なった「単純なエラーです!」。 事故が起きてから解決を図るまでに要する労力・費用は大変なものになります。クレーム処 理に使う労力を設計時点に使う努力を惜しまないことです。 主な 事故原因 ●屋根廻りの防水材の選択あやまりによる雨漏り事故 ●敷地周辺の排水管レベルと排水能力の確認不足による浸水事故 ●天井裏の換気不足、断熱不足による結露事故 構造の事故について 主な 事故原因 ●単純な構造計算ミスによる事故 ●木構造のたわみ事故(コンクリートや鉄骨と組み合わせたハイブリット構造におい て、構造計算時に木材が受ける影響(温度・湿度など)を加味していない) 地盤関連の事故について 主な 事故原因 ●軟弱地盤の剛性不足に起因して、交通振動により建物が損傷 ●造成地の地盤沈下に起因して、建物が不等沈下 設備関連(空調・給排水・電気など)の事故について 主な 事故原因 ●用途と面積からの概算負荷のみで空調機能力を決定、特殊性への配慮不足により容 量不足となった。(空調設備) ●地方自治体で定められている基準を確認せず、施工業者まかせにしたため、基準に あわせるための改修が必要となった。(給排水設備) 2 3 建築家 特 約 支払われた事例 支払われた事例 結露への配慮不足による天井材腐食 材料選定ミスによるウッドデッキ損壊 保険金が支払われた事例① 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われた事例② 建物の概要 ●完成後の用途:共同住宅および公益施設(屋内プール部分) ●延床面積:64,510㎡ ●構造:SRC造一部S造 地上31階建/地下2階(屋内プールは6階部分) ●総工事費:143億円 事故の概要 ●完成後の用途:小学校増改築(屋外ウッドデッキ部分) ●延床面積:8,180㎡ ●構造:RC造 地上4階建 ●総工事費:15億円 事故の概要 竣工引渡後 3年半 複合施設内の「屋内プール」の屋根裏天井において結露して、天井材(構造部材)の腐食(物理的滅 失・損傷)が発生した。 事故の原因 竣工引渡後 1年半 屋外ウッドデッキ材の一部が湿気と熱で膨張し、部材が損壊(物理的滅失・損傷)した。 建物際もウッドデッキ材が膨張したため、サッシや防水を傷つけた。 事故の原因 設計の配慮不足、取扱説明不足、管理者の確認不足 材料選定およびディテールミス ●プール設計に対する配慮不足(高湿度による結露予防のための換気方法など) ●設計図に発泡ウレタンの吹き付け、断熱材の記載がなかったこと ●施工業者がこの部分について施設管理者に対して取扱い説明をしていなかった。 ●プール管理者:定期的な確認を怠った。 ●ウッドデッキ材の選定にあたって、熱・湿度による膨張の有無を十分検討していなかったこと。 ●材料間の目地幅は、児童の足が引っかからないようにすることを最優先として、材料の伸縮を考慮 した十分なクリアランスを設けなかった。 ●ビスにより固定したため伸縮でビスが破断した。固定方法も伸縮に対するスライドが出来るように するべきであった。 ●施工ミス:熱影響による材料の伸縮を全く配慮せず施工した責任。 考慮すべきだった点 プール、浴室などの天井裏に対する換気方法、湿気対策、結露対策の検討をして断熱材施工を設計 で配慮すべき。 高湿度、塩素ガスが通常以上に存在する空間における耐久性の材料選択配慮不足。 施設管理者に換気などの維持管理方法について丁寧な取扱い説明をしていない。 補 修 ●材料メーカーもパンフレット等に注意喚起の記載が不十分だった。 考慮すべきだった点 このウッドデッキは木と合成樹脂の合成材で熱伸縮が天然木材に比べて非常に大きかった。そのた め、熱伸縮による挙動吸収を配慮すべきところを全箇所ビスで固定した。 補修は固定金物をスライドタイプに変更して施工した。最初からこのような配慮があればよかった。 腐食した天井材(構造部材)を撤去交換し、結露対策で断熱材の吹き付け工事を実施した。 (工事費:約4,900万円) 補 修 ウッドデッキを撤去し、再施工をした。(工事費:約2,100万円) 支払われた保険金 支払われた保険金 補修費用:約4,900万円のうち設計責任として約2,700万円を認定した。 (構造部材交換に要した費用) (その他費用:約2,200万円は施工業者責任、建物管理者と発注者で負担した) 補修費用:約2,100万円のうち設計責任として約700万円を認定した。 (その他費用:約1,400万円はメーカー責任(メーカーがウッドデッキ代金を負担)、施工業者責任が 加入していた補償金額(保険金額)が2,000万円だったため、支払保険金は2,000万円となった。 (設計責任として認定された、残りの700万円は設計事務所負担。) 問われた) 支払保険金は約660万円。(設計責任額:約700万円×縮小支払割合95%) 4 5 支払われた事例 支払われた事例 躯体断面配筋不足による垂れ下がり・亀裂事故 雨水止水設計ミスによる漏水 建築家 特 約 保険金が支払われた事例③ 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われた事例④ 建物の概要 ●完成後の用途:自動車販売会社 ●延床面積:1,328㎡ ●構造:鉄筋コンクリート2階建(屋上) ●総工事費:1億円 ●完成後の用途:分譲マンション ●延床面積:2,804㎡ ●構造:鉄筋コンクリート造 地上8階建 ●総工事費:4億円 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 6ヶ月 2階床スラブおよび屋根片持部分の躯体断面配筋不足により以下の物理的滅失・損傷が発生した。 ①床先端が下がりサッシをたわませた。 ②たわみによりサッシ面が傾斜し、開閉不能 ③床仕上面の傾きおよび亀裂 ④天井および垂れ壁が破損 竣工引渡後 1ヶ月 降雨時に廊下エキスパンションジョイント部より漏水が発生し、エレベーター内部と居住部壁面に雨 水が浸入し、内部壁面等が損傷(物理的滅失・損傷)した。 事故の原因 雨水止水設計での配慮不足 ●エキスパンション部の排水・漏水チェックを怠っていた。 事故の原因 ●2階スラブおよび屋上スラブ片持部分に梁を使用しないでスラブだけで持たせようとし、スラブ自 体の厚さも不十分だった。 考慮すべきだった点 エキスパンションを設ける場合には漏水に対して十分な配慮をし、漏水を防ぐ必要があった。 事故発生後、施工上のミスとして、施工者にエキスパンションジョイント部分を手直しさせていた 考慮すべきだった点 が、これも不十分であった。 強度に対するチェックが全くされていなかった。 一旦は鉄骨補強しているがこれも不十分であり、もっとしっかりとした補強をすべきであった。 補 修 エキスパンション部を抱き込むように全面改修(延べ105m)した。 (工事費:約370万円) 補 修 2階スラブ、屋根片持部先端の壁および梁状部分の補強およびサポートの施工とサッシ交換、床仕上 不陸・天井・垂れ壁の修復を実施した。(補修費用:約960万円) 支払われた保険金 補修費用:約370万円を全額設計責任として認定した。 支払われた保険金 補修費用:約960万円を全額設計責任として認定した。 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が10万円だったため、支払保険金は360万円 (370万円−10万円)。 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が30万円だったため、支払保険金は930万円 (960万円−30万円)。 6 7 建築家 特 約 支払われた事例 支払われた事例 地盤調査不足による傾斜事故 雪荷重配慮不足による軒樋の全壊 保険金が支払われた事例⑤ 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われた事例⑥ 建物の概要 ●完成後の用途:学校校舎(トイレ) ●延床面積:1,392㎡ ●構造:鉄筋コンクリート 地上4階建 ●総工事費:2,000万円 ●完成後の用途:倉庫 ●延床面積:3,035㎡ ●構造:鉄骨造 地上2階建 ●総工事費:2億円 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 4年1ヶ月 盛土部分の校舎に付属して建てられていたトイレが傾いた。(物理的滅失・損傷) 事故の原因 竣工引渡後 6ヶ月 2日間で約50cmの積雪があり、その雪の重さによって倉庫の軒樋が全壊した。(物理的滅失・損傷) 事故の原因 地盤調査不足 屋根強度設計での配慮不足 ●当該学校施設は、台地を造成したところにあり、主な校舎は切土部分(地耐力25ton/㎡以上ある) に建てられている。今回事故が発生した当該建物は、造成前の「沢」の部分、いわゆる盛土された ところ(地耐力2ton/㎡程度)に建てられているが、切土部分であるものと考えて設計してしまっ た。 ●軒樋の大きさを幅250㎜,高さ200㎜,受金物を厚さ3.2㎜,幅45㎜,間隔600㎜として設計しており、屋根 こう配の延長線上より軒樋の先端位置が高く、雪による側圧が大きかった。 ●雪止め位置が軒先より1.3mと深い位置にあったため、雪の巻き込み現象を生じた。 ●軒樋の幅が大きすぎ雪荷重を受ける結果となった。 考慮すべきだった点 考慮すべきだった点 設計者は、校舎の建設プロジェクトに参画して、地形、地盤については熟知していたが、当該建物 に係わる地盤についても問題ないと思い込み、県から入手した地盤データを十分チェックしないで 設計してしまった。 降雨・積雪に対して経験的な判断だけで設計しており、事前に強度計算をしておくべきだった。 補 修 (工事費:約300万円) ①雪の巻き込みに対して幅125㎜, 高さ125㎜に縮小した軒樋を設ける。 補 修 建物を嵩上げし、当該地盤にセメントミルクを注入し、地盤改良したうえでPC杭を打設した。 (工事費:約1,100万円) ②軒樋縮小にともなって堅樋を6箇所増設する。 ③軒樋の受金物位置に補強金物を取り付ける。 ④雪止め金物を軒先より300㎜の位置に増設する。 支払われた保険金 補修費用:約1,100万円のうち840万円を設計責任として認定した。 (地盤改良相当額は本来施主が負担すべき費用のため控除した。) 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が30万円であり、地盤・基礎の事故であるため、 支払保険金は、(840万円−30万円)×50%=405万円。 8 支払われた保険金 補修費用:約300万円を全額設計責任として認定した。 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が30万円だったため、支払保険金は270万円 (300万円−30万円)。 9 支払われた事例 支払われた事例 構造設計ミスによる構造クラック発生事故 給水設備設計ミスによる断水 建築家 特 約 保険金が支払われた事例⑦ 建物の概要 機能的不具合担保 保険金が支払われた事例⑧ 建物の概要 ●完成後の用途:屋内プール ●延床面積:4,500㎡ ●構造:鉄筋コンクリート一部鉄骨造 ●総工事費:11億円 ●完成後の用途:病院 ●延床面積:2,579㎡ ●構造:RC造 地上3階建 ●総工事費:4億円 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 14年9ヶ月 耐震基準値を満たしていない構造設計のため、柱、壁に通常では発生しえない構造クラックが多数発 生した。(物理的滅失・損傷) 竣工引渡後 1ヶ月 補給水量が利用水量に対して大幅に不足した結果、病院の受水槽が減水し断水となり、病院の医療行 為に影響を与えた。(機能的不具合事故) 事故の原因 事故の原因 構造設計(計算)ミス ●鉄骨屋根面の水平剛性不足。 ●主要片持ち柱の長期および短期(地震時)耐力不足。 ●片持ち梁の長期耐力不足。 ●施工中の変更に対する検証不足。 給水設備設計での算定・設定ミス ●引き込み給水管の水量不足(第一期工事完了時に設計水量が確保されているかどうかのチェックを 怠っており、実際の水量が設計水量を下回った) ●ピーク時利用水量の見込み違い(同一時間帯での利用集中量、使用方法が想定を上回った) ●施工ミス:事故原因を調査している段階で施工上の不具合も見つかった。 考慮すべきだった点 計算担当者に任せっぱなしではなく、細かくダブルチェックするべきであった。 施工の過程の中で数回の設計変更があり、その変更に基づく構造設計への反映が適切に処理されな いまま進めた事も事故原因の一つである。同一社内における建築設計・監理部門と構造設計部門と の打合せを徹底しておくべきであった。 補 修 考慮すべきだった点 引き込み給水管(第一期工事からの分岐管)の給水量のチェックがなされていなかった。継続事業 での単純ミス。 施主側から提示された想定使用量が常識より少なかったが、設計側で内容検討をせず、そのままの 数量で設計をしてしまった。設計者としての立場で施主からの指示が妥当かを検討するべきであっ た。 水平力を受けるために耐震壁を設置あるいは補強をする。剛床を仮定できるように屋根面に鉄骨ブレ ースを増設する。現在出ている構造クラックを補修する。 補 修 給水管を布設し直した。(工事費:約270万円) (工事費:約4,600万円) 支払われた保険金 支払われた保険金 補修費用:約2,640万円を設計責任として認定した。 (残りの約1,960万円は当初から必要であった躯体工事費用および鉄筋等の材料費のため賠償責任額と して認定されなかった。) 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が50万円だったため、支払保険金は約2,590万円 補修費用:約270万円のうち設計責任として約105万円を認定した。 (その他費用:約165万円は施工業者責任、施設管理者責任が問われた) 支払保険金は約90万円。(設計責任額:約105万円×縮小支払割合85%) (2,640万円−50万円)。 10 11 支払われた事例 支払われた事例 空調設備設計ミスによる漏水 雨水排水設備設計ミスによる漏水 機能的 不 具 合 担 保 保険金が支払われた事例⑨ 建物の概要 機能的不具合担保 保険金が支払われた事例⑩ 建物の概要 ●完成後の用途:老人福祉施設 ●延床面積:4,980㎡ ●構造:RC造 ●総工事費:1.7億円 ●完成後の用途:物流センター ●延床面積:27,000㎡ ●構造:S造(地上4階建) ●総工事費:20億円 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 1年8ヶ月 降雨時にテラスへ排出の床下空調機のドレンパンからドレンがあふれ漏水した。(機能的不具合事故) 竣工引渡後 3ヵ月 降雨時に建物周辺の雨水排水枡のマンホール蓋が持ち上がり雨水があふれ出す。 (機能的不具合事故) 事故の原因 事故の原因 ドレン配管設計ミス ●バルコニーの床上配管でテラスへ排出する設計の空調機のドレン配管の吐出口が、降雨時にバルコ ニーのルーフドレインが詰まったため、雨水が溜まり吐出口が水位以下に水没し、空調ドレン水を 排出できず、ドレンパンから溢れた。 考慮すべきだった点 雨水排水設計が不十分 ●広大な大屋根、庇(約5,000㎡と7,700㎡の2ゾーン)の排水を受けもつ屋外排水管の、雨水排水計算 をせず、敷地外接続まで一律150Φで施工されており、屋根、庇の雨水を飲み込めなかった。 補 修 空調機とドレン配管の放出口との間のレベル差を設ける必要があった。 施設管理者に、清掃方法などの維持管理方法について丁寧な取扱い説明を徹底すべきだった。 雨水計算をしなおし、屋根、庇の排水系統として、屋根排水系統を増設、敷地外接続径も150Φ→350Φ、 400Φに変更した。 (工事費:約1,200万円) 補 修 空調機とドレン配管吐出口との間に落差を確保するため、ドレン配管を下階へ立ち下げた。 (工事費:約370万円) 支払われた保険金 補修費用:約1,200万円のうち設計者責任として約360万円を認定した。 (残額840万円は協力設計事務所責任) 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が10万円だったため、支払保険金は約350万円 (360万円−10万円)。 支払われた保険金 補修費用:約370万円のうち設計者責任として約260万円を認定した。 (約110万円は施主の管理責任) 当時加入していたプランの自己負担額(免責金額)が50万円だったため、支払保険金は約210万円 (260万円−50万円)。 12 13 支払われた事例 支 払 わ れ な かった 事 例 ベランダの安全対策不足による転落事故 設計書の転記ミスによる構造基準未達 建築物に滅失もしくは損傷の発生しない身体障害担保追加 保険金が支払われた事例⑪ 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われなかった事例① 建物の概要 ●完成後の用途:保養施設(デッキ部分) ●延床面積:78㎡ ●構造:木造 地上1階建 ●総工事費:2,000万円 ●完成後の用途:マンション ●延床面積:16,633㎡ ●構造:RC造 地上13階建 ●総工事費:12億 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 1年11ヶ月 宿泊客が、家族風呂用の風呂から窓をあけて建物のメンテナンス用のベランダに出てしまい、夜で暗 かったこともあり手摺(上桟のみしか横材がなかった)の間から階下に落下し、後遺障害をおった。 竣工引渡後 1ヶ月 マンション2階の梁部分の鉄筋径が小さく、耐震機能が建築基準法の基準を満たさず、修復工事が必 要となった。(保有水平耐力が基準値を満たしていない) 事故の原因 事故の原因 設計図書作成ミス 手摺の設定ミス他 ●メンテナンス用のベランダとして設計していたのに、宿泊者(入浴客)が出入りできてしまう構造 になっていた(施錠機構のない開口部、メンテ用ベランダなので手摺安全対策不足)。 管理者責任としては、外部に出ることを禁止する表示をしていない。 ●構造計算書では2階部分の鉄筋径がD32と計算されたものの、設計図書ではD25と誤った記載をし たため 考慮すべきだった点 構造計算書から梁リストを作成する際、CADオペレーターが誤って他のリストをコピーしてしま った。ミスを発見できるシステムを構築する。 考慮すべきだった点 浴槽の幅、全幅に掃き出しタイプの窓があった。設計者は入浴客が外部に出るという設定をしてい なかったので単純なクレセント錠しかなかった。 通常はしっかりと施錠し、外に出られない設計にすべきだった。 仮に開けられたとしても、人が出られないくらいの開放隙間に限るような構造にしておく方がよか った。 手摺自体も人が転落しにくいよう配慮が必要であった。 施工する前に構造上の問題を見つけ出す体制ができていなかった。 補 修 補強工事を実施した。(工事費:約1.1億円) 支払われなかった理由 設計ミスによる賠償事故であったものの、建築家賠償責任保険の補償対象となる「建築物に物理的な 治療費等 滅失もしくは損傷(*)」が発生していないため、保険金が支払われなかった。 (*)「物理的な滅失もしくは損傷」とは、建築物が物理的に消失や損傷することをいう。 賠償請求額:約3,000万円 支払われた保険金 賠償請求額:約3,000万円のうち、設計責任として約1,900万円を認定した。 (残りの約1,200万円は、施設管理者責任が問われた) 支払保険金は、約1,800万円。(設計責任額:約1,900万円×縮小支払割合95%) 14 上記の事故事例は、今後「新オプションプラン」 (構造基準未達時の損害賠償をカバーする新特約)で補償することができます。 15 建築家 特 約 支 払 わ れ な かった 事 例 支 払 わ れ な かった 事 例 杭設計図ミスによる杭追加工事 台風による軒天井の破損 保険金が支払われなかった事例② 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われなかった事例③ 建物の概要 ●完成後の用途:店舗 ●延床面積:600㎡ ●構造:鉄骨造 S造5階建 ●総工事費:1.5億 ●完成後の用途:倉庫 ●延床面積:1,920㎡ ●構造:鉄骨造 RC・屋根S造 ●総工事費:1,000万円 事故の概要 事故の概要 協力会社の構造設計事務所が確認申請の協議をした際に、杭の径を100m/m大きくするよう指示され、 確認申請用図面・計算書を訂正差し替えた。その内容が元請の設計事務所に伝わってなかったため、設 計図書を訂正せず施工業者に渡し、杭の変更について指示をしなかった。 施工業者は杭打計画書を県に提出したが、旧図面であることを指摘された。 竣工引渡後:1年5ヶ月 台風による強風のため、軒天井が吹き上げられ、天井仕上げが落下した。 補 修 事故の原因 原形復旧および補強(工事費:約200万円) 協力構造設計事務所との連携ミス 支払われなかった理由 補 修 台風による強風は設計基準を超えた事故であり、設計ミスとはいえないため。 既に打設した700m/m2本は杭耐力が十分と判断されるため、700m/m1本を増杭した。 (工事費:約150万円) 支払われなかった理由 設計ミスによる賠償事故であったものの、建築家賠償責任保険の補償対象となる「建築物に物理的な 滅失もしくは損傷(*)」が発生していないため、保険金が支払われなかった。 (*)「物理的な滅失もしくは損傷」とは、建築物が物理的に消失や損傷することをいう。 上記の事故事例は、今後「新オプションプラン」 (構造基準未達時の損害賠償をカバーする新特約)で補償することができます。 16 17 建築家 特 約 支 払 わ れ な かった 事 例 支 払 わ れ な かった 事 例 監理における事故 結露・カビによる異臭 保険金が支払われなかった事例④ 建物の概要 建築家特約 保険金が支払われなかった事例⑤ 建物の概要 ●完成後の用途:スーパーマーケット ●延床面積:2,200㎡ ●構造:鉄骨造 地上2階建 ●総工事費:2.4億 ●完成後の用途:戸建住宅 ●延床面積:104㎡ ●構造:木造 地上2階建 ●総工事費:2,300万円 事故の概要 事故の概要 竣工引渡後 4年2ヶ月 屋上駐車場のコンクリートスラブにアスファルト防水を施工し、アスファルト舗装をしていたが、防 水層の膨れにより舗装材が持ち上がってしまった。 竣工引渡後 5ヶ月 基礎立ち上がり部分に床下換気口を設けないコンクリートベタ基礎としたが、通気がない空間となっ ていたため、結露・カビが発生して、室内に異臭が充満してしまった。 事故の原因 事故の原因 コンクリートの乾燥が不十分な時点での防水施工 換気・放熱への配慮不足 ●コンクリートの乾燥が不十分であるにもかかわらず、防水施工をした。 また、防水層に脱気装置を設けていないため、水蒸気の逃げ場がなく膨れが生じた。 ●コンクリートベタ基礎に床下換気口を設けず、土台パッキン部分も積雪や雨の跳ね返りを考慮し完 全にふさいでいるため、通気が全くなかった。 ●設計図書に温水ルームヒーターの温水配管の経路、仕様、放熱についての対処・検討・記載がなく、 温水配管からの放熱による温度差から結露が生じ、かびの発生にいたった。 補 修 脱気装置を取り付けた。(工事費:約90万円) 補 修 床下換気設備を取り付けた。(工事費:約250万円) 支払われなかった理由 コンクリートの乾燥が不十分な状態で防水をした施工業者、防水業者の責任であり、設計監理責任は ないと判断された。 支払われなかった理由 設計ミスによる賠償事故であったものの、建築家賠償責任保険の補償対象となる「建築物に物理的な 滅失もしくは損傷(*)」が発生していないため、保険金が支払われなかった。 (*)「物理的な滅失もしくは損傷」とは、建築物が物理的に消失や損傷することをいい、汚損(カ ビ・サビの発生、結露の発生など)は補償の対象となりません。 18 19 「ケンバイ」補償対象フローチャート P.22の事故連絡票により、 ど んな事故状況で すか?(すみやかにご連絡願います。) その他、よく問い合わせがある<支払われない事例>として、 主に以下のものがあります。 「設計等 の業務(※1)ミス」に起 因して、 設計した建築物に物理的な 「滅失もしくは損傷(※2)」 が発生していますか? 設計業務に起因した 「自由・名誉・プライバシーの侵害」 事故ですか? or (施工業者のミスに 起因する場合は補償対象外です。) (※1) 「設計等 の業務」 とは以下のものをいいます ( P.3参照) ①設計図書の作成業務 ②施工者に対する「指示書」の作成業務 ③「施工図」の承認業務 い いえ or (※ 2)物理的な 「滅失もしくは損傷 」とは建築物が物理的に 消失や損傷することをいいます。汚損(カビ・サビの発 生、結露 の発生など)は補償の対象にはなりません。 ①住宅で、完成後施主から「ガレージが狭く車の出し入れがしにくい」と設計ミス 建築基準法20条に規定する「構造基準」を満 (1、2、3号建築物に限ります) たしていませんか? は い or 第三者に身体障害はありますか? 法律上の損害賠償事故が生じていますか? (法律上の損害賠償が生じていないにもかかわらず、 被害者に支払われた見舞金等はお 支払い対象となりません。) を主張され作り直しを請求された。 給排水・電気・空調・遮音性(※)設備に不具合が ありますか? (※)遮音性の不具合は「住宅」のみ対象 い い え はい ②住宅で、完成後施主から壁紙の配色が当初考えていたものと違うとの指摘を受け、 張替えを要求された。 補償 の 対 象と は なりま せ ん 。 い いえ ③住宅で居間の入口ドアにつき、施主から当初考えていた外開きではなく、内開き は い であると指摘を受け、作り変えを要求された。 ④保育施設で床材の素材がすべりやすく危険であると指摘を受け、床材の張替えを 以下のどれかにあてはまりま すか? 要求された。(設計ミスによる床ですべってケガをした場合の治療費など(第三 者の身体障害について法律上賠償しなければならない費用)は補償の対象となり い い え 建 築 物 や 他 人 に 損 害を与えて いる。 ますが、床材の張替え費用は補償対象とはなりません) 給排水・電気・空調・遮音性(※)設備に 不具合がある。 (※)遮音性は「住宅」のみ対象 など いずれも、設計ミスである可能性はあるものの、ケンバイの支払対象とな る「建築物に物理的な滅失もしくは損傷(*)が発生」したいないため、ケ ンバイのお支払の対象とはなりませんので、ご注意ください 設計した建築物に物理的な「滅失も しくは損傷(※)」が発生していますか? (※)物理的な「滅失もしくは損傷」とは建 築物が物理的に消失や損傷すること をいいます。汚損(カビ・サビの発生、 結露の発生など)は補償の対象には なりません。 第 三 者 に身 体 障害が発生して いますか? (*)「物理的な滅失もしくは損傷」とは、建築物が物理的に消失や損傷すること をいいます。 設計業務遂行において不当な身 体拘束による自由・名誉の侵害、 もしくは表示行為による名誉の侵 害・プライバシーの侵害がある。 (注)単なる使い勝手、デザイン、色、意匠 上 の 問 題などは補 償 対 象とはなりま せん。 い い え 建築基準法20条に規 定する「構造基準」を 満たしていませんか? or (1、2、3号建築物に限ります) は い は い ケンバイパンフP.2∼ 3、P.4の①、P.5の④ に 該 当 す るかを再 度 ご確認ください。 は い ケンバイパンフP.2∼ 3 、P.5の③に該当す るかを再度ご確認くだ さい。 ケンバイパンフP.3、 P.5の⑥に該当する かを再度ご確認くださ い。 は い ケンバイパンフP.2∼ 3、P.4の②、P.5の④ に 該 当 す るかを再 度 ご確認ください。 は い ケンバイパンフP.2∼ 3 、P.5の⑤に該当す るかを再度ご確認くだ さい。 該当する場合には、 「ケンバイ」の補償対象となる可能性があります。 (P.22の事故連絡票により、 すみやかにご連絡願います。) 20 21 (株)損害保険ジャ パン 本店火新SC部 団体第一SC課 行 平成 年 月 日 FAX 03−3349−4619 建築家賠償責任保険 内容を記載のうえ FAX送信し て下さい。 事 故 連 絡 票 事 務 所 名 所 〒 住 担 当 部 署・ 氏 名 連 絡 先 連絡先 施 主 名 ( ) FAX ( ) 設 計 業 務 期 間 平成 年 月 日 ∼ 平成 年 月 日 監 平成 年 月 日 ∼ 平成 年 月 日 理 業 務 設計図書完成引渡 日 年 月 日 事 平成 年 月 日 故 発 生 日 事故責任の有無ならびに賠償額については、 「建築家賠償責任保険 審議会」 (建築家、弁護士などで構成)で 審議のうえ、公正かつ適正に決定いたします。 事 故 発 生 場 所 設 計し た 建 築 物 に 物 理 的「 滅 失 もしく は損 傷( ※ )」が発 生し ていますか? 事 故 状 有 無 (※)物理的な「滅 失もしくは損傷」とは建築物 が物理的に消失や損傷することをいいます。 汚損(カビ・サビの発生、 結露の発生など)は 補償の対象にはなりません。 況 普段より、施主・発注者とのやりとりでは、必ず議事録・ メモを取っておくことが必要です。 (審議会においてご提出いただく場合があります。) 事 故 原 因( 推 定 ) 賠 償 請 求 内 容 または損害の程度 ※事故の詳細については、改めて「 事故報告書 」をご提出いただきます。 上記の事故に関する被災者の個人情報を貴社 の社員またはその委託を受けた者が下記のとおり取り扱うことに同意します。 1.貴社が支払保険金算定の判断・保険金支払・保険引受の判断のために利用すること。 2.貴社が以下の①から③、 およびその他業務上必要とする範囲で取得・利用・提供または登録すること。 ①貴社が前記1.の業務 のため業務委託先(保険代理店を含む )、医療機関、修理業者、保険金請求・支払に関する関係先、事故に関する関係先、等に提供を行 い、 またはこれら の者から 提供を受けること。 ②貴社が保険制度の健全な運営のために(社)日本損害保険協会、損害保険料算出機構、他の損害保険会社等に提供もしくは登録し、 またはこれらのものから 提供を受けること。 ③貴社が再保険契約や 共同保険契約における引受保険会社からの保険金等 の受領 のために引受保険会社等に提供すること( 引受保険会社等から 他 の引受 保険会社へ の提供を含む )。 ※株式会社損害保険ジャ パンは、保健医療等の特別な非公開情報(センシティブ情報 )については、保険業法施行規則により限定された目的以外の目的に利用し ません。 ※株式会社損害保険ジャ パン の個人情報保護宣言等については下記ホ ームペ ージをご覧ください。 ホ ームペ ージアド レ ス http://www.sompo-japan.co.jp 22 23 Memo 24
© Copyright 2024 Paperzz