ミシンによる上階からの騒音に対する差止請求が認められな かった事件

日本騒音調査/騒音関連裁判・判例
事件概要
ミシンによる上階からの騒音に対する差止請求が認められな
かった事件
事件分類
騒音差止等請求事件
判決日付
平成17年2月8日
主
文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は原告に対し,毎日午後8時から午後11時までは55デシベル以上,午後1
1時から翌日午前6時までの間は50デシベル以上の各音量の騒音を,原告の居室内に侵
入させてはならない。
2 被告は原告に対し,金300万円及び平成16年5月24日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告居住マンションの階下に居住する被告に対し,被告の出す騒音
により安眠を妨害されるなど精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づき慰謝料請求を
するとともに,人格権に基づき差止請求をした事案である。
1 原告の主張は,次のとおりである。
(1)原告は,平成3年11月23日から現在まで,原告の肩書き住所地のマンション
(以下,507号室という)を所有し,居住している。
被告は,原告と同時期に被告の肩書き住所地のマンション(以下,407号室と
いう)を所有し,居住している。
407号室及び507号室は,いずれも居住を目的とする分譲マンションである
○○○○の専有部分である。
(2)原告は,507号室に入居して約1年経過した頃から,被告の発生する騒音によ
り,安眠を妨害され,不快感や焦燥感にさいなまれるようになった。
被告が発生させる騒音は,午後10時または午後11時頃から翌日午前8時頃ま
で,ブーンブーンというモーター音や,カラカラと歯車が回るような音,あるいはドンと
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強い音など様々な音が断続的に繰り返されるというものであり,請求の趣旨記載の音量を
原告方(507号室)に侵入させている。
(3)平成8年頃から平成10年頃までは,被告が407号室を他人に貸したことから,
騒音は発生しなかったが,その後再び被告が407号室に居住するようになり,平成11
年頃から少しずつブーンブーンというモーター音が断続的に聞こえるようになり,平成1
3年頃からは平成8年以前と同様の騒音に悩まされるようになった。最近では,ダダダダ
というモーター音が四,五分続き,その後スイッチが切れて音が止み,また突然ダダダダ
というモーター音がして午前1時に目が覚め,その後うとうとしていると2時半に起こさ
れるという状態が続いている。原告の部屋の床に耳をあててみると,407号室で機械音
がしてその音が床に共鳴しているような状態である。
(4)被告は,ロックミシンと直線ミシン各1台を所有している。原告の調査によると,
ロックミシンは1分間に1500回転するものであるところ,1500回転するロックミ
シンの騒音レベルは,一般的には60デシベル以上あるということが分かっている。ただ
し,被告が所持するという株式会社Aのロックミシン(****)では原告主張の音は出
ない。原告主張の音を出すのは,被告の所有する足踏み式の直線ミシンであると思われる。
足踏み式といっても,クラッチモーターがついた足踏みであって,足で踏むとモーターが
回転し,作業時にロックミシンと同程度の動力音が発生する。
そのほか,縫い合わせた生地を叩くための音,その縫製に必要な道具類または機
械類を使用している可能性もあり,それが様々な音になっていると思われる。
(5)被告は,自分の行動を近隣に知られないよう部屋の明かりを消した上で,作業を
しているのであるから,騒音発生時に407号室の明かりがついていないからといって,
被告が何もしていない証拠にはならない。
また,被告は,平成5年6月28日から平成7年12月頃までの間は,他人に部
屋を貸していたというが,原告は,○○○○の管理人から,被告が被告の知り合いか,被
告の会社の人に貸していたと聞いており,被告が賃借人に,被告と同様の仕事を日常的に
させていたのではないかと考える。
(6)原告は,被告の騒音発生の不法行為により,長期間にわたって安眠を妨害され,
不快感や焦燥感にさいなまれてきた。原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料として30
0万円の支払いを求める。
また,人格権に基づき,前記第1請求の1記載の差止を求める。
2 被告は,そもそも被告において原告の主張するような音を発生させていないとして,
次のとおり主張する。
原告は,平成3年11月に507号室を購入後1年位してから騒音被害に遭うよう
になったと主張するが,被告は,平成3年9月に407号室を購入後,平成5年6月頃ま
での間,東京都目黒区にある被告の実家に居住し,407号室には1か月に2,3回程度
しか行っていなかった。そして,被告は,平成8年3月20日から平成9年8月22日ま
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での間,407号室を他人に貸していたほか,原告が騒音に悩まされていたという平成5
年6月28日から平成7年12月頃までの間も,被告とは面識のない他人に,不動産会社
の仲介で賃貸していたのであり,407号室を使用していなかった。
被告は,足踏み式の直線ミシンと電動ミシン(ロックミシン)を各1台所有してい
るが,これを使用するのは1年に多くても10回あるかないかの回数である。そして,被
告所有の足踏み式の直線ミシン(製造者B,型式××)には,そもそもモーターなどつい
ていない。
被告の職業は婦人服の販売店員であって,勤務時間は通常,開店の午前10時(遅
番のときは午前12時または午後1時)から午後9時または10時頃までであって,夜は
一般的,平均的な就寝時間を取っているのであり,深夜にわたり作業することはあり得な
い。
また,被告は被告の階下の住人及び隣接住戸の住人から苦情を受けたことはない。
被告は,原告がなぜこのような主張をするのか分からない。○○○○では,ドアの
開閉音などの生活音が問題となったこともあり,また,507号室,407号室の直下1
階の下に受水槽があり,給水ポンプのモーター2台が約15分ごとに交互に作動している
が,被告には,原告主張の騒音が何かは推測もできない。
3 争点
被告が,原告の居宅(507号室)に,原告主張の音を,原告主張の音量で侵入さ
せているかどうか。
第3 争点に対する判断
1 証拠(甲1,2,12,13)及び弁論の全趣旨によると,原告が,平成5年頃か
ら現在まで,平成8年頃から平成10年頃までの間を除き,モーター音やドンドンという
音等の騒音に悩まされ,管理組合の理事長やマンションの販売代理店の担当者に苦情を申
入れたり,解決方を依頼したり,東京都台東区役所の職員に相談したりと,これを解決す
べくその方法を模索したが,解決に至らなかったことを窺うことができる。
2 しかしながら,原告が騒音の発生源として主張する足踏み式の直線ミシン(製造者
B,型式××)について,被告は,そもそも同ミシンにはモーターがついていない旨主張
するところ,モーターがついていること及びモーターの音量が請求の趣旨記載の音量を超
えていることを認めるに足る証拠はない。
3 また,証拠(乙1の1・2)及び弁論の全趣旨によると,被告は,平成5年6月2
8日から平成7年12月頃まで,訴外Cに407号室を賃貸していたと認められるから,
少なくともこの間は,原告が悩まされているという騒音の発生源は,被告ではないと認定
できる。
そして,原告は,平成8年頃から平成10年頃までは騒音が止んでいたが,平成1
1年頃から少しずつブーンブーンというモーター音が断続的に聞こえるようになり,平成
13年頃からは平成8年以前と同様の騒音に悩まされるようになった旨主張し,その騒音
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は,被告の所有する足踏み式の直線ミシンのモーター音と,縫い合わせた生地を叩くため
の音,その縫製に必要な道具類または機械類を使用している可能性もあり,それが様々な
音になっていると思われる旨主張しているところ,訴外Cと被告とが,原告の主張すると
ころの同じ機械,器具を使用して,同様の時間帯に,同様の作業をしていたとは考えがた
い。
この点,原告は,被告が賃貸していたのは被告の知り合いか,被告の勤務先の社員
であると管理人から聞いたというが,被告は,訴外Cについて面識がないと主張するとこ
ろ,証拠(乙1の1・2)によると,同人との賃貸借契約はD株式会社の仲介によるもの
であること,更新時には同社に更新手数料を支払っていることからすると,同人が被告の
知人や勤務先の社員であるとは考えにくい。
4 以上からすると,被告が自認するとおり,足踏み式の直線ミシンと電動ミシン(ロ
ックミシン)を各1台所有しているとしても,これが原告が悩まされているという騒音の
発生源であると認めることはできず,その他,被告が,原告主張の音を,原告主張の音量
で,原告方に侵入させていると認めるに足る証拠はない。
東京地方裁判所民事第31部
裁判官
白 川 純 子
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