ニッケル鉱石

ニッケル鉱
1. ニッケル鉱
ニッケル鉱の種類
ニッケルの生産に使用される主要な鉱石は次の様である。[1]
(a) 珪ニッケル鉱(garnierite, (Ni,Mg)6Si4O10(OH)8)(ニッケル及びマグネシウム
のけい酸複塩)
(b) 紅砒ニッケル鉱(niccolite, NiAs)(砒化ニッケル)
(c) 硫鉄ニッケル鉱(pentlandite, (Fe,Ni)9S8) (ニッケル及び鉄の硫化物)
(d) 含ニッケル磁流鉄鉱(nickeliferous pyrrhotite)(含ニッケル硫化鉄)
これらの中で、珪ニッケル鉱はフェロニッケルの主要な原料である。
ニッケル鉱石にもっとも多く含まれる不純物は銅であり、ニッケルの精錬では銅
とニッケルの分離が重要になる。硫鉄ニッケル鉱など硫化物の鉱石や、ニッケル
含有量が多い磁硫鉄鉱は溶鉱炉でとかして銅とニッケルの硫化物に変えたあと、
精錬工程を経て銅とニッケルに分離する。
2. ニッケル (Ni:
(Ni:nickel)の
nickel)の特性値と
特性値と概要
・陽子数:28
・融
点:1453℃
・価電子数:・沸
・ 存在度(地球):105ppm
点:2732℃
・原子量:58.6934
・密
度:8.902
[2]
ニッケルは銀白色の金属元素であり、強い磁性をもつ。主に、合金やメッキとし
て使用される。ニッケルを含んだ形状記憶合金は、人工衛星などの太陽電池パネル
のバネ部分でも使用される。
ニッケルは産業上重要性が高い金属であるため、万一の国際情勢の急変に対する
安全保障策として国内消費量の最低 60 日分を国家備蓄すると定められている。
3. 産地
ニッケル鉱石の世界の埋蔵量は、約 6,700 万トン(純分)と推定されている。
国別の埋蔵量はオーストラリア(36%)、ニューカレドニア(11%)、ロシア(9.9%)、
キューバ(8.4%)、カナダ(7.3%)、ブラジル(6.7%)、南アフリカ(5.5%)、イ
ンドネシア(4.8%)、中国(1.6%)、フィリピン(1.4%)である。また、ニッケ
ル鉱石の 2007 年における世界の生産量は約 166 万トンと推定されている。国別の
生産量はロシア(19%)、カナダ(13%)、オーストラリア(11%)、インドネシア
(8.7%)、ニューカレドニア(7.2%)、コロンビア(6.0%)、キューバ(4.6%)、
中国(4.8%)、ブラジル(4.5%)である。[3]
日本においては、ニッケル鉱石の採掘は行われていない。
4. 輸入先国
我が国はニッケル資源の全量を海外に依存している。輸入形態としてはニッケル
鉱石のほか、ニッケル地金の原料としてのニッケルマット、ステンレス鋼に使用さ
れるフェロニッケル、ニッケル地金、ニッケル粉・線・棒・板、ニッケルの硫酸塩、
酸化ニッケルなどの形態で輸入している。ニッケルの硫酸塩はいずれも水に可溶で
あり、ニッケルの電気メッキ、媒染剤、ガスマスクの製造及び触媒に使用されてい
る。酸化第一ニッケルは窯業及びガラス工業において着色剤として、また、有機合
成において触媒として使用されている。酸化第二ニッケルは窯業において着色剤と
して、また、アルカリ蓄電池の極板の製造に使用されている。
表-1 にニッケル鉱の国別輸入量及び表-2 に中間生産物であるフェロニッケル、
表-3 にニッケルマット、ニッケル地金、ニッケル粉・線・棒・板、ニッケルの硫酸
塩、酸化ニッケルの輸入量と上位 3 ヶ国の輸入量を示す。[5] 2005 年におけるニッ
ケル鉱石の輸入量は 475 万 6 千トンであり、国別ではインドネシア(47%)、フィ
リピン(29%)、ニューカレドニア(24%)である。[4]
ニッケルの中間生産物の輸入量はニッケルマットが 11 万 4 千トン、ニッケル地
金等が約 5 万トン、ニッケル粉等が 9 千トン、ニッケル屑が約 7 千トンニッケル板
等が約 1.9 千トンである。フェロニッケルが 4 万 8 千トン、ニッケル硫酸塩が 3.5
千トン、酸化ニッケルが 130 トンである。
表-1 ニッケル鉱国別輸入量
[4]
2005.1~12 輸入実績
品目名
単位
合計
輸入国
トン
4,756,702 インドネシア
輸入量
比率
2,217,939
46.6
ニッケル鉱(精鉱を含
フィリピン
1,378,797
29.0
む。
)
ニューカレドニア
1,159,966
24.4
0
0.0
マレーシア
表-2 フェロニッケルの国別輸入量
[4]
2005.1~12 輸入実績
品目名
単位
トン
フェロニッケル
合計
輸入国
48,241 南アフリカ共和国
輸入量
比率
32,044
66.4
カザフスタン
8,505
17.6
ジンバブエ
5,212
10.8
その他
2,480
5.1
表-3 ニッケル中間生産物の国別輸入量
[4]
2005.1~12 輸入実績
品目名
単位
トン
合計
輸入国
114,052 インドネシア
輸入量
比率
94,295
82.7
12,644
11.1
6,857
6.0
255
0.2
7,579
15.0
ロシア
7,295
14.5
南アフリカ共和国
7,057
14.0
28,472
56.5
1,829
25.9
ロシア
1,327
18.8
大韓民国
1,226
17.4
その他
2,672
37.9
9,303 カナダ
4,336
46.6
4,318
46.4
ロシア
283
3.0
その他
366
3.9
422
50.2
276
32.8
スウェーデン
71
8.5
その他
71
8.5
1,898 アメリカ合衆国
727
38.3
ニッケルの板、シート、スト
中華人民共和国
619
32.6
リップ及び箔
ドイツ
290
15.3
その他
262
13.8
3,534 アメリカ合衆国
2,582
73.1
中華人民共和国
405
11.5
ドイツ
382
10.8
その他
165
4.7
130 アメリカ合衆国
81
62.2
中華人民共和国
37
28.2
その他
12
9.3
ニッケルのマット、焼結した
オーストラリア
酸化ニッケルその他ニッケル
フィリピン
製錬の中間生産物
その他
トン
ニッケルの塊
50,404 ノルウェー
その他
トン
ニッケルの屑
トン
英国
ニッケルの粉及びフレーク
トン
841 アメリカ合衆国
ドイツ
ニッケルの棒、形材及び線
トン
トン
ニッケルの硫酸塩
トン
酸化ニッケル
7,054 アメリカ合衆国
5. ニッケル鉱石
ニッケル鉱石の
鉱石の精製法及び
精製法及び誘導品の
誘導品の製造法[5]
ニッケル原料を得る方法として、現在、日本ではニッケル含有量が約 70%のニッ
ケルマットとニッケル含有量が約 60%の混合硫化物を使用した湿式法(マット塩素
浸出電解採取法)及びニッケル鉱石を電気炉で溶融する溶融製錬法が行われている。
図-1 に湿式法(マット塩素浸出電解採取法)の製造工程図を示す。
湿式法の製造工程は
① ニッケルマットの粉砕工程:ニッケルマットを細かく粉砕して次工程で、塩素
と反応しやすい形状にする。
② 塩素侵出工程:粉砕したニッケルマットと混合硫化物を塩素と反応させ、塩化
物溶液にする。
③ コバルト及び不純物の除去工程:塩化物溶液からコバルトや不純物を除去し、
純粋な塩化ニッケル溶液とする。
④ 電解工程:塩化ニッケル溶液を電解採取法により、陰極側に電気ニッケルを電
着させる。陽極側では塩素が発生する。この塩素は浸出工程及びコバルト精製
工程で再使用する。
このマット塩素浸出電解採取法では副産物として、電気コバルト、銅粉、硫黄、
塩素が得られる。
図-2 にステンレス鋼の原料として使用されるフェロニッケルの製造工程図を示
す。
フェロニッケルの製造工程は
①破砕・乾燥工程:輸入されたニッケル鉱は多量の水分をふくんでいるため、破砕
機で砕きロータリードライヤーで乾燥する。
②焼成工程:鉱石を石炭と一緒にロータリーキルンに装入し、石炭燃焼により加熱
脱水・焼成して焼鉱とする。
③加熱還元溶解工程:キルンを出た焼鉱を高温に保持したまま電気炉に装入し、
加熱還元溶解により、粗ニッケルとスラグに分離する。
④脱硫工程:粗フェロニッケルには不純物として硫黄が含まれているため、低周波
誘導炉でカルシュウムカーバイドを用いて硫黄を除去する。
⑤ 脱炭素・脱珪素工程:脱硫した溶融金属の表面に純酸素を吹き付け、炭素・珪
素類などの不純物を酸化除去する。
⑥ 鋳造工程:転炉から出た溶体のフェロニッケルを鋳造機にてショット状または
インゴット状にする。
電気炉で発生したスラグは鉄鋼用原料、コンクリート用細骨材、アスファルト用
細骨材として再利用される。
輸入ニッケル鉱石から国内で生産したフェロニッケル、輸入したフェロニッケル
は主にステンレス鋼・特殊鋼産業で利用される。輸入したニッケルマットから生産
した硫酸ニッケル、もしくは直接輸入した硫酸ニッケルは主にメッキ材料として自
動車・自転車・家電・電子部品産業で利用される。輸入したニッケル粉は主に電池
用原料としてエネルギー機器産業で利用され、国内で生産した酸化ニッケル、もし
くは輸入した酸化ニッケルはフェライト、磁気カード用原料として利用されている。
6. ニッケル鉱
ニッケル鉱の最終用途
ニッケル鉱石からはニッケル地金、フェロニッケル、ニッケル粉、硫酸ニッケ
ル、酸化ニッケルなどが製造される。このうち、フェロニッケルはステンレス鋼の
原料となる。ステンレス鋼は美しい光沢を持ち錆びにくい特性があり、スプーン・
フォーク・鍋・システムキッチンなどの家庭用品や自動車、ビル・住宅などの建材、
車両などにも使われている。また、耐酸・耐熱であるため工業用としても多量に使
用されている。
ニッケル地金のおもな用途は合金材料である。鉄にニッケルを混ぜると強度と
耐食性が高まり約 2~4%のニッケルを含むニッケル鋼は自動車のシャフト、ク
ランク軸、歯車、バルブなど強度を要する機械部品等に利用されている。
ニッケルを含有する合金の種類及び主な用途を表-4 に示す。
表-4 ニッケルを含有する合金の種類・用途[6] (JOGMEC ホームページを参考に編集)
合金の名称
合金の分類
成分
主な用途
ステンレス鋼
鉄合金
Fe- Ni-Cr
構造材、容器、配管
マルエージング鋼
鉄合金
Fe-18~30Ni(Co,Mo)
航空宇宙用構造材、ゴルフクラブヘ
ッド素材
インバー
鉄合金
Fe-36Ni
時計部品、実験装置
コバール
鉄合金
Fe-29Ni-17Co
低膨張率合金
洋白(洋銀)
銅合金
Cu-27Zn-18Ni
食器、バネ、金管楽器
白銅(キャプロニッケル) 銅合金
Cu-Ni
貨幣
コンスタンタン
55Cu-45Ni
歪みゲージ、熱電対
銅合金
クニフェ
銅合金
60Cu-20Ni-20Fe
電球内のリード線
インコネル
ニッケル合金
72Ni-15Cr-Fe 他
耐熱合金
ハステロイ
ニッケル合金
50Ni-Mo-Cr-Fe
耐熱・耐食用素材
モネル
ニッケル合金
63Ni-28~34Cu
耐熱・耐食用素材
ニクロム
ニッケル合金
80Ni-20Cr 他
電熱合金
パーマロイ
ニッケル合金
Ni-Fe
磁気ヘッドなど
ホワイトゴールド
その他
Au-Ni-Pb
装飾品、貨幣
表-5 に、ニッケルの用途分類、最終主要用途を示す。
表-5 ニッケルの用途分類、最終主要用途
ニッケル中間原料
フェロニッケル
[6]
用途分類
ステンレス鋼
(JOGMEC ホームページを参考に編集)
最終主要用途
鉄道車両、建材、システムキッチン、日用品、配管、
化学工業プラント、
硫酸ニッケル
メッキ
自動車用鋼板、自転車部材、家電部材、リードフレ
ームなど電子部品
ニッケル地金
触媒
石油精製、油脂加工の反応剤
磁性材料
ラジオ、ステレオのスピーカー、ロボット、モータ
ー、パソコン用部品、情報記録部品
非鉄材料、特殊鋼
電子部品、通信機用部品、耐熱部品、航空機部品、
ジェットエンジン、貨幣など
ニッケル粉
エネルギー機器
ニッケル・水素電池、燃料電池、携帯電話、パソコ
ン
酸化ニッケル
フェライト、磁気カード、窯業用着色剤
7. 参考資料
[1] 財務省貿易統計
関税率表解説
[2] Newton 別冊:完全図解
周期表,株式会社ニュートンプレス
[3] U.S.Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2008
[4] 財務省:貿易統計,2005.
[5] 住友金属鉱山株式会社ホームページ
[6] 独立行政法人
http://www.smm.co.jp/
2007 年 7 月
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ホームページ
http://www.jogmec.go.jp/ 2007 年 7 月
[7] 独立行政法人
石油天然ガス・金属鉱物資源機構:
鉱物資源マテリアル・フロー2005