レオロジーの誕生を支えたデボラ数

第 74 巻 第6号
(2001)
村岡 清繁
22)滝口栄二:日ゴム協誌,61, 327
(1988)
23)大原利一郎:日ゴム協誌,68, 587
(1995)
(2000)
24)Amino, N., Uchiyama, Y.: Tire Science&Technolgy, 28, 178
25)藤巻達雄,森田浩一:日ゴム協誌,71, 562
(1998)
26)海藤博幸:日ゴム協誌,71, 571
(1998)
27)Goritz, D., Raab, H., Frohlich, J., Maier, P.G.: Rubber Chem. Technol., 72, 929
(1999)
28)Mouri, H., Akutagawa, K.: 151st Meeting A. C. S. California,
1997
29)Mouri, H., Akutagawa, K.: 153rd Meeting A. C. S. Indeanapolis,
1998
30)Mouri, H., Akutagawa, K.: Rubber Chem.Technol., 72, 960
(1999)
(1997)
31)小林直一,古田 勲:日ゴム協誌,70, 147
32)小林直一:日ゴム協誌,72, 697
(1999)
33)二宮和彦,前川悦治:日ゴム協誌,39, 595(1966)
34)Wang, M. -J.: Rubber Chem.Technol., 72, 430
(1999)
35)Wang, M. -J., Lu, S. X., Mahmud, K.: 153rd Meeting A. C. S.
Indeanapolis, 1998
36)Wang, M. -J., Patterson, W. J., Ouyang, G. B.: Kautschus Gummi
(1998)
Kunststoffe, 51, 106
37)Gerspacher, M., O'Farrell, C. P., Nikiel, L., Yang, H. H.: Rubber
(1996)
Chem.Technol., 69, 786
38)芥川恵造,毛利 浩:日ゴム協誌,70, 204
(1997)
豆 知 識 ⑦
レオロジーの誕生を支えたデボラ数
ゆかない節がありました.我々は,流動体のみを対象にし
協会誌5月号の豆知識「訂正とお詫び」で,デボラ数の
て固体を無視すべきなのか?「Rheology」の対象には,
提唱の経緯について,提唱者のライナー教授が書かれた文
たとえそれが応力緩和やクリープを示すとしても,固体も
献が土岐会員から送られたことを述べました.その内容を
あるではないか.
見るとレオロジーの誕生と深い関わりがあり,興味深く感
この難題から脱け出す道は,既にヘラクリトスよりもさ
じられますのでここにその要点を豆知識として紹介しま
らに旧い女性預言者デボラによって示されていたのです.
す.以下の文中に「私」とあるのはライナー教授のことです.
彼女は謳いました「山々は主の前に揺れ動いた」
.
パレスチナでの私の仕事は土木技師で科学はいわば趣味
この一句からデボラは二つの事実を認識していることが
でした.1926 年に,ある化学者から管の中のプラスチッ
分かります.第一,万物が流動するように山々も流動する.
クの流動の解析について協力を求められ,後になって
第二,山々が流動するのは一生の短い人間の前ではなく,
Buckingham-Reiner の式と呼ばれる式を誘導しました.
無限の観測時間を持つ主の前である.そこで我々は,次の
この仕事が,E.C.ビンガム教授の目に止まり,私は,
ように無次元のデボラ数を定義できます.
Lafayette College に招かれ,教授の「Rheology」を誕生
D = 緩和時間 /
観測時間
させる仕事を手伝うことになりました.教授はまず云いま
固体と流動体の相違は,Dの値によって決められること
した.「土木技師の貴方と化学者の私が共同で研究を進め
になります.デボラ数を基本的なレオロジー指数とすれば,
ることになったわけだが,コロイド化学の進展とともにこ
固体と流動体に共通の概念をもたせることができ,しかも
のような共同体制がもっと広がってゆくと思う.そこで
ヘラクリトスの命題を観測時間が無限大という特別なケー
我々は,このような問題を取り扱う学問を物理の一分野
スとして認めることができるようになるわけです.
としてはっきりさせておかなければならない」.私は云い
ところでライナー教授の回想によれば,レオロジー学会
ま し た .「 そ れ は も う 出 来 て い ま す . 連 続 媒 体 の 力 学
発足の頃,「Rheology」という耳馴れならぬ目馴れぬ単語
(mechanics of continuous media),あるいは連続体の力
に出くわしたタイピスト嬢の多くは,これを「Theology
学と呼んでいます」
.「いや,それはまずいよ」と教授は答
(神学)」とミスタイプしてしまったそうです.教授が受け
えました.「そのような名前では化学者どもは逃げ出して
取る郵便物の宛先は何時も,イスラエル工科大学神学研究
しまうだろう」.
室(Theological Laboratory of the Israel Institute of
そこで彼は,古典言語学の教授に相談をもちかけ,
「Rheology」という名称に辿り着きました.これは,古代
ギリシャの哲人ヘラクリトスの命題“万物は流動する
(everything flows)
”のギリシャ語から来ています.
Technology)となっていたそうです.このミスがヒントと
なって Rheology と Theology を対比した結果,教授は旧約
聖書に登場するデボラを想起されたと思われます.
(古田 勲)
しかし,ヘラクリトスの“万物は流動する”にも納得が
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