報告書(pdf 2.70MB) - 徳島県立総合大学校「まなびーあ徳島」

も
く
じ
はじめに…………………………………………………………………………1
特定非営利活動(NPO)法人「大きなエプロン」 ………………………2
特定非営利活動(NPO)法人「ALIVE LAB」
(アライブラボ) ………7
まとめと考察……………………………………………………………………1
2
おわりに…………………………………………………………………………1
6
(&$)#"%!'#"%
!!!!!!!!!!
とくしま政策研究センターでは、
「人」と「地域」に根ざした地域再生、地域活性化、
地域おこしにおける取り組みをテーマに県内で活躍する地域リーダーに着目し、平成2
2
年度より「地域の夢づくり・人づくり」モデル調査研究を実施しております。
とくしま政策研究センターが実施する『調査研究』と県内の多様な主体が持つ『現場
性』がクロスオーバーする特色ある研究の立案と実践を目指し、今年度より「地域の夢
づくり・人づくり」の調査対象者と連携した取り組みを実施することとしました。
今年度の調査研究のひとつとして、中山間地域の農家の所得向上と地域産業の発展を
目的とし、薬用植物の試験栽培と加工食品の商品開発の実証モデル研究「農工商連携、
6次産業化ビジネスモデル研究」において、徳島大学、徳島文理大学、農業大学校、美
馬市、料理研究家などと連携し行いましたが、当該研究において、昨年度の「地域の夢
づくり・人づくり」の調査対象のひとりである瀬川正昭さん(NPO 法人「山の薬剤師
たち」理事長)に同研究の生産部会の講師、コーディネーターとして参画していただき
ました。
瀬川さんは薬剤師として地域医療の崩壊を阻止すべく長年薬局がなかった木屋平地区
に「こやだいら薬局」を開設し、地域医療を支える訪問服薬指導や健康教室などを同地
区において積極的に展開している人物ですが、生産部会の研究会において、地域医療を
支えるには地域経済をまず再生する必要があると指摘し、木屋平の歴史的背景も踏ま
え、6次産業としての漢方生薬の可能性について説きました。
この美馬市木屋平で実施した研究会に参加してくれたのが、表紙の少女です。南フラ
ンスから木屋平まで来てくれました。お母さんと一緒に突然の参加となりましたが、木
屋平が持つ自然の美しさに驚き、研究会でのテキストとして使用した地元の方々が作成
した薬膳料理「こやだいら創作食」のレシピ集に特に興味を覚えた様子でした。2年に
一度、日本を訪れているという彼女。次に訪れる日には、徳島は木屋平の地はどう変化
しているのでしょうか。その時、彼女のその純真な目には何が映るのでしょうか。
徳島県立総合大学校 とくしま政策研究センター
美馬市木屋平字川井(木屋平の案山子にて)
撮影者 片山智子
!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!
はじめに
!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!
1
!!!!!!!!!!
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<プロフィール>
「大きなエプロン」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
理事長/手川ヒロコ
設
立/平成18
(2006)年
6月
所在地/徳島県徳島市
佐古八番町3番1
0号
TEL 0
8
8−6
2
4−0
7
8
6
手川ヒロコ 氏(NPO 法人大きなエプロン理事長)
会を立ち上げ、地域で助け合えることって
Ⅰ
設立の目的と経緯
なんだろうと。それが、買物代行だったり、
病院への付添などであったが。
「今、困って
◆助け合えることってなんだろう?
手川さんが理事長として運営する NPO 法
いるのは、それだけではないよね」というの
が見えてきた。見えたものは、
「食事」だっ
た。
人大きなエプロンは、吉野川市(旧山川町)
人間にとって大切なのは、1日3回の規則
の藍商人が大正時代に建築し、その後、徳島
正しい食習慣。だが、その3回の食事を取れ
市に移築した古民家(築約9
0年)を活動拠点
ない方はたくさんいる。これは何かを考えな
にしている。活動の始まりは、地域で助け合
ければいけない。どうにかしたい。自分たち
うことが大事だと考える仲間数人でボラン
でお弁当を買って、それを届けることは簡単
ティアグループ共生の会を平成1
6年4月に立
ち上げたのがきっかけとなった。
「困っている人がいたらいつでも飛んで
いってあげるよ!」と言って、個人的に買物
のお手伝いや庭の草刈りなどを行っていた手
川さんは、周囲の人たちに、
「私、こんな(ボ
ランティア)気持ちをもっているんだけど
も、誰か一緒にやる人いないかな?」と誘っ
た。
「そしたら、たまたま同じような思いを
もっている方がいらっしゃって」という。
2
アットホームなディサービス
(&$)#"%!'#"%
だ が。そ こ で、
「お 弁 当 を 私 た ち で 調 理 し
て、それを届けることを考えてみいへん!」
と仲間に声を掛けてみたんですと手川さんは
語る。
会の仲間からは、普通の主婦にはできない
という声があがる。それに対して、
「まずは
みんなで勉強しよう!」と。公民館を借り
て、勉強会を開始する。1ヶ月に1回お弁当
を作るのに、月の1週目は材料の買い出し、
お弁当の配達は屋根付き三輪バイクで!
2週目は調理と会議。そのサイクルを1年間
味で作ると、とっても薄くて味が。それでは
続けた。
食べられないですよ、冷えたら。それがよく
◆活動の「原動力」となったもの
分かった。
」という。
毎回作るお弁当については、材料費の価格
手川さん自身はあまり料理が得意ではない
で仲間以外の方に買ってもらった。飲食店を
という。なぜ、お弁当の配食サービスを始め
営む人にも食べてもらった。これはお金にな
ようと考えたのか。手川さんはこう語る。
らんな。お弁当はこんなんと違うとも言われ
「困っている人がいることもあったんです
た。
が、もうひとつの大きな原動力となった私の
率直な感想を聞く。やはり他人に評価して
思い。それは、私があまりお料理をするのが
もらわないと分からないものがある。自分勝
得意でないので、自分が年齢を重ねた時、絶
手なものになってはならない。それでは、
「継
対にしなくなる。きっと(将来)私は困るだ
続」しない。
ろう。その時に本当に助けてくれる。そうい
うものを自分自身の手で作ろう!」と。
◆ゼロからのスタート、そして…
◆ひとつの転機、NPO 法人化へ
やがて、手川さんらの活動が、徳島市の担
当者の目にとまる。高齢者配食サービス事業
配食サービスの事前準備としてのお弁当作
の委託事業に取り組まないかと声を掛けても
りの勉強会を開始したことから、毎回試作す
らう。ただし、そのためには、法人化する必
るお弁当の個数を2
0食とした。最初から2
0食
要があった。ひとつの転機。だが、
(法人化
とした理由は、その数が配食サービスを開始
するに当たって)後ろに引く人も出てきた。
する上でのひとつの目安になる基準と考えた
手川さん自身も当初は法人成りをするつもり
からだ。そこから増減することは可能だと。
は無かったという。みんなで楽しくワイワイ
毎回の勉強会は楽しかったという。だが。
と地域の助け合いをしたらいいとそう思って
手川さんはこう語る。
「料理が好きな人は誰
いた。だけどもと。
「私はどうしても続けた
かいる?と周りの人に教えてもらって。それ
いし、
(法人化が)きっかけで色々な人が関
が分かったら、その人をお誘いしてというこ
わ っ て く れ る か も。私 は そ う 思 っ た ん で
とでスタートしたんですけど。結局、自己満
す。
」という。そして、平成1
8年6月に NPO
足の料理でしかなかった。家庭で作っている
法人大きなエプロンが誕生する。
3
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Ⅱ
事業の概要
◆配食サービスを開始!
徳島市からの委託事業としての配食サービ
スの条件は週3回行う必要があった為、委託
前から、週3回で配食サービスを開始する。
しかし、諸事情により委託事業は実現しな
一品一品心を込めたおせち料理
かった。計画どおりに進まない。それでも手
川さんは、まあいいや(笑)と思いましてと
語る。
◆プロとの出会い、
「全国食事サービスセ
ミナー in 徳島」の開催
しかし、法人化する以前から、拠点となる
現在の古民家を借りていた為、家賃が発生す
平成2
1年1
2月に手川さんらは、
「食から考
る。当初の計画にズレが生じた今、どうやっ
えるコミュニティづくり∼地域の地域による
て家賃を捻出するのか。結局、しばらくは自
地域のための配食サービス∼」をテーマに全
分自身のもっているもので運転資金として充
国老人給食協力会と共同で全国大会「食事
てた。だが、それも長くは続かない。
サービスセミナー in 徳島」を開催した。当
せめて1ヶ月分の家賃でも捻出できればと
時、四国では全国大会を開催したことがない
いうことから、ひとつのアイデアが浮かぶ。
ということで、手川さんに開催の企画が持ち
「そうだ。おせち調理を作ろう!」と。現在
込まれた。手川さんはこれをチャンスと捉え
にまで至るおせち料理の開始に繋がる。当時
る。
の家賃は6万9千円。これに電気代や水道代
食事サービス、それは高齢者をはじめとす
を含めると約8万円となる。おせち料理の材
る生活にサポートが必要な人、全てが利用で
料代、箱代等を計算し、おせち料理の代金を
きるもの。このことをもっと県民の方に知っ
3千8百円に設定。3
0食を超えるおせち料理
てもらいたい。そしてセミナーの開催をきっ
への注文があったことから、1ヶ月分の家賃
かけにして、何かに取り組む人をひとりでも
となった。ささやかではあるが資金を捻出で
増やしたい。何かを感じて動き出してくれれ
きたこと。これが大きかったという。ひとつ
ばと。
の手応えを得る。
このセミナーで手川さんはある人物と出会
だが、課題も生まれる。この時、おせち料
う。過去に飲食店を経営していたプロとの出
理に携わってくれたのは1
0人。でも、それぞ
会い。
「たま た ま 新 聞 で セ ミ ナ ー の 開 催 を
れが、
「ああしょう」
「いや、こうがいい」と
知って、ちょっと行ってみようかなと思われ
意見がまとまらない。船頭多くして…の状
たみたいです。出会いは大切です。セミナー
態。そして、皆普通の主婦であることから、
を開かなければ出会いが無かった。そして、
完全な素人。お弁当を業としていく上で一番
その人がフリーでなければ、私たちの活動に
必要な「創意工夫」が生み出せない。
参加してくれなかった。
」と語る。今、手川
4
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さんがプロと呼んでいる女性は大きなエプロ
ンの配食サービス事業の中心として活躍して
Ⅲ 課題と今後の目標
いる。
(その方に)任せることにより、期待
していた創意工夫が生まれ、お弁当の内容が
より豊かになったという。
◆NPO の活動に必要なものとは
また、セミナーを見て、自分たちも独自に
年間の予算について聞いてみた。収入は介
配食サービスに取り組む人たちも出てきた。
護保険事業の関係で確実に増えているとい
「結局、人との関わりというのは、ひとり
う。介護保険の収入は介護系 NPO 法人の経
二人と少しずつ増えていくでしょ。そして枝
営基盤を支える影響は大きい。ただし、収入
分かれしていく。これが必要だと思います。
」
が増えたら、逆にやりたいこと(介護保険以
という。
外のサービス)が増えるという。
◆広がる活動範囲、介護保険事業へ
地域に根ざしたボランティア活動から始ま
り、配食サービス事業を開始した。しかし、
介護保険事業がなければ、助け合い事業や
配食サービス事業が維持できないことも事
実。維持したいが故に、介護保険事業を増や
していった側面もある。
必要とされるものはまだまだあった。地域
NPO 法人は、ボランティアに支えられ、
ニーズを汲み取り、訪問介護、
ディサービス、
自発的に地域貢献活動に寄与している団体で
介護タクシーなど。サービスの幅がどんどん
ある。他方では、持続的な活動を支える組織
広がっていく。必要性に伴って、介護保険事
基盤や財政基盤を持たなければ、その活動が
業に参入した。
継続できない。介護保険制度は、介護系の
配食サービス事業単体では、平成2
3年度に
NPO 法人が民間非営利組織としての独自性
おいて約1
0
0万円の赤字が発生した。この赤
を発揮する基盤となっている。ただ、地域社
字は、介護保険事業から補填した。介護保険
会の課題解決という「社会的価値」と、それ
事業以外の庭の剪定や家事のお手伝などもい
を持続していくための「経済的価値」を得る
わゆる「助け合い(事業)
」であり、自分た
というバランス(舵)をいかにとるか、これ
ちの原点。介護保険の枠組みがあって、
(保
が極めて重要となっている。
険で)出来ない部分を求める人や介護保険の
点数を目一杯活用してしまい、それ以上(介
護保険を)使えない人が地域内に確実にい
る。助け合い事業の利用者と介護保険事業の
利用者は重なっているという。お金にならな
くても地域福祉にとって必要なもの、そこに
社会的価値がある。手川さんも、自分たちの
特色のひとつは介護保険外から入ったことだ
と語る。活動の根本は、地域に根ざしたボラ
ンティア活動、つまり社会福祉制度の枠外か
らの参入である。
クリスマス会にサンタがやってきた!
5
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◆終の棲家はどこに、漂う老人たち
手川さんは、今、要介護認定を受けている
老人2人(いずれも女性)と共同生活をして
いる。お年寄り版のルームシェアというべき
ものか。最初に受け入れた女性は配食サービ
スの利用者。どうしても家族が介護できない
ということで、施設へ入所することとなって
いた。しかし、このままでは、家族から見捨
てられたみたいにこの人が病んでしまうと。
ひな人形ができあがりました
そう考えた手川さんは、
「私の所へ来るで?」
言ってみた。
「経営者的ではないですね」と。
と。一緒に暮らし始めて半年を過ぎた頃か
これに対して、
「経営者だったら、違った方
ら、手川さんのことを「家族」という風に思
向に行ったと思います。でも、私は心がない
い始めたという。
のが嫌なんです。損して元を取れというか。
手川さん自身、寝る時間も削ってお世話を
昔の商売です。この福祉の分野はね。今風で
しているが、逆にこういうことができる幸せ
はできません。だから大きくは儲からないと
を感じるという。手川さんは2人の女性や家
いうのはそこなんです。でも心は豊かになる
族からは必要経費のみしかいただいていな
んです。
」と。
い。業(ビジネス)でないからだという。そ
そして、
「子どもたちに言われるんです。
れでは何でしょうか?と聞いてみた。
「福祉
お母さんは生き生きしてるねと。これが一番
です」という一言。お金が貯まれば、もう少
うれしいんです。
」と笑顔で続けた。そこに
し受け入れたい夢があるという。
は気負いもてらいもない。輝く人がここにい
確かにお金はもらっていない。だが、この
取り組みは制度の枠外のままでいいのだろう
か。貧困ビジネスと異なる取り組みであるな
らば、手川さんの取り組みを広く知ってもら
うべき。顕在化されることによって、必要な
福祉制度(生活支援付きルームシェア)とし
る。
【参考文献・資料】
1.徳島市『徳島・ふれ愛まちづくり楽会 研究
活動報告書』平成1
7年度 P2
5∼P3
8
2.徳島市市民活力開発センター『PASSPORT』
No.
3
1(2
0
0
9年1
1月1日) P2∼P3
3.徳島市市民活力開発センター『PASSPORT』
No.
3
8(2
0
1
1年5月1日) P5
て生まれる部分がきっとあると思う。
4.
「ふるさとの灯 第2部 地域を支え、守る」
『徳島新聞』
(2
0
1
2年2月2
9日)
Ⅳ
調査を終えて
<手川ヒロコ氏のプロフィール>
昭和2
3(1
9
4
8)年生まれ。
手川さんは、
「配食サービスですが、これ
平成1
6年に友人数人でボランティアグループ
は自分がどうしても必要だと思い作っている
共生の会を設立。翌年9月に「大きなエプロ
ものだから、儲からなくていいんです。その
ために、これを維持する為に、結果的に介護
保険事業を始めたんです。
」と語る。あえて
6
ン」に名称変更。平成1
8年6月 NPO 法人大き
なエプロン代表理事(現理事長)に就任。
平成2
2年6月徳島保護区保護司就任。
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「 A L I V E L A B 」( ア ラ イ ブ ラ ボ )
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
上田
<プロフィール>
理事長/上田
啓人
岡本
由之
設
立/平成20
(2008)年
3月
所在地/徳島県板野郡
北島町新喜来字二分
1番地9
1
TEL 0
8
0−6
3
8
0−4
9
5
4
0
8
0−6
3
8
0−9
4
0
0
啓人 氏(NPO 法人 ALIVE LAB 理事長)
「そこで気づいたんです。今、何が大事なの
Ⅰ
設立の目的と経緯
か。それは『健康』でいることだと。
」健康
づくりというのは人生における一番の基本と
◆衝撃的な光景を目にして、大事なことは何か
上 田 さ ん は、
「何 か 違 う こ と 考 え 出 し た
い」
「何か意義あるものを成し遂げたい」と
模索していた時期にある衝撃的な光景を目に
なる。
「自分は健康づくりに頑張れるかも。
いや、頑張れるのはここだ!と思ったんで
す。
」とそう語る。
◆仲間と NPO 法人の立ち上げ!
する。それは同級生数人とキャンプに行った
アライブラボには理事長が二人いる。もう
時のこと。みんなで楽しく飲んで食べての次
ひとりの理事長は岡本由之さん。上田さんと
の日。参加していたある友人が低血糖で突然
岡本さんは阿南高専時代の同級生。
「岡本と
震えだした。震えが止まらない。びっくりし
は(NPO 法人の立ち上げ前の)約1
0年ほど、
て、どしたん?と本人に聞いたんです。そし
いつか自分たちのやりたいことをしたいよ
たら、僕たちには言っていなかったんですけ
ね」とよく話し合っていたという。岡本さん
ど、実は糖尿病なんだと答えが返ってきた。
は当時佐那河内村役場に勤務していた。岡本
これが糖尿病になるということなのかと。
さんが公務員を辞めようかというタイミング
ショックを受けた。
と上田さんが健康づくりにチャレンジしよう
よくよく考えて見たら、彼の生活習慣は悪
とした時期が重なり合う。
かったと思うという。暴飲暴食を重ねてい
「その時に、たぶん岡本だったと思います
た。3
0歳前での発症。発症を早めたのは食生
が、
(会社組織ではなく)NPO 法人という手
活や生活環境に要因があったのではないか。
段があるんちゃうんかと言い出したと記憶し
7
(&$)#"%!'#"%
ています。ただ、僕は当時は会社を立ち上げ
らに深い部分にまで昇華した。その関係を表
ることしか頭になかったですね。
」と振り返
現する適当な言葉は見当たらない。
る。それがなぜ NPO 法人を立ち上げること
になったのか?
その理由をこう語る。NPO の概念(non-
岡本さんにとっても悩みに悩んで決断した
活動への参画だった。だが、彼は近くアライ
ブラボからいったん離れる。
profit-distributing(利益を分配しない)
、self-
「アライブラボの活動を通じて御自身の変
governing(自 己 決 定)
、voluntary(自 発 的
化をあげるとしたらなんでしょうか」と聞い
な)等)自体が自分たちの考えと合致してい
てみた。彼は熟慮の人である。自分の中で咀
た。
「お金の為に仕事をすることは必要なこ
嚼し言葉の重みを図るが如くゆっくりとこう
とです。だけども余り儲けて、儲けてすると
語る。
「それは、自分個人のことではなくア
いうのはいらない。それだったら、自分たち
ライブラボのことを第一として考え行動する
が頑張れることをしたい。
」と考えた。そし
ようになったことだ」という。ドラッカーは
て、岡本さんも含めた阿南高専時代の同級生
著書で こ う 語 っ て い る。
「非 営 利 組 織 で は
らと NPO 法人を立ち上げる。
リーダーたる者、並の仕事ぶりで満足するわ
◆向き合う男たち、そして
けにはいかない。
(中略)組織の役割につい
て大きなビジョンをもち、自らではなく、自
岡本さんに上田さんとの二人の関係性を聞
らの役割について考えることができなければ
いてみた。その答えは「真っ向勝負です」と
ならない。自らを重視するリーダーは、自ら
シンプルなもの。真っ正面から向き合う濃密
」と。
を殺し、自らの組織を殺す1。
な関係。二人の関係性は「友達」という存在
を越えたものであるという。なぜか、
(単な
Ⅱ 事業の概要
る)友達同士であるならば、相手や自分自身
が嫌だと思っていることは敢えて触れず、一
定の距離を保っていれば「友情」の永続性は
◆キッズファーマープロジェクト
保たれる。だが、自分たちの活動には目的
(大
健康づくりをキーワードに、まずは若者が
義)がある。その高みを目指すには敢えてそ
知識や関心を持たなければと考え、岡本さん
の部分に触れ、一線を越えなければならな
と二人で健康運動指導士の資格を取得し、健
い。今はそれを越えたものであるという。二
康に関する講演や運動指導に奔走する中、上
人の関係性はアライブラボの活動を通じてさ
田さんはひとつの思いに至る。徳島県の抱え
る問題のひとつに糖尿病があること。また、
徳島の未来の担い手である子どもたちの体力
は全国的にも低下している傾向にある。長期
的な視点で子どもの頃から「地産地消」
「食
育」
「社会体験」を一体的に推進していくべ
きではないのか。
そして、平成2
3年度徳島市協働支援事業の
美味しいブロッコリーだよ!
8
1
P.F.ドラッカー(上田惇生訳)
「非営利組織の経営」2
007年
ひとつとして、
「キッズファーマープロジェ
ダイヤモンド社
P1
9
(&$)#"%!'#"%
いても、次回は参加しやすいようにと、
その日
の作業の進捗状況(画像含む)や次回の作業
内容についての注意点、そして、その人だけ
(の心に)に伝わる言葉などを添えてメール
をしているという。中にはメールを御覧にな
らない方もいるので、その場合は数日前に電
話連絡を必ずしているという。キッズファー
接客はもちろん子どもたちが中心です
マーの参加者である子どもの数は1
0
0人を超
クト」
(以下、
「キッズファーマー」という。
)
える。一家族ごとにそのやりとりを上田さん
が生まれる。キッズファーマーは、農作物が
ひとりで毎回で繰り返しているという。
畑から食卓に届くまでの全過程を子どもたち
なぜそこまでするのか?その理由をこう語
が体験する食育プロジェクト。子どもたちが
る。
「人は手間を掛けなければ喜んでくれな
徳島の地産地消を「見て」
「さわって」
「感じ
いじゃないですか!」と力を込めて語る。
られる」ことをコンセプトとしている。子ど
キッズファーマーに参加する子どもたちの
もたちが「食」
「農作物」
「健康」に興味を持
募集をかける際にも一工夫を凝らしている。
てば、周りにいる家族の意識もきっと変化す
現在受入側の生産者は8農家あるが、参加者
るはずとの確信があった。
の基本は、その生産者の周辺の保育所から小
上田さんは2つの顔を持っている。ひとつ
学校に通う子どもたち(4歳∼1
2歳)を対象
はアライブラボの理事長としての顔。もうひ
にポスティングを掛けている。そうすること
とつは、とくしまマルシェ事務局のひとりで
により、地元の生産者と子どもたちとの繋が
あること。とくしまマルシェに出店している
りができればという意図がある。地域におけ
生産者からも子どもたちを受入しますよとの
る繋がりの部分を大事にしたい。これをきっ
声があがる。
かけに地域で頑張る生産者のファンが一人で
生産者と消費者には溝があると上田さんは
も生まれればと。
指摘する。県内のいい農作物はそのほとんど
上田さんの言動には人間の行動原理を押さ
が県外に出荷されている現状があるという。
えたものがある。彼はそれをごく自然に行っ
実は県民の皆さんは徳島の新鮮で高品質な農
ており、そこには一種の「レシプロシティ」
作物を知らないのではないか。いかに高品質
(互恵性、返報性)が働いている。レシプロ
で付加価値のあるものを生み出す為に生産者
シティとは良い行動には良い見返りがあり、
が努力しているのかを知って欲しい。
悪い行動には悪い結果が戻ってくるという、
上田さんは、子どもたちを受け入れてくれ
あらゆる文化に通じる普遍的な社会通念であ
る生産者と参加者との信頼関係を一番大事に
る。そして、無意識にカレンシー
(通貨、ある
している。2週間に1回は受入側の生産者の
いは価値交換の道具)の重要性にも気づいて
元に足繁く通い、打合せを密にしている。一
いる。カレンシーとは相手にとって価値ある
方、子どもたちはもちろん、
その保護者とのコ
ものを指す。自分自身が持っている価値ある
ミュニケーションにも力を注いでいる。例え
ものと、相手のもとにある価値あるものを交
ば、何らかの事情で作業を欠席した場合にお
換することにより、レシプロシティは成立す
9
(&$)#"%!'#"%
の事業のあり方として、管理栄養士をキッズ
ファーマーの専属担当として雇用できるぐら
いに早くならなければという。
「自分たちで
しかできないことをどこまで残せるのか(が
勝負)
」とその率直な思いを隠さない。
大手百貨店からもキッズファーマーの県外
版について打診があるという。企画やアイデ
子どもたちがつくった手書き POP
ると言われている。ただし、カレンシーは一
アは無限に広がる。しかし、上田さんひとり
に比重が掛かる現状がある。
人ひとりの価値観、世界観や置かれた状況な
打開策はないのか。今、上田さんは、プロ
どによっても異なってくる。人とどのように
フェッショナルとのコラボを模索している。
コミュニケーションを取るかは、相手が持っ
全てを自前で行うのではなく、
専門的なノウハ
ているカレンシーをどれだけ理解するかが鍵
ウを持つ団体や組織とのコラボレーションに
となる。彼の言動の一つひとつには非常に深
よって、新たなイノベーションを興したい。
い意味と気づきがあると考えさせられる。
◆大学生の協働参画、広がる輪!
ただ、企業とのコラボにおいては、NPO
法人は責任という部分でイーブンな関係には
ならないと指摘する。企業同士でひとつの事
アライブラボの活動には、学生ボランティ
業を行うとなったら、お互いの責任の範囲は
アが毎回参画しており重要な役割を担ってい
明確になる。けれども、NPO 法人と企業が
る。社会人が子どもたちに食育を伝えたい。
コラボをするとなったら、NPO 法人に対し
しかし、社会人から子どもたちに直接アク
て責任を持てるのですか?という部分が必ず
ションを掛けるには受け渡しの部分に少々難
出てくるという。それを果たすには、NPO
しい面もある。大学生をその関係の中心に置
法人自身に相当な財政的な体力がなければな
くことによって、新たな繋がりができる。大
らない。
学生にとってもアライブラボの活動に参画す
そうであるならば、利益を求める部分につ
ることによって社会を知ることができ、社会
いては会社組織とし、地域貢献をする部分に
人と関わることによって得るものがある。そ
ついては NPO 法人と分業化すべきでないの
れができるのがアライブラボの根本であり、
か。会社組織と NPO 法人の両方が自分たち
魅力のひとつとなっている。
には必要でないのかとしばしば考えるとい
う。NPO 法人をやめるという考えは全くな
Ⅲ
課題と今後の目標
いが、模索は続いていると語る。NPO 法人
は民間企業とは異なり、利益性の追求は絶対
◆NPO の活動に必要なものとは
的な成果や判断基準にはならない。非営利組
織であるがゆえに判断基準や評価基準も多様
アライブラボの予算について聞いてみた。
化しており、バランスを取ることが求められ
収入の部分については課題があるという。今
る。非営利組織のリーダーには凡庸であるこ
は収支がトントンというレベルだが、ひとつ
とは許されない。
10
(&$)#"%!'#"%
という「感情」が湧き出てくるんだと思いま
Ⅳ
調査を終えて
すと彼女はいう。自分たちが収穫した野菜を
食べたかな?と聞いてみたら、子どもたちは
学生ボランティアのひとりである東花菜さ
異口同音に「全部食べたよ!」と駆け寄って
ん(四国大学生活科学部三回生)が語ってく
きて教えてくれるんです。そして、
「お母さ
れた内容は印象的だった。彼女はアライブラ
んがいっぱい野菜の料理を作ってくれた!」
ボの活動に参画して1年半近くになる。今、
と目を輝かせるんですと、それがうれしくて
管理栄養士を目指している。
と笑顔で語る。その目線の先には子どもたち
以前に別の食育サークルに参加したことが
の姿が。
ある。そのサークルでは野菜の収穫を子ども
アライブラボの活動の意味を理解し、未来
たちと行い、その収穫した野菜を子どもたち
に繋げていこうとする学生がここにいる。食
と一緒に食べるもの。たが、野菜を残す子ど
育の範囲は子どもや保護者、家族だけにとど
もたちが沢山いたという。原因のひとつは子
まらない。活動に関わった学生にも影響を与
どもたち自身が苗付けや除草などに関わって
えていく。途切れることはない。ここにはホ
いないところにあった。そこには愛情という
ンモノの食育の姿がある。
一番大切な「感情」が生まれなかったのか。
【参考文献・資料】
一方、アライブラボの食育は、苗付け、除
草、管理、収穫、
(加工)販売までの工程と
なっており、それぞれの工程に工夫と意味を
1.徳島市市民活力開発センター『PASSPORT』
No.
4
1 P3
2.
「子どもが栽培野菜直売」
『徳島新聞』
(2
0
1
1年
1
0月2
5日)
3.アラン・コーエン、
デビッド・ブラッドフォー
持たせている。野菜を使ってのドレッシング
作りをした際には、自分たちの育てた野菜の
ありがたみが分かるのか、格段に野菜を残す
子どもは少なかった。野菜はスーパーで買う
ものと思っている子どもが、ここでの経験を
通して、野菜に対する考えが徐々に変化す
る。野菜が持つ自然の甘さに驚き、何気なく
普段食べている野菜に対するイメージが変
わっていく。そこには自分たちが育てたもの
ド(高嶋薫、高嶋成豪訳)
「影響力の法則」2
0
0
7
年 税務経理協会
4.P. F.ドラッカー(上田惇生訳)
「非営利組織の
経営」2
0
0
7年 ダイヤモンド社
5.
「NPO 法人 ALIVE LAB(アライブラボ)
」
http : //www.alivelab.jp/
6.
「キッズファーマープロジェクト」
http : //wagaya-shokuiku.jp/kidsfarmer.html
7.
「地産地消のチカラ」
http : //wagaya-shokuiku.jp/power.html
8.
「とくしまマルシェ」
http : //tokushima-marche.jp/home/
<上田啓人氏のプロフィール>
昭和5
2(1
9
7
7)年生まれ。健康運動指導士。
自分たちが住んでいる「まち」
を元気にしたい。
そのためには、
「とくしまの健康づくり」が大
切であると考え行動する。
『運動+食育=“健康”→HAPPY!』をコン
セプトに NPO 法人 ALIVE LAB を立ち上げ、子
どもたちが生産から販売までの一貫した社会体
験をすることで、より踏み込んだ地産地消と食
育の活動を目指している。
学生ボランティア(飯尾君)もチカラが入ります!
11
(&$)#"%!'#"%
まとめと考察
<共通するリーダーの資質とは何か>
今年度の「地域の夢づくり・人づくり」モデル研究は県内の二つの事例を抽出し調査した。タ
イプや年齢、実施している事業内容なども異なる二人だが、奇しくも共通するのは「食」に関す
る視点から活動が出発していることであった。また、今の自分たちは、
「人にさせられているん
ではなく、自発的に行動している。
」と異口同音に語る。
上田啓人さんの稿でも述べたが、彼にはレシプロシティや社会的スキル(ここでは人を動かす
能力と言わせていただく)の資質がある意味備わっているのではないかと考えている。手川ヒロ
コさんも同様である。手川さんはあえてと言っていいと思われるが、自分の行っていることは全
て将来自分が困らない為にしているというが、外形的にも客観的に見てもそうではないことは明
らかである。周囲も手川さんの意図や目的(大義)をよく理解している。
二人が自らの活動の理念を語る時に共通するものがあることに気づいた。
「目標を明確にする」
「相手の世界観を理解する」
「自分たちと相手側の価値観を見定める」
「関係性に配慮する」
「あ
きらめない」ことである。
『これらの要素を自らの影響力の源泉として周囲の人を引きつけてい
る。
』と言えるのではないか。
アライブラボに参画している学生ボランティアの複数が興味深いことを発言していた。上田さ
んについて、
「とにかく最後まであきらめない人なんです。
」
「離れて行こうと思っても(魅力が
あって)離れられないんです。
」とその人物像を語る。この発言を聞いた時、すぐに思い出した
ことがあった。昨年度の「地域の夢づくり・人づくり」の調査対象であった内藤佐和子さん(徳
島活性化委員会代表)の活動に参画していた大学生も全く同じこと(内藤さんに対する印象とし
て)を言っていたことを。
<象徴的交換が働く、
「交換の原則」>
まちづくり、自然体験、棚田保全、水辺空間利用等の分野での多面的な実践活動の他、ファシ
リテーターとしても県内外で活躍するある人物が指摘していたことが鮮明によみがえってきた。
内藤佐和子さんと同じく昨年度の調査対象であった澤田利明さん(かみかつ里山倶楽部代表)が
その人である。
澤田さんは人間のコミュニケーションには「交換の原則」
が社会学的に働いていると説明する。
交換には、経済的交換と象徴的交換(あるいは社会的交換ともいう)の二つがある。経済的交換
はお金を払って商品を買うことをいう。もうひとつ人間のコミュニティーに存在するのは象徴的
交換である。これはお金では買えないものを指す。例えば、遠く離れて暮らす息子や娘が帰省し
た際に、母親が自分の手料理を真心を込めてふるまう。それは心がこもった何とも言えないも
の。そのやりとり(交換)を通して感情(愛情)がそこに生まれる。象徴的交換は人間同士の関
係を強くする。いわゆる絆である。親子のみならず他者に対してもその象徴的交換の原理が働け
ば、人と人の関係性は強固になると指摘する。これが、権力を使わずに人を動かす原理、すなわ
ちレシプロシティである。単なるギブアンドティクではない。
上田さんや手川さんが意識的にそのような手法を用いているとは思わないが、
「人はなぜ、人
(他者)につき動かされるのか?」ということを考えてみた場合、そこには何らかの有形・無形
12
(&$)#"%!'#"%
の象徴的交換のメカニズムが働いているように思えてならない。人間には普遍的な社会的影響力
の原理がある。行動には再現性があり、人はその原理にしたがった行動を取る。それは科学でも
ある。その原理を技術的(論理的)に理解していると思われる澤田さんを除き、上田さんらは自
らの(非営利)活動の中で徐々に体得していったのではないかと考えられる。
<活動資金の基盤について>
収入面の問題についても少し触れたい。大きなエプロンとアライブラボのそれぞれの平成2
2年
度と平成2
3年度の事業報告書をもとに比較してみる。
大きなエプロンの平成2
2年度の事業収入は2
4,
9
4
9,
4
1
0円。うち介護保険事業収入は1
3,
8
1
4,
3
2
9
円。翌2
3年度の事業収入は3
4,
6
3
2,
6
8
3円。うち介護保険事業収入は1
6,
2
2
9,
8
3
9円
(但し、ディサー
ビス事業を除く)となっている。事業収入が確実に伸びており、うち介護保険事業収入の占める
割合は高い。
一方、アライブラボの平成2
2年度の事業収入は2,
7
5
8,
4
3
1円。翌2
3年度は5
4
0,
0
0
0円(補助金収
入含む)である。収入の多寡はあえてここでは指摘しない。
介護保険制度は、法人格の種類を問わず、一定の要件を満たせば介護保険指定事業者として介
護保険制度に参入できる仕組みとなっている。NPO 法人が参入しやすい社会制度であるとも言
える。
手川さんの場合は、PTA やボランティア活動を契機とし、財政基盤の脆弱な任意団体を経て
NPO 法人として誕生しており、介護保険の「事業」を行うことを目的として NPO 法人の認証
を受けたものではない。社会福祉制度の枠外にあるボランティア活動、助け合い事業などに軸足
を置き、その活動を継続的に展開したいがために介護保険事業を実施しているとさえ見える。
また、より地域に密着したボランティアの視点から介護保険事業制度を見つめている。目線は
あくまでも営利目的ではない。本来の目的であるボランティア活動をより推進する為にうまく介
護保険事業収入を財政基盤の活動資金として活用しながら、介護保険事業と介護保険以外のサー
ビスを双方提供している。有償ボランティアを含めると雇用している者は約4
0人近くいるとい
う。このことは、NPO 法人が非営利活動組織として組織基盤を確立させながら、活動を持続さ
せる数少ない分野(領域)が介護保険事業であると言えるのではないか。
しかしながら、他分野の NPO 法人においては、指定管理者制度や何らかの助成制度がなけれ
ば、財政基盤を安定させることや雇用の受け皿や労働条件を整備する段階まで至っていない現状
がある。
<学生の協働活動等の参画のあり方として>
上田さんは、今、学生との関わり合い方や連携のあり方を変えることを検討している。なんと
なく自分たちの活動に参加してみたいという学生だけではなく、大学の研究室や授業を通じて、
大学教員や学生の参画が得られるようにできればと考えている。そうなれば、大学生個人との関
係性だけではなく組織的な連携が生まれることはもちろんだが、授業や研究という形での学生の
参画というスタイルの場合、参画する学生の活動への「責任」が大きくなると見ているからだと
思われる。また、その場合、教官から学生への確立された指導体制も見込まれる。
NPO 法人の地域貢献、協働活動等(以下、
「協働活動等」という。
)に興味を持つ学生は県内
に確かにいる。ただし、関心があっても、その活動の情報をどこから得ればいいのだろうか。ア
ライブラボの活動に参画している学生たちに聞いてみると、徳島市市民活力開発センター(NPO
13
(&$)#"%!'#"%
法人新町川を守る会が指定管理者)
から何らかの形で紹介されたとする声が挙がった。
同センター
は、ボランティアを求める NPO 法人と協働活動等に関心がある学生をマッチングする活動を
行っている。
協働活動等に取り組む団体の共通課題のひとつとして、参画メンバーの高齢化・固定化が指摘
されている。このことから、
「当センターではこの課題を解決するアプローチのひとつとして、
地元の大学生と市民活動団体とをマッチングすることで団体に新たな視点やアイデアをもたら
し、活動をより活性化することに挑戦してきた1。
」としている。同センターによると、NPO 法
人は財政的に厳しい現状が一般的にあることから、社会人やシルバー世代よりもボランティア的
な役割が期待できる学生を求める傾向があるという。
また、このような協働活動等に自主的な形で参画してくる学生は、きわめて能動的であること
から、県内の色々な協働活動等に興味を覚える傾向があり、ひとつの活動に集中するのではな
く、複数の活動にスポット的に参画するケースや団体と団体の間を行き交うことも多い。
そうなっ
た場合、上田さんが期待しているであろう活動への「責任」を果たせなくなることもあると思わ
れる。自主性、自発的な面において能力が高い学生は、
「ボランティア」
(無償性が濃い)として
の位置づけが強く、参画を求める声も多く、期待も高い。その積極的な学生に対して、どこまで
の「責任」を求めるかという点において課題が残る。
<教育の「場」としての位置づけ、単位認定制度として>
学生ボランティアとしてではなく、協働活動等に参画することを大学の単位として認定するこ
とにより、活動を大学教育の「場」として位置づけることはできないのか。
大学の研究室やゼミとの連携であるが、大学教員に事前に NPO 法人の活動の目的と活動内容
への理解はもちろんのことだが、学生の果たす役割と学生に課す目標や NPO 法人での受入体制
等を明確にしておく必要がある。
また、活動に興味を示す大学教員がいたとしても、大学の教育制度として組み込まなければ、
せっかくの「地域貢献」
「協働活動等」の授業や研究としての参画が断続的になってしまうおそ
れもある。そのような形での参画となった場合、内容が深まらないし、新たなモノを生み出すア
イデアも十分なものとならない可能性が高い。
だとすれば、学生が参画する地域貢献等の活動を講義カリキュラムに取り組み、その成果を評
価し、単位認定が行えれば、学生側だけではなく NPO 法人においてもメリットが大きく、地域
おこし、地域再生、地域活性化等の鍵として学生に期待し、関わり合いや若者ならではのアイデ
アを求めている地域においても大きな意義を持つといえよう。
しかし、事前に調整すべき課題がある、大学の講義は、学生の事前準備や科目選択として、シ
ラバス(講義計画、講義要旨)を作成し、新年度の4月に配布することから始まる。単位認定に
は、このシラバスに「地域貢献」
「地域活動」
「協働活動」等の内容(学生が何人程度求められて
おり、どのような活動に参加するのか等を具体的に)を組み込み、学生に取って有用な単位取得
カリキュラムであることを明示することが必要となる。当然、その場合には、NPO 法人との協
働活動等が単位認定に値する内容であることが前提になるが。
シラバスに組み込むのであれば、年度開始の数ヶ月前から、大学教員のみならず、大学側との
事前調整を十分にしておく必要があり、NPO 法人が単独でその調整に当たるにはいささかハー
ドルが高いと言える。
しかしながら、学生の地域貢献等への活動を一過性に終わらせるのではなく、シラバスに組み
14
1
徳島市市民活力開発センター『PASSPORT』No.
4
1 P6
(&$)#"%!'#"%
込むことにより単位認定制度に具体的に盛り込まれる効果は大きく、自発的な学生が個人的なボ
ランタリーな活動として取り組むのではなく、別の形として、継続的に多数の学生が協働活動等
に関われるメリットは大きい。また、そのような取り組みが、一部のゼミや研究室だけではなく、
学部や大学全体に広がっていくことが期待される。
大学が地域社会への取り組みを強めている動きが全国的に広がっている。中部大学は近接
ニュータウンの活性化に向けて、春日井市や住民団体と連携。今年度中に学内に工学部や生命健
康学部など7つの学部を横断する研究機構を設置し、2
0
1
3年度から全学的な取り組みを始動させ
るとしている。
文部科学省は地域の課題解決に取り組む大学を支援する「センター・オブ・コミュニティー
(COC)事業」を2
0
1
3年度よりスタートする。これは雇用創出や人材育成など地域の課題解決
に取り組む大学を財政支援し、自治体や産業界との連携を促すもの。COC 事業では全学的な取
り組みを支援することで学部の垣根を取り払うことも狙っているとしている。中部大は同事業へ
の申請をする方針。また、明海大学は長期間実施してきた地域貢献活動を発展させ、高齢化社会
での「地域コミュニティーの核になる」ことを目指しており、浦安市と連携し今後の構想を今夏
を目処に検討し、同事業の申請を狙うとしている。高知大学も自治体と連携し、近く COC 事業
の構想をまとめるとしている。
県内の COC 事業の動きについても触れたい。徳島大学は、
「地域のための大学」として地域
貢献の取り組みを進めることに加え、徳島県内の他大学等や県の施策と有機的に連携した地域再
生・活性化の中核的拠点となる大学形成、すなわち『徳島 COC プロジェクト』
(徳島農工商活
性化事業)を推進する。県内大学には農林水産関連学部がないことから、地域の人材育成、研究
などに課題がある。徳島 COC プロジェクトにより戦略的取り組みを展開することにより、農工
商連携、6次産業化への動きを加速させる。
地域貢献や地域の課題解決に取り組む活動が大学の特色になれば、
「大学の評価が高まり、質
の高い受験生が集まる」と大学側は期待している。激しい大学間競争を勝ち残るためにも特色あ
る地域貢献サービスを打ち出す大学が今後増加することが見込まれる。
<今後の展望として>
大学の教育・研究資源は、地域資源としての知的財産でもある。この知的財産を、地域のチカ
ラとして活用することが求められている。その機能は、地域課題解決における新たな「地域知」
を生み出す可能性を秘めている。また、大学側においても、自らが地域貢献を行う場所を見つけ、
その場を自らの教育現場として活かすことが求められていると考える。
しかし、大学という存在は未だ敷居が高い存在と感じている県民や団体の方も多いのではない
か。その中において、大学等の高等教育機関の連携窓口でもある県立総合大学校が果たす役割は
大きく、大学構成員(学生・院生、教員)ら知的資源を利活用する際のパイプ役として、本県が
持つ潜在的な「地域知」の可能性を引き出すだけではなく、地域における人づくり(担い手づく
り)にも繋がる役割を果たせる可能性が高いと言える。
【参考文献・資料】
1.
「地域貢献、シニアに密着 中部大や明海大、学生移住や施設開放」
『日本経済新聞』
(2
0
1
3
年2月1
4日)
15
(&$)#"%!'#"%
おわりに
行政シンクタンクが政策研究において取り組むべき対象である現代の地域課題、地域政策は、
単一の専門性から向き合うことでは困難な多様性を持つ複合的なものであり、
「政策創造」には、
既存の知識を破り、より新しくより高い次元で、新たな知識の創造を試みる「場」が必要となり
ます。
今年度、とくしま政策研究センターが各都道府県に実施しましたアンケート調査において行政
シンクタンクが有する機能として「生涯学習推進機能」を持つとした都道府県は皆無でした。こ
のことは、この機能を持つとくしま政策研究センターの特異性と優位性を現すものと言えます。
「はじめに」でご紹介しました「農工商連携、6次産業化ビジネスモデル研究」において計1
2回
の研究会を開催しましたが、御参加いただきました県民の皆さんは5
0
0人近くにものぼります。
また、昨年度の「地域の夢づくり・人づくりモデル研究」の調査対象者のひとりである瀬川正昭
さんに当該研究会のコーディネーターとしても活躍していただきました。
県民の皆様にこうした政策課題研究や政策提言につながる「場」を提供することにより、それ
ぞれが持つ専門知識を研究成果(ひいては地域貢献)
に結びつけることが可能となります。また、
その場合、参画された方は、自らの専門知識を一層高めるための学習機会を得ると同時に、自ら
の専門知識で地域に貢献できたという満足感や達成化につながるのではないでしょうか。その役
割を果たしているのがとくしま政策研究センターの実証モデル研究であると自負しております。
なかでも、
「地域の夢づくり・人づくり」モデル研究は、県内の地域リーダーを長期間にわた
り調査することにより、将来にもつながる信頼関係を強固に築き上げるものとなっております。
「地域の夢づくり・人づくり」は、異なる形態の知識(暗黙知、形式知)が出会い、共有、活用
され、創造へとつながる「場」として、これまでに見られなかった試みであり、今年度も「地域
未来学講座」において、瀬川さんと同じく昨年度の調査対象者であった澤田俊明さん(かみかつ
里山倶楽部代表)に講師を依頼し、生涯学習の一翼を担っていただきました。
「地域の夢づくり・
人づくり」は、調査研究のみに留まらない多様な主体と連携・協働・参画できるツールにもなる
ものであると考えております。
平成2
5年3月
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徳島県立総合大学校 とくしま政策研究センター
【調査に協力いただいた機関・団体】
○ 徳島市市民活力開発センター
(NPO 法人「大きなエプロン」を推薦)
○ NPO 法人「子育て支援ネットワークとくしま」
(NPO 法人「ALIVE LAB」を推薦)
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16
「地域の夢づくり・人づくり」
発行日
平成2
5年3月
発
徳島県立総合大学校
行
とくしま政策研究センター
〒7
7
0
‐
0
0
4
5 徳島市南庄町5丁目7
7
‐
1
TEL 0
8
8
‐
6
1
2
‐
8
8
0
1
FAX 0
8
8
‐
6
1
2
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8
8
0
5
E-mail [email protected]