平成18年3月報告 - impact-triple

海洋の大規模利用と
環境影響評価手法に関する調査報告書
平成18 年3月
(社)日本船舶海洋工学会
IMPACT 研究委員会
(海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会)
海洋の大規模利用と環境影響評価手法に関する調査報告書
目 次
1.背景と目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.海洋の大規模利用技術とその評価
2.1 海洋深層水利用
2.1.1
海洋深層水の利用技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
2.1.2
海洋深層水の使用可能量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
2.1.3
海洋深層水取水による CO2 排出量の評価
・・・・・・・・・・・・
12
2.1.4
海洋深層水利用に関する社会受容性
・・・・・・・・・・・・
14
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
2.2 CO2 海洋隔離
2.2.1
CO2 海洋隔離の技術
2.2.2
CO2 海洋隔離に関する環境影響評価
2.2.3
CO2 海洋隔離に関する社会受容性
・・・・・・・・・・・・
24
・・・・・・・・・・・・・・・・
26
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
2.3 海洋滋養
2.3.1
海洋滋養の技術
2.3.2
過去に行われた海洋滋養の例
・・・・・・・・・・・・・・・・
44
2.3.3
海洋滋養に関する社会受容性
・・・・・・・・・・・・・・・・
50
・・・・・・・・・・・・・・・・
52
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
3.陸域・大気・海洋における環境影響評価
3.1 農業活動が環境に及ぼす影響とその評価
3.2 気象制御計画と実際
3.3 風力発電の環境影響評価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
3.4 沿岸域における環境影響評価手法
3.4.1
環境影響評価手法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
3.4.2
Biological Evaluation Standardized Technique (BEST) ・・・・・・・・・・
69
3.4.3
Index of Biotic Integrity (IBI)
・・・・・・・・・・・・・・・・
73
3.4.4
Instream Flow Incremental Methodology (IFIM) ・・・・・・・・・・・・
76
3.4.5
Habitat Evaluation Procedure (HEP)
・・・・・・・・・・・・・・・・
79
3.4.6
Hydrogeomorphic Method (HGM)
・・・・・・・・・・・・・・・・
82
3.4.7
Wetland Evaluation Technique (WET) ・・・・・・・・・・・・・・・・
86
4.グローバルな環境問題とその評価手法
4.1 環境リスク/リスク管理
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
89
4.2 エコロジカル・フットプリント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
102
4.3 ウェルビーイング指数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
116
4.4 地球白書 2004-05 で紹介されている諸データ・・・・・・・・・・・・・・・・
125
5.順応的管理
5.1 生態系と順応的管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
129
5.2 最大持続生産量(MSY)の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
132
5.3 生態系の順応的な管理に向けて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
138
6.包括的環境影響評価研究の方向性
6.1 IMPACT 専門委員会の活動概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6.2 第 18 回海洋工学シンポジウム IMPACT セッション
・・・・・・・・・・・
142
・・・・・・・・・・・・・・・・
145
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
147
6.3 IMPACT 研究委員会の今後の方向性
謝辞
140
付録
付録1 Strategic Plan
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
148
付録2 第 18 回海洋工学シンポジウム IMPACT セッション発表スライド
付録 2.1 井関和夫氏発表スライド
・・・・・・・・・・・・・・・・
152
付録 2.2 中西準子氏発表スライド
・・・・・・・・・・・・・・・・
161
付録 2.3 陽 捷行氏発表スライド
・・・・・・・・・・・・・・・・
186
付録 2.4 白山義久氏発表スライド
・・・・・・・・・・・・・・・・
217
付録 2.5 松田裕之氏発表スライド
・・・・・・・・・・・・・・・・
226
付録3 IMPACT 専門委員会活動記録
・・・・・・・・・・・・・・・・
231
付録4 IMPACT 専門委員会および IMPACT 研究委員会委員一覧 ・・・・・・・
233
付録5 IMPACT 研究委員会アドバイザー一覧
・・・・・・・・・・・
234
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
235
付録6 執筆者一覧
1.背景と目的
今日,地球温暖化は Global な環境問題の象徴として取り上げられており,二酸化炭素の排出抑制政策
が国際的な枠組みの中で進められている.一方,急激な人口増加と経済発展に伴う,水危機,食糧危機,
エネルギー危機は,地球温暖化にも増して緊急の課題となっており,現在は地域的な問題に留まってい
るものの,今世紀前半には世界規模で不足状態に陥ることが確実視されている.
このような問題に対する解決策として,CO2 海中隔離,海洋深層水利用,海洋滋養など,海洋空間や
海洋資源の大規模利用が提案され,基礎研究が進められているが,自然保護,環境保護を謳っている団
体のみならず,一般市民や科学者,技術者からも,海洋環境・生態系への影響を理由に利用概念そのも
のを否定する意見が少なからず出されている.しかし,それらの意見の多くは感情的/観念的で定量的議
論が乏しく,また現在の人間活動による陸域や大気への環境負荷との対比も見られない.
上記のような海洋利用は,元来化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の安定供給などを目的
としているのであるから,現状の化石資源消費,陸域での食糧生産や飲料水供給などによる環境へのイ
ンパクトとの量的な比較がなければ,議論自体が著しく公平さを欠くことになり,またその結果,利用
概念そのものが否定されることになれば,予測されている世界規模の危機に対する回避策の大きな部分
を失うことになる.
そこで,旧日本造船学会海洋環境研究委員会(現日本船舶海洋工学会海洋環境研究会)では,このよ
うな海洋の大規模利用による地球規模での環境へのインパクトを,陸域,大気,海洋の区別のない包括
的で公平な評価基準を用いて検討することを目的として,2002 年 7 月に IMPACT 専門委員会(Inclusive
Marine Pressure Assessment & Classification Technology Committee)を立ち上げた.本専門委員会では,陸
域環境や大気環境へのインパクト評価に関する知見の収集と動向の分析,沿岸域環境影響評価手法や地
球白書等で用いられているグローバルな環境影響の指標の勉強会などを行うとともに,
海洋深層水利用,
CO2 海中隔離,海洋滋養の3つのワーキンググループを設置し,それぞれの分野における環境影響評価
の現状調査と,包括的な評価指標および評価手法の検討を行った.
平成 17 年 6 月,旧日本造船学会は,旧関西造船協会,旧西部造船会と統合し,日本船舶海洋工学会と
なったが,これに伴って研究委員会も再編されることとなり,IMPACT 専門委員会は学会直轄の Project
研究委員会のひとつ,
「海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会(通称 IMPACT 研究
委員会)
」として再出発した.本報告書は,旧 IMPACT 専門委員会における調査研究内容を取りまとめ,
広く内外にその研究成果を公表するとともに,新しく発足した IMPACT 研究委員会の活動内容の検討資
料として活用することを目的としている.
1
2.海洋の大規模利用技術とその評価
2.1 海洋深層水利用
2.1.1
海洋深層水の利用技術
海水資源としての「海洋深層水」は,英語では"Deep Ocean Water (DOW)"あるいは"Deep Seawater(DSW)
"と呼ばれており,一般に「補償深度(光合成が行える限界の深度,最大で水深 200m程度)以深の海水」
と説明されることが多い.海洋深層水の3大特性は,①低温安定性(年間を通じて低水温で変化が少な
い)
,②富栄養性(植物の光合成に必要となる無機栄養塩類が豊富に含まれている)
,③清浄性(細菌類
が非常に少ない)であるが,このうち富栄養性と清浄性は,補償深度以深であることが必要条件となる
ことから,このような説明がしばしば用いられる.海洋深層水は再生型資源(Renewable Resource)であ
ると言われる.それは,低温安定性,富栄養性,清浄性という特性が,海洋の熱塩循環や物質循環によ
って次々と再生されていることに由来する.このような特性のうち低温安定性に着目すれば,海洋温度
差発電や発電所の冷却水,地域冷房や水温・地温コントロールなど,エネルギー・水産・農業分野への
幅広い利用が考えられる.また,富栄養性,清浄性に着目すれば,微細藻類や海藻の増殖,親魚育成や
種苗生産,漁場形成,磯焼けの修復などに利用することができる.また最近では,清浄性を活かした飲
料水や食品,化粧品,医薬品などへの利用も盛んに行われるようになっており,日本ではむしろこれら
の商品開発のほうが一般にはなじみの深いものとなっている.ここでは,本調査研究で議論の対象とな
っているエネルギー,食糧,淡水の確保という観点から海洋深層水の利用技術について述べる.
(1) エネルギー利用(海洋温度差発電)
海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion, OTEC)のアイデアが初めて出されたのは 120 年以
上も前の 1881 年で,フランスの物理学者 D'Arsonval が,亜硫酸ガス(SO2)を作動流体とするクロ-ズ
ドサイクルのコンセプトを提案している.その後 Claude によって水蒸気を使ったオープンサイクルのコ
ンセプトが提案され,
フランス政府のバックアップによる大規模な実証実験もいくつか行われたが,
1950
年代の石油の登場によりプロジェクトが中断してしまう.1970 年代のオイルショックによって OTEC は
再び注目されるようになり,アメリカ,日本,フランスを中心に精力的に研究が行われたが,1980 年代
半ばからは,石油価格の低下とともに研究プロジェクトが次々と途絶えてしまう.その後佐賀大学の研
究グループによって,ウエハラサイクルなど新しい技術が開発されているものの,現在に至るまで OTEC
開発の国家プロジェクトは再開していない.しかし最近,インド政府による大規模な洋上 OTEC 開発計
画や,太平洋島嶼国による淡水化と組合せたシステムの導入計画が出されており,日本でも海洋肥沃化
と組合せたシステムが検討され始めるなど,再び OTEC の注目度が上がりつつある.
海洋温度差発電(OTEC)のエネルギー変換の原理は,蒸気機関のような熱機関の原理と同じである.
当初から OTEC に採用されてきた機関は,アンモニアや水などの純粋媒体を作動流体(Working Fluid)
として用いる飽和蒸気ランキンサイクルが基本となっていて,図 2.1.1-1 に示すように,断熱圧縮,等圧
加熱,断熱膨張,等圧冷却の過程を繰り返し,これらで囲まれた面積の分だけエネルギーを取り出すこ
とができる.温冷海水の温度差そのものが持つ熱エネルギーに対する理論的なサイクル熱効率は,温海
水温 28℃,冷海水温 4℃とすると約 3%と試算されている(池上,2000)
.ただし実際の機関の発電効率
を求めるためには,蒸発器および凝縮器での熱交換効率とタービンおよび発電機での機械効率を乗じる
必要がある.また正味出力は,実際発電された電力から温冷海水と作動流体のポンプ動力を差し引くこ
とによって得られる.
2
タービン
発電機
蒸発器
温度
温海水の
温度変化
等圧冷却
等圧加熱
断熱膨張(蒸発)
取り出せる
エネルギー
凝縮器
断熱圧縮(凝縮)
冷海水の
温度変化
温海水
ポンプ
作動流体
ポンプ
エントロピー
タンク
冷海水
ポンプ
図 2.1.1-1 ランキンサイクルの原理とシステム概念図
図 2.1.1-1 右図で示した方式は,作動流体が蒸発器
表 2.1.1-1 気体の密度(1気圧,32℃)
→発電用タ-ビン→凝縮器→作動流体ポンプ→蒸発
気体の種類
水蒸気
メタン
アンモニア
プロパン
フロン
二酸化炭素
密度
(g/liter, 32℃, 1 atom)
0.0337
0.64
0.69
1.81
4.55
1.77
器,という閉じた経路を循環しているので,クロ-
ズドサイクル(Closed-Cycle)OTEC と呼ばれており,
作動流体としては,アンモニアやプロパン,フロン
などが用いられる.これらの物質は,沸点が低く蒸
気密度が大きい(表 2.1.1-1)ため,同じ電力を得る
にしても,小さな容器とタ-ビンですむ.一方,表
層の温海水をそのまま作動流体として用いる方式も
考えられている.低緯度地方の表層温度は 25℃前後であるが,その海水を圧力チャンバ-に入れて気圧
を下げていけば,やがて沸騰し水蒸気となる.この水蒸気を使って発電用タ-ビンを回し,その蒸気を
低温の深層水で凝縮させるという原理を利用したのがオ-プンサイクル(Open-Cycle)OTEC である(図
2.1.1-2)
.
オ-プンサイクルでは,海水を一
タービン
度水蒸気にしてから凝縮させるため
副産物として淡水が得られるという
発電機
フラッシュ
蒸発器
利点がある.しかし,蒸気密度の非
常に小さい海水を作動流体として使
真空
ポンプ
凝縮器
用するため,大きな電力を得ようと
すれば,巨大な圧力チャンバ-やタ
-ビンが必要となる.これに対し,
クロ-ズドサイクルは巨大な圧力チ
温海水
ポンプ
ャンバ-やタ-ビンは必要としない
ものの,作動流体を表層水や深層水
淡水タンク
と直接触れることなく閉じた経路内
で蒸発/凝縮させるため,熱交換器
冷海水
ポンプ
図 2.1.1-2 オープンサイクル OTEC のシステム概念図
3
が複雑なものとなる.また,表層水を蒸気化しないため当然淡水は得られない.
1980 年代に,アンモニアに水を混ぜた混合蒸気を作動流体とする新しいサイクルが Kalina によって提
案された.混合媒体では,アンモニアなどの純粋媒体とは異なり,蒸発過程においても凝縮過程におい
ても温度は連続的に変化することから,図 2.1.1-3 に示すように,仕事に変換できるエネルギーが大きく
なる.また,タービン排気を低濃度アンモニア水に吸収させる過程で排気圧力が下がることから,ター
ビンにおける熱落差を大きくすることができる.温海水 28℃,冷海水 4℃の条件で,ランキンサイクル
では熱効率が約 3%であったものが,カリーナサイクルでは約 5%にまで上昇することが示されている
(池上,2000)
.さらに佐賀大学の上原教授の研究グループは,Kalina の示した混合蒸気のアイデアを活
かしつつ,高圧用と低圧用の2段階のタ-ビンを用い,タービンの途中から抽気した蒸気で作動流体を
加熱することで凝縮器の負荷を低減するという工夫をした結果,カリーナサイクルよりさらに 1~2%発
電効率を高められる(ランキンサイクルの約 2 倍)ことを示した(池上,2000)
.このサイクルは現在で
はウエハラサイクル(図 2.1.1-4)と呼ばれている.
気液分離機
タービン
等圧冷却
等圧加熱
温度
発電機
蒸発器
温海水の
温度変化
取り出せる
エネルギー
吸収器
再生器
凝縮器
減圧弁
冷海水の
温度変化
温海水
ポンプ
エントロピー
作動流体
ポンプ
タンク
冷海水
ポンプ
図 2.1.1-3 カリーナサイクルの原理とシステム概念図
気液分離機
タービン1
発電機1
蒸発器
タービン2
再生器
発電機2
加熱器
吸収器
タンク2
アフター
コンデンサー
温海水
ポンプ
凝縮器
減圧弁
作動流体
ポンプ
作動流体
ポンプ
タンク1
図 2.1.1-4 ウエハラサイクルのシステム概念図
4
冷海水
ポンプ
(2) 食糧生産
表 2.1.1-2 海洋の基礎生産と魚類生産の推定値(Ryther, 1969)
海洋深層水には,植物プ
ランクトンや藻類が光合成
をするための栄養塩が豊富
に含まれている.この海洋
深層水が熱塩循環の過程と
して自然に表層へ湧き上が
2
面積(万km )
平均光合成生産率(gC/m2/年)
栄養段階の数
栄養段階管の効率(%)
魚類の生産率(gC/m2/年)
魚類の生産量(万tC/年)
外洋
33200
50
5
10
0.0005
17
沿岸
2660
100
3
15
0.34
904
湧昇域
40
300
1.5
20
36
1440
っている海域のことを湧昇域と呼ぶが,その面積は世界の全海洋面積のわずか 0.1%にしか過ぎない.し
かし,湧昇域の持つ基礎生産力は強大であり,平均光合成生産率にして外洋の約6倍にも達する(表
2.1.1-2)
.しかもそこで発生する植物プランクトンのサイズは外洋のそれに比べて極めて大きく,この原
因については,体積に対して表面積の小さい大型のプランクトンでも十分に栄養塩を摂取できるからだ
と言われている(高橋,1991)
.また,捕食されるもののサイズが大きければそれを捕食するもののサイ
ズも大きいという自然の法則があるため,湧昇域では大型の魚類に至る栄養段階(食物連鎖上の食うー
食われるの関係)の数も少ない.栄養段階が一つ進むにつれてそのバイオマスはもとのバイオマスの 10
~20%に減少していくため,栄養段階の数が多い外洋では魚類の生産量は大きく減少し,相対的に湧昇
域の魚類の生産率は外洋の 7 万 2 千倍にも達する.つまり,全海洋面積のわずか 0.1%にしか過ぎない湧
昇域で,海洋の全魚類生産量の半分以上が生産されていることになる(表 2.1.1-2)
.
外洋において海洋深層水を汲み上げ,一次生産量を増大させる世界初の試みは,1989~90 年,科学技
術庁,水産庁,富山県が主体となって富山湾で行われた.バ-ジ船「豊洋」の下に取付けられた取水管
により水深 250m の海洋深層水を 26,000t/日の割合で汲み上げ,52,000t/日の割合で汲み上げられた表
層水と混ぜて周辺海域へと散布した.しかし,荒天により取水管が破損したことから実験は 2 シーズン
で終了し,その間,期待したようなプランクトン生産の増加は確認されなかった.この原因として,密
度の高い深層水混合海水を噴水式で散布したため,拡散・沈降が大きかったのではないかという指摘が
なされている.
それから 10 年後,
(社)マリノフォーラム 21 は,水産庁の補助を受けて,5 年計画のプロジェクトを
2000~2004 年に行った.ここでは,
「豊洋」実験の教訓を活かし,次のような新技術を導入したプロト
タイプの海洋肥沃化装置(図 2.1.1-5)を開発した.まず,放流した深層水の拡散・沈降を抑えるため,
密度成層が形成されている海域において,放流深層水と同じ密度の深度に密度流として貫入させる装置
(密度流拡散装置)を導入した.また,荒天時にも安定して稼動できる装置とするため,浮体部分を水
線面積が小さく揺れの少ないスパー型にし,かつ取水ライザーと浮体をフレキシブル・ジョイントで連
結する構造とした.そのほか,浮体設置時の期間短縮とコスト軽減をはかるため,浮体とライザー管を
あらかじめ連結した状態で実験海域まで曳航し,設置海域でライザー管を一気に自由落下させて稼動状
態とする,
アペンディングという工法も世界で初めて導入された.
実際に建造された海洋肥沃化装置は,
深度 200mから日量 10 万トンの海洋深層水を取水し,20 万トンの表層水と混合して 20mの深度に密度
流として放流することができる.この装置は公募により「拓海(たくみ)
」と名づけられ,2003 年 5 月
に相模湾中央部の水深 1000m の地点に設置された.現在まで致命的なトラブルもなく稼動しており,
2003 年と 2004 年の夏季に行われた現地での観測調査によると,深度 20~30mの層に比較的拡散が少な
.
い状態で放流水が滞留していることが確認されている(大内,2004)
5
図 2.1.1-5 MF21 プロジェクトで建造された海洋肥沃化装置「拓海」のイメージ
(3) 淡水生産
海洋深層水に限定される技術ではないが,逆浸透膜を用いる方法が海水淡水化の最も一般的な技術で
ある.逆浸透膜法の原理は簡単である.セロファンのような半透膜(水は通すが,塩分は通しにくいと
いう性質の膜)で仕切られた容器の一方に淡水を,もう一方に海水を入れておくと,同じ塩分濃度にな
ろうとして淡水が海水側へ浸透する.その
a) 浸透
分海水側の水面が上昇して浸透しにくくな
浸透圧
り,ある値になると浸透が止まる.このと
きの圧力差を浸透圧と呼ぶが,その浸透圧
淡水
海水
淡水
海水
以上に海水側に圧力を掛けると,逆に海水
側から半透膜を通して淡水が押し出されて
浸透膜
くる(図 2.1.1-6)
.この原理を利用したの
圧力
b) 逆浸透
が,逆浸透膜法と呼ばれる海水淡水化技術
淡水
である.
海水
表層海水を使って逆浸透膜処理を行う場
合には,膜の機能劣化やモジュール性能の
図 2.1.1-6 逆浸透膜法による海水淡水化の原理
低下を起こさないために,物理的なろ過や化学的な処理を前段階で施さなければならないが,懸濁物質
6
の非常に少ない海洋深層水を用いれば,前処理をほとんど必要としないことが,高知県における研究で
実証されている.海洋深層水の逆浸透膜を利用した淡水製造は 1995 年から高知県で開始され,この脱塩
水を用いて様々な商品開発が行われたが,現在の海洋深層水ブームは,この脱塩水の分水が契機となっ
ている.
飲料水の確保は我が国においても今後の大きな課題である.毎年のように発生している夏場の渇水に
加え,水源となる湖や河川の水質悪化が加速しており,クリプトスポリジウムに代表されるように,従
来の殺菌方法では対処できないような汚染も具現化している.これに対し,一般家庭では自衛手段とも
いえるボトル飲料水や家庭用浄水器の普及が進んでおり,そういった家庭では,生の水道水は既にトイ
レや風呂などで使用する洗浄水(中水)として捉えるようになっている(有田,2001)
.ボトル飲料水の
価格は¥200/㍑程度,浄水器使用では減価償却とフィルター交換の費用などを考慮すると¥2/㍑程度とな
り,上水道料金(¥0.2/㍑程度)に比べ,それぞれ 1000 倍,10 倍の金額を支払っていることになる.こ
のことは,我が国においても,欧米のように上水と中水を分離した水道事業を行う時期に来ていること
を示しているものといえる.
このような背景から,松本ら(2002)
,大塚ら(2003)は,清浄な海洋深層水を用いた上水道インフラ
の構築を前提とした,海洋深層水大規模取水-分配システム(図 2.1.1-7)を提案した.ここで想定して
いる海洋深層水の利用方法は,海洋温度差発電とそれによる水素生産,排水を利用した海洋肥沃化,地
域冷房,水族館や研究所,食品生産での海水そのものの利用,それに淡水化した水の上水および工業用
水としての利用などである.一例として,相模湾で海洋深層水を取水し,大消費地である東京,浦安,
横浜の 3 都市に設置した深層水備蓄基地に分配するというシステム(図 2.1.1-8)を紹介する.ここでは,
陸上型と洋上型の 2 種類を想定し,陸上型は茅ヶ崎市沿岸部で取水し,高速道路など主用幹線道路に沿
ったパイプラインにより,横浜,東京,浦安に設置された備蓄基地まで原水を供給するというシステム
となっている.また洋上型は,相模湾中央部で取水し,3 隻のシャトルタンカーで横浜,東京,浦安の
備蓄基地に原水を輸送するというシステムとなっている.
DOWパイプライン
陸上取水施設
洋上取水施設
飲料水
横浜
備蓄施設
エアコン
食品生産
DOW
OTEC
研究施設
相模湾
H2
燃料
陸域
浦安
工業用水
淡水化
水族館
東京
海域
海洋肥沃化
DOWシャトルタンカー
図 2.1.1-7 大規模取水-分配システムによる
海洋深層水多目的利用のコンセプト
図 2.1.1-8 首都圏における海洋深層水大規模
取水-分配システムの概要
参考文献
7
Ryther, J.H.(1969)
:Photosynthesis and Fish Production in the Sea, Science, Vol.166
有田一彦(2001)
:あぶない水道水-袋小路の水道パラダイム,土木学会誌,Vol.86,pp.5-8
池上康之(2000)
:海洋温度差発電/深層水利用の最前線,関西造船協会誌らん,第 47 号,pp.24-31
大塚耕司,松本吉倫(2003)
:海洋深層水大規模取水―分配システムのフィージビリティスタディ(第2
報)-CO2 排出量を指標とした LCA-,海洋深層水研究,Vol.4, No.1, pp.19-27
高橋正征(1991)
:海にねむる資源が地球を救う-海洋深層水の利用-,あすなろ書房
松本吉倫,大塚耕司(2002)
:海洋深層水大規模取水―分配システムのフィージビリティスタディ(第1
報)-経済性評価-,海洋深層水研究,Vol.3, No.1, pp.21-29
大内一之(2004)
:海洋肥沃化装置「拓海」
,第 30 回海洋工学パネル論文集,日本海洋工学会
8
2.1.2
海洋深層水の使用可能量
ほとんど全ての再生型資源がそうであるように,深層水も無制限に消費すれば地球環境に少なからず
影響を与えることになる.熱収支の観点から,海洋深層水の地球規模における使用可能限界に関する考
察を行ったものとしては,高野(1984)による試算がある.彼は,海洋大循環の原動力である熱塩循環
が地球の気候と密接に関連していることを指摘し,気候変動によって海洋大循環そのものが止まってし
まうことのない範囲を消費の限界として,後述する海洋大循環系深層水生成量(40MT/sec)の 10%,つ
まり 4 MT/sec を示した.大塚ら(2000)は,この考えを発展させて「自然の変動の範囲内での取水であ
れば循環流の持続を妨げない」という仮定の下に,海洋深層水の持続可能な消費量を見積もった.以下
にその内容を述べる.
(1) 熱塩循環と低温安定性
海洋は太陽から莫大な量の熱エネルギ-を受け取っているが,その熱によって温められている海水は
低緯度地方でも表層からわずか数百メートル程度で,それ以深は常に低温に保たれている.このような
低温安定性が維持される仕組みは,海洋における大規模な熱塩循環(Thermohaline Circulation)によって
説明できる.熱塩循環は,温度や塩分の違いによって周りより重たくなった海水が沈み込み,ある層を
塊となって流れながら,沈み込んだ海水の量を補うように徐々に湧き上がる,というメカニズムで起こ
る.当然,地形や表層海流などの影響によって熱塩循環が形成される仕組みは違ってくるが,基本的に
は高緯度地方(極地方)の海水が冷やされて重くなり沈降し,低緯度地方で湧き上がるという循環とな
っている.
このような熱塩循環は世界の海洋にいくつも存在しているが,その最も大きなものが Stommel(1958)
の指摘した海洋大循環である.北大西洋のグリ-ンランド沖と南極海のウェッデル沖で冷やされた海水
が大量に沈降し,それぞれ北大西洋深層水(North Atlantic Deep Water, NADW)
,南極低層水(Antarctic
Bottom Water, ABW)となって深層をゆっくりと流れ,大西洋,インド洋,太平洋へと分配されて徐々に
湧昇する.グリ-ンランド沖と南極海で沈降する海水の量は合わせて1秒間に約 40Mt(メガトン)程度
と試算されている(Stommel & Arons, 1960)
.
海洋大循環に比べて規模は小さいが,日本の周辺でもいくつかの熱塩循環が形成されている.その構
造がほぼ明らかにされているものの一つに,北太平洋亜熱帯循環(Subtropical North Pacific Circulation)
がある(Yasuda, 1997).図 2.1.2-1 に示すように,オホーツク海で作られた低温・低塩分の海水が親潮に乗
って三陸沖を南下し,南から流れてきた黒潮とぶつかって,鹿島灘沖で混合しながら 1,000m 付近の中
層まで沈み込む.その後一度東へ向かって流れ,いくつかの海水塊(コア)に分かれながら時計回りに
反転し,再び日本の南部太平洋沿岸へと戻ってくる.この循環によって作られる海水を北太平洋中層水
(North Pacific Intermediate Water, NPIW)と呼んでおり,室戸の取水場所では,その一部が四国にぶつか
って湧昇していると考えられている.鹿島灘沖で沈んでから室戸沖にまで帰ってくるまでの周期は 10~
50 年程度と言われている.
また,富山湾で汲み上げられている深層水も海洋大循環起源の深層水ではなく,日本海固有水(Japan
Sea Proper Water, JSPW)と呼ばれる別系統の海水である.日本海固有水の形成過程に関する詳細は明ら
かにされていないが,水深 1000m 以下の深層水は過去 50 年くらい形成されておらず,水深 1,000m 以上
の中層水が冬季の対流によってウラジオストク沖で形成されているといった報告はなされている(尹,
1998).
9
(2) 熱塩循環の自然変動
海洋深層水を再生型資
親潮
源と位置付けたとき,そ
(亜寒帯系水)
日本海
の資源のリザーバーとし
ての容量(現存量)を基
準にするのではなく,フ
沈降
ラックス(流量)の安定
性を基準にするという考
え方が重要となる.しか
北太平洋中層水
し,海洋の熱塩循環が安
定して持続するための条
黒潮
件を知るには,気温,水
(亜熱帯系水)
温,降雨量,氷床の増減
などと熱塩循環との関係
図 2.1.2-1 北太平洋亜熱帯循環の概要(Yasuda, 1997 より作成)
の解明,さらには大気-
海洋相互干渉を正確にシミュレートできる全球
モデルの開発を待たなければならない.現在こ
30
頼できるデータが得られるまでにはまだ相当の
時間がかかりそうである.そこで,熱塩循環の
28+0.97
28
28–0.97
Sv
のような試みは各地で行われているものの,信
自然変動をフラックス安定性の一つの目安とす
25
ることを考える.
熱塩循環の時間的な変動を示す貴重なデータ
0
50
100
150
Year
として,阿部による北大西洋深層水(NADW)
の子午面流量の長期予測シミュレーションが挙
図 2.1.2-2 北大西洋深層水子午線流量の長
げられる.図 2.1.2-2 を見ると,CO2 増加による
期予測結果(阿部, 1997 より作成)
気候変動がないとした条件で,平均流量が約 28
,平均値周りの変動が標準偏差でほぼ 0.97 Sv と読み取ることができる.この結果
Sv(1 Sv = 106 m3/sec)
から類推すれば,海洋大循環の自然の変動は流量の約 3%ということになる.
(3) 海洋深層水の持続可能な使用量に関する一考察
海洋深層水の持続可能な使用量を試算する際の基準として,
「熱塩循環の自然変動」を用いることがで
き,さらに変動の大きさはどの循環でもほぼ同じであると仮定すると,各海域の基準値は以下のように
見積もることができる.
海洋大循環を深層水の起源と見れば,生成量 40 Mt/sec の 3%である 1.2 Mt/sec が使用可能量というこ
とになる.しかし,海洋大循環に属する深層水は大西洋,インド洋,太平洋とそれぞれに分配されて運
ばれていくので,その使用可能量も海域ごとに見積もる必要がある.また,現在高知と富山で取水され
ている深層水は海洋大循環を起源とするものではなく,それぞれ北太平洋中層水(NPIW)と日本海固
有水(JSPW)であるので,これらの流量(あるいは生成量)を基準に計算する必要がある.
Stommel ら(1960)によると,海洋大循環系の海水の各海域への分配量は,北大西洋 4 Mt/sec,南大西洋
10
6 Mt/sec,北インド洋(赤道より北)
表 2.1.2-1 各海域における海洋深層水の使用可能量を試算
2 Mt/sec,南インド洋(赤道より南)
する際の基準値
8Mt/sec,北太平洋 10 Mt/sec,南太平
洋 10 Mt/sec と試算されている.また,
Yasuda(1997)によると,日本東部
海域で生成される NPIW のうち日本
沿岸に戻ってくる流量は 5 Mt/sec 前
後と推測されている.なお JSPW に
関しては生成量に関する定量的な推
定はまだ行われていないのでここで
流量
(Mt/sec)
北大西洋(大循環系)
4
南大西洋(大循環系)
6
北インド洋(大循環系)
2
南インド洋(大循環系)
8
北太平洋(大循環系)
10
南太平洋(大循環系)
10
日 本 南 東 海 域 ( NPIW
5
海域
使用可能量
(Mt/sec) (Mt/day)
0.12
10,368
0.18
15,552
0.06
5,184
0.24
20,736
0.3
25,920
0.3
25,920
0.15
12,960
は試算を避ける.
以上の流量に対して,
3%が自然変動であると仮定して各海域の深層水使用可能量の基準値を求めたも
のを表 2.1.2-1 に示す.表中には日量に換算した基準値も示している.これらの値は,あくまでも使用可
能量を試算する際の基準値であり,この値の何%を使用可能量と定めればよいかについては,今後様々
な切り口から議論を重ねていくことが必要であろう.
また,このような使用可能量の考え方を日本周辺海域に適用するとなると,北太平洋中層水系,北太
平洋深層水系,上部日本海固有水系,下部日本海固有水系といった各水塊がどのように分布しているの
かを把握する必要がある.これらの水塊は海域によって分布する水深が変化するので,3 次元的な水塊
分布構造をイメージする必要があり,単純に水深で分類することに比べれば少々複雑で理解しづらいよ
うに思える.しかし,同一水塊では海水性状がほぼ一様となっているので,水塊分布は対象海域を設定
したときどの程度の水質(水温,栄養塩レベル等)の海水がどの程度の水深で取水できるのかという情
報を与えることになり,資源利用の立場からすれば有用であるといえよう.
参考文献
Stommel, H.(1958)
:The Abyssal Circulation,” Deep-Sea Research, Vol.5, pp.80-82
Stommel, H. and Arons, A.B.(1960)
:On the Abyssal Circulation of the World Ocean -Ⅱ An Idealized Model of
the Circulation Pattern and Amplitude in Oceanic Basins,” Deep-Sea Research, Vol.6, pp.217-233
Yasuda, I.(1997)
:The Origin of the North Pacific Intermediate Water,” Jour. of Geophysical Research, Vol.102,
No.C1, pp.893-909
阿部彩子(1997)
:大気海洋大循環モデルによる地球温暖化等の気候変動研究,気候研究の最前線,気候
システム業書2,pp.117-130
大塚耕司,板東晃功,松本吉倫 (2000):海洋深層水の使用可能量および価格に関する一考察,海洋深層
水研究,Vol.1,pp.47-53
高野健三 (1984):海のエネルギ-,共立出版
尹宗煥(1998)
:日本海固有水について,海洋深層水’97 富山シンポジウム講演記録集,pp.11-16
11
2.1.3
海洋深層水取水による CO2 排出量の評価
海洋深層水を大量に取水/放水すれば,少なからず周辺海域の環境が変化する.その影響は,表 2.1.3-1
に示すように,プラス面,マイナス面,様々なものが考えられる.この中には,海洋深層水放流後の拡
散状況や,それに伴う一次生産の拡大,海藻,魚類等への影響など,ある程度モデルを用いた評価/予
測が可能と思われるものもあるが,群落や群集の種構成の変化など,実際に現地で計測・モニタリング
を行わないと評価できないものもある.現在,わが国においても様々な角度から研究が進められている
ものの,ほとんどの項目が,定量的評価まで行うレベルに達していないのが現状である.とは言え,今
後取水施設は各地に作られていくと予想され,その場合の事前アセスメントの要求も高まっていくと考
えられることから,できるだけ早い環境影響評価手法の確立が望まれる.ここでは,地球規模での環境
影響につながる CO2 排出量について考察を行う.
無機栄養塩類が豊富に含まれている
表 2.1.3-1 海洋深層水取水の際に配慮すべき環境影響
ことは,海洋深層水の大きな特徴の一
つであるが,その成因が冒有機物の沈
項 目
溶存CO2の大気への放出
取
取水管による漁場への影響
水
取水による生物連行
植プラ
一次生産拡大
藻場活性化
海藻群落 磯焼け修復
群落構成の変化
低温影響
餌場の創出
・
放 栄養塩類 定着動物 成長の低下
水 還流影響
群衆構成の変化
産卵場の創出
保育場の創出
遊泳動物
産卵磁気の変化
回遊経路の変化
流れによる生物群集の変化
◎影響が大きいと予想されるもの
○影響が小さいと予想されるもの
環境影響
+面 -面
○
○
○
○
◎
◎
◎
○
○
◎
○
○
○
○
◎
◎
○
○
○
○
○
○
降であることから考えると,同時に無
機炭素も多く含まれるということにな
る.実際,海水中の全炭酸は深くなる
に従って増加し,1,000m 程度で表層の
約 1.2 倍となる(それ以深ではほとん
ど変化は無い)
.したがって,海洋深層
水を海表面上に汲み上げれば,溶け込
んでいた二酸化炭素が気体となり,大
気中へ放出されることになる(原田,
2000)
.
図 2.1.3-1 は,海洋深層水の取水に伴
う CO2 排出量と,一般家庭でのガスや
電気の使用に伴う CO2 排出量,および
ガソリンの使用に伴うCO2 排出量と比
較したものである.横軸に海洋深層水
の取水量(日量)
,縦軸に比較対象とな
る値をそれぞれ対数で示している.
ここで,海洋深層水取水に伴う CO2 の排出量原単位は,相模湾の深度 400mから取水した場合の推定
値,0.00252kg-CO2/t(大塚ら,2003)を,一般家庭でのガス・電気使用およびガソリン使用に伴う CO2
排出量原単位は,それぞれ 8.31kg-CO2/日,2.30kg-CO2/L(省エネルギーセンターのデータより推定)を
用いた.図中には,高知県海洋深層水研究所,沖縄県海洋深層水研究所,海洋肥沃化装置「拓海」でそ
れぞれ取水されている規模,ならびに実用 OTEC の取水規模も矢印で示している.
これを見ると,海洋肥沃化装置「拓海」
(日量 10 万 t の取水規模)による海洋深層水取水で,一般家庭
30 世帯分,あるいはガソリン 100L 分(1 日 36km 走行するトヨタカローラ(燃費を 18km/L と仮定)50
台分)の CO2 排出量と同等であることがわかる.なお,海洋肥沃化した場合には,光合成によって CO2
が逆に固定されるが,ここではその影響は考慮していない.
12
1,000.00
10,000.0
1,000.0
ガソリン使用
実用
OTEC
10.00
100.0
拓海
1.00
10.0
沖縄
深層研
0.10
0.01
1.0E+01
1.0
高知
深層研
1.0E+02
1.0E+03
1.0E+04
1.0E+05
1.0E+06
CO2排出量をガソリン使用と比較した値(L)
CO2排出量を一般家庭と比較した値 (世帯)
ガス+電気使用
100.00
0.1
1.0E+07
海洋深層水取水量 (t/日)
図 2.1.3-1 海洋深層水取水に伴う CO2 排出量と一般家庭でのガス・電気使用に伴う CO2 排出量およびガ
ソリン使用に伴う CO2 排出量との比較
参考文献
原田晃(2000)
:海洋深層水利用で考えられる二酸化炭素の問題,月刊海洋号外,No.22,pp.229-233
13
2.1.4
海洋深層水利用に関する社会受容性
海洋深層水利用に関する社会受容性を検討するための第一段階として,海洋深層水利用に対する反対
意見について調査したところ,
「海洋深層水を守る会」という団体がインターネットの掲示板を通して反
対意見を集約,公表していることがわかった.ここでは,
「海洋深層水を守る会」の概要を紹介するとと
もに,掲示板に寄せられた意見を掲載する.
(1) 海洋深層水を守る会の概要
□ 設立:2001 年 2 月 9 日
□ 事務局:〒340-0021 埼玉県草加市手代町 806-6 事務局長 菅野正敏 (TEL: 0489-26-1199)
□ 事務局員:菅野正敏,飯島正久,佐藤明美
□ HP アドレス:http://www.firewall.ne.jp/shinsosui/
□ 賛同者数:約 300 人(2001 年 3 月 14 日現在)
□ 「海洋深層水を守る会」の意見
深層水は無公害,無尽蔵で非常に大きな,そして有用な資源となり得るといわれていますが,深層水
の利用は環境問題と切り離して考えることは出来ません.実際に汲み上げられる深層水は個々の地域単
位ですが,
『海』という区切りのない世界のこの資源は,一地域に限定されているものではありません.
深層水の取水は,地球全体の自然破壊の可能性が高いのです.いま,高知県・富山県・沖縄県等が研究
だけではなく利用する企業に採取することを許している状況です.まして,アサヒビールがアルコール
飲料の原料として深層水を使うことを許してもよいのでしょうか.利用した深層水をそのまま沿岸の海
に排出することは,沿岸の環境に大きな影響を与えますし,再生循環に何十年,あるいは何百年かかる
かもわかりません.人間が地球の空気・緑・土壌・河川・地下水・海水を汚し尽くし,最後に残された
深海の水を汲み深海をも汚そうとすることは許すことはできません.九州の有明海ののりを初めとする
海産物の大打撃を見ても,海の再生循環の為に,多くの年月を要することは体験済みなはずです.海の
環境の研究者の皆さん,漁業関係者の皆さん,また関係諸官庁の皆さん,私たち市民に本当の情報が公
開されることを望んでいます.当会はインターネットを通じて広く呼びかけていきます.
□ 請願書(2001 年 2 月 20 日送付)内容
「海洋深層水」の取水を差し止めてください.万が一「海洋深層水」を利用するのなら,医療・福祉
関連にのみ使用することを協議・決定され,各関連機関にその旨要請されるよう請願いたします.
(61
名分の署名を集める)
□ 請願書の送付について
署名していただいたものを,環境省大臣 川口 順子殿,高知県知事 橋本 大二郎殿,富山県知事 中
沖 豊 殿,沖縄県知事 稲嶺 恵一殿,アサヒビール名誉会長 樋口 広太郎殿に郵便書留で送りまし
た.新聞社 80 社にメールを送りました.いまだ(2001 年 3 月 2 日現在)どこからも連絡がありません.
これが日本の環境に関しての行政および新聞社の現状かと思うと,恐ろしささえ感じる毎日です.しば
らくは静観します.どなたかこの現状を打開するアイデアをお持ちの方,事務局までにメールをくださ
い.よろしくお願いします.
(2) 海洋深層水を守る会に寄せられた意見
・ たまたま見かけたのですが,意味がわかりません.海洋深層水というのはただの海水ではないので
すか?それを再度表層に垂れ流して戻すのがまずいのですか.むしろ,私は海洋深層がこれまでの
汚染の影響を受けている可能性があることのほうが問題だと思います.その辺,科学データや説明
論文があると納得します.
(2001/02/09)
14
・ どのような環境破壊になるのか,もっと詳しく述べてください.資源の少ない日本にとって,有効
に活用できる資源として注目を集める深層水ですが,貴会の文面では感情論の域を脱していません.
科学的な裏付けやデータ等の立証事項を公表すべきです.また,開発に携わる人,これらの経済活
動に関わっている人には死活問題となるでしょうから,その方面の方の意見や見解を集め,それに
答えて公表するといった第三者が判断するための公平な情報の提供も貴会の志に必要な義務ではな
いでしょうか? 貴会のご活躍をお祈りいたします.
(2001/02/09)
・ 海洋深層水は健康にいいというので飲んだことがあるけど大ブームになったらすぐなくなるんで
は.
.
.
.石油石炭ガスと同じ道のような気がします.一体何年ぐらいもつんでしょう?(2001/02/09)
・ 海洋深層水ってなんだろう?って思うのが大抵の方が思うところですね.でも,分からない,知ら
ない,知らされていないからということで放っておくと有明の問題や,政治家たちの税金の無駄遣
いが後で出てきて,しまったと思ったときにはもう遅い.そうならないようにするためにというペ
ージであればなんら問題はない.海洋深層水を守るというよりは,海洋深層水がなんであるかもわ
からないうちは何も言えないので,それを考えさせるページとして存在することは有意義だとは思
います.
「被害者さん」はもうここには来ないだろうけれど,ここのボード管理者さんはメールのヘ
ッダー部分にも書いておられるように,
「迷惑ならばその旨お伝えくださいませ.
」と書いておられ
ます.ネットの特性を知らないからか,いきなり来たメールに対して過剰反応してます.気にしな
くてもいいです.こんなの.管理者様には,
「ボード」は匿名で出せるので,作ること自体推奨はし
ませんが,
「被害者さん」はあまりにも卑怯ですね.最初から喧嘩腰だし,仕事でストレス溜まって
いるんでしょう.私も仕事柄,迷惑メールは沢山来ますが,いちいち対応してたらノイローゼにな
りますから,雛形作って低姿勢のメール出すとその後なんも言ってこなかったりします.
「匿名」さ
んや「内海君」さんの言われるところは私も正論だと思います.但し,データ等の科学的論拠を示
せないからこそ,ここの管理人さんは多くの人から意見をもらいたいのではないでしょうか?最初
から管理人さんがエゴでやろうって言うならば,このようなアンケート形式のボードは作らなかっ
たでしょう.みんなの意見を聞いた上で自身も考えようとしている姿勢を私は感じるのですが?単
に,反対意見や怒りを表現するのは簡単です.ボードはそんなふうに使われるものではないと思い
ます.長くてすんませんでした.
(2001/02/10)
・ 海洋深層水ですが,環境問題については触れませんが,海洋深層水を使った商品について少し.海
洋深層水を使ったという商品がいくつか出ていますが,実際にそれを使った意味の在る商品はある
のでしょうか??たとえばビールなどもしそのまま使えば塩味のついたビールになるでしょうから,
当然イオン交換膜などで塩分を抜いているのでしょう.しかし,塩分が抜けるということは,塩以
外のいわゆる海洋深層水の有効成分(とりあえずこう表現します)も抜けてしまうでしょう.本当
かどうかわかりませんが,そのため後でミネラル分を足すという話も聞きます.これではただのイ
メージ商品に過ぎないのでは無いでしょうか.そう言うことで,私は海洋深層水については眉唾物
だと思っています.
(2001/02/16)
・ 以前高知に旅行に行ったとき,はじめて「海洋深層水」の存在を知ったのですが,その後またたく
まに大規模な商業利用が始まったのには驚きました.1,2年前,NHKスペシャルで深層水のし
くみについてわかりやすく解説した番組を放映していました.このページの性格上,正確に覚えて
いない内容をここに書くことはしませんが,深層水の地球規模の流れ(冷たい海から暖かい海への
流れ)が深層水が海を豊かにし,また地球の温度をある枠内に保つために大きな役割を果たしてい
る,といった内容でした.そんな大切なものを,簡単にどんどん汲み出して大丈夫なのか,という
15
素朴な疑問を持っていたので,貴会の存在意義は確実にある,と思います.ただ,
「資料提供のお願
い」の中で,
「何かこのままでは大変なことがおこるような予感が会員の中にあるだけで立ち上げて
しまいました.
」と書いていらっしゃるのを拝見しました.この段階で署名運動を行うのは無理があ
るのではないでしょうか.いささか遠回りに感じられるかもしれませんが,まずは「なぜ海洋深層
水の取水に反対なのか」ということを,知識・データを集めて示すことを含めて明確にしていくこ
とを行ってはいかがでしょうか.社会に対して運動をしていくためには,それなりの根拠がないと
広い賛同を得にくいのではないかと思います.せっかくの活動ですので,ご検討いただければ幸い
です.
(2001/02/18)
・ はじめて掲示板書かせていただきます.海洋深層水をどうしたらいいか残すべきかとるべきかと訴
えているサイトなのにやりかたがどうのではなくすでに取り始めている人達に説明させるべきでし
ょう.高知県は何様と思っているのでしょう.高知のうみは深海まで自分のものと思っているので
しょうか.高知のうみは知事のものではないですよ.思いあがっているのではないですか.先祖の
ものであり未来の人々のものです.酒とかビールに使ってはいけません.まして酒屋(アサヒビー
ル)売るなどとはもってのほかです.アサヒが高知県に陳謝したと言っていますがいくら知事のも
とに入ったのでしょう.このことは高知県民が調べるべきでしょう.
(2001/02/19)
・ 斉藤様.ご覧になっていたらよろしくお願いします.ごめんなさい,
>海洋深層水をどうしたらいいか残すべきかとるべきかと訴えているサイトなのにやりかたがどう
のではなく
>すでに取り始めている人達に説明させるべきでしょう
この文章の意味がよくわからないので教えてください.
「海洋深層水を守る会」の立場は深層水を取
るべきではない,ということで,そのための活動を行おうとし,行いつつあると捉えているのです
が,おっしゃっているのは海洋深層水を取ってもよいという根拠を高知県やアサヒビールなど取水
を行う側に説明してもらう,という意味でしょうか???
>先祖のものであり未来の人々のものです
「人間だけのもの」ではないともいえますね(^_^).
(2001/02/26)
・ かねこ様.コメントありがとうございます.人の立場をうんぬんするよりもかねこ様の考えをお聞
きしたいですね.私は深海が汚染されるのは間違いないと思いますので取水に反対です.取水して
いる人が汚染されない,あるいは再生されることを説明すべきでしょう.すでにどれだけ取水しこ
れからどれだけ取水するのか計画を発表すべきでしょう.こんなことをかねこ様と論議をする気は
ありません.
(2001/03/02)
・ 斉藤様お返事ありがとうございました.おっしゃる意味が分かりました.議論をしたかったわけで
はなく単にこの意味が前回はっきり読み取れなかっただけです(^^;;
>すでにどれだけ取水しこれからどれだけ取水するのか計画を発表すべきでしょう.
おっしゃる通りと思います.ただ,取水を進めようとする側は「汚染されない,再生される」とい
うデータを作ってくると思った方がいいというのが個人的意見です.その意味で,前にここに
>まずは「なぜ海洋深層水の取水に反対なのか」ということを知識・データを集めて示すことを含
めて明確にしていくこと
>を行ってはいかがでしょうか.
と書きました.反対側からのデータは説得力(客観性)の上で大きな意味があると考えるからです.
最後に,私は海洋深層水の取水には反対です.医療用であればある程度やむを得ないのかなという
16
迷いはありますが,少なくとも,単なる嗜好品の原料のために,地球環境に大きく影響している可
能性のある深層水を利用するのは行き過ぎだと思います.地球は人間だけのものではありません.
(2001/03/27)
・ 初めて書き込みをさせていただきます.小生の立場上名前の公開は控えさせていただきます.現在
海洋学の研究に携わる職についております.本会の趣旨につきましては納得しがたいことがありま
す.まずはこのような考えに至った経緯,それを裏付ける定量的な(科学的な)評価がこの HP 上
には見えません.市民の環境に対する活動としましては賞賛を感じますが,汲み上げ=即汚染とす
るには科学的根拠が欠如しているように思えてなりません.あえて活動に否定的なことを書きまし
たが私達のような立場のもの(科学者)にも納得できるような公正かつ正確なデータを公開しては
どうでしょうか?誰もが納得できるデータを公表することにより,本当の意味で賛同者は増えてく
ると思います.
(2001/04/07)
・ 海洋学者の卵様へ.はじめて学者様からの書き込みがあり議論ができるようになりました.会とし
てうらずける資料はないと思います.それは実際に取水して居る側がするべきことでしょう.ある
いは研究している人にお願いしたいものです.あなたはどのように考えるのでしょうか?ダムの建
設,諫早湾の問題も同じです.いつも国とか企業は対処療法しか考えていないのです.問題が起こ
ってから「予想できなかった」とかいう言葉でごまかしているのです.深層水をどう加工するかと
いうよりは,取水したらなにが起こるかを先に考え研究する必要があると思います.深層水は人間
が創ったものではありません.再生することを先に研究する必要があります.汚水と化した地下水
とか河の水の二の舞はご免です.
(2001/04/07)
・ 実際に高知の室戸海洋深層水研究所に行き取材したらどうでしょうか.守る会で高知に行くツアー
を組んでください.
(2001/05/05)
・ 33 歳 3 児の母です.環境問題にはとても関心があります.なぜなら,子育てをしながら思うのは当
然子供たちの将来ですから.そして,最近気がかりなのは,海洋深層水を商品化させようという傾
向です.私の住んでいる,静岡でも最近,焼津市で深層水を汲み取ったものを無料で持ち帰られる
施設ができました.商業化させるための調査がおわるまでということらしいのですが,このような
動きは心配でなりません.海洋資源の使用は 20 世紀に森林資源,石油資源等を使用したときのよう
に,際限もないように使い果たされ,結果大きな自然破壊をもたらすのではないかと.陸上の環境
以上に,海洋の環境は,地球の環境にとってより大きな影響をもたらします.そして水産資源にも.
どうか,深層水の取水が量的にどこまでが環境に影響が出ない程度なのか,国やしかるべき研究機
関でしっかりと調査し,規定を作成した上でなされることを切望します.そしてこのような HP が
より多くの人の目にとまり,多くの人が関心をもってくれることを希望しています.
(2001/10/01)
・ 海水の塩分を濾過する際に,ミネラルなどの成分も除かれてしまうのではないですか?治癒力を高
めるとか謳ってますが,臨床データはあるのでしょうか?それともプラシーボ効果を期待している
のでしょうか?この事業に大きく関ってる方を知っていますが,お名前が全く出てこないのも不思
議に思っています.
(2002/06/01)
・ どうも,主張を一通り読んでみました.それでお聞きしたいのですが,これは昨今の環境問題とど
う関わってくるのでしょうか.これは大変そうだ.だから反対するととれるのですが.何を主眼に
おいてらっしゃるのかわかりません.商業的にいう深層水(深さ数 100m)と海洋大循環に関係あ
る深層水(深さ数 1000m)とは別物にしか見えません.数 100mの商業的深層水と海洋大循環でい
うところの深層水の関係はどうなっているのでしょう.研究者がはっきり説明する必要はあるとは
17
思いますが,そちらの会としても反対の根拠を現していただかなければ何ともいえません.反対す
るにもそれなりの根拠が必要だと思うのですが.いかがお考えでしょうか.
(2002/06/02)
・ 海洋深層水は,くみ上げただけでは商品とならず,必ず微量元素を分離し,それを脱塩し,又水と
まぜる.これでは,工業製品ですよね.自然派を標榜するのは無理があります.で,この分離,還
元する過程で相当人体に良からぬ物になってしまうらしいのです.いま私はそれを調べているので
すが,なにか情報があったら教えてほしいのです.では.
(2002/08/23)
・ 海洋深層水は発ガン性が高い.最近この水が大きく注目を得ている.弊社でこの水の成分であるう
ち重水について調査しました(神奈川大学理学部関邦弘教授研にて測定した結果があります)
.一般
の水は 150ppm,高地では 146ppm(100 万分の 146 個の重水を含んでいる)
.深い海では 156ppm,
南洋は 156ppm と重水の濃度が高い.この研究は日本では弊社が初めて研究しておりハンガリー,
ルーマニアでは重水の少ない水を人工的に作りがん予防に使っている.しかし日本ではわざわざ重
水の多い海洋深層水を売り出し飲もうとしている.発ガン性の高い重水の濃度の高い水をなぜ飲む
のか警告をします.この理論が解明されると製造中の企業はがん患者に訴訟をされて大変な社会問
題が発生するとご忠告したい.詳しくお知りになりたい場合は弊社へお越し下さい.立証するデー
タを数多くお出しできます.
千代田区東神田1-5-12 龍角散ビル一階 インターナショナル サイエンティフィック 社
社長 臼井龍夫(2003/03/07)
・ 初めて書き込みします。
私は愛媛大学法文学部に所属する井上琢磨と申します。
現在私たちは、今年の 9 月 7~10 日に高知県室戸で潰瘍深層水や、漁業についてのフィールドワー
ク(現地に赴いて、問題解決のための調査をすることですかね?)を予定しています。
その際に室戸の海洋深層水を守る会のメンバーの方にお話を伺えたらと思っています。
ですが、そのための接触方法が分かりません。
(管理者へのメールができないんです^^;)
室戸にお話を伺えるようなメンバーの方はいらっしゃいますか?(2003/07/07)
・ 初めて当掲示板に来てみました。某TVの放送で、深層水温度差発電を見てから気になりここに行
き当たりました。
私としての現段階の結論は、正直「わからない」です。
日本は、海洋国なので反対する人は少ないんだろうなあ。
。とは思うんですが、私にとっては反対意
見も重要です。HP関係は、賛成ばかりだからです。どっかにある不安をすっきりしたいんです。
深層水は、循環だそうで・・・ということは、全体量が決まっているはず。そこから汲み上げたら、
物理的にどこの水がそこをおぎなうのか?でもきっちり水深 200mで、別れているわけでもなし、
自然に交じり合ってるのは、どのくらいなんだろう?でも、発電だからかなりの量を取水するんだ
ろうなあ?
わかんないだらけ。
。判断のしようがありません。
(2003/08/22)
・ 最近、ハワイ沖で水深 3500 メートルから取った海洋深層水の売り込まれているようです。この水は
2000 年前に北欧の氷河が溶けて、海に流れこみ、長い時をかけてハワイ沖に上がってくるらしいで
す。最初は発電目的で取水していたようですが、今では飲料などの目的で取水しているようです。
2000 年ころに某テレビ番組で、海洋深層水の流れが地球の温暖化などにも影響を与えているという
ことを見た覚えがあり、それを大量にくみ上げることで、流れの速度などが変化し、環境などにも
大きな影響を与えるのではないか、と考えています。また、その売り文句では、一日に 1・5 リット
18
ルの水を飲むことが、体質改善につながるとしていますが、毎日ペットボトルを消費し、またハワ
イから多大なエネルギーを使って届けられることを思うと、これまた大きな環境破壊につながると
思うのですが。2000 年前の水を大量にくみ上げるのは、何千年も生きてきた縄文杉を切ったり、森
をこわしたりすることと似ているように思えます。また、すぐ影響が見えない、という点では、土
に科学肥料を蒔く、とりあえず結果はすぐには見えなかったけれど、後から土壌の汚染が問題とな
り、不毛の地になってしまう、ということと類似しているのでは、と思います。どなたか、研究者
の方で、このことをきちんと答えてくださる方はいらっしゃらないのでしょうか。せめて影響など
が納得のいく形で説明されるまで、取水をストップできないものでしょうか。ハワイでは、州政府
をあげて、この水深 3500 メートルの海洋深層水を売りに出す、というようなことも言われているそ
うです。地球に生き物が住めなくなってしまうのではないか、と本当に心配です。
(2004/06/10)
・ さっと見ましたが何年も経っているのに HP の内容が進歩していませんね。ここで取り上げている
深層水の定義は何ですか?海底を這う海洋学上の深層水でしょうか?それとも日本で事業用に用い
られている「深層水」=海洋学上の中層水でしょうか?
こんな基本さえも押さえずにこれだけの HP を立ち上げる目的は何なんですか?
深層水がなくなるのが不安だと書かれていたりしますが、新たに作り出されていることはご存知な
いのでしょうか?
この HP の目的や主催者が不明なのですが(でも HP は立派)
、地球環境を守るために閉鎖されては
いかがでしょうか?地球温暖化を防ぐために少しでも無駄なエネルギーは使わない方がいいと思い
ますので。
(2005/09/19)
これらの意見をまとめると,科学的データを基にした意見が 1 件,漠然とした不安が 8 件,企業の広
報姿勢に対する批判が 3 件,この HP そのものに対する批判が 7 件となっており,定量的な比較を基に
した意見交換を望む声も多いことがわかった.
19
2.2 CO2 海洋隔離
2.2.1
CO2 海洋隔離のベネフィットと技術
2005 年 2 月に発効した京都議定書の第 1 約束期間(2008 年から 2012 年)が目前に迫っており,さら
に 2013 年以降の「ポスト京都」の話も既に始まっていて,欧州では温暖化ガスの 20~30%削減を提案
する動きがある.CO2 削減に量で貢献できる技術の一つとして,海洋への CO2 隔離がある (Marchetti,
1977; Liro et al., 1992; Ohsumi, 1995; Broecker, 1997)
.CO2 海洋隔離とは,人間の手で CO2 を温度躍層より
下の深海に送り込むことで,海の CO2 吸収力を人為的に促進しようというコンセプトである.
図 2.2.1-1 CO2 海洋隔離のコンセプト(RITE 提供)
大気の CO2 濃度が上昇すると,それと平衡になるように海は CO2 を吸収する.従って,わざわざ人間
が送り込まなくても,これまでのように CO2 を大気に出し続けると CO2 は自然に海に溶け込むことにな
る.しかし,海には温度躍層があるため表層水と中深層水に分かれており,鉛直方向の拡散はなかなか
進まない.表層水はすぐに大気と平衡になるが,それが中深層に行き渡って,大気・海洋システム全体
として平衡になるのに数百年から数千年かかると言われている.Hoffert et al.(1979)は,地球上の化石
燃料の 90%が 2100 年までに使い果たされると仮定して,Box Model を用いて計算し,大気・海洋間にお
ける CO2 交換はおよそ 3000 年で平衡に達し,大気中の CO2 分圧 (pCO2) は 1150ppm となると予測し
,こ
た.さらに,人類がこれまでのように CO2 排出削減に注意を払わない場合(Business-As-Usual Case)
の平衡に達する前の 21 世紀の終わりには,大気の pCO2 が一時的に 2800ppm にまで上昇するようなピー
クが来ると予測している.人間が大気に出す CO2 の量が多いため,海全体による吸収が間に合わず,大
気と表層水中の CO2 濃度がオーバーシュートとなり,局所的な気候変動や海洋表層の酸性化などのよう
な,CO2 濃度の一時的なピークや濃度変化の早さに起因するハザードを引き起こす懸念がある.
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は,様々なシナリオを用いた全球大気循環モデルによるアン
サンブルシミュレーションによって,21 世紀の終わりに大気中 pCO2 は 550ppm から 1000ppm を超える
範囲になると予測している(IPCC, 2001)
.しかし,Thornton and Shirayama(2001)は,560ppm 程度の
pCO2 でも大陸棚海域のウニなどの底生生物は重大な損害を被ると指摘している.これは,IPCC の用い
た最も控えめなシナリオでさえ大陸棚における生態系の持続が困難であることを意味する.Sabine et al.
(2004)
や Feely et al.(2004)
は,
3 つの国際共同研究
(World Ocean Circulation Experiment, Joint Global Ocean
20
Flux study, Ocean-Atmosphere Carbon Exchange Study)のデータを分析し,産業革命以降大気に放出された
CO2 の約半分を海洋が吸収しており,残りが大気中に残存していると報告し,Takahashi(2004)は,こ
のことは陸上植物が大気中の CO2 にとって中立であったことを意味すると述べている.すなわち,人類
が放出した CO2 の行き先は大気か海洋の 2 つのみと言うことになる.大気に放出した CO2 が表層水に溶
解することで引き起こされる海洋表層酸性化の影響として,600ppm と平衡した表層水中では海洋生物
が作る炭酸カルシウムが溶け出し,アラゴナイトを殻や骨格として作るサンゴ・ウニ・動物プランクト
ンの翼足類,カルサイトを殻として作る植物プランクトンの円石藻や動物プランクトンの有孔虫等は酸
性化の危機にさらされるという報告が最近出された(Orr et al. 2005)
.大気中の pCO2 の上昇ピークおよ
び,その結果としての海洋表層の生態系へのインパクトを避けるためには,CO2 を大気から隔離する手
段が必要となる.海洋隔離は,CO2 を大気および海の表層をバイパスさせ,温度躍層より下の収容量の
大きな海水中に直接注入することによって,その分,大気中および表層水中の CO2 濃度の上昇を緩和さ
せることを目的としている.
海洋隔離を行うか否かに関わらず,排出した CO2 は最終的には大気か海洋に配分されて平衡になるた
め,海洋隔離はこの平衡濃度を低減するものではない.従って,再生可能エネルギーのような CO2 をほ
とんど出さない技術が「もの」になるまで,すなわちエネルギー供給源として量的に化石燃料に取って
代われるようになるまで(今世紀後半くらいか)
,化石燃料起源の CO2 を大気から隔離する技術と位置
づけられる.クリーンな排ガスや高効率を特徴とする水素エネルギーの製造・利用に関する技術開発が
各国で進められ,今後インフラも整備されて実用化が進むと期待されているが,水素製造技術の開発で
は,水を直接分解する方法よりも,天然ガスの改質や石炭ガス化による方法がコスト・量の面で現実的
隔離を伴って初めてクリーンということになる.
であると考えられている.
このとき排出されるCO2 は,
このように海洋隔離には CO2 濃度の急激な上昇を緩和するというベネフィットがあり,経済活動とバラ
ンスを保つことで,無理なくエネルギーインフラの変革に寄与することができる.
現在,CO2 の直接注入には,中層溶解法と深海貯留法の 2 つの方法が考えられている.液体 CO(LCO
2
2)
の密度は,およそ 3000m 前後で海水密度との間の上下関係が変化するため,3000m より浅い地点で放出
すると,CO2 液滴は溶解しながら上昇する.溶解しきるまでの高さを鉛直希釈とし,水平希釈を放出船
の移動で制御する方法(Moving Ship 法)が前者の中層溶解法である.一方,3000m より深い地点で放
出した場合,LCO2 は液滴となって落下し,海底の窪みに CO2Lake となって貯留される.これが後者の
深海貯留法である.
中層溶解法の希釈技術開発においては,深海での CO2 の放出方法によって,動物プランクトンに急性
影響が発現する前に,深海中の CO2 濃度の自然変動分以下に希釈させることが重要となる.鉛直希釈が
液滴の溶解距離によるため,液滴サイズのコントロールが必要であり,そのためのノズル開発が行われ
ている(Masutani et al., 1997; Minamiura et al., 2004; Yamasaki et al., 2004)
.液滴サイズが決定されると,液
滴上昇速度や溶解距離はモデルにより計算することができる.また水平希釈のために,長さ 2000m 以上
のパイプを牽引する Moving Ship 法が発案されている(Ozaki, 1997)
.これは,陸上プラントで回収した
CO2 を液化して海上輸送し,目的の海域でパイプを吊り下げた船が,深さ 2000~2500m の海洋中に CO2
を連続的に放流するものである.
21
図 2.2.1-2 中層溶解法のコンセプト(RITE 提供)
参考文献
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23
2.2.2
CO2 海洋隔離の環境影響
海洋隔離は海洋表層の生物影響を緩和することができるが,その一方で,リスクとして深海生物への
影響が考えられる(Herzog et al., 1996; Auerbach et al., 1997; Caufield et al., 1997; Sato & Sato, 2002; Herzog et
al., 2003; Sato, 2004)
.このため海洋生物に対する CO2 の影響が,近年海洋生物学者によって詳細に調査
されるようになってきた.魚類や底生生物,動物プランクトンなど様々な生物の CO2 影響を実験的に調
べてデータを集積している(Kita & Ohsumi, 2004; Portner et al., 2004; Riebesell, 2004; Ishimatsu et al., 2004;
Kurihara et al., 2004; Kikkawa et al. 2004)
.
さらに深海生態系モデルによる長期影響予測法も開発中である.
また熱水鉱床の近くで自然に CO2 が出ている海域で周辺の CO2 濃度や pH をモニタリングし,海洋実験
に備えている.
中層溶解法の環境影響評価のための手法として,CO2 の海洋中での移流拡散を予測する数値モデルが
開発されている.これらは放出点近傍域(100-1000m)
,メソスケール(10-100km)
,および海洋スケー
ル(1000-10000km)の 3 つの空間スケールで分類される.近傍域モデルは,気液二相流と物質・温度の
輸送に基づき, Socolofsky et al.(2000)や Alendal & Drange(2001)
,Sato & Sato(2002)
,Chen et al.(2003)
が,LCO2 プルームの挙動と溶解 CO2 の拡散を調べている.海洋スケールのシミュレーションは Dewey et
al.(1997)と Wickett et al.(2003)らによって行われた.後者は 1 度メッシュを用いた高解像度モデルと
なっている.Sato (2005)は,動物プランクトンの CO2 に対する死亡率モデルを考案し,Sato et al. (2004)
はそれを放出点近傍域の CO2 乱流拡散シミュレーションと組み合わせることで,早期の希釈により動物
プランクトンへの急性影響はほとんどないことをモデル計算した.
深海貯留法では,ハイドレートが海水への CO2 溶解を抑制し,かつ海底付近での境界層によって海流
.CO2Lake の直下の生態系
が遅いため,LCO2 が長期間貯留できると考えられている(Brewer et al., 1999)
は絶滅するが,その面積は限定され,問題はハイドレートから溶解した CO2 による底生生物への影響で
ある(Omerod & Angel, 1996)
.ハイドレート膜は中層溶解法の液滴上昇時にも形成されるため,そこか
らの CO2 溶解度を詳細に調べる必要がある(Teng et al., 1996; Hirai et al.; 1997, Aya et al., 1997; Rehder et al.,
2004)
.
前節で述べたように CO2 の海洋隔離にはベネフィットがある反面、深海生態系へのリスクがある。こ
のベネフィットとリスクを可能な限り明らかにして、何らかの指標を用いて科学的に評価する必要があ
る。一般社会にオープンし,人々の理解を深め,議論を促進し,社会的合意を形成することが不可欠で
ある.廃棄物の海洋投棄を規制している国際条約(ロンドン条約)での取扱いも,科学的データを十分
蓄積した上で今後議論されなければならないであろう.
参考文献
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25
2.2.3
CO2 海洋隔離に関する社会受容性
(1) 背景
CO2 海洋隔離においては海洋を大規模に利用する点から,一般の人々の理解を得る必要,すなわち社
会受容性の向上という問題が存在する.そして CO2 海洋隔離の社会受容性を向上させるためには技術発
展や,これらの技術に関する情報を正確に一般の人々へと伝達していく必要がある.また情報の伝達も
科学者が一方的に行うのではなく,一般の人々の意見も聴き,対話を行いながら情報交換を行っていく
リスクコミュニケーションが重要である.
一方で,海洋だけでなく全ての生態系には,人類には完全に理解できないような非定常性と不確実性
が潜んでおり,生態系の全てを解明することは困難であると考えられている.そこで提案されているの
が順応的管理である(勝川,2005)
.これは,管理対象である生態系が非定常性と不確実性を含んでいる
ということを前提に,政策の実行を順応的な方法で,多様な利害関係者の参加のもとに実施するもので
ある.このような取り組みは,開発段階において行い,予めリスクコミュニケーションすることで実用
段階に起こることが予想される問題を把握しておくことに幾つかの重要な意味をもつ.その一つ目には
実用段階において何らかの問題発生が起きた場合にも不作為責任の回避が出来るという点,二つ目には
一般の人々の問題意識を把握することが出来ることから,研究投資の重点化が出来るという点,最後に
今後 CO2 海洋隔離が事業化された場合に,順応的管理のプロセスを経て合意形成を得たということ事実
によって,産学化の段階で国際競争において優位に立てるという点が挙げられる.
以上の事から,CO2 海洋隔離を実用段階に移行する以前の開発段階において,その社会受容性を評価
し,またリスクコミュニケーションを行うことで,一般の人々の価値観,CO2 海洋隔離に対するイメー
ジ,問題意識を把握しておくことは,今後の海洋隔離を世間に普及させていくための重要な足掛かりに
なると言える.
(2) CO2 海洋隔離の社会受容性に関するアンケート調査
ここでは,CO2 海洋隔離の社会受容性に関して行われたアンケート調査について説明する.このアン
ケート調査では,社会受容性に対して影響を与えている因子を割り出し,どのような情報が社会受容性
に対して効果を与える可能性があるのか解析を行った.
① 被験者
被験者は長崎大学,東海大学,京都大学,東京大学の大学生,大学院生,合わせて 174 名であった.
必ずしも一般市民を代表するものではないが,アンケート回収率の高さを重視し学生限定にした.調査
は,当該大学のそれぞれの講義時間の一部をお借りし,質問紙により行った.
② 質問紙構成
ここではアンケート質問用紙について説明する.質問紙は,共分散構造分析により分析するものと,
コンジョイント分析により分析するものとの 2 種類の質問から構成されている.大学生,大学院生に対
して,徳重(2005)を参考にした,表 2.2.3-1 に示した 38 の設問と,4 つの電力に関する設問に対して
回答を求めた.尺度は SD 法の 7 点尺度とした.また徳重(2005)が社会的受容の因子に対してリスク
認知,ベネフィット認知因子以外の因子が影響を及ぼしていると示唆していることを参考に,表 2.2.3-1
の 13~33 の質問項目にあるように環境倫理因子と信頼因子を加えた.
③ 因子について
ここでは本研究で用いた社会的受容,リスク認知,ベネフィット認知,環境倫理,信頼因子いついて
の説明を行う.まず社会的受容因子だが,これは人々が CO2 海洋隔離をどの程度受容しているのかを示
す因子である.次にリスク認知,ベネフィット認知因子についてだが,これらは人々の CO2 海洋隔離に
26
対するリスク,ベネフィットの感じ方や捉え方の状態を示す因子である.すなわちリスク認知の高い人
とは,より他の人よりも危険だと感じやすい人のことを示す.次に環境倫理因子は,人々の環境に対す
る倫理観を示す因子であり,信頼因子は人々が CO2 海洋隔離を行う組織に対する信頼の強さを表した因
子である.本研究ではこれらの因子を定量化することにより分析を行っていく.
表 2.2.3-1 アンケート設問項目
22.組織への信頼
現
23.情報の公開
在
24.組織の能力
ィッ
1.社会の便益
ベ
ネ に
フ 関 2.個人の便益
す
3.将来世代の便益
る
ト 設 4.社会への貢献
認 問
知
5.個人的な必要性
リ
ス
ク
認
知
に
関
す
る
設
問
信
頼
に
関
す
る
設
問
6.安全性
7.結果の深刻さ
8.リスクの観察可能性
9.リスクの科学的知見
10.リスクの新規性
25.海洋生物の安全への関心と配慮
26.CO2モニタリングの実施
27.CO2モニタリング期間
将
来 28.CO2挙動予測の実施
へ
29.CO2挙動予測期間
の
期 30.情報の公開
待
31.万一の場合の被害者への補償
11.海洋環境への影響
32.第3者評価機関の存在
12.海洋生物への影響
33.安全・環境基準の存在
地 13.防止の積極性
球
温 14.自然の摂理への適合性
環 暖
境 化 15.文明発展のツケ
倫
理 海 16.人間の立ち入りの是非
に 洋
関 隔 17.自然の摂理への適合性
す 離 18.自然のコントロール
る
設
19.環境か経済か
問 自
然 20.自然のまま
社
会
的
受
容
34.個人的な受容
に
関 35.場所による受容
す
36.社会の受容
る
設 37.将来世代の受容
問
38.推進の可否
39~42.電力に関する設問
21.自然の権利
④ 情報提供の概要
CO2 海洋隔離に関する知識がそれほど無いと考えられる大学生,大学院生に対して,質問紙調査(1
~38 の質問から構成)を実施した後,地球温暖化と CO2 海洋隔離関する情報を提供し,再度,質問紙調
査(1~42 の質問から構成)を実施した.これによって,情報提供が社会的受容やリスク認知,ベネフ
ィット認知にどのような変化をもたらし得るのかの評価を行った.表 2.2.3-2 に提供した情報の項目の概
要を示す.
それぞれの情報提供は図,
グラフを中心にしつつ簡単な解説を添えた紙面による説明とした.
27
表 2.2.3-2 情報提供項目
地球温暖化に関する情報
① 地球温暖化の原因
② 炭素循環
③ 地球温暖化のメカニズム
④ 地球温暖化の予測
⑤ 地球温暖化の影響
⑥ 地球温暖化の対策
CO2海洋隔離技術に関する情報
① 海洋隔離の概念
② 海洋隔離の効果1
③ 海洋隔離の効果2
④ 海洋隔離技術の概要
⑤ 海洋隔離のリスク
⑥ 希釈技術と環境影響評価技術の開発
⑦ 海洋隔離技術の現状と今後
⑧ 海洋隔離に関する組織
(3) アンケート調査結果
リスク認知
① 情報提供による社会受容性の変化
0.008
0.006
0.004
0.0679
0.002
0
-0.1
-0.05 -0.002 0
-0.0679
0.05
-0.004
0.1
ベネフィット認知
-0.006
-0.008
情報提供前
情報提供後
図 2.2.3-1 情報提供前後での変化
CO2 海洋隔離に関する知識がそれほど無いと考えられる大学生,大学院生に対して,質問紙調査を実
施した後,地球温暖化と CO2 海洋隔離関する情報を提供し,再度,質問紙調査を実施した.これによっ
て,情報提供が社会的受容やリスク認知,ベネフィット認知にどのような変化をもたらし得るのかの評
価を行った.情報提供前後での因子得点の変化を図 2.2.3-1 に示す.CO2 海洋隔離に関する一般的な情報
がベネフィット認知,社会的受容に対して効果的であることを示している.一方,リスク認知も同様に
増加しているが,これは情報の提供により CO2 海洋隔離のリスクを正確に知った結果,リスク認知が上
昇したのではないかと考えられる.リスク認知,ベネフィット認知による社会的受容への寄与を共分散
構造分析によって評価した.
結果は表 2.2.3-3 のようになり,リスク認知は社会的受容に対してマイナスの影響を及ぼし,ベネフィ
ット認知は社会的受容に対してプラスの影響を及ぼしていることがわかる.また情報提供後にはリスク
28
認知,ベネフィット認知の係数が共に増加しており,情報提供により社会的受容に対してリスク認知が
社会的受容に対して与えるマイナス影響が減少し,ベネフィット認知が社会的受容に対して与えるプラ
ス影響が増加することが示されている.しかし二要因による説明率は高くなく,他の要因による寄与が
考えられる.
表 2.2.3-3 社会受容性に対するリスク・ベネフィット認知による寄与
標準化係数
リスク認知 ベネフィット認知
-0.341
0.653
-0.333
0.761
2要因による説明率
情報提供前
情報提供後
0.542
0.690
②社会受容性に影響を与える因子
前節から社会的受容にはベネフィット認知・リスク認知以外の因子の寄与が考えられる.よって本節
では新たに環境倫理・信頼因子を加えて,共分散構造分析を行った.結果を図 2.2.3-2 に示す.
図 2.2.3-2 五因子の関係
決定係数 R2 は 0.84 となっておりリスク認知因子,ベネフィット認知因子,環境倫理因子,信頼因子
による社会的受容に対する寄与は大きいといえる.図 2.2.3-2 で示されている係数は影響の強さを表して
おり正の値はプラスの影響,負の値ならその逆となる.図 2.2.3-2 から社会的受容を高めるためには,ベ
ネフィット認知の向上とリスク認知の低下を心がけ,情報発信・技術開発を行っていく必要があること
がわかる.また組織に対する信頼を高めることで社会的受容に対してプラスの影響を与えると同時にベ
ネフィット認知を増加させ間接的に社会的受容にプラス影響を高めるので,信頼の向上も非常に重要で
あるといえる.
29
図 2.2.3-3 因子それぞれの分析
またそれぞれの因子を細分化し,それらを定量化したものを図 2.2.3-3 に示す.各因子との関連性が強
い項目に対して重点的に研究開発や広報を充てることにより,社会的受容の向上へと繋がる可能性があ
る.信頼因子は直接的にも,間接的にも社会受容性に及ぼす影響が強いため,信頼を向上させることは
重要であることが言える.ここでは将来への期待に関する設問に対する回答を分析し,どのような行動
が信頼の向上に繋がるのか調べた.結果を図 2.2.3-4 に示す.信頼を高めるためには「海洋生物の安全へ
の関心と配慮」や「CO2 モニタリングの実施」に関して対策を講じることが信頼の確立には重要である
ことが言える.総じて,実施者が海洋生物をリスクから守ることに関心を払うことが信頼を高める重要
な対策であると言える.
図 2.2.3-4 信頼(将来)の分析
以上より,社会受容性はリスク認知,ベネフィット認知,信頼,環境倫理の 4 因子による寄与が大き
いことがわかり,
ベネフィット認知を高めることが,
社会受容性を高めるのに有効であることが言える.
30
またベネフィット認知を高めるためには,現時点で有する CO2 海洋隔離がもたらすベネフィットに関す
る情報を適切に発信することが重要であると言える.その他にも海洋生物の安全を意識し,また隔離後
の CO2 の挙動をしっかりとモニタリングすることが組織への信頼を高め,社会受容性の向上へと繋がる
と言える.
表 2.2.3-4 研究テーマの評価一覧
研究課題
CO2海洋隔離の炭素循環ボックスモデル計算
の
CO2海洋隔離の3次元全球モデルによる計算
有
2
効 GHGT-7における海洋隔離のモデル計算に関する情報収集
海 性
洋 評 CO2海洋隔離の経済的便益に関する検討
隔 価 粒子追跡法による深海に投入されたCO2の挙動予測
離
モデルによる再現
海洋観測航海
環
生物現存量調査
境
食物連鎖の研究
影
響
生態系モデルの開発
評
プランクトン急性致死実験
価
魚類急性実験
技
術
深海魚のCO 2耐性と鰓塩類細胞に関する研究
の
急性致死モデルの高度化
開
深海現場CO 2暴露実験
発
C
O
C
O
2
希
釈
技
術
の
開
発
微生物多様性の研究
希釈の数値シミュレーション
傾斜円柱実験
曳航時の傾斜パイプに作用する抵抗測定
強制振動傾斜円柱に作用する流体力計測に基づくVIV挙動予測
数値流体構造解析によるVIV挙動の予測手法開発
送り込み開始・終了時のCO2放出パイプ内ガス置換手法の検討
沖縄トラフ海域におけるCO2液滴観測
沖縄トラフ海域におけるpH鉛直分布観測
モデルによる検討
液滴上昇高さの検証
観測による小規模海洋乱流場の解析
モデル計算による小規模海洋乱流場の解析
高解像度モデルを用いたCO2の輸送および希釈の予測
関連因子
評価
ベネフィット認知
○
信頼(将来)
○
◎
◎
:
非
常
に
有
効
で
あ
る
リスク認知・信頼(将来)
◎
リスク認知
○
信頼(将来)
◎
信頼(将来)
○
○
:
有
効
で
あ
る
また社会受容性にマイナス影響を与えるものとして,リスク認知が挙げられたが,リスク認知は主に
海洋環境や,海洋生物への影響を低減させることが重要であり,これらに関する研究や研究成果の情報
発信がリスク認知の低減に繋がると言える.環境倫理観も受容に及ぼすマイナス影響は大きく CO2 海洋
隔離が海洋の自然に手をつけ,コントロールし,自然の摂理に反していると人々に解釈されると社会受
容性が減少する可能性がある.よって自然への介入が強いなどと見なされないように配慮することが重
要であると言える.具体的な対策とすれば,CO2 海洋隔離は炭素循環を促進させるものであり,いずれ
起こるであろう海洋の表層酸性化を防ぐ有効な手段であるというようなベネフィットに関する情報発信
を行うことで,環境倫理観によるマイナス影響は防げるのではないかと考えられる.次に以上の結果を
踏まえて,
(財)地球環境産業技術研究機構の CO2 海洋隔離に関する研究課題(H16 年度二酸化炭素の
海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発報告書)を PO(Public Outreach)活動の観点から有効であうかど
うか評価した.結果を 2.2.3-4 に示す.やはり生物に対する影響や,CO2 の挙動観測実験等を中心に研究・
31
研究成果の情報公開を行うことが重要である.
③選考調査
本調査ではコンジョイント分析は評価対象に対する選好を回答者に複数回尋ねることで,評価対象を
構成する属性毎に価値を評価する.属性と水準を表 2.2.3-5 のように設定した.
表 2.2.3-5 属性と水準
属性
電気料金[円]
CO2削減量[万ton]
海水CO2濃度[ppm]
水準1
6,500
1,000
1,000
水準2
6,750
2,000
3,000
水準3
7,000
3,000
5,000
水準4
7,250
4,000
10,000
得られた回答結果に対してコンジョイント分析を行い,各属性のパラメータを算出した.得られたパラ
メータは全て統計的に有意であり,そのパラメータから式(2.2.3-1)を用い限界支払意思額(Marginal
willingness to pay)を算出し,結果を表 2.2.3-6 に示す.
MWTP x1 =
∂V
dT
=−
∂x1
dx1
β
∂V
=− 1
∂T
βT
(2.2.3-1)
表 2.2.3-6 限界支払意思額
属性
限界支払意思額
単位
CO2削減量
226.4 円/千万t
海水CO2濃度
-135.2 円/千ppm
CO2 削減量については 1 千万tの CO2 を削減することが,1 ヶ月 290kWh の電気料金が約 6200 円から
約 226 円追加的に上昇することを受容れさせるほどに評価された.
また,海水 CO2 濃度については海水の CO2 濃度が 1,000ppm 上昇することに対して,電気料金が約-135
円追加的に上昇することを受容れさせるほどに評価された.言い換えれば,希釈技術の発展により,現
在の希釈率は 6 万分の 1 となっているが,これをさらに 1 千分の 1 上昇させるのに 136 円の追加的な上
昇を受容れさせるほどに評価された.
一方,一世帯の月平均電力使用量 290kwh から発生する CO2 をすべて CO2 海洋隔離によって回収・固
定を行うと仮定し,表 2.2.3-7 に基づいてコストの上積み分を算出すると 833 円となる.
表 2.2.3-7 コスト一覧
CO2海洋隔離コスト
平均的な一世帯電力料金
排出量原単位
コスト
単位
6518~8229 円/t-CO2
6200
円/290kwh
kg-CO
0.39
2/kwh
なお CO2 海洋隔離コストに関しては表 2.2.3-7 に示したコストの下限,上限値の平均値を用いた.ここ
で限界支払意思額の算出結果と電気料金の上積みコスト 833 円を用い,833 円電気料金の値上げを行っ
32
た場合の最低限の達成目標は表 2.2.3-8 の通りになる.
この結果から,833 円のコストの上積みを行った場合,目標の CO2 削減量は 3,679 万 t,また希釈率に
おいては現在より追加的に 6,161 分の 1 以上の希釈率を上昇させる必要があると言える.
表 2.2.3-8 限界達成量
CO2削減量
希釈率
限界達成量 単位
3.679
千万t
6.161
倍
(4) Web によるリスクコミュニケーション
ここでは Web 上において仮想的な海洋実験を舞台とし,
議論を行い CO2 海洋隔離に対してどのように
人々が感じているのか,意見を抽出している.また海洋実験は現実には困難であるため生物死亡率モデ
ル(吉本,2004)とプランクトン死亡率モデル(Sato,2005)を用いて影響量を推定する.
①Web リスクコミュニケーション概要
Web 上において仮想的な実験を舞台とし,前章で説明した死亡率モデルを用いて,そこで行われる作
業,得られる結果について自由に BBS 上で議論を行ってもらう.
作成した Web ページ(図 2.2.3-5 から図 2.2.3-10)は大きく分けて,CO2 海洋隔離技術の説明,CO2 海
洋隔離実験の様子,議論・質問の場,の三つから構成されている.被験者にはまず一通りの実験の様子
を理解してもらい,その後議論へと移って頂いた.
まず図 2.2.3-5 のトップページには更新情報と本サイトの説明書きを加え,必要であれば図 2.2.3-6 に
示した,CO2 海洋隔離についての基礎情報も得られるようにした.次に図 2.2.3-7 に示された実験につい
てのページでは,CO2 投入,CO2 拡散,モニタリング等について説明し,最後に実験結果である生物影
響量について説明した.ここでは前述したとおり,生物死亡率モデルを用いて,生物影響量を算出した.
最後に BBS ページにて CO2 海洋隔離についての議論を行って頂いた.議論の一部を図 2.2.3-8 から図
2.2.3-10 に示す.
33
図 2.2.3-5 トップページ
図 2.2.3-6 情報ページ
34
図 2.2.3-7 モニタリングの様子
35
図 2.2.3-8 BBS ページ 1
36
図 2.2.3-9 BBS ページ 2
37
図 2.2.3-10 BBS ページ 3
38
②分析方法
議論の分析については以下の 5 つの定義を用いて議論単位ごとに関係付けを行う.
表 2.2.3-9 議論分類の定義
定義
① 証明(Prove):議論単位Aよると議論単位Bは必然的に真である。(ApBと記す)
② 支持(Support):議論単位Aによると議論単位Bが真であることがあり得る。(AsBと記す)
③ 反論(Challenge):議論単位Aによると議論単位Bが偽であることがあり得る。(AcBと記す)
④ 反証(Disprove):議論単位Aによると議論単位Bは必然的に偽である。(AdBと記す)
⑤ その他(Others):議論単位Aは議論単位Bに対して論理的帰結を持たない。(AoBと記す)
今,ある議論単位 A と直接または間接的に証明,支持,反論,反証,その他いずれの関係を持つ議論単
位の個数をそれぞれ ip (A),is (A),ic (A),id (A),io (A)とし,これらを要素とする集合を i (A)={ ip (A),is (A),
ic (A),id (A),io (A)}とすると 2 つの指標,肯定的根拠率(PGR)と被議論率(AR)が定義される.
PGR A =
AR A =
i p (A) + is (A)
(2.2.3-2)
i p (A ) + i s (A ) + ic (A ) + id ( A)
∑i
(A) + 1
j
j∈{ p , s , c , d ,o }
∑ { ∑i
(2.2.3-3)
(a )
j
a∈Ω j∈ p , s , c , d , o}
Ω:議論単位 A と比較対象となる議論単位 a の集合
PGR は議論単位 A から派生した全ての議論の内,A を証明または支持するものの占める割合である.
AR は議論単位 A と比較対象となるような全ての議論単位の内,A から派生した議論の占める割合であ
る.
③リスクコミュニケーション結果
Web 上で行われた議論をツリー構造にすると図 2.2.3-11 のようになる.前述した PGR 値と AR 値を見る
と,まず AR 値から,議論は「生態系への影響が不安」と「濃度を上げて実験を行うべき」の二つの議
題が中心となっていることがわかる.前者の議題についてはツリー構造を下にたどると「実験を行えば
いい」と言う議題が最も AR 値の高いものとなっている.
このように実験を行うことで生態系の影響を解明するべきという議論が中心に行われ,PGR 値も高い
数値を示している.次に後者の「濃度を上げて実験を行うべき」と言う議論のツリー構造を下にたどる
と生物量を基準として海洋隔離を行う海域を選択するという議論が中心を占めている.
以上のことより,実験を行うことや,環境影響評価技術の発展や,生物現存量調査を行い,生物に関
する知見を深めることが社会的受容の増加に繋がると考えられる.
39
海洋隔離についての賛否
c 生態系への影響が不安
o 不安は取り除けないのか?
c 実験を行えばいい
c 実験を行ってもわからない問題はある
c 深刻な影響を出す可能性もある
s 慎重に実験を行えばいい
s 繰り返し実験を行えばいい
c どんなに努力しても影響はでる
c 人間のために生物を犠牲にしていいのか
c 地球温暖化を放置しても生物に影響はある
c いつでも実行できるように準備はすべき
c 実験により少しでも多くのことを解明すべき
s 実験してもしなくても同じなのでは
s 結果を検討し一般の人々の了解を得るべき
c 環境団体の反対がある
c 多少の損害は目をつむるべき
s 実験は中止すべきでない
s 地球温暖化に対して他に有効な打開策がない
s 削減ポテンシャルが魅力的
s 濃度を上げて実験を行うべき
s 生物量が少ない海域なら比較的高い濃度でも良いと思う
s 生物調査を長期間行うべき
c 貴重な生物がいる可能性もある
c 生物が多いところよりは少ないところを選択すべき
s 短期の死亡率だけを考えるならそれでよい
c 生物量の少ない場所でさらに生物を少なくしてしまえば
その海域の生態系は回復不能になるのでは
c 生物量の多い場所で隔離して回復力に期待する
s やはり、多い場所で行う方がよいのでは
s 結局規制が甘そうなのでどこでもできるのでは
c 生物量が多くても回復力はわからないのでは
c 回復力を測る実験を行う必要がある
c 季節、年度により変化するので
良い実験結果は得られない
o 生物量より希釈技術の発展を重視すべき
s 技術的に優れたものだ
c 隔離量に限界があるのでは
c 地球上の総量は変わらない
c 空気中の濃度を下げれば温暖化が防げる
c 大気への排出量を削減するべき
c 地球温暖化が深刻化する前でのクリーンエネルギーの台頭は困難
c 海洋隔離に頼りきるのは問題
s なるべく使わないようにしたい
c 現実では使わざるを得ない
o 細かなモニタリング情報を希望
o 投入後のCO2濃度変化を知りたい
o モデルの計算手法をしりたい
o 生態系への影響はどのくらいあるのか
c ある程度予測はできるが、予測不可能な部分は取り除けない
o 予測できる場合はどの程度精度があるのか
o どのくらいの量を隔離しなけらばいけないのか
o はっきりとは決まっていない
o 隔離量、削減量、期間を知りたい
o 6億tの削減義務があるのでは
o CO2の投入の体積は
o 隔離する量で決まる
p 放出量、日数、範囲について
o 実際の暴露濃度は
o わからない
PGR
0.61
0.36
1.00
0.58
1.00
1.00
0.67
0.67
0.20
0.75
0.00
1.00
1.00
1.00
0.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
0.67
0.64
1.00
0.33
0.50
1.00
1.00
AR
1.00
0.28
0.02
0.22
0.02
0.02
0.17
0.12
0.10
0.09
0.07
0.02
0.03
0.02
0.03
0.02
0.02
0.05
0.03
0.02
0.22
0.22
0.02
0.17
0.05
0.02
0.02
0.60
1.00
1.00
0.50
0.00
1.00
0.10
0.03
0.02
0.05
0.03
0.02
1.00
1.00
1.00
0.50
0.40
0.50
0.33
0.50
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
0.00
0.00
1.00
0.00
1.00
0.00
0.00
0.00
1.00
0.00
0.00
1.00
0.02
0.02
0.02
0.12
0.10
0.09
0.07
0.05
0.02
0.02
0.02
0.02
0.02
0.05
0.03
0.02
0.03
0.02
0.12
0.10
0.09
0.07
0.05
0.03
0.02
行
1
10
20
30
40
50
60
図 2.2.3-11 議論グラフ
(5) 結論
アンケート調査とリスクコミュニケーションの結果より,CO2 海洋隔離の社会受容性の向上のために
は以下のように研究,また情報発信していくことが重要であるといえる.
•
CO2 海洋隔離に関しての一般的な情報提供は社会的受容の増加に繋がる.
•
CO2 海洋隔離の社会的受容を構成する因子として,プラス影響を与えるものとしてベネフィット認
知・信頼,マイナス影響を与えるものとして,リスク認知・環境倫理が挙げられる.
40
•
社会的受容を高めるためには,CO2 海洋隔離のベネフィットに関する適切な情報発信や,海洋生物
の安全を意識し,隔離後の CO2 の挙動をしっかりとモニタリングすること,環境影響評価技術の研
究・研究成果についての情報発信,CO2 海洋隔離が自然の摂理に反していると受け取られないこと
等が有効な手段として挙げられる.
•
家庭で使用される電力の発電時に発生する CO2 を海洋隔離により固定すると仮定し,そのコストを
電力料金により賄うとすると,目標の CO2 削減量は 3,679 万 t,また希釈率においては現在より追
加的に 6,161 分の 1 の希釈率を上昇させる必要があると言える.
•
CO2 海洋隔離の海洋実験を行い,また CO2 海洋隔離実行の予定海域での生物現存量調査を行い,生
態系の知見を増やすことが,今後の社会受容性の拡大に繋がる.
参考文献
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41
2.3 海洋滋養
2.3.1
海洋滋養の技術
海洋の大部分は栄養塩が不足しているために一次生産が不活発な「海の砂漠」である.海洋滋養とは,
これらの海域に,不足している栄養分を選択的に投入して一次生産を上げることにより,大気中の二酸
化炭素の隔離と漁獲の増加を図る技術である.
「海洋施肥」もほぼ同様の概念を表す用語であり,英語で
は ”Ocean Fertilization” が用いられる.貧栄養海域に栄養塩を供給して生産性を上げるという点では深層
水利用と同じであるが,深層水は栄養塩と共に CO2 濃度も高いので大気中に CO2 を放出する可能性があ
るのに対し,海洋滋養では栄養塩を系外から供給するので,CO2 吸収の効果も期待できる.
海洋滋養には添加する栄養塩の種類や投入方法によって様々な方法が考えられる.添加する栄養塩に
ついては,対象海域で制限因子となっている栄養塩を選択的に投入することになる.主な栄養塩として
は,窒素,リン,ケイ素,鉄などが考えられている.
その中で最も実海域での調査研究が進んでいるものとして,HNLC 海域への鉄添加が挙げられる.
HNLC (High Nutrient Low Chlorophyll:高栄養塩-低クロロフィ ル)海域とは,硝酸やリン酸などが豊富に
あるにもかかわらず,植物プランクトンの生物量が少ない海域のことで,1930 年代に南極海で発見され
(南極パラドックス)
,
その後太平洋の亜寒帯域や赤道域でも見いだされた.
80 年代末に John Martin は,
海洋の植物プランクトンが取り込む栄養塩元素の比が C:N:P:=106:16:1 に対し 10-3〜10-4 の鉄が必要であ
るとすると,アラスカ湾や南極海では鉄は硝酸やリン酸よりも先に枯渇することや,外洋への主要な鉄
の供給源は風で運ばれる土壌粒子であるが,HNLC 海域は陸から離れており大気粉塵の降下量が少ない
ことなどから,HNLC 海域の生物生産は鉄の不足によって制限されていると考えた(Martin, 1990)
.こ
の仮説は次節で述べる近年の HLNC 海域における鉄散布実験によって支持されている.Michael Markels
らは,太平洋赤道域などの HLNC 海域への鉄添加による海洋滋養を商業規模で行うことを提案している.
Markels and Barber(2001)によると,5000 平方マイルの海域に 20 日間の滋養を行うことによって 0.6〜
2Mt の CO2 を隔離可能であり,商業規模で実施したときの隔離コストは CO21トン当たり 1〜2 ドルと
試算されている.
その他には,シドニー大学の Ocean Technology Group はアンモニアを陸上あるいは洋上の浮体式プラ
ントから供給するシステムによる海洋滋養を提案している(図 2.3.1-1)
.彼らは海洋滋養が漁獲の増加
をもたらすことに着目して,チリの湧昇域や食料不足が懸念される国の沿岸をターゲットとしており,
年間 1Gt の窒素を供給することにより 5Gt の炭素を隔離可能であり,そのコストは炭素1トン当たり 30
ドルであると試算している(Jones and Young, 1997, Jones and Young 2000)
.
42
図 2.3.1-1 Ocean Technology Group による海洋滋養の概念図
参考文献
Martine, J. H. (1990) : Glacial-Interglacial CO2 Change: THE IRON HYPOTHESIS. Paleoceanography, Vol.5,
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Conference, Houston, Texas.
Jones, I.S.F. and Young, H.E.(1997) : Engineering a large sustainable world fishery. Environmental Conservation,
24(2): 99-104.
43
2.3.2
過去に行われた海洋滋養の例
西岡(2006)によると,実海域における鉄と植物プランクトンの関係に関する研究は,当初は実験手
法として船上ボトル培養実験を中心に展開された.この方法は,HNLC(High Nitrate Low Chlorophyll)
海域の植物プランクトンが生理的に鉄不足であることを示すには十分であった.しかしながら,HNLC
海域で植物プランクトンが主要な栄養塩を使い尽くすまで増殖できない理由として,動物プランクトン
の補食や光の環境などの要因も共存するため,鉄の重要性を決定づけるには至らなかった.また,植物
プランクトンの増殖による炭素固定の程度や海洋環境への影響については明らかにされなかった.そこ
で,図 2.3.2-1(西岡,2006)に示す海域において,実海域に人為的操作を加えて実験系として利用する
マニピュレーション実験が行われるようになった.マニピュレーション実験では,数十平方キロメート
ルスケールで,海域表層に水塊トレーサー(不活性ガスである六フッ化イオウ:SF6)とともに鉄を散布
する方法がよく用いられている.ここでは,マニピュレーション実験が行われた例の一部を紹介する.
まず,鉄仮説を提唱した Martin et al.(1994)は,1993 年 10 月中旬に,太平洋の赤道近くのガラパゴ
ス沖より 500km 南方の海域(南緯 5°)において,64 平方キロメートルの海域への鉄散布実験を行った
(IronEx I)
.鉄散布前の当該海域のクロロフィル a 濃度は 0.24±0.02 g/l であり,栄養塩濃度は硝酸態
窒素が 10.8±0.4 M,リン酸態リンが 0.92±0.02 M,珪酸態珪素が 3.9±0.1 M,アンモニア態窒素が
0.21±0.02 M,溶存鉄が 0.6nM 程度であった.この海域に対し,450kg の鉄を溶かした 15,600 リットル
の溶存鉄(8,100mol)と 2300 リットルの SF6(0.35mol)が事前に用意され,時速約 9km で航行する船
舶から 1 分あたり 12 リットルの溶存鉄と 1.4 リットルの SF6 が散布された.このような方法で鉄散布を
行うと,当該海域の混合層内(海面下約 35m まで)の溶存鉄濃度は,理論的には 0.6nM 程度から 4nM
程度に上昇するが,この溶存鉄濃度は,ボトル培養実験の結果からクロロフィル a 濃度を増加させるの
に十分な濃度である.鉄散布実験の結果の一例として,鉄散布後 3 日後までの,鉄散布域(以下ではパ
ッチと呼ぶ)の内側と外側における一次生産速度(PP)とクロロフィル a 濃度の鉛直分布を図 2.3.2-2
に示す.グラフ中の 299, 300, 301 はそれぞれ鉄を散布してから 1, 2, 3 日後の鉛直分布であることを示し
ている.一次生産速度,クロロフィル a 濃度ともに,パッチの内側では外側よりも表層の値が明らかに
大きくなっている様子が分かる.IronEx I では,鉄散布実験の結果,植物プランクトンの生物量は 2 倍
に,クロロフィル a 濃度は 3 倍に,一次生産速度は 4 倍になることが示され,鉄が海洋における植物プ
ランクトンの生産力や生物量を制限していることが明らかとなった.
ただし,IronEx I では,ボトル培養実験の結果から予測されていたよりも生物学的,あるいは地球化
学的な反応が小さかった.また硝酸態窒素濃度の減少は検出されず,二酸化炭素分圧の減少もわずか
10 atm にとどまった.これらの原因として,以下のような要因が考えられた.
・ 溶存鉄が速やかにパッチから消滅した.
・ パッチが沈んだためパッチに届く光量が少なくなり,鉄コロイドの溶解が妨げられたことによ
り,光合成に用いられる溶存鉄の生産が減少した.
・ 動物プランクトンが植物プランクトンを速やかに摂食した.
・ 亜鉛や珪酸などの他の栄養塩が光合成の制限要因となった.
これらの要因を検証するため,Coale et al.(1996)は,実験期間内に鉄散布を複数回行うとともに,動物
プランクトンの摂食速度を計測し,また溶存鉄以外の栄養塩濃度の計測も併せて行った(IronEx II)
.ま
ず,1995 年 5 月に,IronEx I が行われた海域の近くである南緯 3.5°,西経 104°近傍の 1000 平方キロ
メートルの海域において,物理学的,化学的,生物学的状態が空間的に均一であることを確認した.鉄
散布の方法は IronEx I とほとんど同じであるが,
鉄散布とともに水質計と GPS を搭載したブイを投入し,
44
図 2.3.2-1 実海域鉄散布実験が行われた海域(西岡,2006)
ブイのラグランジェ的な移動を計測することにより,流動場を把握した.鉄散布実験は以下の 3 つの条
件下において行われた.
・ パッチ 1:225kg の硫酸鉄を SF6 とともに 72 平方キロメートルの海域に散布する.理論的には,1
日目の混合層内(海面下約 25m)の溶存鉄濃度が 2nM となる.さらに,3 日目と 7 日目にそれぞれ
112kg の鉄散布を行う.
・ パッチ 2:24 平方キロメートルの海域を対象として,酸性水と SF6 のみの散布を行い,鉄散布は行
わない.すなわち,鉄散布を行うための船舶が航行することによる影響や,海水が酸性になること
による影響を調査する.
・ パッチ 3:24 平方キロメートルの海域を対象として,SF6 とともに低濃度の硫酸鉄(0.3nM)を散布
する.
まず,ブイの追跡結果からは,当該海域では約 2.8km/h の速さで南から南西に向かう流れがあることが
分かった.また,SF6 によるパッチの追跡結果より,パッチの大きさは当初の 72 平方キロメートルから,
実験期間中に 120 平方キロメートルに拡がった.鉄散布実験の結果,パッチ 1 ではクロロフィル a 濃度
の顕著な上昇が見られた.当該海域の初期濃度は 0.15-0.2 g/l であったが,散布から 7 日後には 3 g/l,
9 日後には 4 g/l まで上昇した(図 2.3.2-3)
.ただし,散布開始から 17 日後には,植物プランクトンは
急速に減少し,最終的なクロロフィル a 濃度は 0.3 g/l 程度であった.一方,パッチ 1 に比べて鉄の散
布量が少ないパッチ 3 においても,クロロフィル a 濃度が 0.22 g/l から 0.44 g/l に上昇する様子が見ら
れ,溶存鉄濃度の半飽和定数を 0.12nM としたときのミハエリス-メンテンの式により,植物プランク
トン群集の栄養塩応答特性が表されることが明らかとなった.また,鉄を散布せず,酸性水と SF6 のみ
を散布したパッチ 2 では生物学的な変化が認められなかったため,鉄が植物プランクトンの成長を制限
するという鉄仮説が裏付けられる結果となった.その他の栄養塩濃度の計測結果からは,硝酸濃度が
5 M 減少したこと,二酸化炭素分圧が 90 atm 減少したことなどが明らかとなった.また,植物プラン
クトン群集の種別調査を行ったところ,鉄散布後には珪藻類の生物量が増大する様子が見られたが,こ
れは珪藻類のサイズが大きく,成長が速いために動物プランクトンによって摂食されにくいためである
と考察された.さらに,混合層内では懸濁態有機物や溶存態有機物の濃度が上昇し,鉛直混合や珪藻の
45
沈降によって混合層以下にも輸送される可
能性があることが分かった.その他,本実
験の範囲内では,鉄以外の栄養塩類である
珪酸や亜鉛は制限因子となっていないこと
が明らかとなった.
次に,Boyd et al.(2000)は,既に鉄散布
実験が行われた赤道太平洋に比べ,南方の
海域の方が利用されていない表層水栄養塩
類の容量が大きく,鉄散布による植物プラ
図 2.3.2-2 鉄散布後 3 日後までの、パッチの内側と外側
ンクトンの増殖効果がより顕著に現れるも
における一次生産速度(PP)とクロロフィル a 濃度の鉛
のと考え,南緯 60°,東経 140°近傍の 50
直分布(Martin et al., 1994)
平方キロメートルの海域において鉄散布実
験 を 行 っ た ( SOIREE: South Ocean
Iron-Release Experiment)
.この海域の混合層
は約 65m であり,鉄散布前のクロロフィル
a 濃度は 0.25 g/l 程度であった.また,硝
酸態窒素濃度とリン酸態リン濃度はそれぞ
れ 25±1 M,1.5±0.2 M と比較的高く,
珪酸態珪素濃度は 10±0.4 M で中間レベ
ルにあり,溶存鉄濃度は 0.08±0.03nM と低
いレベルにあった.鉄散布の方法は,IronEx
I や IronEx II で用いられた方法とほぼ同様
である.すなわち,1.1mol の SF6 を含んだ
図2.3.2-3 パッチ1 の混合層における硝酸塩とクロロフ
海水 3600 リットル(SF6 が 165g)と 3813kg
ィル a 濃度の鉛直分布(グラフ内の数字は鉄散布開始後
の硫酸鉄を溶かした海水 28000 リットルを
の日数を表している)
(Coale et al., 1996)
混合し,表層に放流する.この方法によれ
ば,50 平方キロメートルの海域の混合層内における溶存鉄濃度は理論的に 3.8nM となる.さらに,最初
の鉄散布から 3, 5, 7 日後に,それぞれ 1550kg の硫酸鉄を含んだ 12,000 リットルの海水(3, 5 日後)
,お
よび 1750kg の硫酸鉄を含んだ 8,000 リットルの海水(7 日後)を追加放流した.これらは,混合層内の
鉄濃度を理論的に 2.6nM, 2.5nM のレベルに上昇させることに相当する.まず,SF6 の追跡結果からは,
パッチは 2 日後には 50 平方キロメートルから 100 平方キロメートルに拡大し,17 日後には 200 平方キ
ロメートルに拡がった.鉄散布実験の結果からは,実験開始から 13 日後までに,表層水で植物プランク
トンの生物量と一次生産速度が増加したことが明らかとなり,その結果二酸化炭素分圧と栄養塩濃度の
減少が見られた(図 2.3.2-4)
.この二酸化炭素分圧の減少は,主に珪藻類が増大したことによるもので
ある.しかしながら,生産された有機物の下方への輸送は確認されなかった.さらに,衛星観測による
と,30 日後にも植物プランクトンのブルームが確認されたため,表層水の溶存鉄濃度は,植物プランク
トンの成長を促進するレベルを約 1 ヶ月間保っていたことが分かった.したがって,これらの実験結果
は,赤道太平洋で行われた鉄散布実験と同様に,鉄の供給が植物プランクトンの成長を制限するという
マーチンの鉄仮説を支持するものであったが,増殖した植物プランクトンがその後どうなるかについて
は不明なままであり,物理的な輸送機構や無機化についてさらなる検討を要することが報告された.
46
最後に,Tsuda et al.(2003)は,主要な HNLC
海域のうち,唯一鉄散布実験が行われていな
かった西部北太平洋亜寒帯域の 64 平方キロ
メートルの海域において,鉄散布実験を行っ
た(SEEDS; the Subarctic Pacific Iron Experiment
for Ecosystem Dynamics Study)
.鉄散布実験で
は,2001 年 7 月 18 日に,北緯 48.5°,東経
165°付近の 8km×8km×10m の海域に,
0.48M の SF6 とともに 350kg の硫酸鉄を散布
した.鉄散布から 1 日後には,表層の溶存鉄
濃度が 2.9nM 程度になった.また,SF6 を追
跡することにより,鉄散布を行ったパッチを
2 週間にわたって追跡することができ,パッ
チは約 6km/day の速さで西方に移動している
ことが確認された.パッチ内では,これまで
の鉄散布実験と同様に,植物プランクトン生
物量の増加と栄養塩濃度,二酸化炭素分圧の
減少が見られた.主要な植物プランクトンの
種は,羽状珪藻から中心珪藻に変化し,成長
率は 2.6 doublings/day と非常に高かった.
これらの鉄散布実験により,鉄の供給が植
物プランクトンの成長速度(一次生産速度)
,
種組成を制限するというマーチンの鉄仮説が
裏付けられることとなった.また,東部北太
平洋亜寒帯域(Boyd et al., 2004)や南極海
(Coale et al., 2004)で行われた実験では,鉄
図 2.3.2-4 鉄散布海域の内側(白丸)と外側(黒丸)
の散布によって生成された有機炭素が混合層
における a. 溶存鉄濃度、b. 光合成最大収率、c. クロ
以下に輸送される様子が確認されている.た
ロフィル a 濃度、d. 一次生産速度、e. リン酸態リン、
だし,これらの実験はすべて短期的な時間ス
硝酸態窒素+亜硝酸態窒素、珪酸態珪素濃度、f. ジメ
ケールで局所的に行われたものであるため,
チルサルファイド濃度の時系列変化
(Boyd et al., 2000)
長期的な時間スケールで,散布海域の特性や
散布する鉄の量に対する植物プランクトンの
応答に関する知見をさらに収集する必要があ
る.その結果,鉄散布実験が海洋における炭素循環にどのような影響を与えるか,あるいは二酸化炭素
の海洋への固定量がどの程度になるかを評価することが可能になるものと考えられる.
47
図 2.3.2-5 鉄散布海域の内側(白丸)と外側(黒丸)における A. SF6 濃度、B. 溶存鉄濃度、C. 二酸
化炭素、D. 硝酸態窒素濃度、E. クロロフィル a 濃度、F. 光合成の最大収率の時系列変化(Tsuda et al.,
2003)
参考文献
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49
2.3.3
海洋滋養に関する社会受容性
海洋滋養に関する慎重論や反対意見は,
多くの研究者や環境グループより寄せられている.
以下では,
ASLO(2001)
,Chisholm(2001)
,菱田(2003)を参考にして,主な反対意見を列挙する.
・ 鉄散布によって,植物プランクトンの生物量が一時的に増殖し,表層の有機物濃度は上昇するが,
呼吸や有機物の分解によって二酸化炭素が再放出される.また,鉄散布をやめると,物理的な湧昇
などで表層に運ばれた有機物からの二酸化炭素放出量が増加する.
・ 生物体や遺骸などの有機物や炭酸殻が深海に沈降することによって炭素が系外に除去されなければ,
二酸化炭素の海洋吸収には至らない.
・ 鉄散布を行うと,有機物濃度が上昇した水塊が表層にとどまり,生物生産を早めるが,二酸化炭素
吸収量は変わらない.
・ 広い海においては,鉄散布の効果は 5%程度でありとても小さい.
・ 急激な一次生産により,表層では酸素分圧が急増する.
・ 赤道域での鉄散布では,ジメチルサルファイドが 3 倍に増えるなど,生物環境に予期せぬ生理的変
化を引き起こす可能性がある.
・ 有機物が深海に沈降すると,有機物の分解に酸素が消費され,酸欠状態になる.
・ 鉄利用優先の植物プランクトンが増え,海洋生態系全体のバランスを崩す.
・ 南極海では,南極収斂線以北の植物プランクトンの生産が減少するおそれがある.
・ 海洋全体で 0.1GtC/year 以下の吸収量しかなければ,海洋生態系への影響に比べて二酸化炭素固定の
効果が小さい.
・ HNLC 海域への全面的な鉄の散布は,生態系への影響を考慮し,間隔を空けて行われるとしても,
鉄を使い切った後は珪素が消費されて無くなってしまうので,鉄を繰り返して散布をしても効果は
なくなる.
・ 夏は,大気中と海水中の二酸化炭素分圧の差が大きくても,海洋は効率よく二酸化炭素を吸収でき
ないため,風による二酸化炭素ガス交換の効率がよい秋から冬まで待たなければならない.
・ 海洋は陸ほど開発されておらず,大気中の二酸化炭素濃度が上昇し,何らかの悪影響が出たとして
も,環境モラトリアムの考えでいた方がよい.
・ 鉄散布による影響の正確な予測が出ていない以上,鉄散布は急ぐべきではない.
・ 表層で生産された有機物が深層に沈降するかどうか不明である.
・ 鉄散布海域で一次生産が増加したことによって,逆にその周辺海域でリンや窒素などの栄養塩類が
不足し,海域全体として一次生産量が減少してしまう可能性がある.
・ 鉄不足状態に適応して進化してきた海洋生物が,鉄散布により何らかの生理的影響を受ける可能性
がある.
・ 表層での一次生産の増大は,一酸化二窒素やメタンなどの温室効果が高いガスの発生を促進してし
まうことがある.
Adhiya and Chisholm(2001)は,海洋滋養に関して,政策的な観点,科学的側面,経済的観点,国際
法の現状などを概観し,ほぼ上記と同様な問題点があることを指摘した上で,”Precautionary Principle(予
防原則)”の立場から”IS OCEAN FERTILIZATION A GOOD CARBON SEQUESTRATION OPTION?(海洋
滋養は炭素隔離の有望なオプションか?)”という問いに対し,現状では否定的な立場をとっている.
前述のように,海洋滋養は温暖化対策技術としてみたときには CO2 隔離量の大きさとコストの安さと
50
いう点で優位性の可能性がある技術と考えられるものの,まだその効果やデメリットに関して未解明な
部分が多い.特に海洋の生態系を積極的に利用する技術であるだけに,その影響は慎重に検討する必要
がある.しかし,現在我々は陸域の生態系に対しては,砂漠の緑化や食糧増産のための施肥など,より
大規模かつ大幅に手を加えていることも事実であり,人類存続のためのオプションとして検討する余地
はあるのではないだろうか.
参考文献
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surrounding the use of ocean fertilization to transfer atmospheric carbon dioxide to the oceans,
http://www.aslo.org
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SEQUESTRATION OPTION? A critical review of ocean fertilization methods proposed for addressing the
problem of anthropogenic CO2 emissions in the atmosphere.”, A White Paper Prepared for the Laboratory for
Energy and the Environment at MIT
51
3.陸域・大気・海洋における環境影響評価
3.1 農業活動が環境に及ぼす影響とその評価
(1) 人間圏の誕生
地球が誕生した 46 億年前には,地球と宇宙,それに時間と空間と物質しか存在しなかった.まさに混
沌(カオス)であった.時間の経過とともに,地球はカオスからしだいに分化を繰り返し,地殻圏,大
気圏,水圏を形成していった.そのうち,人間に必要な土壌圏や生物圏ができあがっていった.
人類が誕生すると,土壌圏と生物圏のもてる力をかりて農業,牧畜,工業が始まった.新物質圏の分
化,すなわち人間圏(Anthroposphere)の誕生である.この潮流の中で,われわれはものを豊かに造り,
その便利さを享受してきた.とくに,20 世紀の後半は,科学技術が大発展を遂げ,それに付随して経済
が成長した.いわば,成長の魔力にとりつかれた時代であった.
地球上には今や 64 億の人口がところ狭しと生存している.そのため,人間圏の物的拡大は今も続いて
いる.新しい物質圏が生まれることによって,地球システムの物質循環やエネルギーの流れが変わり,
環境が変化する.
その結果,様々な環境問題が続出した.その様態は,カドミウムや水銀に代表される重金属による点
的な汚染問題から,河川や湖沼の窒素やリンなどによる富栄養化現象に見られる面的な広域性の汚染問
題を経て,今では温暖化や酸性雨など地球規模での空間にまたがる環境問題へと展開されてきた.環境
問題は,点から面を経て空間にまで拡大した.
一方では,世代を越える環境問題がわれわれを蝕み始めている.農薬やダイオキシンなどわれわれ人
間の作り出した化学合成物質が,ヒトの生殖能力に関連し,次世代まで影響を及ぼし続ける環境問題で
ある.今や環境問題は時空を超えてしまった.
これらの時空をこえた環境問題の解決は,急激に拡大を続けつつある人間圏をどこのレベルで落ち着
かせ,地球システムの中で人間圏が水圏や大気圏や生物圏と安定な関係を保って持続的に共存できるか
と言うことにある.このことに農業も大きく関わっている.
(2) 農業と環境のかかわり
農業と環境のかかわりは,次の3つの範疇に整理される.
①農業活動が環境変動に及ぼす影響
人類の活動が,地球環境の変動に深くかかわっていることを否定する人はいまやいない.増加しつつ
ある人口に食料を供給するため,耕作地域や畜産を拡大した.そのために森林を焼き払い,大量の化石
燃料を使用し,廃棄物を多量に排出した.その結果,食料生産の基である土壌を変質させ,地下水を汚
染し,大気の化学組成まで変えてしまった.作物生産のために大量に施す窒素肥料が,そのよい例であ
る.窒素肥料の過剰使用は,地下水・河川・海洋に富栄養価現象をもたらした.一方,大気に放出され
た亜酸化窒素は,温暖化やオゾン層破壊を促進させた.
ここでは,窒素肥料の施用にともなう硝酸の地下水や河川への汚染,亜酸化窒素の大気への発生に伴
う,温暖化とオゾン層への影響を紹介する(付録 3.3 参照)
.
②環境変動が農業に及ぼす影響
人類の活動に対して,
環境からの制約が農林水産業にも顕在化している.
既存農地で生産力が低下し,
耕地の拡張はすでに頭打ちの現実がある.森林は伐採され,草地は過放牧され,漁場は攪乱され,土壌
は塩類化や砂漠化を受け,これらの資源からの食料生産にはすでに陰りが見られる.水資源も多くの地
52
域で枯渇・汚染が進み,農業生産と都市での水活用に厳しい制限が課せられている.
ここでは,温暖化にともなう農業生産の影響を,土壌水分の変動,世界の穀物生産量の変動,主要穀
物類の栽培可能地域の変動などのいくつかの例を紹介する(付録 3.3 参照)
.
③農業活動による環境保全
農業活動によって積極的に環境を保全することができる.農業活動そのものが,洪水を防止したり,
土壌侵食を防止したり,生物相を保全したりする機能をもっているから,これを有効に活用することで
ある.これらの機能を農業の持つ多面的機能と呼んでいる.ここでは,その機能と活用方法を紹介する
(付録 3.3 参照)
.
(3) 農業活動が環境へ及ぼす影響の評価とその対策
農業活動が環境へ及ぼす影響のうち,ここでは農業生態系から発生し温暖化に影響を及ぼす水田から
発生するメタンと,温暖化とオゾン層破壊に影響を及ぼす施肥窒素にともなう亜酸化窒素の地球規模で
の評価と,その対策技術を技術知と生態知の両面から紹介する(付録 3.3 参照)
.
(4) 温暖化とエコ・エコノミーと戦争
グローバル経済が生態系を崩壊させるであろうことに疑問をはさむ人は,今や少数であろう.これま
でわれわれは,地球資源の利子で生きてきた.利子があるときはよかった生活も,増加しつつある人口
と豊かな生活を維持するために,いまでは資源そのものを食い荒らしはじめた.農業において,このこ
とは顕著である.
グローバル経済の再構築を計らなければならない.
「今まで通り」の経済を推し進めるのか.これが持
続不能であることを環境問題が教えてくれた.われわれは,必然的に衰退するであろう経済を選択する
のではなく,持続可能な新しい経済,レスター・ブラウンのいう「エコ・エコノミー」を選択しなけれ
ばならない.中道は許されない.なぜなら,
「エコ・エコノミー」の考え方は,
「環境は経済の一部では
なく,経済が環境の一部であるから」という理解から出発しているからである.
一方,ペンタゴン報告「急激な機構シナリオと合衆国国家安全保障への含意」は次のことを指摘して
いる.温暖化が海水の淡水化を引き起こし,それによる海流の変化が,地球の局地的な寒冷化をもたら
すこと.それと同時に,食糧問題を含めて全世界的なシナリオを描き出して,環境難民に対する大規模
な軍事的な対処が 21 世紀中に起こること.
(5) カエルの悲劇
しかし,われわれはこの温暖化現象をそれほどのことと思っていない.
「カエル」の悲劇が思われる.
カエルを熱い湯に入れると,驚いて飛び上がる.しかし,冷たい水に入れて加熱していくと,変温動物
なので適応し,そのうち神経が無感覚になって,気がつかないうちに煮えてしまう.この「カエルの悲
劇」が,カエルだけの特性であることを切に願う.
53
3.2 気象制御計画と実際
大気に対する大規模な人為的働きかけ(利用)として,気象制御が挙げられる.これまでに提案・実
験・実用化された気象制御は,ほとんどが過冷却の雲や霧に人工的な核を撒いて氷晶を発生させる,い
わゆる種撒法(seeding method)を応用したものである.ここでは,福田(1988)のテキストを参考に,
種撒法による気象制御の実例と問題点について述べる.
(1) 種撒法の原理
自然の降雨や降雪は,大気中に存在する様々な微粒子を核として,過冷却の雲や霧の中に氷晶が発生
し,それが落下することによって生じる.この微粒子の核を人工的に撒布し,十分な数の氷晶を発生さ
せることによって降雨や降雪を促進させる方法が種撒法である.降雨・降雪促進の効率は,微粒子の数
が多いほど高くなることから,できるだけ小さな粒子を大量に撒布するほうが有利であるといえる.こ
の人工氷晶核粒子の発生方法には,機械的に粒子を粉砕し噴霧する分散法(dispersion method)と,材料
を一端蒸発させてから凝縮あるいは析出させる凝縮法(condensation method)とがある.このうち凝縮法
では,効率的に微粒子が発生(発煙)する物質として,ヨウ化銀(Ag I)が多く用いられている.一方
分散法では,大気中にもともと多く存在する物質である二酸化炭素の固体(ドライアイス)あるいは液
体が多く用いられる.
(2) 種撒法の方法
人工氷晶核の撒布方法には,地上撒布と空中散布とがある.地上撒布の代表的なものは,ヨウ化銀の
アセトン溶液をプロパンガス流で噴霧し,燃焼させることによってヨウ化銀の煙を上層まで送り込む方
法である.空中散布は航空機を使う方法とロケットを打ち上げる方法とがあり,ロケットの場合は発煙
方式(凝縮法)に限られるために主にヨウ化銀が使用される.航空機から撒布する場合にはヨウ化銀を
使用した発煙方式以外に分散法も用いることができるので,ドライアイスや液体炭酸を噴霧する方法な
ども試されている.
(3) 気象制御の例
気象制御の身近な例としては,空港における過冷霧の消散が挙げられる.欧米の空港などでは,飛行
機の離着陸時の視界を確保する目的で,ドライアイスあるいは液体炭酸を噴霧し,強制的に降雨させる
ことによって霧を消散させているということである.
水資源の確保という観点から,山岳地帯,特にダム周辺で増雨・増雪させるという試みも行われてい
る.方法は地上発煙や航空機からの噴霧による種撒であるが,空港などとは異なり山岳地帯であること
から気流が複雑で大気の安定性も低いことから技術的には難しくなる.なお,種撒法はそもそも過冷却
の雲や霧の存在が前提であるので,乾燥している地域に降雨させることはできない.あくまでも大気中
に存在する水蒸気を効果的な場所に降雨・降雪という形で地上に移動させる(降雨の空間分布調節)技
術であることを忘れてはならない.
豪雪対策の気象制御も降雨の空間分布調節の例である.アメリカでは, New York 州や Washington 州
における豪雪の軽減を目的とした降雪地帯のコントロール実験が 1970 年代に行われている.
わが国でも
冬季の東北北陸地方の豪雪は大きな問題であり,雪氷学会などで検討されているということである.
54
気象制御実験として最も大規模に行われた
のが,アメリカでのハリケーン制御実験であ
戦後間もない 1948 年にスタートし,1980 年
代まで約 20 年にわたって NOAA(米国海洋
大気庁)が中心となって行われた.ハリケー
種撒範囲
諸量の大きさ
る.ハリケーン制御実験のプロジェクトは,
種撒前
気圧分布
種撒後
風速分布
ン制御の原理は次のようなものである.図
3.2-1 は,ハリケーンの中心からの距離と,気
温,気圧,風速の関係を模式的に示したもの
である.発達したハリケーンは台風の目のす
気温分布
ぐ外側で気温の急激な減少,気圧の急激な上
昇が見られ,その範囲で風速が非常に強くな
台風中心
っている.
このピークから少し外側にかけて,
台風上空から種撒を行うと,過冷雲の氷晶化
中心からの距離
図 3.2-1 ハリケーン制御の原理
が起こり,その際放出される潜熱によって気
温上昇と気圧傾度の減少が生じる(図中の破線)
.そうすると風速のピークが台風中心より外側へ移動す
ることになるので,角運動量保存の法則から最大風速が減少するという理屈である.この仮説を実証す
べく,1960 年代にいくつかのハリケーンに対してヨウ化銀撒布実験が行われた.実験では予想通りの台
風の目拡大と最大風速の現象が観測されたが,それが自然に生じたものか種撒の結果なのかの判定が難
しく,結局結論は出ないままプロジェクトは 1983 年に中止されることとなった.
(4) 気象制御の問題点
気象制御が抱える問題点の根源は,社会的影響が大きいということである.飛行場の霧消散程度であ
れば影響範囲は限定されており,利害の対立もあまりないが,降雨の空間分布の変化は,様々な利害の
対立を生む.ましてハリケーンの制御となると,国境を越えた災害地域の移動も考えられるため,国際
紛争にもなりかねない.実際,ハリケーン制御にかかわる国際紛争がアメリカとメキシコで起き,それ
がハリケーン制御プロジェクト中止の原因の一つではないかという説もある.このような気象制御の問
題点は,大規模な自然の改変が意外な形での悪影響(しっぺ返し)を生む可能性があるという意味で,
海洋の大規模利用の際にも重要な示唆を与えてくれる.
参考文献
福田矩彦(1988)
:新しい気象制御の方法,気象研究ノート,Vol.164
55
3.3 風力発電の環境影響評価
自然エネルギーを利用する試みとして風力発電が近年注目を集めている.特に,欧州の北海沿岸国で
は自国エネルギーの 10~30%を風力で賄おうという計画もある.
北海沿岸は水深が 10~30mの浅い海が
海岸線から 10~30km も先まで繋がっているところが広く存在し,海底設置型の大型の洋上 Wind Farm
の建設が盛んに進められている.その一部は既に建設を終え運転を開始している.一方,日本の海は海
岸線から海は傾斜して深くなり,広大な EEZ を活用し大規模に風力エネルギーを獲得するために,浮体
式の Wind Farm 概念の検討が進められている.
将来の海洋の大規模利用形態の一つとなる可能性のある風力発電について,陸上の場合及び洋上の場
合,どのような環境影響評価が行われているのか調査を行った.
(1) 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)の「風力発電のため
の環境影響評価マニュアル」
我が国の風力発電の環境影響評価に関して,
平成 16 年の参議院での内閣答弁書に当時の国の認識及び
NEDO の標記マニュアルの位置づけを次のように整理している.
・ 風力発電施設の設置に際し,
「環境影響評価」を事業者に義務付ける法令は存在しない.一般に,事
業者は,その事業活動を行うに当たって,環境基本法(平成五年法律第九十一号)第八条の規定に
基づき,事業活動に伴って生ずる公害を防止し,又は自然環境を適正に保全するために必要な措置
を講ずる責務を有しており,風力発電施設を設置する事業者についても,その事業に係る環境の保
全について適正に配慮することが望ましいと考えている.
・ 「風力発電導入マニュアル」
(平成九年三月環境庁企画調整局地球環境部作成)は,地方公共団体が
自ら風力発電を導入する際に確認すべき事項を取りまとめたものであり,渡り鳥に係る調査につい
ても,当該地方公共団体が実施すべき調査として示したものである.
・ 平成 13 年7月に総合資源エネルギー調査会が策定した長期エネルギー需給見通しにおいて,平成
22 年度の風力発電の導入目標が300 万キロワットと設定されている.
資源エネルギー庁においては,
その目標の達成に向けて風力発電施設の設置を促進するため,風力発電施設を設置する事業者等に
対し「新エネルギー事業者支援対策費補助金」を交付している.その際,事業者等には,生態系を
含む環境への影響に係る調査の実施を求めている.
・ また,特に,国立公園及び国定公園の特別地域(特別保護地区を含む.以下「特別地域」という.
)
に設置される風力発電施設については,本年四月に施行した自然公園法施行規則の一部を改正する
省令(平成十六年環境省令第六号)において,その新築,改築又は増築に関する許可の審査基準を
新たに追加し,
「野生動植物の生息又は生育上その他の風致又は景観の維持上重大な支障を及ぼすお
それがないものであること」との要件を規定した.
対策補助金は実際には NEDO の助成金として民間風力事業者へ交付され,その交付の条件として「風
力発電のための環境影響評価マニュアル」に基づく環境影響アセスメントの実施を義務付けている.
このマニュアルの発行後は,地方自治体も本マニュアルに準じた環境影響評価を条例や指針として発
布している.
NEDO は,
「一部の地域を除き環境アセスメントの対象事業となっておらず,明確にその手法や手続
きが規定されていない」
との現状認識に基づき,
このマニュアル作成を財団法人日本気象協会に委託し,
,阿部 學(ラプタージャパン)
,北林興二(工学院大学)
,河野吉
山下充康(小林理学研究所,委員長)
久(電中研)
,山口克人(阪大)
,横山長之(日本気象協会)の 6 名の専門家による成る「風力発電に関
する環境影響評価手法検討委員会」を設立し検討を行った.平成 15 年 4 月 2 日~16 日に NEDO の HP
56
上で公開し,パブリックコメントを募った.その結果 11 件のコメントがあり,それへの回答及びコメン
トの一部を反映したマニュアル最終版を平成 15 年 6 月 4 日に WEB サイトに公開した.これらは全体で
22 ページにわたるものであるが,その一部を抜粋し表 3.3-1 に示した.その多くは,渡り鳥や絶滅の危
機にある猛禽類,昆虫,哺乳類への影響評価の範囲とその扱い方・限度,事業における環境影響評価の
あり方,などが議論されており,我々が海洋の大規模利用における環境影響評価を考えてゆく上でも参
考になることが多い.
表 3.3-1 風力発電のための環境影響評価マニュアル(案)への意見の内容とそれに対する NEDO の考
え方(抜粋)
番号
1
コメント
NEDO の考え
風車の野鳥への影響の例は.調査の必要性 カルフォルニアのアルタモントのWind Farm(7000
を明確に.
基の風車稼動)では2年間のモニタリングの結果,
鳥類の死亡率は平均0.013羽/年・基.竜飛ウィンド
パークでは鳥が風車に衝突した例は皆無.現状大
きな問題を生じてないが,地域特有状況があるこ
とを認識した上で,事例蓄積が必要.
2
アセスメントの対象となる要素の項目に 風力発電事業は,一般の法律アセスの要件と比較
生態系を加える必要がある.
して事業費が小さく,
「生態系」としての評価を法
律アセス並みに実施することは困難.この状況に
鑑み,動物と植物の項目を調査の対象として,そ
れぞれの希少種,貴重種,猛禽類の営巣や渡りの
有無など,基本的な部分の現況把握に重点を置く.
3
風力発電事業が環境影響評価法の対象外 風力発は環境影響評価法の対象事業でないことも
であり,環境影響評価に関するガイドライ あり,事前評価を法的に義務付けることはできな
ンも整っていない.鳥類等野生動物につい い.ご指摘のように影響が発生する可能性があ累
て十分な調査や影響評価は実施されてい 乗は,何らかの環境影響評価が必要と考え,マニ
ない.野鳥の風車への衝突や生態系への影 ュアルを作成した.NEDO の補助事業申請の事業
4
響について,懸念される.事前評価を義務
計画には,本マニュアルをガイドラインとして,
付けしていただきたい.
これに基づいて実施していただく.
牧草地に放たれている家畜への影響を把 牧草地への導入実績では,家畜への影響が発生し
握する箇所が見当たりません.
たとの報告はありません.今後,何らかの問題が
コウモリはタワーへ接近,誘引される可能 生じた場合に,調査の必要性を検討してゆく.
性がある.
ライトアップ等の夜間照明に昆虫が誘引された場
合,これを捕食するコウモリ類も風車に接近する
可能性がある.
5
環境へ与える悪影響のみを示した報告書
環境影響評価は,環境が与える悪影響を示すもの
になると,本来の自然エネルギー普及促進 ではなく,その程度を予測しながら,事業者が実
の目的に合致しない.
6
施可能な影響の回避・低減策を示していくもの.
設置予定地にイヌワシの飛翔がどれほど 風力発電事業は,温室効果ガスの削減を世界的に
57
あるか,調査をしたことがある.非営巣期
進める上で,我が国においても国策として積極的
に計 6 回(調査日 16 日)確認された.プ に導入していかなければならない.その一方で,
ロペラに衝突は即死で送電線に衝突も考 生態系への影響についても,建設前後における調
えられる.
査を充実させながら,風力発電に最新のの技術に
関する知見を収集することにより,可能な限り影
響の低減に努めることが,環境影響法の精神にも
準じることであると考えている.
このマニュアルは,風力発電に関する環境影響評価の調査・予測方法としての手順を示すことを目的
としたものであり,ガイドラインを示すものの,それでなくてはいけないという書き方は避けられてお
り,実際の評価方法の決定は,事前調査に基づき住民との対話の中で決められてゆくべきものとしてい
る.
「第 1 章 風力発電に係る環境影響評価について」では,風力発電が与える環境影響を騒音,電波障
害,景観,動物(鳥類)の 4 項目に整理し,その実例を示しながら概観している.また,風力発電に係
る環境影響評価の実例,関係機関あるいは周囲住民との協議事例を紹介している.さらに風力発電に関
連した環境影響法規,事業の許認可,届け出等に伴う環境影響評価の必要性有無などに触れている.
特に,風車への鳥類の衝突の問題については,欧米諸国においてこれまで長く議論されてきたにも関
わらず,
明確な結論が導かれていない問題であり,
我が国では発電所建設後の影響調査の実例は少なく,
今後このような調査実績を積み重ねていく必要がある,としている.
また,動物の項目の実施例では,主に貴重種,特に希少猛禽類に着目した調査を実施している例が多々
見られ,
「猛禽類保護の進め方(特にイヌワシ,クマタカ,オオタカについて)
」
(環境庁自然保護局野生
生物課編,1999 年 11 月)において中心的に扱われている3種の猛禽類に対しては,風力発電に係る環
境影響評価においても重点的に取り上げられていることを紹介している.
「第 2 章 環境影響評価の手続き」では,まず手続きの概要と手順フローを示し,さらに環境影響評
価方法書,環境影響評価書案,環境影響評価書の各々についての記載内容,地域への情報提供の方法,
意見の概要の作成に当たっての留意事項,有識者からの意見聴取などを具体的に示している.
「第3章 環境影響評価の項目及び手法の選定」は本マニュアルとして最も重要な部分である.環境評
価項目の選定では,事業特性及び立地場所の地域特性を踏まえ,表3.3-2に記載される項目の中から適切
な項目を選定する,としている.風力発電所を海域に設置する場合においては,「立地場所の状況を勘
案して,適切な項目を追加する」としながらも,「海域への設置を行う場合に関しては,現時点では科
学的知見が少ないことから,専門家等の意見を適宜参考にしながら,環境影響評価調査を実施すること
が望ましい」とし,具体的な記述はされていない.
表3.3-2 環境影響評価の項目
項目
選定
騒音
○
低周波音
△
備考
環境保全のために特に配慮が必要な施設(学校,病
院等)及び住宅に近接する場合に選定
電波障害
○
58
地形及び地質
△
対象事業実施区域内に重要な地形及び地質が存
在する場合に選定
動物
○
植物
○
景観
○
人と自然との触れ合いの活動の場
△
対象事業実施区域に触れ合い活動の場が存在す
る,もしくは近接する場合に選定
○:評価項目として選定することが望ましいもの
△:備考欄に掲げる内容に該当する場合に評価項目として選定することが望ましいもの
調査,予測及び評価の手法の選定においては,上記の各項目について次の8項目に整理し具体的な手法
を示している.
一 調査すべき情報
二 調査の基本的な方法
三 調査地域
四 調査地点
五 調査期間等
六 予測の基本的な手法
七 予測地域
八 予測対象時期等
鳥類の内,重要な種及び注目すべき生息地の分布及び生息状況の把握については,鳥類相調査に準じた
手法によるほか,必要に応じ概略個体数推定調査,餌となる動植物等の調査及び繁殖状況調査を行う,
とし,表 3.3-3 の調査方法,整理方法を述べている.
表3.3-3 鳥類保護・保全の観点から重要と考えられるものに関する調査及び結果の整理方法
対象種・群集
調査方法
調査結果の整理
希少猛禽類等
生息に係わる情報が得られた場合,行動
対象事業実施区域の植生,地形等の自然
圏等の調査を行い,営巣地あるいは餌場
環境と行動圏の結びつきを整理し,対象
等の確認を行う.
事業実施区域と行動圏の重複・近接,損
失の程度を整理する.
渡りのルート及
渡りに係わる情報が得られた場合,渡り
対象事業実施区域の植生,地形等の自然
び中継地
のルート及び中継地の調査を行う.調査
環境と渡りルート・中継地の結びつきを
方法としては,ポイントセンサス法以外
整理し,対象事業実施区域と渡りルー
に,レーダー※注1やセオドライト※注
ト・中継地の重複・近接,損失の程度を
2を用いた調査が有用である.
整理する.
集団繁殖地に係わる情報が得られた場
対象事業実施区域の植生,地形等の自然
合,集団繁殖地の調査を行う.
環境と集団繁殖地の結びつきを整理し,
集団繁殖地
対象事業実施区域と集団繁殖地の重複・
59
近接,損失の程度を整理する.
餌場と休息地の
餌場と休息地に係わる情報が得られた
対象事業実施区域の植生,地形等,自然
移動
場合,移動経路の調査を行う.
環境と餌場,休息地及び移動経路の結び
つきを整理し,対象事業実施区域と重
複・近接,損失の程度を整理する.
※注1)船舶用レーダーを用いて,海面・湖面を飛翔する鳥類の飛翔経路を確認する手法.群で飛翔す
るカワウ等の観察に適している.レーダーの性質上,水平面的な捕捉に適しているが,鉛直面的には困
難である.船舶から外して単独で使用する場合あるいは陸域で使用する場合には,電波使用上の手続き
が必要となる.
※注2)セオドライト(測距儀)を複数台使用して,同一の飛翔個体を同時に連続捕捉することにより,
飛翔の軌跡を3次元的に把握することができる手法.ワシ・タカ類の観察に適している.
環境影響の予測の基本的な手法及びその結果に基づく環境保全対策について,動物の項で,次のよう
な記述が見られる:
分布又は生息環境の改変の程度の把握については,
重要な種及び注目すべき生息地の分布域のうち,
事業の実施に伴って予想される影響要因に応じた環境影響について,直接的損傷を受ける区域及び
生息環境の変化が及ぶと考えられる区域を推定するとともに,推定した区域において重要な種及び
注目すべき生息地への影響の種類(死減,逃避,生息・繁殖阻害,生息域の減少等)を推定する.
その際,その結果に基づいて環境影響を回避・低減するための環境保全対策を検討する.やむを得
ず生じる影響については,事業の実施により損なわれる環境の持つ価値又は機能を代償するための
措置を検討する.環境保全対策の優先順位は,1)回避 2)低減 3)最小化 4)代償措置 とする.
予測の基本的な手法については,表 3.3-4 に示す環境影響要因に応じて,環境影響の量的又は質的
な変化の程度を推定するものとし,具体的には,文献その他の資料による類似事例の引用又は解析
により行い,必要に応じ専門家その他の環境影響に関する知見を有するものの助言を得ることとす
る.
表 3.3-4 風力発電所の設置に伴う環境影響要因
影響要因
両生・
哺乳類
鳥類
改変による生息環境の減少・喪失
●
●
●
●
騒音による生息環境の悪化
●
●
●
―
騒音による餌資源の逃避・減少
●
●
―
―
繁殖・採餌に係わる移動経路の遮断・阻害
●
●
―
―
ブレード,タワー等への接近・接触
―
●
―
―
夜間照明による誘因
●*
●
―
●
爬虫類
昆虫類
*コウモリ類の昆虫食のものは,
夜間照明に吸引される昆虫類を捕食するため接近する可能性がある.
また,動物についての評価書作成時の現地調査項目は表 3.3-5 のように整理している.重要な種が存在
する場合,餌場や渡りのルートが存在する場合などに調査項目として選定することになっている.
60
これを海洋に当て嵌めた場合,貴重な種の存在の有無,識別など,基礎的な調査に基づく知見の蓄積
が重要になってくることが予想される.
表 3.3-5 評価書作成時における現地調査項目
調査項目
選定
備考
動物全般に関する現地調査
○
哺乳類
△
重要な種が存在する場合に選定
△
希少猛禽類の営巣地あるいは餌場が存在する場合に
鳥類
希少猛禽類に関する調査
選定
渡り鳥に関する調査
△
渡りのルートあるいは中継地に該当する場合に選定
集団繁殖地に関する調査
△
集団繁殖地に該当する場合に選定鳥類
餌場と休息地の移動ルー
△
餌場と休息地の移動ルートに該当する場合に選定
爬虫類
△
重要な種が存在する場合に選定
両生類
△
重要な種が存在する場合に選定
昆虫類
△
重要な種が存在する場合に選定
トに関する調査
○:原則として実施すべきもの
△:備考欄に掲げる内容に該当する場合に重点的に実施すべきもの
(2) 洋上 Wind Firm HORNS REV における環境影響評価
ヨーロッパの北海沿岸諸国では,大西洋から偏西風が年間を通じて吹きつける上に,遠浅の沿岸海域
が海岸線から数十kmも広がって洋上風力発電に最適な自然条件となっている.近年は,その自然条件
を活かした大規模洋上風力発電開発が進められている.デンマークでは本土沿岸から 14~20km離れ,
水深 5~15mの北海洋上の四角形浅瀬に1基2MW の発電装置を 16 基×5 列,計 80 基,設備容量総計
160MW の洋上風力ファーム Horns Rev(図 3.3-1)が 2002 年 11 月に完成した.また,ドイツでは,ドイ
ツ最西端のボルクム島から45km北方にある水深30mの浅瀬に5MW の大型発電装置を212 基配置し総
設備能力1,060MW とする Borkum West プロジェクトの計画が進められている.
図 3.3-1 洋上 Wind Firm HORNS REV
環境問題に様々な動きを示しているグリーンピースが EC 委員会の委託を受け,ヨーロッパにおける
洋上風力発電の可能性について予測している.風力発電の採算性や社会的な受容を考え,立地水深 40m
以下,海岸線からの離岸距離 30km以下,海底傾斜 5 度以下,船舶の航路外,海底油田や海底ケーブル
61
から距離をとり,
自然保護海域の干潟は除外などの条件の下,
そ洋上風力発電の可能性を試算した結果,
デンマークでは洋上風力発電の開発限界は 550TWh/a,年間総消費電力の 17 倍,ドイツでは 237TWh/a
で 0.55 倍,イギリスでは 986TWh/a で 3 倍,オランダでは 136TWh/a で 1.8 倍となり,いずれも将来の
主たるエネルギー源となり得ることを示している.グリーンピースは洋上風力発電については推進側に
位置している.
ヨーロッパでは,北海沿岸国を中心に環境に対する関心が高く,規制も厳しく,何らかの事業を行う
場合,必ず環境リスク評価が行われ,その結果に基づき必要な環境影響評価の実施が事業者に求められ
ている.ここでは,Horns Rev で行われた環境影響評価の内容を簡単に紹介する.
Horns Rev の環境影響評価に関する報告書は,開発者である ELSAM 及び ELTRA のホームページで全
て公開されている.その量は膨大なものであるが,そのタイトルから内容は概ね推察できるので,ここ
ではまず項目タイトルを紹介する.
ホームページに納められた Environment Report は次の項目より成る.
① Environmental Impact Assessment (環境影響評価)
② Environmental reports, offshore wind turbine demonstration programme (環境報告,洋上風力発電実
証プログラム)
③ Birdlife (鳥類の生態)
④ Bird collission risk (鳥類の衝突リスク)
⑤ Seals (あざらし)
⑥ Porpoises (ネズミイルカ)
⑦ Fish (魚類)
⑧ Bottom vegetation and fauna (海底植物及び動物)
⑨ Hydrografy and geomorphology (水理学,地形学)
⑩ Introduction of solid bottom habitat, effect of artificial reef (固い海底の生物,人工岩礁の効果)
⑪ Visual and socio-economic impacts (景観及び社会経済への影響)
上記の内,⑤~⑩は洋上独特の評価項目である.ただし,Horns Rev では漁業については,該当海域で
は近年既に漁業ほとんど行われていないため,漁業への影響は特に論じられていない.
参考資料:
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/159/touh/t159034.htm
答弁書第 34 号 内閣参質 159 第 34 号 平成 16 年7月 13 日 内閣総理大臣小泉純一郎 参議院議員岩
佐恵美君提出風力発電の鳥類に与える影響(バードストライク)の防止に関する質問に対する答弁書
www.pref.hyogo.jp/eia/fuuryoku/zanteishishin/honbun.htm 風力発電所環境配慮暫定指導指針(兵庫県)
http://www.nedo.go.jp/informations/koubo/150402_1/150402_1.html 風力発電のための環境影響評価マニュ
アル(案)に関するパブリックコメントの募集について (平成 15 年 4 月 2 日)NEDO 新エネルギー
導入促進部
http://www.nedo.go.jp/informations/koubo/150604_2/iken.pdf ご意見の内容とそれに対する当方の考え方
http://www.nedo.go.jp/informations/koubo/150604_2/iken.pdf
http://www.nedo.go.jp/informations/koubo/150604_2/manual.pdf 風力発電のための環境影響評価マニュアル
62
(NEDO) 平成 15 年 6 月
経済産業省総合資源エネルギー調査会「今後のエネルギー政策について」
,平成 13 年 7 月
NEDO パリ事務所「欧州の洋上風力発電ファーム建設の現状」
,NEDO 海外レポート No.888(2002.8.10)
及び 889(2002.9.2)
http:/www.hornsrev.dk/Engelsk/nyheder/
添付:HORNS REV 環境報告 一覧
Environmental Impact Assessment, Main Report
Environmental Impact Assessment - Summery of IEA Report (628 KB).
Environmental reports, offshore wind turbine demonstration programme
Review report 2004. The Danish Offshore Wind Farm Demonstration Project: Horns Rev and Nysted Offshore
.Elsam Engineering A/S and
Wind Farms. Environmental impact assessment and monitoring (4.162 kB)
ENERGI E2 A/S, October 2005
Elsam Offshore Wind Turbines – Horns Rev. Annual status report for the environmental monitoring programme.
1 January 2004 - 31 December 2004 (3.941 kB)
. Elsam Engineering A/S, September 2005
Review report 2003 - The Danish Offshore Wind Farm Demonstration Project Horns Rev and Nysted Offshore
Wind Farm. Environmental impact assessment and monitoring (12.390 kB)
.Elsam Engineering A/S, Energi
E2 A/S, September 2004
Elsam. Havmøller. Horns Rev. Annual Status Report for the Environmental Monotoring Programme 1 January
2003 - 31 December 2003
(1.098 kB)
. Elsam Engineering A/S, June 2004
Elsam. Offshore Wind Farm. Horns Rev. Annual Status Report for the Environmental Monotoring Programme 1
January - 31 December 2002
(2,497 kB)
. Tech-wise A/S, April 2003
Horns Rev havmøllepark. Fremdriftsrapport for miljøundersøgelser 1. januar - 30 juni 2002 (29 kB)
.
Tech-wise A/S, September 2003
Elsam. Offshore Wind Farm. Horns Rev. Annual Status Report for the Environmental Monitoring Programme 1st
January 2001 – 31st December 2001 (2,338 kB)
. Tech-wise A/S, October 2002
Impact assessment, birdlife
Background reports:
Effects of establishing an offshore wind farm at Horns Rev: Environmental impact assessment for
birds. (2,800 kB)
. Baggrundsrapport nr.18 National Environmental Research Institute, March 2000
Environmental reports:
Bird numbers and distribution in the Horns Rev offshore wind farm area. Annual status report 2004 (2.414
kB)
. National Environmental Research Institute, 2005
Bird numbers and distribution in the Horns Rev offshore wind farm area. Annual status report 2003 (3,582
kB)
. National Environmental Research Institute, 2004
Baseline investigations of birds in relation to an offshore wind farm at Horns Rev, and results of the years of
construction (708 kB)
. National Environmental Research Institute, April 2003
Horns Rev wind farm. Progress report: 1. January - 30. June2002 (15 kB)
National Environmental
Research Institute, 2002
Status report of seabird surveys at Horns Rev, 2000 - 2001 (4,780 kB)
Institute, 2002
63
National Environmental Research
Status for fugleundersøgelser samt forslag til opfølgende fugleundersøgelser i 2002 og 2003 for Horns Rev
vindmøllepark (451 kB)
National Environmental Research Institute, September 2001
Base-line investigation of birds in relation to an offshore wind farm at Horns Rev: Results and conclusion
2000/2001. (882 kB)
National Environmental Research Institute, May 2001
Bird collission risk
Environmental reports:
Investigations of migratory birds during operation of Horns Rev offshore wind farm. Annual status report 2004
(1.195 kB)
. National Environmental Research Institute, 2005
Investigations of migratory birds during operation of Horns rev offshore wind farm: Preliminary note of
analysis of data from spring 2004 (608 kB)
. National Environmental Research Institute, 2004
Visual and radar observations of birds in relation to collision risk at the Horns Rev offshore wind farm. Annual
status report 2003 (1,283 kB)
. National Environmental Research Institute, 2004
Seals
Environmental reports:
Test of prototype GPS/GSM-transmitter on harbour seals in the Sealarium, Esbjerg (362 kB)
Fisheries and
Maritime Museum, National Environmental Research Institute, July 2004
Use of the North Sea by Harbour Seal with special emphasis on the Horns Reef area. Test of prototype
GPS/GSM-transmitter on harbour seals in the Sealarium, Esbjerg. Annual Status Report for 2003 (292 kB)
Fisheries and Maritime Museum/National Environmental Research Institute, Esbjerg, April 2004
Satellite tracking of Harbour Seals on Horns Reef (2,782 kB)
Fisheries and Maritime Museum, Esbjerg,
March 2003
Harbour seal satellite monitoring program, Horns Reef, North Sea (72 kB)
Fisheries and Maritime
Museum, Esbjerg, July 2002
Seals using the Area at Horns Rev. Satellite Tracking of Seals (Translated by Tech-wise A/S)(26 kB)
Fisheries and Maritime Museum, Esbjerg, February 2002
Porpoises
Background reports:
Environmental impact assessment. Investigation of marine mammals in relation to the establishment of a
marine wind farm on Horns Reef. (765 kB)
Fisheries and Maritime Museum, Esbjerg, Ornis Consult A/S, Copenhagen Zoological Museum, February
2000
Environmental reports:
Harbour Porpoises on Horns Reef - Effects of the Horns Reef Wind Farm. Annual Status Report 2004 to
Elsam Engineering A/S. (14,573 kB)
National Environmental Research Institute, DHI, DDH Consullting
A/S, July 2005
Effects of the Horns Reef Wind Farm on harbour porpoises. - Interim report to Elsam Engineering A/S for the
harbour porpoise monitoring program 2004(750 kB)
National Environmental Research Institute, DDH
Consullting A/S, September 2004
Harbour Porpoises on Horns Reef - Effects of the Horns Reef Wind Farm. Annual Status Report 2003 (2,310
kB)
National Environmental Research Institute, DDH Consullting A/S, June 2004
64
Short-term effects of the construction of wind turbines on harbour porpoises at Horns Reef (13,859 kB)
Hedeselskabet, April 2003
Investigations of harbour porpoises at the planned site for wind turbines at Horns Reef. Status report: 1/1 2001 –
31/12-2001 (1,325 kB)
Ornis Consult A/S, July 2002
Monitoring effects of offshore windfarms on harbour porpoises using PODs (porpoise detectors). Technical
report (1,836 kB)
/National Environmental Research Institute, Ornis Consult A/S, February 2002
Basic Study/Surveillance of Porpoises at Horns Rev. Status of the Surveillance in the Period 2001 - April 2002
(Translated by Tech-wise A/S)(32 kB)
Danish Institute for Fisheries Research, February 2002
Fremdriftsrapport. Effektstudie på marsvin 1. halvår 2002 (8 kB)
Ornis Consult A/S, January 2002
Fish
Background reports:
Effect of marine windfarm on the distribution of fish, shellfish and marine mammals in the Horns Rev
Baggrundsrapport nr. 24 Danish Institute for Fisheries Research, May 2000
area (361 kB)
Environmental reports:
Hydroacoustic Monitoring of Fish Communities in Offshore Wind Farms - Annual Report 2004 Horns Rev
Offshore Wind Farm (2,031 kB)
Bio/consult A/S, Carl Bro A/S, May 2005
Sandeels in the wind farm area at Horns Reef - Final report (737 kB)
Danish Institute for Fisheries Research,
August 2004
Sandeels and clams (Spisula sp.) in the wind turbine park at Horns Reef (874 kB)
Danish Institute for
Fisheries Research, April 2003
Bottom vegetation and fauna
Environmental reports:
Infauna Monitoring. Horns Rev Offshore Wind Farm. Annual Status Report 2004 (934 kB)
Bio/consult A/S,
April 2005
Infauna Monitoring. Horns Rev Offshore Wind Farm. Annual Status Report 2003 (288 kB)
Bio/consult A/S,
May 2004
Hydrografy and geomorphology
Background reports:
Marinarkæologisk Survey i de lavvande områder i kabeltracéet fra vindmølleparken på Horns Rev (288
kB)
Nationalmuseets Marinarkæologiske Undersøgelser, Oktober 2001
Introduction of solid bottom habitat, effect of artificial reef
Background reports:
Horns Rev Wind Power Plant - Environmental impact assessment of hydrography (1,376 kB)
Baggrundsrapport nr. 8 Danish Hydralic Institute, November 1999
Horns Rev Offshore Wind Farm - Environmental Impact Assessment of Sea Bottom and Marine Biology
(5,058 kB)
Baggrundsrapport nr. 19 Bio/consults A/S, March 2000
Horns Rev. Offshore Wind Power Farm - Environmental Impact Assessment on Water Quality (4,031 kB)
Baggrundsrapport nr. 26 Bio/consults A/S, May 2000
Environmental reports:
Hard Bottom Substrate Monitoring - Horns Rev Offshore Wind Farm. Annual Status Report 2004 (1,752
65
kB)
Bio/consult A/S, May 2005
Hard Bottom Substrate Monitoring - Horns Rev Offshore Wind Farm. Annual Status Report 2004 -Survey
Report No. 1 (332 kB)
Bio/consult A/S, May 2004
Hard Bottom Substrate Monitoring - Horns Rev Offshore Wind Farm. Annual Status Report 2003 (2.270
kB)
Bio/consult A/S, May 2004
Memorandum - Horns Rev. Introducing hard substrate habitats. Summary. Baseline surveys 2001. (302 kB)
Bio/consult A/S, August 2002
Horns Rev Offshore Wind Farm. Introducing Hard Bottom Substrate Sea Bottom and Marine Biology. Status
Report 2001 (2,323 kB)
Bio/consult A/S, August 2002
Horns Rev Offshore Wind Farm. Introducing Hard Bottom Substrate Sea Bottom and Marine Biology. Data
Report 2001 (20 MB)
Bio/consult A/S, August 2002
Horns Rev. Introduktion af hårdbundssubstrat. Fremdriftsnotat 3 (29 kB)
Horns Rev. Hard Bottom Substrate. Progress memerandum 3 (20 kB)
Bio/consult A/S, July 2002
Bio/consult A/S, July 2002
Half-year status for the project entitled: Investigations on the arctical reef effect on fish from a marine wind
turbine park at Horns Reef (18 kB)
Danish Institute for Fisheries Research, July 2002
Horns Rev. Control and monitoring programme. Artificial reef. Progress memorandum 2 (20 kB)
Bio/consult A/S, January 2002
2. status for the project entitled: Investigations on the artificial reef effect on fish from marine wind turbine park
at Horns Reef (46 kB)
Danish Institute for Fisheries Research, January 2002
Horns Rev. Kontrol- og overvågningsprogram. Kunstigt rev. Fremdriftsnotat 1 (14 kB)
Bio/consult A/S,
August 2001
Status for the project entitled: Investigations on the artificial reef effect on fish from marine wind turbine park at
Horns Reef (30 kB)
Danish Institute for Fisheries Research, 2001
Visual and socio-economic impacts
Background reports:
Havvindmøller i lokalområdet - en undersøgelse ved Horns Rev Havmøllepark. Baggrundsrapport (393 kB)
Susanne Kuehn, ECON Analyse AS, Juli 2005
Havvindmøller i lokalområdet - en undersøgelse ved Nysted Havmøllepark. Baggrundsrapport. (346 kB)
Susanne Kuehn, ECON Analyse AS, Juli 2005
Environmental reports:
Economic valuation of the visual externalities of offshore wind farms, Report No. 179 (2,510 kB)
Jacob
Ladenburg, Alex Dubgaard, Louise Martinsen, Jesper Tranberg, 2005
Economic valuation of the visual externalities of offshore wind farms (1,720 kB)
Jacob Ladenburg, Alex
Dubgaard, Louise Martinsen, Jesper Tranberg, October 2005
Annual report 2004. Sociological Investigation of the Reception of Nysted Offshore Wind Farm (126 kB)
ECON Analysis, August 2005
Sociological investigation of the reception of Horns Rev and Nysted Offshore wind farms In the local
communities (211 kB)
ECON Analyse, March 2005
Economic Valuation of the Visual Externalities of Off-Shore Wind Farms (49 kB)
66
3.4 沿岸域における環境影響評価手法
環境影響評価手法の概要
3.4.1
IMPACT 専門委員会では,沿岸域のみならず沖合・外洋も含めた海洋空間・資源の利用に対する包括
的な評価指標を作成することを目的としているが,その際に生態系を含む環境影響の評価は不可欠であ
る.しかし,海域(特に外洋域)における確立した生態系の評価手法はほとんど存在しない.そこで本
節では,開発のためのアセスメントや環境保全・修復のための生態系評価が数多く行われてきた沿岸域
の生態系評価手法のレビューを行うこととする.
沿岸域では開発行為に対する環境影響評価や,環境を保全し環境と調和した利用を行うため,環境影
響や修復・再生事業効果の定量的な評価が求められてきた.このため,生物多様性の変化や生息場所の
質の変化を定量的に評価する手法・プロセスが開発されてきた.
中田(1998)は生態系の機能に基づく評価の“ものさし”として以下を挙げている.
z
z
z
物質循環/浄化機能
¾
主に低次栄養段階の生物生産と関連
¾
物質循環の円滑さや浄化能力の大きさなど
生物資源の保育/生産機能
¾
主に高次段階の生物生産と関連
¾
資源生物に対する環境収容力の大きさなど
環境形成/維持の機能
¾
総合的な生態系の健全性と関連
¾
生物群集の多様性・安定性など
また,
環境インパクトに対する生態系応答の評価法は,
環境機能評価法と生物機能評価法に分類でき,
それぞれ以下のような特徴がある(中村,田口,2002)
.
z
環境機能評価法
¾
主に沿岸開発による影響評価やミチゲーションなどの効果と影響の数量評価法として
開発された
¾
現場調査を主体として生物特性値(生物量,出現種類,機能特性)と環境要素との関
係を評価関数にして,対象生物の生息環境適合性を尺度にして環境価値を評価する
¾
生物項目と環境項目の同時観測を前提としているため,1 調査単位の費用は多くかか
るが,評価にかかる時間は短くクイックアセスメントに向いている
¾
生活史を踏まえ時間的に連続した調査体制を実施しなければ,生物学的に意味のある
評価はできない
z
生物機能評価法
¾
実験,分析,調査などから抽出される生物の内在的機能(代謝,免疫,内分泌)
,種内
関係,種間関係における生態学的機能,生物と非生物環境との相互関係(物質の輸送
と循環等)についてモデル化する方法
¾
生物実験を伴うことが多く,調査・実験,データ解析及びモデル化を経て評価に至る
までの時間が長くかかる
環境機能評価法は,生息場評価を主な目的としたHEPの開発にはじまり,湿地の機能評価を目的とし
たWET,さらに総合的広域的な観点から湿地の機能を評価するHGMの開発へと発展してきた.また,
67
評価の客観性を重視した BEST,生物群集機能を評価するIBIなども開発され適用されている.その他に
もこれまでに数十種類の手法が開発されており,
目的や評価方法よって類型化が行われている
(例えば,
中村ら2000)
.生物機能評価法としては,内湾域や干潟域の生態系モデルなどが挙げられ,近年では生活
史を考慮した個体群動態モデルもしばしば併用されている.
生態系影響を評価する際には,環境機能評価法と生物機能評価法のそれぞれの特徴をふまえて相補的
に併用することが望ましいと考えられているが,もう一つの観点はHEPやHGMは1つもしくは少数の評
価指標で影響を表現することによって,代替案間の比較を容易に行うことに重点を置いていることであ
る.そこで,次節からはHEPなどのいわゆる得点法を中心に,いくつかの代表的な手法について概観す
ることにする.
参考文献
中田英昭(1998)
:沿岸環境評価の考え方と課題,沿岸の環境圏,フジテクノシステム,pp799-804
中村義治,田口浩一(2002)
:生態系の機能評価技術(評価手法の類型化)
,生態系工学研究会 News Letter,
No.9
中村義治編(2000)
:生態系における構造と機能と評価方法に関するレビュー,水産工学研究集録,8,
水産庁水産工学研究所,205pp.
68
3.4.2
(1)
Biological Evaluation Standardized Technique(BEST)
BEST の背景と特徴
BEST は生態系を定量的に評価する手法の開発が進んでいる米国において,環境アセスメントでの実
績が認められている評価手法の一つである(表 3.4.2-1)
.この手法は MEC Analytical System Inc.が,フィ
ールドの生物調査を基に客観的に評価できる手法として開発したもので,新規に造成された人工漁礁な
ど浅瀬沿岸域における環境造成効果(ミティゲーション)の定量的評価が可能とされている.
評価対象は専門家により選定された 10 種の魚類の生息数・餌の供給源・産卵域などであり,魚種・数
(成魚,稚魚)
・餌の資源量・産卵数・生産数を評価項目として,評価対象とする生息地の価値を定量的
に評価する.したがって,その特徴として,
・様々な環境影響の評価手法の中で,評価対象を海域においた唯一の手法であること
・種の選定以外に専門家の主観に頼る必要がないこと
が挙げられる.
表 3.4.2-1 BEST と他の評価手法との比較(水産工学研究所 HP より)
項目
(2)
HEP
WET
HGM
IBI
BEST
生息場の評価
○
△
○
△
○
物質循環等多様な機能の評価
×
○
○
×
×
生物群集の評価
×
△
△
○
△
主たる適用箇所
陸
陸
陸
陸
海
評価手続の簡便さ
○
×
△
△
△
海域での適用性
△
△
△
△
○
物理的攪乱を考慮できるか
△
△
○
△
△
BEST の実績
実績例としては 1991 年に公表された南カリフォルニアでの人工漁礁(沖合 460m,水深 14m,L×B
×H=68m×26.5m×7m)の例,及び 1993 年に公表されたサンディエゴとオレンジ郡の 16 の沿岸湖沼
(Tijuana Estuary, Sweetwater River Wetland Complex, Mission Bay Complex, Los Penasquitos Lagoon, San
Dieguito Lagoon, San Elijo Lagoon, Batiquitos Lagoon, Agua Hedionda Lagoon, Buena Vista Lagoon, San Luis
Rey River, Santa Margarita River Estuary, Las Flores Marsh, San Mateo Marsh, Upper Newport Bay, Bolsa Chica,
and Anaheim Bay)における魚類,鳥類,底性無脊椎生物の生息状況が調査されるなどの実績が挙げられ
る.
69
(3)
BEST の評価基本構成
生物種各々についての評価値を図 3.4.2-1 の矢印の方向に集計し,これをさらに図の左から右に集計し
て総合評価値を比較する.これにより,各指標の定量的な評価を総括し,各海域における価値を定量的
に判断する材料を提供することが可能とされる.
生物種
海域類型
成魚の餌
成魚数
幼稚仔魚
沖合砂質底
の餌 幼稚仔魚数
産卵数
人工漁礁
礁付近の砂質
生産量
総計
その他
評価項目
図 3.4.2-1 評価の基本構成(中田,1998)
(4)
評価の手順(中田,1998)
① 準備段階 1:漁礁設置前後の環境(例えば人工漁礁と砂底域)を良く表す複数の海域を選定す
る.
② 準備段階 2:各海域ごとに重要な(生態の類似性や資源的な価値が高い等)生物種を専門家が
10 種選定する.その際,同一の生物種が存在しない場合には,資源的な価値が同等と見られる
種を専門家が選定する.
(表 3.4.2-2)
表 3.4.2-2 人工漁礁の事例において評価対象とされた 10 組の生物種(中田,1998)
人工漁礁域の魚種
Kelp Bass
Barred Sand Bass
Black perch
White seaperch
Blacksmith
Garibaldi
Rock wrasse
Senotita
Sheephead
Speckled Sanddab
砂底域で等価の魚種
California halibut
Barred Sand Bass
Tonguefish
White seaperch
Nothern anchovy
Queenfish
Sardine
Topsmelt
White croaker
Speckled Sanddab
70
等価とした根拠
魚食,遊魚対象種
(同一種)
ベントス食,定着性
(同一種)
プランクトン食,集群性
雑食,体長・現存量大
植物食,体長・現存量類似
ベントス食,体長小
底魚,遊魚対象種,食用種
(同一種)
③ 調査段階:評価項目である成魚の餌資源・成魚数・仔魚の餌資源・仔魚数・産卵数・生産量の
フィールド調査を各海域で実施し,データを数値化することにより各海域の相対的な評価値を
算出する.
④ 第 1 段階:各評価項目に対する調査データをそのままデータシートに入力する.
(表 3.4.2-3)
表 3.4.2-3 第 1 段階における結果のまとめ例
海域
(生息場)
砂底域
人工漁礁
砂底域
人工漁礁
・・・
・・・
生物種
A
B
・・・
・・・
成魚餌資源
(g/m2)
12.34
234.56
24.68
345.67
・・・
・・・
成魚現存量
(no/m2)
0.00
5.01
0.01
10.21
・・・
・・・
仔魚餌資源
(g/m2)
12.34
56.78
22.56
423.56
・・・
・・・
仔魚現存量
(no/m2)
0.05
0.56
0.01
100.94
・・・
・・・
産卵
(no/m2)
0.00
0.28
0.00
0.33
・・・
・・・
⑤ 第 2 段階:2 つの海域における各項目の数値の合計値を 1 とし,
海域間の相対的比として表す.
(表 3.4.2-4)
表 3.4.2-4 第 2 段階における結果のまとめ例
生物種
A
B
・・・
・・・
海域
(生息場)
砂底域
人工漁礁
砂底域
人工漁礁
・・・
・・・
成魚餌資源
(g/m2)
0.05
0.95
0.07
0.93
・・・
・・・
成魚現存量
(no/m2)
0.00
1.00
0.00
1.00
・・・
・・・
仔魚餌資源
(g/m2)
0.18
0.82
0.05
0.95
・・・
・・・
仔魚現存量
(no/m2)
0.08
0.92
0.00
1.00
・・・
・・・
産卵
(no/m2)
0.00
1.00
0.00
1.00
・・・
・・・
⑥ 第 3 段階:各魚種での数値を評価項目ごとに集計し,それに生産量の相対比率を 10 倍したも
のを加えて総合評価を行う.この時,生産量については海域全体の魚類生産量を代用すること
ができる.
(表 3.4.2-5)
表 3.4.2-5 第 3 段階における結果のまとめ例
海域
(生息場)
砂底域
人工漁礁
成魚餌資源
(g/m2)
1.55
8.45
成魚現存量
(no/m2)
1.86
8.14
仔魚餌資源
(g/m2)
1.37
8.63
仔魚現存量
(no/m2)
0.18
9.82
産卵
(no/m2)
0.00
10.00
生産量
総計
1.14
8.86
6.10
53.90
⑦ 第 4 段階:
「総計」の数値により,代償地域の価値を評価する.
(この例の場合は約 9 倍の価値)
71
(5)
海洋の環境影響評価における BEST 活用の可能性
ミティゲーションにおいて,海域の違いによる生態系の差異を前提においている事から,調査に際し
ての制約が少ないため海域にとどまることなく,陸水域への応用も期待でき,全水域における環境影響
評価の手法としての基礎となり得るものと考えられる.また,生態系の差異を認めることは,既存の情
報を有効に活用できる可能性が高いことを示唆しており,したがって客観性の高い評価が期待できる.
一方,課題としては,調査において選定する魚種の価値基準の判断が曖昧である点や,季節変動が及
ぼす影響について議論が尽くされていない点について,
評価結果の取り扱いが難しいことが挙げられる.
また,新しい領域(陸水・大水深など)における評価を進める際に,既存の情報で調査しきれない点に
ついては,新たにフィールド調査を実施する必要がある.BEST,BEST の発展形となる評価手法が海域
の環境影響評価として一般化するためには,こうした情報の蓄積についても並行して進められていくこ
とが必要と考えられる.
参考資料
水産工学研究所・水産土木工学部・開発システム研究部:沿岸域生態系の評価手法に関する基礎的研究,
http://www.affrc.go.jp/ja/db/seika/data_suisan/h12/nrife-h12/nrife00008.htm
中田英昭(1998)
:得点法における生物環境評価,沿岸の環境圏(平野敏行編)
,pp.856-862,㈱フジ・
テクノシステム,東京
環境省:平成 15 年度 生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会 配布資料1 評価を行った定量評
価手法等一覧,http://assess.eic.or.jp/h15/h15gsiryou1.html
環境省:平成 15 年度 生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会 配布資料 2 既存の定量的評価手
法の評価 Biological Evaluation Standardized Technique(BEST)
,http://assess.eic.or.jp/h15/h15gsiryou2.html
72
3.4.3
Index of Biotic Integrity (IBI)
(1) IBI の概要
IBI の目的は生物を考慮した指標を用いて河川環境や水資源の評価を行い,水環境の Biotic Integrity
(生物学的保全性)を得ることである(Karr, 1991)
.Biotic Integrity とは,環境が生物種の分布量を保つ
ことができる能力のことである.人為的活動が生態系に与える影響に以下の 5 つがある.
・ 食物 (有機物の増加・減少,藻の生産の増加・減少等)
・ 水質 (混濁の増加,栄養素の増加,塩分の増加等)
・ 生息地の構造 (基質の安定性と浅瀬の減少等)
・ 水量 (流速の増加・減少等)
・ 生物の相互作用 (病気の魚の割合増加,外来魚の増加等)
これらの変化に対応する指標として IBI を作成する.30 以上の州や郡,いくつかの国家機関によって使
用されており,厳しく標準化された生物的な調査を必要とする.
(2) IBI の評価手順
IBI の評価手順は,次の表に示すような 10 個程度の判断基準についてそれぞれ 1 点,3 点,5 点の評
価を与え,その合計値を総合 IBI 値として表現する.この評点は理想的だと考えられる場所(Reference
sites)から抽出した値と比較することによって与えられる.
表 3.4.3-1 IBI の評価項目
Species richness and composition
1. Total number of fish species
(native fish species)
2. Number and identity of darter species
(benthic species)
3. Number and identity of sunfish species
(water-column species)
4. Number and identity of sucker species
(long-lived species)
5. Number and identity of intolerant species
6. Percentage of individuals as green sunfish
(tolerant species)
Trophic composition
7. Percentage of individuals as omnivores
8. Percentage of individuals as insectivorou
cyprinids (insectivores)
9. Percentage of individuals as piscivores
(top carnivores)
Fish abundance and condition
10. Number of individuals in sample
11. Percentage of individuals as hybrids
(exotics, or simple lithophils)
12. Percentage of individuals with disease,
tumors, fin damage, and skeletal anomalies
表 3.4.3-2 総合 IBI 値
IBI
Integrity class of site
合計値
(生物の保全性)
47 – 50
Excellent
40 – 46
Good
32 – 39
Fair
23 – 31
Poor
12 – 23
Very Poor
汚染に耐久性のある種群のみが生息している。
0
非生息地
いかなる種群の採取もない。
属性情報
清流域にのみ生息する種群が多く、開発影響がない。自然と同じ状態。
多少の開発影響はあるものの、多様度、種群構成などからほぼ自然に近い状態。
開発影響により、特定の種群は減少、または消滅している。
ごく僅かな多様度で構成され、開発や汚染に耐久性のある種群が優占種となっ
ている。
(3) IBI の事例
・ アメリカ
Clint M. Porter ら(2003)は,汚水の排出によって影響を受けたと思われる Oklahoma の Stillwater Creek
73
と Brush Creek について IBI を適用した.魚類については肝量指数(hepatosomatic index (HSI) = 肝重量(g)
/ 体重(g)×100)
,男性ホルモンである血中テストステロン(serum testosterone)
,腎臓や睾丸の成長に影
響を及ぼす血漿中ビテロジェニン(plasma vitellogenin)など生物学的な健康調査も行い,IBI の結果と照
合した.IBI 値算出の結果,Stillwater Creek では Good,Brush Creek では Fair と判断され後者では水質の
悪化が指摘され,魚類の生物学的な調査によっても Brush Creek に生息する魚類の不健康さが示された.
・ 日本
小出水ら(1997)は,関東 7 河川(久慈川,那珂川,江戸川,中川,多摩川,鶴見川,富士川)に適
用し日本への IBI の導入を試み,河川周辺の土地利用との関係から IBI の妥当性を吟味した.その結果,
表 3.4.3-3 のように,東京都から離れた久慈川,那珂川,富士川は高く,東京にある江戸川,多摩川,鶴
見川,中川は低く,評価された.これらはそれぞれの河川の持つ一般的なイメージとも一致している.
表 3.4.3-3 IBI の関東 7 河川への適用結果
①native
②surface
③benthic
④intolerant
⑤tolerant
⑥immigrant
⑦accidents
⑧insectivores
⑨herbivores
⑩CPUE
IBI
Class
久慈川
5(10)
3(2)
3(6)
1(absence)
5(23.3%)
5(2.8%)
5(0)
3(15.5%)
5(90.0%)
5(2.68)
40
Good
那珂川
1(6)
3(2)
1(3)
1(absence)
5(13.9%)
5(0.7%)
5(0)
5(22.7%)
5(60.0%)
5(2.23)
36
Fair
江戸川
5(10)
3(2)
5(8)
1(absence)
3(39.9%)
5(15.8%)
5(0)
3(10.3%)
1(0.0%)
1(0.96)
32
Fair~Poor
中川
3(8)
3(2)
3(5)
1(absence)
1(82.1%)
1(76.1%)
1(4)
1(6.0%)
1(0.0%)
5(2.33)
20
Poor~
Very Poor
多摩川
5(11)
5(3)
1(4)
1(absence)
3(50.9%)
5(1.8%)
3(2)
5(23.6%)
1(17.0%)
1(1.33)
30
Fair~Poor
鶴見川
5(10)
1(0)
1(3)
1(absence)
1(79.6%)
5(8.6%)
1(6)
1(0.4%)
1(20.0%)
3(1.88)
20
Poor~
Very Poor
富士川
3(9)
5(3)
1(3)
1(absence)
5(2.2%)
5(0.0%)
5(0)
3(15.5%)
3(50.0%)
3(2.02)
34
Fair
また,IBI と土地利用の関連性を調査した結果,緑地面積と IBI 値は相関係数 0.796 で正の相関,建物密
集面積と IBI 値は相関係数-0.751 で負の相関があることがわかった.問題点として,昆虫食性種が状況
によっては藻類も摂食することなど捕食関係が影響しているということと,久慈川,那珂川,富士川で
の支配種である鮎については放流の影響が無視できないことなどがあげられている.
(4) IBI の沿岸環境への適用
IBI は修正を行えば,沿岸環境にも適用でき,B-IBI や EBI が提案されている.
・ Benthic Index of Biotic Integrity(B-IBI)
.
汽水域環境の質の指標として,底性無脊椎動物を使用した手法が提案されている(Weisberg ,1997)
低酸素状態や汚染物質の蓄積は底性生物の居住区に起こりやすく,底性生物は不動性があるため,環
境状態の評価を行いやすい.個々の種数は生息環境の小さな変化を感じとりにくいので,B-IBI では
評価項目には加えない.
表 3.4.3-4
B-IBI の評価項目
Trophic composition
Species diversity
Percent of abundance as carnivores or omnivores
Productivity
Percent of abundance as deep deposit feeders
Biomass
Percent of abundance as suspension feeders
Speceis composition
Percent of abundance as interface feeders
Percent of biomass as pollution-indicative taxa
Depth distribution below sedement-water interface
Percent of abundance pollution-indicative taxa
Percent of taxa deeper than 5 cm
Percent of biomass as pollution-sensitive taxa
Percent of taxa deeper than 10 cm
Percent of abundance as pollution-sensitive taxa
Percent of abundance deeper than 5 cm
Percent of abundance deeper than 10 cm
Percent of biomass deeper than 5 cm
Percent of biomass deeper than 10 cm
74
チェサピーク湾の自然状態の場所と人為的な影響を受けた場所の B-IBI 値の比較を行ったところ,区
別できる場所とできない場所があった.低塩分濃度の場所では他の場所とは生息する生物相が異なるた
め,環境の質を区別できず,指標の有効性も低いことがわかった.低酸素状態,化学物質による汚染,
有機物による汚染などのストレスの種類による違いが結果へ与える影響を調べたところ,B-IBI は低酸
素状態を認識することには効果を発揮したが,成層が存在する低酸素状態の場所と人為的な影響による
低酸素状態の場所でも,同様の評価になってしまい区別ができないなど,人為的ストレスと自然のスト
レスを区別することができない場合があることがわかった.
・ Estuarine Biotic Integrity Index(EBI)
EBI は,B-IBI と同様に IBI を汽水域に適用するために開発されたものである(Deegan,1997)
.魚
類は春に汽水域に流入し,夏までに累積的影響を感じ取り,より攪乱の小さい所へ移動し,秋には他
の水域へと移住してしまうので,データの採集時期については, 7 月と 8 月とした.EBI では 8 つの
特性(全魚種数,優先度,個体数,幼稚魚の数,産卵種の数,汽水域に棲む魚数の数,底生魚の比率,
奇形魚・病気魚の比率)を評価する.マサチューセッツ州の南側の Waquoit 湾,Buttermilk 湾における
データを使用した結果,産卵域,保育場として汽水域を利用する魚種,底性魚は EBI 値が低い場所で
は,特に魚種数の少なさが目立ち,EBI は魚類群集の変化を反映しているといえることがわかった.
また,バイオマスと個体数両者を用いた EBI を計算したところが,個体数のみを用いた EBI の方がよ
り汽水域の質の違いを表現できていることが分かった.
(5) まとめ
IBI は河川環境を反映した評価が可能であるが,人為的ストレスと自然のストレスを区別できない問
題点がある.
地域間の相違を説明するために,例えば生息している魚種が地域によって異なる場合,地域ごとで得
点基準を変更するなど,他の測定因子や判断基準を用いる試みが必要であるということや,適切な境界
値を設定することが成功への鍵であるということが指摘されている.
参考文献
Karr, J.R.(1991)
:Ecological Applications 1 (1), pp.66-84: Biological Integrity
Porter, C.M. and Janz; D.M.(2003)
:Treated Municipal Sewage Discharge Affects Multiple Levels of Biological
Organization in Fish, Ecotoxicology and Environmental Safety, Vol.54, pp.199-206
小出水規行, 松宮 義晴(1997)
:Index of Biotic Integrity による河川魚類の生息環境評価,水産海洋研究,
第 61 巻,第 2 号,pp.144-156
:An Estuarine Benthic Index of
Weisberg, S.B., Ranasinghe, J.A., Diaz, R.J., Dean, D.M. and Frithsen, J.B.(1997)
Biotic Integrity for Chesapeake Bay, Estuaries, Vol.20, No.1, pp.149-158
Deegan, L.A., Finn, J.T., Aybazian, S.G., Ryder-Kieffer, C.A. and Buonaccorsi, J.(1997)
:Development and
Validation of an Estuarine Biotic Integrity Index, EstuariesVol.20, No.3, pp.601-617
75
3.4.4
Instream Flow Incremental Methodology (IFIM)
(1) 開発の背景
Instream Flow Incremental Methodology (IFIM)は,1970年代終盤に米国コロラド州立大学の Instream Flow
グループによって開発され,U.S. Fish and Wildlife Service(1982)によって公表された河川流量管理を目的
とした生息場評価手法である.河川の開発や維持管理において,流量は河川に生息する魚類の生息分布
に大きな影響を与えるが,それまでの河川の流量評価には,主に必要最小流量を判定する手法が用いら
れてきた.しかし,1970 年 NEPA 法の制定に従い開発の代替案を評価する必要性が生じ,河川の流量増
減分変化を定量化する手法が必要とされるようになった.IFIMでは,対象となる河川のさまざまな流量
における水深や流速を計算し,その結果を用いて魚群生息地を定量化する.その結果を評価指標として
用い,河川開発および管理を行う.
(2) 評価の手順
IFIMは,problem identification 問題の同定,study planning(計画の策定)
,study implementation(実施)
,alternatives
analysis(代替案解析)
,problem resolution(問題解消)の5段階の手続きで構成されている.IFIM の構成と
実施手順を図 3.4.4-1に示す.
図 3.4.4-1 IFIMの構成と実行手順( Stalnaker et. al. ,1994による)
IFIMは,多様な河川水利用者,利害関係者が相互に納得する形で利用方法を決めていくためのプロセ
スに関するフレームワークあるいは方法論である.IFIMのプロセス中で,第3段階(study implementation)
で用いられるツールが PHABSIM(Physical HABitat Simulation System:生息場の物理環境シミュレーション
システム)である.PHABSIM は,流量の変化に応じて流況その他の物理環境を予測するモジュールと,
魚類の各成長段階における各種物理特性(流速,水深,底質など)への選好あるいは忌避特性を記述す
るモジュール,そして両者の相互作用の結果としての生息可能域のポテンシャルを計算するモジュール
によって構成されている. PHABSIMによる評価手順は以下の通りである(図 3.4.4-2 参照)
.
①
ある流量に対して水面の形状を計算し,対象区間の水表面をセルに分割して,各セルごとに水深
76
(Di)
,流速(Vi)
,遮蔽状況(Ci)などを実測またはシミュレーションで求める.
②
その流量に対する個々のセルにおいて,算出された各環境要素に対する魚類の「適正指数(魚類
の選好度)
」を決定する.対象となる魚種について各実測データを適性指数(SI)として 0〜1 の
相対値で表現する.
③
各セルにおける合成適性値(Composite Suitability Index,CSI)を計算する.例えば,
CSI = SI (Di)× SI(Vi)× SI(Ci)
である.
④
対象範囲の全区画について,重みつき利用可能生息場面積(Weighted Usable Area :WUA) を計算
する.WUAは,各セルの CSI に「水表面積」を掛けて求める.
⑤
以上の手順を流量を変えて実施し,流量−WUA曲線を求めることで流量変化の魚類生息場に対す
る影響を評価する.対象とする河川のみでなく,開発影響が河川下流に影響を及ばすことも考え
られるので,
「単位河道距離あたりの WUA × 有効河道長」にて,利用可能生息地量の合計を
求めることもある.
特徴と留意点
・ 魚類の生息地としての河川を正常流量の観点から計算している.
・ 多目的に取水,流量管理シミュレーションとしても応用できる.
・ 流量−WUAの関係のみであり,周辺環境などは評価の項目に含まれない.
図 3.4.4-2 PHABSIMの概念(Stalnaker et. al.,1994による)
77
・ 魚種の移動,種相互関係は無視されている.
(3) 実施例:豊川における魚類生息場の検討(「豊川の明日を考える流域委員会」による)
①
成長期のアユ,ウグイ,オイカワ,カワムツの遊泳魚4種と,ヨシノボリの底生魚1種を対象と
し,無堤・減水・有堤の河道状況の異なる3区間別に,各魚種毎の合成適正値を実測データと検
証しつつ作成した.
②
「自然戻し」(ダムや堰で流量を調整や取水をしない),「現況」(実測データ),「将来」(計画・
施工中の設楽ダムや大島ダムなどの施設が全て運用後)の3つのパターンを対象とした.
③
計18地点において生息場状況曲線を算定した.
参考文献
Orth, D. J. and Maughan, O. E. (1982) Evaluation of the Incremental Methodology for Recommending Instream Flows for
Fishes, Transactions for the American Fisheries Society, 3(4):413-445.
Stalnaker CB, Lamb BL, Henriksen J, Bovee KD, and Bartholow J. (1994) The Instream Flow Incremental Methodology: a
primer for IFIM. National Ecology Research Center, Internal Publication. National Biological Survey. Fort Collins, Colorado,
U.S.A. 99 pp.
Stalnaker, C.B. et.al.(1995):The Instream Flow Incremental Methodology: A Primer for IFIM. Washington, DC: U.S. Geological
Survey. Biological Report29. 45p.
「豊川の明日を考える流域委員会」http://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/iinkai
図 3.4.4-3 豊川におけるアユの流量−WUA 曲線(左)と各シナリオにおける生息場状況曲線(右)
(http://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/iinkai による)
78
3.4.5
Habitat Evaluation Procedure (HEP)
(1) HEP 開発の背景
表 3.4.5-1 HEP の評価手順
ブッシュ元大統領が提唱した「No
net loss」政策を受けて,米国では 1988
年にミチゲーションが義務化されるこ
ととなった.ミチゲーションを実施す
るためには,開発に伴って消失する自
然環境の定量的評価が必要であること
から,制度化に先立ち,自然環境を生
物生息環境に代表させる評価手法の一
つとして,1980 年に US. Fish & Wildlife
Step 1
評価対象種の選択
Step 2
対象種ごとの環境因子の選択
Step 3
環境因子ごとのSI*のモデル化
Step 4
対象地の環境調査
Step 5
SIの点数化
Step 6
SIの総合化によるHSI**の算出
Step 7
HSI×面積によるHU***の算出
* SI: Suitability Index
** HSI: Habitat Suitability Index
*** HU: Habitat Unit
Service によって HEP(Habitat Evaluation Procedure)が開発された.
(2) HEP の評価手順
HEP の評価手順を表 3.4.5-1 に示す.HEP では,自然環境を生物生息環境に代表させるため,対象と
なる種を選択することが重要となる(Step 1)
.次に,評価対象種ごとに生息に関わる環境因子を選定す
る(Step 2)
.Step 3 と Step 4 では,評価対象種ごとに各環境因子に対する SI(Suitability Index)をモデル
化するとともに,評価対象地における各環境因子に関わる調査を行う.ただし代表的な種に対しては,
あらかじめ SI がデータベース化されており,例えば米国 National Wetland Research Center では,魚類,
鳥類,哺乳類など 250 種以上を対象とした SI(一部 HSI)モデルを Web 上で公開している(NWRC HP)
.
わが国でも SI のデータベース化が進められており,鹿島建設技術研究所では,アサリ,ゴカイ,チゴガ
ニ,ヨシなど干潟の生物に関する SI モデルが作成されている(新保ら,2000,2001,林ら,2002)
.次
に対象地の環境調査の結果を各環境因子の SI に当てはめ,SI を点数化する(Step 5)
.複数の環境因子に
ついては,独立しているものや関連しているものなどがあるので,図 3.4.5-1 に示すように,最大値,最
小値,平均,掛け算など,環境因子間の関係を考慮しつつ SI を総合化し,HSI(Habitat Suitability Index)
を算出する(Step 6)
.最後に,HSI に評価対象地の面積を掛けることによって HU(Habitat Unit)を算出
する(Step 7)
.このとき,評価対象地がいくつかの異なる性質を持つエリアから構成されている場合に
は,図 3.4.5-2 のように各エリアの HSI を平均して全体の面積を掛ける方法,あるいは図 3.4.5-3 のよう
に各エリアの HSI と面積を掛けて各エリアの HU を算出した上で足し合わせる方法によって,全体の
HU が算出される.
SIj1 0~1
(Suitability Index)
SIj2 0~1
(Suitability Index)
max
HSIj
min
(Habitat Suitability
average
Index)
multiply
SIjn 0~1
(Suitability Index)
図 3.4.5-1 SI の総合化による HSI 算出の手順
79
HSI1
(Habitat Suitability
Index)
HSI2
(Habitat Suitability
Index)
average
× Area (ha)
HU
= (Habitat Unit)
HSIn
(Habitat Suitability
Index)
図 3.4.5-2 HU の算出手順その1
HSI1
(Habitat Suitability × Area1 (ha)
Index)
HU1
= (Habitat Unit)
HSI2
(Habitat Suitability × Area2 (ha)
Index)
HU2
= (Habitat Unit)
HSIn
(Habitat Suitability × Arean (ha)
Index)
HUn
= (Habitat Unit)
sum
図 3.4.5-3 HU の算出手順その2
(3) アサリを対象とした SI モデルと HSI 算出手順の例
ここで,一例として新保ら(2000)が開発したアサリを対象とした SI モデルと HSI 算出手順を紹介す
る.新保らは,干潟の生物生息地としての評価を HEP 手法により行うため,指標種の一つとしてアサリ
を選定し(Step 1)
,その生息環境を表す因子として表 3.4.5-2 に示すような環境因子を選択した(Step 2)
.
表 3.4.5-2 アサリの環境因子とその選択理由
環境因子
中央粒径
泥分率
底質
選択理由
人工海浜の材料選定の目安となる
アサリの餌とないり,かつ海水の酸素消費に
影響を及ぼす有機物の含有量の目安となる
酸化還元電位 アサリに有害な硫化物の生成に影響
水温
アサリの成長や生残に影響
水質
塩分
アサリの幼生変態や生残に影響
干出時間
アサリへの餌供給や夏期の地温上昇に影響
アサリの定位,沈降物粒径,底質攪乱,餌供
底面摩擦速度
給等に影響
強熱減量
80
これらの環境因子のそれぞれについて,
1.0
既往知見の分析を行うことにより,生息で
0.9
0.8
きない環境条件ではゼロ,理想的な環境条
0.7
件では1.0 となるSI モデルを作成した
(Step
SI
3)
.一例として,中央粒径に関する SI モデ
0.6
0.5
ルを図 3.4.5-4 に示す.このような直線(あ
0.4
るいは曲線)で表される各環境因子の SI
0.3
モデルをデータベース化した後,評価対象
地の各環境因子の値を計測し(Step 4)
,SI
0.2
0.1
0.0
0.01
モデルに当てはめることによってそれぞれ
の SI 値を求める(Step 5)
.SI の総合化によ
0.10
1.00
中央粒径(mm)
10.00
る HSI の算出に際しては,各環境因子間の
図 3.4.5-4 アサリの中央粒径に関する SI モデル
関係を考慮し,次式で求めることとしてい
(新保ら,2000)
る(Step 6)
.
HIS = min.(中央粒径 SI,泥分率 SI,強熱減量 SI,酸化還元電位 SI)
×水温 SI×塩分 SI×干出時間 SI×底面摩擦速度 SI
(3.4.5-1)
ただし,min.()はカッコ内の値のうち一番小さい値を取ることを表す.
論文では,実際に神奈川県の金沢八景海域と千葉県の三番瀬を対象とした評価を行っており,アサリ
の生息量を定量的に評価できたと報告している.
参考文献
NWRC HP:http://www.nerc.usgs.gov
新保裕美,田中昌宏,池谷毅,越川義功(2000)
:アサリを対象とした生物生息地適正評価モデル,海岸
工学論文集,Vol.47,pp.1111-1115
新保裕美,田中昌宏,池谷毅,林文慶(2001)
:干潟における生物生息環境の定量的評価に関する研究-
多毛類を対象として-,海岸工学論文集,Vol.48,pp.1321-1325
林文慶,高山百合子,田中昌宏,上野成三,新保裕美,織田幸伸,池谷毅,勝井秀博(2002)
:沿岸域に
おける複数生物の生息地環境評価-生態系連続性の配慮に向けて-,海岸工学論文集,Vol.49,
pp.1193-1198
81
3.4.6
Hydrogeomorphic Method(HGM)
(1) 背景
米国における河川域環境の維持には湿地生態系が大きな役割を果たす.開発事業による湿地へのイン
パクトを規制するため,これまで米国内では湿地資源の維持管理が拡張され,連邦および州法の制定に
より湿地の保護が行われてきた.中でも水質汚染防止法(The Clean Water Act, 33 U.S.C.1344)は,湿地
へのインパクトを規制する際に重要な役割を果たす.
米国内水域への廃液排出や埋め立ての許認可は水質汚濁法防止法 404 条に基づく公共調査を受ける必
要がある.公共調査は開発事業が湿地機能に及ぼす影響,公益に関する機能に及ぼす影響のアセスメン
トを行う.アセスメント結果は 404 条許認可における重要な要因の 1 つである.404 条許認可手続きは
EPA 404(b)(1) Guidelines(40 CFR Part 230)に規定されており,以下の項目から構成される.
•
予定事業が水源に及ぼす影響を判断する.
•
予定事業に実行可能な代案が存在するかどうか判断する.
•
予定事業が湿地機能に及ぼす潜在的なインパクトを洗い出す.
•
どのように潜在的な事業インパクトを回避もしくは最小化できるか検討する
•
不可避な事業インパクトのための補償ミチゲーションを決定する.
•
予定事業による獲得物と消失物の価値比較に基づき,廃液排出や埋め立ての許認可を行う
•
事業が許可された場合,コンプライアンス遵守のため補償ミチゲーション事業を監視する.
これまで湿地機能を評価するために様々なモデルが開発されてきた.しかし,404 条アセスメントで
はどの方法も広く用いられることは無かった.というのは技術的,計画的な要件に合わなかったためで
ある.モデルを 404 条アセスメントに適用する際には以下の項目が必要とされる(U.S. Environmental
Protection Agency 1994)
.
•
標準化され文書化されたアプローチ
•
公共調査への適用可能性
•
様々な湿地タイプへの適用可能性
•
様々な湿地機能への適用可能性
•
公共調査に利用可能な時間および資源での実施可能性
•
利用可能な時間および資源に見合う正確さ
•
様々な開発インパクトへの感度
•
様々な規定,管理,計画への適応性
•
比較基準の選定
•
最新の技術情報を組み込む能力
•
計画要求事項の変更を組み込む能力
これらの問題を解決するため,米陸軍工兵隊(U.S. Army Corps of Engineers)により水文地形学アプ
ローチ HGM(Hydrogeomorphic Method)が開発された(U.S. Army Corps of Engineers,1992,Smith,1995,
Brinson,1995)
.HGMは学際的な評価チーム(アセスメントチーム)によって実行されるアセスメント
モデル開発フェーズ,事業監査人,マネージャー,エンドユーザらによって実行されるアセスメントモ
デル適用フェーズから構成される.
開発フェーズは,水文地形学要素(Brinson,1993)に基づいた湿地分類から始まる.それぞれ分類さ
れたサブクラス湿地の物理,化学,生物的特性を記述する機能プロファイルを開発する.機能プロファ
イルはアセスメントチームの経験および専門知識に基づく.またここでは参照湿地に対する湿地機能を
82
評価する.参照湿地は対象サブクラスにおいて湿地の機能が最も高くかつ持続的なレベルで達成される
場所である.参照湿地は予定事業エリアまたは近隣から選択される.
次にアセスメントモデルの開発および検証を行う.アセスメントモデルは,湿地機能プロファイル,
景観,湿地機能の関係を定義する.これらはアセスメントチームの知識,文献および参照湿地データに
基づいて開発され検証される.
続く適用フェーズにおいて,開発したアセスメントモデルを実地に適用する.適用フェーズは特性記
述,アセスメントおよび事業分析から構成される.特性記述は湿地生態系,周囲景観,予定事業とイン
パクトについて記述する.アセスメントは,アセスメントモデルを対象湿地に適用し,事業実施前後に
おける湿地機能指標を計算する.その後,湿地機能指標に基づく分析を行い,事業の良否を検討する.
以下,アセスメントモデル開発フェーズおよび適用フェーズについて述べる.
(2) アセスメントモデル開発フェーズ
本フェーズの目的は湿地機能を評価するための指標を開発することである.一般に開発フェーズは,
湿地エコロジー,地形学的特徴,生物地球化学,水文学,土壌学,植物生態学および動物生態学等の広
い専門知識を持った 5~8 人の学際的な評価チーム(アセスメントチーム)によって行われる.本段階に
おいて開発チームは以下の項目を実行する.
•
湿地を水文地形学に基づき分類する.また対象湿地に影響を与える開発要因を分析する.定義さ
れるサブクラスの数は,その地域およびアセスメント領域内の湿地多様性に依存する.
•
人的・資金的資源を割り付けるため湿地サブクラスに優先度をつける.
•
選択されたサブクラス領域のための属性モデルを開発する.
•
機能評価項目に必要な参照湿地および基準を決定する.
•
文献,専門知識および経験,参照湿地からの情報を使用してサブクラス湿地機能のアセスメント
モデルを開発する.
•
作成したアセスメントモデルを検証する.
(3) アセスメントモデル適用フェーズ
適用フェーズのアプローチは,特性記述,アセスメントおよび分析から構成される.
①特性記述
アセスメントの第1段階は評価目的を定義することである.事業完成がどの程度機能キャパシティに
インパクトを与えるか,回復作業の有無により湿地がどのように回復するか,湿地が経時変化にどのよ
うに反応するかといった目的を決定する.なお,アセスメント湿地領域が増加するにつれ,違った機能
の湿地領域を含む可能性が高まる.その違いは生態系の違いのような自然プロセス,伐採や灌漑などの
人間活動に起因する.この領域における違いを考慮するため,湿地アセスメントエリアを機能キャパシ
ティに基づきWAA(Wetland Assessment Area)に分割する.
②アセスメント
アセスメント手順の第2段階は特性記述で識別された各々の WAA における機能指標 FCI(functional
capacity index for WAA)を評価する.事業インパクトを評価するためには,違う時期において 2 つ以上
のアセスメントが実行されなければならない.
通常 1 番目のアセスメントは事業前の条件で行う.
また,
2 番目のアセスメントは事業完了後に予想される条件に基づき行う.事業後の条件でのアセスメントは,
将来存在すると予測される条件に基づいて機能指標を評価する.
③分析フェーズ
最終段階である本段階におけるアセスメントにより求められた湿地機能指標 FCI を用いて事業を分析
83
する.404 条におけるアセスメントでは,予定事業がどの程度湿地機能にインパクトを与えるか,どの
事業代替案が開発インパクトを最小化するか予測する.参照湿地に対する機能は機能指標(FCI)を用
いて表されるが,これは単位面積当たりの指標である.そのため事業を比較する際には,それぞれの機
能指標(FCI)に湿地面積を掛けて機能キャパシティ FC(functional capacity for WAA)とする必要がある.
FC= (FCI of WAA)×(size of WAA)
(3.4.6-1)
この FC を用い,以下のステップで事業評価を行う.
Step 1 予測目標年次を選ぶ.
Step 2 将来において機能をもつ WAA のエリアを予想する.
Step 3 将来の FCI と FC を予測する.
Step 4 累積的な FC を計算する.
Step 5 WAA の FC を比較する.
累積的な FC は事業にともなうインパクト蓄積を表し,それを計算するためには幾つかの方法がある.
最も簡単な方法は,離れた目標年次の FC を線形近似し曲線以下の面積を評価する.次に WAA の事業
前 FC 損失と事業後 FC 獲得の差を計算する.目標年次間隔をより短くしたり,FC の差を計算する際に
非線形近似したりすることにより,事業による FC 損失をより良く評価できる.
FC は事業インパクト評価において強力な指標になるが,
代替の事業場所を比較する際には機能キャパ
シティ FC のみを考えれば良い訳ではない.別の制限はミチゲーションの実現可能性である.現在の技
術では幾つかの特殊な湿地を再生することは不可能である.造成可能な湿地と造成不可能な湿地を選択
する場合,後者より前者にインパクトが及ぶようにするのが賢明である.
この分析を用い,以下に示すような予定事業のインパクトおよび代案の評価検討を行い,その結果を
404 条許認可の材料とする.
•
予定事業の潜在的なインパクトを評価.
•
予定事業のインパクトを回避し最小化する方法の確立.
•
湿地回復可能性の検討.
•
ミチゲーションや回復事業のための設計基準の開発.
•
予定事業の補償ミチゲーションの決定.
•
開発の優先事項決定.
参考文献
U.S. Environmental Protection Agency(1984):Technical report: Literature review of wetland evaluation
methodologies, EPA, Region 5, Chicago, IL
U.S. Army Corps of Engineers (compiler)(1992)
:National summary of ongoing wetlands research by Federal
agencies, Wetlands Research Program Technical Report, U.S. Army Engineer Waterways Experiment Station,
Vicksburg, MS
Smith, R.D. et. Al(1995)
:An Approach for Assessing Wetland Functions Using Hydrogeomorphic Classification,
Reference Wetlands, and Functional Indices, US Army Corps of Engineers, Waterways Experiment Station,
Wetlands Research Program Technical Report WRP-DE-9
84
Brinson, M.M. et al.(1995)
:A Guidebook for Application of Hydrogeomorphic Assessments to Riverine Wetlands,
US Army Corps of Engineers Waterways Experiment Station, Wetlands Research Program Technical Report
WRP-DE-11
Brinson, M.M.(1993)
:A hydrogeomorphic classification for wetlands, Technical Report WRP-DE-4, U.S. Army
Engineer Waterways Experiment Station, Vicksburg
85
3.4.7
The Wetland Evaluation Technique(WET)
(1) 開発の背景と目的
The Wetland Evaluation Technique(WET)は Wetland(湿地,湿原)の機能と価値に関する評価手法で
ある.ここで紹介する WET version 2.0(Adamus et al.,1987)は米国交通省連邦道路局(Federal Highway
Administration, FHWA)のために開発された評価手法(Adamus et al.,1983)の改良版である.
米国の 404 Regulatory Program(水質管理法(Clean Water Act)の改訂)により,湿地環境での開発行
為にあたって,その影響を評価することが事業者に求められるようになった.このため,1981 年に米国
陸軍局工兵隊水路試験所(US Army Engineer Waterways Experiment Station)が,湿地の機能評価や,規制,
計画の必要性に関する評価に対する技術開発の使命を受けた.そこで,いくつかの手法が評価され,そ
のなかで FHWA により開発された手法(Adamus et al.,1983)が,さまざまな湿地の機能評価性に優れ,
アセスメントを行う際の時間と人的な制約条件に合致していることから採用された.この手法の目的と
しては,湿地の機能評価,異なる湿地との機能や価値の比較,開発行為による湿地機能および価値への
影響予測が挙げられる.
(2) WET とは
WET は湿地の数ある機能や価値を評価し,
対象地域における詳細な調査と専門家の判断との調和を行
うものである.この手法は,1)湿地の数ある機能と価値を評価し,2)さまざまな種類の湿地に適用可能
であり,3)再現可能で簡便(通常 1 日以内で実施することが可能)であり,4)信頼できる学術的な資料・
報告に基づいているという特徴を有する.WET では表 3.4.7-1 に示す湿地の機能と価値を評価対象とす
る.さらに WET では湿地の生物生息域としての適合性を評価(生息域適性評価)するために,14 種の
水鳥群と 4 種の淡水魚群,120 種の湿地に依存する鳥類,58 種の海水魚と無脊椎動物,47 種の淡水魚を
評価対象とする.
WETでは,
表3.4.7-1に示した湿地が有する機能それぞれについて,
Social Significance
(社会的重要性)
,
Effectiveness(有効性)
,Opportunity(機会)に対して評価を行う.ここで有効性とは,果たしうる機能
の程度を示すものであり,機会とは湿地機能を果たすための条件である.まず,これらの観点から,ど
の評価を行うかを決定する.
「社会的重要性」の評価では,2 段階評価を行う.まず,第一段階として,対象が社会にとって有用
な機能を保有しているかに関する31の質問に回答する.これらの質問に回答することにより,
Interpretation key(評価キー)の設定がそれぞれ行われる.これはフローチャート従い Yes,No で質問に
答えることにより,対象とする機能を High(高)
,Moderate(中)
,Low(低)の 3 種に評価するもので
ある.この作業は 1~2 時間で完了し,広く使用されている地形図などの資料を使用することで行うこと
ができる.第二段階は必須ではなく,特殊性や遺産価値を詳細に論ずるための付加的な手順となる.
「有効性」と「機会」については,3 つの階層に分けられた質問群への回答により評価が行われ,社
会的重要性の解析と同様に High,Moderate,Low の 3 種に評価する評価キーの設定が行われる.まず,
第一レベルにおいては,オフィスに備えてある土壌区分図などにより,湿地の大きさ,地形,傾斜,周
辺環境との関係に関する評価が行われる.この工程は 1 時間程度で行うことができ,実際に現地に出向
く必要は無い.第二レベルでは,現地調査とデータ収集のために現地を訪れる.この工程は概ね1~3
時間で終了する.第三レベルにおいては,詳細な(場合によっては長期の)物理,化学,生物に関する
実測データを用い,たとえば,地下水と湿地との関係を解析する際には,地下水位のデータが用いた湿
地の機能に関する時系列解析等が行われる.この工程に必要な作業時間は湿地の広さや現象の複雑さに
よってまちまちである.図 3.4.7-1 に例として,表層流水の置換の Opportunity 評価における Key 設定の
86
手順を示す.
「生息域適性評価」についても,生物種のデータに基づき質問に答えていくことで評価キーの設定が
行われる.
これらの評価が完了した後は,コンピュータプログラム,もしくは手作業により評価の集計が行われ
る.手作業では,評価キーに含まれる質問への回答を比較することで行われる.結果の集計には数時間
必要となる.一方,コンピュータプログラムを用いた集計は 15 分程度で完了する.WET コンピュータ
プログラム第二版は,C 言語で書かれており,DOS/V 用 MS-DOS2.0 上で動作させることができる.こ
のプログラムによる出力結果の一例を図 3.5.7-2 に示す.
表 3.4.7-1 WET が評価する湿地の機能と価値
Function(湿地が有する機能)
Groundwater recharge (地下水涵養)
Nutrient removal/transformation (栄養塩の除去と移動)
Groundwater discharge (湧出地下水)
Production export (生産物の移動)
Floodwater alteration (表層流水の置換)
Wildlife diversity/abundance (野生動物の生息地)
Sediment stabilization (底質の安定性)
Aquatic diversity/abundance (水圏動物の多様性)
Sediment/toxicant retention (底質における有毒性)
Value(人間が必要とする価値)
Recreation (レクリエーション)
Uniqueness/heritage (特殊性や遺産価値)
図 3.4.7-1 表層流水の置換の Opportunity 評価における評価キー設定の例(Adamus et al, 1987)
87
(3) 問題点
WET の問題点としては,まず結果表示が 3 段階であるため,評価が単純であり,結果は Moderate(中)
評価になることが多いことが挙げられる.また,取り扱う変数が多く,アンケート形式であるため個人
の主観が入りやすい.このため,環境予測には適さず,現況評価でのみ利用できる.また,開発の経緯
から北米の湿地のみを対象としており,
他国の湿地評価に用いるためには,
全体の見直しが必要である.
参考文献
Adamus, P.R.(1983)
:A Method for Wetland Functional Assessment, Vol 11,Report No. FHWA-IP-82-24, Federal
Highway Administration, Washington, DC
Adamus, P. R., Clairain, E. J., Jr., Smith, R. D., and Young, R. E.(1987)
:Wetland Evaluation Technique (WET):
Methodology, Operational Draft, Technical Report, US Army Engineer Waterways Experiment Station, Vicksburg,
MS
US Army Engineer Waterways Experiment Station(1988)
:The Wetland Evaluation Technique (WET): A
Technique for Assessing Wetland Functions and Values, Environmental Effects of Dredging Technical Notes,
EEOP-03-4
図 3.4.7-2 評価集計表の一例(US Army Engineer Waterways Experiment Station , 1988)
88
4.グローバルな環境問題とその評価手法
4.1 環境リスク/リスク管理
海洋の大規模利用を検討するにあたって,環境への影響を世の中で認知されている方法に従い論ずる
必要がある.そのような視点から,環境リスク論,リスク管理等について文献調査を行い,海洋の大規
模利用での対応を考える上で重要な点を整理した.
近年では世界共通の要求として,新しいフィールドで新しい事業を始める場合,環境リスク評価を実
施し,その評価を基礎としたリスクへの対応が求められる.このような考え方のベースとなっている環
境リスク論,リスク管理,およびリスク・コミュニケーションについて,国内外の現状および実例をレ
ビューした.本稿では,基本的な考え方など,主要点を概説する.
(1) 環境リスク論
環境リスクに立ち向かうための論理としての環境リスク論について,主に国内の文献に基づいて紹介
する.
① 直面している環境問題
近年,我々が直面している環境問題は,ある環境問題への対応が別のところで別の時点で(未来に)
別の環境問題を起こしてしまう懸念があるなど,公害問題の延長線上では対処できない.産業公害や交
通事故などの古典的なリスクとは異なる環境問題の課題を池田らはつぎのように整理している
(池田ら,
2004)
.
1) 人の命や生物の生存に致命的被害を与える不可逆性
2) 地域などを越える越境性と長期にわたる蓄積性
3) 次世代の個人,社会が選択や回避の自由度がない
中西は,現在我々が直面する環境問題は「広域環境問題」と「未来環境問題」であり,過去の公害問
題との違いとしてさらにつぎのような視点を挙げている(中西,1995,1998)
.
1) 不確実さ:今問題としている環境問題での科学的な因果関係の証拠の不確かさは公害問題の比では
ない.
2) 多面的な環境影響評価の必要性:エネルギー資源等の消費が度を越していれば,毒物の除去がむし
ろ地球環境的には望ましくないということもある.
3) 未来のために今何をなすべきか:近い将来に予想される人類の生存の危機に対し,現在何をなすべ
きか答えなくてはいけない.
このような特色をもった環境問題に立ち向かうには,合理的な手段で解決策を提示していくリスク論
が必要となる.環境リスク論を必要とする事例を以下に挙げる.
・地球温暖化と原子力発電
・農薬と耕地の開発
・水道水の消毒と発ガン性物質
・水道水と井戸水
・発電所の温排水が魚介類に与える影響と漁業そのものが魚介類に与える影響ダムの治水効果と生態
系への影響
・化学物質の毒性をどこまで規制すべきか
89
・CO2 排出制限にどこまで費用を掛けるべきか
② リスクの定義
リスク学辞典(日本リスク研究学会,2000)によれば,リスクを「狭義には,ある有害な原因(障害)
によって損失を伴う危険な状態(peril)が発生するとき,[損失]×[その損失の発生する確率]の総和を指
す.リスクを前提にすると,精神的には不安・心配や恐怖が伴う」と説明している.日本リスク研究学
会は,リスク概念の学際的定義を「人間の生命の安全や健康・資産ならびにその環境が望ましくない結
果をもたらす可能性」としている.この定義では,リスクは次の2つに関係する.
1) 事象の不確かさの程度(要因の因果構造)
2) 望ましくない結果の大きさの程度(状態の不効用構造)
③ 中西による環境リスクとエンドポイント
中西は環境リスクを「環境への危険性の定量的な表現で『どうしても避けたい環境影響』の起きる確
率で表現される」と定義している(中西,1995,1998)
.
従来我が国では,ある基準があってそれ以下なら安全,それを超えると危険であるという二分法的な
考え方が支配的であったが,中西は,この二分法の否定から始まり「リスク論とは安全領域がない危険
性とわれわれはどうつきあうかという科学である」と述べている.
リスクとは,不確かな危険性を,定量的に表現したものであり,様々な考え方が成立し得るが,
「どう
しても避けたいこと」
(これをエンドポイントと言う)を共通にすれば共通の尺度が生まれる.
「どうし
ても避けたいこと」を「人の死」とすれば,死の確率,即ち「損失余命」という単位でリスクが表現で
き,比較できるとしている.
環境問題では人の健康への脅威とともに自然環境の破壊が問題となる.エンドポイントを「生物種の
絶滅」とすれば「種の絶滅確率」という単位で環境リスクを表現できることになる.
④ その他の文献での環境リスクの定義
」では,環境リスクとは「地球環
「会計学に学ぼう(http://kai-kei.eco-jp.com/accounting/04/eco_03.htm)
境問題の深刻化による環境法規制の強化,消費者の環境意識の高まり,さらには循環型社会への対応な
ど,環境問題が企業経営に与える影響力は増大してきました.そしてそれにともない企業経営には環境
問題を原因とするリスク(環境リスク)という新たな経営リスクが発生するに至りました.
」と述べてい
る.ここで言及している現代の企業が経営活動を継続する中で直面している環境リスクの例として下記
を挙げている.
1) 環境汚染の浄化回復責任
2) 賠償責任
3) 製品の環境に対する安全性についての責任
4) 環境保全に配慮しなかったことによる企業イメージの悪化・不買運動
5) 規制が強化されることによる負担増
ISO14001(http://www.manthlyiso.net/yougo/yougoKA19.html)では,環境リスク評価について「使用さ
れる化学物質や環境負荷の排出物質のリスク(危険性)を,その環境への[悪影響の大きさ]×[悪影響が
出る確率]を掛け合わせて評価する評価法.環境への影響が大きくても,それが発生する確率が低ければ
リスクは小さく評価される」としている.
また,国立環境研究所は「人為活動によって生じた環境の汚染や変化(環境負荷)が,環境の経路を
通じて,ある条件のもとで人の健康や生態系に影響を及ぼす可能性(おそれ)のこと.またそうして引
き起こされた環境汚染によって被害補償を求められる可能性をリスクとして捉える観点もある」と説明
90
している.
(2) リスク管理の基本
リスクの数値や性質をもとに,別のリスクや費用などと取引して環境問題に対処していく方法をリス
ク管理という.ここでは,その基本的な考え方を紹介する.
① リスク評価および管理の枠組み
リスク評価および管理では「不確実さ」を可能な限り科学的に取扱おうとするため,つぎの3つの過
程から成る枠組みとしている(池田ら,2004)
.
1) リスク事象の科学的調査・研究
2) そのデータを用いた推論・推測(リスク評価と判定)
3) リスク削減のための政策科学的検討を行うリスク管理
「不確実さ」をめぐってリスク研究者,リスク評価者,リスク管理者がそれぞれの役割と責任におい
て関わって行く.特に 2)の過程においては,有害性の同定(hazard Identification)
,量-反応関係の評価,
暴露-影響量の評価が行われるが,各手順における不確実性の程度をどのように考慮するかがポイントと
なる.
② リスク管理法の原則
リスク評価を基礎にし,その結果を基に,そのリスクへの対処の仕方を決めることを,リスク管理法
という.リスクの数値や性質を基に,別のリスクあるいは費用などと取引をして環境問題へ対処してゆ
く方法である.
リスク管理の過程は,リスク評価・判定の結果と社会・経済的かつ政治的な関心を総合化して,資源
配分の制度・手段を選択する主観的意思決定の過程である.環境リスク管理においては,様々な人々,
地域,国がその問題に関与するため,何らかの管理原則が必要となる.
予防原則
池田らの整理に基づいて予防原則を紹介する(池田ら,2004)
.
環境問題が「不可逆,越境・蓄積,非選択」という性格が関係していることは前述の通りである.未
来の世代,遠くの地域,名も知らない生物への被害の程度の推定に大きな不確実性があるような問題で
は,現世代の利害関係者間のみの合理的な意思決定に依存するリスク・マネジメントで,資源の利用の
仕方を決めてよいのか疑問がある.これらの環境問題の影響の科学的検証に不確実性が存在することを
前提として,少なくとも,
1) 次世代に最悪の結果をもたらすような可能性を避ける
2) 生態系の健全さや生命の多様性の維持の可能性を図る
3) 世代間にわたる資源の永続的な利用を可能とする
等が実現されるように,対策の遅れによる被害の拡大の可能性を避けるという予防的な事前対応を取る
ことが求められるようになってきた.これが予防原則(precautionary principle)の基礎である.
ヨーロッパでは,大気汚染や水質汚濁が容易に国境を越える.ヨーロッパ近海の半閉鎖性海域での有
害性化学物質の越境汚染防止のために締結された北海保全のための閣僚宣言(The Third Ministerial
Declaration on the North Sea,1990)において予防原則が次のように謳われている:「政府は有害物質によ
る被害の可能性を避けるために予防原則(汚染物質の排出とその影響の因果関係に科学的な証拠がない
場合でも)を採用すべきである」
.この宣言を各国の規制政策に移していく段階で,それぞれの経済的,
技術的,政治的な立場が現れた.例えば,英国では「リスク回避の費用と便益のバランス」を条件とし
91
た.
リオアジェンダ 21 の第 15 原則(Rio Agenda 21, Principle 15 [UN, 1992])では,次のように述べている:
「環境を保護するために各国はその能力に応じて予防原則を広範囲に用いるべきである.重大なあるい
は不可逆的な損害がある場合には,科学的な知見が十分でないことをもって,環境悪化を防止する費用
効果的な対策を延期すべきではない」
.
予防原則の解釈に,世代間倫理や人と生物の間の環境倫理を含む新しい概念として提案されたのが,
ウィングスプレッド宣言(Wingspread Statement, 1998)である.内分泌攪乱化学物質の環境問題を議論す
る科学者達によって提案された宣言では,
「ある活動が人の健康や環境を脅かすとき,原因と影響の関係
が科学者に十分に解明されていない場合でも予防的施策が取られるべきである.この意味では,活動提
案者(開発者)が立証責任を負うべきである.予防原則の適用プロセスは公開され,通知され,民主的
であり,かつ,影響を受ける可能性のある関係者はそのプロセスに含まれるべきである.また,活動(開
発)なしも含めたすべての代替案について検討をすべきである」としている.ここでは,予防の対象(何
を,誰のために)をさらに進めて,将来世代と生物の生存権への責任として予防原則を取り上げ,不確
実性(リスク)から派生する損害の責任を開発者に負わせることを明確にした.
予防原則は,時にリスク便益分析によるリスクベース・マネジメントと対立する概念として主張され
る場合もあるが,予防原則に基づくリスク管理戦略においても,戦略の採用に関わる費用,効率等の多
元的な分析が重要であり,両者のバランスを社会的な選択に任せる方向が求められてゆく.
等リスク原則
環境問題においては,あらゆる危険をゼロにするのは無理であり,ゼロリスク原則はありえない.そ
こで「無視し得るリスク水準」もしくは「社会的に許容可能なリスク水準」というものがあるなら,そ
の水準までリスクを削減するという方法が,リスク・マネジメントの一つの考え方としてあり得る.こ
のように,一定のリスク水準を定めて,それ以上のリスクだけを削減するという考え方を「等リスク原
則」という(中西ら,2003)
.
単一のリスクの境界線を決めて,リスクがそれを上回れば対策を実施し,下回れば対策を行わないと
いう意思決定の考え方は非常に簡明で便利な枠組みである.しかし,その単一の水準をどのように決め
るのかという問題は残る.これを一律に決定するのは容易でない.例えばイギリスでは,耐容可能なリ
スク水準というのはおよそ 10-3 から 10-5 までの幅を持った概念と考えられている.この範囲の中でどこ
までリスクを実際に削減できるのかということについては,
「無理なく減らせる限界まで低く」するとい
うアプローチがされている.
この考え方は ALARP 原則
(as low as reasonably practicable)
と呼ばれている.
これ以外にも等リスク原則には二つの問題点がある.第一の問題点は,管理する対象物の定義によっ
てリスクの大きさが変わってしまうという点である.例えばベンゼンとダイオキシンを等リスクの 10-5
という水準で管理する場合,
ベンゼンは単一の物質だが,
ダイオキシンは様々な異性体の集まりであり,
異なる物質の集合に対する総称である.ベンゼンとダイオキシンを同列に扱うのが適切であるのか疑問
が生じる.逆にダイオキシンをベンゼン同様個々の物質(異性体)ごとに等リスクで管理しようとする
と,ダイオキシン全体のリスクは 10-5 水準を超えることになり,それが適切であるのかどうか問題とな
る.第二の問題は,リスクの減らし易さを評価できない点である.物質によっては,そのリスクを用意
に減らすことができるものと,それを避けることが困難なものがある.それらを等リスクで管理するこ
とが合理的であるかどうか疑問である.
リスク・ベネフィット原則
環境リスク管理原則として中西は「リスク・ベネフィット原則」
(ベネフィット当りのリスク一定の原
92
則)を提唱している.以下にその概要を紹介する(中西,1995,1998; 池田ら,2004,中西ら,2003)
.
環境影響評価の際に考慮すべき項目と集約化を,中西は表 4.1-1 のように整理している.これら 10 項目
を単一の尺度で評価できることを前提とし,さらにその評価を C,HR,ER の3項目に集約し一元評価
を行う.
表 4.1-1 環境影響評価の際に考慮すべき項目と集約化
資源の
環境影響
時制
ベネフィット
経済的な損失
人の健康への影響
生態系への影響
消費
現在
P1⇒C
P2⇒HR
P3⇒ER
P4⇒C
P5⇒C
未来
F1⇒C
F2⇒HR
F3⇒ER
F4⇒C
F5⇒C
C:コスト
HR:現在時点での人の健康リスク
ER:将来の生態系への影響(生態リスク)
ここでベネフィットが評価項目として出てくる.ベネフィットとは,リスクを受忍するためにもたら
されるベネフィットであり,リスクを削減すると同時に消失する.リスクは必ず何らかのベネフィット
を伴っており,リスク管理はベネフィットとの兼ね合いで決められる.
ベネフィットとは,便利さ,金銭的な収入などである.失われたベネフィットとは,リスク削減のた
めにかかる資本,人手,資源,エネルギー,我慢しなければならない不便さなどの総量である.リスク
削減によって失われるベネフィットをリスク削減の費用に置き換えることができれば,つぎのように表
される.
⊿ B 見返りとしてもたらさ れるベネフィット
=
⊿R
受忍するリスクの大き さ
リスク削減のために失 われるベネフィット
=
削減されたリスクの大 きさ
リスク削減のための費 用
=
削減されたリスクの大 きさ
上式の⊿B/⊿R(ベネフィット・リスク比,BRR とも表される)は HR で言えば一人の命を救うために
かけられる費用である.
HR の管理原則は,1) ベネフィット・リスク比が一定の水準値(VH: Value of human life)以下,2) 個
人のリスクが VH 以下になるように方策を選択する.この二つが両立しない場合は,他のリスク削減で
代替する.
ER の管理原則は,ベネフィット・リスク比が一定値(VE: Value of ecology)以下の方策を選択する政
策を実行する.
③ 生態リスクにおけるリスク・ベネフィット原則の例
リスク・ベネフィット原則を理解するために生態リスクの例を紹介する.
例1:農薬の肥効力と生態系への影響
生態リスクは有限である面積と関連付けて定義される.100ha の土地に農薬Ⅰが散布されたとする.
93
生物 a が減少し 100 年間の絶滅確率が 50%と予測されたとする.生物 a の全生態系に及ぼす影響(生態
系を維持するためにどの程度必要かという因子,ヒエラルキー因子)が 0.001 であったとする.
この場合,この農薬Ⅰの生態リスクは 0.5×0.001×100=0.05ha となる.
この農薬Ⅰを使う代わりに,森林を 0.2ha 農地にしなければいけない,また,森林から農地への変更
による全生態系に及ぼす影響を 0.7 とすれば,この場合の生態リスクは 0.7×0.2=0.14ha となり,農薬Ⅰを
使用した生態リスクの方が小さい.
ここに,肥効力は 1/2 だが,毒性は 1/3 の新農薬Ⅱが作られ,農薬Ⅱは 1ha 当り 1000 円/年高い場合,
農薬Ⅱの生態リスクは 0.5÷3×0.001×100×2=0.033ha である.農薬Ⅰと比較すれば 0.05-0.033=0.017ha の生
態リスクが削減できる.コスト/削減リスク=1000 円/年/0.017=6 万円/ha/年がこの政策のベネフィット・
リスク費 BRR である.この BRR が VE(1ha の森林の価値)より小さければ農薬Ⅱに切り替えるべきで
ある.VE の値については今後の議論が必要である.
例 2:ダムの治水効果と生態系への影響
ダム建設による人の健康リスクの削減効果(治水による人命救助)=⊿HR,
(治水による経済的利益-
工事費用)=Cost,ダム建設による生態リスクの増加=⊿BR とすれば,ダムによるプラスの効果及びマ
イナスの効果は次のように表される.
プラスの効果 =⊿HR×VH+Cost
マイナスの効果=⊿BR×VE
リスク・ベネフィット原則では上記のプラスの効果とマイナスの効果を比較議論し政策を選択する.局
在するリスク(ダムを建設しない時の人命喪失)については土地交換や移住などを行い,社会全体のリ
スクを平等に分配する必要がある.
(3) リスク管理のためのツール1 - レスポンシブル・ケア -
レスポンシブル・ケアとは,化学工業界の国際的な協議組織である国際化学工業協会が進めている企
業による代表的なリスク管理活動の一つである.本活動は,世界では 20 年,日本でも 10 年の歴史があ
り着々と成果を上げつつある.日本レスポンシブル・ケア協議会のホームページに基づきその活動,成
果等を紹介する.
① レスポンシブル・ケアとは?
レスポンシブル・ケアの理念
化学物質は人間が生活して行く上で必要不可欠なものであるが,
その取り扱いを間違えると人間や環境を脅かす有害物質として作
用することがある.故に,化学工業界としては,化学製品に内在
するリスクの最小化を図りつつ,製品の有用性を最大限に発揮さ
せる必要がある.地球環境問題,工業化地域の拡大に伴う「環境・
安全・健康」問題や,技術の進歩により発生する新たな問題に対
して,従来の規制で対応するのは困難である.市民社会の不安を
減ずるためには,企業活動で使用する化学物質がどのように使用
され,放出されるのか,その実態を,化学企業の自主管理により
自主的に報告することが最も効果的である.場合によっては最悪
の事態に陥ったときのシナリオを作って公表することも必要であ
る,としている.
図 4.1-1.Responsible Care の実施方法
94
レスポンシブル・ケアの歴史
この活動は 1985 年カナダで始められた.1990 年に国際化学工業会協議会(ICCA)が設立された.ICCA
の共通原則のもと,各国固有の状況に応じて各国化学工業協会単位で推進されている.現在は世界 47
カ国が参加している.日本では 1995 年に日本レスポンシブル・ケア協議会(JRCC)が設立されてから,
本格的な活動が開始された.平成 17 年 10 月現在 105 社が参加している.
レスポンシブル・ケアの定義
「化学製品を製造し,または取り扱う事業者が,自己決定・自己責任に基づき,化学物質の開発から
製造・流通・使用・最終消費を経て廃棄にいたる全ての過程について,自主的に環境・安全・健康面の
対策を行う活動」をレスポンス・ケアという.また,活動の成果の公表,社会との対話・コミュニケー
ションも併せて行う.
② レスポンシブル・ケアの実施方法
JRCC 会員企業は「レスポンシブル・ケアの実施に関する基
準・指針」に従って活動を行う.レスポンシブル・ケアの実施
は PDCA(Plan–Do -Check-Act)サイクルに沿って行われる.
JRCC 会員企業は実施計画及び成果を「レスポンシブル・ケア
実施計画書」
「同 実施報告書」
「同 内部監査報告書」として
JRCC に提出する.
③ レスポンシブル・ケアの実施項目
下記の 5 項目を実施する.
1) 環境安全(地球上の人々の健康と自然を守る)
図 4.1-2.Responsible Care の実施項目
2) 保安防災(設備災害の防止に努める)
3) 労働安全衛生(働く人々の安全と健康を守る)
4) 化学品・製品安全(化学製品の性状と取り扱い方法を明確にし,顧客も含めた全ての取扱者の安全
と健康・環境を守る)
5) 物流安全(物流の事故・災害防止に努める)
また,活動の成果を公表して,社会とのコミュニケーションを図る.
④ レスポンシブル・ケアの成果
「レスポンシブル・ケア 報告書 2005」に基づき,本活動の成果の一部を紹介する.
環境安全
・産業廃棄物:
「2010 年度の最終処分量を 1990 年度対比約 88%削減」の目標を掲げた取り組みを行っ
ている.2004 年度の産業廃棄物発生量は,1990 年度対比で約 29%削減,2003 年度比で約 15%削減さ
れた.1990 年度の資源有効利用率(資源有効利用量の廃棄物発生量に対する割合)は 27%だったが,
2004 年度には 45%となった.
2004 年度の最終処分量実績は約 32.5 万トンで 1990 年度と対比して 81%
の削減となった.
・エネルギー使用量: 2010 年度までにエネルギー原単位を 1990 年度の 90%にする目標に対し,2002
年度には 2010 年度目標を前倒し達成,2004 年度はさらに進み,1990 年度対比 87%まで低減した.
CO2 排出量の抑制:2004 年度の生産指数が 1990 年度対比 27%増加したのに対し,CO2 排出量は省エ
ネ努力の結果,11%にとどめた.わが国は 2008~ 2012 年の平均値で 1990 年度比 6%削減することに
なっているが,この説明では依然 11%超過しており,対応の難しさを示している.
・有害大気汚染物質削減:1995 年度より 2 期にわたる自主管理計画を実行し,優先取り組み 12 物質
95
の削減に取り組んできた.2001 年度を初年度とする第 2 期計画では,2003 年度削減目標平均 30%に
対し,排出実績は各物質で 45~79%と高い削減率を達成した.
・大気汚染物質及び水質汚濁物質の排出量:1970 年代以降,公害防止の観点から大気汚染物質や水質
汚濁物質の排出量を大幅に削減してきた.1995 年以降も,法規制値より厳しい自主管理基準を設定し,
また自治体との協定を遵守し,排出量の削減,基準値の維持に努め,低水準を維持している.
化学製品・製品安全
・HPV への取り組み:OECD(経済協力開発機構)は,有害性に関する基本的なデータの揃っていな
い物質について,生産量の多い既存化学物質(HPV:High Production Volume Chemicals,1 国の年間生
産量が 1000 トン以上)を優先してデータの取得と評価を行うプロジェクトを推進している.日本では
2005 年 3 月時点で,112 社が調査活動に協力.
・LRI 活動:世界の化学産業界が協力して「ヒトの健康や環境に及ぼす化学物質の影響」に関する長
期的自主研究 LRI(Long-range Research Initiative)に取り組んでいる.この活動は「内分泌かく乱」や
「化学発がん」
,
「過敏症」等,化学産業界にとって重要な課題について研究テーマを公募し,問題解
決を図る自主的活動.
・MSDS の発行:レスポンシブル・ケアを推進する上で,物流,販売および使用後の廃棄において人
や環境への影響を低減するために情報提供や教育等を行う活動は欠かせない要素となる.MSDS
(Material Safety Data Sheet,製品安全データシート)は,化学製品の供給事業者が取扱事業者に対し,
化学製品を安全に取り扱うために必要な情報を提供し,事故を未然に防止することを目的に該当製品
ごとに発行する説明書で,この活動の重要な手段である.MSDS を提供しなければならない物質は
PRTR 法,労働安全衛生法,毒物及び劇物取締法により定められているが,調査対象の 93 社中 89 社
がその他の物質(製品)についても自主的に発行している.MSDS が最終顧客まで届いているか把握
していないケースもあり,さらなる改善を進めている.
(4) リスク管理のためのツール2 - 環境会計 -
産業・企業レベルでの環境負荷削減が義務化してきた中で,環境経営の意識が増してきた.環境に対
する取り組みの費用対効果を知る必要性と,環境に対する企業の取り組み姿勢を社内外に示す説明責任
の必要性から,環境会計が求められてきた.
環境会計の仕組みを図 4.1-3 に示
環境会計
す.環境会計は二つの役割を持って
(環境に関する会計情報)
おり,それぞれに対応し外部環境会
計と内部環境会計(環境管理会計)
とからなっている.外部環境会計は
外部環境
内部環境
内部管理
二つの役割
会計
情報開示
会計
以下を対象とする.
・環境保全コスト:環境負荷の発
○ 環境コストの実態把握、管理
○ 顧客や市民への説明責任
生防止,抑制や発生した被害の回
○ 環境の効果の把握
○ 環境に対する企業評価向上
復またはこれらに資する取組みの
○ コスト低減要素の把握
ための投資額,費用額を貨幣単位
○ 環境マネジメント部門の貢献度把握
で測定する.
○ 社員の環境に対する意識向上 など
・環境保全効果:上記取組みによ
など
図 4.1-3 環境会計の仕組み
る効果を,物量単位で測定する.
96
・環境保全対策に伴う経済効果:環境保全活動を進めた結果,企業等の利益に貢献した効果を,貨幣
単位で測定する.
内部環境会計(環境管理会計)は以下を対象とする.
・設備投資の意思決定:設備投資における環境配慮と経済性のバランスを図り意思決定を行う.まず,
防止すべき環境問題の種類及び目標レベルを設定する.次に環境改善活動の目標及び環境設備投資の
目標を決める.これらを実施した場合の経済性及び効果性を評価し,設備投資意思決定を行う.
・原価管理:製品原価管理に環境配慮を組み入れた手法であり,コスト測定手法には環境コストマト
リックス手法やライフサイクルコスティングなどの手法がある.前者は,環境保全・評価コストと内
部負担・外部負担ロスの因果関係をマトリックスにしたもので,企業の環境保全活動計画の立案・投
資額の配分方法に有効である.後者は,製品・サービスが消費者の手に渡ってから発生するエネルギ
ー費や廃棄・リサイクルコストなどを原価として評価する手法である.また,原価管理の1手法であ
るマテリアルフローコスト会計では,マテリアルフローで発生する回収材料費,回収費用,再利用に
おけるシステムコスト削減費,廃棄物処理コストなどを製品原価にプラス・マイナスして原価測定を
行う.
・業績評価:業績評価に環境パフォーマンス情報を導入する手法.ただし,現在は企業がそれぞれの
考えで個別に行っている段階であり,一般的な手法としては確立されていない.例えば,リコーでは,
財務,顧客,生産プロセス,学習,環境の5つで業績評価を行うバランススコアカードというシステ
ムを採用している.
環境会計は,まだ発展途上の分野であるが,多くの企業が導入することで発展し,経営活動と環境保
全の両立を実現でき,持続可能な社会の実現に寄与できるツールとなると思われる.
(5) リスク管理のためのツール3 - ライフ・サイクル・アセスメント -
産業界を中心に,最近,ライフ・サイクル・アセスメント(LCA)が行われている.
LCA は,対象とする製品を生み出す資源の採掘から原料輸送,素材製造,製品の生産だけでなく,製
品の使用,廃棄にいたるまで,その製品の全生涯を対象として,資源消費量や排出物量を計量するとと
もに,その間に発生する環境影響を定量的に評価する手法である.環境により優しい製品を目指して行
く姿勢をアピールするために,近年,LCA を用いた製品評価を実施し,環境報告書等で公表する企業が
多い.LCA では様々な影響評価を ELU(Environmental Load Unit 環境負荷単位)で評価している.この
方式も環境リスク管理のツールとして有望な方法と考えられる.
ここでは稲葉らの報告(稲葉ら,2005)を参考に,概要を紹介する.
97
表 4.1-2 環境影響で考慮すべき領域
① LCA の一般的な方法
ISO-14040(LCA の「原則および枠組み」
,1997
カテゴリ
影響する範囲
年)によれば,LCA を「サービスを含む製品に付随
入力に関する領域
して生じる影響をより良く理解し,軽減するために
枯渇性資源
地球規模
開発された一つの技法」とし,具体的実施方法を「目
生物資源
地球規模
的と調査範囲の設定」
,
「インベントリ分析」
,
「影響
土地資源
局所
評価」
,
「結果の解釈」の4つのフェーズに分け記載
出力に関する領域
している.
地球温暖化
地球規模
目的と調査範囲の設定では,LCA として何を出力
オゾンの破壊
地球規模
するのか,そのためにどの範囲まで調査範囲とする
人間への健康影響
地球/大陸/地域/局所
のかを設定する.表 4.1-2 に LCA で扱うことが望ま
生態系への影響
地球/大陸/地域/局所
しいとされている環境影響領域を示す.注意すべき
光化学オキシダント
大陸/地域/局所
は,
「エネルギーの消費量」や「廃棄物量」は人間の
酸性化
大陸/地域/局所
活動範囲内であり,環境影響領域ではないと認識さ
富栄養化
大陸/地域/局所
れていることである.廃棄物が燃焼処理され CO2
臭気
局所
騒音
局所
放射線
地域/局所
事故
局所
が排出されればそれは地球温暖化への影響として計
算されるが,燃え殻を埋め立てる場合は土地の利用
として計算される.
インベントリ分析では製品ライフサイクル全体を
通しての原料・エネルギーのインプットと排出物の
アウトプットを分析定量化する.
影響評価では,分類化,特性化,総合評価の 3 段
参考:自然界との境界に達していない領域
入力:エネルギーなど
出力:固体廃棄物など
階でインパクト評価,環境影響評価を行う.各インベントリをインパクトカテゴリ毎に分類し,それぞ
れのカテゴリに対し物質ごとに設定された特性化係数を用いて環境影響を ELU(Environmental Load Unit
環境負荷単位)で表し(特性化)インパクトカテゴリ毎のカテゴリインディケータ(環境負荷)を求め
,オゾン
る.特性化係数としては,枯渇性資源では資源埋蔵量の逆数×1012,温暖化指数 GWP(CO2=1)
,人間への健康影響では HCA,HCW などが用
層破壊指数 ODP(CFC11=1)
,酸性化指数 AP(SO2=1)
いられる.
結果の解釈では,インベントリ分析もしくは環境影響評価のいずれか,またはその両方から得られた
知見を LCA の結論及び提言を得るために,設定した目的及び調査範囲に整合するように統合する.
ISO-14040 では分類化,特性化までを影響評価の要素とし,影響領域間の重み付けは付加的要素と位
置づけている.
「地球温暖化」や「オゾン層の破壊」という領域内で,二酸化炭素や特定フロンを基礎物
質とする評価はできるが,これらの異なる影響領域の重要性を総合的に判断し単一の指標にするのは困
難と認識した結果であると,稲葉は説明している.一方,LCA の国際規格では環境領域間の重み付けに
ついて記述があり,影響領域別の評価では不十分と認識されている.影響領域間のトレードオフについ
て考察する場合は,影響領域間の重要性の比較を避けることはできない.
② LIME
(独)産業技術総合研究所の伊坪らは,影響領域の異なる問題を統一的に扱う手法である LIME(Life
Cycle Impact Assessment Method based on Endpoint:被害算定型環境影響評価手法)を開発した.LIME の
概念を図 4.1-4 に示す.LIME では,地球温暖化など 11 種の影響領域を通じて発生する被害量を「人間
98
の健康」
,
「社会資産」
,
「生物多様性」
及び「植物の一次生産」の4つのエ
ンドポイントごとにまとめ,これら
を基礎として環境影響の統合化まで
行う被害算定型のアプローチを採用
している.この4つの保護対象をコ
ンジョイント分析の手法により人々
の価値観に基づき経済価値に換算す
る.LIME の開発には,疫学,気象
学,保全生物学,保険統計学などの
自然科学的知見と環境経済学,社会
学,心理学などの社会科学に基づく
分析結果に基づいている.
図 4.1-4 LIME の概念
(6) リスク・コミュニケーション
① リスク・コミュニケーションの背景
我が国においては,環境省が中心となりリスク・コミュニケーション
の導入・推進を行っている.以下,環境省の資料等に基づき概要を示す
(環境省,2005)
.
現代社会の環境リスクは「多様化,広域化,長期化,複合化,僅少化」
しており,評価し難い.わずかなリスクをリスクとして把握する以上,
完全にリスクをなくすることはできないので,利害関係者で許容リスク
を定め,その目標に向けてリスク管理を行うという手法をとらざるを得
ない.許容リスクを決定するプロセスでリスク・コミュニケーションが
図 4.1-5 リスク・マネジメン
トの意思決定プロセス
重要となる.
カナダの「CSA ガイドライン CAN/CSA-Q850」は健康,財産,環境,その他の有価植物に対する傷害・
損害を含むあらゆるリスク問題に対処できるよう意思決定者を支援することを目的に作られたガイドブ
ックである.
本ガイドブックは意思決定としてリスク・マネジメントの決定プロセスを説明しているが,
図 4.1-5 に示すようにその全ステップにおいて利害関係者とのリスク・コミュニケーションが必要不可
欠であることを強調している.
② 米国におけるリスク・コミュニケーションの発展
リスク・コミュニケーションはもともと米国において段階的に発展した考え方であり,村山は次のよ
うに整理している(村山,2000)
.第 1 段階は,リスク評価や管理を技術側面からとらえていた時期
(1975-1984)であり,多様な関係者の存在は意識されていなかった.第 2 段階(1985-1994)では,関
係主体の存在が意識されるようになったものの,被害を被る恐れのある住民を納得させるために必要な
リスク情報や手法の開発に重点があり,概して一方向の情報提供に注意が注がれていた.この背景には
1984 年のインドボパールのユニオン・カーバイド社の事故,1985 年の米国でのメチルイソシアネート放
出事故などから,地域住民の知る権利法が制定されたという背景がある.第 3 段階(1995-現在)では,
リスクに関わる様々な主体がそれぞれ対等な立場でコミュニケーションに関わり,リスク管理を進めて
いくスタイルが広がりつつある.主体間の双方向の情報交換が基本にあり,多様な主体の合意のもとで
99
管理を進めてゆくことが目標とされている.
米国での代表的なリスク・コミュニケーショ
ンとしてコミュニティ諮問協議会(Community
Advisory Panel, 以下 CAP)がある.CAP は化学
会社と当該化学会社の施設が立地するコミュニ
ティとの重要な橋渡しを担う組織として活用さ
れてきた.この CAP は,コミュニティから選ば
れたメンバーで構成され,施設に関わるトピッ
クスについて企業代表者と対話を行い,コミュ
ニティの関心などを企業に知らせる機能をもつ.
図 4.1-6 CAP の構成メンバー
③ OECD によるリスク・コミュニケーションの
取り組み
現在では世界各国で採用されている.OECD のリスク・コミュニケーション・ワークショップ(2000
年に開催)では「リスク・コミュニケーションは利害関係者間で健康や環境のリスクに関する情報をあ
る目的をもって交換すること」と定義し,利害関係者としては,行政機関,企業,企業グループ,労働
組合,メディア,科学者,専門機関,関心を持っている市民グループ,市民個人を含む,としている(環
境省,2005)
.
④ リスク分析の枠組みとリスク・コミュニ
ケーションの関係
池田らはリスク分析の枠組みを図 4.1-7
のように示している(池田ら,2004)
.リス
ク調査・研究,リスク評価・判定,リスク
管理の,各段階における,分析・研究及び
意思決定にリスク研究者,リスク評価者,
市民・住民,リスク管理者が参加するリス
ク・コミュニケーションが不可欠であること
図 4.1-7 リスク分析の枠組みとリスク・コミュニ
を示している.
ケーションの関係
(7) 海洋の大規模利用のリスク評価及びリスク管理の課題
海洋の利用は既に海運,漁業,海洋石油ガス開発などで行われている.我々が今提起しようとしてい
る大規模海洋利用は,これら従来の海洋利用とどこが違うのかを考えてみると,従来の利用が相対的に
一時的,通過性である,利用する海が表層に限定,海域も限定的であるのに対して,その利用が非常に
長期で平面的にも垂直的にも広範囲に及ぶ概念である.とすれば,そこに存在しうるリスクの性質も自
ずから異なることが予想される.また,何らかの影響があるとした場合には,従来の環境リスク問題と
比較し,地理的にも時間的にも気の遠くなるようなスケールで考えなければならない.
このような背景を考えれば当然のことながら,従来の「環境リスク論」や「環境リスク管理」の考え
方では不十分かもしれないという想定がなされる.故に,海洋の大規模利用の環境問題を扱える,新た
な「環境リスク論」および「環境リスク管理」を作り出す必要がある.
海洋の大規模利用における環境リスクを考える場合,現状では共通の基準・尺度はない.エンドポイ
ントはどう設定すべきか,環境影響ではどこまで考慮すべきか,ベネフィットは何か,リスクとベネフ
100
ィットをどのように評価すべきか,利害関係者は誰なのか,など,未だ基準がない.
IMPACT 研究委員会の活動は,そのような状態への対応の小さな第一歩である.
参考文献
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酒井泰弘(2004)
:環境リスク・マネジメント,岩波講座 環境経済・政策学第 8 巻・環境の評価とマネ
ジメント
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日本リスク研究学会編(2000)
:リスク学事典, TBS ブリタニカ
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:環境リスクマネジメントハンドブック, 朝倉書店
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ISO14001: http://www.manthlyiso.net/yougo/yougoKA19.html)
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岡村 堯(2004)
:ヨーロッパ環境法,三省堂
リスク評価及びリスク管理に関する米国大統領/議会諮問委員会編 佐藤雄也・山崎邦彦訳(1998)
:環
境リスク管理の新たな手法,化学工業日報社
岡 敏弘(1999)
:環境政策論,岩波書店
文部科学省ミレニアムプロジェクト:環境リスク診断,評価及びリスク対応型意思決定支援システム,
http://risk.env.eng.osaka-u.ac.jp/risk/index.html
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日本レスポンシブル・ケア協議会:レスポンシブル・ケア報告書(2005)
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http://www.nikkakyo.org/organizations/jrcc/report/2005/index.html
稲葉 敦,本下正晴(2005)
:循環型社会における LCA の役割,資源・素材学会 秋季大会 2005 市民
参加特別シンポジウム~資源型循環社会の将来像~配布資料
LIME (Life Cycle Impact Assessment Method based on Endpoint Modeling):
http://unit.aist.go.jp/lca-center/lime/lime.top.html
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
:平成 14 年度新エネルギー・産業技術総合
開発機構委託 製品等ライフサイクル環境影響評価技術開発 成果報告書(作成者:社団法人産業
環境管理協会)
http://www.tech.nedo.go.jp/WWWROOT/HOKOKUSYO/DOWNLOAD/01000172274.pdf
環境省:リスク・コミュニケーション事例等調査報告書(2005)
:
http://www.env.go.jp/chemi/communication/h12jirei/index.html
小林日出雄,宮部宏彰(2005)
:環境リスクとリスク管理,日本造船学会論文集 第 5 号
101
4.2
エコロジカル・フットプリント
(1) エコロジカル・フットプリントとは
エコロジカル・フットプリントは,人類が及ぼしている環境負荷量を示す指標であり,1990 年、カナ
ダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)大学院コミュニティー地域計画学研究科のウィリアム・
リース教授(William Rees, Prof.)と当時博士課程に在籍していたマティス・ワケナゲル博士(Marthis
Wackernagel, PhD)によって開発された.エコロジカルはエコロジー(環境・生態学)の形容詞,フット
プリントは足跡の意味であり,直訳すれば生態学的足跡という意味になる.
「経済の環境面積要求量」や
「総土地消費量」と訳されることもある.特徴としては,人間が生きていくために必要な様々な自然資
源量や廃棄物吸収量を「世界平均の生産力を有する生物生産力のある土地面積」という共通の単位に換
算して表示することが挙げられる. これにより,エコロジカル・フットプリントでは,多岐にわたる環
境影響をひとまとめにして,複雑な行動や,目的や,地域ごとのフットプリントを導き出すことが可能
となっている.
この指標は地球の環境収容力と人類による消費量を比較することを目的に作られており,
単純化した単位を用いた指標であるため,誰にでも分かりやすい概念となっている.そのため,研究成
果は「環境白書」や,100 を超える国々で活動する世界最大の自然保護 NGO (非政府組織)である
WWF(World Wide Fund For Nature,世界自然保護基金)の「生きている地球レポート」など広く採りあ
げられ,一部の国々の政策策定や評価の際にも活用されている.以下,この指標の詳細について,チェ
ンバースらの著書の内容を中心に紹介する.
(2) エコロジカル・フットプリントの基礎
エコロジカル・フットプリントは,従来の「地球が支えることができる人数は?」という問いではな
く,
「人々が生きるためにはどれくらいの土地が必要か?」という問いに基づいている.したがって,こ
の問いは単に人数だけではなく,人口,消費,技術に関係している.さらに,エコロジカル・フットプ
リントは,生物物理学的な制限を考慮に加えようとしているため,人類が環境に及ぼす影響と,生物圏
の再生能力を比較する.そのために,人間が生物生産力のある土地をどれだけ収奪しているのかを算出
する.もし,必要とされる生物生産力のある土地面積が,実際に利用できる面積よりも大きい場合には,
消費が持続可能ではないスピードで進んでいると考えられる.この状態を「オーバーシュート(過剰収
奪)
」という.また,エコロジカル・フットプリントの算出の際,計算根拠が複数存在する場合には,フ
ットプリントが小さくなる計算根拠を選択するという原則がある,このため,フットプリントは少なく
ともこれだけの面積は必要となる,と捉えることが適切である.
エコロジカル・フットプリントには,土地面積に換算する際に,次の 2 つの前提条件がある.それは,
1)資源の消費量と廃棄物の発生量を,適度な正確さをもって推計することができること,2)このような
資源と廃棄物の流量(フロー)は,資源を消費し廃棄物を排出するのに必要とされる生物生産力のある
土地面積に換算できること,である.これらの前提条件のもとで,エコロジカル・フットプリントでは
表 4.2-1 に示す生態学的な土地区分を用いている.それは,生物生産力のある陸地(耕作地,牧草地,
森林地)
,生産力阻害地,生産力のある海域,エネルギー地,生物多様性保全地である.これらは国連食
糧農業機関(FAO)などの一次データソースで使われている区分が反映されるように選択されている.
また,エコロジカル・フットプリントでは,
「公平割当面積」という考え方が用いられている.これは,
地球上の生態学的生産力のある陸地・海域の面積を世界人口で割って,一人当たりどれだけ利用できる
かを示した平均値である.表 4.2-2 は土地区分ごとの世界中で利用できる合計面積と,2000 年(60 億人)
と 2010 年の人口(95 億人と仮定)に基づく公平割当面積をまとめたものである.これによると,現在
の陸域と海域を合わせた公平割当面積は,約 2.1ha であることがわかる.これには人間以外の種が必要
102
とする土地面積は含まれていない.環境と開発に関する委員会(ブルントラント委員会)では,生態学
的生産力のある土地のうち少なくとも 12%を生物多様性保護のために守ることとしている.この数値を
考慮し,表 4.2-2 の合計面積から生物多様性保全地(12%)分を差し引き,公平割当面積を算出すれば,
人口 60 億人の場合の公平割当面積は 1.87ha となる.すなわち,人類は公平に 2ha 弱のフットプリント
の中で暮らす方法を探さなければならないということがわかる.
人口が 95 億人に増加すると仮定すれば,
この数字はわずか 1.2ha 弱まで縮小する.
表 4.2-1 エコロジカル・フットプリント分析で使用される土地区分
土地区分
定義
穀物や塊茎(ジャガイモなど)
,豆類といった主食を育てるのに使われる.
「耕作地」
生物学的に,最も生産力の大きな土地である.
主に牛が放牧されるのに使われる.一般に,牧草地の生産力は,耕作地よ
「牧草地」
り小さい.さらに,植物から動物へのエネルギー変換効率を考えると,人
類が使える生化学エネルギーは 10 分の 1 になってしまうこともある.
木製品を算出できるような自然林や人工林を指す.森林地にはこのほかに
「森林地」
も,土壌の流出を防いだり,気候を安定させたり,水循環を維持したり,
管理されれば生物多様性の保護にも役立つ.
道路や建物などの開発事業によって,生産力がほぼ失われた土地である.
「生産力阻害地」
これまでの例では,建物の建設に使われるのは必ず,もっとも生産力の大
きい耕作地である.
「生産力のある海域」
主に岸から 300km 以内の沿岸部のことを指す.
商業的な漁業のほとんど
(全
漁獲量の 90%)が,海洋面積の 8%(29 億 ha)の沿岸部で行われている.
エネルギー需要を持続可能な方法で満たすのに必要とされる土地である.
「エネルギー地」
CO2 吸収地とも呼ばれる.
「生物多様性保全地」
人間以外の種を保全するための土地である,生態学的生産力のある土地の
12%とされている.
表 4.2-2 土地区分ごとの生産力のある土地面積と公平割当面積
土地区分
地球上の面積(10 億 ha)
公平割当面積(1人当たり ha)
人口 60 億人
人口 95 億人
耕作地
1.45
0.24
0.15
牧草地
3.36
0.56
0.35
森林地
5.12
0.85
0.54
生産力のある海域
2.90
0.48
0.31
陸地・海域の合計面積
2.13
1.35
1.87
1.19
合計面積から生物多様性保全地
(12%)を差し引いた場合
(ニッキー・チェンバースら,2005)
103
(3) エコロジカル・フットプリントの算出方法
エコロジカル・フットプリントの算出方法には,合計値から求めるコンパウンド法と個別の数値を積
算して求めるコンポーネント法の 2 つの方法が提案されている.
コンパウンド法(合計値利用法)は,マティス・ワケナゲルにより考案された.この方法は計算の基
本単位を国家とし,貿易とエネルギーのデータをもとに消費量を算出する.算出方法は次の 3 つの段階
からなる. 第一段階では,50 以上の生物資源を対象に,生産量に輸入量を足して輸出量を引くことに
より,国内におけるそれぞれの消費量を計算する.さらに必要に応じて,複数のカテゴリーにまたがる
ものが二重に加算されないよう調整する.そして,FAO の推計する世界平均収量(消費量を持続させる
ために必要な耕作地,牧草地,森林地,生産力のある海域における世界平均の生物生産力に関するデー
タ)を用いて,この消費量を割ることにより,この消費量が「生態学的生産力のある土地面積」に換算
される.第二段階ではエネルギー消費量を,国内で生成されたエネルギーと,100 以上に分類される貿
易財に内包されたエネルギーを使用して推定する.このエネルギーの見かけの消費量が土地面積に換算
される.通常は,消費による二酸化炭素排出量を固定するために必要な森林地の面積で表される.そし
て,第三段階では,その国を持続させていくために必要な生物生産力のある土地(需要)と,利用可能
な生物生産力のある土地(供給)についてまとめられる.この際,生物多様性の保全のための 12%が差
し引かれ,残りが「利用可能な生物容量」と見なされる.フットプリント(需要)を算出する際には,
「等価係数(Equivalence Factor)
」を用いて世界平均の生物生産力を持つ土地面積に換算するための調整
が行われる.これはカテゴリーが異なる土地の間の調整を行うためのものであり,土地生産性の高さに
応じて重み付けされた土地面積を計算する.この係数は世界共通係数であり,毎年土地カテゴリー別に
更新される.等価係数で乗じられたエコロジカル・フットプリントの大きさはグローバル・ヘクタール
(gha)という単位で表されることもある.また,ある国に存在する生物生産力(供給)を算出する際に
は,同一土地カテゴリーの国別土地生産性の差異を考慮するため,
「収量係数(Yield Factor)
」を固有の
土地生産性に乗じ,その地域における各土地区分の土地を,生物生産力に従って世界平均に合わせて調
整した面積に変換する.これにより,国内の実際の土地面積を,その土地が持つ本当の生産力に合わせ
て評価できるようになる.
一方,コンポーネント法(部分積み上げ法)は,一連の要素(コンポーネント)の分析をもとに,そ
れを積算することで消費量の大部分を明らかにするものである.まず,特定の活動におけるエコロジカ
ル・フットプリントの値を,あらかじめ該当地域に対応するデータを用いて計算しておく.この値(た
とえば車による移動の場合,燃焼消費量などの,単位当たりのフットプリントの平均推計値)をもとに,
必要に応じて個人レベル,組織レベル,地域レベルといった様々なレベルで及ぼされる影響を計算でき
るようにする.既存のライフサイクル分析(LCA)の基本データをまとめ,換算することによって,そ
の要素のフットプリントを導き出すことも可能である.ただし,前提条件や算出方法,サンプルの相違
により,エコロジカル・フットプリントの計算結果には幅が生じる.そのため,コンポーネント法を用
いる際には,もっとも標準的な数値を割り出せるように,様々なデータソースを使った感度分析を実施
することが必要になる.コンポーネント法の長所は,それぞれの活動が及ぼす影響の内訳が表されるた
め,政策決定者や教育者にわかりやすく説明できる点が挙げられる.短所は,データの信頼性とばらつ
きの問題により,国レベルや国際レベルで比較する際に問題が生じることである.すなわち,前提条件
やデータソースの違いにより,大きく異なる結果が導き出される恐れがあることである.
つぎに,コンポーネント法を用いてエコロジカル・フットプリント分析を行う際に必要とされる主な
換算係数を紹介する.これは,自治体や企業,個人などが資源や汚染に関する詳細なデータを使うこと
104
なくフットプリントを簡便に算出することを可能にする.すなわち,様々な活動のエコロジカル・フッ
トプリントを,換算係数に生産量や使用量などを乗じることにより算出することができる.ここで示す
換算係数は,世界平均の生産力がある土地面積(ha/year)で結果を示すように調整されている.
エネルギー関係の換算係数を用いると,さまざまな化石燃料や再生可能エネルギー使用について,エ
コロジカル・フットプリントを算出することができる.換算係数は,直接使用された土地面積と,燃焼
により直接排出された CO2,発電装置(発電所等)の建設や維持によって間接的に排出された CO2 を
固定するために必要な土地面積から算出される.換算係数は表 4.2-3 と表 4.2-4 のようになり,フットプ
リントを算出したい発電方法がある場合,該当する換算係数にエネルギー量を乗じることでフットプリ
ント求めることができる.換算係数の計算例として,風力発電所のフットプリントについて紹介する.
ここではエネルギー地と生産力阻害地のフットプリントを合算することで求める.発電所の建設と維持
に必要なエネルギーが EU 標準の電力によりまかなわれると仮定した場合,単位エネルギー生成量あた
りに必要となる内包されるエネルギー(=27 MWh/GWh)に EU 標準の電力(硬質炭使用,表 4.2-4 参照)
のエコロジカル・フットプリント(=161 ha/GWh/year)を乗ずることにより,エネルギー地のフットプ
リント(27/1000 × 161=)4.3ha/GWh/year を得る.発電所建設に必要な土地や道路に相当する生産力阻
害地については,供給電力 1GWh あたりの生産力阻害地の推定面積を 0.6 とすると,生産力阻害地の等
価係数 2.8 を採用すれば,生産力阻害地のフットプリントは,
(0.6 × 2.8 =)1.7 ha/GWh/year と見積も
られる.以上より,合算して,風力発電所全体のフットプリントは,
(4.3+1.7=)6.0 ha/GWh/year となる.
ただし,風力発電機の建設に用いられた電気の起源(データ源)を変更するのみで,値が 3~27 まで変
化するとの指摘もある(ニッキー・チェンバースら,2005)
.したがって,製品のエコロジカル・フット
プリントの算出には,地域ごとの詳細なライフサイクル分析データに基づき,分析値を吟味することが
重要である.
輸送の換算係数を算出する際には,輸送手段,燃料効率(建設・製造,維持管理,利用など)
,車の所
有率,輸送状況(天候,渋滞)などの要因が考慮される.表 4.2-5 に乗客の移動と貨物運輸のフットプ
リントを示す.ここには,炭素の固定や,道路や線路,空港の建設などに必要な土地も含められている.
食料の換算係数は,様々な影響を考慮する必要がある.たとえば,殺虫剤や除草剤,化学肥料の使用
増加による環境影響や,生産物が長距離輸送される,いわゆる「フードマイレージ」が大きくなること
による環境負荷の増加,食料生産では作物の耕作地や家畜用の牧草地として直接使用される土地などで
ある.また,食糧の貿易取引は,ある食料を輸入するときには,生産国の土地や灌漑用水を収奪してい
ることにもなる.表 4.2-6 は主要な食糧についての換算係数である,それぞれ,世界平均収量を使用し
ているが,農業用エネルギー,加工,輸送のデータは主に EU のデータをもとに算出されている.
原材料と廃棄物(不要品)の換算係数については,その使用には,採掘による直接的な負荷と,鉱石
の採掘や加工の際にエネルギーを使うことによる負荷があることを考慮し算出される.表 4.2-7 に原材
料と廃棄物それぞれの換算係数を示す.
最後に水利用の換算係数について述べる.水資源の分布は世界中で均等ではなく,世界人口の約 20%
(13 億人)の人々が安全な水を得られない状態で暮らしている.世界全体で,水の使用用途としてもっ
とも多いのは農業用水(約 70%)
,続いて工業用水,生活用水となっている.表 4.2-8 に示すデータは英
国水道会社のデータに基づき算出されており,水の処理,排水,供給,および該当する場合のみ温水利
用に必要なエネルギーを水に内包されたエネルギーとして計上している.
105
表 4.2-3 資源を使ってエネルギーを供給したときのエコロジカル・フットプリント換算係数
エネルギー1次および2次燃料
フットプリント(ha/GWh/year)
前提条件
天然ガス
45
IPCC(1996)データに基づく
重油
59
IPCC(1996)データに基づく
世界の木材生産量(乾燥重量)を使用.オ
ーブン乾燥木材についてのIPCCの純カロ
薪
93~97
リー値を使用し,
単位をtから GWhに換
算.
ボンベ入りガス(LPG)
51
IPCC(1996)データに基づく
(ニッキー・チェンバースら,2005)
表 4.2-4 資源を使って電力を供給したときのエコロジカル・フットプリント換算係数
エネルギー:発電
硬質炭使用の圧縮発電
フットプリント(ha/GWh/year)
前提条件
161
EU で主に使用されている電力
源.
石炭による発電
198
英国のデータに基づく.
石油による発電
150
英国のデータに基づく.
天然ガスによる発電
94
英国のデータに基づく.
建設および直接的な土地使用に内包され
たエネルギーを妥当なレベルで見積もっ
風力発電
6
ている.高い推定値は 27 までになる,製
造の際に風力発電による電力を活用すれ
ば,フットプリントは大幅に減少する.
製造エネルギーと土地使用についてもの.
テルル化カドミウムとセレン化銅インジ
太陽光発電
24
ウム電池のもの.
製造の際に太陽光発電に
よる電力を活用すれば,
フットプリントは
大幅に減少する.
所要木材が育つのに必要な森林
バイオマス発電(木質系)
27~46
水力発電
10~75
地より算出した.
発電所の種類により大きな差が
出る.
(ニッキー・チェンバースら,2005)
106
表 4.2-5 交通機関のエコロジカル・フットプリント換算係数
交通機関
フットプリント(ha/km/千人
前提条件
/year,貨物は ha/km/千 t/year)
自動車
0.06~0.13
ガソリン消費量,道路の建設・維
持とインフラ整備の増加係数,
道
路面積の配分率や平均の乗車人
数の推定値をもとに算出.
低い値
は EU,高い数値は米国のデータ
に基づく.
バスと電車
0.03
燃料消費データ(ディーゼル)と
内包されたエネルギーをもとに
算出.
飛行機
0.06~0.09
エネルギー地と生産力阻害地に
ついて算出.
現在の計算法では大
気圏上層部での排出量について
は考慮されていない.
低い数値は
長距離飛行,
高い数値は短距離飛
行についてのもの.
鉄道(貨物)
0.01
ディーゼル貨物列車についての
推定値.燃料,製造,維持に係る
エネルギーに,
推定配分率に基づ
く線路面積を合算したもの(EU
データ)
道路(貨物)
0.07
貨物運搬に配分される道路面積
と,
重量物運搬車に内包されたエ
ネルギー(EU データ)
船舶(貨物)
0.01
内航船のエネルギーのフットプ
リント.貨物輸送に係わる水域・
陸域面積は含まない.
(EU デー
タ)
航空(貨物)
0.32
貨物の航空輸送に内包されたエ
ネルギーと生産力阻害地の面積
の配分率をもとに推定.
大気圏上
層部での排出量は含まない.
(EU
データ)
(ニッキー・チェンバースら,2005)
107
表 4.2-6 食料のエコロジカル・フットプリント換算係数
食品
フットプリント(ha/t/year)
穀類
1.7~2.8
豆類
3.6~4.4
根葉・野菜
0.3~0.6
前提条件
品目ごとではなくグループ全体
の世界平均収量を使用
肉類
6.9~14.6
数値に幅があるのは,
主に飼育方
法の違いによる.
乳類
1.1~1.9
魚類(遠海魚)
4.5~6.6
水産養殖分は含んでいない.
ただ
し,
養殖はかなりの規模に達して
おり,
そのために大量の資源が消
費されている.
果実類
0.5~0.6
(ニッキー・チェンバースら,2005)
表 4.2-7 原材料と廃棄物のエコロジカル・フットプリント換算係数
原材料と廃棄物
木材
フットプリント(ha/t/year)
前提条件
1.0~5.7
使用可能な建設材の重量をもと
に算出.森林地と加工・輸送によ
り内包されたエネルギーを含む,
コンクリート
0.1
最終製品に内包されたエネルギ
ーと,
砂利採集が原因の生産力阻
害地の推定値から算出.
鋼鉄
0.8~1.4
鋼鉄生産時の大量のエネルギー
消費が大部分を占める.
資源採掘
に係わる生産力阻害地の推定値
も加算.
綿衣類
5.6~5.8
世界の綿花収量をもとに算出.
衣
料品の製造過程に必要なエネル
ギーも加算した.
紙(埋め立て処分)
2.8~4.0
廃棄物中に内包されたエネルギ
ーと原材料から算出.
さらに埋め
立てによる影響も考慮.
紙(リサイクル)
2.0~2.9
バージンパルプとの比較による
「省エネ係数」に基づき算出.
ガラス(埋め立て処分)
1.0~1.1
バージンガラスに内包されたエ
ネルギーに,埋め立て地を加算.
108
ガラス(リサイクル)
リサイクルガラスの省エネ係数
0.8~0.9
に基づき算出.
アルニウム缶(埋め立て処分)
内包されたエネルギー,採掘地,
9.4~17.8
埋め立て地から算出.
アルニウム缶(リサイクル)
1 次アルミニウムとの比較によ
0.4~0.9
る省エネ係数を使って算出.
プラスチック(埋め立て処分)
内包されたエネルギーと埋め立
3.6~4.1
て地を加算.
内包されたエネルギ
ーは,9 種類のプラスチックをも
とに推定.
プラスチック(リサイクル)
ここでの省エネ係数は 20%強と
1.1~3.3
設定.
(ニッキー・チェンバースら,2005)
表 4.2-8 水のエコロジカル・フットプリント換算係数
水の利用目的
単位
フットプリント
前提条件
(m2/year)
飲料用水
100L
0.08
洗濯
100 回
255
電気を使って温水を利
用したと仮定
食器洗い
100 回
167
電気を使って温水を利
用したと仮定
風呂
100 回
98
電気を使って温水を利
用したと仮定
シャワー
100 回
27
電気を使って温水を利
用したと仮定
トイレ
100 回
1.24
(ニッキー・チェンバースら,2005)
109
(4) 世界全体と各国のエコロジカル・フットプリント
エコロジカル・フットプリントを使った国際的な比較研究例として,マティス・ワケナゲルによる「エ
コロジカル・フットプリント・オブ・ネーションズ(国別エコロジカル・フットプリント報告書)
」があ
る.この報告書では世界 52 カ国(世界人口の 80%,世界総生産の 90%以上を占める)を対象に調査が
行われた.エコロジカル・フットプリントはコンパウンド法により分析された.ここでは,調査対象国
を増やし,最新のデータに基づき 2000 年時点における分析結果を掲載した「Footprint of Nations 2004」
を紹介する.この報告書は Redefining Progress のウェブサイト(www.rprogress.org)より入手できる.ま
た, WWF の「Living Planet Report(生きている地球レポート)2004 年度版」に掲載されたデータも紹
介する.本レポートは WWF ウェブサイト(www.wwf.or.jp)にて日本語訳も公開されている.
図 4.2-1 は 1961 年から 2000 年までの世界全体のエコロジカル・フットプリント(Footprint)と生物生
産力(Biocapacity)の経時変化を表している.1975 年あたりまではフットプリントは生物生産力を下回
り,人間活動が持続可能な範囲に収まっていたことが分かる.しかし,1980 年代前半以降は生物生産力
の基準をフットプリントが大きく上回る,いわゆるオーバーシュートの状態となり,この状態は現在ま
で継続・拡大している.2000 年のフットプリントは同年における生物生産力の約 1.2 倍に達している.
この超過状態,すなわち資源が再生される速度よりも速く消費されている「生態学的赤字」状態が継続
すると,いずれ地球の自然資産の減耗を引き起こすため,このような超過収奪の状態は限られた期間し
か成り立たたないと考えられている.
図 4.2-2 は人間のエコロジカル・フットプリントの内訳の経時変化を示したものである.2001 年時点
では,食物・繊維・材木のフットプリントとエネルギーのフットプリントが大きな割合を占めているの
が分かる.具体的には人類全体のフットプリント総計は、約 135 億 gha となっており、そのうち,エネ
ルギー・フットプリントは、約 73 億 gha で,全体の 54%を占めている.水産資源を含む食料・繊維・木
材などの農林水産資源の消費のフットプリントは約 58 億 gha であり,全体の 43%を占めている.残り
の生産能力阻害地は,約 4 億 gha で、全フットプリントの 3%程度であった.人間のエコロジカル・フ
ットプリントは 2001 年時点で 1961 年の約 2.4 倍に増加しており,とくにエネルギーのフットプリント
は 1960 年代より急激に増加している.これは石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料が燃やされる時に放
出される CO2 を隔離するために必要な土地の面積であり,エネルギー利用の増大が地球に大きな負荷
を及ぼしていることがわかる.
一方,各国別のフットプリントとして,2000 年の 1 人当たりの世界平均の生物生産力のある土地面積
で表したフットプリントを表 4.2-9 に示す.最もフットプリントが大きい国は,アメリが合衆国であり,
前述の「公平割当面積」
(=1.87ha)と比較すると,米国のフットプリント(=9.6 ha)は持続可能な公平
割当面積の 5 倍近くになることがわかる.示されている 138 カ国の中で 1 人当たりのフットプリントが
公平割当面積(1.87gha)以下だったのは 73 ヵ国であり,半数近くの国々で生物生産力のある土地面積より
フットプリントが大きいオーバーシュート状態にあることがわかる.日本のエコロジカル・フットプリ
ントは 3.91ha であり,地球上の人々が日本人と同じ生活を送るためには 3.91/1.87=約 2.1 個の地球が必
要であるとの指摘もある.このような地球の許容限度を大きく超えた生活を行っている状況を改善する
ためには,人口抑制や,生活水準の引き下げが有効と考えられるが,その実行には多大な困難が伴うと
予想される.
110
図 4.2-1 世界全体のエコロジカル・フットプリント(Footprint)と生物生産力(Biocapacity)の経時変
化(Redefining Progress 「Footprint of Nations 2004」
)
図 4.2-2 人間のエコロジカル・フットプリントの内訳の経時変化(WWF「Living Planet Report 2004」
)
111
表 4.2-9 2000 年の 1 人当たりの世界平均の生物生産力のある土地面積で表したフットプリント
(Redefining Progress 「Footprint of Nations 2004」
)
112
図 4.2-3 エコロジカル・フットプリント強度の世界分布(WWF「Living Planet Report 2004」
)
図 4.2-3 はエコロジカル・フットプリント強度の分布を示す.この分布図は,自然資源消費が世界中
でどのように分布しているかを示している。人口密度の増加や 1 人当たりの消費量の増大,資源効率の
低下に従って,その強度は増大することになる.これによると,強度の強い地域は先進国の他に,中国,
インドなどの人口の多い国々や,産油国である.とくに中国とインドは,表 4.2-9 では 1 人当たりのエ
コロジカル・フットプリントが公平割当面積より小さい国とされているが,人口増加や低エネルギー効
率が原因で,自然資源消費の非常に大きい地域であることがわかる.
(5) 海洋・淡水域のエコロジカル・フットプリント
我が国のような漁業資源への依存度が多い国々においては,エコロジカル・フットプリント分析の際
に海洋淡水域を含めることが不可欠である.そこで,日本のエコロジカル・フットプリント研究の第一
人者である同志社大学の和田喜彦教授が開発した海洋・淡水域のエコロジカル・フットプリントの分析
手法について,ワケナゲルらの著書に和田喜彦博士が補足した内容を中心に紹介する.
はじめに FAO などから漁獲量のデータを入手する.ここでは目的の魚種ではない混獲分の影響も無視
できないため,漁獲量に混獲率を乗じることで考慮する.つぎに,漁獲された魚が生存するために必要
な植物プランクトン(1 次生産者)の量を,次式(Pauly and Christensen, 1995)を用いて魚種別に算出す
る.ここで,この植物プランクトンは「必要一次生産量(Primary Production Required, PPR)
」と呼ばれる.
PPR={
(漁獲量+混獲量)÷9}×10(TL-1)
(漁獲量+混獲量)を 9 で割るのは,水分を含む漁獲量を,炭素重量に換算するためである.TL は魚種
毎の平均的な栄養段階(Trophic Level)を意味する.すなわち,一次生産者から数えた平均的な「変換回数」
を意味する.
水棲生物の食物連鎖における栄養段階毎の平均変換効率が 10%である
(Pauly and Christensen,
1995)ことから,このような定式化となっている.たとえば,栄養段階が3である魚種は,魚の消費量
に 102 を乗じた植物プランクトン量が漁獲した魚の成長に必要であったと見なせる.
算定された PPR を用いて,以下の式に従い,その PPR を産出するための水域面積(水域エコロジカ
113
ル・フットプリント)を求める.
水域面積=必要一次生産量(PPR)÷ 単位面積あたりの生産性
上式を魚種別に適用し,それらを合算することにより漁業資源消費のエコロジカル・フットプリント
が得られる.ここで必要となる単位面積あたりの生産性の値は,湧昇流域,熱帯大陸棚,非熱帯大陸棚,
沿岸・サンゴ礁海域,淡水域の生産性の世界的平均値が用いられる.最終的には,この水域面積に等価
係数を乗じることで世界平均的な生産性を持つ土地面積に換算される.
(6) エコロジカル・フットプリントの活用例
現在,エコロジカル・フットプリントは国内では白書などの報告書や啓蒙活動,環境教育の題材とし
て用いられることはあるが,
エコロジカル・フットプリント削減を政策目標とした事例はわずかであり,
欧米のような地域や組織活動レベルによる積極的なエコロジカル・フットプリント分析の実施や,政策
目標値として活用するまでには至っていない.ここでは,海外での積極的な活用例として,英国カーデ
ィフ市における取り組みを紹介する.
ウェールズの首都であるカーディフ市では,2000 年に「カーディフ市持続可能戦略」を定め,その理
念のもとにエコロジカル・フットプリントを「持続可能性」を評価する指標のひとつとして採用した.
この取り組みの中で,食料消費がカーディフ市のエコロジカル・フットプリントを大きくしている要因
であることが明らかになった.とくに季節はずれの食材を使用することが原因であったため,これを解
決するため有機栽培で旬の食材を中心とする食生活に変更されることになった.たとえば,市内の小中
高校の給食用の牛乳が有機牛乳に変更されており,エコロジカル・フットプリント分析が実際に政策変
更に結びついたことは注目に値する.この他にも,欧米おいてエコロジカル・フットプリントの多くの
活用事例がある.その他の事例については,ニッキー・チェンバースら(2005)やマーティス・ワケナ
ゲルら(2004)の著書を参考されたい.
以上,ここでは詳細には述べなかったが,エコロジカル・フットプリントは欧米を中心として,政治
レベルのみならず,地域,組織,個人生活,製品評価,環境教育などにおいて,
「持続可能な開発」の実
現のための指針として日常的に利用されつつある.今後は分析手法の世界標準化や,詳細なライフサイ
クル分析(LCA),マテリアルフロー分析(MFA),物質バランス分析(MBA)などを最新の研究結果を取
り入れることで,その分析精度と信頼性を高めて行く必要があるとともに,エコロジカル・フットプリ
ントが示唆する現実と現代社会の問題点を理解・共有することにより,持続可能な暮らしや社会の実現
に向けた「地球市民」としての努力をさらに進めなければいけない.
参考文献
ニッキー・チェンバース,クレイグ・シモンズ,マティス・ワケナゲル(2005)
:エコロジカル・フット
プリントの活用 地球1コ分の暮らしへ,合同出版,268p
マティス・ワケナゲル,ウィリアム・リース(2004)
:エコロジカル・フットプリント 地球環境持続の
ための実践プランニング・ツール,合同出版,293p
Pauly, D. and V. Christensen(1995)
:Primary Production Required to Sustain Global Fisheries, Nature, Vol.374.,
pp255-257
114
Redefining Progress(2004)
:Footprint of Nations 2004,www.rprogress.org
WWF(2004)
: Living Planet Report(生きている地球レポート) 2004, www.wwf.or.jp/activity/lib/lpr/lpr2004/
index.htm
115
4.3 ウェルビーイング指数
(1) ウェルビーイング(Wellbeing)指数とは
Wellbeing 指数(Wellbeing Index,WI)は,持続可能性コンサルタントのロバート・プレスコット・ア
レン(Robert Prescott-Allen , 2001)が開発したものであり,平均寿命
SYSTEM
や就学率,森林消失面積,炭素排出量などの 87 の指標によって,人
間と環境における
「ウェルビーイングの度合い」
を表すものである.
本指数は,地球白書 2004-05(ワールドウォッチ研究所,2004)に
SUBSYSTEMS
大きく採りあげられ,人間社会の目標を「消費」から「ウェルビー
イングな社会」へと変換するように提案される際に,本指数がその
people
評価指標となるとしている.以下,本指数の詳細について述べる.
ecosystem
なお,ここで紹介する結果等は,主に 1996 年から 1999 年までのデ
ータに基づいて算出されている.
DIMENSIONS
(2) Wellbeing 指数のしくみ
Wellbeing 指数(WI)は,人間と環境の両面から世界各国のウェ
ELEMENTS
ルビーイングの度合いを数値化するものである.ここでウェルビー
SUBELEMENTS
イングとは「生きていくうえで必要な基本的なニーズが満たされ,
自由,健康,安全,そして充実した社会的関係のあること」と定義
INDICATORS
されている.したがって WI は,人間のウェルビーイングの度合い
を表す Human Wellbeing Index(HWI)と,環境のウェルビーイング
図 4.3-1 Wellbeing 指数の構成
の度合いを表す Ecosystem Wellbeing Index(EWI)により構成されて
(R. Prescott-Allen , 2001)
いる.これらは等価として扱われる.
WI は図 4.3-1 に示す階層構造により構成されている.最上層に WI が位置する.そして,第二階層に
おいて,WI は 2 つのサブシステム(people と ecosystem)により構成される.これらは HWI と EWI に
対応する.
HWI と EWI はいずれも 5 つの評価分野(Dimension)により構成されている.具体的には,図 4.3-2
,Knowledge and culture
に示すとおり HWI の場合は,Health and population(健康・人口)
,Wealth(富)
(知識・文化)
,Community(コミュニティ)
,Equity(資産)が Dimension として挙げられている.図
4.3-3 に示した EWI の場合は,Land(土地)
,Water(水)
,Air(大気)
,Species and genes(種・遺伝子)
,
Resource use
(資源利用)
と定められている.
これらの 10 項目の評価分野は,
それぞれ 2 つの要素
(Element)
により構成されており,Element についても図 4.3-2 と図 4.3-3 に示されている.
Element は,その項目内容に合わせて,さらに副要素(Subelement)に細分化され,最下層に Indicator
と呼ばれる評価項目が設定されている.この Indicator は指定された統計値などを基に算出される.
Element 以下の構成例として図 4.3-4 に資源分野の Indicator を示す.各 Indicator は指定された統計値を基
に Barometer scale と呼ばれる標準化された尺度に変換され,0-100 の Performance Score と呼ばれる標準
化値で表わされる.これは,各 Indicator における評価を集約して Subelement の代表値に換算するために
用いられる.Indicator の算出方法には 2 種類有り,①高い値ほどよい状態の場合(例:全面積に対する
保護地域の割合(%))
,②低い値ほどよい状態の場合(例:子供の死亡率)に場合分けされる.①の場合,
次式に統計値などの実値を入力することで,標準化された値に換算できる.
(換算値)={[(actual indicator value-base indicator value)÷(top indicator value-base indicator value)]
×20}+base point of the band on the Barometer scale
116
PEOPLE
Health and
population
Health
Knowledge
and culture
Wealth
DIMENSION
Equity
Community
Population
Knowledge
Culture
Household
equity
Household
wealth
National
Wealth
Freedom and
governance
Peace and
order
Gender
equity
ELEMENT
Human dimensions and elements
※Culture(shade box)is not covered due to lack of a suitable indicator.
図 4.3-2
Human Wellbeing Index (HWI)の構成(R. Prescott-Allen , 2001)
ECOSYSTEM
Wealth
Water
Land
Land
diversity
Species and
genes
Air
DIMENSION
Resource
use
Land
quality
Local air
quality
Global
atmosphere
Energy and
materials
Inland
water
Sea
Wild
diversity
Domesticated
diversity
Resource
sectors
ELEMENT
Ecosystem dimensions and elements
※Sea(shade box)is not covered due to lack of adequate data.
図 4.3-3
Ecosystem Wellbeing Index (EWI)の構成(R. Prescott-Allen , 2001)
Resource
sectors
Agriculture
Food produced per
harvested hectare and
Fertilizer used
per 1000 harvested
hectares
Mining,
oil, and gas
Food production as %
of supply
Fisheries
Depleted species +
overexploited species
as % of assessed
species, Fleet
capacity per km2 of
shelf (&/or inland
waters) and Catch per
ton of fleet capacity
ELEMENT
Hunting and
gathering
Fish & seafood
production as %
of supply
Timber
Feelings + imports as %
of net annual increment
or Production + imports
as % of volume
図 4.3-4 資源利用分野の評価項目(R. Prescott-Allen , 2001)
117
SUBELEMENTS
INDICATORS
Barometer スケール値への換算例として,保護地域の国土に対する面積割合(%)を変換する際に用いら
れる換算図を図 4.3-5 に示す.たとえば,保護地域の割合が 18.5%であれば,
18.5(実際の値,actual indicator value)- 10(該当する範囲の基準値,base indicator value)=8.5
20(該当する範囲の上端値,top indicator value)- 10(基準値,base indicator value)=10
8.5 ÷ 10 = 0.85
0.85 × 20 = 17.0
17.0 + 60(標準値における基準値,base point of the band on the Barometer scale)= 77
と標準値化される.また,②の場合の換算式は,
(換算値)=top point of the band on the Barometer scale-
{[(actual indicator value-base indicator value)÷(top indicator value-base indicator value)]×20}
と表される.
このような手順で各 Indicator における標準化値を算出した後に,これらを図 4.3-1 に示した下層から
上層に向けて集約していく.すなわち,Indicator を Subelement に,Subelement を Element に,Element
を Dimension に,Dimension を Subsystem という順番で平均化,重み付き平均,最小値のいずれかの方法
で集計される.ここで,重み付き平均の際に用いられる重みは,それぞれの場合にあらかじめ設定され
ている.以上のような手順により HWI と EWI の値が算出される.
(3) Wellbeing 指数の評価方法
WI の評価には,図 4.3-6 に示す Barometer of Sustainability と呼ばれる横軸に EWI,縦軸に HWI をとっ
た評価図が用いられる.黄色の円で描かれた数値は HWI で,白色の楕円形で描かれた数値は EWI を表
す.また,図 4.3-7 に示すような一国のみの表示の場合は,HWI と EWI の Dimension についてもプロッ
トされる.ここで,円中の文字はそれぞれ c=community, e=equity, h=health and population, k=knowledge,
w=wealth, a=air, l=land, r=resource use, s=species and genes, w=water を表している.また,Barometer of
Sustainability は両軸とも 5 つの領域に分割されており,値が大きいものから Good,Fair,Medium,Poor,
Bad と名付けられている.これらの定義は表 4.3-1 に示されたとおりである.この領域表示により,各
国・各 Dimension の状況を視覚的に捉えることが可能となる.たとえば,図 4.3-6 に示された東アジア諸
18.5%
77
図 4.3-5 Indicator の標準値化(R. Prescott-Allen , 2001)
118
図 4.3-6 東アジア各国の Barometer of Sustainability(R. Prescott-Allen , 2001)
図 4.3-7 Dimension 表示を含む Barometer of Sustainability(R. Prescott-Allen , 2001)
119
表 4.3-1
Barometer of Sustainability に使用される Band の定義
(R. Prescott-Allen , 2001)
Points
Band
Range
Top
Definition
Good
100-81
100
Fair
80-61
80
Medium
Poor
Bad
Base
60-41
40-21
20-1
0
60
40
20
0
Desirable performance, objective
fully met
Acceptable performance, objective
almost or barely met
Neutral or transitinal performance
Undesirable performance
Unacceptable performance
Base of scale
図 4.3-8 日本の Barometer of Sustainability(R. Prescott-Allen , 2001)
国の WI を比較した場合,最も HWI が高いのは日本であるが,最も EWI が高いのはモンゴルとなる.
そして,全体としては,何れの国々も Poor の領域にあり,持続性に乏しい現状にあると言える.とくに
HWI と EWI の両方で Poor 領域にあるのは中国のみであり,中国は人間・環境の両面での改善が必要で
あることが分かる.日本の状況をさらに詳しく見ると,図 4.3-8 より HWI では,k(knowledge,知識)
120
と h(health and population,健康と人口)の状態が良く,e(equity,公平さ)が比較的悪いという評価に
なっている.EWI については,l(land,陸域)と a(air,大気)の値が比較的良く,s(species and genes)
の状態が著しく悪いことがわかる.このように,Wellbeing 指数解析を行うと,各国の項目毎の現状が明
確に示される.
ロバート・プレスコット・アレン(Robert Prescott-Allen , 2001)は世界 180 ヶ国を対象に Wellbeing 指
数の算定を行った.その結果を表 4.3-2 に示す.スウェーデン,フィンランド,ノルウェーなどの北欧
の国々が上位を占めているが,これらの国々の EWI はそれほど高くなく,平均寿命の高さなどにより
HWI が上昇したことにより WI が高くなったと考えられる.日本は 24 位に位置している.全体的には,
good に該当する国は無く,fair が 5 ヶ国,medium が 86 ヶ国,poor が 89 ヶ国,bad は該当無しであった.
表 4.3-2 Wellbeing 指数の世界ランキング(R. Prescott-Allen , 2001)
Rank
1
2
3
4
5
6
7=
7=
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30=
30=
32
33
34
35
36
37
38=
38=
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
Country
Sweden
Finland
Norway
Iceland
Austria
Dominica
Canada
Swizerland
Belize
Guyana
Uruguay
Germany
Denmark
New Zealand
Suriname
Latvia
Ireland
Australia
Peru
Slovenia
St Kitts & Nevis
Lithuania
Cyprus
Japan
St Lucia
Grenada
United State
Italy
France
Czech R
Greece
Portugal
United Kingdom
Belgium
Botswana
Slovakia
Luxembourg
Armenia
Netherlands
Seychelles
Ecuador
Mongolia
Singapore
Hungary
Mauritius
Solomon Is
Benin
Costa Rica
Sri Lanka
Bolivia
Estonia
Fiji
Belarus
Poland
Argentina
WI
64.0
62.5
62.5
61.5
61.0
60.5
60.5
60.5
57.0
57.0
56.5
56.5
56.0
55.5
54.0
54.0
53.5
53.0
53.0
52.5
52.5
52.5
52.5
52.0
52.0
52.0
52.0
52.0
52.0
51.5
51.5
51.5
51.5
51.5
51.0
50.5
50.5
50.0
50.0
49.5
49.5
49.5
49.0
49.0
49.0
49.0
49.0
48.5
48.5
48.5
48.0
48.0
48.0
47.5
47.5
HWI EWI
79
49
81
44
82
43
80
43
80
42
56
65
78
43
78
43
50
64
51
63
61
52
77
36
81
31
73
38
52
58
62
46
76
32
79
28
44
62
71
35
52
53
61
44
67
38
80
25
53
51
55
49
73
31
74
30
75
29
70
33
70
33
72
31
73
30
80
23
34
38
61
40
77
24
45
55
78
22
50
49
43
56
39
60
66
32
65
33
54
44
37
61
27
71
56
41
40
57
34
63
62
34
50
46
46
50
65
30
55
40
Rank
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
107
108
109
110=
110=
112=
112=
114
115
Country
Spain
Samoa
Nepal
Croatia
Russian Federation
Gabon
Bulgaria
Jamaica
Panama
Antigua & Barbuda
Georgia
Brunei Darussalam
Venezuela
Mecedonia, FYR
Namibia
Togo
Congo, R
Bahamas
Chile
Trinidad & Tobago
Colombia
Cuba
Vanuatu
Malta
Israel
Albania
Indonesia
Malawi
Egypt
El Salvador
Central African R
Brazil
Paraguay
Lesotho
Guinea
Bhutan
Romania
Kyrgyzstan
Malaysia
Yugoslavia
Cameroon
Guinea-Bissau
Honduras
Swaziland
Zimababwe
Djibouti
Gambia
Lao PDR
Lebanon
Nicaragua
Viet Nam
Cambodia
Côte d'Ivoire
Equatorial Guinea
Ethiopia
121
WI
46.5
46.5
46.0
45.0
45.0
45.0
44.5
44.5
44.5
44.5
44.5
44.5
44.5
44.0
44.0
43.5
43.5
43.0
42.5
42.5
42.5
42.5
42.5
42.0
42.0
42.0
42.0
42.0
41.0
41.0
41.0
40.5
40.5
40.5
40.5
40.5
40.0
40.0
39.5
39.5
39.5
39.5
39.0
39.0
39.0
39.0
39.0
39.0
38.5
38.5
38.5
38.5
38.5
38.5
38.5
HWI EWI
73
20
43
50
28
64
57
33
48
42
28
62
58
31
54
35
52
37
49
40
48
41
47
42
43
46
46
42
34
54
21
66
15
72
54
32
55
30
53
32
43
42
40
45
35
50
70
14
59
25
38
46
36
48
22
62
39
43
36
46
16
66
45
36
35
46
24
57
15
66
14
67
50
30
38
42
46
33
42
37
15
64
13
66
33
45
24
54
23
55
18
60
16
62
15
63
40
37
28
49
28
49
20
57
20
57
15
62
13
64
Rank
121
122
123
124
125
126
127
128
129
130
131
132
133
134
135
136
137
138
139
140
141
142
143
144
145
146
147
148
149
150
151
152
153
154
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
165
166
167
168
169
170
171
172
173
174
175
Country
Papua New Guinea
Burkina Faso
Angola
Madagascar
Senegal
Liberia
Thailand
Ukraine
Turkey
Algeria
Bangladesh
Tanzania
Nigeria
Chad
Congo,DR
South Africa
Azerbaijan
Iran
Myanmar
Eritrea
Bosnia & Herzegovina
Maldives
Kenya
Rwanda
Sierra Leone
Morocco
Tajikistan
Guatemala
Niger
Mexico
Jordon
Uzbekistan
Korea, DPR
Yemen
Mozambique
Burundi
Mali
Somalia
Qatar
China
Comoros
Bahrain
São Tomé & Principe
Libyan Arab J
Trukmenistan
Haiti
Pakistan
Ghana
Oman
Zambia
Sudan
India
United Arab Emirates
Mauritania
Tonga
WI
37.5
37.5
37.5
37.0
37.0
37.0
36.5
36.5
36.5
36.5
36.5
36.0
36.0
36.0
36.0
35.5
35.0
35.0
35.0
35.0
34.5
34.5
34.5
34.5
34.5
34.0
33.5
33.5
33.5
33.0
33.0
33.0
33.0
33.0
33.0
33.0
32.5
32.5
32.0
32.0
32.0
31.5
31.5
31.0
31.0
31.0
31.0
30.0
29.5
29.5
29.5
29.0
28.5
28.5
28.0
HWI EWI
22
53
17
58
8
67
24
50
20
54
9
65
50
23
47
26
45
28
29
44
27
46
18
54
16
56
13
59
7
65
43
27
42
28
38
32
21
49
10
60
24
45
22
47
18
51
12
57
6
63
36
32
28
39
23
44
11
56
45
21
38
28
36
30
21
45
15
51
11
55
6
60
21
44
3
62
40
24
36
28
20
44
46
17
10
53
38
24
32
30
19
43
18
44
22
38
31
28
16
43
13
46
31
27
41
16
17
40
26
30
また,これらの国々の HWI と EWI について該当する評価により場合分けし,世界地図に示したもの
を図 4.3-9 に示す.日本は HWI が fair で EWI が Poor であるので,紫色で示されている.日本と同様の
傾向を示す国としては,米国,西ヨーロッパ諸国,オーストラリアなどであり,いわゆる先進国にこの
傾向が強いことが分かる. 青色で示された HWI が good,EWI が medium に該当する現状で最も状況の
良い国としては,北欧,カナダなどがあり,環境対策や福祉重視として知られている国々となっている.
このように Wellbeing 解析は,世界各国の人間と自然環境の現状とその国毎の違いを明確に表すことが
できる.
(4) Wellbeing 指数の位置づけ
Wellbeing 指数の特徴を明確にするため,表 4.3-3 に他の環境評価指標・報告との比較結果を示す.こ
れによると,人間活動と自然環境の両方を考慮しつつ,それらを指標化しているのは Wellbeing 指数の
みであり,他のものについては,自然環境のみを取り扱うが指標化がなされていないなど,Wellbeing 指
数と異なる点がある. ただし,Wellbeing 指数は,人間と環境の両方を同時に考慮できるが,表 4.3-4 に
示すように Indicator に必要なデータ種は膨大であり,国によっては統計値として存在していないものも
多い.このため,精度を保つためにはデータの充実が必要であると考えられる.
「ウェルビーイング」
という概念を個人と公共政策の目標に置くという考え方は急速に広まっている.
この定義はまちまちであるが,共通する項目として,生存のための基本条件,良好な健康,良好な社会
関係,安全,自由などが含まれる.そのため,ウェルビーイングに重点を置く社会は,基本的に質の高
い生活を意味し,そこではゆったりとしたストレスのない日常生活となる.Wellbeing 指数は,このウェ
ルビーイングの尺度として用いることができ,そこから理想的な開発目標を明確にすることができる.
今後は,これまで使われてきた GDP に代わる,社会の健全性を測る優れた指標として機能することが
期待されている.
表 4.3-3 地球規模の環境影響評価における適用範囲(✓は考慮有り,✘は未考慮)
Assessment or Report
Wellbeing of Nations
Agenda 21
Ecological Footprint
Envoronmental Sustrainability Index
Global Environment Outlook
Human Development Report
Living Planet Report
State of the World's Children
World Development Report
World Resources Report
People
✓
✓
✘
✘
✘
✓
✘
✓
✓
✘
Ecosystem
✓
✓
✓
✓
✓
✘
✓
✘
✘
✓
Index
✓
✘
✓
✓
✘
✓
✓
✘
✘
✘
(R. Prescott-Allen, 2001)
122
参考文献
ワールドウォッチ研究所(2004)
:地球白書 2004-05, 家の光協会
Prescott-Allen, Robert(2001)
:The Wellbeing of Nations : A Country-By-Country Index of Quality of Life and the
Environment, Island Pr
Sustainability committee of Association of Professional Engineers and Geoscientists of B.C website :
www.sustainability.ca
図 4.3-9 HWI と EWI の評価別地図(R. Prescott-Allen , 2001)
123
表 4.3-4 HWI と EWI の算出の際に必要な統計値
Indicator(HWI)
Indicator(EWI)
Life expectancy at birth
Net secondary school enrollment
Converted land as a percentage of total
land
Carbon dioxide emissions per person
Health life expectancy at birth
Tertiary school enrollment
Natural land as a percentage of total land
Use of ozone depleting substances (ODSs)
per person
Child mortality rate [included for
comparison but not counted as an
indicator]
Main telephone lines and cellular phones
per 100 persons
Annual change in native forest area
Annual mean ambient air concentration of
sulfur dioxide
Total fertility rate
Faults per 100 main telephone lines
Protected land (+ inland waters) as a
percentage of total land (+ inland waters)
Days ambient air concentration of sulfur
dioxide exceeds WHO guideline
Population with insufficient food
Internet users
Degraded land as a percentage of
cultivated + modified land
Annual mean ambient air concentration of
nitrogen dioxide
Prevalence of stunting (low height for age)
in children under 5
Political rights rating
Dam capacity as a percentage of total
water supply
Days ambient air concentration on nitrogen
dioxide exceeds WHO guideline
Prevalence of underweight (low weight for
age) children under 5
Civil liberties rating
Flow dammed for hydropower as a
percentage of dammable flow
Days ambient air concentration of ozone
exceeds WHO guidelines
Prevalence of babies with low birth weight
Press freedom rating
Dissolved oxygen in inland waters
Days ambient air concentration of
monoxide exceeds WHO guidelines
Population with safe water and basic
sanitation
Corruption perceptions index
Biochemical oxygen demand (BOD)
Annual mean ambient air concentration of
suspended particulate matter (SPM)
Gross domestic product per person
Deaths from armed conflicts per year
Chemical oxygen demand (COD)
Annual mean ambient air concentration of
fine particulates 10 micrometers or less in
diameter (PM10)
Annual inflation rate
Military expenditure as a percentage of
gross domestic product
Nitrogen in inland waters
Annual mean ambient air concentration of
lead
Annual unemployment rate
Homicides
Phosphorus in inland waters
Present value of debt service as a
percentage of exports of goods and
services
Rapes
Alkalinity of inland waters
Present value of debt service as a
percentage of gross national product
Robberies
Acidity of inland waters
Number of not-at-risk breeds per million
head of a species
Ratio of short-term debt to international
reserves
Assaults
Total suspended solids in inland waters
Ratio of threatened to not-at-risk breeds
of a species
Gross public debt (general government
gross financial liabilities) as a percentage of
gross domestic product
Ratio of richest 20%'s income share to
poorest 20%'s
Fecal coliforms in inland waters
Energy consumption per hectare of total
area
Annual central government deficit/surplus
as a percentage of gross domestic product
Ratio of male income to female income
Arsenic in inland waters
Energy consumption per person
Net primary school enrollment
Average difference between male and
females school enrollment rates
Cadmium in inland waters
Food produced per harvested hectare
Women's share of seats in parliament
Chromium in inland waters
Fertilizer consumed per 1,000 harvested
hectares
Copper in inland waters
Food production as a percentage of supply
Lead in inland waters
Depleted + overexploited fishery species as
a percentage of assessed species
Mercury in inland waters
Tons of fishing fleet capacity per km2 of
continental shelf and/or inland water area
Nickel in inland waters
Tons of catch per ton of fishing fleet
capacity
Zinc in inland waters
Fish production as a percentage of supply
Water withdrawal as a percentage of
internal renewable supply
Timber fellings + imports as a percentage of
net annual increment (NAI)
Threaded species in a group as a
percentage of total species in that group:
plants
Threaded species in a group as a
percentage of total species in that group:
animals
Timber production + imports as a
percentage of volume
124
4.4 地球白書 2004-05 で紹介されている諸データ
IMPACT 専門委員会では,海洋の大規模利用による地球規模での環境へのインパクトを,地球規模で
の包括的な評価基準を用いて検討することを目的としており,その背景として,急激な人口増加と経済
発展に伴う,水危機,食糧危機,エネルギー危機を挙げている.従って,これらの現状を科学的データ
に基づいて説明することも重要であると考え,それらの最新データが掲載されている地球白書のレビュ
ーを行うことにした.表 4.4-1 は,地球白書 2004-05 で紹介されている諸データをまとめたものである.
表 4.4-1 地球白書で紹介されている主なデータ(2005 世界人口は世界人口白書による)
項目
世界人口(2005)
世界人口(2050)予想
所得7000ドル超人口
1日2ドル未満で暮らす人口
1日1ドル未満で暮らす人口
各国の消費階層人口(2002)
栄養不足人口
飲料水不足人口
主要国年間エネルギー消費量
東京都心部の公共交通利用率
西ヨーロッパ都心部の公共交通利用率
カナダ都心部の公共交通利用率
アメリカ都心部の公共交通利用率
自家用車の公共交通に対する燃料消費率
電子メールによる紙の消費量増加率
食料品の通信販売による燃料消費増加率
1人当たりエネルギー消費量とウェルビーイングランク
32MBマイクロチップ1個の生産に必要な化学物質量
32MBマイクロチップ1個の生産に必要な元素ガス
32MBマイクロチップ1個の生産に必要な水
32MBマイクロチップ1個の生産に必要な化石燃料
世界水使用のうち農業用水の占める割合
世界水使用のうち工業用水の占める割合
世界水使用のうち生活用水の占める割合
湿原1㌶当たりの価値
カナダの1人当たりの利用可能水量
ヨルダンの1人当たりの利用可能水量
イスラエルの1人当たりの利用可能水量
クウェートの1人当たりの利用可能水量
各国の1人当たり年間取水量(2000)
基本的衛生設備を利用できない人口
主要食品の単位タンパク質当たり水使用量
アメリカの配電量1キロワット時当たりの水消費量
アメリカの平均的な1世帯が配電により消費する水量
各都市の生活用水使用量
アメリカの芝生維持のための灌水量
アメリカの芝生維持のための除草剤・農薬使用量
ガソリン1㍑を生産するために必要な水量
輸入肉料理の国産野菜料理に対する炭素排出割合
工場式畜産の投入物と排出物
容器入り飲料水の消費量伸び率
容器入り飲料水の消費量(2003)
ペットボトル1kgを生産するために必要な水量
環境保護と社会的公正を満たすのに必要な消費削減量
2005年までにアメリカで廃棄される携帯電話の数
2005年までにアメリカで廃棄される携帯電話から出る鉛量
先進国の一般固形廃棄物に占める紙の割合
125
数値
64.6
89
17
28
12
単位
億人
億人
億人
億人
億人
参考文献
世界人口白書2005
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
8.25 億人
地球白書2004-05,
11 億人
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
92 %
地球白書2004-05,
10 %
地球白書2004-05,
7%
地球白書2004-05,
2%
地球白書2004-05,
2~3 倍
地球白書2004-05,
40 %
地球白書2004-05,
55 %
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
72 g
地球白書2004-05,
700 g
地球白書2004-05,
32 kg
地球白書2004-05,
1.2 kg
地球白書2004-05,
70 %
地球白書2004-05,
22 %
地球白書2004-05,
8%
地球白書2004-05,
20000 ドル/年 地球白書2004-05,
92000 m3/年 地球白書2004-05,
138 m3/年 地球白書2004-05,
124 m3/年 地球白書2004-05,
0 m3/年 地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
24 億人
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
8.3 ㍑
地球白書2004-05,
83 m3/年 地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
300 億㍑/日 地球白書2004-05,
45000 ㌧/年
地球白書2004-05,
18 ㍑
地球白書2004-05,
9倍
地球白書2004-05,
地球白書2004-05,
12 %/年
地球白書2004-05,
350 億ドル
地球白書2004-05,
17.5 kg
地球白書2004-05,
90 %
地球白書2004-05,
5 億個
地球白書2004-05,
140 ㌧
地球白書2004-05,
40 %
地球白書2004-05,
別添図表
p.7
p.9
p.9
p.9
p.11
p.12
p.14
p.50
p.56
p.56
p.56
p.56
p.56
p.60
p.60
p.76
p.79
p.79
p.79
p.79
p.85
p.85
p.85
p.85
p.89
p.89
p.89
p.89
p.90
p.92
p.98
p.105
p.105
p.106
p.107
p.109
p.112
p.124
p.132
p.154
p.154
p.156
p.175
p.213
p.213
p.252
表4.4-2
表4.4-6
表4.4-7
表4.4-3
表4.4-4
図4.4-1
表4.4-5
最も基礎となる世界人口を見ると, 表 4.4-2 各国の消費階層(年間所得 7000 ドル以上)人口(2002)
2005 年 7 月現在で 64.6 億人,2050
年にはほぼ 90 億人に達することが
わかる.1960 年時点で約 30 億人で
あったことから,この 40 年間で 2
倍の増加ということになる.ところ
が,各国通貨の購買力で調整した所
得基準で年間所得 7000 ドルを超え
る,
いわゆる消費階層人口が 17 億人
であるのに対し,1 日 2 ドル未満で
暮らす貧困層人口が 28 億人となっ
アメリカ
中国
インド
日本
ドイツ
ロシア
ブラジル
フランス
イタリア
イギリス
消費階層人口
(億人)
2.42
2.40
1.22
1.21
0.76
0.61
0.59
0.53
0.53
0.51
対人口比
(%)
84
19
12
95
92
43
33
89
91
86
ており,人口の増加は貧困層人口の
拡大に他ならないことが理解できる.
表 4.4-2 に示すように 95%の日本人は消費階層であるが,我々のような生活を営んでいる人間は,全
人口のわずか 26%に過ぎないという事実を直視する必要がある.この表からさらに推察できることは,
世界最大の人口を抱え,現在目覚しい経済発展を続けている中国の消費階層人口が未だ 19%であり,こ
の値が急伸するとすれば,水,食糧,エネルギーの需要が爆発的に増加する可能性が高いということで
ある.
例えば,表 4.4-3 や図 4.4-1 に示すように,一人
表 4.4-3 各国の一人当り年間取水量(2000)
当りの年間取水量あるいは一人当りの水使用量は,
発展途上国と先進国では桁違いの差となっている.
取水量に関しては,地理的な水源の偏在も影響し
国
エチオピア
ナイジェリア
ブラジル
南アフリカ共和国
インドネシア
中国
ロシア
ドイツ
バングラデシュ
インド
フランス
ペルー
メキシコ
スペイン
エジプト
オーストラリア
アメリカ
ていると考えられるが,使用量に関しては生活の
質に大きく依存していると考えられ,消費階層人
口の増加とともに水使用量が増加することはこれ
らのデータからも裏付けられる.
さらに,消費階層人口が増加すれば食生活も変
化する.所得が低い場合には,穀類を中心とした
食生活となるが,所得が上がるにつれ肉類の消費
割合が上昇する.牛肉 1 グラムを生産するのに穀
類 7 グラム,豚肉 1 グラムを生産するのに穀類 4
グラムが必要とされており,直接人間が食べる場
合に比べて間接的な穀類消費量は極端に増加する
ことになる.表 4.4-4 は主要食品の単位タンパク
質当り水使用量を示したものであるが,ジャガイ
一人当たり
年間取水量(m3)
42
70
348
354
390
491
527
574
578
640
675
784
791
893
1,011
1,250
1,932
モやトウモロコシ,小麦といった植物性タンパク質の摂取を中心とした食生活から,豚肉や牛肉などの
動物性タンパク質の摂取を中心とした食生活に変化すると,5~10 倍もの水を必要とするようになる.
また,肉類の生産には大量のエネルギーも必要となることから,消費階層人口の増加に伴う食生活の変
化は,
食糧資源そのものだけではなく,
間接的に水資源やエネルギー資源の消費増加に繋がるのである.
なお,表 4.4-5 には工場式畜産の投入物と排出物をまとめたものを示す.
126
表 4.4-4 主要食品の単位タンパク質当り水使用量
単位タンパク質当たりに必
要な水使用量(㍑/g)
ジャガイモ
6.7
ピーナツ
9.0
タマネギ
11.8
トウモロコシ
13.0
マメ類
13.2
小麦
13.5
コメ
20.4
鶏卵
24.4
牛乳
25.0
鶏肉
30.3
豚肉
47.6
牛肉
100.0
フェニックス
日本
シアトル
シドニー
マニラ
シンガポール
イギリス
コペンハーゲン
タンザニア
ウガンダ
ケニア
0
200
400
600
800 1,000
1人1日当たり水使用量(㍑/日)
図 4.4-1 各都市の生活用水使用量
表 4.4-5 工場式畜産の投入物と排出物
投入物
餌
水
・1カロリーの牛肉,豚肉,鶏肉は11~17カロリーの飼料を必
要とする.
・収穫される大豆の95%は,人ではなく家畜が消費する.
・肉骨粉を含む飼料はBSEの原因となりうる.先進国では数千
頭の牛がこの病気に感染した.
・200グラム強の牛肉を生産するには2万5000リットルの水が
必要である.
添加物
・アメリカでは,全抗菌剤の70%が牛,豚,鶏に使われている.
化石燃料
・1カロリーの牛肉を生産するには,1カロリーのジャガイモを生
産する場合に比べて化石燃料を33%も多く必要とする.
排出物
糞尿
メタン
病気
・大規模な工場式養豚で下水溜めに集められた糞尿は地下水
脈に漏出したり,付近の地表水を汚染する.
・牛などのげっぷは,強力な温室効果作用を持つメタンの世界
の年間排出量の16%を占める.
・飽和脂肪酸やコレステロールの含有量が多い畜産物の摂取
は,ガンや心臓病,その他の慢性病と関連がある.
・大規模な工場式畜産の環境は,大腸菌やサルモネラ菌と
いった食物が媒介する病原菌を蔓延させる恐れがある.
・BSEに関連するであろうクロイツフェルト・ヤコブ病によって,
少なくとも100人が死亡している.
表 4.4-6 は,
各国の一人当り年間エネルギー消費量をまとめたものである.
表 4.4-2 と対比して見ると,
明らかに消費階層人口比率と相関が高いことがわかる.莫大な人口を抱える中国の消費階層人口比率が
高くなると,水,食糧,エネルギーの消費量ならびに CO2 排出量が爆発的に増加することは避けられな
いことがこれらのデータからも示されている.表 4.4-1 に示すように,栄養不足人口が 8.25 億人,飲料
水不足人口が 11 億人,基本的衛生設備を利用できない人口が 24 億人という現状であるが,限られた資
127
源が世界に分配されていることを考えれば,消費階層人口の増加は,飢餓人口,渇水人口の増加につな
がることは自明である.
地球白書では,このような大量消費社会が招く悲観的な現状を示すとともに,そこからの脱却を目指
す方策についても述べられている.それがウェルビーイングな社会への転換である.表 4.4-7 は各国の
一人当たりエネルギー消費量とウェルビーイング指数のランキングを比較したものである.ウェルビー
イング指数とは,人間と生態系の質を測る指標で,健康,教育,豊かさ,個人の権利・自由,生態系の
質と多様性,大気の質・水質,資源利用効率など,88 の指標に基づいて数値化したものである(4.3 節
参照)
.これを見ると,必ずしもエネルギー消費量の上位ランクの国がウェルビーイング指数上位国であ
るとは限らないことがわかる.オーストラリアのようにエネルギー消費ランクでは 26 位であるが,ウェ
ルビーイングランク指数が 5 位の国もあれば,アラブ首長国連邦のようにエネルギー消費ランク 2 位の
国がウェルビーイングランク 173 位ということもある.すなわち,生活の質や豊かさは大量消費による
のではなく,消費を抑えても豊かで健康的な生活を送ることが可能であるということである.本調査研
究では,今のところ生活の質に関する議論にまで踏み込む予定はないが,水,食糧,エネルギー確保の
観点から研究を進めていく際に,この観点についても要所要所で振り返ってみることは重要であろう.
表 4.4-6 主要国一人当り年間エネルギー消費量
アメリカ
日本
ドイツ
ポーランド
ブラジル
中国
インド
エチオピア
年間CO2排出量
(㌧/人/年)
19.7
9.1
9.7
8.1
1.8
2.3
1.1
0.1
年間電力消費量
(kW時/人/年)
12,331
7,628
5,963
2,511
1,878
827
355
22
表 4.4-7 一人当りエネルギー消費量とウェルビーイングランク
一人当たりの
ウェルビーイング
エネルギー消費量 エネルギー消費量
ランク
ランク
の相対比較指数
(スウェーデンを100とする)
スウェーデン
フィンランド
ノルウェー
オーストラリア
日本
アメリカ
ロシア
クウェート
アラブ首長国連邦
1
2
3
5
24
27
65
119
173
10
6
8
26
19
4
17
3
2
128
100
112
104
61
70
140
71
162
190
5.順応的管理
5.1 生態系と順応的管理
(1) 不確実性・非定常性・複雑性
(広義の)生態系は,不確実で,非定常で,複雑であるという3つの特徴を持つ.換言すれば,
「無知
の知」こそ生態管理の根本である.不確実だからこそ,管理に絶対はなく,つねに不測の事態を覚悟す
るリスク(危険性)を管理することが必要となる.
順応的管理(鷲谷・松田,1998, 応用生態工学による adaptive management の訳語)は,そのための管
理手法であり,以下のような諸原則で特徴付けられる.生態系に関する知見が不十分なうちに,実証さ
れていない前提(仮説)に基づいて管理計画を立てる.実行しながら継続監視(monitoring)を続け,前
提を検証し,必要ならば前提を見直す.さらに,非定常な生態系の状態変化をあらかじめ想定し,状態
変化に応じて方策を変え,その変え方を事前に決めておく.これらの諸原則に基づく管理を順応的管理
という.順応的管理は,管理自身が仮説検証型の実験として設計される.定められた期間のうちに,当
初定めたとおりに前提が検証されなければ,それ自身が設計の不備と見なされる.
「為すことによって学
ぶ」とは順応的管理の標語だが,証明される前に何をしてもよいという意味ではない.定められた期間
内に検証に耐えられるという見込みを示さずに実施されるべきものではない.これは,
「研究プロジェク
ト」を申請する際には,すでに行われていることであり,管理実施後に「論文」が書けないようでは,
「公約」を満たしているとは言えない.
ただし,生態学の仮説検証が困難であることはよく知られている.また,前提が誤っている場合もあ
りえる.私は,検証だけでなく,反証可能性,すなわち予測が的中しても仮説が正しいとは限らないが,
予測の範囲を超えた事態が起きれば仮説が間違いであることがわかることも含めている.これは,日本
の環境影響評価法基本的事項の「予測の不確実性の範囲を示す」ことに対応する.
生態系の不確実性には,測定誤差と確率的状態変化(過程誤差)の2種類がある.いずれも予測の不
確実性を生み出し,過程誤差がある限り,想定外のことが起きる危険性はゼロにはできない.したがっ
て,生態系管理にはリスク管理(risk management)の視点が欠かせない.絶対安全あるいはゼロリスク
を求めるのではなく,リスクを合理的に減らす仕組みが必要である.
(2) フィードバック制御
常に一定の方策を採り続けるよりも,状態を継続監視し,状態変化に応じて方策を変えるほうが,同
じ費用に対して,効果的にリスクを減らすことができる.ある絶滅危惧種が,放置しても回復するか手
厚い保全措置が必要かわからないとき,初めから費用をかけて手厚く保護するよりも,継続監視を続け
て必要に応じて保護し,回復したら放置に転じるほうが,同じ絶滅リスクに対して,費用と労力を減ら
すことができる.
順応的管理を実施するには,継続監視が欠かせない.また,できるだけ多くの事態を想定し,その対
応策をあらかじめ考えておくことが肝要である.調査研究と異なり,順応的管理は実験である前に,実
践である.語幣を恐れずに言えば,人体実験と呼んでもよい.
そのため,管理計画の策定は一人の研究者の自由には決められない.未実証のどの前提を用いるかに
より,管理計画も異なる.さらに,人と自然の関係は多様であり,それ自身が価値観に左右されるもの
であるから,管理目的をどう定めるかも,科学だけでは決めることができない.このような不確実性と
129
価値の多元性から,社会的な合意形成の手続きが重要である.管理計画の実施方法,調査,評価,見直
しにいたる方法を定めることも重要である.これを管理方式(management procedure)という.国際捕鯨
委員会科学小委員会では,鯨の推定個体数に応じて捕獲枠を定める改定管理方式(Revised Management
Procedure)が合意された.これが順応的管理の先駆例である.
(3) 自然再生事業指針
日本生態学会生態系管理専門委員会では,
「自然再生事業指針(案)
」として,いくつかの原則を提案
している.これは自然再生事業だけでなく,生態系管理などに広く応用することができる.自然再生事
業の対象として(1)生物種と生育・生息場所,(2)群集構造と種間関係,(3)生態系の機能,(4)生態系の繋
がり,および(5)人と自然との持続的なかかわりを再生すべき対象とみなす.基本認識の明確化を図るた
め,(6)生物相と生態系の現状を科学的に把握して事業の必要性を検討し,(7)放置したときの将来を予測
して手を加えるとすればその理由を明らかにし,(8)時間的・空間的広がりを考慮して再生すべき生態系
の姿を明らかにし,(9)自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する.
自然再生事業を進めるうえで遵守すべき原則として,(10)その地域の生物を保全し(風土性の原則)
,
(11)その地域の生物多様性(構成要素)を再生し(多様性の原則)
,(12)その種の遺伝的変異性の維持に
十分に配慮し(変異性維持の原則)
,(13)自然の回復力を活かして必要最小限の人為を加え(回復力活用
の原則)
,(14)事業に関わる多分野の研究者が協働し(諸分野協働の原則)
,(15)伝統的な技術や制度を尊
重する(伝統尊重の原則)
.順応的管理の指針としては,(16)不確実性に備えて予防原則を用い,(17)管
理計画に用いた仮説を継続監視して検証し,状態変化に応じて方策を変え,(18)用いた仮説の誤りが判
明した場合には中止を含めて速やかに是正し,(19)将来成否が評価できる具体的な目標を定め,(20)将来
予測の不確実性の程度を示す.さらに,合意形成と連携の指針として,(21)科学者が適切な役割を果た
し,(22)自然環境教育の実践を含む計画をつくり,(23)地域の多様な主体の間で合意をはかり,(24)より
広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる.
(4) 生態リスク管理
横浜国立大学の 21 世紀 COE「生物・生態環境リスクマネジメント拠点」では,リスクマネジメント手
続きの基本形(案)を以下のように取りまとめている.(1)リスク管理を行おうという社会的要請および
科学者からの問題提起を受けて,(2)利害関係者と対象地区など管理の範囲を列挙し,(3)合意形成の場と
しての協議会や科学委員会などを設置する.これを受けて,科学委員会では(4)守るべき対象が何かを科
学的に整理し,(5)その定量的評価指標を列挙し,(6)守るべき対象へのリスクとなる影響因子の分析とモ
デル構築を行い,(7)放置した場合に何がおきるかについてのリスク評価を行う.これらの分析により,
(8)協議会で管理の必要性と管理の目的あるいは理念を合意する.
その後,科学委員会では,(9)達成すれば目的が成功しているとみなしえるような具体的な数値目標を
仮に設定し,(10)それを検証するための継続監視項目を決定し,(11)管理計画により人為的に制御可能な
項目と手法を選び,(12)仮に定めた目標が達成されるかどうかを評価する.目標達成の実現性が低けれ
ば数値目標を設定し直し,上記の検討を繰り返す.
こうした科学委員会の検討を経て,(13)再び協議会の場で数値目標と管理計画が審議される.社会的
な価値判断から合意に至らぬ場合は,数値目標の仮設定作業に差し戻される.合意された場合には,(14)
管理計画が実施され,同時に継続監視によってその効果を検証する.そして,定期的に(15)目的・目標
の達成度が評価され,必要ならば数値目標の再設定や管理計画の再検討など,計画の見直しを行う.
130
これら一連の作業には,ある政策のもとでのリスク評価,数値目標を達成するための方途を検討する
リスク管理,そして多様な主体の合意形成過程としてのリスクコミュニケーションが繰り返される.ま
た,
「自然再生事業指針(案)
」に強調されるように,科学者の役割は,個人的な価値観に基づく主張で
はなく,社会的に合意された目的とそれを実現するための具体的な数値目標の整合性,その数値目標を
達成するための管理方策の検討と目標の実現可能性を吟味し,
それを利害関係者に分かりやすく説明し,
合意形成を支援することである.これらの手法は,自然再生事業や環境影響評価だけでなく,さまざま
な広義の生態系管理にも適用できることだろう.
参考文献
鷲谷いづみ,松田裕之(1998)
:生態系管理および環境影響評価に関する保全生態学からの提言(案). 応
用生態工学研究, Vol.1, pp.51-62
131
5.2 最大持続生産量(MSY)の問題点
(1) 国連海洋法条約と最大持続生産量
最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield, MSY)の理論は,法律の条文にも明記されている.すな
わち,国連海洋法条約第 61 条では,1項で「沿岸国は,自国の排他的経済水域における生物資源の総許
容漁獲量を決定」し,2項で「自国が入手することのできる最良の科学的証拠を考慮して,排他的経済
水域における生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないことを適当な保存措置及び管理措置を
通じて確保」し,3項において,
「環境上および経済上の関連要因を勘案し」
,
「最大持続生産量を実現す
ることのできる水準に漁獲される種の資源を維持しまたは回復することのできるようなものとする」と
規定されている.
国内では,1996 年に制定された「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」
(いわゆる TAC 法)の第
3条3項に,
「最大持続生産量を実現することができる水準に指定海洋生物資源を維持しまたは回復させ
ることを目標」とすると記されている(桜本,2004)
.
つまり,MSY とは,法律にも明記された水産資源学の,基本の中の基本とも言うべき理念である.け
れども,
近年では MSY 理論の有効性に海外
(Hilbom,
2002)
でも国内
(桜本,
2004,
Matsuda and Katsukawa,
2002)でも疑問が投げかけられている.生態系はその仕組みも観測値も不確実であり,自然状態におい
ても非定常であり,種間相互作用をもつ複雑な系である.古典的な MSY 理論は,これらをすべて無視し
ている.乱獲でも禁漁でもなく,ほどほどに利用する方がよいと言う MSY という概念を使うこと自身
を否定するわけではないが,不確実性,非定常性,複雑性を考慮した新たな管理理論の構築が求められ
ている(Matsuda and Katsukawa,2002)
不確実な情報に基づき資源を持続的に利用する戦略として,順応的管理(鷲谷・松田,1998)が注目
されている.順応的管理とは,継続監視によって資源動態を把握し,変動に柔軟に対応する方策である.
順応的管理によって,予測が難しい,非定常で変動が大きな資源にも対応できる.
ここでは,第3の要因である生態系の複雑性,つまり種間相互作用に注目し,古典的な MSY 理論が
もつ問題点を指摘し,さらに種間相互作用系に順応的管理を適用した場合の問題点を議論する.
(2) 単一資源の MSY
まず,古典的な MSY 理論を数理モデルで説明する.ある魚種の資源量を x とするとき,その変動が,
dx / dt = F(x, f)
F(x, f) = [r – ax – f] x
(5.2-1)
という微分方程式で表されるとする(松田,2000)
.F は資源の時間変化 dx / dt が資源量 x と漁獲努力量
f の関数で表されることを表し,t は時間を表す.a と r はそれぞれその魚種資源の密度効果と内的自然
増加率を表す正の定数とする.漁獲量は漁獲努力と資源量の積 fx に比例すると仮定し,簡単のため,そ
の比例定数(漁具効率)を1とする.
dx / dt = 0 となる定常状態の資源量は,x = (r – f) / a である.定常状態での漁獲量は漁獲努力量 f の2次
.
式になり,f = r /2 のときに最大値 r / 2a2 となる.これが最大持続生産量(MSY)である(図 5.2-1)
前述のように,上記の数理モデルは単純化しすぎている.現実の漁業では,r や a の値を知っている
わけではなく,そもそも F の関数形が上記の式とは限らず不明であり,しかも,環境条件により変化す
る.これらの不確実性や非定常性を考慮したとき,MSY は必ずしも許容漁獲量を定める有効な概念とは
いえない(桜本,2004)
.
132
漁
獲
量
漁獲努力量
図5.2-1 単一資源動態モデルにおける漁獲努力量と定常状態での漁獲量の関係
(r = 1, a = 0.01 の場合)
.
(3) 被食者・捕食者系の MSY
種間相互作用を考慮すると,MSY 理論はさらに大きな修正が必要になる.以下のように,たとえばイ
ワシとマグロのように,被食者・捕食者からなる系を考える.
dx / dt = (r – ax – by – f1) x
dy / dt = (–d – cy + mbx – f2) y
(5.2-2)
ただし x と y はそれぞれ被食者と捕食者の資源量,a, b, c, d, m, r はそれぞれ被食者の密度効果,捕食者が
被食者を食べる摂食率,捕食者の密度効果,捕食者の死亡率,被食者から捕食者へのエネルギー転換効
率,被食者の内的自然増加率を表す正の定数とする.また,f1 と f2 はそれぞれ被食者と捕食者に対する
漁獲率を表す.また,これら2種から得られる漁獲高の合計が,
Y = p1f1x + p2f2y
(5.2-3)
と表せるとする.ただし p1 と p2 はそれぞれ被食者と捕食者の単位漁獲量に対する魚価を表す.
これはかなり単純化した数理モデルだが,捕食者が存続するときには,単一魚種の MSY 理論とは大
きく異なる.
よく行われるように,まず,c = 0 と仮定した数理モデルを考える.この系の定常状態は2通りあり,
x = (r – f1) / a, y = 0
(5.2-4)
または,
x=
y=
bd + bf 2 + cr − cf 1
b 2 m + ac
mbr − ad − mbf 1 − af 2
(5.2-5)
b 2 m + ac
である.前者は捕食者を絶滅させ,前述の単一資源の数理モデルに帰着する.また,通常 c は 0 と仮定
することが多く,おおむねかなり小さな値だろう.c = 0 と仮定すると,定常状態は,
x = (d + f2)/bm,
y = (bmr – ad – bmf1 – af2) / b2m
(5.2-6)
と表される.
このように,被食者の定常資源量は,c が 0 か小さい場合には,捕食者がいる限り,被食者への漁獲
.漁獲努力を増やしても被食者は減らないから,いくら
努力量 f1 にほとんどよらない(図 5.2-2a の太線)
でも獲り続けることができるように見える.
これは以下のように直感的に理解できるだろう.捕食者と漁業は,被食者という同一の資源をめぐる
133
競争関係にあり,被食者に対する漁獲努力を増やすと被食者が減る代わりに捕食者が減っている(図
5.2-2a の細線)
.さらに漁獲努力を増やすとやがて捕食者が絶滅し,そのあと始めて被食者が減り始める.
したがって,被食者に対する MSY は,捕食者が絶滅したあと,単一魚種に対する MSY と同様に f1 = r /
2 のときに実現し(図 5.2-2b の細線)
,Y = r2 / 4a となる.しかし,捕食者が絶滅してしまうのだから,
持続可能な漁業とは言えないだろう.図 5.2-2 の例では捕食者を漁獲していないが,f2 を一定値におけば
全く同じ結果が得られる.
資
源
量
漁
獲
量
漁獲努力量 f1
漁獲努力量 f1
図 5.2-2 単一資源動態モデルにおける漁獲努力量と定常状態での資源量(図 a:太線が被食者,細線が
捕食者)および被食者漁獲量(図 b:太線は捕食者がいるとき,細線はいないとき)の関係(r = 0.5, a =
.
0.01, b = 0.05, c = 0.02, m = 1, f2 = 0 の場合)
(4) 非定常状態での平均的資源量
この推論には一つ反論が成り立つ.上記は定常状態を仮定していたが,生態系が非定常であることも
忘れてはいけないはずである.たとえば,
by
dx ⎛
⎞
= ⎜ r − ax −
− f1 ⎟x
dt ⎝
1 + hx
⎠
dy ⎛
bmx
⎞
= ⎜ − d − cy −
− f2 ⎟y
dt ⎝
1 + hx
⎠
(5.2-7)
というように,捕食者の被食者に対する摂食率に非線形性を考慮すれば(h は捕食者が被食者を食べる
のに要する処理時間に対応する正の定数)
,二種共存の定常状態が不安定になりえる.そのときは被食者
と捕食者が変動しつつ共存するが,そのときの被食者の定常資源量は同じだが,平均資源量は漁獲努力
を増やすと減る(図 5.2-3)
.しかし,非定常状態の平均資源量に応じて漁獲圧を加減するのは難しく,
また捕食者が絶滅したときのほうが被食者が増えるため,捕食者を絶滅させないためには,被食者がた
くさんいるから漁獲努力を増やしてもよいとは言えない.
他の数理モデルを考えても,ある魚種の資源量は,その魚種に対する漁獲努力量だけでなく,その魚
種と相互作用するほかの生物の資源量に依存するだろう.そして,他の生物も利用している場合,ある
魚種に対する MSY は,その魚種と相互作用している生物に対する漁獲圧などによって変わるだろう.
つまり,MSY はその魚種の状態だけでは決めることができない.
けれども,定常状態において総漁獲高 Y を最大にする各魚種に対する漁獲努力量は,数学的に定義す
ることができる.ところが,定常状態において,総漁獲高 Y を最大にする漁獲努力量の配分(f1, f2)は,ど
ちらか一方が 0 になることが数学的に知られている(クラーク,1988,May et al., 1979)
.被食者と捕食
,摂食率(b)にもよるが,捕食者を獲り尽くした上で被食者だけを持続的に獲り
者の魚価の比(p1 / p2)
134
続けるか,被食者を獲らずに捕食者だけを持続的に獲り続けるか,どちらかになってしまう.
1995 年に日本政府が主催し,国連食糧農業機関 (FAO)が協賛した京都会議(食料安全保障のための漁
業の持続的貢献に関する京都宣言及び行動計画)の第 14 条では,適当な場合には,食物連鎖の中の異な
る段階の生物をどちらも漁獲することを奨励している.これは上記の数理モデルによる結論と矛盾して
いる.これを「京都宣言の逆理」と呼ぶ(松田,2000)
.しかし,多様な栄養段階の魚種を同時に利用す
るほうがよい「適当な場合」とはどのような場合なのかは,必ずしも明らかではない.
資
源
量
資
源
量
時刻 t
時刻 t
図 5.2-3 資源が変動するときの被食者(太線)と捕食者(点線)の資源量.式(7)で,r = 1.6, a = 0.01, b =
0.1, c = 0.0003, d = 2.27, h = 0.3, f2 = 0 とする.(a)被食者への漁獲努力が大きい(f1 = 1.3)場合と小さい(f1
= 1.1)場合.
(5) 順応的管理も万能ではない
順応的管理とは,状態変化に応じて方策を変えるフィードバック制御と,管理を実施する際に仮定し
た前提を,管理を実行しながら検証していく順応的学習を二本の柱とする管理のことである(鷲谷・松
田,1998)
.そのうちのフィードバック制御については,たとえば,単一資源の場合には,
dx / dt = [r – ax – f1(t)] x
df1 / dt = u(x – xT) + v (dx / dt)
(5.2-8)
などという力学系を考えればよい(田中,1985)
.ここで xT は目標とする資源量であり,資源量が xT よ
り多ければ漁獲努力を増やし,少なければ漁獲努力を減らす.u と v はその加減する非負の速度定数で
ある.
この場合,もし v = 0 あるいは u = 0 ならば,0 < xT < r / a の任意の目標資源量において,安定な定常状
態が存在する.つまり,r, a などの値が不明でも,目標資源量を初期資源量以下に設定しておけば,資
源の枯渇を避けて漁業を持続的に続けることができる.
ところが,被食者・捕食者系にフィードバック制御を適用しても,必ずしも単一魚種のときのように
うまく行くとは限らない.たとえば,
dx / dt = [r – ax – by – f1(t)] x
dy / dt = (–d – cy + bx) y
df1 / dt = u(x – xT)
(5.2-9)
のような力学系を考える.被食者 x と捕食者 y の資源変動は前述の通りで,捕食者への漁獲はないもの
とし,被食者への漁獲努力はそのときの資源量に応じて加減するものとする.ここで xT は目標とする資
源量であり,資源量が xT より多ければ漁獲努力を増やし,少なければ漁獲努力を減らす.u はその加減
する正の速度定数である.このように資源量に応じて努力量を加減することをフィードバック管理とい
135
い,順応的管理の重要な要素である.
この力学系の定常状態は,
x = xT,
y = (bxT – d) / c,
f1 = r - a xT - b(bxT – d) / c
(5.2-10)
と表される.y = 0 のときの f1 は r – ad / b であり,そのときの x = d / a である.また f1=0 のときの x
= (bd + rc) / (b2 + ac)である.この2つの資源量の間に目標資源量 xT をおかないと漁業と捕食者は共存で
きない.それより低い目標を立てると,漁獲努力を増やしても被食者資源量は減らないから,さらに漁
獲努力を増やすことになる.その結果,捕食者は減り続け,やがて絶滅する.漁獲がないときの資源量
より高い目標資源量を設定すると,いくら努力を減らしても資源が増えないから,やがて禁漁を招く.c
= 0 のとき,両端は一致して,漁業と捕食者の共存は不可能になる.つまり,漁獲努力を加減しても,
漁獲対象である被食者の定常資源量はわずかしか変動せず,捕食者資源量が増減するから,資源量によ
って漁獲努力量を調節しても,管理はうまくいかない.
この場合には,上記のような積分形ではなく,目標水準 xlimit と禁漁水準 xban を設け,
⎧0
x < x ban
⎪
f 1 ( x) = ⎨φ ( x) ただし x ban ≤ x < x lim it
⎪f
x ≥ x lim it
⎩ t arg et
(5.2-11)
φ ( x) = f t arg et ( x − x ban ) /( x lim it − x ban )
(5.2-12)
ただし,
などとすれば,うまくいくかもしれない.水産庁の生物学的許容漁獲量(ABC)の決定規則は,これに
近い形で定められている.単一資源モデルの場合には,図 5.2-4a に示すように,資源が 0 になる前に漁
獲努力を 0 にする限り,ABC 決定規則が定める努力量(点線)が必ず定常状態の努力量(太線)と交わ
るので,被食者が絶滅することはない.
資
源
量
資
源
量
漁獲努力量 f1
漁獲努力量 f1
図 5.2-4 生物学的許容漁獲量(ABC)決定規則を被食者・捕食者系に適用した場合の概念図.
(a)単一
資源モデルの場合には資源量(太線)は漁獲努力量とともに減り,たとえ資源が多いときの努力量 ftarget
(=0.4)が過剰でも ABC 決定規則(点線)は必ず太線と交わり,資源が枯渇することはない.(b)図 5.2-2
と同じく捕食者・被食者系では,努力量を上げると被食者(太線)は余り減らずに捕食者(細線)が減る.
目標資源量は通常初期資源量よりかなり下に設定する(図では資源量 18)ので,ABC 決定規則(点線)
の斜めの部分で太線と交わるときは捕食者が絶滅した後である.太線と細線の交点(丸印)は定常状態
での被食者資源量と努力量を表す.
136
しかし,捕食者・被食者系においては図 5.2-4b に示すように,被食者は絶滅しないが,資源が多いと
きの努力量 ftarget が大きければ,捕食者が絶滅してしまう.努力量 ftarget が小さければうまくいくが,これ
はフィードバック制御をしなくても同じことである.つまり,目標資源量を下回ったときに努力量を下
げたために捕食者の絶滅が回避されるというフィードバック制御の補償措置は機能しない.
対象資源ではなく,捕食者の資源量に応じて被食者への漁獲努力量を加減するようなフィードバック
制御ならうまくいくかもしれない.しかし,これはいわば答えを知っていたらうまくいくというに等し
く,資源変動機構がわからなくても管理できるという,本来のフィードバック管理の趣旨にはそぐわな
い.このように,フィードバック管理といえども万能ではない.けれども,ある程度生態系の知見を得
てから管理方策を練るのは当然のことであり,順応的管理はつねに監視と検証と見直しを担保として成
り立つものである.
参考文献
Hilborn, R.(2002)
:The dark side of reference points, Bull Mar Sci., Vol.70, pp.403-408
Matsuda, H., and Katsukawa, T.(2002)
:Fisheries Management Based on Ecosystem Dynamics and Feedback
Control, Fisheries Oceanography, Vol.11 (6), pp.366-370
May, R.M., Beddington, J.R., Clark, C.W., Holt, S.J. and Laws. R.M.(1979)
:Management of Multispecies
Fisheries, Science, Vol.205, pp.267-277
C.W.クラーク,田中昌一監訳(1988)
:生物資源管理論,恒星社厚生閣
桜本和美(2004)
: 環境による資源変動を重視した資源管理の考え方-相対値を用いたモデル非依存型
アプローチ-.資源管理談話会報(日本鯨類研究所)Vol.33,pp.12-55
田中昌一(1985)
:水産資源学総論,恒星社厚生閣
松田裕之(2000)
:環境生態学序説,共立出版
鷲谷いづみ,松田裕之(1998)
:生態系管理および環境影響評価に関する保全生態学からの提言(案). 応
用生態工学研究,Vol.1,pp.51-62
137
5.3 生態系の順応的な管理に向けて
日本は許容漁獲量(漁獲可能量,TAC=Total Allowable Catch)制度を 1997 年に導入したが,1998 年ま
では科学者が定めた生物学的許容漁獲量(ABC)を公表していなかった.著者は,せっかくの資源研究
者の熱意が政策に反映されない状況が続いていると批判した(松田,1999)
.その後は,ABC の決定規
則や各魚種の ABC 自身を決める際に外部評価を行う制度も定着し,ホーム頁上で各魚種の資源評価を
公開するなど,他省庁に劣らぬ政策決定の透明性が確保されている.その結果,2003 年度の TAC につ
いては,マイワシを除き研究者が勧告する ABC と中央漁業審議会が決める TAC の値の乖離が目に見え
て減ってきた.これにより,
「実践に役立つ答を出してこそ,研究も鍛えられ」
,
「体面だけの管理計画や
研究支援ではなく,実践で鍛えられる研究と行政の結びつきが問われる」
(松田,1999)状況が整いつつ
ある.
近年,クジラが魚をたくさん食べていると指摘されている.ヒゲ鯨はおもにオキアミを食べるが,魚
も食べる.マッコウクジラやイルカのような歯クジラはイカや魚を食べる.それらの総量は,人間の漁
獲量の数倍以上に及ぶと見積もられている(桜本,2004)
.
クジラはすべてワシントン条約(CITES)附属書Ⅰ(商業取引禁止)に載っている.しかし IUCN の
絶滅危惧種のリストには,ミナミマグロなど日本が商業捕鯨の再開を主張している魚種は準絶滅危惧種
にさえ載っていない.グリーンピースジャパンは全鯨類が(準)絶滅危惧種と説明しているが,これは
IUCN の絶滅危惧種分類での Lower Risk と Near Threatened を取り違えた誤解もしくは誤訳である.
CITES
が一括掲載しているのは,鯨肉にした場合に種の判別が難しいことを理由にしている.それは昔のはな
しであって,現在では DNA 鑑定などの技術が飛躍的に進歩している.
持続可能な漁業をめぐる現代の趨勢には二つの要素がある.一つはあらゆるリスクを避けるという過
剰な予防原則と「為すことによって学ぶ」という順応的管理の考え方をめぐる葛藤である.後者は水産
学だけでなく,陸上の生態系管理においても基本的な概念として認められ,捕鯨の改訂管理方式はその
先駆例として認められつつある.まだ捕鯨や持続可能な資源利用に対する反対の声も根強いが,予防原
則と順応的管理の概念が整理されていくことだろう.
国際捕鯨委員会(IWC)の科学委員会で合意した改訂管理方式(RMP)は,順応的管理の先駆例であ
った.順応的管理は,今では生態系管理における基本理念として国際的に認められ,環境団体もこの考
え方を推奨している.にもかかわらず,不確実性を口実に RMP はいまだに実現していない.この特異
な状況は,WWF ジャパンが 2002 年 4 月に管理捕鯨の可能性を認める声明を出すなど,少しずつではあ
るが,変わりつつある.
もう一つは,
単一資源管理でなく,
種間相互作用を考慮した生態系管理が広く認められることだろう.
その結果,絶滅を避ける程度に資源を減らすという指針が見直され,より高い資源水準を維持しつつ,
対象資源だけでなく,生態系全般を注意深く監視しながら,慎重に利用する方針が推奨されるようにな
るだろう.これは必ずしも全面禁漁を意味するものではない.むしろ,さまざまな栄養段階の資源を注
意深く利用しつつ,情報を集め,臨機応変に対応する方策が推奨されるようになるかもしれない.
ここでも,IWC は先進的な役割を果たしつつある.日本の調査捕鯨では,鯨類の生態系管理に向けた
調査を始めている.その結果,鯨類の利用する餌資源を把握し,生態系全体の保全を目指している.
生態系管理(ecosystem management)と生態系に基づく漁業管理(ecosystem-based fisheries management)
は厳密には別の概念であり,水産学では後者が推奨される.前者は生態系機能の保全などを管理目的と
するのに対し,後者は生態系の効果を配慮しつつ漁業管理を行うものである.他方,保全生態学におい
138
ても人間の持続可能な関与を重視するようになっており,海域の生態系管理に漁業を考慮するようにな
ってきた.したがって,今後は海域でも前者,すなわち漁業を含めた生態系管理の視点が重視されるよ
うになるだろう.
参考文献
桜本和美(2004)
: 環境による資源変動を重視した資源管理の考え方-相対値を用いたモデル非依存型
アプローチ-.資源管理談話会報(日本鯨類研究所)Vol.33,pp.12-55
松田裕之(1999):エゾシカのフィードバック管理と水産資源管理の展望,月刊海洋号外,Vol.17,
pp.119-122
139
6.包括的環境影響評価研究の方向性
6.1 IMPACT 専門委員会の活動概要
2002年7月にIMPACT専門委員会が立ち上がったときには,
委員会の正式名称は決まっていなかった.
委員会活動の趣旨は第 1 章で述べた通りであるが,それを端的に表し,また象徴的な名称が良いという
ことで,議論の末,IMPACT という略称となるよう,Inclusive Marine Pressure Assessment & Classification
Technology Committee と名づけられた.その後の活動を線表としてまとめたものが図 6.1-1 である.
委員会立ち上げ当初から,海洋の大規模利用の代表例として,海洋深層水利用,CO2 海中隔離,海洋
滋養の 3 つを主たる技術として取り上げること,陸域,大気での環境影響との比較論を核とすること,
適当なタイミングで,学際的なシンポジウムを開催すること,などが活動方針として示された.具体的
な作業の手始めとして,上記 3 つの技術について,特に環境影響評価を中心に知見収集を行うとともに
(2節参照)
,大気・陸域の大規模利用の例として気象コントロールに関する知見収集を行った(3.2 節
参照)
.このとき,講師として,東京大学海洋研究所木村龍治教授(当時)をお招きしている.
IMPACT 専門委員会では,海洋の大規模利用が社会的に受け入れられるものかを客観的に示すことを
目指しているため,
市民や環境団体が主張している反対意見の収集と分析も必要であろうということで,
2003 年は海洋深層水利用,CO2 海中隔離,海洋滋養,それぞれの反対意見の収集と分析に注力した.ま
たこの間,委員会の目的と活動方針を明確に示すため,Strategic Plan(付録1参照)の作成作業も行い,
2003 年 11 月,海洋環境研究委員会にて発表している.
2004 年に入り,環境影響評価指標の検討と並行して,当初から計画していたシンポジウムの開催を具
体化する作業に移った.
2005 年 1 月に行われた海洋工学シンポジウムにおいて IMPACT セッションを企
画することを決定し,セッションの内容を詰めるとともに,招待講演者の選定と交渉,パネルディスカ
ッションにおけるパネリストの選定と交渉にあたった.
活動項目
委員会開催
2002
●
●
2003
●
海洋深層水関連
知見収集
CO2海中隔離関連
知見収集
海洋滋養関連
知見収集
大気・陸域関連
知見収集
●
●
2004
●
●
反対意見分析
反対意見分析
●●●
2005
●
● ● ●
評価指標検討
評価指標検討
反対意見分析
評価指標検討
知見収集
環境影響評価手法
文献レビュー
環境リスク管理
知見収集・文献調査
地球白書
環境指標調査
IMPACTセッション
準備作業
●
図 6.1-1 IMPACT 専門委員会の活動概要
さらに 2004 年の後半からは,方法論の組み立て方を学ぶため,比較的知名度の高い沿岸域における環
境影響評価手法である,BEST,IBI,HEP,HGM,WET,IFIM(3.4 節参照)
,ならびに環境リスク論/
リスク管理論について文献調査を行うとともに,グローバルな環境問題の現状とその評価手法を学ぶた
140
め,地球白書のレビューと,白書
表 6.1-1 IMPACT 研究委員会アドバイザー一覧(あいうえお順)
で扱われているエコロジカル・フ
ットプリントおよびウェルビーイ
ング指数の文献調査を行った(4
節参照)
.
リスク管理および順応的
管理(5節参照)の調査に際して
は,講師として,横浜国立大学環
境情報研究院松田裕之教授をお招
氏 名
井関和夫
木村龍治
白山義久
中西準子
所 属
広島大学大学院生物圏科学研究科 教授
元東京大学海洋研究所 教授
京都大学瀬戸臨海実験所長 教授
(独)産業技術総合研究所化学物質リスク
管理研究センター長
松田裕之 横浜国立大学環境情報研究院 教授
陽 捷行 (独)農業環境技術研究所理事長
きしており,前述の木村先生とと
もに,IMPACT セッションのパネリストとしてもご協力いただいた.
2005 年 1 月には,これまでの活動の総括と,学際的な意見交換のきっかけを作るべく,第 18 回海洋
工学シンポジウムの中の特別企画として,IMPACT セッションを開催した.詳細は次節に委ねるが,招
待講演者とパネリストには,表 6.1-1 に示した,各分野の第一人者の方々をお招きし,
「海洋の大規模利
用は是か非か?」というテーマに対し,根源的,多面的でしかも深みのある議論を行った(付録2参照)
.
141
6.2 第 18 回海洋工学シンポジウム IMPACT セッション
ここでは,
平成 17 年 1 月 27 日に行われた第 18 回海洋工学シンポジウムにおけるオーガナイズドセッ
ション「海洋の大規模利用は是か非か?」の概要を紹介し,今後の包括的環境影響評価研究の方向性に
言及する.
(1) IMPACT セッションの概要
海洋工学シンポジウムのセッション「海洋の大規模利用は是か非か?」は,3 件の招待講演とパネル
ディスカッションにより構成された.このセッションは,海洋工学に携わる研究者・企業人に対し,海
洋環境問題を考慮することなしに海洋開発はあり得ないということを強く意識付けるという大義的目的
を持つ他に,IMPACT 専門委員会の活動を広く一般社会へ発信する場として位置づけられ,3 年にわた
る IMPACT 専門委員会活動の総括の意味も持つ.
招待講演は,シンポジウム全体の特別招待講演中の 1 件に加え,IMPACT 主催のセッションにおいて
2 件,計 3 件を実施した.招待講演者は,井関和夫広島大学教授,中西準子産業技術総合研究所化学物
質リスク管理研究センター長,陽捷行農業環境技術研究所理事長の 3 名である.井関氏はパネルディス
カッションで議論する 3 つのキーテクノロジーの一つである海洋深層水利用分野の第一人者であり,中
西氏は陸水がご専門ではあるものの化学物質に関する環境影響リスクマネジメントの日本の先駆者であ
る.また陽氏は,農業分野の環境問題の権威で,食糧生産に関わる環境問題およびその対策に精通して
おられる.時間的都合から,井関氏の話題は海洋に関わるものということで,海洋工学シンポジウム全
体の特別招待講演扱いとし,後の 2 名をセッションの招待講演者とした.
(2) パネルディスカッションの概要
パネルディスカッションは,海洋の大規模利用の必要性を述べた後に,他分野,特に陸域や大気の大
規模利用は是か非かに関する意見を聞き,海洋の大規模利用をしなければどうなるか,海洋の大規模利
用はどこまで許されるかについて議論することを企画した.海洋の大規模利用の例として,海洋深層水
利用,CO2 海洋隔離,海洋滋養の 3 つをキーテクノロジーとし,議論の俎上に上げることとした.パネ
リストは,前出の井関氏と陽氏に,松田裕之横浜国立大学環境情報研究院教授,白山義久京都大学瀬戸
臨海実験所長・教授,木村龍治元東京大学海洋研究所教授,IMPACT 専門委員会より佐藤徹および多部
田茂が加わり,IMPACT 専門委員会主査の大塚耕司がパネルディスカッションの司会を務めた.以下に
当日の議論の成り行きについてまとめる.
ます井関氏が,深層水の多目的利用技術,食糧生産の緊急性,食糧安保,自然にも湧昇海域は存在す
ること,深層水利用は海洋内での循環型資源利用の一環であること,環境への負荷に関して述べた.続
いて多部田氏が,人口爆発による食糧危機の解決策の有効な手段としての海洋滋養につき,技術動向,
CO2 海中隔離の一環でもあること,陸から海洋への物質負荷型利用,環境への負荷に関して述べた.3
番目に佐藤が CO2 海中隔離につき,エネルギー問題を主軸に,技術動向,化石燃料大量消費の罪悪,地
球上の炭素循環,CO2 濃度上昇,環境への負荷に関して述べた.
これらは言わば「是」の意見であり,人類のニーズから掘り起こして,海洋利用がその大いなる一助
となることをまとめたものである.ここでパネリストの木村氏から,時間と空間のスケールについて質
問があり,海洋を対象とする問題の難しさを浮き彫りにした感があった.
海洋の利用が是か非かを議論するに先立ち,他分野ではどうなっているかについて各専門家から意見
を聞いた.まず,農業分野での環境へのインパクトにつき,陽氏が,農業分野では食糧生産論が環境保
全論を駆逐している現状,農業による環境破壊,その結果として環境からのしっぺ返し(環境破壊によ
142
る生産力低下)について解説した.次いで,気象コントロールの試みとその結末について,木村氏が,
防災と食糧生産の観点からの気象コントロールの試みとしっぺ返しの例について解説した.
ここで環境に配慮しない開発に対する環境からのしっぺ返しが一つのキーワードとなった.同じこと
が海洋にも起こることは必然であり,しっぺ返しを考えると,陸域や大気での経験を踏まえた海洋大規
模利用慎重派の意見として,海洋聖域論や生態系への影響の懸念等は容易に想像されるに至った.
司会の大塚は,閉塞感を打破するために見方を変え,海洋利用がなければ,食糧生産・エネルギー供
給のため,陸域・大気における環境へのプレッシャーはますます増大する一方となるのではないかとい
う疑問を投げかけた.指名された白山氏は,大気中 CO2 濃度が上昇すると海洋表層での pCO2 が増加し,
生態系への深刻なダメージがあることを底生生物を用いた実験結果から示した.このまま CO2 を大気に
放出し続けることは,間接的に海洋環境を悪化させているということを意味する.また会場から,沿岸
域も農業用の栄養塩が河川から海に流入することで赤潮などの富栄養化の問題を引き起こしているとの
意見が出された.ここで大塚は白紙の OHP シートを取り出し,これまでの議論を図 6.2-1 左のように纏
め上げた.
陸域/大気
食糧/
エネルギー生産
海洋
陸域/大気
食糧/
エネルギー生産
食糧/
エネルギー生産
海洋
食糧/
エネルギー生産
?
環境
生態系
環境
生態系
環境
生態系
環境
生態系
図 6.2-1 左:陸域/大気と海洋の環境の関係,右:陸域/大気への負荷を海洋で受持つ構図
同じ食糧・エネルギーを得るのに,陸域・大気へのみ負荷をかける場合(巡り巡って海洋へも負荷が
ある)と,積極的に海洋に負荷をかけて陸域・大気の負荷を軽減する場合とで,地球システム全体の環
境負荷がどうなるかの比較が議論の中心となった.大塚によればそれは図 6.2-1 右で表される.
ここでは海洋の持つ環境のバッファ(復元性
陸域/大気
食糧/
エネルギー生産
海洋
/脆弱性,可逆性/不可逆性)の大きさが問題
となる.そこで多部田氏は,閉鎖性海域では環
食糧/
エネルギー生産
境のバッファを越えた開発が行われている点,
?
沿岸域と大規模海洋利用の対象である外洋とで
は環境バッファは異なる点を指摘した.また松
持続的資源利用
可能領域
環境
生態系
田氏は,資源の再生産性と持続可能性について
説明し,海洋の持続可能な資源利用は可能であ
環境
生態系
り,そのためにはリスク管理が重要であること
を説いた.
図 6.2-2 は大塚が最後に描いた図で,バッフ
図 6.2-2 バッファのある環境と資源利用の構図
143
ァが持続的資源可能領域として描かれている.そしてバッファとしっぺ返しの量が不確定であることを
指摘した.松田氏はこれに対し,
「わからないからやらないのではなく,環境リスクマネジメントの手法
に則った Learning by Doing を基調とした adaptive management が必要である」ことを強調した.
大塚はこれまでの議論を総括し,包括的な視野での比較の必要性,包括的指標の定量化の必要性,特
に海洋におけるモニタリングの必要性,環境リスクマネジメントの必要性を挙げ,次回には海洋利用に
向けた基準化の提言をすることを誓った.その際,今回のパネリストには前述のようにアドバイザーと
して協力してもらうことを依頼した.
(3) 包括的環境影響評価研究の方向性
海洋環境工学を推進するにあたり,海洋生物・海洋物理・海洋化学・環境リスク等の研究者との交流
は必定である.この視点で見ると,セッションを通じて培われた海洋や環境に関わる広い分野の研究者
とのコネクションこそが IMPCAT 専門委員会の財産となった.このパネルディスカッションでの議論で
は,環境のバッファとしっぺ返しの不確定性とその推定の重要性,順応的管理の必要性が指摘され,そ
の基礎となるモニタリングの重要性にも言及されている.この論理展開が今後の研究の方向性でもある
と考える.
144
6.3 IMPACT 研究委員会の今後の方向性
平成 17 年 6 月,旧日本造船学会は,旧関西造船協会,旧西部造船会と統合し,
(社)日本船舶海洋工
学会として再出発した.これに伴い,IMPACT 専門委員会は解散し,新たに 3 年間の時限付きプロジェ
クト研究委員会として,
「海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会(通称 IMPACT 研
究委員会)
」を立ち上げることとなった.新しい IMPACT 研究委員会では,旧 IMPACT 専門委員会で行
ってきた調査研究を継承し,さらにプロジェクト研究として発展させるべく委員再編成も行った.
IMPACT 研究委員会では,海洋深層水利用,CO2 海中隔離,海洋滋養に加え,海上風力発電,環境修復
技術,海上物流,石油掘削装置なども研究対象とし,これらの技術分野で蓄積された知見を集約すると
ともに,グローバルな環境影響評価手法であるエコロジカル・フットプリントや環境リスクなどの考え
方を統合することによって,陸域,大気,海洋の区別のない包括的な環境影響評価指標を選定し,その
評価手法を確立することを目的とし,以下のような手順で研究を進めていく予定である.
まず平成 17 年度は,旧 IMPACT 専門委員会の活動を取りまとめた報告書を作成するとともに,4 回程
度の会合を開いて,海洋深層水利用,CO2 海中隔離,海洋滋養などの技術分野で収集,蓄積した知見を
集約し,グローバルな環境影響評価手法であるエコロジカル・フットプリントや環境リスク/生態リス
クなどの考え方を統合する作業を行う.
次に平成 18 年度は,年 6 回程度の会合を開くとともに,10 月に開催される TECHNO-OCEAN’06/第
19 回海洋工学シンポジウムにおいて,第 2 回の IMPACT セッションを開催し(第 1 回 IMPACT セッシ
ョンは第 18 回海洋工学シンポジウムにて開催)
,それまでに取りまとめた包括的環境影響評価指標およ
び手法に関する提案を行い,多層,多分野の方々との意見交換を行う.
さらに平成 19 年度は,年 4 回程度の会合を開き,18 年度の第 2 回 IMPACT セッションで得られるで
あろう多様な意見を踏まえて,最終的な報告として,包括的環境影響評価指標および評価手法の提案を
行う.なお,平成 17 年度から 19 年度の研究期間全体を通して,本研究の遂行に不可欠な学問分野のス
ペシャリストを随時外部講師として招聘し,クローズドな勉強会やオープンなセミナーの開催を行う.
以上のように,本研究委員会では,人間活動自体が環境への大きな負荷になっていることを前提とし
て,その負荷をミニマムに抑える方法として,海洋の大規模利用を取り上げ,これらによる地球規模で
の環境へのインパクトを,陸域,大気,海洋の区別なく公平な評価基準を用いて検討することにより,
その正当性と限界を論理的に証明することを目指している.この試みが成功すれば,関連分野において
研究開発に携わっている工学者,技術者に,倫理的,哲学的支柱が与えられるとともに,その限界の存
在も認識させることができる.また,社会的にも課題技術の正当性が認知されれば,実用化への展開が
加速され,化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の安定供給という地球規模での危機回避対策
が進むことになろう.しかしながら,地球規模での環境影響評価に関わる基礎データや知見は限られて
おり,定量化は多くの仮定の下で行われることになる.一旦量的な評価が公表されると,そこに内在す
る不確実性,不確定性,あるいは限界について論じられることなく,数字が一人歩きし,都合よく解釈
される危険性があることも十分認識したうえで,慎重にかつ迅速に,仕事を進めていきたいと考えてい
る.
145
謝辞
本研究を進めるにあたり,アドバイザーの井関和夫広島大学大学院生物圏科学研究科教授,木村龍治
元東京大学海洋研究所教授,白山義久京都大学瀬戸臨海実験所長,中西準子産業技術総合研究所化学物
質リスク管理研究センター長,松田裕之横浜国立大学環境情報研究院教授,陽捷行農業環境技術研究所
理事長には,多くのご助言を賜りました.ここに改めて厚く御礼申し上げます.また,日本船舶海洋工
学会海洋環境研究会(旧日本造船学会海洋環境研究委員会)の歴代委員長をはじめ委員各位には,貴重
なご意見をいただきましたこと,深く感謝いたします.なお,本報告書の作成に際し,日本船舶海洋工
学会からの補助金を使用したことを付記し,関係各位に謝意を表します.
146
謝辞
本研究を進めるにあたり,アドバイザーの井関和夫広島大学大学院生物圏科学研究科教授,木村龍治
東京大学海洋研究所名誉教授,白山義久京都大学教授瀬戸臨海実験所長,中西準子(独)産業技術総合
研究所化学物質リスク管理研究センター長,松田裕之横浜国立大学大学院環境情報研究院教授,陽捷行
北里大学副学長(元(独)農業環境技術研究所理事長)には,多くのご助言を賜りました.ここに改め
て厚く御礼申し上げます.また,貴重なご意見をいただいた,
(社)日本船舶海洋工学会海洋環境研究会
(旧(社)日本造船学会海洋環境研究委員会)の歴代委員長をはじめ委員各位に深く感謝いたします.
なお,本報告書の作成に際し,
(社)日本船舶海洋工学会の補助金を使用したことを付記し,関係各位に
謝意を表します.
147
付録
付録1 Strategic Plan
2003.11.12 作成
Inclusive Marine Pressure Assessment & Classification Technology Committee
IMPACT 専門委員会
Strategic Plan
(1) Current Assessment of Our Situation(状況の最新評価)
今日,地球温暖化は Global な環境問題の象徴として取り上げられており,二酸化炭素の排出抑制政策
が国際的な枠組みの中で進められている.一方,急激な人口増加と経済発展に伴う,水危機,食糧危機,
エネルギー危機は,地球温暖化にも増して緊急の課題となっており,現在は地域的な問題に留まってい
るものの,今世紀前半には世界規模で不足状態に陥ることが確実視されている.
このような問題に対する解決策として, CO2 海中隔離,海洋深層水利用,海洋滋養など,海洋空間や
海洋資源の大規模利用が提案され,基礎研究が進められているが,自然保護,環境保護を謳っている団
体のみならず,一般市民や科学者,技術者からも,海洋環境・生態系への影響を理由に利用概念そのも
のを否定する意見が少なからず出されている.しかし,それらの意見の多くは感情的/観念的で定量的議
論が乏しく,また現在の人間活動による陸域や大気への環境負荷との対比も見られない.
上記のような海洋利用は,元来化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の安定供給などを目的
としているのであるから,現状の化石資源消費,陸域での食糧生産や飲料水供給などによる環境へのイ
ンパクトとの量的な比較がなければ,議論自体が著しく公平さを欠くことになる,またその結果,利用
概念そのものが否定されることになれば,予測されている世界規模の危機に対する回避策の大きな部分
を失うことになる.したがって,本委員会で目指しているような,陸域や大気への環境負荷との対比に
よる環境影響評価は,海洋利用に留まらず,今後の社会システム構築にとって重要な意味を持つといえ
る.
(2) SWOT Table(強み/弱み/機会/敵の表)
Strength(強み)
Opportunities(機会)
・ 当該技術の分野を支える産業に母体学会が直 ・ CO2 排出削減策として当該技術が採用される
接関連している.
可能性がある.
・ 当該技術の分野について国内外の動向に精通 ・ 日本の水産自給率の低下を背景として,
食糧安
しているメンバーがいる.
全保障の観点から国策として当該技術が推進
・ メンバー全員が地球規模での危機的状況を強
く認識している.
される可能性がある.
・ 海洋深層水利用については全国的に事業展開
が進んでおり,
環境影響評価の必要性が高まっ
ている.
148
Weaknesses(弱み)
Threats(敵)
・ 問題自体が多角的な側面を持つことから,
母体 ・ グリーンピースなどの自然保護,
環境保護団体
学会内だけでの検討では不十分である.
の反対意見
・ 陸域や大気に関する環境負荷,
影響については ・ 一般市民の海洋生態系に対する漠然とした脆
精通しているメンバーがいない.
弱観
・ 海洋における Global な環境影響については, ・ 評価指標の普遍性や一般性を確保することの
基礎データ,知見が少ない.
難しさ
・ 影響評価の定量化そのものの難しさ
(3) Strategic Intent(戦略的意義)
本委員会では,人間活動自体が環境への大きな負荷になっていることを前提として,その負荷をミニ
マムに抑える方法として,CO2 海中隔離,海洋深層水利用,海洋滋養などの海洋空間や海洋資源の大規
模利用を取り上げ,これらによる地球規模での環境へのインパクトを,陸域,大気,海洋の区別なく公
平な評価基準を用いて検討することにより,
その正当性と限界を論理的に証明することを目指している.
この試みが成功すれば,関連分野において研究開発に携わっている工学者,技術者に,倫理的,哲学的
支柱が与えられるとともに,その限界の存在も認識させることができる.また,社会的にも課題技術の
正当性が認知されれば,実用化への展開が加速され,化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の
安定供給という地球規模での危機回避対策が進むことになる.
(4) Vision(展望)
本委員会では,前述のような目的を達成するため,委員会全体として,陸域環境や大気環境へのイン
パクト評価に関する知見の収集と動向の分析を行うとともに,CO2 海中隔離,海洋深層水利用,海洋滋
養の3つのワーキンググループを設置し,それぞれの分野における環境影響評価の現状調査と,包括的
な評価指標および評価手法の提案を行う.また提案された評価指標や評価手法について学際的に意見交
換を行う場(ジョイントシンポジウム)を設け,多面的な検討・議論を行った末,社会への提言として
まとめることを計画している.このうち,基礎的知見の収集とワーキンググループ内での評価指標およ
び評価手法の検討については現状の枠組みで進めることができると考えられるが,他の学会において同
様の観点に立った検討活動を行っているグループはなく,本委員会単独での働きかけだけでは,ジョイ
ントシンポジウムの企画が難しいという現状にある.
(5) Market/Industry Assessments(市場/産業の評価)
前述のように,本委員会で目指している試みが成功すれば,関連分野の研究開発に対する正当性が社
会的に認知されることになり,実用化への展開が加速されることになる.関連産業はもとより,一般社
会においても,化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の安定供給の必要性は十分に認識されて
いることから,当該技術の正当性の証明だけが市場/産業展開へのネックになっているといえる.逆に正
当性の証明がないまま当該技術が否定されることになれば,巨大な新市場/新産業の種を失うことになる
と考えられている.
149
(6) Key Initiative(先駆性/新規性)
Objective/Issue
Keys to Success
Actions
CO2 海中隔離に関する環境影響 ・ 近傍場の高濃度 CO2 の拡散 ・ 急性生物影響モデルによる
評価指標および評価手法の提案
と急性生物影響の予測
特定生物の死亡率予測
・ 大気の戻ってくる期間(隔離 ・ 全球シミュレーションによ
期間)の予測
る隔離期間の予測
・ 生態系の変化・生物多様性の ・ 深海生態系予測シミュレー
変化に関する予測
ション
海洋深層水利用に関する環境影 ・ 海洋深層水の資源量・生産量 ・ (社)資源協会がまとめた報告
響評価指標および評価手法の提
案
の定量化
書の分析
・ CO2 排出削減に対する寄 ・ 生活に関わる CO2 排出量を
与・効果の定量化
基準とした比較
・ 海洋生態系に与える影響の ・ 環境影響評価に関する先端
予測
研究のレビュー
海洋滋養に関する環境影響評価 ・ 一次生産増加量の定量的予 ・ 近傍場における拡散シミュ
指標および評価手法の提案
測
レーションと低次生態系モ
・ CO2 隔離効果の予測
デルによる予測
・ 一次生産増加と水産資源量 ・ 有機物の性状と挙動に関す
との関連性の把握
・ 種や多様性の変化に関する
予測
る知見の整理とモデルの構
築
・ 高次生態系モデルや資源解
析手法などの適用可能性の
検討
包括的な環境影響評価指標およ ・ 陸域環境や大気環境の影響 ・ 陸域/大気環境影響評価に関
び評価手法の提案
評価との整合性の確保
する知見収集と分析
・ 一般市民にとっても理解し ・ 生活に関わる環境負荷を基
やすい論理の構築
準とした比較
(7) Need Resources(必要なもの)
普遍性のある評価指標や評価手法を提案し,それを説得力のあるものにするためには,陸域や大気に
関する環境負荷,影響評価に精通している人材あるいは人脈を確保するとともに,できるだけ最新で信
頼性のある海洋環境影響評価に関する基礎データや知見を収集する必要がある.また,一般市民にも理
解されやすい提案にするためには,自然保護団体などの反対意見も含め,当該技術に対する幅広い意見
の情報収集と分析が必要となる.さらに,学際的に意見交換を行う場を作るためには,学際的に活躍し
ている人材あるいは人脈の確保や,
既に存在する他学会との連携の枠組みを利用することが必要となる.
150
(8) Payoff(成果)
前述のように,当該技術の実用化への展開が加速され,巨大な新市場/新産業の種を生み出すことにな
る.またその結果,化石資源消費の抑制や負荷軽減,食糧や飲料水の安定供給が促進され,予想されて
いる世界規模での危機が緩和される.
(9) Risks of Plan(危険性)
地球規模での環境影響評価に関わる基礎データや知見は限られており,定量化は多くの仮定の下で行
われることになる.しかし,一旦量的な評価が公表されると,そこに内在する不確実性,不確定性,あ
るいは限界について論じられることなく,数字が一人歩きし,都合よく解釈される危険性がある.この
ことは,反対意見を主張する側に逆手に取られてしまう可能性があることも意味しており,議論に負け
て利用概念そのものが否定され,予測されている世界規模の危機に対する回避策の大きな部分を失うと
いう危険性もある.
以上
151
2005年1月27日
第18回海洋工学シンポジウムにて発表
海洋深層水による海域肥沃
化:利用規模と環境影響
井関和夫
広島大学大学院生物圏科学研究科 教授
地球システムのグローバル・トリレンマとは何か?
人
類
と
人口
地
球
と
環境 資源
の
関
わ
り 人類の生存=Global Sustainabilityのためには、
グローバル・トリレンマの打開が急務
そのためには、地球システム科学、地球生物学
の必要性と基盤となる物質循環の知識が必須
152
153
海洋深層水の特徴(資源特
性)
温度差発電
1.低水温
飲料・食品、種苗生産
2.清浄
3.富栄養
4.ミネラルバランス
5.熟成性
6.恒常性
7.無尽蔵
肥沃化・漁業生産増大
多くの資源特性 → 多目的利用が可能
154
( )は,外洋を1とした時の,沿岸,湧昇域の相対値.
155
CO2
多目的利用
漁獲
H2O+CO2
(2)
CH2O
食物連鎖
(1)
生物ポンプ
156
肥沃化の部分
沖縄久米島の深層水利用施設
海洋肥沃化システム
「拓海」
による肥沃化実験
相模湾で開始:
(2003-)
肥沃化の評価
157
今後の展望
井関(2000)より
深層水取水量と生物生産量の推定値
158
ブロッカーのベルトコンベアー循環と呼ばれるもの.温度,塩分,溶存
酸素,及び各種化学成分の分布とストンメル循環が背景となっている.
159
大塚(2002)より
160
2005年1月27日
第18回海洋工学シンポジウムにて発表
環境リスクの統一的評価手法
開発の必要性
中西準子
(独)産業技術総合研究所
化学物質リスク管理研究センター長
Jan 27, 2005
環境リスクの統一的評価手法開発
の必要性
中西
準子
独立行政法人産業技術総合研究所
(AIST)
化学物質リスク管理研究センター
(CRM)
161
健康で文化的な最低限度の生活を営む権利
(水道法)清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、
もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与
することを目的とする
背景にある考え方
1.供給
2.安全
3.生活環境(必ずしも自然環境ではない)
公害法と調和条項
「生活環境の保全については、経済の健全な
発展との調和が図られるようにする」(俗に調
和条項)が、産業経済を優先するものとして論議を呼び、
70年の「公害国会」で削除され、新たに自然環境保全規定が
追加された。
公害対策基本法(70年12月
↓
環境基本法(93年11月)
環境負荷の少ない持続的な発展
162
公害→環境保全
人の健康保持
自然環境保全
環境影響評価法(1997年)
① 環境の自然的構成要素の良好な状態の保持
② 環境への負荷
③ 生物多様性の確保及び自然環境の体系的保持
④ 人と自然との豊かな触れ合い
陸域の管理はどのように行われているか?
1.絶滅危惧種や希少種、野生生物についての観察、報告、
管理
2.人為的活動制限区域の指定(国立公園、湿地、沿岸域)
3.居住区域における用途指定(市街化区域、市街化調整
区域、農業振興区域など)と活動の制限
背景にある考え方(明示的ではないが)
1.生物多様性の保全
2.原生的な自然の維持と二次的自然環境の維持
3.技術や産業の発展、私有権
163
陸水(河川等)での管理
わが国の河川で、人の手が加わっていない区域は存在
しない.流路も大幅に変化している.
1.環境基準値は、全国一律基準(健康項目)と類域指定
による基準. →排水基準値.
2.類域は、水利用の目的達成
背景にある考え方
1.公的な管理と(事実上無期限の)水利権、有期の許可
漁業権.
2.利水目的のための環境基準という考え方が強い
参考:日本では、上流優位、古田優先、欧州では、還流の原則、
米国では、地域によって、専用権と沿岸権
流域下水道の問題
164
公共下水道と流域下水道
A市
A市
この場合も、A,
B両市内の管渠網
は公共下水道
T
B市
B市
T
T
海
海
公共下水道
流域下水道
赤の幹線管渠と処理場が流域下水道
全ての管渠と処理場が公共下水道
農業用水の用排水分離
165
<農業用水の循環利用>
川
川
水田
水田
海
水田
川
川
<用排水分離>
水田
水田
水田
海
排水路
利根川における年間水利用状況・総流出量
C
農業用水
226.5億m3
A
水道用水
33.4億m3
D
利根川
B 工業用水
雑用水
0.4億m3
17.3億m3
年間総流出量
A~Dは、お互いに利用ー還元を繰り返して
いるため、利用料の重複があります。そのた
め、A~Dの合計値と年間総流出量は数値的
に一致しません。
140億m3
利根川上流河川事務所ホームページより
http://www.tonejo.go.jp/jiten/riyou/file/riyou2-1.htm
166
河
川
水
0
量
0.7
1
水道水質基準値
低ければ低いほど良い
基準値を守ればいい
人間の健康リスク
対
生態リスク
リスクという概念が必要
グレイ領域の定量化
影響の明確さ
異種の影響を単一の単位で評価できる
167
Riskとは?
Riskは、エンドポイントの生起確率
従前の基準値:すでにいくつかの目的が
調整された値、しかも、
Yes or Noの判断のみ
我々が直面している問題
1)地球温暖化と原子力
2)農薬と耕地の開発
3)水道水の消毒と発がん性物質
4)発電所の温排水が水産資源に与える影響と漁業その
ものが水産資源に与える影響
5)ダムの治水効果と生態系への影響
6)化学物質の毒性をどこまで規制すべきか
7)開発による影響をどこまで規制すべきか
8)二酸化炭素排出削減にどこまで費用をかけるべきか
168
環境影響評価で考慮すべき項目
時制
環境影響
資源の
消費
ベネ
フィット
経済的
な損失
人の健康
への影響
生態系へ
の影響
現在
P1
P2
P3
P4
P5
未来
F1
F2
F3
F4
F5
現実的な評価の枠組み
時制
環境影響
経済的
な損失
人の健康
への影響
生態系へ
の影響
資源の
消費
ベネ
フィット
現在
P1→C P2→HR P3→ER P4→C P5→C
未来
F1→C F2→HR F3→ER F4→C F5→C
C : コスト
HR: 人の健康リスク
ER: 生態リスク
169
リスク評価の大きな目的のもう一つは
異なる性質の危険度の比較をする
化学物質A(発がん性)
の使用
化学物質B(神経毒)
の使用
発がんリスク
中枢神経障害のリスク
リスク尺度としてハザード比が使われている
ハザード比(HQ)=
一日用量
一日許容用量(ADI)
判定:HQ≧ 1
HQ< 1
170
リスクあり
リスクなし
「閾値ありの場合」と「閾値なしの場合」の
用量反応関係
反応率
「閾値なしの場合」
「閾値ありの場合」
10-5
安全率
0
a
ADI
NOAEL
暴露量(用量)
ADI : 一日許容用量、NOAEL : 無毒性量
LLE :Loss of Life Expectancy(損失余命)
0 歳時の人数 :S(0)
コントロール
損
生存数
失
寿
毒性影響を受けた人
命
S(x)
0
年齢 x
LLE =
損失寿命
S(0)
171
日本における化学物質のリスクランキング
0.001
0.01
リスクの大きさ(損失余命)(日)
0.1
1
10
100
1000
喫煙:全死因(数年~十数年)
喫煙:肺癌(370)
受動喫煙:虚血性心疾患(120)
ディーゼル粒子(14)
受動喫煙:肺癌(12)
ラドン(9.9)
ホルムアルデヒド(4.1)
ダイオキシン類(1.3)
カドミウム(0.87)
ヒ素(0.62)
トルエン(0.31)
クロルピリフォス(処理家屋)(0.29)
ベンゼン(0.16)
メチル水銀(0.12)
キシレン(0.075)
DDT類(0.016)
クロルデン(0.009)
Gamo, M. et al., Chemosphere, Vol.53, pp.277-284(2003)
蒲生昌志ら(AIST CRM)
ハーバード大学の研究
死亡の原因に特徴的な LLE を用いる
死亡の原因
1死亡により失われる生年(年)
職場
30
事故
35
がん
10
172
諸外国で追求されている統一尺度
WTP (リスク削減のための支払意思額 )
エンドポイント
死亡
慢性気管支炎
慢性ぜん息
入院
すべての呼吸器系の入院
すべての循環器系の入院
ぜん息による緊急入院
汚染物質
1件あたり
金銭価値
PM10
PM10
O3
$4,800,000
$260,000
$25,000
SO2, NO2, PM10
& O3
SO, NO2 ,
& CO PM10 & O3
PM10 & O3
$6,900
$9,500
$194
岸本充生(AIST CRM)
173
QOL:生活の質
Quality of life
QALY:質調整生存年
Quality-adjusted life year
QALYの概念
完全な健康
1.0
QOL
死
B
A
0.0
tA
tA
tB
QALY(A) = area of A = ∫0 QOL(A) dt
tB
QALY(B) = area of B ( including area of A) = ∫0 QOL(B) dt
Risk = Loss of QALY = QALY(B) - QALY(A) (in terms of year)
174
この解析をCost-Effectiveness Analysisという。
費用効果分析。
Priorityを決めることができるが、政策を実施す
べきか否かの限界点を求めることができない。
他方、Cost-Benefit Analysisでは、政策を実施す
べきか否かの限界点を提示できる。
RBAとCBA
リスクベネフィット解析(RBA)(費用効果分析)
Cost-Effeciveness Analysisと同じ
ΔB
削減のためのコスト =単位リスク削減コスト
=
ΔR
削減リスク
Priorityを判断できる
コストベネフィット解析(CBA)
C
削減のためのコスト
=
ΔB
削減のために得られるベネフィット
YES か NO かの判断ができる
175
リスク削減規制のコスト・ベネフィット解析結果(Viscusi)
年、規制
の状況
規制
行政
機関
削減前の
リスク/年
削減される
リスク(人)
リスク削減費用*
(100万$/人)
BCテスト合格
換気のないヒータ
1980 F
CPSC
2.7×10-5
63
0.13
機内防火
1985 F
FAA
6.5×10-8
15
0.26
アルコール・
ドラッグ制御
1985 F
FRA
1.8×10-6
4.2
0.64
ベンゼン/揮散
1984 F
EPA
2.1×10-5
0.31
3.61
BCテスト不合格
穀粒ダスト
1987 F
OSHA-S
2.1×10-4
4.0
6.83
二臭化エチレン
1989 R
OSHA-H
2.5×10-4
0.002
20,094
フォルムアルデヒド
1987 F
OSHA-H
6.8×10-7
0.01
92,741
*:1人の生命を救うための費用(1990年の貨幣価値)
F:final、R:rejected
1年・人の命を救済するための費用の分布
施策の割合(%)
35
30
25
20
15
10
5
0
0
102 103 104 105 106 107 108 109 1010 1011
費用(US$) / Life-year(CPLY)
176
T.O.Tengs et al.(1995)
CPYLsの中央値(1年人の生命救済の費用、$)
(
)内は対策の事例数
対策の分類
sector
医療
致死的傷害
健康管理
19,000(310)
有害物
総計
19,000(310)
居住
36,000(30)
36,000(30)
交通
56,000(87)
56,000(87)
職場
68,000(16)
1,400,000(20)
350,000(36)
環境
4,200,000(124)
4,200,000(124)
総計
19,000(310) 48,000(133) 2,800,000(144)
42,000(587)
Tengs, T.O, et al.(1995)
生態リスク評価
177
生態リスクと人のリスクとのちがい
●人については、ひとりひとりの命を救うという
ことを目標にリスクを計算する
●しかし生物については、虫一匹一匹、草一本一
本の生命を守ることは目標になりえない(絶滅
危惧種や人間に非常にちかい生物については、
別途考えるとして)
●しかし、その虫や草の種が消滅することは大問
題である
●したがって、種の絶滅を評価点にしてリスクを
評価すべきである
種の絶滅を評価点に選んだその他の理由
1)種の絶滅を防ぐことは、多くの人にとって生態
系保全の共通の目標になりうる
2)化学物質の影響と開発等の影響を同じ尺度で評
価できる(比較できる)
3)環境資源の持続的利用の目的に適合
4)すべての生態影響を、未来影響として把握する
方がいい
178
DON’T QUOTE
生物学的エンドポイントの階層
高
生態系との関連性
景 観
生態系
群 集
個体群
個 体
器
組
細
分
低
官
織
胞
子
バイオマーカー
R.A. Pastorokによる図を書き換えた
DON’T QUOTE
扱いやすさ (- - -)
生態学的妥当性 (-)
生態モデルのエンドポイントの妥当性と扱いやすさ
妥当性も扱い
やすさも高い
Individual
Population
Metapopulation
Ecosystem Landscape
エンドポイントのレベル
Pastorok
179
海は?
1.沿岸域
水質規制、赤潮防止、埋め立て規制、
2.海洋
国際的な規制
油分、有害廃棄物の投棄規制
アジェンダ21
1992
1)沿岸地域の統合管理および持続可能な開発、
2)海洋環境の保護、
3)公海の生物海洋資源の持続可能な利用と保全、
4)国家管轄権内の生物海洋資源の持続可能な利用と保全、
5)海洋環境および気候変動の不確実性の重大性、
6)国際協力および協調の強化、
7)島嶼部の持続可能な開発。
180
当面の課題
1)沿岸管理
2)海洋汚染防止
3)海洋資源の持続的利用
4)自然環境の保全
類型指定(目的)
1.通常の活用が許される区域
2.強い保護が必要と思われる区域
エンドポイントは?
評価エンドポイント
測定エンドポイント
このエンドポイントを明確にしなければならない
181
その次の課題
統一的な評価手法になじむか?
リスク評価指標の包括度と
不確実性
不確実性の大きさ
絶対評価
絶対評価
包括度
異種の活動
自然物と人工物
リスク比較
同種の物質の比較
182
新規技術のベネフィット
Benefit
Benefitの大きさが、
仮説の多い温暖化
影響の大きさに依
存していないか?
Risk
統一的な評価手法の開発は必要
‹個別の評価手法を固める
‹技術開発でベネフィットは基本
183
リスク不安で先に行けない
リスク不安
184
2004年9月20日
日本評論社
ご清聴ありがとうございました
私のhomepage:毎週火曜日に更新されます
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/
185
2005年1月27日
第18回海洋工学シンポジウムにて発表
農業活動が環境に及ぼす
影響とその評価
陽捷行
(独)農業環境技術研究所理事長
平成17年1月27日
農業活動が環境に及ぼす
影響とその評価
海洋工学シンポジウム
風にきく
土にふれる
そして はるかな時をおもい
環境をまもる
(独)農業環境技術研究所
陽 捷行
186
農業活動が環境に及ぼす
影響とその評価:窒素の例
1.人間圏の誕生
2.土・水・大気・オゾン・化学物質
3.農業と環境の関わり
4.農業活動の影響評価
5.対策技術
6.地球環境とエコ・エコノミー
7.カエルの悲劇
地球生命圏
z
z
z
z
z
すべてが変わったのは,1969年である。
この年,川面に写された自分の姿を見るように,わ
れわれは,宇宙船アポロが撮影した青い地球の
写真の中に,初めてわれわれ自身を見た。
そのときから,われわれは自分自身を地球全体か
ら切り離すことができないという自覚をもった。
どうやら全体としての地球は,生き物かもしれない。
1969年は,ラブロックが地球は太陽系の中で最
大の生き物(地球生命圏ガイア)であると思考した
創造的な年でもあった。
187
Atmospheric Gases Composition of Planet
惑星の大気ガス成分
金星
CO2
98%
N2
1.9%
O2
tr.
Ar
0.1%
Temp 477
Atm
90
地球
火星
98%
1.9%
tr.
0.1%
290
60
95%
2.7%
0.13%
2%
-53
64
現在の地球
0.03%
79%
21%
1%
13 度
1.0
地球の生い立ち
-46億年を1年にたとえると-
z
z
z
z
z
z
z
z
z
z
z
46億年前;1月1日:地球の誕生
40億年前;2月初:水の循環系と生命の誕生
35億年前;4月1日:光合成
5億年前;10月末:オゾン生成
4億年前;11月初:現在の酸素(21%)
3億5千万年前;11月中:土壌の原型
6千5百万年前;12月26日:恐竜の絶滅
170万年前;12月31日夜9時30分:人類の出現
1万年前;夜11時59分:文明の発祥文明の発祥
200年前;夜11時59分59秒:産業革命
現在:水不足・オゾン破壊・温暖化・12万種の化学物質
188
新物質圏の分化
●46億年前=地球と宇宙、時間・空間・物質
●物質圏の分化=大気圏・水圏・土壌圏・生物圏
●土壌圏・生物圏=農業・牧畜・工業
●新物質圏の分化=人間圏の誕生
Anthroposphere
●現在=温暖化・オゾン層破壊・土壌浸食・森林破
壊など、人間圏による既往の圏の変動
●調和=新たな人間圏が大気圏・水圏・土壌圏など
と既往の圏と調和できるか?
われわれは
地球環境変動
土・水・大気・オゾンで生かされている
● 食料供給
土壌:18cm
● 食料供給
水: 11cm
● 酸素供給
対流圏 :15km
● 紫外線遮蔽
オゾン:3mm
189
今,環境は
What is this?
脳血栓・脳出血?
脳血栓・脳出血?
Cerebral
Thrombosis?
Cerebral
hemorrhage?
土壌浸食
Soil erosion
Soil Erosion:
土壌生成
1 ton/ha/y (0.1mm/ha/y)
1cm soil = 100~500 years
5-10 ton/ha/y :Africa.
EC,Australia
10-20 ton/ha/y:
N and S America
30 ton/ha/y:Asia
Soil Formation
1 ton/ha/y = 0.1mm /h/y
1 cm soil = 100~500 years
190
土壌の流出と農地の縮小
●土壌が健全でなければ、その土地に住む人びとも健
康ではありえない。
●世界の栄養不足人口は8億4千万人、そこでは大部
分が土壌浸食を受けている。
●陸地を覆う薄い土層は、生きとし生けるものと、文
化・文明の母である。
●古代文明の盛衰は土壌とともにあった(マヤ・メソポ
タミア・レバノンシリア・ギリシャなど)。
●この50年間、1人あたりの耕地面積が激減。
●土壌流出速度が土壌生成速度をうわまわる。
人類による水の消費
水
97 %: Ocean
3 %: Fresh (North and south pole)
0.8%: River, lake, groundwater etc.
0.01%: Available
Available water: 0.01% (利用可能水)
191
世界に広がる水不足
z
z
z
z
z
z
z
ディーゼル・電動式ポンプの世界的普及
生活用水・工業用水・灌漑用水の需要増大
1トンの穀物生産に1000トンの水が必要
1人の1日の平均飲料水は4リットル、食料生産に
2000から4000リットル必要
河川・地下水の水の70%が灌漑用水、20%が工
業用水、10%が生活用水
50年で水需要が3倍に増加
農業用水を吸い上げる都市
温室効果ガスの濃度変化
Concentrations of
greenhouse gases
CO2
CH4
ppm
ppb
N2 O
CFCー11
ppb
ppb
192
地球全体の気温の変動
●気候変動枠組み条約
第6回締結国会議
(COP6)
●温室効果ガスを削減しなければ,
地球は過去1万年経験しなかった
スピードで温暖化するだろう。将来
の世代はいま,みなさんの手中に
ある(ロバート・ワトソン)。
最近の世界の気候
1991年;南西アルプスで5000年以前の男の死体発見
1999年;カナダ西部で融解した氷河から人体発見
2001年;北国海の氷の厚さ平均1m。1960年は2m近く
1999年;南極半島の両側の氷棚が後退。20世紀半ばか
ら97年までに7000平方km減少。その後1年で
3000平方km減少。
2002年;南極の棚氷が1ヶ月で5億トン崩壊。「ラルセンB」と呼
ばれる棚氷(3250平方km)が崩壊。北極付近の永
久海氷が10年間で9%の割合で解けている。北極
周辺の平均気温は10年間で1.2度の割合で上昇。
193
最近の日本の気候
諏訪大社の御神渡り(おみわたり):八剣神社の湖上御渡注
進録の560年の記録から、御神渡りがなかった年は、
●江戸(1603-1867)の264年間に
19回(1回/14年)
●明治(1868-1912)の 44年間に
3回(1回/15年)
●大正(1912-1925)の 13年間に
2回(1回/ 7年)
●昭和の戦前・中(1926-1945)の19年間に 2回(1回/10年)
●昭和の戦後(1946-1988)の42年間に
13回(1回/ 3年)
●平成(1989-2004)の16年間に
13回(1回/ 1年)
気温上昇がもたらす異変
●地球の気温上昇につれ、気候システム全体が
変わりつつある。
●その影響は地球上の全ての生物に及んでいる。
●熱波や暴風雨は破壊力を増し、作物の収量が
減り、極地の氷が溶けだし、海面が上昇し、水
源となる雪原や氷河が縮小している。
●産業界では農業、保健、観光業がもっとも大き
な影響を受けている。
194
成層圏のオゾン層破壊
Cicerone (1987)
N2O
CFCs
CH3Br
南極上空のオゾンホール
の面積の推移
195
12万種の化学物質
大気からの窒素(N2)固定
z
z
z
18世紀末:窒素の発見
19世紀末:自然界の窒素固定の発見
20世紀末:人間圏による過剰窒素固定
z 肥料窒素:85TgN/年
固定
z 耕作窒素:33TgN/年 固定
z 自然窒素:89TgN/年 固定
196
窒素固定(Tg/yr)
1890
1990
成層圏から地下水まで
農業と
●オゾン層の破壊
●酸性雨
●熱帯雨林の減少
●廃棄物投与
●塩類化
●地下水汚染
●水不足
●温暖化
●大気汚染
●生物多様性の減少
●土壌流亡
●砂漠化
●化学物質
と農業
197
農業と環境のかかわり
農業と環境のかかわりは、次の3つの範疇
に整理できる。
1.農業活動が環境に及ぼす影響
2.環境変動が農業に及ぼす影響
3.農業活動により環境を保全
農事試
農技研
農環研
独法農環研
百年目の環境
198
窒素循環に及ぼす人間圏の攪乱
z 地下水・富栄養化:
NO3-
z 温暖化:
N2O
z 成層圏オゾンの減少: N2O
z 成層圏の化学: NO
z 光化学スモッグ: NO, NOx
z 酸性雨: NOx, NO3-
窒素の環境影響
1.亜酸化窒素(N2O):オゾン
層破壊、温室効果ガス
2.硝酸態窒素(NO3-N):
地下水汚染、河川・湖沼
の富栄養化
199
人間活動が大気中の温室効果ガス濃度に及ぼす影響
二酸化炭素
CO2 :1
(温暖化ポテンシャル)
メ タ ン
CH4 :23
亜酸化窒素
N2O :296
世界の窒素消費量
Nitrogen fertilizer consumption
200
窒素の変遷
z
z
z
z
z
窒素固定: N2 is reduced to NH3 and incorporated
into amino acids.
同化作用: NH4+ or NO3- is transformed into amino
acids.
硝化作用: The oxidation of NH4+ to NO2- and then to
NO3-. N2O and NO emission through nitrification.
脱窒作用: The reduction of NO3- to N2 and N2O.
アンモニア化成: dead organic matter release NH3 or
NH4+.
NO3+5
NO2NOx
N2O
N2
NH3
NH4
A.A.
-3
環境中の窒素の形態
201
N2Oの発生源
家畜と家畜排泄物: N2O
202
バイオマス燃焼:N2O
フィードロット:N2O
203
窒素肥料: N2O
農業(窒素肥料、有機物の投入)が環境へ及ぼす様々な影響
204
全地球のN2Oの発生量
z
z
z
z
z
z
Kroeze et al. (1999) estimated
total global N2O emissions
were about 17.6 TgN in 1994.
All natural systems: 9.6 TgN
Food production: 6.2 TgN
Biomass burning: 0.6 TgN
Combustion & industrial: 1.2
TgN
Of the human initiated N2O
emissions an estimated 78%
is considered to result from
crop and livestock production.
Natural
78%
15%
8%
Bio
Emission sources
作物生産のために投入される
世界の年間窒素量
(Mosier and Kroeze, 1999)
TgN
N-Input
Year
205
作物・家畜生産による全球規
模のN2O発生量(Mosier & Kroeze, 1999)
N2O Emissions
人口・窒素投与量・農業生態系の
N2O発生量 (Mosier & Kroeze, 1999)
Ag. Soil N2O emissions
Human population
Total N input to Ag.
206
世界の人口増加予測
Population in the world from 1964
to 2030 (FAO)
Million
z
z
z
z
z
z
1964/66: 3,337 million
1974/76: 4,075 million
1984/86: 4,837 million
1995/97: 5,745 million
2015: 7,154 million
2030: 8,112 million
Million
Year
2030
世界の肥料消費予測
Fertilizer consumption in the world
from 1961 to 2030 (FAO)
z
z
z
z
z
z
z
1961/63: 34.3 Million t
1995/97: 133.9 Million t
2030: 181.6 Million t
World
Ind. Countries
Ind. Countries
1961/63: 24.6 Million t
1995/97: 46.3 Million t
2030: 58.3 Million t
Year
207
21th Century:
Environment = Population = Food = Agriculture = Soil
What would happen if ……
208
どうする?
Mitigation strategy
Under consideration! Strategy?
施肥土壌からのN2Oと
NO3-Nの制御技術
Nitrification Inhibitors
z Controlled Availability Fertilizers
z Controlled Availability Fertilizers
Including Nitrification Inhibitors
z Utilization of Plant Variety
z Agricultural Practices
z Utilization of Toposequence
z
●硝化抑制剤●肥効調節型肥料●硝化抑制剤入り
肥効調節型肥料●植物の利用●耕作方法●地形連鎖の活用
209
肥効調節型肥料
Controlled Availability Fertilizer (CAF)
Polyolefine resin film
% of N Released
MEISTER 7
moisture
Urea
deliquescence
release
MEISTER 10
MEISTER 15
80
MEISTER S
60
40
20
0
50
100
150
200
Days at 20°C
生態知と技術知を合わせた統合知
硝化作用
肥効調節型肥料
被覆技術
制御技術:肥効調節型肥料
Mitigation: Controlled Availability Fertilizers
z
Effect of ammonium sulfate
(AM) and controlled
availability fertilizer (CAF)
on N2O emission from soils
for 70 days (ng/g soil).
Watanabe & Minami (1999)
400
350
300
250
200
150
100
No Nitrogen (1) : 15
AS (2) : 361
CAF (3) : 73
CAF
50
0
210
1
2
3
N2O
ng/g
持続型農業・環境保全型農業・
地球環境保全
z
z
堆肥の施用
肥効調節型肥料
z
持続型農業
z
地力増進
窒素の有効利用
z
z
z
z
z
z
環境保全型農業
地球環境保全
堆肥の施用
肥効調節型肥料
メタン発生削減(地球)
硝酸汚染軽減・
亜酸化窒素発生制御
(地球)
持続型と環境保全が握手できる技術の開発
グローバル経済が
生態系を破壊
●森林の減少
●砂漠の拡大
●土壌の浸食
●漁獲量の減少
●気温の上昇
●氷河の融解
●海面の上昇
●珊瑚礁の死滅
●地下水の低下
●生物多様性の喪失
●オゾン層の破壊
●大気の汚染 など
最大の問題は、これらが食料生産に影響
211
グローバル経済の再構築
1.「今まで通り」の経済:持続不能・必然的に
衰退する経済(プランA)
2.「エコ・エコノミー」:持続可能な新しい経済
(プランB)
3.中道はない
なぜなら、環境は経済の一部ではなく、
経済が環境の一部であるから。
プランA:経済活動を継続
z
z
z
z
z
z
z
環境はますます劣化する。
飢えと社会不安がさらに拡大する。
環境難民が増大する。
人口増加は政治的紛糾を激化させる。
人口増加は1人あたりの耕地面積は縮小
環境問題は人口問題、人口問題は食料問題、食料問題は
農業問題、したがって21世紀は、農業問題の解決がもっと
も基本である。さらに、農業問題は土壌なくして解決はない。
となると、21世紀は土壌問題ともいえる。
結局、プランAは環境を破綻させ、結果的に経済をも破綻
させる。
212
プランB:破滅を回避する選択
(水)
z
z
z
z
z
z
過小評価されている「水の価格」を見直す。
灌漑用水の利用効率を高める。
雨水に頼る農業を安定させる。
生活用水や工業用水の利用効率を改善する。
世界の緊急課題として「水問題」に取り組む。
「オイルショック」ならぬ「水ショック」が「食料ショッ
ク」となり、地下水位の低下が食料価格の高騰に
つながるとき、世界は「水と農業と食料」が根底か
ら変わったことに気づく。
プランB:破滅を回避する選択(土・窒素)
作物を多様化して農地を遊ばせない。
z タンパク質の生産効率を高める。
z 収穫後の茎や葉を飼料に生かす。
z 土壌や農地を保全する。
z 地球上の森林と草地を修復すれば、土壌を
守り、洪水を減らし、炭素は固定できる。こ
れこそ、地球修復技術である。
z
213
プランB:破滅を回避する選択(CO2)
炭素排出量を半分に減らすために、
z エネルギーの利用効率を高める。
z 風力をエネルギー資源として活用する。
z 太陽光をエネルギー資源として活用する。
z 地熱をエネルギー資源として活用する。
z 水素型エネルギー経済を構築する。
z 炭素排出量を削減する。
エコ・エコノミーの前進
●風力発電装置
●自転車専用道路
●太陽電池
●環境税、補助金など
●環境保全型農業
214
ペンタゴン・リポート:2003
「急激な気候変動シナリオとその
合衆国の国家安全保障への含意」
●温暖化が海水の淡水化を引き起こし、それによる海
流の変化が、地球の局地的な寒冷化をもたらす。
●それと同時に、食糧問題を含めて全世界的なシナリ
オを描き出して、環境難民に対する大規模な軍事的
な対処が21世紀に起こると予測。
ペンタゴン・リポート:2003
1.海水淡水化の熱塩循環への影響
2.暖流の中断
3.ヨーロッパの寒冷化
4.流血の絶えない時代
●人類は減少する資源をめぐる絶え間ない戦闘状
態に回帰し、その戦闘行為は、気候変動の影響以
上に一層資源を減少させることになるであろう。再
び戦争が人間生活の証になる。(加藤尚武)
215
カエルの悲劇
●水と熱いお湯を入れた鍋を二つ用意する。
●蛙を熱いお湯に入れると、驚いて飛び上がる。
●しかし、冷たい水の中にいる状態で、鍋を徐々に過熱すると、蛙
は静かなままだ。
●蛙は変温動物なので、徐々に熱くなっていくお湯の中では、蛙の
神経は感覚を失うからだ。蛙は熱くなっていくお湯の中で危機を
感じず、適応しようと努力していくうちに神経が無感覚になり、完
全に煮られて死んでしまうのである。
●迫ってくる危険を知らずに、死んでいく蛙を見ながら、私たちは一
つの教訓を得る。だが、実際に自分たちに迫ってくる危険を感知
できる人はそう多くない。
216
2005年1月27日
第18回海洋工学シンポジウムにて発表
白山義久
京都大学瀬戸臨海実験所長
教授
高CO2世界と海洋生態系
ー海洋貯留は是か否かー
京都大学
フィールド科学教育研究センター
瀬戸臨海実験所
白山 義久
217
Estimated CO2 concentration in the
future
高成長社会
高度技術指向型高成長社会
化石燃料依存型高成長社会
多元化社会
循環型社会
地域共存型社会
(IPCC, 2001)
Atmospheric CO2 concentration is always higher than
in the seawater: Therefore human is using surface ocean
for CO2 sequestration
CO2 concentration
AIR
Sea Surface
(Meteorological Agency, Japan, 2002)
218
海洋貯留を評価する論点
(海洋生態学の立場から)
対策なしでも許容可能か?
V 許容できない場合
V
– 深海貯留はより良いオプションか?
対策なしの場合の海洋への影響
V
温暖化
– 成層の強化
– 表層への栄養塩供給の減少
– 一次生産の減少
サンゴの白化
V 海面上昇による生息場所の喪失
V
219
海水の酸性化
動物へのストレスの増大
V 呼吸の阻害
V 炭酸カルシウム骨格の溶解
V 生態系のバランスへの影響
V
Estimated pH change of the seawater
Before the energy revolution
8.2
Present
8.0
B1 Scenario
pH
7.8
7.6
200
A1F1 Scenario
2100年での大気CO2濃度
予測範囲
(IPCCシナリオ IS92a)
400
600
800
PCO2 (ppm)
220
1000
(水温20℃、アルカリ度2300μmol/kgで概算)
Impact on calcareous tests of
cocolithophore
PCO2
300ppm
PCO2
780-850ppm
Gephyrocapsa oceanica
Emiliania huxleyi
Riebesell, U. et al. (200) Nature 407
Impact of PCO2560ppm air
on a sea urchin and a snail
sea urchin
snail
40
120
100
30
Cumulative percentage wet weight increase
Cumulative percentage wet weight change
80
20
10
0
60
40
20
-10
0
-20
-20
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
2
Weeks from start
4
6
8
10
12
14
16
Weeks from start
(Shirayama and Thornton (submitted))
221
18
20
22
24
26
Impact on sea urchin larvae
Photo by Kurihara, H.
対策なしでは
海洋生態系は大きな影響を受ける
V
大気のCO2濃度を下げる必要がある。
– 排出削減の努力が大切
– 海洋貯留は是か否か
222
Technical Concepts
深海生態系への
海洋貯留の影響の可能性
放出点付近での致死的影響
V 低レベルの長期的な影響
V 地中貯留の海底への湧出の問題
V
223
lake
fix point
midwater
Area of
acute
impact
10 to 100 km
100 km
possibly small
chronic
impact
Possibility to
make it small
can be large in can be large in
area
area
Other
concern
clathlate
stability and
leakage of
CO2
geological
stability
fate of thick
plume
ship
technologies
reliability of
underwater
pipeline
lack of
biological
information
Research strategies
Shallow water vs. deep sea
V Short term vs. long term
V Species vs. community
V Benthic vs. midwater
V
V
final goal is deep-sea long-term community
level midwater ecosystem
224
Benthic Lander
Photo by Shirayama, Y.
社会への説明責任
V
十分な研究データに基づいた、信頼性の高
い将来予測が必要
– 貯留“あり”と“なし”の損得
– 深海生態系はプロセスが遅いので、急に必要な
データはそろわない
– 予測だけでなく、その信頼性も明らかにする
V
「まず貯留ありき」ではなく、いろいろな方策を
徹底的に追求した上で、“最後の選択肢”と
位置づける必要があるのでは?
225
2005年1月27日
第18回海洋工学シンポジウムにて発表
松田裕之
横浜国立大学環境情報研究院
教授
Species base statistics
Can the world catch not really increase?
4 May 2004
http://www.fao.org/fi/publ/circular/c920/intro.asp#A2
226
2
Landings of demersal marine fish
has not grown since 1970s (FAO1996)
4 May 2004
http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig5e.asp
3
Landings of small pelagic fish is
still increasing with fluctuation
anchoveta
sardine
Atlantic herring
4 May 2004
chub
mackerel
http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp
227
4
Fishing Down– Is this bad?
mean trophic level
Marine areas
Catch of lower trophic
levels is a smaller impact.
Decrease of mean
trophic level in
environment is bad.
inland areas
Fig. 1. Global trends of mean trophic level of fisheries landings, 1950 to 1994
Pauly et al. (Science1998:279:860;)
Peruvian anchovy increased
4 May 2004
5
Whales consume fish more than human
(Tamura & Ohsumi 1997)
Million tonnes
300
250
Tooth whales
Baleen whales
200
150
100
50
0
Fisheries
landing
Biomass of
Whales
4 May 2004
Consumption
by whales
6
228
“...in a complicated food web structure, indirect
Two of
phenotypes
whales-fisheries
effects
culling topof predator
(whales) on
abundance ofcompetition
target fish isidea
either positive or
negative,...” By Yodzis 2001 Trend Ecol Evol
Whales destroy
the ocean.
Fisheries destroy
the ocean.
By Japan Gov.
4 May 2004
7
Who is more familiar with environment?
Rich or poor nations?
Analysis of Ecological footprint (source WWF 2002)
EFP
EFP
World
2.28
High Income 6.48
Intermediate 1.99
Low income 0.83
EFP: global ha/person
Afganistan
Iraq
Israel
Germany
Japan
Canada
USA
0.95
1.38
4.44
4.71
4.77
8.84
9.70
4 May 2004
8
http://www.wwf.or.jp/activity/lpr2002/
229
Catch in Japan (1000 mt)
Pelagic fish stock is unstable
-- species replacement --
4 May 2004
Anchovy
Horse mackerels
Pacific saury
Chub mackerel
Sardine
9
Matsuda & Katsukawa 2002 Fish Oceangr
230
付録3 IMPACT 専門委員会活動記録
IMPACT専門委員会開催記録
回
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
開催日
場所
7/12/02 北海道大学
水産学部
6階会議室
議事内容
1) 新専門委員会立ち上げの背景について
2) 活動内容および最終目標について
3) 当面の活動について
4) 専門委員会名称について
9/25/02 大阪府立大学
1) CO2の海洋貯蔵技術について
海洋システム工学科 2) 海洋滋養技術について
3) 海洋深層水の資源量に関する研究について
会議室
4) 今後の活動方針について
11/5/02 東京大学
1) 気象コントロールについて
2) 海洋深層水関連の環境影響評価について
山上会館
3) ワーキンググループの設置について
202号室
1) 気象コントロールに関する講演およびディスカッション
1/27/02 MSCセンタービル
木村龍治先生(東大海洋研教授)
3階第6会議室
2) 各WGからの方針提案およびディスカッション
4/23/03 広島大学
1) 海洋深層水に関する反対意見の分析
2) CO2海洋隔離に関する反対意見の分析
学士会館
3) 海洋滋養に関する反対意見の分析
2F会議室1
8/19/03 海上技術安全研究所 1) 海洋深層水資源量について
2) NEDOの風力発電のための環境影響評価マニュアル(案)につい
本館3階第1会議室
3) 海洋滋養に関する意見について
11/12/03 大阪府立大学
1) IMPACT Strategic Planについて
2) 海洋工学シンポジウムへの貢献について
学術交流会館
3) 海洋深層水取水によるCO2排出量の評価について
特別会議室
1) 海洋工学シンポジウムでのWS案について
4/21/04 横浜国立大学
2) 包括的環境影響評価指標について
教育文化ホール
中会議室
5/13/04 東京海洋大学
1) 包括的環境影響評価指標について
2) マイティーホエールの撤去工事概要について
越中島キャンパス
3) 海洋工学シンポジウムでのIMPACTセッションについて
越中島会館食堂
1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッションについて
6/17/04 東京大学
2) 文献調査の進め方について
工学部7号館東館
5階会議室
1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッションについて
8/31/04 横浜国立大学
2) IBI(Index of Biological Integrity)について
ビジネススクール
3) HGM(Hydrogeomorphic Method)について
1809室
4) BEST(Biological Evaluation Standardized Technique)について
5) 予防原則と生態リスクに関する講演およびディスカッション
松田裕之先生(横国大教授)
10/7/04 東京大学
1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッションについて
2) BEST(Biological Evaluation Standardized Technique)について
工学部7号館東館
3) IBI(Index of Biotic Integrity)について
5階会議室
4) HEP(Habitat Evaluation Procedure)について
5) HGM(Hydrogeomorphic Method)について
6) WET(Wetland Evaluation Technique)について
7) IFIM(the Instream Flow Incremental Methodology)について
8) 地球白書のデータについて
12/2/04 東京大学
1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッションについて
2) リスク管理/環境リスクの調査方法について
工学部3号館
1/6/05 東京大学
1) エコロジカルフットプリントについて
2) ウェルビーイング指数について
工学部3号館
3) リスク管理/環境リスクについて
3階32号教室
4) 造船学会春のオーガナイズドセッションについて
5) 海洋工学シンポジウムのパネルディスカッションについて
4/20/05 神戸大学
1) 海洋工学シンポジウムのIMPACTセッションについて
2) 日本造船学会春季講演会オーガナイズドセッションについて
深江キャンパス
学術交流棟5階会議室 3) 今後のまとめ方の方針について
231
IMPACT専門委員会配布資料一覧
回
資料
1 1) 新専門委員会たたき台
2) 環境騒ぎ雑感
2 1) 海洋深層水の資源量に関する資料
2) 再生型資源としての海洋深層水
3) CO2の海洋貯蔵技術
3 1) 気象制御計画の例
2) Assessment of Environmental Effect and Fertilization at Deep Seawater Discharged Area
3) 気象分野での自然制御の例と顛末
4 1) 気象コントロールに関する資料
2) 海洋深層水と自然破壊
3) 海洋深層水WG検討手順
4) CO2海洋貯蔵に関する環境影響評価について
5) 海洋滋養の認識と海水流動・生態系モデルの応用
6) 過去に行われた海洋滋養の例
5 1) 海洋深層水を守る会による反対意見
2) IPCC Workshopレポート
3) 海洋滋養に関する記事
4) 日本海洋学会海洋環境問題委員会ナイトミーティング資料
6 1) 海洋深層水資源量に関する資料
2) NEDOの風力発電のための環境影響評価マニュアル
3) 海洋滋養に関する記事
4) 海洋工学委員会性能部会Strategic Plan
7 1) IMPACT Strategic Plan案
2) 海洋工学シンポジウムへの貢献案
3) 海洋深層水取水によるCO2排出量の評価
4) 海底ケーブルに関する資料
8 1) 海洋工学シンポジウムWS案
2) IMPACT Strategic Plan案(改)
9 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案
2) マイティーホエールの撤去工事概要
10 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
2) 環境影響評価に関する資料
11 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
2) IBI(Index of Biological Integrity)に関する資料
3) HGM(Hydrogeomorphic Method)に関する資料
4) BEST(Biological Evaluation Standardized Technique)に関する資料
12 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
2) BEST(Biological Evaluation Standardized Technique)に関する資料
3) IBI(Index of Biotic Integrity)に関する資料
4) HEP(Habitat Evaluation Procedure)に関する資料
3) HGM(Hydrogeomorphic Method)に関する資料
6) WET(Wetland Evaluation Technique)に関する資料
7) 地球白書のデータ関連資料
13 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
2) リスク管理に関する資料
3) 環境リスク関連の文献リスト
14 1) エコロジカルフットプリント関連資料
2) ウェルビーイング指数関連資料
3) 環境リスク論に関する資料
4) 等リスク原則に関する資料
5) レスポンシブル・ケアに関する資料
6) 環境会計に関する資料
7) 「リスク,環境および経済」に関する資料
8) 造船学会春のオーガナイズドセッションに関する資料
9) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
15 1) 海洋工学シンポジウムIMPACTセッション案(改)
2) 造船学会春のオーガナイズドセッションに関する資料(改)
3) 海洋環境研究委員会IMPACT専門委員会の概要
4) 沿岸域における環境影響評価手法
5) 環境リスクとリスク管理
6) グローバルな環境問題の現状とその評価手法
7) 海洋の大規模利用と包括的環境影響評価の必要性
※青字はオリジナル資料
232
担当者
大塚耕司
小林正典
大塚耕司
大塚耕司
佐藤 徹
大塚耕司
大塚耕司
冨田 宏
木村龍治
冨田 宏
大塚耕司
小林日出男
野澤和男
北澤大輔
大塚耕司
佐藤 徹
北澤大輔
大塚耕司
大塚耕司
小林日出男
多部田茂
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
小林日出男
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
小林日出男
大塚耕司
山中亮一
大塚耕司
上城功紘
今井康貴
小林日出男
大塚耕司
小林日出男
上城功紘
大塚耕司
今井康貴
山中亮一
大塚耕司
大塚耕司
上城功紘
山中亮一
上城功紘
藤原 奨
山中亮一
今井康貴
北澤大輔
上城功紘
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
大塚耕司
多部田茂
小林日出男
山中亮一
佐藤 徹
付録4 IMPACT 専門委員会および IMPACT 研究委員会委員一覧
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
○
氏名
粟島 裕治
今井 康貴
大内 一之
大塚 耕司○
大宮 俊孝
岡本 強一
上城 功紘
川淵 信
北澤 大輔
工藤 君明
小林 英一
小林日出雄
佐藤 徹
城田 英之
多部田 茂
段 烽軍
冨田 宏
中谷 直樹
永松 哲郎
野澤 和男
冨士 雄介
藤田 孝
藤原 奨
宮部 宏彰
村井 基彦
山口 創一
山口 一
山中 亮一
委員長
所属
IHIマリンユナイテッド
グローバルオーシャンディベロップメント
大内海洋コンサルタント
大阪府立大学大学院
東京大学大学院
日本大学
東京大学大学院
東京大学
東京大学
海洋研究開発機構
神戸大学
IHIマリンユナイテッド
東京大学大学院
海上技術安全研究所
東京大学大学院
東京大学大学院
海上技術安全研究所
大阪府立大学大学院
鹿児島大学
大阪大学大学院
大阪府立大学
日立造船
横浜国立大学大学院
IHIマリンユナイテッド
横浜国立大学大学院
九州大学大学院
東京大学大学院
横浜国立大学大学院
233
部署 役職
エンジニアリング事業部 課長
観測研究部 主任
代表取締役
工学研究科 助教授
新領域創成科学研究科 大学院生
理工学部海洋建築工学科 専任講師
工学系研究科 大学院生
工学部 学生
生産技術研究所 助教授
海洋工学センター 調査役
海事科学部 教授
開発部 部長
新領域創成科学研究科 教授
海洋開発研究領域 主任研究員
新領域創成科学研究科 助教授
工学系研究科 助手
海洋開発研究領域 上席研究員
工学研究科 助手
水産学部 教授
工学研究科 教授
工学部 学生
技術研究所 主任研究員
環境情報学府 大学院生
エンジニアリング事業部 課長
環境情報研究院 助教授
総合理工学研究科 大学院生
工学系研究科 教授
環境情報研究院 助手
付録5 IMPACT 研究委員会アドバイザー一覧
1
2
3
4
5
6
氏名
井関和夫
木村龍治
白山義久
中西準子
松田裕之
陽 捷行
所属
広島大学大学院
東京大学
京都大学
産業技術総合研究所
横浜国立大学大学院
北里大学
部署 役職
生物圏科学研究科 教授
海洋研究所 名誉教授
瀬戸臨海実験所長 教授
化学物質リスク管理研究センター長
環境情報研究院 教授
副学長
234
付録6 執筆者一覧
Chapter Section
SubSection
1
2
2.1
2.1.1
2.1.2
2.1.3
2.1.4
2.2
2.2.1
2.2.2
2.2.3
2.3
2.3.1
2.3.2
2.3.3
3
3.1
3.2
3.3
3.4
3.4.1
3.4.2
3.4.3
3.4.4
3.4.5
3.4.6
3.4.7
4
4.1
4.2
4.3
4.4
5
5.1
5.2
5.3
6
6.1
6.2
6.3
謝辞
付録
付録1
付録2
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
付録3
付録4
付録5
付録6
Title
背景と目的
海洋の大規模利用技術とその評価
海洋深層水利用
海洋深層水の利用技術
海洋深層水の使用可能量
海洋深層水取水によるCO2排出量の評価
海洋深層水利用に関する社会受容性
CO2海洋隔離
CO2海洋隔離のベネフィットと技術
CO2海洋隔離に関する環境影響評価
CO2海洋隔離に関する社会受容性
海洋滋養
海洋滋養の技術
過去に行われた海洋滋養の例
海洋滋養に関する社会受容性
陸域・大気・海洋における環境影響評価
農業活動が環境に及ぼす影響とその評価
気象制御計画と実際
風力発電の環境影響評価
沿岸域における環境影響評価手法
環境影響評価手法の概要
Biological Evaluation Standardized Technique (BEST)
Index of Biotic Integrity (IBI)
Instream Flow Incremental Methodology (IFIM)
Habitat Evaluation Procedure (HEP)
Hydrogeomorphic Method (HGM)
Wetland Evaluation Technique (WET)
グローバルな環境問題とその評価手法
環境リスク/リスク管理
エコロジカル・フットプリント
ウェルビーイング指数
地球白書2004-05で紹介されている諸データ
順応的管理
生態系と順応的管理
最大持続生産量(MSY)の問題点
生態系の順応的な管理に向けて
包括的環境影響評価研究の方向性
IMPACT専門委員会の活動概要
第8回海洋工学シンポジウムIMPACTセッション
IMPACT研究委員会の今後の方向性
Strategic Plan
第18回海洋工学シンポジウムIMPACTセッション発表スライド
井関和夫氏発表スライド
中西準子氏発表スライド
陽 捷行氏発表スライド
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発行責任者: 大塚 耕司
〒599-8531 大阪府堺市学園町 1-1
大阪府立大学大学院工学研究科海洋システム工学分野
TEL: 072-254-9339,FAX: 072-254-9914
E-mail: [email protected]
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Author(s)
大塚耕司
大塚耕司
佐藤 徹
佐藤 徹
上城功紘
多部田茂
北澤大輔
多部田茂,北澤大輔
陽 捷行
大塚耕司
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多部田茂
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大塚耕司
井関和夫
中西準子
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白山義久
松田裕之