音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育てる学習指導

平成23年度
研究紀要
(第872号)
G5-03
音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育てる学習指導
-指導と評価の一体化による授業構成を中心に-
国立教育政策研究所の調査で,音楽を特徴付けている要素や仕組みと曲想
を関連付けて聴くことの課題が指摘された。そこで,本研究室では,音楽の
よさ・美しさを感じ取る力を育てる学習指導の研究を進めていった。具体的
には,診断テストを実施し,実態に基づいた指導目標・評価規準・聴く活動
と手だての設定による授業構成に取り組んだ。その結果,音楽のよさ・美し
さを感じ取る力に変容が見られ,授業構成の在り方を明らかにできた。
福岡市教育センター
音楽科研究室
目
第Ⅰ章
1
次
研究の基本的な考え方
主題について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音
1
(1)主題設定の理由
(2)主題及び副主題の意味
2
研究の目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音
2
3
研究の仮説‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音
2
4
研究の構想‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音
2
(1)児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力の実態把握
(2)音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育てる授業構成
(3)授業構成の評価
5 研究構想図 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音 5
第Ⅱ章
1
研究の実際とその考察
小学校第3学年
題材「楽器の音色とふしの変化を感じ取って聴こう」‥‥‥‥‥‥‥‥音
2
6
小学校第5学年
題材「ふしのうつりかわりのよさや美しさを感じ取って聴こう」‥‥‥音12
第Ⅲ章
研究のまとめ
1
研究の成果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音18
2
研究の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音18
注釈・引用・参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥音19
している」と回答したのは,6割にも満たな
第Ⅰ章
研究の基本的な考え方
い数値であった。これは,鑑賞の学習指導に
おいて,その工夫改善の点で課題があること
1
を意味していると考えられる。そこで,本研
主題について
究室では,鑑賞の学習指導における工夫改善
(1) 主題設定の理由
の視点として,次のようなことを考えた。
今回,学習指導要領が改訂され,これから
の教育についての改善の方向が示された。音
・
鑑賞の能力における児童の実態把握
楽科においては,音楽のよさや美しさを感じ
・
身に付けさせたい力を具体化した目標
とそれに伴う評価規準の設定
取り,思いや意図をもって表現したり音楽を
・
味わって鑑賞したりする力を育成し,豊かな
音楽を特徴付けている要素や音楽の仕
情操を養うことが目標であり,基本的にはこ
組みと曲想を関連付けて聴く活動とその
れまでの理念を引き継いだものとなっている。
手だて
この目標のもと,文部科学省から出された「児
以上のことをふまえ,本年度は,音楽のよ
童生徒の学習評価の在り方について」では,
さ・美しさを感じ取る力を育てるために,鑑
鑑賞の能力の評価において次のような改善が
賞における指導と評価の一体化による授業構
なされている。
成の在り方を明らかにしようと考え,本主題
・ 音楽を形づくっている要素を聴き取り,
を設定した。
それらの働きが生み出すよさや面白さなど
(2)主題及び副主題の意味
を感じ取りながら,楽曲や演奏の楽しさに
ア
気付き,味わって聴く。
「音楽のよさ・美しさを感じ取る力」
について
このことは,音楽活動の基盤となる鑑賞の
音楽科教育のめざす豊かな情操とは,
能力について,音楽的な感受に基づきながら,
美的情操であり,音楽を聴いてこれを美
音楽のよさ・美しさを味わって聴くことを重
しいと感じ,さらに美しさを求めようと
視したものである。
する柔らかな感性によって育てられる豊
平成 20 年度,国立教育政策研究所教育課程
かな心であると考える。したがって,美
研究センターが「特定の課題に関する調査(音
的情操を養うには,音楽を聴き,その音
楽)」を実施した。この調査は,全国の国公
楽が持つ固有のよさ・美しさを感じ取る
私立小学校から約 110 校,約 3000 人の6年生
ように指導することが重要であると考え
児童を対象に行われたものである。この調査
る。
によると,音楽を特徴付けている要素や楽曲
そこで,本研究室では,音楽のよさ・
の仕組みを聴き取り,感じ取ったことを言葉
美しさを,音楽がもつ内容と形成の二面
で表すという点で課題があることが指摘され
からとらえている。まず,内容とは,曲
ている。これは,児童に鑑賞の能力が十分身
想と言われるもので,その楽曲に固有な
に付いていないことを示しており,これまで
気分や雰囲気,味わい,表情を醸し出し
の鑑賞の学習指導について見直す必要がある
ているもの等である。また,形成とは,
ことを示唆したものと考えられる。
音楽を特徴付けている要素や音楽の仕組
また,先に述べた「特定の課題に関する調
み等である。
査(音楽)」の学校質問紙調査(教師対象)
そして,このような内容と形成の面を
では,「音楽を特徴付けている要素や仕組み
関連付けながら聴かせることにより,音
を聴き取ることができるように指導の工夫を
音-1
楽のよさ・美しさを感じ取る力を育てる
そこで,本研究室では,このような指
ことを考えた。具体的には,次のような
導と評価の一体化による授業構成をめざ
ステップで鑑賞の学習を積み重ねていき,
し,具体的に次のような内容を考え,研
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の育成
究を進めていくことにした。
を図っていく。
・
・音楽を最初に聴いたよさ・美しさの
児童の音楽のよさ・美しさを感じ
取る力の実態把握
感じ取り
・
・よさ・美しさを明らかにする分析的
実態をもとに,身に付けさせる能
力を具体化した指導目標の設定
・
な聴き取り
指導目標の実現状況を見る評価規
準の設定
・音楽全体を再度聴き,よさ・美しさ
・
を感じ取るとともに,それがわかる
指導目標の実現を図る聴く活動と
指導の手だての工夫
こと
そこで,本研究室では,学習指導要領
2
の鑑賞の内容と[共通事項]の内容をもと
研究の目標
に,音楽のよさ・美しさを感じ取る力を
音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育成す
次の三つの能力でとらえることとした。
るために,指導と評価の一体化による授業構
・
曲想を感じ取って聴く能力
成を中心に音楽科学習指導の在り方を明らか
・
音楽を特徴付けている要素と曲
にする。
想のかかわり合いを聴く能力
・
3
音楽の仕組みと曲想のかかわり
研究の仮説
音楽科の鑑賞の学習指導において,次のよ
合いを聴く能力
なお,「曲想を感じ取って聴く能力」
うな過程で指導を行っていけば,児童に音楽
とは,曲想とその変化を直感的に聴き取
のよさ・美しさを感じ取る力を育成すること
る能力であり,音楽のよさ・美しさの基
ができるであろう。
・
盤となるものである。
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
の実態把握
イ 「指導と評価の一体化による授業構成」
・ 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育て
について
る指導と評価の一体化による授業構成
児童一人一人に音楽のよさ・美しさを
・ 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育て
感じ取る力が確実に身に付いているかを
る授業構成の評価
見届けるためには,適切な評価が必要で
ある。国立教育政策研究所教育課程研究
4
センターの「評価規準のための作成のた
研究の構想
(1)児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
めの参考資料」では,目標に準拠した評
の実態把握
価を設定し,着実に実施することの必要
性が述べられている。このことは,学習
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
指導のレベルで考えると,学習のねらい
は,鑑賞の活動を通して,具体的な姿とな
を達成するために評価規準を設定し,聴
って現れる。したがって,児童の音楽のよ
く活動と手だてをとり,学習指導を進め
さ・美しさを感じ取る力の傾向を次のよう
るということである。
な内容で把握しようと考えた。
音-2
ア
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る
この調査は,すべて録音を聴いて問題
力に関する観点シートの作成
に答えるもので,音楽のよさ・美しさを
小学校3年生の児童が鑑賞の活動の中
感じ取る力の三つの能力に関する反応を
で示す音楽のよさ・美しさを感じ取る力
観点にして,楽曲を選定し,問題を作成
に関する内容が,3年生としてふさわし
した。その結果から,どの程度の聴き取
いものであるかどうかは,その基準とな
りができたかを評価できるようにした。
ウ
る観点が必要である。そこで,学年で身
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の実
態分析
に付ける音楽のよさ・美しさを感じ取る
力に関する観点を明らかにし,それを手
この調査によって明らかになった音楽
がかりに評価規準を作成して,評価して
のよさ・美しさを感じ取る力の結果は,
いけば判断することを考えた。
次の二つの形で整理することで,音楽の
よさ・美しさを感じ取る力の実態を分析
本研究室では,学習指導要領に示され
た各学年の鑑賞の内容と〔共通事項〕の
し,その傾向を把握することにした。
内容の関連から,表-1のような音楽の
①
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の
学級プロフィール作成
よさ・美しさを感じ取る力に関する観点
これは,学級の音楽のよさ・美しさ
シート(以下,観点シート)を作成した。
を感じ取る力の結果を4段階で表し,
その割合をグラフに表したものである。
これによって,学級全体の音楽のよ
さ・美しさを感じ取る力の傾向を把握
し,その傾向を授業構成に生かすよう
にしている。
表-1
音楽のよさ・美しさを感じ取る力に
関する観点シート(一部抜粋)
イ
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の診
断テストの作成
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る
力を調べるために,表-1の観点シート
をもとに,第3及び5学年において,次
図―2
のような診断テストを作成した。
音楽のよさ・美しさを感じ取る力
学級プロフィール
②
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の
個人プロフィール作成
これは,診断テストの結果をもとに
児童一人一人の音楽のよさ・美しさを
感じ取る力の傾向をプロフィールに表
したものである。これによって,個人
の傾向を把握し,コメントと合わせて
図―1 音楽のよさ・美しさを感じ取る力の診断テスト(高学年より抜粋)
音-3
表記し,指導に生かすようにしている。
[共通事項]の音楽を特徴付けている要
素や音楽の仕組みを観点に作成した観点
シートを活用する。具体的な観点として
は,次の要素や仕組みが考えられる。
図―3
音楽のよさ・美しさを感じ取る力
個人プロフィール
音楽を特
・音色
・リズム
・速度
徴付けて
・旋律
・強弱
・拍の流れ
いる要素
・フレーズ
音楽の
・反復
・問いと答え
仕組み
・変化
・音楽の縦と横の関係
(2) 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育て
など
例えば,音楽を特徴付けている要素の
る授業構成
速度や音色を観点に設定するのであれば,
主題に掲げた児童の音楽のよさ・美しさ
「速さや音色の変化を聴き取り,それら
を感じ取る力を確かにするために,その力
の働きが生み出すよさ・美しさなどを感
の傾向をもとに,授業構成を次のように進
じ取りながら,音楽を特徴付けている要
めていくことにした。
素のかかわり合いを感じ取って聴いてい
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の三つ
る」という題材の評価規準となる。
の能力を視点として,題材を構成する。し
③
たがって,児童に身に付けさせたい能力を
指導目標の実現を図る聴く活動と手だ
ての工夫
もとに題材を構成することから,基本的に
指導目標の実現に向けては,音楽のよ
主題による題材構成の考え方に立つ。具体
さ・美しさを具体的に感じ取って聴く活
的には,「音楽の仕組みと曲想のかかわり
動とそのための手だてを工夫する必要が
合いを聴く能力」を身に付けさせたいので
ある。具体的には,次のような指導の手
あれば,この能力を身に付けさせるために
だてを考えている。
楽曲を分析していくようにした。
そして,題材構成に基づいた授業構成を
・
曲の聴き比べ
・
身体反応
・
楽譜の提示
・
情景画やさし絵
次の3点から考えていくことにした。
・
学習カード・プリント
①
また,どのような方法で評価していく
指導目標の設定
指導目標については,まず,音楽のよ
かを考えておく必要がある。評価方法と
さ・美しさを感じ取る力の基盤となる曲
しては,次のようなものを考えている。
想を感じ取って聴く能力に関わる内容で
・
表情や体の動き
設定する。そして,音楽を特徴付けてい
・
学習カード・プリントの記述
る要素と音楽の仕組みにかかわる能力の
・
発言の内容
など
(3) 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育
うち,特に身に付けさせたい能力の内容
てる授業構成の評価
で設定する。
②
など
本研究室では,音楽のよさ・美しさを
評価規準の設定
感じ取る力の育成をめざし,指導と評価
指導目標を設定したら,指導目標の実
の一体化による授業構成を中心に進めて
現状況を見る評価規準を設定する。その
きた。
際,楽曲の特徴を考慮して,評価規準を
そこで,その有効性や妥当性を問うた
設定する必要がある。
めに,次の3点の面から授業構成の評価
そこで,評価規準の設定については,
音-4
を進めていくことにした。
ア
評価規準の達成状況の面から
指導目標の実現状況は,評価規準の達
成できたかどうかを児童の姿から見取っ
ていく必要がある。具体的には,聴く活
動におけるめざす姿を考え,実際にその
姿が現れているかどうかを見ていくこと
にした。
イ
図―4
学習意識調査
図―5
学習意識の変容
学習意識の変容の面から
毎時間授業の最後に図-4の調査を児
童に行った。また,学級全体で集計を行
い,図-5のように学習意識の変容をグ
ラフにした。この変容も授業構成につい
ての評価の手がかりとした。
ウ
音楽のよさ・美しさを感じ取る力の変
容の面から
実態把握の際,実施した診断テストを
授業後に実施し,その変容を見て,授業
構成の有効性や妥当性を見ることにした。
5
研究構想図
音楽のよさ・美しさを感じ取る力を身に付けた児童
授業構成
・指導目標の
実現を図る
聴く活動と
手だての工
夫
・評価規準の
設定
・指導目標の
設定
曲想
聴く能力
音楽を特徴
付けている
音楽の
仕組み
要素
実態把握
児童の実態
音-5
・「音楽のよさ・
美しさを感じ
取る力」の変
容調査
・学習意識の変
容調査
・評価規準の達
成状況
・曲の聴き比べ
・身体反応
・情景画やさし絵
・拡大楽譜
・学習カード・
プリント 等
・実態分析
(学級・個人)
・診断テスト
音楽のよ さ・美しさを感じ取る 力を
評価
音楽のよさ・美しさを
感じ取る力
育てる指導の手だて
育てる指導の過程
音楽のよ さ・美しさを感じ取る 力を
授業構成の
ませる。このことは,児童自らの感性や創
第Ⅱ章
指導の実際とその考察
造性を発揮しながら,音楽のよさや美しさ
を感じ取ったり,思いや意図をもって進ん
1
小学校第3学年
(1) 題材
で聴こうとしたりする聴く喜びを味わう上
楽器の音色とふしの変化を感じ取
で,価値あることと考える。
って聴こう
(2) 教材
(5)教材について
「ユーモレスク」
「白鳥」
「ユーモレスク」
(3) 題材の目標
・クライスラーがバイオリン用に編曲して
楽器の音色の特徴や,旋律の反復・変化を
から人気を博し,様々な器楽や合奏に,
聴き取り,各楽器が表している様子や,旋律
また歌詞を つけて歌曲 をつけて合 唱に
の反復・変化による音楽のよさや美しさを感
も編曲された曲。
じ取る。
・シンコペーションの素朴で温かい親しみ
(4) 題材について
やすい旋律で始まり,中間部Bでは,や
本題材では,「ユーモレスク」でバイオリ
や物悲しい旋律が高揚する。曲の構造は
ンの音色の特徴や旋律の反復・変化を聴き取
A(a―b―a)B(c-c’)A(a―
ること,「白鳥」でチェロとピアノが表して
b―a)の複合三部形式で作られている。
いる様子を思い浮かべ,旋律の反復・変化を
「白鳥」
聴き取ることを通して,音楽のよさや美しさ
・サン・サーンスによる組曲「動物の謝肉
を感じ取ることをねらいとしている。
祭」の13曲目にあたる。
本学級の児童は,音楽を聴くことを好み,
・2台のピアノの伴奏が水面をゆらす波紋
音楽を特徴付けている要素を感じ取って聴く
の感じを,チェロが優雅に水面を滑るよ
活動には積極的に取り組む。1学期には,
「こ
うな姿で泳 ぐ白鳥を表 しているこ とが
んにちはリコーダー」において,リコーダー
情景として想像されるような曲である。
の美しい響きを味わう活動に意欲的に取り組
伴奏とチェ ロの二つの 旋律がうま く融
む姿がみられた。しかしながら,楽曲の曲想
合することによって「白鳥」の優美さが
と音楽を形づくっている要素や仕組みを結び
形づくられている。
付けて聴くことは十分とは言えない。1学期
・曲は,ト長調,6/4拍子,28小節から
に実施した診断テストでは,音楽の仕組みに
なる小三部形式でできている。
関わる旋律の反復や変化の聴き取りについて,
落ち込みが見られた。(音-11 参照)
・最初の1小節は前奏として主音の保続音
上にピアノが分散和音を奏でている。17
そこで,音楽を聴いて感じたことを人に伝
~20小節目に,初めの旋律が現れ,次の
えながら,自分の感じ方や考え方を把握でき
小節へかけて曲のやまをつくり,その後,
るようになるこの時期に,音楽の曲想と旋律
あたかも白 鳥が水面を 滑るように 遠く
の反復や変化と結び付けて聴く活動に取り組
へ消えていく感じで曲は終わる。
(6)題材の評価規準
音楽への関心・意欲・態度
① 楽器の音色や旋律,表 ①
鑑賞の能力
旋律の変化・反復などを聴き取り,それらの働きが生み出すよさや美しさを感じ取りながら,音楽を
現の豊かさに興味をもち, 特徴付けている要素のかかわり合いによってつくられる楽曲の構造に気を付けて聴いている。【鑑-①】
鑑賞の学習に取り組もう ②
としている。【関-①】
旋律の変化,反復などを聴き取り,曲想とその変化や音楽を特徴付けている要素のかかわり合いから,
想像したことを言葉で表すなどして,楽曲の特徴や演奏のよさに気付いて聴いている。【鑑-②】
音-6
(7)題材の指導及び評価計画
◎ねらい
◎
○主な学習活動
◆評価規準
旋律の反復や変化を聴き取り,曲想の変化との関わり合いを感じ取る。(音楽の仕組みと曲想のかかわり合い)
「ユーモレスク」と「白鳥」のはじめの旋律を聴き,気付いたこ ◆
○
第
評価方法
楽器の音色や旋律,表現の豊か 発言
さに興味をもち,鑑賞の学習に取り 観察
とや感じたことを話し合う。
1 ○ 本時学習のめあてをつかむ。
組もうとしている。【関―①】
時 ○ 「ユーモレスク」と「白鳥」のはじめの旋律を聴き,曲想をとら
える。
発言
・曲想をもとに,「ユーモレスク」と「白鳥」の曲名を予想する。
記述
○ 「ユーモレスク」を聴き,気付いたことや感じたことを話し合う。
・「ユーモレスク」が,「はじめ」「なか」「おわり」の三部形式
になっていることを確かめる。
○
「ユーモレスク」を味わって聴く。
○
本時学習の振り返りをする。
・曲想の変化と音楽の仕組みの関わり合いによるよさ・美しさをとら
える。
◎ 旋律の変化,反復を聴き取り,音楽全体が表している情景を想像して聴く。(音楽の仕組みと曲想のかかわり合い)
◆
○ 前時の学習を想起する。
第
2
時
旋律の変化・反復などを聴き取 発言
○ 「白鳥」を聴き,気付いたことや感じたことを話し合う。
り,それらの働きが生み出すよさ 観察
○ 本時学習のめあてを確認する。
や美しさを感じ取りながら,音楽
○ 音楽に合わせて,白鳥の様子を描いた3枚のカードを並びかえる。
を特徴付けている要素のかかわり
○ 「なか」の旋律と「はじめ」の旋律を聴き比べる。
合いによってつくられる楽曲の構 発言
○
「おわり」の旋律と「なか」の旋律を聴き比べる。
造に気を付けて聴いている。【鑑 記述
○
白鳥の様子の変化を想像しながら,楽曲全体を味わって聴く。
-①】
○
本時学習をまとめ,次時の予告を聞く。
・曲想の変化と音楽の仕組みの関わり合いによるよさ・美しさをとら
える。
◎
音色の特徴や,音楽全体が表している情景を想像して聴く。(音楽の仕組みと曲想のかかわり合い)
○
「白鳥」の情景を思いうかべながら聴き,主旋律(チェロ)と伴 ◆
第
奏(ピアノ)が白鳥と湖面の様子を表すことを感じ取る。
3 ○ 本時学習のめあてを確認する。
時 ○ 「ユーモレスク」と「白鳥」を聴き比べ,バイオリンとチェロの
○
旋律の変化,反復などを聴き取 発言
り,曲想とその変化や音楽を特徴 記述
付けている要素のかかわり合いか
ら,想像したことを言葉で表すな 発言
音色の違いを感じ取る。
どして,楽曲の特徴や演奏のよさ 記述
・奏法や各楽器の大きさを知る。
に気付いて聴いている。【鑑-②】
学習の振り返りをする。
・楽器の大きさや奏法,音色の違いをとらえる。
音-7
(8)本時指導の流れ
(2/3)
学習活動と内容
1
前時学習内容を想起する。
2
「白鳥」を全曲通して聴き,本時
○教師の働きかけ
○
児童及び分析児童の反応
◆評価
既習掲示物を示し,前時の学習を振
り返らせる。
学習のめあてをつかむ。
(1)
気付いたことや感じたこと
○
を話し合う。
○
感じ取りやすいように,体を揺らし
ながら聴いてよいことを助言する。
A児:指揮をしたり、体を揺らしたりしな
がら聴いている。
なめらかで,ゆったりしてい
ること
(2)
本時学習のめあてをつかむ。
白鳥が湖で泳ぐ様子を思い浮かべながらきこう。
3
白鳥の様子を思い浮かべながら
全体:ほとんどの児童が,遠→近→遠の順
くわしく聴く。
(1)
音楽に合わせて,白鳥の様子
でカードを並べ,「なか」の旋律で挙
○
曲想の変化をとらえさせる手だて
を描いた 3 枚のカードを並び変え
として,白鳥の様子(遠くを泳ぐ白鳥
る。
2枚,近くを泳ぐ白鳥 1 枚)が描かれ
○
曲想の変化の聴き取り
た情景画とカードを用意する。
○
曲の感じが変わった部分に気を付
けて聴くように助言する。
(2)「なか」の旋律と「はじめ」
○
の旋律を聴き比べる。
○
か」の旋律で挙手をしている。
B児:遠→近→遠の順でカードを並べる。
「なか」の旋律の途中で挙手をしてい
る。
「なか」の旋律をとらえさせるため
に,情景画をもとに,曲の感じの変わ
旋律,強弱,音色の変化の聴き
取り
手をしている。
A児:遠→近→遠の順でカードを並べ,
「な
るところで挙手をさせる。
○
全体:強弱が強く,速度が速くなったこと
「なか」の旋律は何が変わったのか
に気付く記述や発言が多い。旋律線の
考えやすくするために,「はじめ」の
提示により,音の高さや長さに気付く
旋律を口ずさませ,「なか」の旋律と
比較する。
○
児童も数人いる。
A児:『はじめ』と比べて,「少し強い感
何が変わったかを学習プリントに
記入させる。
じで,のびる音が多い」と発言する。
友達の発言に対して,「○○さんの言
いたかったことはピアノの音の繰り
返し」とつぶやく。
B児:「強さが違う」と記述する。
(3)「おわり」の旋律と「なか」の
○
旋律を聴き比べる。
○
旋律,強弱,音色の変化の聴き
取り
変化の聴き取りを視覚的に分かり
ら,「はじめ」と似ていることに気付
め」と「おわり」で旋律が繰り返され
く記述や発言が多い。また,終止感に
ていることをとらえさせる。
○
気付く児童も数名いる。
何が変わったかを学習プリントに
記入させる。
○
白鳥の様子の変化を想像しなが
○
ンドからデクレシェンド」と記述す
る。
(2) □□□□□□□
聴き取りの反応がよくない場合は,
⇔1行あけ
「なか」から「おわり」の音楽だけ聴
かせる。
4
A児:「繰り返されている。音が大きくな
ったり小さくなったりした。クレシェ
終止感に気付いた子がいたら,それ
も認める。
○
全体:強弱が弱く,音が低くなったことか
やすいように板書することで,「はじ
2
B児:「音が低くなった」と記述する。
◆ 旋律の変化,反復などを聴き取り,
□□□□□□□□□
←MSゴシック
白鳥の様子の変化を想像しやすく
ら,楽曲全体を味わって聴く。
するために,手を使って旋律の動き表
曲想とその変化や音楽を特徴付けてい
文章はMS明朝
る要素のかかわり合いから,想像した
○
現したり,指揮をしたりしながら聴か
ことを言葉で表すなどして,楽曲の特
せる。
徴や演奏のよさに気付いて聴いてい
←MSゴシック
る。【鑑―②】[学習プリント・発言・
文章はMS明朝
観察]
5
旋律の反復・変化
本時学習をまとめ,次時の予告を
(1) □□□□□□□
聞く。
(1)
本時の学習を振り返る。
○
旋律や強弱,音色などの音楽の
もとが繰り返されたり変化した
○
○
板書をもとに本時学習を振り返る。
本時学習を振り返り,学習カードに
記入させる。
・終止感の聴取(強弱・速度の変化)
りすると,白鳥の様子も変わるこ
・「なか」の部分のピアノの音色の変化
と
(2)
○
<Aと判断するキーワード>
<Bと判断するキーワード>
次時の予告を聞く。
・旋律の変化・反復
「ユーモレスク」「白鳥」で使
・音楽の要素と音楽の仕組みに関する表
われている楽器についてくわし
記や発言
く聴くこと
音-8
以上の手だては,強弱や旋律が変化し
(9) 考察
たことについて聴き取り,曲想の変化を
①評価規準の達成状況について(本時2/3)
感じ取る上で有効であったと考える。
【本時の評価規準】
資料―1
旋律の変化,反復などを聴き取り,曲想
白鳥の様子を描いた 3 枚のカード
とその変化や音楽を特徴付けている要素の
かかわり合いから,想像したことを言葉で
表すなどして,楽曲の特徴や演奏のよさに
気付いて聴いている。
はじめ
ア 「白鳥」の「なか」の旋律と「はじめ」
資料―2
の旋律を聴き比べる活動について
おわり
なか
旋律線の動き
【はじめ】
「なか」の旋律において,「はじめ」
の旋律から強弱や旋律が変化したことに
【な
ついて聴き取り,曲想の変化を感じ取る
か】
ことが内容となる。
そのために,次の手だてを行った。
・白鳥の様子を描いた3枚のカードを
イ
準備し,曲の感じが変わる部分に気
「おわり」の旋律と「なか」の旋律を
聴き比べる活動について
を付けながら操作するように指示し
「おわり」の旋律において,強弱や旋律
た。
が変化し,「はじめ」の旋律が反復され
・曲の感じの変化とその理由について
ていることについて聴き取り,曲想の変
学習プリントに記述させた。
化を感じ取ることが内容となる。
・児童の反応によっては,旋律線(4
そのために,次の手だてを行った。
小節分)を提示できるようにした。
・曲の感じの変化やその理由について
その結果,次のような反応が見られた。
学習プリントに記述させた。
・カードを操作しながら聴くことによ
・児童の反応によっては,旋律線(4
り,曲想の変化を感じ取り,楽曲の
小節分)を提示できるようにした。
構成(小三部形式)をとらえること
その結果,次のような反応が見られた。
ができた。
・「音楽のもと」を提示し,曲想とそ
・「音楽のもと」を提示し,曲想とそ
の根拠となる音楽の要素を関連付
の根拠となる音楽の要素を関連付け
けて学習プリントに書かせたこと
て学習プリントに書かせたことで,
で,聴く視点が明らかになり,主体
聴く視点が明らかになり,主体的に
的に聴こうとする姿が見られた。ま
聴く姿が見られた。
た,「はじめ」と
・旋律の変化について気付いていない
「おわり」を比
べ,反復や終止感を聴き取ることが
児童が多く見受けられたので,旋律
できる児童もいた。
線を提示した。そのことにより,音
・アの活動の時よりも旋律の変化に気
の高さや長さなどの面から旋律の変
付く児童が増えたが,旋律線を提示
化を視覚的にとらえ,聴き取る姿が
することで,さらに反復にも気付き,
見られた。
主体的に聴き取る姿が見られた。
音-9
以上の手だては,強弱や旋律が変化し,
その結果,第 1 時と第2時(本時)で
「はじめ」の旋律が反復されていること
は,以下のような変容が見られた。
について聴き取り,曲想の変化を感じ取
34 人中
A
B
C
第1時
1人
28人
5人
第2時
3人
30人
1人
る上で有効であったと考える。
ウ
白鳥の様子の変化を想像しながら,楽
曲全体を味わって聴く活動について
第1時では,旋律の変化・反復を聴き
聴き取ったことや感じ取ったことをも
取った児童が少なかった。そこで,第2
とに,「はじめ」「なか」「おわり」の
時の学習を行った結果,旋律の変化や反
旋律を味わって聴くことが内容となる。
復に着目して聴き取る児童が増えた。ま
そのために,次の手だてを行った。
た,「近くで泳いでいた白鳥が遠くへ行
・身体表現(手を揺らす,指揮をする
ってしまう感じ」というような曲想の変
などを取り入れた。
化を感じ取る児童も見られた。
その結果,次のような反応が見られた。
次に,児童が学習で記入した学習プリ
・手を揺らしたり,3拍子で手を動か
したりする児童が多かったが,味わ
ントを以下に示す。
資料―3
「今日の学習で」(第 1 時と第 2 時)
【第1時】
って聴く姿には至らなかった。
これは,曲想を感じ取るための活動が
十分でなかったことや身体表現の経験不
足が原因と考えられる。
【第2時】
次時は,音楽を特徴付けている要素と
関連付けながら,白鳥の様子を言葉で書
き表す活動を取り入れた。そのことは,
エ
白鳥の様子の変化を想像しながら,楽曲
第2時では,旋律の変化や反復,音楽
全体を味わって聴くことにつながった。
を特徴付けている要素と曲想を関連づけ
児童の学習状況の評価について
ながら記述することができている。
第 1 時と第2時(本時)の学習後に児
以上,聴く活動と手だての工夫の有効
童の評価規準の実現状況を次のような表
性や児童の学習後の感想から,評価規準
にまとめた。
はある程度達成できたと考えられる。
②音楽のよさ・美しさを感じ取る力の変容に
ついて
ア
表―2
学級プロフィールの変容から
図-6音楽のよさ・美しさを感じ取る力学級プロフィール(学習前)
評価規準の実現状況表
音-10
図―6から分かるように,本学級の児
かかわり合いを聴く能力が十分ではなか
童は,曲想を感じ取って聴く能力は高い
った。そこで,授業を行い,その後テス
が,音楽の仕組みと曲想のかかわり合い
トで変容を見ることにした。
を聴く能力が十分でないことがわかった。
そこで,白鳥のゆったりと泳ぐ様子の変
化と音楽の仕組みのかかわり合いを感じ
取らせることを考えた。また,「白鳥」
は仕組みをとらえにくいことが予想され
たので,とらえやすい「ユーモレスク」
と「白鳥」の2曲を用いて題材構成を行
図-9音楽のよさ・美しさを感じ取る力個人プロフィ-ル(学習後)
った。授業後,再度,診断テストを行っ
この結果から,音楽の仕組みと曲想の
たところ,次のような変容が見られた。
かかわり合いを聴く能力について数値が
上がっていることがわかる。したがって,
B児にとって,授業構成はある程度有効
であったと考えられる。
③学習意識の変容について
この題材の毎学習の終了時に,学習意
識について自己評価をさせたところ,次
のような変容が見られた。
図-7音楽のよさ・美しさを感じ取る力学級プロフィール(学習後)
この結果から,学習前と比べ,音楽の
仕組みと曲想のかかわり合いを聴く能力
に伸びが見られるとともに,全ての能力
がバランスよく伸びていることが分かる。
以上のことから,本題材の授業構成は,
音楽の仕組みと曲想とのかかわり合いを
聴く能力の育成を図る上で,ある程度妥
当であったと考えられる。
図―10
イ 個人プロフィールの変容から
学習意識の変容グラフ
これを見る限り,全体的に高い数値を
1学期に実施した診断テストから,B
児は,図―8のような結果であった。
示している。このことから,授業におい
て行った活動と手だてがある程度有効であっ
たことがうかがえる。しかしながら,興味・関
心・意欲については,第3時に落ち込みが見ら
れる。このことについては,児童の興味・関心・
意欲を喚起するような効果的な手だてが必要
であったと思われる。
図―8音楽のよさ・美しさを感じ取る力個人プロフィール(学習前)
これを見ると,音楽の仕組みと曲想の
音-11
結びつけて聴く活動に取り組ませる。このこ
2
小学校第5学年
とは,児童自らの感性や創造性を発揮しなが
(1) 題材 ふしのうつりかわりのよさや美しさ
ら,音楽のよさや美しさを感じ取ったり,思
を感じ取って聴こう
(2) 教材
鑑賞曲
いや意図をもって進んで聴こうとしたりする
「ます」
音楽活動の喜びを味わう上で,価値あること
「きらきらぼし変奏曲」
と考える。
(3) 題材の目標
(5)教材について
主題の変化や伴奏の動き,楽器同士のかか
教材として用いるピアノ五重奏曲「ます」
わり合いを聴き取り,変奏曲のよさ・美しさ
第4楽章は,主題と五つの変奏とコーダから
を感じ取る。
成り立っている。主題は親しみやすい旋律で,
(4) 題材について
次のように変奏されていく。
本題材は,ピアノ五重奏曲「ます」第4楽
章の主題とその変化がつくり出すよさや美し
主
第1変奏…主題は装飾音を伴いながらピア
さを,音楽を特徴付けている要素と関連付け
て感じ取り,楽曲全体を味わって聴くことが
ノで演奏される。
第2変奏…主題と同じ旋律がビオラで演奏
できるようにすることをねらいとしている。
本学級の児童は,音楽を聴くことを好み,
題…旋律がバイオリンで演奏される。
される。
第3変奏…主題とほぼ同じ旋律がチェロと
音楽を特徴付けている要素を聴き取る活動に
コントラバスで演奏される。
積極的に取り組む。1学期は,「いろいろな
第4変奏…短調で始まり長調の旋律へと変
合唱のひびきをきき比べよう」の鑑賞活動を
奏される。主題をたどれるような
通して声のいろいろな組み合わせによる合唱
旋律は現れない。
のひびきの違いを味わった。しかし,1学期
第5変奏…変奏された主題の旋律がチェロ
に実施した診断テストでは,音楽の仕組みに
関わる旋律の反復や変化の聴き取りについて
で演奏される。
コ ― ダ…主題の旋律がバイオリンとチェ
十分でなく,曲想と音楽を特徴付けている要
素や仕組みを結び付けて聴くことができるよ
うにすることが課題であった。(音-17参照)
ロによって交互に演奏される。
そこで,これらの変奏が単に旋律が変化す
るということよりも,主題がいろいろな楽器
そこで,音楽を聴いて感じたことを人に伝
で演奏されていることに視点を当て,それが
えながら,自分の感じ方や考え方を把握でき
醸し出す音楽のよさ・美しさを感じ取らせた
るようになるこの時期に,楽曲全体にわたる
い。
曲想とその変化を,音楽を特徴付けている要
素や旋律の反復や変化などの音楽の仕組みと
(6)題材の評価規準
音楽への関心・意欲・態度
① 楽曲に興味をもち,使われ ①
ている楽器の響きや音色に関
心をもって聴こうとしている。②
鑑賞の能力
主題の変化や伴奏の動き,楽器同士のかかわり合いに気付き,それ
らを音楽を特徴付けている要素と関連付けて感じ取っている。
【鑑-①】
曲全体の曲想とその変化などの特徴や音楽を特徴付けている要素の
【関-①】 かかわり合いから,感じ取ったことを言葉で表し,変奏曲についての理
解を深め,演奏のよさを味わって聴いている。【鑑-②】
音-12
(7)題材の指導及び評価計画
◎ねらい
◎
○主な学習活動
◆評価規準
評価方法
主題の旋律をとらえ,楽曲で使われている楽器の響きや音色の特徴を感じ取ってピアノ五重奏
曲「ます」の主題を聴く。 (曲想の感じ取り)
○
歌曲「ます」の主な旋律を聴く。
・歌曲「ます」を聴く。(日本語版)
第
・作曲者シューベルトを知る。
第 1
・主な旋律を口ずさむ。(1番のみ)
時
・主な旋律の前半部分をリコーダーで演奏
1
する。
○
次
使われている楽器や演奏の人数を考えなが
◆
いる楽器の響きや音色に関心を
ら,ピアノ五重奏曲「ます」を聴く。
もって聴こうとしている。
・使われている楽器を話し合う。
【関-①】
・使われている楽器を確かめる。
◎
○
第
ピアノ
バイオリン
チェロ
コントラバス
楽曲に興味をもち,使われて
プリントへの
記述
聴いている様
子の観察
発言
ビオラ
移り変わる楽器の音色を聴き取り,各変奏の特徴を感じ取る。(音楽の仕組みと曲想のかかわり合い)
ピアノ五重奏曲「ます」第4楽章の曲の仕組
みを知る。
・変奏曲の仕組みを知る。
2○
◆
各変奏曲の特徴を感じ取る。
器 同 士 の か か わ り 合 い に 気 付 記述
・各変奏を聴く。
時
き,それらを音楽を特徴付けて 聴 い て い る 様
<第1変奏,第3変奏,第4変奏のみ>
第
2
主題の変化や伴奏の動き,楽 プリントへの
・主題を演奏している楽器を聴き取る。
いる要素と関連付けて感じ取っ 子の観察
・各変奏の特徴など感じ取ったことを音楽ノ
ている。【鑑-①】
発言
ートに書く。
・主題を演奏し演奏している楽器や特徴を話
次
し合う。
○
◆
各変奏曲の特徴を感じ取る。
・第2変奏,第5変奏,コーダについて,音楽
じ取ったことを言葉で表し,変 子の観察
・全曲をDVDで鑑賞する。
○
奏曲についての理解を深め,演 発言
曲全体の曲想を味わう。
・曲全体としてのよさや特徴を考え,音楽ノ
3
・ピアノ五重奏曲「ます」のよさや特徴を交
流し合う。
○
奏のよさを味わって聴いてい
る。【鑑-②】
ートに感想を書く。
時
どの特徴や音楽を特徴付けてい 記述
る要素のかかわり合いから,感 聴 い て い る 様
ノートに特徴を書く。
第
楽曲全体の曲想とその変化な プリントへの
他の変奏曲を聴く。
きらきら星変奏曲(モーツァルト作曲)
音-13
(8)本時指導の流れ
(2/3)
学習活動と内容
前時学習の想起をする。
○ 歌曲「ます」の主題を聴いた
こと
○ 主題を口ずさんだり演奏した
りしたこと
○ 演奏に使われている楽器の確
認
2 本時のめあてをとらえる。
○ 本時は,各変奏曲の特徴を感
じ取ること
○教師の働きかけ
◆評価
1
○
変奏を聴き取りやすくするため,口ずさん
だりリコーダー奏をしたりして,主題をとら
えさせる。
○ 前時に聴いたピアノ五重奏曲で使われて
いた楽器を想起させる。
○
児童及び分析児童の反応
A児:主題を正しい旋律・
リズ ムで 口ず さん だり
演奏したりしている。
B児:主題を口ずさんだり,
友だ ちの 指づ かい を見
なが ら演 奏し たり して
いる。
この楽曲は,主題がいろいろな楽器に移り
変わることを説明する。
ピアノ五重奏曲「ます」第4楽章の主題の変化を感じ取って聴こう。
3
変奏を聴き,感じ取ったことを
話し合う。
(1) 第1変奏を聴く。
○ 主題を演奏しているピア
ノの音色を聴き取りながら
曲想について感じ取ること
(2) 第3変奏を聴く。
○ 主題を演奏している低音
楽器の音色を聴き取りなが
ら曲想について感じ取るこ
と
(3) 第4変奏を聴く。
○ 主題でない旋律を聴き取
りながら曲想について感じ
取ること
全体:主題を演奏する楽器
や曲 想を 音楽 のも とと
○ 聴くポイント(「音楽のもと」の掲示物)
関連付けて聴いてい
を示し,主題を演奏している楽器以外のこと
る。
を聴き取るように助言する。
A児:「主題は,ピアノが
○ あまり聴き取れていない要素があった際
弾い てい て, 飾り のリ
は,主題と各変奏をつないだ音楽を聴かせ,
ズム がつ いて いる 。バ
聴き比べさせる。
イオ リン の音 も交 互に
きこえる。」
○ 聴き取りやすいコントラバスの低音の響
「ますが気持ち よさそう
きを中心に取り扱うようにする。
に 泳 い で い る のは , ピ
○ 第4変奏は,転調と強弱について聴き取る
ア ノ の 音 色 が 流れ る よ
ことができるように,主題の楽器をあらかじ
うにきこえるから。」
め示しておく。
B児:友だちと相談しなが
ら曲 想を 思い 浮か べて
いる 。主 題を 演奏 する
楽器 を示 すと ,意 欲的
に音 色を 聴く 姿が 見ら
れる。
「明るい感じ。」
◆ 主題の変化や伴奏の動き,楽器同士のかか
「ピアノの音がきこえ
る。」
わり合いに気付き,それらを音楽を特徴付け
ている要素と関連付けて感じ取っている。
4
本時のまとめをし,次時学習
について知る。
○ ピアノ五重奏曲「ます」では,
音色・せんりつ・リズムなど
の「音楽のもと」が変化して
いることで,曲想が変化して
いること
全体:曲想が「音楽のもと」
の変 化に 伴っ て変 わる
(2) □□□□□□□
〈Aと判断するキーワード〉
こと に気 付き ,興 味関
心を高めている。
⇔1行あけ
・各変奏ごとの旋律の反復・変化
A児:「変奏曲は,楽器の
2 □□□□□□□□□ ←MSゴシック
・各変奏における音色,強弱などの変化
音が 重な った り調 が変
化し たり して 曲想 が変
文章はMS明朝
・曲想の変化と結びついた表記
わるからおもしろい。」
〈Bと判断するキーワード〉
B児:調性の変化を聴き取
っている。
(1) □□□□□□□
←MSゴシック
・主題を演奏している楽器を聴き取る。
「第4変奏がこ わい感じ
文章はMS明朝
・第4変奏の調性の変化を聴き取る。
が す る の は , 長調 か ら
短調に変わるからだ。」
〈Cと判断される児童への支援〉
【鑑-①】〔学習プリント・観察・発言〕
・演奏楽器を確認し音色を聴き取らせる。
○
次時は,2・5変奏とコー
ダについて聴くこと
・曲想や要素についての観点を具体的に示
す。
(9) 考察
音-14
(9) 考察
以上の手だては,第1変奏において,
ピアノの音色をもとに,主題が変化したこ
①評価規準の達成状況について(本時2/3)
とについて聴き取り,曲想の変化を感じ取
【本時の評価規準】
る上で有効であった。
主題の変化や伴奏の動き,楽器同士のかか
イ
わり合いに気付き,それらを音楽を特徴付け
ここでは,第3変奏において,コントラ
ている要素と関連付けて感じ取っている。
ア
第3変奏を聴く活動について
バスの音色をもとに,主題が変化したこと
第1変奏を聴く活動について
について聴き取り,曲想の変化を感じ取る
ここでは,第1変奏において,ピアノの
ことが内容となる。
音色をもとに,主題が変化したことについ
そのために,次の手だてを行った。
て聴き取り,曲想の変化を感じ取ることが
・主題で聴き取った「音楽のもと」を聴
く視点としてカードで提示した。
内容となる。
・主題と比較しやすいように,曲想と聴
そのために,次の手だてを行った。
・主題で聴き取った「音楽のもと」を聴
き取ったことをプリントに記述させた。
・児童の反応によっては,主題と第3変
く視点としてカードで提示した。
資料-4 「音楽のもと」をカードで提示した板書
奏をつないだ音楽を聴かせるよう準備
しておいた。
その結果,次のような反応が見られた。
・「音楽のもと」をカードで提示した
ことにより,旋律や音色に注目して
聴き,コントラバスの音色がよく響
いて聴こえてきたことやピアノの音
で主題が聴こえにくくなったことな
どを聴き取ることができた。
・主題と比較しやすいように,曲想と聴
き取ったことをプリントに記述させた。
その結果,次のような反応が見られた。
・「音楽のもと」をカードで提示したこ
とにより,旋律や音色に注目して主題
の変化や主題を演奏する楽器を聴き
取ることができた。
・曲想と聴き取ったことを整理して書か
せたことで,ますが泳いでいる様子と
音楽を特徴付けている要素のかかわり
合いをとらえることができた。
・主題と比較しやすいように整理して書
かせたことで,ますが泳いでいる様子
の移り変わりをとらえることができた。
資料-6 第3変奏の曲想と聴き取ったことを整理した
・曲想と聴き取ったことを整理して書
児童の学習プリント
かせたことで,ますが泳いでいる様
子と音楽を特徴付けている要素のか
かわり合いをとらえることができた。
資料-5
第1変奏の曲想と聴き取ったことを
整理した児童の学習プリント
以上の手だては,第3変奏において,
コントラバスの音色をもとに,主題が変化
したことについて聴き取り,曲想の変化を
感じ取る上で有効であったと考える。
音-15
ウ
エ
第4変奏を聴く活動について
児童の学習状況の評価について
ここでは,第4変奏において,調性や
第2時(本時)と第3時の学習後に児
強弱,音色を聴き取りながら曲想の変化
童の評価規準の実現状況を次のような表
を感じ取ることが内容となる。
にまとめた。
そのために,次の手だてを行った。
・主題で聴き取った「音楽のもと」を聴
く視点としてカードで提示した。
・主題と比較しやすいように,曲想と聴
き取ったことを学習プリントに記述
させた。
・主題と第4変奏をつないだ音楽を準備
しておき,児童の反応によっては聴か
せるようにしておいた。
・調性の変化をとらえることができるよ
うに,短調と長調の「きらきら星」を
聴き比べさせた。
その結果,次のような反応が見られた。
・「音楽のもと」をカードで提示した
ことにより,旋律や音色,強弱に注
表-3
評価規準表
その結果,第2時(本時)と第3時に
ついては,以下のような変容が見られた。
目して聴き,旋律を演奏するいろい
32 人中
A
B
C
ろな楽器やそれらの音の重なりを聴
第2時
6人
24人
2人
き取ることができた。
・曲想と気付いたことを整理して書か
第3時
8人
24人
0人
第2時の評価規準に達していない児童
せることで,ますや川の様子が激し
が2名いた。そこで,演奏楽器を確認し
い感じから穏やかな感じに変わった
その音色に着目させることで主題の変化
ことを,強弱や調性等音楽を特徴付
を聴き取らせたり,ますの泳ぐ様子の変
けている要素と関連付けてとらえる
化を話し合いながら曲想をつかませたり
ことができた。
するといった活動を細かなステップにし
資料-7
第4変奏の曲想と聴き取ったことを
ていく支援を行った。その結果,第3時
整理した児童の学習プリント
では全ての児童を評価規準に達成させる
ことができた。
児童の学習後の感想を以下に示す。
資料-8
題材を通した学習のふり返り
・ハ長調とイ短調の「きらきら星」を聴
き比べさせたことで,調性の変化を聴
き取ることができた。
以上の手だては,第4変奏において,
主題の旋律が変化しながら様々な楽器
調性や強弱,音色を聴き取りながら曲想
で受け継がれていく変奏曲のよさ・美し
が変わったことについて感じ取る上で有
さを感じ取っていることが分かる。
効であった。
以上,聴く活動と手だての工夫の有効
音-16
性や児童の学習後の感想から,評価規準
1学期に実施した診断テストから,C児
はある程度達成できたと考えられる。
は,図-13 のような結果であった。
②音楽のよさ・美しさを感じ取る力の変容に
図―13
個人プロフィール(学習前)
ついて
これを見ると,音楽の仕組みと曲想のか
かわり合いを聴く能力が十分ではなかった。
図―11
そこで,授業後にテストで変容を見ること
音楽のよさ・美しさを感じ取る力
にした。
学級プロフィール(学習前)
図―14
図―11 からわかるように,本学級の児童
個人プロフィール(学習後)
は,曲想を感じ取って聴く能力は高いが,
音楽の仕組みと曲想のかかわり合いを聴く
能力は,十分でないことがわかった。例え
ば,「楽しい感じからだんだん暗い感じに
変わった」という曲想を感じ取っていても
それが旋律の変化や反復によるものである
この結果から,音楽の仕組みと曲想のか
と気付いていない児童が多かった。そこで,
かわり合いを聴く能力について,伸びが見
音楽の仕組みと曲想を関連付けて聴く能力
られる。したがって,C児にとって,授業
を育てるために,ピアノ五重奏曲「ます」
構成はある程度有効であったと考えられる。
第4楽章を用いて題材構成を行った。
学習後,再度音楽の仕組みと曲想のかか
③学習意識の変容について
わり合いを聴く能力について診断テストを
行ったところ,次のような変容が見られた。
この題材の毎学習の終了時に,学習意識に
ついて自己評価をさせたところ,次のような
変容が見られた。
図―12
図―15
音楽のよさ・美しさを感じ取る力
興味・関心・意欲と満足度,理解度全て伸
学級プロフィール(学習後)
イ
学習意識調査
学習前に行ったテストの結果より,伸び
びていることがわかる。授業において行った
が見られる。以上のことから,授業構成に
活動と手だてが児童の学習意欲を高める上で
ついてある程度妥当であったと考えられる。
も有効であったことがうかがえる。
個人プロフィールの変容から
音-17
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力の
第Ⅲ章
研究のまとめ
傾向をもとに,題材構成を行い,楽曲の
特徴から具体的な指導目標及び評価規準を
1
研究の成果
設定した。そして,指導目標の実現を図る
本研究室では,児童の音楽のよさ・美しさ
聴く活動と手だての工夫を取り入れた授業
を感じ取る力の育成をめざし,児童の音楽の
構成を進めてきた。
よさ・美しさを感じ取る力の具体的な実態把
このことによって,身に付けさせたい力
握と,それを育てるために指導と評価の一体
が明らかになるとともに,それに基づいて
化による授業構成とその評価を中心に研究を
楽曲を分析する際の視点も明らかになった。
進めてきた。その結果,次のことが明らかに
また,指導目標とそれに伴う評価規準,さ
なった。
らには,聴く活動と手だての工夫まで含め
(1) 児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
た指導と評価の一体化による授業構成を展
開できるようになった。
の実態把握について
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
(3) 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育て
の傾向を把握するために,まず,学習指導
る授業構成の評価について
要領に示された各学年の鑑賞の内容と〔共
通事項〕の内容の関連から,音楽のよさ・
指導と評価の一体化による授業構成の有
美しさを感じ取る力に関する観点シートを
効性や妥当性を評価規準の達成状況,学習
作成した。これを作成することで,学年で
意識調査による評価や音楽のよさ・美しさ
身に付ける音楽のよさ・美しさを感じ取る
を感じ取る力の診断テストを検証してきた。
力に関する観点を明らかになり,評価規準
このことによって,児童の音楽のよさ・
を作成する際の手がかりとなった。次に,
美しさを感じ取る力や学習意識の変容が具
これをもとに,音楽のよさ・美しさを感じ
体的に把握でき,目に見える形で授業構成
取る力の診断テストを作成・実施し,その
の評価を行うことが可能になった。また,
結果を学級プロフィールや個人プロフィー
指導と評価の一体化による授業構成をめざ
ルに表した。
す上で有意義であった。
このことにより,評価規準の観点が明確
になり,児童の音楽のよさ・美しさを感じ
2
研究の課題
取る力の傾向をある程度把握することがで
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力を
きた。そして,このことが,児童の音楽の
確かにすることをめざして,今後はさらに,
よさ・美しさを感じ取る力を育てる授業構
次のことに取り組んでいきたい。
成やその評価を行う際の手がかりになった。
(1) 音楽のよさ・美しさを感じ取る力の診断
テストの改善
(2) 音楽のよさ・美しさを感じ取る力を育て
る指導と評価の一体化による授業構成につ
(2) 評価規準の達成状況を見取るためのより
効果的な評価方法の在り方
いて
児童の音楽のよさ・美しさを感じ取る力
を育てる授業構成について,指導と評価の
一体化を中心に進めてきた。具体的には,
音‐18
参考文献
1
文部科学省
小学校学習指導要領
音楽編
開隆堂出版(平成20年)
2
文部科学省
中学校学習指導要領
音楽編
開隆堂出版(平成20年)
3
国立教育政策研究所教育課程研究センター
特定の課題に関する調査(音楽)調査結果
(平成22年)
4
供田
武嘉津
音楽教育学
音楽之友社(昭和50年)
5
J.L マーセル
音楽心理学
音楽之友社(昭和 40年)
6
西園
小学校音楽科カリキュラム構成に関する教育実践的研究
芳信
風間書房(平成16年)
7
音楽鑑賞教育 VOL.4
公益財団法人音楽鑑賞振興財団(平成23年)
8
音楽鑑賞教育 VOL.6
公益財団法人音楽鑑賞振興財団(平成23年)
9
音楽鑑賞指導の効果的な発問と評価のポイント
10
鑑賞の授業づくりアイディア集
学事出版(平成17年)
音楽之友社(平成21年)
研修員
谷
上
恵
美
(赤坂小学校教諭)
指
研究指導者
木
村
次
宏
(福岡教育大学教授)
樋
口
信
一
(研究支援課主任指導主事)
音‐19
原
舞
子
(姪浜小学校教諭)