妊娠中に乳癌とわかったらどうすれば よいですか?(妊娠期ごとの対応も含めて) 聖路加国際病院ブレストセンター 猿丸修平 妊娠中に乳癌が発見されるケースは、出産の わたり禁忌であることに留意する必要がありま 高年齢化に伴い今後増えていくことが予想され す(図1)。 ます。かつて妊娠期乳癌の予後は通常の乳癌よ 妊娠中の化学療法に関する報告はこれまでケ り悪いと考えられていましたが、最近では必ず ースシリーズなどがほとんどでしたが、FAC療法 しもそうではないとする報告が出てきています。 ベースラインリスク 乳癌では、術後補助療法を ■妊娠継続か否か 行わない場合の1年当たり 妊娠初期に乳癌と診断された場合、中絶すべ の再発リスク(annual odds を使用した前向き試験が MD Anderson cancer centerより報告されています 2)。これによると妊 娠中期以降の化学療法曝露による胎児奇形リス きかどうかという判断に迫られますが、中絶によ recurence:AOR)をベース クは、非曝露例のリスクと差がないとされていま って予後が改善するというデータはありません 。 ラインリスクとして用いて す。アントラサイクリン系抗癌剤ベースレジメンの安 1) いる。 一方、妊娠継続下での治療により、予後を損なう 全性が高いとされ、メトトレキサートは流産や胎児 ことなく出産が可能となるケースがあります。挙 奇形発生の可能性が高いことがわかっています。 児希望の実現にあたっては、患者のベースライン タキサン系抗癌剤やトラスツズマブに関してはデ 妊娠中期 リスク や、化学療法による胎児奇形発生リスク ータ不足の段階で現在のところ使用すべきでな 妊娠期間を三分割した中間 などについての十分な説明と同意が必要です。 の期間で、妊娠16週から28 ■妊娠期乳癌の治療 週未満までをいう。欧米の いと考えられています。図2 に聖路加国際病院に おける妊娠期乳癌症例の治療経過を示します。 second trimester(妊娠期 局所治療、全身治療ともに通常の乳癌に対す 間の中間の1/3)は妊娠14週 る適応に準じて行いますが、化学療法が妊娠初 から2 7週の期間のことで、 期に、ホルモン療法、放射線療法が妊娠全期に 出産時の血液学的合併症リスク回避のため、 妊娠中の化学療法の投与は 35 週までに止める ようにします。 少しズレがある。 図 1 妊娠期別にみた乳癌の治療戦略 妊娠初期(16週未満) 妊娠中期 (16〜28週未満) 中絶 or 妊娠継続を決定 妊娠後期(28週以降) 乳房全摘または 部分切除 + 腋窩郭清 術前化学療法 乳房全摘または 部分切除 + 腋窩郭清 術後化学療法を開始 出産後に乳房全摘または 部分切除 + 腋窩郭清 術後化学療法を開始 ± 出産後に放射線療法 ± 出産後にホルモン療法 ± 出産後に放射線療法 ± 出産後にホルモン療法 ± 出産後に放射線療法 ± 出産後にホルモン療法 妊娠継続の場合 乳房全摘 + 腋窩郭清 妊娠中期に術後化学療法を開始 ± 出産後に放射線療法 ± 出産後にホルモン療法 図 2 聖路加国際病院 妊娠期乳癌9例の治療経過 1 2 3 4 5 6 7 8 9 手術(全) AC(4) AC療法(60mg/600mg/m2 3週毎) T療法(75mg/m2 3週毎) 手術(局) 手術(全) AC(1) 手術(温) AC(4) 手術(温) AC(4) 手術(全) AC(3) 手術(全) AC(3) 分 娩 RT RT T(4) AC(4) HT AC(1) A C:ドキソルビシン、シクロホスファミド( )内数値はサイクル数 R T :放射線療法 H T :ホルモン療法 4 乳癌診療 T IPS & T RAPS NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology 『Breast Cancer』 http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/ pdf/breast.pdf HT AC(1) AC(4) AC(3) HT 妊娠期乳癌の対応は、NCCNガイドラインに記載されています。 参考文献 手術(温) RT HT T(4) 手術(全) RT T:ドセタキセル( )内はサイクル数 1)Nugent P,O Connell TX:Breast cancer and pregnancy. Arch Surg 1 2 0:1221-1224, 1985 2)Berry DL,Theriault RL, Holmes FA, et al:Management of breast cancer during pre-gnancy using a standardized protocol. J Clin Oncol 17:855-861,1999
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