浸潤性の客観的評価のために-(PDF:484KB)

平成23年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究成果報告書
殿
申 請
者
所 属 新潟大学 医歯学総合病院 講師
代表者氏名
丸山
智
印
本年度の交付を受けたプロジェクト推進経費について,下記のとおり報告いたします。
プロジェクトの種目:奨 励 研 究
プロジェクトの課題:口腔扁平上皮癌パールカン免疫陽性間質誘導機構の解明
-浸潤性の客観的評価のために-
プロジェクトの代表者:所属 医歯学総合病院 職名
講師
氏名 丸山
智 分担者 0 名
プロジェクトの成果:
(別紙可)
これまで日常病理診断業務のなかで、口腔粘膜扁平上皮癌については細胞外基質分子のひ
とつである perlecan の発現パタンに注目し、免疫組織化学的手法をもちいて、癌の浸潤と非
浸潤を区別できるということを提案してきた。上皮内癌ではパールカンは癌胞巣に蓄積して
いるのに対し、浸潤癌では、癌細胞胞巣からパールカンが消失し、代わって胞巣周囲の間質
空間にパールカンが陽性となる、すなわち浸潤を契機として perlecan の生合成が癌細胞から
間質細胞に転換〈スイッチング〉すること、perlecan 免疫陽性間質の出現を浸潤の指標にし
てきた。しかしながら、組織切片という2次元空間では、胞巣の遊離性とパールカン発現の
有無の関連は確認できなかった。そこで次に、外科手術材料から作製した HE 染色切片にて
扁平上皮癌の組織像を確認したのち、組織アレイ法にて、異型上皮および上皮内癌の移行部
および深部筋層内に浸潤している浸潤先端部からそれぞれ組織を切り出し、連続切片を作製
したのち、perlecan 免疫染色およびケラチン染色を施し、バーチャル画像に保存して、perlecan
の局在パタンと癌細胞の領域を抽出して、3次元組織立体構築を行うことで、癌の浸潤性と
perlecan の局在の関連を検討した。その結果、まず浸潤前の連続胞巣内では、癌細胞自身が
合成したパールカンが沈着するようになり、つぎに胞巣が遊離すると、依然として癌細胞は
パールカン陽性を維持するものもあるが、間質細胞によって合成されたパールカンに接触す
るようになり、さらにより深部では完全に癌細胞によるパールカンの発現は停止して胞巣内
からパールカンが消失し、パールカンは間質空間に完全移行するといった結果が得られた。
以上より、口腔がんの浸潤性の判定は、二次元的には遊離胞巣の同定が困難な日常の診断業
務においては、パールカン陽性間質の出現を指標とする方法が妥当であることが示唆された
が、依然としてパールカンの生合成のスイッチングに関わる分子細胞学的メカニズムは不明
のままであった。
そこで、今回のプロジェクトでは、実験系を vitro に移し、口腔扁平上皮癌由来細胞系
である ZK-1 細胞と癌間質細胞で perlecan 合成の主体である線維芽細胞系の OF-1 細胞をも
ちいた単独培養および混合共培養にて、生体内環境を再現するとともに、それぞれの細胞に
(注)報告書は2枚以上とする。別紙による場合も同じ。
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おける perlecan 発現を確認すると同時に、さらに各細胞系の perlecan 遺伝子発現のノックダ
ウンの有無で、パールカン発現を抑制することによる扁平上皮癌細胞の増殖・遊走機構に及
ぼす影響を分子細胞学的に解明することにした。
まず ZK-1 細胞および OF-1 細胞それぞれにおけ
る単独培養での perlecan 合成を確認したところ、
いずれの細胞でも perlecan 生合成が確認できた
(Fig.1 a, b)。そこで、次に両者を共培養し、perlecan
生合成を確認した。それぞれ ZK-1 細胞および
OF-1 細胞の混合比を 1:4 から 4:1 の各段階に調整
し、各条件下での perlecan 生合成を確認したとこ
ろ、ZK-1 細胞数に対し、OF-1 細胞数が優位の場
合は、perlecan 生合成は OF-1 細胞が優勢であるが、
OF-1 細胞数に対する ZK-1 細胞の増加とともに、
ZK-1 細胞による perlecan 生合成も確認し得た
(Fig.1 c-d)。すなわち、OF-1 細胞が十分に perlecan
の合成を行える環境下では、perlecan 生合成の主
体は OF-1 細胞であり、OF-1 細胞数の減少により、
perlecan の合成量が OF-1 細胞からの供給では不足
する場合に、ZK-1 細胞も perlecan の合成を始める
ことが示され、切片上で確認しえた癌の浸潤を契
機に、癌細胞胞巣からパールカンが消失し、代わ
って胞巣周囲の間質空間にパールカンが陽性とな
る生体内環境が再現されたと考えられた。
次 に ZK-1 細 胞 系 に 対 し 、 StealthTM/siRNA
(invitrogen)を用いたフォワードトランスフェクシ
ョン法にて最終 RNA 濃度 10 nM に調整後、
perlecan 遺伝子ノックアウトアッセイを行い、増
殖試験をおこなったところ、ZK-1 細胞の増殖抑制
が確認しえた(Fig.2)。以上の結果から、以上の結
果から、癌細胞 ZK-1 の増殖に perlecan が必要で
あること、ZK-1 は自身で perlecan を生合成するこ
とができるが、OF-1 との接触環境下ではもっぱら
OF-1 が perlecan を生合成し、ZK-1 は OF-1 由来
perlecan を利用できる環境では自身による perlecan 生合成を停止することが判明した。
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
(別紙可)
口腔扁平上皮癌細胞-間質線維芽細胞の共培養系を用いたパールカン生合性転換機構の解明
丸山 智,程
珺, 山崎 学,朔
敬
第 101 回日本病理学会会誌, 101(1), 325, 東京都,2012 年 4 月 26-28 日
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収支決算書
単位:円
518,000 円
配分額:
費目別収支決算表
設備備品費
消耗品費
0
旅
費
518,000
謝金・賃金
0
そ の 他
0
合
0
計
518,000
設備備品費内訳
設備備品名
仕様・型式等
数 量
単
価
金
額
目
数 量
単
価
金
額
計
消耗品費内訳
品
SsoFast Eva Green Supermix
Anti FGF-2(147),Human(Rabbit)
イミュンブロット PVDF メンブレン
ソフトウェア(Adobe Photoshop Extended…)
パソコン
ThinkPad Tablet
エレコム SD カード
1個
1個
1 セット
1本
1台
1台
1枚
124,950
45,517
10,920
37,590
33,300
57,750
2,361
124,950
45,517
10,920
37,590
33,300
57,750
2,361
IWAKI 培養フラスコ 外
205,612
518,000
計
旅
費 内訳
事
項 ・ 出張先
回 数
単
価
金
額
項
員 数
単
価
金
額
項
員 数
単
価
金
額
計
謝 金 ・ 賃 金
内訳
事
計
そ
の 他 内訳
事
計
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