情報提供資料 GSAM会長 2011年12月 ジム・オニールの視点 欧州の政策立案者たちは、楽しいクリスマスをプレゼントできるか? 今週もまた、世の中の投資家、政策立案者、そしてその他の人たちのムードを左右するトピックは、たったひと つのようです。それは、来週開催される欧州首脳会議ですが、そこでは再び欧州通貨同盟を取り巻く危機を解決 しようとする首脳たちの試みが展開されることでしょう。ますます改善の兆しを見せる米国経済や中国での金融 緩和の動きなど、世界の他の地域でも重要なことが起こりつつあるのですが、やはり欧州の混乱が注目の的であ ることに変わりはありません。来週の会議が成功すれば、世界中が良いムードで休暇シーズンに入ることでしょ う。もし失敗すれば、休暇どころではないという状況が待っています。 結果は明らかであると思われます。良い結果を想定することは難しくありません。ここ数週間お伝えしてきた通 り、またメディアのトーンも次第にそうなりつつあるように、どのような取り決めがなされるのか、今週末には 判明するのです。 メルケル首相は、財政統合推進へ これは、今週末のファイナンシャル・タイムズの見出しです。この土曜日の国際的なメディアには、同じような 記事が沢山掲載されています。金曜日に、ドイツの連邦議会でメルケル首相は、ここ2週間ほど言い続けてきた コメントを繰り返し、今やより強力な財政責任を負い、かつ実効性のある条約改正の必要性を確信していると表 明しました。 他の主要国も条約改正に賛成したという兆しもあります。フランスとドイツの間で今後の進め方 の詳細について大きな隔たりがあるとは言え、ドイツ、フランス、イタリアは大筋で合意しているようです。こ の3ヵ国で、欧州経済の70%を占める規模を持っていることを考えると、金曜日の首脳会談に向けて、このこと は好ましい展開と言えるでしょう。 また、私の見るところ、欧州中央銀行(ECB)は、欧州のすべての国がドイツの提示する計画を指示すれば、ECB も事態の改善に向けて自身の役割を果たす旨を明確にすると思えます。ドラギ総裁が「財政協定」に言及したこ とで、幸いにも、ECBが来週後半の欧州首脳会談でより深い関与をしていく可能性が高いことを示唆しています。 こちらも以前書いたことですが、過去18ヵ月間ドイツの首脳たちは、今回の欧州危機を、当初からつまり1990 年代の中盤から後半の欧州通貨同盟がスタートする以前から考えていたような、同盟のあるべき姿により近い体 制を打ち立てるチャンスだと考えてきたと思われます。もうひとつ私が思っていたのは、今回の危機がイタリア 1 を巻き込むことになれば、最悪の事態を招くということです。繰り返し申しますが、イタリアをはずした欧州通 貨同盟はあり得ません。さらに言えば、10年国債の利回りが7%を超える状態では、イタリアは生き残れません。 このように考えれば、事態は以前より悪化していますが、同時により興味深いものになってきたと言えます。も し、複雑な政策の動き、崩壊寸前の理論、一国の動きが他国のどういう動きを誘発するか等に通じた投資家がい れば、彼らにとって非常に大きな投資のチャンスが訪れることでしょう。 金曜日の首脳会談に先立って考えるべき主要課題は? この木曜日には、首脳会議に先立ってECBの会議が開かれます。先月の引下げに続くさらなる金利引下げ、窮地 に立つ欧州の銀行システムに対する流動性支援以外に、ECBが今後の政策意図について言及するとは思えません が、今後についての期待や希望をほのめかす可能性はあると思います。 首脳会議に関して言えば、ドイツの立場は極めて明確です。 メルケル首相は、たとえ条約改正を行わなければ ならないとしても、より緊密で強制力のある財政統合に関する合意を取り付かなければならないとしています。 そのための条約変更は、すべての加盟国の批准を要するのでそれだけでも大変な課題です。特にあまり巧みとは 言えないECBのフットワークでユーロを採用している17ヵ国だけでなく、通貨同盟に加盟する27ヵ国すべての批 准を得るのは至難の業です。また、27ヵ国には英国も入っていますから、その難しさは殊更です。首脳会議が成 功であったというためには、相当な時間がかかるにせよ、いずれは条約変更が必要であるというコミットメント の取り付けが求められます。主要参加国がすべてこの目標に同意すれば、会議は成功したと言えるでしょうし、 市場もこれを歓迎することでしょう。 この会議に先立ち、メルケル首相とフランスのサルコジ大統領が、両国間の未だに残っている主な立場の違いに ついて歩み寄るために、月曜日にパリで会談すると週末に報じられました。ドイツが、新たな権限を持った機関 を創設し、その機関に明解な独立の制裁権限を伴った予算監視権限を持たせるべきだとしているのに対し、スタ ンスをやや変えたとはいえ、フランスは未だに主要項目については、含みを持たせているのです。フランスが特 に狙っているのは、ユーロ採用の17ヵ国からのみの支持で足り、かつ欧州連合が能動的な決断の決定者にならな いような決着です。関係筋によれば、両首脳のこの会談については、記者会見は予定されていないようですが、 間違いなく、両者の立場にどのくらいの歩み寄りがあったかについては、明らかになると思われます。 事態収拾の後に起こることは? それでは、より強力で規律ある欧州通貨同盟についての合意がなされ、ECBに権限が与えられたとしたら、それ で欧州通貨同盟の危機は収まるのでしょうか。クリスマス休暇をゆっくりと過ごすことはできるでしょうが、も ちろん、根底に横たわっている問題は解決されたことにはなりません。今週、ロンドンで開かれた世界各国から 参加した公的機関に対して政策提言を行うアドバイザーの小会議に出席しました。参加者の中には、欧州の主要 国からの出席もありました。世界情勢についての話し合いは、結局は欧州の話題に集中することになりました。 多くの見解は、これまで述べたどんな問題でもなく、欧州通貨同盟に内在する競争力、あるいは競争力のなさに ついてのものでした。とりわけ、為替レートによる競争力の調整なしに、どうやってユーロ圏17ヵ国が恒久的な 通貨同盟に留まれるのかという意見が目立ちました。ある有名な方が繰り返したのは、結局は算術の問題だとい うことでした。多くの国々は、これまでに増してずっと強力な供給サイドの改革を行わなければならず、また、 2 多分議論があるところですが、ドイツやその他の北ヨーロッパの経済的に強い国は、富の移転をしなければなら ないというものです。これが行われないならば、欧州通貨同盟の存続は難しいだろうということでした。私は、 これに関して、そうした長期間をかけての富の移転を少しでも容易にするには、ドイツやその他の経済強国が、 2%ないしそれ未満という狭いECBのインフレターゲットの範囲内であっても、他国よりも若干高いインフレ率 を意図的に維持する努力を払う必要があるだろうと述べました。この点に関する将来の展望について、この会議 では、あまり楽観的な話し合いとはなりませんでした。 こうしたことを踏まえると、この他にも、より重要な中長期的課題があります。もし、金曜日の首脳会議での結 論が前向きなものにならなければ、それらはあまり意味のないものとなるでしょう。 スイスの教訓 木曜日から金曜日にかけて、24時間をチューリッヒで過ごしました。毎年12月に開催される当社(ここではゴー ルドマン・サックス・アセット・マネジメントのことを指します)の顧客会議に出席するためです。また、プラ イベート・バンキング資金の運用者としては世界最大手である大手顧客との会議では、大勢の方の前で、プレゼ ンテーションを行いました。私は、彼らからさまざまなことを聞き出したいと考えていましたが、特に聞きたかっ たのはスイスフランについての見解です。また、1980年代後半に、スイスの銀行で働いていた時分から付き合い のある友人にも幾人か会いました。 私が話をした2つのイベントでは、スイスフランについて、そして2012年の末に、どのレンジで取引されている かについて、聴衆に質問をしました。挙手をお願いしたのですが、まず、1番目に1ユーロに対して1.20 スイス フラン未満、つまり、8月来のスイス国立銀行(SNB)の政策は成功せず新たにフラン高の局面が来るという見 方、そして2番目に、1ユーロに対して1.30 スイスフラン超、つまり政策は成功という見方でした。どちらのイ ベントにおいても、1.20未満とする見方は、わずかでした。実際に手を上げたのは、1人だけです。当社のイベ ントでは、約4分の1が1.30超に手を上げました。大手顧客との会議では、約3分の1でした。この結果から言える のは、どちらのイベントにおいても、過半数は1.20から1.30のレンジに留まると見ているということでした。 (あ まり手が挙らなかったので、「皆さんあまりこの話題にご興味がないか、眠ってしまったのですね」と冗談を言 いました。) また、出席者の方々と個人的にも話をしました。そこからの印象では、スイス国立銀行は、欧州通貨同盟の首脳 会議が成功となれば、スイスフランのセーフ・ヘブン(資金の安全な避難場所)としての位置づけが後退して、 自然にフラン安が進行することを期待しているようです。もし、会議の結果が思わしくない、あるいは市場要因 でフラン安に進まなければ、SNBが具体的なアクションを取る可能性が高まりそうです。結局のところは、特に 政策立案者がそのスタンスを強く、明確にする時、本当のセーフ・ヘブンなどというものは存在しないのだとい う確信をそれ以前にも増して強くしました。そして今は、よりスイスフラン安が進むと見ています。 ドイツ政府、欧州連合、ECBそしてフランス政府にとって、もう1つ重要な点があります。それは、スイス当局 が、8月以来、資金をほとんど使わずに、成功を収めてきたように思えることです。スイス当局の意思表明が非 常に明解であり、決意が明確であったこと、また特に、「制限なく」という言葉を使ったことで、これまで非常 に大きな成果を収めているのです。もちろん、この成功が必ず続くという保証はなく、取らぬたぬきの皮算用を 3 するべきではありませんが、重要な教訓であることは明らかです。 米国ではさらに良い兆候 金曜日の米国の雇用統計は、市場予想に近いものでしたが、驚きだったのは失業率が8.6%へと大きく減少したこ とでした。多くの解説者は、これはまぐれであり詳しく見れば、これは求職活動を止めてしまった人の数が多かっ たためであるとしています。少し前にお伝えした通り、確かにこの1年あまりの週次失業保険受給申請件数は、 従来の基準から見れば失業率対比低い水準であったようです。あるいは、今月の失業率の低下が(求職活動を止 めてしまった人の数が多かったための)労働力人口の減少によるものであったにせよ、以前ならこの失業率の水 準に対応した失業保険受給申請件数は、もっと高い数字だったかもしれません。 いずれにせよ、オバマ政権に とっては、これに先立って発表された指標、特に製造業 ISM(米供給管理協会)指数が市場予想を上回ったこと に続く喜ばしいニュースでした。多くの予測者の発言から、このところ米国経済の直近の見通しに関して悲観的 なトーンが消えつつあります。私は、2012年のコンセンサス予想については、集計をまとめるまでに、現在の水 準から2.5%に近いところまで引き上げられる必要が生ずる可能性が高いと引き続き見ています。 中国は金融緩和に動く 中国では、輸出の減速が話題に上り、あるいはそれを裏付けるデータが発表される中、購買担当者指数(PMI) が50を下回るなど、景気が減速する兆しが目立ち始めてきました。これらはすべて、経済の減速サイクルととも に、インフレが今後落着いて来ることを示しており、中国にとっては良いニュースと言えます。こうしたニュー スが出ると、金融引締めが終わり、銀行に対する預金準備率も間違いなく引き下げられるであろうという予測が 出てきます。中国関連の株式市場は、引き続きハードランディングの可能性を懸念して、最悪の事態を価格に織 り込んでいます。この懸念がないとは言えませんが、政策立案者たちが、一旦GDP成長が7%を下回るところま で経済が減速するという実質的な証拠を確認すれば、本格的な金融環境の緩和に着手するでしょう。 私には、中国と米国での全般的な展開が、非常に心強いものに思えます。そして、その上で今必要なのは、欧州 の首脳たちが、各国民に嬉しいクリスマスをプレゼントしたいと願っているという証拠を示すことでしょう。 私は、来週休暇となりますので、Viewpointもお休みです。ブリュッセルでの首脳会議の展開によっては、その翌 週早くに短い報告をお送りするかもしれません。12月17、18日の週には戻ってきますが、その週のViewpointが、 今年の最終号となると思います。 ジム・オニール ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長 (原文:12 月 4 日) 本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以 下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商 品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サッ 4 クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・ 部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。 本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、 英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの ではありません。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊 社がその正確性・完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作 成時点での執筆者の見解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに 変更する場合もあります。経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する 可能性があります。予測値等の達成を保証するものではありません。 本資料の一部または全部を、(I)複写、写真複写、あるいはその他いかなる手段において複製すること、(Ⅱ) 弊社の書面による許可なく再配布することを禁じます。 © Copyright 2011, Goldman Sachs. 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