「バルビゾン―19 世紀の絵画と写真」

「バルビゾン―19 世紀の絵画と写真」 - 主な作品紹介
作家名:シャルル=エミール・ジャック(1813~1894)
作品名:
《森の中の羊飼いと羊の群れ》
制作年:1865~70 年頃
技法材質:油彩、キャンバス
寸 法:81.2×65.0cm
ジャックはバルビゾン派の代表的な画家の一人であり、ミレーと共にバルビゾン派の礎を築いたことで
知られる。最初、版画家、風刺画家、挿絵画家として高い評価を得ていたが、ミレーとの出会いを期に油
彩画の制作も始め、1848 年にはミレーとともにバルビゾン村に移住した。羊や鶏といった家畜を題材とし
た作品を描き、好評を博した。
本作品は、ジャックが最も得意とした「羊飼い」を題材とした作品である。木々が生い茂る森の中で、
羊たちが思い思いに過ごすさまと、羊たちを見守る羊飼いの姿が細やかな筆致で描写されている。牧歌的
な情景のなかに、人間と動物が自然と調和して生きる世界が表現されている。
作家名:アシーユ・キネ(1831~1900)
作品名:
《自然の習作 水辺の樹木》
制作年:1868 年頃
技法材質:鶏卵紙プリント、紙
寸 法:19.5×23.5cm
19 世紀半ば、画家たちがバルビゾン村やフォンテーヌブローの森に集い始めたこの時代は、写真術が発
明された時代でもあった。当時の写真術は、撮影の際に長時間の露光が必要であった。そのため動く対象
を撮影することは困難であり、被写体は主に肖像、建物そして風景であった。バルビゾン村やフォンテー
ヌブローの森も格好の被写体であり、写真家たちはカメラを手にこの地を訪れた。
キネは、バルビゾン村やフォンテーヌブローの森付近の風景や農民の日常生活を撮影したことで知られ
る写真家。
「自然の習作」シリーズは、そうした風景をとらえた作品群で、1868 年頃から 70 年代にかけて
撮影された。近景と遠景を対比するかのような本作品の構図からは、当時の風景をおさめた単なる資料と
してのみならず、絵画性を志向した芸術作品としての側面がうかがえる。
作家名:シャルル=フランソワ・ドービニー(1817~1878)
作品名:
《浅瀬》
制作年:1862 年
技法材質:クリシェ=ヴェール、紙
寸 法:28.0×35.0cm
バルビゾン派の代表的な画家のひとりであるドービニーは、生涯にわたってフォンテーヌブローの森を
含むパリ近郊の田園風景を描き続けた。とりわけ晩年はオワーズ川やセーヌ川に舟を浮かべて戸外制作を
行い、豊かな自然を即興的な筆致でとらえた風景画を残すなど、後の印象派の先駆を成したことで知られ
ている。
ドービニーは版画も多く残しており、クリシェ=ヴェールに積極的に取り組んだ画家のひとりでもある。
クリシェ=ヴェールとは、写真術発達の過程で誕生した版画技法。ガラス板を皮膜で覆い、ニードルで引っ
かいて皮膜をはがすことで、光を透過する部分をつくった版を、印画紙に重ねて露光することにより図柄
が得られる。
本作品では、浅瀬を渡る牛たちの様子が、クリシェ=ヴェールの素朴かつ明瞭な線で描かれている。牛や
水面、木々の明暗表現に優れており、ドービニーの版画家としての卓越した技量を感じさせる。
作家名:テオドール・ルソー(1812~1867)
作品名:
《樫の木と岩》
制作年:1861 年
技法材質:エッチング、紙
寸 法:12.7×17.2cm
ルソーは、バルビゾン派の中でも先駆者、指導者的役割を果たした最も重要な画家のひとりである。フ
ランスのクロード・ロランや、オランダのロイスダールによる 17 世紀の風景画を研究し、早くから戸外で
制作を行った。フォンテーヌブローの森へは定期的に通っていたが、1837 年頃からはほとんど毎年アトリ
エを借りて制作を行い、他のバルビゾン派の画家とも交友を結んだ。
ルソーは、バルビゾン派の画家としては版画をあまり手がけておらず、本作品は彼が取り組んだ数少な
い版画作品のうちの 1 つ。ごつごつとした岩と、うっそうと葉の生い茂る木々が密集する構図、モチーフ
を描く際の細やかな線によって、濃密な画面が構成されている。