「豊崎由美がSFファンに薦める世界文学 20 + 1 冊」

「豊崎由美がSFファンに薦める世界文学 20 + 1 冊」
な本が3トン以上もあり、いずれ本に押しつぶされて死ぬんじゃないかと覚えている。自由
化運動「プラハの春」の夢がソ連の軍事介入によって潰え、非人間的な社会主義体制下にお
●もう一度(トム・マッカーシー 新潮社)
〈リアルになりたい、よどみなく自然になりたい、ただそれだけ〉のために途方もないお金と
かれた時代背景を扱いながら、単なる告発小説には堕さず、不条理なあまりほとんどSFと
人力を費やし、その情熱ゆえに理性も倫理観もドブに捨てた男の破滅一直線の道を描いて、
も思えるようなストーリーに苦いユーモアと節度ある感傷を織りこんで、とても個性的な小
おぞましくも蠱惑的な物語。
●アラビアン・ナイトメア(ロバート・アーウィン 国書刊行会)
説に仕立て上げています。
●遁走状態(ブライアン・エヴンソン 新潮社)
舞台は 15 世紀のカイロ。聖地巡礼を装ったスパイ、イギリス人のバリアンが寝ている最中に
●カリブ海偽典(パトリック・シャモワゾー 紀伊國屋書店)
岸本佐知子編訳『居心地の悪い部屋』に収録されている「ヘベはジャリを殺す」の〈ジャリ
出血するという原因不明の奇病に冒されて──。バリアンに巡礼者とスパイという2つの貌
中南米やアフリカといった非西洋型の想像力と語り口の小説が好きな人なら魅了されること
のまぶたを縫い合わせてしまうと、ヘベはそこから先どうしていいかわからなくなった〉と
があるように、この物語自体、昼と夜、現実を虚構、合理的正解と感覚的世界、理性と欲望、
間違いなしのメガノベル。マルチニック島に生まれ、第二次世界大戦後に世界に飛び出すや
いう出だしもそうだけれど、エヴンソン作品のつかみの魅力は半端じゃない。一気に引きず
聖なるものと俗なるものといった2つの面が合わせ鏡のように互いの姿を映しあい、読者の
各地の独立戦争に参加し、チェ・ゲバラやホー・チミンといったカリスマ的指導者らと共に戦っ
りこまれる感じ。しかも、おもてなし抜きで。いきなりヘンテコな世界に連れこまれた挙げ句、
目を眩惑する。
てきた主人公バルタザールの数奇な生涯を描いてメガトン級の面白さです。
背景を説明してくれないから、何が起こりつつあるのかよくわからず右往左往させられ、不
●驚異の発明家(エンヂニア)の形見函(アレン・カーズワイル 東京創元社)
●紙の民(サルバドール・プランセシア 白水社)
安な気持ちを抱えたまま物語の中から追い出されてしまう。エヴンソンを読むという行為は、
今ある愉しいものを大半の原型を生んだワンダー・センチュリー、18 世紀のフランスを舞台
メキシコで農夫をしていたおねしょ男のフェデリコ・デ・ラ・フェが、妻に出ていかれた傷
自分が「普通」だと感じている経験や「現実」と思いこんでいる光景を刷新されるに等しい
に、天才器械師クロードの数奇な生涯を描いた、あらゆる点で驚異的な歴史小説。
心から幼い娘リトル・メルセドを連れて国境を越え、ロサンゼルス郊外の町エルモンテに移住。
のである。
●ホワイト・ティース(ゼイディー・スミス 新潮社)
新生活を始めるのだけれど、彼は少し前から「自分を遠くから見おろしている力の重みを感じ」
第二次世界大戦従軍中に出会った、ロンドン下町育ちのアーチーとバングラデシュ出身の敬
ており、ついにそれが土星であることに気づく。かくして、フェデリコ率いるエルモンテの
おまけで日本の小説からも1作
虔なイスラム教徒サマード。人種も違えば主義主張も異なる2人の奇妙な友情を軸に、19 世
ギャング集団の対土星戦争が幕を開け──。この導入部の紹介だけで読みたくならない人は、
●南無ロックンロール二十一部経(古川日出男 河出書房新社)
紀から 20 世紀末に至る時空間を自在に行き交う小説。楽に読めるピンチョンといった趣き。
どうかしていると思います。
ロールは流転であり、輪廻転生の謂いである。パラフレーズは置き換えであり、編曲である。
●紙葉の家(マーク・Z・ダニエレブスキー ソニー・マガジンズ)
●ミスター・ミー(アンドルー・クルミー 東京創元社)
すなわち、起こった出来事をパラフレーズすること。パラフレーズして、歴史をロールする
わたしがこの 20 年間に読んだ本の中でもっとも興奮したメガノベル。ポストモダン小説のテ
この小説は3つのパートに別れていて、第一の物語の主人公はミスター・ミー。古書に囲まれ、
こと。それが、ロックンロールであるということ。古川日出男の一○○○枚の大作『南無ロッ
クニックをフル装備した奇書です。
時折雑誌に評論を寄稿している独居老人。86 歳になるまでセックスはおろか女体を見たこと
クンロール二十一部経』は、震災と人災がともに起きた一九九五年を、やはり震災と人災が
●パラダイス・モーテル(エリック・マコーマック 創元推理文庫)
すらない完全無欠の老人です。第2の物語の舞台は 18 世紀フランスで、主人公はルソーの『告
ともに起きた二○一一年三月十一日以降の世界で語り直した、スケールにおいても内容にお
美しい妻を殺し、バラバラにしたその身体の一部を4人の我が子の体内に埋めこんだ外科医
白』にちらっと登場するキャラクター、フェランとミナールという浄書屋。第3の物語の語
いても方法論においても、メガトン級の “ 世界文学 ” なのである。構成自体は「第一の書」
マッケンジー。そんな奇怪な話を、死の床に伏している祖父から聞いた 12 歳の「わたし」は
り手は、教え子に恋をした過去を持つルソー研究家にして作家のペトリ博士。彼は第1と第
から「第七の書」までの中に、それぞれ「コーマW」「浄土前夜」
「二十世紀」と題した三つ
長じて作家となり、マッケンジー家の不幸な子供たちのその後を調べてみようと思い立つ。
3の物語をつなぐ役目を担っています。この作品の要をなるのはロジエという人物が著した
の物語を内包して、シンプルでわかりやすい。でも、そのスッキリした構造のもと、それぞ
物語全篇を貫く奇想と、最終章にたどり着くや最初のページへと強制送還させられるという、
『百科全書』
。第2の物語の中にその内容の断片が多々出てくるんですが、ロジエは 18 世紀の
れに異なる語りの中で展開する物語は混沌としているのだ。
ウロボロスにも似た作品構造が素晴らしい。
時点で量子力学の基礎原理を発見し、人工知能の可能性を確信しているんです。とんでもな
小説家の〈私〉が、昏睡状態にある女性を見舞って〈ロックンロールの物語〉をし続ける「コー
●黒い時計の旅(スティーヴ・エリクソン 白水uブックス)
い知性&教養と、バカバカしい冗談が仲良く同居した、めちゃくちゃ愉しい小説です。
マW」。前世は『ロックンロール七部作』を書いた小説家だった〈僕〉が、白ホグレンの鶏→
自分のためだけに書かれたポルノ小説を読みふけるヒトラー像を設定することで、かのファ
●犬の心臓(ミハイル・A・ブルガーコフ 河出書房新社)
アムール虎→狐→馬頭人身→少女→七十七歳の老人へと転生していく「浄土前夜」
。六つの大
シストが歴史の担い手=書き手なんかではなく、過剰な消費的欲望にかられただけの狂った
ブルガーコフといえば、なんたって『巨匠とマルガリータ』なわけですが、その前の入門篇
陸と一つの亜大陸、日本に蔓延していくロックンロールの物語を、小さな太陽と呼ばれた人物、
“ 読み手 ” にすぎないことを看破した歴史改変小説。
としておすすめしたいのがコレ。餓死寸前だった野良犬シャリクは、若返りの研究の権威で
食べる秘史列車、武闘派の皇子と呼ばれた人物、ディンゴと呼ばれた人物、その名が幾度もアッ
●超男性(アルフレッド・ジャリ 白水uブックス)
あるフィリッポヴィチ教授とその助手ボルメンターリによって、死んだばかりの逮捕歴があ
プデートされていく一セントと呼ばれた男たち、牛の女と呼ばれた人物、日出男のパラフレー
るアル中男の脳下垂体と精嚢のついた睾丸を移植されてしまう。結果、人間の姿にどんどん
ズ昇る太陽と呼ばれた人物らの時空を超えて自在に飛躍するエピソードで描き、旧作『ロッ
い放つ主人公のマルクイユ。彼は客たちにセックスなど何度でも反復できると豪語し、スポー
近づいていき、人の言葉を話せるようになるものの──。
クンロール七部作』を想起させる「二十世紀」。 ツ競技に挑むような熱心さと真剣さをもって 82 回もしてみせる。そんなマルクイユの超人
●わたしの物語(セサル・アイラ 松籟社)
昏睡している女性はなにゆえそんな状態にあり、彼女と〈私〉はどんな関係にあるのか。
的な精力譚に併走する形で、この小説の中ではもうひとつのとんでもない競技が開催される。
この 10 年間に読んだ本の中で、一番びっくりした作品。小説の関節という関節を脱臼させた
転生する者の目を通して描かれた、牛頭馬頭らが跋扈し、九歳の少女が武装した難民たちを
それは5人乗り自転車と機関車の1万マイル競争。選手たちは5日間、自転車を漕ぎ続ける。
ような内容です。
率いて獄卒どもと闘い、七十七歳の太った塾長が青年たちを戦闘要員として訓練している、
マルクイユと共に性交記録に挑戦したエレンの父親が発明した永久運動職を食べながら糞尿
●ならずものがやってくる(ジェニファー・イーガン 早川書房)
折れた東京タワーを戴く首都は何が原因で地獄と化してしまったのか。転生する者の前に幾
を垂れ流しながら、仲間が1人死ねば、その死体と共に、時速 300 キロの猛スピードで。
1970 年代から 2020 年代にかけての大勢の人物のエピソードをロンド形式でつなげ、時が人
度となく現れる、時空と善悪の彼岸を超えた存在ブックマンとは何者なのか。タイトルに記
●終わりの街の終わり(ケヴィン・ブロックマイヤー ランダムハウス講談社)
に残す深浅さまざまな爪痕を描き、苦かったり、可笑しかったり、胸が痛くなったりといっ
された「南無」と「ロックンロール」はいかにして結びつくのか。
「コーマW」の〈私〉が
自分のことを記憶している人間が一人でも現世に存在していれば留まることのできる死者の
た多様な読み心地をもたらす構成。二人称だったり、週刊誌の記事風だったり、パワーポイ
紡ぐロックンロールの物語は、どのようにして六つの大陸と一つの亜大陸と日本をつなげ、
街。でも、その街がどうやら縮みはじめているらしい。人口も減ってきている。なぜか。
「ま
ントを使ったりと、視点人物が切り替わるたびに変化する語り口。読者を飽きさせない工夫
二十世紀を横断していくのか。
ばたき」と呼ばれる人為的な伝染病によって、世界が滅亡へと向かっているから。にもかか
がこらされています。
いくつもの謎を投げかける、破格に、豊穣に、過激に、混沌としている、それぞれ独立し
わらず、死者の街から一向に消えない人々もいる。なぜか。コカコーラ社の仕事によって南
●青い脂(ウラジーミル・ソローキン 河出書房新社)
て読んでも無類に面白い物語のなかから、徐々に「コーマW」
「浄土前夜」
「二十世紀」の函
極にいたおかげで難を野ばれたローラの生存ゆえ。死者の街という寓話と、世界の滅亡を描
2068 年、東シベリアの遺伝子研究所で誕生した、トルストイやドストエフスキーといってお
に分けられた語りのつながりが浮かび上がってくる。第七の書とそれを引き継ぐエピローグ
くデザスター小説、ふたつの読みごたえを備えた作品。
歴々の文学クローン7体。彼らが執筆すると体内に蓄積される謎の物質「青脂」を、怪しげ
を読み終えて、震撼しない者がいるだろうか。古川日出男は、稼働の限界を超えるあまり真っ
●四十一炮(莫言 中央公論新社)
な教団が奪取してタイムマシンで送りこんだ先は、スターリンとヒトラーがヨーロッパを二
赤に燃え上がるに至った想像力を、読者に突きつける。苛烈な想像力が生みだした混沌の渦
肉の落とし専業村に生まれ育ち、肉を愛し、肉から「わたしを食べて!」と話しかけられる
分する 1954 年のモスクワで──。これは、20 世紀の巨頭たちが青脂をめぐって大争奪戦を
異能の持ち主・羅小通が主人公。語りのステージは2つ。ひとつは青年になった羅小通が、
繰り広げる歴史改変SFであり、造語てんこ盛りのコミックノベルであり、ロシア文学のパ
おんぼろの新廟で怪しげな老僧にしている少年時代の話= 41 の炮(ホラ話)
。そこに 10 年
ロディ小説であり、小説を破壊する凶暴な意志に満ちみちた実験小説。
した世界で、物語になにができるのかを身を挺して示す。この剣呑な小説を経ないで、果た
後にあたる現在進行形の物語が挟まれているのだけれど、現在=現実と思ったら大まちがい。
●神は死んだ(ロン・カリー・ジュニア 白水社)
して三・一一について考えることは可能だろうか。
「恋愛なんて取るに足らない行為ですよ。際限なく繰り返すことができるんですからね」と言
このパートにも莫言は虚実混淆のさまざまな仕掛けを施しているのです。
のなかに読者を巻きこみ、三・一一後の世界に生きるわたしたちを一九九五年へと引き戻し、
「二十世紀は本当に終わったのか」という問いを突きつける。凄まじいカタストロフィを経験
〈若きディンカ族の女に姿を変え、神はスーダンの北ダルフール地方にある夕暮れ時の難民
そして、また。
『ロックンロール七部作』をパラフレーズ、流転させたのが、
『南無ロックンロー
●あまりにも騒がしい孤独(ボフミル・フラバル 松籟社)
キャンプにやってきた〉という文章から始まる表題作他全9作を収めた連作短篇集。コレラ
ル二十一分経』であるということも重要。すなわち、古川日出男は物語も輪廻転生することを、
映画化もされた『わたしは英国王に給仕した』を書いたチェコの作家。
にかかってヘロヘロな状態の神が爆撃機の攻撃で死ぬという発端から、神亡き後の世界の変
このメガノベルで実証してみせたのだ。その意味でも、文学史にとってメルクマールという
35 年間、水圧プレスで故紙や本を潰す仕事に就いている主人公は、毎日トラックで運ばれて
容が時系列にそって描かれていく。
べき貴重な作品なのである。
くる本の中から好きな思想家や作家の著作を抜き出しては読んできたのでアパートにはそん
VS
牧眞司
アニメ的の無茶と近未来世界の神話性が混交し、香気と湿度がむんむんのリアリティ。
レムの傑作はまず『ソラリス』だが、このひとの凄さが如実にわかるのはこれかと。
『天の声』スタニスラフ・レム / 深見弾・沼野充義訳 / 国書刊行会
ラファティはどの作品をあげてもいいが、面白いキャラクター群が活躍するこれを。
『蛇の卵』R・A・ラファティ / 井上央訳 / 青心社
精神はソフトウェアだという身の蓋もない認識とファンキーな筋運びがイカす!
『ウェットウェア』ルーディ・ラッカー / 黒丸尚訳 / ハヤカワ文庫SF
破滅小説は大好きなのだが、この作品はさらにその先、幽明な世界へと入っていく。
『異次元を覗く家』ウィリアム・ホープ・ホジスン / 団精二訳 / ハヤカワ文庫SF
完成度では後続作品が傑出しているが、この作品世界の成りたちに痺れたので。
『ドリーム・マシン』クリストファー・プリースト / 中村保男訳 / 創元SF文庫
ブラッドベリを読むたび、ぼくは童心の仄暗く果てのない領域へ戻っていく。
『10 月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ / 宇野利泰訳/創元SF文庫
内臓や軟骨や粘液の感触が押しよせ、異様語彙がざわざわ蠢きまわる。うわーってなる。
『皆勤の徒』酉島伝法 / 東京創元社
かけがえのない対象・地点へ到達することでそれを壊してしまうテーマが切実。
ハヤカワ文庫SF
『愛はさだめ、さだめは死』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / 浅倉久志・伊藤典夫訳 /
頭蓋という牢獄、思考という宿痾。SFでもっともアイロニカルな作家の野心作。
『キャンプ・コンセントレーション』トマス・M・ディッシュ / 野口幸夫訳 / サンリオSF文庫
ディックはどれを選ぶかいつも悩むのだが、今日の気分はこれです。
『火星のタイム・スリップ』フィリップ・K・ディック / 小尾芙佐訳 / ハヤカワ文庫SF
形而上学の思惟を科学の知見・論理で語りきり、なお情緒を刺激する。凄いすごい!
『あなたの人生の物語』テッド・チャン / 浅倉久志ほか訳 / ハヤカワ文庫SF
スミスは「アルファ・ラルファ大通り」だよな、ということでこの短篇集を。
『鼠と竜のゲーム』コードウェイナー・スミス / 伊藤典夫・浅倉久志訳/ハヤカワ文庫SF
「スパイダー・ローズ」の微かな叙情、
「巣」の笑うしかないほどの酷薄さ。
『蝉の女王』ブルース・スターリング / 小川隆訳 / ハヤカワ文庫SF
人間性に発足した芸術が人間性を凌駕していく。天の秩序は地上の破滅か。
『ハルモニア』篠田節子 / 文藝春秋(文春文庫版は品切れ中)
物語などいらない。崇高美のクラークがここにいる。圧倒的な驚異の情景に陶然。
『太陽からの風』アーサー・C・クラーク / 山高昭・伊藤典夫訳 / ハヤカワ文庫SF
世界を切断する妖刀と自己が融けあう感応力。生の熾烈と死の蠱惑。
『七胴落とし』神林長平 / ハヤカワ文庫JA
ちょっと反則。でも元はSFレーベルで刊行されていたので。宇宙的奇想が横溢。
『レ・コスミコミケ』イタロ・カルヴィーノ / 米川良夫訳/ハヤカワ epi 文庫
「そういうものだ」と万能解が出ている世界で、ひとはなお問いつづけられるか?
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア / 伊藤典夫訳 / ハヤカワ文庫SF
いきあたりばったりのキッチンシンク創作法が奇跡的な効果をあげた怪作。好き!
『非Aの世界』A・E・ヴァン・ヴォークト / 中村保男訳 / 創元SF文庫
文学は「世界について」語るのではなく、世界そのものを表現する。
『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』金井美恵子 / 新潮社
ナボコフは仕掛けが見やすい『青白い炎』をあげたいのだが、入手容易な『絶望』を。
『絶望』ウラジーミル・ナボコフ / 貝澤哉訳 / 光文社古典新訳文庫
迷宮的神話空間。閉鎖空間で時代・視点・登場人物の関係性が次々に移ろう。
『誕生日』カルロス・フエンテス / 八重樫克彦・八重樫由貴子訳 / 作品社
少年の目に映るグロテスクな現実。その残酷と甘やかな陶酔。
『夜明け前のセレスティーノ』レイナルド・アレナス / 安藤哲行訳 / 国書刊行会
テロ、カルト、性倒錯、多文化社会などの題材を絡め、現代の内宇宙を描く。
『エクスタシーの湖』スティーヴ・エリクソン / 越川芳明訳 / 筑摩書房
シュルレアリストの女性性信仰を「たわ言ね」と斬り捨てたレオノーラ姐さん!
『耳ラッパ』レオノーラ・キャリントン / 野中雅代訳 / 工作舎
ミルハウザーは珠玉の短篇も素晴らしいのだが、あえて長篇を。宇宙小説です。
『マーティン・ドレスラーの夢』スティーヴン・ミルハウザー / 柴田元幸訳 / 早川書房
愉快痛快の実験小説。あらゆる言説は文体練習にすぎない! 朝日新聞社版の別訳あり。
『文体練習』レーモン・クノー / 松島征訳/水声社
逸脱・増殖する物語の面白さと、その彼方から顕現する聖なる境地。
『ムントゥリャサ通りで』ミルチャ・エリアーデ / 直野敦訳 / 法政大学出版局
凄いのは「文字落とし」の荒技ではなく、それによって立ちあがる世界だ!
『煙滅』ジョルジュ・ペレック / 塩塚秀一郎訳/水声社
ルーディ・ラッカーみたいにラディカルでポップ。数学的……かもしれない。
『類推の山』ルネ・ドーマル / 巖谷國士訳 / 河出文庫
青春小説の極北。恋愛の自明性と不可能性。ハヤカワ文庫、新潮文庫に別訳あり
『うたかたの日々』ボリス・ヴィアン / 野崎歓訳 /( 光文社古典新訳文庫
ピンチョン入門にして最高傑作。世界三大秘密結社小説のひとつ。新潮社版の別訳あり。
『競売ナンバー 49 の叫び』トマス・ピンチョン / 志村正雄訳 / ちくま文庫
とりあえずヴォネガットと対で考えるとブローティガンの独自性がよくわかる。
『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン / 藤本和子訳 / 河出文庫
グロテスクで鮮烈な幻想文学の巨峰。群像社ライブラリーに別訳あり。
『巨匠とマルガリータ』ミハイル・ブルガーコフ / 水野忠夫訳 / 河出書房新社 ・ 世界文学全集
この小説を知らないひとはいないよね。不条理とか迷宮的とか先入観抜きでどうぞ。
『城』フランツ・カフカ / 池内紀訳 / 白水uブックス
全5冊。古典にして先鋭。あらゆる文学はラブレー以後である。ちくま文庫に別訳あり。
『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』フランソワ・ラブレー / 渡辺一夫訳 / 岩波文庫
定番をもう一冊。神話的というか説話的な活力とテキトーな語りがよい感じです。
『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ / 土屋哲訳 / 岩波文庫
これも定番中の定番。魔術的リアリズムの典型にして最高峰。
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス / 鼓直訳 / 新潮社
まず定番中の定番。この短篇集はアイデアだけ見ればほぼSFです。
『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス / 鼓直訳 / 岩波文庫
※並びの順番派、基礎教養的な(イヤな言葉だが)ものを前のほうに。
『シャングリ・ラ』池上永一 / 角川文庫
※選定基準は、1) 読みどころが判りやすい、2) SFとの類縁性/対照性、3) 一作家一冊、4)入手しやすい。
※並びの順番は、作者名の五十音順
「牧眞司がSFファンに薦める世界文学 20 冊」
※選択基準は、1) 偏愛こそが正義、2) ジャンルSF、3) 一作家一冊、4) 入手難度は考慮しない。
「牧眞司の偏愛するSF 20 冊」
世界文学はSFの宝庫だ!
[資料]
豊㟢由美