白雪姫はなぐられて生き返った - 小澤昔ばなし研究所 OZAWA

白雪姫はなぐられて生き返った
― グリム童話 初版と第二版の比較 ―
間宮史子
小澤昔ばなし研究所
凡例
かえるの王さま、または鉄のハインリヒ
マリアの子
十二人の兄弟
兄と妹
森の三人のこびと
白いへび
ゆうかんな小さい仕立て屋さん
灰かぶり
ホレばあさん
七羽のからす
手を切られたむすめ
テーブルよ食事のしたく、金ひりろば、こん棒よ袋からとびだせ
こびとのビヒテルマン
名づけ親になった死神
おやゆび小僧の旅修業
フィッチャーの鳥
いばら姫
つぐみひげの王さま
白雪姫
221
226
236
ルンペルシュティルツヒェン
315
251
272
324
337
いとしいローラント
355
金色の子どもたち
金のがちょう
千まい皮
星の銀貨
あとがき
393
195
175
97
69
19
33
156
166
8
6
50
87
124
262
287
369
388
白雪姫
むかしむかし、ある冬のさなかのこと、雪が鳥の羽
のように空からふっているとき、美しい女王さまが黒
い黒檀の窓わくのある窓辺にすわって縫い物をしてい
ました。縫い物をしながら雪のほうを見たとき、針を
指に刺して、血が三滴雪のなかへ落ちました。まっ白
い雪のなかの赤い血が、とても美しかったので、女王
はこう思いました。この雪のように白く、この血のよ
うに赤く、この窓わくのように黒い子どもがいたらい
いのに。
そして、それからまもなく、女王は、女の子をうみ
ました。その子は、雪のように白く、血のように赤く、
黒檀のように黒かったので、白雪姫と名づけられまし
た。
女王は、この国でいちばん美しいかたでした。そし
て、自分の美しさにうぬぼれていました。女王は、鏡
をひとつ持っていました。毎朝、その鏡の前に立って、
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ?」
と、たずねると、鏡はいつも、
「女王さま、
この国でいちばん美しいかたはあなたです」
と、いうのでした。すると女王は、この世で自分より
美しい人はだれもいないことをたしかめられるのでし
た。
しのぐほど美しくなりました。そして、女王が鏡に、
むかしむかし、ある冬のさなかのこと、雪が鳥の羽
のように空からふっているとき、女王さまが黒い黒檀
の窓わくのある窓辺にすわって縫い物をしていました。
縫い物をしながら雪のほうを見たとき、針を指に刺し
て、血が三滴雪のなかへ落ちました。まっ白い雪のな
かの赤い血が、とても美しかったので、女王はこう思
いました。
(この雪のように白く、この血のように赤く、この窓
わくのように黒い子どもがいたらいいのに!)
そ れ か ら ま も な く、 女 王 は、 女 の 子 を う み ま し た。
その子は、雪のように白く、血のように赤く、黒檀の
ように黒い髪をしていたので、白雪姫と名づけられま
した。
子どもが生まれると、女王はすぐに亡くなりました。
一年たつと、王さまは、新しいおきさきをもらいま
した。
おきさきは、美しいかたでした。けれども、自分の美
しさにうぬぼれていて、自分より美しい人がいること
に、がまんできませんでした。おきさきは、ふしぎな
鏡を持っていました。その鏡の前に立って、なかをの
ぞいて、
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しいのはだれ?」
と、たずねると、鏡は、
「女王さま、
この国でいちばん美しいのはあなたです」
と、答えるのでした。すると、おきさきは満足しまし
た。この鏡はほんとうのことしかいわないことを知っ
ていたからです。
白雪姫はすくすくと成長し、だんだん美しくなりま
した。七歳になると、その子は、明るい昼ひなかのよ
KHM
53
………………………………………
初版
…………………………………………………
第2版
白雪姫はすくすくと成長し、七歳になると、女王を
白雪姫
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ?」
と、たずねると、鏡は、
「女王さま、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
け れ ど も、 白 雪 姫 は、 あ な た よ り 千 倍 も 美 し
い!」
と、いいました。
女王は、鏡がこういうのをきくと、ねたみのために
まっさおになりました。そして、そのときからという
もの、女王は、白雪姫をにくみはじめました。そして、
白雪姫を見ると、この子のせいで、自分がもうこの世
でいちばん美しい女でなくなってしまったと思い、心
がにえくりかえるようでした。女王は、ねたみのため
にじっとしていられなくなり、狩人をよびつけていい
ました。
「 あ の 白 雪 姫 を、 森 の お く の 遠 く は な れ た と こ ろ へ つ
れだしておくれ。そこで、刺し殺して、その証拠にあ
の子の肺と肝臓を持っておいで。わたしは、それを塩
で煮て食べるんだ」
狩 人 は、 白 雪 姫 を つ れ て 森 へ い き ま し た。 と こ ろ が、
狩人が、鹿を切る大きな刀をひきぬいて、ちょうど刺
そうとすると、白雪姫は泣きだしました。
そして、どうか命だけは助けてください、森のなかへ
かけていって、けっしてもどってきませんから、といっ
しょうけんめいたのみました。
思い、こう考えました。どっちみち、おそろしいけも
のが、じきに姫を食べてしまうだろう。自分が、姫を
殺さなくてすむのは、うれしいことだ。
うに美しくなり、おきさきよりもずっと美しくなりま
した。おきさきが鏡の前に立って、
思っていいました。
白雪姫があまりに美しいので、狩人はかわいそうに
ふたたび帰ってきませんから」
わたしは、森のなかへかけていって、けっして二度と
「おねがいです、狩人さん。命だけは助けてください。
ると、白雪姫は泣きだして、こういいました。
きぬいて、白雪姫のきよらかな心臓をつき刺そうとす
かへつれだしました。狩人が、鹿を切る大きな刀をひ
狩人はおきさきの命令にしたがって、白雪姫を森のな
あの子を殺して、その証拠に肺と肝臓を持っておいで」
二度とあの子の顔を見たくない。森のなかへいったら、
「あの子を、あれた森へつれだしておくれ。わたしは
よびつけていいました。
ていられなくなりました。それで、おきさきは狩人を
大きくなり、おきさきはとうとう、昼も夜もじっとし
にくんでいました。ねたみ心と、高慢さは、ますます
りかえる思いでした。おきさきは、それほど白雪姫を
いうもの、白雪姫のすがたを見ると、腹わたがにえく
たみのためにまっさおになりました。そのときからと
おきさきは、これをきくとおどろき、いかりと、ね
と、答えました。
けれども、白雪姫は、あなたより千倍も美しい」
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
「女王さま、
と、たずねると、鏡は、
この国でいちばん美しいのはだれ?」
「鏡よ鏡、かべの鏡。
第2版
「 そ れ じ ゃ、 に げ て い き な、 か わ い そ う な お 姫 さ ま 」
おそろしいけものが、じきに姫を食べてしまうだろう
と、狩人は思いました。それでも、自分から、むすめ
を殺さなくてすんだので、心に重くのしかかっていた
…………………………………………………
初版
初版
…………………………………………………
第2版
白雪姫があまりに美しいので、狩人はかわいそうに
白雪姫
ち ょ う ど そ こ へ、 い の し し の 子 が か け て き た の で、
それを刺し殺し、肺と肝臓をとりだして、それを証拠
として、女王のところへ持ち帰りました。女王は、そ
れを塩ゆでにし、ぺろりとたいらげて、これで、白雪
姫の肺と肝臓を食べてしまったと思いこんでいました。
白雪姫は、この大きな森のなかで、たったひとりっ
きりになってしまいました。それで、とても心ぼそく
なり、かけだしました。とがった石をこえ、いばらを
こえて、一日じゅう走りました。とうとう、お日さま
が し ず む こ ろ、 白 雪 姫 は、 小 さ な 小 屋 に 着 き ま し た。
そ の 小 屋 は、 七 人 の こ び と の も の で し た。 け れ ど も、
こびとたちは、そのとき鉱山にでかけていて、るすで
した。
も の を 見 る と、 ど れ も こ れ も み ん な 小 さ い の で す が、
かわいらしくて上品でした。そこには、小さなテーブ
ルがあって、その上には、小さなおさらが七枚ならん
で い ま し た。 お さ ら の わ き に は、 七 つ の ス プ ー ン と、
七つのナイフとフォークが置いてあり、グラスも七つ
ありました。そしてかべぎわには、きれいなカバーが
かけられたベッドが七つならんでいました。白雪姫は、
おなかがすいていたし、のどがかわいていたので、ど
のおさらからもすこしずつ、おかずとパンをとって食
べ、 ど の グ ラ ス か ら も 一 滴 ず つ ワ イ ン を 飲 み ま し た。
そして、とてもつかれていたので、横になってねむろ
うと思いました。それで白雪姫は、七つのベッドをつ
ぎつぎにためしてみましたが、どのベッドもうまくあ
いません。七つめのベッドだけが、ちょうどよかった
ので、それに横になってねむりました。
石が、落ちたような気がしました。
やすもうと思いました。
まるころ、小さな小屋が見えたので、そこにはいって、
ぎ り 走 り に 走 り つ づ け ま し た。 や が て、 夕 や み が せ
にはなんの手だしもしません。白雪姫は足のつづくか
姫のわきを走りぬけていきました。けれども、白雪姫
て走りに走りました。おそろしいけものたちが、白雪
はかけだしました。とがった石をこえ、いばらをこえ
れからどうしたら助かるかしらと考えました。白雪姫
も心ぼそく、木ぎの葉っぱを一枚一枚ながめては、こ
で、たったひとりっきりになってしまいました。とて
さて、かわいそうに白雪姫は、この大きな森のなか
たと思いこんでいました。
いらげて、これで、白雪姫の肺と肝臓を食べてしまっ
よろこんで、すぐにそれを塩ゆでにさせ、ぺろりとた
て、おきさきのところへ持ち帰りました。おきさきは
それを殺し、肺と肝臓をとりだして、それを証拠とし
ち ょ う ど そ こ へ、 い の し し の 子 が か け て き た の で、
第2版
その小屋のなかにあるものは、どれもこれもみんな
小さいのですが、それはそれはかわいらしくて上品で、
とてもことばではいいあらわせないほどでした。そこ
に は、 白 い テ ー ブ ル か け の か か っ た テ ー ブ ル が あ っ
て、その上には、小さなおさらが七枚ならんでいまし
た。どのおさらにも、スプーンがついていて、そのほ
かに、ナイフとフォークがついていました。グラスも
七つありました。かべぎわにはベッドが七つならんで
いました。それには、雪のように白いベッドカバーが
かけられてありました。白雪姫は、とてもおなかがす
いていたし、のどがかわいていたので、どのおさらか
らもすこしずつ、おかずとパンをとって食べ、どのグ
ラスからも一滴ずつワインを飲みました。というのは、
ひとつのおさらからだけとって、それをからっぽにし
てしまいたくなかったからです。食べおわると、白雪
姫はとてもつかれていたので、ベッドに横になりまし
た。けれども、どのベッドもうまくあいません。長す
ぎたり、短すぎたりしました。最後に七つめのベッド
がちょうどよかったので、そこに横になったまま、す
べてを神さまにおまかせしてねむりました。
…………………………………………………
初版
初版
…………………………………………………
第2版
白雪姫は、小屋のなかへはいりました。なかにある
白雪姫
夜になると、七人のこびとが仕事から帰ってきまし
た。そして、七つの小さなあかりをつけると、だれか
自分たちの小屋にはいったものがいることに気づきま
した。
最初のこびとがいいました。
「だれか、ぼくのいすにすわったやつがいるぞ」
二番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのおさらから食べたやつがいるぞ」
三番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのパンをちぎって食べたやつがいるぞ」
四番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのおかずをとって食べたやつがいるぞ」
五番めのこびとがいいました。
「 だ れ か、 ぼ く の フ ォ ー ク で 刺 し て 食 べ た や つ が い る
ぞ」
六番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのナイフで切って食べたやつがいるぞ」
七番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのグラスから飲んだやつがいるぞ」
「だれか、ぼくのベッドにあがったやつがいるぞ」
二番めのこびとがいいました。
「おや、ぼくのベッドにも、だれか寝たやつがいる」
そして、七番めのこびとまでみんな、それぞれそうい
いました。
と こ ろ が 七 番 め の こ び と が、 自 分 の ベ ッ ド を 見 る と、
そこに白雪姫が横になってねむっているではありませ
んか。それで、こびとたちはみなかけよってきて、お
どろきの声をあげ、七つのあかりをとってきて、白雪
姫をつくづくながめました。
あたりがすっかり暗くなったころ、この小屋の主人
た ち が 帰 っ て き ま し た。 そ れ は、 山 の な か で 鉱 石 を
掘っている七人のこびとでした。こびとたちは、七つ
の小さなあかりをつけました。そして、小屋のなかが
明るくなると、だれかこの小屋にはいったものがいる
ことに気づきました。なぜなら、小屋のなかのようす
が、朝でていったときとちがっていたからです。
「だれか、ぼくのナイフで切って食べたやつがいるぞ」
六番めのこびとがいいました。
ぞ」
「だれか、ぼくのフォークで刺して食べたやつがいる
五番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのおかずをとって食べたやつがいるぞ」
四番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのパンをちぎって食べたやつがいるぞ」
三番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのおさらから食べたやつがいるぞ」
二番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのいすにすわったやつがいるぞ」
最初のこびとがいいました。
第2版
七番めのこびとがいいました。
「だれか、ぼくのグラスから飲んだやつがいるぞ」
それから、最初のこびとがふりむいてみると、自分
のベッドの上に、小さなくぼみがあるのに気づきまし
た。こびとはいいました。
「だれか、ぼくのベッドにあがったやつがいるぞ」
ほかのこびとたちは、それぞれみんな走っていってさ
けびました。
「おや!
ぼくのベッドにも、だれか寝たやつがいる」
と こ ろ が 七 番 め の こ び と が、 自 分 の ベ ッ ド を 見 る と、
そこに白雪姫が横になってねむっているではありませ
んか。それで、こびとは、仲間をよびました。仲間の
こびとたちはみなかけよってきて、おどろきの声をあ
げ、七つのあかりを持ってきて、白雪姫を照らしてみ
ました。
10
11
初版
…………………………………………………
初版
…………………………………………………
第2版
それから、最初のこびとがふりむいて、いいました。
白雪姫
「こいつは、おどろいた!
こいつは、おどろいた!」
と、こびとたちはさけびました。
「この子はなんて美しいんだろう!」
こびとたちは、その子を見てとてもうれしくなり、起
こさずに、そのままベッドに寝かせておきました。七
番めのこびとは、仲間のベッドにそれぞれ一時間ずつ
はいってねむりました。
そうしているうちに夜があけました。さて、白雪姫
が目をさますと、こびとたちは白雪姫に、きみはだれ
なの、どうしてぼくらの家へきたんだい、とたずねま
した。すると、白雪姫はこびとたちに、母親に殺され
そうになったこと、けれども、狩人が命だけは助けて
くれたこと、そして、一日じゅう走りに走って、とう
とう、この小屋にたどり着いたことを話しました。
した。
「もしきみが、家のなかの用事をひきうけて、料理を
したり、縫い物をしたり、ベッドをととのえたり、洗
濯をしたり、編み物をしたりしてくれるなら、そして、
家のなかをきちんときれいにしてくれるなら、きみは
ずっと、ぼくたちのところにいていいよ。なにも不自
由はさせないから。
夜になると、ぼくらは帰ってくる。そのときには、ご
は ん の 用 意 が で き て な け れ ば な ら な い。 で も 昼 間 は、
ぼくらは鉱山にいて金を掘っている。だから、きみは
ひとりになる。
その女王にだけは注意するんだよ。だれも、うちのな
「こいつは、おどろいた!
こいつは、おどろいた!」
と、こびとたちはさけびました。
ろにいていいよ。なにも不自由はさせないから」
いにしてくれるなら、きみはずっと、ぼくたちのとこ
家のなかの用事をひきうけ、家のなかをきちんときれ
洗濯をしたり、縫い物をしたり、編み物をしたりして、
「もしきみが、料理をしたり、ベッドをととのえたり、
こびとたちはいいました。
たことを話しました。
じゅう、走りに走って、とうとう、この小屋を見つけ
も、狩人が命だけは助けてくれたこと、そして、一日
とたちに、まま母に殺されそうになったこと、けれど
こびとたちはそうききました。すると、白雪姫はこび
「どうして、きみは、ぼくらの家へきたんだい?」
「わたし、白雪姫っていうの」と、むすめが答えました。
「きみの名はなんていうの?」
しく、こうたずねました。
見るとおどろきました。けれどもこびとたちは、やさ
白雪姫は目をさましました。そして、七人のこびとを
そ う し て い る う ち に 夜 が あ け ま し た。 朝 に な る と、
むりました。
とは、仲間のベッドにそれぞれ一時間ずつはいってね
そのままベッドで寝かせておきました。七番めのこび
そして、とてもうれしかったので、その子を起こさず、
「この子はなんて美しいんだろう!」
第2版
白雪姫は、こびとたちに、そのとおり約束しました。
それからは、白雪姫がうちのなかの仕事をひきうけま
した。
朝になると、こびとたちは山へ、鉱石や金を堀りにで
かけ、夜になると帰ってきました。そのときには、ご
はんの用意ができていなければなりません。むすめは
昼間、ひとりでいました。
それで、やさしいこびとたちは、白雪姫にこういって
12
13
初版
初版
…………………………………………………
…………………………………………………
第2版
すると、こびとたちは、かわいそうに思っていいま
白雪姫
かにいれてはいけない」
ところで、女王は、自分がまたこの国でいちばん美
しい女になったと思って、朝になると、鏡の前にいっ
てたずねました。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ?」
すると鏡が、また答えました。
「女王さま、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
けれども、七つの山をこえたむこうにいる
白雪姫は、
あなたより千倍も美しい!」
女王はこれをきくと、ぎょうてんして、自分がだま
されたこと、そして、狩人が白雪姫を殺さなかったこ
とがわかりました。けれども、七つの山には七人のこ
び と の ほ か に は だ れ も い な い の で、 女 王 に は す ぐ に、
白雪姫がこびとたちのところへいって助かったこと
がわかりました。そこで、なんとかして、その白雪姫
を殺せないものかと、あらためてよく考えました。な
にしろ、あなたが国じゅうでいちばん美しいかたです、
と鏡がいわないかぎり、じっとしていられなかったの
です。女王にはなにも信じられなかったので、年とっ
た行商人に変装して、顔に色をぬり、だれにも女王だ
とわからないようにして、こびとの家の前へいきまし
た。女王は、とびらをたたいていいました。
「あけておくれ、あけておくれ。わたしは、年とった
行商人だよ。いい品を売りにきたよ」
「いったい、なにを売りにきたの?」
注意しました。
白雪姫は窓から顔をだして大声でいいました。
「いい品を売りにきたよ!
買わないかい!」
びとの家へいき、とびらをたたいていいました。
そういう身なりで、おきさきは七つの山をこえて、こ
の身なりをして、だれにもわからないようにしました。
考えに考えたあげく、顔に色をぬり、年とった行商人
さで、じっとしていられなかったのです。おきさきは、
うでいちばん美しいものにならないかぎり、ねたまし
せないものかと、
考えました。なにしろ、
自分が国じゅ
うことをきいたので、なんとかして、その白雪姫を殺
七つの山をこえた、七人のこびとのところにいるとい
雪姫がまだ生きていることがわかりました。白雪姫が、
ていたからです。狩人にまんまとだまされたこと、白
ぜなら、
この鏡は、けっしてうそをいわないことを知っ
これをきいて、おきさきはぎょうてんしました。な
あなたより千倍も美しい!」
白雪姫は、
七人のこびとのところにいる
けれども、いくつもの山をこえた、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
「女王さま。
すると鏡が答えました。
この国でいちばん美しいのはだれ? 」
「鏡よ鏡、かべの鏡。
鏡の前にいっていいました。
ちばん美しい女になったと、信じていました。そして、
しまったとばかり思いこんでいたので、自分がまたい
ところで、おきさきは、白雪姫の肺と肝臓を食べて
かにいれてはいけない」
にいることがわかるだろうからな。だれも、うちのな
「まま母に注意するんだよ。近いうちに、きみがここ
第2版
「こんにちは、おばあさん。いったいなにを売りにき
たの?」
14
15
…………………………………………………
初版
初版
…………………………………………………
第2版
白雪姫は、窓から顔をだしました。
白雪姫
「ひもだよ、むすめさん」と、行商人のおばあさんはいっ
て、黄色と赤と青の絹で編んであるひもをとりだしま
した。
「これがほしいかい?」
ええとても、と白雪姫はいいました。そして、こんな
に正直な話しかたをするいいおばあさんだもの、きっ
とうちのなかにいれてもいいわ、と思いました。それ
で、戸口のかぎをあけ、そのひもを買いました。
「 で も、 あ ん た の む す び か た は だ ら し な い ね え 」 と、
行商人のおばあさんがいいました。
「おいで、一度、ちゃんとむすんであげよう」
白 雪 姫 は、 行 商 人 の お ば あ さ ん の 前 に 立 ち ま し た。
すると、行商人はひもをとって、力いっぱいきつくし
めたので、白雪姫は、息ができなくなり、死んだよう
になってたおれてしまいました。
それで、行商人は満足して帰っていきました。それ
からまもなく夜になると、七人のこびとが帰ってきま
した。そして、かわいい白雪姫が、まるで死んだよう
に床にたおれているのを見て、ほんとうにびっくりし
ました。こびとたちは、白雪姫をだきあげてみました。
すると、ひもできつくしめられていることがわかった
ので、ひもを、まっぷたつに切りました。すると、白
雪姫は、息をしはじめ、それからまた生き返りました。
「それは女王にちがいない」と、こびとたちはいいま
した。
「女王が、きみの命をうばおうとしたんだ。気をつけ
るんだよ。もうだれもうちへいれてはいけない」
「よい品だよ、美しい品だよ」と、行商人は答えました。
もうちへいれてはいけない」
をつけるんだよ。ぼくらがそばにいないときは、だれ
「その年とった行商人の女は、女王にちがいない。気
と、いいました。
こびとたちは、白雪姫から、きょうのできごとをきく
てきました。
雪姫は、かすかに息をしはじめ、だんだんに生き返っ
ので、ひもを、まっぷたつに切りました。すると、白
すると、ひもできつくしめられていることがわかった
ません。こびとたちは、白雪姫をだきあげてみました。
した。白雪姫は、まるで死んだように、すこしも動き
い白雪姫が床にたおれているのを見て、びっくりしま
七 人 の こ び と が 帰 っ て き ま し た。 け れ ど も、 か わ い
帰 っ て い き ま し た。 そ れ か ら ま も な く 夕 方 に な る と、
「この美人もこれでおわりさ」と、わるい女はいって
なり、死んだようになってたおれてしまいました。
いっぱいきつくしめたので、白雪姫は、息ができなく
ました。ところが、年とった行商人が、すばやく、力
んの前に立って、新しいひもで、むねをしめてもらい
白雪姫は、すこしもうたがわず、行商人のおばあさ
ちゃんとむすんであげよう」
「あんたのむすびかたはひどいねえ!
おいで、一度、
いいました。
「むすめさん、ちょっと」と、行商人のおばあさんが
戸口のかぎをあけ、色とりどりのひもを買いました。
に い れ て も い い わ、 と 白 雪 姫 は 思 い ま し た。 そ し て、
な話しかたをするいいおばあさんだもの、うちのなか
もをとりだして、白雪姫に見せました。こんなに正直
そういいながら、行商人の女は、色とりどりの絹のひ
「いろんな色のひもだよ」
第2版
わるいおきさきは、お城へ帰ると、鏡の前へいって
ききました。
16
17
初版
…………………………………………………
初版
…………………………………………………
第2版
女王は鏡にたずねました。
白雪姫
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ?」
鏡が答えました。
「女王さま、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
けれども、七人のこびとのところにいる
白雪姫は、
あなたより千倍も美しい!」
女王はぎょうてんして、血がみんな頭にのぼってし
まいました。これで、白雪姫がまた生き返ったことが、
わかったからです。それから、女王は、あのむすめを
いったいどうしたものかと、昼も夜も考えました。そ
して、毒のくしをつくり、この前とはまったくべつの
すがたに変装して、またでかけていきました。
女王は、戸口をたたきました。
「 わ た し は、 だ れ も う ち の な か へ い れ て は い け な い こ
とになってるの」
すると、行商人の女は、くしをとりだしました。白雪
姫 は、 く し が ぴ か ぴ か 光 っ て い る の を 見 て、 そ れ に、
その行商人はぜんぜん知らない人だったので、戸口を
あけ、そのくしを買いました。
「 お い で、 わ た し が あ ん た の 髪 を く し け ず っ て あ げ よ
う」と、行商人の女はいいました。けれども、くしが
白雪姫の髪の毛にささるやいなや、白雪姫はたおれて
死んでしまいました。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
した。
白雪姫が、そのくしを買うと、年とった女がいいま
て、戸口をあけてやりました。
雪姫は、そのくしがすっかり気に入り、ついだまされ
そして、毒のくしをだして、白雪姫に見せました。白
「まあ、この美しいくしを見てごらん」
けれども、年とった女はいいました。
とになってるの」
「わたしは、だれもうちのなかへいれてはいけないこ
白雪姫は窓から顔をだしていいました。
「いい品を売りにきたよ!
買わないかい!」
びとの家へいき、戸口をたたいていいました。
おきさきはでかけていって、七つの山をこえて、こ
しい女のすがたになりました。
れから、変装して、この前とはまったくべつの、まず
た考えました。そして、毒のくしをつくりました。そ
さきは、あのむすめを殺すにはどうしたものかと、ま
またまた生き返ったことが、わかったからです。おき
んな頭にのぼってしまいました。なにしろ、白雪姫が
おきさきは、これをきくとぎょうてんして、血がみ
あなたより千倍も美しい!」
白雪姫は、
七人のこびとのところにいる
けれども、いくつもの山をこえた、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
「女王さま。
すると鏡が答えました。
この国でいちばん美しいのはだれ?」
第2版
「じゃ、ひとつ、わたしがあんたの髪をくしけずって
あげよう」
白雪姫はすこしもうたがいません。年とった女は、く
しを白雪姫の髪の毛深くさしました。すると、たちま
ち、毒がはげしくきいて、白雪姫はたおれて死んでし
18
19
初版
初版
…………………………………………………
…………………………………………………
第2版
けれども、白雪姫はいいました。
白雪姫
「さあ、いつまでも、そこで寝ててもらおう」と、女
王はいいました。そして、女王は心がかるくなり、帰っ
ていきました。
ところが、こびとたちが、ちょうどよいときに帰っ
てきました。そして、なにがおきたのかを見ると、毒
のくしを髪の毛からぬきとりました。すると、白雪姫
は、目をあけて、また生き返りました。そして、こび
とたちに、もうけっして、だれもうちのなかへいれな
いと約束しました。
女王は、また鏡の前に立ちました。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ!」
鏡が答えました。
「女王さま、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
けれども、七人のこびとのところにいる
白雪姫は、
あなたより千倍も美しい!」
女王は、このことばをまたきくと、いかりのために、
からだをふるわせました。
「白雪姫は、なんとしても殺してやる。たとえ、わた
しの命にかけても!」
もこさせないようにして、強い強い毒のりんごをつく
りました。外から見ると、それはきれいな、赤いりん
ごで、だれでもそのりんごを見ると、ほしくなるよう
なりんごでした。
まいました。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
いました。
おきさきは、お城につくと、また鏡の前へいってい
ないようにと、もう一度注意しました。
くするように、そして、だれにもとびらをあけてやら
きかせました。それをきくと、こびとたちは、用心深
と、白雪姫は、気がつき、きょうのできごとを話して
毒のくしを見つけました。そのくしをぬきとってやる
としたのだと思いました。そして、あちこちさがして、
すぐに、あのわるいおきさきが、また白雪姫を殺そう
白雪姫が床にたおれているのを見ると、こびとたちは
て、 七 人 の こ び と が う ち へ 帰 っ て き ま し た。 そ し て、
ところが、さいわいなことに、まもなく夕方になっ
おきさきはそういって、帰っていきました。
「さあ、いつまでも、そこで寝ててもらおう」
第2版
この国でいちばん美しいのはだれ?」
すると鏡が答えました。
「女王さま。
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
けれども、いくつもの山をこえた、
七人のこびとのところにいる
白雪姫は、
あなたより千倍も美しい!」
こ の こ と ば を き く と、 お き さ き は い か り の た め に、
からだをふるわせていいました。
「白雪姫は、なんとしても殺してやる。たとえ、わた
しの命にかけても!」
それからおきさきは、だれもはいってこない、秘密
のさびしい小部屋へはいって、強い強い毒のりんごを
つくりました。外から見ると、それは赤くて、きれい
なりんごで、だれでもそのりんごを見ると、ほしくな
るようなりんごでした。けれども、ひときれでもそれ
20
21
…………………………………………………
初版
初版
…………………………………………………
第2版
それから女王は、秘密の部屋へはいっていき、だれ
白雪姫
それから、女王は、お百姓の女に変装して、こびと
の家の前へいき、とびらをたたきました。
白雪姫は、顔をだしていいました。
「わたしは、だれもいれてあげられないの。こびとた
ちにきつく禁じられているもので」
「そうかい。ほしくなけりゃ」と、お百姓の女はいい
ました。
「無理強いはしないよ。ただ、りんごをぜんぶかたづ
けてしまいたくてね。ほれ、ひとつためしに、おまえ
さんにあげるよ」
「いいえ、いりません。わたしは、なにをもらっても
いけないの。こびとたちが、もらってはいけないって」
「おまえさんは、きっとこわがってるんだね。それなら、
わたしが、りんごをふたつに切って、半分を食べよう。
このきれいな赤いほうを、おまえさんにあげるよ」
ところが、このりんごは、とてもじょうずにできてい
て、赤いほうにだけ毒がはいっていたのです。白雪姫
は、お百姓のおばさんが、自分でもりんごを半分食べ
る の を 見 て、 ど う し て も 食 べ て み た い と 思 い ま し た。
それでとうとう、のこりの半分を窓からわたしてもら
い、がぶりとかじりました。ところが、ひとくち食べ
ると、床にたおれて死んでしまいました。
女王はよろこんでお城へ帰り、鏡にたずねました。
を食べようものなら、たちまち死んでしまうのです。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
そして、お城へ帰り、鏡にたずねました。
いぞ」
「こんどこそ、だれにもおまえを起こすことはできな
これを見ると、おきさきがいいました。
ち食べると、床にたおれて死んでしまいました。
ばして、りんごをうけとりました。ところが、ひとく
べるのを見ると、もうがまんできなくなって、手をの
した。そして、お百姓のおばさんが、りんごを半分食
は、この美しいりんごを見て、食べてみたいと思いま
て、赤いほうにだけ毒がはいっていたのです。白雪姫
ところが、このりんごは、とてもじょうずにできてい
の女がいいました。
わたしが白いほうを食べるから」と、年とったお百姓
こわがってるんだね。あんたはこの赤いほうをお食べ。
「おや、あんたは、きっと、毒でもありゃしないかと
「わたしは、なにをもらってもいけないの」
「いいえ、いりません」と、白雪姫は答えました。
てしまいたくてね。ほれ、ひとつ、あんたにあげるよ」
「それでいいんだよ。ただ、りんごをぜんぶかたづけ
ました。
「そうかい。ほしくなけりゃ」と、お百姓の女は答え
ちに禁じられているもので」
「わたしは、だれもいれてあげられないの。こびとた
白雪姫は、窓から顔をだしていいました。
家へいき、とびらをたたきました。
お百姓の女に変装して、七つの山をこえて、こびとの
りんごができあがると、おきさきは、顔に色をぬり、
第2版
この国でいちばん美しいのはだれ?」
22
23
初版
初版
…………………………………………………
…………………………………………………
第2版
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ?」
白雪姫
すると、鏡が答えました。
「女王さま、
この国でいちばん美しいかたは、あなたです」
「これで、おちついた」と、女王はいいました。
「 わ た し が、 ま た こ の 国 で い ち ば ん 美 し い 女 に な っ た
んなら、白雪姫は、こんどこそ生き返らないだろう」
こびとたちが、夕方になって、鉱山からうちへ帰っ
てみると、かわいい白雪姫が、床にたおれて死んでい
ました。こびとたちは、白雪姫のひもをゆるめてみた
り、 髪 の 毛 に な に か 毒 の も の が さ さ っ て い な い か と、
見 て み ま し た。 け れ ど も、 な ん の 役 に も た ち ま せ ん。
こびとたちは、白雪姫を生き返らせることはできませ
んでした。
こびとたちは、白雪姫をたんかに乗せて、七人がみ
んな、そのたんかにすがって、三日間というもの泣き
に泣きました。それから、こびとたちは、白雪姫を土
に埋めようと思いました。けれども、白雪姫は、まだ
生きいきとしていて、ぜんぜん死人のようには見えな
いし、それに、あいかわらず美しい赤いほおをしてい
ました。
それで、こびとたちは、ガラスのひつぎをつくらせ、
白雪姫をそのなかにいれて、外から白雪姫を見ること
ができるようにし、また、その上に金文字で、名前と
その生い立ちを書きつけました。そして、だれかひと
りが毎日家にのこって、見はり番をすることにしまし
た。
かによこたわっていました。それでも、ちっともくさ
らず、いつまでたっても雪のように白く、血のように
すると鏡が、やっとこう答えました。
鳩がきました。
ふくろうがきました。それからからすがきて、最後に
やってきて、白雪姫のために泣きました。まず最初に、
こって、見はり番をすることにしました。動物たちも
の上にかつぎあげて、だれかひとりがいつもそこにの
あることを書きつけました。それから、ひつぎを、山
にいれて、その上に金文字で、名前と、それが王女で
うに、ガラスのひつぎをつくらせ、白雪姫をそのなか
こびとたちは、外から白雪姫を見ることができるよ
できない」
「この人を、あの黒い土のなかに埋めることはとても
おは、まだ美しく赤いので、こびとたちはいいました。
で生きている人間のように、生きいきとしていて、ほ
白雪姫を土に埋めようと思いました。けれども、まる
う も の 泣 き つ づ け ま し た。 そ れ か ら、 こ び と た ち は、
んな、そのたんかにすがって泣きました。三日間とい
こびとたちは、白雪姫をたんかに乗せて、七人がみ
せんでした。
せん。かわいい白雪姫は、死んでしまい、生き返りま
で洗ってもみました。けれども、なんの役にもたちま
の毛もくしけずってみました。からだを水とワインと
みました。コルセットのひももゆるめてみました。髪
をだきあげて、なにか毒のものがないかと、さがして
していません。死んでいます。こびとたちは、白雪姫
白雪姫が床にたおれていました。もう、すこしも息を
夕 方 に な っ て、 こ び と た ち が う ち へ 帰 っ て み る と、
した。なんとか一応は、おさまったのです。
これで、おきさきのねたみ心は、やっとおさまりま
この国でいちばん美しいのは、あなたです」
「女王さま。
第2版
さて、白雪姫はそうやって、長い長いあいだ、ひつ
ぎのなかによこたわっていました。それでも、ちっと
もくさらず、まるで、生きてねむっているように見え
24
25
初版
初版
…………………………………………………
…………………………………………………
第2版
白雪姫はそうやって、長い長いあいだ、ひつぎのな
白雪姫
赤く、そして、もし目をあけることができたなら、そ
の目は黒檀のように黒かったことでしょう。なぜなら、
白雪姫は、まるでねむっているようによこたわってい
たからです。
あ る と き、 ひ と り の わ か い プ リ ン ス が、 こ び と の
小 屋 へ や っ て き て、 泊 め て も ら お う と し ま し た。 そ
して、プリンスが部屋へはいって見ると、白雪姫がガ
ラスのひつぎのなかによこたわっており、七つの小さ
なあかりが白雪姫をきれいに照らしていました。する
と、プリンスは、美しい白雪姫をいくら見ていても見
あきませんでした。そして、金文字で書かれた名前を
読み、それが王女であるとわかりました。それで、プ
リンスは、こびとたちに、死んだ白雪姫がはいってい
るひつぎを売ってくれないか、とたのみました。けれ
ども、こびとたちは、どんなにお金をくれても売りた
くありません、といいました。
すると、プリンスは、こびとたちにこうたのみまし
た。白雪姫をぼくに贈り物にしてくれないか。ぼくは、
白雪姫を見ないでは、もう生きていかれない。そして、
白雪姫を、この世でぼくの最愛のものとして、たいせ
つにし、あがめます。
ました。いつまでたっても雪のように白く、血のよう
に赤く、黒檀のように黒い髪をしていました。
た。そして、白雪姫は生き返り、身を起こしました。
た、毒のりんごのひときれが、のどからとびだしまし
き ま し た。 そ の ひ ょ う し に、 白 雪 姫 が 飲 み こ ん で い
す る と、 召 使 い た ち が、 や ぶ に 足 を と ら れ て よ ろ め
した。
いたちのかたに、ひつぎをかつがせて、歩きはじめま
情して、ひつぎをくれました。それで、王子は、召使
王子がそういうと、やさしいこびとたちは王子に同
たいせつにします」
ぼくは、白雪姫を、ぼくの最愛のものとして、あがめ、
ぼくは、白雪姫を見ないでは、もう生きていかれない。
「それでは、ひつぎをぼくに贈り物にしてくれないか。
すると、王子がいいました。
けにはいきません」
「世の中のあらゆる金をくれたって、これをあげるわ
けれども、こびとたちは答えました。
たたちがほしいものは、なんでもあげるから」
「このひつぎをぼくにくれないか。そのかわり、あん
とを読みました。そして、こびとたちにいいました。
ている白雪姫を見て、金文字でそこに書かれているこ
した。王子は、山の上にあるひつぎと、そのなかに寝
ひと晩泊めてもらうため、こびとの小屋へやってきま
あるとき、ひとりの王子が、森のなかへまよいこみ、
第2版
第2版
それで、こびとたちは同情して、プリンスにひつぎ
をくれました。プリンスは、ひつぎを自分の城へかつ
いでいかせました。
そして、そのひつぎを自分の部屋に置かせ、一日じゅ
うそのわきにすわって、目をはなすことができません
でした。でかけなければならなくて、白雪姫を見るこ
とができないと、プリンスは悲しくなってしまいまし
た。そして、ひつぎがそばにないと、ひとくちも食べ
ることができませんでした。
らない召使いたちは、腹をたてていました。そしてあ
るとき、ひとりがひつぎをあけ、白雪姫を持ちあげて
いいました。
初版
初版
…………………………………………………
…………………………………………………
26
27
ところが、いつもひつぎをかつぎまわらなければな
白雪姫
「こんな死んだむすめのおかげで、おれたちは一日じゅ
うこき使われるんだ」
そして、白雪姫のせなかをにぎりこぶしでなぐりまし
た。すると、白雪姫が飲みこんでいた、おそろしいり
んごのひときれが、のどからとびだして、白雪姫は生
き返りました。
それで、白雪姫は、プリンスのところへいきました。
プリンスは、愛する白雪姫が生き返ったので、うれし
くて、どうしたらいいのかわかりませんでした。ふた
りは、いっしょに食卓にすわって、楽しく食事をしま
した。
つぎの日、結婚式がおこなわれました。
そして、白雪姫のわるい母親も、招待されました。そ
の朝、女王は鏡の前に立っていいました。
「鏡よ鏡、かべの鏡。
この国でいちばん美しい女はだれ!」
すると、鏡が答えました。
「女王さま、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
けれども、わかい女王は、
あなたより千倍も美しい!」
広 間 へ は い っ て み る と、 わ か い 女 王 と は、 あ の 白
そのわかい女王を見たいと思いました。
なかったのですが、ねたみ心にかられて、どうしても、
りました。ほんとうは、結婚式なんかには、いきたく
と て も と て も 心 配 で、 口 で は い え な い ほ ど 不 安 に な
わ る い お き さ き は こ れ を き く と、 ぎ ょ う て ん し て、
あなたより千倍も美しい!」
けれども、わかい女王は、
ここでいちばん美しいのは、あなたです。
「女王さま。
すると、鏡が答えました。
この国でいちばん美しいのはだれ?」
「鏡よ鏡、かべの鏡。
へいっていいました。
ました。おきさきは、美しいドレスを着ると、鏡の前
結婚式のお祝いには、白雪姫のまま母も、招待され
結婚式が、きらびやかに、盛大に準備されました。
白雪姫も王子のことが気にいって、いっしょにいき、
妻になってくれ」
だ。いっしょに、父の城にきてくれ。そして、ぼくの
「ぼくは、世界じゅうのなによりもきみのことがすき
た。
そして、白雪姫にこれまでのことを話してきかせまし
「きみは、ぼくのそばにいるんだよ」
けれども、王子は、大よろこびしていいました。
「まあ、たいへん、わたしどこにいるのかしら」
白雪姫はいいました。
第2版
第2版
女王はこれをきくと、ぎょうてんして、とてもとて
も心配で、口ではいえないほど不安になりました。け
れども、ねたみ心にかられて、どうしても、結婚式で
…………………………………………………
初版
初版
…………………………………………………
28
29
そのわかい女王を見たいと思いました。
いってみると、わかい女王とは、あの白雪姫だとい
白雪姫
うことがわかりました。そこでは、鉄の上履きが、火
のなかでまっかになっていました。女王は、その上履
きを履かされ、それを履いておどらされました。女王
の足は、ひどくやけどをしましたが、たおれて死ぬま
で、ダンスをやめることは、ゆるされませんでした。
ハッセンプフルーク家とズィーベルト
C O L U M N
雪 姫 に ほ か な ら な い こ と が わ か り、 お ど ろ き の あ ま
り、動けなくなってしまいました。けれども、そのと
きにはすでに、鉄の上履きが炭火の上におかれていて、
それがまっかになると、広間に運びこまれました。そ
して、わるいおきさきは、まっかに焼けた上履きを履
かされ、それを履いておどらされました。おきさきの
足は、ひどくやけどをしましたが、たおれて死ぬまで、
白雪姫が生き返る場面です。この場面
ズィーベルトによるのは、結末部の
ナ ン ト・ ズ ィ ー ベ ル ト( 一 七 九 一 ―
一八四七)の話が合成されたものです。
ヴァルム地方トライザのフェルディ
ク 家 の お そ ら く マ リ ー の 話 と、 シ ュ
初版のテクストは、ハッセンプフルー
うに黒かったことでしょう」とありま
ことができたなら、その目は黒檀のよ
わ っ て い る 場 面 に、
「もし目をあける
す。 ガ ラ ス の 棺 に 長 い あ い だ よ こ た
とわかるのは、結末近くなってからで
何が黒いのかわかりません。黒い目だ
る と、 プ リ ン ス は 嬉 し く て、 ど う し
の 背 中 を な ぐ り ま す。 白 雪 姫 が 生 き 返
ばならない召使いが腹をたて、白雪姫
ンスのために棺をかつぎまわらなけれ
ズィーベルトによる初版では、プリ
が異なります。
版に共通していますが、そのきっかけ
し て 白 雪 姫 が 生 き 返 る の は、 初 版 と 二
ように黒かったので」といわれますが、 りんごのひときれがのどからとびだ
している、王子のキスで生き返るもの
す。しかし、これには無理があるとグ
とは全く趣が違います。怒る召使いと
は、第二版を準備する際に、ハインリ
簡潔な初版のテクストに手が入れら
プリンスの人間らしい姿が語られてい
たらいいのかわからず、白雪姫と楽し
れ、二版で膨らむ傾向はここでも認め
て、おもしろいと思います。
リムも思ったのでしょう。二版からは
られます。その際、登場人物の行為の
ヒ・レーオポルト・シュタインが提供
理 由 が 説 明 さ れ る よ う に な り ま す。 た
ついだ召使いたちがやぶに足をとられ
シュタインによる二版では、棺をか
く食事をします。これは、一般に普及
とえば、白雪姫がこびとたちのものを
発端部で「黒檀のように黒い髪をして
は実母ですが、二版から継母になりま
白雪姫を殺そうとするのは、初版で
順 に 飲 み 食 い す る 場 面 に は、
「ひとつ
て よ ろ め き、 白 雪 姫 は 生 き 返 り ま す。
した話によって変更されました。です
す。そして、この継母の悪さが強調さ
の お さ ら か ら だ け と っ て、 そ れ を か
す。そして、この生き返り方が二版以
王子は大喜びして、白雪姫に求婚しま
いたので」と変えています。
れるような加筆もなされています。た
らっぽにしてしまいたくなかったか
きな違いは、白雪姫の生き返り方とい
と え ば、 継 母 は 白 雪 姫 を 殺 し た と き、
ら」
、こびとたちが闖入者に気づく場
うことになります。
ひものときは「この美人もこれでおわ
面 に は、
「 小 屋 の な か の よ う す が、 朝
降もずっと保たれます。
りさ」
、りんごのときは「こんどこそ、
か ら、 初 版 と 二 版 の テ ク ス ト の 最 も 大
という文が挿入されています。
でていったときとちがっていたから」
ダンスをやめることは、ゆるされませんでした。
いぞ」という捨てぜりふを吐きます。
初版
ク家とズィーベルト」となっています。 初版の白雪姫は、発端部で「黒檀の
グリムのメモは「ハッセンプフルー
第2版
だれにもおまえを起こすことはできな
C O L U M N
30
31
…………………………………………………