第3回:2016年4月26日 IT教育ネットワーク論特論A (人を理解するための脳科学) 小嶋 秀樹 [email protected] IT教育ネットワーク論特論A あくまで予定ですが… 4月12日 イントロダクション 4月19日 人間を理解するための心理学 4月26日 人間を理解するための脳科学 5月10日 視線について(技術編) 5月17日 視線について(心理編) 5月24日 人と物のトラッキング(技術編1) 5月31日 人と物のトラッキング(技術編2) 6月 7日 人と物のトラッキング(心理編) 6月14日 言語(音声・テキスト)について 6月21日 グラフィカルユーザインタフェース 6月28日 スマートフォンのインタフェースデザイン 7月 5日 3次元映像 7月12日 デジタルサイネージ 7月19日 まとめ:人が人を理解するということ 7月26日 (学会のため休講を予定) 前回の復習 人間を理解するための心理学 アフォーダンスとは afford [動詞] : 〜を与える,〜する余裕がある,… affordance [名詞] : 与えること (ギブソンの造語) アフォーダンスとは…(直観的な説明) イスの形状・サイズ・材質(強度)などは, それを知覚した人に「座ること」をアフォードする. 平らなトップは 机として 使うことも アフォードする キーワード アフォーダンス(affordance) 環境に潜在する行為可能性を意味するギブソンの 造語.個体にとっての環境とは,アフォーダンスが時 空間的に配置されたものとなる.個体はその時々の ニーズに応じたアフォーダンスを知覚し,それに応じ て行為する.認知科学者のノーマン(D. A. Norman) は,生物が環境から知覚した行為可能性をアフォー ダンスと定義し,道具や生活環境のデザインをア フォーダンス知覚の点から論じている. 心・身体・環境 心は身体を操るソフトウェアか? キブソン的な 新しい考え (生態学的モデル) 人は環境に埋め込まれている 人はアフォーダンスに囲まれている + 人の行動はアフォーダンスによって誘導される アフォーダンス 身体のニーズに合致した アフォーダンスが 自動的に選択され, 環境 それに応じた行為が 自動的に実行される. 身体 選択 ニーズ 実行 キーワード 身体性(embodiment) 知的な行動の多くが,身体と環境の自律的な相互 作用から生じるという考え.知能が意識的に身体をコ ントロールするのではなく,身体と環境が互いを誘 導・制約しあうなかから知的な行動が発現する.この 考えにもとづき,ロボットに内蔵する人工知能を設計 するのではなく,環境のなかで意味ある行動を発現 するように身体を設計するのが,身体性ロボティクス の基本アプローチである. 「アフォーダンスと心の所在」のまとめ 人は環境アフォーダンスに包囲されている. ・・・ 対象そのものではなく,そのアフォーダンスを知覚する. 人は環境アフォーダンスに誘惑されている. 人は環境アフォーダンスの奴隷である. ・・・ 身体が無意識的に アフォーダンスに応答してしまう. 今回のテーマ(1) 脳科学「超入門」 「脳科学」 超入門 脳の構造(左から) 中心溝 (ローランド溝) 頭頂葉 前 前頭葉 外側溝 (シルヴィウス溝) 側頭葉 後 頭 葉 ’ 大脳 cerebrum ’ 小脳 cerebellum 「脳科学」 超入門 脳の構造(左右の大脳半球) 脳梁(のうりょう) 右半球 脳幹 左半球 大脳基底核 前 前 小脳 「脳科学」 超入門 脳の機能局在 一 次 注意/行為 運 の制御 動 野 認識 場所の認識 where 一 次 感 覚 野 前 頭 前 野 運動 物の認識 what 一 次 視 覚 野 「脳科学」 超入門 脳の機能局在 一 次 感 覚 野 各身体部位が 『マップ』 される 一 次 運 動 野 一次感覚野 一次聴覚野 一 次 視 覚 野 前 ホモンクルス 「脳科学」 超入門 左右の交差 左半身・左視野は 右半球に つながる 脳梁が切断されると どうなるのか? 右半身・右視野は 左半球に つながる 左半球 右半球 「脳科学」 超入門 言語野は左半球にある 右利きの99% 左利きの65% 左半球 「言語脳」 「優位脳」 左半球 右半球 ブローカ 言語 計算 段取り 韻律 音楽 空間認知 脳外傷(剖検) Split brain 手術 脳活動イメージング 脳卒中(梗塞/出血) (右半身麻痺,右視野無視,・・・) ウェルニッケ 「脳科学」 超入門 脳の大部分は「専門家集団」である → では「私」はどこに? 前頭前野 (注意と行為 の制御) 運動 空間認知 触覚 言語 生成 言語理解 聴覚 物体認知 アフォーダンス 環境 選択 身体 実行 ニーズ GO or NO-GO 心 視覚 大脳基底核 (衝動の抑制 動機づけ・学習) 「脳科学」 超入門 前頭前野が壊れるとどうなるのか? フィニアス=ゲージの事例 鉄道工事での火薬事故(160年前) 鉄棒が頬から額に貫通, 左眼と前頭前野を損傷するが, 奇跡的に一命をとりとめる. 知覚・運動能力ともに回復し, もとの職場に復帰する. しかし,温厚だった性格が一変し, 乱暴で抑制が効かず, 行動に計画性がなくなった. 「脳科学」 超入門 ここまでのまとめ 脳の前後 前=運動 後=知覚 脳の左右 左=右半身 右=左半身 右視野 左視野 脳の機能局在 視覚野,聴覚野,運動野,感覚野,… 今回のテーマ(2) 脳と言語の不思議な関係 脳と言語の不思議な関係 ブローカ野とウェルニッケ野 ブローカ野 ウェルニッケ野 脳卒中など (運動性言語野) ブローカ野を損傷すると・・・ 発話が困難で非流暢 しかし 運動麻痺(右)を伴う 言葉の理解は 文法的逸脱の増加 比較的良好 (感覚性言語野) 発声器官の 運動野 一次聴覚野 ウェルニッケ野を損傷すると・・・ 理解(聞く・読む)の困難 意味不明 運動麻痺(右)は少ない しかし 発話は錯語が多い 発話は流暢 脳と言語の不思議な関係 日本人の脳 (角田忠信 1978) 日本語の脳 言葉と自然音を非分離 欧米語の脳 言語とそれ以外を分離 日本語は特殊だろうか? 日本語の脳 言語 韻律 機械音 動物音 風雨音 洋楽器 邦楽器 欧米語の脳 言語 韻律 動物音 機械音 楽器音 雑音 つるつる もぐもぐ ぱくぱく むしゃむしゃ オノマトペ(擬音語・擬態語)が豊富 ばくばく がつがつ 新しいものを自由に創造できる! ぺろり ぱくり 表音文字(かな)と表意文字(漢字) さらに漢字には複数の読み(音読み・訓読み) 脳と言語の不思議な関係 日本人特有の 処理ルート 漢字を理解できる失読症患者 ひらがなもカタカナも読めない/理解できなくなっても, 漢字で書かれた概念を理解することができるケースがある. ブローカ野 ウェルニッケ野 表音文字(ひら/カタ)の理解 視覚野 ⇒ 角回 ⇒ ウェルニッケ 音韻 漢字の理解 意味 視覚野 ⇒ 側頭葉下部 ⇒ ウェルニッケ 角回 聴覚野 視 覚 野 日本語の〈漢字〉は 複数の読みをもつ 中国語では /bù/ のみ 歩く 歩む 歩 進歩 歩合 歩数 歩 あるく あゆむ あゆみ しんぽ ぶあい ほすう ふ [将棋] 脳と言語の不思議な関係 ここまでのまとめ ブローカ野とウェルニッケ野 運動(発話)と感覚(理解) 日本人の脳 失読症でも漢字が読めることあり 音から独立した表意文字(日本漢字) 今回のテーマ(3) もっと不思議な「共感覚」 共感覚とは何か 音に意味はないのか arbitrary 本来,音と意味の関係は〈恣意的〉 ・・・ 物理的・生理的な理由はない 「ネコ」 「キャット」(英:cat) 「シャ」(仏:chat) 「マオ」(中:猫/mao) 「ゴヤンイ」(韓:고양이) 《猫》 しかし,音と意味の関係に 生理的な〈傾向〉はあるかもしれない Ramachandran の実験 「どちらが bouba で,どちらが kiki?」 98%が「丸いのが bouba,尖っているのが kiki」 共感覚とは何か 共感覚(synesthesia) ある感覚モダリティでの刺激が別の感覚モダリティでの知覚を 不随意的に引き起こす現象 [Cytowic] 楽器音(音色・高さ) 色彩 成人の共感覚者は稀(200人~10万人にひとり) 女性に多い(男女比1:3~1:8),左利きに多い 家系内での共起頻度が高い(遺伝的な要因か) 共感覚は一方向的 音 色 字 色 共感覚は随意的に 促進あるいは抑制できない 共感覚とは何か Ramachandran の実験1 数字に色をみる共感覚者: 5は青,2は赤 共感覚者は隠された三角形をすばやく見つける 共感覚とは何か Cytowic の実験 共感覚のときの 脳血流をPETで測定 皮質 辺縁系など 皮質の血流量が低下 (左半球で18%低下) 相対的に辺縁系(海馬など)の活動が顕在化 (reductive/analytic) 皮質における分析的知覚が抑制され, 代わりに辺縁系での全体的知覚が自覚される. (holistic/gestaltic) 共感覚とは何か モダリティ未分化(amodal)な知覚の「次元」 刺激のもつ 大きさ・・物理的な大きさ,エネルギーの大きさ. 位置 ・・・自己中心的な方向と距離. 変化 ・・・時空間的なパターン, リズム・テクスチャ・移動速度など. ゲシュタルト知覚 情動反応(快・不快など) をダイレクトに導き出す 身体反応(接近・回避など) 共感覚とは何か モダリティ未分化(amodal)な知覚は成人健常者にもみられる 照明の色によって 聴覚の鋭敏さが変化する [山田] 同じ大きさ・同じ重さの立方体 ある範囲の重さであれば, 黒は白よりも重く感じられる [山田] 共感覚メタファ [楠見] 「黄色い声」・「うるさい模様」・「シブイおじさん」 (amodal な知覚が言語文化に沈殿?) 共感覚とは何か Ramachandran の実験(再掲) 「どちらが bouba で, どちらが kiki か?」 98%の被験者 「丸い方が bouba で 尖った方が kiki!」 基本語彙にひそむ類像性(iconicity)[Ross] -ump半円状・半球状(の出っ張り) bump,hump,lump,mump(s),etc. -og 湿った状態 bog,fog,frog,sog(gy),etc. 共感覚とは何か 新生児模倣 [Meltoff,・・・,Nadel] 他者の顔動作(舌出し・口開け等) 「模倣」する 感覚モダリティ間の対応 [Meltzoff,Maurer,など] vs しゃぶる 目で区別できる しゃぶるだけで視覚野も活動(光トポ) [小西など] 赤ちゃん(0~3ヶ月児)は 視覚・聴覚・触覚・自己受容感覚など の意味ある〈つながり〉を知っている. 共感覚とは何か 参考文献 人間を理解するための脳科学 ま と め 運動 脳の表面(皮質) 前頭前野 (注意と行為 機能局在 の制御) 個々のモダリティごとに バラバラに対象を知覚している 前頭前野は「司令部」? 触覚 空間認知 言語 生成 言語理解 視覚 聴覚 物体認知 大脳基底核 (衝動の抑制 動機づけ・学習) ミニカラム構造 自閉症ではミニカラムが多い(細い) 世界を見る「粒度」が違う? 脳の奥(皮質下) モダリティ未分化の知覚(⇒共感覚) 対象のまとまりを知覚している 「ブーバ」 「キキ」 時間があれば 「脳波」から脳をみる 脳波(EEG)とその計測 脳の電気的活動が 数十μV の電位として 頭の表面に現れたもの δ(デルタ)波 1〜3 Hz θ(シータ)波 4〜7 Hz α(アルファ)波 8〜13 Hz 安静時 β(ベータ)波 14〜27 Hz 注意時 γ(ガンマ)波 28〜 Hz 基準電位(例:左耳)からの電位 or 任意の電極ペア間の電位 事象関連電位(ERP) 例.ビックリしたときの脳活動 10ch, 20ch が一般的 (128ch という例もある↓) 脳波とは何か / どのように計測するのか 1万円でできる脳波測定 Mindwave (NeuroSky 社) 左耳たぶを基準電位とした 1ch(FP1)簡易脳波測定器 Bluetooth でパソコンと接続 MindWave で遊んでみました 卒業研究(加藤幹太郎) 次回は 5月10日 (5月3日は祝日のため休みです) 以上です 授業で使ったスライドは h"p://www.myu.ac.jp/~xkozima/course/in-itnet.html からダウンロード(PDF)できます
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