市原市監査告示第1号 市原市職員措置請求に係る監査結果をここに告示する。 平成25年4月16日 市原市監査委員 星 野 健 一 市原市監査委員 藤 井 市原市監査委員 竹 内 直 子 市原市監査委員 高 槻 幸 子 一 地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第4項の規定により、 別添のとおり公表する。 写 ○ 市 監 第 6 号 平成25年4月16日 市原市長 佐 久 間 隆 義 様 市原市監査委員 星 野 健 一 市原市監査委員 藤 井 市原市監査委員 竹 内 直 子 市原市監査委員 高 槻 幸 子 一 市原市職員措置請求に係る監査の結果について(報告) 平成25年2月20日付けで提出された地方自治法(昭和22年法律第67号) 第242条第1項の規定に基づく市原市職員措置請求について、監査の結果を下記のとお り報告します。 記 1 監査結果 ⑴ 辰巳保育所については、住民監査請求の要件を満たしていないと判断し、受理後却 下とする。 ⑵ ちはら台桜小学校については、請求に理由がないと判断し、請求を棄却する。 2 監査結果報告書 別添のとおり。 第1 請求の受付 1 請求の要旨(以下の記載は、請求人から提出された原文のまま掲載) Ⅰ.請求の要旨(市原市民の生命に関することで、生命が失なわれたら市原 市は国賠法により損害賠償しなければならず取り返しがつかない重大なこと である。) 1、請求者は、市原市情報公開条例により、H12.10.17 適建 19 号辰巳保育 所の必要保有水平耐力を計算するための Fes を求めるための層間変形角 を計算するために標準せん断力係数 Co(以下「Co」という。)≧1.0 で 計算されていることがわかる書類の開示請求をした。その結果、Co≧ 1.0 で計算されていないことが明らかとなった。これは建築基準法施行 令第 88 条に違反する耐震偽装である。 市原市長は、建築基準法 9 条の特定行政庁でもあり、前述建築物の使 用禁止命令他権限があり、予算を組み、補強工事をしなければならない のに放置している。これは財産の管理を怠る事実である。市原市監査委 員が、この事実を確認し市原市長に是正させることを求める。 2、いちはら議会だより第 179 号⑶面にあるちはら台桜小学校の財産の取 得については、必要保有水平耐力を計算するための Fes を求めるための 層間変形角を計算するために Co≧1.0 で計算されていることを確認して いない。これは耐震偽装した建築物を取得するという違法又は不当な財 産の取得である。ちはら台桜小学校の財産の取得の差し止め、又は、取 得された場合には、市原市長にその代金全額が違法又は不当な支出であ るので市が被った損害を賠償させることを求める。 2 請求人 市原市<略> <略> 3 請求書の受付日 平成25年2月20日 4 請求の受理 本件監査請求は、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下、「法」という。) 第242条に規定する要件を具備しているものと認め、平成25年3月8日に受 理した。 1 第2 監査の実施 1 監査の対象事項 後述する第4-1のとおり辰巳保育所に関する請求は、請求要件を満たして いないので却下とする。 このため本件監査は、ちはら台桜小学校について、本市職員(市原市長)は 請求人の主張する事由から違法又は不当に財産の取得をした事実があるか否か を対象とする。 2 監査対象部局(関係執行機関等) 教育総務部教育施設課及び土木部建築施設課 3 請求人の証拠の提出及び陳述 法第242条第6項の規定に基づき、請求人に対して、平成25年3月21 日に新たな証拠の提出及び陳述の機会を与えた。 なお、新たな証拠の提出がなされるとともに、請求内容の補足説明がなされ た。 4 関係執行機関等からの資料提出及び関係職員の陳述の聴取 平成25年3月11日から4月5日の間に、教育総務部教育施設課及び土木 部建築施設課に対し、ちはら台桜小学校の建設及び財産取得について、資料の 提出を求めた。 また平成25年3月21日に、法第242条第7項の規定に基づく関係職員 による陳述の聴取を行った。 5 学識経験者等からの意見聴取 平成25年3月21日に、建築基準法(昭和25年法律第201号、以下 「基準法」という。)第2条第35号に規定された特定行政庁たる市原市長(都 市計画部建築指導課:同法第4条第1項に規定された建築主事)から、 法第199条第8項の規定に基づく意見聴取を行った。 2 第3 監査の結果 1 事実の確認 関係執行機関等からの資料提出等を踏まえ、次のとおりちはら台桜小学校の 財産取得に関する事実を確認した。 ⑴ 建設の背景 ちはら台地区については、開発の進展に伴い人口の大幅な増加が見られ、 これに比例し就学人口も著しく増加している。この傾向は、近年、「ちはら台 東」において顕著であり、当該学区の水の江小学校では教室不足が予想され た。 これへの対応として、市教育委員会において学区調整及び校舎増築等を検 討したものの、このような対策では解決困難であるとの結論を得たことから、 市は新たに(仮称)千原台第四小学校として整備を図ることとした。 ア 改訂市原市総合計画第二次実施計画(2008~2010 年度)「輝☆望いちは ら」で新築の計画が計上された。 イ 改訂市原市総合計画第三次実施計画(2011~2013 年度)「勇輝いちはら」 で校舎等買取の計画が計上された。 【ちはら台地区就学人口(小学生)の増加】 19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 学級数 児童数 学級数 児童数 学級数 児童数 学級数 児童数 学級数 児童数 学級数 児童数 水の江 22 678 25 754 26 838 13 307 14 297 13 295 清水谷 17 501 16 474 18 482 17 470 16 457 18 460 牧園 17 499 18 522 19 556 19 583 19 595 19 595 ちはら台桜 20 627 24 718 26 730 ち は ら 台 地 区 小 計 56 1,678 59 1,750 63 1,876 69 1,987 73 2,067 76 2,080 市全体の合計 587 15,698 597 15,526 600 15,295 606 15,112 611 14,896 614 14,547 データは市政概要から(各年度5月1日現在) 学級数及び児童数は普通学級+特別支援学級 【市内小学生の増減推移】・・・19 年度児童数を 100 とした場合の指数比較 ち は ら台地区 市全体 19年度 100 100 20年度 104 99 21年度 112 97 22年度 118 96 23年度 123 95 24年度 124 93 ⇒市全体では減少傾向にあるものの、ちはら台地区は増加傾向にあることがわ かる。 ⑵ 学校施設の概要 ア 所在地:市原市ちはら台東5丁目13番地 イ 敷地面積:23,000.02㎡ 3 ウ 施設内容: (ア) 構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 3階建 (イ) 建築面積:3,943.29㎡(延床面積:7,381.06㎡) ㋐ 校舎:延床面積6,269.18㎡ ・普通教室20室 ・特別教室:生活科室、家庭科室、理科室、音楽室、図書室、コンピ ューター教室、特別活動室、教育相談室 ・管理諸室:校長室、職員室、会議室、保健室、配膳室、放送室、学 年室、印刷室、更衣室、湯沸し室、教材室、資料室 ・多目的スペース:896㎡(廊下含む) ㋑ 屋内運動場 984.84㎡:アリーナ(600㎡)、ミーティング ルーム ㋒ プール付属室 61.54㎡(プールは25m×7コース) ほか エ 児童・教職員数: 児童764名、教職員36名(平成25年4月1日現在) ⑶ 事業の経過 ちはら台桜小学校の校舎は、市が直接建設をしたものではなく、立替施行 により取得している。これは、事業者が建設費を一時立て替え、後年、市が 返済していく方法である。本件においては、公益財団法人市原市地域振興財 団(以下、「財団」という。)が施工主として建設した学校施設を、完成後に 市が買い受けているものである。これらの経過は次のとおりである。 No 時期 項目 1 平成19年5月1日 市 基本・実施設計委託契約 設計 a 社 2 平成19年12月28日 市 土地売買契約 e 社 3 平成20年5月15日 市 4 平成20年5月21日 市 設計・施行管理・工事検査等に関する業務受託 主体 適用 用地取得 (仮称)千原台第四小学校 立替施行決定 施設の建設に関する契約 相手先 財団法人 市原市都市開発公社 財団法人 市原市都市開発公社 5 平成20年度 財団 杭打ち工事及び建設工事 6 平成21年度 財団 建設工事及び外構工事 7 平成22年3月23日 8 平成22年4月 市 原契約に対する変更契約 工期延長等 財団法人 市原市都市開発公社 開校 9 平成22年5月10日 市 使用賃貸借契約 所有権移転前の供用 10 平成24年9月19日 市 譲渡契約締結 11 平成24年9月28日 市 譲渡契約に基づく支出 4 一部(校舎・設備ヤー ド・飼育小屋)買取 財団法人 市原市都市開発公社 公益財団法人 市原市地域振興財団 ~財団について~ 昭和39年8月に、心豊かに暮らせるまちづくりを推進するため、地域社会の振興と 健全な発展に関する事業を行い、市民生活の向上と福祉の増進に寄与することを目的と して、「財団法人 市原市開発協会」として設立され、昭和46年4月に「財団法人 市 原市都市開発公社」へ名称変更、平成24年4月に千葉県知事の認定を受け、「公益財 団法人 市原市地域振興財団」へ移行した。 このため、平成20年5月の立替施行に関する市との契約及び校舎建設工事の施工に ついては、旧称の「財団法人 市原市都市開発公社」であるが、平成24年9月の市と の売買契約時においては、現行の「公益財団法人 市原市地域振興財団」となっている。 ⑷ 建築に関係する機関・事業者等 ① 市 ア 教育総務部教育施設課 学校施設の所管課として、建設計画の策定・施設の取得に関する事務 を担った。 イ 土木部建築施設課 市原市行政組織条例(昭和42年市原市条例第31号)第3条の規定 により建築工事に関することを分掌しており、教育施設課から設計・施 工管理・工事検査等に関する事務を受託した。 ② 設計者:a 社 市の発注した基本・実施設計業務委託について、指名競争入札を経て受 託し、設計を行うとともに建築確認申請等を代行した。 また施工時には工事監理を行った。 ③ 国土交通大臣等の指定を受けた者による確認:b 社 施工主(設計者代行)からの建築確認申請に対し、建築基準関係規定に 適合している旨、基準法第6条の2による確認済証を交付した。 また基準法第7条の2第1項による完了検査において、検査済証を交付 した。 ④ 第三者の公的機関による構造計算適合性判定:c 社 基準法第18条の2に基づく指定構造計算適合性判定機関として、構造 計算の適合性を判定した。なお、平成25年4月1日付けで財団法人から 公益財団法人へ移行している。 ⑤ 施工主:財団 平成 20 年 5 月 15 日付(仮称)千原台第四小学校施設の建設に関する契 約に基づき、建設工事を発注した。また建築確認申請を設計者へ委任した。 ⑥ 工事請負:d 社 施行主が発注した建設工事について、競争入札を経て受注し、建設を行った。 5 [参考]ちはら台桜小学校校舎等の財産取得に関する関係諸機関関係図 市長(関係執行機関等) 議案可決⇒承認 議会 教育施設課 建築施設課 高額な財産取得のた 施設所管 設計・施工監理・工事検査 め、条例に基づき議 会の議決を求める。 基本・実施設計委託契約 立替施行契約 設計・施工監理 a 財 社 建築確認申請 →確認 団 施工主である財団からの委任を受けて 建築確認申請を行う。 工事請負契約 d 社 施工 c b 社 建築確認を行 社 第3者機関による構造計算の適合性判定 った旨の通知 建築指導課(建築基準法の特定行政庁たる市長) 法 199⑧の関係人 :本件において、構造計算等を 確認した関係諸機関 ⑸ 取 得 平成20年5月15日付(仮称)千原台第四小学校施設の建設に関する契 約及び平成24年9月19日付け譲渡契約書によれば、立替施行で建築した 学校施設を平成26年3月31日までに譲り受けることとなっており、平成 24年度の取得は以下のとおりである。 支 出 額:1,451,960,723円 取得財産:ちはら台桜小学校の学校施設のうち、 A:校舎(鉄筋コンクリート造3階建 6,269.18 ㎡) B:設備ヤード(鉄筋コンクリート造平屋建 31.50 ㎡) C:飼育小屋(鉄骨造平屋建 9.00 ㎡) 6 ① 平成24年7月23日 公有財産購入決議書に基づき、譲渡仮契約書締結 (支出負担行為) ② 平成24年9月19日 市議会第3回定例会で財産の取得を決定(議案第 72号)(同日付けで譲渡契約を正式に締結) ※ 本市における財産の取得において、『議会の議決に付すべき契約および財産 の取得または処分に関する条例(昭和39年市原市条例第5号)』に基づき、 予定価格2,000万円以上の不動産等財産の取得については、議会の議決を 経る必要がある。 ③ 平成24年9月21日付け支出命令書により執行、9月28日支出。 ⑹ 建築基準関係規定に基づく学校施設の設計等 本件における建築物は以下のとおりであり、建築確認申請(申請者:財団、 設計者:a 社)を平成20年8月15日付けで b 社へ提出し、同社から確認 済証(平成20年10月7日付)を、検査済証(平成22年1月26日付) の交付をそれぞれ受けている。 No 施設名称 A 校舎棟 B 設備ヤード C 飼育小屋 ① 延床面積 (㎡) 下記①ア の区分 構造 6,269.18 3号 鉄筋コンクリート 造 31.50 4号 鉄筋コンクリート造 9.00 4号 鉄骨造 最高の高さ(m) (最高の軒の高さ) 13.85 (11.55) 3.75 (3.15) 2.60 (2.45) 階 地上3階 地上1階 地上1階 延床面積 (㎡) 構造計算 のルート 適用構造計算 ルート1 許容応力度計算 - - - - 下記①ア の区分 最高の高さ(m) 構造 施設名称 階 建築関係基準規定の解釈 No 鉄筋コンクリート 13.85 A 校舎棟 6,269.18 3号 造 地上3階 ア 基準法第6条の第1項の区分により、非木造の建築物で階数が2階以 (11.55) (最高の軒の高さ) 3.75 上、又は延床面積が 200 ㎡を超えるものは3号建築物、それ以下は4号 B 設備ヤードポンプ室 31.50 4号 鉄筋コンクリート造 地上1階 (3.15) 2.60 建築物とされる。 C 飼育小屋 9.00 4号 鉄骨造 地上1階 (2.45) イ 4号建築物については、基準法第6条の3第1項第3号に基づき、特 例により建築士が設計した建築物である場合には、建築確認の審査の一 部を要しない。 ウ 構造計算の必要性については、基準法第20条各号により規定されて おり、特例により建築確認審査の一部を要しない4号建築物を除き、建 築確認申請時に構造計算書の提出をする必要がある。 この際、必要となる構造計算の方法については、鉄筋コンクリート造 の場合一般的に関係法令等の解釈を整理したフロー図(次頁の図を参照) をもとに判断されることとなる。 ② 本件での整理 鉄筋コンクリート造であるAについては、最高の高さが20m以下であ り、平成19年国土交通省告示第593号に規定された「許容応力度計算 (図のルート1)」の条件を満足することから、これに基づく構造計算書が 作成され、建築確認及び適合性判定がなされた。 7 構造計算 のルート ルート1 - - <図> 鉄筋コンクリート造建築物の二次設計の構造計算フロー スタート 一次設計 不要 高さ≦20m 必要 31m<高さ≦60m 規模等による構造計算適合性 判定の要否 必要 判断* 20<高さ≦31m 判断* 層間変形角の確認 層間変形角≦1/200 剛性率・偏心率等の確認 剛性率≧6/10 偏心率≦15/100 建築物の塔状比≦4 層間変形角の確認 層間変形角≦1/200 No Yes 強度型(1) 構造規定の選択 靱性型 強度型(2) Σ 2.5aAw+Σ 0.7aAc ≧ZWAi 部材のせん断設計 ルート 1 Σ 2.5aAw+Σ 0.7aAc ≧0.75ZWAi 部材のせん断設計 ルート 2-1 Σ 1.8aAw+Σ 1.8aAc ≧ZWAi 部材のせん断設計 ルート 2-2 靱性のある全体崩 壊メカニズムの確保 ルート 2-3 保有水平耐力の確認 Qu≧Qun Qun=DsFesQud 転倒の検討 (塔状比 > 4の場合) ルート 3 エ ン ド * 判断とは設計者の設計方針に基づく判断のことである。例えば、高さ31m以下の建築物であっても より詳細な検討を行う設計法であるルート「3」を選択する判断等のことを示している 『2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書(平成19年8月 全国官報販売協同組合)』から抜粋 8 2 関係執行機関等の見解 本件に関する、平成25年3月15日付けで提出された教育総務部(教育施設 課)からの見解は以下のとおりである。(企業名以外は原文のまま掲載) 請求人が耐震偽装があったと主張するちはら台桜小学校の設計にあたっては、 基本・実施設計業務の委託先である a 社との契約の際、建築基準法その他関係 法令の遵守を設計仕様に明記している。 a 社は、契約内容に則し設計した図書について、建築基準法第6条により、確 認申請を確認検査機関である b 社に提出し、第3者の公的機関(c 社)による構 造計算適合性判定を経て、平成20年10月7日付け第 b 社 08016618 号にて建 築確認を取得している。この際設計業務監督下において、虚偽の申請や構造計算 における不正な行為は一切見当たらなかったことを確認している。 工事の完了時には、工事完了届をB社に提出し、平成22年1月26日付け第 b 社 09040394 号にて検査済証を取得している。こちらも工事請負業務監督下に おいて、工事期間中における不正な行為は一切見当たらなかったことを確認して いる。 このことは、ちはら台桜小学校の建築物が、法に定められた構造等関係諸法令 に適合した適法な建築物であることを証明しており、市がこれらを取得すること について、何ら違法性・不当性を疑う余地は存在しない。 ちはら台桜小学校の財産の取得については、請求人の主張する「耐震偽装した 建築物の取得」「不当な財産の取得」には当たらず、市が被った損害も存在しな いため賠償する事由がないと考える。 9 第4 判 断 以上のような事実関係の確認、関係執行機関等の説明などに基づき、本請求 について次のように判断する。 1 監査の対象について 法第242条に規定されている住民監査請求の制度は、「地方公共団体の職 員による違法又は不当な行為等により地方公共団体の住民として損失を被るこ とを防止するために、住民全体の利益を確保する見地から、職員の違法、不当 な行為等の予防、是正を図ることを本来の目的とするものである。」と解され ている。(『逐条地方自治法第6次改訂版』松本英昭著) また、「法242条の2に定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を 確保することを目的とし、その対象とされる事項は法242条第1項に定める 事項、すなわち公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債 務その他の義務の負担、公金の賦課・徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実 に限られるのであり…。」と判示されている。(最高裁昭和62年(行ツ)第 22号平成2年4月12日第一小法廷判決) これらを踏まえた上で、住民訴訟が住民監査前置主義を取っていることから も、住民監査請求の対象も住民訴訟の対象と同じで財務会計上のものに限られ ていると解されている。 そこで、請求人の主張について、市の行った行為又は怠る事実が財務会計上 の行為に該当するかについて検討する。 ⑴ 請求人の主張する市の行為については、①前段の辰巳保育所と②後段のち はら台桜小学校の二つが摘示されている。 ① 辰巳保育所 耐震偽装の建築物に対し、補強工事の予算措置及び執行をすることで是 正しなければならないのに放置しているから、財産の管理を怠っている。 ② ちはら台桜小学校 耐震偽装した建築物を取得することは、違法又は不当な財産の取得であ る。 ⑵ 公有財産の管理 法における「財産」とは、第237条第1項において公有財産、物品及び 債権並びに基金と定義され、このうち公有財産については第238条第1項 において、不動産・動産・用益物権・無体財産権など具体的に示されている。 この公有財産の管理については、「公物管理」と「財産管理」の二つの側面 があり、前者が行政目的を実現するため支障のない状態を維持するための管 理であるのに対し、後者は財産的価値の維持・保全の管理とされている。 そして、後者のみが住民訴訟の対象(=住民監査請求の対象)となるのは、 10 上記判例において「財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務 的処理を直接の目的とする財務会計上の財産的行為には当たらない」ものは 「住民訴訟の対象となる行為とはいえない」と判示されているとおりである。 ⑶ 監査対象の判断 請求人の主張する「財産の管理」は施設供用上の安全性の確保であり、こ れは公有財産の「公物管理」に当たるもので、「財産管理」における財産的価 値の損失等を主張するものではない。 なお、請求人が根拠としてあげた判例(最高裁平成21年(受) 第1019号 平成23年7月21日第一小法廷判決)は、本件監査請求の 判断を左右するものではない。 以上から、当該請求の要旨の前段である辰巳保育所に関する請求については、 住民監査請求上の財産管理とは判じ得ず、請求要件を満たさないものと判断する ため却下とし、後段のちはら台桜小学校についてのみ監査の対象とした。 2 監査の考え方 ⑴ 本件で監査の対象となる財産は、前記第3-1-⑸において明らかなように、 同校の校舎、設備ヤード、飼育小屋である。 このうち、校舎の構造計算書を確認したところ、必要となる構造計算の方法 については、前記第3-1-⑹の関係法令等の解釈を整理したフロー図(P 8)のとおり「許容応力度計算(同図におけるルート1)」により行われてお り、そもそも当該建築物の構造計算においては「保有水平耐力計算」を行う 必要がない。 また設備ヤード及び飼育小屋は、建築基準法第6条第1項の区分における 4号建築物であり、建築確認申請における構造計算書の提出は省略されてい る。 ⑵ ちはら台桜小学校の建設については、市が委託した基本・実施設計委託契 約により a 社が設計しており、当該設計による建築確認を b 社が行っている。 更に基準法第6条の2に規定される第三者機関である c 社(この第三者機関 は、平成17年のいわゆる「耐震偽装問題」を受けて指定構造計算適合性判 定機関として指定されていることから、耐震基準に抵触する設計上の瑕疵が あれば発見されることになる。)が構造計算適合性判定を行っている。 また、市を含めた4者において共に建築基準関係規定の解釈に誤りがある ものとは考え難く、全国的にも同様の解釈であると判断されるところである。 以上の点から、平成24年度に取得したちはら台桜小学校の施設の一部に 11 ついては、請求人が主張する「必要保有水平耐力」を計算すること自体必要 がなく、市は建築基準関係規定を適正に解釈し運用しているものと伺える。 すなわち、請求人の主張する先行行為である学校建設に違法性・不当性は ないことから、ちはら台桜小学校に関する財産の取得についても、違法又は 不当なものではないと判断する。 第5 結 論 以上の判断から、辰巳保育所については、住民監査請求の要件を満たさないも のと判断し、請求を却下する。 また、ちはら台桜小学校については、請求人の主張に理由があると認められず、 したがって違法又は不当な財産の取得に当たると認められないことから、請求を 棄却する。 12 【請求人が添付した事実証明書】 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ 平成25年2月20日付市原市職員措置請求書の下書き 平成25年2月5日付公文書開示請求書 平成25年2月19日付公文書不開示決定通知書 いちはら議会だより第 179 号⑶面 平成25年2月20日付公文書開示請求書 平成25年2月20日付公文書開示請求書 平成25年3月6日付公文書不開示決定通知書 平成25年3月6日付公文書部分開示決定通知書 平成25年3月6日付公文書不開示決定通知書 ⑩ 判例時報2129号(写)(抜粋:最高裁平成21年(受)第1019号 平成23年7月21日第一小法廷判決に関する記事) ⑪ 国土交通省 Web ページ「マンションの耐震性等についての Q&A について」 (抜粋) ⑫ 気象庁 Web ページ「震度と加速度」(抜粋) ⑬ 『官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説(平成8年版)』(社団法人 公共建 築協会)(一部抜粋) 13
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