脳科学者・茂木 健一郎氏と 『化粧・美×脳科学

2008 年 10 月 14 日
脳科学者・茂木 健一郎氏と
『化粧・美×脳科学』プロジェクトを推進
第一弾として、自分の素顔と化粧顔を見た時の脳活動の違いを発見
株式会社カネボウ化粧品
カネボウ化粧品・基盤技術研究所、および製品開発研究所は、2007 年 7 月より、脳科学
者・茂木 健一郎氏と共同で「『化粧・美×脳科学』プロジェクト」を立ち上げ、脳科学的
なアプローチで「美の本質」や「化粧の本質」などについて研究してきました。今般、そ
の研究成果の第一弾として、 素顔と化粧後で自分の顔に対する認知活動が変わる
という
脳内現象を発見し、化粧が社会的コミュニケーションにおいて有効に作用していることを
示しました。
本プロジェクトでは、今後も、化粧品を通じて多様な価値を提供し続けるべく、化粧の
本質的価値の探究を続け、共同研究開発活動を深めていきます。
『化粧・美×脳科学』プロジェクト発足の背景
カネボウ化粧品では、化粧品を「単に美しさを表現するためだけのもの」ではなく、「女
性本来の個性と美の可能性を引き出すもの」であると捉えており、心豊かで幸せな人生の
実現に向け、化粧品を通じて多様な価値を提供し続けることを使命としています。
この化粧品の多様な価値を理解するためには、
「脳科学」という人間の無意識な部分にア
プローチできる新たな切り口で、「美の本質」「化粧の本質」を掘り下げて研究することが
重要であると考えました。こうしたことから、カネボウ化粧品では、化粧や美の本質的価
値を見出すことを目的に、脳科学者・茂木 健一郎氏と共同で「『化粧・美×脳科学』プロ
ジェクト」を立ち上げ、研究に着手しました。
もともと人間の脳においては、自分や他人の顔を見たときに無意識の内にも様々な認知
活動が行なわれていることが知られていますが、プロジェクトでは、研究の第一弾として、
化粧によってこれらの認知活動にどのような変化が起こるかを明らかにすることが、
「化粧
の本質」に迫る一つの方法であると考えました。
自分の化粧顔を見たときの脳活動は、他人の顔を見た時の脳活動に近い
今回の研究では、化粧後の脳活動の変化を検証するため、
「自分の素顔」「自分の化粧顔」
と、
「他人の顔」を見た時のそれぞれの脳活動を、fMRI(機能的磁気共鳴映像法:functional
Magnetic Resonance Image)で測定しました。
図1、図2において、緑の領域は自分の顔を見た時に特徴的に活動する部位、青の領域
は他人の顔を見た時に特徴的に活動する部位です。もともと、自分の顔を見た時と他人の
顔を見比べた時とでは、活動する脳の領域が異なることが知られていますが、今回の測定
でも、同様の脳活動を確認しました。
その上で、さらに今回の測定では、自分の顔の中でも自分の素顔と化粧顔を見た時にそ
れぞれ特徴的に活動する部位を確認しました。
ぼうすいじょうかい
図1の赤丸囲みで示す右脳の紡 錘 状 回(fusiform gyrus)は、 ひと の顔を認知する際
に特徴的に活動する部位として知られていますが、この部分において、自分の化粧顔(赤)
と他人の顔(青)を見た時で、同じような脳活動が確認されました。
図1
自分の化粧顔を見た時の特徴的な脳活動
赤:自分の化粧顔
青:他人の顔
緑:自分の顔
左脳
右脳
同様の実験で自分の素顔を見た時には、自分の顔を認識するときに有意に活動する部位
において脳活動が認められました。
(図2の赤点線囲み部分)
図2
自分の素顔を見た時の特徴的な脳活動
赤:自分の素顔
青:他人の顔
緑:自分の顔
左脳
右脳
以上のことから、自分の化粧顔を見ている時は、他人の顔を見ている時の脳活動に近く、
自分の化粧顔を社会的に認知されたものとして客観的に捉えていることが新たにわかりま
した。一方、自分の素顔については、化粧顔よりも素顔のほうが
より自分らしい
と認
識していることもわかりました。
つまり、自分の化粧顔は自分が他人との社会的な関係を築く上での橋渡し的な役割を担
うのに対し、自分の素顔は、自分自身を意識するときに重要な役割を果たすと言えます。
(図
3)
自分
自分の素顔
図3
他人
自分の化粧顔
自分の素顔を見ることで、脳の報酬系が活性化
びじょうかく
また、自分の素顔を見ると、脳の報酬系部位である尾状核(caudate nucleus)が活発化
(図4)この尾状核という部位は報酬
し、脳内でのドーパミン(※)放出が示唆されました。
系の中でも何かの行為によって得られる報酬を期待して働くとされています。つまり、今
回の実験では、自分の素顔を見た時に、化粧後の自分の姿が他人(もしくは社会的)に認
められることを想像し、期待感や励み、意欲といった感情が湧き上がっていることが示唆
されました。
化粧の効用は、魅力的な外見の提供だけではありません。化粧行為そのものが女性の内
面をも豊かにし、社会的なコミュニケーションを形成していく上で大変重要な役割を担っ
ていると言えるのです。
※ドーパミンとは、美しい音楽やおいしい食べ物などに出会うことで本能的な喜びを感じた時、または、ひとがある行
動をとった時に、それが周囲に認められたりほめられたりすると脳内に放出される神経伝達物質のこと。ドーパミン
が放出されるとひとは快楽(報酬)を得ることができ、そしてその快楽を再び得ようと、ますますその行動を強化す
る。
横から見た図
後ろから見た図
図4
黄:自分の素顔を見た時の脳活動
(尾状核:caudate nucleus)
上から見た図
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今回の研究成果から、化粧は、社会的なイメージづくり、他人との良好なコミュニケー
ションづくり、さらには本人に対する様々な感情的効果にも寄与していることが示唆され
ました。また、化粧をする上で、毎日まず自分の素顔を見ることも、女性の心を豊かにし
ているのかもしれません。
今後も共同研究の深耕を図り、化粧・美の本質的価値をさらに深掘りし、女性の気持ち
を理解する研究を深めていきます。
なお、本研究成果を含む詳細を、脳・認知科学における世界最大の国際学会 Society for
Neuroscience(北米神経科学会)が 2008 年 11 月 15 日∼19 日に米国・ワシントン DC で
開催する「Neuroscience 2008」にて発表する予定です。