乳幼児の対人コミュニケーション 行動アセスメントの実際

乳幼児の対人コミュニケーション
行動アセスメントの実際
国立精神・神経センター 精神保健研究所
児童・思春期精神保健部
稲田 尚子
Q1. 3歳までの自閉症スペクトラムの子どもの
特徴には、どんなものがありますか?
・自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorders: ASD)
に独特な行動がみられることがある
・通常1歳6か月頃までに出現する対人コミュニケーション
行動があまりみられない
・その他(多動・不器用・感覚過敏/鈍感・不安、など)
Q2. 3歳までのASDの子どもに独特な
行動には、どんなものがありますか?
人の身体を物のように扱う要求行動(クレーン)
オウム返し(エコラリア)
指をひらひらさせるなどの手指の常同行動
耳をふさぐ
宙を凝視する
同じ遊びを繰り返してひろがらない など
*ASD児全員でみられるわけではない
Q3. 3歳までのASDの子どもには、あまりみられな
い、通常1歳6か月頃までに出現する対人コミュニケ
ーション行動には、どんなものがありますか?
アイコンタクト、呼名反応、要求の指さし、
興味の指さし、興味あるものをもってきて見せる、
喜びを共有するために笑顔を人に向ける、
指さし追従、視線追従、動作模倣、音声模倣、
人に対する発声、身ぶり、
ふり遊び
*3歳までのASDでは、これらの行動があまりみられない
Q4. 3歳までの子どもの対人コミュニケーション行動の
アセスメントは、どうしたらいいですか?
親に対して:
発達経過や日常生活(家庭や地域)での様子を
面接で聴き取りする
子どもに対して:
直接行動観察する
Q5. 3歳までの子どもの対人コミュニケーション行動の
直接行動観察は、どうすればいいですか?
対人コミュニケーション行動を最大限に引き出す場面を
設定
場面設定が必要な理由は、
・たまたま機会がなく、していなかったのか、
・もともとその行動がない/少ないのか、
のいずれかを判断するため
Q6. 対人コミュニケーション行動を引き出すための
条件には、どのようなものがありますか?
遊びの中で、最もふさわしい場面を設定し、
日ごろなじんでいるオモチャの種類を選び、
検査者が一定のやり方で関わる必要がある
Q7. 興味の指さし、興味があるものを見せる、という
行動は、どうやって引き出すのですか?
・自由遊び場面を設定
・子どもの年齢にあわせた、興味を持ちそうな
オモチャを複数用意
絵本・車・積木・ボール・人形・皿・コップ・フォーク・
押すと音が鳴る/リモコンで動くオモチャなど
・オモチャを子どもの周りにおいて、自由に遊ばせたり、
大人がリモコンでオモチャを動かしたりして、その間の
子どもの行動をみる
Q8. 要求の指さしは、どうやって引き出す
のですか?
・おやつ場面を設定
・お菓子、飲み物を各2種類用意
・①子どもに2種類のお菓子を食べさせます
②子どもにお菓子を2つ見せて、
「クッキーとクラッカーどっちが欲しい?」(例)と
たずね、要求の指さしをするかどうかをみる
*食物アレルギー等がないか事前に確認する
Q9. 喜びを共有するために笑顔を検査者に向けると
いう行動は、どうやって引き出すのですか?
・子どもが喜ぶ人とのやりとり遊び場面を設定
・毛布、風船、シャボン玉などを用意
・イナイイナイバー、くすぐり遊び、抱っこしてぐるぐる回す、
シャボン玉、風船をとばす、などの遊びをして、
子どもが笑顔を検査者に向けてくるかどうかをみる
Q10. 指さし/視線追従は、どうやって引き出す
のですか?
・子どもが興味を持つオモチャを用意
・①子どもの後方向にオモチャを置く
②子どもと向かい合って座り、目をあわせる
③「あっ!」とオモチャを見ながら指さす(指さし)
④「あっ!」と言いながらオモチャを見る(視線)
子どもが指さし/視線を追従するかどうかをみる
Q12. 模倣はどうやって引き出すのですか?
・検査者に注意を向けやすい場面を設定
・車や飛行機、動物、電話機、コップのミニチュアを用意
・子どもと机をはさんで座り、
①車を「ブーンブーン」と言いながら動かして、子どもに車を渡す
②コップを「ゴクゴク」と音を立てて飲むふりをして、子どもに
コップを渡す
③拍手する、など
子どもがモノの操作・身ぶり・音声を模倣するかどうかをみる
Q11. ふり遊びは、どうやって引き出すのですか?
・おやつパーティの場面を設定
・人形やぬいぐるみ、食べ物のミニチュア、お皿、コップ、
ティーポット、フォーク、ナイフなどを用意
・子どもの周りにオモチャを置いて、ごっこ遊びを
始めたり、続けたりするかどうかをみる
*検査者が、人形に食べ物を食べさせたり、コップ
で飲みものを飲ませたりして、子どもがその動作
を模倣するかどうかをみることもできる
直接行動観察の結果をまとめる
直接行動観察の場面全体を通して、
・通常1歳6か月頃までに出現する
対人コミュニケーション行動
・ ASDに独特な行動
・その他の特徴
がどの程度みられたかどうかを評価する
ケースの見立てのために
・場面を設定しての子どもの直接行動観察
・子どもの発達検査の結果
(新版K式、田中ビネー、遠城寺発達検査など)
・親面接での聞き取り結果
の結果を総合して、見立てを行う
支援のために
多職種チームで、子どもの発達の特徴を考慮した支援の
方針を立てる
・親のニーズを把握し、それに応える
・発達の特徴を親に伝え、子どもの理解を促す
・対人コミュニケーション行動を伸ばす遊びや場面を提供する
・現在芽生えつつある行動を、定着させる行動目標にする
・こだわりを軽減させるために人や環境を調整する
・児の興味を活かして、行動や遊びのバリエーションを広げる
・苦手なもの(感覚面など)を回避する など
*地域の社会資源を活用しながら継続的に支援していく
アセスメントの結果を踏まえた子どもの
見立てと方針
ケース1 (2歳2か月 女児)
ケース2 (2歳2か月 男児)
ケース3 (2歳1か月 男児)
まとめ
・ 対人コミュニケーション行動を引き出すような場面を
工夫をすることで、遊びながら、子どもの対人コミュニ
ケーション行動を直接アセスメントできる
・ ASDが疑われる子どもに対して、対人コミュニケーション
行動をアセスメントすることで、診断に関わらず、その
子どもの養育に有益な情報を得ることができる
・ 子どもの診断も含めた状態像の見立てには、通常の
発達検査も行い、多職種チームで総合的に判断する
子どもの得意な面、不得意な面を把握する
・ アセスメントは、1度きりでなく、定期的に行う