中国の製紙工場廃水処理の実態分析

中国の製紙工場廃水処理の実態分析
R05051
指導教員
1 .研 究 背 景 ・ 目 的
中国では高度経済成長につれ,工業生産規模の拡大
や生活レベルの著しい向上が見られた。近年、水質汚
濁環境悪化が加速し,これが中国政府や国民にとって
極めて深刻な問題となっている。これまで資金や技術
の不足もあって製紙廃水処理が十分でない状況を抱
えつづけてきた。中国製紙工場と日本製紙工場の排水
処理を分析して、日本との法律や法規の違い,技術格
差,人的資本の落差などを比較し,考察したい。
2.パルプ製造工程の分類
中国古紙利用量は1995年の810万トンから2006年の
4224万トンまで増加し、10年間で古紙の使用量5倍に
成
松下
潤
4.紙パルプの排水処理技術
表2、紙パルプの排水処理技術
処理方法
物 濾過
理
的 沈 単
及 殿 純
び
凝
化
集
学
的
処 浮上
理
化
学
的
処
理
図1.パルプ製造工程の分類
銭
生
物
処
理
中和
曝気
処理設備
スクリーン及び
フィルター
単純沈殿層、ス
ラッジ排除設備
凝集沈殿層、薬
剤添加設備、ス
ラッジ排除設備
浮上分離、薬剤
添加設備、付帯
設備
中和層
効果
SS 減少、原
料回収
SS 減少
SS 減少、色
度向上、石
灰凝沈でリ
ン除去可能
SS 補集
PH 調整
曝気層、空気圧
縮機
真空蒸発缶、廃
液燃焼炉
脱臭、BOD 改
善
BOD,COD 大
幅に減少
酵母発
酵
活性汚
泥法
酵母発酵設備
BOD 減少
散水濾
床法
散水濾床、散水
ポンプ
濃縮燃
焼
曝気層、沈殿層、 BOD 減少
栄養剤供給設備
BOD 減少
特徴
スラッジ
処理困難
凝集剤使
用、スラ
ッジ処理
やや困難
抄紙白水
に多く利
用
中和剤使
用
色度は一
般に悪化
補集濃度
高いほど
有利
SP 廃液で
実施
剰余汚泥
の処分問
題
SS の多い
廃水不可
急増した。2006年古紙使用量は全国パルプ使用量の
56%を占めている。
広く使われている排水処理法は表2に示す通りであ
1995年法的強制規制により製紙企業約10000軒から
る。現実の排水処理においては処理対象の排水におじ
2006年3288軒までに減った。そのうち85%の企業は古
て、最も適切な方法と組み合わせを選択することが重
紙パルプを利用している。パルプ製造は化学パルプ、
要である。すなわち、①CODの高い着色排水②BODの高
機械パルプ、古紙パルプを分類されるが、木材資源は
いパルプ排水③臭気成分を含むドレン類④SSの多い
乏しい中国では、日本の古紙を大量輸入して紙の生産
排水などに区分して、排水の特性に応じ、BOD、COD濃
を拡大している。
3 .製 紙 工 場 排 水 の 成 分
度の高い排水は、生物処理と凝集沈殿処理の組み合わ
表1、製紙工程における廃液排水中の汚濁成分
工程
調木
蒸解洗浄
回収
精選
漂白
抄纸
廃液、排水の汚濁成分
樹皮、木屑、木粉(SS,色)
リグニン等有機物(BOD,COD、色)
酢酸、メタノール(BOD)
結束繊維、微細繊維(SS,BOD,COD)
塩素化リグニン、還元糖、有機酸(BOD,COD,色)
微細繊維、クレー(SS)
紙パルプ製造の各工程排水の汚濁成分を表1に示す
せで、BOD、CODは低いがSSの高い排水は、凝集沈殿な
どの沈降処理を行うのが一般である。さらに最近は高
度な処理技術も採用されている。
この研究では、中古紙再生に使われる物理的化学処
理である「浮上法」に着眼して、処理設備や環境負荷
削減効果、費用節約効果について事例分析を行う。
5.中小製紙企業の排水処理システム
2008年中国環境省は製紙排水規制を導入、年産5万
が、特に蒸解洗浄工程よりの排水はBOD、COD、SS及び
トン以下排水処理能力ない製紙企業を休業させた。企
色度が高いことが特徴となっている。BOD悪化の主原
業持続発展のため、「南通富发紙業有限会社」は2007
因は、へミセルロースから生成した糖類及び有機酸と
年からパルプ排水回収システムを作り、2008年2月に
揮発性有機物であり、COD及び色度ではリグニン誘導
は廃水ゼロ排出目標を達成した。これにより①電気、
体が主原因となっている。一方、SSは主に樹皮や各工
ガス、水道など使用量の削減。②CODの排出年間382ト
程からの微細繊維と填料である。
ン削減。と合わせて、品質の改善効果が得られている。
間472.5万元の節約効果が得られる。
5-1.製紙工場排水処理システム
「エネルギー効果」
汚水処理施設の負荷低減により、電気の使用量が
古紙パルプ製造工程
40kwh/トン削減された。
年間生産量25000トン
「環境効果」
古紙
分離
脱インク
抄紙
叩解
中段水
白水
排水水量33万トン削減。企業排水ゼロ化投入前の
COD排出量382トンがゼロにできた。
5-3.排水ゼロ化事業の資金回収計画
図2.製紙工場排水ゼロ化処理システム
図3.蒸気回収省エネ装置
図4.密封された貯水池
紙パルプ製造排水が環境への影響で社会的に大き
いな問題となっていた。紙パルプ工場から排出された
汚濁物質が閉鎖区域で堆積し、嫌気性の腐敗を伴って
深刻な公害をもたらした。
この廃水処理システムでは凝集沈殿装置や浮上分
図5. 排水ゼロ化事業資金回収計画図
離装置が整備された結果、中段水や白水を外に排出せ
ず、循環再利用し、排水ゼロ目標を実現している。
5-2.廃水ゼロ化事業の投入効果
減少量
原料循環など効果により、年間設備コスト400万元に
として、収益増額491万元と見込まれ、91万元の利益
表3、排水ゼロ化事業投入前後資源量の比較
使用資源
排水ゼロ化事業投入以来、図5に示すより、節水、
減少
が得られていることが明らかになった。
6.まとめ・考察
紙パルプの代替としてコスト削減から出発した古
2007年度
2008年度
平均
平均
水道水(m3)
25,537
2,762
22,775
89.2%
電気(kwh)
489,125
392,557
96,567
19.7%
ルプ資源である木材、エネルギーの節減となり、さら
蒸気(t)
4,556
2,717
1,839
40.4%
にはごみ、廃水の減量化に大きく貢献することになっ
古紙(t)
2,012
1,631
381
18.9%
た。
固形廃棄物(t)
42.8
21.8
21.0
49.1%
パルプの製造は本来的には環境調和型の生産活動
クラフト紙(t)
1,636
1,511
125.5
7.7%
である。このような特徴をよりよく発揮するための今
率
表4、排水ゼロ化前後製品1トン当りエネルギー使用量
エネルギー
水道水(t)
電気(kwh)
蒸気(t)
古紙(t)
排水ゼロ
化前
15
300
2.8
1.25
排水ゼロ
化後
1.8
260
1.8
1.1
節約量
13.2
40
1
0.15
「節水効果」
製品1トン当たりの水使用量1.8m3までに下げ、生
産能力によると、循環水システム2.5万トン生産能力
を確保して、年間10万元の節水効果が得られる。
「回収繊維と古紙の効果」
古紙節約0.15トン、1トンの古紙1500元として、年
紙のリサイクルは、排水ゼロ化事業の投入により、パ
後の課題としては、中古紙の利用に伴う廃液の回収を
安定的に行うことと環境への負荷の少ない技術の開
発が必要である。水の再利用を図るには、大量の薬品
を用いた水処理からの脱却を図ることも重要である。
消費者が求める紙の品質や価格を満たしながら古
紙増配率を実現していくには、これらの技術の課題を
着実にクリアしていくことが望まれる。
*参考資料*
1.「水リサイクル・廃水処理技術」 東レリサーチセ
ンター
2.「紙とパルプの科学」 京都大学学術出版社
3. http://www.chinappi.org/
中国製紙協会
HU
UH