No.123 世界の亜鉛製錬の動向 主任研究員 丹野 文夫 (要 約) <第1章

No.123 世界の亜鉛製錬の動向
主任研究員 丹野 文夫
(要 約)
<第1章>亜鉛概況
亜鉛の主な用途はめっきを中心とする鉄の防蝕で約 50%を占める。その他に真鍮等
伸銅用が約 20%、ダイカストが約 15%、亜鉛板と酸化亜鉛等化成品が各々7%である。
亜鉛精鉱の可採鉱量は全世界で 2 亜鉛量億トンあり、豪州、中国、米国、カナダ、
ペルーに多い。2003 年の精鉱生産量は 9,500 亜鉛量千トンであり、着実な増加傾向に
ある。その他の原料として主なものは製鋼ダスト処理により回収される粗酸化亜鉛で
260 亜鉛量千トンが一次地金原料として一次製錬所に供用されている。その他にスク
ラップやめっき工場で発生するドロスが二次地金(再生地金)の原料に、伸銅やダイ
カスト用合金が再溶解により製品化する直接溶融の原料になっている。
地金生産量は着実な増加傾向にあり 2003 年で一次地金が 9,860 千トン、二次地金
が約 600 千トン、直接溶融が約 1,500 千トンの合計約 12,000 千トンであった。
地金消費量も同様に着実な増加傾向にあり 2003 年の一次地金消費量は約 9,700 千
トンであった。二次地金と直接溶融の消費量は生産量とほぼ同等と考えられる。
一次地金の価格(LME)は 1990 年代以降低下傾向にあり、1,000US$/トン以上を維
持していたものが最近は 800US$/トン程度で推移している。
買鉱条件(TC)も同様に悪化傾向にあり 1990 年代前半は 200US$/DMT を維持して
いたのが、最近は 120US$/DMT まで低下している。
非鉄メジャーによる寡占化は一次地金生産では進んでいる一方精鉱生産では進んで
いない。
<第2章>精鉱と地金の流通
亜鉛精鉱は中南米大洋州(ペルー、豪州)
、NAFTA(カナダ、米国、メキシコ)
、
中国、アジア(カザフスタン、インド)
、欧州(スカンジナビア、アイルランド、東欧)
が主な生産国である。
地金は欧州、NAFTA、中国、中南米大洋州(ペルー、豪州)
、アジア(日本、韓国、
インド)が主な生産国及び消費国である。
そのため、亜鉛精鉱は欧州とアジアが輸入地域、NAFTA と中南米大洋州が輸出地
域となっている。地金は NAFTA とアジアが輸入地域、中国と中南米大洋州が輸出地
域となっている。スクラップや亜鉛製品の輸出入は少ない。また、アフリカは生産、
消費とも少ない。
<第3章>今後の動向予測
第2章で精鉱、地金の各国間の輸出入量が推定できたので、24 ケ国について各国別
に国内の亜鉛需給フローを作成し、亜鉛地金としてその国に供給されたものを亜鉛総
供給量として整理した。更に、精鉱供給量と一次地金生産量のバランスから精鉱輸出
入量の推定を、また、地金の供給量と消費量から一次地金輸出入量の推定を検証し妥
当であることを確認した。
各国の一人当たり亜鉛総供給量が一人当たりの GDP と二次相関の関係にあること、
また、亜鉛総供給量が粗鋼生産量と一次相関にあることが判明した。この結果から、
今後人口の増加以上に亜鉛総供給量の増加が見込まれるのは中国、ロシア、インド、
韓国と考えられ、その他の国は人口増加(1.2%/年)分のみ増加するとして試算する
と、亜鉛総供給量は 2003 年に比較して 2005 年では約 600 千トン/年増加の 12,600
千トン/年、2010 年では約 2,200 千トン/年増加の 14,200 千トン/年に達すると予測さ
れる。更に、その増加は一次地金の増加で賄われると推定され、増産国としては中国、
インド及び韓国が考えられる。
亜鉛精鉱生産量の増加は 2005 年で 500 亜鉛量千トン、2010 年で 1,800 亜鉛量千ト
ンと予測され、一次地金の増産対応としては不足する。代替原料として最も可能性が
高いのは製鋼ダストから回収される粗酸化亜鉛である。現在は約 260 亜鉛量千トン/
年が ISP 等の乾式製錬に供給されており、更に 670 亜鉛量千トン/年が回収可能と推
定されるので増産量を賄うことが可能である。
<第4章>まとめ
粗酸化亜鉛は ISP 等の乾式製錬所で処理されている。現在 ISP 製錬所は閉鎖が相次
いでおり、ISP 製錬所のこれ以上の閉鎖を防止する、あるいは粗酸化亜鉛供給比率の
向上等の対策を講じないと、粗酸化亜鉛による原料代替はできないことになり精鉱不
足や買鉱条件の悪化といった事態の発生し、亜鉛製錬事業基盤が揺らぎかねないとと
もに亜鉛の供給不足が危惧される。