日立グループ内国際調達システム (WWeProcurement)の

日立グループ内国際調達システム(WWeProcurement)の開発
日立グループ内国際調達システム
(WWeProcurement)の開発
株式会社日立製作所 情報システム事業部
会社概要
名称
:株式会社 日立製作所
所在地
:東京都千代田区丸の内一丁目 6 番 6 号
設立
:1920 年 2 月 1 日 [創業 1910 年]
取締役社長:古川 一夫
資本金
:282,033 百万円
従業員数 :41,016 名
事業内容 :情報通信システム、電子デバイス、電力・産業システム、デジタルメディア・民生機器、高機能材料、
物流及びサービス他、金融サービス
執筆者
米玉利
津
紀一郎
村
賀
千
藤
豊
井
伸
宏
情報システム事業部
経営情報システム本部
電機情報システムグループ
技師
情報システム事業部
経営情報システム本部
資材情報システム部
伊
情報システム事業部
経営情報システム本部
資材情報システム部
技師
情報システム事業部
経営情報システム本部
資材情報システム部
技師
情報システム事業部
経営情報システム本部
資材情報システム部
主任技師
紘
田
中
英
次
1 はじめに
株式会社日立製作所(以下,日立)情報システム事業部(以下,(情シ事))では,調達統括本部と共同で,
中国を中心とするアジア地区の急速な経済成長に対応し,日立グループの国際調達業務の効率向上をはか
ることを目的にグローバルに適用可能な日立グループ共通国際調達システム“WweProcurement(World Wide
Procurement)”(以下,WWePro)を開発した。
WWePro は,顧客,取引先,利用ユーザの国/地域毎の言語,通貨,法・税・商習慣に対応した見積,受
注,発注,入庫,出庫,請求などの機能を実装しており,国内事業所,アジア地区を中心とした海外工場,
海外拠点にサービスを提供することにより,国際調達業務における,電子取引,購買業務プロセスの可視
化に対応し,業務効率の向上を実現することを目的としたシステムである。
(情シ事)では,従来からインフラ情報基盤分野を中心に,アメリカ・ヨーロッパ・アジア・中国の4大
-1-
拠点を初めとする海外グループ会社を対象に,グローバルかつグループ横断による統一基盤整備を実施し
ている。WWePro はこれらの基盤を活用し開発しており,多国/多地域にわたるユーザが調達業務を遂行す
るために利用する基幹系業務システムである。
WWePro は,2004年10月より開発に着手し,2005年9月以降,国内事業所,アジア地区を中心
とした海外工場,海外拠点に順次適用している。
本稿では,WWePro 開発における,グローバル対応を実現する上での工夫点を中心にまとめた。
2 開発要件
WWePro 開発にあたり,グローバル対応を視野に主要ユーザの国/地域の特性を検討した上で,開発要件
を定義した。主な要件を表1に示す。
表1
No
1
2
WWeProcurement 開発要件
開発要件
グローバルユーザ,グローバル取引対応
(1)多国/多地域にわたるユーザが使えるシステムであること。
(2)ASP(Application Service Provider)手法をとって,各社特有の業務形態に柔軟に
対応すること。
(3)売買取引が利用ユーザの国や地域間(例:中国と香港間等)で行われることを想定し、
システムを開発すること。
多くのユーザが利用することが想定されるアジア・中国地区特有の取引への対応
(1)アジア・中国地区における制度・税・商習慣に対応すること。
(2)中国では英語では作業できない場合が多いので,日本語・英語に加えて,中国語の
3ヶ国語に対応すること。
3 WWePro システム機能概要
WWePro の機能構成を図1に示す。
海外拠点
事業所/海外工場
見 積
ベンダ
見 積
見積依頼
見積依頼
1
見積回答
発注/価格登録
図3
発注/決裁 2
1
見積依頼受信
見積回答発行
見積回答
11
受注/発注/価格登録 3
12 受注/発注/決裁
2
入庫・支払
受 注
I/V・入庫確認
買掛計上
出庫・請求
入庫・支払
5
4
着荷・入庫
買掛計上
14
経理システム
出庫
6
13 I/V発行
I/V確認・承認
計上・I/V突合せ
8
6
7
受払管理
支払手続
9
注残管理
10
売掛計上
15
経理システム
16
図1
管理レポート
WWePro 機能構成図
-2-
13
I/V発行
11
12
日立グループ内国際調達システム(WWeProcurement)の開発
図1に示すとおり,WWePro は日立グループ内の各事業所や海外工場と,事業所/海外工場とベンダの間の
取引を仲介する役割をもつ各海外拠点の調達部門が主なユーザであり,図中の番号①~⑯までの機能を
有している。各機能の概要を表2に示す。
表2
番号
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
機能
見積依頼
発注
価格登録
着荷
入庫
買掛計上
計上・I/V 突合
受払管理
支払
注残管理
見積回答
受注
I/V発行
出庫
売掛計上
管理レポート
WWePro 機能概要
業務内容
購買を行う際,1社以上のサプライヤに対して見積依頼を行う
サプライヤに対して購買を行う申し込みを行なう
繰返発注品価格を自動的設定用に事前登録する
発注した品目が届けられたことを確認する
検査・検収後に発注した品目を購入品として正式に受領する
支払に先立って品目の資産計上等を実施する
入庫金額と,サプライヤからの請求金額を比較する
計上と支払の残管理を行う
請求書の中身の確認を行い,サプライヤに対して支払処理を行う
購買品の発注に対する残を管理する
見積依頼に対して,販売する価格や取引条件について回答する
注文を受けたことを確認して受注データとして登録する
品目の対価となる請求書を発行する
品目を届けるために自社から出荷を行う
入金に先立って売上計上等を実施する
ユーザに管理業務用レポートを提供する
4 グローバル対応における主な工夫点
4.1 3ヶ国語対応
WWePro の主なユーザは,中国語を母国語とする中国海外工場,英語・中国語を母国語とするアジア地区
を中心とした海外拠点,日本語を母国語とする国内事業所のバイヤーである。従って,WWePro は2.開発
要件で述べたとおり,日本語・英語・中国語の3ヶ国語に対応したシステムとなっている。
ここでは、3ヶ国語対応に関する工夫点について述べる。
-3-
4.1.1 画面の3ヶ国語対応
画面の3ヶ国語対応の方式を図2に示す。
プログラムソース
ユーザ画面
リソースファイルに登録されている各
言語の「値」にて画面表示が可能
リソースファイルにて 変換
画面のプログラミングは「リソース
コード」にてコーディングを行う。
英語画面
<HTML>
APPR_DATE_D
</HTML>
日本語画面
リソースファイル
中国語画面
リソース ファイルの内容
リソース コード
A pprovalD ate (D etail)
承認日(詳細)
审批日期(详细)
値
図2
画面の 3 ヶ国語対応
画面プログラムのソース上では,画面上に表示するフィールド名・エラーメッセージ等の言語依存部分
を任意のキー項目である『リソースコード』としてコーディングする。画面表示時には,その『リソース
コード』と『値』が設定されているリソースファイルを利用し,利用ユーザ毎に選択できる利用言語に合
わせ,言語ごとのフィールド名やエラーメッセージの『値』に変換することにより,画面の3ヶ国語対応
を行った。
4.1.2 レポートにおける3ヶ国語対応
(1) Invoice 等正式書類となるレポートでの母国語併記
レポート上の表記名称については,国際取引における事実上の共通言語である英語を基本としたが,拠
点によっては,英語のみでは不十分であり,母国語での表記も必要とされた。そこで,顧客や取引先へ提
出する正式書類である Invoice 等のレポートにおいては,母国語名称の併記をサポートし,英語名称のみ
とするか母国語名称も併記するかを選択可能とした。使用例を図3に表す。
-4-
日立グループ内国際調達システム(WWeProcurement)の開発
A) 英語のみ
B) 英語・中国語併記
Invoice No.
Invoice Date
Shipment No.
Payment Term
:JPYI8100045
:07/12/2006
:00100088
:D /A 30 D AYS FR O M BL/AW B/D O D ATE
发票号码 :JPYI8100045
Invoice No.
Invoice Date 发票日期 :07/12/2006
Shipment No. 出货号码 :00100088
Payment Term 付款条件 :D /A 30 DAYS FR O M BL/AW B/DO D ATE
図3
Invoice レポートにおける項目名称表記例
(2) 他言語項目表示時のフォント
レポートにおいても,母国語項目を出力する欄があり,その内容を正しく表示するよう,適切なフォ
ントを選定する必要があった。選定にあたっては,以下のことに留意する必要があった。
(a) 国語項目には,少なくとも英語・日本語・中国語の三種類が設定される。
(b) 今後のシステム展開によっては,特にアジア系言語・ヨーロッパ系言語の設定が予想される。
(b)を考慮し拡張性確保を重視した検討した結果,多言語表示の用途として一般的に利用されている
「Arial Unicode MS」フォントを候補に挙げた。
「Arial Unicode MS」フォントの特長は以下の2点であ
る。
(c) Unicode 2.1 に含まれる全ての文字を収録している。
(d) 日本語・中国語をはじめとするアジア系言語からドイツ語・ギリシャ語などのヨーロッパ系言語ま
で,あらゆる言語をサポートしている。
しかし,調査の段階で,「Arial Unicode MS」フォントには,文字幅が一定ではなく文字の種類によって
異なることがわかり,全ての表示項目に適用は困難であることがわかった。
「Arial Unicode MS」および「MS ゴシック」による英語のアルファベットでの例を,表3に示す。
表3
NO
1
2
9
23
26
フォント別アルファベット表示例
Arial Unicode MS
AAAAAAAAAA
BBBBBBBBBB
・
・
IIIIIIIIII
・
・
WWWWWWWWWW
・
・
ZZZZZZZZZZ
-5-
MS ゴシック
AAAAAAAAAA
BBBBBBBBBB
・
・
IIIIIIIIII
・
・
WWWWWWWWWW
・
・
ZZZZZZZZZZ
表3に示すとおり,「MS ゴシック」では,全てのアルファベットが同一幅で表示されるのに対し,
「Arial Unicode MS」では,同じ文字数であるにも関わらず,アルファベットの種類によって幅が大き
く異なっている。特に,『I』と『W』を比較すると,4倍以上の差があることがわかる。
レポートのレイアウトでは,表示しうる最大幅を確保しなければならないが,このフォントを使用する
と,レイアウトが極端に大きくなるとともに,不要な余白が随所に発生することが予想された。
このような問題を最小限に抑えるよう,多言語表示が必要な項目と,英数字のみの設定である項目とを
分類し,前者に「Arial Unicode MS」,後者に「MS ゴシック」を使用することとした。
4.2
多通貨対応
グローバル取引に伴い,契約通貨,母国通貨を目的に応じて,使い分ける必要がある。通貨の使用例を
図4に表す。
契約通貨
顧客・取引先
母国通貨
Invoice 等
購買担当
図4
管理レポート
管理者・経理
通貨使用例
(1) 契約通貨
契約通貨は,取引先・顧客と契約した通貨である。取引先・顧客に提示する Invoice 等のレポートに
て使用する。
(2) 母国通貨
母国通貨は,ユーザ拠点の所在国の通貨である。ユーザ部門管理者が使用する各種管理用レポートに
表示する通貨は母国通貨での表記が望まれ,契約通貨からレート変換した値を算出し表示し,管理者が
効率的に業務を遂行可能としている。
4.3
時差対応
WWePro で利用必要な日時を分類すると,図5に示すとおり,
a)案件作成日時等,タイムスタンプとして利用し時間まで考慮する日時
b)発注日等,時間(時:分:秒)を考慮しない業務処理日
の2パターンに分類される。
-6-
日立グループ内国際調達システム(WWeProcurement)の開発
案 件 作 成 日 (G M T )
1 / 1 / 2 0 0 7 3 :0 0
発注日
1/1/2007
a)タイムスタンプ
案 件 作 成 日 : 1 2 / 3 1 1 9 :0 0
発 注 日 :1/1
案 件 作 成 日 : 1 / 1 1 2 :0 0
発注 日 :1/1
b)業務処理費
アメ リカ
時 差:-8
日本
時 差 :+9
図5
タイムスタンプと業務処理日
データベースに登録する案件作成日等のタイムスタンプはGMT(世界標準時)とした。画面に表示す
る時は,事業所ごとに設定されている時差マスタにて時差換算し表示する事で,データベース上1つの時
間を事業所ごとに表示を変えている。
業務処理日は,日本のユーザが 1/1 12:00 にアメリカに発注した場合,日本時間 1/1(12:00)はアメリカ
時間だと 12/31(19:00)になる。従って,アメリカ側から見た場合の発注日は 12/31 となるが,WWePro では,
発注日は発注者側(本例では日本時間)の日付であると考え,日本・アメリカ両方の画面とも発注日を 1/1
と表示している。
4.4
法制度・税・文化への対応
開発にあたり,最も大きな課題となったのが,法制度・税・文化の相違である。特にレポート機能での
相違が顕著であった。
当初,レポート機能開発にあたっては,書式や計算方法を極力統一し,機能の集約をはかり,開発コス
トを抑止することを検討していた。しかし,国/地域間のギャップは予想以上に大きく,個別の対応が必
要となった。ここでは,主な対応について Invoice(請求書)レポートを例に説明する。
(1) 対応方針
仕様検討時,Invoice レポートは,各国/地域により,異なるレイアウトの仕様であったが,国/地域間
での取引もある事から,レイアウトは原則統一する方針とした。
レイアウト統一にあたっては,各国/地域共通の表示項目と,個別の表示項目を明確にした上で,共通
項目は固定表示,個別項目は各国/地域毎に変動表示させる仕様とした。
以降具体的な方法について記載する。
(2) タイトルの表示変更
Invoice レポートの相違点を洗い出した結果,表4に示すとおり,タイトルが相違することが判明した。
表4
拠点
香港
上海
シンガポール
Invoice タイトルの相違点例
承認前タイトル
Proforma Invoice
Payment Request
Proforma Invoice
-7-
承認後タイトル
Commercial Invoice
Payment Request
Tax Invoice
承認前タイトルのみ,香港とシンガポールで同じであるが,承認後のタイトルは全て異なっている。そ
のため,国/地域および承認状態によってタイトルを動的に変更表示する仕様とした。
(3) 税・諸掛欄の表示内容変更
Invoice の金額欄は,国/地域毎の消費税(Tax)やソフトウェア税(Royalty)などの税や諸掛への異なる対
応が必要であった。
税は大きく表5に示す3パターンに分類される。
表5
No
1
2
3
税種
消費税
ソフトウェア税
税なし
税表示名称
TAX
Royalty
TAX
税パターン
税額欄
税率・金額を表示
税率・金額を表示
税率・金額をゼロで表示
総合計
総合計に税金を含む
総合計に税金を含まない形式
総合計に金額を表示
また,諸掛も事なり,仕様検討した結果,以下の7項目を標準とし,国/地域固有の諸掛を任意設定で
きる仕様とした。
(a) Air/Ocean Freight (飛行機,船舶運賃)
(b) Inland Freight (国内運賃)
(c) Insurance (保険費)
(d) Bank Charge (銀行手数料)
(e) Commission (仲介手数料)
(f) Forwarder Charge (運送者諸掛)
(g) Tooling (冶工具費用)
上記の税と諸掛を組み合わせ,表6に示す6パターンで国/地域毎の Invoice の税・諸掛の表示に対応
した。
以上の述べた対応を行なうことで,レポートの国/地域毎の法制度・税・文化に対応することができた。
-8-
日立グループ内国際調達システム(WWeProcurement)の開発
表6
No
1
消費税
有
ソフトウェア税
無
諸掛
無
税と諸掛の組み合わせ
例
総合計に税金を含む。税金は外税表示。
Total
Tax(5%)
Grand Total
2
3
有
無
無
有
Total
Tax(5%)
Sub Total
:
:
:
1,000,000.00
50,000.00
1,050,000.00
Air/Ocean Freight
Inland Freight
Insurance
Bank Charge
Commission
Forwarder Charge
Tooling
Misc.charge
:
:
:
:
:
:
:
:
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
7,000.00
Grand Total
:
1,057,000.00(SGD)
税金を Royalty で表示。Royalty は内税表示。
Total
(Royalty(3%)
Grand Total
4
5
無
無
有
無
:
:
:
無
無
1,000,000.00
30,000.00)
1,000,000.00(SGD)
NO.3に諸掛を表示。
有
Total
(Royalty (3%)
Sub Total
:
:
:
Air/Ocean Freight
Inland Freight
Insurance
Bank Charge
Commission
Forwarder Charge
Tooling
Misc.charge
:
:
:
:
:
:
:
:
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
7,000.00
Grand Total
:
1,007,000.00(SGD)
無
1,000,000.00
30,000.00)
1,000,000.00
税率,税金をゼロで表示する。
Total
Tax(0%)
GrandTotal
6
1,000,000.00
50,000.00
1,050,000.00(SGD)
NO.1 に諸掛を表示。
有
無
:
:
:
:
:
:
1,000,000.00
0.00
1,000,000.00(SGD)
NO.6に諸掛を表示。
有
Total
Tax(0%)
Sub Total
:
:
:
1,000,000.00
0.00
1,000,000.00
Air/Ocean Freight
Inland Freight
Insurance
Bank Charge
Commission
Forwarder Charge
Tooling
Misc.charge
:
:
:
:
:
:
:
:
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
1,000.00
7,000.00
Grand Total
:
1,007,000.00(SGD)
-9-
5
おわりに
これまで述べてきたとおり,WWePro は,グローバル対応を前提とした日立グループ共通国際調達業務を
実現する基幹業務システムであり,本格的なグローバル対応の基幹業務システムの開発であった。
そのため,開発作業を進める中で,日本国内を対象にしたシステムでは発生しえない課題や問題に対処
し解決してきた。開発過程では,苦労することも多かったが,グローバルに展開する基幹系業務システム
開発に先駆的に取り組むことにより,何より貴重なノウハウを得る事ができた。
WWePro は 2005 年 9 月本番稼動以降,これまでに,国内 21 事業所,12 グループ会社,海外 20 拠点(中
国 12,アジア 3,欧米 5),合計 53 事業所・グループ会社・海外拠点で利用され,アジア・中国地区の取引
を中心とした日立グループの国際調達業務の効率向上に寄与しているとともに,現在も適用拡大を推進中
である。
-10-