【2016年9月21日公開】 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ~丸わかり! ロンドン発★欧州経済事情~ 「松崎美子」が注目テーマを一刀両断! 『ドイツ銀行問題が 欧州発!金融不安の可能性へ』 執 筆 者 : ( ロ ン ド ン 在 住 /元 為 替 デ ィ ー ラ ー ) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 今週のマーケットは、9 月 21 日(水)に開催される日本と米国 2 つの中央銀行の金融政策理事 会待ちとなっている。しかし、ヨーロッパに住んでいる私にとって、それ以上に気になるのが、ドイ ツ銀行を取り巻く悪い噂が絶えないことだ。今回のコラムでは、徹底的にドイツ銀行について調べ てみようと思う。 ●今年はドイツ銀行にとっての厄年 人間に例えていえば、ドイツ銀行にとって 2016 年は「厄年」といえるだろう。年初早々から、数々 の問題が発覚し、そのたび株価は下落を強いられた。 データ: ドイツ銀行ホームページ https://www.db.com/ir/en/share-price-information.htm ●デリバティブ問題 年明け早々、ドイ ツ銀行が抱える莫大なデリバティブ残高についての不安説がマーケットに流 れた。 英国に住む私たちには、デリバティブ残高が大きすぎ、国有化されたスコットランドの RBS 銀行の 記憶がまだ鮮明に残っていて、この不安説は一気に市場心理を悪化させ、同行の株価は急落し た。 ●Coco 債問題 デリバティブ問 題 が過 ぎ去 った頃 、今 度は Coco 債 問題 が発 覚 した。当 時 は、欧 州中銀 (ECB)が 3 月に大型緩 和策の実施 を宣言した直後で、これ以上マイ ナス金 利の深堀 りが進 めば、銀行収益 が相当悪化 すると心配されて いた時期 である。もしそうなれば、ドイ ツ銀行 は 収 益 悪 化により債券の利払いが出来なくなるという噂が出てきたのだ。 この点 について大手格付 け会社 :S&P は、「ECB の緩和策如何 では、ドイツ銀行 の利払 い支 払 い能力 は困難 になることが予想される」というレポートを発 表し、市場はパニック!ドイ ツ銀 行 は株価 の下 落に加え、CDS(クレジ ット・デフォルト・スワップ)も大 きく上昇したことをよく覚 えている。 この Coco 債というものは、利 回 りが 6%前後 と魅了的である反 面、万 が一銀行 の支払 い能力 に問題 が生 じると、デフォルトする代 わりに、Coco 債 を株式 に転 換し、その株を売却して支 払 いに充てる仕組みとなっている。つまり、Coco 債 の高 い利回 りを手 にする筈だった投資家 たちは、この銀 行の損失 を肩代わりすることになる。 度重なる信用不安を払拭すべく、2 月中旬にドイツ銀行は急遽総額 50 億ユーロ(約 6000 億円)の 債券を買い戻すと発表した。しかし、高リスクの Coco 債はその対象に入っていなかった。 ●ソ ロ ス氏の空売り 世界中 が英国 の EU 離脱 (Brexit)で大騒ぎしていた頃 、著名なヘッジファンド・マネージ ャ ー:ジョージ ・ソロス氏 が爆弾発言 をした。それは、「英国 の国民投票 に向 け保有していたポジ ションは、英ポンドのロングと、ドイツ銀行株 700 万株(ドイツ銀の株主資本の約 0.51%に相当) の 空売りだった」という内容であった。 あのソロス氏が英国の国民投票前に、敢えてドイツ銀行株を大量に空売りした理由は?その答 え については、同時期 に発表された国際通貨基金(IMF)のカントリー・レポート「ドイツ編」に隠さ れている。このレポートのタイトルは、「Financial System Stability Assessment:金融システム安定 性評価」となっており、ドイツ銀行を「危険銀行」と名指しで取り上げていたのだ。 (参 照 :https://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2016/cr16189.pdf) チャ ー ト : IMF レポー ト 2016 年 6 月 29 日(水) https ://www .imf.org /external /pubs/ft/scr/2016/cr16189.pdf このチャートによると、世界の大手銀行のうち、金融システムへの潜在的なリスクが最も高い銀行 は、ドイツ銀行(チャートの赤い矢印)。2 番目が英国 HSBC 銀行、3 番目がスイスのクレディ・スイ ス(CS)銀行と続いている。 ●MBS 絡みの賠償請求 最後は、先週金曜日に発覚した MBS(住宅ローン担保証券)の不適切販売に対し、米司法省がド イツ銀行に 140 億ドルの賠償請求をした事件である。同行と米政府は、賠償額についてこれから 協議をするようだが、どこまで減額されるのかは不明。 現在 ドイ ツ銀行 が保有している偶発的 な事態 に備えた準備金 は、55 億 ユーロといわれてい て 、140 億ドルの請求額が半額になったとしても、十分 ではない。 そうなると、問 題は単 純にドイ ツ銀行 の存続 だけでなく、金融市場 全体でのシステミック・リス クが浮上 する。そして、偶 然かどうか分からないが、今週木 曜日から欧 州システミック・リスク 理 事会 (ESRB)が開催 される。この耳慣 れな い理事会 の活動 は、欧州 中銀 (ECB)に委 任さ れ、ドラギ 総 裁が理事 長を務める。 そもそもシ ステミック・リスクとは何か?この図を見て欲しい。 もし、A 銀行 が返済期日 に B 銀行に 50 億 ユーロ返済 できなければ、B 銀行 は C 銀行 に対し、 同じく 50 億 ユーロの返済 が出来なくなる可能性 が出てくる。このような事態が発生 すると、こ こから他 の銀 行をも巻き込んで、不払いが続く。それを「システミック・リスク」と呼ぶ。 つまり、ドイ ツ銀行 に支払 い能 力がなくなれば、そのお金を当てにしていた他 の金 融機関 の 支払 いが滞 り、世界中 の銀行 がパニックを起 こす危険 が出てくるのだ。グローバル化 の影響 で、もはやこの問題はドイツの、または欧州固 有の問題とはいえなくなっている。 ●こ こからのマーケット ドイツ銀行問題 は、現時点では金融市場 全体の「システミック・リスク」にはな っていないた め、これを材料 に「ユーロを売 る」のはまだ時期尚早 であろう。ただし、今年 だけでもこれだけ 問 題 が発 覚しているため、他行との合併の噂も含め、今後の報道が待たれる。 今 週の相場 に限 った場 合 、事前 にリークされて いる日銀 の動向 よりも、「利 上げなし」とマー ケットが結 論 付けた FOMC の動 きが気 になる。 ■ 予 想 外の利上げとなった場合 もう何 年 も取引していないが、「米ドル/カナダドル」のチャートが気になっている。 これは日足だが、ここずっと 200 日移動平均線 (SMA)に頭を押さえられて いる状態だ。もし、 予 想 外 の利上げとなれば、1.34 カナダドルミドルくらいまでの上 昇を予想する。 ■ 政 策 金利が据え置きの場合 政策金利が据え置きとなった場合、同時に発表される 3 カ月に一度のマクロ経済予測とイエレン 議長の記者会見に注意したい。 これは、経済予測で発表されるドット・チャートの中央値の推移である。9 月 21 日(水)FOMC での 予想には黄色いハイライトを入れてみた。 もしこの予想よりも更に低くなるようであれば、利上げの可能性が減ることになる。その場合、最 近の FOMC 理事たちがやけにタカ派的内容の発言をしていることを考えると、銀行のクレディビリ ティーの問題にもなりかねないため、注意が必要だ。 -------------------------------------------------------------------------------【執筆者:松崎美子氏( ロンドン在住/元為替ディーラー)プロフィール】 東京でスイス系銀行 Dealing Room で見習いトレイダーとしてスタート。18 カ月後に渡英決 定。1989 年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店 Dealing Room に就職。1991 年に出産。1997 年シティーにある米系投資銀行に転職。 その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、 証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。 -------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】 本レポートは松崎美子氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として おります。 本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、松崎美子氏、およびワイジ ェイFX株式会社共にレポート中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明 示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。 また、本レポート内のコンテンツ、データに関する著作権はワイジェイFX株式会社に帰属 しております。 コンテンツ、データ等は私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめく ださい。 さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、松崎美子 氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。 最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。
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