2008 年3月4日 改正パートタイム労働法の施行に伴うQ&Aについて 日本経団連労政第二本部 ●パートタイム労働者等の定義(法第2条関係)について Q1 改正法で保護される対象となるパートタイム労働者について、どのような働き 方をしている場合が該当するのですか? A1 改正法第2条では、 「一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の 労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」と定めています。 例えば、15 分でも所定労働時間が短い場合には、呼称を問うことなく、パートタイム労働者(短 時間労働者)として改正法の対象となります。 また、改正高年齢者雇用安定法への対応により、継続雇用の場合、再雇用や勤務 延長により一週間の所定労働時間が短くなるなど労働条件が変更されるのであれ ば、改正法の対象となりますので留意する必要があります。 なお、所定労働時間が通常の労働者と同一である有期契約労働者については、改 正指針で、パートタイム労働者に該当しませんが、改正法の趣旨が考慮されるべき であることが示されています。 Q2 パートタイム労働者の比較対象となる「通常の労働者」とは、どのように考え ればよいのですか? A2 通常の労働者とは、業務の種類ごとにみていく必要があり、 「正社員」 、 「正職員」 など、いわゆる正規型の労働者が配置されていれば、その者が該当します。次に、 正規型の労働者がいない場合、フルタイムの基幹的労働者が配置されていれば、そ の者が該当します。 具体的には、<同一業務に正規型労働者の有無>→<同一業務にフルタイムの基 幹的労働者の有無>→<他業務に正規型労働者の有無>→<他業務にフルタイムの 基幹的労働者の有無>といった手順で考えていくことになります。 そして、同一業務だけではなく、異なる業務についても、正規型の労働者もフル タイムの基幹的労働者も存在しない場合、恒常的に働く者で同一業務における一週 間の所定労働時間が最長のパートタイム労働者が「通常の労働者」になります。 注)施行通達では、恒常的に働く者で同一業務における一週間の所定労働時間が 最長のパートタイム労働者についても「フルタイムの基幹的労働者」として解 釈することになりますが、わかりやすくするために用語を使い分けています。 1 ●特定事項の明示(法第6条関係)について Q3 わが社では、パートタイム労働者を対象に、1年間の勤務成績や能力の伸長な どを勘案して昇給する仕組みがあります。6カ月の契約期間で雇い入れる場合、 昇給の有無はどのように明示すればよいのですか? A3 パートタイム労働者を雇い入れる場合、労働契約を結ぶことになります。改正法 第6条第1項で明示が求められる特定事項「昇給・賞与・退職金の有無」は、当該 契約期間に伴うものでありますので、本事例における労働条件通知書の表記は「昇 給なし」となります。ただし、1年間の勤務成績などを勘案して昇給する仕組みに ついて、必要に応じ、説明したり、労働条件通知書に書き加えたりすることなどは 許容されています。賞与や退職金についても、同様の対応となります。 Q4 わが社には、パートタイム労働者を対象とする就業規則があります。労働条件 通知書の中で昇給・賞与・退職金の有無を明示しないで、就業規則の写しを交付 することでもよいのですか? A4 昇給・賞与・退職金の有無について当該就業規則で明示されている場合、その写 しを交付することで、改正法第6条第1項の義務を履行したことになります。その 場合には、昇給・賞与・退職金の実施・支給時期や算定対象期間が、当該労働者の 契約期間を踏まえていることが必須であると考えます。 例えば、当該契約を更新して一定の条件を満たせば、昇給したり、賞与や退職金 が支払われたりするような場合、就業規則の写しを交付するだけでは、義務違反を 問われるおそれがありますので留意してください。 なお、違反している場合には、10 万円以下の過料に処せられることになります。 Q5 今回の法改正により、昇給を行なうことが求められているのですか?また、賞 与や退職金も支給しないといけないのですか? A5 改正法第6条第1項の趣旨は、昇給・賞与・退職金の有無を明示することであり、 必ず実施したり支給したりすることが求められているのではありません。 また、関連する規定としては、職務内容、成果、能力、経験など何らかの要素を 勘案して賃金を決定するように努める旨の改正法第9条第1項、さらには、待遇の 説明義務を求めている改正法第 13 条があります。例えば、賃金(時間給)は職務内 容に基づいて決定されているので、仕事や責任が変われば、それに応じて賃金が変 わるという説明を行なうこともあり得ます。 なお、退職金は職務非関連賃金として、改正法第9条の対象外となっています。 2 Q6 わが社では、賞与の支給に際し、一定の成績を収めていること、支給日に在籍 していることなどの条件があります。また、会社の業績によっては支給できない こともあり得ます。賞与の有無について、どのように明示すればよいのですか? A6 当該契約期間内で賞与の支給が見込まれているが、一定の条件を満たさないので あれば支給されない、あるいは会社の業績の悪化等の影響で実行できない状況が想 定できるのであれば、 「賞与あり」と明示し、 「一定の成績に満たなければ賞与を支 給しない場合があり得る」 「会社の業績により賞与不支給の場合があり得る」などと 明記するようにしてください。 なお、当該契約期間に伴う昇給の実施や退職金の支給についても、同様に対応す ることが必要です。 Q7 パートタイム労働者の便宜も考えて、携帯電話への電子メールで労働契約書 (労働条件通知書)を送ろうと思いますが、留意点はありますか? A7 改正法では、文書交付以外の方法として電子メールやファクシミリの送信が認め られていますが、その際に明示できる事項は、 「昇給・賞与・退職金の有無」に限ら れています(同法第6条第1項および施行規則第2条第1項、第2項) 。つまり、契 約期間、就業場所、仕事内容、労働時間や賃金などの事項については、労働基準法 令により、文書で明示しなければなりません。 仮に、労働契約書にあるすべての事項を電子メールで送信する方法だけで明示す るならば、労基法違反となります(30 万円以下の罰金) 。 なお、電子メール等で送信する場合、受信確認を直接行なうか、または受信後に 当該労働者から電子メール等の返信をお願いするなど幾つかの留意点があります。 しかしながら、現時点では、電子メール等の利用は実務的ではないと考えます。 Q8 「昇給・賞与・退職金の有無」の明示は、改正法施行時期である 2008 年4月 1日時点で一斉に行なわなければならないのですか?また、内容が変わらない契 約更新の場合、一度明示しておけば繰り返さなくてもよいのですか? A8 施行通達では、①2008 年4月1日に一斉に行なうことを妨げるものではないが、 更新が予定されているのであれは、その時期でも構わない、②労働契約の更新によ って雇い入れることになるので、更新の都度、特定事項(昇給・賞与・退職金の有 無)を明示する必要があることが示されています。 厚生労働省は、今回の法改正に伴って、労働条件通知書(例示)を作成していま すのでパンフレット等で参照してください。 3 ●待遇の差別的取扱い禁止(法第8条関係)について Q9 「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」とは、どのような働き方を している者が該当するのですか? A9 通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者とは、①「職務の内容」が同じ、 ②「人材活用の仕組みや運用など」が全雇用期間を通じて同じ、③期間の定めのな い契約または実質的に無期契約となっている、このような状態で働いている者が該 当します。 そして、全雇用期間については、施行通達で、採用段階から同一でなくてもよい ことが示されています。具体的には、パートタイム労働者が通常の労働者と職務の 内容が同一になってから、退職までの雇用期間において同じ(職務内容や配置が通 常の労働者と同じように変更する、あるいは変更しない意味)であると見込まれる か否かを、人事制度・規定や慣行など客観的な事情から判断することになります。 なお、製造現場のライン工程で働くパートタイム労働者について、比較対象とな る通常の労働者の労働条件次第ですが、 該当するとして例示される場合があります。 Q10 「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」の場合、時間当りの賃金額 を通常の労働者と同等水準にするといった対応でよいのですか? <対象範囲> A10 待遇の差別的取扱い禁止の範囲は、待遇全般です。つまり、パートタイム労働者 であることを理由に、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用をはじめ、 退職金、施設以外の福利厚生、休憩・休日・休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の すべての待遇について、差別的取扱いをしてはならないことになります。 <賃金の取扱い> 当該労働者の賃金でいえば、同一職務に従事する通常の労働者と比較し、時間当 りの賃金額を同等水準にすることだけではなく、実務的には支払形態も月給制(通 常の労働者と同様に実労働時間数に応じて月額が変動しない定額制)になります。 また、賞与、退職金、通勤費など各種手当についても、通常の労働者と同様の基準 で支払わなければなりません。 なお、施行通達では、①人事考課等の結果に基づき、個々の労働者の賃金水準が 異なることは問題とならない、②所定労働時間が短いことから、職務関連賃金が時 間比例分だけ少ないといった合理的な差異は認められることが示されています。 <賃金以外の取扱い> 賃金以外の待遇については、合理的な理由に基づいて通常の労働者と差異をつけ ることは可能ですが、実務上は難しいと考えます。 4 Q11 期間の定めのある労働契約であっても、反復更新によって期間の定めのない労 働契約と同視することが認められる場合とは、具体的にどのような状態をいうの ですか? A11 改正法第 8 条第2項に関し、施行通達では、実質的に期間の定めのない労働契約 であるか否かの判断は、裁判所において最終的に行なうことが示されています。ま た、判断に当たっての考慮事項については、裁判例などを踏まえて概要次のとおり 整理されています。 ①従事業務の客観的内容‥‥業務内容が恒常的か臨時的か、通常の労働者との同一 性の有無など ②契約上の地位の性格‥‥契約上の地位が基幹的か臨時的かなど ③当事者の主観的態様‥‥継続雇用を期待させる事業主の言動や認識など ④更新の手続および実態‥‥更新の有無や回数、更新の手続の厳格性の程度など ⑤他のパートタイム労働者の更新状況‥‥同様の地位にある他のパートタイム労 働者の雇止めの有無など Q12 「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」の場合、退職金支給の算定 期間についてどのように考えればよいのですか? A12 例えば、2008 年4月以降に退職する場合、人材活用の仕組みや運用などが通常の 労働者と同一になった時点であり、それが 2008 年3月 31 日よりも以前であっても その時点が起算日になると考えます。 ●賃金における均衡待遇の確保(法第9条関係)について Q13 パートタイム労働者の賃金について、どのように対応(賃金の範囲、決め方、 実施時期)すればよいのですか? ※「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」の場合を除きます。 <賃金の範囲> A13 改正法では、均衡待遇の対象となる賃金の範囲が基本給、賞与、役付手当など職 務関連賃金となります(同法第9条および施行規則第3条) 。一方、退職手当や通 勤手当など職務非関連賃金については、改正指針で、就業の実態、通常の労働者と の均衡等を考慮して定めるように努めることが示されています。 <賃金の決め方> 賃金の決め方は、当該労働者の職務内容、成果、意欲、能力、または経験などを 勘案して賃金を決定するように努めることが定められています(同法第9条第1 項) 。勘案する要素の決定について、企業の裁量であることは当然です。しかしな 5 がら、パートタイム労働者に対して賃金決定の仕組みを説明できるようにしておく ことが、改正法の趣旨として求められています。 また、改正法第9条第2項では、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者 には該当しないけれども、その働き方について、 ①「職務の内容」が同じ、②一 定期間における「人材活用の仕組みや運用など」が同じ状態である場合には、賃金 の決定方法を同一にするように努めることが定められています。 施行通達では、賃金の決定方法を同一にすることについて、通常の労働者と同一 の賃金表を適用することが最も望ましいが、例えば、賃金体系をそろえること、考 課基準を合わせることなどについても例示されています。実務的な対応が可能な仕 組みとしては、例えば、職能や職務など通常の労働者と同じ基準で昇給額管理を行 なうといったことが想定できるところです。 <実施時期> 改正法第9条に伴う事業主の措置は、通常の労働者に対する定期昇給の時期など に合わせてパートタイム労働者についても行なうことが考えられますが、既契約の 場合には、契約更新時または賃金改定時に合わせて賃金の決定方法を見直すことで あってもかまわないことが施行通達で示されています。 Q14 改正法第9条第2項に該当するパートタイム労働者について、 「通常の労働者 と同視すべきパートタイム労働者」と比べた場合、働き方の違いをどのように考 えればよいのですか? A14 改正法では、パートタイム労働者の就業実態を踏まえ、4つのグループに分類し て事業主に措置を求めています。分類基準の1つ目が「職務の内容」であり、2つ 目が「人材活用の仕組みや運用など」であります。具体的には、①転勤の有無と範 囲、②昇進を含む人事異動の有無と範囲をみて、人材活用の仕組み等の同一性を判 断することになります。そして、人材活用の仕組み等が同じである場合、それは一 定の期間にとどまるのか、それとも退職までの全雇用期間にわたるのかといった差 異によって、さらに分類することになります。 具体的には、就業規則や規定、労働慣行など客観的な事情によりどこまで見込ま れるのかが双方を区分するポイントになります。例えば、同一の資格制度上で運用 している場合、資格の格付けや、役職昇進でみれば、上限が同じか否かなどにより 判断することになります。 なお、施行通達では、一定期間について、各事業所における転勤等の頻度等を考 慮して判断するものであるとした上で、おおむね3∼5年程度であることが示され ています。しかしながら、一定の期間については、個々の事業所における人事異動 のルールや慣行を踏まえて判断することが実務的な対応であると考えます。 6 Q15 わが社では、職務が同一であっても事業所が異なれば、パートタイム労働者の 賃金水準が異なっており、高い事業所と低い事業所があります。今回の法改正に 伴って対応すべきことはありますか? A15 パートタイム労働法は事業所単位で適用されており、異なる事業所間での均衡と いった考え方については導入されていません。一方、同一の事業所内の場合、同一 職務の賃金であっても同額にしなければならないということでもありません。 なぜならば、改正法第9条第1項は、何らかの勘案要素に基づき賃金を決定する ように努めることが趣旨であり、職務内容だけでなく、能力や経験なども勘案する 仕組みであれば賃金水準に差がつくこともあり得ます。また、人事考課等の結果が 反映されることで異なることもあり得ます。 ●教育訓練における均衡待遇の確保(法第 10 条関係)について Q16 パートタイム労働者に対する教育訓練について、通常の労働者と職務内容が異 なるのであれば実施しなくてもよいのですか? A16 改正法第 10 条第1項では、通常の労働者に実施している教育訓練について、職 務の遂行に必要な能力を付与するものであれば、一定の場合を除き、通常の労働者 と職務が同一のパートタイム労働者に対しても実施することが義務付けられてい ます。したがって、職務内容が異なるパートタイム労働者に対する教育訓練につい ては、義務ではなく努力義務という整理になります(同条第2項) 。 しかし、当該職務を遂行する上で必要な教育訓練であれば、職務が同一である通 常の労働者の存在を問うことなく実施することが改正法の趣旨であると理解すべ きです。 Q17 わが社では、繁忙期に限ってパートタイム労働者を雇い入れており、過去の勤 務経験がある者も含まれています。これまで、再度の教育訓練を行なうことなく 配置してきました。今回の法改正により、従来の対応をかえる必要がありますか? A17 改正法第 10 条第1項では、一定の場合を除き、事業主に対し、教育訓練の実施 を義務付けているものです。「一定の場合」とは、既に当該職務に必要な能力を有 している場合であり、具体的には、同一事業所や他事業所での勤務実績や同業他社 での経験などにより必要な能力を身に付けている場合が該当することが施行通達 等で示されています。 本事例では、一定の場合に該当することになりますので、従来の対応をかえる必 要はありません。なお、取扱う商品がかわるなど過去の教育訓練で足りない知識や 技能があるような場合、当該知識や技能を身に付けるための教育訓練の実施が実務 7 上必要となることはいうまでもありません。 Q18 職務内容が同一であるパートタイム労働者を対象にして研修を実施する場合、 通常の労働者の場合と同様に実施しなければならないのですか? A18 施行通達では、教育訓練の実施に際し、通常の労働者との均衡を考慮すると同時 に、パートタイム労働者の勤務時間帯なども考慮する必要があることが示されてい ます。したがって、パートタイム労働者が効率よく受講できるように、当該カリキ ュラムの内容や進め方などについて変更することもあり得ます。 また、実施に際しては、所定労働時間内に行なうことが望ましいといえます。 Q19 改正法第 10 条第2項の努力義務に関し、企業現場での展開についてどのよう な場合が該当するのですか? A19 改正法第 10 条第2項では、事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、パ ートタイム労働者の職務内容、成果、意欲、能力および経験等に応じ、教育訓練を 実施するように努めることが定められています。企業としては、例えば、従事職務 の遂行に伴って求められる知識や技能の取得ではないけれども、当該労働者の今後 の活用を想定してキャリアアップ訓練を受講させる場合が該当します。また、通常 の労働者に対する研修で参加者数に余裕があるような場合、パートタイム労働者に 参加する機会を与える場合も想定できます。 いずれの場合でも、企業が一定の基準によって対象者を選抜することは許されて います。その際、パートタイム労働者の意欲や働きがいを高めるといった視点を踏 まえて基準を設定することが望まれます。 ●福利厚生における均衡待遇の確保(法第 11 条関係)について Q20 福利厚生については、今回の法改正に伴い、どこまで均衡待遇を図ることが求 められているのですか? A20 改正法第 11 条および施行規則第5条により、均衡待遇の対象となる福利厚生の 範囲は、給食施設、休憩室、更衣室の3施設に限定されています。そして、パート タイム労働者に対して、3施設の利用機会を与えるように配慮することが改正法の 趣旨です。例えば、パートタイム労働者が使うことができるように利用規定を変更 するなど具体的な措置が求められていますが、労働者全員が利用できるように増改 築することまでは求めていません。 8 なお、改正指針では、事業主は、3施設以外のもので、医療、教養、文化、体育、 レクリエーション等を目的とした福利厚生施設の利用および事業主が行なうその他 の福利厚生の措置についても、パートタイム労働者の就業の実態、通常の労働者と の均衡等を考慮した取扱いをするように努めることが定められています。 Q21 わが社では、福利厚生の一環として通常の労働者に食事補助を行なっていま す。今回の法改正により、パートタイム労働者についても対象にしなければなら ないのですか? A21 給食施設の利用に際し、通常の労働者には福利厚生として食事補助が行なわれて いる場合がみられます。改正法第 11 条では、パートタイム労働者にも食事補助を 行なうことまで求めているものではないことから、同一メニューであっても利用者 によって価格が異なるといった状況もあり得ます。 なお、著しい価格差が生ずることで、当該労働者が利用を躊躇するような状況が 想定されるのであれば、改善への取り組みが望まれるといえます。 また、賃金の一部として食事手当を通常の労働者全員に支給しているのであれば、 職務関連賃金とみなされるおそれがあると考えます。 Q22 わが社では、制服を貸与している労働者の場合、更衣室が利用できるように なっています。今回の法改正によって、パートタイム労働者についても更衣室を 利用できるようにする必要がありますか? A22 施行通達では、 パートタイム労働者が従事している職務には更衣室の必要がなく、 同一の職務に従事している通常の労働者も同様の実態にある場合、他の職務に従事 している通常の労働者が利用しているからといってパートタイム労働者に対しても 利用の機会を与える必要がないことが示されています。 本事例については、 まず当該職務を遂行する上で制服の着用が求められる、 次に、 当該職務を遂行する者に対して制服を貸与する、そして、制服を貸与される者は更 衣室が利用できるというように整理すべきであると考えます。その上で、パートタ イム労働者であっても当該職務に従事するのであれば、 (制服を貸与して)更衣室が 利用できるように配慮する必要があります。 Q23 パートタイム労働者側から、慶弔休暇や見舞金について、通常の労働者と同様 に取扱うことの要請があります。どのように対応すればよいのですか? A23 改正法第 11 条では、 3施設に限って利用機会を付与するように配慮することが義 務付けられており、改正指針では、3施設以外の福利厚生の措置について、パート 9 タイム労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮した取扱いをするよう に努めることが定められています。 企業として、パートタイム労働者を対象とする慶弔休暇や見舞金の取扱いをどの ように決めるのかについては、 「通常の労働者との均衡」だけではなく「パートタイ ム労働者の就業の実態」についても考慮することになっています。企業の裁量の余 地がありますので、福利厚生施策全体の中で判断する必要があると考えます。 ●通常の労働者への転換推進(法第 12 条関係)について Q24 法律改正で求められる「通常の労働者(正社員)への転換推進」について、企 業のとり得る具体的な措置はどのようなものですか? A24 改正法第 12 条第1項により、 事業主は、 当該事業所におけるa) 募集情報の周知、 b)社内公募に基づき応募機会の付与、c)転換制度の導入、d)その他の推進措 置について、少なくともいずれか一つの施策を実施しなければなりません。また、 その他の推進措置については、通常の労働者として必要な能力を取得するための教 育訓練プログラムを提供することなどが施行通達で例示されています。 なお、改正法第 12 条の「通常の労働者」とは、正社員など正規型の労働者が該当 することになりますので、フルタイムの基幹的労働者に転換させる仕組みだけでは 義務違反を問われることになります。 注)フルタイムの基幹的労働者については、Q2を参照願います。 Q25 わが社では、定年退職者について、所定労働時間を短くして再雇用しています が、 「通常の労働者(正社員)への転換推進」の対象としない方向で考えていま す。問題はありますか? A25 改正法第 12 条第1項について、適用除外の規定がありません。したがって、当 該再雇用者に機会を与えることなく、諸施策が運用されるのであれば、法律違反を 問われるおそれは否定できません。もちろん、実際に通常の労働者(正社員)に転 換できるか否かは個別企業の判断に委ねられることになります。 Q26 募集情報の周知について、新規採用の情報を周知することでよいのですか? また、周知の方法については、自社のホームページへの掲載を想定しています。 <周知情報の対象> A26 新規採用の基準が、例えば新卒に限る場合、当該事業所のパートタイム労働者全 員が既卒であれば機会を与えたことになりません。改正法第 12 条第1項の義務違反 10 を問われおそれがあり、中途採用の計画や実施予定がないのであれば、他の措置を 講ずる必要があります。 また、本社や本部で一括採用する場合、採用後にどの事業所に配属されるのかが 決まるということであれば、当該情報を周知しただけでは、同様に義務違反を問わ れるおそれがあります。 <周知の方法> 周知の方法は、通常目にすることができる掲示板への掲示の他、回覧や電子メー ルで案内することなどが施行通達で例示されています。しかし、自社のHPへの掲 載に限って対応するのであれば、すべてのパートタイム労働者が必ずしも閲覧でき ないという理由で不適当というのが、厚生労働省の見解です。 なお、すべてのパートタイム労働者が事業所内のPCを通じて、自社のHPへの アクセスが通常保障されている職場環境であるならば、許容される場合があります。 Q27 法律の施行日は 2008 年4月1日ですが、募集情報を周知したり、社内公募の 機会を付与したりする時期は、その日でなければならないのですか? A27 施行通達では、人員補充の必要性がないにもかかわらず募集・採用を求めるもの ではないし、新規ポストや空席ポストがないにもかかわらず社内公募を求めるもの ではないことが示されています。企業としては、義務の履行が疑われることのない ように、改正法第 12 条第1項に基づいて講ずる事業主の措置について、2008 年4 月1日以降、その実施の時期にかかわらず周知しておく必要があります。 なお、転換制度を導入している場合についても同様であり、2008 年4月1日時点 で転換者が存在しなくても許されると考えます。 Q28 現在、転換制度を導入することで準備しています。留意すべき点(転換基準、 転換の仕組み、転換後の配置)はどんなことですか? <転換基準> A28 転換基準は、企業の裁量で決めることになります。また、選考の結果、転換不可 となっても、公正な選考であれば問題はありません。しかし、例えば転換基準が厳 しすぎて該当者が殆ど存在しない状況が想定されるのであれば、義務違反を問われ るおそれがあります。 なお、施行通達では、長期にわたり転換者がいない場合、制度が形骸化している おそれもあり、検証の必要性が示されています。 <転換の仕組み> 2つ目に、転換先についてですが、全ての職掌や職種を対象に通常の労働者(正 社員)として働く仕組みでなくても許されています。コース別雇用管理制度が導入 11 されていれば、例えば一般職に限るものであったり、職種を事務職や販売職などに 限るものであったりしても構わないことになります。 また、例えば正社員と所定労働時間が同一の有期契約労働者(契約社員、準社員 など)への転換制度を組み込むなど、複数の措置により通常の労働者(正社員)へ の転換の道が確保されている仕組みも認められています。 <転換後の配置> 3つ目に、転換後の配置に関し、当該事業所で通常の労働者(正社員)として働 くことでなければならないのかという点です。この点については必ずしも明確にな っていませんが、他の通常の労働者(正社員)と同様のルールに則って配置(転換) を行なうのであれば許容されると考えます。 ●待遇の説明義務(法第 13 条関係)について Q29 待遇についてパートタイム労働者から説明を求められました。どのように対応 (説明の内容、時期、時間帯など)すればよいのですか? <説明の内容> A29 施行通達では、賃金の決め方について尋ねられた場合、 「パートタイム労働者だか ら賃金(時給)は○○〇円」ではなく、職務内容、能力、経験など勘案要素につい ての具体的な説明が求められることが示されています。賃金の決定方法に関する説 明では、その仕組み自体を説明する場合もありますし、努力義務であることを踏ま えれば、企業の実態を説明しつつ、賃金制度の整備への取組み状況を説明する場合 もあり得ると考えます。 <説明の時期・時間帯> 当該労働者から求められた場合、直ちに説明しなければならないということでは ありません。説明のタイミングは、説明を求められた事業主の裁量で決めることが できると考えます。しかし、長い間放置しておきますと義務違反を問われるおそれ がありますので留意する必要があります。 また、当該労働者の所定労働時間内で説明を行なうか否かについても事業主の裁 量になると考えます。所定労働時間内に行なうことが望ましいといえるのではない でしょうか。仮に、所定労働時間外に説明を行なう場合であっても、所定労働時間 帯に近い時間帯で説明するように可能な限り配慮することが期待されているとい えます。 <不利益な取扱い禁止> 改正指針では、事業主は、パートタイム労働者が待遇についての説明を求めたこ とを理由に、解雇、配置転換、減給など不利益な取扱いを行なわないことが定めら れていますので留意してください。 最後に、事業主としては、質問内容や回答状況など簡単なメモを残しておくこと を心掛ける必要があると考えます。 12 Q30 待遇について説明したところ、当該パートタイム労働者から繰り返し、説明を 求められています。どのように対応すればよいのですか? A30 施行通達では、改正法の趣旨として、事業主に対し、当該労働者が納得するまで の説明を求めているものではないことが示されています。したがって、適切な説明 を行なったにもかかわらず、当該労働者の納得が得られない場合や、説明不十分で あるとして執拗な抗議を受ける場合には、事業主として、説明の機会をこれ以上設 けない旨を伝えることができます。その際、一方的に打ち切るのではなく、これま で改正趣旨を踏まえた対応に努めてきたことの事情も当該労働者に説明しておくこ とが肝要であると考えます。 次のステップとしては、苦情処理委員会など事業所内の自主的な解決の仕組みを 活用したりすることなども選択肢の一つです。 なお、施行通達では、事業主が適切な説明を行なったにもかかわらず、当該労働 者が繰り返し説明を求めてくるような場合、職務に戻るように命じ、それに従わな いので当該不就労部分について就業規則に基づき賃金をカットするようなことま で、不利益な取扱いとして禁止する趣旨ではないことが示されています。 以上 13
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