企業における生物多様性リスクへの対応(PDF形式、134kバイト)

NKSJ- RM レポート 45
企業における生物多様性リスクへの対応
斉藤 照夫
Teruo Saito
NKSJ リスクマネジメント株式会社
顧問
はじめに
昨年 10 月に愛知県名古屋市の名古屋国際会議場において、生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)
が開催された。COP10 では、生物多様性の新たな世界目標である「ポスト 2010 年目標」(愛知ターゲット)
及び、遺伝資源へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正で衡平な配分、いわゆる ABS(Access and
Benefit-Sharing)の名古屋議定書が合意されたことが注目されたが、加えて、生物多様性への民間参画を奨励
する「ビジネスの参画(Business Engagement)」決議もなされ、企業の積極的な取組が要請されたところであ
る。その一方で、企業の担当者からは生物多様性の概念やそのリスクがわかりにくく、どのような取組をす
れば良いのかよくわからないという声がよく聞かれる。そこで、本稿では、生物多様性リスクの事例を紹介
するとともに、企業におけるリスク対応について述べることとしたい。
1. 生物多様性リスク
1.1. 概要
人間の幸福な暮らしは、生物多様性のもたらす水、食料や木材、医薬品などの供給、作物の受粉や病害虫
の制御などの生態系サービス(Ecosystem Services)に大きく依存している。しかしながら、国連の主唱によ
る「ミレニアム生態系評価(Millennium Ecosystem Assessment: MA)」の報告書1では、過去 50 年間に、生物多
様性が生態系サービスをもはや提供できなくなるほどに損なわれてしまっているとされ、日本の生物多様性
にかかる「生物多様性総合評価報告書」においても、
「人間活動にともなうわが国の生物多様性の損失は全て
の生態系に及んでおり、全体的にみれば損失は今も続いている」2とされている。
生態系サービスや、そこからもたらされる生物資源は、上手に使いさえすればいつまでも再生しながら使い
続けられるものである。生物多様性の損失を止め、これらの恵みを今後も持続可能なかたちで享受し続ける
ために、企業、国・地方公共団体、消費者等のアクターによる生物多様性の取り組みが求められている。と
くに企業は、原材料の調達、遺伝情報の活用、土木建築など様々な場面で国内外の生物多様性の恵みをもと
1
Watson, R.T. et al., 2005, Ecosystem and Human Well-being: General Synthesis, Washington DC: Island
(http://maweb.org/documents/document.356.aspx.pdf).
2
環境省生物多様性総合評価検討委員会「生物多様性総合評価報告書」http://www.biodic.go.jp/biodiversity/jbo/jbo/index.html、
2010 年 5 月)。
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に操業し、生み出された製品やサービスを消費者である一般市民に供給している。企業の活動は、直接・間
接に生物多様性に支えられていると言え、生物多様性の損失がこのまま進行することは、事業の継続・成長
に大きなリスクとなる。
ただ、生物多様性についての企業の認識は、現時点では必ずしも高いとはいえない。プライスウォーター
ハウスクーパース社(PricewaterhouseCoopers: PwC)が行った調査3によると、調査対象国際企業の CEO(最
高経営責任者)1,200 人のうち、生物多様性の損失がビジネス成長の可能性に脅威であると「非常に」もしく
は「ある程度」懸念していると答えた経営者は、27%であった。これは、生物多様性のリスクが「忍び寄る
破局」として目に見えにくいためと考えられる。ただ、これには地域差があり、アジア・太平洋では 34%と
全体平均より高く、生物多様性の損失が厳しいラテンアメリカ、アフリカでは、それぞれ 53%、45%の CEO
が懸念していた。
企業は生物多様性リスクの中で、どのようなものを重要と考えているのだろうか。マッキンゼー・アンド・
カンパニー社が 1,043 人の経営者に、生物多様性はどのような点であなたのビジネスに重要なのかをレビュ
ーした結果4によると、生物多様性を「評判の維持・向上」リスクと結びつける回答が 53%と最も多く、次に
「規制要件」が 48%、「競争力の強化」が 34%と続いた。「評判リスク」と「規制リスク」が経営者に重視さ
れていることがわかる。
以下では、生物多様性のリスクについて具体的に見てみることとしよう。
1.2. 評判リスク
評判リスクとは、生物多様性への悪影響に企業が関与することで、商品のブランドイメージや企業のイメ
ージが悪化するリスクのことを指す。不適正な森林伐採から生産された木材や紙類を購入することで、NGO
のキャンペーンの標的となることや、銀行が生物多様性を脅かす可能性の高い事業に投資を行うことにより、
抗議運動に直面することが考えられる。
2010 年 3 月に起きた海外の食品大手企業A社のパームオイル調達を巡る事件は、多くの食品企業に大きな
衝撃を与えた。A社は、インドネシアのB社から原料のパームオイルを調達していたが、B社はパームオイ
ル生産のため、インドネシアの熱帯林の不適正伐採や泥炭地の破壊を行い、オランウータンの生息地を奪っ
ている疑惑が指摘されていた。これに対して国際環境 NGO のグリーンピースが抗議キャンペーンを行い、そ
の標的として、A社の基幹ブランドであるチョコレート菓子を取り上げ、熱帯林破壊とリンクした批判ビデ
オをユーチューブ(YouTube)に投稿したのである。これに対しA社は、ビデオが商標権侵害であるとして
YouTube に抗議し、ビデオを削除させた。YouTube には「このビデオは、A社の商標権の抗議により利用不
可能となった」と掲示されたが、このことが、多くの消費者やネットユーザーに、A社が生物多様性保全に
消極的であり、YouTube へのビデオ削除要求は大企業の力による横暴と受け取られ、大きな怒りを招いた。
A社が SNS サイトの Facebook 内に設けたファンページには、毎日数千件の消費者からの同社のパームオイ
ル調達への抗議が殺到するようになった。
「原材料の調達先に早急に責任を取れ。そうすれば我々は許してや
る」というもので、不買運動にまで言及するものもあった。これに対して、A社は、2015 年までに持続可能
なパームオイル調達を実施するとしたが、抗議は収まらなかった。この間、A社の Facebook 内ファンページ
担当者が、抗議文では商標権に違反しないようにと書き込み、さらに消費者の怒りを増幅させ、ファンペー
3
PricewaterhouseCoopers, 2010, “PricewaterhouseCoopers (PwC) 13th Annual Global COE Survey 2010,” January 2010.
McKinsey & Company, 2010, The Next Environmental Issue for Business: McKinsey Global Survey Results, August 2010.
経営者 1,043 人へのレビュー調査。
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ジへの抗議は数週間で数十万件にのぼったといわれる。また、スイスのローザンヌで開催された株主総会の
会場に、多数のグリーンピースの活動家がオランウータンの着ぐるみを着て現れ、大量の抗議ビラを配布す
るなどの抗議キャンペーンも続けられた。ソーシャルメディアによる大量抗議は、マスメディアやブログで
も頻繁に報道され、評判ダメージは大きくなり、同年5月に、A社は、熱帯林の破壊につながるパームオイ
ルの調達を停止すること、パームオイル調達の厳格なモニタリングを国際 NPO である森林トラスト(The
Forest Trust)に依頼して行うことを内容とする声明を発表し、グリーンピースもこれを認めて抗議運動は終
結した。
次いで、グリーンピースは、B社への投資者であった海外のグローバル銀行であるC銀行にも抗議を行い、
C銀行はその圧力を受けて投資を取り下げた。
この事件は、今日の企業がグローバル調達を通じて世界の生物多様性と関わっていること、また、フェィ
スブック(Facebook)や YouTube など新しい情報メディアが普及する中で、消費者が、非持続的と捉えた企
業に対し、ネット上で速やかに集結し、強力な批判行動を巻き起こす力を持っていることを示し、企業にと
って、評判リスクの管理はいっそう重要となっている。
1.3. 規制・法的責任リスク
生物多様性に関して政府が講じる新たな規制や罰金・使用料の賦課、生態系サービスを失うこととなった
地域社会が起こす訴訟、生物多様性に損害を与えた企業に対する修復責任の要求などのリスクである。
PwC では、国際企業の CEO に対して、操業している国の政府が生物多様性と生態系を有効に保護してい
ると考えているかを調査している。その結果では、政府が有効に保護していることには同意できないとする
回答が 43%と多かった。これは、多くの経営者が、生物多様性の取組について、政府の役割が大きいこと、
そして、政府の生物多様性への取組が今後さらに進む必要があると感じていることを伺わせる。
生物多様性に関する法規制も強化されつつあり、例えば中国では、1998 年に揚子江流域での大洪水による
甚大な被害を受け、その原因が上流での無秩序な森林伐採による生態系サービス劣化にあったことを機に、
上流地域での森林伐採の禁止策を導入した。この規制は当該地域の森林の木材に原料を依存していた企業に
大きな影響をもたらした。また、エクアドルの先住民は、海外の石油関連企業のD社を相手取り、飲用、水
浴、漁業のために依存しているアマゾン川流域の水質を、同社が有害な油性廃液で悪化させたとしてエクア
ドル裁判所に提訴している。本訴訟は、17 年経過した本年 2 月、D社に 86 臆ドルの賠償を命じる判決が出
されたものの控訴により継続の見込みである。
さらに、EU 域内の環境損害に対する「環境責任指令」(Environmental Liability Directive)5では、人の健康
に重大な影響をもたらす土壌汚染などのほか、動植物や生息地などの生物多様性への損害も対象として、事
業者に対して環境損害防止義務・修復義務ならびに費用負担義務を包括的に課している。本指令は、1998 年
にスペイン南部の鉱山廃棄物を貯留したダムの決壊により、有害な汚泥が下流に流出し、国立公園地域の土
壌と水が汚染されたために、有害物質に接触した野生生物が数多く死ぬという事件があり、スペイン政府が
その浄化のために数年の期間と 2 億 5 千万ユーロの支出をしなければならなかったケースなどを踏まえ、EC
条約中の汚染者負担原則(Polluter-Pays Principle: PPP)に基づいて 2004 年に制定されたものである。本指令
により環境損害の対象となる「野生生物の種および生息地」とは、1992 年の EU 生息地指令で保護された種
5
“Directive 2004/35/CE of the European Parliament and of the Council of 21 April 2004 on Environmental Liability with Regard to
the Prevention and Remedying of Environmental Damage,” Official Journal of the European Union, 30 (4), 2004
(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2004:143:0056:0075:EN:PDF).
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及び生息地、および 1979 年の EU 野鳥指令で保護された絶滅のおそれのある鳥および渡り鳥とされる。EU
生息地指令では 229 の生息地タイプ、1,064 の動植物を指定しており、EU 野鳥指令では、193 の脆弱なもし
くは絶滅のおそれのある野鳥を対象としている。両指令に基づき、計 22,000 以上のサイトが指定され、その
面積は 14 万 km2 と、EU の面積の約 17%を占めており、EU 域内で活動する企業は、これらの野生生物およ
び生息地に損害が発生しないよう予防的措置をとることが必要となっている。EU は、この「野生生物と生息
地」の範囲について、運用経験を踏まえて、2014 年に拡大を含めて再検討するとしている。また、企業の負
う責任については、権限ある行政機関が原因企業に対して具体的な損害を判定し、修復措置を決定・要求す
ることとされており、その費用は企業が負担することとなる。修復措置は、損傷された場所での実施が原則
であるが、これが困難な場合には他の場所での措置でもよいが、同様の環境価値が達成され、または上回る
成果を出さねばならないとされている。
1.4. オペレーションリスク
生物多様性の損失により淡水や生物資源の調達が不安定化し、企業の日々の操業および業務プロセスに影
響を与えるリスクである。
例えば、1990 年代初頭、乱獲が原因で、カナダの東海岸に位置するニューファンドランド島沖におけるタ
ラ漁が崩壊した事件がある。この崩壊は、資源開拓から数百年間続いた漁を廃止に追い込み、数万人が失業
し、その失業者の所得補助と再教育の費用として、少なくとも 20 億ドルの経費が必要だったといわれる。ま
た、海外の食品企業の飲料水部門のE社が販売するミネラルウォーターのヴィッテル(Vittel)のケースも有
名である。ヴィッテルは、フランス北東部の源泉から製造した水を「天然ミネラル水」として販売している
商品であるが、1980 年代、原料水に硝酸塩が混入する事態が生じた。これは、水源周辺の農家の農業活動の
活発化により、ろ過により水源水浄化の役割を果たしていた植生が伐採されたことが原因であった。硝酸塩
の濃度は直ちに健康を損なうレベルものではなかったが、ヴィッテルの良好な水質のブランド価値を損なう
おそれがあった。その一方、硝酸塩を低下させるために水処理を行うと、フランスの法律のもとで「天然ミ
ネラルウォーター」のラベルを使用できなくなるおそれがあった。そこで、E社は、農家に対してその農業
活動の方法を変革し、水源の保全を促すようなインセンティブを与える「生態系サービスへの支払い(Payment
for Ecosystem Services)」の手法を採用し、問題を解決したのである。
2. 生物多様性リスクへの対応
2.1. 国際的な対応
生物多様性の劣化は途上国を中心に世界全体で進んでおり、国際的な取り組みが求められる。このため、
1992 年のリオの地球サミットにおいて、「生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity)」
が採択され、
「生物多様性の保全」、
「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」
、
「遺伝資源の利用から生ずる
利益の公正かつ衡平な配分」を条約の三つの目的として掲げ、この下に国際的な努力が払われてきた。
生物多様性条約では、当初 2002 年の生物多様性条約第 6 回締約国会議(COP6)で採択された「2010 年ま
でに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」とした 2010 年目標を掲げていた。しかし、2010 年 5 月に
生物多様性条約事務局から公表された「地球規模生物多様性概況第 3 版」
(GBO3)6によれば、この目標は達
成されず、生物多様性の損失がこのままの速度で続いていけば、次の 10 年間に「転換点(ティッピングポイ
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Secretariat of the Convention on Biological Diversity, 2010, Global Biodiversity Outlook 3 (http://gbo3.cbd.int).
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ント)」
(図1)と呼ばれる生物多様性の状況がもはや回復しない危機的な地点を越える可能性があると指摘
されていた。
図1
(出典:環境省自然環境局、2010、「地球規模生物多様性概況第3版」(和文) に基づく)
(http://www.biodic.go.jp/biodiversity/jbo/jbo/reports/GBO0525.pdf)
これを受け COP10 では、新たな戦略目標として「生物多様性戦略計画(2011−2020)と愛知ターゲット」
7
が採択された。中長期目標(「自然との共生」ビジョン)については、
「2050 年までに、生物多様性が評価さ
れ、保全され、回復され、そして賢明に利用され、それによって生態系サービスが保持され、健全な地球が
維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる」ことが合意され、2020 年までのミッションとして、
「生
物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急的な行動を実施する。これは、2020 年までに、回復力のある
生態系と、その提供する基本的なサービスが継続されることが確保され、それによって地球の生命の多様性
が確保され、人類の福利と貧困解消に貢献するためである」と合意された。また、その下に位置づけられる
5 つの戦略目標と 20 の個別目標として、例えば、少なくとも陸域 17%、海域 10%の生物多様性にとって重要
な地域を保全するなどの目標が合意された。短期目標(2020 年目標)は、全体を「愛知目標」として採択さ
れた。
今後、この新戦略計画の達成に向け、加盟各国において生物多様性に関係する法律の整備や行動計画改定
などが進められていくこととなる。ただ、先の 2010 年目標が達成できなかったことを踏まえると、ポスト
2010 年目標の達成には、これまで以上の努力が必要とされる。わが国は、2012 年までの COP 議長国であり、
7
Secretariat of the Convention on Biological Diversity, 2010, “Decision Adopted by the Conference of the Parties to the Convention
on Biological Diversity at its Tenth Meeting: X/2. The Strategic Plan for Biodiversity 2011-2020 and the Aichi Biodiversity Targets,”
October 29, 2010 (http://www.cbd.int/doc/decisions/cop-10/cop-10-dec-02-en.pdf).
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条約事務局や主要関係国・地域との連携のもと、COP10 の決定事項の達成・実現に向け、国際ワークショッ
プでの具体的な手法・方策の提案や日本基金を活用した途上国の支援、国内対応措置の実施などを通じ、リ
ーダーシップを発揮していくことが望まれる。
2.2. 企業における生物多様性リスク対応
生物多様性の新たな戦略目標の達成は、政府が取り組むだけでは十分ではなく、企業や民間団体、消費者
などの全てのアクターが解決に取り組むときにはじめて大きな成果を挙げることができる。企業は、前述し
たように、製品やサービスを通じて、生物多様性による自然の恵みを広く社会に供給し、影響を与えている
ことから、目標達成に重要な役割を担っている。このような企業の重要性に鑑み、COP10 では、「ビジネス
の参画」の決議8が採択され、民間部門による具体的な参画の奨励、国レベル・地域レベルで のビジネスと
生物多様性イニシアティブや国際的な連携をイニシアティブ間で図るためのグローバルプラットフォームの
設置の奨励など、企業の生物多様性への取組の強化に合意している。
企業の取り組みにあたっては、企業ごとに生物多様性への依存と影響が異なることを踏まえ、的確な対応
策を講じる必要がある。これには、「ビジネスのための生態系と生物多様性の経済学」(The economics of
ecosystem & biodiversity for business)のレポート9に示されている 7 つの行動ポイント(表1)を参考に、企業
の取り組みを進めることが有効である。
表 1 ビジネスにとって重要な 7 つの行動ポイント(出典:The Economics of Ecosystems and Biodiversity, 2010, “The
Economics of Ecosystems and Biodiversity Report for Businesses: Executive Summary” に基づく。)
【1】あなたのビジネスの生物多様性・生態系サービスへの依存と影響を特定すること
【2】これらの依存と影響と関連するビジネスリスクとチャンスを評価すること
【3】生物多様性情報システムを開発し、賢い目標を設定し、成果を測定・評価し、結果を報告すること
【4】生物多様性リスクを避け、最小化し、適切な場合は、同種の補填(オフセット)を含めて緩和を行うこと、
【5】費用効果、新製品、新市場などの生物多様性に関して生じたビジネス機会を掌握すること
【6】生物多様性に関するビジネス戦略・行動をより広い企業の社会的責任イニシアティブと統合すること
【7】生物多様性のガイダンスや政策を改善するため、ビジネスの同輩や政府、NGO、
市民団体のステークホルダーと連携していくこと
企業の取り組みは、当該企業にビジネスチャンスと事業の将来的な継続・発展をもたらす可能性がある。
例えば、①原材料の購入や投資に際して、「生物多様性へのフットプリント」(影響の大きさ)を考慮した決
定をすることによって、評判リスクの発生を避けるとともに、消費者等の新たなニーズに応える企業として
高い評価を獲得できること、②政府の生物多様性に関する政策対話においてステークホルダーとして積極的
にかかわることにより、規制リスクに的確に対応できるとともに、政府の助言・支援やインセンティブを得
ることも考えられる。その一方で、政策の変化を無視し続ける企業は、いずれ重大な規制リスクを招くおそ
れがあること、③自然資源の利用についてプロセスのイノベーションを通じて最適化に努め、その依存度を
下げることにより、将来の資源希少化やコストアップなどのリスクを遮断し、事業の継続・発展を確保でき
8
Secretariat of the Convention on Biological Diversity, 2010, “Decision Adopted by the Conference of the Parties to the Convention
on Biological Diversity at its Tenth Meeting: X/21. Business Engagement,” October 29, 2010
(http://www.cbd.int/doc/decisions/cop-10/cop-10-dec-02-en.pdf).
9
The Economics of Ecosystems and Biodiversity, 2010, “The Economics of Ecosystems and Biodiversity Report for Businesses:
Executive Summary” (http://www.teebweb.org/LinkClick.aspx?fileticket=ubcryE0OUbw%3d&tabid=1021&language=en-US).
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ること、などがあげられる。
おわりに
昨年 10 月の生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)で採択された「自然共生社会(Living in harmony
with nature)
」のビジョンは、人類が、生物多様性からの恵みを将来にわたって享受し続けていくために不可
欠の課題である。この実現に向け、今後、生物多様性の取り組みへの内外からの要求は急速に高まっていく
ものと考えられる。しかし、現時点における企業の取り組みについては、まだ大きな枠組みが示されている
だけの状況にある。このような中で、企業が他社に先駆けて生物多様性に取り組めば、生物多様性リスクを
回避できるとともに、他社との差別化を図ることができ、ビジネスチャンスにつながる可能性もある。企業
においては、率先して生物多様性に取り組んでいくことが期待される。
参考文献
環境省自然環境局編,2010,『生物多様性民間参画ガイドライン』成山堂書店
松岡智江,2010,「ビジネスと生物多様性――課題と対応の方向性」『SJRM リスクレビュー』8
(http://www.nksj-rm.co.jp/publications/pdf/r08.pdf)
執筆者紹介
斉藤 照夫
Teruo Saito
NKSJ リスクマネジメント株式会社 顧問
専門は環境政策、環境法、環境教育。
著書に『環境・防災法』(共著、ぎょうせい、1986 年)など
NKSJ リスクマネジメントについて
NKSJ リスクマネジメント株式会社は、NKSJ グループのリスクコンサルティング会社です。全社的リスクマネジメント
(ERM)、事業継続(BCM・BCP)、火災・爆発、自然災害、CSR・環境、セキュリティ、製造物責任(PL)、労働災害、
医療・介護安全および自動車事故防止などに関するコンサルティング・サービスを提供しています。詳しくは、NKSJ リ
スクマネジメントのウェブサイト(http://www.nksj-rm.co.jp/)をご覧ください。
本レポートに関するお問い合わせ先
NKSJ リスクマネジメント株式会社
研究開発部
〒160-0023 東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル
TEL:03-3349-6828(直通)
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