高等学校における情報通信ネットワーク構築の実践的研究

高等学校における情報通信ネットワーク構築の実践的研究
Practical Investigation in respect of Constructing Information Network in High School
奈良県立奈良工業高等学校
教諭 筱 更 治1
1 問題と目的
今日、社会の国際化や情報化の進展は目覚ましい
ものがある。我が国においては、企業の経理や営業活
動、大学等での研究活動から医療に関わる活動や市場
調査等の情報収集や分析、さらには、生涯学習にかか
の一層の普及に伴って、学習者を取り巻く諸情報の量
わる教養的文化的活動、そしてゲームをはじめとする
である。
娯楽にかかわる分野など、あらゆる社会の分野におい
は加速度的に増加の一途を辿るものと考えられる。こ
れからの社会では、主体者に必要で有用な情報との接
触と、
興味本位であったり溢れる情報との遭遇の中で、
真に必要な情報を取捨選択する資質能力も問われるの
従って、初等中等教育において、これからの高度
て情報化が浸透しつつある。
これらは国内のみならず、
情報化社会に生き抜く資質能力の基盤を培うことは、
国際的な広がりを呈している。昨今、携帯情報端末と
急務であり、かつ、後期中等教育機関である高等学校
して、ポケットベルから携帯電話に移行が見られ、そ
が求められる教育内容の一部であると考えられる。特
の市場は中学生や高校生にも向けられている。ここに
に産業教育の一環に位置して産業技術者の育成にかか
も情報化社会と言われる所以がある。
わる職業高校では、早急に時代に対応した生徒の学習
中央教育審議会(1996)は、これからの教育を展望し
環境を整えるために、学校内において LAN を構築す
て、こうした社会の変化に対応する教育の在り方を提
ることが求められる。文部省(1997)も、情報教育の充
言している。特に、この 3∼4 年における世界的な情
実に関して、
「平成 11 年度までに公立学校において
報通信網の一つであるインターネットにも触れて、
は小学校で 22 台(児童 2 人に1台)
、中学校・普通科
「国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対
高等学校で 42 台(生徒1人に1台)
」を設置し、
「近
応する教育の在り方」と題し、以下のように述べてい
い将来、全国の学校がインターネットに接続されるこ
る。
「インターネット等の国際的な情報通信ネットワ
とを目指す。
」と展望しているのである。
ークを活用した教育活動を考えてみると、それは、単
本研究は、以上の視点から、高等学校における LAN
に情報に関する学習に資するというだけでなく、英語
構築に関わる実践を通して、国際化・情報化に対応す
が使用言語であれば英語のコミュニケーション能力の
る学校教育の実践課題を検討する。
向上に資するものでもあるし、また相手との情報交換
することとなる。
」これは、これからの社会において、
2 方法
本研究では、情報通信端末の一つである学校内に
地域情報通信ネットワーク(以下「LAN」と称する。)
設置されたパソコンの実際的な状況について、使用状
が、人と人の間、まさに人間社会のコミュニケーショ
況やその経緯、及び海外と日本の異同について検討す
ンに関わる資質能力の形成において有効性を示唆した
る。さらに LAN を敷設した場合の実践例やその課題
ものと考えられる。
について明らかにする。それらは、ダイアルアップに
等を通して、相手の国の文化や歴史などの学習にも資
同時に、情報化社会がもつ陰の部分にも注目が必
よるインターネット接続に関わる問題点、高等学校に
要である。社会の形成者として発達途上にある学習者
おける LAN 環境でのネットワーク運用及びインター
にとって、情報化社会がもたらす大量の情報は、プラ
ネットホームページ(以下、
「HP」と称する。)の利用
スと同時にマイナスとしても要因することは、すでに
ガイドラインの検討を含む。そして、高等学校におけ
様々に懸念されている。つまり、我々の社会は、LAN
る LAN 構築とその運用や展開について実践例をふま
1
Kohji Shino [email protected]
えながら、その在り方を検討する。
ーストラリアの LAN が、100 万人あたり、それぞれ
192、114、110 のに対し、日本では 15 であることを
3 情報通信ネットワーク化への志向
すでに高等学校には、多くのパソコンが設置され
ている。設置の初期においては、台数も各学校で数台
学校教育の教育課程に活かされて今後飛躍的に増加す
程度であったが、昨今では、高等学校の1クラスの生
ることが期待される。
挙げて「日本のネットワークの比率はわずかである。
」
と述べている。我が国における LAN の一層の利用は、
徒が同時に使用することが可能な程度が導入されつつ
ある。しかし、生徒の学習用として、20 台程度(2 人
に 1 台)が教室に設置されている場合もある。
4 学校 HP 等の利用指針
LAN に関連したインターネットで、生徒が最も関
授業における活用例では、4∼5 人の生徒を1グル
心を寄せている一つに、HP がある。本校は、約半年
ープとし 10 台以下のパソコンでも1クラスの授業展
前に、地元の ISP(インターネット・サービス・プロ
開が可能である。筆者がパソコンを利用した数学の研
バイダ)と契約し、暫定的に学校 HP を開設した。同
究授業では、2次関数のグラフにかかわった単元であ
時に学校 HP を閲覧するための専用の ISDN 電話回
った。簡単な画像処理をパソコン画面上に再現が可能
線を敷設し、職員室や工業科実習棟からデータ転送や
で、パラメータの変化とグラフの移り変わりが視覚的
ページの閲覧が開始された。
にも確認が容易であり、実際にこのような形態で実施
1998 年度からは、校内に国際交流推進委員会が設
された。この場合、指導者は、各グループから操作に
置され、国際化・情報化への対応の布石が打たれた。
かかわった様々な質問に対応することに時間が割かれ
同委員会の中に、学校 HP 管理部会(以下「部会」と
ることになり、継続して同形態で指導することには困
する。)が設けられた。工業高等学校の科構成の実状
難性が多いと考えられた。
から、各科や普通科担当教員及び定時制教員 10 名が
教職員の教務に関わるパソコン活用も、多くは個別
に使用されていて、データや関連資源の共有に関して
発展的な形態は浸透していない現状である。
たとえば、
委嘱を受けた。筆者も同上委員となり、部会の運営を
行うこととなった。
こうした学校内の組織構成にかかわる事項に関して、
文書ファイルの共有は、印刷媒体の交換による従前の
学校管理運営に携わる校長等管理職員の、21 世紀に
手法で行われたり、一部ではフロッピーディスク上の
生きる生徒の資質能力の育成にかかわった LAN に対
磁気データが交換されたりしている。
する理解と展望が背景となっていたことは言うまでも
パソコンは、オペレーティングシステム(OS)に
ない。また、予算の執行を伴う施設設備や通信費等も
より、利用形態が大きく規定される。多くのパソコン
必然的な課題であり、これらを想定した識見が校長を
は、近年グラフィカルでマウスによるクリッカブルな
はじめとする管理職員に具備されねばならない。
画面インターフェイスとなっている。しかし、マルチ
これまでは、学校管理者の命を受けて、インターネ
タスクであっても、
シングルユーザーを想定している。
ット利用について先進的な教員が、今後の利用につい
学校での利用のように一台のパソコンを多くの利用者
て実践を伴う調査運用を進めてきた。その後、公的な
が交代して使用するマルチユーザーに対応しているも
学校 HP 運営にあたり、校内組織が設けられた。学
のは少ない。今後の学校での利用は、複数の学習者の
校という公的性格を有する機関が提供する学校 HP
ために端末パソコンの環境維持管理も重視されねばな
では、一定の基準を設けている場合が少なくない。
らず、利用者ごとにセキュリティが確保される必要が
ミネソタ州ミネアポリス学校区教育委員会は、
ある。情報技術の進展により、これらの条件を徐徐に
WWW ページ作成のガイドラインを設定している。
(成
満たすOSが汎用されるに至り、パソコンはネットワ
田 滋(訳),1997)その目的は、
「1 ミネアポリス学校
ーク化が望まれるに充分な技術的基盤を確立しつつあ
区と学校区外の学校と相互にカリキュラムや授業、学
ると言える。同時に、学習者にとって、だれでもいつ
校行事などの情報を共有し、学校区の学校教育とその
でもどこからでも LAN を通して学習過程に参加可能
使命の達成に貢献する。 2 教職員と生徒に教育情
な状況を保障することが条件と見なされよう。
報を提供する。
」に置かれている。公的な学校 HP の
Myers と Narita(1997)は、カナダ、アメリカ、オ
提供にあたっては、学校の教育目標に照らした明確な
指針の検討が必要であり、部会での検討事項として挙
内容であることは当然として、もっぱら生徒及びその
げることとし、その利用指針の骨格となる事項を以下
保護者の個人的内容については、当該関係者の許諾が
の3点とした。
ある場合を除き、これらを学校 HP に掲載すること
○
教育目標を始め、カリキュラムや諸教育資源
および学校行事などにかかわる情報の提供を
○
は妥当ではない。
また倫理的事項として、他者への誹謗・中傷、宗
通じて、本校教育目標の達成を目指す。
教的あるいは人種的なあらゆる差別的内容や、破壊行
本校生徒の学習指導や学校生活及び進路選択
為を是認する内容は、
当然これらを掲載すべではない。
等や、教職員研修あるいは保護者等に必要な
これらの他にも様々に留意すべき事項がある。今
教育情報を提供する。
日、インターネットの HP は、全世界レベルでアク
○ 中学校生徒や保護者等に対する、適切な学校紹
セスが可能であり、URL の文字列の入力か、あるい
介を通じて、中学校の進路指導に有効な情報提
は HP 内のリンクをクリックすることで、無数とも
供を図る。
考えられる HP へのアクセスが可能なシステムであ
第1には、学校 HP と、学校教育目標の整合性であ
る。人格形成途上と考えられる青少年にとって有害と
る。あるいは、学校 HP を通じて、学校の目的や教
考えられる情報もいたるところに存在する。NHK教
育実践の内容が広く保護者や地域及び教育関係者に理
育テレビで 1998 年7月に放映された「しりごみして
解され、情報公開の原則に則り、学校に対する理解を
いる先生のための『実践インターネット講座』」の番
一層助長して、学校が掲げた教育目標が達成されるこ
組テキストにおいても、この問題に触れている。
とにつながることを明言した。
基本的には、有益と考えられない情報には意図的
続いて、生徒の進路保障にかかわる情報の収集や提
にアクセスしない、という情報選択に関わる姿勢を生
供である。工業高校では、卒業後企業等に就職して社
徒に育成することが大切である。しかし、インターネ
会人としての進路選択をする生徒が多く、社会の情報
ットでは、偶発的にそれらのサイトの情報が提供され
化の進展に伴い民間企業や公的機関において進路情報
る可能性が高く、特にサーチエンジンサイトでの HP
がインターネット等を用いて即時的に提供される傾向
検索時において、多くの関連情報に触れる可能性があ
が窺える。これらの状況は、必要な情報に生徒が随時
る。こうした問題は、通常の ISP を経由してダイア
に直接アクセスすることが可能であることを示唆する。
ルアップ接続をした場合は、防ぎようが無いのが実状
従って、多くの進路情報が整理され、いつでもどこか
であり、学校が WWW Server を運営するか、Proxy
らでも、容易に必要な情報を入手できることが求めら
Server を介する必要に迫られる。
れるのである。
いずれにしても社会が情報化を遂げつつある今日、
更に、これからの時代では、学習者が学校を選択す
技術的あるいは制度的な進展が激しく、学校はこうし
る傾向が一層強くなるものと考えられる。
高等学校は、
た変化に対応しやすい姿勢を示すことも指針に述べら
進学を希望する中学生やその保護者あるいはその関係
れる必要がある。この点について筆者の検討した指針
者等にとって、進路先としての高等学校の教育内容等
では、管理職員に対して、教職員のインターネットに
を深く知りたいという要求に応える内容であることが
関する見識を広めかつ深めるために、LAN を始めと
期待される。つまり、中学生等が、本校の教育目標や
して、ソフトウェアおよびハードウェア環境について
カリキュラム、あるいは、施設や設備、学校行事やク
必要な機材等の更新や、関連する研修の機会を与える
ラブ活動等、実際の学校の様子を、それぞれの学校
ことに努めなければならないと考えた。
LAN を通じて直接求めてくることが想定される。今
後、これらに対応した学校 HP 内容が必要となろう。
5 学校 LAN の諸課題
以上の3点に加えて、学校 HP の利用についての基
学校 HP に関する取り組みの後、技術的あるいは機
本的な社会通念上の枠組みも明確にする必要が考えら
構的な検討を重ねる中で、学校に LAN を構築する構
れる。即ち、学校が提供するページでは、生徒あるい
想が浮上した。それは、安定性を志向した様々な問題
は保護者の利益の保護が継続的に保障される必要があ
や条件をクリアする必要に迫られるという現実的な要
る。従って、教育的な意味合いが優先される学校 HP
因があったことによる。
その一つは、ダイアルアップによるインターネット
ースではなかった。端末名や通信手順の相違及び IP
接続において、利用が飛躍的に向上したことにより、
アドレスの重複という問題に直面した。LAN の一元
複数の端末からの利用が制限される事態となることが
管理を目論むと従前のシステムと競合する場合があち
明らかとなったこと。また、その接続時間が長くなり、
こちで発現し、新システム側で対応することが余儀な
月々の通信料が高騰したことである。もちろん、学校
くされた。システム初動時は、さまざまな問題に対応
内の LAN 構築を待望する機運が高まり、生徒対象の
が求められ、担当者の時間的な負担は急激に増加し、
高度情報通信社会に関する調査によって生徒のインタ
勤務時間外に及ぶ業務が度重なった。ノウハウの浅い
ーネット利用に対する高い関心が明確になったことも
中で、LAN の障害が発生したことにもよる。こうし
挙げられる。また、先に挙げた不適切な情報の閲覧防
た問題については、契約した ISP 所属した特異な問
止を実現することも含まれる。幸いにも、地元 ISP
題について経験豊かな技術者から支援を得ることが必
が敷設しているケーブル TV の通信回線にケーブルモ
要である。また、ネットワーク管理者同士の仲間によ
デムを介して、高速データ転送(10Mbps)の可能性が
る相互支援体制も迅速な復旧に有意味である。
確認され、経費も安定し常時インターネット回線に接
続できることが判明した。
そこで、学校 HP 利用指針と同様、まず校内の LAN
利用指針を提案することにした。
ネットワーク管理者の業務は以下のように考えられ
た。まず、学校 LAN 利用指針の適正な運用と遵守が
挙げられる。なかでも LAN 利用者に対する様々な支
援である。多くの利用者は、これまでと異なる LAN
最初に、その目的を明示することとした。LAN の
上での利用については戸惑いがあり、まず教職員に対
利用は、学校教育目標の具現のためであり、生徒・教
する LAN 概念について理解と協力を依頼せねばなら
職員等が LAN の円滑利用を図ることが目的と考えら
ない。研修機会の設定やその開催は必須である。また、
れた。このため、校長は、指針の目的を達成するため
利用者コードやパスワード管理にも触れる必要がある。
の環境整備や経済的基盤および利用について管理運営
HP の閲覧を可能とする Proxy Server を効果的に運
する総括的権限と義務があると考えられた。また、校
用し、教育機関として適正な情報へのアクセスを可能
長から委嘱を受けたネットワークの管理運営のために
とする設定について教職員に提案し協議の上運用する
必要な権限を有する複数名のネットワーク管理者は、
よう努めることが求められる。それに加えて、利用者
業務上知り得る様々な機密に関する情報について細心
の著作物に対する理解を一層進めるべきである。LAN
の注意を払ってこれを扱うものであり、校長の承諾を
の運営状況について教職員に開示し展望を提示し、同
得ずこれを他に提供できない性質の役割を有すると考
時に、利用者の声に耳を傾け、システムの機能をフル
えられた。学校 LAN の範囲は、登録された利用者に
に発揮できるような全体性を重視することが求められ
関する事項、Client コンピュータ、校内通信回線と
よう。
関連設備、Server コンピュータ及び付加装置やこれ
らが有する利用者への諸権限や設定事項および、関連
ソフトウェア群と教育情報等と考えられた。
LAN は、2台の WindowsNT4.0 Server で構成し
た。利用者の認証と校内の Web Server を一台が担
当し、他の Server では、Proxy Server としての機能
を担わせた。構内の通信回線等の敷設は、可能な限り
生徒や教職員の手でこれを推進した。これは、後の
LAN 障害発生への対応を考えると有意義であると思
われた。技術的事項の詳細は、誌面の都合で割愛する。
すでに設置されていた教室単位でネットワーク化さ
れたコンピュータ室の端末群も、校内 LAN に組み込
むことになり、設定が開始された。ところが、オペレ
ーティングシステムの差異により、新たな設定はスム
【参考・引用文献】
中央教育審議会, 1996, 21世紀を展望した我が国の
教育の在り方について(第一次答申), 文部省 www
homepage
Raymond A. Myers, Shigeru Narita,1997, Advancing
Information Technology in American and Japanese
School, 筱更治(訳) 兵庫教育大学学校教育研究センタ
ー www homepage
Minneapolis Public Schools District #1 World Wide
Web Page Development Guidelines Draft #1-January,
1997 成田滋(訳)1997 兵庫教育大学学校教育研究センタ
ーWWW Home page
文部省,平成9年8月改訂,教育改革プログラム 文部省
www homepage
(執筆:筱 更治 奈良県立奈良工業高等学校
奈良市秋篠町 1277-1 0742-45-4051)