2010 年 08 月 26 日

2010 年 08 月 26 日
非難轟々・サルコジ「ロマ追放」政策
ルーマニア・ブカレスト空港に送られた人々(8 月 19 日)
仏「大衆」に見るナチス的「社会浄化」の思想
山上 真
フランス大統領サルコジの「暴政」については、本ブログでこれまでに度々取り上げ
てきたが、仏国内の「ロマ」(ジプシー)を追放して、ルーマニアやブルガリアに強制送
還させるという今度の暴挙には、只々呆れ果てるばかりだ。
しかも、フランス人の6割以上が、この措置を支持していると聞いて、この国民の「自
由」の精神が一体どこに行ってしまったのかと、暗然たる思いを禁じ得ない。
歴史的には、インドから東欧を経て、西欧全域に移り住むようになったロマ(通称ジ
プシー)は、文化的に音楽などを通じて、少なくない影響をヨーロッパに及ぼして来た
が、一方では、「物乞い」、「盗み」、更には、移動生活に伴う「不衛生」的生活様式故
に、社会的に差別され、例えばナチス・ドイツ治下では、ユダヤ民族と共に「集団的抹
殺」の対象になった。
サルコジ大統領が内相 Brice Hortefeux 氏に命じて、「ロマ追放」という愚挙に乗り
出したのは、今年 7 月 18 日に仏南東部グルノーブルで、若者グループが警官隊と衝
突して一人が射殺され、50 台以上の車が焼かれるなどの騒乱が続いていたことがき
っかけとされているが、取締りの対象が事件と直接関係のない「ロマ」に向けられたの
は、極めて異常かつ不当なものだ。仏国内の約 300 の「ロマ・キャンプ」を、有無を言
わせず取り壊して、人々を国外に連行するという乱暴なやり方は、ヒトラー・ドイツのフ
ァッシズムを思い起こさせる。
仏政権の、ルーマニア・ブルガリアへの「ロマ」送還は、今年 1 月から秘密裏に始め
られ、これまでに 8030 人に上るという。これらの人々は、300 ユーロの現金を与えら
れ、自発的又は強制的に航空機に乗せられて、出身地に送られている。しかし、送還
先でも、差別され、厳しい生活を余儀なくされて、またフランスに舞い戻る者も少なくな
いようだ。
「域内での個人の移動自由」を唱う EU の専門委員会は、サルコジ政権に対して規
定を遵守するように求めているが、「合法的手段」と主張する仏政権は、勧告を受け
入れようとはしない。
このような暴挙に出たサルコジ氏の意図は、大統領選挙での再選を目指して、30%
程度に低迷する支持率を、国民の「排外的空気」を利用して一気に盛り返そうとする
所にあると見られる。
しかし、同氏の思惑は見事に外れたようだ。今度の措置については、従来から批判
的な左翼ばかりでなく、保守有力者達から、厳しい非難の声が挙がっている。
「サルコジ政治」を糾弾するド・ヴィルパン前首相
先ず、保守 UMP に距離を置く新党を立ち上げて、サルコジ政治に以前から仮借ない
批難を浴びせているドミニク・ド・ヴィルパン前首相は、
'Il y a aujourd’hui sur notre drapeau une tache de honte'
「今日、我が国の国旗は恥辱に塗れている」
と論難し、サルコジ政権が
'faute morale collective contre la République et contre la France'
「共和国とフランスに背く、道徳の集団的退廃の罪」を犯していると断言している。
一方、サルコジ政権の前法相を務めた Rachida Dati 女史は、
「社会的安全保障の議論は、もはや、この国に深い愛情を抱く全ての人々に不安を
抱かせるものに過ぎなくなってしまった」と述べて、嘗て敬意を捧げていた大統領に対
して、公然とした批判を投げかけている。
この他、ラファラン元首相、与党 UMP 副議長 Etienne Pinte 氏らも、「過度に治安
偏重化」している政治に、多数派が「沈黙せずに立ち向かう」よう訴えている。
パリを訪れたローマ法王ベネディクト 16 世とサルコジ大統領 (2008.09.13)
与党の一翼を担って来た「キリスト教民主党」の Christine Boutin 女史も、与党との
連立解消を示唆している。ローマ法王が、フランス人観光客向けに行った先日のミサ
で、「全ての人々にキリストの分け隔てない愛を」と説教して、暗にサルコジ大統領の
「ロマ追放」手法を批判したからである。
フランス言論界も、保守系『フィガロ』紙などを含めて、全般的に「サルコジ」批判を
表明している。明らかに、国際的に承認され難い事態であるからだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙(8 月 19 日付)は、警官隊が「ロマ・キャンプ」に ’Swoop’
(襲いかかる)する、詳細な記述を掲載している。
偏狭な「ナショナリズム」について、フランス国民が今後、どのような政治的態度と動
向を示して行くのか、どの国にも通じる問題であるだけに、注意深く見守って行きたい。
(2010.08.26)
<追記 1> 今日 26 日付『リベラシオン』紙掲載の最新「世論調査」CSA に依ると、
フランス国民の 48% が、「ロマ・キャンプ」の解体・ルーマニア送還を支持しており、
42% がそれに反対し、10%が無回答ということだ。他の調査でも、過半数の国民は、
政府方針に「同意」を与えているようだ。
仏社会党オーブリ女史とロワイヤル女史
<追記 2> ラ・ロッシェルで開催中の仏社会党「夏季大学」に出席している前社会党
代表 Ségolène Royal 女史及び,現代表 Martine Aubry 女史は 27 日『リベラシオン』
紙との記者会見で、「堕落したサルコジ・システム」による「ロマ追放」を、「フランスにと
っての恥辱の夏」と述べて,強く非難した。
<追記 3> 8 月 28 日深夜の'BBC Radio 5' は、フランスでの「ロマ追放」問題を取
り上げ、英国人権団体代表の、「個人次元を超えた,集団的追放ということが、重大
な人種差別になる」という見解や、英国在住・ロマ団体代表の、「ロマのアイデンティ
は 歴史的に見れば分るように、単一ではなく、ルーマニアと現在在住の国、という形
で複数的なものだ」という主張を紹介していたが、 番組司会者が、「ロマが嫌われる
原因は何だ」という不躾な問いを繰り返していたのが非常に気になった。つまり、この
司会者は、いかにも BBC に有りがちなことだが、明らかな「問題の責任」を、相対化し
て、核心を逸らす態度を取っているのだ。 (2010.08.28)
<写真> Le Monde, Le Figaro, Libération, L’Humanité
by shin-yamakami16 | 2010-08-26 15:39 | Trackback | Comments(0)
出典:クーリエ・インフォ
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