用語解説 - プラズマ・核融合学会

プラズマ・核融合学会用語解説
アークプラズマ
掲載号 74-11
285
Arc Plasma
電極間の放電で,グロー放電よりもさらに電流を増加させていくと端子電圧が急激に減少し,電流の増加とともに電圧が低下していく負性抵
抗特性を有するようになる。このときアーク放電となりアークプラズマが形成される.アークプラズマでは電子,イオン,中性気体原子・分子
の温度がほぼ等しく,5,000∼20,000 K程度となっており,熱平衡の状態に近い熱プラズマになっている.電流密度の大きな放電電流は陰極から
の電子放出により維持される.電子の放出機構は,プラズマによって熱せられた陰極からの熱電子放出が主なる場合と,水銀など融点の低い金
属では電界放出による電子の供給や,中性粒子やイオンの衝突による電子放出が関与している場合など複雑である.真空から大気圧領域まで広
い雰囲気中にわたってアークプラズマは存在し,大気圧中ではアーク柱内部において電子の平均自由行程が短いため,電子衝突電離ではなく熱
電離が主である.アークプラズマはアーク柱として観測される陽光柱と,電極付近で半径が小さく絞られている領域から構成されている.アー
クのまわりのガス流によりアーク半径を細くする熱ピンチ現象を用いて,電流密度を高め単位体積あたりの電気的入力を増加させることも可能
である.電極と接する部分では正イオンが多い空間電荷層となり,陰極表面には陰極点が形成されている.
真空中の電極間では,電極材料が蒸発しプラズマとなって放電が維持される真空アークが生じる.電力用真空遮断器では真空アークの電流遮
断特性が利用されている.アークプラズマはアークランプをはじめとして電気溶接,鉱石などから目的とする金属材料だけをとりだすプラズマ
精練,高融点の金属を溶かすプラズマ溶解,各種のガス分解処理など,熱プラズマの特性を利用した様々な応用に使われている.高速の水流で
アークプラズマを安定化させ,かつ放電管壁との熱遮蔽をしたアークプラズマを用いた高輝度の大強度光源も実用化されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ICRF加熱
掲載号 66-5
014
Ion Cyclotron Range of Frequency Heating
Ion Cyclotron Range of Frequency,すなわちイオンサイクロトロン周波数帯における高周波プラズマ加熱をいう.C-ステラレータに代表される
高周波加熱の草創期 には,シアアルヴェン波を用いた加熱が主流であり,Ion Cyclotron Resonance Heating (イオンサイクロトロン共鳴加熱)と呼
ばれた.その後,トカマクにおいて 加熱が試みられるように至り,Compresional Alfven波が,プラズマ中心に対して,より優れた近接性を持つ
ことが明らかとなった.
Compressional Alfven波はイオンサイクロトロン周波数において右周り円偏波となるので,イオンによる吸収が弱い.この問題は重水素の主イ
オンに対して水素(あるいはヘリウム3)の小数イオンを加えることにより解決された.この加熱手法をマイノリティ加熱と呼ぶ.この加熱手法に
おいてはイオン加熱が起こる.また,マイノリティイオンの量が多くなると,高磁場側から励起された波はイオンバーンスタイン波にモード変
換され電子により吸収される.この加熱手法を二種イオン混合共鳴加熱と呼ぶ.
Compressional Alfven 波の励起には,通常,磁場に垂直方向に高周波電流を与えるループが使用され,これをアンテナと呼ぶ.アンテナ周辺か
ら発生する不純物がプラズマ中に流入することが問題とされていたが,世界各国での研究の結果解決された.現在では中性粒子加熱とならぶ有
力な加熱手法として認められている.近年プラズマ 諸元の上昇と共に有限ラーモア半径効果が顕著となり,第二∼三次イオンサイクロトロン高
周波加熱も可能であることが実証された.高次高周波加熱においては高エネルギーイオンテイルが発生することが知られている.また,最近の
大型トカマクでは電 子温度が高くなり速波の直接電子加熱も観測された.このように,多様な加熱領域が存在することがICRF加熱の一つの魅
力でもある.ICRFという呼称は相当広い範囲をカバーするので静電波を利用したイオンバーンスタイン波加熱をも含ませることがある.
プラズマ・核融合学会用語解説
ICF点火条件
掲載号 68別冊
051
ICF Ignition Condiction
慣性閉じ込め核融合では,燃料が飛ぴ散るまでの非常に短い時間に十分な核融合反応を行わせる必要があるが,全燃料を高温度にまで加熱し
なくても,燃料の一部のみを高温度に加熟し,そこで十分な核融合反応を起こせば,核反応で生じる高エネルギー粒子により周囲の比敷的低温
の燃料が加熟され核融合反応が爆発的に燃え拡がる.その結果,燃料の一部をあらかじめ加熟するのに要したエネルギーに比ぺて十分大きな核
融合出力(約1,000倍:燃料利得という)を得ることができる.これを核融合反応の点火,燃焼という.点火するには,輻射損失だけでなく,膨
張損失や熱伝導損失,核反応生成粒子の拡散損失を上回る核反応生成粒子による燃料の自己加熟を必要とするが,そのためには高温度に加熟し
た領域(点火領域)で十分な反応が起こるだけの温度と点火領域の大きさが必要でそのしきい値が存在する(点火条件).
例えぱ,重水素と三重素の核融合反応で生じる 3.5 MeV のアルファ粒子による自己加熱を考えると,単位時間あたりのアルファ粒子による加
熟が輻射損失を上回るには約 4 keV の点火温度が必要であり,点火領域の大きさはアルファ粒子の飛程で決まり,点火温度近傍では,燃料の質
量密度と点火領域の半径の積が ρR ∼ 0.3 g/cm2 となる.この値は地下核実験により確かめられていると言われている.温度を点火温度より高
くすると点火領減の大きさは小さくてもよい.なお,点火領域のみを高温度に加熱する慣性核融合では,磁場核融合と異なり,この点火条件を
達成するのに必要なエネルギーは科学的ブレークイーブン(投入エネルギーと核融合出力エネルギーが同じ)を達成するのに必要なエネルギー
より小さいか同程度と見積もられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ICFの結合効率
掲載号 68別冊
054
ICF Coupling Efficiency
入力ドライバーエネルギーから圧縮燃料コアの熱エネルギーヘの変換効率を(ターゲット)結合効率と呼ぶ.球殻ターゲットを用いた理想的
な噴出型圧縮の場合,主にターゲットシェルの運動エネルギーが最終的なコアプラズマの内部エネルギーに変換されるため,結合効率は吸収効
率,流体力学的効率および伝達効率の積として与えられる.流体力学的効率は吸収エネルギーからターゲットシェルの運動エネルギーへの変換
効率であり,伝達効率はターゲットシェルの運動エネルギーから燃料の熱エネルギーヘの変換効率である.波長 0.35 μm 程度の短波長レー
ザーを用いれば,80%程度の吸収効率が得られることがわかっている.また,充分に球対称な爆縮が実現すれば,伝達効率も100%近い値とな
る.したがって,結合効率は主に流体力学的効率によって決定されると考えてよい.
プラズマ・核融合学会用語解説
アイランドダイバータ
掲載号 71-7
166
Island Divertor
ヘリカル装置やトカマク等のトーラス状磁場配位に不整磁場が印加されると,不整磁場に共鳴する位置に孤立した島のような磁気面領域,ア
イランドが形成される.アイランドダイバータは,プラズマを閉じ込めるための入れ子状になっている閉じた磁気面領域内の周辺部に大きなア
イランドを積極的に形成し,プラズマの中心からアイランドまで到達した熱と粒子をアイランドの周囲のセパラトリッ クスに沿って中性化板
(ダイバータ板)あるいは排気部まで導く方式のダイバータである.m/n = 1/1 のアイランドを利用したアイランドダイバータは,トロイ ダル方
向の1カ所に設備を局在させることができるため,特にローカルアイランドダイバータと呼ばれている.アイランドダイバータは高効率で粒子
を排気できる等の特徴を持っている.
プラズマ・核融合学会用語解説
アスペクト比
掲載号 69-12
109
Aspect Ratio
軸対称円形断面トーラスにおいて,トーラス中心から磁気軸までの距離をR(大半径)とし,円形断面の半径(小半径)を a とすると,ア
スペクト比は A= R/aである.A≫ 1 のような場合にはトーラス効果が弱く,A≒1∼2の小アスペクト比トーラスでトーラス効果が最大になる.
トーラスプラズマの解析的理論では,ε= A-1 = a/R≪1を展開パラメータとして,O(ε) あるいは,O(ε2 ) までトーラス効果を考慮すること
が多い.
非円形断面トカマクでは,水平方向の磁気軸からプラズマ表面までの距離が小半径と考えられる.ステラレータやヘリオトロンでは,Rはト
カマクと同様であるが磁気軸に沿って変化する断面形状を平均した小半径が用いられる.さらに,へリカル軸ステラレータでは,大半径もトー
ラス方向に変化するのでRに対しても平均が必要になる.核融合炉としては,プラズマ周辺にブランケット等の空間が必要になるので,トカマ
ク炉ではA≒3∼4が適当と考えられる.一方,ステラレータ炉では,アルファ粒子閉じ込めの条件よりA≒7∼10以下は容易ではないとされてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
アドヴァンスト核融合
掲載号 70-9
136
Advanced Fusion
アドヴァンスト核融合とは本来,アドヴァンスト燃料核融合(Advanced Fuel Fusion)の意味であって,従来主に検討されてきた重水素一三重
水素燃料核融合(D-T Fuel Fusion)が遭遇すると予想される種々の課題を緩和すべくこれ以外の燃料を用いた核融合のことである.代表的なア
ドヴァンスト燃料核融合反応を表1(136a.gif)に,それらの核反応断面積を図1(136b.gif)に示す.D-D核反応は障壁因子が小さいので低いエネル
ギーでも比較的大きな核反応面積となるが,大きな共鳴は認められず核反応断面積の最大値はそれほど大きくない.D−3 He核反応は400 keV近
傍に鋭い共鳴があり,核反応断面積は比較的大きなものになっている.これら以外のp−11Bやp−6 Liなどの高Z粒子による核融合反応は,いずれ
も障壁因子が大きく,したがってある程度の核融合反応率を得るためにはより高い粒子エネルギーが必要とされる.これらのアドヴァンスト燃
料核融合のうち,D-D核融合ではその核反応から発生する三重水素と主燃料の重水素によってD-T反応が起こる.これによって,D-T核融合の課
題の起因である14 MeV中性子がD-T核融合の約1/2発生する.一方・D−^3He核融合によって発生する14MeV中性子はD-T核融合の1/10以下と
非常に少なく,将来のエネルギー源として有望視されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
アトラクタ
掲載号 74-2
257
Attractor
エネルギーの消費,注入が存在する散逸力学系の相空間において,その軌道が t →∞につれて漸近する極限集合をアトラクタという.一定の
周期で同じ軌道をえがく安定な周期軌道はよく知られたアトラクタで,周期アトラクタと呼ばれている.従って,例えば,散逸力学系では任意
の初期値から出発した軌道が,t →∞につれてエネルギーの消費と注入がバランスすることにより周期アトラクタに巻き付いていく現象等が観
測される.アトラクタは,いい方を変えると近傍の軌道を引き付ける性質を持っている決定論的常微分方程式の解である.特に,相関次元が非
整数となることが多い非周期軌道からなるアトラクタは,無限の折り畳み構造を持っており,ストレンジアトラクタと呼ばれている.このよう
に,軌道の性質はその概要をアトラクタの構造から知ることができるため,実験的に得られた時系列データから相空間上のアトラクタを再構成
する方法は,非周期軌道,すなわちカオスの同定に有効な手段の一つとなっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
アフターグロー
掲載号 73-12
253
Afterglow
放電に必要な外部エネルギーが遮断された後の電離気体をいう.これを用いた計測技術には、静的アフタグロー(static afterglow)法と流れア
フタグロー(flowing afterglow)法とがある.静的アフタグロー法では,放電管内にガスを満たし,パルス放電を行う.プラズマ中の粒子やそれ
らのエネルギーが各種の損失過程により減少していく様子を時間の関数として観測する.流れアフタグローでは,反応ガス(1)をバッファー
ガスとともに高速で管内を流す.上流をプラズマ生成領域,下流を反応領域に分ける.反応の進行状況を管内の位置や反応ガス(2)の流量の
関数として観測する.アフタグロープラズマの特徴の一つは,外部電界が加わらないので電子はマックスウェルエネルギー分布になりやすい.
原子・分子の反応素過程の研究に用いられている.輸送係数,イオン−中性粒子反応,解離再結合過程,準安定原子同士の衝突過程等が調べら
れている.
図:253a.gif 253b.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
アブレーション加速
掲載号 68別冊
058
Ablative Acceleration
ターゲット表面をレーザーで照射すると,急速に加熟されてプラズマ化し表面温度および圧力が急激に上昇する.表面での温度勾配により熱
伝導波が内部へ伝わり,また圧力勾配により圧縮波(衝撃波)が内部へ伝播する.レーザー照射時の固体表面のプラズマの構造を模式的に図に
示す.ターゲット内部は,初期の冷たい領域(1)と,衝撃波により圧縮された領域(2)よりなる.その外部にはプラズマが急激に膨張し,密
度が急激に減少,温度,流速が急激に増大するディフラグレーション領域(3)が形成される.さらにこの領域はほとんど等温で膨張していく
希薄波領域(4)ヘと連続的に移行する.プラズマが表面から吹き出し,その反作用がディフラグレーション領域と圧縮領域の境界付近に高い
圧力を発生させる.これをアブレーション圧力と呼ぶ.この圧力がターゲットを圧縮,加速する力となる.ロケットが燃料を高速ガスとして放
出し,その反作用で推力をえるのと加速機構が相似であるため,アブレーション加速をロケットモデルで表現する場合が多い.アブレーション
圧力は吹き出しの量と噴出速度に比例して大きくなる.この吹き出しの大きさはm(=ρv)という量で測られ質量噴出率と呼ばれている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ALARA, ALAP
掲載号 74-7
273
ALARA,ALAP
ALAP:
ICRP ( 国際放射線防護委員会 ) により 1958 年に提唱された最大許容線量に対する精神的な規定.線量-効果関係の直線性の考え方を基本に置
き,わずかな線量でも危険があるとし,無用な被曝はせぬよう,施設の設計,運転および被曝を伴う仕事に際し,現在の技術と経済的・社会的
条件を考慮して,線量を実行可能な限り低くすべきであると勧告したが,その後 ALARA の概念に変わった.
ALARA:
ICRP 勧告で,cost-benefit に基づく許容線量の考え方から, ALAP に代わって取り入れられた概念.すべての被曝は社会的および経済的な要因
を考慮に入れながら,容易に達成できる限り低く,かつ合理的に達成できる限り低く保たなければならないと変更された.この概念は ICRP が
線量制限体系に関して挙げている三つの要件,すなわち行為の正当化,防護の最適化および個人の線量限度のうち防護の最適化と同一の概念で
ある.最適化のためには費用便益分析に基づく手順が主流であるが,そればかりでなく定量的,定性的な他の手法を取り入れていくことも重要
である.
プラズマ・核融合学会用語解説
アルヴェン波
掲載号 66-5
015
Alfven Wave
磁力線を復元力としプラズマの質量を慣性とする波動である.特徴的な伝播速度は 以下の式(1)で与えられアルヴェン速度と呼ばれる.ア
ルヴェン波は,磁場の圧縮を伴わない shear Alfven 波に分類される.アルヴェン波のうち周波数がイオンサイクロトロン周波数より十分低い領
域を特に (狭義の) アルヴェン波と呼ぶこともある.この領域のアルヴェン波は簡単なMHD方程式で記述される.MHD方程式 の解の一つは
Shear Alfven 波であるが, compressional Alfven 波は,プラズマ圧力の効果により音波の影響を強く受け,速波と遅波に分枝する.
アルヴェン波の伝播は密度に強く依存する.現実の実験室プラズマは密度の勾配を持つので, ある一定のプラズマ密度の下で磁場垂直方向の
共鳴 (アルヴェン共鳴 ) を示す.共鳴層では有限ラーモア半径効果を無視できなくなり,いわゆる kinetic Alfven 波にモード変換する.一般にア
ルヴェン波は吸収の弱い波で境界のあるプラズマでは離散スペクトルを持つ.しかし,この共鳴層が存在するとき静電波の性格が強まり波動-粒
子の相互作用が増大して連続スペクトルに移行する.これを利用した加熱をアルヴェン波加熱と呼ぶ.
shear Alfven 波は周波数がイオンサイクロトロン周波数以下においてのみ伝搬可能である.イオンサイクロトロン周波数付近では磁場方向波数
が無限大 (イオンサイクロトロン共鳴) となり左回り円偏波である.したがって,不均一磁場中を磁場に沿って伝播する波はこの共鳴層でイオン
による強い吸収を受ける.これを磁気ピーチと呼ぶ .この概念は初期のイオンサイクロトロン共鳴加熱に使われた.compressional Alfven 波は,
イオンサイクロトロン周波数の上 下の領域においても伝搬可能である.イオンサイクロトロン周波数付近では完全な右周り円偏波となるのでイ
オンによる吸収は逆説的に弱い.
式(1):015eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
アルファ粒子加熱
掲載号 73-5
230
Alpha Particle Heating
重水素と三重水素を燃料とする核融合においては,エネルギーの80%が14 MeVの中性子で,残る20%が3.5 MeVのアルファ粒子として放出され
る.中性子のエネルギーはブランケットによって吸収され熱となるが,一方,アルファ粒子は,トカマクのような磁場閉じ込め装置では磁場に
よって捕捉され,プラズマイオンや電子との衝突過程を通してプラズマの加熱に寄与する.また慣性核融合においても,コアで発生したアル
ファ粒子は周囲の燃料粒子との相互作用によってその加熱に大きな役割を果たしている.この加熱過程を総称してアルファ粒子加熱と呼ぶ.磁
場閉じ込め装置で言う自己点火とは,このアルファ粒子加熱のみでプラズマからのエネルギー損失分を供給し,ビーム入射などの追加熱を止め
ても核融合反応が維持される状態をいう.プラズマ中の高速イオンは,エネルギーが高いほど電子との衝突がイオンとの衝突より支配的にな
る.アルファ粒子の発生エネルギーは3.5MeVと大変高いため,アルファ粒子加熱は主として電子加熱である.例えば電子温度が10 keVの場合,
アルファ粒子エネルギーのおよそ8割が電子に移る.核融合反応を維持するにはイオンを加熱しなければならないが,イオンは主に電子との温
度緩和過程を通して間接的に加熱される.このことから,自己点火装置においては電子のエネルギーの閉じ込め性能が十分に良いことが一段と
重要になってくる.
プラズマ・核融合学会用語解説
安定化シェル
掲載号 75-4
301
Stabilizing Shell
プラズマ閉じ込め装置では,プラズマの周りを取り囲むように金属性の殻(シェル)が配置される.安定化シェルは,プラズマの動きによっ
てその表面に誘起される鏡像電流がプラズマの変動に抗する磁気力を作り,それがプラズマの平衡維持や安定性に寄与する.円筒型のシェルの
厚みd,半径a,導電率σで決まる磁場の浸透時間(τ∼μ0 daσ)が,プラズマの放電時間または変動に比べ十分長い場合(10倍以上),シェル
は完全導体として扱え,浸透時間に比べ短い成長の時定数をもつ不安定モードに対して安定化効果をもつ.浸透時間が短い薄肉の抵抗性シェル
は外部垂直磁場との組み合わせによりプラズマ位置のフィードバック制御を行うことができる.
固定境界のスフェロマックでは,平衡保持の役目をなすフラックスコンサーバ(FC)と呼ばれるカットのない導電性シェルが用いられ,
MHD的に安定な平衡配位がこのFCの形状によって決定される.また,自由境界スフェロマックでは,傾斜型およびシフト型のMHD不安定性が
頻繁に発生するが,導電性シェルはこれらのグローバルな不安定性の抑制に威力を発揮する.逆磁場ピンチ装置(RFP)では,トロイダルとポ
ロイダル方向にカットの入ったシェルが用いられるが,カット数に比例して増大する誤差磁場が閉じ込め性能に影響を及ぼす.導電性シェルは
抵抗性シェルに比べ,ループ電圧や磁気揺動レベルが軽減される.このように,スフェロマックやRFPにおける導電性シェルの近接設置の要請
は,将来の安定で良好なプラズマ閉じ込めの長時間維持の実現に向けて解決されなければならない本質的な課題となっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ELM
掲載号 69-5
092
Edge Localized Mode
ドイツのASDEXトカマクで最初に発見された改善閉じ込めモード(Hモード)中に発生する代表的な不安定性である.現象的には Hα あるい
は Dα 光信号に大きなスパイクとして現れ,発生領域がプラズマ周辺部に局在化しているという特徴を持つ.このELMが発生するとプラズマの
粒子およびエネルギーが吐き出されて,閉じ込め改善度が多少劣化する.通常ELMなしのHモードは定常性を持たないが,それを制御するため
には非常に重要な現象であるという別の側面もある.ELM現象の本質はいまだ解明されていない.現在,その現象の分類分けが進んでいる段階
である.DIII-Dトカマクでは,加熱入力が大きい領域で非常に大きな Dα 光スパイクが現れるGiant ELM,Dα 光に比較的小さなスパイクが現れ
るGrassy ELM,そして加熱入力がL/H遷移のしきい値に近いところで見られるType III ELMの3種類に分類している.他の装置で観測される
ELMがすべてこの分類で説明できるかどうか,慎重に検討する必要がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
ECE
掲載号 66-5
013
Electron Cyclotron Emission
磁力閉じ込め型核融合装置では,プラズマを強力な磁場中に閉じ込めている. そのためプラズマ中の電子はサイクロトロン運動を行い,その
結果,サイクロトロン放射 (Electron Cyclotron Emission)を行う.今,磁場強度がBである時,サイクロトロン周波数はωce=eB/meで与えられる.こ
の時電子はnωce(n=1,2,3...)の周波数で放射を行う.この放射スペクトル強度を測定することによって電子温度や迷走電子に関する情報が得ら
れ,そのための計測をECE計測と呼ぶ.
ECEの強度 I[W/(m2 sterad Hz) ]はKirchoffの法則によりI=(ω2 /8π3 c2 )kTe [1-exp(-τ)]で与えられる.ただし,kTeは電子が持つエネルギー,τ> 2は
媒質の光学的厚さである.では,プラズマは光学的に厚く式(1)となり,放射強度は電子温度に比例する.一般に高温プラズマでは低次の高
調波は光学的に厚く,n=1∼3 のECEが測定に利用されている.周波数領域は磁場強度がB=3∼5Tの場合.84∼420 GHzとなりミリ波から サブミ
リ波領域となる.計測器としては,フーリエ分光器,グレーティングポリクロメータ,ラジオメータ等が広く使用されている.
式(1):013.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
ITER
掲載号 73-6
233
International Thermonuclear Experimental Reactor
日本,欧州,米国,ロシアの四極が共同で推進しているトカマク型核融合実験炉.ITER(イーター)の目標は,自已点火条件の達成と長時間
DT燃焼の実現,炉工学技術を統合されたシステムで実証すること,高熱流束機器や核工学機器の総合的な試験を実施することである.最新の設
計パラメータは,核融合出力 1.5 GW,主半径8.1 m,副半径 2.8 m,非円形度1.6,プラズマ電流 21 MA,トロイダル磁場 5.7T(プラズマ中
心),燃焼時間 1,000秒,プラズマ加熱パワー100MW.1988年4月から1990年12月まで概念設計活動(CDA:Conceptual Design Activities)が行わ
れ,引き続き1992年7月から6年間の予定で工学設計活動(EDA:Engineering Design Activities)が進められている.EDAは,ITERの建設に着手す
るか否かを判断するために必要な,すべての技術資料を整備することを目的として,四極の均等分担を原則とする国際共同設計と大規模な工学
R&D,および四極のプラズマ実験装置からの自発的貢献による物理R&Dを3つの柱として活動を行っている.
プラズマ・核融合学会用語解説
EUVリソグラフィ
掲載号 75-12
319
EUV Lithography
半導体集積回路の微細化は光リソグラフィ技術を始めとする微細加工技術の進展にともなって急速に進んできた現在,行われているエキシマ
レーザーリソグラフィの次世代としては加工寸法0.1 μm以下が要求され,光や電子ビームを用いたいくつかの方式で技術開発が進められてい
る.EUVリソグラフィはその一つで波長10 nm付近の極端紫外光(EUV光,軟X線に含めることもある)を利用するものである.この波長域では
もはやレンズは存在しないので反射光学系によりマスクパターンをレジスト上に縮小転写しなければならない.高い反射率を得るために現在
Mo-Si多層膜に適する波長13 nm,またはMo-Be多層膜に適する波長11 nm光の利用が考えられている.典型的なシステム図(319.gif)を以下に示
す.この方式は従来の光リソグラフィに対して技術的に大きなギャップがない点が特徴となっている.具体的な開発課題としては高精度非球面
鏡の製作とその評価法の開発,反射型マスクの欠陥フリー化,高性能レジストの開発,露光システムの長時間安定動作とスループットの向上な
どがあげられる.
一方,光源としてはこれまでのEUVリソグラフィの基礎研究が行われてきたシンクロトロン放射光に代わりキロヘルツの高繰り返しレーザー
を用いたレーザープラズマX線源がその平均パワーの高さ,小型,高コストパーフォーマンスにより選択されつつある.これはレーザーを高圧
ガス,固体クライオ,固体テープ,液滴ターゲット等に集光させ,高温高密度プラズマを生成し高輝度な微小X線源を得る方式である.ター
ゲットとなる物質にはその放出波長領域が上述のコーティングに適していること,デブリなどが光学系に影響を及ぼさないことなどが要求さ
れ,現在ではXeが有力候補と考えられている.これまで波長13 nm付近のバンド幅3 %内への変換効率(レーザーエネルギーに対する発生EUV
エネルギーの比)として1∼3%が得られている.現在,平均EUV出力10 Wのものまでが開発されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
イオン異常加熱
掲載号 72-5
194
Anomalous Heating of Ions
プラズマの集団運動を介してイオンが加熱される現象をイオン異常加熱と呼ぶ.「異常」という修飾詞を付けるのは,Coulomb散乱に基づく
古典的な熱伝導やエネルギー緩和では説明できない場合を指すからである.古くからZetaなどのピンチプラズマで,磁場の擾乱と相関してイオ
ンが急速に加熱され,顕著な温度非等方性が生じることが知られている.また磁気圏プラズマでも,一般にイオン温度の方が電子温度よりも高
いことが示され,イオンを選択的に加熱する機構があると考えられている.
近年この問題に関して非線形科学の観点から新たな関心が集まっている.自己組織化現象によって形成される構造は,大きなエネルギー散逸
と,それを維持するためのエネルギー入力をもつのが特徴であり,「散逸構造」と呼ばれる.プラズマにおいては,磁場構造(電流分布)の自
己組織化と磁気エネルギー散逸の増大が表裏一体の関係をもつ.散逸されたエネルギーは,イオンへ流れイオン異常加熱を引き起こすと考えら
れる.この散逸機構はイオン粘性として表される.いかなる条件下でイオン粘性散逸が電流の抵抗散逸を卓越するのか,イオン粘性散逸が支配
する自己組織化ではどのような構造が生み出されるかが明らかになっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
イオンスウォーム
掲載号 74-5
268
Ion Swarm
スウォームの原義はある方向性を持って集団で移動する昆虫,鳥 家畜等の群れのことであり,猛毒を持った無数の蜂が集団となって人を襲
うホラーもどきの映画のタイトルにもなった.イオンスウォームはこの類推で使われ始めた言葉と思われ,媒質である気体や液体中をひとかた
まりとなって移動,拡散しつつ,時には媒質中の反応種や媒質分子自身と化学反応を行って変質していくイオン群を意味する.イオン運動に方
向性を与える外場としては一般に定常一様電場が用いられるが,方形波電場やRF電場,さらには磁場を重畳して利用する場合もある.単なるイ
オンビームとは違って媒質の存在が本質的に重要であり,媒質分子との衝突,多重散乱,反応過程が複雑に絡み合って競合するおもしろさがあ
る.イオン群の平均移動速度をドリフト速度といい,媒質の温度,数密度,印加電場によって自由に制御が可能である.このドリフト速度から
イオンの平均並進エネルギーを見積もることができる(Wannier理論).並進エネルギーは原理的には絶縁破壊に至るまで増やせるが,一般的には
媒質の温度で決まる熱エネルギー領域から数eVの範囲でこれを制御し,移動度,電場方向拡散係数,イオン/分子反応の反応速度定数などを測定
する.これをイオンスウォーム実験法という.最近は液体ヘリウム温度下での実験も行われており,低エネルギー領域でのイオン輸送・反応実
験はイオンスウォーム法の独壇場と言える.イオンスウォーム法で得られる知見は,現在,半導体製造,絶縁ガス応用,ガスレーザーといった
非平衡プラズマ応用領域,大気汚染物質除去手法の開発,大気環境イオン化学など広範囲の研究分野に於ける重要な基礎情報であり,電子ス
ウォーム法のそれと相まって今後益々活用されていくものと思われる.
プラズマ・核融合学会用語解説
イオンの輸送・反応係数
掲載号 74-6
269
Transport Coefficient and Reaction Rate of Ions
イオンの輸送・反応係数はイオンスウォーム現象を定量化する基本量であるが,それらを方向性を持って移動する鳥やけものの群れ(ス
ウォーム)の特性量に対応させてみよう.スウォームを特徴づける量は,単位体積(あるいは単位面積)当たりの頭数とその分布,全体としての平均
移動速度,そして群れの広がり具合いである.移動期間が長くなると,個体の生死により群れの頭数が変化することもある.これらに対応する
イオンスウォームの基本量は,気体中のイオンの数密度分布,電場方向のドリフト速度,拡散係数,そして生成・消滅反応係数である.図
1(269.gif)は代表的なイオンスウォーム実験器,定常一様電場形成のための数枚の電極(ガードリング),イオン源,集荷電極(あるいは質量分析
器),そしてイオン源と集荷電極の間に挿入した2枚の電気的シャッターから構成される.2枚のシャッターには通常イオンが透過できないように
それぞれバイアス電圧を印加しておく.容器内に気体を満たし,2枚のシャッターにバイアス電圧を打ち消す2つの方形波パルスを印加し,パル
ス間の遅延時間を掃引する.その結果ドリフト領域を流れ下るイオン電流の到着時間スペクトル(ATS)が得られる(図2:269.gif).ATSはイオン
数密度分布に対応し,シャッター間の距離とATSのピーク時間からドリフト速度が,半値幅から電場方向の拡散係数が決定できる.ドリフト速
度を電場強度で割った量が移動度で,この移動度と拡散係数をまとめてイオンの輸送係数という.図中,左側の鋭いATSはLi+であり,右側の広
くなだらかなATSはLi+にCO2 分子が1個付着したいわゆるクラスターイオンである.これら2つのATSの面積比からLi+とCO2分子のイオン/分子反
応の反応速度係数が求められる.
プラズマ・核融合学会用語解説
イオンバーンステイン波
掲載号 71-6
163
Ion Berstein Wave
イオンサイクロトロン周波数以上の周波数帯に現われる静電波の一種である.高周波 電場により励起される磁場中プラズマの高周波電流は,
有限ラーモア半径効果により ,イオンサイクロトロン高調波成分の和として表される.この電流の和の発散がほぼゼロになることを準中性条件
とよび,これを満たすべく高調波周波数の間に一つのイオンバーンステイン波分枝が決定される.やや細かい分類をすれば,電子の平均熱速 度
が磁場平行方向の波動の位相速度より遅いものを純イオンバーンステイン波と呼び ,速いものを中性イオンバーンステイン波と呼ぶ.最近の核
融合研究への応用においては前者が注目されることが 多い.周波数は磁場に垂直な波数の関数となる.波数の減少関数であり後進波の典型的な
例である.イオンバーンステイン波はプラズマの加熱に関連してよく研究されて おり,直接イオンバーンステイン波を励起するものをイオン
バーンステイン波加熱と呼ぷ.また,圧縮性アルヴェン波を励起しイオンバーンステイン波に変換させる加熱 手法を2種イオン混成波加熱と呼
ぶ.
プラズマ・核融合学会用語解説
異常分散と群速度
掲載号 70-5
125
Anomalous Dispersion and Group Velocity
屈折率が周波数の増加とともに小さくなる現象(∂n/∂ω<0)を異常分散という.一般に,共鳴吸収が存在する場合,媒質は異常分散を示
す.その理由は,誘電率の実部と虚部が因果律の要請によってクラマーズ・クローニッヒ関係式で互いに結びついているためである.プラズマ
ではアルヴェン波やイオンサイクロトロン波の異常分散が実験的に報告されている.
異常分散領域で群速度を計算するとその値が発散するという困難にぶつかる.群速度を屈折率で表すと,
以下の式(1)となり(c:光速),異常分散領域では∂n/∂ω<0のため,上式の分母はいくらでも小さな値を取ることができる.すなわち,
群速度の値は光速を超えて発散してしまい,相対論に矛盾するように見える.この問題はゾンマーフェルトとブリルアンに指摘され(1910年
代),それ以後各方面で問題の解決のため
研究が続けられてきた.最近,理論および実験の両面で進展があった.
波束伝播の記述に鞍点法(Saddle Point Method)を適用することで,従来の群速度に代わる新しい伝播速度の表式と,現象の本質は分散の異常
にあるのではなく,共鳴吸収帯におけるフーリエスペクトルの不均一減衰とその結果として起こる中心周波数のシフトであることが報告され
た.異常分散領域でガウス型のアルヴェン波束を伝播させ,伝播速度やスペクトルの変化などが詳しく実測された.その結果は鞍点法による計
算結果とよく一致している.
式(1):125eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
異常輸送
掲載号 72-11
213
Anomalous Transport
「異常」(anomalous)という形容詞がつく現象は物理の世界に多数あって,予測や常識に合わない場合使われている.プラズマの磁気閉じ込
めでは,研究の当初から知られている.磁場を横切る損失が,粒子のクーロン衝突で決まる拡散係数に基づく評価より速かったので,この言葉
が用いられた.衝突拡散に対するトロイダル効果(新古典拡散)も,当初は異常輸送の説明の動機をもって研究された.現在は,電磁揺動で発
生する流束をさすことが多い.「異常」と形容するが,むしろ,不均一な非平衡系では自然な現象である.「流れ」が「勾配」の非線形関数で
あること,多種の「流れ」に干渉があること,L/H-mode のように分岐性を持つこと,間欠的流れを生むこと等の性質を持ち,閉じ込めプラズマ
という非平衡系を特徴づけるものと考えられている.プラズマの不均一性が原因となって生まれる乱流に起因するものとして,多くの研究がな
されている.
中性粒子や光子を介在として生まれる輸送も含まれ得るが,区別して用いる場合もある.また,カオスなどの研究で,拡散過程に表現できぬ
流束(例えば,巨視的な長さや時間に比べ,揺動の緩和時間/緩和長が短くない等)をさす場合もある.
プラズマ・核融合学会用語解説
ウェーブレット変換
掲載号 75-2
293
Wavelet Transform
wavelrtとは,英語でさざ波の意で,直訳するとさざ波変換となる.ウェーブレット変換は石油探査の技師であったMorletが最初に考案したも
ので,フーリエ変換が解析対象の波形を正規直交系である定常な正弦波で関数展開するのに対し,ある時刻の前後でのみ振幅を持つ非定常波形
で関数展開する.その展開計数が瞬時スペクトルに対応し,ウィグナー分布とともに非定常なデータのスペクトル解析に応用される.
マザーウェーブレット,またはアナライジングウェーブレットと呼ばれる非定常波形φI(x)にスケールファクタaと時間シフトbの変換を施
し,フーリエ変換での周波数の異なる正弦波に対応する新しいウェーブレット基底関数φJ(t)を生成する.(下式(1))
当然 a,bが異なれば別のウェーブレット基底関数が生成されるので,生成されたこれらのウェーブレット基底関数と観測データx(t)の相関
W(a,b)を求める.(下式(2))
これがウェーブレット変換と呼ばれる.上式の1/aがフーリエ変換の周波数に,bが時刻に対応する.
マザーウェーブレットとしては,Morletのウェーブレット,フレンチハット,メキシカンハット,Daubechiesのウェーブレット,Gabor関数等
多数考案されているが,非定常スペクトル解析に用いる場合には,フーリエ変換の周波数スペクトルと物理的に対応させやすいGabor関数 式
(3)が採用される場合が多い.
式(1):293aeq.gif
式(2):293beq.gif
式(3):293ceq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
埋め込み次元
掲載号 74-2
258
Embedding Dimension
相空間上の軌道点の振る舞いを調べることは,カオスなどの系の力学的挙動を理解する上で有効な方法である。実験で得られる一次元の時系
列データX(t)から微分値X'(t), X"(t), …を求めて相空間を再構成することは原理的には可能であるが,実験データは離散的で雑音を含んでいるた
め,高次の微分値を正確に求めることは非常に難しい.この場合,時間遅れτを用いた相空間を再構成法が有効である.例えば,三次元の相空
間を再構成する場合,位置ベクトル{X(t),X'(t),X"(t)}をプロットする代りにある時間遅れτを用いて{X(t),X(t+τ),X(t+2τ)}をプロットす
ることによって相空間を再構成できる.このときτは系の特徴的な周期の数分の一に取ればよい.これは,X(t) = sin(t) である場合に,X'(t)
=cos(t)と一致させるためには 時間遅れτ=π/2とし,X(t +τ)=sin(t+π/2)=cos(t)とすればよいことから直感的に理解できる.
一般的にd次元のベクトルを作り位相空間を再構成する場合,サンプリング時間Δtで得られたN個の時系列データを{ X(ti)=X(iΔt) : i=1,
N}とすると,時間遅れτ=mΔtを用いて相空間の位置ベクトルを
Xi = {X(ti), X(ti + τ), ...... , X(ti+(d-1)τ)} ただしi=1,2,3,....,N. とすれば良い.この方法を埋め込み(Embedding)といい.dを埋め込み
次元(EmbeddingDimension)という.
プラズマ・核融合学会用語解説
運動論的アルヴェン波
掲載号 72-5
196
Kinetic Alfven Wave
「アルヴェン波」と言った時,多くの場合磁力線方向の波数(k)がゼロの極限でのω/k=VA(VAはアルヴェン速度)の関係を持つ,磁力線方
向の電場がゼロでかつエネルギーは磁力線方向にのみ伝播する電磁流体波動を指していることが多い.このモードは完全導体の不均一プラズマ
中では連続スペクトルを持つことになるが,もし,外部から一定の振動数と波数の揺さぶり(例えば表面波による)ができたとすれば,その位
相速度がちょうどアルヴェン速度になる点が局所的に共鳴するはずである.磁気圏でのパルセーションの多くはそのように考えられている.し
かし,これでは共鳴点でのエネルギーが無限大になってしまうが,Hasegawa and Chen 等はイオンの有限ラーモア半径(分極電流)を考慮するこ
とにより共鳴の特異点が除去でき,新たに磁力線を横切って伝播する『運動論的アルヴェン波(KAW)』が生まれ,それがエネルギーを運び去
ることを発見した.KAWは磁力線方向の電場を持つ波長の短い波であるため,これによるプラズマ加熱がこれまで核融合やコロナ等の分野で話
題になっている.ただし,KAWはω2 ,ve2 ,ωνei(ve は電子の熱速度)の大小によって三種類に分けられる.
参考文献:A. Hasegawa and L. Chen,Phys. Fluids 19,1924(1976).
プラズマ・核融合学会用語解説
Hモード
掲載号 73-9
244
H mode
加熱入力があるしきい値を越えた時にプラズマ表面付近で急激に温度・密度が高い分布に遷移し,エネルギー閉じ込め時間が改善する閉じ込
め状態をいう.このような性質のプラズマは,ダイバータを持つASDEXトカマク(ドイツ)で中性粒子ビーム入射によるプラズマ加熱実験を
行っている際に発見された.その後,リミタ配位,高周波を用いた加熱実験,ジュール加熱プラズマ,さらにヘリカル型装置においても同様の
現象が観測されている.これに対し,このような閉じ込め改善を伴わない放電状態をLモードという.
Hモードではプラズマ表面付近に局在する不安定性(Edge Localized Mode, ELM)が間欠的に出現することがある.この時周辺部の粒子が吐き
出されるため,Hモード放電時において密度上昇を抑制することができる.密度の定常制御性を向上させる目的から積極的にELMの利用が考え
られている.このELM付きHモード(ELMy Hモード)は,日米欧露の四極が共同で設計を進めている国際熱核融合実験炉ITERにおいて自己点
火と長時間燃焼を達成する上での標準閉じ込め状態と位置づけられている.更に設計の信頼性を高くするために,Hモードの閉じ込め性能と遷
移に必要な加熱入力しきい値に関する国際データベースの構築がITER物理R&D活動として国際的協力の下に進められている.
プラズマ・核融合学会用語解説
エキシマレーザー
掲載号 74-6
270
Excimer Laser
エキシマレーザーは紫外線領域で発振する大出力パルスレーザーである.励起状態は比較的安定であるが,基底状態では不安定ですぐ解離して
しまうような分子をエキシマ(Excimer)と呼ぶ.たとえば,アルゴンやクリプトンなどの希ガスは単原子分子であるから,通常は自分自身や他の
原子とは容易に結合を作らないが,励起状態になると,基底状態の希ガス原子やフッ素・塩素などのハロゲンと一緒に分子を形成する.このエ
キシマからの光放出を応用したのがエキシマレーザーである.エキシマの寿命は数nsと短く,上準位にあるエキシマは紫外線を放出して基底状
態(下準位)に遷移するがすぐに解離してしまうために容易に反転分布が実現できる.
エキシマレーザーの主流は放電励起希ガス-ハライドエキシマレーザーで,希ガスとハロゲンの組み合わせにより,紫外線領域で約50 nm毎に
強力な発振線が得られている.実用化されている代表的な希ガス-ハライドエキシマレーザーは, ArFレーザー(193nm),KrFレーザー(249 nm),
XeClレーザー(308 nm)である.エキシマを形成するための数%の希ガスとさらに少量のハロゲンガス(塩化水素やフツ素ガス)をヘリウムやネオン
で希釈した混合ガスが媒質ガスとして用いられる.一般にはこの媒質ガスを数気圧に高めて頑丈な容器に封入し,レーザー光の進行方向に対し
て横方向に放電させる.エキシマレーザーでは,レーザー上準位の寿命が短いため,高い励起強度が要求される.また,一様なグロー放電を得
るために紫外線やX線を用いた予備電離が不可欠である.
エキシマレーザーの最大の特徴は,短波長・短パルス・高出力であり,これをいかして,色素レーザー用励起光源(XeClレーザー),リソグラ
フィのステッパ(KrFレーザー),光化学の基礎研究(ArFレーザー)等のほか,最近では薄膜形成のためのアプレーション用レーザーとして活発に
応用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
X線フレーミング(コマ撮り)カメラ
掲載号 68別冊
069
X-ray Framing Camera
時間分解されたX線領域での二次元像を撮影するためのカメラ.慣性核融合等のレーザー生成プラズマを用いた研究では,対象となるプラズ
マの形状をサブ・ナノ秒の時間分解能で観測することが要求される.そのために,高速の時間分解能を有したX線イメージコンバータが開発さ
れている.ストリークカメラの様に電子レンズ内に掃引電極を配し,電子ビームを制御する方式と,マイクロチャンネルプレートをゲート動作
させる近接型と呼ばれる方式が有る.現状では,主に後者の方式のものが使用されており,シャッター時間は約100 psec,解像度は10 lp/mm 程
度である.この方式は,原理的には可視域ならびに粒子像の撮影にも適用可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
X線レーザー
掲載号 74-6
271
X-ray Laser
通常,軟X線領域(30 nm∼1 nm)以下の波長で動作する短波長レーザーをX線レーザーと称している.1984年にローレンスリバモア研究所とプ
リンストン大学で,それぞれ電子衝突励起法と再結合励起法により波長約20 nmにおける軟X線の増幅が観測されて以来,X線レーザーの研究が
急速に進歩した.可視・紫外域のレーザーと異なって,X線領域では光共振器の実現が困難であり,超放射形でレーザー発振させるために大きな
利得が要求される.さらに,自然放出損失に打ち勝ってレーザー上準位を励起するのに必要とされるパワー密度は波長の4乗に反比例して大き
くなる.したがって,可視・紫外域のレーザーと比較すると,X線レーザーの励起には桁違いに強力なパワーが必要とされる.X線レーザーの研
究の進展は,レーザー核融合研究を中心とした分野における高強度レーザーの開発によるところが大きい.超短パルス・超高強度レーザーの進
展に伴って,その強力な光電界で原子やイオンを直接電離し,容易に多価イオンを生成することができるようになってきた.高強度レーザーを
利用した光電離を用いて,電子衝突や再結合などの励起方法により反転分布が生成され,いくつかの遷移においてX線の増幅が確認されてい
る.衝突励起方式では,Ne様Seの3p-3s遷移で18.3,20.6,20.9 nm,Ne様Tiの3p-3s遷移で32.6 nm,Pd様XeのJ = 0-1遷移で41.8 nm,等でX線の増
幅が報告されている.また,軽元素イオンの△n = 1または2の準位間で反転分布を生じる再結合励起方式においては,H様Cのバルマーα線18.2
nmや,H様Liのライマンα線13.5 nm等でX線の増幅が報告されている.X線レーザーの励起用レーザー装置は非常に大型で汎用性が低いという
のが現状である.X線レーザーの実用化のためには,励起用レーザー装置の小型化が必要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
NBI加熱
掲載号 69-11
106
Neutral Beam Injection Heating
高速の中性水素原子をプラズマ中へ入射させ,そのエネルギーを与えることによりプラズマを加熱する方法を NBI(中性粒子入射)加熱とい
う.中性粒子は磁場の影響を受けることなく入射できるので磁気閉じ込め方式の核融合実験装置で幅広く用いられている.プラズマ中で荷電交
換あるいは衝突電離によりイオンとなるがこの変換特性長は,おおむね入射エネルギーに比例し,プラズマ密度に反比例する.したがって,プ
ラズマ小半径が 1m を越える核融合炉では数100 keV 以上の入射エネルギーが必要である.
高速イオン粒子は衝突緩和過程によりプラズマを加熱する.エネルギーが電子温度の10数倍以上より高い場合は電子加熱が主となるので,イ
オンヘの加熱効率を高めるためには標的プラズマの電子温度を高くする必要がある.一方,中性粒子ビームをトーラスの接線方向に入射させる
と Ohkawa 電流が駆動される.プラズマ電子の遮蔽電流により打ち消されてしまう水素プラズマ( Zeff = 1 )を除いて,正味のプラズマ電流が
駆動される.核融合炉規模での電流駆動に応用するには 1MeV 以上の入射エネルギーが必要となるが,高密度領域での効果的な電流駆動方式と
して期待されている.また,開放端型磁気閉じ込め装置のプラズマ電位の形成にも NBI は利用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
FIR計測
掲載号 66-1
002
FIR measurements
遠赤外 (Far Infrared) 域の電磁波光源を用いたプラズマ計測を総してFIR計測と呼ぶ. プラズマの高密度化に伴い,使用する電磁波ビームの最
適な波長領域がマイクロ 波領域から遠赤外領域に移行してきた.また,近年の各種波長での遠赤外レーザー光 源の開発および遠赤外域検出器
の開発と合いまって,プラズマ計測へ幅広い応用が行われるようになった. レーザー光源としては CO2 レーザーによる光励起型遠赤外 レー
ザーや HCNレーザーに代表される直流放電型遠赤外レーザーが用いられてる. 一方,検出器としては室温で使用可能な高感度,低雑音ショッ
トキー・バリア・ダイオードが一般的に用いられてる.FIR計測としては,(1) 干渉/偏光測定,(2) 散乱計測および (3) プラズマからの放射測 定
などが挙げられる.(1) では多チャンネル干渉/偏光測定 により電子密度分布あるいはボロイダル磁場分布の測定,(2)ではドリフト波等の電子 密
度揺動測定あるいはイオン・トムソン散乱によるイオン温度測定,および (3) としてはプラズマから放射される長波長域の電子サイクロトロン
放射測定がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
FRC
掲載号 73-3
226
FRC
FRC とは,”磁場反転配位”の英文の頭文字をとったもので,環状トロイダルプラズマ電流によるポロイダル磁場と外部コイルによる縦方向
磁場によってプラズマを閉じ込める配位である.
現在,逆バイアステータピンチ法,逆方向のトロイダル磁場をもつスフェロマクの合体法,イオンビーム入射法の実験によってこの配位を形
成している.トカマク等の配位と比べてトロイダル磁場がないために非常に高いプラズマベータ値(実験的に90%以上が実現)をもつプラズマ
を閉じ込めることができる.
この配位では電磁流体的に傾斜モードに対して不安定( tilt instability )であると予想されるが,実験的にはその不安定性の成長時間(∼数μ
sec )より十分長い間(∼ 数 msec)FRC プラズマは安定に保持されている.これは,高エネルギーイオンによる安定化効果を示唆している.し
たがって,FRC プラズマに対しては従来の電磁流体的な扱いに加えて粒子の運動論的効果を取り入れた扱いが必要となり,興味深いプラズマ物
理の分野となっている.またプラズマの周辺が開いた磁力線で取り囲まれているために,荷電粒子を多く発生する核融合(D-3 He 燃料核融合等
のアドヴァンスト核融合)ではそれらを直接エネルギー変換器に導くことが容易で,高効率の核融合炉が期待できる.
プラズマ・核融合学会用語解説
FFT
掲載号 75-1
290
FFT
フーリエ変換を時間と周波数に関して離散化したものが離散フーリエ変換(DFT: Discrete Fourier Transform)である.計算機においては次式で
表されるDFTを用いて周波数スペクトルXkが計算される(下式).
ここで,x(n)はデータであり,データ数はN,k は周波数に対応する.しかし,DFTの演算量はデータ数Nの2乗のオーダであるので,データ数
が大きくなるとその計算量は莫大なものとなり実用的な計算時間では結果が得られなくなる.そのDFTを高速化したものが高速フーリエ変換
(FFT: Fast Fourier Transform)であり,演算量をN log2Nのオーダまで減少させることで,ある程度のデータ数まで実用的に計算可能とした.
しかし,高速化のアルゴリズムの制約よりデータ数は2のべき乗個に制限される.また,周波数の離散化によってデータの周期性が仮定される
ため,通常はFFTの実行前に,データに窓関数を掛けておくことが必要である.
FFTによるスペクトル解析では,サンプリング周期をΔTとすると,時間分解能は解析データの時間幅であるNΔTであり,周波数分解能は
1/(NΔT)となる.両者の積は一定で,同時に時間・周波数分解能の両方をあげることはできないという一種の不確定性原理が存在する.データ
長が長い定常なデータに関しては,スペクトルの定義にしたがって計算するFFTが最もよいスペクトルが得られるが,データ長が短い場合や定
常性が仮定できない場合は,FFTよりも他のスペクトル解析法である最大エントロピー法(MEM: Maximum Entropy Method)や,ウィグナー分
布,ウェーブレット変換等を用いる方が妥当な結果が得られる場合もある.
式(1):290eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
エミッシブプローブ
掲載号 72-01
183
Emissive Probe
電極を熱電子が十分放出可能な程度に加熱して用いる静電プローブをエミッシブプローブという.熱電子のエネルギーはkTw(kはボルツマン
定数;Twは加熱された電極の温度)程度であり,通常プラズマの空間電位Vsに比べて十分小さい.電極から放出される熱電子は,プローブ電
位VpがVs以下ではプラズマに流れ込むが,Vp>Vsの飽和電子電流領域ではほとんど流れない.このことを利用すれば,プラズマの空間電位Vs
の精度よい測定が可能となる.Twを一定に保ったエミッシブプローブを用いる場合,電流電圧特性曲線には通常の静電プローブ特性曲線に放出
される熱電子の寄与が加わる.Vp<Vsでのみ熱電子による一定の電子電流が通常の特性曲線の電子電流方向と逆向きに加わるためVp=Vsで急
激に変化し,この電流電圧特性曲線よりVsが精度よく測定できる.
プラズマ・核融合学会用語解説
エミッタンス
掲載号 72-01
182
Emittance
エミッタンスはビームの発散角(ダイバージェンス)や輝度(ブライトネス)などとともに,荷電粒子ビームの質を表す基本量の1つであ
る.ビームはいろいろな軌道の集合であり,ある点を通過するビームの軌道は方向の異なる多数の軌道によって構成される.ある任意の断面に
おける軌道は四次元位相空間上の点集合(Xi,Yi,Xi',Yi')で表すことができる.特に回転対称系では(ri,ri')となり,点集合を囲む閉曲
線をみればビーム全体の広がりやビームの発散の程度が明らかとなる。このような図(182.gif)をエミッタンス図または位相図と呼んでおり,閉
曲線で囲まれる面積をビームのエミッタンスと定義する.特に速度で規格化したエミッタンスは空間電荷効果や散乱が無視できるときは,レン
ズ系を通過したり加減速されても変わらない不変量となる.すなわちレンズ系によってエミッタンスを小さくすることはできない.それゆえ,
イオン源や電子銃においていかにエミッタンスの小さいビームを発生させるかということがビーム輸送系等を設計する上で重要となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
MHD平衡
掲載号 72-11
212
MHD Equilibrium
磁気核融合の基本は高温プラズマを安定に閉じ込められる磁場構成法を見出すことである.MHD方程式系において,プラズマの巨視的な流れ
がなく,散逸効果を無視すると,定常状態では(1)J×B=▽P,(2)μ0J=▽×B,(3)▽・B=0がMHD平衡方程式として得られる.プラ
ズマを閉じ込めるためには,(1)∼(3)式の解として得られるBから,磁力線を追跡することによって磁気面が構成でき,しかも磁気軸のま
わりに入れ子状に磁気面が存在する必要がある.そうすると,(1)式からB・▽P=0およびJ・▽P=0が成り立つので,磁気面内では圧力が
一定であり,また電流線により形成される面にもなっている.このようなMHD平衡解が,軸対称トーラスプラズマとヘリカル対称プラズマに対
して存在することを示すことは可能であるが,ステラレータに代表される非軸対称トーラスにおいてはMHD平衡解の存在は自明ではない.
軸対称トーラスあるいはヘリカル対称トーラスでは,MHD平衡解を求めるために磁気面がψ=一定の等高面に対応する磁束関数に対する偏微
分方程式を解くことが多い.この方程式は(1)∼(3)式より最初に導出した旧ソ連の V. D. Shafranov 博士および米国の H. Grad 博士の名前を
用いて,Grad−Shafranov 方程式と呼ばれている.
(1)∼(3)式では,圧力Pはスカラ量であると仮定しているが,強力な中性子入射加熱を行っているプラズマやミラー磁場のように速度空
間損失領域があると,非等方圧力になる可能性がある.このような場合には,磁力線に平行方向の圧力をP||,垂直方向の圧力をP⊥と表して,P||
≠P⊥であるプラズマに対するMHD平衡理論が用いられる.また最近は,プラズマ内に巨視的な流れがあるMHD平衡も注目されている.
MHD平衡理論は,実験データ解析にも有効であり,トカマクやステラレータでは,プラズマ圧力による磁気軸の移動(Shafranov シフトと呼
ばれる)を計測し,これからプラズマ圧力や,プラズマ電流分布を予測することができる.この手法はトーラスプラズマの磁気計測法として確
立している.またMHD平衡計算と磁気計測法を組み合わせることにより,プラズマ形状や位置の制御ができるので,MHD平衡はトカマクのプ
ラズマ制御の基礎にもなっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
MHD不安定性
掲載号 75-4
299
MHD Instabilities
プラズマを記述するモデルとしてMHD方程式系は広く使われている.磁気核融合では,プラズマ閉じ込めが可能であるためにはMHD平衡が
存在しなければならない.さらに,小型で高性能な閉じ込め装置を実現するにはMHD不安定性を抑制する必要がある.
MHD不安定性は大別すると理想MHDモードと抵抗性MHDモードに分けられる.高温プラズマでは,MHD平衡状態に微小な摂動を与えると,
指数関数的に成長する場合があり,MHD不安定性と呼ばれている.MHD不安定性は,不均一なプラズマ電流に起因する電流駆動型モードと不
均一なプラズマ圧力に起因する圧力駆動型モードに分類されるが,圧力の高いプラズマでは反磁性電流が流れるので,場合によっては区別は明
確でなくなる.
理想MHDモードとしては,圧力が無視できるようなプラズマでも発生するキンクモードと,不均一圧力により駆動されるインターチェンジ
モードとバルーニングモードがある.キンクモードは,プラズマ表面を含めてプラズマ柱全体がらせん状に変形する外部キンクモードと,プラ
ズマ内部の領域のみらせん状に変形する内部キンクモードがある.インターチェンジモードは磁力線の平均的な曲率が悪い場合に磁力線方向の
振幅が一定となるようなモード構造を持つのに対して,バルーニングモードは,磁力線の曲率の悪い領域(例えばトーラスプラズマの外側領
域)に振幅が局在化するモード構造を持つ.理想MHDモードに対しては,MHD方程式系がエネルギー保存則を持ち,ハミルトン形式で書ける
ために,エネルギー原理が成り立ち,活用されている.
一方,抵抗性MHDモードとしては,テアリングモード,リップリングモード,および抵抗性インターチェンジモード(qモードとも呼ばれ
る)がある.これらの特性についてはFurth,KilleenおよびRosenbluthによる有名な論文[1]を参照するとよい.例えば,トカマクプラズマではテ
アリングモードが不安定になりやすく,有限抵抗のためにリコネクションが生じ磁気島が形成されて閉じ込めを悪化させる.また,ヘリオトロ
ンプラズマでは,磁気丘領域が存在するために抵抗性インターチェンジモードが重要である.これらのMHD不安定性を安定化するためには,磁
気シア,磁気井戸および導体壁とプラズマ流が有効である.
参考文献 [1] Phys. Fluids 6, 459 (1963).
プラズマ・核融合学会用語解説
LHRF
掲載号 69-11
107
Lower Hybrid Range of Frequency
磁場プラズマ中ではイオン・サイクロトロン共鳴と電子サイクロトロン共鳴の中間に低域混成共鳴とよばれる共鳴周波数が存在する.イオン
のプラズマ振動と電子の分極ドリフト運動が絡んだ共鳴条件で,ωLH = ωpi /( 1 + ωpe 2 /ωce2 )1/2で近似される.ここに,ωpi ,ωpe はそれぞれイ
オン又は電子プラズマ周波数,ωce は電子サイクロトロン周波数である.トカマクのような強磁場中では,イオンプラズマ振動に近く,弱磁場
では電子とイオンのサイクロトロン周波数の幾何平均の周波数になる.この共鳴周波数近傍の周波数帯を LHRF と呼ぶ.この周波数帯の波はプ
ラズマ電子密度の設定により電子またはイオンと相互作用させることができる.トカマクで1019m-3 程度の電子密度の場合には ωLH が数GHz の
周波数帯になるため,クライストロンと呼ばれる大電力の電子管や導波管が使用でき,プラズマの加熱やトカマクの非誘導電流駆動に利用され
ている.特に,最近では LHRF を使った低域混成波電流駆動(LHCD)研究が進展し,核融合炉の最有力侯補とみなされているトカマクの重点
課題である定常化に大きく寄与している.
プラズマ・核融合学会用語解説
エルゴディックダイバータ
掲載号 75-9
314
ergodic diverter
トカマクやヘリカルのような環状磁場閉じ込め装置の研究では,プラズマ熱流をいかに処理するかが重要な課題になっており,エルゴディッ
クダイバータは,輻射型ダイバータの一種で周辺のエルディック領域内でプラズマ熱流を輻射光,最も望ましい形の熱流に変換して熱負荷の軽
減やスパッタリングの抑制を行う.不純物輻射冷却は,電子温度が低いとき,その効率が高いが,エルゴディックダイバータでない配位では,
周辺の低温領域の体積が小さいために中心部での放射冷却をできるだけ小さくしながら,閉じ込めへの影響の少ない周辺部に放射冷却を限定す
ることが一般的には困難になる.そのため放射効率の高い周辺低温領域の体積を増大させるためにエルゴディック磁場配位を周辺に形成する.
まず閉じ込め領域周辺部に弱い共鳴磁場(ポロイダルモード数>6)を印加するとトロイダル効果のため複数のアイランド層が半径のすこし
違った位置に発生する.さらに印加磁場強度を強くすると(それでもトロイダル磁場の∼0.1%程度),アイランドが重なり合ってエルディック
領域が周辺に形成される.この領域内は,磁力線でつながっており,そのため電子の輸送が大きく,電子温度が低く押さえられ,領域全体が不
純物の放射効率の高い低温領域になる.
また放射冷却が不充分な場合でも,印加共鳴磁場を回転させるとプラズマ流の時間平均熱負荷が低減できる.エルゴディック領域のプラズマ
は,第一壁と接触するが第一壁近くでは,エルゴディックというよりはアイランド構造が支配的でその接触領域は,ポロイダル方向には,局所
化する.これを逆に利用してアイランドを∼1Hz程度で回転させることで確実に接触面積の拡大が可能になる.
エルゴディックダイバータがITERの設計に取り入れられない最大理由は,エルゴディック磁場構造で周辺の閉じ込めを乱して放射冷却するた
めにHモード(閉じ込め改善)の形成に必要な周辺の輸送障壁ができないと考えられているためである(少なくとも実験的にはHモードの形成
は実証されていない).
プラズマ・核融合学会用語解説
LD励起固体レーザー
掲載号 68別冊
076
Laser Diode Pumped Solid State Laser
レーザーダイオード(LD)で固体レーザー材料(例えばNd:YAG)の強い吸収線(波長 808 nm)のみを選択的に光励起することにより逆転
分布を生じさせ,レーザー光(波長 1,064 μm)を発生させる装置のことである.特定の吸収線のみを励起するので固体レーザー材料への熱負
担が少なく,したがって高繰り返し動作が可能である.最近,波長 800 - 840 nm で発振する AlGaAs半導体レーザー(レーザーダイオード,また
は短くダイオードとも呼ばれる)が急速に開発され,高強度(200 μs パルス動作で 4 kW/cm2 ),高効率(60%),長寿命(1011 ショット)が
達成された.二次元アレイ形状のLDも大出力化が進み,0.35 ∼1 MW(パルス幅 200μs)の出力のものが市販されており,また $1/W までの低
価格化も進んでいる.このような大出力,高効率,長寿命のLDアレイを励起光源とする 1.064μm Nd:YAG レーザーの高出力化が急速に進ん
でいる.1992年には CW (直流)出力150 W,平均出力 1.4 kW(繰り返し 2.5 kHz),ピーク出力 44 MW が実現され,レーザー加工,ステッ
パー等へ応用されている.また,LD励起固体レーザーの特徴を生かしたレーザー核融合炉用のLD励起固体レーザードライバーの概念設計が行
われ,0.35μm へ波長変換したパルス出力 4 MJ(10nsパルス)を繰り返し12 Hz,総合効率12%で達成しうることが示されている.そのための
固体レーザー材料としてはNd:ガラス(HAP4),Nd:SiO2 ,Nd:Y:CaF2 等が検討されており,ドライバーコスト$200/J を達成するための
ガイドラインも明らかにされている.
プラズマ・核融合学会用語解説
エロージョン
掲載号 75-7
308
Erosion
エロージョンとは,一般的には固体材料表面が気体・液体・固体(固体粒子)などの流体あるいは多相流体と衝突する,または異種の物質と
接触することよって機械的作用や化学的作用で表面が損耗し,肉厚の減少を生ずる現象をさす.
核融合炉で問題となるエロージョンのひとつにプラズマ対向機器表面でのエロージョンがある.これはプラズマ粒子が高粒子束密度(1020∼
1023m-2s-1)でプラズマ対向壁表面に入射する際の,表面の原子をはじき飛ばす物理スパッタリングや,水素や不純物の酸素のイオンが炭素材表
面の原子と反応してメタンなどの炭化水素もしくは一酸化炭素となって放出される化学スパッタリングである.またディスラプションによる対
向材表面への超高熱負荷によっても表面が蒸発や昇華を起こす.この結果,対向材料の表面が損耗して対向材の肉厚の減少を起こし,対向機器
の健全性や寿命に影響を及ぼすことから,核融合炉環境下においては,エロージョンの少ないことが対向材料の選択の大きなポイントとなって
いる.ただし,これらの評価は核融合中性子による効果はほとんど考慮してない議論であり,現実の核融合炉では核融合中性子によるはじき出
し損傷や核変換損傷による構造変化や化学組成の変化が局所的にも起こり重大なエロージョンを引き起こす可能性があり,問題となっている.
さらに,エロージョンはブランケット内部における問題でもあり,冷却材・増殖材・増倍材等との共存性における重要な課題でもある.erosion
とcorrosionの区別が厳密には行われていない場合が多い.
対向材料の種類によって問題となるエロージョンの素過程が異なっている.炭素材料においては,物理スパッタリングとともに化学スパッタ
リング,蒸発,昇華などが損耗量の評価に関わるのに対し,高Z材料の対向材料のタングステンでは,主にディスラプションによるエロージョ
ンが問題となると考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
遠隔放射冷却
掲載号 70-2
114
Remote Radiative Cooling
ダイバータ配位においては,炉心から流出する熱流束がセパラトリクスに沿って,ダイバータ板が設置されている狭い流域に流入する.この
ため,ダイバータ板での熱処理が,核融合炉の設計で最も重要な課題になっている.熱流束がダイバータ板に到達する前に,その50%以上をダ
イバータ領域においてプラズマ自身の放射冷却によって散逸させることで,この課題を解決する方策が有望視されている.放射冷却を低温高密
度のダイバータプラズマ領域に限定できれば,そこでは粒子間の衝突頻度が高く,平均自由行程が短いので,高い冷却効果を持つとともに,炉
心が直接冷却されるのを防ぐことができる.これを遠隔放射冷却と呼んでいる.
遠隔放射冷却はダブレットIIIにおける実験で発見され,その後,ASDEX,JT−60,JET等でも確認された.JT−60Uの実験では,低温高密度
ダイバータにおける低Z不純物(炭素,酸素)の低電離イオンおよび水素中性粒子の励起損失と荷電交換が遠隔放射冷却の物理機構であること
が,定量的に明らかにされた.
プラズマ・核融合学会用語解説
大型ヘリカル装置(LHD)
掲載号 75-11
318
LHD
文部省核融合科学研究所(岐阜県土岐市)において8年間の試作・開発、実機製作を経て1998年3月より稼動し始めた大型の磁場プラズマ閉じ
込め装置.通称はLHD.宇尾光治博士が1958年に端緒をつけた外部導体のみによる環状プラズマの閉じ込め概念であるヘリオトロン配位を持
つ.ヘリオトロン配位は1対のヘリカルコイルにより,磁気シアを持った閉じ込め磁場と4本のダイバータ構造を発生できるため,他の環状磁場
閉じ込め概念に比較して本質的に電流ディスラプションのない安定な放電を持続できるという特長を持つ.LHDではコイル系統をヘリカルコイ
ルのみならずポロイダルコイルおよびバスラインを含めてすべて超伝導化することにより,装置工学的にも定常運転を可能としている.大半径
3.9m,小半径0.6m,プラズマ体積約30m^3という装置規模を有している.磁場強度は現在3Tであるが,超流動ヘリウムを用いた冷却能力増強
により4T運転を計画している.従来の小型・中型ヘリカル系装置からエネルギー閉じ込め時間として約一桁の規模拡大を行うことにより,炉
心プラズマへ外挿可能な10 keV程度の高温プラズマを実現し,ヘリカル方式核融合炉のために重要な物理的,工学的研究課題を解明することを
目的としている.トロイダルプラズマ閉じ込めの総合的理解に向けた大型トカマクとの相補的研究の対象となっている.主力加熱装置は負イオ
ン源を用いた中性粒子入射加熱装置であり,電子・イオンサイクロトロン共鳴加熱装置も合わせ持つ.初年度(平成10年度)の実験では,温度
は電子,イオンとも2 keVを越え,エネルギー閉じ込め時間も0.2秒を上回るプラズマが生成保持されている.炉工学分野からの貢献として0.8
GJの蓄積エネルギーを持つ超伝導ヘリカルコイルを成功裏に稼動させたことは特筆に価する.また構造材料,高熱流束機器の分野での貢献も期
待されている.今後の研究により,核融合の実現に必要な1億度のプラズマに関する種々の物理研究が飛躍的に進む見通しである.
プラズマ・核融合学会用語解説
オージェ電子
掲載号 71-12 179
Auger Electron
固体表面を電子衝撃すると,表面近傍の原子の内殻電子が励起されて内殻(例えばK殻)に空位が生じる(図(a)(179.gif)).すると,この
空位に外側の殻(例えばL殻)から電子が遷移して,2つの準位の差に相当する余剰エネルギーが原子から放出される.エネルギーの放出は特性
X線(図(b)(179.gif))または外殻(いまの場合L殻)電子の原子外への放出(図(c)(179.gif))という形で起こる.後者をオージェ電子と呼
び,この電子のエネルギーは次式で与えられる.
EA = EK - EL - EL' - φ
ここで,φ は仕事関数で, EL' は外殻に空位が生じているため空位のないときの EL とわずかに異なる.オージェ電子は元素固有のエネル
ギーをもつため,固体表面からの二次電子のエネルギースペクトルを求めることにより表面に存在する物質を同定することができる(オージェ
電子分光).オージェ電子分光は原子番号の小さい元素の固定に適しており,電子分光に用いる一次電子エネルギーは1∼3kevが一般的であ
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
オーロラ
掲載号 73-9
242
Aurora
惑星磁場の磁カ線に沿って惑星表面へと降下する高エネルギーの電子が惑星大気中の原子・分子を励起することにより生ずる発光現象.地球
だけでなく,木星や土星等の磁場を持つ惑星の極域で起こる現象であり,太陽コロナから惑星間空間そして惑星磁気圏へと続くプラズマのダイ
ナミックな運動の一環として生ずる.特に,太陽フレア等の太陽プラズマの大規模な擾乱や惑星間空間磁場の向きの変化に伴って引き起こされ
る磁気嵐はオーロラと直接的な関係がある.オーロラは地球では約 10keV に加速された電子によって高度約100km で生じ,その色は酸素原子か
らの緑および赤の輝線および窒素分子の青の輝線が主体となっている.オーロラが出現する領域は磁極点ではなく,磁気緯度65゜- 75゜で卵型
に取りまく帯となっていてオーロラオーバルと呼ばれている.大規模なオーロラは低緯度まで拡がり,北海道でも10年に1回程度(おおよそ太
陽活動1周期に1回程度)見ることができる.
オーロラオーバルを通る磁力線は太陽と反対側(夜側)ではプラズマシート(磁気中性面)につながっている.オーロラオーバルでは磁力線
に沿って沿磁力線電場が生じ,これにより電子が加速を受けている.オーロラおよびそれに伴う現象が複雑であるので全体像を確定するまでに
は至っていないが,オーロラにおける高エネルギー電子生成にはプラズマシートでの磁気再結合も関与している可能性が高い.
プラズマ・核融合学会用語解説
オゾナイザ
掲載号 74-10
282
Ozonizer
オゾン発生器(Ozone Generater)ともいう.オゾン生成法には,紫外線照射法,水の電気分解によるもの,および無声放電(Silent Discharge,
バリア放電とも呼ぶ)法などがある.しかしながら,オゾン生成効率や単位時間あたりの生成量の面から主に無声放電方式が利用されている.
無声放電方式オゾナイザの特徴は,電極間隔(ギャップ長)が1mm以下と短く,原料ガスは空気または酸素で動作圧力は大気圧以上の圧力であ
る.さらに,電極間にはガラスなどの誘電体が挿入されていることである.ギャップ長が短いのは,電子との衝突による酸素分子の解離を効率
よく行なうための高電界(E / N ≧100 [Td])の発生,および生成されたオゾンの熱分解を防ぐための効果的な冷却のためである.ここでEは電
界,Nは粒子数密度である.また,動作圧力が大気圧以上と高いのは,オゾン生成の主反応である酸素原子と酸素分子および第三体との三体衝
突(three body collision)を効果的に起こさせるためである.オゾン発生方法としては,他に,1)電極間に金属酸化物粒体を挿入する方法,2)電
極間に金属細線を封入する方法,3)回転電極を用いる方法,4)オゾン化ガスの拡散に工夫をこらした方法,5)沿面放電(Surface Discharge)によ
る方法,6)三相交流電源による沿面放電と無声放電の重畳を用いた方法,7)二重放電を用いた方法など各種の発生方法が提案され,一部は実用
化されている.オゾン発生量としてはmg/hから数10 kg/hにわたり,オゾンの利用分野としては,上下水処理,プール用水の処理,発電所冷却水
への注入,食品業界,パルプ漂白,材料の表面処理,機械工業および医療関係など幅広い分野にまたがっている.ただし,オゾンは有毒なガス
であるため,その取り扱いには注意を要する.このため,日本オゾン協会では,安全なオゾナイザを社会に出すため,オゾナイザ製造事業所の
登録と規格(型式)認定制度をスタートさせた.
プラズマ・核融合学会用語解説
オプトガルバノ効果
掲載号 74-12
289
Optogalvanic Effect
放電プラズマに光を照射すると外部回路に電気的な応答(電極間電圧や電流の変化など)が現れる現象をさす.適当なプローブ電極により電
気信号を観測する場合も含めることがある.古くから知られている現象であるが,最近では波長可変レーザーを光源とすることにより,簡便な
分光法として利用範囲が広がった.放電空間内の原子・分子が特定波長の光を吸収して電離されやすい高励起状態に遷移し,荷電粒子の生成消
滅バランスが変化することが現象の主な原因であるが,負イオンからの光脱離等,レーザー光による荷電粒子の直接生成によっても起こる.光
の吸収から電気的な応答に至るまでの機構が複雑であり,信号強度から光吸収した分子種を定量するのは一般に難しい.しかし,高感度であ
り,スペクトル線の形や位置を情報として利用する用途には適している.ホローカソード放電管に波長可変レーザー光を照射してオプトガルバ
ノ信号を観測することにより,レーザーの絶対波長の較正を簡便に行うことができる.電界によるスペクトル線の分裂や位置の変化(シュタル
ク効果)を波長可変レーザー照射オプトガルバノ分光法で計測することにより,グロー放電の陰極降下部等の電界の空間分解測定が行われてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
オンサーガー相反定理
掲載号 72-8
203
Onsager Reciprocuty Theorem
不可逆過程の熱力学での輸送係数の対称性に関する定理をさす.一般に熱力学的流量Jiと熱力学的力Xjは平衡状態の近傍で下式(1)
と書ける.この時,一般に外磁場Bがある時に,輸送係数Lijは相反定理、下式(2)を満足する.この定理の成立には体系が熱平衡状態に極め
て近いこと,ならびにそこでの微視的な揺らぎが可逆的であることが必要である.例えば,等方的なプラズマの線形誘電率テンソルに対するオ
ンサーガー相反定理は下式(3)となる.ここで,ω,k,v,Ωはそれぞれ角周波数,波数ベクトル,速度ベクトル,サイクロトロン角周波数
を示す.プラズマのように非平衡,非線形系で一般的に相反定理が成り立つ保証はないが,扱っているモデルの不正確さのために相反定理が破
れていることを主張している文献が多いのも事実である.例えば,空間的に不均一なプラズマに対する局所解の誘電率テンソルでは相反定理が
破れているがこれはフーリエ分解したためである.一方,修正局所解はオンサーガー相反定理を満たす.
式(1):203aeq.gif
式(1):203beq.gif 式(1):203ceq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
回転変換
掲載号 69-2
085
Rotational Transform
トーラス状のプラズマの平衡を保つために回転変換と呼ばれる磁場のねじりが必要である.トロイダル磁場のみではイオンと電子は上下逆方
向にドリフトし,トーラス上部と下部に正または負の電荷が蓄積する.この結果生じる電場のため E×B ドリフトが生じ,プラズマは全体とし
て主半径方向に吹き飛び平衡が失われる.これを防ぐために,トーラスの小さい円周方向に沿うポロイダル磁場が必要であ
る.トロイダル磁場とポロイダル磁場の合成としてらせん状の磁場が形成される.荷電粒子は磁力線に沿った方向にはすばやく移動するため,
上下にたまった電荷はらせんに沿って中和される.トカマクではプラズマ中に電流を流すことによってポロイダル磁場を発生する.一方,ヘリ
カル系ではプラズマ中に正味のトロイダル電流なしで実効的なポロイダル磁場をつくることができる.これは,磁力線に沿ってトーラスを周回
する時(ヘリカルコイルのねじれ方に比べてはるかにゆるやか),ヘリカルコイルのつくるトロイダル磁場とポロイダル磁場の強弱を共鳴する
形で感じるため,磁力線は平均としてポロイダル方向に回転するからである.この時,必然的に磁力線のトロイダル角一定の面への投影は二重
らせん,磁気面は楕円やおむすぴ形になる.
プラズマ・核融合学会用語解説
カオス
掲載号 68-3
038
Chaos
外部から加わる雑音などの非決定論的要因のない,小数自由度の力学系で,力学系自体の非線形性によって生ずる不規則な運動をいい,初期
値のわずかな差が長時間後に大きな差となる軌道不安定性によって特徴づけられ,力学変数のパワースペクトルが連続スペクトルになる.力学
系の解は位相空間の,初期値によって一意に決まる軌道によって表される.保存系では自由度間の相互作用がないときの互いによく分離してい
る軌道が,相互作用によって重なりあうようになって,位相空間をくまなく巡れるようになる.散逸系では,外部パラメータを変化させると,
解空間の構造が変化し,そこでのアトラクタがすべて不安定になり,軌道はこれらのアトラクタを不規則に巡るようになって乱雑な非周期解と
なる.プラズマ・核融合ではミラー磁場中の電子サイクロトロン共鳴加熱実験に研究の端を発し,MHD活動に伴う磁力線のカオス,ソースと散
逸をもった三波相互作用におけるカオスなど,物理的基礎過程でカオスと結びついているものが多く明らかにされ,標準写像や間欠カオスのモ
デルや概念が生まれた.最近では電離過程やシース不安定性に伴うカオスも観測されており,閉じ込め装置の周辺プラズマの挙動をカオスの手
法で解析する例も報告されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
化学スパッタリング
掲載号 67-3
020
Chemical Sputtering
高エネルギー粒子が標的固体に衝突したときに,標的固体からその構成原子や分子を弾き出す現象をスパッタリングという.一般にスパッタ
リングという用語は,入射粒子が希ガスイオンの時のように,弾き出し現象が物理的な衝突過程による“物理スパッタリング”をさすのに使わ
れているため,弾き出しの過程で化学反応を伴う現象を特に“化学スパッタリング”と呼んで物理スパッタリングと区別している.化学スパッ
タリングは,物理スパッタリングとは異なり化学反応を伴うため,入射エネルギーに弾き出しエネルギ一のようなしきい値は存在せず,またそ
の収率は標的固体の温度,表面状態,残留ガス圧,入射粒子のフラックス等環境条件に強く依存する.特に入射粒子が水素イオンの
様に軽い場合は,物理スパッタリング率は小さいのに対して,化学スパッタリング率が非常に大きくなることがある.例えば核融合炉の第一壁
黒鉛が,水素イオン入射による化学スパッタリングによりメタンを発生させ(その収率は 500℃ 付近で最大となり約 0.2(C/H)である)損耗
されるだけでなく,プラズマを汚染させるものとして,強い関心を集め多くの研究が行われている.また金属第一壁に吸着または酸化物として
存在していた酸素は,水素の化学スパッタリングにより水の形で引き抜かれプラズマを汚染する.弾き出し損傷を伴わない化学反応は低エネル
ギープラズマによるプラズマプロセッシング技術として広く使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
核融合積
掲載号 70-8
133
Fusion Triple Product
核融合炉の自己点火条件は,平均プラズマ密度nとエネルギー閉じ込め時間τE の積と,平均プラズマ温度Tとで与えられる.ここで最も簡単
な例として,輻射損失を無視し不純物を含まないD-T(重水素一三重水素)プラズマを想定すると,自己点火条件は 式(1)(Qα=3.5MeV)
と書け,一般的には二つのパラメータ空間(nτE ,T)でその領域が表現される.核融合炉条件に近いT∼10keV領域では,<σv>∼T2 がよい
近似となっており,上式は 式(2)と変形でき,自己点火条件が平均プラズマ密度,温度およびエネルギー閉じ込め時間の三重積に対する条件
として表せ,これを核融合積と呼ぶ.プラズマ中心のイオン密度およびイオン温度の実験データを用いて,ni(0)τE Ti(0)の値を計算し,自己点
火条件に対する実験データの到達度を表す一次元的な指標として,この核融合積を用いることが多い.
式(1):133aeq.gif
式(2):133beq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
カスケード損傷
掲載号 71-11
178
Cascade Damage, Displacement Cascade
結晶性材料が中性子,イオン,電子などの照射を受けたとき,構成原子があるしきい値以上の運動エネルギーが与えられると,もとの格子位
置から弾き出される.このような損傷を弾き出し損傷(displacement damage)と呼び,これに必要なエネルギーを弾き出ししきいエネルギー
(displacement threshold energy)と呼ぶ.入射粒子によって弾き出された原子が大きい運動エネルギーを持っている場合,弾き出しの連鎖が生じ
る.これをカスケード損傷と呼び,このとき最初に弾き出された構成原子を一次弾き出し原子(primary knock-on atom;PKA)と呼ぶ.一般にカ
スケード損傷はPKAエネルギーが数百eV以上の場合に顕著となり,核融合炉ブランケットや核分裂炉炉心における材料の弾き出し損傷は主とし
てカスケードを伴うものである.高エネルギーPKAによるカスケード損傷では,欠陥集合体の直接形成(カスケード中心領域への原子空孔集合
体形成及びカスケード外殻領域への格子間原子集合体形成)や残存点欠陥生成の効率及びその時間的・空間的不均一性などに特徴があり,単一
の弾き出しとは格子欠陥形成において大きく異なったものとなる.また,カスケード損傷による局所的な弾きだし原子,混合(cascade mixing)
や衝撃波(shock wave)は,既存のミクロ組織の変質を誘起すると考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ガスターゲットダイバータ
掲載号 72-2
184
Gas Target Divertor
高密度ダイバータを極端に発展させたもので,大量のガスをダイバータ・プラズマに当て,荷電交換反応や放射冷却で熱を散逸させることに
よりダイバータプラズマを冷却して再結合によりガス状態にし,ダイバータ板の熱負荷を軽減するという概念である.しかしガスターゲットダ
イバータでは,ガスターゲットダイバータから炉心プラズマへのガス流出を防止するための対策(ダイバータプラズマに近接した壁など)が必
要である.また,ガスターゲットダイバータでは,ガス圧が高いため上流のプラズマ圧力も高くなり,したがって炉心プラズマの密度は高くな
る.ガスターゲットダイバータに必要となる炉心プラズマの密度がGreenwald limit の1.5倍であるので,密度限界を決定している機構の解明と密
度限界の向上がITER物理R&Dの最大の課題の一つである.さらに,ガスターゲットダイバータの運転領域は,もし存在しても非常に狭いと考
えられる(運転領域の限界近く).したがってガスターゲットダイバータが成立しない運転領域の熱除去の対策を講じることが重要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ガスパフ
掲載号 73-1
218
Gas Puff
プラズマ発生装置の真空容器内へ燃料ガスを導入する方法のひとつである.従来、トカマク装置などでは燃料ガスの導入法として,プラズマ
点火前から定常的にガスを容器に充填しておく「定常ガス導入法」と「ガスパフ法」が用いられてきた.しかし,最近では,プラズマ発生
ショット中でのプラズマ密度のリアルタイム制御の観点からガスパフが用いられるようになった.ガスパフは,当初,電磁弁を使って行われて
いたが,ピエゾ素子を用いたピエゾバルブが開発され 100 V程度の電圧で1ミリ秒程度までの比較的高速のバルブ応答が簡単に得られるようにな
り急速にこの手法が普及した.しかし,注入された燃料ガスは,プラズマ周辺部で電離され,拡散あるいは対流(粒子ピンチ効果)を介してプ
ラズマ中心部へ侵入していくことになる.このため,核融合炉などの大型装置では密度分布が平坦になり,閉じ込め性能の悪化が危惧され,こ
れに代わる方法として燃料ガスの氷を入射するアイスペレット入射法が多方面で使用されるようになってきた.核融合炉では,まずガスパフで
燃料ガス注入を行いプラズマを点火し,ついでガスパフとともにアイスペレット入射により注入燃料の量を制御し,所定のプラズマ密度を得
る,というような燃料の導入シナリオが考えられる.また,ガスパフの新しい利用法として,ダイバータ板の熱負荷軽減のためその付近を低温
高密度にするためのダイバータ室内へのガスパフが注目されている.また,プラズマの粒子輸送の研究のためピエゾバルブの駆動電圧を数10ヘ
ルツから数キロヘルツで変調する変調ガスパフ実験も行われるようになってきた.
プラズマ・核融合学会用語解説
カスプ磁場
掲載号 73-1
219
Cuped Magnetic Field
2個の向かい合った円形コイルに逆向きの電流を流してできる磁場配位で,プラズマを閉じ込める基本的配位の一つである.プラズマは点カ
スプでは円筒状,線カスプでは薄いシート状になって円周状に広がるため,その断面は点カスプと線カスプでとがった形になる.カスプはこの
ようにとがった部分をさす言葉である.カスプ磁場の特長の一つは,中心で磁場が0であり周辺に向かって強くなっているため,プラズマは磁
気流体力学的に安定であることである.第二の特長は両コイルからの磁力線が線カスプで非常に接近してその幅がイオンのラーモア直径よりも
薄くなるため,シートプラズマを形成することである.カスプ磁場からのプラズマ損失を抑える有効な方法として,高周波封じ込め
(Radio-Frequency Plugging) がある.
[参考文献]佐藤照幸,高山一男編:高周波封じ込めとカスプ,IPPJ-REV-5,名大プラズマ研(1989).
図:219.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
カソードフォール
掲載号 74-10
283
Cathode fall
二極放電において電極間の絶縁が破壊されると,電極間の大部分は,電気伝導の良いプラズマで充たされるが,陰極前面に大きな電位降下を
伴った境界層(陰極シース)が出現する(図283.gif 参照). プラズマ柱は大抵発光を伴っており,陰極シースは暗くなっているので目でそれ
を確認できる.この境界層における電位降下VcをCathode fall,陰極降下と呼んでいる.この陰極降下は,放電プラズマの維持に極めて重要な役
割を果たしている.電極間の電位分布は,与えられた条件下で放電を維持するのに最も都合のよいように自己形成される.プラズマ柱の電位降
下は,通常の放電(放電管半径∼電極間隙)では小さく,電極間電圧のほとんどが陰極シースにかかる.
陰極降下形成の理由は,次のように考えられる. プラズマの寿命は一般に非常に短い.したがって,プラズマを一定の状態に維持するには,
常にエネルギーを注入してプラズマ粒子の損失を補う必要がある.陰極から放出された電子(一次電子)が陰極降下で加速されることでそれを
実現している.一次電子は,プラズマから入射するイオンの衝撃による電子放出,γ作用(冷陰極),あるいは熱電子放出(熱陰極)によって賄
われている. 前者の場合,1個の電子を放出するのに多数(10個以上)のイオンの入射が必要なので,一次電子はそれに見合うイオンを作り出
さなければならず.陰極降下は封入気体の電離電圧の10倍以上となる. これに対して熱陰極の場合は,イオンの陰極への入射は必要なく,かつ
豊富な一次電子が放出されているので,陰極降下は電離電圧程度となる.なお,陰極シースはイオンの空間電荷層(冷陰極)あるいは陰極側に
電子,プラズマ側にイオンの空間電荷層から成る電気二重層(熱陰極)で構成され,放電電流は,前者ではその大部分がイオンによって,後者
では電子により運ばれている.
図(283.gif ):二極放電における電極間電位分布,V(x)
プラズマ・核融合学会用語解説
CAMAC
掲載号 68-3
039
CAMAC
CAMAC(Computer Automated Measurement And Control)はモジュールタイプの計測・制御システムを計算機で制御するための規約で,IEEE
Std.583-982 等に定義されている.A/D変換器,D/A変換器,パルス計数器等のモジュールをクレートと呼ばれるバスコネクタ付き(データ
ウェイと呼ぶ)の電源に挿入して,クレート全体を制御するコントローラモジュールにより計測機と接続される.CAMACは主に高エネルギー
物理学実験で利用されてきたが,その後核融合実験にも採用されるようになり,実験に必要な各種モジュールが開発されてきた.高エネルギー
物理学実験では10-12秒を計測するような高速性が要求されるが,核融合実験では大量データの収集,高速転送等の大規模なデータ処理機能が特
に重要である.最近では1モジュールあたり数MBのデータを収集して,数秒で計算機にDMA転送(ブロック転送と呼ぶ)する能力を持つものも
ある.計算機からの制御は単純なCAMACコマンド(ハードウエアの動きに直結した命令)で動作するので制御プログラムが容易に実現でき,
また特殊なモジュールを製作するのも容易である.利用できる計算機の機種も多く,最近ではパソコンやワークステーションにも接続できる.
接続方式は計算機に内臓のインターフェース(パラレル,GPIB,SCSIに直接クレートを接続する比較的小規模な方式と,バスケーブルで複数
のクレートを接続しハイウェイを形成して,ドライバと呼ばれる中継器により計算機に接続する大規模な方式がある.またこの2つを混合した
方式も可能である.実時間制御が必要な時は,32bit のマイクロコンピュータを搭載したコントローラモジュールがあり,ネットワークに接続し
てワークステーションからグラフィカルな制御も可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
間接駆動爆縮
掲載号 68別冊
050
Imdirect Drive Implosion
レーザー光を直接燃料ペレットに照射し爆縮する直接駆動爆縮に対し,レーザー光を一旦金などの高原子番号物質に照射してそのエネルギー
を軟X線に変換し,この軟X線で燃料ペレットを照射する方式をいう.その利点は,軟X線がインコヒーレントであるため,直接駆動方式で問題
となる,レーザー光のコヒーレンスに起因する高次モードの照射不均一性が発生しないこと,軟X線間接駆動アブレーションによる爆縮ではレ
イリー・テイラー不安定性が抑制されやすいことなどのため,レーザー光やターゲット設計への要請を部分的に緩和できることである.一方欠
点としては,軟X線へのエネルギー変換や軟X線の燃料ペレットヘの伝達のプロセスを含むためエネルギー効率が低下し,要求されるレーザー
出力が大きくなることやターゲット構造が複雑になることなどがある.点火条件および高利得達成にとって直接駆動方式と間接駆動方式のいず
れがより容易であるかはそれぞれの方式で達成される効率と一様性に依存する.間接駆動方式のエネルギードライバーとしてはレーザーに限ら
ず,Zピンチプラズマや重イオンビーム等も考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
間接照射爆縮
掲載号 72-7
200
Indirrect-Drive Implosion
慣性閉じ込め爆縮核融合における燃料球の一加熱方式.爆縮核融合では,重水素・三重水素燃料を充填した燃料球表面を高出力パルスドライ
バーで加熱し,発生したプラズマの高圧力(数10∼100 Mbar)で燃料球を爆縮する.その結果,内部の燃料は高温高密度となり核融合点火・燃
焼に至る.この加熱法には燃料球を直接加熱する方式(直接照射爆縮)とドライバーエネルギーを熱X線(輻射温度200∼300 eV)に変換し,こ
れで加熱する方式(間接照射爆縮)とがある.レーザーがドライバーの場合,そのコヒーレンシーに起因するビーム内強度の不均一性が存在す
るため,直接照射爆縮では空間的に高次モードの不均一が生じるが,間接照射爆縮ではこれを回避できる.また,イオンビームやZピンチプラ
ズマをドライバーとする場合には,ビーム数やプラズマ形状の制限から必然的に間接照射爆縮を用いることになる.反面,直接爆縮に比べ間接
爆縮はエネルギー伝達効率が低下する.間接照射爆縮のターゲットはX線の変換と閉じ込めを目的として,燃料球は金などの高Z物質でできた
キャビティ内部に置かれる.レーザーの場合を例に両方式を図(200.gif)に示す.最近の研究の進展により,レーザーのコヒーレンシーを時間
的,空間的に制御する技術が確立され,直接爆縮で必要とされる均一性が確保されるようになった一方で,間接爆縮ではキャビティ内の膨張プ
ラズマや反射レーザー光に起因する低次モードの不均一性の制御が重要課題となっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
気体分離膜
掲載号 71-10
175
Gas Separation Membrance
一般に膜を隔てて両側にガスが接触している場合,各ガス成分は,各分圧が膜の両側で等しくなる方向に膜を透過し移動する.この透過性は
ガス種毎に異なり,例えばポリイミド膜では水素や水蒸気を窒素に比較して 100∼10,000 倍も選択的に透過する.この性質を利用して,混合ガ
スからある種のガス成分を分離濃縮する膜を『気体分離膜』という.工業的には石油化学プラントにおいて,水素と一酸化炭素等との分離のた
め本格的に研究開発され,現在では簡易除湿,乾燥空気生成等の用途に中空糸状気体分離膜モジュールが広く市販利用されている.
最近では,ITERおよび将来の核融合炉の安全性向上研究の一環として,気体分離膜を利用した新しいトリチウム格納除去設備の開発実証が進
められている.これは,トリチウム汚染ガスをポリイミド中空糸膜モジュールを介して循環し,汚染ガス中のトリチウムおよび水蒸気濃度を高
め,1)トリチウム除去設備の実処理ガス流量を数10分の1程度に低減(主に反応器の小型高性能化),2)格納系内の水蒸気の大部分を直接凝
縮して回収(主に吸着塔の小型化)するもので,従来の触媒酸化一水分吸着方式の除去設備を格段に小型高性能化できる.
プラズマ・核融合学会用語解説
逆制動放射
掲載号 68別冊
063
Inverse Bremsstrahlung
自由電子がイオンもしくは他の電子と衝突する時,電磁波の放射や吸収が起こる.この放射過程を制動放射と呼び,吸収過程を逆制動放射と
呼ぶ.非相対論的なエネルギー領域(数十 keV 以下)では電子とイオンの衝突の二重極放射や吸収が支配的である.相対論的なエネルギーで
は,電子−イオンおよび電子−電子衝突での四重極放射が重要になる.量子力学的には,輻射場中での自由電子のエネルギー準位の遷移に対応
し,自由−自由遷移吸収(free‐free transition absorption)とも呼ばれる.また,この吸収過程はプラズマ中で最も古くから知られたものであるこ
とにより,古典吸収(classical absorption)とも呼ばれる.
プラズマ・核融合学会用語解説
逆転磁場ピンチプラズマ
掲載号 73-2
222
Reversed Field Pinch Plasma
逆磁場ピンチ(RFPと呼ばれる)は核融合をめざした磁場による高温プラズマの閉じ込め方式の一つであり,ドーナツ状の磁場構造を持った
トカマクと同じグループに属する内部電流系軸対称トーラスである.RFPの磁場配位の特徴は,トロイダル磁場(ドーナツの大円方向の磁場)
の向きがプラズマの中心と外分で反転していること,外部コイルで発生する必要のある磁場が非常に小さく,閉じ込め磁場の大部分がプラズマ
内部の電流で作られることである.このような磁場配位をとることにより,非常に小さなトロイダル磁場(トカマクの10分の1以下)であるに
もかかわらず,大きなプラズマ電流を流して,高温・高密度のプラズマを高い効率で安定に保持することが可能となっている.RFPの磁場配位
は,与えられた条件のもとでのエネルギー最小状態に近いため,プラズマに内在するメカニズム(ダイナモ効果と呼ばれる)により,一見する
と複雑な磁場配位が自律的に生成・維持される.核融合炉の観点からは,プラズマ電流による強力な抵抗加熱が利用できるので,それだけで核
融合炉の点火に至る可能性を持っていること,工学的に最適なアスペクト比の設定が可能であること,プラズマ外部の磁場が弱いため磁場の利
用効率を大きく下げることなくプラズマ外に熱処理用(ダイバータ)の大きな空間を設けることが可能であること,等の利点を持っている.
プラズマ・核融合学会用語解説
Q値
掲載号 69-9
103
Q Value
核融合炉の運転を想定した時核融合反応により発生する出力(PF)と,反応状態を維持するために必要なプラズマ加熱用入力(PI)との比
Q= PF/PI をプラズマQ値,または単にQ値と呼ぶ.(なお,慣性核融合では標的利得がこれに対応する.)
発電用プラントでの単純化したエネルギーの流れは図(103.gif)のようになる.炉心部からの全熱出力を変換効率ηで電気出力(PG)に変える
が,その一部(循環率ε)はプラズマ維持用加熱機器(効率ξ)に還流されるので,その残りが正味の発電量(PE)となる.これからηξε 1
+ Q ) = 1 の関係が成り立つ.ε<1 が有効な発電となるための条件である.
効率η,ξは工学的に上限を持つ(通常η<0.4 ,ξ< 0.8 程度)ので,プラズマ性能の改善によりQ値の向上を図る努力が続けられている.
通常,Q = 1 の場合を臨界条件と呼ぶ.また,ηξε = 1/3 としたとき(したがってQ = 2)が,ローソン条件に対応する.一方,プラントと
しての自己燃焼持続条件(自己点火条件とも呼ばれる)は,エネルギー循環率 ε→0 の場合に当たり,Q→∞ に相当する.
プラズマ・核融合学会用語解説
q値
掲載号 69-12
110
q-value
q値はプラズマを保持するドーナツ状の磁場容器の特性を表す重要なパラメータである.単純なトロイダル磁場のみではプラズマを保持でき
ないので磁力線に捻じりを加え,磁気面をつくる.磁気面上の磁力線を辿るとき,小円周方向への回転数と大円周方向への回転数の比を回転変
換(ι)と呼び,その逆数を安全係数あるいはq値と呼ぶ.プラズマ電流により磁力線の捻じりをつくるトカマク型装置におけるq値は,通常,
プラズマ中心で1程度であり,周辺に向かって増加するが,プラズマの巨視的安定性を確保するため,プラズマ表面での値は2以上に設定され
る.これに対し,ヘリカルコイル電流によるヘリカル型装置では,通常,プラズマの中心部から周辺部に向かって減少する.q値が一様でな
い,すなわち磁気シアのある配位ではq値が有理数となる磁気面(有理面)でプラズマの不安定性が発生しやすい.磁気シアによる安定化効果
と有理面での不安定効果との適切な兼ね合いが必要であり,トカマクではq値の径分布の制御方法が重要となる.トカマクでは円柱プラズマモ
デルとプラズマの断面形状で決まる1程度の数係数から計算されるプラズマ表面でのq値がよく使われる.これは工学的q値と呼ばれる.
プラズマ・核融合学会用語解説
Qマシン
掲載号 74-3
262
Q Machine
単純で扱いやすく,低温・定常・完全電離で静かな(Quiescent)磁化プラズマを生成することを目的に,1960年代初頭に主にRynnとD'Angelo
によって開発された直線型装置(machine)のことをいう.電子ビーム衝撃等により2,000℃以上に加熱されたW,Ta等の金属熱板にその仕事関
数に比べて電離電圧の低いCs,K,(Ba)等のアルカリ(土類)金属原子を蒸気粒子ビームとして衝突させると,接触熱電離によって発生した
正イオンが熱電子を伴って熱板表面より放出され,直径5cm内外,長さ数百cmのアルカリ(土類)金属プラズマ柱が生成される.プラズマ中の
電子温度は熱板温度にほぼ等しく(∼ 0.2eV),イオンは通常,熱板前面の電子シース(0∼ -2V)で加速されている.ほぼ完全電離(99 %)の
状態でプラズマ密度の制御が比較的容易で,1-8kGの磁場強度の下で108 −1012cm-3にわたって変えることができる.
このように,内部電場・電流が内在する放電プラズマとは異なり,熱的に生成されたプラズマであるため初めは極めて静かであると思われた
が,発生するドリフト波等の重要な不安定性及びプラズマ閉じ込めの基礎研究も成された.プラズマの基礎現象とりわけランダウ減衰の測定,
プラズマ電位形成等の線形,非線形波動現象の解明に大きく貢献してきたが,最近ではプラズマ物理の解明に止まらずプラズマ応用研究のため
にQマシンが用いられてきている.
プラズマ・核融合学会用語解説
強結合プラズマ
掲載号 69-8
100
Stronly coupled plasma
強結合プラズマとは,理想気体として熱運動の効果より,構成粒子間の相互作用の効果が大きいプラズマである[1].前者は,古典系では熱エ
ネルギー,縮退系ではフェルミエネルギーで,後者は,粒子間の平均距離におけるクーロンエネルギーで評価できる.後者の前者に対する比を
結合度といい,Γ(古典系)または rs (縮退系)で表す(図1(100a.gif)参照).強結合プラズマでは,粒子の位置,運動は互いに強く相関し,内
部エネルギー,圧力が減少する.強結合効果は種々の振動モードの分散関係,輸送係数などに現れるが,最も顕著な効果は結晶化である.
核融合プラズマの最終状態は,磁場,慣性のどちらの閉じ込めの場合も弱結合である.しかし,慣性核融合の標的は爆縮の途中で強結合状態
を通過する.イオントラップ[2]に閉じ込めたイオンクラスターをレーザー冷却すると,古典強結合プラズマが得られ,結晶化が観測される(図
2(100b.gif)参照)[3].また,二次元系での結晶化は,ヘリウム液面上の電子系でも観測された.通常の金属中の電子系は縮退した強結合電子系
であるが,結晶化するほど結合度は大きくない.
[1] 例えば,東辻浩夫:核融合研究61, 207(1989).
[2] 例えば,桜井 誠,木村正広,大谷俊介:核融合研究 66, 224(1991).
[3] 例えば,東辻浩夫:核融合研究 65, 203(1991).
[4] S. L. Gnbert, J. J. BoUinger and D. J. Wineland, Phys. Rev. Lett. 59, 2022(1988).
プラズマ・核融合学会用語解説
強制冷却導体
掲載号 70-7
131
Forced Flow Cooled Conductor
磁場コイルの冷却方法から名前がつけられた,超伝導線材の一つの方式.強制冷却導体は,線材の内部に長手方向全長にわたって線材外部に
は気密なすきま(冷却流路)を作り,ここに低温の流体(冷媒)を強制的に流して冷却する.これに対し,浸漬冷却導体は線材の周囲に冷媒を
配置して準静的に冷却する.強制冷却導体は,機械的強度が高く耐電圧性能の高いコイルを容易に作ることができ,さらに冷却効率がコイル形
状に依存しないため,コイルの設計も容易である.欠点としては,冷媒流発生装置が必要なこと,流路上部の発熱が下流部に影響を及ぼすこ
と,流路が細く長いため,導体の突発的発熱に伴う冷媒の膨張が高い圧力上昇を招き,ときには冷媒の流れの閉塞を引き起こすことなどが挙げ
られる.代表的な強制冷却超伝導体にはホロー型(図1(131.gif))とケーブル・イン・コンジット型(図2(131.gif))がある.前者は比較的単純な
断面形状の冷却流路を堅固な超伝導導体に設けたもの.後者は細い超伝導線を撚りあわせたフレキシブルなケーブルを気密性の管(コンジッ
ト)で覆ったもの.
プラズマ・核融合学会用語解説
共鳴吸収
掲載号 68別冊
064
Resonance Absorption
レーザー光のプラズマ中への吸収機構のうち,共鳴的に起こる機構.レーザー光がプラズマ中に伝播してくる際,反射密度で S-偏光をもって
いると,レーザー光の電界は臨界密度に迄侵入する成分を持たない.しかし,P-偏光をもっていると,反射点では,臨界密度にまで侵入する電
界成分がある.この電界は,臨界密度での電子プラズマ波の周波数をもっているため,共鳴的にレーザーの電界エネルギーが電子プラズマ波,
すなわちプラズマヘと吸収される.共鳴吸収の割合は以下の式で表される.ここでq=(k0 L)2/3 sin2 θ で k0 は真空中でのレーザー電磁波の波
数,Lはプラズマの密度スケール長,θはプラズマにレーザーが進入する入射角.A(q)およびÅ(q)はAiry 関数とその微分形を示す.この式
より入射角15゜,レーザー波長1μm,密度スケール長5μm程度の実験条件の場合,共鳴吸収率は50%近くにもなることが予想される.
式(1):064eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
強力中性子源
掲載号 71-12
180
Intence Neutron Source
核融合炉環境では,14Mevまでのエネルギーをもつ中性子により大きな材料損傷が生じる.この厳しい照射環境に耐える材料の開発には,試
験手段として高エネルギー強力中性子源の整備が不可欠である.これまでに,米国の Fusion Materials Irradiation Test Facility(FMIT)計画および
原研のエネルギー選択型中性子照射試験施設(ESNIT)構想において,重陽子ビームを流動Liターゲットに入射することにより14MeV付近に
ピークをもつスペクトルの中性子を発生する「d-Liストリビング反応型中性子源」の技術検討・開発が行われた.また,IEA協力により,国際核
融合材料照射施設(IFMIF)の施設概念としてESNITの概念を取り入れたエネルギー選択性を有する「d-Liストリビング反応型中性子源」を選択
し,1995年2月より2年間の予定でその概念設計を進めている.IFMIFは30-40MeVの範囲で124mAの重陽子ビームを高周波で加速する2台の線型加
速器(総ビーム電流:250mA),流動Liターゲット系およびテストセルより構成され,2MW/m2 以上に相当する中性子束(高中性子束領域)
を約1リットルの試験体積で使用可能となることが想定されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
極小磁場配位
掲載号 75-8
310
min B Configuration
MHD不安定性を安定化する方法として考案され,磁場配位構成において重要な役割をする概念である.交換型不安定性を考えてみよう.仮想
的に磁気エネルギーを変えない交換型変位に対して,プラズマの内部エネルギーの変化を計算する.圧力の高い部分が外側へ変位したとき,体
積を減少させるような変位しか許さないような磁場配位は安定である.つまり,δV < 0でなければならない.ここで,B(磁場強度)× A(断
面積)= 一定の磁束管を導入すると,下式(1)となり,比体積dl / B が減少することと等価である.例えば,磁場強度Bが内部で弱くて,外部
に向かって強くなる場合はこの条件を満足する.これが極小磁場(磁気井戸)になっている配位である.
一方,この条件をトーラスプラズマで満足するのは容易ではないので,トーラスの外側でBが弱くて,トーラスの内側でBが強くなる性質を考
慮しても,dl / B が内部から外側に向かって減少していれば,平均的には極小磁場配位である.この場合にもプラズマを安定化する効果がある
(平均磁気井戸を形成している).
極小磁場配位は磁力線の曲率を用いて特徴付けることもできる.例えば,カスプ磁場では中心にB= 0の点があり,極小磁場配位である.カス
プ磁場のように外部へ向かうとB= |B|が強くなり,プラズマから見ると凹型の磁力線の曲率は安定化効果を有する.逆に,プラズマから見て凸
型の磁力線の曲率の場合は,不安定性が発生しやすい.したがって,絶対的な極小磁場配位は磁力線の曲率がいたるところ良い場合に対応して
いる.トーラスプラズマの場合には,トーラスの内側では,プラズマから見ると磁力線はよい曲率であるが,トーラスの外側では,磁力線の曲
率は悪い.平均的な極小磁場配位は,磁力線の平均的な曲率がよい場合に対応している.
式(1):310.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
局所近似と非局所近似
掲載号 74-5
266
Local Approximation and Non-Local Approximation
局所近似とはプラズマ中の電子エネルギ−分布関数が局所電界により決定されることを意味し,比較的高ガス圧力で一様なプラズマ中の電子
エネルギ−分布関数を記述するには極めて有効な近似である.一方,非局所近似とは電子エネルギ−分布関数が局所電界では決定されず,電子
エネルギ−分布関数は運動エネルギ−とポテンシャルエネルギ−の関数となることを意味し,非一様衝突支配のプラズマ中の電子エネルギ−分
布関数を記述するには有効な近似である.
非局所近似はベルンシュテインとホルステインにより1950年代に直流グロ−放電陽光柱の電子エネルギ−分布関数の管径構造を記述するため
に最初に用いられた.非局所近似の概念は以下のように記述できる.電子移動の方向性は中性粒子との衝突で失うことより電子の運動量緩和長
は電子の平均自由行程で決定される.したがって,電子の平均自由行程が短いプラズマ中では電子運動量は局所電界で決定される.一方,電子
の持つ運動エネルギ−は弾性衝突のみを考慮した場合中性ガスと電子の大きな質量差のためほんのわずか失うだけで,電子は駆動速度または拡
散速度でプラズマ中を初期エネルギ−を維持したまま移動できる.したがって,非一様なプラズマ中にプラズマ維持のために形成される静電電
位(両極性拡散電位)により電子の運動エネルギ−は位置エネルギ−に変換され,任意の位置での電子エネルギ−分布関数は基準位置での電子
エネルギ−分布関数を静電電位差分だけシフトした形状で与えられる.なお,非弾性衝突を引き起こすのに十分なエネルギ−を持つ電子群(電
子エネルギ−分布関数の高エネルギ−部)は中性粒子との非弾性衝突で即座にその運動エネルギ−を失うので,一般的には電子エネルギ−分布
関数を静電電位差分だけシフトした形状で与えられないが,非弾性衝突頻度が低い場合すなわちガス圧力が低い場合は静電電位差分だけシフト
した形状で近似できる.
プラズマ・核融合学会用語解説
銀河系外プラズマジェット
掲載号 73-7
238
Extragalactic Plasma Jet
強い電波を放射する活動銀河核からは光速に近い速さ(ローレンツ因子2∼10)のプラズマ流がしばしば観測される.この流れを銀河系外プラズ
マジェットと呼ぶ.ジェットは1pc (1pc = 3.1 × 1016m)以内の領域から噴出し,その開き角は数度以内で1-1,000 kpcまで延びている.その所々に
knotと呼ばれる電波の強い斑点が観測される.また,ジェットの先端はきのこ状に広がり,その部分はlobeと呼ばれる.上記のジェットの速度
はドップラー効果等により計られた実速度ではなく,このknotの速度である.
クエーサ3C273,ブレーザ BL Lac,3C279等のジェットのknotは見掛け上光速を越えて運動する.この現象をsuperluminal motionという.これは
相対論的ジェットが我々に向かって放出されているものとして解釈される.銀河系外プラズマジェットの加速に必要なエネルギーは1036-40 J/sと
見積もられる.このエネルギーは活動銀河核中の巨大ブラックホール(質量は太陽の108 倍程度)のまわりのプラズマの重力エネルギーが開放され
て供給されていると考えられる.その加速機構としては輻射圧によるモデルや降着円盤を貫く磁場によるモデル等が提出されているが,未解決
である.
プラズマ・核融合学会用語解説
キンク不安定性
掲載号 73-9
243
Kink Instability
縦磁場Bz(トロイダル磁場)とプラズマ電流Izによって生ずるBθ(ポロイダル磁場)があり,プラズマの形状が図1(243a.gif)に示すように折
れ曲るような擾乱が起きた場合を考える.曲がった内側のBθが強くなり,磁力線に垂直方向に働く磁場圧力のため,Bθは不安定化に寄与す
る.一方磁力線に平行方向に働く張力のためにBzは安定化に寄与する.そのためBθsがある程度大きくなると,この折れ曲りの擾乱は不安定に
なる.これをキンク不安定性という.
トカマクのように|Bz|≫|Bθ|の場合,表面電流配位ではプラズマの変位ξ=ξ(r) exp( imθ+ikz )×e-iωtの分散式は 式(1)となる(m
>0).ここでρm,aはプラズマの質量密度および小半径である.トーラスの大半径をRとするとk=n/Rで与えられる.n,mは整数である.
分散式の右辺第1項は縦磁場Bzの安定化項,第3項はBθの不安定化項である.安全係数q=aBz/(RBθ) を導入すると,分散式の右辺第2項は
(nBθ/a)2 (q+m/n)2 となり,有理面(q+m/n=0)で安定化に寄与する第2項が零となる.m=1,n=−1モードの安定条件はω2 >0よりq>
1となる.これを Kmskal-Shafranovの条件という.トーラスにおけるm=1,n=−1のキンクは図2(243b.gif)に示すような変位となる.キンク不
安定性の成長時間は(ポロイダル)アルヴェン波の通過時間程度で非常に短かい.
式(1):243eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
クエンチ
掲載号 68-4
040
Quenching
超伝導状態が破れて常伝導状態に変化することを言う.英語のquenchは「火を消す」意味の動詞であり,超伝導(実際にはエネルギーの低い
状態であるが)状態が消えてしまうことから命名された.わずか0.5mm の超伝導線が 100 から 200 A の電流を流し得るが,「クエンチ」が起
こって通電中に突然超伝導状態が破れるとどんなに危険かは容易に想像される.そこで超伝導マグネットの設計ではクエンチをさけるために
「安定性」に全力を注ぐとともに,万が一のクエンチに際してマグネットを壊さないように「保護」にも力を入れている.
超伝導状態は相変化をともなう現象のために温度,磁界,電流密度に臨界値がある.1991年に水銀の超伝導効果がオンネスによって発見され
た時には,すぐにも強磁界発生に使えると思われ,そのための研究が開始されたが,現実にはクエンチが起こり第二種超伝導体の発見される
1960年代まで超伝導マグネットは実現しなかった.クエンチの原因はなんらかの擾乱で超伝導線の温度があがり,臨界電流値が下がることから
起こる.擾乱を取り除く努力がされた結果ほとんどの原因については擾乱量の予測とそれを取り除く方法が確立したが,最後にマグネットの巻
き線の電磁力による動きが予測の難しいものとして残っている.しかし安定性の研究の進展により,たとえ予測しがたい擾乱が起こってもクエ
ンチを起こさないように設計することが可能となった.
プラズマ・核融合学会用語解説
クライオターゲット
掲載号 68別冊
078
Cryogenic Target
慣性核融合用ターゲットの一つで,燃料を冷却し,液化または固化して中空の球殻状にしたターゲットを言う.燃料の初期密度が高く,中空
であることから同じ量のガス状の燃料を持つターゲットよりも爆縮効率がよいことがシュミレーションなどで予測されている.将来の実用炉用
として有望視されている燃料ターゲットであるが,重力が存在する中で液体の垂れ下がりをなくし均一な厚さの燃料層を作ることや,固化する
ときに発生する結晶化に伴う凹凸の発生をいかに抑えるかが技術的な課題となっている.極低密度で原子番号の小さい物質で作られたスポンジ
状(フォーム)の層の中に液体燃料を浸透させ,均一性を確保するフォームクライオ法や,三重水素の崩壊熱を利用して,固体の重水素三重水
素混合燃料を均一化するβ線加熱法,外部から高周波電場をかけ,内部にプラズマを発生させ,その加熱効果で固体燃料を均一化する方法など
が研究されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
クリープ
掲載号 67-4
024
Creep
クリープとは,塑性変形が一定応力のもとで時間と共に増加する現象の事を言い,高温ほど顕著な現象である.一方,核融合炉材料では中性
子照射を受けながらクリープが進行し(照射下クリープ)その温度範囲,応力範囲が大きく拡張される.代表的な照射下クリープの機構とし
て,
(1)滑りによる変形が転位の点欠陥吸収(上昇運動)により継続される,
(2)応力下で特定の方位特性を持つ転位が点欠陥を吸収し異方性のある上昇運動を起こす
の2つが提案されている.いずれの場合も照射下のみに存在する自由欠陥の挙動左右されるものであり,照射後のクリープ変形とは全く異なっ
た現象である.照射下クリープの実験は,一定の応力(多軸性も含めて)で長時間照射を継続する必要があり,一般に制御された実験が難し
い.軽イオンビームを薄膜試料に応力を与えながら照射する方法,高圧ガスを封入したチューブを原子炉で照射し形状変化を見る方法等が代表
的な実験方法である.なお最近,オーステナイト鋼で室温近くという,今までの常識外の低温で大きなクリープ変形が認められ,その機構が関
心を呼ぶとともに次期実験炉設計への影響が議論されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
グロー放電
掲載号 68-5
044
Glow Discharge
低気圧放電管で一般的に見られる放電形態で,シラン(SiH4 )やメタン(CH4 )などの反応性ガスを用いたグロー放電により機能性薄膜を形
成したり,フレオン(CF4 )ガス中のグロー放電によるVLSIのエッチングに利用されている.その電流-電圧特性から,前期グロー,正規グ
ロー,異常グローに分けられるが,通常は陰極全面が放電面積となり電圧を増すと電流密度が上昇する異常グローが,高密度均一プラズマ生成
の観点から利用されている.印加電圧の周波数により,直流・交流グローと高周波(RF)グローに分けられるが,前者は二次電子放出(γ)作
用,後者は空間電離(α)作用により放電が維持される.また,前者は熱陰極と冷陰極グローに,後者は平行平板容量結合型と無電極誘導型に
大別される.電極間は大きく陰極降下部(イオンシース領域)と陽光柱(プラズマ領域)に分けられ,プロセスヘの応用に関して言えば,プラ
ズマ領域の電子によるラジカル生成を利用する化学的気相成長(CVD)法と陰極降下部の強い電界により加速されたイオンによるスパッタコー
ティングなどの物理的気相成長(PVD)法にそれぞれ利用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ゲッターポンプ
掲載号 70-2
115
Getter Pump
多くの清浄な金属表面は気体の化学吸着(chemisorption)に対して活性である.ゲッターポンプは,この表面吸着作用を利用した排気装置で
ある.表面が吸着ガスで蝕和すると排気能力がなくなる.そこで清浄な表面をつくる方法の違いにより,チタンゲッターポンプのように常に新
しい金属蒸着膜を作るものと,ジルコニウム・アルミニウム合金等,吸着されたガスの固体内拡散を捉進させることで表面の清浄度を保つもの
(非蒸発性ゲッター)とに分類する.いずれも希ガスに対する排気能力はない.
磁場閉じ込め核融合実験装置では,主として前者が使用されている.チタンの蒸着膜で覆うことにより,容器表面に吸着していた不純物ガス
を封じ込め,かつ,酸素等の軽不純物混入の防止および水素リサイクリング制御に効果を得ている.さらに,金属不純物制御も大きな課題とな
る今日の実験装置では,ボロン・リシウム等の薄膜で覆う技術(コーティング)が開発され,よい結果を得ている.他方,後者はストレージリ
ング加速器の超高真空化のために多用されているものの,水素脆化による微粉化や剥離損傷があるため取り扱いが難しく,不純物制御のために
はほとんど利用されていない.
プラズマ・核融合学会用語解説
航跡場加速
掲載号 69-4
090
Wakefield Acceleration
船が通った後に水面に残す波を航跡(wake)という.これにならって,粒子ビームが通った後に加速器に残す電場を航跡場(wakefield)とい
う.航跡場は後に続くビームを不安定にすることがある.しかしうまく利用すれば,進行方向の電場は航跡場加速として後続ビームの加速に,
またこれと垂直方向の電場はプラズマレンズなどのかたちで粒子ビーム収束に役立つ.プラズマ・誘電体管・周期構造を持つ金属管等が,航跡
場を後続ビームに伝える媒体となり得る.誘電体管や金属管の航跡場には境界条件を満足するモードが無数にある.ところがプラズマではモー
ドがプラズマ周波数でひとつに決まる.このためプラズマ航跡場加速は加速効率に優れている.粒子ビームばかりでなく,短パルス大出力レー
ザーが動重力(ponderamotive force)によりプラズマ中に残す航跡場も粒子加速に利用できる.実験ではビーム励起法により20 MV/m程度の電
場が観測されている.どちらの方法にせよ,現在の加速器が持つ加速勾配の原理的な限界(100 MeV/m程度)を桁の単位で凌鷲することが目
標である.このためにはビーム励起法では強力な航跡場を励起するための強力なビームの開発が課題である.一方のレーザー励起法では加速距
離すなわちレーザーの焦点深度をのばすことが課題である.なお,逆チェレンコフ放射加速もレーザーが誘電体に作る航跡場を利用する加速器
とみなすことができる.
プラズマ・核融合学会用語解説
高Z材料
掲載号 72-2
186
High Z Materials
核融合炉材料のうち,現在の大型実験装置でプラズマ対向壁として使われているベリリウム,ボロン,炭素などを,それらが低原子番号材料
なので低Z材と総称するのに対し,モリブデン,タングステンなどの高融点金属を高Z材と総称する.
初期のプラズマ実験装置では,核融合が将来の熱源であることを考慮して,プラズマ対向壁にはステンレス鋼や銅,タングステンなどが使わ
れた.しかし,これらの構成原子がプラズマ中心に集まると著しい放射損失を与えるため,プラズマ性能を向上させることが難しかった.現在
では放射損失の少ない低Z材を膜やタイルとして使うことにより核融合条件に近いプラズマを作るのに成功して
いる.ところが核融合プラズマでは,プラズマ対向壁への熱あるいは粒子負荷が非常に大きいので,第一壁低Z材は著しく損耗することが分
かってきた.また核融合により発生する中性子の照射により炭素材の熱伝導度が著しく低下する.このため低Z材を第一壁に使うことに疑念が
持たれるようになってきた.
そこで国際熱核融合実験炉(ITER)の設計では,最も熱入力の高いダイバータ部に,高Z材を導入するようになっている.しかし,一方ではプ
ラズマ中心に高Zの不純物が集まると著しい放射損失を招くので,本当に高Z材が使えるのかという疑念も存在する.最近ようやくこういった
観点からの高Z材とプラズマとの両立性についての研究がはじめられている.
材料として高Z材を見ると,一般的に固くて脆いため,加工が難しいだけでなく,熱衝撃により割れる危険性も高い.また中性子照射による
脆化も懸念されている.それ故プラズマ対向壁として高Z材が有効であっても,どのような形態(バルク,タイル,あるいは膜)で使用する
か,さらにはどのように冷却するかといった点など研究課題は多い.
プラズマ・核融合学会用語解説
高速点火
掲載号 73-8
241
Fast Igintion
慣性閉じ込め核融合では,核融合燃料を低温に保ったまま高密度に圧縮し,その一部を点火温度以上に加熱することにより核融合点火・燃焼
を行い,高利得を得る.通常の中心点火方式では,レーザー照射で発生するプラズマ噴出圧力による求心衝撃波を重ね合わせて高い圧力を発生
し,燃料の中心部を点火する.これに対し,高密度に圧縮した燃料の一部を,外部のエネルギー源により加熱し点火する方式を高速点火と呼
ぶ.
後者では,音波の伝播で決まる圧力均衡時間(約10 ps)より短時間に加熱することが必要であるので,高速点火と呼ばれる.近年,高エネル
ギー超短パルスレーザー光の生成が可能になったため,高速点火を実現できる可能性がでてきた.中心点火方式に比べ,照射均一性を緩和で
き,かつ高い核融合利得を得られる可能性がある.
高密度燃料を外部から加熱し点火するために、高強度レーザー光で高エネルギー電子を生成し,この電子のエネルギーを高密度燃料に与える
方法が検討されている.レーザー光から燃料加熱への高い結合効率を得るには,電子の発生源はできるだけ燃料に近いことが必要である.その
ため,予め100 ps 程度の長パルス・高エネルギーレーザー光で臨界密度以上のプラズマ中に導波路を掘り,その後に 10 ps 以下の超短パルス・
超高強度レーザー光を照射する.いかに効率よく超短パルスレーザー光のエネルギーを高密度燃料の一部に与え得るかが,高速点火の核融合方
式としての成立を決める.プラズマ物理の面からは,超高強度光による相対論的電子の生成,超強磁場を伴う大電流電子流の高密度プラズマ中
の伝播など,新しい物理的課題が多く存在する.
プラズマ・核融合学会用語解説
高Tiモード
掲載号 72-6
198
High Ti Mode
イオン温度(Ti)が高いプラズマの運転状態をいう.トカマクでは「hot-ion mode」と呼ばれるが,特にヘリカル型閉じ込め装置では「高Ti
モード」と呼ぶ.トーラスにおける古典的な粒子拡散理論(新古典理論)によれば,ヘリカル型磁場配位では磁場のヘリカルリップルに捕捉さ
れた粒子の損失が問題となる.しかし,プラズマ中に生成される電場により粒子閉じ込めが改善される.プラズマ中の電場はイオンと電子の両
極性拡散で決定され,一般的に2つの安定解と1つの不安定解があり,分岐(bifurcation)が起こる.特にプラズマ密度の低い領域では,プラズマ
温度の3から5倍の強い正電場が形成され,イオンの閉じ込めが著しく改善される.この場合,主に電子の拡散に強く依存するパラメータ領域に
おいて電場が決定されるので,別名「電子ルート」とも呼ばれている.正電場の存在は実験的にも明らかにされており,強い電場によるE×B回
転によって粒子の半径方向のドリフト損失が押さえられ,イオンの閉じ込め改善がなされると予想されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
高βpモード
掲載号 75-8
312
High βp Mode
内部輸送障壁を持つトカマクプラズマ中心部の改善閉じ込めモードの一つで,1989年,JT-60の高ポロイダルベータ(βp)運転時に発見され
た.鋸歯状振動のない中心安全係数>1の状態への強い中心加熱(中性粒子ビーム加熱)が基本的な運転条件である.ブートストラップ電流は
最大でプラズマ電流の80%に達し,定常トカマク炉に向けた先進閉じ込めモードとして研究が進展してきた.内部輸送障壁の形成はイオン系に
顕著であり,正の磁気シア位置で発生する.イオンの熱拡散係数は内部輸送障壁位置(プラズマ小半径の70%程度に達する)からプラズマ中心
に渡って改善され,新古典値程度からその数倍程度に低下する.これまでの中心イオン温度の最高値は45 keVである.一方,電子系には輸送改
善が見られない場合が多い.電子系にも明らかな内部輸送障壁が見られる放電が少数報告されている.ベータ限界は内部輸送障壁近傍の圧力勾
配で決まり,理想キンクバルーニングモードの限界値と一致する.内部輸送障壁の発生機構や安定性に関して,その後発見された負磁気シア
モードとの比較研究が進んでいる.一方,周辺部をHモード化すること(高βpHモード)で,エネルギー閉じ込め改善度が一層上昇(Lモード
の2 - 3.5倍程度)するとともに,圧力分布の適度な平坦化によってベータ限界も上昇する.さらに,周辺部をELMのあるHモードとすることで
定常性が改善され,高閉じ込め改善度,高規格化ベータ値,高ブートストラップ電流割合での完全非誘導電流駆動の同時維持が報告されてい
る.高ブートストラップ電流率を維持した場合に見られる自発的な負磁気シアの形成も含めた電流や圧力分布の制御,及び,これまでのイオン
加熱主体の実験領域を電子加熱主体に拡大する実験が進められている.
参考文献:プラズマ・核融合学会誌 74 , 434(1998) .
プラズマ・核融合学会用語解説
コーティング
掲載号 69-8
101
Coating
コーティングと言う言葉は,任意の固体表面上に膜を形成して被覆することを意味する.卑近な例を上げると,各種の塗装,金属のメッキ,
こげつかないテフロンコーティング,シェーバーの刃のチタンコーティングなど,我々の身近な所で役立っている.コーティングの目的・役割
は,(1)摩耗,腐蝕,高熱などから保護すること,(2)美装,(3)各種の特殊機能(電子材料など)を持たせること,の3つに大別できる.
コーティング法としては,液体を用いるウェットプロセス(重合や電着塗装)が古くから採用されているが,廃液処理の公害対策や微細加工の
必要性から,プラズマを用いる低温・ドライプロセスに,可能な限り移行しつつある.後者の例を上げると,スパッタリングやイオンビーム蒸
着を始めとして,反応性ガスのプラズマ分解が新しいコーティングの領域を拓きつつある.コーティングは,密着性の強化・均一化・大面積
化・高効率化などの課題を抱えながらも,先端技術開発の重要なツールとして定着している.核融合においても,カーボン・ボロン・シリコン
などの薄膜の in situ コーティングが炉壁のコーティング技術として注目されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
コロナ放電
掲載号 74-4
265
Corona Discharge
コロナ放電の名前は,針先の放電発光が王の冠ににているところから来ているらしい.大気中針対平板電極配置のような不平等電界において,
針電極に正の電圧を加え,これを高めていくと,まず,針先に小さい発光が見られる.これをバーストパルスコロナという.さらに電圧を高める
と,細いフィラメント状の発光が平板電極に向かって間欠的に伸びる.これをストリーマコロナという.針電極に負の電圧を加えた場合は,ま
ず,規則正しい出現頻度を持ち,かつ急峻な電流の立ち上がりを示すトリッチエルパルスコロナが現れる.この発光は針先に銀杏の菓がついた
ようである.さらに電圧を高めると,定常電流が流れるパルスレスコロナになる.発光は銀杏の葉の中央を両刃の剣が突き抜けている形をと
る.コロナ放電は加える電圧によって,直流コロナ,交流コロナ,高周波コロナがあり,また,一方の電極が電離に作用し他方は作用しない単
極コロナと,両方の電極とも電離に寄与する,双極コロナがある.
プラズマ・核融合学会用語解説
サイクロトロン減衰 掲載号 69-2
084
Cyclotron Damping
磁場中のプラズマを伝播する波が,粒子のサイクロトロン運動と共鳴して減衰を受ける現象をいう.粒子は磁場に沿ってしか自由に動けない
ので,この現象は,磁場方向に伝播する成分を持つ波に限られる.波の角振動数をω,波数ベクトルの磁場方向成分を k//,粒子の速度の磁場方
向成分を v//とすると,粒子の波に対する相対速度の磁場方向成分は (v// - ω/k//) となる.粒子のサイクロトロン振動の周期は,サイクロトロン
角振動数を ωc とすると 2π/ωc であるから,一周期の間に粒子が波に対して磁場方向に進む距離は, (2π/ωc)(v// - ω/k//) である.これが磁
場方向の波の波長 2π/k//の整数倍になっていれば,粒子はサイクロトロン運動で一旋回したとき波の同じ位相にもどってくるので,波の電場
によって,共鳴的に加速または減速を受けることになる.この共鳴的な加速・減速によるエネルギー収支を粒子の速度分布について平均する
と,波のエネルギーが粒子のエネルギーに変換され減衰を受ける.上の共鳴条件を書き替えると ω - k// = nωc(nは整数)となるが,特に n=0 の
場合は,磁場中でのランダウ減衰になる.ランダウ減衰同様,サイクロトロン減衰もプラズマ加熱や電流駆動の物理機構として使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
サイクロトロン振動数とラーモア振動数
掲載号 69-10
104
Cyclotron Frequency and Larmor Frequency
質量 m ,電荷 q の粒子が一様な磁場中で行う旋回運動はよく知られている.その旋回(ジャイロ)振動数と旋回半径はそれぞれ
Ω = | q | B/m , ρ = v⊥/Ω
で与えられる.ここに B は磁束密度,v⊥ は磁場に垂直な速度成分を表す.通常,この Ω をサイクロトロン振動数と呼ぶ.
著者によっては,Ω をラーモア振動数,ρ をラーモア半径と呼ぶことがある.しかし,これは誤解を招く恐れがある.なぜならラーモア振
動数には別の定義があるからである.すなわち,中心力の下で運動する荷電粒子に静磁場が揺動として加えられた場合,粒子運動は近似的に中
心力だけの運動に,角振動数 ωL = | q | B/2m の回転運動を重ね合わせたものになる.この回転運動をラーモア歳差運動,ωL をラーモア振動
数と呼ぶ[1].ゼーマン効果の説明のためにラーモア自身が導いたものでその名を付けるにふさわしい.
したがって,サイクロトロン振動数をラーモア振動数と呼ぶのは正しくない.この呼び方は,筆者が調べた限りでは,1950年代の核融合研究
草分け期の著作から散見されたが,その呼称の根拠は定かでない.他方,この分野の教科書の先駆であるAlfven,Spitzerの著書にはこのような
誤用はない.
相対論的粒子の場合の旋回運動は,静止質量 m を式(1)に置き換えればよい.この場合にはシンクロトロン振動数とも呼ばれる.非相対論
的,相対論的を問わず,ジャイロ振動数,ジャイロ半径で通すのが簡明で混乱を生じないと考える.
[1] 例えば,伏見康治:現代物理学を学ぶための古典力学(岩波書店,1964)p.122.
式(1):104eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
再結合放射
掲載号 73-11
250
Recombination Radiation
プラズマ中の自由電子がイオンと衝突した際に z 荷に電離されたイオン Xz+に自由電子が捕獲され, z-1 荷のイオンX (z-1)+となりイオンの荷数
が減る過程を再結合という.プラズマ中のイオンと電子との衝突による再結合過程には放射再結合,二電子性再結合及び三体再結合の三種類が
ある.放射再結合は光電離の逆過程でありXz+ + e → X(z-1)+ + hν の様に電子が捕獲され光子hνを放射する.この時に放射される光を再結合放射
(又は自由ー束縛遷移放射)という.電子が捕獲される準位の主量子数をnとすれば,放出される光のエネルギーはn殻の電離エネルギー I(n) と
自由電子のエネルギーEeとの和 hν = Ee + I(n)となるため n殻の電離エネルギー I(n)で端をもちI(n)以上のエネルギーをもつ連続スペクトルとな
る.実際のプラズマでは高リィドベルグ状態の占有密度(ポピュレーション)が衝突により連続状態電子のマックスウェル分布に繋がるため,低
エネルギー側は端としては観測されず,再結合連続放射強度は対応するシリーズ線スペクトル強度になめらかに繋がる.
プラズマ中での再結合速度係数は高温領域 ( I(n) << kTe )ではH様イオンでは1/n3 に比例し,低温領域 ( I(n) >> kTe )では1/nに比例する.プラズ
マ中に水素以外の不純物が存在する場合は荷数 z の4乗に比例して再結合による放射率が大きくなるため制動放射(自由-自由遷移放射)と比較
し放射率は大きくスペクトルの短波長領域ではプラズマからの連続光に大きく寄与する.再結合放射は制動放射と比較してプラズマの温度が低
いほど重要となりイオンが完全電離になるような高温プラズマでは制動放射が主要となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
GMB
掲載号 68別冊
079
Glass Microballoon
Glass Microballoon の略語で,ガラス中空球を意味する.慣性核融合用燃料容器の一つの形式である.室温で高圧の燃料を長期間保持でき,真
球性,壁厚の均一性などが優れているので,燃料容器として広く用いられてきた.水ガラスを原材料として二重ノズルで整形して加熱処理して
作られたGMBは特に厚さの均一性に優れ,直径 100 -1,000μm 壁厚 1∼10μm の物が作られている.金属アルコレートを加水分解して作られた
ガラス粉未を加熱処理して作る方法は,比敷的成分の選択の幅が広いので特徴のあるGMBが作られている.Caを合むGMBは耐候性に優れ,燃
料を6ケ月以上保持できるものが作られている.酸化アルミ系のGMBでは1,000気圧に近い燃料を保持することができる.直径 1,000μm 以上
で,壁厚が 1μm 程度の LHART(Large,High-aspect-ratio Target)ターゲットも製作されていて,高い中性子発生を可能にしている.
プラズマ・核融合学会用語解説
シース
掲載号 66-3
009
Sheath
プラズマが固体表面,例えば容器の壁,と接する場所では,一般にその壁に隣接して電場を伴った特殊な薄い層ができる.これをシース
(sheath) という. もしも初めにこのような層がなかったとしても,電子はイオンよりも熱速度が大きいので先に壁とぶつかって失われ,プラズ
マ本体がイオン過剰となって電位が上がり,壁との間に電位差を生じて電場が作られる.そしてこの電場がイオンを壁に向かって加速し,電子
を減速してついには壁への流入量が両者で等しくなるまで電位が上がって定常状態となる.こうして自然にできた電場を伴う構造がシースであ
る.このようにシースの形成には電位差と電子の熱運動とが主役を演ずるので,その層の厚さはデバイ長の数倍程度となる.シースの内部で
は,電子はその各場所での静電ポテンシャルで定まるボルツマン分布をし,イオンはプラズマ本体から入ってきて,電場で加速されてまっすぐ
壁に飛び込む,という描像がよい近似で成り立つ.
プラズマ・核融合学会用語解説
CDシェルターゲット
掲載号 68別冊
080
CD Shell Target
CD シェルターゲットは重水素化ポリスチレン[(- C8 D8 -)n ]を用いて製作した球殻状の燃料ペレットである.将来の高利得用ターゲットと
して有望視されているクライオターゲットのよい模擬実験用ターゲットであり,高密度圧縮の物理解明用ターゲットとして利用されている.密
度整合エマルジョン法により,直径 100∼1,500 μm,壁厚 3∼20 μm,真球性,壁厚の均一性 99 %以上の高品質のものがつくられている.また
プラズマ診断のための水素,塩素およびシリコンなどの元素を化学結合した状態で分子レベルに均一にドープすることが容易である.実際に,
三重水素置換SiドープCD シェルターゲットを爆縮実験に使用して,固体重水素密度の600倍以上の高密度プラズマを実証することに成功し
た.さらに,炭素と水素から成るポリスチレンで製作したCHシェルは低原子番号成分であるため,クライオターゲットの燃料容器としても非
常に有用である.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気嵐
掲載号 68-4
041
Magnetic Storm
地球磁気圏は巨大なプラズマキャビティであり,太陽風により吹き流された形で,前面(太陽側)は約10地球半径,後面(尾部)は6,000地球
半径以上のスケールとなっている.磁気嵐の源は太陽大気中で発生する大陽フレア等の大規模擾乱である.その擾乱が太陽風中を衝撃波として
伝播し,突然に地球磁気圏を圧縮する.したがって,磁気嵐は地上での観測では磁場のパルス的増加から始まる.しかしキャビティを外側から
ポコポコと叩くだけでは大きな磁気嵐は起きないはずである.太陽風からは単に運動量の変化を受けるだけでなく,キャビティ内へのプラズマ
の流入があり,これにより磁気圏内に巨大な赤道帯環電流が生じる.この環電流は反磁性的であり,地球磁場の顕緒な滅少を引き起こす.これ
が磁気嵐の本番でありパルス的磁場の増加から数時間後に始まり数日にわたり,極域のオーロラを伴った乱れた状態が続く.キャビティ内への
太陽風プラズマの流入は磁気再結合過程によると考えられている.地球磁場は北向きであるので太陽風中の磁場が南向きの時はキャビティ前面
で,また北向きの時は地球磁場が北極域に入り込む領域で再結合が起きやすい.磁気嵐ではこれらが大規模かつ頻度高く起きる.また,尾部に
沿って形成されているプラズマシートでの再結合が直接に赤道帯環電流を引き起こすと考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気シア
掲載号 66-4
012
Magnetic Shear
トロイダル閉じ込め装置では,磁力線は”入れ子”状になったドーナツ形の磁気面 の群を形成し,プラズマはこの磁気面の中に閉じ込められ
る (「磁気面」の項参照) .
もし,異なる小半径の各磁気面状の磁力線の捻りの度合いが互いに異なる場合,磁 気シアがあるという.すなわち,各磁気面毎に磁力線にず
れが存在することになり,磁気シアは磁気面毎に磁力線の傾きが変化する度合いを表している.
ある特定の磁気面上にある磁力線はトーラスの主円周方向と小円周方向にそれぞれ有限回巡って閉じることがある.この磁気面は有理面又は
共鳴面と呼ばれ,種々の不 安定性の発生の原因となりやすい.しかし,磁気シアはこのように不安定の発生しやすい共鳴領域を局在化し,プラ
ズマの安定性を改善する効果がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気島
掲載号 66-4
011
Magnetic Island
トーラス装置のプラズマ閉じ込め領域においては,その内部の任意の点から出発して,磁力線を追跡すると,磁力線が覆いつくす面(磁気面)
が存在する磁場構造になっている.ただ,ある磁気面では,1本の磁力線が何回かトーラスを回転すると元の 位置に戻り,面を覆いつくすこと
はない (有理面) .こういう有理面に共鳴摂動磁場 が重量されると,下図(11.gif)に示されたように,同心状の磁気面が崩れ,島の形をした新た
な磁気面群,つまり磁気島が形成される.磁気島内の磁気面内の点は,磁気線でつながっているため圧力,温度が一定になり,プラズマ閉じ込
めの劣化につながる.摂動磁場のない平衡磁場配位では, 磁気面に垂直な磁場成分は存在しないが,摂動磁場が重量されると垂直成分(Br) が現
れ,磁力線が元の磁気面からずれる.摂動磁場と磁力線のピッチが非共鳴の場合,元の磁気面からのずれ(Δ / a)は ∼O (Br / B0 ) と小さく,磁気
面が少し変化するだけである(ここで a はプラズマ半径,B0 は平衡磁場強度である) .共鳴を起こす場合は,磁力線に沿って,Brの方向が変わら
ず, 元の磁気面から大きくずれていく.しかしながら,磁力線のピッチは径方向に進むにつれて,変化するので,径方向にあまりずれると非共
鳴になり,ずれが制限され,磁気島の構造となる.磁気島の大きさ(Δ / a )は,∼O (Br / B0 ) 1/2であり,Br / B0 ∼ 10-4 程度になるとプラズマに影響
が 出始める.実際の装置では,共鳴摂動磁場は,外部コイル電流が軸対称からずれて生じた (トカマク装置の場合) ,またプラズマ自身が不安
定性で作ったりする.後者の極端な場合,プラズマ半径の数分の一程度の磁気島が形成されて,プラズマ全体が自己崩壊 (disruption) することも
ある.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気フィルタ
掲載号 74-9
278
magnetic filter
磁気フィルタは局在したシート状の横磁場であるが,例えば,プラズマに通したパイプ(ロッド)の中に永久磁石を詰めて作られる(ロッド
フィルタ).ロッド間の中心磁場強度(最適な磁場強度はプラズマパラメータに依存する)は80∼100ガウス(半値幅は3∼4cm)程度であり,
イオンの運動には殆ど影響せず電子のみが磁化される程度の磁場である.この横磁場には高速電子を選択的に反射して低速電子のみを透過させ
る特性があり,磁気フィルタと呼ばれ,負イオン源プラズマ中の電子エネルギー分布制御に広く用いられている.
水素放電プラズマ中では,1. 高速電子(>20∼40 eV)との衝突により生成された振動励起分子H2 (v")に,2. 低速のプラズマ電子(∼1 eV)
が解離付着するという二段階過程により水素負イオンH−が体積生成される.また,生成されたH−は2∼3 eV以上の電子との衝突により容易に消
滅するので,H−生成の最適化には電子エネルギー分布の制御が不可欠である.そのため,イオン源プラズマを磁気フィルタにより二分して,上
述の1,2の過程が最適となる電子エネルギ−分布になるようにプラズマ領域を分離するタンデム方式(2チャンバ方式)が考案された.H2
(v")は磁場の影響を受けずに拡散するため,フィラメントからの高速一次電子との衝突によるH2 (v")生成領域(ドライバー領域)と低速電
子のH2 (v")への解離付着によるH−生成領域(引出し領域)を分離・独立させることができ,体積生成型負イオン源での負イオン生成・引き出
しの高効率化が実現された.
電子のエネルギー分布制御を空間的に行う磁気フィルタ方式(空間フィルタ)に対し,アーク放電を数kHz以上で変調することによってプラ
ズマ中の電子エネルギー分布を時間的に制御した時間フィルタと呼ばれる方式も開発された.この方式は反応性プラズマを用いたエッチング技
術に最近応用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気面
掲載号 66-4
010
Magnetic Surface
トカマクやヘリカル系装置はトロイダル閉じ込め装置と呼ばれる.このような装置の磁場配位では,下図(10.gif)に示されているような磁気面
の群を形成することによってプラズマのと閉じ込めを行っている.磁気面とは,その上の任意の点から磁力線を追跡する と磁力線がくまなく覆
いつくす面である.荷電粒子は,磁力線に巻き付きながら磁力線方向に動くので,それゆえに磁気面状に拘束され,その面を動き回る.(厳密に
は,曲がった磁力線に沿って運動する荷電粒子は磁力線に垂直にドリフトするので,粒子の作る軌道面は磁気面より少しずれ,トカマクの場合
は,そのずれは,ポロイダルラーモア半径程度である) .また粒子は面上をほぼ自由に動き回るのでプラズマの圧力,温度などは,面内で一定
になる.それゆえにプラズマの基本パラメータである温度,密度,圧力は,磁気面を規定するパラメータのみの関数となる.磁気面の中には,
有理面と呼ばれる例外的な面が離散的に存在する.その面上では,1本の磁気線が面を覆いつくすのではなく,何回かトーラス回転をすると元
の位置に戻る.有理面は1本の磁力線が,面を覆いつくさないため に外部エラー磁場や,プラズマ不安定性に対して,構造的に弱く,磁気面の
崩壊が生じるときは,有理面を中心に発生する.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気リコネクション
掲載号 70-3
118
Magnetic Reconnection
磁気リコネクションとは,抵抗性プラズマにおいて反平行成分を持つ磁力線同士がつなぎ換わることで,実験室や宇宙プラズマに自己組織化
や多彩な非線形時間発展・緩和現象を誘起する中心的な素過程である.そこには,理想磁気流体においては起こり得ない,磁場のトポロジー変
換に伴う異なる起源を
持つ磁力線のプラズマの混合と,磁気エネルギーからプラズマの熱・運動エネルギーヘの効率的変換という,二つの特徴的な現象が働いてい
る.
磁場がつなぎ換わる速度は,X点における電流方向の電場の強さで決まるので,その強度とそれを決めている物理機構を明らかにすることが
理論的課題になっている.Ⅹ点付近の定常解として,Y字型磁力線構造を持つSweet-Parker解やslow−modeショック構造を伴う解などが知られて
いる.リコネクションの原因として,反平行磁場構造自身に内在する抵抗性不安定性(テアリングモ−ド)や,外部からのプラズマ流による駆
動が提唱されている.また,無衝突に近いプラズマにおいても高速に進行するものが観測されていて,波動励起による異常抵抗や有限ラーモア
半径に由来する粒子効果,また,一般化されたオームの法則で表される流体的効果などによる説明が試みられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気流体モデル
掲載号 68-1
032
MHD Simulation Model
プラズマを記述する方程式としては,Klimontovich 方程式が厳密であるが,通常は位相空間における連続体近似であり,Liouville の定理を満
足するVlasov 方程式がよく用いられる.しかし,磁場に閉じ込められたプラズマに対しては,プラズマの不均一性と複雑な磁場構造が本質的で
あるために,Vlasov 方程式は容易に解けない.そこで,マックスウエル分布に近いプラズマの巨視的性質に対しては速度空間の情報が重要では
ない点に着目し,Vlasov 方程式から得られるモーメント方程式系がしばしば用いられ,磁気流体モデル(あるいは電磁流体モデル)と呼ばれて
いる.モーメント方程式系は,マックスウエル分布に近いことを利用して,プラズマ密度,プラズマ圧力(あるいは温度)および流体的速度を
物理変数として閉じさせることができる.これらは,電荷密度と電流密度を通して,マックスウエル方程式系と結合している.
磁気流体モデルには,抵抗,粘性,拡散や熱伝導等の散逸過程を考慮しやすい利点がある.また,無衝突の極限として理想磁気流体を考えれ
ば,粒子数,運動量,エネルギー等の保存則が成り立つ.
プラズマ・核融合学会用語解説
磁気レイノルズ数
掲載号 75-11
317
Magnetic Reynolds Number またはLundquist Number
プラズマ中の電気抵抗による磁場の拡散時間τR とアルヴェン時間τAの比である。一般に Sで表され, S =τR /τAとなる.ここで,τR=μ
2
0.5
0 a /η,τA=a / VA,VA=B0 /(μ0 ρ) (アルヴェン速度),μ0 は真空の透磁率,a はプラズマの特徴的な長さ(一般にトーラスでは小半径をと
る),ηはプラズマの抵抗率,B0は特徴的な磁場の強さ,ρはプラズマの質量密度である.電気抵抗を持つプラズマの振る舞いを記述する抵抗
性電磁流体方程式を,時間をτAで,速度をVAで,距離をa で(ナブラ;∇=a-1∇N とする),磁場をB0で,圧力をρ0 で 正規化して書き表す
と,プラズマの運動方程式と磁場の拡散方程式は,
dv/dt=-2β0 ∇NP +(∇N × B)×B
∂B/ ∂t=∇N ×(v×B)−(1/S)∇N ×(∇N×B)
β0 =ρ0 / (B0 2 /2μ0 )(プラズマのベータ値)と書くことができる.
上式から,磁気レイノルズ数 S がプラズマの振る舞いに対するプラズマの電気抵抗の効果を示す指標であるということがわかる.すなわち,
S が無限大の時(抵抗率がゼロの時)には上式は理想電磁流体方程式となるが,抵抗率が大きくなり, S が小さくなっていくにしたがって,第
2式右辺第2項の電気抵抗による磁場の拡散の効果が大きくなり,理想状態からずれが生じる.抵抗率の効果を無視した場合には不安定性が起こ
らない状態,すなわち理想電流体不安定に対して安定な平衡状態に対しても,抵抗率の効果を入れることにより新たな不安定性(抵抗性不安定
性)が発生し,その成長率が磁気レイノルズ数の関数となることが知られている.
プラズマ・核融合学会用語解説
自己組織化
掲載号 69-1
081
Self- Organization
熱力学の第二法則に従えば,閉じた系におけるエントロビーは常に増大し秩序構造は時間と共に崩れる.しかし,開いた系においては系外か
らエネルギーを持続的に取り込みつつエントロピーを放出することにより,秩序構造を自発的に形成する場合のあることが知られている.この
過程を自己組織化と呼ぶ.生体の発生,結晶成長,ベナール対流のパターン形成などはその顕著な例である.核融合プラズマにおいても逆転磁
場ビンチ(RFP)の自発的配位形成とその維持,電気二重層の形成など様々な非線形現象の理解において有効な概念となっている.前者は J. B.
Taylorの変分法により,最小エネルギー状態への緩和過程としても定式化されている.空間のみならず時問的秩序構造の発生の例として,トカ
マクプラズマの鋸歯状振動(saw-tooth oscillation)を挙げることもできる.
プラズマ・核融合学会用語解説
仕事関数
掲載号 74-11
284
Workfunction
金属または半導体中にある1個の電子を真空中に取り出すのに必要な最小のエネルギーが仕事関数(単位:eV)である.
金属中には,自由に動きまわることのできる電子(自由電子)が満たされているが,それらの電子は金属の外に簡単に飛び出すことはできな
い.それは,最も高いエネルギーの電子でも,真空中で静止している電子のエネルギーよりも低いためである.図(284.gif)は,金属内の自由電
子のエネルギー状態を真空中に静止してる電子のエネルギーを基準にして示している.温度0Kにおいて金属内の自由電子はフェルミエネルギー
E f まで満たされている. ここでW は,金属表面のエネルギー障壁の高さを表している.フェルミエネルギーをもつ電子を金属外に取り出すに
は,W−E f =φwより大きいエネルギーを必要とする。 このφwが金属の仕事関数である(Pt, W,Mo:約5.3∼4.3 eV).半導体では,電子の
エネルギー帯が図とは異なるので,上述の説明を少し修正する必要があるが,ここでは省略する.
金属や半導体に熱を加えたり,光を当てたりなどして電子にエネルギーを与えると,いくらかの電子は,エネルギーの障壁を超えて外に飛び
出すことができるようになる(熱電子放出,光電子放出).仕事関数は,電子放出現象ばかりでなく,接触電位差,表面の化学的活性などを考
慮する上で重要な物理量である.
---図---
プラズマ・核融合学会用語解説
質量分析
掲載号 74-3
260
Mass Spectrometry
気相中に存在する粒子の分析法のひとつに,粒子の質量数の分析により粒子の同定をおこなう質量分析がある.分析の基本となる質量分離の
手法としては,磁界・電界を利用するものが多く,磁界中におけるラーモア半径の差から質量分離をする方法は古くから用いられている.一
方,電界を用いて質量分離をおこなう手法にはさまざまなものがあるが,その中でもコンパクトな装置構成で高い質量分解能を得ることができ
る四重極質量分析の手法は広く普及しており,真空容器内の残留ガス分析装置や表面分析装置等に応用されている.またこれらの方法とは異な
り,粒子を予め一定のエネルギーに加速した後ドリフト管を通過させ,検出器への到達の時間差から質量分離をおこなうTime of Flight法もあ
る.一般に質量分析する際には粒子が電荷を持っていることが必要であることから,測定対象となる粒子が電荷を持たない場合(中性粒子)に
はあらかじめ対象粒子の電離がおこなわれる.電離手法としては電子ビームを粒子に照射するのが一般的である.質量スペクトルから気相中の
粒子組成を評価する際には,それぞれの粒子に特徴的な質量スペクトルがあることを考慮する必要がある.特に多原子分子は電子衝撃による電
離の際に解離イオン化を起こし多くのフラグメントイオンを生みだすので,組成評価の際には注意が必要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ジャイロ運動論モデル
掲載号 71-3
154
Gyrokinetic Model
強い縦磁場がある場合,イオンのジャイロ周期より低周波の現象を解析するために有効な運動論モデル.トカマクやステラレータ等の低ベー
タ装置でのプラズマ中の異常輸送の解明や,MHDモードの運動論的変形を解析するのに用いられる.粒子の運動をジャイロ軌道(円軌道)で平
均化した方程式系を用いる.粒子の運動は案内中心の運動で表され,磁力線方向の並進運動,有限ラーモア半径効果を含むE×Bドリフト,磁
場勾配ドリフト,磁場曲率ドリフトおよび磁力線に平行方向の電場による加減速等からなる.電場および磁場を求める式にもジャイロ運動論的
変形を考慮する必要がある.ジャイロ運動論的粒子モデルによるシミュレーションの基本式になっている.ジャイロ運動論的粒子モデルはコン
ピュータに対する負荷が大きく次世代の超並列コンピュータをも考慮に入れて研究を進める必要がある.電子を断熱的に取り扱いイオンのみ
ジャイロ運動輪的に取り扱うハイブリッドモデルや,電子とイオンをMHD 的に取り扱い高エネルギーイオンのみをジャイロ運動論的に取り扱
うハイブリッドモデルを用いたシミュレーションも行われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ジャイロトロン
掲載号 67-2
018
Gyrotron
ジャイロトロンは中空状の弱い相対論電子ビームがマグネトロン入射電子銃から引き出され,磁気圧縮をうけて共振器に入り電磁場のエネル
ギーに変換され,ミリ波を発振させる電子管である.普通のマイクロ波電子管とは異なり,発振周波数は共振器内での電子サイクロトロン周波
数に近い.汎用ジャイロトロンは共振器として開放端型円筒空洞を,準光学ジャイロトロンは電子ビームと直交する一対の曲面鏡で構成された
共振器を用いている.発振の電界パターンにより汎用ジャイロトロンではリング状をした軸対称型と花びら状をしたホイスパリングギャラリー
型がある.共振器の寸法がミリ波波長に比べて格段に大きい高次モードの共振器を採用しているため,共振器壁の熱負荷が軽滅され,連続発振
可能な大電力のミリ波が発振できる.このためクライストロン等で不可能であったミリ波領域での大電力かつ高効率の発振が可能となり,現
在,核融合プラズマでの電子サイクロトロン共鳴加熱のミリ波源として利用されるに至った.プラズマ加熱からジャイロトロン開発に要請され
る仕様は周波数 110-140GHz,単管出力1MW,連続動作である.現在,140GHz,ホイスパリング・ギャラリーモードTE15,2の発振により
0.5ms で1MWの出力を,500msで 0.38MW の出力が得られている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ジャイロボーム拡散
掲載号 71-3
153
Gyro-Bohm Diffusion
磁場に閉じ込められたプラズマは,各種の微視的不安定性による電磁波揺動により磁力線を横切って損失する.例えばドリフト波乱流が損失
機構の主要因と考える.磁力線垂直方向の波長λがイオンラーモア半径ρ程度の静電波が最も不安定で,その線形成長率Γはほぼドリフト周波
数 式(1)である(L:プラズマの磁 力線垂直方向分布の特性長,T:温度,B:磁場).静電ポテン シャル揺動 eφ/T の大きさは λ/L 程度
になって飽和すると考えると,プラズマのE×Bドリフト運動の振幅はλ程度であり,その振動運動の相関が失われる時間τはγ-1である.した
がって,E×Bドリフトのランダム運動による粒 子の拡散係数 D および熱の拡散係数 χは, 式(2)となる. このように,ボーム拡散係数
DB∼T/eBに規格化ラーモア半径(ρ/L)を乗じたものをジャイロボーム拡散係数という.一般的に,無次元関数 F = F( ベータ値,衝突度,局所的
アスペクト比,安全係数,...)を用いて,拡散係数をD = DB・(ρ/L)μ・F と表すとすれば,,μ = 0 のと きはボーム型拡散,μ = 1のときは
ジャイロボーム型拡散,μ = 0.5のときは弱ジャイロボーム型拡散と呼ぶことができる.
式(1):153aeq.gif
式(2):153beq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
ジャイロ流体モデル
掲載号 71-3
155
Gyrofluid Model
ジャイロ運動論的ブラソフ方程式のモーメントをとって得られた流体方程式を基本とするモデル.イオンの有限ラーモア半径効果や,粒子の
磁場勾配ドリフト,磁場曲率 ドリフト等の効果を含む.高エネルギーイオンも取り扱える.ジャイロ流体シミュレーションの基本式となってい
る.トカマクの異常輸送の解明やMHDモードの運動論的 変形の解析に用いられる.モーメント方程式系を閉じさせるための近似が問題にな
る.電子およびイオンのランダウ減衰および逆ランダウ減衰の効果をジャイロ運動輪的ブラソフ方程式より導きモーメント方程式系を閉じるこ
とも可能である.ジャイロ運動論モデルのほうが物理に忠実ではあるが,ジャイロ運動論的粒子モデルを用いたシミュレーションは計算機に対
する負荷が大きく次世代の超並列コンピュータをも必要とする.ジャイロ流体モデルによるシミュレーションは現在のスーパーコンピュータで
も十分現実的な時間内で計算可能である.ジャイロ運動論的粒子モデルを用いたシミュレーションとの比較を通じてモデルの正当性を検証して
いくことが必要とされる.
プラズマ・核融合学会用語解説
重イオンビームプローブ
掲載号 70-6
128
Heavy Ion Beam Probe (HIBP)
能動粒子線計測法のひとつ.プラズマ中の電位,密度,温度等の測定を目的とし,重イオン(通常はアルカリあるいはアルカリ土類金属イオ
ン)ビームをプラズマ中に入射し,電離反応で生成された二次ビームのエネルギーおよび強度を測定する.プラズマ閉じ込め装置内で電離反応
を起こした二次ビームは電荷が変化するため,未反応の入射ビームとは異なった経路で閉じ込め装置から放出される.したがって二次ビームの
みを選択的に検出することが可能である(図(128.gif)参照).入射ビームのエネルギー,電荷をそれぞれEp,qp,二次ビームについてEs,qs
とすると,電離点での電位は(Es−Ep)/(qs−qp)で表される.密度,温度については二次ビームと入射ビームの比から決定できる.ただ
し,密度を求めるには温度を,温度の場合は密度を他の測定から与えなければならない.電位測定に関するこの測定法の特徴は,ビームの入射
角度を変化させることによって非常に高い空間分解能をもって分布測定が可能な点にある.測定点を固定することによって,空間電位および密
度の揺動測定も可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
自由電子レーザー
掲載号 67-5
027
Free Erectron Laser(FEL)
エネルギーのそろった指向性の強い電子ビームをウイグラー(もしくはアンジュレータ)と呼ばれる強い電磁場,あるいは誘電体や遅波構造
を持つ導波路に入射し,コヒーレントな放射光を発生する装置である.制動放射の反作用による電子ビームのバンチングを利用して増幅・発振
を行い,その機構はクライストロン等の電子管に類似している.発振波長は用いる電子ビームのエネルギーの二乗に逆比例して短くなる.した
がって,電子蓄積リング,高周波線形加速器,誘導線形加速器,静電加速器等色々な加速器を用いることによって,波長 1cm から波長 10nm 以
下のX線領域まで発振の可能性がある.「第4世代の放射光」と呼ばれることもある.世界ではじめての発振の成功は,米国・スタンフォード大
学(1976年)のJ. M. J. Madeyらの実験によるものである.
自由電子レーザーの利点は波長可変で高出力なことであるが,加速器等が大型であることが欠点とされる.
プラズマ・核融合学会用語解説
受動的安全性
掲載号 74-7
272
Passive Safety
原子炉の有する固有の危険性(例えば,核分裂生成物やその崩壊熱,余剰反応度とそれに起因する出力逸走事象等)を十分小さくするために
採用する工学的安全システム,構造物,機器の作動が,外部からのエネルギーあるいは信号や操作なしに,自然法則や物質の物理的性質,ある
いは,内部に含まれるエネルギーに依存するものをさす.これに対して,能動的安全性(Active Safety)とは,原子炉の有する固有の危険性(例
えば,核分裂生成物やその崩壊熱,余剰反応度とそれに起因する出力逸走事象等)を十分小さくするために採用する工学的安全システム,構造
物,機器の作動が,外部の(機械的,あるいは電気的な)エネルギー,信号,操作に依存するものをさす.ここで「自然法則や物質の物理的性
質」とは,例えば,以下のような事項をさす.
1.重力,磁力
2.熱膨張
3.熱に伴う相または物性変化
4.熱容量
5.自然対流,伝導,輻射による熱移動
6.温度変化に伴う核反応特性の変化
7.物質の放射線遮蔽特性 等
プラズマ・核融合学会用語解説
シュルツ型真空計
掲載号 70-4
120
Schluz Gauge
熱陰極電離真空計の一種で,約100 Paまでの高い圧力の測定に使用できるように工夫されている.電極は2枚の平行平板とその間に置かれた
フィラメント(熱電子源)で構成され,平行平板の一方をアノードに,他方をイオンコレクタとしている.フィラメントにはレニウムやトリア
コートイリジウムが使われている.熱陰極電離真空計はIi=K・Ie・Pの関係から圧力を求めているが,感度係数Kと電子電流Ieが測定圧力Pには
無関係に一定であることを前提としている.これは,一定量の電子が一定の軌道を描きながら飛行してほぼすべての電子がイオン化に寄与する
ことなくアノードに流入し,「無駄」になる条件である.しかし,圧力が高くなり多くの電子がイオン化に使われるようになるとKの値が変化
する.また,多量の生成イオンは空間電位を変えてKの変動を引き起こす.この対策として,次のようなことが行われている.1)電子の軌道
長を短く(電極間隔を狭く)し,Ieを低く押える.2)アノード電圧を低くしてできるだけカスケードイオン化を少なくする.3)イオンコレク
タを深い負電位にしてイオンの引き込みを強くすることにより,圧力変化によるイオン収率の変動を防ぎ,フィラメントに流入するイオン電流
の割合を減じる.これにより,高い庄力までIe一定の条件を保つ.
プラズマ・核融合学会用語解説
照射促進(誘起)昇華
掲載号 67-3
019
Radiation Enhanced(or Induced)Sublimation
黒鉛等の炭素材料のスパッタ率は,数百度以下では温度によらず一定で,いわゆる物理スパッタリングによるものとなっているが,温度が
1,000K 以上になると(水素を一次粒子とした場合の化学スパッタリングはここでは考えない),入射一次イオンの種類によらず,スパッタ率の
値が温度と共に指数関数的に上昇する.この現象による炭素材料の損耗率は単純な熱による炭素の昇華に比べてはるかに大きいため,照射促進
(または誘起)昇華と称され,最近の大型トカマクの炭素によるプラズマ汚染の一因として注目を浴びている.
この照射促進昇華現象は,次の2つの理由,すなわち
1.炭素材料に特有で金属やセラミックスでは現在のところ報告されていないこと.
2.熱昇華(蒸発)の場合には放出される粒子はC1 だけでなく,C2 ,C3 ,C6 ・・・等のクラスターが含まれるのに対し,照射促進昇華では
そのほとんどがC1 であること.
等により,入射粒子との衝突により弾き出された炭素原子が,層状構造を持つ黒鉛の層間を格子間原子として,固体内で空孔に捉えられること
なく表面まで移動した後,そのまま放出されるものとしてモデル化されている.ボロンやチタンあるいはシリコンの添加はその低減化(照射促
進昇華開始温度を高める)に効果があることが報告されているが,その機構については現在のところ不明である.照射促進昇華も詳しくみると
入射粒子束依存性など必ずしもモデルと実験結果とは一致してはいないだけでなく,電子線や中性子を一次粒子とした場合での現象の確認もで
きていない.現象のそのものの解明,そしてその低減化は今後の大きな課題となっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
照射誘起偏析・析出
掲載号 71-11
177
Radiation-Induced Segregation ; RIS,
合金や不純物を含む材料が照射を受けた場合,点欠陥の流れによって固溶する溶質原子の移動が誘起され,結晶粒界やキャビティ,転位など
の点欠陥消滅場所(シンク)の近傍で溶質原子濃度が上昇または低下する.このように照射によって溶質原子濃度が不均一化する現象を照射誘
起偏析と呼び,局所的な組成変化から母相と異なる相が析出する現象を照射誘起析出と呼ぶ.照射誘起析出は材料の強度特性劣化やスウェリン
グの直接または間接的原因となり,照射誘起による粒界偏析はステンレスにおける応力腐食割れを促進する(照射促進応力腐食割れ;
IASCC).
照射誘起偏析においては,多くの場合,母相に対して原子半径の小さい
(undersized)溶質原子は点欠陥のシンクで濃化し,原子半径の大きい
(oversized)原子は反対に欠乏する.このような現象を広くサイズ効果と呼ぶ.照射誘起偏析の機構として,溶質原子が点欠陥と複合体を形成
することによるシンク方向への移動,原子空孔と位置を交換することによるシンクとは反対方向への移動,母相との点欠陥の易動度の違いによ
り移動方向が決まる逆カーケンドール効果(inverse Kirkendall effect)などが提唱されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
照射誘起電気伝導
掲載号 71-11
176
Radiation Induced Conductivity
絶縁性セラミックスでは,金属のように伝導帯に電子が存在せず,価電子帯に電子が存在するため,自由電子による電気伝導がなく,高い電
気絶縁性をもつ.中性子およびγ線等の放射線を絶縁性セラミックスに照射すると,セラミックス中の価電子帯にある電子を伝導帯へと励起
し,放射線のイオン化に応じて伝導電子とホールを生成するため,電気伝導が生じ,絶縁抵抗が劣化する.これを照射誘起電気伝導
(Radiation-Induced Conductivity:RIC)と呼ぶ.このRICは伝導電子とホールが極めて短時間(10-11 秒程度)で再結合するので,照射中のみに生
じる現象である.核融合炉には,炉内構造物,RF窓,計測系等に種々のセラミックス絶縁材料が用いられる.これらは,核融合炉の稼働中,
14MeVまでの中性子及び副次的に発生するγ線に曝される.14MeV中性子は核分裂炉中性子に比べ,イオン化効率が高く,RICによるセラミッ
クス絶縁材料の絶縁性劣化が懸念されている.このため,種々の照射装置を用い,核融合炉における絶縁性劣化を評価するための試験を実施し
ている.
プラズマ・核融合学会用語解説
衝突・輻射平衡
掲載号 68別冊
073
Collisional Radiative Equilibrium
イオンの電離・再結合,励起・脱励起は,主に自由電子との衝突による衝突過程(collisional process)と,光子を吸収・放出することによる輻
射過程(radiative process)により支配される。比較的高密度で低温の状態では衝突過程が支配的で,局所熱平衡状態(local thermodynamic
equilibrium;LTE )に近付く.ところが,比較的低密度で高温な状態では,輻射過程が重要となる.光学的に薄いプラズマでは輻射励起・電離
が起こりにくく,衝突過程と輻射脱励起・再結合とが支配的となる.このように衝突過程と輻射脱励起,再結合とがバランスした状態を衝突・
輻射平衡(略して CRE )という.この平衡モデルでは,高密度・低温では LTE となり,低密度・高温の極限でコロナ平衡(cornal equilibrium)
となる.たとえば,レーザープラズマのように小スケールのプラズマで温度・密度が空間的に急激に変化するプラズマの原子状態を記述するの
にこの衝突の輻射平衡を仮定することがしばしばある.
プラズマ・核融合学会用語解説
新古典テアリングモード
掲載号 75-9
313
Neoclassical Tearing Mode
新古典テアリングモードは,衝突周波数の下がった高温プラズマにおいて,ヘリカル構造をした磁気島に沿って流れる、新古典理論に基づく
ブートストラップ電流が磁気島を成長させるMHD不安定性である.磁気島が存在すると,プラズマ圧力が磁気島内部で平坦化するため,磁気
島内のブートストラップ電流が減少する.この磁気島内外のブートストラップ電流の差が磁気島を成長させ、閉じ込めの劣化を引き起こし、ソ
フトなベータ限界をもたらす.磁気島幅wの成長は次の理論モデルで説明されている.(下式(1))
ここで, Δ'(w) はテアリングモードの安定性の指標であり,第2項は,ブートストラップ電流による不安定項である. τR = μ0 r2 / ηsは抵抗
性磁場拡散時間,k1 ,k2 は平衡の詳細に依存する定数,rsは磁気島が存在する磁気面の小半径,εs=rs/R0,下付きのsはrs上の値を示す.また,
Lq = q / (dq /dr),Lp=-p/(dq /dr)であり,wd は(χ⊥/χII)1/4 - rs に比例する量である.χ⊥とχ‖は,各々磁力線に垂直および水平方向の熱拡散係数
であり,多くの場合磁気島幅の飽和時にはw≫wdと近似できる.この式から,磁気島が存在する有理面でβpの上昇,低シアによるLqの増加,
高圧力勾配によるLpの減少が磁気島を大きくすることがわかる.新古典テアリングモードはJ.D. Callen 等によって理論的に予測されていたが,
1995年にTFTRで観測されたMHD現象と磁気島幅(電子温度分布の平坦化幅)が上式によってよく説明できたことをきっかけに,新古典テアリ
ングモードによるβ限界がいくつかのトカマク装置について調べられ,衝突周波数の低下にしたがってβ限界が理想MHD安定限界値より低くな
ることが報告された.新古典テアリングモードは,ITERおよび将来の高βによる高効率定常炉における重要な課題となっており,イオンの分極
電流による安定化効果の検討や,JT−60などで電子サイクロトロン波を用いた磁気島内への局所電流駆動による安定化の研究が進められてい
る.
式(1):313.eq
プラズマ・核融合学会用語解説
新古典輸送
掲載号 67-2
017
Neoclassical Transport
新古典輸送とは,トーラス磁気面内に閉じ込められた粒子のサイクロトロン運動の案内中心の軌道に対するクーロン衝突の結果として生ずる
粒子及び熱の磁気面を横切る拡散により引き起こされる輸送現象のことである.磁力線に沿って磁場強度が不均一なトーラス系では,磁気モー
メントの保存により粒子は磁場に捕促される粒子(補捉粒子)とされない粒子(非捕捉粒子)に大別され,対応する案内中心の軌道の周波数と
磁気面からのズレが新古典効果を考える上で重要な要因となる.この案内中心の軌道に大きな影響を与えるのは,トロイダルドリフトである
が,非軸対称系では,ヘリカルリップルや電場による影響も重要となる.一般に,磁場構造の性質を大きく反映する捕捉粒子の案内中心の磁気
面からのズレは大きいが,その周波数は小さいため,衝突周波数が補捉粒子の運動周波数よりも十分小さい時,顕著な新古典論的効果が現れる
事になる.例えば,軸対称系でのバナナ拡散,非軸対称系でのリップル拡散,また,両者におけるブートストラップ電流等がこれに相当する.
逆に,非捕促粒子トーラス方向の周回周波数よりも衝突周波数が大きくなっていくと,新古典的効果は薄れていくが残っており,この領域での
新古典拡散は Pfirsh-Schluter 拡散と呼ばれる.したがって,粒子の軌道に直接的な影響を与える軸対称性の有無等の磁場配位の空間依存性及び
拡散を産み出すクーロン(二体)衝突の性質(運動量保存,自己共役性)が新古典理論の結果に本質的な影響を与える.
プラズマ・核融合学会用語解説
深層防御
掲載号 74-4
263
Defence in Depth
多重防護(防護)ともいう.原子力施設の安全性確保の基本的な考え方の一つで,放射性物質の閉じ込めに有効な防護策を多重に講じ,万一,
1つの防護策を超えるような事象に発展しても,他の防護策により放射性物質の環境への異常な放出を防止し,環境影響を低減する思想.具体
的には,原子炉施設の設計,建設,運転にあたっては,以下の3段階の防護策が講じられている.
(1)安全上問題となる異常事象の発生を未然に防ぐための対策
・原子炉に高い固有の安全性(例えば,負の原子炉の出力係数)を持たせる
・安全上余裕のある設計
・誤作動や誤動作を防止する設計
例えば,フェイルセイフ設計(部品や機器が破損または故障しても,その結果,系全体が安全側に作動するように設計)やフールプルーフ設
計(運転員が誤作動してもその結果が事故にならないように設計)
・運転が容易な設計
・連続的あるいは定期的な点検・保守が実施可能な設計上の工夫
・十分な品質管理,品質保証等
(2)異常事象の拡大防止及び事故への発展防止のための対策
・異常の早期発見のための高い信頼性を持つ検出系の設置
・異常発生に対し,高い信頼性をもつ原子炉緊急停止系の設置等
(3)事故に発展した場合を想定し,放射性物質の異常な放出を防止する環境影響低減のための方策
・非常用炉心冷却系の設置
・原子炉格納系の設置等
プラズマ・核融合学会用語解説
シンプレクティック積分法
掲載号 69-6
095
Symplectic Integrator
ハミルトン系の時間発展は正準変換(シンプレクティック変換),すなわち変換のヤコビアンは1であるから,位相空間の体積は不変に保た
れる.シンプレクティック積分法はこの性質を保つ数値積分法である.従来の積分法では局所離散化誤差のため扱っている系に実際にはない滅
衰や励起を起こし,長いステップにわたる数値積分の後では解の信頼性が失われてしまうことがあった.
現在までに様々なシンプレクティック積分公式が提案されている.代表的なものとして母関数による陰的法,陰的ルンゲ・クッタ法(よく知
られた古典的ルンゲ・クッタ法などの陽的法はシンプレクティック積分法ではない)があり,またハミルトニアンが H = T(p) + V(q) という分離
型の場合の陽的法などが挙げられる.さらに系にエネルギ一などの保存量がある場合,その性質を保持する公式も研究されている.
[参考文献]
H. Yoshida, Recent Progress in the Theory and Application of Symplectic Integrators, Celest. Mech., (1993), to appear.
プラズマ・核融合学会用語解説
深冷蒸留水素同位体分離
掲載号 71-1
147
Cryogenic Hydrogen Isotope Distillation
水素同位体間で,平衡比(気液平衡状態での蒸気相と液相のモル分率の比)に差があることを利用した同位体分離法.水素同位体6分子種は
平衡比の差が大きく,例えば大気圧でH2 とT2 が気液平衡状態にあるとき,相対揮発度(H2 の平衡比/T2 の平衡比),すなわち分離係数は約
3.5に達する.水素同位体を約20Kにまで冷却(それで「深冷」の形容がつく)液化し,相対揮発度の差を利用する蒸留塔により分離を行う.蒸
留塔は(Fig. 1(147.gif)),再沸器(ヒータにより蒸気を発生させる),凝縮器(冷媒ヘリウムガスで蒸気を液化する),精留部(充填物が詰め
られており,凝縮器から落下する液を分散して,再沸器から上昇する蒸気と接触させる)から構成される.平衡比の大きいH2 は蒸気相に,D2
およびT2 は液相に移動し,それぞれ塔頂および塔底に濃縮される.気液が向流接触することにより多段の分離効果が得られること,水素を液化
するため,大流量の連続処理が可能であることに大きな特徴がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
深冷壁熱拡散塔水素同位体分離
掲載号 71-1
148
Hydrogen Isotope Separationwith Cryogenic-Wall Thermal
熱拡散とは,混合流体を温度勾配下に置くと,一般に,軽成分が高温側に,重成分が低温側に移動する現象で,Enskog(1911),Chapman
(1917)が,気体分子運動論から初めて指摘した.熱拡散法による同位体分離は,1939年ClusiusとDickelが向流型熱拡散塔(中心軸に発熱線を
張り,外側を冷却する垂直円筒管)を考案して実用的になった.これは,水平方向温度勾配による熱拡散効果で混合気体を分離させ,鉛直方向
に生じる自然対流で分離を多段的に積み重ねて,分離効果を飛躍的に増大させるものである.1990年,通常の冷壁(例えば,288K)の代わりに
深冷壁(例えば,液体窒素温度77K)とすれば,分離係数はさらに飛躍的に増大す,と山本によって予言され,実験的にも確認された.熱拡散
法は,不可逆プロセスでエネルギー効率が悪いが,単一の熱拡散塔での分離係数が常温冷壁でも大きい(深冷壁の採用でさらに飛躍的に増
大),塔内のインベントリ量が小さい,構造が簡単で可動部を持たず信頼性が高いことから,核融合炉燃料のトリチウムガスの精製・分離法と
して有望視されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
水素リサイクリング
掲載号 70-6
127
Hydrogen Recycling
核融合プラズマの閉じ込め領域から流出した水素同位体イオンは,主としてダイバータやリミタ,第一壁などの固体壁表面に吸着・捕捉され
る.これら水素の一部は,固体壁表面から中性粒子として再放出され閉じ込め領域内のプラズマに戻り,電子衝撃による電離やイオンとの荷電
交換反応により,再びイオンとなる.このように水素粒子が壁からプラズマに戻ることを通常「リサイクリング」と呼ぶ(閉じ込め領域から荷
電交換衝突によって第一壁に到達し,再放出される水素も一部がリサイクリングに寄与する).プラズマへ流入する中性水素粒子の総数とプラ
ズマから流出するイオンの総数との比がリサイクリング率である.ダイバータ排気のない状態では,ダイバータ板,第一壁表面での水素濃度の
蝕和のため,数十秒以上の長時間放電の後期にリサイクリング率は1になる.ダイバータ排気を行うときには1より小さいリサイクリング率で平
衡状態が存在する.固体壁表面の飽和水素濃度がプラズマや壁面温度などに依存して変化するため,いったん平衡状態に到達した後も,これら
の変化に伴ってリサイクリング率は別の平衡状態へ変化する.こうした動的挙動を支配する法則の理解や,特性時間に関するデータが今後の長
時間放電では重要になる.
プラズマ・核融合学会用語解説
水素リテンション
掲載号 72-2
187
Hydrogen Retention
この用語は水素リテンション量あるいは水素リテンション特性として用いられており、プラズマ対向材料中の水素保持量あるいは水素保持特
性を意味している。水素はプラズマ対向材料がグラファイトの場合はC-H結合,ボロンの場合はB-H結合の形で保持される.核融合プラズマの
エネルギー閉じ込め特性は,燃料粒子の壁と境界プラズマとの行き来,すなわちリサイクリングの度合に強く依存している.プラズマ対向材料
中の燃料水素が放電中に熱負荷あるいは粒子負荷によりプラズマ中に放出され,リサイクリングが顕著になるとエネルギー閉じ込め時間も短く
なるし,プラズマ密度の制御も難しくなる.このため,放電前にべーキングやヘリウム放電洗浄を行い,そのレベルを低減しておく必要があ
る.代表的なプラズマ対向材料は,グラファイト,ベリリウム,ボロンカーバイド,タングステン等であり,水素イオン源を用いた実験で,飽
和水素リテンション量や水素リテンション量のべーキング温度依存性が調べられている.プラズマ表面相互作用の研究において,プラズマ対向
材料のエロージョン特性とともに水素リテンション特性の評価は重要なテーマとなっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
垂直位置不安定性
掲載号 70-3
119
Vertical Instability
トカマク型装置のように,電流の流れているトーラス形状プラズマを閉じ込めるためには,外部から,回転対称軸方向の磁場(垂直磁場)を
加える必要がある.そのとき,垂直磁場が内側に湾曲している場合,プラズマは垂直方向の変位に対して,不安定になる(垂直位置不安定
性).この不安定性の成長時間は,他のプラズマ巨視的不安定性と同程度(∼μ秒)であるが,プラズマの近傍に導電性の容器を置くとプラズ
マの変位によって容器に誘起される電流の効果により安定化される.しかし,容器が完全導体でないときには,誘導電流が減衰するのでその減
衰時間程度で不安定性は成長する.これを完全に安定化するためには,外部磁場をプラズマの変位に対してフィードバック制御する必要があ
る.現在の大型トカマク装置では,プラズマの断面積を大きくするために,外部磁場によりプラズマを垂直方向に引っ張っているが,これは垂
直磁場を内側に湾曲させることに対応する.そのため,垂直位置不安定性の制御は,トカマク型装置にとって特に重要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
スウェリング
掲載号 67-4
022
Swelling
次期核融合炉実験装置で構造材候補材となっているオーステナイト鋼をより高温,重照射環境で用いる場合の最大の問題点は,ボイド形成に
よる体積膨張(スウェリング)であると予想されている.構造材としてのスウェリングの上限はせいぜい 5% 程度と考えられるが,核分裂中性
子照射で数 10% から 100% 近くに至るスウェリングが報告されている.ボイドスウェリングには強い温度依存性があり,オーステナイト鋼で
は 500-600℃ 付近で最大となる.オーステナイト鋼のスウェリングは,一般に潜伏期の後照射量に比較して増加し,その増加率は様々な照射・
材料因子条件にあまり左右されないことが明らかになっている.したがって,微量添加元素,加工熱処理等の工夫によって,潜伏期間を延長さ
せ,耐スウェリング性を向上させる努力が払われている.なお,オーステナイト鋼に比ベフェライト鋼はボイドスウェリングが著しく低く,
フェライト鋼の優位な点の1つとなっている.また核融合中性子の(nα)反応で発生する He によりスウェリングがどの様な変化を受けるかは
データが少なく,まだ評価が一致していない.ボイドスウェリングの素過程,機構に関しては「ボイド」の項を参照されたい.
プラズマ・核融合学会用語解説
スウォーム
掲載号 69-5
091
Swarm
電磁場中におかれた気体中を運動する荷電粒子(電子,正・負イオン)は中性粒子やその他の荷電粒子と頻繁に衝突する結果,各々はほぼ無
秩序な運動をするが,多数の粒子を同時に観測すればその群れの重心は電場に引かれる方向に一定の速さでゆっくり移動(ドリフト)し,ま
た,電場に平行な方向と直交する方向にそれぞれ拡散する.このような荷電粒子群の挙動は蜂や小鳥の群れ(swarm)の飛行を想像させ,電子
スウォーム,あるいは,イオンスウォームなどと呼ばれる.また,粒子群の巨視的な(あるいは平均的な)特性を表す移動速度や拡散係数など
はスウォームパラメータ(または輸送係数)と総称される.気体中の荷電粒子スウォームの挙動を厳密に解析する手法が最近いくつか開発さ
れ,対象とする荷電粒子とその他の粒子の間の各種衝突相互作用の詳細(衝突断面積)が正確に知られていればその輸送特性を正しく評価する
ことができる.また,スウォームパラメータの正確な測走結果から逆に荷電粒子と中性粒子の間の衝突断面積を決定すること(スウォーム法)
も,確定したエネルギーを持つ粒子ビームの散乱から断面積を決定するビーム法と相補的な手法として,重用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
スクレイプオフ層
掲載号 66-3
008
Scrape-off layer
スクレイプオフ層層は,プラズマ閉じ込め領域を囲む周辺プラズマ層である.環状型プラズマ発生装置におけるプラズマ閉じ込め領域は最外
郭磁気面 (リミタ配位の場合リミタのプラズマ側の先端が接している磁気面,ダイバータ配位の場合X-ポイントを有するセパラトリックスと呼
ばれる磁気面) により限定される.スクレイプオフ層は最外郭磁気面のすぐ外側のプラズマ領域で,その領域内の点は磁力線を通してリミタ,
ダイバータ板といったプラズマ対向物とつながっている.閉じ込め領域から流れ出る熱流や粒子流は最外郭磁気面を横切るとわずかながら径方
向に拡散しながら磁力線に沿ってプラズマ対向物に達する.この径方向の拡散のためにスクレイプオフ層の幅が有限になり,現存の閉じ込め装
置ではおおよそ1 cm程度である .また,ITERのような次期装置設計では,プラズマ対向物への熱負荷の観点からその幅は重要関心事になってい
る.不純物は主としてプラズマ対向物から発生するが,その多くはスクレイプオフ層のプラズマによって電離される.それゆえ,不純物イオン
のスクレイプオフ層での挙動 (輸送) が閉じ込め領域における不純物の汚染度に大きな影響を与える.
プラズマ・核融合学会用語解説
スタグネーション
掲載号 68別冊
057
Stagnation
慣性核融合では,ドライバーエネルギーをターゲット表面に照射することによって発生するアブレーション圧力により燃料の圧縮を行うが,
その圧縮過程は次の3つに大別できる.1.ターゲット表面で励起された衝撃波が球殻(シェル)内面に到達するまでのシェルの重心が動かない
フェイズ.2.シェルが中心に向って加速され,燃料の内面が中心に到達し,その反射衝撃波が燃料を押しているプッシャーに到達するまでの加
速フェイズ.および,3.プッシャーが減速を受けながらも燃料の最大圧縮を達成するスタグネーションフェイズ.このスタグネーション時には
プッシャーと燃料の接触面が減速を受け,実効的な重力加速度が内側に働いており,プッシャーの質量密度が燃料より大きいとレイリー・テイ
ラー不安定性が生じる.その結果,燃料とプッシャーの混合(mixing)が生じ核融合出力が低下する.その成長率は Atwood 数((ρ2 - ρ1 )/
(ρ2 + ρ1 ))の平方根に比例し,密度の跳びが小さければ成長率は小さくなる.また密度勾配や,熱伝導によって安定化されることも知られ
ている.燃料とプッシャーの混合は慣性核融合の重要な研究課題であり,実験的な計測が望まれる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ステラレータ
掲載号 70-7
129
Stellarator
トロイダルプラズマの平衡を確保するために必要な磁力線の回転変換を外部コイルに流れる電流のみによって与える閉じ込め方式の一つ.プ
リンストン大学のライマン・シュピッツァー教授によって1958年に発明された.最初のアイディアは,(トカマクのトロイダル磁場に相当す
る)単純な軸方向の磁場のみを用い,閉じ込め容器を立体的な8の字型にねじるものであった.閉じ込め容器を単純化して平面磁気軸にする
と,ヘリカルコイルが必要になる.ステラレータはヘリオトロン/トルサトロンと異なり,ヘリカルコイル(合計2n本:nは磁場の極数)の電
流は交互に向きを逆転させる.プラズマ断面は楕円(n=2のとき),三角形(n=3のとき)と磁場の極数に応じて変化する.ヘリカルコイルは
トロイダル磁場を発生しないので,別途トロイダル磁場コイルが必要である.ヘリカルコイルとトロイダル磁場コイルをまとめてモジュラー化
したのがW7−AS装置である.
閉じ込め領域に軸方向の電流がないにもかかわらず,回転変換を与えるために必要な実効的なポロイダル磁場が生じるのは次の理由による.
単純トロイダル磁場がヘリカルコイルの直下を通る時,回転変換を与える向きのポロイダル磁場を感じる時はトロイダル磁場を弱め,回転変換
を巻きもどす向きの時はトロイダル磁場を強める.これによって磁力線の正味のポロイダル回転が生じる.磁力線をトロイダル角一定の断面に
投影すると二重ラセンになり,磁気面は必然的に非円形となる.
ヘリオトロン/トルサトロンと比較した時の磁場構造上の主な相違点は,.1)ヘリカルリップルが小さい,2)概して回転変換角が小さい,
3)磁気シアが小さい,である.
プラズマ・核融合学会用語解説
stochasticな磁力線
掲載号 75-10
316
Stochastic Magnetic Field Line
磁場によるトーラス型プラズマ閉じ込め装置では,磁場は磁気面を形成し,この磁気面が小半径方向に層状に構成され閉じ込め磁場配位が作
り出される。理想的な状態では特定の磁気面上の磁力線はこの磁気面上のみに存在し,1本の磁力線に沿って働いても特定の磁気面上からはず
れることはない.プラズマを構成する荷電粒子は磁力線に沿っては自由に運動できるが,磁力線を横切る方向は非常に働きにくい性質を持って
おり,この性質を利用することにより層状の磁気面構造によってプラズマを閉じ込めることが可能となる.しかしながら,外部からの不整磁
場,あるいはプラズマの電磁流体的な不安定性による揺動磁場等の変動磁場成分が存在すると,磁気面が乱されて,1本の磁力線が別の磁気面
上に乗り移ることが起こる.磁場の変動レベルがそれ程大きくない場合は(閉じ込め磁場1 %以下程度)でも,変動の性質によっては,一本の
磁力線をたどることにより,二つの磁気面で挟まれたある領域(甚だしい場合にはプラズマの全領域)をほとんど覆ってしまう状態が生じるこ
とがある.このような状態になった磁力線をStochasticな磁力線と呼ぶ.Stochasticな磁力線の領域では内と外とのプラズマが一本の磁力線でつな
がれることのなるので,プラズマの輸送は磁力線に沿ったプラズマの運動によるものが支配となり,通常の磁場を横切る拡散より桁違いに大き
な輸送量が現れる[1] .したがって,良好なプラズマ閉じ込めを現実するためには,少なくとも閉じ込め領域の外部境界に近い部分で
stochasticな磁力線構造が発生しないようにすることが必要である.
[1] A.B.Rechester and M.N.Rosenbruth,Phys. Rev. Lett. 40, 38 (1978).
プラズマ・核融合学会用語解説
ストリーマ
掲載号 74-5
267
Streamer
針対平板電極配置のような不平等電界において,針電極に正の高電圧を加えると,細いフイラメント状の発光(ストリーマ)が平板電極に向
かって間欠的に伸びる.その速度は108 cm/s程度である.印可電圧が低いとストリーマが平板電極に達しても火花放電にはならないので,スト
リーマを安定に観測することができる.さらに電圧を高めると橋絡したストリーマから火花放電になる.
このような線状の発光形状をもつた過渡的な放電形態をストリーマと呼んでいるので,放電がストリーマ状に現れる条件は多岐にわたってい
る.例えば,大気圧中の平等電界下の絶縁破壊はストリーマ破壊である.陰極からの光電子放出によって電子雪崩が繰り返し発生し,作られた
正イオンが陰極前面に蓄積されて高電界を作る.ギャップ中に光電離でつくられた初期電子から出発した電子雪崩がそこに流入することによっ
てプラズマ状のストリーマが形成され,それが陽極に向かって伸びることによって火花放電にいたる.この様子は,荷電粒子連続の方程式に電
界ひずみを組み入れて数値解析することでシミュレーションされている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ストリーミング
掲載号 67-5
026
Streaming
媒質中にボイドまたは減衰の少ない領域が存在すると放射線がこの領域の周囲の壁で反射しながら外へすりぬけてゆくため,ある方向への放
射線の透過が増加する現象である.媒質中では放射線束は指数関数的に減衰するのに対し,ボイド中では幾何学的形状(長さ,幅,径等)によ
り決まる減衰しか期待できないため,ストリーミングによる局所的増加率は数倍,時には数桁にも達する.この現象が注目されたのは原子力船
「むつ」の出力上昇試験中の「放射線漏れ」(昭和49年)の主原因が原子炉容器と一次遮蔽体の間隙からの中性子ストリーミングであることが
明らかにされ,従来のバルク減衰計算を中心とした遮蔽設計では対処できないことが理解されたからである.以後現在に至るまで遮蔽研究の中
心課題がこの現象の解析・設計手法の開発であったと言ってよく,多くの簡易評価式・実験式,輸送方程式の数値解放やモンテカルロ法を使用
した詳細解析手法が提案されている.原子炉(核融合炉も)では冷却材の配管ダクト類,制御や計測のための貫通孔,保守点検のためのマン
ホールやプラグ類,(核融合炉の)排気,加熱ダクト等不可避的な機器においてストリーミングが発生するためダクト類の設置位置の適正化,
屈曲ダクトの採用,補助遮蔽等の対策によりストリーミング効果を低減するよう配慮する.
プラズマ・核融合学会用語解説
スフェリカルトカマク
掲載号 75-8
311
Spherical Tokamak
スフェリカルトカマク(球状トカマク,ST)とは,アスペクト比A(トーラスの大半径をR,小半径をaとすると,A = R/a)の小さいトカマク
(Aの値が1.6 程度以下のもの)の呼び名で,低アスペクト比トカマクとも呼ばれる.本質的にはトカマクを低アスペクト比化したものである
が,スフェロマックにトロイダル磁場を加えて安定化したものと考えることもできる.スフェロマックのコンパクトさと,トカマクの安定性と
閉じ込めのよさを合わせ持つ閉じ込め方式として有望視されている.従来型トカマク(A = 3 程度)とは異なる閉じ込め概念であることを強調
し,スフェリカルトーラスとも呼ぶ.スフェリカルトカマクにおいて生成されるプラズマは,その断面が自然にD型になる性質があり,球の中
心軸に穴の空いた形状をとるためこのような呼び名がついた.図に示すように磁力線はトーラスの外側で大きなピッチ角(水平方向からの傾
き),内側で小さなピッチ角をもち,安定な磁場配位を形成する.
スフェリカルトカマクでは,従来型トカマクと比べ,はるかに高いベータ値(プラズマ圧力の磁気圧力に対する比)を実現することができ
る.このため,より小型で高性能な核融合炉が可能となると考えられている.実験的には,イギリスのSTART (Small Tight Aspect Ratio Tokamak)
装置において,中性粒子ビーム加熱を用い,ベータの高いプラズマ(体積平均値で40%)が安定に形成され,しかもよい閉じ込めと両立するこ
とが実証された.以後,世界各地でこの種の装置が多数建設されるに至った.なかでもイギリスのMAST (Mega Amp Spherical Tokamak) およびア
メリカのNSTX (National Spherical Torus Experiment)は1MA級のプラズマ電流を持つ装置として設計されており,1999年より始まる実験に期待が寄
せられている.
図(311.gif ):スフェリカルトカマクの磁力線(A = 1.6, q = 3の例)
プラズマ・核融合学会用語解説
スフェロマック
掲載号 71-4
157
Spheromak
トーラス型磁気閉じ込め方式の経済性を高める工夫の一つは,そのドーナツ状の形状を極限まで圧縮,球形化して(アスペクト比を1付近ま
で低下させる)構造を簡略化することである.スフェロマックはそうしたコンパクトトーラス(CT)と呼ばれる磁気配位の一種であり,図
(157.gif)のようにトーラスでありながら単連結な球形の磁気配位となる.平衡配位はテーラーの磁気エネルギー極小配位によって与えられ,ほ
ぼ同じ大きさのトロイダル磁界とポロイダル磁界を有し,q値は 0.5-0.8 程度,大きな磁気シアを持つ.必要なコイルが平衡磁場コイルのみであ
る等,簡略化された炉構成,さらに40%に達する高いエンジニアリングベータ値,ナチュラルダイバータを有すること,軸方向移送性などが長
所である.反面,逆転磁場ピンチと同様,磁束変換効果に伴う磁気揺動が閉じ込め悪化を招く問題等が未解決である.その研究は1950年代後半
の宇宙プラズマ研究に始まり,70年代後半からプラズマ閉じ込め研究としての実験に移行し,配位の外を外部磁場で覆うか,導体壁で覆うかで
自由境界,固定境界の2種類の実験がなされてきた.現在は,閉じ込め実験としての配位改良の他,プラズマの軸方向移送性を利用したプラズ
マ合体,炉心入射応用などの分野を生んでいる.
プラズマ・核融合学会用語解説
正常波モード・異常波モード
掲載号 73-11
248
Ordinary Mode and Extra-Ordinary Mode
一般には,異方性媒質中を伝搬する二つの独立な固有電磁波のモードを命名したものであり,1軸の異方性を持つ媒質では,屈折率が異方軸
と波数ベクトルのなす角(伝播角)に依存しない方を正常波モード,他方を異常波モードと呼び,振動電場が異方軸に垂直な直線偏波の場合が
前者,平行な成分を持つものが後者に対応するが,磁化プラズマ中を伝播する電磁波の場合には磁場の存在により異方性が現れると同時に伝播
媒質である荷電粒子のラーモア運動の旋回方向に起因する屈折率の伝播角依存性が加わるため伝播角に依存しない本来の意味での正常波モード
は存在しなくなる.このために,通常磁化プラズマの場合には,磁場に垂直方向に伝播する二つの独立な固有電磁波モードを対象として屈折率
が磁場強度に依らないモードを正常波,他方を異常波と定義している.この定義によると正常波モードは振動電場が磁力線方向の直線偏波とな
り,異常波モードは磁力線に対して垂直な面内で楕円偏波となる.
磁化プラズマの正常波モードの屈折率が磁場強度に依存しないで,電子密度のみに依存する性質を利用した代表的な例が電子密度の電磁波の
干渉測定である.磁化プラズマの電磁波モードを用いた加熱の例としては電子サイクロトロン波加熱があり,一般に電子サイクロトロン共鳴の
一次高調波は正常波モード,二次高調波以上では異常波モードが吸収されやすい.
プラズマ・核融合学会用語解説
静電イオンアナライザ
掲載号 75-1
292
Electrostatic Ion Energy Analyzer ; Multigrid Type
単探針(ラングミュアプローブ)においては,Bohm電流と呼ばれるイオンの飽和電流が電子の飽和電流にくらべて電子とイオンの質量比(m / M )
の1/2乗倍程度小さい.そのために,イオンの減速領域におけるイオン電流は電子電流におおい隠され,イオンの温度やエネルギー分布関数の情
報を得ることが困難である.これらイオンの情報を得るために,プラズマと単探針(平板電極)の間にプラズマの空間電位より負にバイアスした
グリッドを挿入して電子を追い返し,平板電極(コレクタ)でイオン電流のみを計測しようとする「静電イオンアナライザ」が考案されている.
イオン電流Iiとコレクタ電圧Vcの関係は,単探針の電流・電圧特性と類似である.しかしながら,グリッド前面の負の電位で加速されたイオン
の一部が,グリッドの網目に衝突して発生する二次電子がコレクタに流れ込むために,イオン電流を正しく評価できない場合が多い.さらに1
∼2枚のグリッドを追加して二次電子を追い返す工夫をした「マルチグリッド型」が広く用いられている.イオン電流Iiを一次元のイオン流で近
似できる場合は,イオン電流Iiをコレクタ電圧Vcで1回微分することにより,イオンのエネルギー分布関数を得ることができる.
プラズマ・核融合学会用語解説
制動放射
掲載号 69-4
089
Bremsstrahlung
高温プラズマのエネルギー損失の主要部分を占める放射過程である.自由電子の軌道がイオンのクーロン場によって曲げられるときに電磁波
を放射し,その後もなお自由状態にある過程で,自由遷移ともよばれる.放射された電磁波は制動放射と呼ばれ,振動数あたりの放射エネル
ギー分布は大部分の振動数領域で一定である.
1個の電子の純粋なクーロン場による放射強度は,古典的には双極子放射近似で容易に計算できる.量子力学的には放射断面積が種々の場合
によく計算されている[1].電子速度が小さい場合にはSommerfeld の表式,大きくなるとBorn 近似の式が使える.さらに電子エネルギーが 30
keV を越えると多重極放射を考慮する必要があり,相対論的領域に至ると,電子・イオン衝突に並んで電子・電子衝突の寄与が重要になる.他
方,重いイオンでは核外電子の影響を考慮せねばならない.
高温プラズマ全体の放射強度は,個々の電子の放射断面積を基礎に電子速度分布について積分して得られる.
*ドイツ語がそのまま英語圏で用いられている.
[1] 例えば,原子過程断面積データ集第1集(名古屋大学プラズマ研究所報告)IPPJ-DT-48(1975),(Ra) 放射過程.
プラズマ・核融合学会用語解説
Z-ピンチプラズマ
掲載号 73-2
223
Z-pinch Plasma
Zピンチは大気圧アーク放電のように,プラズマ中を流れる電流Jzの作る自已磁場Bθの圧力によってプラズマが圧縮され,保持される形式
をいう.広い意味ではプラズマフォーカスや真空スパーク,金属ライナ圧縮などもZピンチに含まれる.ピンチ効果が有効に働くためにはプラ
ズマの温度が十分高く,電気伝導度が高くなってプラズマ中への磁束の侵入が止まり,しかもプラズマの圧力よりも外部磁気圧を十分高くする
だけの電流がプラズマ中を流れる必要がある.
Zピンチは電源からプラズマへのエネルギーの注入効率がよく,簡単に高温高密度状態を作ることができるため,1950年代には核融合炉実現
のための最初の候補として研究された.しかし中性子発生が不安定性に起因することと,不安定を安定化することがnτの増加に結びつかな
かったことで,より安定なΘピンチやトカマクなどに核融合研究の中心が移行した.近年,ファイバーZピンチに高速のパルスパワーを適用
し,従来のMHD理論では説明できない安定なプラズマ保持できることが明らかになり,磁場閉じ込めと慣性核融合の中間領域のパラメータでの
核融合の可能性が再び議論されるようになっている.一方,ガスパフ方式やワイヤーアレイ方式のZピンチが,大容量のX線輻射源として注目
を集めている.また,キャピラリーZピンチからの軟X線レーザーの発生が報告されており,Zピンチの各方面への応用が期待されている.
図:223.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
セパラトリックス
掲載号 71-7
165
Separatrix
磁力線が形成する面,磁気面 ψは,その定義からΔψ・B= 0を満たす.ここで B は磁束密度である.この式の解は,磁場に対称性がある場
合には比較的簡単に求められる.厳密解が得られない場合でも平均的な近似解として求めることができる.セパラトリックスはΔψ・B= 0の特
異形で,セパラトリックス層,セパラ トリックス面とも呼ばれる.
具体的には,大型ヘリカル装置のようなヘリカル磁場配位やダイバータを備えたトカマク磁場配位で,プラズマを閉じ込めるための入れ子状
になった磁気面形成領域と外側の開いた磁力線領域を 分けている境界層あるいは境界面がセパラトリックスである.セパラトリックスは閉じた
磁気面領域内からセパラトリックスまで到達した粒子を磁力線に沿って真空容器壁まで導くことができるため,中性化板(ダイバータ板)ある
いは排気設備等と組み合わせて周辺プラズマの制御に利用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
先行加熱
掲載号 68別冊
062
Preheating
慣性核融合において,爆縮効率は,いかに低エントロピーのまま燃料球を爆縮し,その運動エネルギーを最大爆縮の時点でプラズマの熱エネ
ルギーに変換できるかにかかっている.先行加熱が起こると爆縮の終了する以前に燃料球壁が加熱されてしまい,低エントロピー状態にとど
まっていられなくなる.先行加熱されながら圧縮された燃料の内部エネルギーと,等エントロピーで断熱圧縮された燃料の内部エネルギー比
(α)の三乗に比例して点火に必要なレーザーエネルギーは増加する.先行加熱は,レーザーとプラズマコロナ領域での非線形相互作用による
超高速電子やX線によって引き起こされる.例えば,コロナ領域で二電子プラズマ波崩壊不安定性が起こると,それに伴い誘起された電子プラ
ズマ波は強く励起される.プラズマ波のポテンシャルにつかまった電子は位相速度にまで加速されてしまい,l0 keV程度のエネルギーを持つ高
速電子が生成される.この場合,例えば高速電子の温度は
TH =(90 keV)[Iλ2 /2×1015(W/cm2 )μ2 ]1/3[Te(keV)/3]1/2
で表される.ここでIはレーザー強度,λ(μm)はレーザー波長,Teはプラズマ温度である.高速電子は自由行程が長いため,ターゲット壁深
くまで浸入し最大爆縮以前に燃料を予備加熱してしまうので爆縮効率が低下する.
プラズマ・核融合学会用語解説
相関関数
掲載号 74-1
255
Correlation Function
揺らぎを特徴づける統計量であり,確率過程論,統計 力学,物理計測,情報処理などにおいて重要な役割をはたす.例えば,不規則な時間信
号x(t)について,2つの時刻における信号値の積の集合平均〈x(t)x(t+t)〉を自己 相関関数といい,信号が定常であれば時間差tのみの関 数となる.
2つの信号の間の相互相関関数,N個の時刻 の信号値にかかわるN次相関関数,さらに,これらを物理 量の時間空間的な揺らぎx(R,t)に対して拡
張したものを 定義できる.揺らぎが空間的に一様であれば,相関関数 〈x(R,t)x(R+r,t)〉は相対位置rのみの関数となる.そして,定常・一様な
揺らぎの相関関数は,Wiener-Khinchin 流に集合平均で定義される周波数・波数スペクトルと互いにフーリエ変換の関係にある.
例えば,プラズマからの電磁波散乱信号のスペクトルは,電子密度揺動の相関関数のフーリエ変換に相当する.天体観測のための電波望遠鏡
は,空間的に配置された多数のアンテナの受信信号について相互相関関数を測定し, フーリエ積分の逆問題を解いて像を求める撮像法である.
また,トロイダルプラズマの電子サイクロトロン放射に用いられるフーリエ分光は,入射光の自己相関関数を測定し,そのフーリエ変換を計算
してスペクトルを求める.三次相関関数のフーリエ変換はバイスペクトルと呼ばれるが,これを測定してプラズマ波動や乱流における非線形結
合を検出する試みがある.
プラズマ・核融合学会用語解説
速 波と遅 波
掲載号 72-8
205
Fast Wave and Slow Wave
プラズマ中を伝播する波動の中で,位相速度の速い波を速波,遅い波を遅波と呼び区別する.低域混成波周波数帯では,磁場に垂直に伝播す
る波に速波と遅波があり,従来の電流駆動においては遅波が選ばれてきた.遅波を用いた手法では密度限界があるので,将来の核融合炉では速
波電流駆動が必要とされている.イオンサイクロトロン周波数より高い周波数帯の加熱においては,圧縮性アルヴェン波とイオンバーンステイ
ン波が伝播でき,前者は速波,後者は遅波と呼ばれる.またイオンサイクロトロン周波数より低い周波数帯では,磁場に平行に伝播する波動を
用いることが多く,圧縮性アルヴェン波が速波で,ねじれアルヴェン波が遅波である.この遅波は磁気ビーチ波を励起している領域から緩やか
に磁場が減少し,イオンサイクロトロン共鳴の存在する磁場配位による波の減衰を利用し,比較的密度の低いプラズマの加熱に用いられてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
ソリトン
掲載号 72-9
208
Soliton
ソリトンは,媒質のもつ分散効果が非線形効果と釣り合って作られる安定な波動構造である.非線形性は,波の速度が振幅に依存する性質で
あり,波形の突っ立ち,つまり,高調波の励起をもたらす.一方,分散効果は速度が波数により変化する性質を表す.たとえば,非線形効果で
振幅の大きい部分が速く進む性質があるとする.突っ立ちにより生じる高い波数の高調波の速度が,低波数の波の速度より遅い分散特性があれ
ば,非線形性と分散性の競合の結果,両者が釣り合って安定な構造が実現する.それは,ひとコブの孤立した波であり,速度と幅が振幅に依存
する.孤立波を記述するK-dV方程式と呼ばれる非線形発展方程式の数値計算から,孤立波には衝突によって振幅が不変に保たれる粒子的な性質
があることが見いだされ,粒子的な孤立波(solitary wave)と言う意味をこめてsolitonと呼ばれるようになった.K-dV方程式が持つこうした特性
は,逆散乱法,広田の直接法等によって解析的に示すことができるようになり,可積分系の理論として1960年代後半から爆発的に発展した.
K-dV方程式以外には,Schrodinger方程式のポテンシャルが波の振幅の絶対値の2乗に置き変わった非線形Schrodinger方程式がよく知られてい
る.
逓減摂動法,戸田格子,広田の方法,光ソリトンの理論,イオン音波ソリトンの実験 等でわが国の研究者がソリトン研究の発展に残した足跡
は大きいものがある.
プラズマ・核融合学会用語解説
DARC
掲載号 75-12
320
DARC(DC to AC Radiation Converter)
1980年代後半から,プラズマと電磁波との相互作用でおきる電磁波の周波数上昇や電磁波の発生の研究が盛んに行われた。その中で,光速に
近い速度で伝播している電離面と電磁波の間で,電磁波の周波数上昇が起るの可能性が指摘され,その実験的検証がなされてきた.
これらの研究に引き続き、実験室系の周期静電場でさえも,伝播する電離面の座標系から見ると、電磁波と同様な相互作用を引き起こすの
で,このような静電場との相互作用によっても電磁波が発生することが指摘されはじめた.この原理は,周期静電場(直流)から直接電磁波(交流)
が発生するので,DARC ( DC to AC Radiation Converter) と名付けられた.
DARC の特徴は,発生する周波数は周期静電場の空間波長,プラズマ密度に依存し,発生するパルス幅は静電場周期の総数に依存すること,
さらに大電力が期待できることなどである.
実験では極性を交互に変えた電極を多数並べ,その電極間にレーザーを入射させる.このレーザー光はガスなどをイオン化することでプラズ
マを生成させながら高速に伝播する.この伝播電離面にのった座標でみると,周期静電場はプラズマ中の電磁波の分散関係を満たしながら,し
かも,その位相が連続した状態でプラズマに入射することになる.そのため,発生する電磁波の周波数 ω は,下式(1)で与えられる.ここ
で,ωp,vf,k0 は,それぞれ,プラズマ周波数,電離面の速度,周期静電場の波数である.電離面の速度はほぼ光速 c に等しいので,発生す
る電磁波の周波数は,プラズマ密度と波数に強く依存し,プラズマ周波数 ωp よりも大きくなる.
この現象は,以下のように考えると理解しやすい.電離面に生成されたプラズマ中では,静電場の向きに電流が誘導される.電離面の伝播に
よって次の瞬間には,逆向きの電場の領域に入るため逆方向の電流が流れる.この様子を,実験室系から見ると,電離面は交流電流が流れてい
るアンテナのように振る舞い、さらに、光速に近い速度で飛んでくるとみることができる.
式(1):320.eq
プラズマ・核融合学会用語解説
ターボ分子ポンプ
掲載号 68-4
042
Turbo-Molecular Pump
周辺に多数の傾斜したブレードをもち 250∼350 m/s の周速で回転する円板と,同じ形で傾斜が逆向きのブレードをもつ静止円環とを交互に
軸方向に20段前後組み合わせ,分子流の圧力領域で吸人圧縮作用をする高真空ポンプ.軸流圧縮域に似た形のポンプ要素をもち,Becker が1958
年に発表した時からこの名称を付けた.TMPと略記する.同じ年に Hamblanianは軸流圧縮機を高真空ポンプとする可能性について試験結果を報
告した.TMPはそれまでの溝型ドラッグポンプに比して格段に大きい排気速度をすべての種類の気体に対してもち,オイルフリーの超高真空が
容易に得られ,排気性能は履歴の影響がなく,連続運転できる.玉軸受または磁気軸受を用いた50∼5,000 l / s の製品が市場にある.へリカル
溝分子ポンプ部分をTMP要素部分と一体化して,吸入圧領域を粘性流領域まで2桁程拡げ,大流量を圧縮できる複合分子ポンプは,日本で半導
体製造装置用に開発され1985年市場に出た.5軸制御磁気軸受型の例の透視図(42.gif)を示す.
プラズマ・核融合学会用語解説
ダイナモ
掲載号 68-1
031
Dynamo
語源は誘導発電機を意味する英語であり,その由来のとおり,電流を発生して磁場を作りだす自然の機構をダイナモと呼んでいる.歴史的に
は,地磁気など,天体が有している自然発生的な磁場に関連して古くから研究されているが,決定的な理論はない.今日,核融合プラズマの分
野でもダイナモが論じられるのは,特定の磁場配位が自発的に形成・維持される現象が,逆転磁場ピンチ(RFP)による実験などで明確に示さ
れたことによっている.
原理的には,力学的運動エネルギーが,電磁誘導効果を介して電磁エネルギーに変換する機構といえる.すなわち,プラズマなどの導電性流
体が磁場を横切って運動すると,電場が誘導され,電流が発生する.この誘導を引き起こす速度場と磁場のトポロジー,運動の発生・維持の機
構などが研究テーマとなる.さらに近年では,ダイナモで発生する磁場配位が単純なトポロジーと大きな空間スケールを持つことに注目し,こ
れを構造の自己組織化と認識し,非線形力学の一般的な観点から研究が行われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
第二安定領域
掲載号 71-9
172
Second Stability Region
トロイダルプラズマにおいて,プラズマ圧力に起因するMHD(磁気流体)安定性はベータ値(プラズマ圧力/磁場圧力)が低いときには安
定であり第一安定領域にあるが,ベータ値の上昇によって不安定化し,更にベータ値が上昇すると再び安定化することがある.これを第二安定
領域と呼ぶ.トカマクプラズマにおいては,バルーニングモードや内部キンクモードに対する第二安定領域の存在が理論的に示されており,核
融合炉の高効率化の観点から多くの研究がなされてきた.バルーニングモードにおける安定化効果は,ベータ値の上昇に伴い磁気面がトーラス
の外側で密になり,バルーニングモードの局在領域で自律的に局所的な磁気シアが強くなることから生じる.不安定領域を経ずして第二安定領
域に達することが重要であり,プラズマ断面形状をそら豆型にする方法や,電流分布を平坦化しプラズマ中心の安全係数を上げる方法などが提
案され,実験的検証が試みられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
第二種超伝導体
掲載号 70-7
130
Type ⅡSuperconductor
超伝導体は電気抵抗が0になること(超伝導)と,内部の磁束密度が0になること(完全反磁性)とによって特徴づけられ,外部磁界が臨界値
を超えると常伝導状態となる.零磁界時に,常伝導状態と超伝導状態とを仮定して計算される自由エネルギーの差(gn −gs )によって熱力学的
臨界磁界(以下の式(1))が定義される.第一種超伝導体では外部磁界がHc以下なら完全反磁性の超伝導状態を示し,Hcを超えると常伝導状
態となる.一方,第二種超伝導体では,外部磁界が,下部隙界磁界Hc1(Hc1<Hc)を超えると内部への磁束の部分的な侵入(混合状態)が始
まり,上部臨界磁界Hc2(Hc2>Hc)を超えると内外の磁束密度の差はなくなり,常伝導状態となる.混合状態で電気抵抗が0でないものを理想
的第二種超伝導体,電気抵抗が0のものを非理想的(あるいは,不均質)第二種超伝導体という.非理想的第二種超伝導体は,不純物や格子欠
陥によって磁束が拘束されること(ピンニング)で電気抵抗0の特性を維持し,現在の実用化超伝導線はすべてこれに層する.
実用化超伝導線のμ0 Hc2(4.2K)はNbTiで12T程度,Nb3 Snで22T程度(Ti等の添加時は25T程度)である.実用化されつつあるNb3 Alについて
は32T程度の値が報告されている.
式(1): 130eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
耐熱衝撃特性
掲載号 70-12
144
Thermal Shock Durability
熱衝撃とは材料が極めて高い熱流束に短時間さらされることで,核融合の分野では,プラズマデイスラプション時の高熱負荷に材料がさらさ
れることをさしている場合が多い.プラズマが突然消滅するプラズマデイスラプション時には,プラズマのエネルギーが0.1ミリ秒から数ミリ秒
という短時間に第一壁表面の一部分に集中して放出される.このときの熱流架はスペースシャトルが大気圏に突入する時受ける熱流束より1桁
から数桁高くなると推定されており,材料の溶融,蒸発,破損を生じる.第一壁表面材料の熱衝撃特性の研究では材料表面の損耗や材料の破損
などについて,プラズマデイスラプション時の熱負荷を電子ビームやレーザーなどの加熱装置により,模擬して進められており,これまでに高
熱伝導率のCC材料の耐熱衝撃特性が優れていることがわかっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ダイバータ
掲載号 66-3
007
Divertor
プラズマ閉じ込め領域から外にむかって流れ出る熱流,粒子流を第一壁あるいはリミタに接触させずに閉じ込め領域境界から遠く離れた所に
導き,プラズマ運転で 問題となるプラズマと壁の相互作用の軽減を行うプラズマ制御装置をダイバータと呼ぶ. プラズマと第一壁との接触を避
けるためには,ダイバータコイル電流による磁場を用いて,閉じ込め領域がX-ポイントの有するセパラトリックスによって囲まれた磁場配位を
形成する必要がある.このような配位では,閉じ込め領域から流れ出た熱流,粒子流は,セパラトリックスに到達すると磁力線に沿って,ダイ
バータ板 (プラズマ対向物) に導かれる.ダイバータ板付近の構造は単に X-ポイントが第一壁内に存在するという簡単なものからダイバータ機
能を高めるためにバッフル板 (中性粒子遮蔽板) を用いて,閉じたダイバータ室を設けたものまで ある.ダイバータの第一の機能は不純物の制
御である.閉じ込め装置では高温プラズ マが第一壁,あるいはダイバータ板に必然的に到達するが,その際に不純物がたたき出され,主な不純
物の発生源となっている.ダイバータ板で発生した中性不純物は,ダイバータ領域の壁に吸着したり,またダイバータプラズマ内でイオン化
し,そしてダイバータ板に向かって流れているプラズマ流との摩擦力が充分強ければ,ダイバー タ板に押し流されて,閉じ込め領域への不純物
の侵入は抑制される.またダイバータ領域にポンプを設置すれば灰 (He) 除去も有効に行える.またダイバータによるリサ イクリング制御はエ
ネルギー閉じ込め改善放電 (Hモード) を容易にかつ安定に達成 するのに必要であり,ダイバータの重要な機能の1つになっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
太陽風
掲載号 68-2
035
Solar Wind
太陽の希薄な外層大気であるコロナの外縁部からは,さらに希薄な超高温の粒子が,太陽の重力を振り切って絶えず惑星間空間に流れ出して
いる.その大陽プラズマの連続的な外向きの流れが太陽風(solar wind)と呼ばれていて,電子と陽子を主成分とし他にα粒子等の重い質量の原
子核を小量含む.地球近傍における太陽風の典型的な速度は400 km/s,数密度は5/cc,温度は10万度であるが,太陽活動の変化に伴いそれら
の値はファクタ10を越えて大きく変動する.太陽風は空間的にも一様ではなく,コロナホールと呼ばれる極域の磁力線が開いた領域からは高速
流が,低緯度のニュートラルシート付近からは低速流が流れ出ている.その軌跡は,太陽からはほとんどまっすぐ外に放射されるが,太陽自体
が約27日で自転しているために回転水まき機からの放水のようになる.太陽表面から引き出された磁場を伴って太陽風は惑星間空間を駆け抜
け,地球プラズマと衝突して,地磁気活動や電離層に変動をもたらし,極域ではオーロラを輝かせる.さらに,地球軌道を越えて太陽系外部ま
で流れていき,恒星間の中性ガスやプラズマに遮られて終罵する.
プラズマ・核融合学会用語解説
太陽フレア
掲載号 75-6
305
Solar Flares
太陽大気中で発生する爆発現象のことで,太陽面爆発ともいう。典型的なサイズは,1万−10万km,継続時間は数分−数時間,全エネル
ギーは1029 - 1032 erg に達する.もっとも,エネルギーの小さいフレアほど発生数が多いので(発生頻度分布はべき型で地震と同じ),厳密に言
えば典型的なエネルギーなど存在しない.1029erg より小さな現象はマイクロフレアやナノフレアと呼ばれる.
フレアは歴史的には可視光(白色光)観測によって1859 年に発見された.今世紀初頭以来の長年にわたる光球磁場観測より,フレアのエネル
ギー源は,太陽大気中の磁場(数10 −数100 ガウス)に貯えられた磁気エネルギーであることが,ほぼ確立している.フレアが起こると,γ
線,X線からHα線,電波にいたるまで,あらゆる波長の電磁波がバースト的に放射される.電磁放射は大きく分けると熱的放射(軟X線,紫
外線,Hα線など)と非熱的放射(γ線,硬X線,マイクロ波,メートル波など)から成る.これらの観測より,フレアの本体は,コロナ中で
発生した温度数千万度,電子数密度 1010-1011 cm-3の超高温プラズマであることが判明している.一方,非熱的放射はべき型スペクトルをもつ 10
keV−1 MeV の非熱的電子,1 MeV−1 GeV の非熱的イオンが原因である.
最大規模のフレアが起こると,惑星間空間に大量の高速(100−1,000 km/s)プラズマ雲,非熱的粒子(太陽宇宙線),衝撃波が放出され,これ
らが地球に到来すると地球磁気圏で磁気嵐やオーロラが起こる.
1991年8月30日に打ち上げられた太陽X線観測衛星「ようこう」は,磁気リコネクションがフレアのエネルギー解放機構に関して中心的な役
割を果たしていることを明らかにした.
プラズマ・核融合学会用語解説
タウンゼントの条件式
掲載号 74-11
286
Townsend's Breakdown Criterion
電極間に加える電圧を上昇させていくと,あるところで発光を伴う放電が突然出現する.これを気体の絶縁破壊と呼び, Oxford大学の
Townsendはこの破壊が起こる条件を次のように定式化した.
γ{exp(αd)-1}=1
この式をタウンゼントの条件式と呼ぶ.ここで,dは電極間距離,αは電離係数と呼ばれ,一個の電子が電界方向に1cm進む間に起こす電離の平
均回数で電界の関数,γはイオン衝突による電極からの二次電子放出係数(確率)である. この式は暗流を表す式から求められる.暗流とは絶縁
破壊前に電圧印加に伴って流れる非発光電流のことであり, Townsendはこの電流iを
i=i0 /{1−γ[exp(αd)−1]}
と定式化(ここでi0 は外部からの供給電子による電流で定数)し,破壊後は電流が暗流に比べて数桁増えることから,右辺の分母が零(すなわ
ち,i= ∞)となるところを絶縁破壊条件と見なして導出した.
この条件式は次のように解釈することもできる.陰極から出た一個の電子は電極間を移動する間に電離衝突によりexpαd個に増倍し,陽極
に流れ込む.一方,電子の増加分{exp(αd)−1}に等しい数だけ生成される正イオンは陰極に進み,衝突すると二次電子としてγ{exp(αd)−
1}個の電子を陰極から放出させる.タウンゼントの条件式は,これが1に等しいということであり,これは陰極から放出された一個の電子に
よって発生したイオンの衝突により再び二次電子を一個陰極から放出することを意味する.すなわち,絶縁破壊条件とは電子を外部から供給す
ることなしに放電が自続する条件を表わすと考えることもできる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ダストプラズマ
掲載号 71-8 168
Dusty Plasma
プラズマ中の微粒子(通常サイズはμm程度以下)は,流入電流をゼロとするために(nm程度以下の微粒子については電子親和力のため
に),負に帯電しようとする性質があり,粒子輸送や波動を含む様々なプラズマ現象に影響を及ぼす.この微粒子を含むダストプラズマは,惑
星環や彗星を初めとする様々な宇宙現象に関連して,かなり以前より宇宙物理の分野において研究されている.最近になって,材料プロセスに
用いるプラズマに微粒子が発生し,薄膜の質の劣化やデバイスの歩留り低下をもたらすことが指摘され,ダストプラズマが再び大きな注目を浴
びている.微粒子を含むプラズマの身近な実現によって,結晶格子状の微粒子配列(クーロン格子)の形成や帯電微粒子の凝集成長など,プラ
ズマ物理の観点からも興味ある現象が観測され始めている.また,新しいデバイスや機能性薄膜の創製へ向けて,プラズマ中の微粒子を積極的
に利用する試みも行われており,今後は,ネガティブな印象を受けるダストプラズマよりも微粒子プラズマと呼ぶ方が適当かもしれない.
プラズマ・核融合学会用語解説
脱離
掲載号 68-6
047
Desorption
通常,吸着の逆過程,従って熱的活性化過程として把えられる場合が多いが,核融合炉のプラズマ対向材料の場合は,高いフラックスのプラ
ズマと接するため,2つの特徴を持つ.1つには,高フラックスプラズマのため水素の表面被覆率も高くなると予想され,古典的な Lennard-Jones
のモデルに依拠する議論が必ずしも適用できなくなることである.Lennard-Jones の古典的なモデルでは,化学吸着及び固溶が分子から2原子へ
の解離を介してのみ起こるとしており,したがって解離化学吸着モデルと呼べる.このモデルによると,一たび表面が水素で飽和すると,もは
やそれ以上の吸着は起こらないはずであるが,実際には,水素の透過速度や溶解度は,かなり高い圧力(P)領域までP^(-1/2) に比例して増加す
ることが観測されている.このような古典モデルの矛盾を克服するため Waelbroeckは,モデルの拡張を計り,化学吸着分子,3原子複合体とい
う2つの吸着状態を追加した.第2の特徴は,非熱的過程による脱離,即ちイオン,中性原子,電子,光子などによって誘起される脱着が加わる
ことである.これらによる脱離は,大きな速度で起こるので,不純物のプラズマ汚染上極めて重要である.電子または光衝撃脱離は,基底の結
合状態から反結合状態への電子遷移によるとか,原子間のオージェ遷移を伴うとかの機構が提唱されており,なお議論を残している.
プラズマ・核融合学会用語解説
炭素繊維強化炭素複合材(CC材)
掲載号 70-12
145
Carbon Fiber Reinfored Carbon material
身近な例では,ゴルフのカーボンシャフトや車のブレーキパッドなどに利用されており,製法を一口でいうと炭素の微粉と炭素繊維を混ぜて
焼き固めた複合材料である.特徴は機械強度に優れていることで,使用する炭素繊維の種類,炭素微粉の充填方法,焼結温度などを制御するこ
とにより様々の特性を持ったCC材料が生産されている.核融合の分野では第一壁の表面を保護するアーマ材料に炭素系材料を使用するのが主流
であり,特にCC材料はプラズマからの熱で材料中に高い熱応力が生じるダイバータ部分のアーマ材料としてよく利用されている.最近では,室
温で鋼またはそれ以上の熱伝導率を持つCC材料が開発されており,JT−60やLHDなどの大型プラズマ実験装置のダイバータ部分に利用されてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
タンデムミラー
掲載号 69-1
082
Tandem Mirror
タンデムミラーは,磁場と粒子速度のなす角度が小さくてミラー閉じ込めのできない粒子に対して,電位差による障壁を与えて,閉じ込め性
能を改善しようとする概念である.粒子の速度分布が温度 T のマックスウェル分布に近いとすると,閉じ込め電位 eφを乗り越える粒子の数は
ファクタにして exp( - eφ/T) まで減少する.つまり,元来のミラーに比べて,タンデムミラーの閉じ込め時間は,閉じ込め電位の増加に応じて
指数関数的に増大する.これがタンデムミラーの基本となるパスツコフの比例則である.
このような閉じ込め電位を形成するのにミラープラズマ自身の特性を利用する.閉じ込めを行う領域の両側にミラー磁場を置き,そこのプラ
ズマの密度と温度を加熱により制御することで必要な電位分布をつくろうとするのが基本構想である.電位により端損失を抑制する領域をブラ
グと呼ぶ.プラグ電位形成のためにミラーを連結することがタンデムの語源である.電位差はボルツマン則に従えば密度比の対数と電子温度の
積に比例するため,基本型ではプラグ部の密度を高くして電位を形成するが,熱障壁の導入により低密度でも電位形成が可能となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
断熱不変量
掲載号 71-5
158
Adiabatic Invariant
多自由度の力学系で,いくつかの異なる時間スケールが存在して,その速い時間スケールでの運動が周期的であると見なされるとき,その速
い時間スケールでの作用積分 式(1)は断熱不変量となる.強磁場中での荷電粒子の運動では,磁力線の周りの旋回運 動の磁気モーメントが
断熱不変量であることがよく知られている.
旋回運動の周期 について平均されたドリフト運動方程式によって記述されるドリフト粒子の運動を,磁力線に沿った運動と磁力線を横切って
の運動とに分けることにより,磁力線に沿っての往復運動に伴う断熱不変量として縦(Longitudina1)断熱不変量が得られ,ミラー磁場中に閉じ
込められた荷電粒子の運動の記述によく用いられる.
ヘリカルトーラスでは,ヘリカルリップルに捕捉された粒子の他に,トーラスに沿っ て周回する粒子や,トロイダルリップルに捕捉された粒
子が存在する.このため,ドリフト粒子の運動を,トロイダル方向の運動とポロイダル方向の運動とに分離することによって,リップルに捕捉
された粒子に対してばかりでなくトーラス中を自由に運動する粒子に対しても縦断熱不変量を定義することができる.このような分離が可能な
ためには磁力線の回転変換が充分小さいとの仮定が必要になるが,その結果ヘリカルトーラス中での粒子運動の描像が極めて簡単になる.
断熱不変量は仮想的な周期軌道に沿っての積分として表されるもので,運動の保存量ではない.
式(1):158eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
短パルス高強度レーザー
掲載号 72-7
201
High Intensity Short Pulse Laser
スペクトル幅の広いレーザー媒質を用いると,その周波数帯域幅の逆数で決まる短パルスのレーザー光を生成できる.近年、エネルギー蓄積
密度の大きい高帯域固体レーザー材料が開発され,パルス幅1 ps以下,ピーク出力100 TW以上の高出力・超短パルスレーザー光の生成が可能に
なった.発振器で生成した低エネルギーの超短パルスレーザー光を回折格子を用いてチャーピング(時間的な周波数変化)をかけてあらかじめ
時間幅を広げ,この長パルス光を高エネルギーに増幅した後,再び回折格子によりチャープをもとに戻し(パルス圧縮),高出力超短パルス光
とする.これをチャープパルス増幅法と呼ぶ.
集光強度が約1018 W/cm2 以上になると,光電界で駆動される電子の速度が光速に近ずき,レーザー光の相対論的自己収束,臨界密度の低下等
の相対論的効果が生じる.また,超短パルス領域では流体の運動が凍結されるため,高密度圧縮プラズマを膨張を伴わずに加熱することができ
る,等エントロピー圧縮・自己点火に代わる新しい核融合点火方式として,研究が開始されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
地球ダイナモ
掲載号 72-4 193
Geodynamo
普通の発電機(ダイナモ)では固体の金属を磁場中で動かすことにより電流を起こす.一方、磁気流体ダイナモでは,磁場中を電気伝導性流
体が流れることにより発電する.その結果,もとの磁場を強めるような電流が流れる場合,この磁場は増幅される.地球の外核(半径1,220 km
∼3,480 km)は液体の鉄でできており,地球磁場はこの外核での磁気流体ダイナモによって生成されている.これが地球ダイナモである.地球
ダイナモには大きな謎がいくつも残っている.なぜ双極子磁場ができるのか,なぜ(地質学上のデータが示すように)磁場の極性が逆転するの
か,等である.なによりも磁場増幅の詳しい物理機構が未だに解明されていない.物理学的に見ればこの問題は,回転する球殻形状の容器内部
での磁気流体の熱対流問題に他ならない.したがって回転(自転)と重力の効果を考慮に入れた磁気流体力学方程式を解けばよい.これは計算
機のシミュレーションが威力を発揮する問題の一つである.上記の問題の解決をめざした地球ダイナモの計算機シミュレーション研究が最近,
盛んにおこなわれはじめている.
プラズマ・核融合学会用語解説
中性子照射損傷
掲載号 67-6
028
Neutron Radiation Damage
中性子照射損傷は,一般に中性子の照射環境におかれる材料特性の(望ましくない)変化をさしている.この中で,主として材料の原子はじ
き出し損傷に起因した材料特性変化を,狭い意味での照射損傷と呼んでいる場合も多い.
高エネルギーの中性子は,材料中の原子をはじき出し,ミクロな構造変化と組成変化をもたらす.これに伴い,材料の物理的,機械的,化学
的性質が変化する.金属材料では材料の硬化と伸びの減少,破壊靱性値の低下,照射下クリープ変形,疲労寿命の低下,ボイドの形成によるス
エリングなどが引き起こされるとともに,耐腐食性が変化する.ミクロ組織変化およびこれらの材料特性変化は,照射条件,材料条件,環境条
件に敏感であり,中性子照射下の材料挙動はきわめて多くのパラメータ依存性を持つ.
中性子は核変換効果を持っており,(n,α)や(n,p)反応などによるへリウムと水素の生成,不純物元素の生成が問題となる.ヘリウム
は,ボイドスエリングに影響するばかりでなく,高温では結晶粒界に集合して脆化の原因となる.また中性子照射は材料を放射化し,炉のメイ
ンテナンス,廃棄物の処理・処分などの観点から,放射能を低減しうる材料の開発が急がれている.
プラズマ・核融合学会用語解説
中性粒子入射加熱装置用負イオン源
掲載号 70-6
126
Negative Ion Source
核融合実験装置の大型化および高密度領域での電流駆動の必要性から,中性粒子入射加熱(NBI)に要求される入射エネルギーは数100 keVか
ら1 MeV以上となっている.NBI装置では,イオン源により生成・引き出されたイオンビームを所定のエネルギーまで加速した後,中性化セル
を通過させることにより高速中性粒子ビームを得る.現在のNBIで用いられている正イオンビームの中性化効率は,核子あたりのエネルギーが
100 keV以上となると20 %程度以下に低下する.一方,負イオンビームの中性化効率は数100keV以上でも60 %以上(ガス中性化セル)であり,
プラズマ中性化セルや光電離を用いると80∼90 %以上にもできる.したがって,次期大型核融合実験装置では負イオンを用いたNBIが計画され
ており,効率のより負イオン源の開発が精力的に進められている.負イオン源としては正イオンビームの二重荷電交換方式,表面変換方式,表
面生成方式等が古くから研究されてきたが,ビーム発散角が小さいこと,装置が単純化されることなどにより,プラズマ中で負イオンを生成す
る体積生成(Volume production)方式が主流となっている(80年代以降).体積生成方式は,フィラメント等より放出された高エネルギー電子
(>40 eV)との衝突によりプラズマ中で振動励起された水素分子が,1 eV程度の低エネルギー・プラズマ電子との解離性付着で負イオンとなる
過程を利用する方式である.振動励起分子を生成する電子のエネルギーと負イオンを生成する電子のエネルギーが大きく異なること,および,
数 eV以上の電子による負イオン消滅反応の断面積が大きいことから,体積生成方式では,磁気フィルタと呼ばれる磁力線により,プラズマ生成
室内をドライバー領域と引き出し領域とに分離する(タンデム方式).ドライバー領域では電子温度を高く維持することで振動励起分子を効率
的に生成し,引き出し領域では電子温度を低く維持することで負イオンを効率的に生成する.最近,体積生成方式の負イオン源に微量のセシウ
ム蒸気を添加することによって負イオン出力が大幅に増加することが見出された.セシウムの導入によりプラズマ電極表面の仕事関数が低下
し,表面効果による負イオン生成が大きく寄与するようになったためと考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
直接駆動爆縮
掲載号 68別冊
049
Direct Drive Implosion
慣性核融合において,高強度のエネルギードライバー(レーザーやイオンビーム)のパルスをターゲットに注入し,球殻状の燃料ペレットを
爆発的に圧縮することを爆縮(Implosion)と呼ぶ.レーザーやイオンビームを直接燃料ペレットの球面上に一様に照射すると,表面で吸収され気
化・電離により高温のプラズマが発生する.ペレット表面では連続的に熔発(アブレーション)がおこり,アブレーション圧力と呼ばれる超高
圧(1,000万気圧∼1億気圧)が発生する.この超高圧により燃料ペレットを球対称圧縮する方法を直接駆動爆縮(direct drive implosion)と呼ぶ.
プラズマ・核融合学会用語解説
追加熱
掲載号 72-12
216
Additional Heating
プラズマに電力を注入し温度を上げることを加熱という.ある加熱が存在して,さらに,新たな加熱手法を用いて加熱する必要がある時,こ
れを追加熱と呼ぶ.トカマク,逆転磁場ピンチ等の閉じ込め装置ではプラズマ中を流れる電流がジュール熱を発生するので,先天的に加熱手段
を備えていると言える(オーミック加熱).高温プラズマではオーミック加熱は有効性を失う事が指摘され,電子サイクロトロン加熱,中性粒
子加熱,イオンサイクロトロン加熱,等の新たな追加熱手法が開発されて来た.開放端系/ヘリカル系,等の,閉じ込め装置においても,電子
サイクロトロン加熱によるプラズマ生成,イオンサイクロトロン加熱/中性粒子加熱による追加熱と機能を分離させれば,追加熱という概念を
成立させる事はできる.追加熱という言葉は核融合研究における上記の様な歴史的背景により生まれたものであり,現代の核融合研究において
は,加熱と追加熱を特別に区別する意味は減少している.
プラズマ・核融合学会用語解説
低アスペクト比トカマク
掲載号 71-4
156
Low Aspect Ratio Tokamak
トーラスを特徴付ける最も基本的な無次元量はアスペクト比(トーラスの主半径と小半径の比)である.トーラス型プラズマ閉じ込め装置の
一種であるトカマク装置ではアスペクト比を通常3∼5に設定している.これに対して最外殻磁気面のアスペクト比を1.5以下に設定し,トロイダ
ル効果を強調したトカマクが低アスペクト比トカマクである.低アスペクト比トカマクでは最外殻磁気面に近づくにつれてアスペクト比が急激
に小さくなり,強いトロイダル効果が現われる.トロイダル効果が強くなると強磁場側では磁力線はポロイダル方向にすこしづつ変位しながら
トロイダル方向に回転する螺旋を描き,弱磁場側では磁力線はトロイダル方向と大きな角をなす.この結果として,
1)全体として磁気面量である安全係数は増大する;
2)MHD的に安定な強磁場側の磁力線の長さが弱磁場側に比べて長くなる;
3)平衡を充たすプラズマ電流が,弱磁場側では大きなポロイダル成分を持つためトロイダル方向の磁場を発生しプラズマは強い常磁性を示
す;
などの特徴が現われる.低アスペクト比トカマクでは理論的にはMHD的に安定なべータ値の上限が上昇し,高ベータの達成が予想されている.
また,最外殻磁気面に近づくにつれてアスペクト比が急激に小さくなるのでプラズマ周辺部で安全係数が急激に増大し,高い磁気シアを持つ.
このことはMHD的な安定に大きく寄与することが理論的に予想されていて,英国のカラム研究所所有のSTART装置でプラズマの主崩壊を起こさ
ない安定なプラズマの生成が実験的に確かめられている.低アスペクト比トカマクは高ベータでコンパクトな核融合炉の可能性を持つ装置とし
て注目されているが,高ベータ化に不可欠な高プラズマ電流をオーミック加熱入力で得ることはインダクタンスの大きなオーミックコイルの設
置が困難なため不可能である.このため,オーミック加熱入力以外のプラズマ電流駆動法の開発が必要であると考えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ティアリングモード
掲載号 73-10
245
Tearing Mode
プラズマの比抵抗ηが零の理想的な場合に安定な配位であっても,抵抗が有限な場合はプラズマは磁力線を横切って動くことができるように
なり不安定になりうる.オームの法則ηj=E+V×Bにおいてηが小さい場合はプラズマが磁カ線を横切ろうとするとjの大きさが大きくな
り,その運動を押えようとする.ところが擾乱 f1(x)exp(jkyy + jkzz)eγt の伝播方向kが磁力線に直角な場合,すなわち(k,B)=0の有理面附近で
はjは大きくならないことが導かれる.筒単のためスラブモデルの磁場配位を考える(B0 =B0y(x)ey +B0z (x)ez).xはプラズマの径方向の座標
である.オームの法則をファラデーの式∂B/∂t+▽×B=0に代入すると以下の式(1)となるが,(k・B)=0のところではVx≠0,η→0と
してもj1z は大きくならないことを示している.したがって有限抵抗の場合(k・B)の有理面附近で不安定なモードが起こりうる.磁気シアが
ある場合有理面附近では(k・B)=Fsx/Lsとなる.(x=0を有理面にとる).B1x,Vxは(1)式の外にMHD運動方程式を満たす.これらの式
から,B1x(x) はx=0附近でxに関して偶関数,Vx(x) は奇関数となる.したがってB1x(x),Vx(x) は図1(245.gif)のようになる.このようなモード
が成長すると磁気島が成長し,プラズマを引きちぎるようになるので Tearing Mode といわれている.この不安定化条件は式(2)であり,kLs
≪1で不安定になりやすい.このモードの成長時間はアルヴェン通過時間と抵抗拡散時間の重みをかけた幾何学的平均時間であり,キンクモー
ドのような理想的(η=0)MHD不安定性の成長時間(アルヴェン通過時間)より,ゆっくりしている.
この理論は Finth,Killen,Rosenbluth が1963年シートピンチプラズマ対象として発表されたが,トカマクの有理面に現れるinternal disruption あ
るいは major disruption 等の解析の基盤となっている.
式(1):245aeq.gif
式(2):245beq.gif
図:245.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
TAE
掲載号 73-6
235
Toroidicity-Induced Alfven Eigenmode
トロイダル効果によって現れるアルヴェン波固有モードのこと.磁化プラズマ中のねじれアルヴェン波は,アルヴェン共鳴近傍でのみ伝播で
きるが,アルヴェン共鳴自体は波を強く減衰させる.そのため,多くの場合,ねじれアルヴェン波の減衰率は大きく,固有モードは励起されに
くい.しかしながら,トロイダルプラズマでは,トロイダル効果によってポロイダルモード間の結合が生じ,アルヴェン共鳴が起こらない周波
数ギャップが現れる.このギャップの中に周波数をもつ固有モードは,アルヴェン共鳴による吸収を受けないので,減衰が弱く,容易に励起さ
れ得る.これが TAE である.
磁力線方向にアルヴェン速度程度で運動する高速粒子は波と相互作用し,ドリフト運動と結合して TAE を不安定化することができる.また,
それに伴って高速粒子自身の拡散・損失も増大する.実際に中性粒子ビーム入射加熱やイオンサイクロトロン波加熱に伴って,固有モードの励
起,粒子損失の増大が観測されている.核融合反応によって生成されるα粒子が TAE を励起して,α粒子の損失を増大させる可能性があり,安
定条件および損失率の評価が進められている.
プラズマ・核融合学会用語解説
dpa
掲載号 67-6
029
Displacement Per Atom
照射量のスケーリングパラメータとしては,古くはnvt,さらに1 MeV以上の高速中性子フルエンスなどが用いられてきた.dpaは材料1原子あ
たりのはじき出し総数(displalcement per atom)で粒子照射量を表そうという考えで,1970年頃から使われ始めた.フラックスφの照射粒子に
よって固体中で原子の一次はじき出しが起こる断面積をσp,一次はじき出し原子(PKA)の規格化されたエネルギースペクトルをW(E,
EP),エネルギーEP の一次はじき出しから連鎖的にできるはじき出し数をν(EP)とすると,dpaは以下の式(1)と表せる.ν(EP)をはじき出
し損傷関数と呼び,LSS理論から電子的エネルギー損失の寄与をとり入れたNRTモデルが多く用いられている.
dpaを用いることによって,中性子ばかりでなく,重イオンや電子線などの異なる粒子の照射量を同一の基準で扱うことができる.しかしdpa
は,残存する欠陥量を示しているわけではなく,材料の照射効果を表現するパラメータとしては制約が大きい.
なお,核融合炉の 14 MeV 中性子の壁面負荷1 MWy/m2 は,ステンレス鋼では約10 dpaに相当している.
式(1):0029eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
D-He3 核融合
掲載号 75-3
298
D-He3 Fusion
重水素 (D) - ヘリウム3(3 He) 核融合反応:
D + 3 He → 4 He ( 3.67 MeV) + p (14.68 MeV)
は D-T 燃料以外の核融合であるアドヴァンスド燃料核融合の一つである.D-T核融合で問題となっている中性子は主反応からは発生しないが副
反応の D-D反応や D-D 反応で発生した Tとの D-T 反応によって発生する.しかし,その量は自己点火状態で D-T 核融合の 1/10 以下と非常に少な
く,安全性,環境保全性の観点から次世代の核融合と期待されている.しかしこの核融合反応を維持させるためには閉じ込めパラメータ (粒子
密度×閉じ込め時間) が約1021 sec/m3 で約100 keV (10億度) のプラズマ温度が必要となる.磁場によるプラズマ閉じ込めにおいて,このような高
温プラズマでは電子のシンクロトロン輻射損失 (温度の自乗,1-β / βに比例:β=プラズマ圧力 / 磁場圧力) が膨大となるために炉として成立
するためには高ベータプラズマ配位(磁場反転配位,球状トーラス等の20%以上のβ値) が要請される.さらに,この核融合の利点は核融合出
力のおよそ2/3を荷電粒子が担っておりその運動エネルギーを直接電気エネルギーに高効率で変換でき経済的な炉が可能となる.その変換効率は
熱・電気変換の40%に比べて高い60%以上が期待されている.この直接エネルギー変換のためには荷電粒子を外部に引き出すためにプラズマ周
囲が開いた磁力線で囲まれた配位が必要となる.燃料の重水素は海水中に存在するが,ヘリウム3は地球上に極くわずかしか存在しない(3 He /
4
He = 1.4×10-4 が月表面に少なくとも100万トンの経済的に採掘可能なヘリウム3が埋蔵されていることがわかっている.これは21世紀中頃の全
世界のエネルギー需要を約 500年間まかなえる量に相当する.
プラズマ・核融合学会用語解説
低エントロピー圧縮
掲載号 68別冊
059
Low Entroopy Compression
慣性核融合において高いターゲット利得を達成するためには,燃料を効率よく高密度に圧縮することが必要不可欠である.したがって燃料は
できるだけ低い温度(低エントロピー)を保ちつつ加速・圧縮されなければならない.このような圧縮過程を実現するための駆動力となるレー
ザーの波形は,高精度に調整(波形整形)される必要がある.この波形整形されたレーザーパルスはテーラードパルスとも呼ばれる.その基本
的特長は,レーザー出力が最初は極めて低く抑えられ,時間と共に急激に増大するというものである.テーラードパルスに対する代表的な理論
として Kidder 解がある.この理論では球殻状の燃料が時間と共に自己相似的に圧縮するものと仮定し,低エントロピー圧縮を実現する解として
時間tに対する外側のプラズマ圧力pに対して,p∝[1−(t/tc)2 ]-5/2 を導出している.(tcは燃料の中心到達時刻).テーラードパルスの場
合、初期段階でのパルスの波形は衝撃波による先行加熱およびその後の爆縮過程におけるレイリー・テイラー不安定性の成長を決定するため特
に重要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ディスラプション
掲載号 66-2
004
Disruption
プラズマを閉じ込めるために大電流を必要とするトカマクプラズマにおいて顕著に現れる現象である.ディスラプション現象は,まず,プラ
ズマ中心部の熱エネルギーが急激にリミタやダイバータ板等の第一壁に向かって放出され, ついで,プラズマの主円周方向に印加されている一
周電圧に数10 Vあるいは100 Vを越える負荷電圧スパイクが生ずるとともにプラズマ電流が急激に消滅する.電流減少率 として,1msあたり数100
kAという激しい場合も観測されている.この現象の第一段階を,熱的ディスラプション (thermal disyuption) ,第二段階を電流ディスラプション
(current disruption)と区別して呼ぶこともある.ディスラプションに伴いプラズマの持っていた膨大な磁気エネルギーが開放され,これが第一壁
等の各種構造体中で熱エネルギーとして消費されることになり,第一壁の寿命にかかわる重大な問題となっている.ディスラプションの発生は
プラズマの電流分布に強く依存しており, 小円周方向のモード数が2で主円周方向のモード数が1の磁力線と共鳴するような抵抗性テアリング
モードによって引き起こされていると考えられる.したがって,電流分布に影響を与えるような不純物流入の抑制や電流分布の直接的な抑制に
よってその発生をかなり制御できるようになってきている.
プラズマ・核融合学会用語解説
低Z材料
掲載号 71-6
161
Low Z Materials
プラズマに対向し,プラズマと相互作用する固体壁面にはこれまでに種々の材料が使用されてきた.その中で原子番号"Z"の低い材料である
炭素,ほう素,ベリリウム ,リチウムを総称して"低Z材料"と呼んでいる.低Z材料は1980年台はじめの頃から トカマク装置のリミタ,ダイ
バータ板に使われはじめた.その主な理由は,壁材料が不純物としてプラズマ中に混入した場合に,原子番号の低い材料ほど線放射によって引
き起こされるエネルギー損失が小さいことにある.最初は黒鉛 材が主として用いられたが,酸素不純物と水素リサイクリングの抑 制が容易な
ベリリウム,ほう素,リチウムが現在注目されている.また,ダイバータ板については,能動的な冷却が今後必要になることから,熱伝導率の
良い低Z複合材料や,水冷管と低Z材の接合材料の開発に現在カが注がれている.
プラズマ・核融合学会用語解説
低放射化材料
掲載号 71-9
171
Reduced and/or Low Activation Materials
中性子照射場で使用される材料はすべて放射化してしまうが,その放射能の減衰挙動は材料に強く依存する.低放射化材料は,この誘導放射
能が使用後速やかに減衰するような元素から構成される材料と定義される.この概念は,原子炉システムの維持管理,安全性,廃棄物処理の観
点から生じたものである.その基準は,例えば,維持管理及び安全性の点からは,炉停止後数日のうちに人が近づけるレベルまで線量率が減衰
することが,また廃棄物処理の観点からは,炉停止から100年以内に浅地処分が可能な放射能レベルまで減衰することである.これらの定量的
な値または考え方は各国の放射線管理基準に依存する.具体的な材料としては,放射能レベルが数日間で10桁以上減衰する SiC/SiC 複合材料
等のセラミックス材料が理想的である.現実には材料技術の成熟度からバナジウム合金やフェライト鋼が候補材になっている.しかしこれらの
金属材料は,その放射能が十分に小さくなるには数年から数十年を要することから,主として廃棄物処理の観点からの低放射化材料である.
プラズマ・核融合学会用語解説
デバイ長
掲載号 66-1
001
Debye length
プラズマ中に点電荷 qを置くと,そのまわりにはクーロン場 q/r (rは点電荷からの距離)よりもずっと作用する距 離が短いq/r exp(-r/1)の形の静
電ポテンシャルができる.ここで,lはプラズマの温度(T),粒子密度(n)から算出される(T/n)1/2に比例する特性的な長さで,電解質溶液の理論で
初めてこの量を導入し た人の名前にちなんでデバイ長 (Debye length) という.プラズマ中に置かれた点電荷は,自分の作る電場で電子やイオン
を引きつけたり反発したりして,周りに自分の電場を打ち消すような局所的電荷分布を作ろうとする.しかし,電子やイオンは熱運動をしてい
るので,一様な空間分布になろうとする.この2つの作用の釣合いから電 荷の空間分布が決まり,上記の形の静電ポテンシャル場ができる.デ
バイ長はいわば 静電場の作用と熱運動の作用とが釣り合う特性的な距離である.プラズマ内に静電場を 作るような作用が及ぶと,すぐに上の
機構でその作用を部分的に消すような電荷分布が生じる.こうして,プラズマ中で局所的な静電場ができる現象,たとえば,プラズマ振動やプ
ラズマと壁との境界のシースなどの話には,いつでもその特徴的な長さとしてデバイ長が現れる.
プラズマ・核融合学会用語解説
電気二重層
掲載号 72-9
207
Electric Double Layer
一般的には,二つの相等しく反対符号に荷電された平行な空間電荷層間にサンドイッチされた電場のことを指すが,特にプラズマ中で局所的
に電荷準中性条件が破れて形成される電場のことを“プラズマ電気二重層(略称DL)”と呼ぶ.この場合,プラズマ中にはその温度相当程度ま
たはより大きい静電位ジャンプが存在し,DL内の電場は隣接した両外側の電場よりはるかに大きい.また,電荷中性条件からの相対的ずれはイ
オンに対する電子の質量比(me/mi)程度以上であり,DLの厚さはデバイ長の50倍程度である.DLの高電位側には捕捉電子と低電位側に加速
されて流れ込む自由イオンが,低電位側には捕捉イオンと高電位側に加速される自由電子が存在し,これら4種類の荷電粒子群により理論的に
は一次元の定常解(BGK解)を作り得る.DL内では正負の電荷総量は零であるので,層を貫く電子流束に対するイオン流束の比は(me/mi)1/2
となる(ラングミュア条件).また,DLを維持するための臨界電流密度が存在し,電子の熱速度以上のドリフト速度が要請される(ボーム条
件).DLはオーロラ帯上空の磁気圏下部の高エネルギー粒子発生機構の一つとして注目されてきた.
プラズマ・核融合学会用語解説
電子移動過程
掲載号 73-3
224
Electron Transfer Process
正イオンと中性あるいは負イオンないし正イオンの衝突の際,電子の一部および全部が移動する現象で,中性原子の場合,A^(q+)+B→A(q-1)+
+Bi+と表せる。荷電変換,荷電交換など,いろいろな名称があり混乱しているが,一番正しく現象を表現しているのは,しばしば用いられてい
る電子交換(electron exchange)ではなく電子移動(electron transfer)という言葉だろう.量子力学の初期から多くの研究が行われ,今でも,
(もっとも簡単なH++H→H0 +H+の電子移動を含めて),毎年数10篇の論文が書かれている.
電子移動の機構は,一般には電子雲の重なりにより,つまり,衝突エネルギー(粒子間の相対エネルギー)によって大きく異なる.低エネル
ギーでは,準分子形成によるので非常に大きな断面積をもつが,高エネルギーでは,この重なりが小さくなり,電子が移動する確率は非常に小
さくなる.
現在,この過程は次のような理由で核融合研究で注目を浴びている.中性粒子(多くの場合,水素,ヘリウム原子)をプラズマ中に打ち込む
と,不純物イオンとの衝突で電子移動Aq+ +H→A(q-1)+ (nl)+H+過程がおこる.電子移動に基づく分光法はこうして形成された不純物イオンから
の光(nl→n'l')を観測して,ドップラー拡がり・移動を計測することにより,プラズマ中のイオンの密度およびその温度の時間的・空間的分
布,ないしはプラズマ回転などを知る上での最良の手法を提供している.
プラズマ・核融合学会用語解説
電子エネルギー分布関数
掲載号 74-4
264
Electron Energy Distribution Function
プラズマ中の電子エネルギー分布関数(Electron Energy Distributiuon Function 通常略して,EEDFという)を一言で記述すれば"プラズマ中の
等方的運動をしている電子の速度を運動エネルギーで表したときの度数分布"となる.
プラズマ中の電子エネルギー分布関数は,プラズマの生成および維持機構の解明や中性ガスの励起,分解,化学反応等の非弾性衛突の種類や
反応速度を決定する上で必要不可欠なパラメータである.中性ガスと電子間の弾性および非弾性衝突の断面積は,電子のエネルギーεに依存し
ており,例えば,推定したい反応速度(衝突頻度)Kとし,その衝突断面積をσ(ε),ガス密度をN, EEDFをF(E)とそれぞれ置くと以下の式(1)よ
りKを推定できる.
低温低圧プラズマ中の電子エネルギー分布関数は,ラングミュアプローブを用いて測定される.測定原理はドリュベステイン等により確立さ
れ,プローブに収集された電子電流のプローブバイアス電圧に対する二次微分を検出して行われる.電子密度が1011-1012(cm-3)を越える高密度プ
ラズマ中では,電子-電子間,電子-イオン間のクーロン衝突によるエネルギー緩和のため電子エネルギー分布関数はマックスウェル分布を形成
する.一方,反応性プラズマでは,分子性ガスまたはその混合ガスが用いられ,各種非弾性衝突のため電子エネルギー分布関数のマックスウェ
ル分布仮定は妥当でなくなり,非マックスウェル分布を形成する.また,電子エネルギー分布関数は,プラズマチャンバの形状および寸法やガ
ス圧力に依存する.
式(1):264eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
電子・陽電子プラズマ
掲載号 72-10
211
Electron-Positron Plasma,Pair Plasma(Ambiplasma)
電子と陽電子が混合して静電的に中性になっているプラズマを指す.英語ではいろいろの呼び方がある.そのままで electron-positron plasma,
電子と陽電子が質量が同じ(まだ厳密には実証はされてはいないが)で電荷だけが逆の場合だから,両者対になっているとみて,pair plasma と
も呼ばれる.歴史をさかのぼれば,Alfven が常物質と反物質の混合プラズマを ambiplasma と名付けている.この最も単純なものが電子と陽電子
の組み合わせである電子−陽電子プラズマとなる.
まわりに常物質ガス分子がない場合,電子と陽電子の対消滅は2光子消滅が主となり,密度n=ne+=ne- [cm-3]の電子−陽電子プラズマが消滅
する時定数は,その温度(エネルギー)によらず,1014/n[s]であるので,n=1014[cm-3]程度のプラズマでは1秒間程度その状態が持続す
る.しかし,ガス分子や原子があるときは,陽電子はそれらの最外郭電子とポジトロニュウム:Ps を形成しやすく,一旦 Ps ができると10-7
[s]程度の時間で消滅する.
実験室で,電子−陽電子プラズマを平衡状態に保持した例はまだないが,陽電子プラズマに電子ビームを入射して両者を混合した実験例はあ
る.一方,宇宙では,ブラックホール降着円盤,宇宙ジェット等で電子−陽電子プラズマや光子−電子−陽電子3体混合状態があると,消滅γ
線の観測から推定されている.質量が同一であることから粒子シミュレーションが容易であるので,この方面の研究が盛んである.
プラズマ・核融合学会用語解説
電子ルート,
イオンルート
掲載号 72-6
197
Electron Root, Ion Root
電子ルートあるいはイオンルートは非軸対称トロイダルプラズマにおける径電場を新古典輸送理論に基づき決定する際に用いられる.しか
し,トカマクの閉じ込め理論ではまったく用いられないので,狭い分野の用語という印象がある.非軸対称トーラス(バンピートーラスやステ
ラレータ)における電子およびイオンの新古典粒子束ΓeおよびΓiは,径電場Erに強く依存し,しかも両極性条件Γe=Γiによりその大きさが決
まる.Γe=Γiよりある磁気面でErを決定しようとすれば,衝突周波数に依存して,根の数が変わる.Er<0で|Er/T'|∼1(T' は温度勾配)
の領域に1根がある場合と,Er>0で|Er/T'|≧(3−4)の領域に1根がある場合が両極端として現れる.ここで,Er<0の場合には,イオン
の拡散が主になるのでイオンルートと呼ばれ,Er>0の場合には,電子の拡散が主になるので電子ルートと呼ばれる.場合によっては,Erが3根
になる.このとき,中間の解は不安定であり,残りのイオンルートに相当する解と電子ルートに相当する解は安定である.この結果からステラ
レータプラズマでは径電場は径方向にEr<0からEr>0に分岐し,径電場の勾配が増大する閉じ込めのよい状態が得られる可能性が指摘されてい
る.
参考文献:D. E. Hastings et al., Nucl. Fusion 25, 445(1985).
プラズマ・核融合学会用語解説
電離真空計
掲載号 69-11
108
Ionization Gauge
気体中で生成された電離イオンによる電流を測定して圧力を間接的に求める真空計である.イオン電流は広い圧力範囲で正確に測れるので動
作範囲も広く,圧力−電流の比例性にも優れている.通常気体の電離に電子を利用し,陰極の方式により冷陰極電離真空計と熟陰極電離真空計
に大別される.信頼性が高く多く使用されているのは後者で,高真空で主に使用される三極管型電離真空計,超高真空測定用のベアードアル
パート真空計(B−Aゲージ),中真空用のシュルツ真空計などがある.いずれも,陰極(フィラメント),陽極(グリッド),イオンコレクタ
の3電極をもつ.イオン電流 Ic は電子電流(エミッション電流)Ie と圧力 P に比例する.
Ic = K・Ie・P
比例係数 K は電離真空計の感度係数で,国家標準器で値付けした副標準電離真空計(VS-1)との比較校正法で求めている.Kは窒素に対する値
を与えることになっているので(JIS Z8750),他の気体では比感度を用いて感度補正をする必要がある.未補正の値は窒素相当圧または窒素換
算値と呼ばれている.使用可能な圧力範囲は,低い方は軟X線効果などで,高い方は Kや Ie を一定値に保てなくなるために制限される.感度の
較正時と異なる温度で使用するときは温度補正が必要である(JIS Z8752).
プラズマ・核融合学会用語解説
電流駆動
掲載号 70-5
124
Current Drive
広義にはプラズマ中に電流を流すことをいうが,通例は特に変流器を用いずに行う非誘導電流駆動のことを指す.非誘導電流駆動はトカマク
の定常化,プラズマ電流分布の能動的制御にとって重要である.電流駆動を行うためにはプラズマ中での散逸に抗して非対称な荷電粒子の流れ
を維持しなければならない.最も直接的な方法は,高速の中性粒子ビームを−方向に入射して運動量を供給することである.また進行する電磁
波により粒子を加速する方法もある.低域混成波電流躯動では,波の位相速度と同じ速度で進む電子が,波の電場を感じて加速される(ランダ
ウ減衰).速波電流駆動ではランダウ減衰の他,変動磁場の蠕動によっても電子が加速される(走行時間磁気ポンプ).以上とは異なり外部か
ら運動量を注入せず,非対称な荷電粒子の流れを維持することも可能である.たとえば電子サイクロトロン電流駆動では,ー方に進む電子の旋
回運郵エネルギーを上昇させ,逆方向に進む電子と比べて減速しにくくすることにより正味の電流を得ている.同様の機構は少数イオンを用い
た速波電流駆動にも存在する.また低い周波数の波を用いた例では,円偏波したアルヴェン波によるヘリシティ注入電流駆動等がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
等圧モデル
掲載号 68別冊
053
Iso-baric Model
等圧モデルは,Meyer-ter-Vehn により考案された慣性核融合のターゲット利得を評価するための簡単な理論モデルであり,物理的本質を把握
する上でも非常に有用である.このモデルでは,最大圧縮時の燃料構造を考えている.燃料全体は,中心の高温低密度領域とそれを取り巻く低
温高密度領域のそれぞれ一様な二領域に分割され,双方とも共通の圧力の下で静止状態に達しているものとする.中心の高温領域(スパーク)
での点火およびアルファ粒子による自己加熱を保証するための必要条件は,スパークの温度 Ts≒5keV,面密度 ρsRs ≒ 0.3g/cm2 である.以
上の仮定と共に,次の3つの独立変数により系は完全に決定される.
1)結合効率ηc =(点火時の燃料エネルギー)/(全投入エネルギー)
2)燃料全体に共通な圧力 p
3)エントロピーパラメータ α=p/pdeg(pdeg:縮退電子圧力)
ここで重要なのは,独立変数の個数が3個ということである.換言すると何を変数にとるかは爆縮様式に依存するので,利得曲線は若干ではあ
るが異なったものとなる.
プラズマ・核融合学会用語解説
動重力
掲載号 70-8
134
Ponderomotive Force
不均一静電場中の誘電体には巨視的力が働く.この力のように,荷電粒子系に加えられた電磁気力の巨視的和をPonderomotive Forceといい,
動重力はそれに対する訳語である[1].この観点から電磁流体に作用するJ×BをPonderomotive Forceと称することもあるが,通常,プラズマ物
理学の分野では動重力(Ponderomotive Force)は高周波電磁場がプラズマに作用するカを高周波の時間スケールで平均化したもの(平均力F)
を意味する.高強度の高周波電磁場あるいはレーザー光がプラズマに印加されたときの非線形現象の振舞いに動重力は重要な役割を果たす.大
振幅プラズマ振動の自己捕捉,プラズマ中を伝播する高電力電磁波ビームの自己収束等を引き起こし[2],開放端系プラズマの高周波封じ込
め等に利用される.
高周波電磁場が荷電粒子に及ぼす平均カF(=動重力)は平均法を使って計算でき,ポテンシャルカとなることが証明できる.(以下の式
(1)参照)
ここでq,Mは粒子の電荷と質量を表しb(=B0 (x)|B0 (x)|)は静磁場B0 (x)で定義される単位ベクトル,ωcはサイクロトロン振動数を表す.
Eは高周波電磁場の電場成分,ωはそれの振動数である.<(……)>は時間平均を示す.ψは動重力ポテンシャル(ponderomotive potential)と呼ば
れる.
[1]ランダウ・リフシッツ電磁気学:(井上健男,安河内 昂,佐々木健訳,東京図書,1962))p84.
[2]一丸節夫:プラズマ物理(産業図書,1981)p194.
式(1):134 eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
逃走電子
掲載号 73-4
228
Runaway Electorons
環状プラズマ中においてトロイダル電場が存在するとき、電子の平均流速は電場による加速力と平均的摩擦力との釣り合いから決定される.
一般に,イオンとのクーロン衝突による平均的摩擦力は電子熱速度の3乗に反比例して減少する.一方、高速の電子が受ける摩擦力も速度の2乗
に反比例して減少するので,摩擦力が電場による加速力よりも小さな場合,高速電子は系から損失するまで加速され続けることになる.このよ
うな高速電子を逃走電子と呼ぶ.トカマクプラズマ中では電場が小さくても(<0.1 V/m)磁力線に沿った運動する粒子の閉じ込めは一般的に
よいので,逃走電子のエネルギーは容易にMeV 領域に達する.電子密度が高い時は,逃走電子は正規型速度分布のテール部分からのみ発生する
のでその密度比は非常に小さく,全電流に占める逃走電流の割合も小さい.しかし,電子密度が低下するにしたがって逃走電子の割合は高くな
る.特に,トカマクの電流立ち上げ時やディスラプション時のように大きなトロイダル電場が生じる場合には,逃走電子の割合が急速に増加し
てほぼ全電流を担う場合もある.これらの逃走電子はトカマク等の閉じ込め容器壁に突入して硬X線の発生や壁の損傷をもたらすので,工学的
に問題となる.外部磁場に揺動を印加して高速電子の閉じ込め時間を短くすることにより,逃走電子を抑制できることが実験的に示されてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
トカマク
掲載号 70-4
121
Tokamak
軸対称の環状(トロイダル)磁場閉じ込め方式の一種で,強いトロイダル磁場中にトロイダル電流(プラズマ電流)を誘起しそれが作る磁場
との合成で閉じた磁気面を形成し高温プラズマを閉じ込める核融合装置の呼称である.プラズマ電流は電磁誘導法あるいは高エネルギーイオ
ン,高周波により駆動される.トロイダル磁場はトロイダル磁場コイルで形成され,プラズマの位置・形状を制御するためのポロイダル磁場コ
イルも備えている.高温プラズマは高真空容器内に生成し,その境界はリミタ材もしくはダイバータ配位による磁気リミタによって決められ
る.トカマク型閉じ込め方式は現在最も進んだ閉じ込め方式として研究開発が進められており,自己点火核燃焼試験を行う実験炉もトカマク方
式で設計が進められている.
プラズマ・核融合学会用語解説
閉じ込め改善モード
掲載号 72-11
214
Improved Confinement Mode
初期の磁場閉じ込め研究では,プラズマのエネルギー閉じ込め時間はプラズマ形状,磁場強度とその構造(回転変換角),平均電子密度,加
熱入力,等でほぼ一意的に決まり,閉じ込め時間はいわゆるスケーリング則と呼ばれる数式で記述できるとされていた.ところが1982年にプラ
ズマの蓄積エネルギーが突然大きくなる現象(Hモード遷移)が発見され,そのプラズマの閉じ込め時間はスケーリング則(正確にはLモードス
ケーリング則)を大きく上回っていることが明らかになった.Hモードに限らず,放電中に閉じ込め時間がLモードスケーリング則(または各
装置のスケーリング則)の予想値から外れて,有意に大きな値を準安定に持ち続けるプラズマの放電または状態を「閉じ込め改善モード」とい
う.これに対して,Lモードスケーリング則に従うものをLモードプラズマという.現在までに数多くの閉じ込め改善モードがトカマクを始めそ
の他の閉じ込め装置で発見され,その輸送係数(拡散,粘性,熱伝導係数)がLモードプラズマの輸送係数より小さいことが確認されている.
この輸送係数の減少の原因は,プラズマの圧力(または流れの)勾配が作り出した磁場や電場のシアの変化であると考えられている.プラズマ
の密度,速度,温度分布が輸送係数を変化させ,その輸送係数の変化がプラズマの分布を変化させるため,この現象は一般的に非線形な遷移を
伴う.閉じ込め改善モードの発見は閉じ込めのよい装置を作るという装置の研究から,閉じ込めのよいプラズマ分布を作るというプラズマ輸送
の研究への進展を促したという点において,核融合研究の中で非常に大きな意義を持つ.
プラズマ・核融合学会用語解説
ドップラー拡がり
掲載号 74-8
277
Doppler Broadening
観測者に対して相対速度 v で移動する物体が発する波動の波長が静止時の波長λからλ(1±v/c)だけ変化する現象はドップラー効果(Doppler
effect)としてよく知られている.プラズマを構成する原子,分子,イオンの熱運動の結果,それらが放射する電磁波がドップラー効果のため静
止波長を中心にして広がりを持つが,それをドップラー広がりという.それは電磁波を発する原子,分子,イオン(これを発光粒子と呼ぶ)の
熱運動を反映するもので,スペクトル形状はガウス分布になり,その幅の測定値から温度を求めることができる.
一般に,発光粒子のスペクトル幅は種々のものの合成で決まる.代表的なものは,ドップラー広がり以外に,緩和による幅(発光粒子の上位
エネルギー準位の寿命をτとすると1/2πτのローレンツ幅となる.自然放出の自然幅,圧力が高い場合の圧力幅がある),シュタルク幅(電界
中の発光粒子が受けるエネルギー準位の分裂やシフトの結果生ずる),ゼーマン幅(磁界中の発光粒子が受けるエネルギー準位の分離の結果生
ずる)がある.さらに観測装置の分解能により決まる装置幅がこれら発光粒子のスペクトル広がりと比して無視できないときは,それも広がり
に寄与する.高温プラズマからの放射スペクトルはドップラー広がりと装置幅が支配的なことが多い.
ドップラー効果は発光現象のみではなく,電磁波の散乱や吸収でも現われる.よく知られているのは,レーザーのプラズマからのトムソン散
乱計測において,ドップラー広がりから電子やイオンの温度を求める方法である.
プラズマ・核融合学会用語解説
トモグラフィ
掲載号 74-2
259
Tomography
広くは断層撮像を意味するが,特に,像の線積分値(ときには面積分値)である投影から計算によって像を再構成するのを計算機トモグラ
フィ(computerizedまたはcomputed tomography, 略してCT)という.CTは数学的には逆ラドン変換として定式化される.
医用CTが有名であるが,逆ラドン変換について言うと実はその最初の成功が'50年代に電波望遠鏡による太陽撮像においてなされ,また,医
用CTがようやく実用化された'70年代前半には太陽コロナの三次元CTがなされたことを,科学史として強調しなくてはならない.
実験室プラズマのCTも'60年代から基礎研究がなされたが,プラズマのダイナミックスを撮像できるほど高速なCTは'80年頃になって実現し
た.特に,トロイダルプラズマの閉じ込め性能を支配するMHD振動について軟X線の放射型CTが著しい成功をおさめ,また,レーザ爆縮プラズ
マの様子を画像化する超高速の三次元CTが実現した.核融合研究がらみの先端的な技術開発のひとつである.今日ではJETにおける中性子放射
強度分布の撮像をはじめとして,制御核融合をめざす大型装置において欠かせない計測法になった観がある.
なお,逆ラドン変換を必要としない,電子サイクロトロン放射を利用した電子温度分布の断層撮像法もある.また,最近の話題として電離
層・オーロラのCTがあり,その進展が注目される.
プラズマ・核融合学会用語解説
トリチウム計量管理
掲載号 71-10
173
Tritiun Accountancy
ある場所にトリチウムがどれだけ存在するかを直接的,間接的に測定評価し,トリチウム(量)の管理に反映させること.核融合炉やトリチ
ウム取り扱い施設におけるトリチウムインベントリの正確な評価は,トリチウム安全性,および核拡散上の規制物質としての性格も有するトリ
チウムの管理の2点において重要となる.前者の観点では,事故時のトリチウム放出につながる潜在的ソースタームとして考えられるばかりで
はなく,サイトや施設,機器等においてトリチウム量の制限値が存在するような場合に,その評価は重要である.後者は,今後,より大量のト
リチウム取り扱いを行う場合に,より重要性が増すものである.現在トリチウムはウランやプルトニウムのように保障措置の対象となっていな
いが,将来はなんらかの規制対象になることが十分に予想される.
トリチウム計量の方法としては,PVT法,カロリーメータ法,放射能測定法,濃度測定法,脱着法などがある.配管表面に付着したトリチウ
ムや,内部に溶解したトリチウム量をいかに正確に測定するかが今後の課題となる.また,計量管理においては,マスバランスエリアの取り方
と,計量誤差の評価が大切であり,そのための統計的取り扱い法の開発も望まれる.
プラズマ・核融合学会用語解説
トリチウム除去設備
掲載号 73別冊
321
Tritium Removal System
トリチウムは多重格納の概念に基づいて,安全に取り扱われる.その格納系内にトリチウムが透過・漏洩した場合には,速やかに検出し,格
納系を隔離し,トリチウム汚染区域のガスを閉ループで循環処理(格納系は負圧維持)し,トリチウムを除去する.このような設備をトリチウ
ム除去設備という.一般的に多くのトリチウム取り扱い施設で使用されているのは,貴金属(Pt,Rh等)触媒によりトリチウムを酸化,トリチ
ウム水を吸着剤(モレキュラシーブ)で捕集するものである.
プラズマ・核融合学会用語解説
トリチウム取り扱い
掲載号 70-2
116
Tritium Handling
トリチウムは常温常庄で気体,かつ材料を透過しやすい水素の放射性同位体である.D-T核融合炉では一日あたり数十kg(数億キュリー,1
キュリー = 3.7 × 1010Bq)のトリチウムが取り扱われる.したがって,その安全取り扱い技術の確立が核融合炉開発の必要不可欠の条件であ
る.炉システム内でトリチウムは様々な化学形,濃度および状態(プラズマ,気体,液体,或は固体)で分散する.このような状況下で核融合
炉を定常運転するためには,その生産はもとより貯蔵,供給,濃縮/分離,回収などが安全かつ容易に行えなければならない.そのためには,
計測/モニタリング,除去/除染,廃棄物処理技術の確立並びに材料相互作用等に関するデータベースの構築も不可欠である.「トリチウム取
り扱い」とはこのような生産,使用,回収,廃薬物処理および環境保全に至るまでの一連の作業をさす.
核融合炉でのトリチウムの取り扱いは,その量および濃度のみならずシステムの規模および複雑さなどにおいて従来の一般利用をはるかに越
えるものであり,当然社会的監視も厳しくなる.したがって,従来技術の改良・改善とともにイノベーションをはかり,社会に受容され得る信
頼性並びに経済性を有する技術の開発と学問体系の確立が求められる.
プラズマ・核融合学会用語解説
トリチウム分析法
掲載号 71-10
174
Methods of Tritium Measurement
測定の目的,トリチウムの濃度およびその物理的・化学的状態等によって適用できる分析・測定法は異なる.ここでは特に,無担体に近い高
濃度域の元素状トリチウムを対象とした主な分析・測定法を示す.元素状トリチウムを含む混合気体の組成分析法としては,分子の振動数ある
いは質量の相違等を利用したレーザーラマン分光法および質量分析法等があげられる.前者は非接触で測定可能であり,後者は測定感度が高い
点に特長がある.
一方,トリチウム量の測定法としては,基本的な容量法の外に,1)熱量測定法,2)無機シンチレータ法,3)小容積電離箱法,および,4)
β線誘起X線計測法等があげられる.1)はβ線の熱エネルギー変換を利用したもので,絶対量測定法の一つであるが,長時間測定が必要であ
る.2)および3)はβ線の蛍光作用およびイオン化作用を利用したものであり,何れも実時間測定に適した測定法である.ただし,後者の方法
は全圧および不純物の影響を受けやすいので注意を要する.4)はβ線と材料との相互作用によって発生する特性X線及び制動X線を利用するも
のであり,有望な非接触測定法の一つである.本法は4kbq/cm3 程度の低濃度域から無担体領域までの広範囲の濃度測定に利用可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ドリフト不安定性
掲載号 73-3
225
Drift Instability
磁場中プラズマで磁場に垂直方向に粒子密度の勾配があると,磁場と密度勾配との双方に垂直方向に勾配の大きさに比例する速度vd(ドリフ
ト速度)の電子の流れ,すなわちドリフトが生ずる.このドリフトと結びついて発生する波がドリフト波であり,その微視的不安定性(波の成
長)をドリフト不安定性という.磁場により閉じ込められた有限の大きさのプラズマ中には必ず密度勾配があり,それが必然的にドリフト不安
定性を伴うので,その安定化は重要である.ドリフト波の現象はドリフト振動数ω*=kvd(kはドリフト方向の波の波数)により特徴づけられ
る.単純な型のドリフト不安定性は磁場のねじれ(シア)などで比較的容易に安定化される.しかし,この不安定性はω*がイオンのサイクロ
トロン振動数の整数倍に近くなるとイオンサイクロトロン波と結合してドリフトサイクロトロン不安定性を引き起こし,さらにそれがミラー型
装置では粒子速度のロスコーン分布と結合してDCLC不安定性を起こしたりするなど,多種多様な不安定性を生み出して,その抑制は長い間,
核融合研究の最も重要な研究課題の一つであった.
プラズマ・核融合学会用語解説
二次・三次核反応
掲載号 68別冊
071
Secondary, Thetiary Nuclear Reactions
D-D反応
D+D → T+p
D+D → 3He+n
で生まれる三重水素Tと3 He粒子が,再び重水素と反応し,
D+T → 4 He+n
D+3 He → 4 He+p
となる反応を二次反応という.二次反応は重水素の密度が大きいほど,またその重水素燃料の大きさが大きいほど,起きやすくなる.この性質
を利用すると重水素燃料の面密度(密度×半径)を測定することができる.
一次反応でできる粒子(T,3 He)が燃料中で止まってしまうほど燃料の面密度が大きくなると,それ以上面密度が大きくなっても二次反応
は増加しなくなり,もはや面密度の測定手段とはならなくなってしまう.そこで注目されているのが三次反応である.
D-T反応(一次過程)
D+T → 4 He+n
で生成される中性子は,ビリヤードの玉のように燃料粒子をはじき飛ばす(二次過程).はじかれた燃料粒子がもともとの燃料粒子とD-T反応
を起こす(三次過程).これを三次反応と呼んでいる.二次反応の場合と異なり,三次反応では中性子が途中で止まってしまうことはないので
「これ以上の面密度は測定不可能」という制限はないが,多重過程であるから反応の絶対数が少なく,測定が困難である.
プラズマ・核融合学会用語解説
二次電子放出
掲載号 69-6
096
Secondary Electron Emission
一次粒子が固体に入射した結果として,その表面から電子が放出される現象のことである.一次粒子としては電子,イオン,中性粒子などが
ある.電子の励起に費やされるエネルギーが粒子の運動エネルギーから来るものを運動放出(kinetic emission),イオンや励起状態にある粒子の
もつポテンシャルエネルギーから来るものをポテンシャル放出(potential emission)といい区別する.一次粒子が電子の場合,後方散乱されて出
てくる一次電子と区別するため,50 eV 以下のエネルギーをもつものを真の二次電子という.
磁場閉じ込め核融合装置において,対向壁への周辺プラズマ粒子の衝撃によって起こる二次電子放出は,対向壁前面のシース電位形成過程を
介して,壁材料のスパッタリングによる不純物発生と関係する.入射粒子1個あたり放出された二次電子の平均的な数を,二次電子放出比
(secondary electron yield,二次電子放出係数あるいは利得ともいう)として定義し,二次電子のエネルギー分布や放出方向分布とともに応用上
重要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ニュークリアヒーティング :核発熱
掲載号 70-11
142
Nuclear Heating
核融合炉において,D-TあるいはD-D核融合反応により,中性子が発生した場合に,この中性子が原因となって核融合炉を構成する機器の中で
(その構成原子核と様々な核反応を起こした結果)生ずる発熱を,「ニュークリアヒーティング」(核発熱)という.D-T核融合反応において
は,中性子が反応熱の80%を運動エネルギーとして持ち去り,核発熱に変換される.核発熱の大部分は,核融合プラズマを取り囲むトリチウム
増殖ブランケット中で発生し,その熱を冷却媒体により蒸気発生器へ伝達し,発電に利用する.ブランケットの使用材料の選び方により,中性
子がブランケットの構成核と起こす核反応の中での発熱反応の割合を高めて,最大で30%程度発熱量を増大させることができる.他方,極低温
に維持すべき超伝導磁石内での核発熱は,冷凍負荷を増大させる厄介ものとなる.
プラズマ・核融合学会用語解説
熱障璧
掲載号 68-6
046
Themal Barrier
タンデムミラー装置においてはロスコーンによる直線プラズマの端部における粒子損失をなくすため,イオン温度の数倍の閉じ込め電位を形
成させる.プラグ部の電子温度をイオン温度より高くするのが有効である.このため中央ミラー部とプラグ部の領域の間に電位の谷を作って,
両側の電子の大部分を空間的に分離しようとするプラズマの配位を熱障壁と呼ぶ.
熱障壁形成法の基本は,ミラー磁場中を往復運動するピッチ角のそろったイオンの転回点でピークした密度分布と電子加熱を組み合わせたも
のである.密度の谷に発生する電位の谷を更に深くするために磁気補捉の高温電子の密度比を高くとり,衝突等を介して蓄積するイオンを排除
するのが有効と考えられる.実験的には,強力なプラグ部電子加熱により速度分布関数を著しく変形させると,ボルツマン則から予想されるよ
り遥かに深い電位のへこみと高いプラグ電位が観測されている.電位形成の高効率化の観点からも興味深い問題を提供している.
プラズマ・核融合学会用語解説
鋸歯状振動
掲載号 71-2
150
Sawtooth Oscillations
鋸歯状振動とは,トカマクプラズマ内部において,ぽぽ周期的に圧力分布の緩和と自己修復が反復する現象である.プラズマ中心部のX線放
射強度などが,緩やかな増加と急峻な減少を繰り返し,信号波形が鋸の歯のように見えるのでこの名前が付いている.この理論的解釈として,
q =1 面に共鳴するMHD抵抗性モードによる磁場再結合でポロイダル磁場の緩和が起きるとしたKadomtsevモデルが有力であった.しかし,トカ
マク装置が大型化するにつれて,1)数 keV以上の高温プラズマにおいても,成長時間が 100 s 以下であり,抵抗性磁場再結合では説明できない
こと,2)ボロイダル磁場計測によると,磁気軸上の安全係数が1以下の場合が多く,鋸歯状振動に伴う変動が小さいこと等の矛盾点が明らかに
なってきた.そこで新しい理論モデルとして,無衝突磁場再結合の非線形成長や,統計的磁場によるプラズマ輸送の急激な増大などが提案され
ている.前兆振動を伴わなかったり,部分崩壊を挿んだりする多様な鋸歯状振動を,電流分布計測と矛盾なく統一的に説明できるかが,理論的
解明のポイントである.
プラズマ・核融合学会用語解説
熱脱離
掲載号 68-6
048
Themal Dsoerption
原子・分子を吸着した固体表面の温度を上げると,表面との結合の弱い分子種から強いものへと順次脱離して,分圧(または濃度)のピーク
を生じ,温度についての脱離分子種のスペクトルが得られる.この研究手法または現象を昇温脱離(thermal desorpdon,TD),または熱脱離と
いう.ただし,熱脱離と言う表現は,非熱脱離,すなわち,高速粒子,電子,光子の照射などによって誘起される脱離と対立する概念としても
用いられる.
単一分子の昇温脱離の解析方法としては,脱離気体の圧力が十分低く再吸着の寄与が無視でき,また排気速度が十分大きいと仮定して,物質
収支の式をたてると,結局ピーク極大温度TP,昇温速度β,活性化エネルギーEdなどの間に以下の式が成立する.
ただし,R:気体定数,νD :頻度因子,n :反応次数,θP :ピーク極大での残存覆率である.したがって,TP はβ,θP,n に依存する.
黒鉛に水素イオンを打込んだ試料の昇温脱離においては,少なくとも3種の水素分子ピークが観測されるのに対し,炭化水素ピークの方は,
化学種が異なってもほぼTP が一致する観測結果が得られており,これより各炭化水素の生成脱離反応の律速過程は同一であろうと推定されて
いる.
式(1):048eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
熱不安定性
掲載号 73-5
231
Thermal Instability
核融合プラズマのエネルギー的な釣り合いを表すローソン条件や自己点火条件は、横軸をプラズマ温度,縦軸をプラズマ密度×閉じ込め時間
にとった座標空間で閉じた曲線で示される(通常は下半面のみが示されている).この閉曲線の内側は核融合反応生成物によるプラズマ加熱が
プラズマからの熱損失及び輻射損失より大きく,閉曲線の外側はその逆である.エネルギーを取り出すためには,プラズマ閉じ込め装置特有の
エネルギー閉じ込め則とプラズマ密度の積を温度の関数として同じ座標空間に描いて交点を持つ必要があり,その2個の交点が核燃焼プラズマ
の動作点となる.これらの動作点のうち,低温側の動作点でプラズマ温度が上昇すればプラズマ加熱が損失を上回るために正のフィードバック
がかかることになり閉じ込め則曲線に沿って高温側の動作点に移動する.逆に動作点から温度が下降すれば核燃焼が止まってしまう.このよう
に低温側の動作点は「熱不安定」にあるという.一方,高温側の動作点は以上の意味で負のフィードバックがかかるために安定であり温度の変
動に対して元の動作温度に戻る.
図:231.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
熱プラズマ
掲載号 68-5
045
Thermal Plasma
電子と原子・分子・イオンの温度がほぼ平衡状態にある熱プラズマは,比較的高圧下における電極間のアーク放電,または高周波放電による
方式で生成される.このプラズマは,それが有する高い温度と熱量を利用する分野,たとえば,材料の溶解・精錬,溶接・溶断,表面被覆並び
に超微粒子・化合物の
創製等の分野に広く適用され,各種プラズマ発生トーチが開発されている.
(1)直流アークプラズマトーチ
タングステン陰電極と水冷鋼ノズル間でアーク熱により電離された高温・高連のプラズマ流を熱源とする.この方式では,高温プラズマ域が
狭い欠点を有する.
(2)高周波プラズマトーチ
誘導結合壁高周波放電により発生したプラズマ流を熱源とする.低流速プラズマ流であるが,大気中でも広範囲な高温プラズマ域並びに電極
の溶損による材料の汚染がない長所を有する.
(3)ハイプリッドプラズマトーチ
上記二方式の欠点をそれぞれの長所で補うため両者を重畳させた複合プラズマ流を熱源とした新しい方式で,その適用分野の拡張が期待され
ている.
プラズマ・核融合学会用語解説
熱平滑化
掲載号 68別冊
060
Themal Smoothing
レーザー核融合で、ターゲット加速を駆動するアブレーション圧力や質量噴出率の空間的不均一が,レーザー光やX線の照射不均一から評価
される値よりも緩和される現象を言う.レーザー照射の場合,遮断密度面(固体密度の1/100程度)とアブレーション面との間(デフラグレー
ション領域)の距離(stand-off distance, Ds)はかなり大きくなる.このデフラグレーション領域におけるエネルギー輸送の過程で,遮断密度面
での吸収エネルギーの空間的不均一(波数 k )は横方向(レーザー光軸と垂直方向)熱伝導により緩和される.この現象を熱平滑化と呼ぶ.
一般的には平滑化係数はΓ=exp(‐αkDs)で評価され,波数を球ターゲット(半径R)上でのルジャンドルモード数lで置き換えると,Γ=
exp(‐αlDs/R)となる.Ds/R≒数%であるために高次の不均一モードにしかこの平滑北は有効でないが,高次モードは流体力学的不安定
性の成長率が高いので,熱平滑化はレーザー核融合にとって重要な現象となっている.α(≧1)の値はレーザー照射一様性への要求に直接響
くので重要であり,現在実験および理論・シミュレーションによりαの評価が行われつつある.また,遮断密度近傍では電子の平均自由行程が
長いために,遮断密度面の温度分布自身が時間とともに均されていく現象が二次元シミュレーションで観測されている.これも広い意味での熱
平滑化に含まれるが,熱伝導による平滑化とは独立に考える必要がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
はじき出し
掲載号 67-6
030
Displacement
高速中性子や重イオンなどの高エネルギー粒子が固体物質に入射した場合,固体中の原子の受け取ったエネルギーがあるしきいエネルギーよ
り大きいと,その原子は格子位置からはじき出される.入射粒子と直接衝突した原子を一次はじき出し原子(PKA:Primary Knock-on Atom)と
呼ぶ.PKAのエネルギーがしきいエネルギー(はじき出しエネルギーと呼ばれ,結晶方位依存性を持つ)に比べて十分に大きい場合,原子は
次々とはじき出されてゆく.このはじき出しの連鎖をカスケードと呼んでいる.はじき出しエネルギーは数 10 eV 程度であるのに対して,14
MeV 中性子によるPKAエネルギースペクトルは数100 keV 以上にも及んでいる.カスケード中では高密度の欠陥が生成し,自由な点欠陥の生成
率は,PKAのエネルギーに依存する.これに対して MeV 程度の電子照射の場合,物質中には単純な格子間原子と空孔の対(フレンケル対)が
形成されるのみである.はじき出し損傷はミクロ組織を変化させ,材料の物理的,機械的,化学的性質を変化させる.なお,セラミック材料で
は,電子励起が原子のはじき出しを引き起こす場合がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
バナナ軌道
掲載号 69-7
098
Banana Orbit
トカマクにおいて磁場の弱いトーラス外側部に捕捉される粒子の案内中心軌道を,その形の視覚的特徴からバナナ軌道という.トカマク中の
荷電粒子は,軸対称性を仮定すると,通過粒子と捕捉粒子に分類される.通過粒子は磁力線に対するピッチ v///v が大きく,トーラスを自由に
周回する.これに対して v///v の小さい粒子は,ミラー効果によって磁場の弱いトーラス外側に捕捉される.捕捉粒子は,トロイダルドリフト
のため反射前の磁力線に戻らず,子午面への投影がバナナのような軌跡を描く.捕捉粒子の磁気面からの変位(バナナ幅)は,通過粒子の変位
(∼ラーモア半径/回転変換)よりアスペクト比の1/2乗のファクタ程度大きい.
捕捉粒子は通過粒子とは異なった変位と時間スケールをもち,空間およぴ速度空間に偏って分布しているので,トカマクの輸送・加熱・安定
性などに多彩な役割を演じる.例えば輸送係数が無衝突領域で古典値に比べ増大する現象は,新古典理論におけるバナナ拡散として知られてい
る.また密度勾配があると,バナナ粒子群のトロイダル方向の平均的流れが残り,ブートストラップ電流が生じる.バナナ幅がプラズマ径を凌
ぐ高速イオンやα粒子は速度空間にロスコーンを形成すること等も,その役割の基本例である.
プラズマ・核融合学会用語解説
バリア放電
掲載号 74-9
280
Barrier Discharge
オゾン生成や新しい紫外光源として近年注目されているエキシマランプなどに用いられている放電形式である.これはまた,無声放電(Silent
Discharge)またはオゾナイザ放電(Ozonizer Discharge)とも呼ばれている.本放電では,電極の一方または両方がガラスなどの誘電体で覆われ
た状態で交流高電圧が印加される.電極間に高電圧が印加されると,誘電体表面に電荷が蓄積し,これによって局部電界が生じる.この局部電
界と外部電界が等しくなったところで放電が自動的に停止する.このため,この放電形式では放電の不安定すなわちアーキングにまで放電が進
展しないのが特徴である.動作圧力は通常大気圧以上で,主に酸素,空気,キセノンなどの希ガスおよびKrFなどの希ガスハライド系ガス中で
の放電である.放電は短時間で発生と消滅を繰り返す多数の微細なパルス放電が観測される.個々のパルス放電を微小放電(Micro-Discharge)
と呼ぶ.大気圧酸素中で生じる微小放電中の代表的なパラメータとして以下の値が与えられている.放電柱の半径は約100μm,電流パルス幅は
約 2 ns ,放電電荷量は約10^-10 C,電流密度は約103 A/cm2 ,電子密度は約1014 cm-3,エネルギー密度は約10-2 J/cm3 ,換算電界は(1∼2)×10-15
V・cm2 および平均電子エネルギーは約5 eVである.
プラズマ・核融合学会用語解説
バルーニング方程式
掲載号 70-9
135
Balloning Equation
磁気シアを持つトーラスプラズマにおいて,圧力駆動型不安定性を解析するのに用いられるMHD方程式.主に高モード数バルーニング不安定
性の解析に用いられる.
磁力線に垂直な波数が磁力線方向の波数より十分大きな高モード数フルート型摂動を仮定すると,微小パラメータεを導入してスケール分離
が可能となり,WKB解析を利用できる.WKB解析において,アイコナルは磁力線に垂直な速い動きを,エンベロープξは磁力線方向の構造を
示す.このWKB近似におけるアイコナール表示をMHD方程式に適用して得られるのがバルーニング方程式である.ξに対する磁力線に沿った2
階の常微分方程式で表される.バルーニング方程式において,アイコナルはポロイダル方向の周期性を満足せず,無限領域を定義域とする
“covering space”でのみwell definedである.そのため,解も周期境界条件を満足せず,quasi−modeと呼ばれる.周期性を満たす物理的な解は
quasi−modeから変換して得られ,その変換をバルーニング変換,その表式もしくはこの技法のことをバルーニング表示と呼ぶ.磁力線垂直方向
の波数ベクトルには選択の任意性があり,そのため,バルーニング方程式から求められる固有値(成長率)はその任意性を表すパラメータを含
んでいる.
磁力線垂直方向における物理的な解のエンベロープや上述のパラメータの空間構造は,WKB近似のより高次のオーダの巨視的理論から求めら
れ,それにより,任意パラメータを含まない物理的固有値も確定される.通常は,バルーニング方程式を用いて安定性判別のみ行うことが多
い.特に,バルーニング方程式を解いて得られた,トカマクプラズマにおけるs一αダイアグラムは第二安定領域の研究に関連して有名であ
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
ハロー電流
掲載号 71-5
159
Halo Carrent
トカマクでは,ディスラプション時の電流消滅(電流クエンチ)過程において,プラズマの上下または内側への移動を伴った∼10 msオーダ
の急速なプラズマ電流の減少が生じる.この時同時にプラズマから真空容器に流入する電流が観測される.この電流は磁力線が閉じていないス
クレイプオフ層に流れていると考えられている.スクレイプオフ層の幅は,電流クエンチ時に通常の数 cmから数10 cmと広がる.この電流の流
れる領域のボロイダル断面の形状が,丁度おぼろ月にかかるかさ(ha1o)に似ていることからその名がついている.ディスラプション時にプラ
ズマに加わる電磁力のバランスを考慮する際には,この電流のポロイダル成分に着目して,ボロイダル電流と呼ばれることもある.ハロー電流
の駆動力の候補としては,電流クエンチ時にプラズマ内部のトロイダルおよびボロイダル磁束が減少し,この磁束変化に逆らって磁束を保存す
る向きの電場が最外殻磁気面の外側に形成されるという機構が提案されている. 観測されたハロー電流は,プラズマ電流の20∼40%にも達し,
その結果生じる電磁力は相互誘導で真空容器に誘起されるトロイダル渦電流によるものと同等かそれ以上と見積もられている.また,電磁力が
ボロイダル方向に局所的に加わるため,ITER等の次期トカマクの設計上大きな問題となっている.詳細な特性評価と低減方法の確立が今後の課
題である.
プラズマ・核融合学会用語解説
パンケーキ型コイル
掲載号 72-4 191
Pancake Coil
電磁石コイルの巻き線形態を示す言葉.この巻き方のコイルでは,ホットケーキのように平板状のコイル形状となる.核融合装置のコイルで
は,大きな空間に強力な磁場を発生させる必要性から,一般の電気機械と比べ大電流導体を用いる.またコイル断面中での導体の空間占有率を
向上させるため,一般的に矩形断面の導体を用いることが多い.ある形状(例えば円形,D形など)のコイルをこの方式で製作する場合,導体
を内径側より外径側に順次巻線する.したがって磁場の発生方向(コイルの軸)とは直行する平面内に導体が積み上げられていく.一本の導体
線条を端から単純に内径側より巻線したもの(したがって導体は一層に配列)をシングルパンケーキ,一本の導体線条の中間部を内径にして双
方向に巻線したもの(したがって導体は二層に配列)をダブルパンケーキと呼ぷ.ダブルパンケーキコイルは口出し部(電流,冷媒等の導入
部)がコイルの外周部に出るので電源等との近接性がよく,また磁場発生を期待している内径側の空間を阻害することが少ない特徴を持つ.一
般的には,必要とする起磁力を確保するためこれを積層して,一つのコイルを構成することが多い.
プラズマ・核融合学会用語解説
反磁性効果
掲載号 70-10
137
Diamagnetic Effect
プラズマ中の荷電粒子は,元の磁場と逆向きの磁場を生ずるようにラーモア回転する.したがって,微視的にみると,プラズマは磁場を減少
させる反磁性体の性質を持つ.しか し,巨視的には逆の常磁性的振る舞いを示すこともある.z方向の外部磁場中において,z方向の電流成分を
持つ圧カP,半径aの円柱プラズマを考えると,動径方向の圧力バランスは以下の式(1)で与えられる.
ここで,バー(本文中は<>)は体積平均を表し,Bθはプラズマ電流によって作られる磁場のθ成分を表す.この式から,プラズマ内外の磁
場のz成分,<Bzi2 >と<Bze2 >の大きさを比較すると,式(2)の場合には,<Bzi2 > > Bze2 (a)となってプラズマ中の方が磁場が強くなる常磁性を
示すことがわかる.これは,圧カが低いとプラズマ電流の大部分が磁力線に沿って流れ,そのθ成分がBzを強める方向を向いているためであ
る.一方,プラズマ圧力が上昇すると,力のバランスに必要な磁場に垂直な電流成分が大きくなる.この電流はプラズマの反磁性ドリフトに
よって生じるものであり,そのθ成分はBzを弱める方向に向いている.そのため,βp>1では,電流のθ成分が逆転し,<Bzi2 > < Bze2 (a)の反
磁性的性質を示す.
式(1):137aeq.gif
式(2):137beq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
半導体X線検出器
掲載号 72-7
202
Semiconductor X-ray Detector
半導体X線検出器の特長は,シンチレーション検出器や電離箱に比べ,エネルギー分解能がはるかによいこと,プラズマ実験時の強磁場・高
真空条件下でも使用でき,小型で多チャンネル化が容易であること等が挙げられる.このため,世界中の各種プラズマ閉じ込め装置の標準的X
線計測器として広く用いられている.プラズマ計測では,MHD安定性の研究に,p型とn型半導体を接合させたフォトダイオード検出器,並びに
Si表面障壁型ダイオードによるX線トモグラフィ法が多くの成果をあげ,さらにはプラズマの電子速度分布関数,あるいは電子温度が,Si(Li)
および純Ge検出器等を用いたX線エネルギーパルス波高分析法,および種々のX線吸収体挿入によるX線強度解析(吸収法)により研究されて
きた.データ解析のための検出器感度の定説は,半導体検出器内のp−n接合部の空乏層中に生成された.ホールと電子の量により決定されると
されてきた.最近,検出器内の無電場基板領域も含めて感度領域を成しており,電子温度解析に著しく影響することが解明されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
反応性プラズマ
掲載号 71-8 167
Reactive Plasma
弱電離プラズマは,一般に中性粒子やイオンの温度に対し電子温度のみが数∼10数eV程度の比較的高い温度にある非平衡プラズマである.分
子ガスを用いでこのようなプラズマを発生させると,ガス分子は電子により解離あるいは電離を起こして化学的に活性な粒子が多量に生成され
る.このようなプラズマは反応性プラズマと呼ばれており,低温で効率的に化学反応を起こすことができることが特徴である.さまざまな分子
ガスを用いて薄膜の堆積や材料のエッチングが行われており,代表的なガスの例としてCH4 ,SiH4 等は膜堆積に,CF4 ,SF6 ガス等はエッチング
に用いられている.反応性プラズマ中における過程を大きくわけると,
(1)プラズマ中に導入された分子と電子との衝突による化学的活性種(中性ラジカル,イオン)の生成過程,
(2)気相中における活性種の他の粒子との反応過程,
(3)活性種の表面への輸送過程,
(4)表面における活性種の反応過程,
となる.プラズマパラメータなどの制御をとおして上記の過程を制御し,要求されるさまざまなプロセスに応じた反応性プラズマを生成する研
究が進められている.
プラズマ・核融合学会用語解説
PICコード
掲載号 75-3
296
PIC Code
電磁場中を運動する多くの荷電粒子が運動方程式に従い移動,衝突を繰り返しながら拡散する現象は,実空間をΔr なるセルに分割し,その
中のプラズマ特性を時間Δt ごとに模擬することができ,この方法はPIC(Particle in Cell)と呼ばれ,そのシミュレーションコードが提案されてい
る(例えば[1]) .この方法は一般に電荷密度の高い放電プラズマのシミュレーションに利用されており, ポアソン方定式と組み合わせて用いられ
る.この際,衝突過程をボルツマン方程式に従って確定論的に決定する方法やモンテカルロ法を用いる方法(PIC+MCC (Monte Carlo
Collisions))がある.PICはプラズマの分野で1950年代から報告があり,多くの経験が蓄積されている.詳細は文献[1]参照のこと.
[1]C.K.Birdsall, IEEE Transactions on Plasma Science Vol.19, No.2, 64-85, 1991.
プラズマ・核融合学会用語解説
BGK解
掲載号 73-7
237
BGK solution
無衝突プラズマ中には,通常の分散式で表される線形波や,その非線形的拡張である大振幅波・ソリトン・衝撃波などでは記述することので
きない新たな非線形定常解の存在することが, Bernstein, Green and Kruskal によって示された。これをBGK解と呼ぶ.
BGK解は,正の電位井戸に捕捉された電子や負の電位井戸に捕捉されたイオンが存在することにより,多様な非線形定常状態を示す.その解
は必ずしも安定とは限らず,現実には安定なBGK解または,不安定性を伴ったBGK解が観測される.
プラズマ粒子は速度と位置からなる位相空間上の位相流体として捉えることができる.現在までに見い出されているBGK解には,位相流体中
の孤立したくぼみであり孤立した電位パルスとして観測される孤立ホール,孤立したホールの連なりであり大振幅電位変動波のように見える
ホール列,ステップ上の電位構造を持つ電気二重層などがある.電気二重層は低電位側で不安定であり常に変動するか,低電位側にイオン孤立
ホールを伴なうことによりイオン音波電気二重層を形成して安定化する.
BGK解は,通常の線形波に由来した非線形波動とは大きく異なり,その伝播速度が任意である.このことはホール列の小振幅の極限がファ
ン・カンペン波であり,たとえば波数を一定に保ってもその位相速度が任意であることに対応している.
プラズマ・核融合学会用語解説
ビート波加速
掲載号 69-5
093
Beat -Wave Acceleration
位相速度がほぼ光速に近いプラズマ波で荷電粒子を加速するための,基本的方法である.強力な電磁波,とくにレーザーを使うが,一般的に
横波のままでは粒子は加速できないので,一旦,プラズマ波に変換する.それも位相速度が加速粒子の速度に近くないと補捉できず,また加速
もできない.これを満たすプラズマ波の励起に用いるのが,ビート波である.2本の周波数の異なるレーザー光をプラズマに入射すると,レー
ザー光の周波数ω0 ,ω1 自体は高すぎて,粒子は応答しないが,差周波数の ω0 -ω1 には充分応答して,電子密度の疎密波を作る.うなり
(beat)である.前方ラマン散乱で,ポンプ光だけでなく散乱光も強制励起することに対応し,差周波数 ω0 - ω1 がちょうどプラズマ周波数 ωp
に共鳴すれば,プラズマ波が強く励起される.位相速度 vφ = c (1 - 1/γ2 )1/2 はうなりの速度に等しく,光速に近い.γ ≡ ω0 / ωp で,これは
波の相対論パラメータとして,光速に近い波を扱うには,便利である.たとえば,一つの波による粒子の加速エネルギーの上限も,電子の質量
m に対して2γ2 mc2 と与えられる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ビームプローブ法
掲載号 75-6
304
Beam Prove Diagnostics
粒子ビームをプラズマ中に打ち込み,プラズマとの相互作用を通してプラズマの諸量を計測する方法の総称.一般に細いビームを用いること
によって,プラズマを乱すことなく局所的な測定をめざすもので,古くから用いられている探針(プローブ)と対比してつけられた名称であ
る.検出手段は,ビームの減衰を測定する方法,エネルギー変化を測定する方法,スペクトル線の発光強度あるいはプロファイルを測定する方
法等,様々である.大きく分けて次の3種類に分類できる.
1.重イオンビームプローブ法
一価の重イオンを入射し,電子衝突電離によって発生する二価のイオンのエネルギー変化を検出することによって局所空間電位を測定する方
法.エネルギーの高いイオンビームはビーム径を細く絞ることができるので(通常数mm以下)空間分解能が高い.また,二次イオンビームは
その軌道に沿って有効に検出器に到達するため検出粒子数が多く,統計的揺らぎが小さいため時間分解能も高いという特徴がある.
2.ビームプローブ分光法
中性粒子ビーム(一般にヘリウム,リチウム等の軽元素)を入射し,電子衝突励起によって放射される光を検出する方法.ビーム原子の特定
のスペクトル線発光強度から電子密度を測定したり,スペクトル線の強度比から電子温度を測定する方法などがある.加熱されたオーブンや
レーザーブローオフによる中性原子ジェットを用いる方法もある.
3. ビームプローブレーザー分光法
入射した中性粒子ビームの特定のスペクトル線を色素レーザーなどの可変波長レーザーを用いて強制励起し,それに伴う放射光のスペクトル
分解をすることによって電場や磁場を測定する方法.イオンビームを使う場合もある.
加熱用中性粒子ビーム利用する方法もあるが,ビームプローブという言葉にはプラズマを擾乱しないというニュアンスがあるため,一般には
区別されている. プラズマ・核融合学会用語解説
光パラメトリック発振器
掲載号 72-3 189
Optical Parametric Oscillator
非線形光学結晶に高強度(数10 MW/cm2以上)のポンプ光(波長λp)を入射すると,ポンプ光の電場が非線形光学結晶中の電子を直接駆動
し,信号光(波長λs)とアイドラー光(波長λi,通常λs<λi)が発生する.これを光パラメトリック効果と言う.光子のエネルギー保存則
(1/λp=1/λs+1/λi)と運動量保存則(np/λp=ns/λs+ni/λi,ここでnp,ns,niは,λp,λs,λiの屈折率)の下で,結
晶の温度,角度,ポンプ光波長等を変えることで,λsとλiの波長を可変にできる.信号光やアイドラー光に対して共振器(光パラメトリック
発振器,OPO)を構成し,波長可変コヒーレント光を50 %にも達する高効率で発生できる.さらに,OPOからの出力光を光パラメトリック増幅
(OPA)することも行われている.種光注入法により狭帯域で高出力のOPOまたはOPAが実現している.OPOやOPAはパルスおよびCW動作が可
能である.パルス動作の場合,フーリエ限界の狭周波数幅Δν(=0.441/Δt ,ここでΔt はパルス幅(FWHM))が種光混入法で容易に得ら
れている.例えば,Δt =4nsのとき,Δν=110 MHzとなる.高耐力(約1.5 GW/cm2 )の非線形光学結晶(BBO,LBO,KTP)を用い,1.064
μm Nd:YAGレーザーの基本波(1.064 μm)および高調波(0.532,0.355,0.266 μm)でポンプし,4 ∼ 0.3 μmの波長可変OPOが実用されて
いる.さらに,半導体レーザー(LD)励起1.064 μm Nd:YAGレーザーでポンプする全固体(ホロステリック)波長可変光パラメトリック発振
器も達成されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
非局所熱伝導
掲載号 68別冊
061
Nonlocal Heat Conduction
温度 Te の空間変化がゆっくりして,電子分布関数の局所的熱平衡分布(Maxwell分布)からのずれが小さい場合には,電子熱伝導は拡散近似
で取り扱うことができ,熱流はqe=ke∇Teのように温度勾配に比例した表式が用いられる.この表式は一般に Spitzer-Harm の熱伝導と呼ばれてい
る.しかし温度の勾配が急峻になってくると,電子の分布関数が熱平衡分布からずれ,このとき熱流は単にその場所の温度勾配に比例するので
はなく,その周辺の状態に依存する.これを非局所熱伝導(nonlocal heat conduction)と呼ぶ.熱速度電子の平均自由行程と温度勾配の特性長の
比が10 - 2 程度より大きくなるとこの効果が顕著になる.このとき熱流は Fokker‐Planck 方程式を用いて計算する必要がある.非局所効果による
熱流はSpitze‐Harmに比べて一般に小さくなり,この現象はflux‐limitと呼ばれている.拡散モデルにおいては熱流を非局所モデルに近づけるた
め,適当な係数fを掛けて,実効的に熱流を制限している.このfは flux limiter と呼ばれ,実験的,理論的に調べられており,典型的には0.03
∼0.2くらいの値をとる.
プラズマ・核融合学会用語解説
非整数ブラウン運動
掲載号 71-6
162
Fractional Brownian Motion
一般化したブラウン運動として,変位の平均が<x(t)-x(0)>=0であり,増分の分散が <[x(t)-x(0)]2 >=2Dτ(t/τ)2H : τは特徴時間, 0≦H≦1,で与
えられる運動を考える.H=1/2 ならば, 通常のブラウン運動であるが, のとき,非整数ブラウン運動と呼ばれている.このような運動におい
て,過去の変位 [x(0)-x(-t)] と未来の変位[x(t)-x(0)] との相関関数 C(t) は, 以下の式と書くことができる.H=1/2 のとき,すなわちブラウン運動
に対しては,変位の相 関 C(t) はゼロである.ところが,H≠1/2 のときはc(t)≠0であり, 結果として持続性(persistence)あるいは反持続性
(antipersistence)が現れる.H>1/2 の場合には持続性が現われ,もし過去において変位が増加したとすると,それは未来においても変位が増加
することを意味する.反対に,H<1/2 の場合には反持続性が現れ,過去において変位が増加したとすると,それは未来においては 変位が減少す
ることを意味する.また,アインシュタインの関係から,拡散係数は DH-2DH(t/τ)2H-1のように与えられる.このような拡散過程はトロイダルプ
ラズマ中の磁力線拡散などで見られることが,理論的に示されている.
式(1):162eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
非接触ダイバータ
掲載号 72-2 185
Detached Divertor
ダイバータプラズマにおいて,ダイバータ板への熱流束がなくなり,ダイバータ板上へのイオン束が消失する状態であり,ガスターゲットダ
イバータ等でガス注入により粒子リサイクリングを高めていくとき見られる.非接触ダイバータでは,中性粒子の電離される領域が,ダイバー
タ板近傍から離れる.同時に,放射損失・荷電交換損失の強く発生する領域が上流に移動し,X点とダイバータ板の間に停留する.ITER等の核
融合炉においては,この状態を実現して,ダイバータ板の損耗を大きく軽減し,その寿命を長くすることが考えられている.ただし,X点近く
に粒子リサイクリングの高い領域が発生すると,主プラズマの周囲の中性粒子圧力が高まって,閉じ込め性能を劣化する.これに対し,中性粒
子の主プラズマへの逆流を抑えるようにダイバータ構造を最適化する,不純物ガス注入などにより放射損失を効率よく高めるなどの試みが進め
られている.
プラズマ・核融合学会用語解説
非線形ランダウ減衰
掲載号 73-5
232
Nonlinear Landau Damping
プラズマ波の減衰に関与する非線形効果の一つである.波数k,周波数ωk のプラズマ波と波数q,周波数ωq のプラズマ波が速度vをもつ荷電粒
子と共鳴的相互作用(ωk −ωq =(k−q)・v)をすることにより,ωk のプラズマ波が減衰し,ωq のプラズマ波が成長する.2つのプラズマ波
が,波数k−q,周波数ωk −ωq の合成波(ビート波)をつくり,この合成波がその位相速度と同じ速度の荷電粒子と共鳴的相互作用をする機構
と,電磁波のコンプトン散乱と同種の機構の2つの過程で起こる.ωk のプラズマ波のエネルギーと運動量がωq のプラズマ波と荷電粒子に移行す
るので荷電粒子が加速される.磁化プラズマ中においては,サイクロトロン周波数ωcが関与する共鳴条件(ωk −ωq −(k||−q||)v||=mωc)を満
足した荷電粒子との相互作用により同様の非線形現象が起こる.mは整数,k||,q||,v||はk,q,vの磁場方向成分である.
プラズマ中の電磁波によっても同様の現象が起こり得る.非熱平衡プラズマ中においては爆発型非線形ランダウ減衰が起こり,逆に荷電粒子
から二つの波動へエネルギーと運動量が移行して大振幅波動が生成される.
大振幅波動により荷電粒子の加速や減衰が起こるのでプラズマ中の輸送現象にも関与していると考えられ,また高エネルギー粒子加速に応用
可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
非中性プラズマ
掲載号 72-5
195
Non Neutral Plasma
非中性プラズマでは,構成粒子が静電的に互いに中和されないで全体として第0次の大きさでも非中性状態にある.通常の中性プラズマで
あっても拡散過程等で内部静電場が存在するときは,厳密には非中性であるが,その電場の大きさはほとんどの場合は第一次以下の大きさであ
る.非中性プラズマの特徴は,電子,イオン,陽電子,反陽子等の1種類の荷電粒子集団でもプラズマの集団挙動を示すことにある.ここで
は,再結合がおこなわれないから極低温のプラズマをつくることができるし,他種粒子との反応がないので反物質粒子のみのプラズマ状態をつ
くることが可能となる.非中性プラズマに固有の波動はあるが,中性プラズマと同様な種々の波動,ランダウ減衰,エコー等の現象も生じる.
実験室での非中性プラズマの閉じ込め方法には,代表的には,(1)一様軸磁場と回転双極面を等ポテンシャルとする静電場を併用した Penning
trap と(2)高周波電磁場のボンデロモーティブ力で抑え込む Paul trap がある.(1)はプラズマの絶対閉じ込め配位であり,その閉じ込め時間は数千
秒に達し,広く非中性プラズマの実験に用いられてきている.また,その変形で軸方向に長いプラズマの実験に用いられている Marmberg trap が
ある.(2)は極低温の強結合プラズマ形成によく使われる.
プラズマ・核融合学会用語解説
火花電圧
掲載号 74-1
256
Sparkling Voltage
気体中に対向させた一対の平行平板電極間に直流電圧を印加し,電極間隙(ギャップ)の電界で加速された電子の運動エネルギーが気体分子
(原子)の電離エネルギーより大きくなると,気体分子(原子)は電子との衝突によって電離し,電極間の導電性が増す.このように,気体の
電離現象によって電極間が急激に導電性の高い放電路で橋絡し,電流の急増とともに電極間電圧が低下する現象を絶縁破壊(全路破壊)あるい
は花火破壊(花火放電)と呼び,花火破壊が生ずる電圧を花火電圧と呼ぶ.花火電圧Vsは,パッシェンの法則に従い,気圧をp,ギャップの長
さをdとすれば,pとdの積のみの関数となって一義的に定まり,Vs=f(pd)で表される.しかしこれは,ギャップの電界が平等電界でpdの値が
比較的小さい場合に成り立ち,pdの大きな放電域,あるいは電極構造が不平等な不平等電界ギャップのように高電界部の局所にコロナ放電が定
在した後に全路破壊(火花破壊)する場合などには適用できない.また,交流電圧印加における火花電圧(波高値)は,その周波数が10kHz以
下では直流火花電圧にほぼ等しいが,それ以上では荷電粒子の補足によって変わる.他方,インパルス電圧印加における火花電圧は,不整を伴
うことから,破壊確率50%の破壊電圧(波高値)をもって火花電圧とし,50%フラッシオーバ電圧と呼ぶ.このように,気体中の火花電圧は,
気体の種類と圧力,温度と湿度,電極の形状と寸法,ギャップの長さ,電極材料,印加電圧の極性と波形,周波数など多くの要因に支配され
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
表面磁場閉じ込め
掲載号 74-8
275
Surface Magnetic Confinement
熱フィラメント(陰極)と容器(陽極)との間のアーク放電によるプラズマ生成を考える.この場合に,容器外周部に永久磁石をN極S極と交
互に並べて多極の直線カスプ磁場を構成すると,フィラメントから飛び出した(衝突電離を行う)高速一次電子並びに生成プラズマの磁場閉じ
込め効果により,比較的低ガス圧のもとでの高密度プラズマ生成が容易となる.プラズマの壁への損失を考えるとその実効的な損失面積は幾何
学的な容器(陽極)表面積から大略磁石の置かれている部分の面積にまで減少することや,高速一次電子が壁近傍でのミラー効果による反射等
により寿命が延びてその分衝突電離回数が増加すること等が理由と考えられる.磁石として通常高い磁束密度(2∼4 kG)を有する希土類永久
磁石が用いられる.磁場強度は容器壁近傍で強く,容器内中心に向かうに従って急速に減少し容器中央部では無磁場状態(field-free )となる.
このような構成を通常表面磁場閉じ込め方式と呼んでいる.
大電流イオン源では高い引き出し電流密度と広い引き出し面積を必要とし,そのために広い引出し面全面にわたり一様で静かな高密度プラズ
マが要求される.このイオン源に表面磁場閉じ込め方式が採用され,種々の表面磁場の構成法(カスプ磁場の種類と本数,ピケットフェンス磁
場,チェッカーボード磁場等)の特性が検討され,現在では初期の目的を達成している.特に引出し面以外の容器外周部を磁石で覆った形のも
のは,バケット型イオン源( bucket source )と呼ばれ NBI 用の大電流イオン源として活躍している.また,このような表面磁場閉じ込めは直流
放電プラズマの他に高周波放電プラズマ(RF放電,マイクロ波放電等)の高密度化にも広く適用されている.さらにこの磁場を電子サイクロト
ロン共鳴磁場として併用するECR 放電プラズマ生成の研究も報告されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
表面波プラズマ
掲載号 73-8
239
Surface Wave Excited Plasma
電磁波は,遮断密度以上の高密度プラズマの中を伝搬できないが,その表面に沿っては伝播することができる.プラズマを対象とする表面波
は,1960年代にグロー放電等のプラズマを使った多くの研究により詳しく調べられている.プラズマ境界付近の密度が遮断密度近くになるにつ
れて表面波の振幅が増大し,波動の電界成分が局所的に強まる.この性質を初めてプラズマ発生に利用したのは70年代後半のカナダのMoisanで
あり,その後欧州諸国でも研究が進められた.この場合の表面波は,空洞共振器に設けられた微小ギャップ付近に生じる強電界により,これと
結合して設置されたガラス放電管内に励起され,管軸方向にプラズマを生成しながら伝播する.これが表面波であることは分散特性から証明さ
れている.このプラズマはその後表面波プラズマと呼ばれ,密度,気体圧力,放電管形状等の面で多様な性質を具備しており,今日では応用的
研究に興味が移っている.
最近になって,誘電体板を電磁波の導波路とする大口径表面波プラズマの研究が成果を上げている.表面波は誘電体板直下に励起され,その
面に沿って伝播すると考えられている.この方式の表面波プラズマは,無電極で大口径化が容易であり,しかも磁界は不要である上に10mTorr
以下の低気圧でも高密度を維持できるため,プロセス用プラズマ源としての利用が有望視されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ファラデー暗部
掲載号 74-10
281
Faraday Dark Space
グロー放電の負グローと陽光柱の間を埋める比較的発光の弱い弱電離部,その両端ははっきりしない.データプラズマとも呼ばれる.内部電
界はもっとも低く,陰極側の負グローの中で高速電子はなくなってしまうため低速電子は励起もできずにドルフトしてゆき陽光柱に達してよう
やく発光に至る.ネオンのような希ガスでは,高純度の場合はこのファラデー暗部がオレンジ色の共鳴光で満たされて一見消失したように見え
る.しかしわずかの不純物の導入でその共鳴光は消えて暗部に戻る.この現象はガスが高純度か否かの判定に使えるだろう.
ファラデー暗部は大気圧でもコロナ放電や放電開始直後の極めて短時間の間に出現する.中ガス圧領域では収縮グローでも暗部が存在するた
めにアーク放電に移行したか否かの判定に利用される.高周波放電においても(肉眼では見えないが)ファラデー暗部は存在する.
Raizer(1995)はその幅を定性的に与えている[1].
[1]Y.P. Raizer, "Radio-Frequency Capacitive Discharges"(CRCpress, 1995)P.86. プラズマ・核融合学会用語解説
ファラデー回転
掲載号 71-1
149
Faraday Rotation
ファラデー回転(磁気旋光効果)は,直線偏波の電磁波が磁場に沿って誘電媒質中を伝播すると,その偏波面が回転する現象である.これは
直線偏波を構成する右・左円偏波の屈折率の差によるもので,プラズマ中では電子のサイクロトロン運動がその要因となる.またファラデー回
転角は,電磁波の伝播方向に平行な磁場成分と電子密度の積の伝播経路に沿った線積分量に比例する.ここで注意が必要なのは,右・左円偏波
の減衰係数にも差があるので,一般に直線偏波はファラデー回転によって楕円偏波になることである.1960年代には直線型装置でプラズマの内
部磁場測定に応用されたが,その後1970年代に入るとトカマクプラズマにおける電流分布の評価を目的として,平衡磁場のポロイダル成分を測
定するための制約条件(トロイダル磁場の影響)が理論的に調べられた.これを受けて1978年,TFR装置(仏)における遠赤外レーザーを用い
た実験で,初めてポロイダル磁場の検出が行われた.また測定技術においても偏波面を変調する方式の開発など,著しい進展が見られた.そし
て1983年には実際に電流分布の評価を行った例が報告され,ファラデー回転角測定の有効性が広く認識された.
プラズマ・核融合学会用語解説
ファン・カンペン波
掲載号 73-7
236
van Kampen Wave
無衝突プラズマ中において,初期条件または境界条件を与えて波を励起すると,波が波の位相速度と同じ速度を持つ共鳴粒子を変動させエネ
ルギーを与えることにより,波はランダウ減衰する.
これに対して,この時同時に波の位相速度と同じ速度を持ち,かつ適当な大きさと位相を持つ変調ビームを注入して,ランダウ減衰する波の
場合の共鳴粒子の変動を相殺すると,まったく減衰しない波を励起することが可能となる.これがファン・カンペン波である.
無衝突プラズマを記述するブラソフ方程式をさらに厳密に解くと,波を減衰しないように維持しながら変調ビームの密度を変化させることに
より波の位相速度を任意に変えることが可能となる.すなわちファン・カンペン波は,たとえば初期条件として波数kを与えたにも関わらず,
周波数ωの固有振動のスペクトラムが連続であることが可能であり,通常の波のように分散式で表現されるような波数kと周波数ωの間に一対
一の関係がないことになる.
van Kampenはさらに,プラズマ中の波はすべてこの固有振動の重ね合わせで表されることを示した.この結果,波数kが一定で連続な周波数
スペクトラムを持つ減衰しないファン・カンペン波を重ね合わせると波の間の位相混合により,ランダウ減衰する波を厳密に再現することがで
きる.
プラズマ・核融合学会用語解説
VMEバス・VXIバス
掲載号 72-4
192
VME/VXI
VMEはボード間のバスであるシステムバスの1つでVMEbus(Versa Module Europe の略,IEC821,IEEE1014)規格を用いた標準バスである.
1982年に最初のVMEボードが市場に登場して以来,マイクロプロセッサの高ビット化,動作周波数の向上,メモリの大規模化に伴って,適用分
野が研究開発用から産業分野に拡大され,供給ベンダー数,将来性等においてぬきんでた存在になっている.特徴としては,ボードサイズはシ
ングルバイト,ダブルバイトがあり最大21枚が実装可能であり,アドレスバス,データバスそれぞれ32 bitが使用できる.マスター,スレーブ間
の転送はハンドシェイクで行われる.アービタと称するバス使用権を与える方式が採用され優先順位付けするプライオリティ方式と循環的な優
先べ一スで割り当てを行うラウンドロビン方式がある.割り込みは優先順位を有する7回線の割り込み要求線が存在し,同一レベルの複数の割
り込みも可能である.VXIバスはモジュラ型計測器の標準化のために.計測バスの追加,通信プロトコルの定義,電源,冷却等が規定され,
VMEバスを拡張したものである.(VMEbus Extension for Instrumentation,IEEEP1155).VME同様すべてのメーカに開放されており,異なるメー
カ機器の共存,相互接続,運用を保証している.モジュール型による小型計量化,高集積化,高速化が可能な標準バスである.
プラズマ・核融合学会用語解説
負イオン源
掲載号 75-6
306
negative ion source
正イオン源はいろいろの物質を電離してプラズマとし,そこからイオンを送り出す装置であるが,通常の放電プラズマ中では負イオンは存在
しにくい.これは負イオンにするために付加した余分の電子の付着力(電子親和力)が1eV程度と非常に弱いので,プラズマ電子との衝突で負
イオンが容易に破壊されるからである.そこで,負イオン生成には工夫がいるが,いくつかの方法がある.二重荷電交換法,表面生成法,体積
生成法などである.
例えば表面生成法は,金属表面において正イオン(あるいは原子)を負イオンに変換する方法である.具体的にはコンバータと呼ばれる金属
板をプラズマ中に置き,負のバイアス電位をかけると,プラズマ中の正イオンがコンバータに加速されて入射する.このイオンまたはイオンに
よりスパッタされた粒子が金属中の電子を得て負イオンに変換され,バイアス電位によりコンバータから加速されてプラズマ中に放出される.
この時コンバータ表面にセシウムなどを吹き付け,表面の仕事関数を下げると負イオンへの変換効率が大幅に上昇する.イオンインプランテー
ションなどの材料プロセスに用いる金属などの各種負イオン源にはこの方式がよく用いられている.
体積生成法とは放電プラズマ中での負イオン生成法であるが (1) 分子の高速電子との衝突による振動(あるいは回転)励起,(2) 励起された分
子と低速のプラズマ電子との解離性付着衝突過程を積極的に利用するものである.この負イオン生成過程は励起分子生成過程と負イオン形成過
程の二段階になっており,しかもそれぞれの過程を最適化する電子のエネルギーが異なるので,磁場(磁気フィルタ)を用いて放電領域を励起
分子生成域と負イオン形成域とに空間的に区分した構造となっている.この方式は水素のような分子状ガスからの負イオン生成に適し,核融合
分野への応用(加熱・電流駆動)を考える負イオン源に広く用いられている.さらに最近のNBI用の大電流負イオン源では,水素放電プラズマ
中にセシウムを添加して,体積生成に加えて上述の表面生成効果によるH^−生成の増大をはかるハイブリッド方式を採るのが普通となってい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
フィッションチャンバ
掲載号 74-3
261
Fission Chamber
核融合炉心プラズマからの中性子を測定するのに広く使用されている検出器である.235 Uのように熱中性子で核分裂を起こす同位元素を使用
するものと,238 Uのように核反応にしきいエネルギーのある同位元素を使用するものとがある.ともに,核分裂反応で発生する荷電粒子のエネ
ルギー総和が,通常の中性子検出器で利用されるボロンやヘリウム3の核反応粒子や反跳陽子に比べて数十倍大きいので,中性子により巨大な
信号を出す.そのため,大線量のX線やγ線の中でも高精度で中性子フラックスを測定することができる.
核融合実験で使用されるタイプは,同心円型の電離箱の外筒の内壁に1g前後の酸化ウランを塗布して密封したものである.中心電極から核分
裂生成物が箱内で引き起こした電離電荷をパルスとして,外筒電極からは電流として検出する.核分裂で発生するエネルギーが大きいので電流
として測定しても十分の精度が得られる.電流とパルス測定の併用で,計数率で6桁以上の広い領域に対応することができ,時間分解の良い測
定ができる.
高感度の235 U核分裂管を使用する時は,検出器の外側をガンマ線遮弊の鉛で,その外側を高速中性子の減速材(ポリエチレン)で囲み,さら
にその外側を熱中性子遮弊材で囲む.このようにして一体化された検出器の絶対感度計数は,プラズマ位置に中性子線源を置いてこう正し,実
験室内のすべての構造物を入力した中性子輸送コードによる計算で補正する.この絶対感度計数の精度が10%程度であり,これが,実験の核融
合出力やQ値の精度となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
Vp ×B加速
掲載号 69-7
099
Vp ×B Acceleration
静磁場に垂直な方向へ針金を移動すると針金の両端に誘導起電力が発生することはよく知られている.この現象は,針金中の自由電子に働く
ローレンツの力によって説明される.このとき,針金は自由電子を一次元的に束縛する役割を担っている.針金が無限に長くしかもその抵抗が
無視できるなら,自由電子は針金に沿って際限なく加速されるであろう.Vp× B 加速の機構はこの誘導起電力の機構と類似している.針金の代
わりに静電波を用いると捕捉の役割は静電ポテンシャルとなる.したがって捕捉された荷電粒子は波面に沿って Vp×Bの方向へ加速される.
Vpは波の位相速度で Bは静磁場である.また遅い横波でも同様の加速機構が存在する.捕捉の役割を担うのは振動磁場のノードとなる磁気中性
面である.波の磁場と同じ方向へ静磁場が印加されていると,磁気中性面に捕捉された荷電粒子は面に沿って加速される.このようにローレン
ツ力によって捕捉粒子が加速されエネルギー利得が Vp とBによって決まり捕捉機構には依存しないことがこの加速の特徴である.理論的に予測
されたこの加速機構の実験的検証は既に行われている.また宇宙空間や実験室プラズマにおける高エネルギー粒子生成の機構,さらには新方式
加速器への応用など幅広い研究が行われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ブートストラップ電流
掲載号 67-2
016
Bootstrap Current
トーラスプラズマ中において,磁場に平行方向に自発的に流れるプラズマ電流.ブートストラップ電流生成の根本原因はバナナ粒子の存在で
あり,ある空間点を考えたとき,密度勾配があるためトーラス方向に走るバナナ粒子と逆向きに走るバナナ粒子との個数が異なり,その結果余
剰のモーメンタムが生じる.周回粒子はバナナ粒子と衝突して余剰のモーメンタムを運び去り,また他の粒子と摩擦しモーメンタムを失う.こ
のバランスから磁場に平行方向の電流が決まる.これがブートストラップ電流である.ブートストラップ電流は新古典理論では,磁場に平行方
向の粘性力と摩擦力とのバランスから導びかれ新古典拡散と密接な関係にあり,拡散誘起電流とも呼ばれる.
ブートストラップ電流はおおよそポロイダル・ベータ値に比例して大きくなる.較的最近になって,TFTR,JET,JT-60等のトカマクで観測さ
れた.へリカル系でも,ATF,CHS,W7-AS等で観測されている.へリカル系のブートストラップ電流の大きな特徴は,磁場配位依存性が非常
に強いことである.“ブートストラップ”の名前は,底なし沼に落ちた自分自身を靴紐を引張って持ち上げた,というほら吹き男爵の冒険の話
[1] に由来すると言われている.しかし,トーラスプラズマのブートストラップ電流は自然に流れる自発電流ではあるが,その誘起のためには
外部からの駆動電流(種電流)を必要とする.ヘリカル系では真空磁場のポロイダル成分が種電流の役をする.
[1] R. E. Raspe : " The Travels and Surprising Adventures ofBaron Munchausen ", Dedalus/Hippocrene 1989 (First published in 1785).
プラズマ・核融合学会用語解説
フーリエ分光
掲載号 74-12
287
Fourier-transform spectroscopy
フーリエ分光法は光の干渉現象を利用した分光法であり,分析すべき光の情報を信号処理可能な低周波数の信号に置き換えて取り扱うことが
できる.光の干渉手段としてマイケルソン干渉計(図:287.gif )が最も多く使われている.光源から出た光は半透鏡により等強度の透過光と反
射光に二分される.分割された二光束は固定鏡と可動鏡(二分された光の光路差を変化させる)により反射され,半透鏡で再び合成される.
原点Pにおいて波長λ(波数k=1/λ)の単色光が二分され,再びPに戻ってくるまでの二光束の光路差をxとする.この際の合成光の出力I
は I (x) = A (1 + cos2πkx) (Aは定数)
と表される.光路差xは,光路差の速度2v(可動鏡の速度vの2倍)でt時間動いたときの変化量2vtであるので,前式は時間の関数として次のよう
にも表せる.
I (t) = A (1 + cos2πft)
すなわち,入射光は干渉計により,光路差の速度2vと単色光の波数kにより決まる周波数f=2vkに変調される.連続光源の場合には,それぞれの
単色光がその波数に比例した周波数に変調されて,出力としてその和の信号が得られる.光路差xを変数として干渉計からの出力を表した関数
の変調成分はインターフェログラム F(x) と呼ばれ,次のように表される.
F(x) =∫B(k) cos2πkx dk
B(k) =∫ F(x) cos2πkx dx
B(k)は,光源から出る光の強度の波数依存性を示す関数である.フーリエ分光法は光を干渉計に入射し,変調された出力をフーリエ変換により
分光する方法である.
プラズマ・核融合学会用語解説
フェライト鋼壁材料
掲載号 75-7
309
Ferritic Steel as Wall Material
将来の核融合炉のブランケット第一壁構造材料として,有力候補である低誘導放射化フェライト鋼を指す.D-T核融合炉では,プラズマから
発生する14 MeVの高速中性子により核融合炉の構造材料が放射化される.そのため,高速中性子下で誘導放射化のレベルの低い材料の開発が重
要である.最も中性子フラックスの条件が厳しいのは,真空容器内のブランケット構造材であり,ここでは低放射化だけでなく,熱伝導性,耐
照射性等に優れた材料が必要となる.低誘導放射化フェライト鋼は,それらの特性を有しており,核融合炉構造材料の候補の一つになってい
る.その組成は,フェライト鋼の合金組成元素の中から,放射化の観点から好ましくない元素を他の元素に(MoをWに)置換することにより,
合金の優れた基本特性を維持しつつ低誘導放射化の実現できるように決められている.日本原子力研究所(原研)とNKKが共同開発したF82H
鋼と,大学と新日本製鐵(株)が共同開発したJLF-1鋼は,IEAの専門家会議でラウンドロビン試験の標準試料に選ばれている.原研で検討してい
る定常トカマク炉(SSTR)においては,フェライト鋼がブランケット構造材料の第一候補材料になっている.
しかしながら,フェライト鋼は強磁性体であり,フェライト鋼が作り出す不整磁場がプラズマ生成・制御および閉じ込め特性に悪い影響を与
えることが懸念されている.一方,磁性体の性質をうまく利用する方法,すなわち,フェライト鋼をトロイダル磁場コイルの内側に挿入して,
磁性体をトロイダル磁場リップルの低減に用いるアイデアもある.低誘導放射化フェライト鋼を実用化するまでには,中性子照射による材料特
性変化,フェライト鋼による不整磁場,トロイダル磁場リップル低減の実証等の評価に加えて,フェライト鋼―プラズマ壁相互作用(フェライ
ト鋼は錆びやすいので,その防錆処理,脱ガス処理,プラズマ高性能化との整合性の取れた最適なコーティング方法等)の課題がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
フェルミ縮退の観測
掲載号 68別冊
072
Observation of Fermi Degeneracy
高速の荷電粒子がプラズマに入射すると,クーロン相互作用によってエネルギーを失い,やがては止まる.逆にプラズマ粒子(主として電
子)は入射荷電粒子からエネルギーを受け取る.受け取った後のエネルギー状態がすでに他の電子によって占有されていると,パウリの排他律
からこのようなエネルギー遷移は禁止されてしまう.このようにしてフェルミ縮退したプラズマでは荷電粒子の阻止能が低下する.さらに,同
一の温度のマクスウェル分布と比較した場合には,運動エネルギーが高いのでクーロン相互作用が起こりにくくなり,阻止能が低下する.この
性質を利用してフェルミ縮退の観測を行うことができる.D-D反応で生まれる1MeV の三重水素を阻止能測定のテスト粒子を考える.三重水素
はプラズマ中でエネルギーを失い止まるまでの間に,再び重水素と二次反応を起こす.プラズマが縮退して阻止能が低くなると,三重水素は長
い距離を飛ぶことができ,それだけ二次反応を起こす回数も増える.したがって二次反応数から縮退の度合を知ることができる.
プラズマ・核融合学会用語解説
フォッカープランク方程式
掲載号 73-2
221
Fokker-Planck Equation
ある系の状態が変数の組{Xi}により決定されるとき,{Xi}が{Xi}と{Xi+ΔXi}にある確率をP({Xi},t)としたときの,確率分布
関数P({Xi},t)に対する時間発展を記述する方程式で,以下の式となる.
ここで,Fi=ΣΔXi/Δtはドリフトまたは摩擦係数,Dij=Σ(ΔXiΔXj)/(2Δt)は拡散係数で,Σは時間Δt内に生じる変化についての和
を意味する.式(1)は一般的には,微小量ΔXi(およびΔt)についての展開項に関して,さらに高次の項を含み得るが,それらが第1項(=摩
擦項)および第2項(=拡散項)に対して無視できる場合に得られる表式である.フォッカープランク方程式という呼び名は,A. D. Fokker
(1914)およびM. Planck(1917)がブラウン運動を記述するために用いたことに由来する.プラズマ物理の分野では,クーロン衝突による微小
角散乱の効果を確率論的に取り扱い,式(1)の右辺の形の衝突項(=フォッカープランク項)を有する,速度(あるいは運動量)分布関数に
対する時間発展方程式をフォッカープランク方程式という.また,その数値計算コードであるフォッカープランクコードは,プラズマ加熱過程
における粒子のピッチ角散乱およびエネルギー緩和解析等に用いられる.
式(1):221eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
複雑性の科学
掲載号 70-8
132
Science of Complexity
“複雑性(Complexity)”あるいは“複雑系(Complex System)"の科学とも呼ばれている.従来の科学は,“自然は要素から構成されている"
という西洋の根本思想に従って,より基本的な要素を明らかにすることによって,その構造物たる自然を把捉できるという要素還元論に依拠し
ていた.従来の素粒子論が正にその典型である.しかしながら,すべての素粒子が解明されたとしても自然の営みが理解できたとは決して実感
できない.いまだに地震は予知できず,台風の振舞いさえ予測できない.ミクロ・マクロな相互作用が強く弱く総合的に働くことによって現出
する自然の営みを自然のまま理解し,そこに偶然でない普遍的法則性を探究していく新しい壮大な学問である.
複雑性という用語が最初に用いられたのは生物学だといわれている.生物の発生,進化は単純ではなく異質なるものが複雑相互作用しながら
発展する.しかも,その発展にはデタラメでない何らかの性質を有している.これらの性質は数学的言語だけでは表現できない.複雑性の研究
を通して新しい表現法の開発も同時に行っていくことが必要となる.分岐,カオス,フラクタル,なども複雑性にかかわる一つの側面であり,
これらの性質も含め多様な非線形性質が複合して現われる秩序の発生・形成は複雑性の科学の中心課題である.その意味でプラズマにおける自
己組織化の研究も複雑性の科学の発展に大きく加担しているといえる.
プラズマ・核融合学会用語解説
輻射閉じ込め
掲載号 68別冊
067
Radiation Confinement
慣性閉じ込め核融合における間接駆動爆縮では,ドライバーエネルギーを一度軟X線に変換し,これにより燃料ペレットを加熱している.一
般に,間接駆動爆縮のターゲットは燃料ペレットのまわりを高Z物質からなるシェルが囲んだ二重殻構造となる.外側のシェル(キャビティと
も呼ばれる)はドライバーエネルギーをX線に変換する役割と,このX線をシェル内に閉じ込め燃料球を均一かつ効率よく加熱する役割を持
つ.キャビティの開口比(キャビティ全表面積に対する開口部面積の比)が低く,壁の再放射率が高いほど効率よく光子をキャビティ内に閉じ
込めることができ,したがってキャビティ損は少なくなる.輻射閉じ込めを定量評価する上で重要なのが,キャビティ壁の再放射率(アルベ
ド)である.これを r とするとN=r/(1−r)で与えられる量(閉じ込め係数)はキャビティ内を巡るX線光子が消滅するまでの“反射”回数
に相当する.定常的な輻射源があると,この閉じ込め係数が大きいほどキャビティ内の光子数は増大し(すなわちX線熱束は増し)内球の照射
強度とエネルギー伝達効率とをともに高めることができる.激光 XII 号による爆縮実験ではこの輻射閉じ込めにより r = 84 %(N = 5.3),プ
ランクの輻射温度 240 eV が達成されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
輻射熱伝導波
掲載号 68別冊
068
Radiation Heat Wave
プラズマ中の輻射熱伝導は非線形である.熱伝導率は温度の 4∼6 乗に比例する.したがって輻射熱伝導領域の温度プロファイルは急峻な波
頭を持つ衝撃波状の構造となり,波頭は有限の速度で伝播する.この熱輸送形態を輻射熱伝導波と呼ぶ.真空中の物質表面から内部へ向って輻
射熱伝導波が伝播するとき,高温部分は真空中へ噴き出す.この現象を輻射駆動アブレーションと呼ぶ.輻射熱伝導波の概念は輻射輸送の拡散
近似に基づいており,その前提条件は物質内で輻射の吸収・再放射が操り返され輻射場が等方的に近いことである.実際にはこの条件が満たさ
れない場合もある.物質を外部輻射で加熱する場合,外部輻射が高温部分で充分吸収されないときは外部輻射が内側の低温部分を直接加熱す
る.そのような状況では高温部分があまり加熱されず高温部分と低温部分との境界近傍が集中的に加熱されるため,結果として温度プロファイ
ルは輻射熱伝導波の場合に近いものとなる.このようなエネルギー輸送形態は前者の Heat Wave と区別され,Heating Wave と呼ばれる.物質の
原子番号が低いほど,また加熱の初期ほど後者の形態をとりやすい.
プラズマ・核融合学会用語解説
負磁気シア
掲載号 75-5
303
Negative Magnetic Shear
トーラス系のプラズマ閉じ込め磁場配位において,磁気シアが負となること。ここで,磁気シアsは,隣り合う磁気面における磁力線の捻れ
具合を表し,安全係数 q と体積平均小半径 ρ を用いて s = (ρ/q) dq / dρで定義される.通常のトカマクにおいては,電流分布は中心(磁気軸)
で最大となる凸状の分布で,qはρの単調増加関数であり,s はいたるところで正となる.何らかの方法で電流分布を凹状とすると,q が極小値
qminを持つようになり,その内側は,q がρの減少関数でsが負となる負磁気シア領域となる.負磁気シア領域を有するこのような配位を負磁気
シア配位あるいは反転磁気シア(reversed magnetic shear)配位と呼んでいる.
負磁気シア配位は,高い自発電流割合との整合性がよく,定常トカマク炉に適した配位と考えられている.また,負磁気シア領域では短波長
の理想バルーニングモードが安定となるため,高い圧力勾配を取れる可能性がある.さらに,負磁気シアにより捕捉粒子不安定性等の微視的
モードが安定化され,輸送が低減することが理論的に予想されていたが,実験により負磁気シア配位での輸送の顕著な低減(内部輸送障壁の形
成)およびそれに伴う大幅な閉じ込め改善が観測され,注目を集めるようになった.内部輸送障壁は正磁気シア配位でも形成されることがあ
り,その形成における負磁気シアの役割は必ずしも明白ではなく,むしろE×Bフローのシアによる安定化効果により議論されることが多いが,
実験的には負磁気シア配位においてより急峻な圧力勾配(より大きな輸送の低減)が観測される傾向にある.急峻な圧力勾配がqmin近傍の弱シ
ア領域にあるとMHD不安定となりやすいので,高ベータ,高閉じ込めの負磁気シア配位の定常維持のためには圧力分布や電流分布の制御が重要
である. プラズマ・核融合学会用語解説
物理スパッタリング
掲載号 67-3
021
Physical Sputtering
スパッタリングは,一般にイオンビーム衝撃による固体表面からの原子や分子等の粒子放出現象として定義されている.この現象は,約130
年前放電管の陰極からのガラス壁への金属膜の付着として発見された.今日では材料科学,真空表面科学,字宙科学,核融合工学などの広い分
野で研究および応用されている.標記の物理スパッタリングは,入射イオンの固体内で引き起こす連鎖的な弾性散乱衝突により表面から粒子が
放出されることをさしていて,希ガスイオンによる金属や半導体表面からの粒子放出の主過程である.したがって入射イオンあたりの放出原子
の個数(収率)は,keV エネルギー領域ではイオンの標的原子との弾性衝突によるエネルギ一損失にほぼ比例している.また放出原子のエネル
ギースペクトルのピークエネルギーが表面における原子の結合エネルギーの半分に等しいことで特徴づけられる.さらに放出粒子のエネルギー
スペクトルの高エネルギーテイルが1/E2 に比例する特長を有する.
プラズマ・核融合学会用語解説
部分コヒーレント光
掲載号 68別冊
077
Patrially Coherent Light
コヒーレント光とは,干渉性をもつ光を意味し,位相のそろった波束が時間的に長く保たれている光をさす.レーザー光はその典型である.
また干渉性のまったくない光を,インコヒーレント光といい,インコヒーレント光に近いものとして白熱球からの光や太陽の光があげられる.
しかしレーザー光でも,完全なコヒーレント光ではなく,有限の時間で位相がシフトし,有限の干渉性を有する.完全なコヒーレント光とイン
コヒイーレント光の中間の状態の光を,部分コヒーレント光(Partially Coherent Light)という.部分コヒーレント光は,干渉性が低減している
ためレーザー強度分布の一様性を改善できることやレーザー光の伝播ゆらぎによって発生する時間的な強度変調(レーザー光がキラキラとして
見える現象)が改善される効果を持つ.レーザー核融合では,高密度爆縮を達成するために燃料ターゲット球への均一なレーザー光照射が不可
欠である.近年,燃料ターゲット球への照射均一性を高める手法として,部分コヒーレント光を用いることにより良い成果が得られている.爆
縮実験のための部分コヒーレント光としては,a)レーザー発振器からの自然放出増幅光(Amplified Sponteous Emission:ASE)や,b)レーザー
発振器のレーザー光をマルチモードファイバーに通過させ,ファイバー内のランダムな反射・伝播によって得られた出射光などが用いられてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
フラーレン
掲載号 73-12
251
Fullerene
炭素原子が中空球殻状に結合した分子をフラーレンと呼び,その代表がサッカーボール型炭素分子C60 である.著名な建築家 Buckminster
Fuller (多角形の柱を用いたドーム状建物で有名)に因んでこの名前が付けられた.この分子の発見は,イギリス・サセックス大学の星間分子研
究家, H. W. Kroto博士とアメリカ・ライス大学のクラスタービーム研究家のR. E. Smalley 博士らによって1985年に偶然なされた.彼らは,宇宙
で合成される炭素分子の模擬実験として,ヘリウムガス中で炭素板に高エネルギー密度のレーザーを当て,蒸発した炭素分子の質量分析を行
い,C60分子が他の分子より大量に作られることを発見した.当初,分析できる量が合成できなかったが,1990年にドイツ・マックスプランク
研究所のW. Kraetschmer 博士とアリゾナ大学のD. R. Huffman 博士が,ヘリウムガス中炭素導体の抵抗加熱により大量合成に成功した.有機溶媒
による抽出や核磁気共鳴などによる分子構造の決定もすぐに行われた.分子構造は,五角形と六角形よりなる多面体であり,すべての炭素原子
が不飽和結合を持たない時,安定構造となる.各種フラーレンや金属原子が殻中に入った金属内包フラーレンの大量合成法には,ヘリウムガス
中アーク放電法が最も優れている.一方,各種フラーレン誘導体,フラーレンイオン,炭素ナノチューブ,炭素ナノカプセルなどの研究も盛ん
である.
プラズマ・核融合学会用語解説
フラクタル
掲載号 70-1
112
Fractal
Koch曲線(図参照)のように図形の一部を拡大すると元の図形と一致することを自己相似という.数学者Mandelbrotは自己相似性を持った幾
何学をフラククル幾何学と命名した(語源はラテン語fructus:不規則に壊れた
破片の状態).そうした図形をフラクタル図形という.
下部構造も上部構造も同一のルールで構成されているなら,部分が全体に等しいことを意味し,フラクタルになる.フラクタル図形は限りな
く細かい構造を持つことになり,特徴的なスケールが存在しない.羃関数もスケール
変換(時間あるいは空間の基準尺度の変更)に対して不変なので特徴的スケールを持たない.両者は密接な関係を持ち,フラクタルには羃則
(羃関数で記述される法則)の性質が伴うことになる.これを利用してフラククル図形の次元(フラクタル次元)が定義される.Koch曲線は,
スケールを3倍にすると“長さ”は4倍になるので,そのフラククル次元はln4/ln3=1.2618…と非整数になる.フラクタル次元の定義法には他に
もいくつかあるが,いずれも,通常の曲線の次元は1,平面の次元は2となる.
自然界では相転移,強い乱流,カオスなどにフラクタル的性質が現れる.現象の全貌がつかめない場合は,一つの物理量の時系列データを利
用する.時系列データから計算される相関次元を求めることにより,現象がカオスであるのか,カオスであるならその自由度はどのくらいかの
情報が得られる.
参考文献を下記する.
[1]B.B.Mandelbrot:The Fractal Geometry of Nature(Freeman and Co.,1977).
[2]高安秀樹:フラクタル(朝倉書店,1986).
図:112.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマアンジュレータ
掲載号 72-10
210
Plasma Undulator
光速に近い電子ビームから放射光を得る方法には,アンジュレータ装置を用いるものがある.電子ビームを,交番磁場に直交させることによ
り左右に振り,蛇行させると,そのピッチに比例し,電子ビームのエネルギーの2乗に反比例した波長の光が前方に放射される.従来の永久磁
石を多数並べる方式では,数cmのピッチが限界で,短波長放射光(X線領域)を得ようとすると GeVオーダの電子ビームが必要となる.そこで
考え出された一つの提案が,永久磁石の代わりにプラズマの密度リップルやプラズマ波を用いるもので,これにより10μm 程度のピッチが可能
となる.つまり,ピッチが1万分の1になるので電子エネルギーは100分の1(費用も)ですむ計算となる.また,卓上の超小型アンジュレータと
なる.
光速で走るプラズマ波(縦波)を電子ビームと直交させると,電子ビームに交番電場が作用し,それを蛇行させることが想像できる.プラズ
マ波の励起には,超短パルスレーザー光を用いる.一方,密度リップルを静的に作り,それに電子の塊を斜交させると,密度リップルの表面に
鏡映電荷が誘起され,それが静電場を生じさせる.その電場の直交成分は電子を蛇行させる力となる.高密度リップルが必要となるため,レー
ザー干渉系により,リップルを作り,共鳴イオン化法でプラズマを作る方法が考え出されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマエッチング
掲載号 74-8
276
Plasma Etching
プラズマエッチングは,半導体集積回路製造において半導体,絶縁物,金属等をプラズマを用いてエッチングする技術である.プラズマエッ
チングでは,放電を用いて数万度に匹敵する状態を実現させ,化学的に活性なイオンラジカルを生成し,それらを利用することにより,エッチ
ング反応を低温で起こさせることができる.プロセスプラズマのガスの種類としては,絶縁材の酸化シリコン(SiO2 )のエッチングにはフルオロ
カーボン(CF4 , C4 F8 等),配線・電極に使われるAl・多結晶シリコンには塩素等が使われる.
半導体集積回路は微細化が進み,0.3 - 0.4μmの寸法での加工が量産化の段階に入っており,0.1- 0.2μmをめざして研究が進められている.
エッチングプロセスにおいては,微細化の過程で,加工の異方性(エッチングにおける横方向に対する深さ方向の比)とか下地またはマスク材
に対するエッチングの高選択性が求められる.また,経済性からエッチング速度の向上,均一性を保っての大面積エッチング,低損傷等の条件
も要求され,大面積均一プラズマの生成が課題になっている.
異方性エッチングには,イオンが基板前面のシースで加速され,基板に方向性をもって入射してエッチングを促進する効果を利用するため,
衝突の影響が少ない低ガス圧力・高密度プラズマ(数10mTorr以下,1011-1012 cm-3)が使われる.高選択性は,材質に依存する化学的反応性の違
いを利用して達成される.例えば, C44F8 とかCF4にH2 を添加したフルオロカーボンプラズマによる下地Siに対するSiO2 のエッチングの場合,
SiO2 表面ではCFxラジカルとの反応によりSiF4,CO,COF2 等の揮発性物質が生成され,フルオロカーボン膜が形成されないのでエッチングが進
む.しかし,Si表面に達すると酸素がないために保護膜ができてエッチングが止まり,大きな選択比が得られる.なお,基板への正イオンと電
子の粒子束に不均一があると,基板にチャージアップが生じ,素子の放電破壊やイオンビーム軌道の歪みによる形状異常をもたらす.この問題
は,負イオンを多く含むプラズマを使うことにより軽減できると言われており,負イオンエッチングが注目されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマCVD
掲載号 66-1シーブイ
003
Plasma Chemical Vapor Deposition
薄膜作成法は大別すると,物理的方法と化学的方法に分けられる.前者は,真空蒸 着法やスパッタリングにより飛来した物質が基板上に堆積
するもので,物理的蒸着 (Physical Vapor Deposition,PVD)と称される.後者は,水素化物などをなんらかの方法で分解して活性種をつくり,それ
らが基板表面で反応・堆積するもので,化学的相堆積 (Chemical Vapor Deposition,CVD) と称される.シリコン単結晶はCVD法によって製造さ
れ,SiH (気体) を900℃以上に加熱,分解して結晶成長させる.この熱分解による場合を熱CVDと呼ぶのに対して,放電プラズマによって気体を
分解する場合を,プラズマCVD (Plasma CVD,Plasma-assisted CVD,Plasma-enhanced CVD) と呼ぶ.例えば SiH放電を行うと ,高エネルギー電子
との衝突解難によって発生した SiH 等の活性種の表面反応によって,シリコン薄膜ができる.低温・ドライプロセスであるプラズマCVD法は,
半導 体製造などに広く実用されたいる.また,大面積薄膜を容易に作成できるので,核融合炉第一壁のin-situコーティングにも採用されてい
る.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマジェット
掲載号 75-1
291
Plasma Jet
中心部に開口部を設けた陽極を使ってアーク放電を起こさせると,陰極と反対側の方向に向かって開口部からアークプラズマが噴出する.こ
のためプラズマジェット内部には正味の電流が流れていない.プラズマの温度は最高で20,000K程度が得られる.アーク噴出口から高速ガス流
をともなうようにしたものもあり,アークプラズマの長さは1∼10cm程度である.これが
プラズマジェットで,その形からプラズマトーチとも呼ばれている.さまざまな応用に対応してプラズマ噴出部となる陽極はノズル構造とする
場合が多く,陰極には炭素,タングステンなど高融点の材料が用いられ,水流による強制冷却も行われる.プラズマジェットには直流だけでな
く,交流のアーク放電も使われるが.交流の場合では電極の消耗,アークの安定性などの問題
点もある.
対向する電極も不要で,高温のプラズマ流が穴の外部に噴出するので,導体あるいは絶縁体をとわず高融点の材料の切断や加工に利用されて
いる.また,アスベスト,医療ゴミなどの有害物質や放射性廃棄物の高温処理にも適用されている.ノズル先端部付近においてプラズマジェッ
ト中に粉体を加えて,高速のガス流で加速された粉体をプラズマ内で溶融させ,固体表面に照射して膜を形成するがプラズマ溶射である.これ
はセラミックスなど融点の高い材料の成膜技術として開発された.放電管の周囲にコイルを巻き,誘
導結合で高周波電源からの電力で放電管内に流れているガスをプラズマ化する高周波トーチもある.これは無電極の放電であり,有毒ガスや排
ガスの処理に使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマ診断
掲載号 72-12
215
Plasma Diagnostic
「診断」という言葉は,本来医学用語であり,医師が患者を診察して病状を判断することであるが,「患者」を「プラズマ」に置き換えるこ
とにより,おおよその「プラズマ診断」(Plasma Diagnostics の直訳)という言葉の意味を理解することができる.したがって多種多様な計測機
器もしくは計測手法を用いてプラズマを診断することとなるが,そこには診断した結果をフィードバックすることにより(特に核融合分野にお
いては)現実のプラズマをより理想の形に近づけたいという願望が含まれている場合が多い.一方,「プラズマ計測」は,プラズマの諸物理量
(特に温度,密度のようなプラズマパラメータ)を体系的に計測し,その振る舞いをより物理的に理解しようとするものであり,多くの場合,
得られた結果に対し理論的な説明(もしくはモデル)を追及する.「プラズマ計測」は日本語における造語であり,(プラズマを計測すること
はできないので)これに対応する英語は見あたらない.科学論文では,日本語では主に「プラズマ計測」,英語では「Plasma Diagnostics」が用
いられる.「diagnose」(診断する)という動詞は特別な場合を除いてほとんど用いられない.なお,「プラズマ測定」は測るという意味合い
がより強いため,近年ほとんど用いられることがなくなった.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマ振動
掲載号 66-2
006
Plasma Oscillation
一様なプラズマ中の電子の空間分布に何か局所的な祖密ができると,その局所的電荷分布に伴う静電場が電子を加速し,祖密をなくす方向に
運動させる.ところが電子には慣性があるため,初めの祖密がなくなっても運動が止まらず,行きすぎて逆の向きの粗密をつくる.そしてま
た,その新しい粗密をなくす方向に加速される.これが繰り返されて振動となり,また,それが波動として伝播する.これがプラズマ振動と呼
ばれる高周波の縦波で,1930年前後にラングミュアによって初めて世に出され,プラズマ物理学の始まりとなった現象である.プラズマ振動は
波長が長い場合は電子密度 の1/2乗に比例する一定の振動数でほとんど減衰なしに伝播する.この振動数をプラズマ振動数あるいは電子プラズ
マ振動数と呼び,ωp =(e2 ne/ε0 me) 1/2と表される.ここにne は電子密度,me は電子の質量, e は電荷,ε0 は真空の誘電率である.しかし,波長
が短くなり,デバイ長の程度以下になると,プラズマ中の粒子間の衝突 が無視できるほど少ない場合でも散逸なしに波が強く減衰するという,
物理的におもしろい現象が起きる (ランダウ減衰) .プラズマ振動はプラズマ中の最も典型的な振動であって,その非線形の振る舞いも含めて最
も調べられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマディスプレイ
掲載号 68-2
036
Plasma Display
プラズマディスプレイとは,ガス放電を用いて文字や図形などを表示するためのフラットディスプレイデバイスをいう.現在,液晶,EL(エ
レクトロルミネセンス)を用いたディスプレイデバイスとともに,ラップトップ型のパソコンなどに広く用いられている.このデバイスは,パ
ネルの構造により,交流(AC)型と直流(DC)型に大別できる.AC型は,多数のマトリックス状の透明な電極(X,Y)の表面を誘電体
(ソーダガラス)とその保護および低電圧化のためにMgO膜で被覆し,放電空間(間隙:100μm 程度)にはNeを主に小量のArやXeガスを数
100 Torr 封入してある.パネルは10 - 100 kHz(残留電荷:壁電圧の効果を利用したメモリ型)または100 - 500kHz(リフレッシュ型)の交流電
圧(振幅:100 V位)で駆動する.表示にはこのとき放射されるNeの発光(585.6 nm)を用いている.
一方DC型は電極(X:陽極,Y:陰極:Ni)を放電空間に露出させ,Y方向に放電空間を間仕切りして,Ne+Ar,He+Xeなどの希ガスが数
100 Torr 封入してある.応答速度の向上と低電圧化のために補助陽極を設け,陰極との間で補助放電を発生させている.Neの発光を用いたデ
バイスが実用化されているが,ハイビジョン用カラーTVをめざして,現在33インチのカラーTVも試作されている.カラー表示には,残留電荷
効果を利用したパルスメモリ駆動方式(パルス幅:0.3μs,周期:4μs,振幅:250 V 位)を用い,この時放射される真空紫外光(Xe:147,
170 nm)で三色(赤,緑,青)の蛍光体を励起発光させる方法が用いられている.カラー表示では,発光効率の向上・長寿命化・高輝度化が主
な課題になっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマフォーカス
掲載号 70-10
138
Plasma Focus
プラズマフォーカスには,図(138.gif)のような2つの方式がある.どちらも同軸電極間に電圧を加えると,まず電極を隔てる絶縁物表面に沿っ
て放電が始まり,シート状プラズマが生成され,かつ電極先端に向かって加速される.次に半径方向に収縮してプラズマ柱を形成する.最大圧
縮時でプラズマは,温度∼数keV,密度∼1020/ccとなるが,数10nsで崩壊する.その際,電流の方向にイオンビーム,その逆の方向には電子
ビームが発生する.通常のZピンチとの違いは,ピンチ開始時にすでに大きなプラズマ電流が流れていることにある.電源のコンデンサはkJか
らMJまでさまざまである.かつては核融合炉や中性子源として研究されたが,プラズマ発生時に高Z元素を加えると高次電離イオンの生成が容
易なので,現在ではこれによる高強度軟X線源の開発およびその応用に興味が集中している.
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマメーザ
掲載号 73-4
229
Plasma Maser
プラズマ中に電子と共鳴する共鳴場(その角周波数をω, 波数をkとする)と共鳴条件を満たさない非共鳴場(角周波数Ω, 波数k)が存在する
ときの電子と非共鳴場の非線形相互作用をさす.したがってプラズマメーザの条件は
ω=k・v,Ω≠K・v,Ω±ω≠(K±k)・v
であり,電子と共鳴場間の準線形相互作用と共存する非線形過程である.換言すると,プラズマ中の最低次のモード間結合はよく知られてい
る,三波共鳴過程,非線形散乱過程とプラズマメーザの三種類である.理論の予測は20年ほど前に日本とロシアで独立になされ,その後の多く
の研究の結果,プラズマメーザの発現には外磁場による空間の非等方性や,空間的な不均一性等が必要であることが判明している[1] . プラズ
マメーザでは他の過程と異なり波動の量子数のみで定義されたマンリー・ローの関係式は成り立たず,代わりに共鳴粒子が運ぶ実効的な量子数
をも含んだ一般化されたマンリー・ローの関係式が成り立つ[2]. このため,電子に反転分布が存在しないプラズマ中でも波動のエネルギーが
低周波モードから高周波モードへの上方変位が可能である.最近,坂井純一教授のグループ(富山大学)の計算機実験でその特徴が確認され
た.
[1] M. Nambu, Plasma Physics Reports 22, 754(1996).
[2] B. Saikia et.al., Phys. Plasmas 2, 1746(1995).
プラズマ・核融合学会用語解説
プラズマレンズ
掲載号 72-10
209
Plasma Lens
ここで言うレンズとは荷電粒子を収束させるもので,常識的には磁気レンズをさす.プラズマを使うと,ビーム内の荷電粒子密度が大きけれ
ば,磁気レンズに比べけた違いに大きな収束力が期待できる.また四重極磁気レンズが水平(垂直)方向にビームを収束するときには垂直(水
平)方向にビームを発散させるのに対し,プラズマレンズの収束は等方的である.実現は簡単で,ビームのとおり道にプラズマを置けばよい.
相対論的なビームの半径は,ビーム電流が作る磁場による収束と,ビーム内部の電荷の反発力との釣り合いで決まっている.たとえば電子ビー
ムがプラズマに入ると,プラズマ電子はこれを嫌って逃げてしまう.残ったイオンの電荷がビーム電子の電荷を相殺する.この結果電子ビーム
の磁場による集束力だけが残り,ビームは収束する.容易に類推できるように,プラズマレンズは陽電子ビームに対しても有効である.衝突型
線形加速器ではこのプラズマレンズを衝突点に置き,ビームサイズを小さくして衝突確率を大きくすることが検討されている.この他,ピンチ
などを用い,外部からプラズマ電流を供給してプラズマレンズを実現する方法もある.
プラズマ・核融合学会用語解説
ブラゾフ方程式
掲載号 70-3
117
Vlasov Equation
プラズマ中の荷電粒子の位置と分布関数f(r,v;t)の時間変化を支配する運動学的方程式の一つの形.1938年にプラズマ振動を論ずる一つの論文
の中でブラソフ(A.A.Vlasov)が初めて導入したのでこの名前がある.その特徴は,個々の荷電粒子が受けるカとして(他の粒子との「衝突」
の効果を無視して)その位置でのマクロな電場や磁場から受ける力のみを採り,その電場や磁場には外場の他にf(r,v;t)から計算されるプラズマ
自身の電荷や電流が作る場も含め,それらの場はマックスウェル方程式を用いて定める,として,それだけで閉じた方程式系を作っているとこ
ろに
ある.荷電粒子の間の相互作用が長距離カであるクーロンカで担われているため,核融合などで研究対象とされる通常の高温低密度のプラズマ
では,個々の粒子の間の「衝突」よりもそれらの粒子が群れをなして運動するために生ずるマクロな電場や磁場を通しての効果の方がはるかに
大きく,それがプラズマの主な性質を支配している.ブラソフ方程式はこの「プラズマらしさ」を最もよく体現した方程式として広く用いられ
ている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ブランケット
掲載号 68-3
037
Blanket
核融合炉において,プラズマ炉心をとりまく部分(本来は“毛布”という意味)であり,(1) D+T核融合反応で生成する中性子からトリチウ
ムを生産するという働きと(2) 高速中性子の熱化に伴なう熱発生という大きく2つの作用がある.トリチウムの生産にはLiとの核反応を用いる方
法が有望であり,そのため,Liを含んだ物質がブランケット材料(増殖材料)として使われる.Li2 Oなどの固体増殖材と液体Li,Li17Pb83 などの
液体増殖材に大別される.生産されたトリチウムは,トリチウムインベントリを低くおさえるために効率よく回収されねばならない.また,発
生した熱は冷却材(水,ガス,あるいは液体増殖材が兼ねることもある)により除去(熱輸送)され,商用炉の場合には発電に供される.すな
わち,ブランケットは商用炉の場合にエネルギー発生の重要な機器となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ブリスタリング
掲載号 69-7
097
Blistering
高エネルギーイオンを固体表面に1017−1018ions/cm2 程度打ち込むと,特徴的な剥離現象が観察される.これには2種類あり,局所的な現象を
ブリスタリングと呼び,もっと広範囲に,場合によってはイオンを打ち込まれた領域全体に亘ってほとんど一様に剥難する場合をフレイキング
と呼んでいる.これらの現象は高エネルギーイオンによる固体の損傷の典型的なものである.その特徴は,電子線や中性子線による損傷が比較
的単純な,少数の欠陥が関与するのに対し,これらは局部的に原子濃度の10%以上にも達する高濃度のイオンや格子欠陥が関与することであ
る.また,これらは固体の物理的および機械的性質に依存する複雑な現象であるが,特に固体中の空格子点が動かない低温領域でも観察され,
ボイドが見られるような高温領域ではむしろ形成されがたくなる特徴がある.また重要なことは,ブリスターやフレイキングの形成には明確な
臨界照射量が存在し,またその値はイオンエネルギーに依存する.その形成機構に関しては,固体表面層内に蓄積されたガスの内圧による明解
な説明がなされている.
図:
(a)450keV,8×1017 Ne+/cm2 照射によるNb(100)面上のブリスタリング.
(b)300keV,1×1018 He+/cm2 照射によるNb(111)面上のフレイキング.
プラズマ・核融合学会用語解説
フリップフロップ効果
掲載号 71-8 169
Flip-Flop Effect
フリップフロップは,一般的には,電気回路で言うところの双安定性回路で用いられる用語だが,ここではプラズマ中の微粒子の帯電現象を
表す言葉として紹介する.微粒子を含むプラズマ(ダストプラズマ)においては,一般には,微粒子は電子の付着等によって負に帯電する性質
がある.これに対し,衝突する電子のエネルギーが高くなると二次電子が放出され,微粒子は正に帯電することがある.この過程は,入射電子
のエネルギー,平均的には電子温度に対し,ヒステリシスを持った依存性を有する.すなわち,負に帯電した微粒子に対し,電子温度を徐々に
上げていくと,ある温度で微粒子は突然正の荷電状態に変化し,一方,逆にこの状態から温度を下げていくと,正の荷電状態をしばらく保った
後,突然,負の荷電状態に移行する.電荷量としては正負とも電気素量の数百から数千倍である.この理論はN. Meyer-Vemet[1] によって提案さ
れ,バタバタと荷電状態が変わることから,フリップフロップ効果と名付けられた.この効果は微粒子同士の融合効果と相まって,木星や土星
の環における「ヒゲ構造」や「スポーク構造」など,ダストプラズマにおける構造形成に大きな役割を果たしていると考えられる.
[1]Astronomy and Astrophysics 105, 98(1982).
プラズマ・核融合学会用語解説
分散式
掲載号 72-12
217
Dispersion Relation
分散(Dispersion)とは元来,媒質中に伝わる波の伝搬速度が振動数により異なる現象を指し,文部省学術用語集によると,分散関係
(Dispersion relation),分散式(Dispersion formula)と分けて記載されている.プラズマの教科書の多くでは両者を分けず,Dispersionrelation,対
応して分散式の用語が慣用されている.
プラズマの分散式は線型波動についてよく研究されてきた.空間的に一様な場合,波に伴う物理量を波数ベクトルk,振動数ωを導入してexp[
i(k・r -ωt)] と表して一次摂動量とみなし,プラズマ構成粒子に関する力学的方程式(粒子的,流体的,あるいは統計的とプラズマの描像に
よる)とマックスウェル方程式とを運立させて解き,最終的に分散式D(ω,k) =0を導くのが基本的手法である.複素根は減衰または不安定性
を表す.
ランダウ減衰に代表される粒子・相互作用を含む分散式は,厳密には時間についてラプラス変換を用いて導かれる.また,圧力勾配によるド
リフト波や,複雑な磁場中の波は,局所モード近似による分散式を除いて,一般に,波動方程式を立て境界値問題を解かねばならない.
プラズマ・核融合学会用語解説
平均イオンモデル
掲載号 68別冊
074
Average Ion Model
平均原子モデル(Average atom model)ともいう.高温プラズマが部分電離状態にあるとき,イオン内の束縛電子は,膨大な数の電子配置を取
り得る.束縛電子の数と共にこの数は急速に増大する.プラズマの束縛電子状態の分布を求めるには,原理的には考え得るすべての電子配置に
対し,その全電子波動関数を求め,量子状態を同定し,各電子配置を取るイオンの割合を統計的に求めていく必要がある.しかし,これは一般
に不可能である.平均イオンモデルは束縛電子の状態を有限個の量子状態 {k} を使って近似し,k-状態に存在する電子の数の統計平均値Pk を求
めて束縛電子の状態を記述する.このとき k-状態に電子の存在する確率xk は,xk=Pk/gk で与えられる.ここでgkはk-状態の縮重度.たと
えば,電離・再結合過程を調べるレート方程式についても,N 個の量子状態を考え,Pk(k=1・・・N)に対するN個の方程式を解いてPk を求
める.平均電離度*は式(1)として求まる.このようにして求まる平均イオンでは,線スペクトルの波長は実際には多数の線スペクトル群の
集まりの中心位置しか与えず,物質のオパシティ等を求めるにはさらに工夫が必要である.
式(1)
プラズマ・核融合学会用語解説
ベータ値
掲載号 69-12
111
β-value
プラズマの磁気閉じ込めにおいて,プラズマの持つ圧力Pと,これを保持するために用いられる外部磁場 Bの圧力との比,β=P/(B2 /2μ
20
0 )をベータ値と呼ぶ.磁場によるプラズマの保持効率を表す基本パラメータのひとつである.例えば,イオンおよび電子の密度がともに10 m
-3
,温度が10 kevのプラズマがあり,B=2Tの磁場によって保持されているとすれば,P∼3.2×105 Pa,B2 /2μ0 ∼1.6×106 Paであり,β∼20%
となる.
圧力平衡だけをみると一般にβ≦1である.しかし多くの場合,磁場の形状,プラズマの温度・密度の分布,等に関連した各種不安定性のた
め,ベータ値の上限はさらに厳しく抑えられる.このような不安定機構を解明し,実際の配位において実現可能なペータ値の向上を図ること
は,将来の核融合炉における効率化の見地からもきわめて有意義である.
具体的な磁場形状で言えば,直線型磁場(ミラー等)や反転磁場(FRC等)では,数10%の高ベータプラズマの生成が期待されている.一
方,環状型磁場では,高ベータ化の条件はもっと厳しいが,最近のトカマク実験では平均ペータ値として約10%の値が報告されている.また,
ヘリカル系では2%を越える値が得られている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ペニング効果
掲載号 75-2
294
Penning Effect
1937年にKruithofと PenningはNeにArを0.1%混ぜるだけで,放電開始電圧が800 Vから200 Vまで下がることを見出し,これを以下に述べるよう
に準安定粒子の関与により説明した.そこで,このようにあるガスに特定のガスを微量混合すると,放電開始電圧が数分の一に低下する現象
を,発見者の功績を記念してペニング効果と呼んでいる.
電子が光を放出して下の準位に遷移することができない励起準位を準安定準位を呼び,こうした励起状態にある原子や分子のことを準安定原
子や分子あるいは総称して準安定粒子と呼ぶ.こうした準安定粒子はその励起エネルギーに等しい内部エネルギーを持ち,しかも他の粒子や器
壁との衝突によってしかそのエネルギーを失うことがない.そこで,もし準安定粒子Xmが,その励起エネルギーよりも低い電離エネルギーを
もつ中性原子または分子Yと衝突すると,次のような電離反応が大きな確率で起こる.
Xm+Y→X+Y++e
この電離過程のことをペニング効果に関連して,ペニング電離(Penning ionization)と呼ぶ.これを先のNe−Ar混合ガス放電を例にとって説明
すると,Ne(電離エネルギー:21.6 eV)の準安定準位は約17 eVであるのに対し,Arの電離エネルギーは15.8 eVである.Ne原子との電子衝突に
おいては,準安定準位への励起反応は電離反応に比べてエネルギーしきい値が低いために,はるかに多く起こり,多数のNe準安定原子が生成さ
れる.したがって,Neに0.1 %程度のArを混ぜるだけでも,Neを直接的に電離する反応に比較して,Ne準安定原子とArとのペニング電離が支配
的になり,放電開始電圧が大きく低下することになる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリアック
掲載号 69-10
105
Heliac
ヘリアックはヘリカル磁気軸ステラレータ(Hehical Axis Stellarator)の呼称である.このへリカル磁気軸系によるプラズマ閉じ込めの研究は古
く,1950年頃,米国プリンストン大学のSpitzer Jr. による「8の字型ステラレータ」まで遡ることができる.
トーラス系において,必要不可欠な磁界パラメータの一つに回転変換角があるが,ヘリアックでは,磁気軸を閉じた螺旋状にひねる(正確に
は磁気軸に戻率(れいりつ)を持たせる)ことによって,この回転変換角を作っている.この点が,平面磁気軸であるトカマクや現在のへリカ
ル系と本質的に異なるところである.
ヘリアックでは,プラズマ断面をそら豆(beans)型にすることによって,深い磁気井戸を形成し,高ベータプラズマ(β≧10%)を安定に閉
じ込められることが,理論的に予測されている.磁気シアは小さいが存在し,プラズマの閉じ込めに対して,極めて良好な磁界配位を持つが,
その形状が複雑となるところが唯一の欠点である.
内外で稼動中の装置としては東北大学の TU‐Heliac ,オーストラリアのH-1heliac,スペインの TJ-II heliacがある.
図の説明:105.gif
1.プラズマ 2.中心導体コイル 3.トロイダルコイル 4.垂直磁界コイル
へリアック装置の本質的な部分は3種類のコイル系によって構成されている.まず,中心部にある円形の中心導体コイル,それを取り巻くよ
うにら線状に配置されたトロイダルコイル及びプラズマの外側にある二本一対の垂直磁界コイルである.これらのコイル系によって作られる磁
気面,すなわち,プラズマの断面は“そら豆”形となる.このような断面のプラズマが中心導体コイルを軸として回転する閉じたヘリックスの
形状となっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリウム脆化
掲載号 71-9
170
Helium Embrittlement
原子炉材料では,中性子照射を受けると原子の弾きだしと核反応による損傷が生じる.後者の場合,中性子と材料を構成している元素が核反
応し,元来材料に含まれていないガス原子や固体原子が生成することに起因する.材料特性は,これらの異種原子の影響を受けて劣化するが,
溶解度がほとんどないヘリウム原子の場合には,特に,比較的高温(>Tm/2,Tm:融点)では,バブルとして結晶粒界に析出し粒界脆化を著
しく助長する.この現象をヘリウム脆化と呼んでいる.
ヘリウム原子は(n,α)反応で生成するが,熱中性子の場合には,BやNiなど特殊な元素からのみ生成される.しかし,核反応が起こりやす
くなる数 MeV以上の中性子エネルギー領域では,ほとんどすべての元素から生じるようになる.核融合炉材料では,D-T核融合反応で生じる
中性子エネルギーが14 MeVと大きくすべての材料構成元素から多量のHeが生成されるため,この脆化現象は核融合炉材料の重要な課題の一
つになっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリウム灰
掲載号 73-10
246
Helium Ash
D-T核融合反応で生じる3.5MeVのアルファ粒子は,炉心プラズマ中の電子やイオンとの衝突過程でプラズマの加熱(アルファ粒子加熱)に寄
与すると同時に,熱化してヘリウムイオンとなる.核燃焼の燃えかすであるヘリウムは,ヘリウム灰と呼ばれる.トカマクやステラレータ等の
トーラス系磁気核融合装置では,熱化したヘリウムイオンは粒子輸送により中心領域から周辺領域に流れ出て,スクレイプオフ層プラズマを通
してダイバータ部に流入した後,プラズマ・壁相互作用により中性粒子(ヘリウム原子)となる.ダイバータ部に充満したヘリウムの中性粒子
は,排気用の開口部を通してポンプにより排気される.ヘリウム灰がプラズマ中に蓄積すると,燃料の希釈に繋がり核燃焼効率を低下させる.
核融合出力を向上させるためには,核燃焼の妨げとなるヘリウム灰を核融合炉内から効果的かつ連続的に排出して,その濃度を低くする必要が
ある.ITERでは10%以下の濃度が要求されている.閉じ込め性能のよい放電では,ヘリウムの粒子閉じ込めがよくなる.すなわち粒子の拡散が
小さくなる,あるいは内向きの速度が大きくなることが考えられ,ヘリウムの蓄積や排気の困難さが懸念される.ヘリウム輸送および排気実験
では,ヘリウム灰を模擬するために中心補給としてヘリウムビームの入射が行われる.排気ポンプには,極低温面にアルゴンガスを吹き付けて
アルゴン霜の面を作るアルゴンフロスト・クライオポンプやターボ分子ポンプ,あるいはボロンを用いた壁排気が利用されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリオトロン/トルサトロン
掲載号 70-5
123
Heliotoron/Torsatron
単数または複数(実績的には2から3本)の外部ヘリカル導体に流れる同方向の電流によって生成される磁場を用いる,環状プラズマ閉じ込め
装置の呼称である.ヘリカルコイルと垂直磁場コイルとでコイルシステムは構成される.ヘリカルコイルの作る垂直磁場成分を消去するため,
垂直磁場コイルのアンペアターン数はヘリカルコイルの(実効的)トロイダル方向アンペアターン数とほぼ同じ値に設定される.高温プラズマ
の閉じ込めに必要な平衡は磁気回転変換で作り出され,その安定性は磁気シア,および磁気井戸によって具体化される.
トカマク型装置と異なる点として,(1)プラズマ保持にプラズマ電流を必要としないこと,(2)プラズマ電流デイスラプションの問題が回避され
ること,(3)電流駆動等の付加的外部エネルギー還流装置なしに定常運転を実現できる点等を挙げることがでさる.さらには作りつけのダイバー
タを有し,フオースフリーコイル(コイルに働く電磁力が零となるコイルシステム)の実現が可能な点など,核融合炉の開発に向けて有利な条
件を有している.
本方式は,日本およびフランスにおいて1960年に時期を同じくして提案されたため,わが国においてヘリオトロン型,欧米においてトルサト
ロン型とよび慣らされた経緯がある.ヘリオトロンA∼E実験(京都大学)等による一連の成果の積み重ねで原理が実証され,現在、超伝導大型
ヘリカル装置(LHD:核融合科学研究所)の実験が進行中である.ヘリオトロン型装置についての,わが国の一貫した研究体制と実績は高く評
価されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリカルコイル
掲載号 71-5
160
Helical Coil
ヘリカルコイルとは,プラズマの周囲に,ヘリカル(らせん形の)形状に巻かれたコイルのことであり,ヘリカル型と総称される,ヘリオト
ロン/トルサトロン/ステラレータ等の磁場閉じ込め装置に使用される.プラズマを磁場でトーラス形状に閉じ込めるためには,磁力線に回転
変換を与えることが必要である.トカマクでは,プラズマに電流を流すことでこの回転を与えるが,ヘリカルコイルはプラズマ電流なしでも 回
転変換のある磁場を作ることができる.
ヘリカルコイルの特徴としては,(1)プラズマに近接している.(2)長尺コイルである.(3)捩れた形状である.また,磁気面が 外部コ
イルだけで決められるために,(4)高い製作精度が必要である.等,製作上の難しさは多いが,工作機械や溶接技術,および,導体成形技術
の進歩に伴い,主半径に 対して 5×10-4 の製作精度が実現できるようになっている.また,元来無力コイルの 配置に近いことから,(5)電磁
力は,小半径方向のフープカが主であり,その値は大きくない.そのためコイルの支持構造は,比較的単純な設計が可能である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリコン波
掲載号 69-1
083
Helicon Wave
ヘリコン波は,周波数がイオンサイクロトロン周波数と電子サイクロトロン周波数の中間の領域にあるホイッスラー波,すなわち,磁力線に
沿って伝播する電磁波,右回り円偏波の一種である.通常のホイッスラー波と異なる点として,無限に広がったプラズマではなく境界のあるプ
ラズマ中を伝播すること,周波数が低いため分散式の導出には電子サイクロトロン運動を考慮する必要がないこと等が挙げられる.「ヘリコン
波」は,元を正せば,強い磁場がかけられた金属中を弱い衝突減衰を受けながら伝播する右回り円偏波に付けられた名称である.プラズマ中の
ヘリコン波でも衝突の効果は重要で,分散式の導出には一般化されたオームの法則が用いられる.このことは,磁力線方向の電界成分が存在
し,ランダウ減衰が生じることを示している.ランダウ減衰により加速された電子は中性粒子を効率よく電離するため,最近,1013 cm-3を越え
るような高密度プラズマの生成にへリコン波が盛んに使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリシティ
掲載号 69-3
088
Helicity
電場 E およぴ磁場 B のスカラポテンシャルφと,ベクトルポテンシャル Aを考え,ある磁気面に囲まれた領域 V の積分式(1)をヘリシティ
(磁気ヘリシティ:magnetic helicity)という.
マックスウェルの電磁方程式から式(2)となるので式(3)となる.もしプラズマが完全導体で囲まれていると表面積分の寄与は零とな
る.オームの法則 E + v×B = ηj が適用できる場合は E・B = ηj・B となり,磁気へリシティは抵抗損失によって減少する.しかし,η = 0 の場
合は保存され K = Const.となる[1].J. B. Taylorは逆転磁場ピンチ(RFP)プラズマの生成過程において,次のように考えた.プラズマにわずか
な抵抗があるので,磁力線が局所的に再結合し,より安走な磁場配位へと緩和していき,K積分値(部分領域の)は変化する.しかし導体壁に
囲まれたプラズマ全領域で積分された磁気ヘリシティKTの値は,MHD緩和時間のスケールに較べてゆっくり変化すると考え,RFP配位のMHD
安定なことを導いた[2].
[1] L. Woltjer ,Proc. Nat. Acad. Sciences 44, 389 (1958).
[2] J. B. Tayler,Phys. Rev. Lett. 33, 1139 (1974).
式(1):0881eq.gif 式(2):0882eq.gif 式(3)0883eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
ヘリシティ入射電流駆動
掲載号 72-3
190
Helicity Injection Current Drive
プラズマ研究で使われる「ヘリシティ」は磁気ヘリシティ(Kで示す)のことで,ベクトルポテンシャルAと磁束密度Bを用いて,K=∫A・
Bdv(プラズマ領域で積分)で定義される。L. Woltjer達はこのKを天体物理現象に初めて導入し,Kの保存を拘束条件としたエネルギー最小状
態(無力磁場配位)を示した。後に J. B. Taylor が逆磁場ピンチにこの概念を用い逆磁場配位形成を説明した。スフェロマック研究において,プ
ラズマ生成時,あるいは安定な平衡配位から大きくずれた時,プラズマは自己組織化の性質によって,抵抗性減衰時間τRよりもはるかに速
く,Kを保存しエネルギー最小状態の配位を形成することが見出された.また,外部からK/τRよりも大きい割合でKが連続的に入射される
と,電流が駆動され,磁場配位が維持されることが理論,実験の両面から示された.この方式を「ヘリシティ入射電流駆動」と呼んでいる.こ
の一例として,ダイバータ磁束のようなプラズマ周辺のオープン磁束に鎖交して2つの電極を設け,電極間で磁束に沿う電流を流す方式があ
る.この場合,電極間電圧をV,プラズマのトロイダル磁束をφとするとKの入射率はdK/dt=2Vφとなる.オープン磁束を流れる電流がトロ
イダル磁束を供給し,同時に自己組織化に伴う磁束変換によってポロイダル磁束が供給されて配位が維持されることになる.これまでスフェロ
マック,低アスペクト比トカマク等で試みられ,オーミック加熱コイルを用いないでトロイダル電流の駆動できることを実証し,世界的に注目
されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ペレット入射
掲載号 70-12
146
Pellet Injection
プラズマ中に粒子を注入する方法の一つである.粒子がプラズマと同じ水素系の氷の場合は,プラズマの密度を局所的に制御できる.中心部
に粒子補給し,ピーキングした密度分布を生成すれば,閉じ込めを改善できるという実験結果が多くの装置で確認された.閉じ込め改善の機構
としては,鋸歯状振動の抑制,粒子ピンチの発生,徴視的不安定性の抑制,ホロー電流分布でのプラズマ圧力限界の増大など,種々のものが考
えられている.一方,プラズマ温度の高い(中心イオン温度20keV)核融合炉クラスになると,氷の蒸発がプラズマ周辺部にて発生し,中心に
粒子を補給するのは技術的・経済的に困難となる.また,核融合反応出力に変動を与えるため,得策ではない.これに対し,周辺部への入射
は、核融合炉での燃料粒子の有力な補給法として開発が進められている.近年の遠心加速法による定常入射への前進と入射速度の高速化(2 km
/sを達成),圧空二段加速による3km/sレベルの入射速度の達成など見るべきものが多い.一方,プラズマ実験では,プラズマ周辺部へのペ
レットによる粒子補給が,閉じ込め,ダイバータ部への熱流速・粒子束,ヘリウム灰排気などに及ぼす影響・効果の系統的な研究が不十分であ
り,その長所・短所を早急に見極める必要がある.ペレットがリチウムの場合は,電流分布・α粒子などの計測,壁調整,不純物輸送などの
種々の研究が可能である.また,ネオンの氷ペレットを入射して放射損失を増大させ,プラズマ熱エネルギーの高速で安定な消滅を得る研究が
開始されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ペレット利得
掲載号 68別冊
052
Pellet Gain
ターゲット利得(Target gain)ともいう無次元量.慣性核触合炉心プラズマの核融合達成度を測るパラメータで,記号Qがよく用いられる.定
義は,Q =(核織合反応により発生したエネルギー)/(入射ドライバーのエネルギー)である.レーザー等のエネルギー入射でターゲットを
爆縮したとき,爆縮された燃料へのエネルギー伝達率を結合効率(ηc)といい,この爆縮部での核反応によるエネルギー増倍率をコア利得
(G)という.ペレット利得Qは,Q=ηcGの関係にある.慣性核融合の実現には,ドライバーの効率 ηd として, ηd Q=10程度が要求されてお
り, ηd Q=10 % 程度のレーザー核触合炉では,Q=100 の実現が必要とされる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ホイスパリングギャラリーモード
掲載号 70-10
139
Whispering Gallery Mode
円形導波管のTEモード(Transverse Electric Mode)の一種であり,典型的には,TEmnモードでm≫ n,n ∼1,2の形をしている.一般に,円形
導波管内を伝播する電磁波の成分はベッセル関数またはその微分によって表される.上の条件を満足する場合には,電磁波は中心付近にはほと
んど存在せず,導波管壁面付近にのみ局在し,これが管壁付近を螺旋を描いて伝播していくようになる.回廊の一部で発生したささやき声が壁
面を反射しながら遠く離れた別の場所まで伝わっていく様子のアナロジーでこの名前が付けられている.電磁場が導波管管軸付近に局在してい
る体積モード(Volume Mode)に対して,表面モード (Surface Mode)ともいう.
電子サイクロトロン共鳴加熱のための高周波源であるジャイロトロンの高周波数化、高出力化に伴って,近年,100 GHz帯,1MW級ジャイロ
トロンの発振モードに採用されてきている.ジャイロトロンにおいてこのモードを励起するためには,中空の電子ビームを共振器空胴壁の極近
くに通す必要がある.大口径の空胴を用いてもモード競合が少なく,また大半径の電子ビームが使えるため,大電流動作が可能であり,電子
ビームの空間電荷の効果によるビームエネルギーの低下もさけられる利点がある.しかし,壁面を流れる高周波電流が大きいために伝送損失は
大きく,伝送モードとしては不適当であり,ブラソフ(S.N.Vlasov)等によって考案された準光学的なモード変換器によって,ガウスビーム
に変換して利用している.
プラズマ・核融合学会用語解説
ホイッスラー波
掲載号 73-8
240
Whistler Wave
地球超高層プラズマ中には各種のプラズマ波動が存在するが,ホイッスラー波はその代表的なものの一つ.電磁波が電子サイクロトロン振動
以下の低い振動数の時,電子のサイクロトロン運動と結合して生じる右旋偏波である.磁力線に沿って伝播しやすい.特に磁気嵐という荒れた
状態の後の静かな状態では磁力繰に沿ってプラズマ密度の高いダクトが安定に存在するが,そのダクトに沿って地球南北両半球にわたり長距離
伝播し,極域で波が反射されるため,時には数回にわたり両半球を往復する.発生源は大気中では雷の場合が圧倒的に多い.日本ではホイッス
ラー波はオーストラリアの夏の雷のノイズが超高層プラズマに入り込み,磁力線に沿って北半球上空に到達したものが再び大気中にもどり受信
される.したがって冬に多く観測される.
ホイッスラー波は特徴ある分散を持ち,(1/2) 電子サイクロトロン周波数(=f0 )以下の振動数の波のみがダクト伝播する.群速度はf0 で
最速で低くなるほど遅いため,観測ではまずf0,続いてより低い振動へと時間的に流れ,口笛に似た周波数変化をする.周波数帯も数 kHz で
音声と同じ領域である.ホイッスラー波は磁気圏中の高速電子ビームが引き金となって励起されたり,また各種非線形効果を顕著に示すことか
ら,天体プラズマにおける波と粒子の相互作用を探る上で大いに注目されてきた.ホイッスラー波の研究は古く(1953年から),人工衛星によ
る超高層観測が本格化する以前に地上観測データの解析からプラズマ圏の存在が予言されたりもしてきた.
プラズマ・核融合学会用語解説
ボイド
掲載号 67-4
023
Void
照射下で材料中に形成する空洞の事をボイドと呼ぶ.ボイドが形成されるとその体積に相当する量だけ材料が膨張し(スウェリング),構造
材としての機能を著しく損ねることになる.ボイドは真空か,または,中に若干の不純物ガスが存在している.これに対し,高圧ガスを含み,
その内圧を駆動力として形成成長するものをバブル(気泡)と呼んでいる.ただし両者の境界は明確ではなく,微小なバブルが後にボイドとし
て成長していくこともある.ボイドは照射欠陥の中でも空孔を優先的に吸収することにより形成,成長するものであるが,ボイド自身そのよう
な選択機能は小さい.一方,照射によって形成する転位はその応力場により格子間原子を優先的に吸収する特性があり(バイアス効果),結局
転位によってもたらされた過剰な空孔によりボイド形成が起こると考えられている.ボイドの形成初期の成長は He 等の不純物ガスが存在する
と大きく促進される.このことは核融合中性子と核分裂中性子の(n,α)反応による He 発生量の差の効果として重要な研究課題となってい
る.さらにボイドの形成成長は周辺の照射欠陥移動に伴う溶質偏析,析出界面,カスケード損傷等多くの因子に左右される.
プラズマ・核融合学会用語解説
放射化計測
掲載号 68別冊
070
Activation Diagnostics
物質の放射化は高エネルギー粒子やγ線で生ずるが,レーザー核融合実験における放射化計測では DT(14MeV)中性子を利用する.この中
性子放射化計測は圧縮プラズマの密度・半径積(ρR)の診断技術の1つであり,原理的には原子炉熱中性子による放射化分析と同じである.放
射化分析は,元素特定の容易さと検出感度の高さが特徴であり,これらはそのままレーザー核融合実験に応用される.中性子反応によって生成
する放射性同位体の絶対数N* は,原子炉熱中性子放射化分析では親元素の総数N0 ,中性子束密度φn ,反応断面積σ,およぴ照射時間 t に比
例し,N*=N0 φn σtとなる.一方,圧縮プラズマではφn =Yn /(4πr2 )/rであるから,N*=αN0 RYn σ ∝ ρRYn σとなり,β-γ同時計数
などの手法により絶対放射能を測定すればρRを求めることができる.この計測法の特徴は,荷電粒子を用いた他のρR計測と異なり,ρRの適
用上限が実質的にないことと,プラズマの温度や密度の情報を必要としない点にある.ただし,ターゲット中にドープされる放射化トレーサは
最大数wt%程度であるので,ρR計測の感度は他の方法に比べて低い.また,生成した放射性同位体の捕集効率の較正が必要である.トレーサ
としては,N,Si,Kr,Cl,Br,Pr,Rb などが利用される.
プラズマ・核融合学会用語解説
放電洗浄
掲載号 67-5
025
Discharge Cleaning
真空壁の表面の構造は,界面とバルクの二層から成ると考えられている.界面は,厚さが数 10 nm から数 μm にも及び,主として炭化物,酸
化物あるいは析出物から構成される.この界面層は気体のトラップ源であると同時に放出源でもある.核融合実験装置や加速器では,真空壁が
高エネルギーの荷電粒子やフォトンの照射場にさらされるため,不可避的に照射誘起ガス放出が発生し,不純物生成やビーム強度の減衰などの
原因となっている.その対策として行われているのが放電洗浄である.真空壁を放電プラズマで照射し,ガス放出源である界面層をイオンエッ
チングにより改質し,上述の照射誘起ガス放出の低減を図る.
開発初期の放電洗浄は希ガスを用いたグロー放電であった.陰極である真空壁からは,イオン衝撃の結果,水素,メタン,水および一酸化炭
素などのガスが放出され,其空ポンプにより排出される.放電ガスは発生ガスをポンプに搬送するという意味でキャリアガスとも呼ばれる.そ
の後表面から酸素あるいは炭素を選択的に除去するため,キャリアガスに水素,メタンあるいは酸素などの反応性ガスを適量混入する化学放電
洗浄が発展されてきている.放電形式はグロー放電の他,高周波放電,テーラー放電,ECR放電などが使用されている.
テーラー放電はトカマク固有の洗浄法である.テーラー放電がパルス運転なのに対して,ECR放電は定常運転であり,化学活性な解離中性原
子の生成率が高くかつ電子温度も 3eV 以下であるという点で,化学放電洗浄効果が高いと言われている.最近の核融合装置の壁は,金属壁から
黒鉛壁やボロンコーティング壁などに変わってきている.これらの壁ではトラップ水素の除去が課題であり,ヘリウムガスを用いる放電洗浄と
なっている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ボーム拡散
掲載号 69-2
086
Bohm Diffusion
磁場を横切るプラズマ粒子の拡散が,粒子衝突に基づく値より異常に速く起こる異常拡散の最初の例である.磁場中のアーク放電プラズマの
実験結果の解析から粒子拡散係数
D⊥ = (1/10)(Te/meΩe) = 107 Te(eV)/B(G) cm2 /sec
を推定した[1] .ここにTeは電子温度(電子ボルト単位),meは電子質量,Ωeは電子ジャイロ振動数,B は磁束密度(ガウス単位)である.
実験における使用気体は主にアルゴン,数百ガウスから1万ガウスの磁場が掛けられ,プラズマ生成は電子ビーム入射による.プラズマ中の
乱れ(turbulent flow)に伴なう磁場に垂直方向の電場の揺らぎが異常粒子拡張を引き起こしたと推論されている.
[1]D. Bohm, the Characteristics of Electrical Discharges in
Magnetic Fields, ed. by A. Guthrie, R. K. Wakerling,
(McGraw-Hills, Inc., 1949) Chaps 1, 4.
プラズマ・核融合学会用語解説
捕捉粒子
掲載号 69-6
094
Trapped Particle
広義には電磁場の作用によって空間的に局在する荷電粒子を指す.特にトーラス磁場によるプラズマ閉じ込めにおいては,トーラス外周の磁
場の弱い領域に局在する捕捉粒子が重視される.捕捉条件は粒子速度の磁場に垂直方向,平行方向の成分の比に対し ( v⊥/v// )^2>(トーラ
ス半径)/(プラズマ半径)で与えられる.よい粒子閉じ込めはトロイダルドリフトを消すようにトーラス面を万遍なく周回することであるが,
捕捉粒子はこの条件を充たさない.
捕捉粒子を考慮してクーロン衝突による輸送係数を算出する理論を新古典(Neoclassical)理論と呼ぶ.捕捉粒子が引き起こす不安定性は線形
近似では詳細に解析されている.しかし,トーラス実験において観測される異常輸送現象は捕捉粒子が関与すると推定されているが,非線形理
論に基づく確定的な答えはまだ得られていない.
プラズマ・核融合学会用語解説
マーフ
掲載号 68-2
034
MARFE
Mutifaceted Asymmetric Radiation From Edge の略で,「マーフェ」でなく「マーフ」と発音する.マーフはトーラスの内側のプラズマ表面近傍
に,帯状に局在して放射損失が増大する現象であり,大,中型のトカマクにおいてほぼ共通に見られる.帯の幅はポロイダル角にして15∼30゜
で,トロイダル方向には対称で,強BT側つまりトーラス内側の赤道面付近に発生する.マーフは炭素や酸素の軽元素不純物の放射損失による熱
的不安定性によって発生する.これらの不純物の放射冷却率は電子温度が 10∼50 eV の範囲で負の温度係数を持つため,温度がわずかでも下が
れぱ,放射損失が増大し,ますます温度が下がることによっている.マーフは密度限界近傍で発生し,そのプラズマの放射損失は入射パワーの
80%にも達することがあるが,コアプラズマの密度が若干低下すること以外,著しい閉じ込め劣化はもたらさない.マーフと類似な現象として
非接触プラズマ(Detached Plasma)がある.これは高放射損失領域がプラズマ表面においてポロイダル対称に広がったもので,この部分の温度
が極めて低いため,実効的にプラズマがリミタ表面から離れた状態になる現象である.
プラズマ・核融合学会用語解説
マッハプローブ
掲載号 75-5
302
Mach Probe
流れのあるプラズマ中に静電プローブを挿入したとき,プラズマ流に対してプローブチップ面(荷電粒子捕集面)がなす方向を変えると,そ
の角度に従って電流値が変化する.これを利用してイオンマッハ数Mi(流速とイオン音速との比)を求めるために用いられるプローブをマッハ
プローブと呼ぶ.これまでに,ダイバータ部やリミタ部へ流入するプラズマ流の流速を計測するために様々な形状のマッハプローブが考案さ
れ,またモデル計算が行われてきた.
マッハプローブの基本構成は,図(302.gif )で示すように,間を壁で仕切った2つのプローブチップを上流側と下流側とに設置し,そのイオ
ン飽和電流値の比を求め,下式(1)にてイオンマッハ数を計算する. ここで Jup や Jdown は上流,下流側で測定したイオン飽和電流値であ
り,係数M c はプラズマの粘性係数等によって決まる値で1以下の値となる.
この係数M c を求めるためにイオンシース条件や運動方程式を考慮したモデル計算が行われているが,測定するプラズマ条件により一意的に
決定できない.したがって実際の流速決定のためには分光器を用いたドップラーシフト測定など他の方法による絶対較正が必要である.また
マッハ数が1以上の超音速条件では上記の式では単純に適応できないなどの問題点もある.
しかし,プラズマ流の方向や空間分布など様々な情報を簡便に得ることができるため,上記した周辺プラズマの挙動解析だけでなく,磁気再
結合時におけるプラズマ流の変化など,プラズマの動的特性の挙動解析にも積極的に用いられるようになってきた.
式(1):302eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
ミューオン触媒核融合
掲載号 73-4
227
Muon Catalyzed Fusion
電子の約207倍の質量を持つ負電荷のミューオンによって原子や分子の軌道電子を置き換えるとその軌道半径は質量に反比例して小さくなる
ので,原子核の正電荷が強く遮蔽され核融合反応が起こりやすくなる.D-T反応やD-D反応のような水素同位体同士の核融合反応では,D-T分子
やD-D分子の軌道電子がミューオンに置き換わって「ミューオン分子」になることで分子内の原子核の核間距離が小さくなり核融合反応の確率
が著しく増大する。核融合反応の促進に使われたミューオンは化学反応における触媒のように反応後開放されて再利用される。このような効果
で高い反応確率で起こる核融合をミューオン触媒核融合という.ただし,ミューオンが有限の寿命(約2.2μs)を持つことと反応後ミューオン
が反応生成物に付着して失われる確率があることのため1個のミューオンを触媒として使える回数には限りがある.D-T核融合では反応後
ミューオンがアルファ粒子に付着して失われる確率が0.5%程度あって,ミューオンは最大150回程度触媒として利用可能である.現在の技術で
は,1個のミューオンを生成するのに要するエネルギーコストは楽観的にみても 5GeV を超えるので,このままでは純粋のミューオン触媒核融
合炉を構成することは困難である.そこで,D-T核融合反応で発生する多量の中性子に着目して,ハイブリッド炉,核燃料生産炉,核廃棄物消
滅処理炉,核融合炉材料研究用中性子源等として利用するというアイデアが出されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ミラー
掲載号 68-5
043
Mirror
プラズマを構成する荷電粒子が磁力線に巻きついて周回運動をする時,衝突がなければ,その円軌道で囲まれる磁束は一定に保たれて,それ
に比例する磁気モーメントμ=W⊥(横方向運動エネルギー)/B(磁場強度)は保存量となる.したがって,粒子が強磁場方向へ移動すると
き,W⊥=μBは増加するが,エネルギーWは保存されるため磁場方向の運動エネルギーW - W⊥は滅少し,μB =Wの地点で磁場の弱まる方向に
反射される.鏡による光の反射との類似からこれをミラー効果と呼ぶ.ミラー効果は回転変換をもつトーラスでも補捉粒子発生の原因となり輸
送や安定性に影響している.ミラー閉じ込め方式では強磁場にはさまれた弱磁場域にプラズマ粒子を閉じ込めようとする.磁力線の曲がりの少
ない直線的な炉心形状となるため,構造面で好ましいほかベータ値を高くできると期待される.しかし,クーロン衝突等によりW⊥/Wが小さ
くなった粒子は最大磁場位置でも反射されないため,ミラーの閉じ込め時間はクーロン衝突による90度散乱時間に最大・最小磁場の比の対数を
掛けた長さ程度に制限される.したがって,エネルギー回収の効率を極めて高くしない限り,そのままでは核融含炉としては不十分である.
プラズマ・核融合学会用語解説
無衝突リコネクション
掲載号 72-8
204
Collisionless Reconnection
電気伝導性プラズマ中で,磁力線が繋ぎ変わる現象を磁気リコネクションという.磁気リコネクションの発生には,磁力線の運動とプラズマ
の運動にズレを作り出す電気抵抗の存在が必要となる.プラズマ中に電気抵抗を生み出す原因としては,二体粒子間(主として,電子イオン
間)衝突によるものとそれ以外のものに大別される.特に後者が原因となって発生する磁気リコネクションを,粒子間衝突を伴わないため,無
衝突磁気リコネクションまたは無衝突リコネクションと呼ぶ.この無衝突リコネクションは,太陽フレア,地球磁気圏,トカマクの炉心等の高
温希薄で,二体粒子間衝突過程の無視できるプラズマ中で観測される,急激な粒子輸送・エネルギー解放を伴う現象を説明する上で,重要な物
理過程となっている.無衝突リコネクションの物理機構はよくわかっていないが,電流を担っている荷電粒子とプラズマ波との相互作用(運動
量輸送)に電気抵抗の発生原因を求める異常抵抗モデル,および,粒子慣性効果や軌道運動効果にその原因を求める粒子運動論モデル等が精力
的に研究されてきている.
プラズマ・核融合学会用語解説
村上-Greenwald密度限界
掲載号 73-10
247
Murakami-Greenwald Density Limit
トカマクプラズマでは,線平均電子密度(プラズマの中心を通る測定線上での電子密度の平均値,ne)を増大させるとディスラプションに至
る.その限界値を密度限界と呼ぶ.村上則は,Nucl. Fusion Vol.16, 347 (1976)に発表された.neをBt/R(Bt:トロイダル磁場,R:プラズマ大半
径)で規格化した村上係数により密度限界を評価する.不純物の混入が多いときに村上係数が低くなること,追加熱を加えれば村上係数を増大
できることから,周辺プラズマでのエネルギーバランスが村上係数の到達値を決めると考えられている.Greenwald密度限界は,Nucl. Fusion
28,2199(1988) に発表された.本密度限界はIp/πap2 (Ip:プラズマ電流,ap:プラズマ小半径)で決まり,追加熱の有無やプラズマ断面の縦長
非円形度κは影響しない.この密度限界を決めるのは主にプラズマ周辺部での粒子閉じ込めの劣化と考えられている.したがって,プラズマ中
心部に粒子補給を行えば,本密度限界を大きく越える領域での運転が可能であり,高い閉じ込め性能も維持できる.ダイバータプラズマでは,
Greenwald密度限界の近くでダイバータ領域に局所的な強い放(MARFE)が発生する.トカマク型核融合炉では,ダイバータ板への熱負荷を軽
減するためにこのMARFEを積極的に活用することを検討している.
プラズマ・核融合学会用語解説
メンブレンポンプ
掲載号 72-9
206
Memblen Pomp
ニオブやタンタルなどの金属膜では水素原子の透過率が1に近い値を示す超透過現象(superpermeation)が見られる.メンブレンポンプはこの超
透過現象を利用した水素排気用のポンプである.超透過現象は主に金属膜表面の不純物層のポテンシャル障壁に起因する.不純物層の障壁を越
えるエネルギーを持つ水素原子は金属内部に進入するが,すぐに冷やされ,金属中に閉じ込められ,拡散によって金属中を移動する.閉じ込め
られた水素原子は最終的には表面の障壁を越えて外に出ることになるが,もし下流の障壁が上流の障壁よりも低ければほとんどの水素が下流か
ら水素分子として外に出て行き,高い透過率が得られる.超透過膜は水素原子のみを透過させ,分子はほとんど透過させない.そこで膜の上流
に水素原子源を置けば,そこから来る水素原子は超透過膜を透過し,下流の表面で水素分子になり,もはや逆流することはなく,高効率の水素
排気が可能となる.このポンプは強磁場中でも使え,クライオポンプのように低温部がないなど,核融合実験装置で使用する場合に利点が多
い.水素しか排気できないものの,逆にヘリウムと水素同位体の分離が可能であり,この点からも注目されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
モーショナルシュタルク効果
掲載号 70-11
143
Motional Stark Effect
静止している原子が電場内におかれた場合にスペクトル線が分離する現象をシュタルク効果Stark effect,磁場内におかれた場合に生じる現象
をゼーマン効果Zeeman effectと呼ぶ.原子が速度vで磁場B中を動く場合には,ゼーマン効果に加えて,E=v×Bで表せる電場があるのとまった
く同じ効果が生じる.これを,モーショナルシュタルク効果と呼ぶ.
最近のトカマク実験では,プラズマの内部磁場によって生じるモーショナルシュタルク効果を利用して,プラズマの電流分布が評価されてい
る.それは,プラズマに入射した水素あるいは重水素の中性粒子線のスペクトル線の偏光方向から,内部磁場のピッチ角を導くものである.ま
た,そのスペクトル線の分離幅から内部磁場の強度が得られる.そのほか,モーショナルシュタルク効果は,プラズマ中の水素様イオンに対し
て,軌道角運動量が隣りあう励起状態間で混合(l-mixing)を生じる原因になる.
プラズマ・核融合学会用語解説
モジュラーコイル
掲載号 72-6
199
Modular Coil
分割可能なモジュール(機能的にまとまった構成単位)で構成された磁場コイルを一般に「モジュラーコイル」と呼ぶ.特にヘリカル型閉じ
込め装置で用いられている.古典的ステラレータではヘリカルコイルとトロイダルコイルが必要であるが,トロイダルコイルに捻りを加えてヘ
リカル装置の磁気面を生成しようとしたツイストコイルの試みから始まっている.ヘリカルコイルとポロイダルコイルを用いたヘリオトロン型
等の他の方式をベースにしてのモジュラー化の検討も進められてきている.
大型ヘリカル装置LHDで代表される連続巻きの2本のヘリカルコイルでは、コイル形状が比較的簡単でありダイバータ空間の確保が容易であ
るが、大型化に伴う製作・修理保守上の困難さがある.一方,モジュラーコイルでは必要なプラズマ形状に合わせてコイル形状を決定する多様
な磁場設計が可能であり,プラズマの最適化や炉構造保守の容易化の観点から優れている.ただし,プラズマとコイルとの間の大きな空間の確
保が難しい.モジュラーコイルの多様性を活用した装置として,ドイツのヘリカル装置W(ベンデルシュタイン)7-AS,W7-Xがあり,PS電流
の最小化(W7-AS)や閉じ込め,ベータ値,ブートストラップ電流等の総合的な最適化(W7-X)をめざしての装置設計・建設がなされてきて
いる.
プラズマ・核融合学会用語解説
モンテカルロシミュレーション
掲載号 75-3
297
Monte Carlo Simulation
電磁場中を運動する荷電粒子が他粒子と衝突しながら移動,拡散していく過程において,衝突ならびに衝突後の散乱方向,衝突の種類(運動
量移行,各種励起,電離,電子付着,等)等の確率現象を乱数を用いて模擬する方法をモンテカルロシミュレーションとよんでいる.現在の電
算機能力においては,電子数密度が低い限界(タウンゼント放電領域;電子の移動,拡散,電離係数の測定条件に対応)のもとでは,電極間に
おける全電子を追跡することは十分可能である.しかし,グロープラズマ(電子数密度が1010 cm-3 以上)領域になるとプラズマ系内の全荷電粒
子を追跡することは困難であり,確率現象を何個かの電子に代表させ乱数を用いて模擬するが,残りの電子は重みづけをして代表電子に背負わ
せて処理し,プラズマの巨視的特性を得ることができる.この際空間電荷の効果を考慮する必要があり,ポアソン方程式の考慮が不可欠であ
る.本方法の特徴は荷電粒子の運動の式と乱数を用いた衝突の決定のみでプラズマ特性が決定出来るため,1.流動平衡状態にない電極近傍荷電
粒子の振る舞い,ならびに境界条件のモデル化が容易,2.微分方程式を解かないために数値的不安定を伴わない,ことである.しかし,常に統
計変動を伴うことを認識しておかなければならない.
プラズマ・核融合学会用語解説
有限軌道(FLR)効果
掲載号 75-4
300
Finite Larmor Radius Effect
プラズマを構成している荷電粒子の磁場中の運動は,多くの場合良い近似(ドリフト近似)で,ラーモア半径 rL =mv⊥/ eB で回転する円運動
とその中心(案内中心:Guiding Center)の運動とで記述できる.ここで Bは磁場の強さ, m ,e ,v⊥は荷電粒子の質量,電荷,および,磁場に
垂直な方向の速度成分である.ラーモア半径が小さいときには,案内中心の運動のみに注目してプラズマを流体的に取り扱うことができるが,
ときとしてラーモア半径が有限である効果を考慮しないと現象が理解できない場合が生じる.これを一般に有限軌道(FLR)効果と呼ぶ.例え
ば,一様磁場中の電場が一様でないとき,荷電粒子の感じる電場はラーモア半径の関数となるので,荷電粒子の電場による案内中心の移動(ド
リフト)速度にも,ラーモア半径の2乗に比例した補正項が付け加わる.このためラーモア半径が大きく違うイオンと電子では,ドリフト速度
が異なり,荷電分離を生じてドリフト不安定性を引き起こす原因となる.磁場に勾配があるときの荷電粒子のドリフトも有限軌道効果といえ
る.最もよく知られている有限軌道効果の例は,交換型不安定性に対する安定化である.交換型不安定性は,磁場に垂直な方向に重力や遠心力
等の力が働くと,イオンと電子の案内中心が逆方向にドリフトして荷電分離を生じ,プラズマ揺動の成長を促す現象であるが,プラズマの揺動
の波長に比べてイオンのラーモア半径がある程度大きくなると,イオンの感じる電場とラーモア半径の小さい電子の感じる電場とに差が生じ
て,不安定性の原因である荷電分離を打ち消すように働き,プラズマを安定化する.したがって,この効果はポロイダルモード数 m の大きい波
長の短い揺動により効果的で,交換型不安定性は m= 1 が主モードとして観測されることが多い.
プラズマ・核融合学会用語解説
誘導散乱
掲載号 68別冊
065
Stimulated Scattering
臨界密度以下のプラズマと,高強度レーザー光は様々な非線形相互作用を起こす.相互作用は,電磁波であるレーザー光とプラズマ中の電子
プラズマ波,イオン音波との間で起こる.このうち,二次的に励起される波が電磁波の場合,入射レーザー光が散乱された形となって,プラズ
マの外へ光が反射される.入射レーザー光が,イオン音波と相互作用する誘導ブリルアン散乱ではイオン音波の周波数がレーザー光のものに比
べて10-3 程小さいため,散乱光の波長は入射レーザー光の波長に近い.このため,誘導ブリルアン散乱が高い効率で起きると,入射レーザー光
がプラズマから反射されているように見える.誘導ラマン散乱は,レーザー光と電子プラズマ波の相互作用である.周波数整合条件より,散乱
光スペクトルは,レーザー光の波長から2倍の波長迄が可能である.この散乱も反射機能をもつ.そのうえ,電子プラズマ波を強く励起するの
で,プラズマ波のポテンシャルに周囲の熱電子をトラップし,位相速度に迄加速する(サーフィンのように)効果を持つ.これにより生成され
る超高速電子は,レーザー核融合用ターゲットの先行加熱の原因となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
誘導性結合RF放電
掲載号 75-7
307
Inductively Coupled Radio-Frequency Discharge
コイルを用いて,プラズマとのトランス結合を利用し,高周波(RF)電力をプラズマに投入するプラズマ生成法の一つである。最もよく利用さ
れるRFは13.56 MHzである.誘導性結合RF放電は容量性結合性RF放電に比較して,プラズマとの結合がよく,電力がプラズマに効率よく投入さ
れる.したがって,低圧(数 mTorr∼数10 mTorr)で,高密度(∼1012/cm3)のプラズマが比較的容易に生成され,プロセスプラズマとして工業
的応用も広い.現在,多く用いられているのはクオーツ容器に外側から数ターンのコイルをらせん状に巻く方法,容器の一端を平板クオーツと
して,この上にコイルを平面状に数ターン設置する方法である.前者にはヘリカル共鳴(ヘリコン波)を利用する方法も用いられている.誘導
性結合RF放電ではコイルとプラズマ中に設ける必要はなく,プラズマ中の不純物の軽減にも有利である.
非共鳴形の誘導性結合RF放電のプラズマへの電力移送機構はジュール加熱(電子―中性粒子間の衝突加熱)およびプラズマ中の電子が振動す
る誘導電場と相互作用する統計加熱(無衝突加熱)の二つが考えられている.RF電力がプラズマへ移送される領域はスキンデップスで定義され
ている.電子の相互作用時間がRFの周期に比較して短いときは統計的加熱支配的なスキンデップス(アノーマラススキンデップス)となるとさ
れている.スキンデップスは低圧,高密度プラズマではプラズマの容器の寸法に比べてずっと小さい.この場合,大部分のプラズマ領域は静か
でRF振動の影響は小さい.
プラズマ・核融合学会用語解説
陽光柱
掲載号 74-9
279
Poasitive Column
グロー放電の陽極暗部とファラデー暗部およびアーク放電の電極輝点間をつなぐ弱電離部分をいう.グロー放電の維持/損失機構は,衝突電
離/両極性拡散であり,Schottchottkey(1924;P=0.1-10Torr),Tonks&Langmnuir(1929;P ≦ 0.01Torr),Holm&Seem&Seelinger(1953;負イオ
ンを含む場合)らにより理論解析されてきた.アーク放電の維持・損失機構は,熱電離/対流・熱伝導・放射であり,Saha(1921)らにより解析
されてきた.
グロー放電の陽光柱は,一般に低ガス圧電流でアーク放電の陽光柱は高ガス圧高電流で出現するが,大気圧以上でも特殊な状態(コロナ放電
の一部や放電開始後のごく短時間)では前者が現れる.中ガス圧(p = 数Torr−数百Torr)領域では拡散したグローの陽光柱から収縮した陽光柱
への遷移が見られ,その付近では連続スペクトル真空紫外光がかなり効率よく発生することが近年の研究により多くの報告されている.それら
の発光の原因として,この領域では正イオンはほとんど分子イオンになり励起された中性分子も多くなるため「解離再結合放射説」や,電子の
中性粒子にたいする「制動放射説」などがあり興味がもたれる.
プラズマ・核融合学会用語解説
LHART
掲載号 68別冊
066
Large High Aspect Ratio Target
現在,慣性核融合用大型レーザー装置を用いたペレット実験において,最も高いペレット利得は,LHARTと呼ばれるターゲットを用いて実現
されている.このターゲットは,肉厚の薄いガラス中空球(GMB:glass microballoon)にガス状のDT燃料を封入したもので,そのターゲット形
態比(GMBの初期径の初期厚みに対する比)が500程度と極端に大きいことにより,Large High Aspect Ratio Target と呼ばれている.高密度圧縮
を念頭においた爆縮過程では,核融合燃料プラズマは,それを取り巻き,保持しているプラズマ(プッシャー)の内向きの運動によって発生す
る求心衝撃波によって圧縮,加熱された後,プッシャーの動圧によって さらに圧縮される.この過程はプッシャーの減速を伴い,減速相あるい
は stagnation 相と呼ばれる.ところが,減速相に於いては,プッシャーと燃料の界面が流体力学的に不安定であり,プッシャーと燃料の混合が
進行するため一次元的に予想される高い圧縮率ならびに核融合反応数を期待できない.そこで考え出されたのが stagnation-free mode と呼ばれる
爆縮形式である.これは,stagnation による追圧縮を行うことなく,求心衝撃波のみで燃料全体を高温に加熱しようとするものである.このモー
ドをガス燃料の場合に実現したのが LHART を用いた多重衝撃波圧縮である.LHART の薄肉のプッシャーは噴出型加速によって効率良く加速さ
れ,燃料中に多段の衝撃波を形成する.レーザーのパルス波形を整形し,後続の衝撃波すべてが,ターゲット中央で第一衝撃波に追い付くよう
に設計すると,燃料中心部は後続の衝撃波の重畳によって一挙に圧縮,過熱され,10 keV 近い高温になる.
プラズマ・核融合学会用語解説
LIDARトムソン散乱
掲載号 66-2
005
LIDAR Thomson Scattering
LIDARは, Light Detection And Rangingの略で,光を用いる点を除いては RADAR(Radio Detection And Ranging) と同様であり,対象とする物体から
の反射波の飛行時間より反射点の距離を求めるもである.最近,LADARの手法をインコヒーレント・トムソン散乱法に組み入れた新しい計測法
がJETで開発され,電子密度および電子温度の空 間分布測定に使用された.入射レーザー光に対して後方散乱 (180゜散乱) される散 乱光を同一
ボードから受信することにより,散乱領域の位置を Time of Flight の手法に基づき決定するものである.レーザーパルス幅をτL検出器系の応答
時間をτDとすると,測定の空間分解はΔL = (τL + τD) / 2 で与えられる.このため,測定の空間分解を上げるためにはレーザ ーの短パルス化
と受信器の高速応答化,およびレーザーの発振繰り返し周波数を上げることが必要である.
プラズマ・核融合学会用語解説
ラマン散乱
掲載号 74-12
288
Raman scattering
物質に周波数νの光を入射すると,散乱光として入射光と同一の周波数の光(レーリー散乱光)と共に物質特有の周波数νRだけシフトした
周波数の光が観測される.後者の現象に関して,インド人のC. V. Raman等は1928年に周波数シフトνR が物質振動数に対応することを明らかに
した.この散乱現象は,発見者にちなんでラマン散乱と呼ばれる.ラマン散乱のうちν-νR の周波数成分はストークス(Stokes)散乱,ν+νR の
周波数成分はアンチストークス(anti-Stokes)散乱と区別して呼ばれる.ストークス散乱では,入射光子のエネルギーのうちhνR (hはプランク
定数)が物質に与えられ,物質は励起状態に遷移する.逆に,アンチストークス散乱では励起状態の物質が光子にエネルギーを与え,物質はh
νR だけ下のエネルギー準位へ遷移する.多くの場合,室温において物質振動はほとんど基底状態にあり,アンチストークス散乱の強度はス
トークス散乱に比べて極めて弱い.
ラマン散乱に関与するエネルギー準位には,原子,分子の電子状態,分子の振動状態,回転状態に対応したものがあるが,電子エネルギー準
位差は可視光のエネルギーに比べて大きいので,可視域近辺でのラマン散乱は主として振動,回転のエネルギー遷移に結びついたものである.
このラマン散乱のスペクトルは,分子構造に関して有用な情報を与える.しかしながら,ラマン散乱の断面積はレーリー散乱の断面積より3桁
程度も小さく,ラマン散乱は極めて弱い散乱現象である.そのため,ラマン散乱の分光法としての実用的な発展は様々なレーザー光源が出現し
普及した1970年代以降になされた.近年,さらにレーザー光源やマルチチャンネル検出器が進歩したことによりラマン散乱計測が容易になり,
シリコン薄膜結晶構造の評価などの工業分野の分析,農産物・食品の分析,臨床医学検査等,広範な分野に応用が広がっている.気相の分子の
計測に関しては,これまで大気圧程度の燃焼場への応用に限られていたが,最近1mTorr程度の圧力相当の分子密度までラマン散乱測定を行う可
能性が実証され,プロセスプラズマ等の分子ガス中の放電プラズマ内の各種分子密度のその場計測法としての発展が期待されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ラングミュアプローブ
掲載号 73-12
252
Langmuir Probe
プラズマに微小電極を挿入し別に設けた基準電極に対して電圧を印加する事により得た電流−電圧特性からプラズマの諸量を測定するプロー
ブで,1924年ラングミュアにより開発された.特性はプローブの電圧が負から正バイアスに向かうに従い,(1)正イオン飽和領域,(2)電子反発領
域,(3)電子飽和領域に分けられる.(1),(2)の領域の間に電流が零となる浮遊電位が存在する.電子反発領域を電圧に対し半対数表示しその傾
斜の逆数から電子温度Teが求まり,電子飽和領域から電子密度Ne,プラズマ電位(空間電位)Vsが求まる.プローブの幾何学形状は平板,円筒,
球型がある.プラズマへの影響はシースと称する境界層により限定されるため局所測定に適し,標準的な測定範囲はおよそNe = 105 -1012 cm-3,
Te = 500 -105 Kである.
発明以来磁場効果,衝突効果,シースの応答機構の研究や浮遊状態での測定(ダブルプローブ法),高速測定(パルスおよびトリプルプロー
ブ法),グリッド付きプローブ等技術的改良が行われた結果,測定対象も磁化プラズマ,中気圧プラズマ,アーク等にも拡張され,上記パラ
メータ以外に電子エネルギー分布,ビーム,負イオン,イオン温度,マッハ数,ダスト等も測定されるようになった.最近では基礎的研究のみ
ならずプロセッシングプラズマ,宇宙空間プラズマ,核融合周辺プラズマ等広い分野で使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ランダウ減衰
掲載号 69-3
087
Landau Damping
プラズマ中の波が,粒子との共鳴的な相互作用によってエネルギーの減衰を受ける現象をいう.例として,等方なプラズマ中を位相速度vp で
伝わる静電波(空間電荷波)を考える.これと等速度で走る粒子は,長時間にわたって波の同位相に留まっているので,そこでの電場の向きに
よって,粒子はその間電場によって加速または減速を受け続け,波との間にエネルギーの共鳴的な授受を行う.これらの粒子のうち,位相速度
より少し遅い粒子は,平均として加速され,逆に少し速い粒子は滅速される.熱平衡分布では,遅い粒子の方が速い粒子より数が多いので,共
鳴粒子は平均として加速され,波からエネルギーを奪うことになる.その結果波の方はエネルギーの減衰を受ける.これがランダウ減衰であ
る.波の位相速度は,角振動数をω,波数ベクトルをkとすると,vp = ωk で表されるので,共鳴条件は,粒子の速度をvとして,ω = k・v で表
される.粒子の速度分布関数を f(v) とすると,ランダウ減衰率γは,-k・∂f(v)/∂vδ[ ω - k・v ] に比例する.ランダウ減衰は,波の寿命が短
く,その間に共鳴粒子が加速相と減速相とを行き来しないときに起こる.これは,外部から波の形で加えたエネルギーを粒子のエネルギーに変
換する役を果たすので,プラズマの加熱や電流駆動の物理機構として使われている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ランダム位相板
掲載号 68別冊
075
Randum Phsdr Plate: RPP
ランダム位相板は,レーザービームを多数の小さなビーム素に分割し,それぞれにランダムな位相差を与える光学素子である.レーザービー
ムで球ターゲットを照射して圧縮する直接照射方式レーザー核融合において,照射の一様性を向上するために使用される.ランダム位相板を挿
入したレーザー光の集光面における強度分布のエンペロープはビーム素の遠視野像で与えられ,それに多数のビーム素からの回折波の干渉によ
るランダムな分布のスペックルパターン(明暗の徴小斑点模様)が重なる.遠視野像はビーム素により決まるのでターゲット照射強度分布が制
御可能となる.この他にも広帯域のレーザー光を用いてスペックルを時間的に高速度で動かし強度分布を平滑化する「誘導空間インコヒーレン
ス(Induced Spatial Incoherence:ISI)」や「スペクトル分散による平滑化(Smoothing by Spectral Dispersion:SSD)」などの方法が,レーザー強
度分布の制御のために考案されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
リャプノフ指数
掲載号 74-1
254
Lyapunov Exponent
リャプノフ指数は,比較的容易に求めることのできるカオスを特徴づける物理量で ある.カオスの定義は人により少しずつ異なってはいる
が,一般に,カオスは有限個 の変数が従う決定論的常微分方程式が生みだす非周期的運動と定義されている.これを相空間における解の軌道で
考えると,近接した2点から出発した軌道が,不安定で 指数関数的に離れていくが,非線形性によりどこかで折り畳まれて有限領域に閉じ込め
られている時カオスという.今軌道上の点の周囲に半径が無限に小さい球を考える .この球は軌道に沿って変形し,不安定方向には伸び安定方
向には縮む.したがって,p次元の楕円体となる.この楕円体の伸び縮みの指数関数的な平均拡大率あるいは平均縮小率がリャプノフ指数であ
る.p次元相空間にはp個の基底ベクトルが一般に存在す るため,各ベクトル方向の無限に近接した2点から出発した軌道を考えるとp個のリャプ
ノフ指数liが得られる.リャプノフ指数の最大値をlとすると,安定な周期軌道ではl = 0である.l > 0の場合,軌道は不安定でカオスが発生して
いることを示している .この時,軌道の少なくとも一方向の初期値のずれは平均として指数関数的に増大している.カオスであることは,リャ
プノフ指数の内,正のものが一つ以上あることと同義である.
プラズマ・核融合学会用語解説
リチウム同位体分離
掲載号 70-11
140
Lithium Isotope Separation
核融合炉燃料トリチウムは,天然資源としては存在しない.一方D-T炉で発生する中性子は,その運動エネルギーを熱として利用されるだけ
で核分裂炉でのように連鎖反応を担う必要がないので,この中性子を利用してトリチウムを6 Li(n,α)3 H反応で増殖する必要がある.増殖場であ
るブランケットで十分な増殖率を実現し燃料を確保するには,天然リチウム中に7.4%しか存在しない6 Liを分離濃縮することが考えられてい
る.このための多くの方式が研究開発されており、現在の技術レベルでは,Hg−Liアマルガム法が最も成立性が高いとされているが,水銀の使
用を難点とする判断もある.本方式では,以下の同位体交換反応での平衡定数の1からのずれを利用しており,いわゆる化学交換法の一種であ
る.ここで得られる分離係数は,およそ>1.05である.他の方式にはより大きな分離係数を示すものもあるが,工業技術の観点からは期待でき
ない.
式(1):140eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
リチウムブランケット
掲載号 70-11
141
Litium Blanket
燃料として重水素(D)と三重水素(T:トリチウム)を核融合させる動力炉(D−T核融合炉)においては,トリチウムが天然には存在しな
いので,自家生産する必要がある.核融合反応を起こすプラズマの周囲を,リチウム(Li)を装荷したブランケットと呼ぶ機器で取り囲み,D
−T核融合反応に伴って発生する中性子とリチウムとの反応により,トリチウムを生産する.このブランケットに含まれるリチウムの形態とし
ては,液体状の金属リチウム,リチウム鉛等の合金,酸化リチウム等のリチウム化合物が考えられている.狭義には液体金属リチウムを含むブ
ランケットを「リチウムブランケット」と称する.自家生産するトリチウムの量が,燃料として消費する量より多い(増殖する)場合には,ト
リチウム増殖ブランケットとも呼ぶ.
プラズマ・核融合学会用語解説
リップル損失
掲載号 73-11
249
Ripple Loss
トカマクのように有限個数のコイルでトロイダル磁場を構成するトーラス系の核融合装置では,コイル間よりもコイル直下でトロイダル磁場
が強くなるため厳密には軸対称性が破れており,トーラス方向に沿ってみたときの磁場はわずかに波打っている.このような磁場のリップルに
由来する捕捉粒子(特に,高速イオン)の損失をリップル損失という.トロイダル磁場のリップルは,捕捉粒子の軌道を変調し,リップル捕捉
と呼ばれる粒子の捕捉状態と,バナナドリフトと呼ばれる粒子のドリフト運動を生じさせる一方,通過粒子の軌道はリップル磁場の影響を受け
ない.ここで,リップル捕捉とは,隣り合うトロイダル磁場コイル間の局所的なミラー磁場(リップル井戸)に粒子が捕捉されることをいい,
リップル捕捉された粒子はB×▽B方向にドリフトする.また,バナナドリフトとは,バナナ粒子が上部反射点の近傍で受ける▽Bドリフト量と
下部反射点近傍でのドリフト量とが相殺し合わないために生ずる半径方向の輸送のことをいう.これら2つの輸送過程がリップル損失を引き起
こす.リップル損失は第一壁表面の特定の場所に集中するため,その量が多い場合には第一壁の損傷を招く.
プラズマ・核融合学会用語解説
リヒトマイヤー・メシュコフ不安定性
掲載号 72-3
188
Richtmyer-Meshkov Instability
密度の異なる境界面を斜めに衝撃波が通過したとき,衝撃波は反射,屈折し,境界面の歪を増大させる.このようにして励起される境界面の
不安定をその発見者2人(米国,旧ソ運)の名を取ってRichtmyer-Meshkov(RM)不安定という.衝撃波により境界面に励起される渦度よりRM
不安定の物理機構を説明できる.完全流体の運動方程式は,速度u,密度ρ,圧力Pのとき,以下の式(1)になる。
この式の回転(▽x)を取ると,流れの渦度ω=▽×uに対する次の支配方程式(式2)を得る.
右辺第3項はBaloclinic項と呼ばれ,密度と圧力の傾きが並行でないとき渦を作る源となる.
図(188.gif)のように密度がρ1,ρ2の歪んだ物質境界面を左から衝撃波(sw)が通過したとき,衝撃波の圧力による▽Pと,境界面での▽ρ
は,図の上に示したようになる.この時,ρ1 とρ2 の大小関係で形成される渦度の方向が決まる.衝撃波通過後,この渦による流体運動が図の
下のA,Bの場合のように,境界面の歪を大きくしていく.これをリヒトマイヤー・メシュコフ不安定と呼ぶ.ここで,Bの場合(ρ1 >ρ2 )に
は,歪は位相を反転させて成長していくことに注意.歪が小さい線形解析の極限では,歪は時間に比例して成長する.これが,爆縮などで強い
衝撃波が物質境界面に衝突する際に歪の成長を助長し,物質混合を引き起こすと考えられている.類似の不安定機構にレイリー・テイラー
(Rayleigh-Taylor)不安定がある.
式(1):188aeq.gif
式(2):188beq.gif
図:188.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
粒子閉じ込め時間
掲載号 70-4
122
Particle Confinement Time
トカマクなどの磁気閉じ込め装置において,粒子閉じ込め時間τp はτp =N/Φoutで定義される.ここで,Nはセバラトリックスやリミタで決ま
る閉じた最外殻磁気面を境界とする主プラズマ内の全粒子数,Φoutは主プラズマから流出する全粒子束(s-1)である.τp は,中性粒子の電離に
よる粒子源とともにプラズマ粒子の収支を決めるので,その把握は粒子制御と関連して重要である.電子密度と実効電荷数(Zeff)の測定から
Nが得られるとき,τp は,Φoutを測定して定義式から求められる場合と,粒子ソースSを測定してグローバルな粒子バランスの式dN/dt=S−N/τ
p から求められる場合とがある.最近の大型装置では,ガスパフや粒子リサイクリングで供給される中性粒子の侵入長がプラズマ半径よりずっと
短いため,粒子ソース分布は相対的にプラズマ周辺部に局在化している.したがって,上記の定義によるグローバルな粒子閉じ込め時間τp はプ
ラズマ周辺部の粒子の出入りで決まることになり,プラズマ中心部の粒子閉じ込め時間をあまり反映していない.このことから,τp は粒子置換
時間(particle replacement time)とも呼ばれる[1,2].
[1]p.c.Stangeby and G.M.McCracken,Nucl. Fusion 30, 1225(1990).
[2]辻 俊二:核融合研究 63, 460(1990).
プラズマ・核融合学会用語解説
粒子ピンチ
掲載号 71-2
151
Particle Pinch
トーラスプラズマにおける小半径方向の粒子束Γは密度を n とすると拡散項と対流項を含んだ式(1)の形式で記述できる.この対流項のう
ち,流速がプラズマ中心方向を向くものを特に粒子ピンチと呼んでいる.粒子ピンチの理論的説明の 1つにウェアピンチ(Ware Pinch)がある.
これはトロイダル電場Eφが存在する場合 ,正準運動量のトロイダル成分Pφの保存則のため捕捉粒子の軌道が小半径方向の内向きに速度Eφ/Bp
でドリフトすることによって生じる (Bp はポロイダル磁場).逆アスペクト比をε(=r/R)とすると,全粒子に対する捕捉粒子の割合はおおよそ
ε1/2 であるのでウェアピンチによる粒子束はΓ=-ε1/2 nEφ/Bp となる.実験的には拡散係数 Dおよび流速 Vはガスパフや固体水素ペレット入射等
により密度分布に摂動を与え,その時間変化を解析する手法で求められている.トカマク実験で 得られる流速 Vはウェアピンチに比べると大き
く,とくにペレット入射直後に形成される中空な密度分布から中心で尖頭化した分布への移行時間はウェアピンチでは説明できない.ウェアピ
ンチの他にも異常電子粘性,イオン温度勾配モード,ドリフト波乱流等に基づく粒子ピンチの理論が提唱されている.トカマクにおける閉じ込
め改善モード(高βpモード,スーパーショット,PEPモード等)はプラズマ中心で尖頭化した密度分布を持つ場合が多いため,粒子ピンチは熱
ピンチとともにプラズマ輸送を理解する上で非常に重要である.
式(1):151eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
粒子モデル
掲載号 68-1
033
Particle Simulation Model
いわゆる三体問題に比べて無限に多くの荷電粒子から構成されるプラズマの非線形・多体問題を,自己電磁場を解きながら運動学的に(軌道
運動や共鳴現象など粒子効果を考慮して)扱うのが,粒子モデルによる数値シミュレーション法である.この天文学的個数の電子・イオンから
なるプラズマを,有限個(≒106 - 107 個)の「超粒子」で代表させ,それら個々の運動を迫跡する粒子シミュレーション法は,プラズマが「集
団的(collective)」性質をもつおかげで,非常によくプラズマをモデル化している.
粒子モデルは応用範囲から見てふたつに分類される.デバイ長やプラズマ振動数近傍の微視スケール現象を記述する単純な「陽解法」手法
は,シース問題,サイクロトロン共鳴や加熟に代表される波動 - 粒子相互作用などを対象として,スペース物理やレーザー核融合の研究で用い
られている.他方,「磁気流体的」な巨視現象に微視的な粒子効果がはたらいて,プラズマの安定/不安定性や輸送現象が生じる磁気閉じ込め
核融合の研究では,様々の「低周波・大空間スケール」粒子シミュレーション法が1980年代から開発,応用され始めている.
プラズマ・核融合学会用語解説
リュードベリ定数
掲載号 75-2
295
Rydberg Constant
非相対論近似の量子論から求められる水素原子のエネルギー準位は,波数(エネルギー/hc)を単位として表すと,-R/n2 となる.ここでnは
整数(主量子数)であり,R はガウス単位系で下式(1)で与えられ,リュードベリ定数と呼ばれる(e:素電荷,c:光速,h:プランク定数,
m:電子の質量,M:原子核の質量,μ:電子と原子核の相対運動を記述する際の換算質量).なお,水素原子(M = 陽子質量)に対するRを
RH,また,M→∞(すなわちμ=m)の場合のRをR∞等と書く.したがって,水素原子のスペクトル線の波数(波長の逆数)はn,n'を整数とし
てRH(1/n2 -1/n'2 )の形に表すことができる.リュードベリ定数の名前はこのようなスペクトル線の波長の規則性を研究したJ.R.Rydberg
(1854-1919) にちなむ.一般の原子でも,一つの外殻電子が高く励起された"リュードベリ状態"のエネルギーは-RZ2 / (n -δ)2 の形で近似できる.
ここで,Zは中性原子に対し1,N価イオンに対しN+1であり,また,δは量子欠損と呼ばれ,エネルギー準位系列(角運動量状態が一定で主量
子数nが異なる準位の集まり)ごとに決まる定数である.リュードベリ定数は最も高精度の測定が可能な物理量の一つであり,例えばUdemらは
水素原子スペクトルのレーザー分光計測により,R∞=109737.31568639±0.00000091 cm-1を得ている[1].このような測定は,e,m,h等の基礎物
理定数の決定や物理理論の検証に役立つ.
[1] Phys. Rev. Lett. 79 , 2646(1997).
式(1):295eq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
両極性拡散
掲載号 73-6
234
Ambipolar Diffusion
プラズマが磁場による閉じ込めなどで磁気流体力学的に平衡な状態にあっても、密度勾配があれば勾配をなくす方向に流れを生じ,いわゆる
拡散の現象が起きる。その際,電子成分とイオン成分の流れる速さが異なると密度の差が生じて局所的に電気的中性が破れ,電場が生じて,そ
れが電子とイオンの流れ速度の差をなくす方向に働く.そして準定常状態では電子とイオンとは同じ速さで一体となって拡散するようになる.
この現象を両極性拡散と言う.その大きさを決める拡散係数は電子とイオンの各単独の拡散係数と移動度とで書き表されるが,それが単独の拡
散の遅い方の成分の拡散係数と同じ程度(実際は約2倍)の大きさを持つのが特徴である.典型的な場合として強い磁場に垂直な方向のプラズ
マの拡散を考えると,ラーモア半径の大きいイオンの方が電子よりもはるかに大きい拡散速度をもつが,イオンが先に流れ出すとそれを引き戻
し電子を引き出す方向の電場を生じて,結局はプラズマ全体が電子の遅い拡散と同じ程度の速度で拡散する.また磁場のない弱電離プラズマ中
で密度勾配が生じると今度は熱速度の大きい電子が先に拡散するが,準定常時には拡散の遅いイオンと同程度の速さの両極性拡散となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
両極性条件
掲載号 71-7
164
AMbipolarity Condition
イオンと電子の拡散係数が異なる時,両者の流束の差が電場を生じさせ,この電場が拡散の大きい方の粒子を引き戻す方向に働き,定 常状態
では両者の流束は等しくなる.この流束が一致する条件: Γi=Γeを両極性と呼び,このときの流束を 両極性流束と呼ぶ.さらに,両極性条件
Γi=Γeによりこの状態 の電場が決定されることになる.簡単のため密度勾配と電場による拡散のみを考慮し,拡散係数 Ds および移動度係数μ
s を用いてイオンおよび電子の流 束が 式(1)で与えられるとすると, 両極性条件により電場Eは 以下の(2)式となる.トーラス系プラズ
マなど閉じた磁気面があるプラズマの定 常状態を考えた場合, 新古典流束をΓsとすると両極性条件は径方向電流の 磁気面平均 <Jer>がゼロで
あること:<Jer>=e[<Γir>-Γer]=0となる.ヘリオトロン/トルサトロンなど非軸対称系では,イオンおよび電子の径方向流束がそれぞれ電場の
関数であり,この両極性 条件が径電場を決定する条件となる.他方,軸対称性があるトカマクにおいてはこの両極性条件が内在的に満たされて
いることから (径電場に無関係に常に ),径電場は両極性条件では決まらない.
式(1):164aeq.gif
式(2):164beq.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
レイノルズストレス
掲載号 71-2
152
Reynolds Stress
流速や圧力が不規則に変動する流体運動即ち乱流において, 流体速度uはu=<u>+u'のように平均速度部分<u>と揺動部分u'に分けられる.流
体速度uの従う運動方程式 の統計平均をとると,平均速度<u>が満たすべき運動方程式が得られる.この平均化された運動方程式には乱流によ
る運動量の輸送を表す項 が現われる.ここで乱流応力項は,τ=-<ρu'u'>(ρ:流体の質量密度,< >:平均化操作)で与えられ,レイノルズ
ス トレスと呼ばれる.また,平均速度の運動エネルギーから乱流運動エネルギーへのエネルギー移送はτ∇u によって表される.平均速度の勾
配∇<u>によって引き起こされるせん断乱流等ではτ∇<u>は正であり,レイノルズストレスは乱流による粘性の増大をもたらす.一方,圧力勾
配等により生ずるプラズマ乱流においては,Hモードプラズマに観られるように,シアフロー∇<u>が乱流を抑制する場合があり,負のτ∇<u>
を与えるレイノルズストレ スをシアフロー生成・乱流抑制の機構とするL-Hモード遷移のモデルが提唱されている.
プラズマ・核融合学会用語解説
レイリー・テイラー不安定性
掲載号 68別冊
056
Rayleigh - Taylor Instability
質量の軽い流体が重い流体をささえ,重力と圧力がつり合った平衡状態ではその境界面は流体力学的に不安定である.乱れが小さい間は境界
面の乱れは時間に対して指数関数的に成長し,乱れの大きさが波長程度になると重力と時間の2乗に比例して増大する(gt2 )自由落下状態へと
移行する.これがレイリー・テイラー不安定性であり,古くから知られている重力不安定性である.古典的成長率は波数と重力の積の平方根と
なる.慣性閉じ込め核融合では次の2つの面で不安定性が存在する.燃料の圧縮加速時にはアブレーション面で実効的な重力加速度が外向きに
働き,また最終圧縮での減速時には燃料とプレッシャーの接触面で加速度が内向きに働き,各々の面でレイリー・テイラー不安定性に対して不
安定になる質量密度勾配が存在する.アブレーション面(噴出面)では,不安定面が剥がれることにより安定化される(ablative stabilization).
安定化効率は噴出速度と波数に比例して大きくなり,短波長モードは安定化される(成長率:γ=α(kg)1/2−βkVa,α∼0.9,β∼3.0).し
たがって同じ質量墳出率(mass ablation rate m=ρVa)を得るにも質量の軽いアブレータを用いると安定化効果が大きくなる.球殻(シェル)
ターゲットの半径と球殻の厚さの比をアスペクト比(R/△R)という.シェルの厚さ程度の波長の乱れが最も危険であるが,その成長はアスペ
クト比の平方根に比倒する(k∼1/△R,R∼gt2 /2 γt∼(kg)1/2t∼(R/△R)1/2).したがって,安定性の向上には低アスペクト比のターゲット
が望ましく,一方,流体力学的効率向上には比較的大きいアスペクトが有利である.アスペクト比の最適化が必要となる.いずれにしてもター
ゲット表面の均一性,エネルギードライバーの照射均一性が重要である.また,不均一な接触面を衝撃波が横切る時に生じる(時間に比例して
成長する)Richtmyer-Meshkov 不安定性がレイリー・テイラー不安定性の種になる時がある.
プラズマ・核融合学会用語解説
レーザー誘起蛍光法
掲載号 73-1
220
Laser Induced Fluorescence Method
分子や原子が存在する領域に,それらの特定の2つの準位1,2間遷移波長に等しい波長のレーザー光を入射すると,下位準位1から上位準位2
への励起とともに,上位準位2から下位準位1への誘導放出(入射光と位相と放射方向が同じ光学的遷移)に加えて,準位2から,準位1を含む下
位準位への自然放出(入射光に対して位相は無関係で,放射がすべての方向に起こる光学的遷移であり,蛍光と呼ばれる)を生じる.この自然
放出光を検出して,下位準位1に関する情報(密度や速度など)を得る方法がレーザー誘起蛍光(LIF)法である.測定に際しては,観測波長を
励起波長と同一にせざるを得ない場合(2準位系)もあるが,入射レーザー光の散乱が検出感度を低下させやすい欠点があるため,できるだけ
励起波長と異なる観測波長(3準位系)を選ぶ方が好ましい.得られる蛍光の強度は,入射レーザーエネルギーUが小さい範囲ではUに比例して
増加するが,Uがある値以上になるとUに無関係となる飽和特性を示す.飽和特性の存在はLIF法にとって有利であり,この領域を利用すること
によってレーザーエネルギーに依らない測定が可能となる.
プラズマ・核融合学会用語解説
レベルミクシング
掲載号 70-1
113
Level Mixing
プラズマ中では原子(イオン)に電子が衝突することにより励起が起こる.励起された束縛電子は輻射遷移によりスペクトル線を放出する.
励起状態の占有密度は主に基底状態からの電子衝突による励起で決まる.しかし,主量子数nが同じで軌道角運動量Jが異なる励起状態間のエ
ネルギー準位差は小さいため,断面積が大きく,かつ,電子衝突以外に陽子,およびイオン衝突も原因となって,頻繁に遷移(励起,脱励起)
が起こる.このために各準位の占有密度は(n,l−n,l′)遷移により変わり輻射スペクトル線の強度が変化する.この効果は主量子数の大き
い準位ほど影響が大きい.トカマク等で電荷交換分光により測定する炭素イオンや酸素イオンからの可視領域のスペクトル線は主量子数の大き
い準位間(例えばn−n′=8−7)での遷移であるため,(m,l−n,l′)遷移はこれらのスペクトル線の発光断面積に影響を与える.このよう
にエネルギー準位が近いレベルの占有密度が混じり合うことをミクシングという.レーザー生成プラズマのような高密度プラズマではこの効果
がより支配的になり,占有密度の比は統計的重率に近づくので,プラズマからのスペクトル強度に大きく影響を与える.
また,衝突過程によるミクシング以外に,電場や磁場等の外場により量子力学的にミクシングが起こる場合もある.これは各レベルの波動関
数に,外場の効果により異なる軌道角運動量を持つレベルの成分が混ざるために起きるもので,衝突によるものとは異なる.この効果により禁
制遷移のスペクトル線が外場のない場合と比べて強くなる.外場が電場の場合はシュタルク(Stark)ミクシングとよばれ,電場測定に利用され
ている.
プラズマ・核融合学会用語解説
レムカウンタ
掲載号 74-7
274
Rem-Counter
減速型中性子線量当量計のことで,中性子エネルギーが未知でも較正なしでほぼ正確に線量当量が求まる便利な計測器である.線量当量の単
位は現在のシーベルト (Sv) になる前はレム (rem) と呼んでいたので,名前はその名残りである.
構成は熱中性子検出器である BF3 比例計数管を中心に置き,その周りを厚さ10 cm 程度のポリエチレン減速材で覆ったものである.減速材内
部に Cd板等の熱中性子吸収材に適当な大きさの孔をいくつか穿ってはさみ,入射中性子のエネルギーに応じて比例計数管に到達する熱中性子
の数を自然に調節する仕組みになっていて, ICRP (国際放射線防護委員会) の定めた中性子フルエンスから1 cm 線量当量へ換算する係数の中性
子エネルギー依存曲線にうまく合うように設計されている.また,γ線に対する感度は低く抑えられている.
プラズマ・核融合学会用語解説
ρR
掲載号 68別冊
055
ρR
密度ρの径方向積分値 ∫ρdrを示す.爆縮された燃料プラズマは,それが最大圧縮時にほぼ平均密度ρで半径Rのサイズであるとき,ρRの
値を持つ爆縮プラズマといわれる.ρR値は慣性閉じ込め時間に比例し,磁場閉じ込めで一般に用いられる閉じ込めパラメータ nτ の代わり
に用いられる.爆縮されたプラズマが慣性力により閉じ込められている(飛散してしまうまでの)時間 τ は,τ=R/(αCs )程度である.こ
こで Cs はその音速,α≒3−4.したがって,nτ≒ρR/miCs となり,慣性閉じ込めのρRが磁場閉じ込めのnτに対応する.ここでmiはイオ
ン質量.D-T核融合反応時に生成するアルファ粒子の平均自由行程をλαとするとρ=200g/cm^3 で5−10 keV の状態でρλα≒0.3−0.4g/cm2
である.したがって,5 −10 keV でρR≒ρλα の爆縮プラズマを実現すれば,自己生成アルファ粒子による自己加熟が起こり,さらに自己点
火条件が満たされる.したがって,爆縮プラズマの温度とρR値が慣性核融合の達成パラメータとしてよく用いられる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ローソン条件
掲載号 69-9
102
Lawson Criterion
核融合の炉心としての成立条件をプラズマのパラメータにより表したもので,1957年英国の J. D. Lawson が指摘したことにより,この名がつ
いている.高温プラズマの熱エネルギーは熱拡散と放射により急速に失われる.このエネルギー減衰時定数をエネルギー閉じ込め時間(τ)と
呼ぶ.核融合反応で発生するエネルギーを発電に利用するには,炉心プラズマを高温,高密度の状態に保持しなければならないので,そのエネ
ルギー損失分を補う加熱が必要とされる.この加熱入力と核融合反応率の特性を考慮すると,炉心プラズマの条件は,プラズマ密度とエネル
ギー閉じ込め時問の積(nτ)およぴプラズマ温度(T)の2つの変数で記述できる.
核融合での発生エネルギーと,加熱に必要なエネルギーとの収支から,例えば重水素と三重水素(通常成分比を1対1とする)の核融合におい
て,有効なエネルギーを取り出しうる条件をこの2つの変数で表したものがローソン図と呼ばれる.典型的な値として,nτ ≧ 1020(個/m3 )×
1(秒),T ≧ 10keV(約1億度)が示され,それへの近づき方が炉心プラズマ達成への目安とされている.また,炉心プラズマ自身の中で,核
融合発生エネルギーが加熱に使われ反応が持続する条件は,自己点火条件と呼ばれている.
図:102.gif
プラズマ・核融合学会用語解説
ロゴスキーコイル
掲載号 72-01
181
Rogowski Coil
電流が時間的に変化すれば,電流の作る磁場も同様な時間変化し,誘導電場が生じる.電流を囲むように設置された,主半径r,断面積Sの
トーラス(ドーナツ)のポロイダル方向に巻かれたコイルに生じる誘導起電力から,流れる電流を測定するコイルをロゴスキーコイルという.
コイルの起電力eは電流Iの時間変化量dI/dtに比例し,比例定数αはコイルの形状およびコイルと電流の相対位置から決まる.簡単なRC積分回
路を併用すれば(RC>>1/ω;ωは変動電流の角周波数),信号出力Voutから電流の時間変化波形が,より直接得られる.コイルの総巻き数を
N回とすればr>>S1/2の場合,比例定数はα=(μ0 NS)/(2πr)で与えられる.ここでμ0 は真空の透磁率である.コイルが一様に巻かれていれ
ば,測定する電流がドーナツの穴の中心に位置しなくても比例定数には上の表示を用いることができる.
プラズマ・核融合学会用語解説
ロックドモード
掲載号 75-10
315
Locked Mode
トカマク中では電子,水素イオン,不純物イオンの各流体と磁気面構造が摩擦しながらもそれぞれ独立にトーラス方向に回転している.中性
ビーム入射(NBI)加熱をするとビームイオンに押されて回転し,加熱のない時はプラズマ電流を運ぶ電子に引きずられて回転する.粘性の高
いプラズマは遅く,閉じ込めがよくて粘性の少ないプラズマは速い.不純物イオンは容器壁近傍で回転速度が零であるが,磁気面構造は剛体回
転し壁近傍でも速い.
電磁流体力学的(MHD)不安定性が発達すると磁気島が発生する.最も単純な形状は三日月状の断面をした磁気面構造であり,全体として螺
旋状にトーラスプラズマに巻き付いている.壁に置かれた磁場のピックアップコイルの信号には磁気島の回転による正弦波状振動が現れる.こ
れをミルノフ振動と呼ぶ.磁気島が成長するにつれて回転は遅くなり,ミルノフ振動の振動数がだんだん低くなる場合がある.これをロックド
モードとよぶ.甚だしいときには磁気面構造の回転が停止するからである.ロックドモードの原因は,磁気島外側の膨らみが外部磁場(誘導電
流によるものも含む)の凹凸に引っかかるため,とされている.
ロックドモードが発生すると電子やイオン等の各流体の回転にもブレーキがかかる.磁気島が回転するとき壁には誘導電流が流れてMHD不安
定性の成長を妨げるが,回転が停止するとこの安定化効果はなくなり,MHD不安定性は成長を続けディスラプションに至る.また,磁気島外側
の膨らみが壁と接触しており,プラズマから壁へ熱が伝わるが,回転中は一様に熱が分散される.回転が停止すると接触部(螺旋状の線)が動
かないので,局部的に壁が加熱され高温となって,不純物が発生したり壁が損傷する.以上の理由でロックドモードは危険である.