甲状腺腫瘍に対する甲状腺

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乳腺・内分泌外科
甲状腺腫瘍
2006 年 7 月版
甲状腺腫瘍に対する甲状腺手術を受ける方へ
1.あなたの病名、病状
病名:
甲状腺腫瘍(甲状腺癌 ・ 甲状腺癌の疑い ・ 甲状腺腫)
病状:
甲状腺内に腫瘍性病変がある。
2.治療の方法
甲状腺片葉摘出術 ・ 甲状腺全摘術 ・ 両側頚部リンパ節郭清術
手術の内容:
手術は全身麻酔で行います。麻酔の詳細は麻酔医よりお話しします。頚部に鎖骨
より 1cm ほど上に甲状腺腫の横幅と同じ程度の皮膚を切開します(図 1)
。甲状腺
と皮膚のあいだには何層かの筋肉と皮下脂肪があります。
筋肉は縦方向に存在しま
すので、
できるだけ筋肉を切らないよう縦に分けるようにして甲状腺を露出します。
しかし甲状腺腫が非常に大きい方では横方向に切離することもあります。
甲状腺に
は上下および外側から血管が入っていますので、それらをていねいに処理し、気管
にくっついている部分をはがして甲状腺片葉を摘出します。
迅速病理検査に提出し、
組織学的に良性病変であれば、傷を閉じて手術は終了します。組織学的に癌と診断
された場合は反対側の甲状腺を切除(甲状腺全摘)し、甲状腺周辺のリンパ節を切
除します(頚部リンパ節郭清といいます)
。術前検査で甲状腺癌と判明している場
合は、迅速病理検査を省略して最初から甲状腺全摘術を行います。病変が良性であ
っても病変が甲状腺内に多発しているときは正常な甲状腺部分が一部しか残らな
かったり(亜全摘)
、全く残せなかったりする場合(全摘)もあります。甲状腺に
は副甲状腺という小さい組織や反回神経という大事な神経がくっついています。
近
くには脳へ血液を運ぶ大事な血管や脳から胸や腹へつながる脳神経があります。
リ
ンパ節郭清はそれらを大事に温存しながら脂肪に包まれたリンパ節を一括して切
除します。甲状腺を摘出したあと、筋肉を縫合し、皮膚を切開した傷は糸が表面に
出ないような縫い方をして閉じます。使う糸は原則として溶ける糸を使用します。
傷の中に貯まる血液やリンパ液などを体外に排出するためのドレーンという軟ら
かい管を入れますが、数日以内に病室で抜去できます。手術時間は 3‐4 時間を予
定していますが、両側の手術が必要な場合、甲状腺腫が大きい場合、リンパ節郭清
を広い範囲で行う場合など 6 時間以上かかることもあります。
予想出血量は 400ml
程度です。入院期間は術後 1 週間程度です。輸血は予定していませんが、甲状腺
腫が非常に大きく出血が多い場合など輸血をせざるを得ないこともあります。
甲状腺癌の場合、甲状腺全摘術を行うことを基本としていますが、リンパ節郭清
をする範囲は個々の患者様の病状により決めています。
一般的に広い範囲のリンパ
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甲状腺腫瘍
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節郭清をすると、頚部創が大きく、手術時間も長く、起こりうる合併症も増えます
ので必要な病状の方に限定しています。甲状腺癌が 4cm 以上ある場合、術前から
転移リンパ節を触知または検査で指摘されている場合、
甲状腺癌が周辺の臓器に浸
潤している場合、
などの条件のうちいずれかを満たす場合に広い範囲のリンパ節郭
清を行いますが、
どのような手術を予定しているかは個別に説明させていただきま
す。
3.期待される効果
手術により甲状腺の腫瘍性病変は摘出でき、病理検査で確定診断できます。良性
の場合は治癒します。
癌を完全に摘出できた場合は治癒を期待することができます。
腫瘍が大きい場合は、頚部の腫脹が軽減するという美容的効果が期待できます。癌
の場合、
甲状腺癌が進行し近くの気管へ浸潤して呼吸困難や血痰という症状がでる
ことを防止できます。
反回神経を麻痺させて嗄声や誤嚥がおこることを防止できま
す。
4.予想される副作用と対処方法
甲状腺組織は単位体積あたりからだの中でもっとも血液がたくさん循環してい
る臓器です。十分注意をして手術を行いますが、手術中に大量出血することがあり
輸血が必要になる場合があります。手術を終える際には止血は確実にしますが、そ
のときは出血していなかったものの傷を閉じて病室に帰ったあとから出血する場
合もあります(後出血と呼びます)
。後出血の程度がひどければ再度全身麻酔をか
け傷をもう一度開き止血術をおこなわなければいけないことがあります。1993 年
以降に当科で行った頚部手術の術後に後出血のため再手術が必要となった確率は
約 1%でした。手術した部位に感染がおこり排膿などの処置を要することがありま
す。
この手術は充分準備して取りかかればきわめて安全に行え、
命に関わるような危
険性は無いと言っていいと思われます。万が一、重大な問題が生じた場合は適切な
対応を取ります。
手術後しばらくは水を飲むときにむせやすいことがあります。水を飲むときには
のどぼとけが上へ動いて気管の入り口がうまく閉じるような仕組みになっていま
すが、手術の影響でのどぼとけが動きにくくなります。座ってあごを少しひくよう
な前かがみの姿勢でストローを使うことが水をむせずに飲むコツです。
あわてない
でゆっくりと飲み込むことも大切です。
甲状腺を全摘出した場合は、終生にわたり甲状腺ホルモンの補充が必要となりま
す。甲状腺ホルモンは内服薬で、必要量は比較的一定しており、いったん服用量が
決まれば、それほど頻繁な検査は必要ありません。また、適切な服用量を守れば副
作用の心配はありません。
この手術では術後数回程度鎮痛剤を使用することが多いです。長期にわたって痛
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みに悩まされることは無いと思われます。
反回神経麻痺:
甲状腺は気管に貼り付くように接しています(図 2)
。気管の両側壁には反回神
経という神経が1本ずつ上下に走っています。
これは声帯という気管の入口に左右
1枚ずつある膜を動かしている神経です。
反回神経の麻痺が発生すると声帯が気管
の入り口を塞ぐかたちで動かなくなり、声がかすれる「嗄声(させい)
」や食べ物
が気管に入る「誤嚥(ごえん)
」を起こします。神経麻痺の原因としては、甲状腺
を切除する際に神経を圧迫や牽引することによる障害
(神経は切れていないが一時
的に麻痺する)と、切断によるものがあります。また癌が神経まで浸潤していて一
緒に切除が必要な場合もあります。
両側の反回神経を損傷した場合は声が出なくな
り、
かつ気管の入り口が完全に閉じてしまうことがあり息の出入りができず窒息と
いった重大な合併症をきたします。
この場合気管切開術といって喉に穴をあけてチ
ューブを挿入し空気の通り道をつくらなければなりません。
われわれこの領域を扱
う外科医はこの神経がどのあたりを走行しているかきちんと把握しておりますが
腫大した甲状腺がこの神経と癒着していてそこをはがす際にダメージを与える可
能性はまったくゼロではありません。
手術操作による一時的な神経麻痺は数週間か
ら数ヶ月をかけゆっくり回復することが多いです。
しかし手術中に切断または切除
した場合は神経そのものの再生は不可能です。
永久麻痺の場合でも片方だけの反回
神経麻痺の場合は、
反対側が次第に代償的に働くようになりあまり後遺症は残りま
せん。永久性の反回神経麻痺の発生頻度は、甲状腺の手術に習熟した外科医の場合
では数%以下でしかおこらないと報告されています。当科では最近 5 年間に行っ
た甲状腺癌の手術で、
術前から反回神経麻痺のない患者さんの手術で手術により永
久性反回神経麻痺をきたした患者さんはありません。
副甲状腺機能低下症:
甲状腺の上下左右には合計 4 個の副甲状腺(上皮小体)
(図 2)があり、体内の
カルシウムを調節しています。副甲状腺機能は温存するよう工夫しますが、手術の
あとで一時的に機能低下となり、手足・唇のまわりなどがしびれる症状が出てくる
ことがあります。
この場合カルシウム補充のため数日から数週間カルシウムの点滴
やカルシウム剤とビタミン D 剤の服用を行います。まれに永久的な副甲状腺機能
低下症になることがありますが、その場合はカルシウム剤かビタミン D 剤、また
はそれら両方の内服が必要です。当科での最近 5 年間に行った甲状腺癌の手術で
永久性副甲状腺機能低下症の頻度は 1.1%でした。
以下の合併症は広い範囲のリンパ節郭清を行った場合に起こりうるものです。
乳糜漏(にゅうびろう)
乳糜(にゅうび)は小腸で吸収された脂肪がとけ込んだリンパ液のことです。
見た目がミルクのようなのでこのような名前が付いています。乳糜はリンパ管を
通って腹部から、胸の中を上がり鎖骨の上あたりで、頭からと腕から戻る静脈が
合流するところで静脈に流入します。リンパ節切除がこの辺りに及ぶ場合、この
リンパ管を損傷することがあります。リンパ管は食事をしていないときは細くな
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っているので手術中には損傷したことがわからないことがあります。術後食事を
始めてドレーンという管の中に乳糜が漏れてきた場合はリンパ管に傷があると考
えられます。少量しか漏れてこない場合は脂肪を含む食物を食べないことで、漏
れが少し多くてもしばらく絶食でがまんしていただくことにより、漏れは自然に
止まってしまいますが、多量に出てくる場合は、再度漏れている場所を縫い閉じ
る必要があります。
交感神経幹損傷
交感神経幹は総頚動脈という脳に血液を送っている血管の背面にある神経です。
この神経を損傷すると、そちら側のまぶたが下がり気味になります。(ホルネル徴
候といいます。)
横隔神経損傷
横隔神経は横隔膜を動かす神経で、この神経を損傷すると、そちら側の横隔膜
がたるんでしまいます。しかし自覚症状が出ることはまれで、胸部レントゲンを
撮影して初めて気が付かれるくらいで、肺活量が少し低下しますがほとんどの場
合日常生活に支障をきたしません。
その他:
その他の一般的な合併症として感染症・血栓症・肺合併症・心合併症があげられ
ます。創感染、尿路感染など、病原性の弱い細菌でも麻酔や手術で体力が落ちたと
きに病原性を発揮して発症することがあります。抗生物質などで治療しますが、も
し MRSA という細菌が検出された場合には、院内感染を防ぐために隔離した部屋
に移っていただくことがあります。
長時間の手術中や手術後に足の静脈の血が塊り
下肢静脈血栓症をおこすことや、
血の塊りが肺まで流れて肺の血管が詰まる肺塞栓
症を発症することがあります。
肺塞栓症は突然死の原因となりうる重篤な合併症で、
予防のためにストッキングをはいていただきます。肺合併症には肺炎、無気肺、胸
水などが、心合併症には心不全、狭心症、不整脈、心筋梗塞などがあります。スト
レスによる胃十二指腸潰瘍や脳出血が突発的に起こることもまれにありますが、
そ
の他の非常にまれな合併症や予期せぬ事態に関しましては、
万一発症したときにそ
の時々で説明させていただきます。
5.本治療をうけなかった場合の予後、また当該疾患に対する他の治療
法の有無
甲状腺癌を放置した場合、原発巣(甲状腺の癌そのもの)が増大して、隣接する
気管、食道に浸潤して、喀血、呼吸困難、嚥下困難に至ることがあります。また、
肺、骨、脳などに転移を来し、生命を脅かすことがあります。
他の方法との比較(利点、欠点)
:
甲状腺癌に対して有効な抗癌剤は現在のところありません。
放射線治療には外から放射線を当てる外照射と、
放射性ヨードを服用する内照射
があります。外照射は手術に比較して効果は劣るので、通常は手術で切除しきれな
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甲状腺腫瘍
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かった場合などに限定されます。
内照射は甲状腺全摘後に癌の遺残のおそれがある
場合や、遠隔転移がある場合に限られます。
手術法にはここで示してある甲状腺全摘の他に、
癌を含む甲状腺の片側と反対側
の甲状腺の半分程度を切除する亜全摘があります。亜全摘法の利点としては、先に
述べた合併症の頻度が下がる可能性があること、
甲状腺を残すので甲状腺ホルモン
を術後補充しなくてもよい場合があることです。しかし欠点としては、局所再発の
頻度が高くなること、
内照射治療が必要となったときは残した甲状腺を再度切除し
なければいけないことなどがあげられます。
6.費用について
費用に関してご質問がある場合は医事課へご相談ください。
7.遠慮なく質問して下さい。また、同意はいつでも取り消せます。
ご不明な点、
疑問点などがありましたら、
我々スタッフにいつでもご相談下さい。
以上でも説明しましたが、
一旦治療が始まった後でもあなたの希望によりいつでも
治療を中止することができますので、担当医まで申し出てください。
平成
年
ご説明担当医師
乳腺・内分泌外科
医師
月
日
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図1
甲状腺腫瘍
図2
2006 年 7 月版
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甲状腺腫瘍
2006 年 7 月版
名古屋大学医学部附属病院 治療同意書
(原本を全ページコピーし、コピーを患者様にお渡しください)
名古屋大学医学部附属病院 病院長 殿
患者氏名:
担当医署名:
ご説明年月日:平成
年
月
日
治療名: 甲状腺片葉摘出術 ・ 甲状腺全摘術 ・ 両側頚部リンパ節郭清術
治療予定日:平成
説明内容: □
□
□
□
□
□
□
□
年
月
日
病名、病状
治療の方法
期待される効果
予想される副作用と対処方法
本治療をうけなかった場合の予後
また当該疾患に対する他の治療法の有無
同意はいつでも取り消せること
その他(
上記の治療について、担当医から説明を受け、
□ 良く理解しましたので同意いたします。
□ 今回は同意いたしません。
□ セカンドオピニオン等、再度検討させていただきます。
署名年月日:平成
年
月
患者本人または代理人の署名:
代理人の場合、その患者本人との続柄:
日
)
甲状腺腫瘍手術
術前検査(外来)から退院までの概要
外来
日付
月
入院
日( )
月
手術日
手術前日
日( )
月
日( )
日付
午前9時すぎ入院
検査
処方
食事は夕食まで
水分は夜9時まで
術後
日( )
手術(全身麻酔)
治療
普通食
安静
月
口腔内消毒(感染予防)
うがい薬をお使い下さい
食事
酸素マスク・心電図モニ
ター、点滴、ドレーンが
つながっています。
キズにガーゼはあたっ
ていませんが、水に濡れ
ても大丈夫な保護剤で
覆ってあります。
発熱時・痛い時は適宜お薬を使
います。遠慮なく言って下さい。
処方
制限なし
排泄
トイレへ
清潔
入浴可
説明
点滴をします。
胸部レントゲン、採血、
尿検査、心電図、肺活量
今飲んでいる薬
を確認します
術前
手術について詳しく(輸
血に関することも)説明
します。書類があります。
看護師から必要な物品な
どの説明などがあります。
その他
入院前からの禁煙が大切です
入浴
麻酔科医師の説明
があります
食事
絶飲食
術後5時間もしくは明朝、水を試し
に飲んでいただきます
安静
ベッドで手術室に移動
ベッド上安静(寝返り可能)
排泄
手術室へ出発前に排尿
バルーン(排尿管)が入っています
清潔
看護師が清拭します。
手術終了時に付添の方
に手術内容について医
師から説明します。
説明
手術前の注意事項
を説明をします。
その他 リストバンドの確認
リストバンドの装着
携帯電話禁止
(PHSは使え
ます)
持ち物に注意を
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甲状腺腫瘍手術
術前検査(外来)から退院までの概要
術後4日目ころ
術後1日目
日付
治療
バルーンを抜去します。
術後7~10日目ころ
退院
1.両肩をすくめるように、
肩を上げ下げする。
抜糸はあり
ません。
ドレーンを抜去します
点滴を抜きます
検査
採血(カルシウム値などを時々測ります)
(胸部レントゲン写真)
カルシウム剤、ビタミン剤
を内服することがあります
処方
食事
試飲後
粥食開始
安静
歩行できます
首や肩の運動をしましょう(右図)
排泄
トイレへ
清潔
全身清拭をします。
全摘の場合、甲状腺ホル
モン剤を内服します
普通食
3.首をゆっくりと
前に倒す。
シャワー可
全身入浴可
(ドレーンが抜けたら)
傷にシャワーをあてても大丈夫で
す。石鹸水がついても大丈夫です。
やさしく洗ってください。
説明
その他
2. 肩の力をぬき、
首を左右に曲
げます。
外来受診の予約日時
をお知らせします。
4.顎の突き出し禁止!
傷が突っ張る運動は
避けましょう。
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