基本である音声サービス用の グローバル音声・ 信号ネットワークの整備に

エンタープライズICT総合誌 月刊ビジネスコミューニケーション(Webサイトへ)
特集 NTTコミュニケーションズの音声新ネットワークへの取組み
インタビュー
基本である音声サービス用の
グローバル音声・
信号ネットワークの整備に注力
国内外シームレスなサービスの提供に向け、海底ケーブルから DC、上位レイヤのサービ
スまで、トータルな環境整備に取り組む NTT コミュニケーションズ。同社では、グロー
バルでのデータネットワークの整備に加え、ネットワークサービスの基本として、グロ
ーバルな音声・信号ネットワークの整備にも取り組んでいる。取組みの状況を、伊藤幸
夫ネットワーク事業部長にうかがった。
国内外シームレスを基軸に、
物理環境から上位レイヤの
サービスまでトータルに整備
す。これまで GIN(グローバル IP
に加え、Arcstar グローバル IP-
けないのが音声サービスであると思
VPN やグローバル e-VLAN サービ
っています。
スも展開してきました。カバーエリ
として国内外シームレスなサービス
ISP
として国内外シームレスなサー
アとしては、全世界に展開していま
の提供に向けた取組みを加速されて
ビスの提供に向けた取組みを加速さ
すが、Universal One の展開に合わ
れています。はじめに、最近の取組
せて、グローバル全体でバックボー
み状況からお聞かせください。
ンの整備をしたうえで、POP
況からお聞かせください。
伊藤
NTT コミュニケーションズ
伊藤 幸夫氏
バックボーンネットワーク)の提供
− グ ロ ー バ ル キ ャ リ ア 、 T i eISP
r1
―グローバルキャリア、Tier1
います。はじめに、最近の取組み状
NTT コミュニケーションズ㈱
ネットワーク事業部長
グローバルな音声・信号ネット
ワークの整備も不可欠
―貴社は、国際電話サービスも手が
−貴社は、国際電話サービスも手
(Point of Presence)の構築・整備、
けてきました・・・・。
がけてきました・・・・。
(以下、NTT Com)は、国内での
さらには海外データセンターの拡張
伊藤
サービス展開に加え、海外において
などを含めてトータルに整備してい
モバイル事業者向けに共通線の信
も日系企業はもちろん世界のグロー
くという取組みを行っています。も
号中継などを提供しています。ま
バル企業に対してグローバル規模で
ちろん海底ケーブルの拡充にも注力
た、データローミングのサービス
の VPN サービスや、グローバル
しており、本年 1 月末には東京とシ
も手がけてきました。今後、ます
Tier1 ISP としての各種ネットワー
ンガポール間を最も少ないレイテン
ますこの流れは加速すると捉えて
クサービスを提供しています。現在
シーでつなぐ高信頼の新しい大容量
います。しかし、従来の TDM ベー
は、本格的に国内外シームレスにビ
光海底ケーブル「ASE(Asia
スの通信方式が、モバイルを中心
ジネスを拡大していくという戦略で
Submarine-cable Express)」の建
に IP に変わりつつあります。本格
事業展開しており、その象徴的なサ
設開始を発表しました。このように
的に海外向け音声サービスの IP 化
ービスとして、あらゆるものを国内
海底ケーブルからデータセンター、
が進展するという流れの中で、グ
外シームレスにつなぐ新 VPN サー
さらには「Universal One」、上位
ローバルな音声・信号ネットワー
ビス「Universal One」の提供があ
レイヤの「BizCity」などのサービ
クの整備も並行して行っています
げられます。本サービスは、今春か
スまで含め、トータルに整備をして
らまず国内向けに開始し、逐次グロ
いこうということで現在取り組んで
―国際電話を中心に、これまでにも
−国際電話を中心に、これまでに
ーバルにサービスを拡大していきま
います。そうした中で、忘れてはい
海外の様々な通信事業者と接続して
も海外の様々な通信事業者と接続し
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NTT Com では、国際電話や、
(図1参照)。
ビジネスコミュニケーション
2011 Vol.48 No.6
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トラフィックが激増する環境になっ
1.
グローバルな音声信号ネットワークのIP化(SIGTRAN SIP SIP-I)と
既存TDMネットワークとの相互接続
2.
海外拠点間、海外拠点と日本間の内線を直接IPにて(VoIP)接続
3.
モバイルのローミング信号のIP化(GRX)
1.
グローバル音声
信号ネットワーク技術
信号ネットワークは
SIGTRAN SIP SIP-Iへ
てきました。このため現行のネット
ワークだけでは、カバーしきれない
新音声ネットワーク(IPX)
状況になっており、第2の流れが来
高品質なIPネットワーク
ているのではないかと捉えていま
2.
企業向けIP
コミュニケーションサービス
す。現在、NTT Com でも、グロー
3.
モバイルの
ローミング技術(GRX)
IP内線電話を
グローバルに実現
バル全体のネットワーク整備を行っ
モバイルローミング信号
IP化
ており、この流れとのタイミングが
従来の共通線信号
接続も整備
通信事業者
企業の
プライベートネットワーク
あっています。できれば先行したい
モバイル通信事業者
のですが、少なくとも流れと同期が
図 1 新音声ネットワークの概要
合うように整備していきたいと考え
てきた・・・・。
きた・・・・。
ら主流になるモバイルの音声・デー
伊藤
今までも、世界各国のいろん
タローミングのためにも必要な投資
な事業者と、接続しています。もち
と考えると、それなりに見合うと思
ろんいくつかのモバイルオペレータ
っています。
ーとも接続をしています。その流れ
―欧州が少し進んでいるということ
−欧州が少し進んでいるというこ
の中で IP 化があり、音声ローミン
ですが、その背景は・・・・。
とですが、その背景は・・・・。
―音声・信号ネットワークの本格的
−音声・信号ネットワークの本格
グ用に使っている共通線信号方式の
伊藤
な IP
いつ頃をお考えですか。
的な
IP接続は、
接続は、いつ頃をお考えで
I P 化(S I G T R A N 化)と、G R X
も IP 化、音声も IP 化していくとい
伊藤
(GRPS Roaming eXchange)があ
うことで、IPX(IP eXchange)と
接続が確認できたところから実施し
げられます。いずれも欧州の
いう概念が出てきました(図2参
たいと考えています。すでに、IP
GSMA(GSM Association)などの
照)。欧州の大手キャリアである BT
によるデータローミングの接続実験
議論の中で進んでいる話であり、今
や Orange、ドイツテレコム、テレ
や、VoIP(H.323 や SIP)の接続実
までは欧州のモバイルオペレーター
フォニカなどは、固定からモバイル
験などは行っていますが、リアルな
が少し進んでいました。私どもも、
まで全部手がけていますから、彼等
海外事業者とすべての方式について
それらの動きを見ながら、グローバ
を中心として数年前から既に技術的
の接続実験を行っているわけではあ
ルな音声・信号ネットワークの整備
な確認の実験を行っていました。た
りません。SIP については、これま
を進めていきたいと考えています。
だし、今までの
もう1つは、国内でも PSTN(公
TDM 資産がまだ
衆電話交換網)のマイグレーション
沢山残っている
の話がありますが、海外接続でも同
ため、それほど
じような話があり、既存の TDM ベ
進んでいません
共通線信号も IP 化、データ
ています。
今年度中には、SIGTRAN、
SIP/SIP-I への移行を開始
早ければ今年度中には、相互
・世界中の携帯・固定通信事業者とのコネクティビティを提供
・各種国際サービス・ローミングサービスをIP上に統合し、
高品質なIPネットワーク上でワンストップで提供
<データローミング(GRX)、信号(SIGTRAN)、音声>
NTTCommunications’
Services
1. GRX
Mobile data roaming
ースの装置類の寿命が当然くるわけ
が最近、モバイ
踏まえ、それに向けて、上手く計画
ルによるデータ
的にマイグレーションしていくこと
通信の定額制に
が必要です。これは単に国際電話サ
加えスマートフ
ービスのためだけではなく、これか
ォンも登場し、
2011 Vol.48 No.6
ArcstarグローバルIP-VPN
(IPX Compliant NW)
でした。ところ
です。したがって、IP 化の流れを
ビジネスコミュニケーション
Router
2. SIGTRAN
SS7 over IP.(SMS and roaming signaling)
3. Voice over IPX
VoIP
Mobile
Operator’
s
Network
GIN(*)
(Internet)
(*)Global IP Network
4. Voice over Internet
5. IP Transit
6. Global Roaming Signaling(SS7)
TDM Network
7. Voice over TDM
図 2 NTT Com IPX のサービス
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特集 NTTコミュニケーションズの音声新ネットワークへの取組み
でにも最安の国際電話事業者と接続
のか、品質レベルはどこまで規定す
チャレンジしていきたいと考えてい
するという IP テレフォニーのブロ
るのか等々を決めながらどのような
ます。VoIP、SIGTRAN、GRXなど
ーカーサービスである「クリアリン
装置を導入すべきかを検討していく
の装置類のベンダーは、10社程度で
グハウス」を提供してきました。現
ことになります。
あることから、各ベンダーの実装方
在は、SIP のいろんな接続方式につ
もう1つは、最近、日系およびグ
いて、台湾やイタリアのキャリアと
ローバル企業を問わず、海外拠点間
できるのではないかと思っています。
トライアルを実施しています。SIP
や日本と海外拠点の内線を直接
−各種検証などキャリアやベンダ
―各種検証などキャリアやベンダー
も標準化されたとはいえ、国や装置
VoIP で接続したいという要望が強
を含めた国際的な協調作業が重要に
ーを含めた国際的な協調作業が重要
によって、実装者による仕様の解釈
くなっています。NTT Com では、
なる・・・・。
になる・・・・。
の相違に起因する方言のようなもの
海外へ内線接続する国内外シームレ
伊藤
があるため、相互接続実験は不可欠
スな企業向け「グローバル IP 内線
境だけでなく、リアルなネットワー
です。また、各国の事業者ごとに
通信サービス」を昨年 12 月より提
ク上で、短期間に行っていくことが
TDM ネットワークのマイグレーシ
供開始していますが、今後どのよう
重要です。
ョン方針が異なるため、ある事業者
に SIP ベースで海外事業者と接続す
もう1つは、従来の TDM 接続の
は IP 接続、ある事業者は TDM 接続
るかの技術をできるだけ早く確立し
実績がある事業者はたくさんあり、
といった状況も考えられます。この
たいと考えています。
こういった事業者に対して IP 接続
法などを調べることによって、実現
ため、メディア GW の接続検証など、
技術的な検証作業を、ラボ環
を提案する際に、我々の知名度、プ
まだいくつかやるべきことがありま
レゼンス、強みがないと、サービス
キヤリアやベンダーとの国際的
な協調作業が必要
が広がりません。このため、NTT
ものからSIP接続などを始めていき、
− SIP
SIPの方言をどのような形で吸収
の方言をどのような形で吸
―
年横浜で開催された「GSIF
本格的なIPによるグローバル音声・
されるお考えですか。
収されるお考えですか。
信号ネットワークの整備は、来年度
伊藤
1つは、どんな方言があるか
working Forum)2010」における
中には完了したいと考えています。
をすべて調べて、NTT Com がゲー
世界各国の技術者との議論や情報交
−IP
IP化に向けた課題として、どのよ
化に向けた課題として、ど
―
トウェイのようなものを開発し、そ
換、今年 2 月にバルセロナで開催さ
のような点があげられますか。
うな点があげられますか。
れで吸収する方法が考えられます。
れた世界最大級のモバイル展示会
伊藤
もう1つは、NTT グループとして、 「Mobile World Congress(MWC)
す。こういった相互接続実験を行い
ながら、今年度中には確認ができた
1つは、現行の PSTN ベース
Com のプレゼンス向上に向け、昨
( Global Signaling and Inter-
のサービスや機能、品質・性能をす
SIP の仕様の曖昧さに起因する課題
2011」におけるブースを設けての
べて IP で実現することは難しく、
を解決するための方法を標準化して
PR 活動などを行いました。まずは、
どの程度まで近づけることができる
アピールしていく。そして、例えば
海外向けの GW は、NTT Com が手
かを確認する必要があります。この
アジアパシフィック地域のモバイル
がけているという形を作るのが先決
ためには先行する海外事業者の経験
オペレーターや固定事業者の賛同を
です。
が、各ベンダーの製品にどのように
得たうえで、その標準方式にあわせ
将来的には、SIP の変換、接続に
反映されているかを知る必要があり
ていただくような取組みを行って
伴ういろんな事務処理なども含めて
ます。それを把握したうえで NTT
いくという2つの方法が考えられ
トータルなサービスとして提供して
Com として、どのようなサービス
ます。
いきたいと考えています。
仕様でどんなネットワークアーキテ
まずは、NTT Com がゲートウェ
クチャにするのか、機能はどうする
イを用意して、解決していくことに
40
―本日は有り難うございました。
−本日は有り難うございました。
(聞き手・構成:編集長 河西義人)
ビジネスコミュニケーション
2011 Vol.48 No.6