本格的な太陽光発電産業の成長に

SEMIの最近の活動から
思い起こせば最初にエアコンを購入したのは昭和52年に大阪に転勤になり、初めて経験
した大阪の夏でした。気象庁の統計によると、その年の東京(練馬区)の7月の平均気温は
25.3度、最高気温は 29.7度。大阪ではそれぞれ 28.1度、 32.6度で、約 3度の違いでした。
当時エアコンは贅沢品で、練馬にあった実家の小生の部屋にはエアコンはなく扇風機のみで
した。しかし、寝付けないことなどなかったので、たった3度が体感上は大きな差であったよう
です。
さて、今年のデータを見ると、最も暑い月は8月で、大阪では平均が30.1度、最高が35.0
度。東京ではそれぞれ27.3度、32.4度とのこと。この11年で概ね3度の上昇ですが、どこに
居ても冷房が完備している現在では、外の気温の体感温度は実際以上であると思われます。
SEMIジャパン 代表
中川 洋一
国際的な地球温暖化防止への議論はますます高まっておりますが、 7 月 30 日から 8 月
1日までの3間、東京ビッグサイトでPVJapanを開催いたしました。SEMIが初めて日本で主催
する太陽光発電関連の展示会でしたが、お蔭様で大変な成功を収めることができました。こ
の展示会は太陽光発電協会(JPEA)殿との共催であり、さらに再生エネルギー協議会殿、産
「再生可能エネルギー世界フェア」と
業技術総合研究所(AIST)殿のイベントと同時開催で、
いうさまざまな再生可能エネルギー技術を網羅する大変異議のある展示会となりました。
400社、720小間のご出展をいただき、3日間の入場者数は約4万5千人にものぼりました。
洞爺湖サミッット後のためか、某政党から10名近い国会議員団、また経済産業省資源エネ
ルギー庁長官殿、審議官殿のご視察を賜ったことも注目の高さの象徴と言えます。
一方、米国では7月15日から17日の間、例年通りサンフランシスコにてSEMICON West
を開催いたしました。今回はSEMIとしての初めての試みで、INTERSOLAR殿が主催する太
陽光発電展示会との併催となりました。1,121社から出展をいただき、来場者は昨年から
19%の伸びを見ました。アンケートによると、来場者の興味がINTERSOLARのみと回答し
たのは5%で、ほかは両者あるいはSEMICON Westとのことでした。
さて、前号で「小生は先日通信販売で上着を皴にならないようにA4サイズに折りたんで
収納する鞄を購入しました。これで、女性のみなさんのようにシャツだけの爽快な服装で通勤
できるはずです。その結果は次号で発表いたします」とご紹介しました。まず、A4サイズは間
違いでB4かもう少し大きいかも。でも、上着とネクタイを鞄に入れての通勤は快適です。普段
使用している通勤鞄より大きくはなりますが、ワイシャツ姿の通勤は気持ちよく
(あくまでの比
較論ですが)
、上着を腕に抱えた時に汗で汚れることも防げます。これ、お薦めです。
SEMI News • 2008, 9-10
Contribution Article
本格的な太陽光発電産業の成長に、健全な発展を
有限責任中間法人太陽光発電協会 代表理事
京セラ株式会社 代表取締役社長 川村 誠
「持続可能な社会」への転換。それは、同じ地球に住まう我々
大、製造装置産業界の躍進、
が、後世のために何としてもその端緒を開かなければならない
モノづくりの標準化が一気
大きな課題です。
に進んだことは見逃せない
代表的な再生可能エネルギーである太陽光発電は、化石燃料
のような偏在性によって国家間に利権や緊張感を生むことがな
事実です。
このような活性状態は、産
く、地球上の誰もが享受できる
「公平・平等なクリーンエネルギ
業が成熟化していくために必要なプロセスであると考えます。
ー」です。また、ユーザーが自らの意思で導入できることは、社
構造変化に伴い、国内メーカーも技術にいっそうの磨きをかけ
会構造の「転換」
を市民レベルで自発的に進められるカギにも
て、確かなモノづくりや他にはない優位性を追求していくものと
なります。
思います。
このたび、私が代表理事を務めさせていただくことになった
ただし、活性状態も一つ方向を間違えば、混沌状態となります。
は、1987年の設立以来、一貫して太陽
太陽光発電協会
(JPEA)
品質が軽視されたり、市場をかき乱すような価格競争になると、
光発電の普及促進と産業発展に力を注いでまいりました。
産業の発展をダイレクトに阻害することにもなり得ます。我々
「地球温暖化」
をテーマとす
本年7月には、北海道洞爺湖にて
は技術力をもって、魅力ある製品、価値ある製品を世界に提供し、
るサミットが開催され、エネルギーと環境問題が喫緊課題とし
常に「健全な成長」を引っ張るリーダーとして機能しなければ
て再認識されると同時に、日本がその議論の先導的役割を担い
なりません。
ました。そのような中、太陽光発電協会も7月1日をもって法人
化という新しい門出を迎えました。
また、7月末には、SEMIと太陽光発電協会の共催にて、太陽光
を開催いたしました。
発電に関する総合イベント
「PVJapan 2008」
太陽電池メーカーは、ここ数年の間、原料調達の逼迫に直面し
たことで、旺盛な需要に反し需給ギャップが生まれる事態に直
面しました。
日本メーカーの多くは原料確保に動いた海外メーカーの後塵
3日間をかけて、産・学・官・民が一堂に会し、多岐にわたる太陽光
を拝するかたちとなりましたが、一方で、シリコン原料を減らし
発電産業界の情報発信・情報交換がこの場で繰り広げられたこ
て製造する太陽電池の開発も成果を上げています。2010年以降、
とは、将来振り返ったとき、
「新しい時代への分岐点だった」
と
原料不足は緩和されていく見込みです。
も言うべき一つのメルクマールとして記憶されるのではないか
シリコンの原料供給が市場に整うころ、新技術が実用化され、
と思います。また、盛大かつ成功裡に開催できたことはたいへん
また結晶系以外の薄膜系や化合物半導体系といった新材料の
意義深く、大きな成果としてSEMIのご関係各位とともに喜び合
太陽電池も市場の一角を占めると思われ、いよいよ本格的な競争
いたいと思います。国内の太陽光発電展示会において、3日間で
に突入することになります。また、太陽電池の世界市場予測では、
4万5,000人余の来場者を数えたことは、SEMIとの共催、また製
5年後(2012年度)
、現在の3.4倍から5.2倍になると言われてい
造装置産業の皆様による多くのご出展による相乗効果の賜物で
ます。
あり、太陽光発電に関わる
「産業構造の変化」
をも象徴している
ものと捉えております。
国内メーカーはかつて経験しなかった加速度的な業界構造の
変化に対峙していますが、これまで数々の課題を克服してきた
かつては市場もなく、一部の太陽電池メーカーがただ壮大な
経験とそれに裏打ちされた確かな技術力、そして確実に安定的
夢だけを信じて事業に勤しんできた一時代を経て、太陽電池は
な供給を可能とする経営基盤に基づき、世界にイニシアティブ
国境を越え、一躍、国際舞台に踊り出て
「万国共通語」
とも言う
をとっていけるものと思います。我々は、各国・各地域の積極的
べき域に入った、そういう隔世の感がございます。
な導入策に呼応して増大する需要に量的側面で応えることはも
グローバルに年率2桁の需要が沸き立っている中、太陽光発電
とより、質的向上によって市場の満足を高めることがカギにな
産業に関連する業種は多岐にわたって裾野が広がり、川上から
ると考えます。その品質、長期信頼性を守り続けることはメーカ
川下までさまざまなビジネスモデルが出現し、現在、参入企業は
ーの使命であると私は信じています。
300社を超えると言われています。まさに産業として活性化して
いる証だと思います。
また、
海外新興企業や異業種の新規参入拡
9-10, 2008 • SEMI News
今後とも、SEMIとともに、太陽光発電産業の健全な発展のた
めに尽力してまいりたいと思います。
1
PVJapan 2008 Report
PVJapan 2008 開催報告
−大きな成果を上げ、2009年開催は幕張メッセへ−
去る7月30日∼8月1日までの3日間、SEMIと太陽光発電
との共催イベント
『PVJapan 2008』が開催されまし
協会(JPEA)
た。これはSEMIにとって初めての太陽光発電に特化した大型イ
ベントで、経済産業省、環境省、東京都、
(独)
新エネルギー・産業
技術総合開発機構からも後援をいただきました。また
「第3回新
エネルギー世界展示会(再生可能エネルギー協議会主催)
」
も
7月28・29日の両日には、
同時期・同会場で開催されました。
さらに、
近接する日本科学未来館で、
(独)
産業技術総合研究所太陽光
発電研究センターの成果報告会が開催され、内外の多くの研究
者、技術者が集いました。
これらの一連の行事は「再生可能エネルギー世界フェア」
と
して一体的に企画運営され、華やかなPVウィークを構成するこ
とができました。
直近の洞爺湖サミットでの地球温暖化防止に関する議論、福
田ビジョンの発表もあり、太陽光発電への期待が高まる中、NHK
をはじめメディアからも注目を集め、会場となった東京ビッグ
サイトは多くの来場者で溢れかえり、終日熱気に包まれました。
PVJapan 2008としての出展社数は、221社・団体/527小間、フェ
ア全体としては400社・団体/720小間の規模となり、来場者数も
当初の予想を大幅に超えるものとなり、大きな成果を上げるこ
とができました。
表1 再生可能エネルギー世界フェアの来場者数
日付
天候
来場者数
7月30日
(水)
7月31日
(木)
8月1日
(金)
合 計
晴れ
14,698
14,299
15,550
晴れ
晴れ
44,547
(PVJapan 2008と第3回新エネルギー世界展示会の来場者数合計)
■ 展示会場
展示会場では、セルメーカーを中心に非常に質の高い展示が
行われました。
三洋電機は世界最高効率のモジュールで強くアピールし、京
太陽電池とLEDを用いた野菜生産のプロセスを発表しました。装
置では、アプライド マテリアルズが、同社の製造ラインを利用
してインドMoser Baer Photo Voltaicで製造した2.2m×2.6m
(5.7㎡)
の薄膜シリコン太陽電池を展示し、日清紡は新開発の
ラミネーターを実機展示、また、アルバックはプラズマCVD技
術を強くアピールし、エス・イー・エスは結晶系のターンキーソ
ルーションを発表しました。
各社とも内容の濃い展示を行い、来場者から満足の声を多く
セラ、三菱電機も最先端の高効率モジュール製品を展示しまし
いただきました。
た。ホンダのブースでは、アシモが説明員として大活躍、低炭酸
¡スペシャルステージ
ガス排出社会構築に向けたビジョンを熱く語っていました。昭
展示会場内の一角に設けられたスペシャルステージでは、表2
和シェル石油は2010年の1GWCIGS系ソーラーモジュール工
に記載の8つのセッションが開催され、ビジネスセミナー、
場の構想を提示し、シャープも結晶系に加え1GWの薄膜系工場
TechXPOT
(太陽光発電製造技術セミナー)
共にほとんどのセッ
建設計画を展示し、薄膜系の太陽電池を強くアピールしました。
ションが満員となり、急遽椅子を増やして対応するなど、いずれ
一方、三菱化学は、有機の塗布式太陽電池を展示すると同時に、
(P.4参照)
。
も400名を超える聴講者で賑わいました
2
SEMI News • 2008, 9-10
PVJapan 2008 Report
表2 スペシャルステージプログラム
開催日
7月30日
7月31日
7月31日
7月31日
7月31日
8月1日
8月1日
8月1日
タイトル
マーケットセミナー−最新の市場動向を分析−
TechXPOT(太陽光発電製造技術セミナー)
セッシ
ョン1「結晶シリコン太陽電池技術」
スペシャルステージ特別講演 野口 健
「アルピニストの目から見た太陽電池と地球環境」
太陽光発電ビジネス入門
(独)
産業技術総合研究所 太陽光発電研究セン
ター研究概要
TechXPOT(太陽光発電製造技術セミナー)
セッシ
ョン2「薄膜太陽電池技術」
TechXPOT(太陽光発電製造技術セミナー)
セッシ
ョン3「新世代太陽電池技術とPV要素技術」
スペシャルステージ特別講演 セルカン・アニリール
「
「光」
と
「科学」
の融合によるインフラフリー空間への挑戦」
■ 主要イベント
¡再生可能エネルギー世界フェア オープニングセレモニー
来賓に経済産業省資源エネルギー庁新エネルギー対策課長
渡邊昇治氏を迎え、再生可能エネルギー協議会代表 黒川浩助
氏、第3回新エネルギー世界展示会委員長 横山伸也氏、JPEA
事務局長 岡林義一氏、SEMI プレジデント兼CEO スタンリー・マ
イヤースによる挨拶とテープカットが行われました。
¡再生可能エネルギー世界フェア 基調講演
前出の黒川氏の挨拶に続き、経済産業省資源エネルギー庁省
エネルギー・新エネルギー部長 羽藤秀雄 氏、駐日ドイツ連邦共
和国大使 ハンスヨアヒム・デア 氏、米国ペンシルベニア州地域
振興・経済開発省長官 デニス・ヤブロンスキー 氏、フランホーフ
ァー日本代表部研究所代表Dr. ロレンツ・グランラートを講師に、
世界フェアにふさわしい講演が行われ、630名が参加されました。
¡PVJapan 2008基調講演
7月30日15:00∼17:20、太陽光発電技術研究組合 桑野幸
徳理事長の司会により、次の4つの講演が行われ、500名近い聴
講者が太陽光発電に関する最新動向に耳を傾けました。
・日本PV産業の今後と挑戦
JPEA 代表理事 川村 誠 京セラ社長の代理として講演した湯
川 勲 京セラ顧問が、
「足るを知れ」
という言葉で持続的発展の
必要性を指摘されました。
・太陽光発電製造装置メーカーの課題と挑戦
Applied Materials, Inc. Corporate Vice President, General
¡特別展示
Manager Solar Business Group チャールズ・ゲイ氏が、装置側
図解・太陽電池製造プロセスコーナー、太陽光発電システムに
によって、モジュー
からの提案として、大型薄膜モジュール
(5.7㎡)
関する産業情報・世界動向コーナー、ソーラーINDEX、自治体コ
ルコストを最終的に1ドル/ワット、設置コストやBOSのコストダウン
ーナーが設けられ、連日多くの方々が集まり、熱心に見学する姿
を進め、発電コストを2012年にも10セント/kWhまで下げる
が見られました。
との目標を提示されました。
¡アカデミアエリア
・インド政府の新エネルギー政策と
「太陽光発電 - 永続的な再
応用物理学会と学術振興協会第175委員会の協力で設置さ
生可能エネルギーの選択」
れたアカデミアエリアは、学生だけでなく先生方も自ら説明に立
在日インド公使R. ラマヌジャム 氏が、太陽光発電の重要性と
たれ、
研究紹介と熱心な議論が行われた。
産業界と大学との交流
インド政府の新エネルギー政策を紹介後、Moser Baer Photo
を促進する場として、SEMIとJPEAならではの展示エリアとな
Voltaic Ltd. 副社長技術戦略担当 数野忠雄 氏が、太陽光発電
り、大変好評をいただきました。
は多くの課題を解決する技術であると力説されました。
¡アルピニスト野口健特集コーナー
・SEMIのPV業界への取組み
環境変化を受けやすい高緯度地域の温暖化による氷河の衰
SEMIのスタンリー・マイヤーズは、JPEA等の業界団体と協
退等、地球の置かれた状況と我々の責任を教え、太陽光発電を
力し、SEMIメンバーとともにPV産業の発展を支える活動を展
はじめとする再生可能エネルギーの重要性を訴えました。
開していきたいとの抱負を述べました。
¡自治体コーナー
¡再生可能エネルギー世界フェアVIP レセプション
自治体支援の下、17の都道府県・市町村の太陽光発電導入
初日の夕刻に開催され、世界各地の太陽光発電産業ならびに
支援策や、温暖化対策に向けた活動をパネル展示し、身近に行
再生可能エネールギー産業に関わる約600名のエグゼクティブ
われている対策を来場者に見ていただけました。
が集い、盛大なレセプションが催されました。
9-10, 2008 • SEMI News
3
PVJapan 2008 Report
市場の現状を理解するために必用な多くの観点から、太陽光発
電産業を解説いただきました。日本政策投資銀行の清水 誠 氏
からは、日系メーカーが、専業メーカー主体の海外勢に対抗して
いくためには、材料・製造装置メーカーや建材メーカーなどとの
連携強化により、製品開発力の強化を図る一方、外部リソースの
積極的な活用も図りながら、
「経営のスピード」
を加速させる必
要性が力説されました。
¡TechXPOT
TechXPOTは製造技術に焦点を当てたセミナーで、
「結晶シリ
コン太陽電池技術」
「薄膜太陽電池技術」
「新世代太陽電池技
の3つのセッションが行われました。
術とPV要素技術」
■ PVJapan 2008関連セミナー概要
・結晶シリコン太陽電池技術
PVJapan 2008では、
「第 25回太陽光発電システムシンポジウ
三洋電機 丸山英治氏、ECN 小松雄爾氏、三菱電機 森川浩
をはじめ、同時期開催さ
ム」
「SEMI Tutorial太陽電池セミナー」
昭氏、そしてQ-Cells, Michael Bauer氏が発表されました。装置で
も含め、多彩
れた
「第4回太陽光発電研究センター成果報告会」
は、日清紡 片山 学氏、ブリヂストン 古口宗太郎氏から発表があ
なセミナーが開催されました。
りました。
¡第25回太陽光発電システムシンポジウム
・薄膜太陽電池技術
PVJapan 2008の中核イベントのひとつであるこのシンポジウ
三菱重工業 高塚 汎 氏、昭和シェル石油 櫛屋勝巳 氏、
(木)
、8月1日
(金)
の両日、
「めざせ!ソー
ムは、JPEA主催で7月31日
Sontor GmbH, Torsten Brammer 氏、旭硝子尾山卓司 氏、
ラー・にっぽん」
と題して、わが国の産官学の関係者による8つ
そしてコヒレント・ジャパン 五味 豊 氏より発表がありました。
のセッションが開かれました。最後に、国内主要太陽電池メーカ
・新世代太陽電池技術とPV要素技術
ー8社の事業責任者が参加したパネルディスカッションが行わ
桐蔭横浜大学大学院 池上和志氏、
理研計器株式会社 中島
れ、
各社の事業戦略紹介と、
今後のわが国の太陽光発電市場の
嘉之氏、プロデュース 大塚雅美氏、NPC橋本 徹氏、そして
活性化と産業の発展に向けての決意を示す共同コミュニケが発
AIST太陽光発電研究センター 菱川善博氏の発表がありました。
表されました。
¡第4回太陽光発電研究センター成果報告会
「再生可能エネルギー世界フェア」の幕開けのイベントとし
(月)
と29日
(火)
にお台場の日本科学未来館で開催さ
て、7月28日
れました。内外から400名を超える関係者が参加し、満員の盛況
ぶりとなりました。
¡SEMI Tutorial太陽電池セミナー
■ PVJapan 2009開催概要−出展社募集中−
PVJapan 2009は、会場を幕張メッセに移し、大幅に規模を拡
7月30日
(水)
と8月1日
(金)
に、それぞれ2時間半のコースと
は、国内外の太
大して、以下の日程で開催いたします。
『PVJapan』
して次のチュートリアルが実施されました。太陽電池研究の先
陽電池メーカー、製造装置・材料サプライヤ、太陽電池設置関連
端を行かれる先生方により、基礎から最先端技術、その展望まで
企業をはじめ、学会、研究機関、業界団体関係者、さらには太陽
幅広く解説がされました。
光発電に関心を持つユーザー、消費者が一堂に集い、展示会と
「結晶シリコン太陽電池」豊田工業大学 大下祥雄 准教授
豊富なイベントを通じて、情報の発信・交流を図るとともに、新たな
「CIS太陽電池」青山学院大学 中田時夫 教授
ビジネス機会創出の場となります。ぜひご出展ください。
「色素増感型太陽電池」東京理科大学 荒川裕則 教授
(JPEA)
共催
主催:SEMI、太陽光発電協会
「薄膜シリコン太陽電池」東京工業大学 小長井 誠 教授
(水)
∼6月26日
(金)
日時:2009年6月24日
■ スペシャルステージプログラム
会場:幕張メッセ
(4、5、6ホール)
¡マーケットセミナー
(予定)
同時開催:第4回新エネルギー世界展示会
(株)
資源総合システム 代表取締役社長 一木 修 氏からは、
「太陽光発電システム市場の分析」
と題し、太陽光発電システム
4
同時期開催:
(独)
産業総合技術研究所 第5回太陽光発電研究
センター成果報告会
(予定)
SEMI News • 2008, 9-10
SEMI Board of Directors
2008-2009年 SEMI 役員選出される
−日本からは過去最多の6名が就任−
去る7月16日
(水)
にサンフランシスコで開催されたSEMI年
次会員総会で、2008-2009年の役員が発表されました。
昨年 7月より SEMI会長の任にあった DuPont Electronic
Technologies, IC Fab Materials Business UnitのPresident Emeritus,
執行役員社長 丸山利雄 氏、
(株)
日立ハイテクノロジーズ 執行
役常務 中村 修 氏の2名が選出され、日本からの役員は過去最
多の6名となりました。ほかに台湾からDavid Peng 氏、欧州から
Eicke Weber 氏が選ばれ、役員は21名となりました。
Jerry Coder氏の後任として、SEMIの会長に米国Cymer, Inc. の
SEMI役員の選出について
Chairman and CEOであるRobert P.Akins 氏が選出されました。
SEMI役員の選出および再選は、年1回、正会員企業による投
Akins 氏は、1986年のCymer社創立以来、同社のChairman and
票で行われ、毎年7月に開催されるSEMI年次会員総会でSEMI
CEOを務めています。また、KLA-Tencor社の取締役、SEMIの
役員に就任します。役員の任期は1期2年で、改選により最長4
役員、カリフォルニア大学サンディエゴ校基金の理事、同校専門
期まで認められます。SEMI会長および副会長はSEMI役員か
大学院Irwin and Joan Jacobs School of Engineeringの諮問委
ら選ばれ、その任期はそれぞれ1年です。なお、Eicke Weber
員会メンバーでもあります。
氏については、SEMI President & CEOである Stanley T.
日本からは新役員として、
(株)
アドバンテスト 代表取締役兼
会 長 Chairman
Robert P. Akins
Chairman & CEO
Cymer, Inc.
副会長 Vice Chairman
J. C. Kim
CEO & Chairman
Songwon Edwards Ltd
役 員 Board of Directors
André-Jacques Auberton-Herve
President and CEO
SOITEC
Jerry Coder
Director Emeritus
DuPont Electronic Technologies
コバレントマテリアル
(株)
工学博士
代表取締役社長
香山 晋
(株)
アドバンテスト
代表取締役兼執行役員社長
丸山 利雄
Stanley T. Myers
President & CEO
SEMI
(株)
日立ハイテクノロジーズ
執行役常務
中村 修
Douglas A. Neugold
CEO
ATMI, Inc.
Stephen G. Newberry
President & CEO
Lam Research Corporation
ウルトラテックジャパン
(株)
会長
野宮 紘靖
9-10, 2008 • SEMI News
Myersの指名を受け、役員に就任しました。
David Peng
Chairman & CEO
Hauman Technologies Corporation
Mary G. Puma
Chairman & CEO
Axcelis Technologies, Inc.
Franz Richter
President & CEO
Thin Materials AG
Stephen S. Schwartz
Chairman, President & CEO
Asyst Technologies, Inc.
Michael Splinter
President & CEO
Applied Materials, Inc.
日立化成工業
(株)
執行役専務 営業本部長
戸川 清
Way Tu
CEO & President
Allegro Manufacturing PTE Ltd.
(株)
ニコン
取締役兼専務執行役員
精機カンパニープレジデント
牛田 一雄
Richard P. Wallace
Chief Executive Officer
KLA-Tencor Corporation
Eicke Weber
Director
Fraunhofer Institute for Solar Energy Systems
Professor
Albert-Ludwig University
前役員 Ex-officio
東京エレクトロン
(株)
代表取締役会長
東 哲郎
(株)
堀場製作所
代表取締役会長兼社長
堀場 厚
Archie Hwang
Chairman & CEO
Hermes Epitek Corporation
名誉役員 Directors Emeritus
Edward H. Braun
CEO & Chairman
Veeco Instruments, Inc.
Joel A. Elftmann
President
Custom Fab Solutions LLC
Kenneth Levy
Principal
Glen Una Investments
James C. Morgan
Chairman
Applied Materials, Inc.
Dan Quernemoen
Chairman Emeritus
Entegris, Inc.
(株)
ディスコ
名誉会長
関家 憲一
伯東
(株)
取締役名誉会長
高山 成雄
(株)
ニコン
相談役
吉田 庄一郎
Arthur W. Zafiropoulo
Chairman & CEO
Ultratech, Inc.
※順不同 2008年8月現在
5
SEMI Membership
SEMI新会員企業のご紹介
−日本で入会された会員企業をご紹介します2008年6、7、8月−
■ 会社名 1)
所在地、連絡先
(電話・URL) 2)
代表者 3)
設立
年度 4)
取扱製品/サービス
4)
半導体製造装置に向けたコントローラ用PCやFFU、サーボモ
ータ等の部品販売
■ 株式会社ヘッドストロング・ジャパン
■ 富士新素材開発株式会社
1)
〒105-6030 東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー30F
1)〒104-0031 東京都中央区京橋2-4-12 京橋第一生命ビル6F
1)
Tel:03-5470-0555 URL:http://www.headstrong.com
1)
Tel:03-3274-0021 URL:http://www.shinsozai.jp
2)
シニアマネージャー 殿村 真一
2)
取締役 児山 哲典
3)
1993年
3)
2005年
4)
経営コンサルティング:事業戦略立案、企業変革・再生支援、組織改
4)韓国ACM社製「炭素複合素材」
(SiC等)
によるダミーウェー
革、アライアンス戦略、マーケティング戦略、M&A支援、中長期経営計
ハをはじめ、半導体製造装置用各種治具等を輸入販売
画・予算作成、各種機能戦略立案(生産・営業・BPR・IT企画、等)
■ K square micro solution株式会社
■ いわて半導体関連産業集積促進協議会
1)
〒105-0013 東京都港区浜松町2-7-15 浜松町三電舎ビル
1)
〒020-8570 岩手県盛岡市内丸10-1
1)
Tel:03-3433-3321 URL:http://www.ksquare.co.jp/index.html
1)
岩手県商工労働観光部 科学・ものづくり振興課内
2)
代表取締役社長 湖上 峯一
1)
Tel:019-629-5552 URL:http://ww5.pref.iwate.jp/~hp0405/i-sep
3)
2007年
2)
会長 北山 博文
4)microSDカード販売、半導体関連ソリューション事業
3)
2008年
4)半導体関連産業の集積促進を目的とした産学官のプラットフ
ォームとして、2008年3月に216会員で設立
■ 大阪ラセン管工業株式会社
1)
〒555−0025 大阪府大阪市西淀川区姫里3-12-33
1)
Tel:06-6473-6151 URL:http://www.ork.co.jp
■ 株式会社ドキュメントハウス
2)
専務取締役 小泉 欧児
1)
〒193-0833 東京都八王子市めじろ台3-15-1
3)
1937年
1)
Tel:042-668-0131 URL:http://www.documenthousegroup.com
4)
弊社の半導体・FPD業界向け主要製品は、真空用フレキシブ
2)
代表取締役 本間 俊明
ルチューブ&ベローズ・真空用継手部品等
3)
1989年
4)製品マニュアル作成業務。ユーザサポートツールとして「解
り難いマニュアル」→「使い易いマニュアル」に作成
■ ブルカー・エイエックスエス株式会社
1)
〒221-0022 神奈川県横浜市神奈川区守屋町3-9
1)
Tel:045-453-1960 URL:http://www.bruker-axs.jp
■ 株式会社マイクロネット
2)
X線営業本部 本部長 黒澤 利行
1)
〒314-0135 茨城県神栖市堀割3-8-11
3)
2000年
1)
Tel:0299-90-1733 URL:http://www.mnc.co.jp
4)
多機能薄膜材料評価X線回折装置、ウェーハ自動搬送X線回折装
2)
代表取締役 山崎 郁太郎
置、2次元X線回折装置、面方位検査装置、電顕用EDS検出器
3)
1989年
4)産業用アプリケーションの開発経験より得た技術ベースをも
とに、リアルタイムOS、ソフトウェアPLCを提供
■ 日本マーテック株式会社
1)
〒530-0054 大阪府大阪市北区南森町2-2-9
1)
南森町八千代ビル7F
■ トーアメック株式会社
1)
Tel:06-4792-7375 URL:http://www.ma-tek.jp/
1)
〒105-0012 東京都港区芝大門1-2-13 第一丁子家ビル5F
2)
代表取締役 倉島 崇浩
1)
Tel:03-6834-2601 URL:http://www.toamec.co.jp
3)
2007年
2)
課長 秋山 康則
4)①TEM専門解析 ②リバース・エンジニアリング
(回路解析・
3)
1951年
6
プロセス構造解析)③デバイス故障解析
SEMI News • 2008, 9-10
SEMICON West 2008 Report
SEMICON West 開催報告
−太陽光発電・太陽熱発電の国際展示会Intersolarを誘致−
去る7月15日∼17日の3日間、24ヵ国・地域から1,130社を超
える出展社を得て、38回目となるSEMICON West 2008が開催さ
れた。今 年のハイライトは、何と言っても、Intersolar North
America 2008が同時期・同会場で初開催されたことである。
SEMIの会員企業の多くが太陽光関連製品・技術を擁しており、
会場全体にビジネスチャンスを窺う熱気が伝わる展示会となった。
SEMICON West 2008は、エルピーダメモリ株式会社の坂本社
長の基調講演によって幕を開けた。同社を利益の出せる会社に
変革して行くための施策、とりわけ他社との協業によりリソー
スなどの有効活用を図り、製品の種類など集中と選択をいかに
進めて来たかなどについて、熱弁を振るわれた。自ら先頭に立ち
では、Intel、IBM、Samsung、Hynix
ィングルーム
( DMMR )
トップマネージメントのイノベーションを推進していることを、
Qimondaなど、世界をリードする企業が連日早朝から夕刻まで会
企業のトップの方々を前に披露された。
議を行い、デバイスメーカーとサプライヤ企業のトップ同士が戦略的、
来場者にとっては、展示ブースでの製品発表のみならず、多彩
あるいはネットワーキングの場所として活用されていた。多く
なプログラムもSEMICON Westの魅力のひとつとなった。技術
の海外来場者、特にトップ経営者層が来場するには、こんなとこ
セミナー“ TechXPOT ”もすっかり定着した感がある。
ろにも訳があるようである。
Show-within-a-showと銘打って実施されるこのプログラムは、会
場内のステージで連日多くの来場者で賑わっていた。このほか、
ヨーロッパ最大級の太陽光
一方、
同時開催されたIntersolarは、
発電・太陽熱発電の国際展示会として2000年よりドイツで開催さ
「デバイス・スケーリングへの挑戦」
と題したセミナー、Test,
れており、今回はSemicon Westとのコラボレーションにより、初
Assembly & Packagingセミナー、エマージングマーケットにフォ
めて北米での開催が実現したものである。初回開催ながら、出展
ーカスしたMEMS、Nano、Flexible Electronicなど幅広いテーマに
は210社、総来場者数はSEMICON Westと合わせて18,000人以
関するセミナーが開催された。SEMICON Westでは新技術をは
上となり、いずれも開催前の期待を上回る数となった。太陽光関
じめ多岐に亘る情報を発信しており、地元米国はもちろん、諸外
連産業はこの数年間で急速な発展を遂げており、出展社は北米
国からも多くの参加者が熱心に耳を傾けていた。
を中心にヨーロッパ、アジアの各国から集まり、また中国やインド
また、会場内に設営されているデバイスメーカー専用ミーテ
等の新興メーカーの出展も目立っていた。
FPD International 2008開催のお知らせ
FPD International 2008(主催:日経BP社 共催:SEMI)
が来る10月29日
(水)
から31日
(金)
まで、パシフィコ横浜にて開催されます。日
本をはじめ、韓国、台湾、欧米から主要なパネルメーカーが一堂に集まり、液晶、PDP、OLED、電子ペーパーなど、ディスプレイ・デバイスの種
類も多様に揃うことから、FPD Internationalは世界中のFPD産業から最も注目される展示会となっています。また、部品、材料、製造/検査
装置といったFPDの製造を支えるキーカンパニーも多数出展し、今年もFPDの最新事情を一度に見渡せる3日間となります。
1994年の初回開催から数え、今年は15回目の節目の年であり、
「ディスプレイから始まるライフスタイル革命∼アンビエント&グリーン
∼」
をテーマとしました。壁や窓、机など、身の回りにあるものが必要なときにディスプレイになる。そんな我々の生活に溶け込んでいく
ディスプレイが「アンビエント・ディスプレイ」です。また、考慮しなければならないのが「環境保護(グリーン)
」であり、低消費力化、有害
物質の削減、さらに製造時におけるエネルギーの低減など、さまざまな取組みが必須となります。今後ますます発展するディスプレイ産
業の将来を象徴するキーワード、それが「アンビエント&グリーン」です。
FPD International 2008では、特設シアターでの対談や講演、主催者展示コーナー、基調講演やフォーラムプログラムなど、テーマに沿った
多彩な企画を用意しています。また、SEMIスタンダード関連イベントとして、FPD関連のグローバル安全ガイドラインを解説するセミナー
も開催されます。ぜひご来場ください。詳細はhttp://techon.nikkeibp.co.jp/fpd/まで。
9-10, 2008 • SEMI News
7
SEMI Standards
450mmウェーハ関連スタンダード活動について
−タスクフォースリーダーからの報告−
International 450mm PIC TFリーダー 小松 省二
本号「Standards」
欄の原稿は、International 450mm PICタスクフ
ォース
(後述)
リーダーとしてSEMIスタンダード活動にご尽力中の
2. デバイス工場内で使用するウェーハ用キャリアは、300mmで
採用されたFOUP方式を採用する。
3. FOUPはパージ機能を備えること。
小松省二氏に寄稿いただきました。
については、SEMI会員各位の多くが
「2012年450mmへの移行」
■ 450mm規格開発形態
450mm化の経済性・市場の不透明さや膨大な開発投資等の面か
SEMI規格の開発が始まったのは、ISMIによる19項目のガイド
ら懸念を表明しておられることもあり、本稿は
「業界・会員企業の発
ラインが発表された2007年7月のSEMICON Westからである。
展に役立つオープンで公正なグローバル標準化活動をサポートす
450mmのキャリアとロードポートを含むハードウェア規格開発
る」
との観点から、最近のスタンダード活動の一端をご紹介するこ
を目的に、International 450mm Physical Interfaces & Carriers
とを意図したもので、SEMIが450mmウェーハへの早期移行をサポ
Task Force
(略称:450mmIPIC-TF)
がNA-PIC
(North America
ートしていることを示すものではないことにご留意ください。
Physical Interfaces & Carriers)
技術委員会で承認された。この
450mmIPIC-TFは国際的な活動であり、北米地区・欧米地区・
アジア地区からおよそ100名近いメンバーが規格開発活動に参加
■ はじめに
ITRS
(International Technology Roadmap for Semiconductors)
において、
次世代ウェーハ口径として450mmを2012年にターゲットと
1)
したのは2003年版からである。
しており、北米地区からIntelのMutaz Haddadin氏と日本地区か
ら小生の2名がTFリーダとして活動を取りまとめている。
本450mmIPIC-TFの構造を図2に示す。
ウェーハの大口径化の目的はウェーハチップコストの削減の
本TFは、デバイス工場内で450mmウェーハを収納し各装置間
ためであり、これまでの歴史でたどってきたように、大口径化が
を搬送するための密閉容器であるIn-Fabキャリアと、In-Fabキャ
パターン微細化と並ぶ生産性の向上の手段である。
リアを開閉するためのロードポートを含めたキャリアと装置と
ISMI
(International SEMATECH Manufacturing
そのような中で、
のインターフェースの開発を行っている。このインターフェー
Initiative)の活動のアウトプットとして2007年のSEMICON West
スのうち、キャリアハンドオフと呼ばれるキャリア自動搬送装
において、“Unified ISMI 450mm/300mmPrime Factory Guideline”
置とロードポートとの受渡しに関しては、信号受渡しのタイミ
2)
が発表された。このガイドラインには、図1 に示すように19項目
(Information & Control)
技術委員会にも関連する
ング等がI&C
含まれており、この中の項目1から項目3が450mmに向けたガ
ため、
両技術委員会で情報交換を行いながら開発を進めている。
イドラインである。キーポイントは、以下の3点である。
1. プロトタイプ用としてウェーハ収納枚数は300mm同様、最大
25枚とする。
傘下のInternational 450mm Wafer TFにおいて、搬送テスト専
用のHandling Waferの規格開発が行われており、ウェーハ外形
図1
8
シリコンウェーハ規格については、シリコンウェーハ技術委員会
図2
SEMI News • 2008, 9-10
SEMI Standards
サイズ・公差・厚み等の情報交換を本TFと行っている。
シリコンウェーハをシリコン結晶メーカーから半導体デバイ
スメーカに輸送するためのシリコンウェーハシッピングボック
スについては、日本地区のシリコンウェーハ技術委員会傘下の
JA Shipping Box TFが主導権を持って開発を行っており、本
TFと緊密な情報交換の下に活動を進めている。
■ 効率的な規格開発のために
450mmSEMI規格を効率よく開発するために基本となったの
は、300mmの経験を最大限に生かすということである。つまり、
300mmのSEMI規格で効果のあったものは450mmに適用し、
300mmSEMI規格で課題があったものや300mmSEMI規格制
定後に新たに浮上した課題をこれから開発する450mmに反映
図3
するというものである。具体的に、本TFでは各メンバーに対し
300mm規格での問題点に関するアンケートを行った。その結
果、80項目を超える課題・問題点が抽出された。
抽出された課題を分類・整理を行うとともに、各社からの新た
な提案とユーザからのインプットを合わせて検討することで規
格開発を行っている。これらの課題の検討は事前にE-mailベー
スでの意見交換の後に電話会議で行われるが、
会議の上で重要
な役割を果たしているのは、Webを利用した情報共有アプリケー
ションである。各自が同一の画面を共有することで、効率的な規
格開発が行われている。
また、本規格開発の特徴は、技術検討を行うべき内容が多岐
にわたっているため、検討項目を大きく分類し、それぞれにサブチ
図4
ームを設け責任者を決めた上で、それぞれのサブチームで期日
を決めて検討を行っていることである。TFメンバーは世界各地
持位置を示したもので、大きな特徴としては、ウェーハのエッジ
に点在しているため、電話会議も必要に応じて北米地区←
→欧州
部をできる限り触らずにウェーハ裏面を使用するよう方針を示
→アジア地区の2回に分けて実施している。
地区/北米地区←
している。本追加ガイドラインは、ウェーハエッジ面からのパー
■ ISMIからのインプット
ティクルの課題も大きな要素であったと想像できるが、ウェー
ISMIからは前述したように19項目のガイドラインが示されて
おり、このうち、項目1から項目3が450mmに向けたガイドライ
3)
ハ間スロットを削減するためにもウェーハ裏面搬送限定は有効
である。
ンである。具体的な内容は図3、図4 に記載されている。冒頭で
■ 450mm用SEMI規格開発の詳細
1)25枚収納、2)FOUP方式、3)パージ実施の3点
も述べたように、
1)FOUP規格
あるが、これ以外に重要なポイントとして、収納されたウェーハ
本TFでは、450mm用In-Fabキャリアの名称を“450FOUP”
間のピッチを300mmと同様に10mmとする点である。これにつ
と定義し、これまでの業界関係者の意見を求めるためのインフ
いては、450mmウェーハの厚みや自重たわみ、プロセス上の反り、
ォメーションバロット投票を2回行っており、多くのフィードバック
FOUP内のウェーハサポート位置、ウェーハ取出・戻入ロボット
がもたらされている。これらの意見を考慮・反映し、2年間の時
のハンド厚み等が大きな課題となっており、技術的な検証を必
限規格であるPreliminary standardの開発を行い、実機での
要としている。
テスト結果を反映させた本規格を開発する予定である。
また、ISMIからは前述のガイドライン以外に、ウェーハハンド
2)
ロードポート規格
リングガイドラインが追加で示されている。これは、ウェーハを
300mmSEMI規格では、ロードポートのための規格として、各
FOUP内に収納した状態での支持位置および保持位置と、ウェー
機能を個別に開発を行ったため、表1に示すように複数の規格に
ハをFOUP内から取出・戻入するためのハンド上でのウェーハ支
分散していた。
9-10, 2008 • SEMI News
9
SEMI Standards / SEMICON Japan 2008
表1 300mmロードポート関連のSEMI規格
規格番号
E15.1
E57
E62
E63
E64
E110
Preliminary standardの開発を行い、実
タイトル
内容
SPECIFICATION FOR 300mm TOOL LOAD PORT 基本的なロードポート仕様
MECHANICAL SPECIFICATION FOR KINEMATIC FOUPのロードポート上での位置
COUPLINGS USED TO ALIGN AND SUPPORT 決め方法の規定
300mm WAFER CARRIERS
SPECIFICATION FOR 300mm FRONT-OPENING FOUPドアの開閉方法の規定
INTERFACE MECHANICAL STANDARD(FIMS)
MECHANICAL SPECIFICATION FOR 300mm BOX 製造装置へのロードポート取付
OPENER/LOADER TO TOOL STANDARD のためのインターフェース
(BOLTS-M)INTERFACE
SPECIFICATION FOR 300mm CART TO SEMI E15.1 マニュアル台車用インターフェー
DOCKING INTERFACE PORT
ス
GUIDELINEFORINDICATORPLACEMENTZONEAND 表示灯とスイッチの配置位置
SWITCH PLACEMENT VOLUME OF LOAD PORT
OPERATIONINTERFACEFOR300mmLOADPORTS
機でのテスト結果を反映させた本規格を
開発する予定である。
■ おわりに
450mmのSEMI規格開発は、まだ始まっ
たばかりであり、発展途上である。これから
市場に出てくるであろう単結晶シリコン
ウェーハを用いた技術検証を行い、更なる
規格の改良・改善を行っていく必要がある。
<参考文献>
1)
http://www.itrs.net/Links/2003ITRS/Home2003.htm
2)
Scott Kramer et al.; “ISMI Industry Briefing
450mmではこれらの各機能を1つの規格にまとめて発行すべく
開発を進めている。
Next generation factory SEMICON Japan ’07 December 6,
2007” p.13
ロードポート規格については、これまでの業界関係者の意見
http://ISMI.sematech.org/wafersize/docs/IndustryBriefing120207.pdf
を求めるためのインフォメーションバロット投票を1回行って
3)Tom Jefferson et al.; “ISMI Next Generation Factory Vision
おり、フィードバックを収集しているところである。本はこれらの
Unified 450mm/ 300mm Prime Factory Guidelines Workshop
意見を考慮・反映し、追加のインフォメーションバロット投票を
July 16th , 2007” p.9-10
行った後に、FOUP 規格同様に 2 年間の時限規格である
http://ISMI.sematech.org/wafersize/docs/GuidelinesWorkshop.pdf
セミコン・ジャパン 2008 開催に向けて
−
「世界を繋ぐ。地球を守る。未来を創る。
」
をテーマに−
今年もセミコン・ジャパンのご案内をする時期になりました。
に開設されたイノベーションホールは、今年で4回目を迎えることに
半導体業界の発展とともに成長してきたセミコン・ジャパンは、
なり、このうち太陽光パビリオンは、PVJapanとして今年独立した
今年で32回目の開催となり、ますますその成熟度を増してきま
展示会となり大成功を収めました。
した。それに伴い、未来へ向けての業界の発展と環境への配慮
が、重要な要素となってクローズアップされてきました。
セミコン・ジャパン 2008
日時:2008年12月3日
(水)
∼5日
(金)
10:00‐17:00
会場:幕張メッセ
(1-11ホール、
イベントホール、
国際会議場)
海外からの出展については、近年ブラジル・CIS諸国・マレーシ
アなどの新興工業国の参加が得られるようにり、来場者につい
ても、活性化、特にデバイスメーカーの、より積極的な参加を得
るため、デバイスメーカーのニーズを調査するとともに、出展社
とデバイスメーカーのマッチングの場を設定するための工夫も
行われています。さらに、業界活性化に向けた将来の優秀な人材
環境については、昨年ご好評いただいたエコロジーをテーマ
確保を目的として開始された学生向け企画「セミコンへ行こ
を設け、地球温暖化などの環境問
に
「SEMI環境対策コーナー」
う!」
もますます内容の充実が図られ、参加学生と受入れ出展社
題が重要視される中、半導体業界が環境保護にどのように取り
も年々増加しています。
組んでいるのか、SEMIをはじめ各社の現状の取組みをパネルで
成長を続けるセミコン・ジャパン 2008にご期待ください!
紹介します。
同時に、EHSに対する業界の取組みの成功事例をテ
ーマにした講演も行われる予定です。主催者企画コーナーにお
いては、移動体、具体的には車とロボットの制御技術がもたらす
セミコン・ジャパンの入場は、事前登録制です
。
(登録期間:10月1日∼12月5日)
業界の持続可能性をテーマにした展示が企画されています。ま
展示会入場登録、出展社情報、各種セミナー情報はWebサイ
た、従来の半導体製造技術の周辺業界への応用・拡大を目的
トをご覧ください。www.semiconjapan.org
10
SEMI News • 2008, 9-10
Column
海外便り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“Salut! Ça va?”から始まる朝
HORIBA JobinYvon Inc. ソフトウェア チーフエンジニア 藤村 大輔
パリから少し車を走らせると、パリのあの賑やかさからはと
仕事の話しなどをする。そんなことは面倒だと思う方も多いかもし
ても想像できないような豊かな農場が広がっている。堀場製作
れない。実際、元々習慣のない日本人の私にとっても、最初はこ
所のグループ会社であるホリバジョバンイボン社は、パリから
の習慣を毎日実行することに少し煩わしさを感じたことは事
ほど近いLongjumeau, Chilly Mazarinという街に拠点を置いて
実だ。しかし、毎日習慣付けていくと徐々に慣れてきて、コミュ
いる。私の自宅から会社までの道のりでは、この広大な景色から
ニケーションが楽しくなってきた。日ごろからコミュニケーシ
季節の移ろいを感じることができ、毎朝の楽しみのひとつになって
ョン取っていることで、相談や仕事の話もスムーズに入ってい
いる。
ける。
私は現在、ソフトウェアエンジニアとして、半導体プロセスコ
ントロール用の製品開発を、フランス人エンジニアと共に進め
ている。その中で想定していたよりはるかに感心したことがあ
った。ある製品の機能追加をしようと考えたときに、単にその機
能を実現するだけではなく、その周囲のことまで入念に意識を
巡らせ、関連したことで遠い将来にも必要になりそうな機能を
盛り込むことに固執する。似たような要求が来ても、ソフトウェ
アの変更の必要性がないように考えてのことだ。その考え方が
根底にあるがため、仕様の打合せで話が飛躍してしまい、困って
しまうことも少なくない。しかし、その中でこちらが全く考えも
しなかったアイディアが提案されることもよくある。
広大な景色の中を走る、爽やかな朝の通勤路
いろいろな角度から物事を考察することは重要だが、偏った
頭ではそれ以上のアイディアが出て来にくいことが多い。しか
」
これはフランス語の「や
「Salut! Ça va(サリュー、サヴァ?)
(ボンジュール)
:
ぁ、元気?」
という意味の挨拶である。
「Bonjour
こんにちは」
という挨拶は一般的に良く知られているが、
「Salut」
は仲の良い関係で気軽に使われる挨拶である。
私のフランス生活はまだ6ヵ月を過ぎたころだが、最初にこちら
し、違った環境で育った者同士で意見をぶつけ合うことで、斬新
なアイディアが出てくる。
コミュニケーションの難しさを痛感する日々だが、確実に前
進していることを感じ取ることができることは、私にとっては
やりがいのある仕事である。
に来て驚いたことは、挨拶についてだ。日本では「挨拶をしまし
ょう」などといった標語をよく耳にする。もちろん、挨拶をする
ことでお互いが気持ちよく仕事ができ、コミュニケーションを
活発にする効果があるから良いことだと思う。一方フランスで
は、
「挨拶をしましょう」などと言われることはまずない。それ
は、誰しもが会ったときに、しっかりと挨拶をする習慣が元々あ
るからだ。普通は会ったときに、握手、もしくはビズ
(頬にチュ
ッとする挨拶)
をするのが一般的だ。どこかの店に入るときで
も挨拶をするぐらいに、そういったことが自然とできる文化が
ここにはある。
私の朝も、会社に行くともちろん、まず挨拶から始まる。メン
(やぁ、元気?)
」
など
バー全員と目を見て握手し、
「Salut! Ça va?
と声をかけ合う。そして、それぞれの近況、興味のある話しや、
9-10, 2008 • SEMI News
開発から製造までコミュニケーションを取りやすいオープンな職場
11
Photovoltaic
薄膜太陽電池に用いられる新化合物半導体 CuInSe2
龍谷大学 理工学部 物質化学科 教授 和田 隆博
1. はじめに
CuInSe(
2 CIS)
系化合物半導体を用いた太陽電池が注目を
集めている。2007年の初めに昭和シェル石油が宮崎県でCIS太
陽電池を20MW/年規模で商業生産を開始し、2007年末にはホ
ンダも熊本で27MW/年規模の生産を開始した。昭和シェル石油
やCuInS(
2 Eg=1.5eV)
等との固溶体、Cu
(In,Ga)
Se(
2 CIGS)
や
Cu
(In,Ga(
)S,Se)
(
2 CIGSS)
が用いられる。
3. CISの電子構造
(DOS)
と局所状
第一原理計算で求めたCuInSe2の状態密度
4)
を図2に示した 。
態密度
(LDOS:Local density of states)
は2009年操業を目指して60MW/年の第2工場を建設中である。
これらの工場が本格的に立ち上がると、CIS太陽電池の生産量
は日本だけで100MW/年を超える。最近、昭和シェル石油は2011
年稼動を目標として、世界最大級の太陽電池製造工場の建設を
目指す方針を明らかにした。
CIS太陽電池の特徴は、薄膜型で変換効率が高く、パネル表
面が真っ黒で屋根材としての意匠性に優れていることである。本
稿では、太陽電池に用いられる新半導体CISの特徴と今後の研
究動向について述べる。CIS太陽電池に関する基本的な事柄に
ついては、最近出版された専門書や他の解説を参考にしていただ
1-3)
きたい
。
2. CIS
CISはCuInSe2の略称である。CuInSe2はⅠ-Ⅲ-Ⅵ2族化合物
図2 CuInSe2の状態密度
(DOS)
と局所状態密度
(PDOS)
半導体で、
Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体のⅡ族元素をⅠ族元素とⅢ族
CuInSe2を構成している元素Cu, InおよびSeの電子配置はCu:
元素で置き換えることによって導くことができる。CISの結晶構造は
]3d)(4s), In:
[Kr(
]4d)(5s)
(5p), Se:
[Ar(
]3d)(4s)
[Ar(
(黄銅鉱)型構造で、ZnSe
図1に示したようにカルコパイライト
(4p)であり、各構成元素の原子軌道が局所状態密度に現れて
やGaAsのセン亜鉛鉱型構造の単位胞を縦に2つ積み重ねた構
-15eV付近にIn 4d軌道が、-14∼-13eV
いる。
価電子帯において、
造である。CISの特徴は光吸収係数がSiの約100倍と非常に大
にSe 4s軌道、-6eV付近に
(In 5s+Se 4p)
からなるIn-Seの結合軌
きく、禁制帯幅の大きさがSiと同程度であることである。このた
(Cu 3d+Se 4p)
の混成軌道がある。Cu 3d軌道
道、-5∼0eVに
め、CIS系化合物半導体は高効率薄膜太陽電池材料として期
はSe 4p軌道とエネルギーが近いために共有結合的に相互作用
待されている。CISの禁制帯幅は1.04eVと太陽光を吸収するのに
し、SeがCuに4面体配位するので、Cuの3d軌道がe軌道とt2軌
2 Eg=1.68eV)
最適な1.4eVと比較して少し小さいので、CuGaSe(
に現れているのはCu 3d
道に分裂する。価電子帯上端
(VBM)
10
1
10
2
1
10
2
4
とSe 4pの反結合軌道である。
付近は
(In 5s+Se 4p)
伝導帯においては、伝導帯下端
(CBM)
からなる反結合軌道から構成されており、それよりエネルギー
の高い部分はIn 5p軌道から構成されている。Se 4p軌道の価電
子エネルギーはIn 5p軌道と比較して低い所に存在する。その
ためエネルギーレベルの低いSe 4p軌道に、Inの5p軌道の電子
が占有される。したがって、In-Seの結合はイオン結合的である
と考えられる。
図1に示した結晶構造から明らかなように、CISでは単位格子
中にCu-SeとIn-Seの2種類の化学結合が存在する。Cu-Seは弱
い共有結合であり、In-Seは比較的強いイオン結合である。また、
CISの電子構造は、Ⅱ-Ⅵ族化合物半導体ZnSeのような価電子
図1 カルコパイライト型CulnSe2(a)
とセン亜鉛鉱型ZnSe(b)の結晶構造
12
(陰イオン)
のp軌道、伝導帯がZn
(陽イオン)
の4s軌道とい
帯がSe
SEMI News • 2008, 9-10
Photovoltaic
うような単純な形ではなく、VBMは
(Cu3d+Se 4p)
からなる反結合
ことによることがわかっている。結合力の弱いCuは放射線によ
(In 5s+Se 4p)
からなる反結合軌道
軌道から構成され、CBMは
って欠陥を作りやすいが、常温においても結晶内を移動可能で
から構成される。
あり、時間の経過とともに本来の位置に戻る。
4. CISの他の半導体との比較
5. 今後の研究開発について
図3にCISと他の代表的な半導体のバンドラインナップを示し
3)
太陽電池に用いるCIS薄膜は、蒸着法やスパッタ/セレン化法
た 。CISはⅡ-Ⅵ族半導体の一種と考えられるが、ZnSe等と
等で作製される。さらに、CISの化学的柔軟性を反映して原料粉
が比較的高く、伝導帯の下端
異なり価電子帯の上端(VBM)
末を含むインクを塗布して焼成するさまざまなプロセスが提案
もそれほど高くない。そのため、価電子帯から電子を取
(CBM)
されている。そのような中で注目されているのが、米国のベンチ
り除くことも、伝導帯に電子を注入することも比較的容易である
ャ−企業Nanosolar社の取組みである。Nanosolarでは金属箔
5)
と推定できる 。つまり、CISはp形およびn形の両方に価電子制
を基板にして
「ロ−ル・ツ−・ロ−ル」方式で原料インクを塗布し、
御が可能である。VBMの位置が比較的高いのは、構成元素
)
それを非真空雰囲気で熱処理してCIS膜を製造する 。IBMで
として価電子のエネルギ−が比較的高いCuが含まれているこ
もCIS薄膜の非真空下で薄膜を形成するプロセスの開発を進め
とによる。また、CBMはInとSeの軌道で決まるので、InをGaや
ている 。このIBMの技術を基礎にして、東京応化では大型基板
Alで置換するとCBMが上昇し、禁制帯幅が広くなる。
を用いた太陽電池の製造を可能とする量産化プロセスの開発を
8
9)
CISはダイヤモンド型のSiやセン亜鉛鉱型のGaAs等とは異な
行うとのことである。日本では龍谷大と東工大がNEDOの支援
Cuり、
単位格子中にCu-SeとIn-Seの2種類の結合が存在する。
を受けて、スクリ−ン印刷/焼結法によるCIS太陽電池の製造プ
Seは弱い共有結合であり、In-Seは比較的強いイオン結合である。
ロセス開発に取り組んでいる 。変換効率は3.1%とまだ低い
つまり、CISの電子構造、特に禁制帯幅は共有結合性のⅣ族元
が、今後の展開が期待されている。
10)
素半導体やⅢ-Ⅴ族半導体に近く、化学的性質はイオン結合性
CIS太陽電池の実用化を目指したプロセス開発はめざましく
CISの結晶がCu-SeとIn-Seの2種
の強いⅡ-Ⅵ族半導体に近い。
進展している。しかし、まだ太陽電池として理想的な1.4eVのバ
CISがさまざまなプロセスで
類の化学結合で構成されていることと、
ンドギャップを持つCIS系光吸収層で高効率化は達成されてい
合成法可能であることと関係していると考えられる。たとえば、
ない。また、超高効率タンデム太陽電池のトップセルに必要な
CISはCu, In, Seの元素粉末を反応容器に充填して、その反応
1.5eV以上の禁制帯幅を持つ材料や、ボトムセルに用いられる
6)
容器を激しく振動させるだけで合成可能である 。このように、CIS
0.8eV以下の禁制帯幅を持つ材料の開発もこれからである。シ
は従来の化合物半導体と異なり化学的柔軟性を有している。
ングルセルで変換効率25%、タンデムセルで40%を達成するた
CISの化学的柔軟性は、CIS太陽電池の耐放射線性が高い
めには、CISという多元半導体を十分に理解して、基礎および応
ことと関係している。2002年にH-ⅡAロケットによって打ち上げら
用の両面にわって幅広く研究開発を推進していくことが必要で
れたミッション実証人工衛星「つばさ」に搭載されたCIS薄膜
ある。
太陽電池は、1年間に及ぶ宇宙空間での耐放射線性試験で、宇
宙用Siセルを含む搭載したすべての太陽電池の中で最も高いこと
7)
が確認された 。これは、CIS太陽電池が放射線によって欠陥が
できないのではなく、欠陥が生成してもそれが自動的に回復する
<参考文献>
1)
和田隆博 監修:化合物薄膜太陽電池の最新技術
(シ−エ
.
ム−シ−, 2007)
2)
和田隆博:電気学会誌127, 603(2007)
.
3)
和田隆博:応用物理77, 813(2008)
.
4)
T. Maeda, T. Takeichi and T. Wada, phys. stat. sol.(a)203, 2634(2006).
5)
細野秀雄、神谷利夫、セラミックス38, 825(2003)
.
6)
T. Wada and H. Kinoshita, J. Phys. Chem. Solids 66, 1987(2005).
7)
宇宙航空研究開発機構
(JAXA)
ホ−ムペ−ジ
7)
http://www.jaxa.jp/projects/sat/mds1/index_j.html.
8)
J. K. J. van Duren et al., MRS Proceedings Volume 1012 , p259
8(
)Thin-Film Compound Semiconductor Photovoltaics -2007)
.
9)
D. B. Mitzi et al., Proceeding of the 33rd IEEE PVSC(2008)
.
10)
T. Wada, Y. Matsuo, S. Nomura, Y. Nakamura, A. Miyamura, Y. Chiba,
図3 代表的な半導体とCuInSe2のバンドラインナップ
9-10, 2008 • SEMI News
A. Yamada and M. Konagai, phys. stat. sol.(a)203, 2593(2006).
13
FPD Industry
新たな表示付加機能〔価値〕を取り込むTFT-LCD進化の一方向
NEC液晶テクノロジー株式会社 執行役員研究本部長 金子 節夫
イスダウンにより、当初意図していたようには付加価値の向上を
1. はじめに
“思えば遠くに来たもんだ……”1970年代、海援隊の歌った歌
見出せてはいない。
弊社では付加価値の考え方をさらに進化させ、
詞ではないけれども、a-SiさらにはTFTの研究をスタートして30
TFT-LCDのディスプレイ機能に新たな表示付加機能〔価値〕
を
年が過ぎ、そのころの目標もCRTの置換えを狙ったフラットTV
取り込む活動を強化してきた。
ではあったが、現在のTFT-LCDの進化と産業規模をそのころ想
3. 高画質2D/3D混在表示ディスプレイ
2)
図(
1 a)
には、VIT技術
像すらできなかった。
この快進撃は、TFT-LCDのアプリケーションをカラーノート
PCに定めたときからスタートした。1980年代後半である。材料、
として2D/3D表示技術の
開発例を示す。
部品、設備の開発が一気に進み、また、広視野角技術など
特別な眼鏡を必要とせず
TFT-LCD技術の進展とともに、1990年代にはPC用モニタの適
に立体映像を楽しめる裸眼
用により大型産業への布石が築かれていった。そして2000年代
立体ディスプレイは、
立体表
に入ると、携帯電話用から大型TV用途と一気にアプリケーショ
示の応用を広げ、
その普及
ンが拡大していった。この中で、一番の課題であったコスト対応
を促進するものとして注目さ
も、部品を含んだ生産量の増大と生産設備の大型化/高効率化、
れている。
しかし、
現在の裸
最近では物流の高効率化を狙ったコンビナート化へと進化、産業
眼立体ディスプレイには、
左
としての勢いは衰えそうにもない。
右の視差画像を表示するた
図1(a) 9型WVGA 2D/3D-LCD
これらのアプリケーションの進展は、CRTにはない大型、高精
め3D画像の解像度が半分
CRTと同等以上の画質をめざし
細、
薄型、
軽量の特徴を活かし、
に低下するという課題があ
て、
広視野角技術、
半透過表示、
動画対応技術を生み出してきた
り、
普及を阻害する一つの要
ことに他ならない。今や、社会の隅々までTFT-LCDを中心にフラ
因となっている。
これは、
基本
ットパネルディスプレイが浸透してきている。
となる立体表示技術が両
2. Value Integrated TFT(VIT)技術
眼立体視という視覚機能を原理とし、
両眼での視認が前提となっ
図1(b) HDDP画素構成
弊社はこのような状況の中で、当初ノートPC用途やPC用モニ
ているものの、単眼で視認した際の画質が普段見慣れたディスプ
タ中心の事業を展開していたが、現在は、社会の隅々まで浸透し
レイの画質より劣る場合、
使用者の拒絶反応を招いてしまうからで
産業用と
たTFT-LCDの産業用途を中心に事業を展開している。
普及促進のための一つの
ある。
このように3D画像の表示品質は、
一言で言っても非常に広く、FA用や計測器から医療用、放送用、
重要なポイントであると言える。
船舶用途などあらゆる用途があり、
それぞれの環境に対応すべく
また、文字情報など従来の2D画像の高品質表示と3D画像表
高均一広視野角表示、
半透過表示、
高精細化技術を開発、
さら
示との両立も重要である。現在の表示の大部分は2D画像である
には顧客ニーズにきめ細かくカスタム対応することにより事業を展開
ため、これらの2D画像を従来と同等以上の品質で表示する必要
している。
がある。更には、3D画像と2D画像とを特に意識せず、混在して
このようなTFT-LCDの今後の研究開発としてどのようなこと
使用できることが望ましい。従来の立体ディスプレイには、3D
が望まれるのか。表示としての更なる高速化、高コントラスト化、
表示と2D表示を切替え可能としたものもあるが、切替えは全画面
低消費電力化、反射型表示としての高画質カラー表示など、純粋
一括に限られてしまい、3D表示の活用シーンの限定を招いていた。
にディスプレイとして今後ともに継続して研究開発しなければ
これらの課題を解決し立体ディスプレイの普及を促進するた
ならないテーマを抱えている。
め、弊社では3D向けの新規な表示構造を有する専用LCDの開
TFT-LCDの更なる付加価値の向上を目指し、弊社では
一方、
発・適用を通して、
従来の2D表示と高画質3D表示を同一画面内
Value Integrated TFT
(VIT)
技術を開発してきている。
VIT技術は
で混在可能な高画質2D/3D混在表示ディスプレイを実現してき
(LTPS)
TFTを用い、
ドライバ
そもそも、Low Temperature Poly-Si
1 b)に示されるように、正方形の単位画素領域中に左眼用
た。
図(
LSIやメモリなどのLSI付加価値を取り込んだSystem On Glass
画素と右眼用画素とを形成した専用LCDを使用する。すなわち、
1)
(SOG)
技術を意図してきた 。しかしながら、最近のLSIのプラ
14
LCDは横方向に倍密度の画素を有する横倍密度画素HDDP
SEMI News • 2008, 9-10
FPD Industry
(Horizontally Double-Density Pixels)
構成となっている。3D表示
POP、更には、好きな映
用の光学素子と組み合わせた場合に、
横方向の解像度を縦方向
像を好きな時に表示でき
と同じにすることができ、3D表示の品質向上のみならず、立体視
る電子ペンダントなどの
認性の向上も可能となる。また、従来方式のように横方向の解像
アプリケーションなどで
度が縦方向より半減することはなく、縦横同解像度の画像を各
ある。
眼に表示することができる。立体画像を作成する場合において
LTPS
(低温p-Si)
TFT
は、通常、縦横同解像度の左右画像を作成するが、HDDP構
技術を用い、
表示画素の
成では作成したデータをすべて表示に活用することができるため、
周辺に各種の駆動回路
ムダデータの発生がない。作成したコンテンツ画像を1ドット
を作りこむSystem On
分まで余すことなく表示することができる優れた方式である。
Glass(SOG)技術は、こ 図2(a)任意形状ディスプレイの開発例
2D画像を表示する場合には、隣接した左眼用画素と右眼用画
のような非矩形ディス
素に同じ情報を表示する。
これにより、
従来同様の2D表示が可能
プレイを実現するには
となるだけでなく、2D画像と3D画像の同一画面内における混在
2 b)
最適である。また図(
表示が可能となる。すなわち、表示するデータを変更するだけで、
に示されるように、画素を
画面の任意の位置に2D/3D画像を表示することができる。たと
45度傾けて配置すること
えば、文字情報と3D画像の混在表示も可能であるし、2D画像の
により、たとえばハート形
一部分に3D表示を組み合わせて、従来の2Dコンテンツ資産を活
状でも、表示可能な配線
かした上で3D効果を利用することもできる。更には、2D画像を
マトリクスを構成すること
メインとし3D表示を付加的に使用することで、使用者の疲労感
が可能となっている。
を低減することもでき、今後、新たな表示機能として普及してい
くものと期待している。
我々がイメージする
本技術の将来のアプリ
3)
4. 非矩形任意形状ディスプレイ
図(
2 a)
には、最近VIT技術として新たに開発した任意形状デ
ィスプレイの開発例としてハート型ディスプレイを示す。
“かたち” 図2(b)任意形状ディスプレイの構成例
ケーションは、
の自由度をさらに進め、
3次元の自由度を有するものである。研究開発が進むフレキシ
TFTを含む画素をマトリクス状に配置したTFT液晶パネルの
ブルディスプレイとの融合により、ディスプレイはこれまでの
用途は、液晶テレビをはじめとして携帯電話、PC用モニタ、ナ
既成観念を壊し、本当に任意な形状と表示を実現することが
ビゲーション、産業、広告・デジタルサイネージ等である。これら
できると期待したい。
は、すべて四角い矩形ディスプレイを利用したアプリケーション
である。
そのような意味でブラウン管が登場した時を第1次ディスプ
レイ革新、フラットパネルディスプレイが登場した時を第2次デ
他方、画素がマトリクス状に配置されていない直接駆動型の
ィスプレイ革新とするならば、この任意形状は第3次ディスプレ
液晶パネルは、さまざまな非矩形状のアプリケーションに利用
イ革新となる可能性を秘めており、これまでにないアプリケー
されている。最も身近なものとして腕時計が挙げられる。また、
ションを切り開くことが可能と考えている。
車のスピードメーター用途は古くから検討されている。
5. おわりに
TFT液晶パネルをはじめとしたTFT駆動ディスプレイは、四
弊社がこれまで取り組んできたVIT技術の一端を紹介したが、
角がずっと主流であり、その理由は以下のようなものと考えら
このほかにも新たな付加機能に取り組みたいと思っている。新
れる。①映像ソースがマトリクス状のデータであること、②画素
(Value Integrated TFT)
技術が、真に顧
たな価値を創出するVIT
が矩形のマトリクス状に配置されていること、③ガラス基板か
客の付加価値となるよう、今後も努力していく所存である。
らの切断で矩形が最も切断・面積効率が良いこと、④保管・輸送
<参考文献>
で矩形が最も効率が良いこと、等である。
1)
H. Haga, Y. Nonaka, Y.Kamon, Y. Kitagishi, M. Jumonji,
TFT液晶パネルがさまざまな用途で広く使われ、その高画質
K.Takatori and H. Asada SID ’07 Digest 46-3, 2007
が認識されるようになった結果、
『効率』的な矩形と異なるさま
2)
S. Uehara, N. Ikeda, N. Takanashi, M. Iriguchi, M. Sugimoto, T.
“かたち”の異型用途でも、TFT液晶パネルが望まれるよ
ざまな
Matsuzaki and H. Asada, J. Soc. Inf. Display 13, 209, 2005.
うになると思われる。たとえば、表示方法を変更できるスピード
3)
Y. Nonaka, J. Yanase, H. Yoshida, K. Takatori, K. Shigemura and
メーターや、インパクトある形で宣伝内容を更新できる電子
9-10, 2008 • SEMI News
H. Asada SID ’08 Digest 62-3, 2008
15
STS Award
「第15回STS Award」受賞論文紹介 3
受賞者:日立製作所 中央研究所 田中 潤一
ゲート寸法ばらつき制御モデルとその可搬性
受賞論文の紹介にあたり
限界をむかえていると言われ、ばらつき制御は
(機械屋出身の私
STSプログラム委員会 前委員長(2006∼7年)
:株式会社荏原製作所
には)
まさに神の領域に近づいているとさえ思えます。平たく言
常務執行役員 精密・電子事業カンパニー 装置事業部長 辻村 学
いますと、デバイスの物理特性は相似則に従って微細化されま
今回は、エッチングセッションから株式会社日立製作所の田
すが、原子の大きさと加工ばらつきは微細化されません。この原
中潤一さんの論文を紹介します。エッチングセッションは1982
子の壁が物理限界であり、ばらつきの壁が加工限界です。物理
年STS発足時から現在まで不動の定番です。1982年当時は3
限界はequivalent scalingで回避しようとしていますが、加工限
μmルールを論じていましたが、現在ではナノオーダのばらつきを
界はAPCなどによるばらつき制御が必須です。本論文では、①
問題にしています。まさにエッチングはリソと並び微細化の歴
200mmラインの実験と300mmラインの量産データから大小ウェ
史と言っていいでしょう。さて、本論文では最もばらつき制御が
ーハの汎用性を証明し、②さらに、異なるデバイスや異なる装置
厳しいゲートエッチング工程を例に取り、リソ・CVDなど前後の
を用いた製造ラインにも適用できることも証明しました。まさに
「神
複数工程の影響を考慮しながら、さらに異なるウェーハ寸法・デ
をも恐れぬ果敢な挑戦」
に拍手喝采です。
バイス・装置で適用可能な汎用制御モデルを構築しようとする
試みです。実際45nm以降のデバイスでは、加工限界から物理
さあ、皆さんも技術革新の勝利を信じて田中さんの論文を楽
しみましょう。
■ 半導体生産におけるゲート寸法ばらつき
年々LSIの微細化が進み、それを構成するトランジスタのサイ
ズも小さくなり続けている。MOSトランジスタのオンオフ動作
を行うゲート電極の幅(チャネルの長さ)
は、トランジスタの特
性を左右する最も重要なパラメータであり、ゲートCD(Critical
Dimension)
と呼ばれる。半導体加工プロセスの変動によるゲー
トCDばらつきの許容値は、ゲート電極幅の約10%程度であり、
その技術トレンドはInternational Technology Roadmap for
Semiconductors等に記載されている。CDばらつきはいくつかの
種類に分類され、大まかにはロット間ばらつき、ロット内ばらつ
き、ウェーハ面内ばらつき、ショット内ばらつき、ランダムばら
つきがある。前述のロードマップによれば、これらのすべてのば
の上にゲート電極材料をCVD
(Chemical Vapor Deposition)
に
らつきを合わせたトータルの許容ばらつきが数ナノメートルに
より成膜し、次にリソグラフィ工程でエッチング用マスクを形成し、
なるため、要因ごとの許容ばらつきは1nm程度しかない。これ
このマスクを用いてエッチング工程でゲート電極を形成する、と
らのばらつきを抑制する対策はその要因ごとに異なり、ロット
いう手順で進むことになる。従来は、エッチング工程はエッチン
間ばらつきはエッチングのプロセス制御が、ロット内ばらつき
グマスクのパターンをゲート材料に二次元的に転写するもので
はエッチングチャンバのその場クリーニングの適正化あるいは
あり、そこで発生するばらつきはすべてエッチングプロセスの
プロセス制御が、ウェーハ面内ばらつきはエッチングの均一性
不具合である、と考えられてきた。一方、ウェーハ上の被エッチ
改善が、ショット内ばらつきはリソグラフィの改善等の生産プ
ング膜は平坦ではなく、STI構造や膜厚の不均一性により発生す
ロセスの改善が必要となる。
る段差構造を持っている。この高さ方向の段差構造は、ゲートエ
■ ゲートエッチングで発生するばらつき
(Chemical Mechanical Polishing)
工程や
ッチング以外のCMP
ウェーハ上にゲート電極を形成するゲートモジュール工程に
CVD工程などのばらつきに起因するものであり、エッチング工程か
おいて、ウェーハ表面の形状変化を伴う加工の概要は、まず素子
ら見るとウェーハ一枚一枚が持つ構造ばらつきである。前述の
(Shallow Trench Isolation)
構造を形成し、そ
分離のためのSTI
ように1nm以下のばらつきを考慮する場合、この構造ばらつき
16
SEMI News • 2008, 9-10
STS Award
がゲートエッチングの仕上り状態に影響を与える。
エッチング後のゲートCDを測定すると、前述のように他の工
程に起因して発生するCDばらつきと、エッチング工程自身で発
生するCDばらつきとが混在した状態で測定されるため、ばらつ
きの発生原因を特定することが困難で対策が立てにくい。特に、
エッチングプロセスを制御してばらつきを低減しようとした場
合に、何を入力として考慮してプロセス制御をすればいいのか
が分からない。このため、前述のような構造要因を考慮したゲー
トCDのモデル式が必要となる。
■ ゲートCDばらつきの定量的モデル
プラズマを用いたエッチングでは、ウェーハに印加したバイ
アス電圧により、プラズマ中のイオンをウェーハに引き込んで
ガスケミストリを用いており、このモデルの適用範囲が広いこ
エッチングを行うため、被エッチング膜が縦方向に選択的に削
とを示している。
れ、リソグラフィで形成されたマスクパターンがゲート電極材
■ ゲートモジュールAPC
料に転写される。このときにウェーハ表面のエッチング反応か
このゲートCDのモデル式を用いて、エッチングプロセスのロ
ら放出されるエッチング反応生成物は、加工中のゲート電極の
ット間制御を行うゲートモジュールAPC(Advanced Process
側壁に再付着してエッチング終了時のゲートCDに影響を与え
Control)
システムを構築した。APCが適用されていない生産ラ
る。この再付着は、エッチング面からスパッタされてゲート側壁
インに新規にAPCを導入するときには、そのラインでAPCが効
へ直接付着する成分と、反応生成物が一旦プラズマ中に放出さ
果を上げられるように準備が必要となる。この準備ができてい
れてそこで滞在した後にゲート側壁に入射して付着する成分が
ない状態でゲートモジュールAPCを導入しても、あまり大きな
ある。前者はゲート電極近傍のローカルな高さ方向の構造ばら
効果が得られない。ロット間制御ではゲートCDのロット平均
つきの影響を受けるが、後者はウェーハ全体で決まるグローバ
値のばらつきのみが低減されるので、その他の要因のばらつき
ルな分布の影響を受ける。この単純なモデルから、ウェーハ表面
がロット平均のばらつきよりも低く抑えられている必要がある
の高さ方向の構造ばらつきの影響を考慮したゲートCDの定量
し、計測検査の方法・頻度等の再考も必要となる。これらの対策
的なモデル式が導出できる。
の後にゲートモジュールAPCを適用すると、非常に高い効果が
このモデル式が妥当かどうかを、200mmラインのある製品A
得られる。
を用いて検証を行った。従来のリソグラフィ後のエッチングマ
スク寸法のみからエッチング後の寸法を計算するモデルに対し、
高さ方向の構造ばらつきを考慮したモデルは精度が高く、各測
定点での誤差が1nm程度まで抑えられることを確認した。
モデル式の各係数は実験計画法を用いて重回帰分析により
決定するので、このモデルはエッチング現象の物理的裏づけを持
った統計モデルであると言える。しかし、重回帰分析により求め
た統計モデルの場合、ある限定された状況では成立するが、他
のケースに適用するとうまく行かないという懸念がある。このた
め、ゲートCDのモデル式をさまざまなアプリケーションに適用
していくためには、その可搬性
(汎用性)
を確認する必要がある。
そこで、別の300mmラインで生産されている同じ製品Aを用い
て、モデル式の精度を確認した。その結果、200mmラインと
■ 終わりに
300mmラインでは使用している製造装置が異なるが、それでも
異なる生産ラインや異なる製品でも成立する可搬性を持つゲ
モデル式はほぼ同等の精度で成立することを確認できた。さら
ートCDのモデル式は、広い範囲に応用できる。今回はロット間
に、同じ300mmラインで別の製品Bにもこのモデルが適用でき
APCシステムの構築に適用した例を紹介したが、他のさまざま
ることも確認した。製品Bのエッチングでは製品Aとは異なる
なアプリケーションに展開していくことが可能である。
9-10, 2008 • SEMI News
17
Semiconductor Design
SiP技術が拓く世界(その1 デジタルカメラSiP化技術)
株式会社ルネサステクノロジ システムソリューション統括本部 SIP開発センタ センタ長 赤沢 隆
1. はじめに
ユビキタス社会に対応すべく小型携帯電子機器を中
心にシステムの多機能化が進み、マルチメディア処理や
ネットワーク機能の融合が一層進展してきています。こ
(System On
れらの要求に応えるためには、従来のSoC
Chip)
だけでは、性能的、コスト的に困難になって来たた
(System In Package)
が登場してきました。
め、SiP
SiPは元々SoCのプロセスの進歩をはるかに上回るセ
ットメーカーの要求に応えるための、一時しのぎの位置
付けでしたが、今日では最先端のSoCプロセス技術で提
供可能な製品よりも一歩先を行くソリューションとして、
図1 アプリケーションの融合による次世代製品誕生
必須アイテムになって来ています。多機能、高性能
(小型化、薄型化、大容量、高
システムを実現するためのSiP技術
は、日
速メモリ搭載、低コストSiP、単体と同等な高信頼性など)
進月歩で進化しており、今日ではデジタルカメラや携帯電話を中心
に、ほとんどのデジタルコンシューマ機器に採用されてきてい
ます。
3. デジタルカメラへの応用例
の応用例に
今回はデジタルカメラ
(DSC:Digital Still Camera)
ついて説明します。
図2にW/Wのデジタルカメラの生産台数を示します。携帯電
話に比べて約1桁少ない生産台数ではありますが、急激に成長し
「SiP技術が拓く世界」
と題し
本号から、このSiP技術について、
た分野には違いありません。1995年に初めて登場したデジタルカ
て、システムから見た必要性などを説明しながらいくつかの応
(Personal Computer)
の成長とともに急成長した
メラですが、PC
用例を中心に連載することになりました。
2003年に4千万台を超え、2004年に6千万台、2006年
市場であり、
には1億台強と依然高成長を遂げて、今年度は1億2千万台と予
2. システムから見たSiPの必要性
想され、
従来の銀塩カメラを完全に抜いています。
小型携帯電子機器を中心にシステムの多機能化が進み、マル
日本市場ではすでに飽和状態で、これ以上の伸びは期待でき
チメディア処理やネットワーク機能の融合が一層進展してきて
ませんが、北米を中心にまだまだ勢いがあり、またアジアでも大
います。
きな伸びが期待できます。デジタルカメラも携帯電話と同じく、
これを図1で分かりやすく説明しますと、近年、携帯電話に使
小型化と低消費電力の進歩により一般ユーザーに受け入れられ
われているワイヤレス技術や画像処理技術、車のナビゲーショ
て来ました。当初は単なる画像処理に対して便利な電子機器と
ンに使われる高速グラフィック技術や音声認識、デジタルTVに
は、高画質画像処理技術など、それぞれの分野で特徴ある技術
が新たに融合することにより、次世代の新しい製品が生まれてき
ている傾向にあります。特に携帯電話においては、カメラ、音楽、
ナビゲーション、リモコン、ゲーム、お財布、ムービー、TV機能な
どさまざまなアプリケーションを搭載するために、小型化/高集
積化/高密度実装が必要になり、そのひとつにSiP技術が必須と
なってきています。今日では、新規SiPを設計する際に、ほとんどが
新規SoCを仕様から作成する場合がほとんどです。このため、シ
ステム設計段階からSiP設計に最適なSoCの仕様、チップ構成、
SiPとしての構造など、初期の段階で検討することが必要となって
います。
18
図2 W/Wデジタルカメラ生産動向
SEMI News • 2008, 9-10
Semiconductor Design
いう機能のみであり、画素数も10万∼30万画素と少なく、
モノクロのみでしたが、カラー化とともに画素数も大き
く向上し、2002年あたりから急成長してきました。PCの
一般化で家庭用プリンタが高性能になり、家庭でのプリ
ントが容易になったことも大きく成長に貢献している
と言えます。
今日では、画素数競争から画質、デザインが追及され、
一眼レフカメラもデジタル化へと進み、完全にカメラ業
界の体質を変えつつあります。図3にデジタルカメラシ
図3 デジタルカメラのシステム図
ステム図を示します。大きく3つの部分に分けられ、レ
ンズからの光信号を受けるCCD(Charge Coupled
Devices)部とそのアナログ信号をデジタルに変換する
AFE
(Analog Front End)
部、そして各種の画像処理をす
る画像処理部に分けられます。付加的な機能としては、
ズームやシャッターなど、モーター制御部を持つものもあ
ります。画像処理部には、写真データを外付けのメモリ
カード等に格納する前に一時的に保持するデータ用
SDRAMと、プログラムを格納するプログラム用Flashな
どのメモリが存在します。
デジタルカメラの仕様は各社によって少しずつ違っ
ていますが、基本は上記の構造です。このバッファメ
図4 デジタルカメラへのSiP採用実績
モリ用SDRAMとプログラムメモリ用Flashを、MCPとして構成
目的として、ノイズを減らすために、このアナログ部のSiP化の要
する方式が多くあります。しかしながら、画像処理するデジタル
求も新たに出てきており、同じく小型化のメリットと合わせて、
部のLSIは、機能、論理規模ともに非常に大きく、消費電力も大き
SiP化の動きが加速しています。アナログ用LSIとデジタル用LSI
いのでノイズも発生しやすく、デジタルカメラの画質に大きく
のSiP化は、技術的な課題はかなりありますが、メリットも多くあ
影響します。そのためノイズの低減と小型化の要求から、画像処
り、今後増えていく傾向にあります。このように、画像処理用デ
理LSI+データ用SDRAM+プログラム用FlashのSiP化の要求が
ジタルLSI+データメモリ+プログラムメモリのSiPとアナログ部
強く、最初にSiPとして具現化されました。
のSiP化を実現したことにより、今日のデジタルカメラは、2000年
また最近の各社の画素数競争は非常に厳しいものがあり、少
のころとは比べものにならないくらい小型化を実現し、デジタ
しでも他社との差別化、高機能化を実現するために画素数が増
ルカメラ本体の基板の大きさは、およそ3∼4cm角ほどになって
えており、3M、4Mはあたりまえで、5M∼7M画素と増え、今日で
来ています。合わせて低消費電力化が図られ、デジタル部のノイ
は10M、12Mといった高画素数のものもあります。このために、
ズも低減し、飛躍的に性能が向上しました。
データ用SDRAMの必要な容量もどんどん増えて、2M画素数の
今では128Mbit∼512Mbitと
ころは64Mbit程度で十分でしたが、
図4にデジタルカメラへのSiP採用実績を示します。左側の写真
増大しています。合わせてカメラの高機能化に伴い、プログラムメ
が、初めてSiP技術を採用して主なLSIを1つのPKGに納めること
当然、
モリ用Flashの容量も16Mbit∼32Mbitに増大してきています。
に成功し、これまでのデジタルカメラの様相を一変させた小型
これらの大容量メモリを画像処理LSIと組み合わせたSiPの要求
薄型カメラです。真中の写真は、同じシステム構成ながら、更な
も増えてきていますが、一方では価格の下落も激しく、いかに低
る小型化のためにLSIを積層して小型化する技術開発を行い、採
コスト化できるかということも課題のひとつになってきていま
用されたものです。今日では、右側のSiP構成にありますように、
す。低コスト化については、別の機会にでも述べたいと思います。
最大で5段の積層まで量産しています。このようにSiP技術が、今
アナログ部も基板設計においてノイズの影響を受けやすい場
日のデジタルカメラの小型化、薄型化、高性能化に大きく貢献し
所であり、システム設計者の悩みの種でもあります。画質向上を
9-10, 2008 • SEMI News
ていると言えます。
19
EHS
電子産業で使用される化学物質の排出シナリオ文書(草案:2008年2月)
東京エレクトロン株式会社 井深 成仁
表3.2 関連する排出シナリオ
本年2月にイギリス政府は業界の協力を得
化学物質の説明
て、
「電子産業で使用される化学物質の排出
シナリオ文書:Emission Scenario Document
固体
操作
for Chemicals used in the Electronics
Industry(草案)
」を公開した。この文書の作
成に協力したのは、
インテル、
ダウコーニング、
信
、フ
越、エアープロダクツ、NECセミコン(UK)
リースケール、
ナショナルセミコンダクタ等、
約60
社である。
この文書の「Executive Summary」には、
「環境中への化学物質放出の推定を手助け
するために、多様な産業分野に関連するさま
ざまなプロセスにおける化学物質放出経路
コンポーネントの組立
化学気相成長法
(ドーピング)
無電解めっき
電気めっき
エッチング
高真空蒸着/スパッタリング
積層品の加工
フォトリソグラフィ/スピンコーティング
はんだ付け
耐用年数
廃棄物からの再生
廃棄物
の情 報を提 供 する。それゆえ、たとえば
と記されている。
「本書の紹介」
、
第
本文書の構成は、
第1章
2章「インダストリーオーバービュー」
、第3章「産
「事例」
、
第5
業工程と排出量の予測」
、
第4章
章
「付属書」
である。
このうち第3章は以下の構成となっている。
3.1
予測の概要
3.2
コンポーネントの組立て
3.3
化学気相成長法
(ドーピング)
3.4
無電解めっき
3.5
電気めっき
3.6
エッチング
3.7
高真空蒸着/スパッタリング
3.8
積層品の製造と加工
3.9
フォトリソグラフィ
金属
無機
有機
水溶液調製
非水溶液
調製
3.2.3.1
3.7.3.1
3.8.2.1
3.10.3.1
3.13.1.1
3.14.1.1
3.2.3.1
3.3.3.1
3.7.3.2
3.9.3.1
3.14.1.2
3.2.3.1
3.3.3.1
3.8.2.1
3.9.3.1
3.12.1.1
3.13.1.2
3.14.1.3
3.4.3.2
3.5.3.2
3.6.3.2
3.9.3.1
3.10.3.2
-
3.2.3.2
3.3.3.1
3.7.3.2
3.9.3.1
3.10.3.3
3.12.1.2
-
表3.3 化学物質の種類の適用可能性
REACHで要求されるような、暴露シナリオ、
リスク特定と評価の開発を助けるものとなる」
液体
化学物質の説明
固体
化学物質の種類
大気気体*
補助材料
セラミック
洗浄剤
(水性および溶剤)
ドーパント
エッチング液
フラックス
無機塩
液晶
金属
パッケージ材料/ポリマ
フォトレジスト
めっき用化学物質
シリコン
はんだ/はんだペースト
溶剤
特殊ガス*
3.10 はんだ付け
液体
金属
無機
有機
水溶液調製
非水溶液
調製
Y
Y
Y
-
Y
Y
Y
Y
Y
Y
-
Y
Y
Y
Y
-
Y
Y
Y
Y
Y
Y
-
Y
Y
Y
Y
Y
Y
Y
-
3.1では排出シナリオを策定する上で考察を進めるための概要
3.11 その他の産業工程
各種工程での排出シナリオ一覧表が記
を示している。
表3.2には、
3.12 耐用年数
されている重要箇所を示している。排出シナリオの決定には、化学
3.13 廃棄物からの再生
物質の物理的形態と種類の説明
(つまり、
金属か、
無機固形物か、
3.14 廃棄物
有機固形物か、
水溶液か、
有機溶液か)は有用なものである。
また、この章では全部で91の表を使用して、現状の実工程の説
明、予測されるシナリオ例、排出される化学物質の定性・定量例
を示している。
20
表3.3は、表3.2に掲載される5種類の化学物質に最も適合する
化学物質の種類に関する指針を示すものである。例としてエッチ
SEMI News • 2008, 9-10
EHS
ング液への考察があり、次のように書かれている。
「エッチング
る。3.12の「耐用年数」では、ライフサイクルについて考察して
液等の一部の材料は固体で供給され、使用時に希釈される。排
として、WEEE指令からのイ
いる。3.13の「廃棄物からの再生」
出は固体として扱う場合と溶液として使用する場合とでは異なる
ンパクトである資源の価値化を考察している。表3.88は再生関連
ため、違う排出シナリオが適当である。これらの一般化された説
工程一覧である。
明に適合しない化学物質の例があることも考えられ、この場合、
3.14の
「廃棄物」
では、廃棄物の排出シナリオを考察している。
排出シナリオ文書の使用者は、どの排出シナリオが最も適当か
として各
第4章では「事例」が紹介され、第5章は「付属書」
種参考情報が記載されている。
を判断すべきである」
。
3.3∼3.10は、ウェーハプロセス、アセンブリープロセスの通常作
業や保守・サービス作業で化学物質を使用する工程について記
本文書は、イギリス
(欧州)
で半導体製造を事業とする者にと
「エッチング」
では、表3.41に示される
述されている。たとえば3.6の
って非常に重要なものであると同時に、欧州に製造装置やコン
エッチング関連工程の概要を示した上で、工程に関連する物質
(エ
ポーネント、材料を輸出するまたは欧州に輸入する事業者にと
ッチング種と無機塩)
、排出シナリオ
(無機固体、水溶液調整物)
、
っても非常に参考になるものである。
関連工程
(化学物質の調合、使用者による化学物質の取扱い、
コンポーネントと機器のクリーニング)
が説明されている。
3.11の
「その他の産業工程」
では、液晶と特殊ガスに触れてい
本文書は現時点では草案の段階であるが、業界等でのレビュ
ー期間も終了しており、公式文書として発行される時期も近い
ものと思われる。
表3.41 エッチングの関連工程の概要
ライフサイクルの段階
ウェットエッチング浸漬タンク
説明
排出メカニズム
コンポーネントを無機塩と、酸またはアルカリ等 使用済みの無電解槽内の材料がすすぎタンクに移行
のその他の材料の水溶液調製物に浸漬する。 ハロゲン化物、アンモニア、アミン等の分解生成物の蒸気
タンクを加熱する場合もある。
ドライエッチング
(ガス)
反応性物質の高温の蒸気が、エッチング対 蒸気の大気中への排出
象のコンポーネントに移行する。
機器またはフィルタに堆積した固形廃棄物の残留物
この工程は通常、半導体製造に限定される。
すすぎ
コンポーネントを一つまたは複数の水槽に浸 最初のすすぎ段階のすすぎ廃水は、めっきタンクに再循環されること
漬し、めっき用化学物質およびめっき工程で が多い。
使用したその他の材料を除去する。
(銅等)
の排出許可限度内
その後のすすぎ段階は、pHまたは特定金属
すすぎ水の一部は、めっき槽の注ぎ足しに でのみ廃水系に放出される。
使用される。
修理点検
定期的にタンクの水を抜き、溶液を処分し、 水は、pHと特定の金属に関する排出許可限度内で廃水系に放出される。
汚染物質を除去する。
めっきタンクとすすぎ廃水処理による汚泥は固形廃棄物として処分される。
固体の残留物を除去する。
金属の価値に応じて、特定の金属廃棄物から一部再生が行われる。
表3.88 再生に関連する工程一覧
ライフサイクルの段階
廃棄物の収集と分離
説明
排出メカニズム
電気製品の解体と再生不能コンポーネント 加工に値しない小さなコンポーネントは、低有害廃棄物とともに廃棄する。
の除去。
包装材やプラスチックの廃棄物、およびその他の家庭用プラスチック
と低有害プラスチックの処分。これには、おそらくプラスチックのリサイ
クルも含まれる。
再生した物質の廃棄と収集
再生物質と廃棄物の処理。
金属を加熱して金属から分離する。
再生金属を加熱して非金属固体から分離 部分的に燃焼した溶融プラスチックと固体セラミックを取り除き、廃棄
する。
物として処分。
商品価値のある十分な純度まで金属を分離。
プラスチックを収集して、再 リサイクル業者へ発送する際、プラスチック/ 廃棄するプラスチックと非金属固体は、他の家庭用製品および産業用
生または処分
ポリマーコンポーネントを電子製品から引き 製品由来のプラスチックとともに処分される。
剥がす。
残りの廃棄物の処分
分離できずに混合された物質の固体廃棄残 廃棄物の性質に応じて、埋立て処分またはその他の廃棄処分。
留物。
9-10, 2008 • SEMI News
21
MEMS
多層MEMSウェーハのレーザーダイシング
(財)レーザー技術総合研究所 主任研究員 藤田 雅之 / 東北大学大学院 工学研究科ナノメカニクス専攻 准教授 田中 秀治
第一プロセスにおいて用いるレーザーとしては、産業用で最も
1. はじめに
一般的に、MEMSウェーハの分割には回転ブレードが用いられ
普及しているレーザーとしてCO2レーザーやYAGレーザーが候
ている。このブレードを用いるダイシング工程では、ブレードの
補となるが、波長10μmのCO2レーザーはガラスの表面で吸収が
冷却や切削粉の除去のため水をかける必要がある。しかし、精密
起こり、内部加工に用いることはできない。一方、波長1μmの
な可動機構を有するMEMS素子に水が浸入すると汚染・破損が
YAGレーザーを用いた場合、多光子吸収を利用してガラスの内
生じ、歩留りが低下する。このため、通常はMEMSウェーハの分
部にクラックを形成することが可能となる。しかし、多光子吸収
割前に保護テープを貼ったり、レジストにより保護したりするが、こ
を利用するためには高強度である短パルスレーザーが必要とな
れがMEMSの設計の大きな制約となっている。また、回転ブレー
る。パルス幅100nsよりも10nsのYAGレーザーを用いた方が低エ
ドによるダイシングでは、ブレード幅に相当する分割代(しろ)
ネルギーで効率よく内部クラックを形成できる。YAGレーザー
とチッピングが発生する領域が広いため、ウェーハ内でのチップ
にこだわらなければ、フェムト秒レーザーやピコ秒レーザーの方
数が減少するという問題がある。これは特に小型チップのコスト
が精密な加工ができるが、加工速度が低下し、装置コストが1桁
に直結するためMEMS実用化の障害となる。
高くなってしまう。産業用YAGレーザーの中でも短パルスを発生
1)
これまでに、レーザーアブレーションを用いた切断 が検討さ
するものはパルス幅10nsであり、ガラスの多光子吸収とシリコン
れているが、デブリ
(加工くず)
の発生や熱影響が懸念される。
の内部加工(1光子吸収による熱加工 ))の両方に利用できる。
また、LSI向けの薄型ウェーハのダイシングとして、ウェーハ内部
本研究では、Nd:YVO4レーザーまたはNd:YAGレーザー
(いず
2)
3
に改質層を発生させ割断するステルスダイシング技術 が開発さ
れも波長1.06μm、パルス幅約10ns)
を用いることとした。一般的
れている。
厚みのある試料や多層構造MEMSへの適用が試みら
に、両者の装置価格は同程度であり、パルスの繰返し周波数に
れているが、積層ウェーハに対しては複数台のレーザーを用いたダ
よって使い分けがなされている
(低繰返しではNd:YAGレーザー、
イシングが検討されている。以上の背景から、
ドライ環境下でチ
高繰返しではNd:YVO4レーザー)
。
ッピングなしにダイシングする低コストな技術が求められてお
波長1μmのレーザーで内部加工を行うには、試料の表面と集
り、我々は積層MEMSを一台のレーザーによってデブリなしに分
光点のエネルギー密度の関係が重要になる。ガラス表面のレーザ
割する技術開発を進めている。
ーエネルギー密度はアブレーション閾値以下、集光点は内部加工
ここでは、レーザーを用いて、MEMSの代表的な構造であるシ
閾値以上という条件を満たすために高NAの対物レンズが必要に
リコン/ガラス接合体の2層構造試料を3mm角のチップに割断し
なる。本研究では主にNA 0.7の対物レンズを用いた。また、厚み
た結果を報告する。
光学特性が異なる2種類の材料が貼り合され
のある試料の深さ方向に対して全面に内部加工を形成するには、
た試料を、比較的安価な1台のレーザーでダイシングすることを
深さ方向に数回レーザー走査を行う必要がある
(図(
1 a)
)
。この時、
目標として基礎データを取得した。
内部加工痕によってレーザー光が散乱することを避けるために、
2. 多層ウェーハのダイシング方法
レーザー走査は底面から表面に向かって行った。
本研究で行ったレーザーダイシングは2つのプロセスで構成さ
ウェーハの分割に必要な機械的応力の測定には、東北大で開
れており、その概要を図1に示す。初めに、試料に対して透過性の
発された実験装置を用いた。この装置は、10mm×20mmの試料
あるパルスレーザーをウェーハ内部に集光し加工を行う。レーザ
に3点曲げ力と引張力を加えることができる。3点曲げ力の際の支
ーを走査させることにより内部加工をつないでライン状にする。
点間距離は10mmで、エアーシリンダーから供給された圧力をブレ
次に、外部ストレスを加え内部加工層に沿って割断を行う。外部
ードにより加える仕組みとなっている。ブレードの先端の幅は
ストレスとしてはブレードによる機械的応力を用いた。
200μmで曲げ力、引張力ともに40Nまで調整することができる。
3. パルスレーザーによる内部加工
パイレックスガラスの内部にNd:YAGレーザーをシングルシ
ョットで照射し、内部クラックを形成した。内部クラックの顕微
鏡画像を図2に示す。
左図は加工閾値近傍のエネルギー、
右図は
加工閾値の3倍のエネルギーである。
内部クラック形成閾値のエネ
ルギーは65μJであった。また、内部クラックの形状は等方的で、
その幅は加工閾値近傍で数10μmであった。また、加工閾値の
1.5倍のエネルギーで内部クラックを形成した場合のクラック深さ
図1 レーザーダイシングのプロセス
22
は80μmであった。厚いMEMSウェーハに対しては、深さ方向に
SEMI News • 2008, 9-10
MEMS
図2 パイレックスガラス内部に形成されたクラック
数回走査させるが、平均出力:20W、繰返し周波数:40kHzの
Nd:YVO4レーザーを用いた場合、1ライン当たり4,000mm/sの加
工が可能である。厚さ1mmのガラスウェーハに対しては10ライン程
図4 ダイシングの評価に用いた圧力センサの構造図
度走査が必要であるが、これを考慮した速度でもブレードダイシ
μ Jであった。これ
ングと比べてかなり高速となる。
らのダイシングライ
波長1μmのレーザーはガラスとシリコンに対して透過性があ
ンは内部加工部に
るため、シリコンにも内部加工を施すことができる。図3にシリ
完全に沿っており、
コン内部に形成された加工痕のレーザー顕微鏡写真を示す。NA
チップに分割する
0.7の対物レンズを用いると、表面アブレーションを伴わずに内
際にもチッピング
部改質を形成でき、加工閾値エネルギーは0.5μJとパイレックス
が発生しなかった。
ガラスに比べて低いことがわかった。パルス幅100nsのレーザー
また、表面アブレ
による内部加工と比較すると、熱影響が少なくクラックというよ
ーションを行って
りも内部改質に近い加工痕が形成される。レーザーエネルギー
いないため、デブ
の増加に伴い、改質の深さが増加するが、改質の幅はほぼ一定
リフリーでダイア
で5μm以下である。ガラスの内部クラック形状が等方的であるの
フラムの損傷もな
に対して、シリコンに形成される内部改質は細長くアスペクト比が
く割断できた。
高い。
5. まとめ
図5 レーザーで割断した試料のSEM像
多層MEMSに適用できるレーザーダイシング技術を紹介した。
パルスレーザーでウェーハに内部加工を施した後に、ブレードに
よる機械的応力を試料に加えてチップに分割することができる。
波長1μm、パルス幅10nsのレーザーはガラス、シリコン共に内部
加工を施すことができるため、パイレックスガラス/シリコンの2
層試料に対しても低ストレスでデブリフリーな割断を行うこと
ができた。本技術により、ダイシング時の水・デブリに対する
MEMS設計上の制約から解放されるため、従来にはないMEMS
の多様化が期待できる。
謝辞:本研究はNEDO「高集積・複合MEMS製造技術開発事
図3 シリコウェーハ内部に形成された改質部
4. 多層ウェーハのダイシング
業」
の一環として東北大学江刺・小野・田中研究室、大阪大学レ
ーザーエネルギー学研究センターと共同で実施したものであり、関
係者各位に感謝いたします。
以上のような単層試料に対するレーザー加工・割断の実験結
果をふまえて、多層試料のレーザーダイシングを試みた。図4に
<参考文献>
示す東北大で設計された圧力センサーを模擬したMEMS試料
(2
1)
Y.Kozuki, et al., “Gentle Dicing of Thin Semiconductor Materials by
層構造:シリコン/パイレックスガラス=300μm/300μm)
の割断
Water-Jet -Guided Laser”, in Proceedings of LAMP 2006, #06-126.
結果を図5示す。Nd:YVO4レーザーをガラス側から入射し、
2)
K.Fukumitsu,etal.,“TheMechanismofSemiconductorWaferDicingby
NA0.8の対物レンズで集光して底面のシリコン側から順に内部
StealthDicingTechnology”,inProceedingsofLAMP2006, #06-124.
加工を施し、機械的応力で分割した。シリコン層、ガラス層の加
3)
T.Monodane, et al., “Thermo-Elastic -Plastic Analysis on Internal
工条件はそれぞれ、
スキャンスピード100mm/sec、
500mm/sec、パ
Processing Phenomena of Single-Crystal Silicon by Nanosecond
ルス繰返し周波数100kHz、20kHz、パルスエネルギー26μJ、130
Laser”, in Proceedings of LAMP 2006, #06-125.
9-10, 2008 • SEMI News
23
Innovation Stories
開発秘話:シリコンメサトランジスタから
(100)
結晶面特許へ
元 株式会社日立製作所 半導体事業部 大野 稔
■ はじめに
時期にシリコンの開発
最近、
CMOSにおいて最適な結晶面方位、
電流方向、
ひずみの
を重視され、その仕事を
選択などの研究開発が盛んである。一方、50年に亘って、MOSIC
担当させてくださった
製品には最適結晶面方位として
(100)面が用いられて来た。本
宮城さんには、いくら感
稿では、私が桃井敏光さん、川地陽二さんとともに1963年出願し
謝してもしきれないも
た
(100)
面特許の発案に至る開発の経緯と秘話をまとめてみる。
のを覚えている。これな
■ 開発の経緯
くしては、私のその後の
1948年、私が名古屋大学工学部電気科に入学したころ、米国
シリコン、MOSに続く仕
でトランジスタが開発されたというニュースが伝えられたが、1951
事は考えられないからで
年、大学卒業後、半導体を研究しようにも研究室が大学になく、
ある。
物性研究ができる磁性体を選択し、
6年間ほど研究生活を送った。
図1 MOS開発のきっかけとなった二重
拡散メサ型シリコントランジスタ
の写真
シリコンメサトランジスタの開発がほぼ完成した1960年、フェア
その後1957年、日立中央研究所の只野文哉氏のご紹介により同
チャイルト社がプレーナトランジスタの開発に成功したというニ
所に入所し、創設間もないトランジスタ部
(部長 宮城精吉氏)
に
ュースが入って来た。それは強烈なショックだった。メサトラ
配属された。長年の夢であった半導体研究に携わってみると、研
ンジスタの製作でSiO2はすでに馴染みの材料であり、ベル研の
究所とはいえ、
トランジスタ部は工場の製造部門を目指す部署
論文などでSiO2で被われたシリコンの表面がきわめて安定なこと
で、
当時、
ラインを流れていたのは低周波用、
高周波用の2系列の
を熟知しながら、なぜ、私自身がプレーナトランジスタの発想に
トランジスタと点接触型ダイオード程度で、すべてRCAから送
至らなかったのか大変悔しく思うと同時に、今後すべてのシ
られてくる製造仕様書に基づいて製造されていた。私の仕事も
リコントランジスタはこの構造に替わり、メサトランジスタは陳
その翻訳や、インチをセンチに換算して図面を書き直すもので、
腐化するに違いないと判断した。1961年3月から3ヵ月間RCAに
目の前で毎日トランジスタが製造されていくことに感動を覚え
出張し、技術研修、調査を行ったが、ちょうどその期間にRCA
つつも、研究は全くできず、日本屈指の研究所ですらこうかと、日
においてもプレーナに切り替えるという大方針が打ち出され、
米の技術差に愕然としたことを記憶している。1958年、
トランジ
現場はその切替えの真最中であった。信頼性の点でプレーナが
スタ部が独立事業所として武蔵工場の場所に移転し、この工場
断然有利だと、
担当の技術者が深刻な表情で私にささやいたの
で開発部門が作られるという話を聞き、当時の主任の阿部氏に、
が印象的だった。帰国した私が真っ先にプレーナトランジスタ
「ぜひその仕事をやらせて貰いたい、さもなくば会社を辞するこ
開発に取りかかったのは言うまでもない。
とも考えている」
と脅迫めいた言辞を弄し、強硬にお話した結果、
ちょうどこのころ、ラインで量産されていたメサトランジス
部長の宮城精吉氏からシリコントランジスタの開発が命ぜられ、
タのあるロットに不良発生事故が起こった。これは、100∼120°
C
喜び勇んで引き受けたことは言うまでもないことであった。
の高温で動作寿命試験をすると、エミッタ接地時のコレクタの
シリコンについてはまったくの素人の我々数名が、わずかばか
リーク電流が数桁以上増加するというものであった。開発責任
りの文献知識を頼りに、拡散炉など必要な設備の設計から始め、
者として直ちに対策に乗り出したことは言うまでもないが、私
不純物拡散、エッチング、蒸着、組立など必要なプロセスを一通
はこの際本格的にこの問題に取り組んでみようと決心した。し
り開発し、着手して半年ぐらいで外国技術によらず、自らの手で
かし、生産工場における開発部門ということで、そう簡単ではな
二重拡散メサ型シリコントランジスタの開発に成功したのであ
く、道楽とも見えかねない基礎研究を実行するのはかなりの覚
る
(図1)
。この間、水素炉を爆発させかけたり、酸で火傷をした
悟が必要で、残業時間や休日出勤などを利用、人目をはばかるい
り、文字通り辛酸を嘗め尽くして一通りのシリコンに関する技
わばもぐり研究に近い状況だった。表面現象を扱える物理計測
術を経験し、我々のグループにとってもかけがえのない財産に
などの道具もなく、最初はあり合せの装置でできる浮遊電位の
なった。同時に、この経験を通し、シリコンに対するある種の勘
測定による表面反転眉の検定から始めた。これは、エミッタ、ベ
のようなものを感得し得たように思う。このような勘は、自分で
ース間に逆バイアスを印加し、コレクタ、ベース間に現れる浮遊
手を下して体験することによって初めて獲得されるもので、文
電位を測定するもので、容易にエミッタ、コレクタを連結する反
献を読んだり、人からの話だけでは決して得られるものではな
転眉の存在をチェックすることができる。npnトランジスタの場
く、新技術の開発や発明など創造的な仕事を進めるために重要
合は、ベース表面に形成されるn型反転層が問題となる。反転層
な要素であり、筆者の場合も以後の研究開発を進める上で計り
の温度特性を測定する目的でだんだんに加熱していった。およ
知れない役割を果たすことになった。それにしても、かなり早い
そ70∼100°
Cを超えると測定値に急に異常が現れ、またもや表面
24
SEMI News • 2008, 9-10
Innovation Stories
現象固有の泥沼に陥っ
たかと落胆しかけたこ
とがあった。
この時、
ふ
と大学でやっていた磁
性材料における磁場冷
却効果という現象が頭
図2 最初にFC 処理をしたMOSトラン
ジスタの平面写真(昭和36年電子
通信学会全国大会)
の中をかすめた。これは、
ある種の磁性材料を磁
場の中で加熱冷却する
と、その材料が磁場方向に磁化されやすくなる現象である。もし
かすると、pn接合を加熱した際形成された反転層も冷却する
とそのまま凍結されるのではないかと考え、磁場冷却(Field
Cooling)
という言葉を借用し、FC効果と名づけた
(図2)
。あま
り適切な命名でなかったのか、その後IBMの研究者によるBT
(Bias Temperature)
処理という名前にとって代わられてしまった。
図3 (100)
結晶面特許
(米国)
の一部
1963年当時のSiO2は、今日のいわゆるクリーンプロセスとは程
遠く、C-V特性はFC処理により派手にシフトする。このシフトは
立した。なんと、特許成立まで20年かかったわけである。この特許
SiO2中の可動イオンによるものと見当はつけたものの、Naイオ
は、出願と同時に内外の半導体各社から一斉に意義申立てを受
ンがその元凶と突き止めるまでには至らなかった。MOSの金属
けた。それに対する反論、あるいは証拠集めなどに全力を挙げて
電極側を負バイアスしたマイナスFC処理では、C-V特性がそれ
取り組んだ薄田幸治さん、桶田吉紀さん、灰野潤一さんらの若さ
以上シフトしないある安定した最小値に達する。私は、FC処理後
とバイタリティに溢れた奮闘がなければ、この特許は成立しな
の最小値こそがSi-SiO2界面の本質を現しているのではないかと
かったと思う。長く厳しい論争の連続であった。この特許は内
考え、この最小値はMOS構成要因の何と関連しているのか考え
外各社とライセンス契約が結ばれ、半導体技術の米国依存から
て、磁性材料のある現象を思い出したのである。
脱却するきっかけともなったのである。
純鉄はSiと同じ立方晶で、
〈100〉
〈110〉
〈111〉
という三主要軸
がある。
〈100〉
〈110〉
〈111〉方向の順序で磁化されやすいという、
■ おわりに
特許取得後も、私にはひとつの疑問が残っていた。この特許は
元東大 茅総長の発見された有名な現象がある。MOS系でも界
複雑な構造や難しい理論に基づくものでもなく、MOSをやって
面電荷は
(100)
面で最小になるのではあるまいか、
論理的な根拠
いれば誰でも気がつきそうな単純明快なものである。特許成立
があるわけではないが、
私は直感的にそう感じた。
当時、
Geは言う
後、
何年か経ってRCAのO. Johnsonさんが東京RCA研究所の所
に及ばず、Siでももっぱら
(111)
面が使われていた。これは合金
長として東京にやって来られ、赴任間もないころ学会でお目に
接合を形成する際にフラットな接合面を得るための、基本技術
かかり、
自分が
(100)
特許の発明者である旨を告げた。
O. Johnson
になっていたからである。われわれの実験でも大変苦労して
さんは、まじまじと私を見つめ、
「おまえがそうだったのか。自分
(111)結晶から
(100)
(110)面を切り出して3種類のMOSダイ
もそのころ、部下に結晶面を変えて見るよう指示したが、
(100)
オードを作製し、不純物イオンの影響を除去するためにそれぞ
面が一番悪いという実験報告が出され、それきりになってしまっ
れにマイナスFC処理を施した後、C-V特性を計ると、界面電荷の
た。おまえは良くそれを見つけた。You are great!」
とお褒め
最小値が
(100(
)110(
)111)
の順に並ぶ。あまりにも見事な予想
の言葉をいただいた。ベル研究所のMOS開発者、D. Kahng
の的中に驚くとともに、単なる偶然か実験の誤りではないかと
さんが武蔵工場を訪問される機会にも、かねての疑問をぶつけ
いう疑いも消えなかった。表面現象は、ばらつきが大きく不確実
てみた。KahngさんがMOSFETを試作して、遭遇した第一の
なものという固定観念にとらわれていた私にとっては、きれい
問題はしきい億電圧が異常に大きく正常に動作しないというも
すぎる結果だったからである。何度も確認実験を繰り返し、やっ
ので、その原因がSiO2の汚染によるものと推定、そのクリーン
と本物だと確信するに至ったのは、最初の実験から2ヵ月経って
化で解決したというものであった。それ以上はお聞きしなかっ
からであった。終始誠実に私の実験助手を努めてくれた桃井敏
たが、SiO2のクリーン化ですべて解決したと判断されたように
光さん、川地陽二さんとの3名の共願で特許申請を行った。1963
お見受けした。
年4月と記憶している。この出願は、米国では1970年5月
(図3)
、
日本で1963年6月、審判で有効性が認められ工業所有権が確立
<参考文献>
した。いちばん長くかかったのが西独特許で1983年3月22日、
ミュ
1. 大野「私の半導体体験 その6」1986年11月∼87年1月 電子材料
ンヘンの特許裁判で丸1日かけた長時間審理の結果、権利が確
2. 大野他「昭和38年度 電子通信学会前項大会」
9-10, 2008 • SEMI News
25
Market Statistics
半導体と太陽電池双方の発展を願う中国装置サプライヤ
SEMI 市場調査統計部門 Lily Feng / Dan Tracy
中国には、半導体製造装置の開発製造を専門にする企業が、
ジョイントベンチャーを含めると約 80 社あります。これら国産装
置メーカーの多くは、軍需機関が転換したか、あるいはそれから
装置カテゴリー
国産企業
露光/描画装置
SMEE
CECT 45
フォトレジスト処理装置
SevenStar
SIAYUAN
CECT 48
エッチング装置
AMEC
NMC
Sevenstar
派生した研究機関で、その販売先は大学と研究機関に限定され
洗浄装置
SevenStar
CETC 45
SIAYUAN
ています。しかし、国内に半導体産業が出現すると、中国の装置
熱処理装置
SevenStar
CETC 48
産業は、半導体工場へのサポートと装置供給が求められるよう
イオン注入装置
ZKX
CETC 48
薄膜形成装置
AMEC
NMC
Hiway
検査評価装置
2 Start-ups
CMP装置
CETC 48
CETC 45
ACM
ウェーハ製造装置
LZR
XAUT
JYT
になりました。
国内企業はこうした要求に応え、その多くが中国装置製造市
場で重要なポジションを占めるに至りました。右の表に示され
ているように、国産装置メーカーは、半導体製造装置市場のさま
ざまな分野で活動をしています。国産装置への投資や開発を奨
励するためのさまざまなプログラムも実施されており、その結
果、200mmや300mmの装置を完成あるいは開発中の中国国内
企業も出てきました。注目を集めてはいませんが、国内における半
導体工場と国産装置メーカーの協力も具体化しており、0.25∼
0.18μmのプロセス装置やプロセスレシピの共同開発が行われて
います。中には、45nmプロセスの共同開発もあります。
CETC 48
SKY
JingYi
ACM:ACM Research, Inc
AMEC:Advanced Micro-Fabrication Equipment, Inc.
CECT:China Electronics Technology Group Corporations
Hiway:Hiway Systems International, Inc.
JingYi:Beijing JingYi Century Automatic Equipment Co. Ltd.
JYT:BeiJing JingYunTong Vacuum Equipment Co. Ltd.
LZR:LanZhou Rapid Equipment Manufacturing Co. Ltd.
NMC:North Microelectronics, Inc.
SevenStar:Beijing SevenStar HuaChuang Electronics Co. Ltd.
SIAYUAN:Shen Yang SIA YUAN
SKY:SKY Technology Development Co. Ltd
SMEE:Shanghai Micro Electronics Equipment Co. Ltd.
XAUT:Xi’an University of Technology Crystal Growing Research Institution
ZKX:BeiJing ZhongKeXin Electronics Equipment Co. Ltd.
国外の競争相手と比較すると、これら国産装置メーカーは、売
国産装置メーカーは、
半導体、
太陽電池などの産業に装置を供
上げ規模ではまだ小さいですが、下図に示されているように、過
給するため、生産能力を拡大しています。国内で開発された装置
去数年にわたり安定した成長を見せています。太陽電池のセル
は、現在評価段階にあり、国内の200mmおよび300mm工場での
やモジュール製造への中国での投資拡大が、こうした国産装置
量産に使用されることになります。太陽電池用基板、セル、モジュ
メーカーの成長の鍵を握っていると言えます。なお、この図では、
ールの各メーカーも、中国製装置にやはり切り替えています。中
Total SalesにLEDやその他の製造装置も含まれており、その分、
国の国産装置産業は、今後数年にわたり国内部品メーカーの技
半導体製造装置と太陽電池製造装置の合計よりも大きくなってい
術が発達するにつれて、発展をしていくでしょう。
ます。
中国市場について、
さらに詳しい情報をお求めの場合、
SEMIの次の市場レポートがお役に立ちます
・China Domestic Fab Equipment Suppliers
・China Semiconductor Wafer Fab and
Foundry Outlook
・China Equipment Subsystem, Components,
and Parts Vendors Overview
中国のファブについては、ファブデータベース
の各レポートで調べることができます。詳しく
はwww.semi.org/marketinfoをご覧ください。
26
SEMI News • 2008, 9-10
Market Statistics / High Tech U
世界半導体製造装置市場統計 2008年
5-6月販売高データ
装置カテゴリー別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
マスク、レチクル製造用装置
ウェーハ製造用装置
ウェーハプロセス用装置
組立・パッケージング用装置
テスト用装置
半導体製造装置用関連装置
合 計
2008年5月
0,035,054
0,023,175
1,604,514
0,198,195
0,312,959
0,100,627
2,274,524
2008年6月
0,032,296
0,019,972
2,089,665
0,239,428
0,358,824
0,122,441
2,862,626
SEMI Book-to-Billデータ
1800
1.10
受注額
1.00
1400
1200
2008年5月
0,587,762
0,483,943
0,144,755
0,275,106
0,400,439
0,150,674
0,231,845
2,274,524
2008年6月
0,673,998
0,471,898
0,198,745
0,560,597
0,441,719
0,175,882
0,339,787
2,862,626
出典:Worldwide Semiconductor Equipment Statistics(SEMI, SEAJ)
0.90
0.92
1000
0.89
0.85
600
0.87
0.83 0.80
0.82
0.82
日 本
北 米
欧 州
韓 国
台 湾
中 国
その他
合 計
BBレシオ
1600
800
装置市場別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
販売額
0.79
0.81
0.82
0.80
0.78
400
0.70
200
0
8月
9月
10月
11月
12月 08年1月 2月
3月
4月
5月
6月
7月
0.60
SEMI BBレシオの12ヵ月間推移(単位:百万米ドル、3ヵ月移動平均)
SEMI BBレシオの1991年からの推移は、SEMIのwebサイトで
。
ご覧いただけます
(www.semi.org/marketinfo)
高校生向け教育プログラム「ハイテク・ユニバーシティ」参加校
シリコンバレーのインテル社、アプライドマテリアルズ社、SEMIを訪問
今年3月に開催した「ハイテク・ユニバーシティ in 茨城」の
(月)
に
参加高校である水戸第二高校の生徒26名が、去る8月4日
シリコンバレーにあるインテル社、アプライドマテリアルズ社、
そしてSEMIを訪問しました。水戸第二高校は、文部科学省から
「将来の国際的な科学技術系人材を育成することを目指し、理
数教育に重点的を置いた研究開発を行う」スーパーサイエンス
に指定されており、国の支援を受けての海
ハイスクール
(SSH)
外研修を実施しています。
今回は
「学生に海外の大学、企業を見学し、研究者たちと交流
することで、生徒に大きな刺激と感動を与え、広い視野を持ち国
際的に活躍できる人材を育てる」
目的で、米国でワシントンのス
高校生の米国シリコンバレー訪問 アプライドマテリアルズ社にて
などを訪
ミソニアン博物館、ボストンの大学(ハーバード、MIT)
感じ、日本では得られない経験ができた」
と大いに刺激を受けた
問後、シリコンバレーを訪れるという8日間の海外研修旅行でし
様子でした。
「二進法
た。インテル社ではIntel Museumの展示物を見学、また
を学ぶ」
ワークショップにも参加しました。アプライドマテリアルズ
SEMIは、この教育プログラム
「ハイテク・ユニバーシティ」の
社ではMaydan Technology CenterやAKTの液晶CVD装置工
活動を通じて、高校生に科学・技術の面白さ、半導体産業の重要
場を見学、同社の協力によりエンジニアからの説明を受けまし
性を伝え、理系への進学および半導体産業への興味・関心を喚
た。SEMIでは米国のオフィスを見学後、米国人スタッフと昼食を
起し、次代を担う優秀な人材の育成・人材確保をサポートしていき
食べながら、英語で談笑するなどして一日を過ごしました。英語
たいと考えています。
での説明やコミュニケーションには苦労したとのことでしたが、
お問合せ:SEMIジャパン 展示会/プログラム部
「世界的なハイテク産業が多数生まれたシリコンバレーを肌で
9-10, 2008 • SEMI News
Tel:03.3222.5993 E-mail:jeventinfo@semi.org
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Column
SEMI Newsコラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
擬態の“名人”
志村 史夫
私は、いままで、学生、院生時代も含めれば40年近く、さまざま
界にも
「擬態植物」
というのがいるらしい。たとえば、動物に食
なテーマの研究(道楽)
に従事して来た。最も長期間従事した
べられないように、石ころと見分けがつかないように擬態する
のは「SEMI」にも縁が深い「半導体結晶」である。この分野の
アフリカの砂礫地帯にいるリトプスなどである。
第一線の研究から引退した後の、最近十年余の
「道楽研究」
は
このような、生きものたちのさまざまな「擬態」
を知るにつけ、
いずれも、私が長年“ハイテク”
に従事したが故のものだった。そ
私は、ひたすら驚くのであるが、同時に、長年の習癖から、彼らに、
の
「故」
を詳細に述べる紙幅はないが、たとえば、私が驚愕する
どうして、そのようなことができるのだろう、そのメカニズムは
生きものたちが持つ
「超技術」
「超能力」
の中で、いつかは真剣に
どのようになっているのだろう、それを何かの装置に応用でき
取り組みたいと思いながら、この十年間、その取っ掛かりさえ見
ないだろうか、などと野暮なことを考えてしまう。
出せないのが「擬態」である。
「擬態」
というのは「動物が身を守ったりエサを獲得したりす
しかし、すぐさま、大きな壁に突き当たり、彼らに降参するの
がオチである。
るために、色や形を周囲の他の物に似せること」である。
「生物
まず、彼らは、周囲の状況に似せた自分自身の身体を、自分自
学辞典」によれば、
「擬態」は大きく
「隠蔽的擬態(環境に似せ
身では見えないはずである。たとえば、海底の砂に溶け込んでし
目立たなくする)」と「標識的擬態(目立つようにする)」の 2
まうヒラメやカレイの「目の位置と向き」
を考えれば、彼らに「海
種類に分けられる。後者は、たとえば、チョウが「自分の味はま
底の砂に溶け込んでいる、あるいは溶け込もうとする自分自身
ずいよ、だから食べない方がいいよ」
という具合に味がまずい種
の姿」
を見ることはできないだろう。われわれの常識から考え
類のチョウの形や色になったり、アブが「オレは危ないハチだぞ、
れば、自分の姿を何かに似せようとする時、まず、その
「何か」
を
近寄ると毒針で刺すぞ」
とハチに似た目立つ色彩になったりし
凝視観察し、
「似せるための行為」
をした後、その「何か」
と自分
て、捕食者を欺くような擬態である。これもなかなかあっぱれな
がどれだけ似たか、をチェックしなければならないはずである。
擬態なのであるが、私が科学的・技術的に大きな興味を持つのは
そして、徐々に改良を加えて、その「何か」
に近付けて行く。こ
前者の
「隠蔽的擬態」
である。
のような「常識的工程」を考えるならば、どうしてヒラメやカレ
昆虫ではカレハバッタ、コノハムシ、ナナフシなどが「隠蔽的
イが海底の砂に溶け込んでしまえる擬態ができるのか、私には
擬態」
で有名である。私は、これらの本物を博物館で見たことが
さっぱりわからない。彼らは、われわれ人間にはまったく見当も
あるが、その場にいることを知らされてはいても、枯葉に混ざっ
つかないような方法で、互いに
「監督」
「指示」
し合うのだろうか。
たカレハバッタや木の葉に張り付いたコノハムシ、枯れ枝にと
いずれにせよ、いま、われわれが見る生きものたちの擬態は、
「生
まったナナフシを見つけだすのは困難である。このような「標
物進化」
「自然淘汰」
の結果であろうが、決して偶然とは思えない
本室」
ではなく、本当の自然の中で、これらの虫に気が付くのは、 「擬態能力」
を彼らがどのようにして身に付けたのか、私にはさ
少なくとも私の目では不可能だろう。また、
「隠蔽的擬態」
を示
っぱりわからない。よしんば、そのような能力、技術を身に付け
す魚類も少なくない。海底の砂に溶け込んでしまうヒラメやカ
たとしても、どのような方法で、自分の身体の色や形を周囲の状
レイ、海草にそっくりなタツノオトシゴの一種のリーフィード
況に合わせて変えられるのか、私にはさっぱりわからない。
ラゴンなど、枚挙にいとまがない。これらはいずれも、人間の兵
私は、結局いつも、
「自然はわれわれの知性にとっては限りな
隊が着用する「迷彩服」などの“迷彩度”とはとても比較にな
く驚嘆すべきことを最高度の容易さと単純さとで行っている」
らないほど高度の「迷彩効果」を示している。
というガリレイの言葉を思い出し、彼らに畏敬の念を抱き、ひれ
私が「擬態」の最たるものと感心するのはハナカマキリであ
伏すことになるのである。
る。これは、その名の通り、花にそっくりなカマキリであり、本物
ところで、いま、ふと思い付いたことだが、実は、最も
「擬態能
の花と間違えて近付いてしまうチョウを補食する。彼らの「超
力」
に長けているのは、われわれ人間なのではないか。よく考え
能力」
を考えれば、人間の目を欺くぐらいは簡単なことだと思う
てみると、人間の行動も、人間が作り出すものも
「擬態」
に満ち
が、自然界に生きるチョウの視覚や臭覚までも欺いてしまう
ているのではないか。人間は、言葉、
服装、
装身具、
化粧、
肩書き、
のだから、ハナカマキリはすごい。つまり、プロの詐欺師を騙す
“ハイテク”などなどあらゆる手練手管を使って「擬態」
し、他
詐欺師のようなものだ。ハナカマキリは擬態の名人中の名人で
人はもとより自分をも、また自然に対しても欺き続けている生
ある。
きもののような気がしてならない。われわれ人間こそ、擬態の本
いま、動物の擬態の一端を述べたのであるが、実は、植物の世
28
当の名人なのではないか。
SEMI News • 2008, 9-10