介護施設における介護記録活用の提案 - 岩手県立大学ソフトウェア情報

介護 施設 にお ける 介 護記 録活 用の 提案
Suggestion of the care record utilization in the nursing facility
ソ フ ト ウ ェ ア 設 計 学 講 座 (菅 原 Ⅰ 研 究 室 ) 0312011039 日 下 亜 紀
指導教員:植竹俊文 堀川三好 岡本東 竹野健夫 菅原光政
1. は じ め に
介護サービス業では,高齢者を対象に
日々の生活行動の支援を行っている.近年
の高齢化社会の影響により,介護サービス
利用人口は上昇し介護施設では 1 人の職員
が複数人を同時にケアすることが慣例とな
っている.そのような状況下では突発的な
アクシデントの発生も多く,利用者の変化
を素早く読み取る状況把握力と冷静な判断
力 が 必 要 不 可 欠 と さ れ て い る 1) .
本研究では,居宅型介護サービスの展開
を行う介護施設を対象に,施設利用者及び
職員の活動を管理するシステムの提案・構
築を行う.さらに,本システムを県内の居
宅型介護施設にて運用を行い,得られた知
見についてまとめる.これにより,施設内
の情報共有の促進及び職員の状況把握力の
向上につなげることを目的とする.
2. 介 護 施 設 に お け る 情 報 共 有
2.1 介 護 施 設 の 業 務 概 要
介護サービス業での介護業務は①介護症
状のアセスメント,②介護計画の作成,③
介護計画の実行,④介護記録の作成という
4 つのプロセスから成り立つ.しかし,近
年の高齢化の影響により業務が煩雑化し上
記のプロセスが成立せず,個別の症状に合
わせた介護サービスの提供が困難である.
限られた時間内に施設内の人員で確実な業
務遂行を行うためには,職員が施設全体の
業務の流れと施設利用者の生活を全て把握
し対象問題を限定することが必要である.
2.2 介 護 記 録 の 必 要 性
介護記録は,施設利用者個々人の生活の
履 歴 や 提 供 サ ー ビ ス の 内 容 を 記 す 2) . 介 護
記録の目的は「利用者の日々の状態の変化
を 見 て サ ー ビ ス に 反 映 さ せ る 」,「 介 護 が 適
切に行われているか点検する」等がある.
介護業務はサービスの提供と同時に結果が
発生するため,介護記録がサービス提供の
証明ともなる.そのため,担当者間の引き
継ぎや情報連携も可能となる.
3. 介 護 記 録 シ ス テ ム の 概 要
3.1 提 案 シ ス テ ム の 目 的
介護施設職員の情報共有の強化・状況把
握力の向上を目的とした「介護記録システ
ム」を提案する.提案システムでは,煩雑
化した業務の中で介護記録の作成が作業化
することを防ぐため,簡易的な入力を可能
とする.また,対象問題の限定のため膨大
な量の記録から重要項目を優先順位を付与
して提示を行う.
3.2 介 護 施 設 に お い て 扱 う 情 報
本システムでは,実際に施設で必要とさ
れるデータ及び使用されている用紙をもと
に入力項目を抽出する.介護施設において
必要とされる情報項目を以下の表に示す.
表 1
事
前
調
査
施
設
入
所
後
職
員
そ
の
他
介護施設で必要とされる情報項目
利用者基本情報
生活状況
要介護情報
利用者行動情報
医療情報
職員対処情報
外出情報
施設内連絡情報
氏 名 ,住 所 ,連 絡 先 ,意 向
職 歴 ,生 活 歴 ,居 住 環 境 等
要 介 護 度 , 介 助 レ ベ ル (排
泄 , 食 事 , 入 浴 , 歩 行 ),
行 動 障 害 , 病 歴 , ADL
行動内容,行動発生日時,
(発 生 時 状 況 )
バ イ タ ル ,病 歴 ,内 服 状 況 ,
主 治 医 ,受 診 内 容 ,受 診 結
果,対応策,新処方薬
対 応 者 名 , 対 処 日 時 , (対
処内容・対処方法)
外 出 日 時 ,帰 設 日 時 ,外 出
目的,同行者名
人員配置,施設内行事等
3.3 提 案 シ ス テ ム の 構 成
本システムは 4 つのメイン機能があり,
各機能の関係と使用場面での入出力情報は
以 下 の 概 念 図 (図 1)の よ う に な っ て い る .
各居室・介護現場
全利用者状況
介護
介護記録情報
端末
利用者
施設職員
バイタル情報
データベース
利用者状況
データベース
介護記録情報
全体利用者状況
施設職員
介護記録情報
利用者情報等登録
端末
バイタル表
申し送り事項
記録作成
図 1
介護記録システムの概念図
3.4 提 案 シ ス テ ム の 機 能
(1)利 用 者 情 報 管 理
施設職員はシステム上で利用者の基本情
報・要介護度・診療情報等の登録を行う.
(2)施 設 内 活 動 管 理
収集した情報を用いて,業務時間の比率
をもとに活動のプロセスや時間を管理する.
また,個人の活動の発生の条件と要因を管
理し,利用者毎に介護度に合わせて間食や
更衣の時間を設定し,通知を行う.
(3)利 用 者 行 動 情 報 収 集
利用者・職員の行動情報をシステム上に
登録し,行動の発生時間及び担当者との関
係等を考慮して関連付けを行い,情報の収
集を行う.
(4)利 用 者 状 況 及 び 対 処 法 共 有 機 能
職員間で利用者の状況を共有する.利用
者行動に対する過去の対処法や対処した結
果を表示し,介護方針の比較・検討や業務
改善に活用する.
記録者により介護の判断基準が異なるた
め,記録内容からテンプレートを用いた形
式で入力を行い入力形式の統一化を図る.
その際に,利用者の過去の行動や対処内容
を管理し,確実な業務遂行のために入力漏
れや入力の誤りを指摘する.読み取りに関
しては,次の行動への円滑な移行を支援す
るために,一覧で状況把握な可能なものを
提案する.また,アセスメント時の情報と
利用者行動,対処内容を関連付けた活用方
法 と し て ,施 設 内 の 活 動 時 間 の 分 析 を 行 う .
3.5 業 務 の 流 れ
図 2 に導入後の業務フローを示す.
全体
利用者家族・関係者
施設利用者
事前情報提
供
介護担当者
施設職員
利用者情報登録
介護計画作成会議
アセスメント(事前調査)
要望提供
利用者情報管理
介護計画作成
留意事項登録
介護計画確認
同意
介護計画確認
同意
介護サービス提供
生活行動
訴え
介護計画実施
4. 介 護 記 録 シ ス テ ム の 運 用 ・ 評 価
4.1 シ ス テ ム 実 行 画 面
介護記録システムのプロトタイプの構築
を行った.本システムの全利用者状況閲覧
の実行画面を図 3 に示す.メイン入力画面
では施設利用者個々人の時系列毎のバイタ
ル情報の入力,行動内容の入力及び閲覧が
可能である.
図 3
シ ス テ ム の 実 行 画 面 (全 利 用 者 状 況 閲 覧 )
4.2 シ ス テ ム の 運 用
本システムの導入対象施設は,利用者が
10 名 ,施 設 職 員 が 9 名 の 小 規 模 な 居 宅 型 介
護施設である.対象施設では 5 種類の介護
記 録 用 紙 が 存 在 し ,「 バ イ タ ル 記 録 表 」,
「 介 護 経 過 記 録 」,「 介 護 日 誌 」 の 3 種 類 を
日常的に用い,入所時の「アセスメントシ
ー ト 」, 病 院 受 診 の 際 に 用 い る 「 診 療 記 録 」
の 2 種類がある記録の件数は施設全体とし
て 1 日 に 160 件 以 上 あ り , 利 用 者 の 個 々 の
件数は記録者により差があり,最低 4 件,
最 高 で 30 件 記 録 す る 場 合 も あ る .
2014 年 12 月 よ り , 県 内 の 居 宅 型 介 護 施
設において運用を開始した.運用初日には
施設にて説明を行い,職員から意見を収集
した.初日の記録は全時間帯のバイタル情
報・行動内容が記録され,施設利用者の行
動・対応内容共に収集・管理は可能であっ
た.
5. お わ り に
本研究では,介護施設内の状況把握を容
易にする介護記録システムを構築した.今
後はシステムの運用を継続して行い,アン
ケート調査を用いて有用性の検証を行う.
利用者行動通知機能
行動情報登録
介護サービス提供後
行動情報収集
利用者状況確認
対処法確認
経過報告
利用者状況・対処法
共有機能
状況確認
介護方針見直し
業務改善会議
図 2
システム導入後の業務フロー
参考文献
1) 山 口 昇 : 介 護 保 険 施 設 の 運 営 管 理 と 主
要 課 題 , 東 京 法 令 出 版 ( 2000)
2) 田 形 隆 尚:”ケ ア が 変 わ る ”介 護 記 録 の 書
き 方 , 中 央 法 規 出 版 ( 2007)