企業経営と天候リスク (企業の天候リスクと中長期予報の活用に 関する調査:気象庁)を中心に 刈屋武昭 京都大学経済研究所金融工学センター www.kier.kyoto-u.ac.jp/fe/ 1 天候リスクと企業収益の安定性 I リスクマネジメントの必要性 II 中長期予報(気象庁、気象協会) III 天候と企業活動(セブンイレブン、食品、JUN、松 下電器) IV 天候リスクマネジメント(みずほ第一FT,スイス リー、三井住友火災海上) 2 I 企業の天候リスクマネジメントの必要性 • 企業収益の安定性は株主/アナリスト/格付 けなどで評価 • リスクマネジメントの必要性 • 天候デリバティブ、リスクの証券化 • 「高い評価を得ている企業は、収益が安定 している」 3 天候変動と企業収益 気象変動により収益に影響のある企業・組織は幅広い業種にわたる。 電力会社 ガス会社 農業関連 食品・飲料 電気・エアコン 気象変動 レジャー産業 テーマパーク スキー場 観光バス アパレル 小売り 政府・自治体 保険・再保険 建設 4 財務諸表からみるリスク(ガス会社) −損益計算書− 原料価格変動 為替レート変動 損益計算書 売上高 売上原価 売上総利益 供給販売費 一般管理費 ガス価格変動 営業利益 営業外収益 営業外費用 ガス価格変動 異常気象 金利変動 経常利益 特別利益 特別損失 税引前当期純利益 法人税等 当期純利益 税制変更 5 企業収益の安定性の重要性: 実証研究例1 「企業の評価を定める最も重要な要素は何か? それは 企業収益の安定性 である。」 1983年4月から1996年3月までのデータを用い、米国企業の役員、アナリスト、コンサ ルタント、学会関係者にアンケート、各産業ごとに上位10社の評価を8つの属性、即ち、 (1)経営の質、(2)財、サービスの質、(3)技術革新、(4)長期投資対象として、(5)財 務の健全性、(6)優秀な人材を引き付ける力、(7)社会・環境への配慮、そして(8)会 社資産の配分、 で行った。結果を7階位に分け、それを財務的側面から要因分析をしたところ、「企業 収益の安定性」が、企業評価の最も良い予測指標(Best Predictor )となっていることが 確認された。 Peter Antunovich and David S. Laster, “ Do Investors Mistake a Good Company for a Good Investment?” Federal Reserve Bank of New York Staff Reports 60 ( Jan 1999) ; Fortune Annual Survey, “America‘s Most Admired Companies” 1999 Source: Prakash A. Shimpi, Editor, “ Integrating Corporate Risk Management,” 1999, Swiss Re New Markets II 気象予報と企業収益 • 短期予測(1ヶ月以下)アンサンブル予報 (流体力学モデル:決定理論構造モデル) 初期値 予報 ・ 長期予報 統計モデル ・ 企業収益 Y=f(X,Z) X:気温など Z:その他の変数 Xの確率的変動 Yの確率的変動 Xの予報の確率分布 7 現在の長期予報の概略 気象庁では、季節予報として1か月から最長半年間の予報を全国及び11の地域 を対象として発表している 種 類 発 表 主 な 予 報 要 素 手 法 1 か 月 予 報 毎 週 1 か 月 間 の 平 均 気 温 , 降 水 量 、 日 照 時 間 , 降 雪 量 ( 注 : 日 本 海 側 の み ) を 確 率 で 表 現 そ 週 第 平 ア ル に 的 3 か 月 予 報 毎 月 3 か 月 間 の 平 均 気 温 を 確 率 で 表 現 そ 平 降 照 月 の 他 、第 1 か ,第 2 週 , ( 等 3・4 週 の 均 気 温 等 ン サ ン ブ 数 値 予 報 よ る 力 学 手 法 の 他 、各 月 均 気 温 、月 水 量 、月 日 時 間 、3 か 降 水 量 、3 月 降 雪 量 日 本 海 側 ) 暖 候 期 予 報 寒 候 期 予 報 ( 4 月 ∼ 9 月 ) ( 11 月 ∼ 3 月 ) 毎 年 3 月 夏 期 (6-8 月 ) の 平 均 気 温 を 確 率 で 表 現 毎 年 10 月 冬 期( 1 2 - 2 月 ) の 平 均 気 温 を 確 率 で 表 現 そ の び 梅 月 そ の 月 期 ( の 平 月 雨 の 他 4-5 月 均 気 温 及 降 水 量 期 間 相 当 降 水 量 等 の 他 11 月 平 均 気 温 、 降 水 量 、 冬 の 降 雪 量 日 本 海 側 ) 統 計 的 手 法 8 現在の長期予報の内容 近畿地方 3 か月予報 (12 月から2 月までの天候見通し) 平成13年11月20日 大阪管区気象台発表 <3か月(12∼2月)の気温の各階級の確率(%)> 3か月平均気温は「高い」可能性が最も大きく、その確率は50%です。 次に「平年並」の可能性が大きく、その確率は30%です。 <可能性の大きな天候見通し> 12月 平年に比べ、晴れの日が多いでしょう。 1月 日本海側では平年に比べ雪の日が少なく、太平洋側では平年と同様に晴れの日が多いで しょう。 2月 平年と同様に、日本海側では曇りや雪または雨の日が、太平洋側では晴れの日が多いで しょう。 3か月間降水量は平年並の見込みです。日本海側の降雪量は少ないでしょう。 9 長期予報の内容(提供形式)の改善 力学的手法の導入効果 気温等 多様なニーズに対応する気 象要素の予測値が得られる 予測結果の分布など数値的 情報が得られる 頻度分布 予測内容の時間経過に関す る情報が得られる 長期予報の特性に応じた内容へ⇒内容・形式の改善 考え方1:指標超過の確率 利用者が必要なカテゴリー(もしくはしきい値)毎に確率値を作成指標 ⇒期間平均気象要素(平均気温)等、期間内に出現する日数、 アンサンブル予測結果の情報を損なわない情報提供 1週間平均の日最高気温が5度以上となる見込みの確率値 考え方2:多様な気象要素に関する確率予報(次ページ参照) 最高気温、最低気温、晴れの日数、雨の日数。 10 各種予報メニューの予報期間と時間・空間的解像度 (時間的解像度) 3ヶ月 暖・寒候期 3ヶ月予報 月 1ヶ月 アンサンブル 週 週間 アンサンブル 日 地方ブロック 規模 県規模 市町村規模 短期 時間 列島規模 短時間 ピンポイント 時間 6時間 24 2日 7日 30日 (予報期間) 3ケ月 6ケ月 11 アサンサンブル予報例(4) ア ン サ ン ブ ル 数 値 予 報 の 実 例 気象庁提供 5 予報期間後半は分散しているが 全体に正の(気温が平年より高い 4 )値を示している 3 1 0 -1 -2 日付 日 日 日 日 日 日 29 28 27 26 25 24 日 日 日 日 日 日 23 22 21 20 19 18 日 日 17 日 日 日 日 日 16 15 14 13 12 11 日 10 9日 8日 7日 6日 5日 4日 3日 2日 -3 1日 地域気温指標 2 12 平均 mem0 mem1 mem2 mem3 mem4 mem5 mem6 mem7 mem8 mem9 mem10 mem11 mem12 mem13 mem14 mem15 mem16 mem17 mem18 mem19 mem20 mem21 mem22 mem23 mem24 mem25 企業リスクに及ぼす個別的な天候影響の分析 ● 企業の売上変動などのリスクは、企業に固有な天候の影響を受ける。 (地理的場所): 極めて地域的、局所的である ○市、X町、Δ地方、Y高原、Z川など (天候・気象要素):極めて特化されている 最高気温、10ミリ以上の雨日数、10m以上の風日数、熱帯夜、晴れ日数、 降雪日数、不快指数、体感温度、HDD・CDD、花見日数、紅葉日数、・・・ ● 天候リスクの評価、回避のためには、事前に、企業リスクと個別気象の 分析に基づく、定量的な相関関係の導出が不可欠。 ● 分析には、企業自身あるいは気象専門家との共同作業が必要であり、 さらに、金融工学分野との連携も必要である。 13 (オペレーション段階) アンサンブル予報値 F (格子点毎にmメンバー) ユーザー地点/地域 Xへ変換 (mメンバー) 確率 確率 意思決定支援モデル (Yの出現確率分布) 少 対策 F X 多 Y14 III 企業活動と天候リスク • セブンイレブン • JUN(アパレル) • 飲料メーカー・スープメーカー • 松下電器(エアコン) 15 変化への対応(セブンイレブン) 明日は今日の続きではない • 仮説−検証と単品管理 • 在庫管理の重要性と機会損失の防止 ・発注が最優先 • マーチャンダイジングの革新 • 潜在需要の顕在化と市場創出 ・チームマーチャンダイジング • 情報共有とコミュニケーションの徹底 • 人間系とシステム系の両輪 ・情報共有の質とスピード • 情報システムの徹底活用 • 業務連携と情報共有の強化 ・事業インフラの刷新と全領域のシス テム化 • パートナーシップに基づく開発 16 3 店舗活用例 ∼発注∼ 3日間予報:5回/日更新 仮説 SC 催事・ 周辺情報収集 キャンペーン 商品情報収集 天気情報確認 発注 GO T 検証 予想天気図:2回/日更新 実況天気図:2回/日更新 週間予報:1回/日更新 17 8 01年・02年 おでん 気温と販売 数量推移 東京地区 290 250 ’00販売数量 ’01販売数量 ’00最低気温 ’01最低気温 210 (℃) 30 25 20 販 売 170 数 量 15 130 10 90 5 50 3週 4週 1週 2週 3週 4週 1週 2週 3週 4週 5週 1週 2週 3週 4週 1週 2週 3週 4週 8月 9月 10月 11月 12月 最 低 気 温 0 18 14 売上 シーズンサイクル気象(アパレル:JUN) 1 e l a S 2 43 e l a S 27 12 10 9 18 11 13 14 15 21 22 16 17 3 40 26 19 20 6 8 5 4 7 24 冬 1 2 01 / 01 3 01 / 08 4 01 / 15 01 / 22 初夏 29 25 34 5 01 / 29 6 02 / 05 7 8 02 / 12 02 / 19 9 02 / 26 33 秋 39 夏 18 22 春 51 42 52 30 31 32 春 13 49 48 50 46 37 35 23 45 41 38 36 28 47 44 39 夏 冬 43-50 秋 冬 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 03 / 05 03 / 12 03 / 19 03 / 26 04 / 02 04 / 09 04 / 16 04 / 23 04 / 30 05 / 07 05 / 14 05 / 21 05 / 28 06 / 04 06 / 11 06 / 18 06 / 25 07 / 02 07 / 09 07 / 16 07 / 23 07 / 30 08 / 06 08 / 13 08 / 20 08 / 27 09 / 03 09 / 10 09 / 17 09 / 24 10 / 01 10 / 08 10 / 15 10 / 22 10 / 29 11 / 05 11 / 12 11 / 19 11 / 26 12 / 03 12 / 10 12 / 17 12 / 24 週 19 35.0 30.0 25.0 夏服着始 夏服終り 20.0 15.0 冬服終り 冬服着始 10.0 春 13 5.0 冬 初夏 夏 18 22 秋 39 春 夏 冬 43-50 秋 冬 0.0 1 2 01 / 01 3 4 01 / 08 01 / 15 5 01 / 22 6 01 / 29 02 / 05 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 02 / 12 02 / 19 02 / 26 03 / 05 03 / 12 03 / 19 03 / 26 04 / 02 04 / 09 04 / 16 04 / 23 04 / 30 05 / 07 05 / 14 05 / 21 05 / 28 06 / 04 06 / 11 06 / 18 06 / 25 07 / 02 07 / 09 07 / 16 07 / 23 07 / 30 08 / 06 08 / 13 08 / 20 08 / 27 09 / 03 09 / 10 09 / 17 09 / 24 10 / 01 10 / 08 10 / 15 10 / 22 10 / 29 11 / 05 11 / 12 11 / 19 11 / 26 12 / 03 12 / 10 20 12 / 17 12 / 24 ニットの気温と売上の関係 4,500 35.0 販売数量 秋 4,000 30.0 3,500 25.0 3,000 20.0 15.0 20度 春 2,500 冷房 15度 2,000 売上 最低気温 最高気温 1,500 10.0 1,000 5.0 0.0 500 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 0 21 飲料水メーカー ・ お茶系統が気温に影響(6‐9月)。麦茶。 ・ 最高気温29℃で感応度が変わる。29∼33℃ 程度まで売上は伸びるが、それ以降は未分析。 ・ 梅雨明け宣言でスーパーや問屋から発注急増。 • ペットボトルの生産ラインの制約。生産ライ ンは1ヶ月前に予約。 • 自販機の売上は、気温に直接的に左右される。 スーパーや問屋はタイムラグ。 22 スープ指数 「スープ指数」は、どのような気象条 件の時にスープを飲みたくなるのか を指数化。天気や体感温度の変化に 伴って人は「心」と「体」の両面からど のように寒さを感じるのか?そして、 スープの販売動向との相関関係に着 目し、指数を算出。体感温度とは九 州・東北等での「地域間の温度差」や 前日から今日にかけて5度冷え込む 等の「気温の前日差」、同じ10度でも 9月と12月で感じる温度が異なる等 の「時期による温度差」も考慮。 指数は10刻みで100まで、条件に応 じた指数と、各段階ごとに設定データ 地_数は全国142カ所で、情報は毎日、 6時頃・12時頃・18時頃の計3回更新 されます。 「スープ指数」画面イメージ 23 エアコン業界需要推移(実販) 万台 800 冷凍年度(10月∼9月) 709 28 600 593 27 672 (実販=販売会社出荷ベース) 770 812 767 715 625 702 655 647 10 505 実質GDP前年伸率 5 26 0 25 -5 24 -10 400 200 23 -15 東京・大阪6・7月平均気温 22 実質民間住宅 設備投資前年伸率 -20 0 24 ’90 ’91 ’92 ’93 ’94 ’95 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 -25 21 エアコン業界月別販売台数推移(実据付) 千台 2000 782 1800 704 667 647 713 01年 万台 776 1600 00年 1400 1200 ’96 ’97 ’98 ’99 ’00 ’01 1000 800 96年 600 99年 97年 400 98年 200 0 10月 11月 12月 1月 2月 96年 97年 3月 98年 4月 99年 5月 6月 00年 7月 01年 8月 9月 25 実据付台数と気温の動向(2001年) 35 ℃ 量販主要 法人実据付 30 25 東京・大阪平均気温 20 大阪梅雨入り 東京梅雨入り 15 '6/1 東京 '6/6 大阪梅雨明け 東京梅雨明け '6/11 '6/16 '6/21 '6/26 '7/1 '7/6 '7/11 '7/16 '7/21 '7/26 '7/31 天候 真夏日 大阪 天候 真夏日 土日 土日 土日 土日 土日 土日 土日 土日 土日 26 7月の松下実販台数と気温の相関関係(東京) 松下実販︵ 東京︶ y = 4476.9x - 98445 2 R = 0.6776 25.5 26 26.5 27 27.5 28 月平均気温 28.5 29 27 29.5 ℃ 気温の販売に与える影響(当社) 7月の 1℃の平均気温低 下 販売台数減 Weeklyマネジメント 東京 ▲4,500台 大阪 ▲3,100台 計 ▲7,600台 全国ベース ▲34,000台 平均単価 95,000円 (メーカー出荷ベース) 販売金額減 ▲ 32億円 28 流通に見る天候デリバティブ活用例 エアコン 「冷夏保証」 キャンペーン ジャスコ ■ 期間 2001年5月19日(土)∼6月20日(水) ■ 対象 5万円(本体+工事代)以上のエアコン ■ 設定 7∼8月の気温が、ジャスコ設定気温を下回 った場合ジャスコ商品券 1万円を返却 (ジャスコ設定気温は地区により、平均気温よ り1.1℃∼2.1℃低く設定) エイデン ■ 期間 2001年5月1日∼6月30日 ■ 対象 5万円(本体+工事代)以上のエアコン ■ 設定 7月7日∼9月15日までの間、熱帯夜が3日 29 以下の場合、現金 1万円を返却 IV 天候リスクマネジメント • リスクマネジメントのプロセス • リスク管理の考え方 みずほ第一フィナンシャルテクノロジー スイスリー 天候デリバティブ 30 天候変動・異常気象に対する企業の リスクマネジメント リスクマネジメントの基本的な流れ 1. Assess リスクの認識 2. Develop リスクの構造把 握と分析 3. Evaluate リスクマネジメ ント手法の検討 4. Decide 適切なリスクマ ネジメント手法 の選択 5. Plan 計画の実行 リスクの保有 リスクの軽減 リスクの移転 ・許容範囲の明確化 ・商品構成の検討 ・天候デリバティブ等の活用 ・販売戦略の構築 ・保険等の活用 31 天候デリバティブ市場の現状 ○米国では、電力の自由化が進んだことから、必然的に、気温変化による売上高及び収益の変動 をヘッジする手段として天候デリバティブの取引が始まった。 ○米国では、金利や商品価格のリスクヘッジと同様、天候不順による事業リスクヘッジ として市場が拡大し、 2000年には全米で2500件超の取引が成立。 ○日本でも、規制緩和、事業リスク管理に対する重要性増加の流れの中で、天候デリバティブの 活用が進んでいる。 ○これまで、全くコントロールの対象として考えられなかった、自然現象による販売数量 の変動リスクを機動的にコントロールすることが可能に。 ○エール大学の98年の研究によれば、天候不順の悪影響で、全米金融市場が被る年間損失額 は、米国民総生産(GNP)の5%に当たる3兆5000億ドルに上る。 気温(CDD、HDD、平均気温)、降水量、積雪、風速 DayCount型など多種多様 32 天候デリバティブ市場の現状2 金額ベースでは、アジア地域の成長が期待される。 天候デリバティブ市場の推移(約定金額) 1998 1999 %Change US 1829.2 2882.4 57.6% Europe 0.3 70.7 23466.7% Asia 0 4.4 Austraria 0 0 Other 0.3 1.7 466.7% Total 1829.8 2959.2 61.7% $Mio 2000 %Change 2409.2 -16.4% 49.3 -30.3% 46.1 947.7% 2.5 10.5 517.6% 2517.6 -14.9% (出所:PwC/WRMA) 33 日本における 天候デリバティブ市場の特徴 米国の背景と特徴 ・ガス・電力等エネルギーの自由化の進展に伴い、気温の変動が価格変動に大 きく影響 ・天候デリバティブ市場は電力・ガス会社間の気温の契約が中心 ・契約金額も規模が大きい 対照的な市場 日本の背景と特徴 ・エネルギーの自由化は一部のみ ・多業種、中堅中小企業中心の降水量や気温等 ・小口化された定型商品の普及 34 気温インデックス CDD:Cooling Degree Days Cooling Degree Daysとは、夏のある一定期間に、一定の気温以上に なった場合の気温差の累積。 Daily CDD = Max[(Tmin+Tmax)/2−K,0] Term CDD = Σdaily CDD 例えば、7月1日から9月31日までの間に、日々の平均気温が 18℃以上になった場合、その差を累積していったもの。 CDDに基づくオプション 複合インデックス(5都市、降雨量と気温など) 35 名古屋CDD Put Spread取引 CDD480℃以下680℃まで 金融機関 エネルギー会社 プレミアム XX百万円(アップフロント) 5百万円/℃貴社の受取 設定期間2001.7.1∼2001.9.30 Cooling Degree Days 設定期間中、次式で計算される日々の 日中平均気温(Temp)と規準気温(18℃ との差の積算値 CDD=Σmax(Temp-18℃、0) 日中平均気温 (日中最高気温+日中最低気温)÷2 対象地区 名古屋市 設定期間 2001.7.1∼2001.9.30 ヘッジ範囲 480℃≦CDD≦680℃ 受取金額 1,000百万円 プレミアム XXX百万円 プレミアム決済日 2000.11.1 受取り金額決済日 2001.10.15 1970∼1999年平均値 CDD=742.70 1970∼1999年最大値 CDD=951.05 1970∼1999年最小値 CDD=552.15 最大受取金額 5百万円/℃×200=10億円 36 名古屋CDD Put Spread取引 CDDヘッジ導入による効果 ヘッジのP ayo f f CDD 400 300 200 -200 -300 30 0 98 0 現状収益 PUT ヘッジ後 10 93 0 88 0 83 0 78 0 73 0 68 0 63 0 58 0 53 0 48 0 43 -100 0 0 38 損益 100 -400 CDD 冷夏 猛暑 37 入場者数 Dec-99 Dec-99 Nov-99 Nov-99 Oct-99 Oct-99 Sep-99 Sep-99 Aug-99 Aug-99 Jul-99 Jul-99 Jul-99 Jun-99 Jun-99 May-99 May-99 Apr-99 Apr-99 Mar-99 Mar-99 Feb-99 Feb-99 Jan-99 Jan-99 Jan-99 (入場者数:人) 60,000 120 50,000 100 40,000 80 30,000 60 20,000 40 10,000 20 0 (降水量:mm/日) 降水量デリバティブ(土日型) ・ 下グラフは過去1年間の降水量とある遊園地の土日の入場者数の推移です。 • −降水量が増えると入場者数が激減することが分かります。 入場者数と降水量の推移(過去1年間) 0 降水量 38 降水量デリバティブ(土日型) 支払プレミアム XXX 百万円(当初一括) (1mm 以上の雨となった土日の日数−22 日) 行 業 ペイアウト 銀 企 観測期間:2001/1/1∼2001/12/31 の土日 ×10 百万円 設定期間(2001/1/1∼2001/12/31) <前提条件> 基準日 観測地点 設定期間 22 日 東京 2001/1/1∼2001/12/31 の土日 最大受取額:10 百万円/日 × (104 日−22 日) = 820 百万円 39 降水量デリバティブ(土日型) • 天候デリバティブ導入の効果 降雨デリバティブ(Day Cont型)の導入効果 27,000 800 700 ヘッジ後の売上高 24680百万円 25,000 (売上高:百万円) 600 500 400 24650百万円 ヘッジ前の売上高 24,000 300 23,000 200 100 22,000 (降雨デリバティブペイアウト:百万円) 26,000 0 21,000 -100 20,000 0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 60 64 68 72 76 80 84 88 92 -200 96 100 104 (降雨となった日数) 売上高(ヘッジ前) 売上高(ヘッジ後) 降雨デリバティブ(右目盛) 40 ビール会社向け夏期平均気温プット オプション • 取組者: • 観測地点: • • • • • ビール会社 WMO番号 ウェイト 東京 47662 50.0% 名古屋 47636 20.0% 大阪 47772 30.0% 対象期間: 2001年7月1日より8月31日まで 気象インデックス: 毎日の各地点の平均気温の加重平均 の、対象期間中 の単純平均 受取り金額: インデックスが25.9℃(ストライク)を下回っ た場合、 0.1℃当り100百万円 最高受取り金額: 1,000百万円 ( 24.9℃以下の場合 ) 支払いプレミアム: XX 百万円 41 ケーススタディ3: レジャーランド 向け降雨日コールオプション 取組者: レジャーランド 観測地点: 東京(WMO番号 47662) 対象期間: 2001年8月1日より12月31日まで 気象インデックス: 期間中に1日の合計降雨量が10.0mmを 超え た日数 • 受取り金額: インデックスが33日(ストライク)を超えた 場合、 日数1日につき40百万円 • 最高受取り金額: 1,000百万円 ( 58日以上の場合 ) • 支払いプレミアム: XX 百万円 • • • • 42 電力会社向け3年間の夏冬通算EDD プットオプション • 観測地点: 東京(WMO #47662) • 期間: 取引期間:2001年4月1日より2004年3月31日まで リスク対象期間: CDD 各年の7月1日より9月30日 HDD 各年の1月1日より2月28日 • EDD合成インデックス: CDD*70% + HDD*30% • 受取り金額: 各年において、インデックスが500(ストライク)を下 回った場合、 1EDD当り 50百 万円 • 最高受取り金額: 各年 5,000百万円 ( 400EDD以下の場合 ) ただし3年間の合計金額は 10,000百万円を超えない • 支払いプレミアム: 毎年 XXX 百万円 43 気温が電力需要を左右する ある電力会社の月別の平均気温と電力販売量の関係 (注) 実際のデータとは、若干異なる 4800 40 4600 35 月別電力販売量 月別平均気温 30 4200 25 4000 20 3800 15 平均気温 (C) '電力販売量(MWh) 4400 3600 10 3400 3200 5 3000 0 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 44 例:電力事業のリスクマッピング(米国) 低頻度 4* 1 6 6 (大災害) 1 1 オペレーショナル・リスク リスクの可能性 トレーディング / クレジット・リスク 電力料金リスク 燃料料金リスク 2 需要に与えるリスク 3 天候リスク 経済生産性 (GDP) 5 3 規制的リスク 法律改正 環境 / 公害 2 4 伝統的保険リスク 予定済損害 (高頻度 - 損害金額:低) *大災害 (低頻度 - 損害金額:高) 5 財務リスク 4 資産・負債の変化 高頻度 (予期的) 6 人的、社会的リスク 小 大 損害金額 故意のリスク テロリズム Swiss Re 45 45 オリエンタルランド(東京ディズニーランド)が発行した地震債 券の概略 ディズニー・シー(Desney Sea)建設の資金調達に利用 トリガー= 千葉県浦安市舞浜を中心に、 震源の深さ101Km以内で 半径10Km以内 − マグニチュード 6.5以上 半径50Km以内 − マグニチュード 7.1以上 半径75Km以内 − マグニチュード 7.6以上 (Type A) (Type B) 元本リスク型債 [concentric limited] 発行額 = 1億ドル 利回り = 6ヶ月米ドルLIBOR+3.1% 格付け = BB+ (S&P) 償還価格 =上の地震が発生の場合、償還 価格は75%−0%に減少。 償還期限 = 5年 信用リスク・スイッチ型債 [circle Maihama limited] 発行額 = 1億ドル 利回り = 6ヶ月米ドルLIBOR+0.75% 格付け = A (S&P) 償還価格 = 100% 償還期限 = 5年ただし、上の地震が発生した 場合は発行日から8年を経過しな い範囲で5年間延長。 46 ソリューション 通貨デリバティブ 株式デリバティブ 累積発生確率 大 市場経済の経営に必要なリスクマネジメント 商品デリバティブ 企業経営のリスク曲線 為替 天候デリバティブの活用 によるリスクの最適化 株価 原燃料 金利 金利デリバティブ 気象 天候デリバティブ 年金・資産運用 投資理論 開発計画 リアルオプション 企業倒産 信用デリバティブ 台風・地震 ART・証券化゙ 小 金融技術の活用 市場リスク管理(VaR、EaR、シナリオ分析、ストレステスト等) 予想損失額 大 信用リスク分析(格付け、証券化等) 保険リスク管理(オペレーショナルリスク等) 47 企業収益の安定性の重要性: B. A. Minton & C. Schrand, 1999: 「キャッシュフローの変 動性が、企業の投資と負債・資本調達へ与える影響 について」 米国企業1300社を基に実証分析 (結論) キャッシュフローの変動性が高まると; •資本市場からの調達ニーズが高まる •負債・資本の調達コストが上昇する 低いS&P格付け、高い社債金利、高い加重平均資本コスト •設備、研究、広告への投資が平均以下になる 48 東京電力と東京ガスのリスクスワップ 冷夏リスク回避商品の購入 購入費用 受け取り 収支 気温リスク交換契約の概要と結果 契約期間 平成13年8月1日∼平成13年9月30日 (61日間) 指標 東京管区気象台(大手町)における日平均気温 基準気温 26℃ 当社支払気温 基準温度+0.5℃(26.5℃) 当社受取気温 基準温度−0.5℃(25.5℃) 最大交換額 約7億円(基準気温±2.0℃) 実績気温 24.8℃ 授受金額 東京ガスから当社へ約3億2千万円の支払い 冷夏 平均気温 猛暑 基準温度 冷夏・猛暑リスクの交換 収支 受け取り 等価リスクの交換 冷夏 平均気温 支払い 猛暑 49 東京電力と東京ガスのリスクスワップ 東電の視点 当社と東京ガスの事業収益構造比較 ヘッジ無しの収益線 支払なし 東京電力の気温感応度 ヘッジ有りの収益線 経常利益 受け取り 事業収益 東京ガスの気温感応度 24℃ 逆方向の 同方向の 0.0 5.0 28℃ 支払い 低温 春・秋 10.0 26.5℃ リスク リスク 冬 25.5℃ 日平均気温 15.0 20.0 平均気温 高温 夏 25.0 30.0 35.0 50 企業リスクマネジメントの基本ステップ Step 1: リスクの把握: リスクマッピング Step 2: リスクの区分 コアリスク: その企業が能動的に取るべきリスク、収益の源 泉 (金融機関の例) 信用リスク、市場リスク ノンコアリスク: 企業活動の中でコアリスクを取るに当たって、 附随して取らざるをえない受動的リスク (金融機関の例) オペレーショナルリスク Step 3: リスクテイク&マネジメントの方針決定 ノンコアリスクについては保有リミット・移転手段によりコン トロールすることにより、コアリスクに経営資源を集中する 51 統合的資本・リスクモデルとは すべての資本を企業のリスク管理と結びつけて 考慮 「企業資本」 = 「企業リスク」 = 「企業リスクをカバーするのに必要な資本額」 = 「払込済資本」 + = 自己保有リスク + 「オフ・バランスシート資本」 外部移転されたリスク 52 「統合的資本・リスクモデル」資本政策の枠組 オンバランス 低 優先債務 劣後債務 保険リンク証券 コミッティッドキャピタル オフバランス 保険・デリバティブ 企業資本 リスク 株式 高 企業リスク 外部移転分 自己保有分 外部移転分 53 「統合的資本・リスクモデル」による資 本・リスク管理 最適資本構造の決定プロセス リスクマネジメント 1. 企業リスクの認定 2. 企業リスクをカバーするための必要資本の算定 3. 自己保有リスクもしくは外部移転すべきリスクの決定 4. オンバランス、オフバランス資本の構成を決定 5. オフバランス資本の内部の構成を決定 6. オンバランス資本の構造決定(含む 負債・株式比率等) 資本政策 54 自己資本 vs オフバランス資本 収益 + 収益分布 資本 µ 期待収益 オンバランス資本 リスク調整済資本 0 自己資本でのリスク対応可能域 σ 非期待損失 ω ストレス損失 自己資本でのリスク対応不可能域 オフバランス資本 (保険・デリバティブ等) 企業の継続可能域 − 企業資本消滅域 確率 55 ウェザーデリバティブとCATボンド市場 (USD millions) 3000 2500 2000 1500 1000 500 Cat Bond 20 00 19 99 19 98 19 97 19 96 19 95 19 94 19 93 0 Weather Derivative 56 プレミアムの計算方法 ステップ1: 対象期間中の気象イン デックスの期待値を決定 2 200 2 000 • 期待値の計算 1 800 - 線形回帰 HDD - 直近期間の平均 1 600 - 自己回帰モデル 1 400 - 気象予測 1 200 1 000 1951 1954 1957 1960 1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 HDD Linear 2nd order 3rd order 57 プレミアムの計算方法(続き) 変動性を決定 - 気象予測 0.0035 14 0.003 12 0.0025 10 0.002 8 0.0015 6 0.001 4 0.0005 2 0 0 100 200 300 400 500 600 700 0 800 HDD Frequency Normal dens. Lognormdens. 58 Densit y - 過去データ 16 Frequency • 発生分布の決定 HDDDensitiesdetrended プレミアムの計算方法(続き) 0.001 1 200 000 ステップ3: プレミアムを決定 0.0009 1 000 000 0.0006 0.0005 600 000 0.0004 400 000 0.0003 0.0002 200 000 0.0001 0 3500 0 3258 3015 2773 2531 2289 2046 HDD 59 Probability 0.0007 800 000 Costs USD •支払いパターンとそ の発生確率との組合 せによる、支払い分 布の決定 0.0008 天候リスクマネジメント進展へ向けて • • 企業は 「リスクは資本」 との認識 「リスクマネジメント・カルチャー」 の造成によ り、「オフバランス資本」 を含めた資本政策の 構築 • リスク移転手段への取組を、「やるもリスク、 やらぬもリスク」 では困る WD提供・関連業者は • ユーザーの言葉で語 り、「リスクコミュニケー ション」 を促進 • 「デリバティブは納豆 の糸」 で、WD市場発 展へ貢献 その他関係者は • アナリスト・格付機 関は、「明日は明日 の風が吹く」 企業へ 厳しい評価を • 関係監督官庁は、 WD市場のインフラ整 備へサポートを 60
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