月例会ミニセミナー海外取引における輸出入通関業務の一実務について

多摩西部診断士会での説明資料(6頁)2011/11/22
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菅原利雄
海外取引における輸出入通関業務の一実務について
□関税法では、輸出入を行なう者はその貨物について税関に申告し、輸出入の
許可を受けなければならない。税関では申告された貨物について、申告書類
を審査(実行関税率表・輸出統計品目表における分類が正しいかどうか)し、
必要に応じて貨物そのものを検査(品名、数量等が申告通りであるかどうか)
し、輸出入に関し許可・承認等を必要とする貨物について、所定の手続きが
行われているかを確認します。
□近年、貨物の輸出入量の増加に伴い、通関業務の迅速化への要請が高まり、こ
れに応えるため、NACCS(通関情報処理システム)及びCIS(通関情報
総合判定システム)を開発し、これによりハイリスク貨物(不正に輸入される
可能性が高い)とローリスク貨物とを的確に選別する事により、適正・迅速な
通関に大きな効果をあげている。
今回は、企業における輸出入の通関時に発生する実務上の問題点と対応につい
て経験を踏まえた実務の一面に触れる事にする。
I.輸出の業務手続きの主要な流れ:
(コマーシャルベース)
輸出製品の決定
取引先の発見
許可・申請手続き
輸出許可
船腹予約
船積完了
信用調査
輸出交渉と契約
保税地域への搬入
通関書類作成
B/L受領--------------------取引銀行と交渉
L/C受領
輸出申告
代金受領
II.輸入の業務手続きの主要な流れ:
(コマーシャルベース)
市場調査
輸入商品の決定
L/C開設依頼
取引先の発見
船積通知受領
手形決済
貨物引取り-------------------------------
信用調査
輸入交渉と売買契約の締結
輸入書類受領
輸入申告
輸入許可
国内販売
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■通関から船積み(受取り)までの実務の概要について:
□
輸出業務の場合、商品を船積みするまでの手続きを大きく分けると、通関準備、
通関、船積みでこれらを全部輸出者本人で行ってもいいが、通常、大半の場合は
通関業者(Customs Broker)に依頼する。これと同時に、申し込み手続きに従
い、具体的に貨物を自社工場からどこへ移動するか(ピッキング場所)を同時に
考える事が必要である。
通関のポイントは、税関は書類上から適法な貨物を輸出しているかを管理し、貨
物は税関の指示許可に従って船会社が取り扱っている。
(保税地域から税関の指示
を待って埠頭から本船への船積み)しかし、実際の手続きは海貨通関業者が輸出
者の委託を受けて殆ど全ての手続きを代行している。
<輸出手続きに必要なドキュメント>
○ 輸出申告書と添付書類として下記が必要である。
・送り状(タイプ別の INVOICE)*
・輸出許可証、承認書
・Packing List(包装明細書)、
・容積重量証明書(Certificate&List of MeaSurement/Weight)
・保険証書
等
○ 航空貨物は手続きが簡素化されている。
□ 輸入手続きは水際作戦が必要である為、審査は厳しい。輸入手続きが輸出と違
うところは、本船からの陸揚げを本船入港後船荷目録(Manifest)を税関に直ちに
提出し、B/L(船荷証券)を船会社に提示し、それから輸入手続きを進める。
細かい手続きは基本的な部分は輸出と同じである。
<輸入手続きに必要なドキュメント>
○ 輸入申告書と添付書類として夏季が必要である。
・輸入許可証、承認書
・送り状(タイプ別の INVOICE)*
・Bill of Lading(船荷証券) ・Packing List は必要がある時提出
・その他としてケースに応じて、原産地証明書、特恵原産地証明書
等
○ 航空貨物の扱いは輸出と同じ
□*の注釈:
INVOICE のタイプとその内容
・Commercial Invoice(商業用)と No Commercial Invoice(無償品)
・Sample Invoice
(見本送付につける)
・Proforma Invoice (引き合いに対する回答価格)
・Sales Invoice
(売買契約内容の通知)
・Indent Invoice
(委託販売結果の通知)
・Consular Invoice
(特恵関税国への証明としての領事送り状) (2/6)
■通関手続時に発生する実務面での具体的な問題について
○輸出及び輸入の各手続きや必要なドキュメントの概要については、前頁で示し
た通りであるが、実際の通関段階に移行した段階では色々な諸問題が発生して
タイムリーな手続きが行われない事が発生する。私が過去の実務で直面した問
題を特にノーコマーシャルベース(無償品扱いケース)で見た場合は以下のケ
ースが多い。
□輸出通関時での実務上の問題:
・中堅規模以上の企業では、乙仲と呼ばれる通関業者との業務委託契約を締結し
ているので大きな問題はないが、業者を通じ時々下記の指摘を受ける事がある。
(1) 出荷時の Invoice Value の修正依頼(製造原価表提出の要求依頼)
(2) 化学薬品や関連の原材料出荷の場合はMSDS シートの義務添付
(3) 積み荷内容が細かい場合は、その明細内容の説明やリスト提出依頼
(4) その他、ケースにより内容問合せがあるが、輸入に比し問題は少ない
□輸入通関時での実務上の問題:
・輸入の場合は、Shipper(出荷人)のドキュメントベースでの内容面の不備や
ディスクレがあれば輸入側の Consinee 企業への影響が大きく、タイムリーな
通関ができずに R&D 部門での評価の遅れや、コマーシャルベースでは営業の
機会損失につながり損害を被る事になる。従い、Shipper サイドへの管理レベ
ルの向上要請や Consignee サイドからの指導、改善啓蒙活動が重要となる。
具体的な発生ケースとしては以下のレベルのものが多くみられる。
(1) Invoice の記載数量と現物数量との違いや B/Lとのディスクレ
(2) Invoice の Declaration Value での計算間違いや価格の妥当性
(3) No coma I/V できているが実際は Coma I/V で扱うべき取引ケース
(4) 船荷貨物での Original B/L の紛失ケースで貨物引取りが不能なケー
ス(Sea Cargo の場合3枚の B/Lが発行されるが、1st が必要)
(5) 上記の B/L の Document において、Traffic/Shipping Manager の
裏書きサインがなく、引取りを拒否されるケース
(6) Air Cargo でも Sea Cargo でも共通して大きな問題は Invoice が
添付されていないケース
(7) 原産地証明やMSDS シートが添付されてなく、輸入申告が不能
(8) その他 ケースバイケースでの臨機応変に対応が求められるケース
*(備 考)輸入通関手続きの場合は、輸出時のケースと違い Consignee サ
イドでのマネジメントコントロールは難しい。従い、次頁以降の対応が求めら
れる。
(3/6)
■通関業務における企業側の対応の進め方
○海外業務を行っていく企業において、前記問題点を認識しながら通関業務を
効率的に進めていくには輸出と輸入の各業務に分けて以下の取組みを図って
いく事が求められるが、業務の改善余地としては前述の通り輸入業務の方が
輸出の場合に比して検討領域の分野と改善項目が多い。
□輸出業務の場合の対応:
企業は、通常の場合乙仲との通関業務の委託契約を結んでいるので、手続き
面での大きな問題は特に発生しない。従い、企業側としては複数の乙仲業者
からQCD面での管理ポイントから優秀な取引先を選別化し、少数精鋭グル
ープとの取引強化と密なるコミュニケーションを図っていく事が重要となる。
(基本的には複数業者との取引方針で価格やサービス面を競合させる事とリス
ク管理面からの通関業務を迅速に遂行させる事がベースとなる)
□輸入業務の場合の課題への対応の進め方:
輸入の場合、Consignee サイドでは Shipper 側のドキュメントの不備や輸出
時の手続きのミスはコントロールできないので、基本的には Shipper サイド
での管理レベルを上げるための改善啓蒙活動や Shipping 業務の指導とアドバ
イスが必要となる。また、船便の場合は Original Document を必要としない
簡略化された通関手続きもあるので、その方向をアドバイスし Shipping 時の
手配業務を標準化していくやり方を指導する。以下に発生頻度が多い具体的
な事例で説明する。
I.Document の内容不備やデイスクレへの改善(Invoice のケース)
(1)現地のローカル出荷担当者の場合は、当方から日本での輸入通関時
に問題となり通関手続きが大幅に遅延し、開発評価のタイミングが
ズレて迷惑を受けた事を伝え、次回の Shipment での改善点を具体
的にE−メールで連絡し、啓蒙を図りながら改善を進める。
(2)日本人のスタッフがいる子会社の場合は、ローカル担当者の改善活
動をフォローさせ、改善の定着活動を支援要請する。
II.船便貨物の場合の Orig.B/L の紛失対応や簡略された手続きへ移行改善
(1) Orig.B/L 紛失時の2nd,3rd B/L の送付依頼
(2) L/G(Letter Guarantee)の発行で貨物と交換交渉
(3) Orig B/L が不要となる暫定B/L 方式への切り替え
( ①Surrenderd B/L 方式、②Way B/L 方式)
(4) Orig.B/L に裏書きサインのない場合は船会社と交渉し、Consig,
サイドのサインで代行申請
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■輸入通関業務における改善事例の紹介
<事例の前提条件>:ここで紹介する事例は、企業のR&D組織部隊における
ノーコマベースの取引であるので、以下の手続きが一部簡素化されて
いる。
(①売買契約交渉、②信用状(L/C)発行がなく、更には会計
処理の手続きが一部スキップされている)
(輸入業務の場合の業務フローの概略図)
・海外工場
・海外販社
・R/D の拠点
国内のR/D
ピックアップ依頼
・海外駐在オ
部隊(設計・開発)
フィス
源流管理
*1
・輸入手続きの依頼
・他社品購入、パーツの購買依頼
指 示
輸出者
輸入者
出荷 手配
Shipper 企業
申 告
乙仲 業者
搬 入
輸出入総括室
税
関
許 可
通関業者
貨物の
搬入
D/O の発行
*2
・OEM企業
例外処理のルール化
・海外の外注
テスト機関
本
船
・海外のサプ
ライヤー
航空会社
船会社
(P/Oのケース)
・Invoice
(注)P/O の場合は
有償申告で外国送金
の手続きが必要となる
・AWB
・原産地証明書他
・B/L 等の船積み
Documennts 類
・D/O 交換手続き
・海上保険の手続き
(5/6)
上記の黒の矢印が業務の改善点であり、業務の標準化によるマニュアル化を図った事例
☆ <具体的な業務改善のポイント>
I. *1の源流管理の内容:
輸入通関時でのトラブルや申告許可の遅れを防ぐ為には、Consignee
企業として源流マネジメントの考え方が重要であり、具体的には以下
の面から改善を実施した。
・Shipping Advice 又は Information の事前
情報連絡の仕組み構築と啓蒙指導
*1源流マネジメントのポイント
・出荷時の現品管理確認と現地通関業者との
緻密な連携による情報管理面の強化指導
・Consignee サイドでの輸入通関トラブル発
生内容を現地に連絡し、具体的な改善活動
を要請
・Document の簡素化手続きの指導と定着化の
指導実施
(Surrenderd B/L Way B/L方式へ変更)
II.*2の例外処理のルール化の内容:
船便の場合は、貿易の商慣習として、裏書きサインのある Orig.の
B/L Document が貨物の引取り条件として必要となるが、B/L
の紛失や、Shipper サイドのミスで積荷なしが発生するので、緊急
時の例外対応のやり方を以下に標準化
*2例外処理のルール化のポイント
・B/L がない場合のL/G 発行による交換交渉
について
・航空貨物で Invoice がない場合は、
Consignee
側で Proforma I/V を作成し、乙仲に貨物の
検品処理を指示
・不足する Document をShipper に連絡し、
緊急通関の必要性と対応を相談する
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