〈第54回静岡県学生科学賞 3 1 県教育長賞〉 クモを食べるクモの研究Ⅲ 動機 「ファーブル昆虫記」を読んだのがきっかけでクモが好きになり、小学校3年から研究に取り 組んだ。小学校6年からは、巣に居候して餌を横取りしたり、クモ自身を補食したりするクモの 存在に興味を持ち、「クモを食べるクモの研究」をテーマとして3年間継続して行った。 2 3年間の研究の内容と成果 (1) 研究対象としたクモ6種類 ア クモを襲う3種類のクモ・・センショウグモ、ヤリグモ、オナガグモ イ 居候する3種類のクモ・・・シロカネイソウロウグモ、チリイソウロウグモ、クロマルイ ソウロウグモ (2) 1年目(小学校6年)の研究内容と分かったこと ア センショウグモ、ヤリグモ、オナガグモの獲物(クモ)の捕らえ方 ① センショウグモは、獲物とするクモ(ヒメグモ)の網に侵入し、ハエトリグモのように 飛びつき、噛みついて食べる。 ② ヤリグモは、獲物とするクモ(コシロカネグモ)の網に侵入し、おしりから出す糸で巻 いてコシロカネグモを捕らえる。 ③ オナガグモは、自分が張った糸を歩いてきたクモ(コシロカネグモ)に、おしりから出 した糸で丸めて噛みつく。 イ シロカネイソウロウグモ、チリイソウロウグモ、クロマルイソウロウグモの特徴と、餌盗 みの様子 ① シロカネイソウロウグモが居候する相手(網主)は、ジョロウグモが多いが、クサグモ、 ヒメグモでも居候して餌を横取りする。 ② シロカネイソウロウグモの餌盗みについては、以下の2つの方法を観察できた。 a 網主であるジョロウグモが、別の餌を捕らえに行っている間に最初に食べてい た餌を盗んでしまう。 b 網主が捕らえて糸で巻き、放置してある餌を盗んでしまう。 ③ チリイソウロウグモは、網主の網を利用して獲物を捕らえる様子はなく、餌盗みをして いる可能性が高いと考える。 ④ クロマルイソウロウグモは、ヒメグモの網に居候し、長時間待って相手を油断させ、す きをついて襲うものと考える。 (3) 2年目(中学1年)の研究内容と分かったこと ア クモを襲うクモ(センショウグモとヤリグモ)が、獲物を見つける条件として、「獲物の 大きさ」、「網の形や大きさ」との関係 ① 獲物としてチュウガタシロカネグモで実験したところ、獲物が大きすぎても小さすぎて もよくなくて、ちょうど良い大きさがあることが分かった。 ② ヒメグモとクサグモの網主を入れ替えると、センショウグモとヤリグモのどちらもヒメ グモを襲った。このことから、網の形よりも獲物の種類を見て襲っていると推測できた。 -9- ③ イ コシロカネグモにより、網の大きさを変えて実験したところ、網の大きさに関係ないこ とが明らかになった。 居候するクモが、居候主(網主)を見つける条件として、「網や網主の大きさ」、「網主 がいない網」との関係 ① ジョロウグモの場合、網と網主の大きさは比例している。網主の大きさが大きいほど、 シロカネイソウロウグモの数も多いと言うことが分かった。 ② シロカネイソウロウグモは、網主がいなくなるとどこかへ移動する。しかし、餌を補給 してやれば長い日数(実験では 13 日間)同じ網に居候することが分かった。 ヤリグモが、獲物を選ぶ条件として、「クモの性格や攻撃性」との関係 ウ ① 徘徊性で攻撃性の強いクモ(マミジロハエトリ、ウヅキコモリグモ、ササグモ)は、反 対に攻撃される場合もあった。 ② 造網性で攻撃性の弱いクモ(ジョロウグモ、チュウガタシロカネグモ、ウロコアシナガ グモ)は、すべて攻撃した。相手を選んでいることが分かった。 (4) 3年目(中学2年)の研究内容と分かったこと ア イ イソウロウグモ3種類の出現記録(以下の「今年度の研究の実際」で詳しく記述) チリイソウロウグモが網を選ぶ条件 ① 居候をする相手(網主)の「糸」を見分けているかどうかについては、はっきりとした 結果は得られなかった。 ② チリイソウロウグモは、移動していろいろなクモの網に入って仮住居を作って様子を伺 い、目的とする網主を見つけるまで移動していることを発見することができた。 チリイソウロウグモの捕食行動 網主であるクサグモが他の餌を捕りに行っている間に、網主が食べていた餌を盗んでいた。 ウ 網主の消化液で消化の進んだ餌を食べることによって効率よく栄養分を吸収し、大きな体を 維持しているのではないかと考えられる。 エ 3 センショウグモの捕食行動 獲物の位置を確認するための「ジャーキング」をしながら相手に近づき、瞬間的な動きで 噛みついて捕らえて食べることが分かった。 今年度の研究の実際・・・・・「イソウロウグモ3種類の出現記録」について (1) 調査のねらい 昨年(中学1年)、シロカネイソウロウグモの居候数と網主(ホスト)の体長(サイズ)の 関係、クロマルイソウロウグモの数とホストの世代との関係について調査したが、正確な結果 を得ることができなかった。そこで調査期間を長く、調査場所も増やし、より正確な結果を得 ることをねらいとした。 (2) 調査の方法 ア 調査回数・・平成22年5月 25 日~8月 16 日の期間に、30回調査 イ 調査場所・・浜松市天竜区緑恵台の住宅地周辺(約30年前に開発し、分譲される) ① ポイントA(山頂ポイント、日当たり:最良、自然:植物の垣根) ② ポイントB(自宅周辺ポイント、日当たり:普通~良、自然:垣根・樹木・金網の物置) ③ ポイントC(児童公園ポイント、日当たり:普通~悪、自然:樹木・シダ植物) ウ 調査内容 ① 発見したイソウロウグモ3種類についての性別と体長(サイズ) ② 網主(ホスト)の名前・性別・サイズ等 (3) 調査結果 - 10 - ア イソウロウグモ3種類の出現数の変化について イソウロウグモの出現数の変化 A シロカネイソウロウグモ B チリイソウロウグモ C クロマルイソウロウグモ 80 70 60 50 40 30 20 10 0 5/25~6/7 6/8~6/21 6/22~7/5 7/6~7/19 7/20~8/2 8/3~8/16(期日) グラフから、6月中旬の早い時期はチリイソウロウグモの数が多いが、8月になるとその 数は激減し、反対にシロカネイソウロウグモの数が増加していることが分かる。クロマルイ ソウロウグモの数には大きな変化は見られなかった。 イ 3種類のイソウロウグモの網主(ホスト)の種類について シロカネイソウロウグモ チリイソウロウグモ ホスト名 匹 割合 ジョロウグモ 73 83% クサグモ クサグモ 11 13 コクサグモ 4 4 ジョロウグモ その他 ホスト名 クロマルイソウロウグモ 匹 割合 ホスト名 匹 割合 64 85% ニホンヒメグモ 7 70% 9 12 クサグモ 2 20 2 3 コクサグモ 1 10 この結果から、イソウロウグモのホストは、数種類に限られていることが分かる。最も適 したホスト(適正ホスト)は、シロカネイソウロウグモはジョロウグモ、チリイソウロウグ モはクサグモ、クロマルイソウロウグモはニホンヒメグモであることが分かる。 ウ イソウロウグモと網主(ホスト)の体長(サイズ)の変化について 3回の観察記録をまとめて、3種類のイソウロウグモとそれぞれのホストのサイズの変化 をグラフに表した。 シロカネイソウロウグモのサイズは、7/14~7/19 の時期に急に小さくなり、再び右上 がりの山になっていることが分かる。これは、世代交代が行われたと考えられる。出現記録 を見ると、この時期から小さなシロカネイソウロウグモが一気に増加していることからもよ く分かる。一方、ホストのサイズは約8倍ある。ジョロウグモが大きく成長するこの時期に 合わせて世代交代をしているように思われる。 チリイソウロウグモと、そのホストは、共に右上がりのグラフになっている。クモのサイ ズが大きくなっていくからといって、その数も多くなっていくわけではない。出現数の変化 - 11 - のグラフからも分かるように、このクモは、日に日に大きく成長していくが、その個体数は それにともない減っていく。サイズは、シロカネイソウロウグモとは違って、ホストと同じ くらいの大きさにまで成長していくことが分かる。 チリイソウロウグモと網主(ホスト)のサイズ シロカネイソウロウグモと網主(ホスト)のサイズ シロカネイソウロウグモのサイズ(mm) 網主(ホスト)のサイズ(mm) チリイソウロウグモのサイズ(mm) 40 45 35 40 30 35 網主(ホスト)のサイズ(mm) 30 25 25 20 20 15 15 10 10 5 5 0 0 クロマルイソウロウグモは実に小さく、連 続して出現しているわけではなく、1頭も見 クロマルイソウロウグモと網主(ホスト)のサイズ クロマルイソウロウグモのサイズ(mm) 網主(ホスト)のサイズ(mm) られない時期もあった。また、シロカネイソ ウロウグモと同じようにホストとのサイズの 25 差が約7倍と大きく、サイズの変化も少ない ことが分かった。 20 15 4 10 5 おわりに 今年は、 「広い範囲での調査」をしたり、実 験や観察を何回も繰り返したりすることがで きた。また、チリイソウロウグモが網を選ぶ 条件について、糸の種類や餌・捕食行動に着 目した実験・観察を行った。 しかし、その他の居候グモ類、クモを食べ 0 るクモ類を含め、どのようにして網主(ホス ト)を探すかがまだ不明である。 「糸」という パーツだけでは、居候グモにとって網選びの手がかりに足らなかったのではないだろうか。そこ で、次の研究では、「網」という大きなパーツを使って、ホストを探す方法や、まだまだ解明で きていない部分や疑問に思う事柄を解明していきたい。 - 12 -
© Copyright 2024 Paperzz