水処理工学9 水処理工学9 富栄養化と 富栄養化と窒素・ 窒素・リン除去 リン除去 9.1 湖沼と海域での富栄養化 わが国では、河川と同じように湖沼や海域についても水質環境基準(下表は湖沼の水質環境基準)が設けられてい るが、その基準達成率は河川ほどにははかばかしくない。 湖沼の生活環境に係わる(水質)環境基準 水域 の 環境基準値 pH COD 濃度 類型 AA mg/L 6.5 ~ 8.5 1 以下 SS 濃度 DO 濃度 大腸菌群数 mg/L 個/ 100 mL mg/L 1 以下 7.5 以上 A 〃 3 5 以下 B 〃 5 15 以下 5 以上 規定なし 8 ゴミがない 2 以上 規定なし C 6.0~8.5 〃 50 以下 類型AA : 水道1級、 水産1級、自然環境保全 類型A : 水道2、3級、 水産2級、水浴 類型B : 水産3級、 工業用水1級 類型C : 工業用水2級、 (都市)環境保全 右図は、過去 30 年間の水質環境基準達成率 の経年変化を示す。これに示されるように、河川 の(BOD の)環境基準達成率は、下水道の普 及率の増大に対応して、着実に上昇してきたが、 海域と湖沼、とりわけ湖沼の(COD の)環境基 準達成率は、40%程度で変化が見られない。 河川での汚濁現象は、生活排水などから BOD が流入し、それを餌とする好気性細菌がその餌を 酸化することよって引き起こされるのが普通である。 したがって、下水道を建設し、その末端にある下 水処理場で生活排水に含まれる BOD を除去し てしまえば、河川汚濁の大部分は改善することが できる。これに対して、湖沼や(東京湾・瀬戸内 海などの)閉鎖海域では、そのような BOD を餌と はしないで生存できる藻類が異常繁殖することに よって引き起こされている。 1 1000 以下 藻類は、植物と同じように、光をエネルギー源として利用しながら、炭酸同化作用によって、細胞質合成を行っている 微小な生物である。この微生物の増殖条件は、光と炭酸ガスが存在することともに、窒素(N)元素を含む化合物お よびリン(P)元素を含む化合物が存在することである。窒素は細胞質のうち、とりわけ、たんぱく質の合成に不可欠で ある。また、リンは核酸の合成に不可欠な物質である。この二つの元素を(植物の)栄養素もしくは栄養塩類と呼んで いる。そして、その水に、このような栄養塩類を高濃度に含んでいる湖沼を「富栄養湖」と呼び、また、栄養塩類が少 ない状態の湖沼を「貧栄養湖」と呼んでいる。そして、貧栄養湖から富栄養湖への遷移を「富栄養化」と呼んでいる。 貧栄養型湖沼と富栄養型湖沼の一般的な相違 貧栄養型湖沼 物理的な水質 化学的な水質 生物相の特徴 富栄養型湖沼 水の色調 青色~緑色 緑色~黄色 透明度 5 m 以上 5 m 以下 全リン濃度 0.02 mg/L 以下 0.03 mg/L 以上 全窒素濃度 0.2 mg/L 以下 0.2 mg/L 以上 Chl-a 濃度 0.3 ~ 2.5 µg/L 5 ~ 140 µg/L 生物現存量 小 大 生物多様性 大 小 主要な藻類 珪藻 藍藻・緑藻 主要な魚類 代表的な湖沼 マス・ウグイ 支笏湖、摩周湖、 コイ・フナ 霞が浦 諏訪湖、 印旛 十 和 田 湖 、 芦 ノ 湖 、 沼 手賀沼、 琵琶湖南 野尻湖、琵琶湖北 宍道湖 富栄養化とは、元来は湖沼の一生 で起 こる 老 化 過 程 を表 す 陸 水 学 (河川や湖沼のことを研究する科学 分野)の用語である。地殻変動など で生成された湖沼は河川が流域か ら集めたわずかの窒素・リンを蓄積し、 次第に生産力(藻類や水生植物の 炭酸同化作用の量)と生物現存量 を増加させ、生物の死骸・残渣を湖 底に蓄積してゆく。その結果、次第 に浅くなってゆき、最終的には湿原 になって、その生涯を終える。 このような自然に起こる富栄養化 は、非常に緩慢な速度で進行し、社会的にも受容できる自然の風化過程であるが、水質汚濁で問題としている富 栄養化は、人為的富栄養化と呼ばれるもので、人の生活と活動にともなって流域から多量の栄養塩類(窒素・リ ン)が流れ込み、湖沼の状態が人の一世代の時間でも感知できる速度で進行する自然の人為的変貌である。 2 定義としては、富栄養化は水に含まれる窒素やリンの濃度が高くなることであるが、それにともなって様々な変化が生 ずる。 ① 窒素やリン濃度が高くなると、生産力(湖沼単位面積あたりの光合成による C 固定量)が増加し、生 物現存量(湖沼に存在する生物の総質量)も増加する。それに対応して、生物の死骸残渣なども増 えて、有機物濃度も増加する。結果として、水の光透過性(透明度)が低下する。 ② 生物の種類数は減少し、生態系は単純化する。「生産者」である藻類は珪藻類(石の表面に付着し ている褐色の藻類)から藍藻類・緑藻類(水中に浮遊する青色・黄緑色の藻類:これらをアオコ、ある いは水の華ということがある))に変わり、消費者である魚類は、底棲性の魚類から低溶存酸素の状態 でも生息できるコイ・フナなどに変わる。 ③ 貧栄養湖では各水深で行われていた光合成が、富栄養湖では水温が高くて光が透過する湖沼上部 層(表水層:epilimnion)に集中する。その結果、湖沼、昼間の酸素濃度は高くなる。下部層(深水 層:hypolimnion)においては光合成が行われない上に、上部から落下してきる藻類の死骸残渣の酸 化分解がはげしく行われるので、溶存酸素は低くなる。ひどい場合には、水底では、完全に嫌気的(酸 素がないこと)になり、メタンガスや硫化水素が発生する。 特定湖沼におけるリン・窒素の環境基準 • 今日、起きている人為的富栄養化の主たる原因は、生活排水に含まれる窒素やリンにある。河川汚濁防止の ためには生活排水中の BOD だけを除去すればよく、そのために、通常の下水処理では、「標準活性汚泥法」と よばれる技術が使われてきた。これは、言わば、河川で起きる現象を先取りした排水処理技術であって、ばっ気 槽と呼ばれる空気が吹き込まれている大きな水槽に好気性細菌(この細菌は高濃度になると、泥のような塊を 作るので「活性汚泥」と呼ばれている)を培養し、それに有機物を食べさせる技術である。この方法は、BOD 除 去には大変に有効な方法であるが、残念ながら窒素やリンは除去できず、それらは処理場からの放流水に含ま れることになる。そのために、この技術を下水処理法に使っている限り、下水道が普及すればする程、河川環境 3 は改善されるが、その河川の下流にある湖沼が富栄養化することになる。 • 生活排水による人為的富栄養化現象は 1960 年代に北欧のフィヨールドで最初に問題になり、ついで北米の五 大湖で問題になった。わが国においても、1970 年代から下水道の普及とともに顕著になりはじめ、その問題の重 要性が認識されるようになった。たとえば、霞が浦では、1960 年代には夏季の一時期にしか出現しなかった藍藻 類が 1970 年代のはじめには恒常的に存在するようになった。また、琵琶湖では、1970 年代に南湖の富栄養状 態が深刻になり、その現象の北湖への拡大が危惧されるようになった。このような事態を受けて、滋賀県は 1979 年に「琵琶湖富栄養化防止条例」を定め、リン含有洗剤の使用を禁止するとともに、事業所(工場、下水処 理場)からの排水に対する窒素・ リンの規制を開始した。同様の条 例は、茨城県でも 1981 年に定め られた。 • 特定湖沼の栄養塩類濃度に係わる環境基準 水域 水域利用目的の 類型 適応性 環境基準(単位 mg/L) 全リン濃度 全窒素濃度 国においても、1970 年代より富 AA 自然環境保全 0.005 以下 0.1 以下 栄 養 化 対 策 の 検 討 を開 始 し 、 A 水道 1, 2, 3 級 0.01 以下 0.2 以下 水産 1 級 1982 年に、①現在は貧栄養であ るが富栄養になる恐れのある湖 B 水道 3 級 0.03 以下 0.4 以下 沼、および ②すでに富栄養にな C 水産 2 級 0.05 以下 0.6 以下 っているが、これ以上の深刻な富 D 水産 3 級、農業用 0.1 以下 1.0 以下 栄養化は防止したい湖沼を特定 水 して、そこでの、窒素・リン濃度の 工業用水、 環境保全 環境基準を定めた「特定湖沼に 自然環境保全 自然探勝のための環境保全(国立公園など) おける環境基準」を告示した。こ 水道1級 簡易浄水操作で水道水にすることが出来る。 のような環境基準が定められた湖 水道2級 通常浄水操作で水道水にすることが出来る。 沼の流域においては、その湖沼の 水道3級 高度浄水操作で水道水にすることが出来る。 窒素・リン濃度を環境基準のレベ 水産1級 ヒメマスなどが水産資源である。 ルに達成させるための施策(排水 水産2級 サケ、アユなどが水産資源である。 規制、総量規制など)の権限が 水産3級 コイ、フナなどが水産資源である。 都 道 府 県 に 与 え ら れ たこ とにな る。 • 2002 年現在、特定湖沼として指定された水域は 81 水域に達するが、環境基準達成率は、33%で、10 年前 の 29%と大差がない。しかし、1992 年に特定湖沼指定を行った 48 水域の平均値についてみると、全窒素濃 度が 1.2 mg/L から 0.9 mg/L へ、また、全リン濃度は、0.048 mg/L から 0.038 mg/L へと、わずかながら改善 の傾向が見られる。湖沼の場合には、汚染物質の底泥へ の蓄積が多く、汚染物質の流入量を減らしても、そ の効果が即座には現れ難い面はあるが、現在、現在、 下水道においても、窒素・リンの除去を行う下水処理 摂食 動物性 蛋白質 同化 が導入されはじめており、いずれは、湖沼においても、 河川と同様に高い環境基準達成率が得られるものと 思われる。 分解 アンモニア NH4+ 分解 工業的 窒素固定 9.2 排水からの 排水からの窒素除去技術 からの窒素除去技術 植物性 蛋白質 生物固定 大気の N2 脱窒 硝化 窒素除去-硝化脱窒法 硝酸 NO3- 硝化脱窒法は右図のような自然界での窒素循環の NH4+ から N2 への変換を担っている硝化菌(亜硝酸菌および硝 自然界の 窒素循環概略図 酸菌の総称)と脱窒菌を活性汚泥中に生息させて排水中 の窒素分(大部分は NH4+ として存在する)を最終的には無害な N2 ガスに変換する技術である。逆に言えば、硝 4 化脱窒法とは、自然界で起きている窒素循環を下水処理施設のなかで人工的に行わせる技術である。 硝化作用 活性汚泥法で上記のような硝化反応が生ずるためには、〔1〕硝 化菌が活性汚泥中に存在していること、〔2〕反応液の pH が適 切であること、〔3〕十分な酸素が供給されること、〔4〕硝化菌に 対する毒性物質が存在しないこと、などの条件が必要である。 Rekative Activity 硝化は、下記のような、亜硝酸菌によって NH4+(アンモニア)から NO2ー(亜硝酸)を 生成する反応と、硝酸菌によって NO2ー から NO3ー(硝酸)を作り出す反応の2段 階行われる。 ① 亜硝酸菌による亜硝酸生成反応(アンモニア酸化反応ともいう) NH4++1.5O2 → NO2ー+H2O+2H+ ・・・(1) ② 硝酸菌による硝酸生成反応(亜硝酸酸化反応ともいう) NO2ー+0.5O2 → NO3ー ・・・(2) 多くの場合、亜硝酸菌と硝酸菌は共生しており、この二つの反応は継起的に行わ れる。この場合には、あたかも Nitrosomanas europea NH4++2O2 → NO3ー +H2O+2H+ ( 亜硝酸菌の一種) という反応が行われているように観察されることが多い。しかし、なんらかの理由によ って、硝酸菌が存在しないか、あるいは硝酸菌の活動が亜硝酸菌のそれに比較して相対的に弱い場合には、NO2ー の蓄積が起こることもある。 0.8 0.6 0.4 このうち、〔1〕の条件は後述するように汚泥日令を適切な値に維 持することにより達成される。〔2〕は下水のように窒素濃度が低い 0.2 排水の場合には、あまり問題にならないが、(1) 式に示されるよう に、亜硝酸生成反応は H+ を作り出す反応なので、NH4+濃厚 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 に存在する工場排水などの場合には硝化の進行とともに反応液 pH pH が不適切な値まで低下することもある。このような場合、プロ 亜硝酸菌の 活性と pH セスによっては、反応槽へ NaOH を注入するなどして pH 調整を 行う必要が生ずることもある(注:後述する循環式硝化脱窒法 ではその必要はない)。〔3〕については、NH4+ が NO3ー にまで酸化されると、O2/N = 4.6 kg/kg の酸素が必要に なる。〔4〕ついては、たとえば、 (NH2)2S (チオ尿素)のような物質は硝化菌に対して強い毒性を示すので、そのような物 質を排出する恐れのある事業所を処理区域内に持つ下水処理場では、排水規制を強化しておく必要がある。 脱窒作用 脱窒菌とは、有機物を CO2 に酸化する際に、酸素(O2)があれば酸素を使い、酸素がなければ、酸素の代わりに亜 硝酸(NO2ー)もしくは硝酸(NO3ー)を使う細菌である。たとえば、CH3COOH(酢酸)を酸化する場合には、次のように なる。 ・ 酸素(O2)がある場合(好気条件) CH3COOH+2O2 → 2CO2+2H2O ・ 酸素(O2)がなく NO2ー/ NO3ー がある場合(無酸素条件) CH3COOH+2H2O → 2CO2+8(H) ・・・(A) NO2ー+3(H) → 0.5 N2+OH-+H2O ・・・(B) NO3ー+5(H) → 0.5 N2+OH-+2H2O ・・・(C) 亜硝酸からの脱窒: (A)×3+(B)×8 3CH3COOH+8NO2ー → 6CO2+4N2+8OH-+2H2O ・・・(3) 硝酸からの脱窒: (A)×5+(C)×8 5CH3COOH+8NO3ー → 10CO2+4N2+8OH-+6H2O ・・・(4) Paracoccus denitrificans ( 代表的な脱窒菌) 非常に多数の細菌種がこのような反応を行う能力を持っているので、有機物が十分に供給され、酸素が存在しない 5 条件(無酸素条件)さえ与えれば、このような細菌が活性汚泥のなかの優先種になってゆき、脱窒はすみやかに行わ れるようになる。 プロセス構成 排水から窒素を除去するための硝化脱窒法の技術開発は 1960 年代後半より世界中で行わはじめたが、初期の 段階では、微生物(とくに硝化菌)に関する知識が不十分なこともあって、不経済なプロセスが開発された。 (1) 3段硝化脱窒法 CH3OH( メタノ ール) NaOH たとえば、米国の環境保護庁 (EPA)が実験し、わが国でもし 尿処理分野で最初に実施さ れた硝化脱窒法は右図のよう な3段硝化脱窒法であった。こ のプロセスでは、最初に標準活 性汚泥法により BOD 除去を 硝化用活性汚泥法 脱窒用活性汚泥法 B O D 除去用活性汚泥法 行い、ついで、硝化菌を主体と 3 段硝化脱窒法 する活性汚泥で硝化を行い、 最後に脱窒菌を主体とする活 性汚泥で脱窒を行う。この方法の不経済性は、沈殿池をいくつも設けなければならないだけではなく、下水中にある BOD を脱窒用の有機物に使っていないために、脱窒に必要な有機物をメタノールなどの薬品として加えなければない ことである。 (2) 循環式硝化脱窒法 その当時の微生物学知識では、硝化菌はまた有機物が存在すると増殖できず、また、嫌気状態(酸素がない状態) では死滅すると信じられていたために(実際、多くの微生物学分野の教科書にはそのように記されていた)、このような 構成をとったのであるが、実際には、特殊な有 機物を除けば、有機物が存在しても硝化菌は 硝化液循環 増殖でき、また、短い期間であれば無酸素状 態に置かれても死滅しないことが、実験を通し て理解されるようになった。これらの新しい知識 N D2 D1 を背景に考案されたのが、循環式硝化脱窒 法である。 汚泥返送 この方法は、排水の流入側に第1脱窒槽(図 循環式硝化脱窒法 の D1: 第1無酸素槽ともいう)を置き、ついで、 硝化槽(図のN: 好気槽ともいう)を置き、ここ から、混合液を第1無酸素槽にポンプ循環することを特徴としている。このような方法を取ることによって、好気槽で生 成された NO2ー /NO3ー を排水の BOD を使いながら脱窒させることが可能になる。このことは同時に、排水の BOD は、硝化で生成された NO2ー /NO3ー によって 酸化されることを意味し、3段法に比べると酸 硝化液循環( C) 流入水 素供給に消費される曝気動力が少なくなるこ ( Q) とを意味する。硝化槽の後ろに置かれた第2 ー ー 脱窒槽(図の D2)は残余の NO2 /NO3 を 脱窒して窒素除去を完全に行うための水槽で あるが、完全窒素除去が必要でなければ、プ ロセスは下図のような簡単なものであっても良 い。この場合の脱窒効率は、おおむね次式で 汚泥返送 ( R) 示される。 η= Q Q+R +C 簡易型循環式硝化脱窒法 ただし、この式が成立するのは、流入水の BOD/N 比が 3.5 以上の場合である。 6 (3) 循環式硝化脱窒法の設計法 硝化脱窒法においては、硝化菌を活性汚泥に存在させることが必要であるが、その条件は、硝化槽に存在する活性 汚泥量を基準に計算した汚泥日令 θA(これを好気汚泥日令という)を硝化菌(亜硝酸菌)の最大増殖速度μ μm の逆数よりも大きくする必要がある。 リン鉱石 Ca-HAP 工業製品 (洗剤など) リン肥料 工場排水 下水 河川水 海水 土 壌 AlPO4 食 品 海底の 沈殿物 θ A= MN 1 < 脱窒量 m µm Z (kg/day) こ こ で 、 MD (kg) MN (kg) 余剰汚泥量 M 地殻変動(海→陸) ● 除去したリンの処分法 好ましくは資源化(肥料化) 最悪でも陸上保留 リンの地球循環とリン処分のあり方 m (kg/day) N :硝化槽に存在する活性汚泥量(kg) m :排出余剰汚泥量(kg/day) 最大増殖速度μ μm の値は、水温に依存するが、20 ℃であれば、0.3 /day 程度(限界汚泥令 3.3 days)、15 ℃であれば、0.2/day 程度 (限界汚泥令 5 days)と考えれば良い。 脱窒槽の規模は、脱窒槽に存在する汚泥量を MD(kg) としたときに、 次の関係を満たすようにすれば良い。 k nM D > Z ここで、 kn :単位汚泥量あたりの脱窒速度(0.03 ~ 0.04/day 程度の値) Z :流入窒素量(kg/day) たとえば、処理水量あたり 150 mg/L の余剰汚泥を発生する下水 10,000 m3 を 15 ℃で処理する場合には、MN = 5×(0.15×10,000)=7,500 kg と計算され、硝化槽に維持される MLSS を 2500 mg/L(=2.5 kg/ m3) とする と必要な硝化槽容量は、3000 m3 (水理的滞留時間で 7.2 時間)と計算される。 この下水の窒素濃度を 40 mg/L とし、そのうち 50 %を脱窒で除去するとすると、除去される窒素量は 200 kg/day になる。kn=0.03/day と すると脱窒槽に保持すべき活性汚泥量 MD(kg)は 2,700 kg で必要な脱窒槽容量は 6,700 m3(水理的滞留時間で 6.4. 時間)と計算される。なお、50 %の脱窒でも、ほかに余剰汚泥に同化されている窒素量(生物体余剰汚泥量 の 10 %程度)があるので、全体の窒素除去率は 70 %以上になる。 (4) 硝化脱窒法の問題点 硝化脱窒法はほぼ完成された技術であるが、問題点の一つは、ときおり地球温暖化物質である N2O (亜酸化窒 素)が発生することである。これは、この現象は、とくに硝化工程を意図的に亜硝酸蓄積型で運転すると生じ易い。そ の意味では、多少不経済であっても、硝酸蓄積型の硝化形式で運転することが好ましい。 (5) 硝化脱窒法以外の窒素除去法 下水処理では、ほとんど用いられていないが、① アンモニア揮散法 (ammonia stripping)、② ゼオライト吸着法(イオン交換の一種)、③ MAP 法(MgNH4PO4 を作る方法)がある。 9.3 排水からの 排水からのリン からのリン除去技術 リン除去技術 下水中のリン分はほとんどリン酸イオン(PO43- )として存在しており、そ の大部分は食品由来のものである。地球上におけるリンは、局所的 (ほとんどがモロッコと西サハラ)に存在しているリン鉱石に由来しており、 それが肥料→食品→下水という経路で下水処理場に流入してくる。 もしも下水処理でリンを回収しないとすれば、それらのリンは海底に蓄 積することになり、リン鉱石資源が枯渇した場合には、海底からリンを 汲み上げる必要が生ずる可能性もある。その意味では、富栄養化問 7 リン鉱石 Ca-HAP 工業製品 (洗剤など) リン肥料 工場排水 下水 河川水 海水 土 壌 AlPO4 食 品 海底の 沈殿物 地殻変動(海→陸) ● 除去したリンの処分法 好ましくは資源化(肥料化) 最悪でも陸上保留 リンの地球循環とリン処分のあり方 題対策を別としても、下水からリンを回収することが 望ましいが、そのような観点からリン除去を評価する 雰囲気はまだ弱い。 現在、一応、技術的に完成しているリン除去技術 は、右表のごときものである。このうち、凝集沈殿法、 晶石脱リン法、吸着脱リン法は化学的な方法であ る。 各種のリン除去方法 除去方法 実績 リン資源化 の可能性 主な特徴 凝集沈殿法 多数 --- 汚泥の発生量が多い 晶析脱リン法 少数 YES 装置構成が複雑 吸着脱リン法 少数 吸着剤の再生が必要 生物脱リン法 (*) YES --- 処理成績が不安定 (1) 凝集沈殿法 排水のリンの多くは正リン酸イオンとして存在する。正リン酸イオンは、 H3PO4 → H2PO4-+H+(平衡定数 K=10-2.1) H2PO4-→ HPO42-+H+(平衡定数 K=10-7.2) HPO42-→ PO43- +H+(平衡定数 K=10-12.3) の平衡関係があり、中性付近の液性では、正リン酸イオンの大部分が H2PO4- ないし HPO42-として存在するが、 pH が高くなるに従い、PO43-の存在割合が高くなる。PO43-は、Ca2+、Al3+、あるいは Fe3+などの金属イオンが存 在するとそれらと難溶性塩を作り、水から分離することができる。凝集沈殿法によるリン除去は、この原理を利用した ものである。 消石灰法 正リン酸イオンは、Ca2+ と様々な難溶性塩を形成するが、このうち溶解度積が特に小さいのは、HAP(ハイドロキシ アパタイト) Ca(OH)(PO4)3とリン酸カルシュム Ca3(PO4)2で、次式で理解されるように、ともにアルカリ性で難溶性に なる。 5Ca2++OH-+3PO43-→ Ca(OH)(PO4)3 (溶解度積 Ks=10-55.9) 2+ 3Ca +2PO43-→ Ca3(PO4)2 (溶解度積 Ks=10-26.0) 3- 従って、PO4 を Ca2+塩として除去する凝集剤には、リン酸難溶性塩形成のための Ca2+源にもなり、pH 上昇効 果を持つ消石灰 Ca(OH)2が利用される。 硫酸バンド法/鉄塩法 正リン酸イオンは Al3+や Fe3+と次のような平衡反応でリン難 溶性塩を形成する。 Al3++PO43-→AlPO4(溶解度積 Ks=10-21.0) Fe3++PO43-→FePO4(溶解度積 Ks=10-21.9) 硫酸バンド(Al2(SO4)3)あるいは鉄塩(FeCl3など)を用いた凝 集沈殿法によるリン除去は、これらの反応を利用したものであ る。 正リン酸イオンに占める PO43-の割合は pH が低いほど小さ くなる。しかし、溶解性アルミニュムに占める Al3+の割合もしく は溶解鉄に占める Fe3+の割合は酸性側の液性で大きくなり、 結果として難溶性塩 AlPO4 ないし FePO4の形成は弱酸性 もしくは中性の液性(pH=5~7)で最も効果的に行われる。こ のような液性では、添加した Al3+塩や Fe3+塩の一部は、 8 溶解性リン濃度 排水に HCO 3 -(アルカリ度成分)、Mg 2+などが含まれると、これらの物質は消石灰と次のように反応して消石灰の pH 上昇効果を損なう。 HCO3-+Ca(OH)2→CaCO3↓+H2O+OH- Mg2+ +Ca(OH)2→Mg(OH)2↓+Ca2+ これらの反応は、消石灰添加量を増加させる要因になるが、生成される CaCO 3 や Mg(OH)2 はリン難溶性塩を 吸着し、重力沈殿によるリン酸難溶性塩の固液分離を容易 にする役割を果たす。 PO43:過少 ΣP pH 4 Al3+ :過少 ΣAl 最適 pH 域 5 6 7 8 9 沈殿反応 Al3++PO43-→AlPO4 Fe3++PO43-→FePO4 ☆ リン酸種(H3PO4, H2PO4-, HPO42-, PO43-)のうち、 金属イオン(Fe3+、Al3+)と反応するのは、PO43-だけで あるが、その存在割合は pH に依存する。添加金属塩がイ オンとして存在する割合も pH に依存する。 金属塩凝集によるリン除去の pH 依存性 Al3++3OH-→Al(OH)3↓ Fe3++3OH-→Fe(OH)3↓ なる水酸化物の形成にも消費される。このため、リン除去を効果的に行うためには、Al3+塩や Fe3+塩を除去すべき リン酸量の当量以上の量を添加する必要がある。しかし、消石灰法における CaCO3 や Mg(OH)2 と同様に、これ らの水酸化物は形成されたリン難溶性塩を吸着し、重力沈殿によるリン難溶性塩の固液分離を容易にする。 消石灰法に比べた場合の硫酸バンド法および鉄塩法の利点は、反応が中性付近の液性で行われるために処理液 の再中和がほとんど不要なことである。また、Al3+塩や Fe3+塩は、微生物に対する毒性が小さいので、生物処理に よる有機物除去と並行してリン除去を行うことができる。たとえば、活性汚泥法の曝気槽に、これらの凝集剤を添加し てリン除去をはかることも可能である。この場合には、薬品注入設備の新設と汚泥処理設備の増強だけで良く、設備 投資は非常に少なくて済む。 汚泥処理にやや難点はあるが、硫酸バンドや鉄塩を用いた凝集沈殿法は、現在、最も信頼できるリン除去法であり、 さらに処理水を清澄化する副次的利点も持つ。これらの利点のために、硫酸バンド法や鉄塩法は、主として生物脱リ ン法がカバ-しきれない排水のリン除去技術として、あるいはそれを補完するリン除去技術として、今後ともリン除去の 主要技術として残る技術と思われる。 MAP 法 特殊な凝集沈殿法の一つに、MAP(リン酸マグネシウムアンモン struvite)の析出を利用する MAP 法がある。MAP は次の平衡式で形成される難溶性塩である。 Mg2++NH4++PO43-→Mg(NH4)PO4 この反応は弱塩基性(pH=9~10)の条件で最も効果的に進み、Mg2+、NH4+、PO43-の三者を比較的高濃度に 含む汚泥やし尿を処理している嫌気性消化槽まわりの配管で、しばしば MAP 析出が生じ、管閉塞の原因になって いる。 MAP 法は窒素除去技術としてもリン除去技術としても利用可能である。しかし、MAP は比較的に溶解度積が大 きく(溶解度積 Ks=10 -12.6 )、単独で十分にリン濃度の低い処理水を得るためには、反応液(従って処理水)の NH4+、あるいは Mg2+を高濃度に維持しなければならない。窒素排出規制を考慮すると、NH4+濃度を高めることは 難しく、一方、Mg2+濃度を高めることは、Mg(OH)2の沈殿が生じて難しい。これらのことから、MAP 法はアンモニアとリ ンとをバランス良く、しかもそれぞれ比較的高濃度に含む排水からリンの大部分を粗除去する技術としてか利用できず、 処理水リン濃度をさらに低くするためには、別のリン除去技術を付加する必要がある。 (2) 晶析脱リン法 消石灰による凝集沈殿法で、HAP(ヒドロキシアパタイト)が 硫酸 消石灰 砂ろ過槽 速やかに生成されるならば、全正リン酸イオン濃度[Pi](= [H2PO4-]+[HPO42-]+[PO43-])は、pH および溶液 側カルシュムイオン濃度[Ca2+]の関数として近似的に次の ように表される(注:この式が適用可能な pH 範囲は 7.5 晶析槽 流入水 流出水 空気 石灰混和槽 ~12.0 である)。 log[Pi]=-1.67*log[Ca2+]-1.33*pH-1.67 晶析脱リン法の問題点 ただし、ここで[]はモル濃度を意味する。 ① 使用薬品量が多い ② 操作が煩雑である。 この式によると、中性付近の液性でもリン濃度が十分に低 い処理水が得られることになる。たとえば、pH=8、[Ca =10 -3 2+ ] mol/L(=40 mg/L as Ca)の場合、処理水リン濃 ③ 生成アパタイトの肥料化に疑問がある 晶析脱リン法の工程構成 度は 0.002 mg/L as P 程度になると計算される。しかし、通常の凝集沈殿操作においては、このような良好な処理 は得られず、1 mg/L as P 以下の処理水を得るためには、pH を 10 以上にする必要がある。HAP のような結晶物 質が溶解平衡に達するまでの期間は非常に長く、その間、溶液側物質濃度は溶解平衡からみて過飽和の状態にあ る。 9 晶析脱リン法は、溶解平衡に達するまでの時間を短縮するために、触媒として、HAP 種晶を導入し、この種晶表面 で HAP を生成する技術である。晶析脱リン法の起源は米国にあるが、1970 年代後半にわが国の水処理メ-カが 実用化を目指した徹底的な研究を行い、下水二次処理水を対象とした大規模実証試験も長期にわたって行われ た。種晶としては、HAP 含有量が高いリン鉱石が最も効果的なようである。充填した種晶と被処理液の接触方法と しては、流動層式も可能であるが、砂ろ過と同様の下向流固定層を利用することが多い。 下水二次処理水を対象にした場合には、反応槽での pH は 8~9、反応 Ca2+濃度は 40~80 mg/L に設定さ れる。 Ca2+供給源としては、消石灰、石膏(CaSO4)、塩化カルシゥム(CaCl2)などが利用される。SS 成分の種晶 付着やアルカリ度(HCO3-)に起因する CaCO3の生成は種晶の寿命を短縮するので、前処理として砂ろ過や脱炭 酸処理(被処理液を弱酸性化し、曝気により CO2を放散する)を組み込むことが好ましい。このような操作は運転経 費を高めるので省略されることもある。この場合、当然、種晶寿命は短縮され、短時間の運転で破瓜現象が生ず る。 晶析脱リン法の利点は、汚泥がほとんど発生しないことである。もちろん、除去されたリン量に対応する HAP が生成 されるが、それは種晶の肥大化をもたらすだけで、いわゆる汚泥の生成はない。長期的に運転すれば、肥大化した種 晶の一部は系外に処分しなければならないが、このような余剰種晶がリン酸肥料の原料として利用できる可能性もあ る。また、消石灰による凝集沈殿法のような処理水再中和を必要としないこともこの技術の利点である。一方、脱炭 酸処理などの前処理を含めると装置構成は複雑になる。また、この場合、硫酸などの pH 調整剤、曝気動力など も必要となる。脱炭酸処理を省略する簡易型晶析脱リン法では、これらの費用は不要であるが、逆洗操作のために 均一径であることを要求される種晶の製造費は安くないので、種晶交換を頻繁にする必要がある簡易型法は必ずし も運転費用の節減にならない。総じて、晶析脱リン法の運転経費は、汚泥処理費用を考慮に入れてもバンドや鉄 塩を用いる凝集沈殿法より割高になる。 (3) 吸着脱リン法 凝集沈殿法や晶析脱リン法のリン除去機作は難溶性金属リン酸塩を形成するところにあり、金属塩の注入を必要と する。これに対して、吸着脱リン法では、金属塩を注入せずに、排水と粒状吸着剤とを接触させ、リン除去をはかる。 吸着剤としては、粘土鉱物(鹿沼土)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)など が提案されている。これらの吸着剤によるリン酸除去機構は、吸着剤表面の陰イオンとリン酸イオン(おそらくは H2PO4 - )とを交換する化学吸着(イオン交換)にあるようであるが、平衡吸着量は反応 pH とともに処理水リン濃度への依 存性が大きく、装置設計には粒状活性炭と同様の手法が利用できる。 9.3 生物脱リン法 ・ 生物脱リン法開発の経緯 生物脱リン法開発の発端は、1960 年代に Levin が活性汚泥のリン過剰摂取現象を観察したことにある。それまで の技術常識では、活性汚泥が摂取するリンの量は、その増殖に必要な最小量に限定され、その量と除去 BOD 量 の比は 1:100 に過ぎないとされていた。これに対して、Levin は、活性汚泥はそのような定比法則以上にリンを摂取 することがあると報告した。実際、米国のいくつかの下水処理場の活性汚泥法施設では、定比例則以上のリン除去 が観測されたが、なぜそのような現象が生ずるのかは同定できなかった。 生物脱リン法の真の開発者は、循環式硝化脱窒法において時として高いリン除去率が得られることを観察していた 10 南アフリカ共和国の Barnard である。彼は、自らの経験と生物的なリン除去現象を記述した報文の検討により、次の ような推論をおこなった。 リン蓄積能力の非常に高い活性汚泥が生成できるならば、リン抜取りを行うことなく、流入リンの大部分を余剰 汚泥に固定できるであろう。 良好なリン除去が行われる活性 汚泥法施設では、その系内のい 活性汚泥法の変法 ずれかに O2 も NO2-/NO3-も 流入水 存在しない極度に嫌気状態の部 ばっ気槽 分が存在する。このことがリン蓄 積能力の高い活性汚泥を生成 ポンプ そして結論として、このような極度の嫌 気状態を最も容易に実現するのは、 高リン濃度 余剰汚泥 汚泥返送 する要因であろう。 循環式硝化脱窒法の変法 曝気槽の流入端であり、そこで、有機 流入水 脱窒槽 物を含む流入水と返送活性汚泥を曝 硝化槽 脱窒槽 気することなく混合撹拌すれば、リン蓄 積能力の高い活性汚泥が生成できる ポンプ 高リン濃度 余剰汚泥 汚泥返送 と考えた。当時、彼は自ら実験を出来 る立場になかったので、この推論を 1975 年 7 月の南ア水質汚濁防止 協会の月例技術会議に提示し、その 嫌気槽(DO、NOx いずれも存在しない槽) James L. Barnard の提案した方法(10) 実証実験を行うように要請した。これ が嫌気好気活性汚泥法の起源である。 Barnard は、彼の考えを通常の活性汚泥法に適用した場合(活性汚泥変法、いわゆる嫌気好気活性汚泥法)と 循環式硝化脱窒法に適用した場合(循環式硝化脱窒変法:Modified Bardenpho と呼ばれている)との二つのフロ -を提案したが、このうち、後者の有効性は南アフリカ 第一循環混合液 の別の技術者により直ちに実証された。 汚泥返送 第二循環混合液 NOx-返送 沈殿池 循環式硝化脱窒法式の生物脱リン法は、南アおよび 北米の幾つか都市下水処理場で実施された。しかし、 嫌気槽 中間槽 脱窒槽 硝化槽 この技術では、後段の脱窒槽での脱窒が不十分な場 合には、返送活性汚泥に NOx-が残留し、嫌気槽の 汚泥返送 嫌気状態を十分に維持できないこともある。この欠点 余剰汚泥 を改善するために、Ekama らは嫌気槽への活性汚泥 Barnard 法では沈殿池からの返送汚泥に NOxが含まれることがあり、この場合にはリン除 去が不良になる。UCT 法はこの防止を目的に 開発された。 返送を最終沈殿池からではなく、前段の脱窒槽から 返送する混合液二重返送式硝化脱窒変法 ( University of Cape Town 法)を提案した。 修正 Univ. Cape Town 法 一方、米国においては、Air Products & Chemicals Co の技術者らが活性汚泥汚泥のバルキング制御法の研 究を過程で Barnard の提示したフロ-と同一の技術を考案し、これを嫌気好気活性汚泥法(Anoxic Oxic Activated Sludge Process) と名づけた。彼らの考案が Barnard と全く独立に行われたかどうかについては疑 問もあるが、、 嫌気好気活性汚泥法はリン除去だけではなくバルキング制御の効果がある 嫌気好気活性汚泥法の嫌気槽では、活性汚泥はリンを放出しながら有機物を摂取する 11 の2点を見出したことは、彼らの功績である。 . ・ 生物脱リン法のリン除去機構 収する技術である。排水の流入端に O2 も NO2-/NO3-も存 在しない嫌気状態を作り出すと、下図のようなポリリン酸ポリーマ ーを体内に貯めるリン蓄積菌が活性汚泥のなかの優先細菌にな って、リン含有率の高い活性汚泥が生成される。 嫌気状態と好気状態での挙動を調べると、リン蓄積菌が多い活 性汚泥は、嫌気 状態にあっては、ポリ燐酸を分 解し、それを PO4-P として液中に放出しなが、有機物を摂取してゆき、その有 機物の大部分を PHA(脂肪酸ポリマー)に変換してゆく。好気状 標準活性汚泥法から嫌気好気法へ切替えた際の挙動 汚泥リン含有率(%) 高めることによって、流入してきたリンを余剰汚泥中のリンとして回 8 標準活性汚泥法 4 嫌気好気法 20 PO4-P(mg/L) 右図にみるように、生物脱リン法は活性汚泥中のリン含有率を 流入水 10 流出水 50 運転日数 態におくと、その PHA は急速に分解され、それと同時に嫌気状態 100 ポリリン酸の推定構造 K+ O- で放出した以上の量の PO4-P を液中から吸収し、それを汚泥 (細胞)内のポリ燐酸に変えてゆく。 Mg++ O- Mg++ K+ O- O- O- O- O P O P O P O P O P O P O O 有機物を細胞に取り入れるためには、ATP という形のエネルギー O O が必要で、絶対好気細菌であれ、脱窒菌であれ、通常の BOD だす。したがってこれらの細菌は、O 2 も NO2 - /NO3 - も存在し ない呼吸不能な絶対嫌気状態では、有機物を細胞内に摂取 することができない。 一方、ポリ燐酸蓄積菌は、呼吸不能な状態であっても、細胞内 に存在するポリ燐酸を分解することによって、ATP を作ることがで きる。しかし、呼吸不能な状態では、その有機物を酸化すること ができないので、PHA という形で蓄積をするようである。この PHA O 嫌気好気過程での諸物質の挙動 DOC, CH-C, 3HA-C, PO 4-P (mg/L) 酸化菌は、有機物を分解しながら、この ATP を呼吸鎖で作り O O 好気 嫌気 400 液のPO4 -P 300 汚泥PHA (C) 200 汚泥C-H (C) 液のDOC (C) 100 時間 1 2 3 4 5 6 は、酸化しやすい物質であるので、呼吸可能な状態に置かれる と、PHA 分解から生じた過剰の ATP を処理するためにポリ燐 O /NO 2 x CO 2 酸合成を行うのであろう。言ってみれば、ポリ燐酸蓄積菌はポリ 燐酸という蓄電池のようなエネルギー貯蔵方法と PHA という石 通常のBOD酸化菌 有機物 ATP 油貯蔵タンクのような燃料貯蔵方法を持つ微生物である。おそら 有機物 く、このようなエネルギー貯蔵方法を持つことが、ポリ燐酸蓄積菌 が嫌気状態での有機物(餌)摂取を可能にし、他の細菌種との ポリ 燐酸蓄積菌 O /NO 2 x CO 2 餌の奪い合いにおいて有利な立場に立たせているのであろう。そ して、そのことにより嫌気好気活性汚泥法はポリ燐酸蓄積菌の ポリ 燐酸 PHA ATP 選択的な集積を可能にし、結果として、リン含有率の高い活性 有機物 汚泥を作り出すのであろう。 呼吸不能状態 12 ATP PHA PO3- ポリ 燐酸 PO3- 4 4 呼吸可能状態
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