2012.5.12の勉強会の講演録はこちら

NPHC 勉強会
(講演録)
日時:平成 24 年 5 月 12 日(土)18:30~20:00
場所:東京大学本郷キャンパス工学部1号館 3 階会議室
主催:こどもの病院環境&プレセラピーネットワーク(NPHC)
今回の勉強会では,千葉大学・柳澤研究室の活動報告を実施致しました。
Ⅰ.静岡済生会病院小児科屋外プレイスペース・デザインプロジェクト
Ⅱ.HPS 対象の病院内アートに関するアンケート調査
Ⅰ.静岡済生会病院小児科 屋外プレイスペース・デザインプロジェクト
千葉大学工学研究科柳澤研究室 修士 2 年:江崎ひかる,本多浩子
柳澤研究室で昨今取り組んだ,病院小児科におけるプレイスペース制作事例を紹介します
(資料 1)
。静岡済生会病院 4 階・小児科病棟のバルコニー150 ㎡の改装です。当バルコニ
ーは,入院児およびその家族・きょうだいが使用できるスペースです。海をモチーフに,
病室から出た子どもが解放的になれるよう,クジラや魚・水玉などを描いた,回遊性のあ
る床のアートデザインを計画しました。
計画の条件で,本バルコニーには,日差しを遮るものを設けることがあり,ひさしに使用
する木材の加工や防腐処理作業を,我が千葉大学で行ってから。静岡にトラクターで運び
込んで組み立てるなど遠方の改修独特の大変さがありました。また,施工日は患児・看護
学生・病院スタッフ等が述べ 50 人以上床のペイントに参加しました。
(写真:本多様)
風除けの衝立はやや殺風景でしたが,本改修の記念も兼ねて皆の手形をペンキで残しました。雨で塗料が流れ
るなどの事態もありましたが,無事完成し,その模様が平成 23 年 11 月 27 日の静岡新聞に掲載されました。
後日談(静岡済生会病院 HPS・望月さん)
:水玉は当日の医師の提案により大陸が描かれ,地球になりました。
医師の関心もいただけたようで嬉しいです。手術前にこのバルコニーでシャボン玉・ケンケンパーなどをして
遊ぶことで乗り切れた子もいました。また思春期の子どもは小児病棟において居場所や活動する場所が少なく
ベッドにふさぎがち,このシャボン玉から話が膨らみ穏やかな時間を過ごせた方もいました。また,3 カ月入
院している子どもの母,遠方の家に残した患児のきょうだいのことが心配だという正直な気持ちを話し合った
り,隣の医療福祉センター転院になった子どもが心配で,鯉のぼりを作って一緒に飾った子がいたり,テラス
に出られることを目標に苦い薬を服用する子もいるなど,活動する空間として,気持ちの整理や支える場とし
て,等,とても有効に活用しています。
Ⅳ.HPS アンケート調査結果
千葉大学工学研究科柳澤研究室 修士 2 年:江崎ひかる
ホスピタルアートの役割やそれに対する医療従事者の意識について日本全国の HPS(ホス
ピタルプレイスペシャリスト)に調査しました。
(資料 2)
38 名/70 名から回答いただきました。現状に対する意識について。プレイルームと病室
でアートが異なること,診察・治療時に子どもの目線の方向にアートがあること等,目的
に合致した内容として理解が深い。子ども達の恐怖和らげるためには,動物系タイプなど
が用いられており,子ども達が作るアートも大切と認識されていました。また,アートは
治療や療養生活に対して,効果を発揮していることとその重要性の認識もあり,アートの
種類・設置形態・タイプ等の特性を踏まえた活かし方が,計画・導入する際には重要だと思われました。さら
に,医療従事者はアートの数や種類共に今後の設置への要望を多く挙げており,ホスピタルアートのこれから
の発展に期待できます。一方,時間・予算・人手が不足している点など組織体制の改善を求める声が多く挙が
り,今後いかに改善できるかが課題です。
※当講演内容は,2011 年度 千葉大学大学院博士前期課程修了の海野遥様の修士論文より,HPS アンケートの
部分を抜粋し発表させていただきました。
会場から)
・2002 年開所の国立成育医療センターではアートなどのハード面が素敵でとても良いが,壊れたものがそのま
まになってしまうことがあり残念(メンテナンスが弱い)
,使う人達で継承していってもらいたいと思う。
(ボ
ランティア,保育園非常勤,ガイヘル)
・柳澤:イギリスでは,アートを活用することや維持を常に考え使用している伝統があります。維持費用とい
うよりも維持していく意識・システム作りが大切なのだと思います。日本では 2000 年頃から国立成育医療
センターをはじめ,色々なアートが入ったが,維持しにくい様子。維持に関する使用者側の意識はない訳で
はなく,多くの方は維持に関心があると考えます。そこで,設置する時にそのハード面の維持・活用の仕組
みも計画していくと上手に活用できると思います。
・聖路加国際病院は,メンテナンスをボラ活動組織の活動業務に組み込んで運営されています。組織的に実施
することで,設えの維持・季節に応じた架け替えなどが実現できています。メンテナンスを考慮することは,
設えを作ると同時にとても大切だと思います。
(元 病棟内教員)
・柳澤:思春期にも対応できるようにというスタンスで改装した静岡済生会病院。当院と柳澤研究室の打ち合
わせは,イメージの相違などが生じぬよう,直接の打ち合わせが 2 回,メールはかなり頻繁にやり取りしま
した。ホテルのメンテナンスのような,維持方法構築も大切と考えております。
記録:鈴木健太郎(NPHC 運営委員,杏林大学保健学部作業療法学科 講師)
監修:本多浩子,江崎ひかる(千葉大学工学研究科柳澤研究室 修士 2 年)
総合監修:柳澤要(NPHC 代表,千葉大学工学部デザイン工学科 教授)