乳がん発症ハイリスクグループに対する乳房MRI

日本乳癌検診学会
乳癌MRI検診検討委員会報告書
乳房MRI検査が乳がん発見に対して有用であることが認知されてきた今日、諸外国では乳
がん発症ハイリスク女性に対するMRIを用いた乳がんスクリーニングが行われはじめた。一
方、我が国では乳がん発症ハイリスク女性の認識および適切な撮像法、読影法が十分確立して
いないことから、乳がん検診にMRIを用いることは推奨されていない。本委員会は諸外国の
状況、医学的エビデンスの収集を行い現時点での乳がんスクリーニングに対する乳房MRIに
関する考え方と位置づけ、さらに乳房MRIをスクリーニング手法として用いる場合に必要な
要件をガイドラインの形でまとめることとなった。
日本乳癌検診学会 乳癌MRI検診検討委員会は実際のガイドラインを公表するに先だって
乳がんスクリーニングに対する乳房MRI検査の基本的考え方について、会員の先生方に報告
させて頂きます。
1.乳がんのスクリーニングに乳房MRI検査を行うのは乳がん罹患のハイリスクグループに
限られるため、任意型検診として行われる。
2.乳房MRI検査を対策型検診として用いることは推奨されない。
その理由として、医療経済的な根拠がない、一般対象群に置いて有効性を示す根拠がない、
陽性者に対する対応基準、偽陽性に対するその後の対策が検討されていない等が挙げられる。
3.乳房MRI検査で陽性所見が得られたときには、組織生検などより侵襲度の高い精査を行
うことが説明されていることが必要である。
4.乳房MRI検査を実施することが決まれば、現時点で、最も診断精度の高い手法を用いて
精度の高い読影が行われる体制が組まれていることが必要である。
なお、誤解を避けるために、乳がんMRI検診のタイトルは用いず、乳がん発症ハイリスク
女性に対する乳房MRIスクリーニングガイドラインのタイトルを用いることとした。
以上の基本的合意の上でガイドラインを参照頂ければ幸いです。
1
乳がん発症ハイリスクグループに対する乳房MRIスクリーニングに
関するガイドライン ver.1.2
日本乳癌検診学会
乳癌MRI検診検討委員会
2013 年 3 月
目次
1.はじめに
2.定義
3.理念
4.乳がん MRI スクリーニングの対象
5.人員、設備、安全管理
6.乳房 MRI 検査の注意事項
7.ガドリニウム造影剤の注意事項
8.撮像法
1)総論
2)各論
9.読影方法
10.参考資料
・参照資料1:
造影剤投与量、投与方法、撮像シーケンス・画像表示法について
・参照資料2:
BI-RADS-MRI カテゴリー
2
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P35
乳癌 MRI 検診検討委員会
委員長:
中島 康雄
日本乳癌検診学会
(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)
副委員長: 戸崎 光宏
画像診断専門分野
(亀田総合病院乳腺科)
中村 清吾
外科専門分野.日本乳癌学会
(昭和大学医学部乳腺外科)
委 員 :
磯本 一郎
日本医学放射線学会
(聖フランシスコ病院放射線科)
門澤 秀一
日本磁気共鳴医学会
(神鋼病院放射線診断科)
印牧 義英
日本乳癌検診学会
(聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージングセンター放射線科)
田渕
隆
日本放射線技術学会
(八重洲クリニック放射線科)
丸山 克也
日本画像医療システム工業会
(シーメンス・ジャパン株式会社イメージング&セラピー事業本部リサーチ&コ
ラボレーション部)
幹 事 :
奥田 逸子
(国際医療福祉大学三田病院放射線診断センター)
評価委員会
委 員 :
荻野 徹男
日本画像医療システム工業会
(株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパン)
川島 博子
日本乳癌学会
(金沢大学医薬保健研究域保健学系金沢大学付属病院乳腺科)
日本磁気共鳴医学会
(京都府立医科大学放射線科)
後藤眞理子
角田 博子
日本医学放射線学会
(聖路加国際病院放射線科)
秦 博文
日本放射線技術学会
(北里大学病院放射線部)
横江 隆夫
日本乳癌検診学会
(渋川総合病院)
3
監修・承認
理事長:
福田
護
(聖マリアンナ医科大学附属研究所ブレスト&イメージングセン
ター)
副理事長: 大内 憲明
(東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座腫瘍外科学分野)
理 事 :
(徳島大学医学部産科婦人科学教室)
苛原
稔
遠藤登喜子
(国立病院機構名古屋医療センター統括診断部放射線科)
岡崎
(札幌乳腺外科クリニック)
稔
小澤 信義
(
(独)国立病院機構仙台医療センター産婦人科)
笠原 善郎
(福井県済生会病院外科)
鈴木 隆二
(山形大学医学部附属病院がん臨床センター)
須田
(公立高畠病院)
嵩
園尾 博司
(川崎医科大学乳腺甲状腺外科)
田中 真紀
(社会保険久留米第一病院)
玉城 信光
(那覇西クリニック)
丹黒
(徳島大学大学院ヘルスサイエンス研究部)
辻
章
一郎
(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)
東野英利子
(
(財)筑波メディカルセンターつくば総合健診センター)
中島 康雄
(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)
古川 順康
(ふるかわクリニック)
堀田 勝平
(NPO 法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会)
横江 隆夫
(渋川総合病院)
4
1.はじめに
乳がんの診断におけるMRIの有用性は数多く報告され、その診断感度特異度ともにマンモグ
ラフィよりも優れていることが既知の事実となりつつある。特に、病変発見感度の高さはMRIでの
み描出可能な乳がんという概念も現れ、その対応について検討されているのが現状である。しか
しながら、乳房MRIは他の画像診断法と同様に高い精度管理の元に行われてはじめてその威力
を発揮することも知られ、米国およびヨーロッパにおいて適応、撮像、読影に関するガイドラインが
示され、高リスクに対するMRIによるスクリーニングについても記載されている[1,2]。
一方、乳がん罹患率の増加とともに、若年発症乳がんに遺伝子の関与することも知られるように
なった。また、若年女性の乳房はマンモグラフィで高濃度を示すため、マンモグラフィ検診では乳
がんの発見率が低い。さらに、遺伝性乳がんの頻度は我が国女性では低いという認識があったが、
最近の調査で欧米との間に頻度の差がないことも報告され[3]、乳がんリスクの高い女性のスクリー
ニング方法として乳房MRIは注目されるようになってきた。このような背景から、我が国でも乳房M
RIをスクリーニングツールとして用いるための指診が必要であると判断し、日本乳癌検診学会が
中心となり、関係学会の協力の元に乳癌MRI検診検討委員会が構成され、ガイドラインの作成に
取り組むこととなった。
本ガイドラインは現在発展段階の領域を扱っており、医学的エビデンス集積は困難であるため、
現時点で最も推奨される乳房MRI検査を記載した欧米の乳房MRIガイドラインを軸に、乳がんM
RIスクリーニングを実運用している施設の経験を参考に加えた上で、委員を中心としたエキスパ
ートオピニオンを取り入れて作成した。ただし、本ガイドラインで最も重要と考えたMRIの撮像に関
しては、今まで報告された医学的エビデンスを詳細に検討し、具体的な臨床課題に対する解答と
いう形(クリニカルクエスチョン形式)でまとめた。本ガイドラインがMRIを乳がんスクリーニングに利
用しよう考えている方々の参考になれば幸いである。
文献
1) ACR Practice Guideline for the Performance of Contrast-Enhanced Magnetic Resonance
Imaging
(MRI)
of
the
Breast.
Breast
Imaging
and
Intervention.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/breast.asp
x. Res. 25 – 2008
2) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318.
3) Sugano K, Nakamura S, Ando J, et al. Cross-sectional analysis of germline BRCA1 and
BRCA2 mutations in Japanese patients suspected to have hereditary breast/ovarian
cancer. Cancer Science 2008; 99: 1967-1976.
5
2.定義
任意型検診を前提とした精度の高い乳がんスクリーニングを行うためのガイドラインである。
3.理念
MRIを用いた乳がんスクリーニングは簡便性、アクセス、発見頻度の低い対象群における費用
対効果の点から対策型の乳がん検診には不向きであり、推奨されるものではない。従って、個別
検診を念頭に置いて行われるため、高い診断精度で乳がんを発見できる方法を記載することを理
念として本ガイドラインを作成した。
<利益相反>
本ガイドラインの作成や評価に関連したもの(その配偶者、一親等内の親族、または収入・
財産を共有するものを含む)について、利益相反の有無を問うた結果、該当者はなかった。
6
4.乳がん MRI スクリーニングの対象
先にも述べたようにMRIによる乳がんスクリーニングは個別検診として行われるべきであるため、
基本的には対象受診者は個人の自由意志となる。しかし、スクリーニングのためにMRIを用いるこ
とが医学的にも正当化される受診者を示すことも必要である。そのような観点から考えると対象者
は乳がん発症リスクが高い、特に対策型検診では早期診断が困難であると判断された女性とな
る。
近年、家族集積性乳がん患者に対する遺伝子カウンセリングや Breast Cancer (BRCA) 1/2 検
査が、本邦でも徐々に普及しつつあり、陽性者は欧米並みに存在するという報告もなされている
〔1〕。
遺伝性乳がん/卵巣がんは発病年齢が低いことを反映して、通常の勧告よりもかなり早期にスク
リーニングを開始することが強調されている〔2〕。すなわち、米国総合がん情報ネットワーク
(National Comprehensive Cancer Network: NCCN) ガイドラインでは、18歳から毎月定期的に自
己検診を実施する、25 歳までには半年毎の乳房視触診を開始することが推奨されている。また、
25歳から毎年のマンモグラムおよび、多くの場合、乳腺の濃度が高いであることから、乳房MRIス
クリーニングを実施することも勧められている〔3〕。
欧米では、BRCA 陽性者において、MRIスクリーニングの有用性を示す報告が数多くなされて
きた。これらを含め、乳がん発症ハイリスク症例に対する検診のシステマティックレビューでは、マ
ンモグラフィとMRIを併用した検診で、94%の感度と 77%の特異度が示されている〔4-8〕。そこで、
American Cancer Society (ACS)のガイドラインでは、MRIスクリーニングは BRCA1/2 陽性者に限
らず、乳がんの生涯発症リスクが 20%を超える場合に勧められる、としている〔9〕。但し、MRIを検
診目的に用いる場合も、両側同時撮影や、MRIのみで描出された場合に、MRIガイド下生検の
装備をすることが推奨されている。
本邦では、海外と同様のハイリスクを同定する計算モデル(Gail Model や Claus Model)は存在し
ないが、BRCA に関しては、少なくとも同程度の比率で存在する可能性を示唆する報告があり、
BRCA 陽性者には欧米のガイドラインと同様に勧められる。また、本来であれば、強く遺伝カウン
セリングを勧めるような家族集積性の高い家系の方で、特にマンモグラフィにて高濃度乳房を呈し、
本人が希望する場合にも勧められる。
なお、ここで遺伝カウンセリングを強く勧める場合とは、同一家系(第2度近親者)内に 2 人以上
の乳がん患者が存在し、かつ、そのうち一人が、(1)若年(40 歳未満)で乳がんを発症、(2)両側
乳がん、(3)乳がんと卵巣がんの両方を発症、(4)男性乳がん、および、(5)乳がん、卵巣がんそ
れぞれが一人以上、としている (日本人の BRCA 発現頻度に関して、データベース構築のもと、
2012 年度よりデータ集積が始まり、前述は現時点での暫定的な基準である)。
文献
1) Sugano K, Nakamura S, Ando J, et al. Cross-sectional analysis of germline BRCA1 and
BRCA2 mutations in Japanese patients suspected to have hereditary breast/ovarian
cancer. Cancer Science 2008; 99: 1967-1976.
7
2) Ford D, Easton DF, Stratton M, et al. Genetic heterogeneity and penetrance analysis of
the BRCA1 and BRCA2 genes in breast cancer families. The Breast Cancer Linkage
Consortium. Am J Hum Genet 1998; 62: 676-689.
3) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines™). National
Comprehensive
Cancer
Network.
http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/genetics_screening.pdf
4) Kriege M, Brekelmans CT, Boetes C, et al. Efficacy of MRI and mammography for
breast-cancer screening in women with a familial or genetic predisposition. N Engl J Med
2004; 351: 427-437.
5) Warner E, Plewes DB, Hill KA, et al. Surveillance of BRCA1 and BRCA2 mutation carriers
with magnetic resonance imaging, ultrasound, mammography, and clinical breast
examination. JAMA 2004; 292: 1317-1325.
6) Stoutjesdijk MJ, Boetes C, Jager GJ, et al. Magnetic resonance imaging and mammography
in women with a hereditary risk of breast cancer. J Natl Cancer Inst 2001; 93: 1095-1102.
7) Leach MO, Boggis CR, Dixon AK, et al. Screening with magnetic resonance imaging and
mammography of a UK population at high familial risk of breast cancer: a prospective
multicentre cohort study (MARIBS). Lancet 2005; 365(9473): 1769-1778.
8) Warner E, Messersmith H, Causer P, et al. Systematic review: using magnetic resonance
imaging to screen women at high risk for breast cancer. Ann Intern Med 2008; 148:
671-679.
9) Saslow E, Boetes C, Burke B, et al. American Cancer Society Guidelines for Breast
Screening with MRI as an Adjunct to Mammography. Cancer J Clin 2007; 57: 75-89.
8
5.人員、設備、安全管理
1)人的体制の基準
特掲診療科の施設基準としてあげられている要件から、画像診断を専ら担当する常勤の医師
(日本医学放射線学会放射線診断専門医)が配置され、装置の精度管理ならびに安全管理技術
を修得し、MRIの撮像技術に関する十分な知識を有する磁気共鳴専門の技師がいることが望ま
しい。
2)設備全般の基準
施設の構造、届け出、従事者の資格や運営方法などの基準については、医療法施行規則
[1-3]とその関連通知の規定に、安全基準は日本工業標準調査会 JIS Z4951[4]によること。
3)安全管理
MRIの安全管理は、①高磁場発生装置としての安全管理、②被検者、医療スタッフを含む運
用上の安全確保の2つの観点から考える必要がある。
① 高磁場発生装置としての安全管理
MRI装置は、薬事法において、管理に専門的な知識及び技能を必要とすることから、特定保
守管理医療機器に規定されており、製品の安全性および性能維持のためには、日常点検、定期
点検、保守点検の実施が必須である。
② 被検者、医療スタッフを含む運用上の安全確保
静磁場、動磁場、ラジオ波それぞれの安全性の確認と、被検者や医療スタッフの身体状況の把
握、それに対応した適切な判断が必要であるため、医学的、工学的な専門知識と相応の経験が
必要である。
ただし、本邦ではMRI検査に対する体系だった安全管理ガイドラインは存在せず、現段階では、
欧米の資料を参考にした内規や手順書を作成運用し、漸次、最新の情報を取り入れ定期的に改
定する必要がある[5-9]。
文献
1) 医療法施行規則 (昭和二十三年十一月五日厚生省令第五十号)
2) 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行等について (医政発第 0801001 号)
3) 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について (医政発第 0601006 号)
4) 日本工業標準調査会. 磁気共鳴画像診断装置−安全, JIS Z4951. 日本規格協会, 2004
5) Kanal E, Barkovich AJ, Bell C, et al. ACR Guidance Document for Safe MR Practices: 2007.
AJR Am J Roentgenol 2007; 188: 1447-1474.
6) Woodard PK, Bluemke DA, Cascade PN, et al. ACR practice guideline for the performance
and interpretation of cardiac magnetic resonance imaging (MRI). J Am Coll Radiol 2006; 3:
665-676.
7) ACR Technical Standard for Diagnostic Medical Physics Performance Monitoring of
9
Magnetic Resonance Imaging (MRI) Equipment. American college of radiology.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/med_phys/
mri_equipment.aspx. Revised 2009 (Res. 10).
8) Kangarle A, Robitaille PM. Biological effects and health implications in magnetic resonance
imaging. Concepts in Magnetic Resonance 2000; 12:321-359.
9) MRI safety guidelines. Institute for Magnetic Resonance Safety, Education, and Research.
http://www.imrser.org/.
10
6.乳房MRI検査の注意事項
MRI検査室の強大な磁場の危険を周知させ、磁性体を検査室内に絶対に持ち込んではなら
ない。下記のMRI検査禁忌あるいは注意を要する被検者を不用意に検査室に入れないよう問診
等により確認する。
また、検査室入室前に被検者の磁性体所持品、磁気で傷害される可能性のある所持品(時計、
磁気カード、ホルタ心電図、ある種の入れ歯、着衣の金属、ヘアピン、カラーコンタクト等)の有無
を確認する。検査前には、検査の概要を説明し、検査への協力を依頼する。とくに撮像時の騒音、
狭いガントリや検査寝台、および、撮影中の不動等について理解を得る。
なお、検査室内の被検者に容態を頻繁に尋ね、被検者の声や様子をモニタで注意深く観察す
る。緊急時には検査室から即座に搬出して処置を行う。ただし、検査室内でも処置を行う可能性
があれば、MR環境下での試験を受け許可が得られている器機、器具のみを使用する。
・ 電気的、磁気的もしくは機械的に作動する体内埋込物(心臓ペースメーカーやリードワイヤ
ーなど)
・ 磁性体インプラント(頭蓋内動脈瘤クリップ等)
・ 代償障害性心臓病患者、発熱性患者および発汗障害性患者
・ いれずみによるアイライナーや帯磁性物質の化粧品使用者
・ 眼球もしくはその周囲に導電性または帯磁性の細片の埋め込まれている可能性のある患者
・ 心停止の可能性が通常より多い患者
・ 発作もしくは閉所恐怖症反応の可能性のある患者
・ 無意識状態、深い鎮静状態、錯乱状態および十分な意思疎通が期待できない患者
・ 導電性のある金属を含む貼付剤
・ 妊娠(胚または胎児への安全性が確立されていない)
参考文献
1) 日本医学放射線学会・医療事故防止委員会: 放射線診療事故防止のための指針. 日本
医学放射線学会誌 2002; 52 : 311-336.
2) 薬食安発第0822001号・薬食機発第0822001号: 磁気共鳴画像診断装置に係る使用上
の注意の改訂指示等について. 平成17年8月22日
11
7.ガドリニウム造影剤の注意事項
原則、乳房MRI検査はガドリニウム造影剤を使用して検査を行う。ガドリニウム造影剤の主な排
泄臓器は腎臓であるため、腎機能障害患者においてはその排泄が遅延することが知られている。
このため、検査前には血清クレアチニン値等による腎機能の評価が必須となる。
一般的にガドリニウム造影剤は、ヨード造影剤と比較してその副作用の発現頻度は低いとされ
ているが、嘔気、嘔吐、蕁麻疹、掻痒、発疹等の副作用が約1.0%未満に発現する。また、約1.9万
例に1人程度の割合で、ショックなどの重篤副作用を生じることがあり、約100万人に1人程度の割
合で、死に至ることがあるとされている[1-3]。
アレルギー体質のある場合は、ない群と比べ、副作用が生じる可能性が1.9倍多いとされており、
気管支喘息の既往がある場合、既往が無い群と比べ、副作用を生じる可能性が約1.5倍多く、重
篤な副作用が生じることがあるとされている。
また、以前CT検査等の時に投与されるヨード造影剤
でアレルギー様症状を認めた場合は2.6倍、過去にガドリニウム造影剤でアレルギー様症状を認
めた場合には、8倍以上もの頻度で副作用が生じる可能性があるとされている[4]。
この他、人工透析例を含む腎機能障害患者へのガドリニウム造影剤投与を契機として、四肢遠
位側からの皮膚の変色、肥厚、硬化を呈する腎性全身性線維症 (Nephrogenic systemic fibrosis:
NSF) を発症したと疑われる報告例がある[5-7]。
投与時に造影剤が血管外にもれることがあり、注射部位の腫れを来たし、疼痛を伴うこともある
が、造影剤は経時的に吸収される。漏出量が非常に多い場合には、別の処置が必要となることも
あるが、非常にまれである。
ガドリニウム造影剤投与にあたっては、これらのリスクファクターを問診等により十分把握し、安
全に施行できるよう注意すると共に、重篤な副作用の発現に備え、救急処置の準備を行うと共に、
検査中および検査後も被検者の状態を十分に観察する。
ガドリニウム造影剤のリスクファクター
・ ガドリニウム造影剤、ヨード造影剤によるアレルギー症状の既往
・ 本人または血縁者の気管支喘息やアレルギー体質
・ 腎機能 (糸球体濾過量 Glomerular filtration rate: GFR)
臨床的には血清クレアチニン等から推算糸球体濾過量(estimated GFR: eGFR)を算出し
て腎機能を評価することが推奨されている。
長期透析が行われている終末期腎障害,GFR 30mL/min/1.73m2 未満の慢性腎障害,急
性腎不全の患者は原則としてガドリニウム造影剤を使用せず、他の検査法で代替すべき
である。
・ 妊婦あるいは妊娠の可能性のある被検者、授乳中の被検者
やむを得ず授乳中の方に検査した場合には検査後 24 時間は授乳を控えることが望まし
い。
参考:ガドリニウム造影剤の添付文書における禁忌,原則禁忌
12
【禁忌】 本剤の成分又はガドリニウム造影剤に対し過敏症の既往歴のある患者
重篤な腎障害のある患者
【原則禁忌】 一般状態の極度に悪い患者
気管支喘息の患者
重篤な肝障害のある患者
※ガドリニウム造影剤の添付文書は製品により若干異なりますので、使用するガドリニウム造
影剤の最新添付文書をご確認ください。
文献
1) Li A, Wong CS, Wong MK, et al. Acute adverse reactions to magnetic resonance contrast
media ; gadolinium chelates. Br J Radiol 2006; 79: 368-371.
2) Dillman JR, Ellis JH, Cohan RH, et al. Frequency and severity of acute allergic-like
reactions to gadolinium-containing IV contrast media in children and adults. AJR 2007;
189: 1533-1538.
3) 鳴海義文,中村仁信. 非イオン性ヨード造影剤およびガドリニウム造影剤の重症副作用
および死亡例の頻度調査.日本医学放射線学会雑誌 2005; 65: 300-301.
4) Nelson KL, Gifford LM, Lauber-Huber C, et al. Clinical safety of gadopentetate
dimeglumine. Radiology 1995; 196: 439-443.
5) Grobner T. Gadolinium-a specific trigger for the development of nephrogenic fibrosing
dermopathy and nephrogenic systemic fibrosis? Nephrol Dial Transplant 2006; 21: 1745.
6) Marckmann P, Skov L, Rossen K, et al. Nephrogenic systemic fibrosis: suspected
caustative role of gadodiamide used for contrast-enhanced magnetic resonance imaging. J
Am Soc Nephrol 2006; 17: 2359-2362.
7) 細谷龍男,岡田浩一, 堀尾勝,ほか. 腎障害患者におけるガドリニウム造影剤使用に関
するガイドライン(第2版: 2009年9月2日改訂). 日本腎臓学会誌 2009; 51: 839-842.
13
8.撮像法
撮像法に関して Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007〔1〕に準じて作成した。利用したクリ
ニカルクエスチョンの推奨グレードは、各文献で得られたエビデンスレベル〔1,2〕に基づいて行っ
た。
Minds 推奨グレード
推奨グレード
内 容
A
強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
B
科学的根拠があり、行うよう勧められる。
C1
科学的根拠はないが、行うよう勧められる。
C2
科学的根拠がなく、行わないよう勧められる。
D
無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる。
Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007〔1〕より引用
エビデンスレベルの評価基準
Oxford Centre for Evidence –based Medicine Level of Evidence〔2〕
レベル
診断
1a
レベル 1 の診断研究のシステマティック・レビュー (homogeneity*であるもの)。
複数の臨床施設を対象としたレベル 1b の研究で検証された CDR+
1b
適切な参照基準++が設定された検証的**コホート研究、あるいは単一の臨床
施設で検証された CDR+
1c
絶対的な特異度で診断が確定できたり、絶対的な感度で診断が除外できる場
合++
2a
レベル 2 の診断研究のシステマティック・レビュー (homogeneity*であるもの)
2b
適切な参照基準++が設定されている探案的**コホート研究。CDR+の誘導の
み、あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかった$$$CDR+
3a
3b 以上の研究のシステマティック・レビュー (homogeneity*であるもの)
3b
非連続研究、あるいは一貫した参照基準を用いていない研究
4
診断基準が明確でない、あるいは独立でないケースコントロール研究
5
系統的な批判的吟味を受けていない、または生理学や基礎実験、原理にもと
づく専門家の意見
Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007〔1〕より引用
注釈:使用者は以下にあげる理由から確定的なレベルを決定できなかことを示すために、マイナ
スの印「-」を付記してもよい:
・ 信頼区間の広い単一の研究しかない(例えば、RCT における絶対リスク減少 (absolute risk
14
reduction: ARR) が統計学的に有意でないが、臨床的に重要な便益や害が存在する。
・ あるいは無視できない(かつ統計学的に有意な)不均一性をもつシステマティック・レビュー
・ エビデンスが確定的でなく、グレード D の推奨しかできない場合
Randomized Controlled Trial (RCT): ランダム化比較対称試験
* homogeneity というのは、個々の研究間に結果の程度や方向性に憂慮すべき多様性がない
ことである。統計学的に不均一なシステマティック・レビューすべてに対して憂慮する必要は
なく、また憂慮すべき不均一性
+ clinical decision rule (予後を予測するため、あるいは診断を層別化するためのアルゴリズム
あるいはスコアリングシステム)
+++ 適切な参照基準は検査から独立し、すべての患者に対し盲検的/客観的に適用されている。
不適切な参照基準は行きあたり的に適用されているが、なおかつ検査から独立している。
非独立的な参照基準を用いている場合(「検査」が「参照基準」に含まれている場合、あるい
は「検査の施行」が「参照基準」に影響を与える場合)はレベル 4 研究に分類する。
** 検証的研究とは、既存のエビデンスに基づいて特定の診断検査の性能を検討した研究のこ
とである。探索的研究とは、情報を収集しデータを解析して (例:回帰分析など) 「有意な」
因子を探索する研究のことです。
++ 「絶対的な特異的で診断が確定」とは、検査が陽性の場合に診断が確定できるほど特異度
が高いことを指す。
$$$ 分割サンプルによる妥当性の検証とは、一度に収集したサンプルを人工的に「誘導」サンプ
ル「妥当性検証」サンプルに分割することである。
なお、本注釈は“Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007 [1]”より抜粋した。
欧州乳房画像診断学会 (European Society of Breast Imaging: EUSOBI)と米国放射線専門医
会 (American College of Radiology: ACR)のガイドラインにおいて推奨されている内容は診断研
究のシステマティック・レビユー(レベル 1a)相当と判断した。
文献
1) 福井次矢, 吉田雅博, 山口 直人編集. Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007.
Minds 診療ガイドライン選定部会監修. 医学書院 2007.
2) Oxford Centre for Evidence-based Medicine - Levels of Evidence (March 2009). Centre
for Evidence Based Medicine. http://www.cebm.net/index.aspx?o=1025. March 2009.
15
8-1)総論
① 造影検査の必要性
乳房(乳がん検診)のMRI検査に造影検査は勧められるか?
推奨グレード A : 乳房(乳がん検診)のMRI検査に造影検査は強く勧められ
る。
乳がんは、T1,T2 強調画像では乳腺組織と等信号を示し不明瞭であることが多いため、描
出にはガドリニウム造影剤による造影検査が必須である。喘息や腎機能低下などで造影検査
が実施できない場合、インプラントの評価を除いてMRIの適応はない〔1,2〕。ガドリニウム造影
剤の投与量、投与方法としては標準用量 0.1 mmol/kg を急速静注し、生理食塩水でフラッシ
ュすることが推奨される〔3〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “contrast”」を参考にして作成した。また American
College of Radiology (ACR)が発行したガイドラインを参照した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) ACR practice guideline for the performance of contrast–enhanced magnetic resonance
imaging
(MRI)
of
the
breast.
American
college
of
radiology.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/breast/mr
i_breast.aspx 2008,American College of Radiology, Reston, VA. (レベル 1a)
3) Knopp MV, Bourne MW, Sardanelli F, et al. Gadobenate dimeglumine-enhanced MRI of
the breast: analysis of dose response and comparison with gadopentetate dimeglumine.
AJR Am J Roentgenol 2003; 181: 677-678. (レベル 2b)
16
② 非造影 MRI の利点と欠点
拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳房MRIスクリーニングは勧められる
か?
推奨グレード C2 : 拡散強調画像を含めた非造影MRIによる乳房MRIスクリ
ーニングは科学的根拠がなく、行わないよう勧められる。
拡散強調画像は、生体内の水分子の動きであるブラウン運動を画像化したMRIの撮像法
の一つである。一般的に細胞密度が増加する悪性腫瘍では拡散が低下するため、拡散強調
画像にて高信号を示し、見かけの拡散係数 (Apparent diffusion coefficient: ADC)が低下す
る。拡散強調画像は撮像時間が短く、造影剤を使用することなしに、非侵襲的に悪性腫瘍の
検出が可能であることから、検診への応用が期待されている。
造影MRIを含めた他のモダリティで同定される乳腺疾患に対する拡散強調画像の病変検
出能(81.2-98.1%)は高い〔1-4〕。しかしながら拡散強調画像では良性疾患も検出されるため、
拡散強調画像のみでは特異度が低下する〔3〕。このため、通常、拡散強調画像と同時に測定
可能な ADC を用いた良悪性鑑別診断が行われている。ADC を用いた乳腺疾患の良悪性鑑
別診断能に関するメタアナリシスでは、感度 0.89、特異度 0.77 であり、造影MRIのメタアナリ
シスにおける感度 0.90(95%信頼区間 0.88-0.91)、特異度 0.72(95%信頼区間 0.67-0.77)と
同等の診断能であるが、結果のばらつきの大きさや出版バイアスがあることが指摘されている
〔5〕。また、これらの研究では撮像に用いられた b 値はさまざまであり、ADC の閾値も
1.1-1.6×10-3m/s とばらつきが大きい。ADC は b 値により影響を受けるため〔6〕、施設間で
ADC を比較するには基準となる値の設定が必要である。また、ADC に関しては関心領域の設
定など測定方法についても標準化する必要があると考えられるが、これらについてのコンセン
サスは得られていない。一方、ADC 値を用いず、拡散強調画像と他の画像の組み合わせ(非
造影MRI)による診断も試みられている。拡散強調画像と Short TI inversion recovery (STIR)
画像を組み合わせることにより、病変の大きさや背景乳腺の濃度に影響を受けることなく、高
い感度(97%)を示すことが報告されている〔7〕。また、拡散強調画像と T2 強調画像の組み合
わせでも高い感度と特異度を示し、視認性では劣るものの、造影MRIと診断能に有意差がな
いと報告されている〔4〕。ただし、これら研究はあらかじめ病変の存在が判明していた症例を
対象とした後ろ向き研究であり、検診で対象となる無症状の非触知病変を対象としたものでは
ない。無症状の非触知病変に対する拡散強調画像と T2 強調画像の組み合わせでは、感度
は 50%であり、造影MRIの感度 86%より有意に低く、診断能も低下する〔8〕。さらに拡散強調
画像のみでは、造影MRIで非腫瘤性濃染を示す非浸潤性乳管癌の同定率は 68%(25 病変
中 17 病変)であり〔3〕、1cm 未満の病変の検出能も低い〔1,2〕。このように拡散強調画像を含
17
めた非造影MRIは造影 MRI に比較し、診断能が低下する可能性があり、造影 MRI を非造影
MRIで置き換えることは困難と考えられる。一方、非造影MRIとマンモグラフィを比較すると、
非造影MRIの感度はマンモグラフィ単独の 40%より有意に高く、診断能もマンモグラフィより
優れている〔8〕。さらにマンモグラフィで同定されない非触知乳がん 27 症例中 24 症例(89%)
が拡散強調画像で同定できたとする報告もある〔9〕。非造影MRIはマンモグラフィと比較して、
診断能の向上が期待されるが、エビデンスレベルの高い比較試験は行われていない。拡散強
調画像を含めた非造影MRIを乳がんのスクリーニングに用いるためには、拡散強調画像の撮
像方法や診断基準を標準化する必要があり、現時点では検診で対象となるような無症状の非
触知病変に対する非造影MRIの有用性を示す根拠は十分ではない。したがって、造影剤を
使用しない非造影MRIによる乳がん検診は勧められない。
なお、前述は”科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編 2011 年版 日
本乳癌学会編[10]”より抜粋した。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast”、“screening”、“MRI”、“DWI”、“non-contrast”、“STIR”」を参考にして作
成した。検索期間は 2000 年以降とした。
文献
1) Guo Y, Cai YQ, Cai ZL, et al. Differentiation of clinically benign and malignant breast
lesions using diffusion-weighted imaging. J Magn Reson Imaging 2002; 16: 172–178. (レ
ベル 4)
2) Park MJ, Cha ES, Kang BJ, et al. The role of diffusion-weighted imaging and the apparent
diffusion coefficient (ADC) values for breast tumors. Korean J Radiol 2007; 8: 390–396.
(レベル 4)
3) Tozaki M, Fukuma E. 1H MR spectroscopy and diffusion-weighted imaging of the breast:
are they useful tools for characterizing breast lesions before biopsy? AJR Am J
Roentgenol 2009; 193: 840-849. (レベル 4)
4) Baltzer PA, Benndorf M, Dietzel M. Sensitivity and specificity of unenhanced MR
mammography (DWI combined with T2-weighted TSE imaging, ueMRM) for the
differentiation of mass lesions. Eur Radiol 2010; 20: 1101-1110. (レベル 4)
5) Tsushima Y, Takahashi-Taketomi A, Endo K. Magnetic resonance (MR) differential
diagnosis of breast tumors using apparent diffusion coefficient (ADC) on 1.5-T. J Magn
Reson Imaging 2009; 30: 249-255. (レベル 3a)
6) Pereira FP, Martins G, Figueiredo E, et al. Assessment of breast lesions with
diffusion-weighted MRI: comparing the use of different b values. AJR Am J Roentgenol
2009; 193: 1030-1035. (レベル 4)
7) Kuroki-Suzuki S, Kuroki Y, Nasu K, et al. Detecting breast cancer with non-contrast MR
18
imaging: combining diffusion-weighted and STIR imaging. Magn Reson Med Sci 2007; 6:
21–27. (レベル 4)
8) Yabuuchi H, Matsuo Y, Sunami S, et al. Detection of non-palpable breast cancer in
asymptomatic women by using unenhanced diffusion-weighted and T2-weighted MR
imaging: comparison with mammography and dynamic contrast-enhanced MR imaging. Eur
Radiol 2011; 21: 11-17. (レベル 4)
9) Partridge SC, DeMartini WB, Kurland BF. Differential Diagnosis of Mammographically and
Clinically Occult Breast Lesions on Diffusion-Weighted MRI. J Magn Reson Imaging
2010; 31: 562–570. (レベル 4)
10) 日本乳癌学会編集. 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編 2011
年版. 金原出版 2011. (レベル 1a)
19
8-2)各論
① 至適撮像時期
乳房MRIの撮像時期について考慮することが勧められるか?
推奨グレード A : 乳房MRIは月経開始後 5-12 日目に撮像することが強く勧
められる。
造影 MRI においては、閉経前女性の乳腺組織への造影剤の取り込みは月経周期の時期
によって異なる。月経周期後半の 2 週間(黄体期、分泌期)は乳腺組織の造影剤の取り込み
が亢進し偽陽性所見を招きやすいため避けるべきである〔1-4〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “menstrual”」を参考にして作成した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a).
2) Delille JP, Slanetz PJ, Yeh ED, et al. Physiologic changes in breast magnetic resonance
imaging during the menstrual cycle: perfusion imaging, signal enhancement, and influence
of the T1 relaxation time of breast tissue. Breast J 2005; 11: 236–41. (レベル 4)
3) Kuhl CK, Bieling HB, Gieseke J, et al. Healthy premenopausal breast parenchyma in
dynamic contrast-enhanced MR imaging of the breast: normal contrast medium
enhancement and cyclical-phase dependency. Radiology 1997; 203: 137–144. (レベル 4)
4) Muller-Schimpfle M, Ohmenhauser K, Stoll P, et al. Menstrual cycle and age: influence on
parenchymal contrast medium enhancement in MR imaging of the breast. Radiology 1997;
203: 145–149. (レベル 4)
20
② 撮像装置
乳房MRIには 1.5T 以上の高磁場装置の使用が勧められるか?
推奨グレード A : 乳房MRIには 1.5T 以上の高磁場装置の使用が強く勧めら
れる。
小病変の検出と解析には高い空間および時間分解能が必要であり、静磁場強度が弱く信
号雑音比が低下する低磁場や中磁場装置ではこの要求を満たしにくい〔1,2〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI”」を参考にして作成した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European
Society of Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18:1307-1318. (レベル 1a)
2) Weinstein S, Rosen M. Breast MR imaging: current indications and advanced
imaging techniques. Radiol Clin North Am 2010; 48: 1013-1042. (レベル 3b)
21
③ 撮像コイル、撮像体位
乳房専用コイルによる腹臥位での撮像が勧められるか?
推奨グレード A : 乳房専用コイルによる腹臥位での撮像が強く勧められる。
乳房専用コイルを用いて腹臥位で撮像することが推奨される〔1,2〕。利点としては,呼吸運
動による画質の劣化が少ないことや、乳腺が下垂し歪曲なく伸展されるため乳管内進展など
乳管に沿って広がる病変の観察が容易となることがあげられる。本邦では上肢を挙上して撮
像している施設が多く見られるが、上肢を下ろして(体側に付けて)撮像した方が広い範囲を
カバーできることから、欧米では上肢を下ろす方法が推奨されている。乳房は軽く支持しても
よいが、強く圧迫すると乳がんの増強効果が低下する危険性がある〔3〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “technique”」を参考にして作成した。また American
College of Radiology (ACR)が発行したガイドラインを参照した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) ACR practice guideline for the performance of contrast–enhanced magnetic resonance
imaging
(MRI)
of
the
breast.
American
college
of
radiology.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/breast/mr
i_breast.aspx 2008,American College of Radiology, Reston, VA (レベル 1a)
3) Kuhl C. The current status of breast MR imaging. Part I. Choice of technique, image
interpretation, diagnostic accuracy, and transfer to clinical practice. Radiology 2007; 244:
356-378. (レベル 3b)
22
④ 両側乳房同時撮像
両側乳房の同時撮像が勧められるか?
推奨グレード A : 両側乳房の同時撮像が強く勧められる。
同時性両側乳がんは 2-3%で報告されているが、実際にはさらに多いと考えられている〔1〕。
微小な乳がんを見落とさないためには、両側とも条件のよい早期相で撮像すべきである
〔1,2〕。
正常乳腺や乳腺症が増強効果を示し乳がんとの鑑別が問題になることがある。これらの増
強効果は左右対称性に認められることが多いため、両側撮像では左右を比較することで診断
に役立てることが可能である〔3〕。Field of view (FOV) を両側乳房に広げることで、空間分解
能が低下したり、脂肪抑制が不均一となったりしやすいので注意を要する。FOV を片側乳房
に絞る片側撮像では空間分解能の向上や脂肪抑制の均一性が得やすい〔3〕が、両側乳房を
撮像するには、左右別々に時間をずらして撮像する必要があり、片側のどちらかが早期相の
至適撮像タイムウィンドウをはずすことになるため推奨できない。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “technique”」を参考にして作成した。また American
College of Radiology (ACR)が発行したガイドラインを参照した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) ACR practice guideline for the performance of contrast–enhanced magnetic resonance
imaging
(MRI)
of
the
breast.
American
college
of
radiology.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/breast/mr
i_breast.aspx 2008,American College of Radiology, Reston, VA. (レベル 1a)
3) Kuhl C. The current status of breast MR imaging. Part I. Choice of technique, image
interpretation, diagnostic accuracy, and transfer to clinical practice. Radiology 2007; 244:
356-378. (レベル 3b)
23
⑤ T2 強調画像
T2 強調画像の撮像は勧められるか?
推奨グレード B : 科学的根拠があり、T2 強調画像の撮像は行うよう勧められ
る。
T2 強調画像では乳がんは乳腺組織と等信号を示す場合が多く、通常腫瘍の描出は難しい。
しかし、嚢胞性病変や粘液癌,粘液腫様間質を伴う線維腺腫などは豊富な水分の存在により
強い高信号を示し明瞭に描出されるので有用性が高い〔1-4〕。撮像には脂肪抑制 Fast spin
echo (FSE) 法が推奨される。乳房は脂肪に富むため、脂肪抑制法はコントラストを改善する
点で有効である。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “T2”」、医学中央雑誌 「“MRI” AND “撮像法”」 を参考
にして作成した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) Kuhl CK, Klaschik S, Mielcarek P, et al. Do T2-weighted pulse sequences help with the
differential diagnosis of enhancing lesions in dynamic breast MRI? J Magn Reson Imaging
1999; 9:187–196. (レベル 4)
3) 磯本 一郎, 輿石 剛, 沖本 智昭, ほか.脂肪抑制 T2 強調像における乳腺腫瘤内に見
られる著明な高信号域について.その分類と病理組織学的背景因子の検討. 日医放誌
2004; 64: 99-106. (レベル 4)
4) Monzawa S, Yokokawa M, Sakuma T, et al. Mucinous carcinoma of the breast: MR imaging
features of pure and mixed form with histopathologic correlation. AJR Am J Roentgenol
2009; 192:125-131. (レベル 4)
24
⑥ T1 強調画像
T1 強調画像の撮像は勧められるか?
推奨グレード B : 科学的根拠があり、T1 強調画像(脂肪抑制なし)の撮像は行
うよう勧められる。
T1 強調画像では乳がんは乳腺組織と等信号を示し不明瞭である場合が多く、検出は通常
困難である。しかし、脂肪性乳房では腫瘤が脂肪に囲まれるため描出は良好であり、形状や
辺縁の評価に有用である。また、T1 強調画像は過誤腫などでみられる腫瘤内の脂肪の検出
にも有用である〔1〕。脂肪の存在は T1 強調画像で高信号を示し、脂肪抑制 T1 強調画像で信
号低下を認めることで確認できる。乳房では脂肪を含む病変は脂肪腫や過誤腫などの良性
病変と考えてよい。血性乳汁、嚢胞内出血などにみられるヘモグロビン変性物質 (メトヘモグ
ロビン)も T1 強調画像で高信号を示す。脂肪抑制 T1 強調画像で信号低下がみられないこと
により脂肪と区別できる。撮像には短時間で撮像可能な Gradient echo (GRE)法で十分である
〔2〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “technique”」、医学中央雑誌 「“MRI” AND “撮像法”」
を参考にして作成した。
文献
1) Weinstein S, Rosen M. Breast MR imaging: current indications and advanced imaging
techniques. Radiol Clin North Am 2010; 48: 1013-1042. (レベル 3b)
2) 門澤 秀一, 黒木 嘉典,山下 康行.日本磁気共鳴医学会研究プロジェクト「ル-チン
MRI撮像法の標準化検討」成果報告 - 乳腺. 日磁医誌 2008; 28: 196-209. (レベ
ル 3b)
25
⑦ 拡散強調画像
拡散強調画像の撮像は勧められるか?
推奨グレード C1 : 科学的根拠はないが、拡散強調画像の撮像は行うよう勧め
られる。
乳がんは細胞密度が高く拡散が制限されるため、拡散強調画像で高信号を示し、造影剤
を使用することなく乳がんの描出が可能である。非浸潤癌や触知不能な乳がんの検出に限界
が示されているが、感度は比較的高く、検出に際して有用性が高い〔1-4〕。良悪性の鑑別に
も利用されているが、高信号を呈する良性病変も経験され限界がある。解像度は低く,歪み・
アーチファクトも強いことから、詳細な形態学的観察は通常困難である。
拡散の状態を数値化した指標である ADC 値は乳がんでは低下し、ADC map では腫瘍が
低値域として描出される.ADC 値による良悪性の鑑別は可能であるが、重なりがあり限界がみ
られる〔2〕。なお、ADC 値は Region of interest (ROI) の設定方法、b factor の選び方、そのほ
か撮像パラメーターによって変化するので、導入する際には慎重に検討を進める必要がある。
また、ADC 値は使用するMR装置によっても異なるので、単純な比較はできず universal には
使えない点にも注意が必要である〔5〕。
(*注:造影MRIを行うことを前提として、拡散強調画像の撮像を追加することに対する推奨
度は C1)
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “diffusion weighted imaging”」を参考にして作成した。
また米国国立癌研究所(NCI)主催の国際的な公開コンセンサス会議でまとめられた資料を参
照した。
文献
1) Kuroki-Suzuki S, Kuroki Y, Nasu K, et al. Detecting breast cancer with non-contrast MR
imaging: combining diffusion-weighted and STIR imaging. Magn Reson Med Sci 2007; 6:
21-27. (レベル 4)
2) Tozaki M, Fukuma E. 1H MR spectroscopy and diffusion-weighted imaging of the breast:
are they useful tools for characterizing breast lesions before biopsy? AJR Am J
Roentgenol 2009; 193: 840-849. (レベル 4)
3) Yabuuchi H, Matsuo Y, Sunami S, et al. Detection of non-palpable breast cancer in
26
asymptomatic women by using unenhanced diffusion-weighted and T2-weighted MR
imaging: comparison with mammography and dynamic contrast-enhanced MR imaging. Eur
Radiol 2011; 21: 11-17. (レベル 4)
4) Baltzer PA, Benndorf M, Dietzel M. Sensitivity and specificity of unenhanced MR
mammography (DWI combined with T2-weighted TSE imaging, ueMRM) for the
differentiation of mass lesions. Eur Radiol 2010; 20: 1101-1110. (レベル 4)
5) Padhani AR, Liu G, Koh DM, et al. Diffusion-weighted magnetic resonance imaging as a
cancer biomarker: consensus and recommendations. Neoplasia 2009; 11: 102-125. (レベ
ル 1a) (注: 本論文中に拡散強調画像の撮像を推奨する記載はない)
27
⑧ ダイナミックMRI
⑧-(1) 時間信号曲線 (Time intensity curve: TIC) 解析
乳房MRIにダイナミック撮像による時間信号曲線 (Time intensity curve: TIC)の
解析は勧められるか?
推奨グレード A : 乳房MRIにダイナミック撮像による TIC の解析は強く勧めら
れる。
乳がんは早期に強い増強効果を示し、ついで漸減性の増強効果を示しやすいのに対して、
良性の腫瘍や病変は漸増性の増強効果を示すことが多い。 これを基に、ダイナミックMRIの
TIC の解析が腫瘍の良悪性の診断に利用されている〔1-3〕。
TIC の解析には少なくとも造影剤静注前および腫瘍の増強効果のピークを評価するための
早期相、ピーク後の増強効果の推移を観察するための後期相の少なくとも 3 回の計測が必要
である〔4〕。TIC 解析の至適な時間分解能(ダイナミック MRI の各相の撮像時間)について、
欧州乳房画像診断学会 (European Society of Breast Imaging: EUSOBI) では乳がんの増強
効果のピークは造影剤静注後 2 分以内に生じることから早期相のピークを確実に捉えるため
には、 1-2 分の高い時間分解能が必要としている〔4〕。2 分を超える時間分解能で検査した
場合[例えば TR が長い 3D-gradient echo (3D-GRE)を使用]には早期相でのピークを捉えら
れずに、washout pattern を見逃す危険性がある〔1〕。可能であれば時間分解能は1分が望ま
しいが、時間分解能を高めるために空間分解能を犠牲にすることは好ましくなく、むしろ逆に
時間分解能を若干低下させても空間分解能を高めた方が確信度は向上する〔5〕。なお 1 分未
満の時間分解能によるメリットはあまりないと考えられている〔3〕。後期相については、EUSOBI
では造影剤静注後 5-7 分後の撮像を推奨している〔4〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “dynamic” (OR “contrast”)」を参考にして作成した。
文献
1) Kuhl CK, Mielcareck P, Klaschik S, et al. Dynamic breast MR imaging: are signal intensity
time course data useful for differential diagnosis of enhancing lesions? Radiology 1999;
211: 101-110. (レベル 4)
2) Fischer U, Kopka L, Grabbe E. Breast carcinoma: effect of preoperative
contrast-enhanced MR imaging on the therapeutic approach. Radiology 1999; 213:
881-888. (レベル 4)
28
3) Kuhl C. The current status of breast MR imaging. Part I. Choice of technique, image
interpretation, diagnostic accuracy, and transfer to clinical practice. Radiology 2007; 244:
356-378. (レベル 3b)
4) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18:1307-1318. (レベル 1a)
5) Kuhl CK, Schild HH, Morakkabati N. Dynamic bilateral contrast-enhanced MR imaging of
the breast: trade-off between spatial and temporal resolution. Radiology 2005; 236:
789-800. (レベル 4)
29
⑧-(2) 造影早期相
造影早期相は乳がんの診断に勧められるか?
推奨グレード A : 造影早期相は乳がんの診断に強く勧められる。
ダイナミックMRIにおいては造影剤静注後 1-2 分後の早期相の撮像が推奨される。乳がん
は比較的血流に富む腫瘍で、造影剤静注後 1-2 分後にもっとも強い増強効果を示す。一方、
乳腺組織は漸増性の増強効果を示す。このため、静注後 1-2 分後の早期相で腫瘍と乳腺組
織間のコントラストは最大となり、腫瘍はもっとも良好に描出される。さらに遅い時相 (静注後 2
-3 分後以降)でも描出されるが、腫瘍の増強効果が減弱したり、乳腺組織の増強効果が強く
なってきたりするためコントラストは低下することが多く、腫瘍の辺縁や内部構造の評価が困難
になったり、腫瘍を見逃したりする危険性が高くなる〔1-3〕。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “contrast”」を参考にして作成した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) Kuhl CK, Mielcareck P, Klaschik S, et al. Dynamic breast MR imaging: are signal intensity
time course data useful for differential diagnosis of enhancing lesions? Radiology 1999;
211:101-110. (レベル 4)
3) Fischer U, Kopka L, Grabbe E. Breast carcinoma: effect of preoperative
contrast-enhanced MR imaging on the therapeutic approach. Radiology 1999; 213:
881-888. (レベル 4)
30
⑧-(3) 空間分解能
高空間分解能画像の撮像は必要か?
推奨グレード A : 高空間分解能画像の撮像は必要である。
ダイナミックMRIの空間分解能については、大きさ 5 mm の病変の検出が必要であり、撮像
画像の voxel の大きさは xyz 方向全てで 2.5mm 以下が望ましいとされている〔1〕。スライス面
内分解能については1X1mm 以下が推奨される〔1,2〕。スライス厚については、ACR は 3 mm
以下、EUSOBI は 2.5 mm 以下を推奨している〔1,2〕。3D-GRE では 1-2mm のスライス厚の画
像の撮像が可能であり、推奨される。3D-GRE は撮像に時間がかかるのが難点であったが、
TR の短い高速型の開発により撮像時間を大幅に短縮することが可能になり、パラレルイメー
ジングを併用することで、両側乳房に対して高い空間分解能を保ちながら、撮像時間 1-2 分
の時間分解能の撮像ができるようになっている。コントラストの向上のため脂肪抑制法の併用
が勧められる。
<参考にした二次資料>
European Society of Breast Imaging (EUSOBI), American College of Radiology (ACR)が発行
したガイドラインを参照した。
文献
1) Mann RM, Kuhl CK, Kinkel K, et al. Breast MRI: guidelines from the European Society of
Breast Imaging. Eur Radiol 2008; 18: 1307-1318. (レベル 1a)
2) ACR practice guideline for the performance of contrast–enhanced magnetic resonance
imaging
(MRI)
of
the
breast.
American
college
of
radiology.
http://www.acr.org/SecondaryMainMenuCategories/quality_safety/guidelines/breast/mr
i_breast.aspx 2008,American College of Radiology, Reston, VA. (レベル 1a)
31
9.乳房MRIの読影方法
1)ACR BI-RADS-MRI
マンモグラフィ用語の世界標準として、ACR が作成した BI-RADS (Breast Imaging Reporting
and Data System)が広く普及している。2003 年には BI-RADS-Mammography の第 4 版と
BI-RADS-US および BI-RADS-MRI の第 1 版〔1〕が出版されており、今後、BI-RADS-MRI の第
2 版が出版される予定である。
BI-RADS-MRI に記述されている内容は“病変の評価に用いる用語”と“最終的なカテゴリー
分類”である。本ガイドラインにおいても、MRI病変に対して BI-RADS-MRI の定める用語および
カテゴリー分類を用いることを推奨する。
2)カテゴリー分類
マンモグラフィのカテゴリー分類では、次の検査(主に超音波検査)に進むというカテゴリー0
が頻用されているが、MRIはマンモグラフィおよび超音波に比較して最も乳がん検出感度の高
いモダリティであるため、カテゴリー0 を用いることは推奨されない。また、乳がんと診断された症
例で用いるカテゴリー6 も、本ガイドラインにおいて使用されることはない。したがって、カテゴリ
ー1 からカテゴリー5 を BI-RADS-MRI に準じて使用することを推奨する (参考資料2)。
3)読影方法
ACR が作成した BI-RADS では、どのモダリティにおいても実際の読影方法については言及し
ていない。つまり、何の所見をもってカテゴリー判定をするかの明確な基準は設けられていない。
また、BI-RADS を用いた報告〔2-10〕をみても、統一された読影基準は報告されていない。しか
し、読影基準が定められていなければ適切かつ再現性のあるカテゴリー分類は困難であるため、
病変の形態と血流情報を組み合わせた簡便な読影方法も提案されている〔11〕。本ガイドライン
では、特定の読影基準を推奨することはしないが、乳房MRIの読影に精通した放射線科医が
下記論文〔2-11〕を参考にしながら読影すべきであると考える。
<検索式・参考にした二次資料>
PubMed 「“breast” AND “MRI” AND “BI-RADS”」を参考にして作成した。
文献
1) Breast imaging reporting and data system (BI-RADS), fourth ed. American College of
Radiology. http://www.acr.org/. Reston, VA: American College of Radiology, 2003.
2) Lévy L, Suissa M, Bokobsa J, et al. Presentation of the French translation of the Breast
Imaging Reporting System and Data System (BI-RADS). Gynecol Obstet Fertil 2005; 33:
338-347.
3) Tozaki M, Igarashi T, Fukuda K. Positive and negative predictive values of BI-RADS-MRI
descriptors for focal breast masses. Magn Reson Med Sci 2006; 5: 7-15.
32
4) Tozaki M, Igarashi T, Fukuda K. Breast MRI using the VIBE sequence: Clustered ring
enhancemenet in the differential diagnosis of lesions showing non-masslike enhancement.
AJR Am J Roentgenol 2006; 187: 313-321.
5) Tozaki M, Fukuda K. High-Spatial-Resolution MRI of non-masslike breast lesions:
interpretation model based on BI-RADS MRI descriptors. AJR Am J Roentgenol 2006;
187: 330-337.
6) Tardivon AA, Athanasiou A, Thibault F, et al. Breast imaging and reporting data system
(BIRADS) magnetic resonance imaging illustrated cases. Eur J Radiol 2007; 61: 216-223.
7) Rosen EL, Smith-Foley SA, DeMartini WB, et al. BI-RADS MRI enhancement
characteristics of ductal carcinoma in situ. Breast J 2007; 13: 545-550.
8) Agrawal G, Su MY, Nalcioglu O, et al. Significance of breast lesion descriptors in the ACR
BI-RADS MRI lexicon. Cancer 2009; 115: 1363-1380.
9) Gutierrez RL, DeMartini WB, Eby PR, et al. BI-RADS lesion characteristics predict
likelihood of malignancy in breast MRI for masses but not for nonmasslike enhancement.
AJR Am J Roentgenol 2009; 193: 994-1000.
10) Baltzer PA, Benndorf M, Dietzel M, et al. False-positive findings at contrast-enhanced
breast MRI: a BI-RADS descriptor study. AJR Am J Roentgenol 2010; 194: 1658-1663.
11) Tozaki M, Fukuma E. 1H MR spectroscopy and diffusion-weighted imaging of the breast:
are they useful tools for characterizing breast lesions before biopsy? AJR Am J Roentgenol
2009; 193: 840-849.
33
10.参考資料
<参考資料1: 乳がんスクリーニングだけでなく、日常の乳がん検査にも推奨される>
1) 造影剤投与量,投与方法
パワーインジェクターを用いて、ガドリニウム造影剤の標準用量 0.1 mmol/kg を 2-3mL/秒で
急速静注し、生理食塩水でフラッシュする。
2) 撮像シーケンスについて
-脂肪抑制 T2 強調画像
FSE TR 3000-5000 / TE 80-100 / ETL 13-19
脂肪抑制あり、STIR でもよい
slice 厚 4-5mm
撮像時間 2-4 分
断面 Ax, Cor, Sag, (適宜選択)
*撮像には脂肪抑制 FSE 法が推奨される。乳房は脂肪に富むため、脂肪抑制法はコントラス
トを改善する点で有効である。chemical shift selective (CHESS) に代表される周波数選択的
脂肪抑制法で良好な抑制効果が得られない場合は STIR を用いるのがよい。
-T1 強調画像
2D-GRE TR 150-200 / TE minimum-in phase / フリップ角 90°
脂肪抑制なし
slice 厚 4-5 mm
撮像時間 30-60 秒
断面 Ax, Cor, Sag, (適宜選択)
-拡散強調画像
SE-single shot EPI, TR 3000-5000 (>2500), TE minimum (<80)
脂肪抑制あり,STIR でもよい
b factor [0, (50-100)*, 750-1000 ]
Motion probing gradient 3 軸
slice 厚 5-7 mm (T1,T2 強調画像と統一する事が望ましい)
撮像時間 2-3 分
断面 Ax, Cor
*血流の早い組織では b=0, 1000 の組み合わせで ADC を算出した場合潅流の影響を受
け ADC が高く出てしまう傾向がある。潅流の影響を最小限にするには撮像時間が長くなる
34
が b=50-100 と 1000 の組み合わせによる算出が勧められる。
-ダイナミックMRI
高速型 3D-GRE TR 5-10 / TE minimum-in phase / フリップ角 10-20°
脂肪抑制あり(脂肪抑制なしの場合は subtraction 法)
slice 厚 1-2 mm
撮像時間 1-2 分
断面 Ax, Cor (適宜選択)
time intensity curve の計測には、少なくとも 3 回撮像する。
-ダイナミックMRI後の撮像 (補助的な撮像)
ダイナミックMRIより高い空間分解能やダイナミック MRI と異なる断面で観察し,ダイナミック
MRIに情報を付加する目的で行う。しかし,ダイナミックMRI後(造影剤静注後7,8 分以降)の
撮像は,病変の描出能が低いため必ずしも推奨されていない。
また,造影剤注入後 3-6分の時間帯を利用して,ダイナミックMRIの間(早期相と後期相の
間)に更に高い分解能で撮像を追加する方法もある。
i) 2D-GRE TR 150-200 / TE minimum-in phase / フリップ角 90°
脂肪抑制あり
slice 厚 4-5 mm
撮像時間 1-2 分
目的に合わせて FOV、断面を設定(例:病変を疑う部位の詳細画像)
ii) 高速型 3D-GRE TR 5-10 / TE minimum-in phase / フリップ角 10-20°
脂肪抑制あり
slice 厚 1-2 mm
撮像時間 1-3 分
目的に合わせて FOV、断面を設定(例:病変を疑う部位の詳細画像)
3) 画像表示法について
-差分画像(subtraction 法)
乳房内には脂肪組織が多いので、ダイナミックMRIの撮像には脂肪抑制を使用した方が病
変の増強効果を捉えやすい。脂肪抑制を使用できない場合には subtraction 法を用いるとよ
い。
35
<参考資料2>
*BI-RADS-MRI カテゴリー
a. Assessment Is Incomplete
Category 0
Need Additional Imaging Evaluation
b. Assessment Is Complete – Final Categories
Category 1
Negative
Category 2
Benign Finding(s)
Category 3
Probably Benign Finding
-Short-Interval Follow-Up Suggested
Category 4
Suspicious Abnormality
-Biopsy Should Be Considered
Category 5
Highly suggestive of Malignancy
-Appropriate Action Should Be Taken
Category 6
Known Biopsy -Proven Malignancy
-Appropriate Action Should Be Taken
マンモグラフィ用語の世界標準として、ACR が作成した BI-RADS が広く普及している。MRIは最
も乳がん検出感度の高いモダリティであるため、カテゴリー0 を用いることは推奨されない。がんと診
断された症例で用いるカテゴリー6 も、乳がん発症ハイリスクグループに対する乳房 MRI スクリーニ
ングにおいて使用されることはない。したがって、本ガイドラインでは、以下のカテゴリー1 からカテゴ
リー5 を使用することを推奨する。
カテゴリー 1
陰性
カテゴリー 2
良性 (のう胞など)
カテゴリー 3
良性疑い
カテゴリー 4
悪性疑い
カテゴリー 5
悪性を強く疑う
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