「それ、お金をはらってもいい?」

使
使
う 「それ、お金をはらってもいい?」
■ 実践授業について (筑波大学附属小学校 鎌田和宏)
子どもたちに「お金を使うってどんなことですか?皆さんの家ではどんな風にお金を使っていま
すか?」とたずねると、きょとんしている子どもが多いことに驚かされます。お金を使うというこ
とは、私たちが生きていく上でとても重要なことです。ところがこのお金を使うということを子ど
もたちはあまりきちんと考えたことがないようです。もちろんお使いに行ったり、おこづかいで好
きなものを買ったりという経験を持っている子どもは結構いるはずです。しかし、自分の家族が
どのようにお金を使っているか知っているでしょうか?また、それはどんな目的で使っているので
しょうか。調べさせてみると「なるほど」と思うことがたくさんあるはずです。実際に自分の家庭
のお金の使い道を調べたり、モデル家族のお金の使い方を考えたりしてお金を使うことがどうい
う事なのかを考えさせてみましょう。
この指導 案は、私が担任した学級の子どもたちが「総合的な学習の時間」で「自分たちの手で
オリジナルの映画を作りたい!」と夢を描き、その実現のために資金を手に入れ映画を完成させた
実践の一部をもとに構成されています。
指導計画
何にお金を使っているの?
第
1
時
充実させるために必要なお金」、「社会や他の人のために使うお金」があることを知る。
そして、自分のためにお金を使うことの大切さ、自らの尺度で価値を見いだすことの
自分の家庭でお金がどのように使われているかを考える。様々なお金
の使われ方(生きていくため・生活を充実させるため・社会や他者のため)
を見ることで、意味合いの違う使われ方があることに気づく。
自分にとって必要なお金の使い方を考えよう
第
2
時
ねらい
家庭でのお金の使われ方を調べることで、「生きていく上で必要なお金」と、「生活を
(全3時間)
モデルケースを 例に、生 活を充 実させるために使われているお 金に
ついて考える。自分の家庭のお金の使い方の特徴や、自分だったらお
金をどう使うべきか、を考えることで、自分のためにお金を使う意義と、
その事がもたらす自分にとっての将来的な「価値」について意識する。
社会や他の人のためのお金って何だろう?
第
3
時
社会や他者のために使われているお金について調べることを通して、
それぞれの家 庭 でどのようなことを大事にしたいと考えているかに
気づき、社会や他者のためにお金を使う意義について考える。
重要性を学ぶ。
育てたい力
どのような学習が
身に付くか
自分の家庭で使われているお金の使い道を考えることを通じて、
お金は生活を維持し、充実させ、自分を含めた社会のために
使われていることを知る。
自分自身の
変化
生活を維持・充実していくために、お金が役立っていること
に気づく。
他者や社会との
関わり
お金は自分自身の生 活を維 持・充実させていくだけでなく、
社会をよりよくしていくのに役 立っていることに気づく。
6
モデル指導案のねらい (信州大学教育学部 准教授 栗原 久)
「皆さんは、おこづかいで何を買っていますか」。こう問われれば、お菓子やマンガ雑誌などの答えが、
子どもたちからすぐに出るでしょう。
「皆さんの家庭では、何にお金を使っていますか」と問うた場合は、どうでしょう。食料費や携帯電話の
料金、自家用車のガソリン代などの答えは、すぐに出るかもしれません。しかし、上水道だけではなく下水
道にも料金を支払っていること、毎月、町内会費を支出していて、これが地域社会の維持に役立っているこ
となどに、子どもたちは気づいているでしょうか。
「使う」の授業では、家庭でのお金の使い方に注目します。お金の使途を分類することで、生活上必要な財・
サービスの購入にお金が使われているだけではなく、生活の充実や、他者との交際、社会の維持のために
も支出されていることに気づかせます。各家庭のお金の使い方には特徴があって、お金の使い方が「その家
庭が大切にしていること」に関係していることも、理解させたいところです。
所得には、限りがあります。限られた所得の中から、ある部分(たとえば、家族旅行)へより多くお金を
使えば、他の部分(たとえば、衣料費)への支出は減らさなければなりません。
「あれも、これも」ではなく、
「あれか、これか」の選択、これが経済です。
7
1
第
モデ
時
ル指導案
何にお金を使っているの?
自分の家庭でお金がどのように使われているかを考える。様々なお金の使われ方(生きていくため・
生活を充実させるため・社会や他者のため)を見ることで、意味合いの違う使われ方があることに気づく。
項目・目標
発問と学習活動
指導のポイント・留意点
資料・備品
1. 家庭でのお金の使
われ方について発
表する。
●家庭では、どのようにお金が使われていますか?
教えてください。
〔マンガ【使う】について〕を視聴し、児童に興味関心を持たせる
マンガ【使う】について
15分
2. お金の使われ方に
はどのような意 味
があるかを考える。
電気代、ガス代、水道代、電話代、定期券代
毎日の食事代、家賃、衣類代、薬代、しんさつ代
塾代、おけいこ代、ゲーム代、本・マンガ代
外食代、旅行代、スポーツクラブ代、映画代
お祝い代、寄付金、税金
預金、住宅ローン
●お金の使い方の仲間分けをしましょう。それぞれ
の仲間にはどんな目的があるのでしょうか。
衣食住関連 :毎日の食事代、家賃、衣類代
光熱費関連:電気代、ガス代、水道代
保健医療関連:薬代、しんさつ代
交通通信関連:定期券代、電話代
→①生きていく上で必要なお金
教育関連:塾代、おけいこ代
趣味関連:ゲーム代、本・マンガ代
レクリエーション関連:外食代、旅行代
→②生活を充実させるために必要なお金
お祝い代、寄付金、税金
25分
3. 本時の学習をまと
める。
5分
→③社会や他の人のために使うお金
●今日の学習でわかったことや印象に残ったことなど
をノートに書きましょう。
●次回以降、自分の家庭の「生活を充実させるため
に必要なお金」や「社会や他の人のために使うお金」
について、どのような特 徴があるかを考えます。
どんなことに使われているのか、あらかじめ家族
にお話を聞いておきましょう。
8
○児童は、より具体的な支出を発表することが予想される。教材【費目
カード】を参考に、仕分けていきたい。
○プリントアウトした【費目カード】をうまく活用し、黒板に貼っていく。
【プリントアウト】
・費目カード(紙)
○どのように分けられるか、児童に実際に仲間分けをさせてみる。費目
カードを使って、黒板上で仲間分けもできるが、Web教材「仲間分け
ソフト」の利用もできる。
ソフト
お金の使い方:仲間分けソフト
○3つに分類できたところで、「①生きていく上で必要なお金(食費や光
熱費など)」の大切さにあらためて気づかせ、生活の基本として必要で
あることを児童に認識させたい。
○食費などでも、家族の楽しみのために外食する、などが出ていたら、
「②生活を充実させるために必要なお金」に分類され得るように、同じ
食事でもその目的に違いがある場合があることを強調しておきたい。
○生活を充実させるために必要なお金のところではどのようなことを
大切にしているのか、それぞれの価値観がわかるように板書する。
○「③社会や他の人のために使うお金」には、
「自発的に支出される」お祝いや寄付金、「きまりとして義務的に支出
される」税金というように、同じ「社会や他の人のために使うお金」にも、
違いがある点を強調しておきたい。
○児童の学習感想には、自分の家庭ではどんな事にお金を使っているの
か発見したことや、家計の支出を分類した事による気づき、考えたこ
とが書かれるだろう。そのことをふまえて、次回以降、自分の家庭の
お金の使われ方の特徴について考えていけるよう、家族と話ができる
よう促すとよい。
9
【ソフト】
お 金の 使い方:仲間分け
ソフト
(プロジェクター使用)
2
第
モデ
時
ル指導案
自分にとって必要なお金の使い方を考えよう
モデルケースを例に、生活を充実させるために使われているお金について考える。自分の家庭のお金の
使い方の特徴や、自分だったらお金をどう使うべきか、を考えることで、自分のためにお金を使う意義と、
その事がもたらす、自分にとっての将来的な「価値」について意識する。
項目・目標
発問と学習活動
指導のポイント・留意点
1. 生活を充実させるた
めに使われているお
金はどのようなもの
だったかを考える。
●「生活を充実させるために使われているお金」はどのようなものか、
前回の学習で仲間分けしたものを参考に、具体的に発表してみましょう。
○一旦まとめた「②生活を充実させるために必要なお金」が、具体的に
2. 生 活を充 実させる
ためにお 金を使う
ことがどのような
意義があるのかを
考える。
●モデルケースの家族の使われ方を見て、何を大切
にしているか特徴を挙げてみましょう。
10分
・音楽CDを買った
・本を買った ・ゲーム機を買った
資料・備品
どんな支出だったのか思い出し、話し合わせる。
・塾の月謝を払った
・家族で旅行に行った
・家族みんなが本好きなので本代が多いな
・家 族 みんなが 音 楽 好きなので、音 楽CDやコン
サートのチケットにお金を使っている
○モデルケースの支出の割合を提示し、それぞれの家族の使われ方や
特徴を考えさせる。
図解・解説
モデルケース:支出の割合
【図解・解説】
モデルケース:支出の割合
(プロジェクター使用)
※音楽好き一家 ※本好き一家
(詳しいデータなどは、
総務省統計局
「家計調査」
(平成18年度)
を参考にするとよい)
○多くの支出がある費目は、その家庭での必要度が高かったり、重視さ
れている支出ということである。限られた収入の中でどのような価値
観にもとづき、どのように配分しているのかが意識されるようにしたい。
※モデルケースの支出の割合は、あくまで「平均値」であること、本来お金の使い道は、
各個人が考えるものであること、割合は収入額によっても変わることに留意したい。
●自分の家庭のお金の使い方に特徴があるか、考えて
みましょう。ノートにまとめてください。
○何に使っているかを強調するのではなく、家族の嗜好や自分自身の
興味関心がどこにあるかを、見つめさせる活動としたい。
・塾や習い事のお金が多いと思う
・旅行好きだから、旅行にかけるお金が多いかもしれない
・動物好きな家族なので、ペットにかかるお金が多いと思う
・家族みんながゲーム好きだから、ゲームに使うお金が多い
●自分だったら、どんなことにお金を使うか、考えて
みましょう。なぜそのことに使うか考えてみましょう。
・海外旅行をしていろいろ見てみたい
・将来の夢はバレリーナなのでバレエを習ってみたい
30分
3. 本時の学習をまと
める。
5分
○様々なお 金の用途についての意 見が出てくることが予 想されるが、
使えるお金には限りがあること、何に使うか選択する必要があること
をきちんとおさえておきたい。
○自分が自由にお金を使うためには「お金を稼いで収入を得る」ことが
大切であることを、ここで合わせて伝えたい。 ○さらに、それぞれのお金の支出がどのような意義を持っているのかを考えさせたい。
旅行→見聞を深める・家族のつながりを強める 習い事→将来の夢の実現・才能を磨く
★詳しい情報は→「Web教材:生活を充実させる支出の意義」を参照
読み物・解説
●今日の学習でわかったことや印象に残ったことなど
をノートに書きましょう。
10
解説:生活を充実させる支出の意義
○将来に関係する意見は特に強調しておきたい。
11
【読み物・解説】
解 説:生 活を 充 実させる
支出の意義
(プロジェクター使用)
3
第
モデ
時
ル指導案
社会や他の人のためのお金って何だろう?
項目・目標
発問と学習活動
1. 社会や他者のために
使われているお金は
どのようなも ので
あったかを考える。
●「社会や他の人のために使うお金」はどのようなもの
か、前々回の学習で仲間分けしたものを参考に、
具体的に発表してみましょう。
社会や他者のために使われているお金について調べることを通して、それぞれの家 庭でどのような
ことを大事にしたいと考えているかに気づき、社会や他者のためにお金を使う意義について考える。
指導のポイント・留意点
資料・備品
○児童の興味関心に応じて、健康保険などについて触れてもよい。
・お祝い代 ・税金
・寄付金 ・町内会費
10分
2. 社会や他者のため
にお金を使うことは
どのような 意 義 が
あるのかを考える。
●お祝いや寄付、税金などにお金を払うということ
にはどんな意味があるのか、家族に聞いた話をも
とに考えてみましょう。
・結婚のお祝いは、新しい家庭を作る時の手助け
になるように出すのだとお父さんが言っていた
・お母さんはみんなが幸せに暮らせていることに感
謝して、ボーナスをもらった時に寄付をしている
と言っていた
・みんなで税金を払うことによって、1人ではでき
ないようなことでもできるんだって
○お祝い代などは、自分や家族に大切な人との絆を深め助け合うため、
町内会費などは地域社会がよりよいものとなっていくために使われて
いることをつかませたい。
○それぞれの支出に込められた意味を考えるためには、家族へのインタ
ビューが必要になることが予想される。あらかじめ家族へインタビュー
しておけるよう、第1時の「お金の使われ方」の発表の際に、調べてお
くよう事前に声をかけておくとよい。
○税金は、個人では実現できないことを力を合わせることによって実現
するために出し合うお金なのだという事を強調しておきたい。
○税金の使い道については、3、
4 年生社会科での既習事項(ゴミの処理や
水道網の維持など)から税金の使い道を明らかにしておきたい。
★税金についての詳しい情報は→「Web教材:税金のしくみと使い道」
を参照
読み物・図解
25分
3. 学 習を振り返って
お金を使う意義を
考える。
●みんなの家庭のお金の使われ方には、どんな工夫
や意味があったでしょうか?学習したことや、家族
から聞いた話から考えたことを、ノートに書いて
みましょう。
税金のしくみと使い道
○限られた収入の中でどう配分するかは、お金の使い方と合わせて、一定
の範囲内で収めなくてはならないということを考えさせたい。
○お金を払うことが、今や将来の自分とどうつながっているのかをふり
かえって、まとめさせたい。
10分
12
13
【読み物・図解】 税金のしくみと使い道
(プロジェクター使用)