科学技術振興調整費 成果報告書 - 「科学技術振興調整費」等 データベース

科学技術振興調整費
成果報告書
重要課題解決型研究等の推進:科学技術政策に必要な調査研究
「代替医療の科学的評価手法の指針の開発」
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
調査研究の概要
p.1
研究の詳細と参考資料
1.諸外国における代替医療(CAM)・統合医療(IM)研究の現状
p.5
2. 健康食品のバイオマーカーに関する研究代替医療の評価指標に関する調査研究
p.13
3. ストレス度、リラクセーションならびに QOL の評価に関する研究
p.23
4. 医工学的手法による代替医療の評価
p.30
5. 遺伝子・環境要因からの代替医療評価
p.49
6. 評価方法の現状分析と新方法の開発
p.72
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の概要
■ 研究の趣旨
科学技術は大きな影響を社会に与えてきた。特に、医療分野に関する研究・開発は、我々の寿命を延ばし、より豊かな
生活を約束してきた。これらの研究は、その多くが科学的客観性に基づいた西洋医学の研究手法により行われてきたとい
ってよいだろう。科学的客観性は、主として統計的有意と再現性の担保によって実現してきたが、その前提にあるのは個々
人の体質を一定であるという仮定の元で、統計的手法によって効用を評価してきた点であろう。しかし、遺伝子レベルでの
研究が進み、個々人の体質によって、薬の向き不向き、効用の差異が存在することが明らかになってきている。近年は、個
体差を考慮する方向で研究が進められており、個人の体質を考慮した研究が進むことが予想される。しかし、西洋医学が
全人格的な部分を考慮していない点などについて、一部患者等からその限界を指摘する声が広がりつつある。
一方で、西洋医療の範疇には入らないが、古くから地域で使用されている独自の治療方法が世界各地に存在する。こ
れらの治療方法は西洋医療と比較して代替医療と呼ばれる。代替医療は比較的長い歴史を持つことが多く、独自の診断
体系と施術、投薬などの方法が構築されている。各国における調査で、市民の多くが西洋医療に加えて何らかの代替医療
が利用していることが明らかになっている。
代替医療には、ハーブ、健康食品より音楽療法や気功に至るまで、物質的、精神的、各種の分野あるいはレベルが複
雑に、かつ多様に存在する。大きく分類すると、代替医療は以下のようになろう。
・従来の西洋医学的(科学的)方法で評価しうるもの
これらにはハーブ、健康食品などがある
・評価に際して、計測や記録方法に新工夫が必要なもの
気功のエネルギー計測、音楽療法などの効果の計測、精神療法の QOL の記録などである
・従来の科学的方法では解決できないもの
精神療法の有効性のメカニズム、気や Spirituality など
実際に数多くの人々に利用されている代替医療は、これまで有効性を評価するための方法論が十分に検討されてきた
とはいえない。これは、代替医療の有効性に対する認識の違い、個人の体質という要素をこれまではうまく取り扱えなかっ
たこと、未病の時期の効果を測定する方法がなく、また未病という概念が十分に理解されていなかったこと、ターミナルケア
に関する理解不足、代替医療に対する理解の不足などが挙げられよう。これらに加え、施術内容や利用される薬草などの
成分が法的にコントロールされていないこと、効用が無いばかりか害になる商品が売られている可能性があること等が評価
手法の確立をより複雑にしていたといえよう。
代替医療の利用率は高く、代替医療の効果を適切に測定するための新たな手法の開発が必要になっている。この一方
で、近年の医学・工学・情報学などの発達は、我々が従来見られなかった個人の体質を考慮した医学関連研究を可能にし
ている。
代替医療は、本来優れて社会的な問題を包含している。なぜ我々は科学的評価がされている西洋医学ではなく、時とし
て効用がまだ立証されていない代替医療を利用するのかといった認知心理学的な問題から、どのようにしたら代替医療と
西洋医学を統合した新たな診断体系を構築できるのかといった制度設計の問題まで幅広いテーマを含んでいる。代替医
療が正しく理解され、その効果を最大に発揮するための利用方法やガイドラインが確立し、正しく利用されるためには、ま
ず代替医療がどのような対象に効くのかを測定するための評価方法を構築する必要がある。大きな広がりをもつ代替医療
研究の中で、本研究は最も基本的な課題である科学的評価手法の確立に焦点を当てた。そして「どのような科学的評価手
法が代替医療の有効性を客観的に測定することができるか、そしてこの評価手法はどのように構築しうるのか」を本研究の
メジャークエスチョンとした。現在用いられている代替医療は数多くあり、また我々がかかる疾病も数多い。疾病の状況を知
るためのマーカーは数多くあるが、どのようなマーカーが代替医療によって反応するかも明らかではないし、メンタルケアへ
の利用を考えると、メンタル部分の客観的な評価も求められる。従来用いられる各種マーカーで測定不可能であれば、新
1
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
たなマーカーを探索する必要がある。また、統計学的な手法で有効性が評価可能であるという科学的評価手法の前提も再
考する必要がある。そこで、本研究では、上記のメジャークエスチョンに対して以下のサブクエスチョンを設定した。
・
代替医療は、どのような疾病に対して有効か、その範囲はどの程度あるか
・
代替医療の有効性を測定するための指標とは何か。従来の指標で測定できなければ、どのような指標を構築すれ
ばよいか。そのためのプロトコルは標準化できるか
・
物理的な改善に加え、メンタル面での測定にも客観的手法の開発は可能であろうか
・
予防医学の観点から予防効果の客観的測定は可能であろうか
その上で、これらのサブクエスチョンへのアプローチをするため、まず特定疾病、特定代替医療に焦点をあて、いくつか
の代替医療と疾病との関係、及び評価指標についての関係を探索的に研究することとした。具体的には、
・
医療やケアにおいて QOL のスコアで表示し得る評価指標の指針の開発
・
健康食品を評価するためのバイオマーカーの指針の開発
・
精神現象に対する医工学手法を利用した指標の指針の開発
という目標を立て、異なった研究アプローチを用いて疾病と代替医療の関係、代替医療の評価指標としての、既存の
評価手法の有効性と新たな指標の構築を探ることとした。また同時に、RCTに頼らない新たな評価手法の構築可能性
を探るため、評価手法についての研究を行った。
■ 調査研究の概要
上記の課題設定をもとに、本研究では、5つの研究を行った。まず、実際の評価指標を作成するための研究として、予防
医学の観点から機能性食品の効果を測定するためのバイオマーカーの研究(京都府立医科大学)、心理的な安定に対す
る評価指標の研究として、ストレス度・リラクゼーションならびに QOL の評価に関する研究(京都府立医科大学)、医工学的
手法による代替医療の評価、機能性食品を用いた疾病症状の軽減について、遺伝子・環境要因からの評価(京都大学)を
行った。これらのテーマは、いずれも現在多くの患者がいると共に社会的に問題になっている疾病であり、かつ研究蓄積が
あるため、本研究の問題設定に対して、アウトプットの出やすいテーマである。
また、RCT に代わる新たな評価手法の理論的フレームワークの構築を行うため、根拠作成における個体差の解明に関
する疫学的研究(聖マリアンナ医科大学)を行った。また、これらの研究全体を総括し、取りまとめると共に、海外調査等を
行った(未来工学研究所)。
この結果、各研究において、代替医療を測定しうる指標を開発した。物理的症状の変化を特定するための指標として、
機能性食品を評価しうるバイオマーカーの特定、プロバイオティクス商品の発現遺伝子が特定された。このことで、疾病時
および疾病時における、物理的な症状の測定指標が存在しうることが明らかとなった。また、メンタル面の変化を測定する
指標として、既存の問診表が、ハーブ等の幾つかの代替医療を評価しうることを明らかにしたと共に、QOL の変化を脳機
能の変化としてとらえ、画像化することに成功した。疾病治療を、未病時、疾病時、ターミナルケアの夫々の段階において、
物理的および心理的症状を改善・維持するものと考えるとするならば、これらの各ステージにおいて、疾病の状況、心理状
況を測定しうる指標候補を見出すことに成功した。また、RCT を前提としない、疾病治療の評価の新たなフレームワークの
構築可能性について、諸外国の現状を調査するとともに、根拠 DB の概念設計、Case-Based DB からのテキストマイニング
を行い、定性研究を用いた固体要因と臨床指標を抽出した。
今後、代替医療の評価指標の開発に関する研究として、以下の様な研究が行われるべきであろう。代替医療の評価手
法の個別具体的な開発については、開発指標の精度を高めるとともに、実証研究を行う必要がある。今回取り上げなかっ
た疾病の測定可能性についても、逐次研究蓄積を行い、どのような疾病に対してどのような指標がその疾病を測定しうるの
かを明らかにすると共に、指標開発プロトコルの標準化の可能性を探ることが求められる。
また、評価の活用として、具体的に代替医療を治療に用いるために、医療機関でのコンセンサス形成、正しい知識の患
者への普及・啓蒙をどのようにするかといった社会的制度設計、代替医療と西洋医学を統合した、統合医療の実現のため
の、診断体系の開発等がといった点を考察する必要がある。さらに、これらの評価指標の開発は、まだ始まった段階であり、
2
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
今後研究が進むにつれて一定の標準化がなされる必要がある。世界的にみて、医学以外の分野においては、各種研究成
果の普及ステージおいて、標準化が重要になっている。代替医療が科学的に評価しうる可能性を見出した今、標準化をど
のように進めるかを研究することが重要になる。また、評価指標が今まで存在しなかったために、その効果が明らかとなって
いなかった各種植物や生物等において、本研究成果は、新たな効用を見出す道を切り開いた。このことは、効用が知的財
産権化される可能性を示唆している。プロパテント政策は世界的な潮流となっており、国内の生物資源や固有代替医療を
中心としての権利化問題をどのように取り扱うかといった問題の整理および政策の方向性についての議論が、他国に先ん
じて必要になるであろう。
3
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
■ 実施体制
研 究 項 目
1.
担当機関等
研究担当者
代替医療の評価指標に関する調査
1.1 健康食品のバイオマーカーに関する研究
京都府立医科大学大学院
生体機能制御学
1.2 ストレス度、リラクセーションならびに QOL の評価に
◎○吉川敏一
(教授)
医学部生体安全医学
古倉 聡
医学部生体安全医学
高木智久
医学部生体安全医学
半田 修
医学部生体機能分析医学
内藤裕二
京都府立医科大学大学院微生物学
○今西二郎(教授)
東北大学サイクロトロン
○伊藤正敏(教授)
関する研究
1.3 医工学的評価に関する研究
RI センター核医学研究部
東北大学サイクロトロン RI センター核医学
田代 学
研究部
東北大学加齢医学研究所癌化学療
吉岡孝志
法研究分野
2.
評価方法の現状分析と新方法の開発
2.1 根拠作成における個体差の解明に関する疫学
的研究
聖マリアンナ医科大学
○吉田勝美(教授)
首都大学東京 工学研究科
山下利之
東京医科大学
蒲原聖可
関西医科大学
竹林直紀
聖マリアンナ医科大学
山本竜隆
東京女子医大附属青山女性・自然
小池弘人
医療研究所
3.
遺伝子・環境要因からの評価
3.1 アレルギー疾患における遺伝子と環境要因の関係
京都大学大学院医学研究科社会健
康医学系専攻
○白川太郎(教授)
小野直哉
鈴木雅夫
坪内美樹
4. 代替医療の科学的評価手法の指針の取りまとめ
財団法人未来工学研究所
○渥美和彦
(シニアフェロー)
長谷川光一
◎ 代表者
○ サブテーマ責任者
4
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
1.諸外国における代替医療(CAM)・統合医療(IM)研究の現状
1.1 はじめに
現在、欧米では、「補完・代替医療(CAM:Complementary and Alternative Medicine、Complementary Medicine)」あるい
は「統合医療(IM:Integrative Medicine、Integrated Medicine)」を研究対象とする公的研究機関や大学が急増している。
まず、米国では NIH(米国国立衛生研究所)において NCCAM(National Center for Complementary and Alternative
Medicine 国立補完代替医療センター)が設置され、CAM 研究が推進されている。NCCAM では、研究対象として、中国伝
統医学(TCM)や漢方(Kampo)、アーユルヴェーダといった伝統医学、ホメオパシー、カイロプラクティック、サプリメント(い
わゆる健康食品)などが取り上げられてきた。
欧州における CAM 研究機関としては、英国のエクセター大学およびサザンプトン大学、ドイツの Technische Universität
München などが知られている。また、ノルウェイの University of Tromso には、国立 CAM 研究センターが設置されており、
中国などとの共同研究を推進している。
現在、欧米を中心として「統合医療(Integrative Medicine、Integrated Medicine)」の理念が急速に台頭しつつある。例え
ば米国では、臨床・教育・研究の各分野において統合医療が既に大きな潮流となった。臨床面では、統合医療を標榜する
医療機関が急増し、現代西洋医学を代表する大学や研究機関の付属医療施設として「Center for Integrative Medicine」が
設置されてきた。また、教育面では臨床医を対象にした統合医療プログラムが行われており、研究面では NCCAM が 5 カ
年間戦略計画(Strategic Plan)において IM に言及し、連邦政府予算が配分されている。さらに、メディカル・スクール間では、
臨床・教育・研究に関して、統合医療の推進を目的とするアカデミック・コンソーシアムも組織された。
欧米では、「‘近代西洋医学’と‘CAM’」という構図から、「統合医療;IM」という理念の台頭が加速しつつある。現在、IM
の理念から、CAM に関する研究が進められているが、CAM/IM を対象とする場合の研究方法についての議論も盛んに行
われている。
本稿では、諸外国における CAM/IM の現状について概説した。
1.2 北米の現状
1.2.1 米国成人の 62%が代替医療を利用
米国における CAM の利用状況に関する調査として、Eisenberg らによる報告がよく知られている。それによると、90 年の
時点で各種の CAM のうち少なくとも一つを利用していた人の割合は 33.8%であり、6,000 万人に相当する。それが 97 年に
は 42.1%、8,300 万人に達し、90 年時点から 38%も増加した。
最新の全国調査では、62%の人が過去 1 年間に何らかの CAM を利用していたという。これは、2002 年に CDC(Center
for Disease Control)と NCHS(National Center for Health Statistics)が、18 歳以上の 31,044 人を対象にして行った研究であ
る。この調査では、特定の健康問題についての「祈り(prayer)」も CAM の一つと定義されており、62%の中に含まれている。
この「祈り」を除外した場合、利用者の割合は 36%となる。
Eisenberg らによる調査で注目されたのは、CAM 提供者を受診した人の割合が大幅に増加したという点である。CAM を
利用するとき、自ら実施したのか、あるいはその治療法の提供者・実践者・開業者・施術者から受けたのか、というデータが
報告された。97 年に調査対象となった 15 種類の CAM のうち、CAM 提供者を受診した人の割合は 11 種類で増加している。
過半数の利用者が提供者を受診しているのは、マッサージ、カイロプラクティック、催眠療法、バイオフィードバック、鍼治療
の 5 種類であった。
この調査では、CAM 提供者および現代西洋医学の家庭医への外来受診回数に関する比較データが注目された。まず、
かかりつけの家庭医(プライマリ・ケア医師)の外来を受診した回数を、CAM 提供者における外来受診回数と比べると、90 年
において、すでに外来の段階では、CAM が現代西洋医学を上回っている。具体的には、家庭医の外来受診回数は述べ
3.88 億回であったのに対して、CAM 提供者のそれは述べ 4.27 億回であった。さらに 97 年の時点では、家庭医への外来
回数が 3.86 億回と、ほぼ横這いであったのに対して、CAM の外来回数は、6.29 億回へと大幅な上昇を示した。アメリカ
5
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
の医学界は、CAM がある程度利用されていることを予想はしていたが、これほどまで普及しているというデータはやはり大
きな衝撃であった。
Eisenberg らにより、CAM 提供者の公的資格認定状況についての調査報告が行われている。CAM 提供者・施術者に関
する公的資格・免許の有無は、それぞれの CAM によって、州ごとに大きく異なる。開業に際して 50 州すべてとワシントン
DC にて公的資格・免許が認められている CAM 施術者として、DC(Doctor of Chiropractic)がある。
1.2.2 米国では 26.7%の病院が CAM を提供
2003 年、米国病院協会(AHA)が病院を対象にして「補完・代替医療調査」を行った。この調査の目的は、消費者側の需
要に対して病院がどのようなサービスを提供しているのか調べることにある。その結果、26.7%の病院が何らかの CAM を取
り入れていることが明らかとなった。
調査は 6,105 病院を対象にして実施され、1,007 病院(16.5%)から回答が寄せられた。そのうち、269 病院(26.7%)が
CAM を利用していることが示されている。入院患者から病院外の施設などあらゆるタイプの病院を含む病院医療施設での
導入割合の多い CAM は、①マッサージ療法(78%)、②聖職者によるカウンセリング(62%)、③ストレス・マネージメント(61%)、
④ヨーガ(58%)であった。また、病院内の CAM 施設およびウエルネスセンターにおいて提供されている CAM は、多い順に
①マッサージ療法(47%)、②ストレス・マネージメント(40%)、③リラクセーション・テクニック(32%)、④ヨーガ(37%)、⑤聖職者によ
るカウンセリング(29%)、⑥鍼(21%)、⑦バイオフィードバック(20%)であった。さらに、栄養カウンセリングや禁煙指導も導入割
合が多かった。13%の病院では、病院薬局にてハーブ(薬用植物)類あるいはサプリメント(栄養補助食品)が提供されてい
た。なお、病院でのマッサージ療法は、ペイン・コントロールを目的として提供されている場合が多いと報告されている。
CAM を提供している主な理由として病院が指摘したのは、①患者からの需要(83%)、②組織としての使命(69%)、③臨
床における有効性(61%)、④新しい患者を引き寄せるため(58%)などであった。
補 完 ・ 代 替 医 療 と 統 合 医 療 : 施 設 の 名 称 に 関 し て 、 AHA に よ る 調 査 で は 、 72 % の 病 院 が 「 相 補 ( 補 完 ) 医 療
(Complementary Medicine)」という表現を選び、18%が「統合医療(Integrative Medicine)」を使っていることが示された。これ
は、90 年代以降、米国において頻繁に用いられてきた「代替医療(Alternative Medicine)」という言葉が、現代西洋医学とは
別の「もう一つの医療」として、ネガティブなニュアンスを含むこともあるという理由であろう。ちなみに欧州では、従来から
「Complementary Medicine」「Complementary Therapy」という表現が利用されている。
CAM を提供している病院において、CAM医療費の支払い(病院側の収入)の内訳で最も多いのは、患者自身の自己負
担であった。一方、栄養カウンセリング(56%)やカイロプラクティック(49%)、バイオフィードバック(54%)は、第三者による支払い、
つまり医療保険によるカバー率が高いと報告された。さらに、無料もしくは篤志家・慈善家による提供が多いとされたのは、
聖職者によるカウンセリング(52%)や音楽・芸術療法(50%)、セラピューティック・タッチ(35%)であった。
さて、CAM の提供を開始するに際しての費用も調査された。それによると、75%の病院では CAM 開設費用が 20 万ドル
以下であった。しかし、5%の病院は、50 万ドル以上の費用を投じたという。そして、49%の病院が 15 万ドル以下の収入を
見積もっていた。開設後の CAM の運営状況では、①40%の病院が赤字、②32%が収支均衡と報告されている。CAM に
関して赤字の病院のうち、15%は、将来も収支均衡になるとは考えていない、と回答した。
なお、5%の病院は、かつて CAM を提供していたが、現在は中止していると回答した。中止した理由は、①財務上の問題
(49%)、②医療スタッフによるサポートの欠如(40%)、③収支均衡を達成できなかった(34%)、④地域社会からの関心がなかっ
た(34%)である。
一方、現在は CAM を提供していないが、将来提供できるように計画していると回答した病院が 171 病院 (24%)あった。
1.2.3CAM と医療訴訟対策
医療過誤に関して、CAM と現代西洋医学とを比較するとき、一般に、CAM のほうが問題は少ないと考えられる。これは、
対象となる疾患群や病態の相違、施術における侵襲性の相違などに起因する。しかし、医師あるいは病院が CAM を紹介・
提供した結果、有害事象が生じるケースも否定はできない。医事法学分野では、米国においてさえも CAM に関連した医療
訴訟を防ぐためのガイドラインは確立されていない。そのような中で、ハーバード大学のグループが医療過誤に対する検討
6
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
を報告している。
1.2.4NIH における補完・代替医療研究の現状
CAM 研究の推進に関しては、NIH(国立衛生研究所)の NCCAM(国立補完代替医療センター)が中心的役割を果たして
いる。
米国連邦政府は、92 年に OAM(代替医療事務局)を設立し、CAM 研究を開始した。当時の OAM の予算は年間 200 万
ドルであった。その後、研究予算は毎年大きく増加し続けてきた。98 年には議会が OAM を NCCAM(国立補完代替医療セ
ンター)へ格上げした。その年度の予算は 2000 万ドル近くに達し、NIH の他のセンターや研究所と同等の独立性をもつよう
になった。
90 年代後半における CAM 研究に配分される研究予算の増加率は、NIH 内の他の研究と比べて非常に高率にて推移し
た。設立以来、NCCAM に配分される予算の増加率は、NIH 予算全体の増加率を上回って推移してきた。近年の NCCAM
の予算は、02 年度には 1 億ドルを突破し、続く 03 年度には 1 億 1410 万ドル、04 年度には 1 億 1770 万ドルが計上された。
05 年度には 1 億 2110 万ドルの予算が計画されている。
OAM が NCCAM へ格上げされたことは、CAM 研究に関して、NIH の他のセンターや研究所と同様の高い研究水準が要
求されることを意味する。また、センターへの格上げによって、NCCAM は個別の研究申請を審査し、独自のグラント(研究費)
を割り当てる権限をもつことになった。さらに NCCAM は、NIH 内の他の研究所やセンターと共同で研究を進めることも始めて
いる。例えば、NCI に OCCAM(Office of Cancer Complementary and Alternative Medicine)が設置されており、癌関連 CAM
研究に NCCAM 全体を上回る予算が配分されている。そして、近年、Integrative oncology という分野が注目されている。
1.2.5 個別の研究機関における取り組み
①コロンビア大学・補完代替医療センター
コロンビア大学の Rosenthal Center for Alternative/Complementary Medicine 。Kronenberg が director を務める。
Botanical Medicine および Integrative Pain のコースを毎年開催。
②アリゾナ大学
アリゾナ大学には統合医療の提唱者の一人、Weil による学部が設置されている。
③テキサス大学 MD アンダーソン癌センター
MD アンダーソンによる Complementary/Integrative Medicine 部門。統合医療腫瘍学における研究・教育の中心の 1 つ。
④メモリアル・スローン・ケタリング癌センター 統合医療サービス
1999 年に Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, Integrative Medicine Service として設立された。Cassileth が
director を務める。
⑤スクリプスクリニック
スクリプスクリニックは Scripps Center for Integrative Medicine を有しており、Guarneri らが中心的な役割を担っている。
⑥ニューメキシコ大学 Section of Integrative Medicine
2001 年より開始された統合医療プログラム。SIMPLE(Symposium of Integrative Medicine Professionals in the Land of
Enchantment)というシンポジウムを隔年開催。
⑦メリーランド大学
メリーランド大学は、the Center for Integrative Medicine を設立している。家庭医学を専門とする Brian Berman が
director を務めている。
1.2.6 学術集会の現状
7
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
北米では、90 年代に CAM を研究対象として開始された学会やカンファレンスが、2000 年以降、少し変化してきた。具体
的には、「CAM」あるいは「Alternative」という語が使われなくなり、新たに「Integrative(Integrated) Medicine」あるいは
「Complementary therapies」をテーマ名として取り上げるようになったのである。現在、米国およびカナダでは、統合医療に
関連して、「integrative medicine」「integrated medicine」「integrative health care」「multidisciplinary care」といった名称を冠
したプログラムや医療施設が存在する。
一般に、欧州では「complementary therapy」という表現が利用されてきたのに対して、米国では alternative medicine という
表現が用いられてきた。しかし、「alternative」は「もう一つの」「別の」という語義をもっているため、alternative medicine では
「conventional medicine」と対立する概念になる。したがって、米国では alternative medicine という単語は(少なくとも学術の
場では)否定的に使われることが多い。(ただし、略語としての「CAM」という表現は利用される。)
90 年代の米国において、CAM を研究テーマとする学会や研究会、シンポジウムは、ごく限られた医師や研究者の所属
する大学や研究機関によって開催されてきた。これが昨今では、いわゆる現代西洋医学を代表する大学や研究機関によ
って、CAM/IM を対象とする学会やカンファレンスが開催されるようになった。例えば専門分野として「Society for
Integrative Oncology(SIO)」が組織され、2004 年にニューヨークにおいて第 1 回統合腫瘍学国際カンファレンスが開催され
た。SIO の主要なメンバーは、ハーバード大学、テキサス大学 MD アンダーソン癌センター、メモリアル・スローン・ケタリング
癌センターといった現代西洋医学の腫瘍学における代表的な機関に属している。
さらに、国立癌センター(NCI)には補完代替医療事務局 OCCAM(Office of Cancer Complementary and Alternative
Medicine)が設置されており、年間1億2千万ドル以上の研究費が、腫瘍学分野における代替医療研究に配分されている。
その他、個別の CAM に関して、北米には多数の研究機関や施術施設が存在する。特に、栄養療法やサプリメントに関して
は、特異な仮説に基づく施術機関がみられるが、科学的根拠は必ずしも十分とはいえない。
1.2.7 統合医療の定義
統合医療に関して、提唱者の一人である University of Arizona の Weil らによる次のような定義がある。
Integrative medicine is healing-oriented medicine that takes account of the whole person (body, mind, and spirit),
including all aspects of lifestyle. It emphasizes the therapeutic relationship and makes use of all appropriate therapies,
both conventional and alternative.
なお、統合医療に対する捉え方や定義に関しては、それぞれの医師や研究者個人によって異なるのが現状である。
1.2.8 統合医療の教育
医師に対する統合医療の教育プログラムとしては、Weil らによる Program in Integrative Medicine(PIM)がよく知られてい
る。PIM の使命は「to lead the transformation of healthcare by creating, educating, and actively supporting a community of
professionals who embody the philosophy and practice of Integrative Medicine」であるという。
PIM の教育プログラムとして、Residential Fellowship、Associate Fellowship、Medical Student & Resident Electives 等が
実施されている。
現時点において、統合医療の教育システムでは、この PIM が最も充実している。これ以外には、統合医療や代替医療を
テーマとする学会やカンファレンスが全米各地で開催されており、米国登録医師の場合、参加することによって米国医師会
(AMA)認定の卒後教育クレジットが取得できる。
1.2.9 統合医療の臨床
ここ数年、米国では統合医療を標榜する医療機関が急増している。現状では玉石混淆であり、今後、淘汰が進むと考え
られる。本稿では、現代西洋医学の主要な大学や研究機関・病院に併設されている統合医療の臨床施設を列挙する。
Center for Integrative Medicine, University of Maryland
The Continuum Center for Health and Healing, New York Beth Israel Hospital
Integrative Medicine Service, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center
8
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
Jefferson-Myrna Brind Center for Integrative Medicine, Thomas Jefferson University
the Leonard P. Zakim Center for Integrated Therapies, Harvard Medical School
the Osher Center for Integrative Medicine, University of California, San Francisco
The Scripps Center for Integrative Medicine
The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center
この他にも、多くの施設で統合医療の臨床が試みられている。
1.2.10 アカデミック・コンソーシアム
The Consortium of Academic Health Centers for Integrative Medicine というメディカルスクールのコンソーシアムが統合
医療の推進を目的に設立されている。これには、全米 125 校のメディカルスクールのうち、27 大学が参加している。なお、
参加にはその大学の Dean の推薦が必要である。また、統合医療の教育・臨床・研究の 3 つのうち、2 つ以上のプログラムを
実施していること等が条件となる。
現在、参加大学は教育・臨床・研究のそれぞれに関して Committees/working groups を組織し、活動している。
■ 2.欧州等の現状
2.1 欧州における CAM/IM 研究
英国では、エクセター大学の Ernst らのグループが、代替医療の方法論に関する議論を行い、各療法に対するレビュー
論文を数多く発表してきた。エクセター大学は、学会・シンポジウムを毎年開催しており、鍼灸、ハーブ、評価法といったテ
ーマを取り上げている。また、2000 年には英国上院の科学技術委員会が CAM の報告書を発表した。その他、チャールズ
皇太子の働きかけによって「The Prince of Wales’s Foundation for Integrated Health」が統合医療(Integrated Medicine)推
進のために設立され、情報提供や研究推進を行っている。
ドイツでは、Technische Universität München の Melchart が CAM の研究者として知られている。
ノ ル ウ ェ イ で は 、 University of Tromso に The National Research Center in Complementary and Alternative
Medicine(NAFKAM)が設立されており、CAM/IM の研究を推進している。NAFKAM は、中国との共同研究プロジェクトも有
している。
以上の他、個別の CAM に関して、欧州には多数の研究機関や施術施設が存在する。
2.2 WHO における CAM 研究
UN の WHO は、それまでの報告書を改訂増補した「National policy on traditional medicine and regulation of herbal
medicines」を 2005 年 5 月に発行した。これは、WHO の global survey の結果をまとめた報告書である。
WHO では、ジュネーブ本部に伝統医療の部門を設置し、研究を推進している。
■ 3.統合医療・相補代替医療関連学会およびジャーナル
3.1 統合医療・相補代替医療関連専門誌
ISI 社(Institute for Scientific Information, http://www.isinet.com/)発行の JCR(Journal Citation Reports)には、Subject
Categories として「Integrative & Complementary Medicine」がある。このカテゴリーには、現在、次の 8 誌が含まれる。
①Acupuncture & Electro-Therapeutics
米国の Cognizant Communication Corp が年 3 号発刊する英文誌。インパクトファクター(IF)は 0.341。
②Alternative Therapies in Health and Medicine
米国の Innovision Communications が年 6 号発刊する英文誌。IF は 0.971。
http://www.alternative-therapies.com/at/staticpages/static.jsp?pagename=HOME
9
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
③Altex-Alternativen Zu Tierexperimenten
ドイツの Spektrum Akademischer Verlag が年 4 号発刊する複数言語による専門誌。IF は 0.446。
④American Journal of Chinese Medicine
シンガポールの World Scientific Publ Co Pte Ltd が年 3 号発刊する英文誌。IF は 0.593。
⑤Complementary Therapies in Medicine
スコットランドの Churchill Livingstone が年 4 号発刊する英文誌。IF は 1.317。
⑥Forschende Komplementarmedizin Und Klassische Naturheilkunde
ドイツの Karger が年 6 号発刊する複数言語による専門誌。IF は 0.485。
⑦Journal of Alternative and Complementary Medicine
米国の Mary Ann Liebert Inc が年 6 号発刊する英文誌。IF は 1.401。
⑧Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics
米国の MOSBY, INC が年 9 号発刊する英文誌。IF は 0.786。
その他、関連領域として下記のジャーナルがある。
・ FACT: Focus on Alternative and Complementary Therapies
Ernst らのグループによって Pharmaceutical Press から年 4 号発刊される英文誌。
・ Journal of Ethnopharmacology
アイルランドの Elsevier Science Ireland ltd が年 12 号発刊する英文誌。IF は 1.420。
なお、 Subject Categories は Plant Sciences である。
以上の他、Complementary/Integrative の名を冠したジャーナルが散見されるようになった。ただし、それらの中には既に刊
行中止となったものもある。現時点で刊行されているジャーナルの一部として、例えば次のものがある。
・
Alternative & Complementary Therapies. (Mary Ann Liebert Inc)
・
Complementary Health Practice Review. (Sage)
・
Integrative Cancer Therapies. (Sage)
・
Journal of the Society for Integrative Oncology (Decker)
■ 4.統合医療/代替医療の課題
4.1 統合医療の課題
統合医療の実践に際しては、伝統医療や代替医療を科学的に評価した上で、科学的根拠に基づく診療ガイドラインの
作成が必要である。ただし、統合医療の理念は、テイラーメードによる全人的医療であり、現代西洋医学にみられるような
「標準化」は困難と感じられる。そこで、統合医療の理念に基づいた EBM の実践には、患者の病態や価値観・行動を考慮
しつつ、医療従事者の専門技能を発揮させるための指針の提供が望まれる。
現時点では、EBM による統合医療の実践は容易ではない。その理由は、現在の代替医療/統合医療研究が「科学的根拠
を構築する段階」にあるためである。科学的根拠を臨床に応用する際、一般に、次のような段階がある。(1)科学的根拠の構
築、(2)科学的根拠の収集と評価、(3)科学的根拠の提供、(4)科学的根拠に基づく統合医療の実践の 4 つの段階である。
今日、統合医療に求められているのは、代替医療を科学的に評価するために検証法を確立し、科学的根拠の構築を推
進することであろう。なお、現代西洋医学では、大規模なランダム化比較試験(RCT)が「ゴールド・スタンダード」と考えられ
ている。一方、代替医療/統合医療を対象にする研究では、RCT という方法が必ずしも適切とは限らない。新たな評価手法
を開発・応用することも重要であろう。
4.2 CAM/IM における研究手法の検討
10
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
CAM/IM は、カバーする医療が多岐にわたるため、個々の医療に関して適切な評価手法を確立する必要がある。
RCT は定量的研究手法であるのに対して、CAM/IM では、定性的研究法の重要性も考えられる。
定性的研究としては、各種の症例研究がある。
4.3 「統合」の段階
統合医療の推進において、「統合」には、①研究、②治療、③診断、④理論の四つの段階がある。そして、この四段階は、
この順に困難と考えられる。つまり、漢方薬や鍼灸に関して、基礎研究や RCT といった①研究の段階は、ある程度計画さ
れやすい。また、②治療に関して、癌の化学療法に伴う副作用軽減を目的とした鍼治療といった統合の段階は既に実践さ
れている。しかし、③診断や④理論の段階では、漢方や中国伝統医学といった伝統医療の体系、還元主義を基盤とする現
代西洋医学、独自の考えに基づくホメオパシー等の CAM について、「統合」の過程は容易ではないかもしれない。
米国では、腫瘍学分野での統合医療は、治療の段階での統合に達しているといえるだろう。つまり、ハーバードや MD ア
ンダーソン、メモリアルスローンケタリング癌センターにおいて、(TCM の)鍼治療はすでに選択肢の一つとして利用されてい
る。一方、理論の段階で議論が生じるエネルギー療法の場合では、研究者での意見も分かれている。例えばホメオパシー
に関しては、米国の著名な癌センターの統合医療部門におけるディレクターが完全に否定する一方、NCI の OCCAM では
ベストケースシリーズのひとつとしてインドからのホメオパシー症例をフォローアップしている。
諸外国では、「統合」の段階はさまざまであり、統合医療の理念についても多くの異なる考え方がある。プラグマティックに
CAM の一部を取り入れたケースもあれば、スピリチュアルな面を強調するケースも見られる。米国内でも、例えば、東部の
ボストン・ニューヨーク・ワシントン DC 周辺の研究機関、南部や中西部における医療機関、西海岸・カリフォルニア州等での
病院・医療機関のそれぞれにおける統合医療の捕らえ方には大きな違いがあるといえる。各医師、医療従事者、研究者の
間では、さらに異なる考えが存在する。
4.4 EBM と NBM
EBM は、臨床疫学と一般診療の架橋を目指す医療の方法論といえる。
一方、NBM(Narrative Based Medicine)という考え方が、英国における EBM の研究者でもある一般診療医の中から生じてき
た。NBM は、近年の医学・医療界において強調されてきた「科学的根拠」「統計」「客観性」に対する補完的な意味をもつ考
えである。
NBM の研究法として、対話分析や事例研究などを含む、広義の定性的研究・質的研究の手法が考えられる。
4.5 おわりに
現在、欧米では「代替医療(CAM)」に代わって、「統合医療(IM)」を標榜する研究教育機関が急増している。これまでの
「現代西洋医学と代替医療」という構図から、「統合医療」の研究・教育・臨床の推進へと急速にシフトしつつあるといえるだ
ろう。ただし、これらの動きは、「統合」の四つの段階では、①研究や②治療のレベルにあり、③診断や④理論における「統
合」は今後の課題である。
統合医療は、「全人的医療」を目指す「個別化医療」であり、現代西洋医学と代替医療の単なる集合体ではない。近年、統
合医療の理念は確立されつつあるが、教育・臨床・研究の拡充はこれからの課題といえる。研究では、RCT による EBM の
確立に加えて、NBM の研究に見られる定性的研究手法の応用についても検討が必要と考えられる。
■ 文献
1.
Eisenberg DM el al:Trends in alternative medicine use in the United States, 1990-1997: results of a follow-up
national survey. JAMA280:1569-1575, 1998.
2.
蒲原聖可:代替医療,中央公論新社, pp152-161, 2002.
3.
Barnes PM, Powell-Griner E, McFann K, Nahin RL.:Complementary and alternative medicine use among adults:
11
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
United States, 2002. Adv Data. 2004; 343:1-19.
4.
蒲原聖可、渥美和彦:「米国における補完・代替医療の現状」、日本医師会、『日本医師会雑誌』2004 年 11 月 1 日号、
第132巻・第9号、1095-1099。
5.
Eisenberg DM, Cohen MH, Hrbek A, Grayzel J, Van Rompay MI, Cooper RA. Credentialing complementary and
alternative medical providers.
Ann Intern Med. 2002 Dec 17;137(12):965-73.
6.
http://www.hospitalconnect.com/
7.
蒲原聖可:「米国における相補・代替医療の動向」.医学書院『病院』2004 年 5 月号 第 63 巻第 5 号 p390-393.
8.
Cohen MH, Eisenberg DM. Potential physician malpractice liability associated with complementary and integrative
medical therapies. Ann Intern Med. 2002 Apr 16;136(8):596-603.
9.
http://www.imconsortium.org/html/about.php
10. http://www.integrativemedicine.arizona.edu/
12
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
2. 健康食品のバイオマーカーに関する研究
■ 2.1.背景と目的
日本における生活習慣病(がん,糖尿病,脳・心臓血管障害など)は増加傾向にある(図1)。それら疾病の発症予防をテ
ーマとするプロジェクトは日本だけでなく欧米諸国の重要研究課題のひとつにあげられている。国民の健康や病気予防の
意識が高まるにつれて,関心は,食生活を工夫することにより健康を保持することに移ってきている。古来の「医食同源」に
はじまる中国の思想は,近年における「機能性食品科学」というサイエンスとして発展しようとしている。以前より,伝統的な
食品素材のもつ疾病予防効果は注目を浴びてはいたが,食品のもつ疾病予防効果を,「食品機能」としてとらえ,これを科
学的に明らかにするための研究開発に力を注いできた。厚生労働省による「特定保健用食品」の制度化は,日本の食品研
究が世界の先頭を切り開いてきた証であろう。
厚生労働省が健康維持増進の効能を認め、表示を認可した「特定保健用食品」の市場は急拡大し、企業による新規の
健康食品開発も盛んに行われている。2006 年 4 月 17 日現在、特定保健用食品の品目は 583 にまで増加し、適応分野も
整腸剤から、高脂血症、糖尿病、高血圧、齲歯、骨粗鬆症等の分野への拡大が見られ、この約1年間で 100 品目以上が増
加している(表1)。
現在の機能性食品科学の課題は,より確かなエビデンスを食品に与えるための基礎的研究の充実であると考えられる。
とくに食品あるいは食品由来成分の機能性を現在の科学的手法により証明し,その機能性・安全性に対する確実なる証拠
を得ることはきわめて重要である。すなわち,食品成分の機能の指標を得るために,生体の遺伝子,タンパク質,酵素,代
謝物などの分子をバイオマーカーとして,特定の病気のリスクを低減させる食品の機能の指標として活用し,その食品の健
康強調表示の信憑性を高めることに役立てようということである。
これら、安心して摂取できる健康食品を提供するためには、科学的な根拠に基づいた
図1 我が国における年齢調整死亡率の推移(1985 年における人口分布に調整した人口 10 万人あたりの死亡率)
13
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表1 特定保健用食品の効能(財団法人日本健康・栄養食品協会ホームページより)
開発と評価が行われる必要があるが、残念ながら現時点では、健康食品の健康増進効能及び安全性を評価するための
適切な方法論は、世界的に見ても存在していないのが実情である。
本研究の目的は、健康食品による代替医療の評価手法の有効性・適用範囲を検討することにあり、健康食品による代替
医療の科学的評価手法の確立とその予防医学普及の社会システムを新たに構築することにある。
■ 2.2 我が国と諸外国における健康食品のバイオマーカーの現状分析旨
2.2.1 健康食品の評価指標
生活習慣病予防を目的とした健康食品を開発するためには,疾病発症前段階いわゆる「未病期」を診断することが必要
であり,この未病期を診断できるバイオマーカーを用いた診断手法の確立が急がれている(図2)。バイオマーカーの探索と
して注目をあびている研究手法が,血液・尿などの体液を試料としたゲノミクス・プロテオーム解析である。最近,食品機能
性を評価するための新しい研究手法として,ゲノミクス・プロテオミクス解析が急速に普及してきている。
■ 2.2.健康食品のバイオマーカーの現状
2.2.2 ニュートリゲノミクス
健康食品、機能性食品の基礎研究は生理機能効果の解明であり、更に安全性の事前予測、標的機能・生体応答マー
カーの解明、機能性食品の開発(スクリーニング)である。この研究に手法として注目されるのがニュートリゲノミクスである。
Nutrition(栄養)+Genomics(遺伝学)である。機能性食品の効果を遺伝子情報を利用して測定しようとする考え方である。
世界で最初のニュートリゲノミクスの研究発表は「カロリー制限によって老化を遅らせる」研究であった。老化に係わる各種
遺伝子の変化を抑えることで説明できた。カロリー制限によるストレスシグナルは、PNC1 遺伝子発現を活性化させ、Sir2 阻
害物質であるニコチンアミドを細胞から除去する。さらに、細胞内ミトコンドリアによるエネルギー生産を促し、NADH を NAD
に変換する。NAD には Sir2 の酵素作用を活性化する作用がある。このようにカロリー制限は、二つの経路を介して Sir2 酵
素活性化に関与している。興味深い点は、赤ワインに含まれるレスベラトロールである。レスベラトロールには抗酸化作用が
以前から報告され、動脈硬化性疾患予防の期待があったが、レスベラトロールを投与されたショウジョウバエは好きなだけ
食べていても長生きする。しかも、その効果が見られるのは、SIR2 遺伝子が存在するときだけである。
14
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
酵母の SIR2 遺伝子に相当する哺乳動物の遺伝子は SIRT1 で、Sirt1 というタンパク質をつくる。この Sirt1 酵素もカロリー
制限下で健康を増進し寿命を延ばすしくみにかかわっていることが解明されつつある。
2005 年 12 月 6 日〜9 日、シンガポールにおいて第1回 ILSI ニュートリゲノミクス国際会議が開催された。その会議の目
的は、1)nutrigenomics 科学とその研究の現状を概観する、2)国民の健康改善のための nutrigenomics のもつ役割とその
利用の可能性を理解する、3)目標とされる集団に対し食物供給を改善する機会を特定する、4)nutrigenomics の研究と応
用における安全性問題と倫理的問題を討議する、5)今後の研究に対しアジア地域における知識の差を特定する、となっ
ている。参考までに会議での主な内容を表2に示した。
さて、わが国では東京大学大学院農学生命科学研究科に 31 の食品会社が共同出資で 2003 年 12 月、寄付講座「機能
性食品ゲノミクス」を開設されている。現在、DNA マイクロアレイによる研究が盛んに行われている。
図2 未病診断と疾病予防マーカーの同定
表2 第1回ILSIニュートリゲノミクス国際会議
2.2.3 抗酸化食品のバイオマーカー
例えば、バイオマーカーとは言えないが、イチョウ葉抽出エキスや赤ワイン、カテキンなどの抗酸化物質を摂取した後のヒ
ト血清中 total antioxidant capacity (TAC)を定量する方法が、欧州で実施されている。イチョウ(Ginkgo bi1oba,銀杏)は、古
くは 5,000 年も前から中国の漢方で主に喘息や気管支炎の治療に利用されていたが、イチョウ葉抽出物が近年、臨床応用
されてその有用性が報告されてきている。ドイツやフランスでは、イチョウ葉抽出物はサプリメントではなく医薬品として最も
広く使用されているものの 1 つとなっている。抽出物は活性成分を濃縮したもので、最も広く使用されているのが EGb761 で
15
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
あり、24%のフラボノイド配糖体約 30 種類と 6%のテルペノイドからなっている。このイチョウ葉抽出物(以下 EGb761)について
は、様々な薬理作用が報告されてきており、フリーラジカル消去剤としての抗酸化能を始め、血管壁への作用や血小板活
性化因子への抑制作用、血流や循環に対する影響、神経伝達物質への影響などが報告されている。また、これらの基礎
的研究のみならず臨床においても、ヨーロッパを中心に主に脳血管障害の自覚症状の改善に用いられており、良好な成
績が報告されている。最近では、中枢神経障害に対する二重盲検比較試験が多数報告されており、これらはすべてプラセ
ボを対照とした二重盲検試験でその信頼性は高い。記憶障害に対する検討は、自覚症状の改善による評価ではなくより客
観性の高い種々の心理検査や電気生理学的検査により評価されており、十分に評価に値するものである。また、痴呆症状
に関する 2 件の大規模比較試験の結果は極めて興味深い。近年多くの疾患にフリーラジカルと脂質過酸化反応の関与が
示されており,EGb761 に極めて強いフリーラジカル消去作用が認められることから、それらフリーラジカル関連疾患への応
用が考えられる。とくに,EGb761 はヒト中枢神経系に対する効果が確認されており、今後は痴呆や脳梗塞などの疾患を対
象とした使用に限らず広く「抗加齢」を標的としたサプリメントとしての使用が増加するものと考えられる。しかし、そのような
場合でもその科学的なエビデンスが強く求められていくであろう
プロテオミクス解析を食品の機能性評価に応用しようとする試みも盛んである。多くの生活習慣病の病因・増悪因子とし
て酸化ストレスの関与が明らかとなるにつれ、酸化ストレスにより特異的に修飾される生体内成分(核酸、DNA、タンパク質
など)をバイオマーカーとして食品の機能性を評価しようとするものである。酸化傷害に対する生体の防御は完璧とはいか
ず、多少の生体成分の酸化的傷害を伴うため、こうした生体成分の酸化生成物を酸化ストレスのマーカーとすることが一般
的であり、臨床検体を用いた検討が開始されている(表3)。脂質の酸化的傷害の指標である脂質過酸化物、マロンジアル
デヒド、4-ヒドロキシノネナール、アラキドン酸のフリーラジカル酸化生成物のイソプロスタン、DNA 酸化的傷害の 8-ヒドロキ
シデオキシグアノシン(8-OHdG)、チミングリコール、タンパク質ならびにアミノ酸の酸化生成物の蛋白カルボニル、ヒドロキ
シロイシン、ヒドロバリン、ニトロチロシンなど多くのマーカーが提唱されている。特に脂質過酸化物については比較的初期
より臨床検体を用いた検討がなされ、その測定法についても改良がなされてきた。最近では、脂質過酸化物そのものでは
なく、核酸や蛋白質との反応により形成される付加体を生体内酸化ストレスマーカーとして用いる研究が積極的に行われて
いる。とくに脂質過酸化物のなかでも反応性アルデヒドが注目されその蛋白質付加体に対するモノクローナル抗体などによ
り、病態モデルにおける酸化ストレスマーカーとしての有用性が報告されている。なかでも n-6 多価不飽和脂肪酸から生成
される 4-ヒドロキシ-2-ノネナール(HNE)については多くの結果が報告されている。HNE はミカエル反応後環化し蛋白質の
アミノ酸のリジン、システイン、あるいはヒスチジンを付加して HNE 修飾蛋白を形成する。HNE 修飾蛋白はプロテアーゼなど
による消化を受けにくく、組織に沈着し細胞毒性を発揮するために、脂質過酸化反応のよい指標と考えられている。
8-OHdG は DNA の酸化生成物として知られているが、最近になりモノクローナル抗体の作製、ELISA キットへの応用がなさ
れ、多数検体に応用した臨床研究も進んでいる。これら酸化ストレスマーカーを使用するにあたって重要なことは、検討し
ようとする病態がどのような活性酸素が発生して、どのような病態であるのかをよく理解した上で使用することである。
16
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表3 臨床的に有用となる可能性のある酸化ストレスマーカー
脂質
脂質ヒドロペルオキシド
(PCOOH、PEOOH)
マロンジアルデヒド
4-ヒドロキシノネナール
TBA反応物質
LDL
酸化LDL
Lp(a)
酸化Lp(a)
アラキドン酸
アイソプロスタン
核酸
8-ヒドロキシデオキシグアノシン
チミングリコール
アミノ酸、蛋白質
カルボニル蛋白
ヒドロキシロイシン
ニドロキシバリン
ニトロチロシン
生体内成分
α-トコフェロール
アスコルビン酸
酸化型コエンザイムQ10
バイオピリン
オレイン酸、パルミトオレイン酸
チオレドキシン
■ 2.3 健康食品のバイオマーカーの開発
2.3.1 ニュートリゲノミクス
糖尿病の増加に比例して、糖尿病性腎症は近年増加しており,新規に透析をはじめた患者数も慢性腎炎を上回り,第1
位となった。また透析導入後も,ほかの原因による腎不全患者と比較すると,血管疾患の合併率が高く生命予後は明らか
に不良である。そのため,糖尿病性腎症の原因を解明し,有効な治療法を確立することは臨床上重要な課題と考えられる。
糖尿病性腎症の原因としては糸球体過剰濾過,メザンギウム細胞の代謝異常,糖化反応などが考えられるが,近年酸化ス
トレスの亢進が注目されている。
db/db マウス( C57BL/KsJ-db/db マウス)は,先天的に食欲調節ホルモンの一つであるレプチンの受容体機能が障害さ
れており,2型糖尿病のモデルマウスとしてよく知られている。われわれは,この db/db マウスを用いて,カロテノイドの一種
であるアスタキサンチンが糖毒性の軽減作用,およびその合併症である腎症の発症抑制効果があることを報告した。
①腎症の発生抑制:6 週齢からアスタキサンチンを投与した結果,18 週齢時の尿中アルブミンはアスタキサンチン投与
db/db 群が非投与 db/db 群よりも有意に低い値であった。腎糸球体におけるメザンギウム領域の面積比を算出し,組織学
的な検討をしたところ,アスタキサンチン投与 db/db 群が非投与 db/db 群よりも有意に低い値であった。
②組織内濃度の検出:高速液体クロマトグラフィーによるアスタキサンチンの組織内濃度の測定結果では,コントロール食
摂取マウスでは検出限度以下であったのに対して,アスタキサンチン摂取群では平均 29.4µg/g tissue と,摂取したアスタキ
サンチンが確実に腎臓に到達していることが明らかとなった。
③酸化ストレスの軽減:DNA 酸化傷害のバイオマーカーとして 8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)の尿中濃度を測定し
たが,尿中 8-OHdG は 18 週齢時でアスタキサンチン投与 db/db 群が非投与 db/db 群よりも有意に低い値であった。
17
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
アスタキサンチンによる酸化ストレスの軽減が腎症進展を抑制したことも示唆されたので,その作用メカニズムの解明,標
的遺伝子群を確認するため,糸球体細胞で発現する遺伝子を網羅的に解析した。標的とする糸球体細胞は腎における占
拠体積が少ないため,選択的に RNA を得る方法としてレーザー顕微鏡を応用したマイクロダイセクション法を用いた。腎凍
結切片をレーザー顕微鏡観察下に糸球体細胞を選択的に採取し,RNA を得たのちに,を Eukaryotic Small Sample Target
Labeling Assay,定量的 RT 増幅法により cRNA を得た。そして通常の断片化,ハイブリダイゼーションをおこない,
GeneChip スキャナーにより mRNA 発現量を定量した。22,690 プローブを載せた Mouse Expression Set 430 A Chip で解析
した結果,989 プローブが 1.5 倍以上変動しており,腎症によって 649 プローブが発現亢進,340 プローブが発現低下を示
した。発現が亢進した 649 プローブ中 588 は,アスタキサンチン投与により発現が低下しており,発現の低下した 340 プロ
ーブ中 198 は,アスタキサンチンにより発現が増加していた。対照マウスである db/m との比較で発現の亢進した遺伝子群
のシグナル伝達経路を Ingenuity Pathway Analysis で検討した結果,図3に示すような経路が有意に変動していることが明
らかとなった。このミトコンドリア酸化的リン酸化反応に関わる遺伝子群はアスタキサンチン投与によってそれらの多くが発現
低下していた。酸化ストレス関連遺伝子群やサイトカイン遺伝子群の発現を抑制することにより,アスタキサンチンは高血糖
に対するメザンギウム細胞応答を抑制し,腎症発症抑制に関与していると考えられた。
図3 糖尿病マウス(db/db マウス)で発現亢進が観察された遺伝子パスウェイ
このように,マイクロダイセクション法で得た組織の GeneChip 解析手法は,in vivo における食品因子の機能性をスクリーニ
ングする手法としてきわめて優れており,今後,新しい研究分野(ニュートリゲノミクス)の発展に寄与できるものと考えている。
DNA マイクロアレイ技術は,ニュートリゲノミクス研究における重要な基盤技術の一つであり,今後,機能性食品成分がど
のようにして転写調節をおこなっているかを詳細に解析することが研究の焦点になるだろう。酸化ストレスや鉄代謝などに重
要な役割を果たしているヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の転写調節には ARE(antioxidant response element)の存在が重
要であり,ARE に結合する転写因子もいくつか解明されてきている。抗酸化作用が強いクルクミンにはこの経路を介した
HO-1 誘導作用があることも報告されている。
いずれにしても,網羅的遺伝子解析手法を用いた健康食品あるいは食品成分の機能性解明は,もっともホットな研究分
野であり,今後,新たな機能性食品のスクリーニング用 GeneChip なども開発されていくのではないかと考える。網羅的遺伝
子解析手法は,最近話題となっている食品の安全性評価に役立つツールとしても利用できるようであり,今後も食品研究に
寄与することが期待される。
18
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
■ 2.4 血清プロテオミクス
体液とくに血清のタンパク質を解析して、生活習慣病の発症前試料を用いたバイオマーカー探索研究が始まっている。
われわれは、ヒト疾病予防マーカーを確定する前に、動物疾病予防マーカーの同定を実施することに決めた。これには以
下のような理由がある。まず、(1)動物疾病モデルはヒトの場合と異なり、比較的短期間で正常状態、未病期、疾病の発症
まで追跡することが可能である。例えば、OLETF ラットはヒト2型糖尿病モデルとして有用であり、肥満期、耐糖能異常期、
糖尿病発症初期、進行期を約1年の経過でそのバイオマーカーを探索することができる。(2)ヒトの遺伝的背景は不均一で
あり、統計学的に有意な実験結果を得るためには、大規模な例数を確保する必要があるのに対し、疾病動物モデルでは、
遺伝的背景が均一であり、比較的少数の例数で解析が可能である。(3)動物疾病モデルにおいて疾病予防効果が立証さ
れた機能性食品をツールとして、疾病予防マーカーの同定に利用できること。OLETF ラットの血清中には糖尿病発症前
に増加あるいは低下するタンパク質が極めて多く存在することが予想されるが、介入試験による有効性が立証された健康
食品、機能性食品を用いて、その介入によって増加していたものが低下する、あるいは低下していたものが増加するような
タンパク質をしぼることができる。ただし、本アプローチでは、動物疾病予防マーカーと異なるヒト疾病予防マーカーについ
ては同定から漏れ落ちるリスクの存在を留意しておく必要がある。
疾病予防マーカーのスクリーニングは、(1)正常群、(2)疾病発症高リスク群(ヒトの未病期に相当)、(3)機能性食品摂
取の疾病発症高リスク群の3群比較で、疾病発症リスク増大とともに存在量が変動し、機能性食品摂取によりその変動が抑
制される体液試料中のタンパク質・ペプチドピークを探索し、疾病予防マーカーを同定する。この際、疾病予防効果が確認
されたツールとしての機能性食品を利用することにより、予防に連動しない疾病発症リスクマーカーを疾病予防マーカーか
ら排除することが可能になる。
体液試料中のタンパク質・ペプチドを網羅的に解析する手法として、質量分析法のひとつである SELDI-TOF-MS 技術
は 極 め て 有 用 で あ る . い わ ゆ る 「 プ ロ テ イ ン チ ッ プ シ ス テ ム 」 で あ る 。 SELDI は Surface Enhanced Laser
Desorption/Ionization の略で、チップ表面の官能基に目的物質を均一に捕捉したまま不純物を除去し、レーザー光でイオ
ン化するので、再現性のある S/N 比の高いイオンスペクトルが得られる。本技術は、タンパク質の発現、相互作用、翻訳後
修飾などの機能解析や、目的タンパク質の精製・同定などを効率的に行うことを目的に開発されたシステムであり、サイファ
ージェン社により開発されたものである。プロテインチップシステムは、タンパク質解析に適した様々な化学的性質を表面に
持たせたプロテインチップと、測定に用いられるプロテインチップリーダー(PBS-II=飛行時間型質量分析計)及び、測定・
解析に使用するソフトウエアをインストールしたコンピューターから構成されている。ラベルやタグを使わずに、チップ上で簡
便にタンパク質の解析ができ、少量のサンプルから短時間に高分解能、高感度の解析が可能であり、定量性も確保されて
いる。われわれは、前処置を含めてロボットによるシステムを構築しており(図3,4)、MS にかけるチップ上で分画する技術
と組み合わせ、最近になり糖尿病などを中心にいくつかの血清中バイオマーカーとしてのタンパク質を発見している。
一般的には、バイオマーカー候補分子を探索するには、以下のような手順で行った。
① 1次評価として対照群間で発現プロファイルを比較検討する。
発現解析実験の一般的手順は手作業ではなく、試料分画、試料添加、アッセイなどをロボットを導入して行い、実験時
間の効率化および実験精度の向上に努めている。
② 次に、多検体を用いて、候補分子の評価を行う。
③ スピンカラムや従来のカラムクロマトグラフィー、電気泳動とプロテインチップを組み合わせて精製を行う。
④ ゲル内プロテアーゼ消化によるペプチドマッピング、あるいは MS/MS やエドマン分解による候補分子の同定を行う。
⑤ 精製・同定されたマーカー候補分子のバイオロジカルな機能評価を行う。
発現解析の段階でより多くのタンパク質をチップ上に保持して比較するために、できるだけ多種のチップ(陰イオン交換、
陽イオン交換、金属修飾、逆相、順相)を用いて性質の異なるタンパク質を捕獲している.複数の洗浄条件(異なる pH、塩
濃度、有機溶媒濃度など)を検討し、チップに親和性のあるタンパク質をできるだけ多数保持できるようにする。サンプル調
整(未変性条件・変性条件、抽出方法や抽出液組成)やサンプルの前分画(ゲル濾過によるサイズフラクション、陰イオン交
換による pI 分画)を綿密に行う試料調整計画を立てることなどが留意点である。
19
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図4 SELDI-TOF-MS によるバイオマーカーの同定
OLETF ラットに対する食品因子Bの有効性の評価
OLETF ラットは糖尿病、糖尿病性腎症を発症することが報告されており、ヒト2型糖尿病実験動物モデルとして知られて
いる。さらに糖尿病を発症しない OLET ラットとの比較検討も可能である。糖尿病発症前から食品因子を投与することにより、
食品による糖尿病発症予防効果を検討するよい実験モデルでもある。一般飼料(CRF-1)を対象として、食品因子Bを 5%添
加した飼料摂取との間で比較試験を実施した。まず、体重変化について検討したが、両群間に有意な差は認められなかっ
た。5週齢より飼育を開始し、4週毎に糖負荷試験を行い耐糖能について検討を行い、その血糖値の負荷前後での変動よ
り、正常、耐糖能障害、糖尿病の診断を行った。33週齢における糖負荷試験の結果を図に示したが、空腹時血糖も食品
因子B摂取群で有意に低値であり、負荷2時間後の血糖も食品因子B摂取群で有意に低値であった。さらに、各週齢にお
ける両群の糖尿病、耐糖能障害の比率からも、対照群では食品因子B摂取群に比較して明らかに耐糖能障害の出現が早
く、糖尿病発症もより早期に認められた。しかし、飼育 37 週には両群ともに食品因子B摂取群の 1 匹を除いて糖尿病を発
症していた。なお、肝臓における脂肪沈着量、尿中アルブミンの排出量は食品因子B摂取により有意に低下していた。
7
A a
6
ˇ
‡
5
4
3
2
0
5-C
5-F
9-C
9-F
13-C
13-F
17-C
17-F
21-C
21-F
25-C
25-F
29-C
29-F
33-C
33-F
37-C
37-F
41-C
41-F
1
図6 OLETF ラットに対する食品因子Bの効果
20
\ Æ Q
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
C は対照群、F は食品因子B摂取群を、数字はラットの週齢を示す。対照群に比較して食品因子B摂取群では、糖尿病
の発症が遅れている。
経時的に得た血清サンプルを用いて、プロテオミクス解析を実施した。21週齢OLETFラットのなかで、対照群で耐糖能
障害を示した4匹と食品因子Bで正常パターンを示した4匹のラット血清を用いて比較解析を実施した。さらに、経時的変動
を考慮して、糖尿病対照群で変動し、食品因子Bによりその変動が抑制される条件から、Up-regulateマーカーを9因子お
よびDown-regulateマーカーを5因子に絞り込み(図7)さらに、タンパク質同定を実施するピークを3つに絞った。その中の1
つはLETOラットに比較してOLETFラットで増加し、食品因子Bにより抑制されていることを確認した。
データマイニング
同一因子由来のピークの重複を精査した後の候補因子数
Up-regulate
9
Down-regulate
5
計14因子を糖尿病において変動し、食品因子 B 摂取により
その変動が抑制されるマーカー候補として絞込
図7 糖尿病予防マーカー候補の絞込み
■ 2.5 健康食品のバイオマーカー開発の手法の確立・ガイドラインの提示
健康食品の機能性を評価するには血清を用いたプロテオーム解析が必須である。ただし、基礎的成績なしにいきなりヒト
血清で解析することは費用効果比が悪いことが予想され、生活習慣病モデル動物から得られた情報の整理が必要であると
考えられる。そこから得られたバイオマーカーの相同タンパク質をヒト血清で確認作業を行う方がより実際的と考える。ラット
やマウスで同定されつつあるバイオマーカーとしてのタンパク質がヒト血清中に存在するものであることも次第に明らかにな
りつつある。
生活習慣病動物モデルとしては多くのものがすでに確立されており、そのような動物を用いて食品因子による介入試験
を行うことにより、疾病予防に関与するバイオマーカーを探索しようとするものである。すでにこの手法で、いくつかの蛋白
質がバイオマーカーとして同定されつつあり、世界的にももっとも競争の激しい分野である。
21
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図8 疾病予防マーカー同定戦略
■ 2.6 新たなバイオマーカー開発手法に関する今後の課題の分析と提言
今後の課題としては、動物実験モデルでのプロテオーム解析の進展によるが、ヒトバイオマーカーの同定には、コホート
研究者との共同研究が重要である。また、機能性を有する食品素材の新たな探索ならびにその評価に必要な疾病予防バ
イオマーカープロテインチップなどの開発も必要である。以下に今後の課題をまとめた。
!
可能な限り多くの生活習慣病動物モデルでのマーカータンパク質を同定すること。
!
食品因子Aの解析から得られた疾患予防バイオマーカーが果たして他の機能性食品、健康食品にも有効であ
るかを検証すること。
!
酸化ストレスマーカーに関する抗体チップの作製を進め、抗酸化作用を有する健康食品、機能性食品因子の
評価に有効であるか検証すること。
!
動物で得られた候補タンパク質のヒト血清相同体を早急に検索すること。
!
バイオマーカーを用いてのヒト臨床試験を実施すること。
22
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
3. ストレス度、リラクセーションならびに QOL の評価に関する研究
■ 背景と目的
アロマセラピー、マッサージ、鍼灸、バイオフィードバックをはじめとする多くの代替療法の特徴として、ストレス軽減、リラ
クセーション、QOL 改善が挙げられる。これらについての個別の評価法は、これまでにもいくつか開発されているが、必ず
しも代替療法の評価に適切なものであるとはいえない。
本研究では、京都府立医大で開発したリラクセーションの程度を評価するための方法と、ストレス度、QOL をあわせて評
価し、同時に生理学的指標(脳波、指尖容積脈波、皮膚電気抵抗、皮膚温度など)や免疫能(NK 活性、サイトカイン測定、
T 細胞サブポピュレーション測定など)との相関をみることにより、さまざまな代替療法の効果の評価法の確立を目指す。
■ 3.1 ストレス度、QOL 評価の現状分析
Vickers が 1997 年に Complementary Therapies in Nursing 誌に発表した総説によると、マッサージやアロマセラピーは非
常に古くから行われている CAM であり、その有効性を主張する研究は非常に多い。しかし、その有効性の根拠を正当に説
明しようとしているものは多くなく、時に引用される科学的な文献も不適切な引用であることがほとんどである。幾人かの研
究者は、個人的な経験に基づいて一般的結論を導こうとしているが、そのような一般化は危険である。また、同一の物質
(エッセンシャル・オイル)について、多くの著者が異なる性質をもつものとして記述していることも、これらの治療法の知識
ベースが貧弱であり信頼性がおけないことを証明していると、指摘している。
山田が 2003 年に“医学のあゆみ”誌に発表した総説によると、2002 年 11 月に PubMed/MEDLINE で“essential oil”をキ
ーワードとすると 3,224 件がヒットするが、“aromatherapy”をキーワードとしてヒットしたものは 241 件のみであった。前者にお
いてはエッセンシャル・オイルの薬理学や行動薬理学的研究結果、in vitro データは相当数参照出来るが、後者の内容は
総説やケーススタディが多い。このように山田は、長い歴史を有する欧米においてすら、evidence-based aromatherapy を構
築するための十分な臨床資料蓄積には至っていないことを指摘している。そして、臨床データベースの構築と、それを基に
患者のアウトカムを向上させるアロマセラピーのガイドラインやクリニカルパスの作成が必要であると提言している。
今西らが“医学のあゆみ”誌に発表した総説によると、アロマセラピーの作用機構には、香りを媒介として中枢神経系に
作用する効果と、エッセンシャル・オイル成分そのものの薬理効果の2つが考えられる。前者の効果は、香り分子が鼻腔内
にある嗅球につながる無数の毛髪状レセプターに結合し、その情報が嗅球から嗅覚神経路を経由して脳の嗅覚中枢に伝
えられることに始まる。そこから、大脳辺縁系につながる一連の連鎖反応が起こり、全身の臓器に影響が及ぶ。大脳辺縁系
のおもな構造の一つに視床下部がある。視床下部が刺激されることにより神経化学物質エンケファリンが分泌され、鎮痛や
気分高揚、抗鬱などの作用がもたらされる。また、視床下部から銹斑にインパルスが到達するとノルアドレナリンが分泌され、
嗜眠や疲労、免疫不全疾患などを改善することができる。さらに、脳下垂体にインパルスが達すると卵巣刺激ホルモンや黄
体ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンが分泌される。
このような嗅覚系を介した作用機構以外に、エッセンシャル・オイルは経皮吸収や口腔、気道粘膜から吸収され、抗菌・
抗ウイルス作用を始め、血圧低下や鎮咳、鎮静、筋肉弛緩、鎮痛、利尿などさまざまな作用を発現する。これらの効果があ
わさって、アロマセラピーの効果が発揮されるのである。
現在、上記のような総合的な効果や QOL の改善を評価するためには、さまざまなものが用いられている。なかでも、SF-36
v2 が、最も適していると考えられる。
SF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)健康調査票は、健康関連 QOL(HRQOL)を測定するための、科学的
な信頼性・妥当性を持つ尺度であり、健康関連 QOL とは、医療評価のための QOL として、個人の健康に由来する事項に
限定した概念として定義されたものである。SF 健康調査票は、米国で作成され、概念構築の段階から心理計量学的な検
定に至るまで十分な検討を経て、現在、50 カ国語以上に翻訳されて国際的に広く使用されている。
健康関連 QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を測定する尺度は、大まかに包括的尺度と疾患特異的尺度に
23
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
分類されるが、SF-36 は前者に位置づけられる。SF-36 は HRQOL という共通した概念で構成されているので、様々な疾患
の健康関連 QOL を測定することができ、疾病の異なる患者の QOL の比較が可能である。また、病気にかかっている人から
一般に健康と言われる人の HRQOL を連続的に測定できるので、患者の健康状態を一般の人と比較することができる。
SF-36 は国民標準値が設定されているので、それを基準にして対象群の健康状態を検討することができる。国民標準値
は、SF-36 マニュアルに性別・年代別のデータが掲載されている。SF-36 による調査結果は、36 項目への回答から決めら
れたスコアリング法に基づき、8つの下位尺度得点(表3)として計算される。また、8下位尺度をもとに、2つのサマリースコ
ア、「身体的健康」と「精神的健康」を算出することができる。ただし、日本語版でサマリースコアを使用する際は注意が必要
である。
表3:SF-36 の8つの下位尺度と得点の解釈
得点の解釈
下位尺度名
英語名
略号
低い
身体機能
Physical functioning
日常役割機能(身
Role physical
体)
体の痛み
Bodily pain
高い
PF
健康上の理由で,入浴または 激しい活動を含むあらゆるタイプの
着替えなどの活動を自力で行う 活動を行うことが可能である
ことが,とてもむずかしい
RP
過去 1 ヵ月間に仕事やふだん 過去 1 ヵ月間に仕事やふだんの活
の活動をした時に身体的な理 動をした時に,身体的な理由で問
題がなかった
由で問題があった
BP
過去 1 ヵ月間に非常に激しい体 過去 1 ヵ月間に体の痛みはぜんぜ
の痛みのためにいつもの仕事 んなく,体の痛みのためにいつもの
仕事がさまたげられることはぜんぜ
が非常にさまたげられた
んなかった
過去 1 ヵ月間に家族,友人,近所
の人,その他の仲間とのふだんの
つきあいが,身体的あるいは心理
的は理由でさまたげられることはぜ
んぜんなかった
全体的健康感
General health
GH
過去 1 ヵ月間に家族,友人,近
所の人,その他の仲間とのふだ
んのつきあいが,身体的あるい
は心理的な理由で非常にさま
たげられた
活力
Vitality
VT
健康状態が良くなく,徐々に悪 健康状態は非常に良い
くなっていく
社会生活機能
Social functioning
SF
過去 1 ヵ月間,いつでも疲れを 過去 1 ヵ月間,いつでも活力にあふ
感じ,疲れはてていた
れていた
日常役割機能(精
Role emotional
神)
RE
過去 1 ヵ月間,仕事やふだんの 過去 1 ヵ月間,仕事やふだんの活
活動をした時に心理的な理由 動をした時に心理的な理由で問題
がなかった
で問題があった
心の健康
MH
過去 1 ヵ月間,いつも神経質で 過去 1 ヵ月間,おちついていて,楽
ゆううつな気分であった
しく,おだやかな気分であった
Mental health
※福原俊一、鈴鴨よしみ『SF-36v2™日本語版マニュアル』健康医療評価研究機構, 2004.より引用
■ 3.2 総合的なストレス度、QOL 評価方法の開発
現在までに、健常人および患者におけるアロマセラピーのストレス軽減効果の心理学的、生理学的、免疫学的評価を行
ってきた。
3.2.1 健常人におけるアロマセラピーによる心理学的、生理学的、免疫学的変化について
健常人 11 名について、ストレス軽減効果がどの程度あるかを検討してみた。被験者の内訳は、男性 9 名、女性 2 名で、
年齢は 28 歳~37 歳、中央値は 32 歳であった。
24
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
アロマセラピーとしては、足浴 5 分、アロマセラピーマッサージ 30 分間を行った。アロマセラピーマッサージに使用したオ
イルとしては、真正ラベンダー、マージョラム、サイプレスであった。そして、その前後に精神心理学的測定をするための質
問紙(STAI、SDS、POMS)に記入してもらい、採血および唾液採取さらに生理学的測定(脳波、指尖容積脈波、皮膚温度、
皮膚電気抵抗)などを行った。
精神心理学的検査のうち State-Trait Anxiety Inventory (STAI)は、状態不安や特性不安を測定するものである。状態不
安は刻々と変化する不安状態、特性不安は不安になりやすい性格傾向をみるものである。Self-rating Depression Scale
(SDS)は、患者の自己評価による抑うつ性の評価尺度である。さらに気分プロフィール試験(Profile of Mood State: POMS)
は、気分を評価するための質問紙法の一つで、緊張―不安、抑うつ―落ち込み、怒りー敵意、活気、疲労および混乱の 6
つの気分尺度を同時に測定できる。
その結果、STAI については、アロマセラピーマッサージ群で、アロマセラピー前の状態不安が 41.2 であったのが、施術
後は 34.1 と低下した。また、エッセンシャルオイルを含んでいないキャリアオイルだけのマッサージを行った場合(コントロー
ル群)でも、アロマセラピーを行う前が 42.0 であったのが、行った後が 34.0 であり、有意差がみられた。しかし、アロマセラピ
ーマッサージ群とコントロール・マッサージ群では、差がみられなかった。また、特性不安について有意差はみられなかった。
SDS は前後において有意差はみられなかった。POMS においても、前後で有意差がみられなかった。生理学的な測定にお
いては、明らかにアロマセラピーの施術後では、リラクセーション効果がみられるが、コントロール群との間に差は認められ
なかった。免疫学的な測定として、白血球中のリンパ球のポピュレーションをみてみた。その結果、リンパ球の有意な増加、
CD8 陽性細胞の有意な増加、CD16 細胞の有意な増加などが見られた。しかし、コントロールであるキャリアオイルだけのマ
ッサージを行ったのでは、リンパ球の増加や、CD8 陽性細胞、CD16 陽性細胞の増加はみられなかった。
これらのことから、アロマセラピーマッサージはストレスを軽減する効果があり、これは心理学的に証明できる。また、マッ
サージだけでも心理学的評価においては有意な効果が得られることがわかった。しかしながら、免疫学的測定においては
エッセンシャルオイルを含んだオイルを用いたアロマセラピーマッサージを行ったときだけであることがわかった。生理学的
な検査に関しては特に有意差傾向はみられなかった。
3.2.2 軽症うつ病患者に用いたアロマセラピーマッサージの効果
パイロットスタディとして 5 名の軽症うつ病の患者にアロマセラピーマッサージを行い、その効果について検討した。5 名
の内訳は男性 1 名、女性 4 名で、年齢は 31 歳~59 歳であった。
足浴 5 分間の後、アロマセラピーマッサージを 30 分間、週 2 回、4 週間の計 8 回を行った。アロマセラピーマッサージに
使用したオイルはオレンジスイート、ゼラニウムブルボン、バジルであった。
マッサージの第1回前、第 8 回後に質問紙による精神心理学的評価を行った。すなわち、Hamilton Depression Rating
Scale(HAM)、POMS、Wisconsin Card Sorting Test(WCST)を行った。HAM は抑うつ状態をみるものであり、POMS は気分
プロフィール、WCST は概念の操作における柔軟性や、転換能力をコントロールし、特に前頭葉機能の障害に鋭敏である
のが特徴である。
アロママッサージの結果、HAM では、アロマセラピー前が平均 14.8 であったのに対し、セッション終了後には 8.8 に有意
に低下していた。また、POMS においては、混乱度が有意に低下していることが確認できた。WCST では、全体として有意
に前頭前野の機能が高まることがわかった。これらのことから、アロマセラピーマッサージは軽症うつ病に対して、うつ状態
の改善が確認され、また、前頭前野の機能改善もみられた。
3.2.3 がん術後患者の不安軽減に対するアロマセラピーマッサージの効果について
告知を受けたがん患者の約半数が何らかの精神医学的問題が認められていることが報告されている。不安と抑うつ気分
を伴う適応障害、不安障害、うつ病などが多いとされている。そこで、乳がん患者の術後におけるアロマセラピーマッサージ
の効果について検討してみた。
対象者は以下の通りである。
1)手術後あるいは化学療法、放射線療法終了後1ヶ月以上経過している者
25
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
2)ホルモン療法の治療については有無を問わない。
3)再発例は除外する
4)リンパ浮腫の著明な例は除く。
5)年齢は 20 歳~70 歳未満
医師による説明、同意書を得た後、パッチテストを行い、前採血、質問紙記入などを行った。1ヵ月後より1週間に 2 回の
ペースで全 8 回マッサージを行った。1回目と 8 回目の前後に採血を行った。1 回目、5 回目、8 回目に各種質問紙を記入
してもらい、血圧、心拍数などの測定を行った。最後のマッサージの1ヵ月後に質問紙を再度記入してもらった。アロマセラ
ピーマッサージは 30 分間で、エッセンシャルオイルはオレンジスイート、真正ラベンダー、サンダルウッドを用いた。乳がん
患者は全部で 14 名であり、年齢は 35 歳~58 歳、平均 50.6 歳であった。
STAI でみると、各アロマセラピーマッサージ 30 分間の前後では有意な状態不安の低下が見られた。しかし、長期的には
有意な変化は見られなかった。このことから、STAI の特に状態不安は短時間での変化をみるのに適していることがわかった。
また、われわれの開発した QR2質問票についてみてみた。QR 質問票はアロマセラピーやマッサージなどによるリラクセ
ーションの程度を評価することを目標として作成されたものである。心理的質問に加え、身体的な質問を加えているのが特
徴である。また、アナログスケールを採用しているので、後での統計学的な処理が行いやすい。
QR2の心理面のスコアの変化をみてみた。STAI の状態不安と同様に短時間で有意な変化が見られることがわかった。しか
し、長期間の変化は、QR2はあまり適当ではないようであった。QR2の身体面のスコアも同様であった。すなわち、短時間
の変化では毎回必ず有意な変化が見られるが、長期的な変化については有意な変化は見られなかった。このことから、QR
2は STAI と同様、短時間での代替療法の変化をみるのに適した検査であるといえる。
つぎに、不安と抑うつについて、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)でみてみた。これは身体疾患を有する患
者で身体症状の影響を受けずに抑うつや不安の症状を評価する自己記入式調査票である。その結果、HADS では特に不安
についてアロマセラピーマッサージの前と 8 回目のマッサージ前およびアロマセラピーマッサージの前と 8 回目のマッサージ
終了後 1 ヶ月目において有意差が見られた。このことから、長期的な変化として不安度の軽減のあることがわかった。
POMS については、怒りー敵意(A―H)の項目で、アロマセラピーマッサージの前と 5 回目のマッサージ前およびアロマ
セラピーマッサージの前と 8 回目のマッサージ前において有意差が見られた。疲労(F)の項目では、アロマセラピーマッサ
ージの前と 8 回目のマッサージ終了後 1 ヶ月目において有意差が見られた。このことは、POMS は、長期的な変化をみるの
に適していることがわかった。
以上の結果から、ストレス軽減をみるのに STAI や QR2は短時間の変化に有効であり、HADS や POMS などは長期間の
変化をみるのに有効であることがわかってきた。
■ 3.3 他の代替療法
3.3.1 森林セラピー
予備的試験として、森林セラピーを試みた。
森林ウォーキングの概要
森林ウォーキングは以下のスケジュールにより行った。
2006 年 2 月 10 日(金)
朝食後
ホテル自室にて QR2 の記入
9:00
ホテルロビー集合
(送迎バスにより登山口の手前約 1.2 km の地点まで移動)
9:19
下車、登山口まで徒歩にて移動
9:31
甘南備山登山口、説明
26
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
9:35
登山開始
10:02 展望台、神南備神社
10:09 下山開始
10:38 登山口
10:50 送迎バス乗り場
11:00 送迎バス出発
11:15 一休寺着
11:24 一休寺にて QR2 の記入
甘南備山は標高 217 m であり、9 合目までは幅 3m 程度の舗装道路が整備されており、足元を気にすることなく、森を満
喫しながら歩くことができる。当日は、無理をせずゆっくりとしたペースで、「無理なく歩きたい方におすすめのコース」を歩
いた。上り下りとも、おおよそ 30 分の行程であった。天候は晴れで、森林ウォーキング中は暖かかったが、下山後はじっとし
ていると寒さを感じた。京田辺のアメダス(北緯 34 度 48.6 分/東経 135 度 46.3 分)で観測された気温は 9 時に-0.1 ℃、
10 時に 2.0 ℃、11 時に 5.1 ℃であった。9 時から 11 時の間の風速は 1~2 m と微風であった。
森林ウォーキング前後のリラクセーションの変化
森林ウォーキングの前後に QR2 を用いて、リラクセーションの変化を測定した。被験者には前夜のうちに QR2 の用紙を
配布し、朝食の後、ロビーに集合する時刻(9:00)までの間に、自室にて記入するように指示した。事後の測定は、一休寺
に到着後、実施した。被験者は 9 名であった。
森林ウォーキング前後のリラクセーションの変化を見ると、心理面では被験者 3 を除き、ほとんどの被験者で事前よりも事
後にリラックスしていた(図 9)。身体面では 5 名が事前よりも事後にリラックスしていた。
心理面
身体面
300
250
事前
事後
事前
事後
200
200
QR2得点
QR2得点
250
150
100
150
100
50
50
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
2
3
4
被験者
5
6
7
8
9
被験者
図 9 森林ウォーキング前後のリラクセーションの変化
QR2 の得点が低いほど、リラックスした状態であることを示す
また、対応のあるサンプルによる T 検定(paired T test)により、前後の有意差を検討した結果、心理面では事後に有意
にリラックスした状態であったことが明らかとなった。身体面および総合(心理面と身体面の合計)では有意差は見られなか
った。
表 1 森林ウォーキング前後のリラクセーションの変化
対応のあるサンプルによる T 検定(paired T test)の結果
p値
心理面 身体面 総合
0.017* 0.491 0.057
27
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
3.3.2 ヨーガ
ヨーガは、ヨーガ指導者により、3 日間連続の 13 時 30 分より 16 時まで行った。30 分の講義の後、実技を行った。3 日目
のヨーガの前後に QR2 を用いて、リラクセーション誘導効果を測定した。その結果、心理面においても、身体面においても、
有意にリラクセーションが誘導されることがわかった。
表2 QR2
前
後
P値
心理面
123.8
67.1
<0.01
身体面
92.7
59.8
<0.01
合計
216.5
126.9
<0.01
■ 3.4 代替医療の QOL 評価手法の確立
アロマセラピーを代替療法の代表の一つとして、今までストレス度の軽減効果をみてきた。その結果、それぞれの手法に
は特徴のあることがわかってきた。
一般には精神心理学的方法、精神生理学的方法、免疫学的方法、生科学的方法や脳機能などの解析などいくつかの
方法が考えられる。そのうち、質問紙による精神心理学的方法については短期的変化をみるのに適しているものと、長期
的変化をみるのに適しているものの二つのあることがわかってきた。たとえば、STAI や QR などは短期的変化をみるのに適
している。したがって、今行っている代替療法にストレス軽減効果があるかどうかをみるのには適している。しかし、長期的
変化をみることはできない。長期的変化をみるためには、POMS や HADS などが適しているものと思われる。また、一般的な
ストレス評価として用いられている GHQ なども有効であると考えられる。さらに、性格傾向や行動傾向をみるさまざまな検査
法も現在開発されてきており、これらを上述の方法と組合せれば、より厳密な評価を得ることができるものと思われる。
生理学的機能としては、われわれは今までに脳波や指尖容積脈波、皮膚温度、皮膚電気抵抗、血圧、心電図による心
拍数やR―R間隔のゆらぎ、呼吸数などをみてきた。これらはリアルタイムに自律神経機能の変化をみていくのには適して
いる。しかし、長期的変化をみるのはノイズがあまりにも多く、また、短時間での変化が大きすぎてうまく変化をとらえることが
できない欠点がある。このなかでもR―R間隔のゆらぎは自律神経機能をみるのに有効であるといわれている。特に、副交
感神経優位かあるいは交感神経優位かをみるのには、かなり安定した成績が得られる。
代替療法によるストレス度軽減をみるためには、代替療法の施術の特性をよく考慮し、どの評価法を選ぶかが重要であ
ることがわかってきた。
■ 3.5 新たなストレス度および QOL 評価手法に関する今後の課題の分析と提言
ストレス軽減やリラクセーション誘導の評価として、疲労回復も含まれてくる。実際、多くの代替療法が疲労回復を目指し
ている。精神的な疲労回復の評価には、事象関連電位、近点測定、フリッカーテストなどがある。
さらに最近では、さまざまな脳機能をみる方法が実用化されてきている。特に、画像検査が進んできており、PET や fMRI
検査により脳代謝や脳血流量の測定などができるようになってきた。しかも、部位ごとにわかるので、きわめて有用な方法で
あることが推定できる。さらに、近赤外線を利用した脳血流量の測定(光トポグラフィー)もまだあまり行われていないが、こ
れらも有用かもしれない。ただ、脳血流量の変化は短時間で変わることから、長期間の効果をみるのには適していないよう
に思われる。
つぎに、免疫学的指標であるが、白血球中の好中球やリンパ球の比率によって自律神経機能をみようという方法もある
が、これは確立したものでないと思われる。
リンパ球中の T 細胞、B 細胞の分布や T 細胞のサブポピュレーションについてもよく研究されている。これらは数十分の短
期的変化をみることができるし、また、長期的な変化をみることも可能である。リンパ球のサブポピュレーションには、ナチュ
28
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
ラルキラー(NK)細胞やNK-T細胞、ヘルパーT細胞(Th)の中でも 1 型ヘルパーT 細胞(Th1)、2 型ヘルパーT 細胞
(Th2)などの分布をみるのも一つの方法である。さらに、NK活性リンパ球幼弱化能などでみることもできる。
また、われわれはカテコラミン・レセプターを持ったリンパ球の変化などを現在検討しているところである。さらに、血中の
サイトカイン量をみるのも一つの方法である。特に IL-2、4、5、6、10、12 などがよく使われ、また、インターフェロンーγも
Th1 サイトカインの代表として有用かもしれない。
血中の抗体価の変化も有用な場合がある。
また、生化学的方法として、血中コルチゾールやカテコラミン量の測定、さらに、抗酸化物質の測定も今後検討する余地
は十分あると考えられる。また、唾液中のコルチゾールや分泌型 IgA などもよく測定され、実際ストレス軽減によりこれらの値
が変化することが知られている。
さらに新しい手法としてはストレスが軽減したときの遺伝子発現の変化をみることである。これには DNA チップ法が有用で
あろうと思われる。ただ、どの細胞を採取し、発現をみるかは非常に問題である。まず簡単にできるのが血液系細胞、とくにリ
ンパ球などであろうかと思われる。なかでもヘルパーT細胞(Th)における遺伝子の発現変化をみるのがよいかもしれない。
さらに、どのようなタンパク質の発現があるかをみるのも今後の研究課題になってくるであろう。プロテオミクスの研究の進
歩により、これらも比較的簡単に測定することができるようになってきた。しかし、ストレス軽減だけで微妙なタンパク質の発
現量の変化をとらえることができるかどうかは実際にやってみなければわからない。それでも、このようなことを試みることに
よって、新たなストレス度の測定法が開発される見込みは十分にあると思われる。
29
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
4. 医工学的手法による代替医療の評価
■ はじめに
現在の西洋医学を端的に言えば、臓器の医療と表現することができるであろう。疾病の場を臓器の中に求め、その成因
と障害の程度を顕微鏡的視野から詳細に記述していき、疾患を分類していく。治療とは、臓器が罹患している病因を除くこ
とであり、臓器を修復することである。その極限は、人工臓器であり、臓器移植につながっていく。このようなアプローチは、
間違いではないが、医療システムに大きな負担をかけている。その最たるものが、人材の慢性的欠乏、医療の高額化であ
る。医療スタッフ、特に、医師が臓器毎に専門化してきているので、各専門毎に多数の医師を必要としている。中核となる病
院は、臓器毎に専門医を雇用せざるを得ず、結果として一つの病院が必要とする医師の数が増えていく。ところが、医師の
養成機関である医学部の学生定員は、過去の広い意味での内科医、外科医が中心であった時代の医師の必要数を元に
算出されているので、臓器毎に分化した医療体制を支える医師数は、不足することになる。当然のことながら地方の医療を
担当する医師が特に不足せざるをえない。このように臓器の医療を実行するため、大勢の医療スタッフを必要としているの
に、現実は、病院の経営上、雇用人員を削減するという反対の方向に向かわざるをえない。その結果、医療サービスの質
が低下し、患者の不満が堆積する。このまま、臓器の医療が更に高度化し、それを保険でカバーしようとすることは、まった
く不可能で、患者、医師、行政の全員が不満を抱くことになる。臓器の医療の破綻は、既に始まっている。
臓器の医療は、患者側として明らかに不満である。極言すれば、専門病院の担当医が注目するのは、人としての患者では
なく、患者の中にある臓器なのである。病気により患者の心が病んでいるとしても、臓器を健康にすることで心も治ると医師も
思っているので心のケアは、後回しにされる。治る病気の場合は、これでもいいかもしれないが、治らないとき、患者は、絶望
することになる。QOL は、これを和らげるための概念であるが、臓器の医療の中では、QOL は、副次的目標となっている。
臓器の医療に相対するものが、全人的医療であり、代替療法もこの範疇にある。病気を生体全体の中で評価し、生体の
自然治癒力を導き出すことで結果として治癒を得ようするのである。従って、生体の免疫系、内分泌系、神経系、循環系な
どのホメオスタシスを健康に保つことが代替療法の目的でもある。しかし、代替療法は、経験的かつ個別的という特徴を持
つことから、客観的な記録を持つことが少なく、その効果の再現性や有効性について意見の一致を見ないことがしばしばあ
る。しかし、科学技術の進歩は、多様な解析技術を提供しているので、代替療法を今一度科学の視点から考え直すことも、
また、重要である。今まで解析が困難であった体質や性格なども研究の対象となりつつあるからである。本研究は、主として
自律神経系と中枢神経系を対象として、代替療法の効果が、どのように捉えられるかを概観する。
■ 4.1 QOL の評価法としての医工学的手法
4.1.1 米国における研究状況
代替療法においては、症状の緩解を重要視している。症状の強弱は、検査値等の客観的指標とは必ずしも一致しない
ことが多く、患者本人の性格や生活環境も影響因子である。QOL は、症状と一緒に患者の心理状況を加味した概念である
が、これもかなり主観的なもので、これを客観的に評価することは、困難である。しかし、近年、開発が急である脳機能画像
化法を用いることで、QOL の脳画像的評価の可能性が出てきている。事実、米国国立相補代替療法センター(NCCAM)
の 2003 年度研究助成を行った研究課題を見るとi、脳機能画像化法を研究手段として用いたものが 7 件見られる。内容は、
鍼の効果を脳画像で観察する研究が 2 件、痛み治療に関係してプラシーボ効果を観察したものが 1 件、瞑想が 1 件、脳内
麻薬受容体関係が 2 件、脳磁気刺激を用いるものが 1 件であった(表 1)。
4.1.2 こころの画像化と感情の脳内表現
感情には、悲しみ、喜び、怒り、ひがみ、不安、苛立ち、陶酔など様々な要素がある。なぜ、我々は、このような内的感覚を
持つのかを理解するには、進化の観点から見ていく必要がある。
脳は、神経細胞の集合である。神経回路の最も単純なものが反射回路である。食べ物に近づいたり、危険物から逃げる
30
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
のも反射の一種である。動物の中には、これだけで生きているものが多い。このような反射的反応や呼吸、循環等の制御は、
高等動物では脊髄から中脳にかけて行われる。これらの脳が、反射脳または、自律脳と呼ばれている由縁である。魚類や
爬虫類では、大脳が未発達で、最高位中枢は、大脳基底核である。
このような反射を主体とした単純行動は、生存にかならずしも有利とはいえない。「飛んで火に入る夏の虫」のように自ら
死んでしまったり、わなに簡単にかかってしまうのである。そこで、反射行動を遅らせたり、時に止めさせる機構が必要となっ
た。得られた情報を解釈し、自己の生存に適した信号は、快、喜びと感じ、反対の情報は、不快と感じる仕組みである。不
快が長く続いたり、非常に強い場合、悲しみとなり、更に続くとうつになる。このように、反射脳が得た情報の性状や、反射脳
の反応を修飾する脳内機構として上位の機構が発達してきた。これが感情なのである。つまり、感情は、情報を取捨選択し
記憶する色分けとして機能している。反射脳を制御するのであるから、感情の座は、反射脳を取り囲む領域、すなわち、大
脳辺縁系である。
表 1. NCCAM が助成した医工学的研究のリスト抜粋 2003 年度
研究題目
研究者
所属
Massachusetts
General
Neuroimaging Acupuncture Effects on Human Brain Activity
Rosen, Bruce R
Hospital
Brain Imaging-Acupuncture and Osteoarthritis
Farrar, John T
University of Pennsylvania
Brain Imaging and Pain: Analysis of Placebo Analgesia
Robinson, Michael
University of Florida
Massachusetts
General
fMRI Investigation of Meditation
Lazar, Sara W
Hospital
Role of Endogenous Opioid System in the Placebo Effect
Frost, J J
Johns Hopkins University
Endogenous Opioid in Millimeter Wave-induced Pain Relief
Ziskin, Marvin C
Temple University
Magnetic Stimulation for Parkinson's Disease
Epstein, Charles M
Emory University
31
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図1 うつ症状と相関して機能が低下した脳部位
機能低下部位を左右、前後、上下方向の投影図、及び、大脳内側面画像の上に示す。
大脳辺縁系とは、脳の内部から底部にまたがる比較的広い領域で、主な構造に海馬・歯状回・帯状回(前部)・扁桃体・
梨状葉・中隔部などがある。また、島・前障・側坐核・帯状回(後部)・視床の一部・視床下部(とくに乳頭体)上側頭回などは、
旁辺縁系領域と呼ばれ、辺縁系と密接に結合している。
扁桃体は、側頭葉の深部前方にある胡桃のような構造で、身体に対する危険を感知する部位でもある。ここが刺激され
ると動物では、恐怖や不安を感じ、逃げるか戦うかのどちらかの行動を選択する。海馬は、記憶を強化するのに重要な役割
を果たし、視床下部は、快、不快、笑いなどに関係するとともに、下垂体を介して全身の内分泌環境を調節する。
前部帯状回、内側前頭葉、視床は、悲しみと関係している。また、辺縁系の一部である梁下野は、うつ病と関係があると
される。躁と鬱の 2 相性の患者ではこの部位の活動が亢進し、うつ病では、活動低下が見られるという。うつと密接に関係し
た脳部位を図 1 に示す。
一方、喜びに関係した脳内ネットワークを報酬系と呼ぶ。Olds は、ラットの中隔野という正中部にある大脳辺縁系の一領域
に電極を刺すとラットがいつまでもレバーを押して、自己の脳に電流を流しつづけることを見出したii。これが脳内自己刺激行
動で、中脳の腹側被蓋野(VTA)からの大脳基底部の側坐核への投射神経が関係している。麻薬様物質であるエンケファリ
ンを VTA に注入したり、アンフェタミンを側坐核に注入することで自己刺激行動を増強できる。前頭前野も脳内自己刺激行動
に重要であるが、この部位は、コカインの作用点と考えられている。これらは、神経伝達物質としてドーパミンが関与している
ことを示すが、サブスタンス P やセロトニンも関係しているという。PET を用いたドーパミン D2 受容体を用いた画像的計測によ
れば、報酬を伴うテレビゲームで遊んでいるとき脳内のドーパミン分泌が増加していることが報告されているiii。
MRI による脳機能マッピング技術を用いて Borsook らは、側坐核が快い刺激に反応すること、しかも、この同じ部位が痛
み刺激にも反応することを報告したiv。これは、痛みと快感が極めて密接した脳領域で感じられていることを示す興味ある報
告である。
感情は、感覚的側面と同時に外部に表現される。感情表出は、言葉、身振り、顔つき、相手との距離を変えるというような
ある程度意識的にできる様式のほかに、瞳の大きさ、発汗、立毛、涙を流すといった自律神経反応が加わる。自律神経は、
内臓器官などの平滑筋、血管、分泌線に分布し、呼吸、循環、消化吸収、代謝等の生存に関係した機能を調節している。
交感神経は、脊髄から出て神経節を形成後、標的器官に線維を送る。交感神経の亢進状態では、瞳孔散大、唾液の分泌、
立毛、発汗のような危険に対しての準備状態、ないしは、攻撃前の威嚇状態となる。副交感神経は、延髄の迷走神経核か
32
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
ら出て、迷走神経を形成するものと脳神経に随伴して瞳孔、涙腺、唾液腺に直接線維を送るものがある。迷走神経の活動
状態は、身体を休息させる方向となる。
自律神経は、延髄以外に橋(延髄の上方にある部分)、視床下部その他の脳部位から投射を受けている。扁桃体、中隔、
梨状葉などの大脳辺縁系から、視床下部を介して交感、副交感神経に線維が送られている。自律神経を意思的に支配す
ることは困難であるが、ヨガ、禅、気功のような瞑想法では、脈拍や血圧のある程度のコントロールが可能とされる。これは、
大脳新皮質から大脳辺縁系、視床下部を介する自律神経系の制御と考えられる。感情の個別要素と脳との関係について
は、後述する。
■ 4.2 がん患者の QOL の画像化
最近、PET がん検診が登場して話題を呼んでいる。PET は、放射性ブドウ糖(FDG)をトレーサー薬剤として、がん細胞で
のエネルギー消費の亢進を画像化している。FDG の組織内集積を指標として全身のがん細胞の広がりを画像として検出
するものである。脳は、エネルギー産生のほとんどをブドウ糖に依存している関係で、FDG の取り込みが多く、脳腫瘍を
PET で検出することは、不得手である。がん患者の脳診断で最も有用なことは、QOL の画像化である。Nakano らは、3 年以
上の罹病期間をもつ 67 名の乳癌生存者を対象として、半構造化面接をおこなって、癌に伴う不快な体験の記憶の想起を
経験した者 28 名とそうでない者 39 名に分けた。不快な体験の想起は、PTSD の概念の一部を構成する症候である。さらに、
各患者から収集された 3 次元 MRI 脳画像において、左右の海馬の体積を厳密に計測して群間比較をおこなった。すると、
不快な体験の想起がみられる患者の左海馬の平均体積は、対照患者よりも 5%小さくなっていることが確認されたv。
図 2.がん患者における QOL の画像化。
がん患者 19 名の糖代謝 PET 脳画像で低下した部位を示す。主として大脳辺縁系であった。
つぎに、機能画像の例としては、我々の研究が最初と考えられる。癌患者の脳画像は、日常診療では目立った異常を指
摘されることはあまりなく、脳転移がなければ正常とされ、極端な例では、正常データベースとに加えることもあった。田代ら
は、FDG-PET で撮影された肺癌などの 80 名の癌患者から化学療法などを経験していない 19 名を選び出し、その全身画
像から脳画像を抽出して良性疾患患者の脳画像と比較した。その結果、帯状回などで十数%の局所代謝の低下が観察さ
れたvi。たしかに癌患者の半数近くは精神医学的な異常を呈するという報告があり、矛盾はしない所見と考えられた。以上
の所見は、ドイツ人でも再現性されたvii。また、癌患者を Zung の SDS スケールのスコアで非抑鬱群と抑鬱群に分けて FDG
33
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
脳画像を比較してみたところ、前頭葉新皮質、帯状回の前~後部、側頭頭頂葉などが代謝低下を呈し、SDS スコアと相関
を示すことがわかったviii。のちに、これらの部位の代謝は互いに強い相関を保ちながら変化していることが示唆された。同
時に、海馬-海馬傍回、扁桃体、帯状回漆下部、小脳扁桃、脳幹部などは大脳新皮質とは相反する代謝パターンを呈しな
がら回路を形成していることが示唆された。以上より、癌患者に特異的な所見かどうかは不明であるものの、抑鬱状態にお
いて、大脳新皮質を中心とした回路と辺縁系-脳幹を中心とした回路の活動バランスが破綻することが抑鬱状態となんら
かの関係があるかもしれない。こうした所見は、過去の大うつ病の研究結果と矛盾はしないix。
■ 4.3 代替医療に関した脳科学的研究
4.3.1 鍼治療の効果に関する医工学的研究
鍼の刺入により脳の血流に局所的な変化が観察されることが幾つかの論文で報告されている。血流の変化は、局所的
脳活動を反映するものであるので、鍼が末梢神経を介して脳に刺激効果を生ずることに疑問はないであろう。また、鍼刺激
によって、部分的には脳活動の抑制が見られることが報告されている。鍼は、通常、痛覚の閾値以下の刺激を与えるが、こ
れをレーザーに代え全く痛みを感じない強さで刺激しても、脳の多くの場所に賦活が生じるという
12
。閾値以下の神経刺激
が脳に伝達され効果を発揮している可能性がある。また、経絡の存在に関しては、鍼を経穴に刺入した場合と、経穴を外し
て刺入した場合についても比較され、経穴に刺入したほうが脳の賦活部位が広いことが観察されている。
・ 刺入点に依存した脳賦活の差異
異なる経絡経穴への刺激は、特有の脳部位を賦活ないし抑制すると報告されている。経穴をその刺激により賦活される
と報告されている脳部位を表 2 に示す。
表 2.経穴と脳部位との結合 PET/fMRI による研究
経絡
胃経
経穴
足三里
Zusanli
足三里
St36
賦活脳部位
視床下部、側座核
抑制脳部位
海馬、扁桃体
著者
Wu et al.1999
島前部
Napadow et al., 2004xi
大腸経
大腸経
会谷 Li.4
会谷
視床下部、側座核
感覚運動野
扁桃体、海馬前部、帯状回
(膝下部、脳梁膨大部背側)、
腹内側前頭前野、前頭極、側
頭極
海馬、扁桃体
側座核、扁桃体、海馬および
周辺、中脳(VTA)、帯状回前
部、被殻、側頭葉、島
大腸経
会谷
大腸経
会谷
心包経
内 関 Neiguan
PC6
陽陵 GB34
Yanglinquan
光明 GB37
Guangming
至陽 BL67
zhiyin
視床下部、中脳、島、帯状回前
部、小脳
視床、帯状回前部、眼窩回、中
心後回、中脳
上前頭回、帯状回前部、視床背
内側核、小脳
痛覚神経回路、視床下部
胃経
肝経
肝経
膀胱経
x
Wu et al., 1999 4
Hui et al., 1999xii
Hsieh et al., 2000xiii
Itoh et al. 2001
xiv
Yoo et al., 2004
xv
Wu et al., 2002
xvi
一次視覚野
Cho et al., 1998
xvii
一次視覚野
Siedentopf
2002xviii
34
帯状回前部
et
al.,
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
4.3.2 鍼実験の方法論についての研究
電気鍼の利用
鍼治療実験には、専門的技術が必要であることから電気針の使用が考えられる。
そこで足三里(Zusanli, St36)をターゲットとして、用手的鍼刺激と電気鍼刺激の効果
を比較した研究がある 5。両者の fMRI で観察した脳への効果は、大体相似であった
が、一部は一致しない部位があるという。それは、中部前帯状回と橋部縫線核の賦活
が電気鍼でのみ観察されたという。また、脳の賦活部位は、電気鍼のほうが広い傾向
にあるという。視覚に関係した経絡に対して用手的鍼では、10/18 人に脳賦活が見ら
れたのに対し、電気鍼(2 Hz も、8/18 人に同様な反応が得られたというxix。しかし、電
気鍼(30 ms 矩形波 3 Hz)の会谷への刺激は、用手的鍼とは、異なる脳部位の刺激
をもたらすこと、また、脳機能の抑制作用が見られないことも報告されているxx。電気
図 2.レーザー鍼の例 22
鍼での電気刺激の周波数依存性についての研究では、2 Hz と 100 Hz では、異なる
脳内神経回路が刺激されている可能性が示唆されているxxi。
レーザー鍼の利用
更に、鍼の刺入自体を省略しようという試みがある。一つは、レーザー照射である。これは、赤色レーザーを(λ685 nm,
30-40 mW (λ670 nm, 10 mW)のパワーで 500μm のファイバーを介して照射するものでxxii、被験者には痛みの知覚は生じ
ない。視覚に関係した経絡点(合谷 Hegu,足三里 Zusanli, 崑崙 Kunlun, 至陽 Zhiyin、図 1)への同時照射で視覚野と前頭
葉の賦活が確認されたという
12
。この方法の利点は、被験者も術者もレーザーの照射を知ることがないような実験計画を
たてることができるので二重盲検試験が組み立てられることにある。
経絡への鍼治療に対する対照実験の組み立て方
対照実験として以下の方法が使用されている。
4,15,xxiii
!
経絡の近傍点への刺激
!
経絡への触覚刺激 5。
!
経絡上の皮膚表層を針で刺す 4。
!
電気鍼の場合は、無通電
10
。
動物実験
ラットに対する会谷、足三里等に対する電気鍼で視床下部の賦活が観察されているxxiv.
4.3.3 鍼の医療への応用についての研究
梗塞後のリハビリ効果の促進
中大脳動脈閉塞慢性期の患者に対して患側腕の(LI 4, 10, 11, 15 and 16 and TE5) に鍼刺激をおこなったところ梗塞部
位周辺に血流の上昇が認められていることから、梗塞患者での機能回復の指標として使える可能性が示唆されているxxv。
鍼による鎮痛効果の予測
鍼麻酔の効果には大きな個体差があるという。電気鍼による鎮痛効果と脳血流効果を比較してところ、2Hz 刺激グルー
プでは、一次運動野、補足運動野等で正の相関が、海馬で負の相関がえられ、100 Hz 刺激グループで、更に、頭頂小葉、
前部帯状回、側座核、橋に正の相関が、扁桃体に負の相関がえられた。これは、麻酔効果の個体差と関係する現象であ
ろうと考察されている 15。
35
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
4.3.4 プラシーボ効果
代替医療においては、プラシーボ効果を治療評価から独立させ除くべきものとは考えていない。プラシーボ効果は、自
然治癒力の一つの発現であって、これを誘導させることも重要な施術なのである。しかし、プラシーボ効果がどのようにして
生ずるものかについては、ほとんどわかっていない。プラシーボ効果は、これを治療として患者が認識することから始まるの
であるから、脳の反応性を観察することは有力な観察手段となると思われる。
de la Fuente-Fernandez らは、パーキンソン病患者に対する治療薬としてプラシーボ薬を用い実際に線条体における内
因性ドーパミン分泌を誘導するかどうかを PET で観察したところプラシーボによっても線条体のドーパミン濃度が上昇するこ
とを観察したxxvi。この手法は、ドーパミン D2 系の拮抗薬であるラクロプライドを放射線標識して、これが脳内線条体に結合
することを利用してドーパミン D2 受容体の組織内濃度を測定する。もし、内因性のドーパミンが分泌されると投与された D2
拮抗薬と競合し見かけ上、放射線標識薬剤の脳内濃度が低下することになる。
プラシーボによる鎮痛作用には、麻薬拮抗薬であるナロキサンが効果を弱めることから脳内オピオイド伝達系が関係して
いると推定されているxxvii。Petrovic らは、熱痛み刺激に対する remifentanil 鎮痛薬による脳賦活効果とプラシーボ効果を比
較したところ両者共に前部帯状回(rACC)に作用(脳血流の上昇)していることを確認したxxviii。しかし、脳賦活の範囲は、麻
薬に比してプラシーボでははるかに狭い。
同様の研究が Wager らによって追試され、プラシーボによって、痛みに関する脳内ネットワークの活動が低下することが
確認された。また、逆に、痛み予測した場合は、このネットワークが賦活されるというxxix。
痛み意外に関しては、過敏性腸症候群でプラシーボを 3 週間使用して症状と脳血流を比較した研究がある。プラシーボが有
効であった症例では、右の腹外側前頭前野(RVLPFC)の活動が上昇し、背側前部帯状回(dACC)の活動が低下したというxxx。
次に、6 週間にわたってプラシーボをうつ病の患者に投与した研究がある。セロトニン再取り込み拮抗薬である fluoxetine
とプラシーボ効果を脳ブドウ糖代謝で比較した研究であるが、 プラシーボでも前頭前野、帯状回、頭頂葉、島後部で代謝
の上昇が確認された。しかし、fluoxetine の脳賦活範囲のほうが広かったというxxxi。
4.3.5 催眠効果に関する医工学的研究
微温湯をコントロールとして熱水を痛み刺激とし、これに対して痛み知覚が弱まるとの催眠導入をして脳血流を測定した
研究がある。催眠では後頭葉のデルタ波と脳血流が上昇した。右の前部帯状溝と両側下前頭回での血流上昇も見られた。
血流低下は、右頭頂小葉、左けつ前部、後部帯状回に見られたxxxii。
催眠により痛み感覚を誘導した場合、実際の痛みと同じ脳部位(視床、前部帯状回、島、前頭前野、側頭葉)が賦活さ
れるという報告がある。興味あることに、痛みを被験者自ら想像しただけでは、脳の変化は誘導されないというxxxiii。
催眠ではないが、共感ないし同情をテーマとした研究もある。これは、恋人同士を被験者とし女性の被験者が fMRI の装
置の中で脳の反応を検査される。被験者は、足に電撃刺激を受ける。しかし、次のセッションでは、本人ではなく恋人が電
撃刺激を受けていることを告げられた。電撃刺激の条件下では、痛みに関する脳内ネットワークが賦活されたが、恋人が痛
みを受けているときも同じ脳部位が活動したという。両条件下での脳活動の差は、知覚野が賦活されるかいなかの差のみ
であったというxxxiv。
4.3.6 QOL・体質の客観的評価に関する医工学的研究
QOL を総合的かつ客観的な医工学的評価法は、報告されていないが QOL の構成要素に関しての個別的研究には以
下のようなものがある.
・
悲しみに関しては、親しい故人についての写真や言葉を題材として行った研究がある。悲しみのエピソードは、後部
帯状回、内側・上前頭回,小脳を賦活したxxxv。しかし、左背外側と内側の前頭前野、側頭葉の活動の低下との報告が
あるxxxvi。
36
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
・
不快な臭い刺激に対しては扁桃体xxxvii、左眼窩回、脳梁膝部前方の帯状回xxxviiiの活動が見られる。嫌悪感を催す画
像を刺激としたときは、島前部、左中前頭回が興奮するxxxix。
・
自己の体験を想起して誘発される怒りを対象としたとき左眼窩回、右前部帯状回、両側の側頭極などの傍辺縁系の活
動として観察されている xl。同様の方法論で怒りが左下前頭回、左側頭極、視床の活動が観察され、不安が左前部
帯状回の活動が高まるという
xli
。
・
不安は、両側の側頭極の活動を伴うxlii。
・
体質は、遺伝子に強く影響されている。カテコールアミンは、catecol-o-methyltransphrase (COMT)で分解される。し
たがって、ドーパミン、ノルアドレナリン神経伝達系の機能は、COMT 活性に影響される。COMT 遺伝子には多型があ
り、158 番コードンが規定しているのはメチオニンであるがヴァリンに入れ替わっている場合がある。これらの人では、
COMT 活性が低く、したがって、ドーパミンがより長くシナプスに滞在し、ドーパミン D2 受容体を慢性的に刺激している
可能性が高い。このような状況では、フィードバック的にエンケファリンが減少し、その結果、その受容体であるμオピ
オイド受容体が増加(up regulation)することが知られている。受容体が増加しているものの痛み刺激に対してのエンケ
ファリンの分泌は弱いため、この変異を持っている人は、痛み刺激やストレスに弱いとされる。μオピオイド受容体の濃
度は PET で評価可能であるxliii。
・ セロトニンは、恐れや不安に関係する。この再取り込みを決定する遺伝子の座は SLC6A4 に同定されているが、これに
亜型があり short allele を持っている人間は、恐れや不安を感じやすいという。こららの人では、恐怖感を感じさせる課
題に対して扁桃体の反応性が強いという。これは、PET、fMRI で評価できる
・
xliv
。
うつ病の患者において左前部帯状回と外背側前頭前野の活動が低下するとの報告があるxlv。家族性うつ病患者にお
ける研究において、腹外側から内側の前頭前野および扁桃体において血流の上昇が見られることが報告されている
xlvi
。逆に、脳梁膝部の下方で選択的に低下しているxlvii。うつ病患者においては、扁桃体とこれと線維性連絡を持つ前
頭前野、線条体、視床などの感情・ストレス関連領野の活動が亢進しているというxlviii。
・
うつ状態においては視床下部から放出される Corticotropin-releasing hormon(CRH)が増え、下垂体ー副腎系を賦活
する。これに伴い食欲が減退し、性欲が退化し、不眠症状が誘発されるというxlix。R121919 等の CRH1 拮抗薬は、うつ
病の新しい治療薬として期待されているl。
・
罪悪感は、側頭極,前部帯状回,島前部などの傍辺縁系の活動と関係するli。
・
陽性感情に関しては、至福の感情が前頭中央シータ(FMθ)を増大し、前頭と後頭のシータ領域の同調が増し、重心
が前頭(FA3)に傾く傾向となるlii。母親にわが子の写真を見せたとき前頭葉眼窩回が賦活され、この部の変化が喜び
の度合いに比例したというliii。
4.3.7 QOL 評価の方法論的研究
A)
脳波データ解析: 脳波は、簡便でかつ時間情報を有するダイナミックなデータであるので新しい解析法を用いて
QOL 評価に使用できる可能性がある。コヒーレンス解析が提案されている。
B)
・
相互相関解析・コヒーレンス解析について
大脳半球間のα波のコヒーレンスが認知行為の時に出現するliv,lv。
・ 脳活動部位でのコヒーレンスが低下するので mapping の可能性ありlvi。
・
Dynamic Imaging of Coherence Source: 最大のパワーを示す電極、ないし、負荷した課題として意味のある電極を関
心電極として他のすべての電極とのコヒーレンスをダイナミックにマッピングする方法lvii。
・
Task-related coherence or task-related spectral power analysis: alpha and beta(13~20 Hz) range に対して適応したlviii。
・
シータ波同調lix。課題が難しいほど生じる可能性あり。
・
そのほか、Independent component analysis (ICA)が提案されている。電極の相互独立性を最大とする変換である。
37
lx
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
C) 近赤外光トポグラフィー:
光トポグラフィー(NIRO)は、血液中のヘモグロビン濃度を測定出来、無害で簡易に被検者への肉体的・精神的負担の少
ない自然な環境での検査が可能で、脳機能を画像化できる数少ない方法の一つである。 初期には、1組のプローブを用
いたので画像は取れないが、この測定法の基本原理は早くから研究されており、人体(耳たぶでの血液の酸化ヘモグロビ
ン濃度)の測定に初めて応用されたのは1930年代で、脳の測定に初めて応用されたのは1977年である。
しかし、多数のプローブ群を用い脳機能を画像化できたのは、PET や NRI よりも10年以上遅く、1995年に日立による。
その後、画像化できる実用的装置が世界に先駆け、日立(光トポグラフィー)ならびに島津(NIRS Station)同社より発売され、
日本が世界の追従を許していない。NIRO は、多チャンネル化された結果、脳表層の神経現象を捉えることに成功している。
しかし、QOL の対象を辺縁系と考えると深部脳活動を捉えられない欠点があるlxi。
したがって、光トポグラフィーは日本で主に用いられており、最も新しく実用化された脳機能画像化方法と言える。この基
本原理は、近赤外光を頭皮外の1点から照射プローブにより照射し、脳内による吸収・散乱などの過程を経て頭皮外に出
てくる近赤外光を受光プローブにより計測し分光分析することにより、脳内血液の酸化モグロビン、還元ヘモグロビン、全ヘ
モグロビンの各濃度を測定出来る。 数十のプローブ群を持つ装置により、脳が活動するとによって生じる血液酸素飽和度
と血量変化を測定し、画像化することで、特定の脳活動部位を探ることができる。
C-1 代替医療の評価に関連する光トポグラフィー基礎研究例
多数のプローブを持つ装置である光トポグラフィーまたは少数のプローブによる近赤外分光法を代替医療の評価に関連
する基礎研究に応用した例の主なものを下記に示す。
代替・補完療法としては東洋医学的な気功・鍼灸・ヒーリングなどの施術を施す治療法や、漢方薬やハープに代表される
薬草・健康食品といった分野などが挙げられる。
少数のプローブによる近赤外分光法ではあるが、気功などの施術関係では、木戸償美らの研究が顕著で、佐藤屏志と
の「気功で変化する生体計測」や、気功と座禅との比較を行なった研究lxii、遠隔ヒーリングについて測定した研究があるlxiii。
閉息呼吸法と大脳皮質への影響を調べた沈再文らの報告lxivも気功に関する計測である。
欧米でも Litscher,G らlxvが気の効果を脳の近赤外分光法にて分析している。ハーブ・健康食品の分野における近赤外
分析法の応用は、ビンポセンチン(ツルニチニチ草の種子から抽出され、脳力向上を目的とするハーブ)による脳卒中患者
の容態の回復を調べた研究lxviなどlxviiが挙げられる。
気功などの基礎研究では、多数のプローブを持つ本格的装置である光トポグラフィー(日立製)および NIRS Station (島
津製)を用いた山本幹男らの研究グループの研究が顕著で、張トウらの「気功時の脳活動:脳波と光トポグラフィ測定の比
較」、陳偉中らの「発気課題時における大脳皮質のヘモグロビン濃度と呼吸周期の変化」、陳偉中の「光トポグラフィによる
発気課題時の脳血液量変化の研究」lxviiiなどが活発に行われている。
また、音楽療法の有用性を示唆する上田至宏らも光トポグラフィーが利用されているlxix。
Litscher,G は鍼灸の分野で近赤外分光法を応用しており、偏頭痛の治療効果の観察やlxxレーザー針についてlxxi研究が
なされている。
D) PET による脳内神経伝達物質分泌の評価: この手法は、目的とする神経受容体に結合する薬剤を放射線標識して、こ
れが脳局所に結合することを利用して受容体の組織内濃度を測定する。もし、内因性の神経伝達物質が分泌されると投与
された拮抗薬と競合し見かけ上、放射線標識薬剤の脳内濃度が低下することになる。ドーパミン系 60 とオピオイド系
37
にお
いて報告されている。
4.3.8 瞑想と脳
瞑想法には、ヨガ、禅、気功等多種類あるが、共通するところは、意識の集中から無意識(無念無想)の世界に入ってい
くことのようである。こころは、雑念から離れ沈静化し自律神経のバランスも整えられる。真の世界を知ることができ、一段上
38
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
の意識レベル(悟り)に至る。通常は、一つの言葉や、景色、ないし、呼吸に集中することで始まる。瞑想の中では、外界の
出来事も感覚を呼び起こすことなく、こころは、何も思い浮かべることもない。「心頭滅却すれば火もまた涼し」という快川国
師の言葉は、まさにこれを表現しているが、涼しいという感情もそこにはない。瞑想は、自己の内的体験であるので、それを
他人が伺うことは難しい。従来は、脳波の研究が主体であった。心拍、頭頂・後頭部脳波、皮膚電気伝導,指尖脈波を同
時に測定した結果、ヨガ(Kundalini yoga)に際して脳波のα波とθ波の上昇が見られることが報告されている。これは、呼
吸が深くなることに関係しているらしい。他のパラメーターに大きな変化はなかったというlxxii。脳機能画像的研究では、瞑想
によって背外側前頭前野、頭頂葉、海馬・海馬傍回、線条体、前後中心回の fMRI 信号の増大が観察されたlxxiii。ヨガ(Yoga
Nidra)を実行している際には、背外側・眼窩前頭前野、前部帯状回、左側頭葉、頭頂葉、線条体、視床、橋、小脳での血
流の低下が観察されたlxxiv,lxxv。これらは、注意と課題実行に関する神経回路の抑制を示唆している。
ヨガ実行中のドーパミン分泌を測定した報告がある。これは、放射性のドーパミン D2 拮抗薬(Raclopride)の脳への結合を指
標としたものである。Yoga Nidra を実行することによってシータ波の増加が見られたが、同時に腹側線条体でドーパミン分泌
が 65%上昇したことが推定されるという。この結果、皮質-線条体グルタミン性伝達系が抑制されることが示唆されるというlxxvi。
そこで脳機能画像を用いて瞑想を観察することにした。
図 2 は、8 年以上のヨガ経験者 7 名で行った瞑想中の脳活動を画像化した結果である(仙台市 堀真由美氏グループの協
力による)。被験者には、約 1 時間に渡ってヨガ(厳密には、ハタ・ヨガ)のさまざまな体位を実行してもらった。ヨガに入る前に
放射性のブドウ糖(18F-FDG)を経口投与し、この薬剤が、ヨガを行っている間、次第に吸収され脳に蓄積する。蓄積した後、し
ばらく脳にとどまるので、ヨガを終了した後に PET で撮影しても、ヨガ中の脳活動を反映した画像を得ることができるlxxvii)。
図3 ヨガにより活動が低下した脳部位
図4 気功により活動が低下した脳部位
これを、同一被験者の安静時の脳画像と比較することで、統計的確かさでヨガが及ぼす脳への効果を画像化できる。ヨ
ガによって、活動が高まった脳部位は、一次感覚野(中心後回、腰から足に相当する部分)、一次運動野(中心前回、手に
相当)、前運動野、補足運動野、下頭頂小葉であった。これらは、運動の一次中枢と連合野である。一方、ヨガによって、活
動が低下した脳部位は、帯状回、眼窩回などで、いずれも辺縁脳が中心であった。注目すべきは、後頭部の視覚連合野
が広範に活動低下していたことである。これは、視覚情報へ注意が向いていないことを意味している。つまり、ヨガは、運動
系をふかつするものの大脳辺縁系を沈静化すると考えられる。脳幹、延髄等の変化も想定されるが、装置の解像力の関係
から見ることができなかった。大脳辺縁系は、悲しみ、怒り、恐れなどで興奮する。このような感情は、意識を不安定にする。
ヨガは、大脳辺縁系を抑制することができるようである。
39
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
一方、気功では、脳活動のふかつと抑制が認
められた。後部帯状回と運動野の活動の上昇が
認められたが、これは、気功に伴う運動を反映し
ていると考えている。実験での気功は体動を伴う
ものではなかったが、体動をイメージすることによ
る脳活動と考えている。活動の低下部位としては、
帯状回、直回、内側前頭回などであった(図5)。
帯状回は、学習、注意、痛みなどに関係し、大脳
辺縁系に属している。内側前頭回、直回は、情動、
特に、悲しみに関係し、前頭葉の中でも辺縁系と
の関係が強い部位である。脳梁の下の部分(梁下
野)は、うつ病と関係があるとされる。これらの部分
の血流が低下したことは、こころが安定化している
ことを意味しているものと考えている。これらの結
果で問題点として、本研究は、数人の被験者に瞑
想を行なってもらいその結果を平均化して安静状
態と比較したものであることである。気功の流儀は、
各個人で異なるので、個人特有の脳活動は、反
映されていない。
図 5.ラベンダーアロマを嗅いだ後の自律神経トーンの変化
副交感神経トーン(上)と交換神経トーン(下)
4.3.9 アロマテラピーの自律神経・脳活動に及ぼす効果の検討
嗅覚は、他の感覚と異なり、脳幹を介さずに、前頭葉底部の臭球を経由して直接脳に連絡するユニークな神経である。
臭いは、動物の生存にとって非常に重要な役割を果たしている。その第 1 は、味覚と同様、動物にとって安全か害があるか
の判別に重要である。好ましいものは、快い刺激を脳に与え、害があるものの多くは、不快感を与えることから、対象物に近
づくか離れるかの判断材料となる。次に嗅覚は、仲間か敵かの判断にも重要である。自分と同じ体臭ならば、安心し、異な
れば警戒する。しかし、同じ体臭であっても味方とは限らない。異性の獲得において同性の体臭は、不快となり、異性の体
臭は、好ましい。このように、嗅覚とは、単にあるかないかの情報を伝えるのではなく、常に、何らかの情動を伴う伝達系であ
る。臭いの刺激を受けたとき、人は、まず、何の臭いで、どの方向から来たかを認知しようとする。と同時に快、不快の感覚が
様々な強度で感じられる。程度の差はあれ、なんらかの感情と関係しない匂いは極めてまれである。従って、匂いは、脳に、
というよりもこころに働きかける効果を期待して古来から利用されてきた。香りの脳に及ぼす効果は、脳の深いところに作用
すると予想されるが、複雑、かつ、個人差の大きい反応と考えられる。
本研究は、ラベンダーを香りの題材とした。ラベンダーは、花であるので激しい感情を引き起こすことはなく、安全な環境
でくつろげる効果があると期待される。そこでラベンダーの香りが自律神経系と脳にどのような効果を及ぼすかを生理的計
測法を用いて検討した。
被験者は、20 歳から 27 歳までの健康女性10名で生理開始から10日以内に検査に協力してもらった。これは、ホルモン
環境を揃えることと、放射線被曝に対する安全性を高めるためである。被験者は、最初、嗜好についてのアンケートを受け
た後、異なる日に安静時と匂い刺激時の2回の検査を受けた。ポジトロン CT(PET)の隣室において薄暗い静かな環境で
安楽椅子に腰掛けた状態で以下に述べる生理的検査(自律神経関係と脳 PET)を受けた。1 回は、香湿布(ラベンタガー
ル 1 枚、帝国製薬製)を右肩に張り、何も張らない状態を対照とした。
40
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
心理検査としてアイゼンクの性格検査(EPQ)lxxviiiとストレス反応尺度(SRS18)lxxix、嗜好等に関するアンケートを採取した。
SRS18 に関しては、検査終了後に再度評価を行なった。
心電波形は、ホルター心電図(フクダ電子 FM-300)をNASA式電極配置により検査の間採取した。RR 間隔を HPS-
RRA(フクダ電子、東京)を用いて周波数解析し、0.15 Hz を境に高周波揺らぎ成分(HF)、低周波揺らぎ成分(LF)を計算
した。ホルター心電図附属の圧センサーを利用して呼吸変動をモニターした。発汗は、発汗計(SKINOS SKA 2000 アナロ
グ 2 チャンネル 0-1V)を用いてPCに入力した。
脳の活動度は、微量(約 40 MBq)の放射能を含む[18F]ブドウ糖(FDG)入りの生理食塩水を静脈注射し、45分後の脳
内集積をポジトロン断層装置(PET,SET2400W 島津製作所)を用いて画像化した。PET の解像力は、4.0x 4.0x4.5 mm で
ある。具体的には、上記センサーを装着後、10 分間の安静時間を置いて FDG を右肘静脈から注射した。その後、40 分間、
生理データを収集したが、その間、術者は、部屋から出て、被験者を妨げないようにした。被験者には、眠らないように開眼
で楽にするようにという指示のみとした。FDG 注射 40分後、香り湿布、心電図等を外した後、排尿、PET台の臥床し、6 分
間のPET撮影を行った。さらに 6 分間の transmission scan を行い、放射線の組織減弱補正に利用した。
被験者の脳画像は、英国FIL研究所開発の統計的マッピングソフトウエア(SPM2lxxx,lxxxi)を用いて解析した。まず、脳画像を
標準画像(the Montreal Neurological Institute/ International Consortium for Brain Mapping (MNI/ICBM) 152 standard2)
に形態的に標準化した(Affine変換、及び非線形ワープ)、次に、12mm半値幅でガウス平滑化を行なった後、安静時と香湿
布時の2条件間での画素毎のt検定を行なった。有意性の検定には、p< 0.001 を採用し、香りにより脳活動が局所的に高
まる部分と低下する部分を抽出した。結果は、3方向への投影画像と標準脳MRIに対して重ね合わせて表示した。
ラベンダー・アロマの負荷を行った状態では、RR間隔は、延長する傾向にあった。揺らぎ解析を行うと HF 成分が有意に増
加し、LF/HF 比が有意に低下したので、副交感神経有意状態に入ったことがわかる。脳活動を見ると両側の帯状回と、橋、
視床の活動が見られ、運動前野と前頭眼野の活動の低下が見られた。これらの結果は、ラベンダー湿布に伴う身体反応を、
自律神経と脳活動の双方で捕らえられることを示唆している。
図 6.ラベンダーアロマによる脳の賦活(左)と沈静化(右)。
帯状回、視床、橋の活動が昂進し、前頭眼野、運動前野の活動が低下した。P<0.001。
41
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
■ 4.4 脳画像的 QOL 評価の具体的事例
患者の QOL は、患者の生活の質と見ることができ、日常行動の障害度などで評価される。しかし、QOL は、非常に抽象
的 な 概 念 で あ り 、 そ の 客 観 的 評 価 は 、 容 易 で は な い 。 European Organization for Research and Treatment of
Cancer(EORTEC)は、実用的で信頼でき、かつ、検証がある程度行われている QOL スケールとして QOL 質問表
(EORTEC QLO-C30)lxxxiiを開発した。これは、30 項目の質問表で機能的項目群と症候群に大別されている。問診項目
は各項目 4 段階評価(QOL 総合評価のみ 7 段階評価)であるが、通常、各項目を100に線形変換して集計に使用する。
我々は、この QOL スケールと対比して脳画像がどの程度寄与し得るか否かを検討した。QOL は、患者が自己とその環境
をどのように評価し感じているかと言うことであるので、同じ障害度であっても、患者の生活史や感受性によって異なった
QOL 尺度をとり得る。つまり、QOL は、こころの評価を無視しては、成り立たないものである。我々および多くの研究者の努
力の結果、こころが、少なくともこころの断片が脳機能画像に表現されることが判明している。脳画像は客観的で再現性が
あるものなので、QOL の客観的指標として将来利用できる可能性がある。その可能性を探るため、2,3の事例を挙げる。
事例は、横断的アプローチと縦断的アプローチの 2 種類である。
4.4.1 QOL スコアと脳画像との関係(横断的研究)
横断的アプローチは、婦人科癌を中心としたがん患者の QOL と脳画像との相関研究である。子宮癌、卵巣癌の再発
PET 診断の際に、EORTEC QOL Study Group が作成した QOL 質問表(EORTEC QLO-C30)を用いて問診し、同日に
採取された脳ブドウ糖代謝 PET 画像を形態的標準化処理し、画素毎の統計処理を行った。QLO-C30 の問診項目は各項
目毎に 100 点満点となるよう線形に変換して集計した。今回は、症例は、婦人科がん10例と正常人 5 人、その他癌を含む
28 例で、男 8 名、女 13 名、平均年齢 54.1±8.1 歳である。プロトコールは、東北大学放射性核種を用いる臨床委員会の審
査と承認を得て研究を行い、被験者毎に同意書を得た。図 7 に QLO-C30 総合評価スケール(横軸)と QLQ-C30 機能ス
ケール代表項目(図左、縦軸)と QLQ-C30 症候スケール代表項目(図右、縦軸)間の関係を見たものである。ある程度の
相関はあるが、線形関係にないことがわかる。
Fatigue
100
100
90
Nausea
Pains
90
Dyspnea
80
80
Sleep
finacial_impact
70
70
系列7
60
60
50
50
系列8
系列9
Physical
40
40
Role
30
Cognitive
30
emotional
20
20
Social
10
10
0
0
0
20
40
60
80
100
120
0
20
40
60
80
100
120
図 7.QLQ-C30 機能スケール代表項目(図左、縦軸)と症候スケール(図右、縦軸)と総合スケールとの関係。
次に QLQ 機能的スコアを用いて、症例を QOL 良好群と不良群、中間群の 3 群に分け、QOL 良好群と不良群合計 21
例での群間比較を行った。結果として QOL 不良群において両側の島部、両側前頭前野、右頭頂小葉において活動の低
下が観察された(p< 0.001、図8)。
42
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図8.EORTC QLQ-C30 Functioning scale 軽度低下
(score 40-80)を示したがん患者(8 例)で代謝が低下していた脳部位を示す (2 群比較 p< 0.001)。
4.4.2 がん患者に対する治療的介入と QOL スコア、脳画像との関係(縦断的研究)。
13 例の食道がんの患者で治療前後に QOL 評価及びうつの評価(HADS)を行い、これと PET 画像との相関解析を行っ
た。治療は、東北大学食道がん治療プロトコールにのっとった放射線化学療法である。化学療法は、5FU と CDDP を使用
し、治療前後での検査間隔は約 1 ヶ月半である。結果として QOL スコア、HADS ともに治療で有意の変化はなく(治療後、
呼吸困難感が出現した)、放射線化学療法施行が QOL の改善に役立たないことが確認された。一方、脳画像においては、
頭頂葉、側頭葉で代謝の上昇、帯状回での代謝の低下が有意に観察され治療により心理的反応があった可能性が示唆さ
れた。症例が少ないので結論は難しいが、脳画像が鋭敏である可能性が示唆された。質問紙法に脳機能画像を加えること
で情報量は、明らかに増えると期待される。
■ 4.5.期待される今後の展開
4.5.1 新たな医工学的評価方法の開発
代替医療では、脳と身体の相互作用が重視される。西洋的手法では、プラシーボ効果とみなされるものも、適切な方法
で適切な時期に施せば、効果を期待できることがある。しかし、どのような症例にどのような時期に療法を加えるかということ
は、経験に頼っているのが現状である。代替療法に普遍性と再現性を持ち込むことが本研究の目的のひとつである。この
ためのアプローチには、少なくても二つある。ひとつは、治療症例のデータベースを作成すること、もうひとつは、体質、体調
の科学的分類法の開発である。これらは、性格、免疫系機能、自律神経系機能の評価が有用である。各種パラメータの安
静時トーンの測定に加えて心理的身体的負荷をかけた際の応答性が重要となる。
新たな評価方法の開発には、医工学的開発研究が必要となる。特に、自律神経機能の評価装置の開発を行うことにな
る。唾液の分泌、発汗、流涙、立毛、瞳孔の大きさなど、既に、個別の評価装置はあるが使いにくかったり、携帯性にかけ
たものが多い。また、データの解析方法もアナログ的に定量性に乏しい。本研究では、複数の自律神経機能を評価できる
携帯型計測装置の開発を目標とする。そして得られたデータは、機能画像的手法、たとえば、fMRI、PET、光計測での客
観的指標と比較されることになる。
43
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図 9.食道癌がん患者に対しての放射線化学療法を行った前後での脳活動の変化。
相対的活動昂進部位(図左)と低下部位(図右)を示す。
4.5.2 代替医療の医工学的評価
西洋科学では、群間比較が主体となるのに対して、代替医療の基盤は、個体差の科学である。このための統計的手法は、
十分確立されていない。ひとつの方法は、大きな正常データベースを構築することである。そして、このデータベースからは
み出た個人を探していく。一般科学では、このような outlier は、棄却されることになるが、代替医療の科学では、これらが、
あらたなデータベースを形成していくことになる。おなじような outlier が複数現れる場合、これは、新たなグループを形成す
る可能性を持つ。最終的には、このような特異的集団を極として、正常データベースを再分類できる可能性がある。本研究
では、正常データベースの構築と outlier の事例報告データベースの構築を目標とする。
■ 引用文献
i
http://nccam.nih.gov/research/extramural/awards/2004/index.htm
ii
Olds, J.
The central nervous system and the reinforcement of behavior.
1969 (24(2)) pp 114-132 Am. Psychol.
iii
Koepp,MJ. Gunn,RN. Lawrence,AD. Cunningham,VJ. Dagher,A. Jones,T. Brooks,DJ. Bench,CJ. Grasby,PM.
iv
Becerra, L. Breiter, H C. Wise, R. Gonzalez, R G. Borsook, D. Reward circuitry activation by noxious thermal stimuli.
Evidence for striatal dopamine release during a video game. 1998 (393(6682)) pp 266-268
2001 (32(5)) pp 927-946 Neuron
v
Nakano T, Wenner M, Inagaki M, et al. Relationsihp between distressing cancer-related recollections and hippocampal
volume in cancer survivors. Am J Psychiatry. 2002;159:2087-2093.
vi
Tashiro M, Kubota K, Itoh M, et al. Hypometabolism in The Limbic System of Cancer Patients Observed by Positron
Emission Tomography, Psycho-oncology, 1999;8: 283-286
44
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
vii
Tashiro M, Juengling FD, Reinhardt JM, et al. Reproducibility of PET Brain Mapping of Cancer Patients.
Psycho-oncology, 2000; 9:157-63
viii
Tashiro M, Juengling F, Reinhardt M, et al. (2000)
Psychological response and survival in breast cancer (letter).
Lancet, 355, 405-40
ix
Drevets WC, et al. Subgenual prefrontal cortex abnormalities in mood disorders. Nature 1997;386:324-329
x
Wu MT, Hsieh JC, Xiong J, Yang CF, Pan HB, Chen YC, Tsai G, Rosen BR, Kwong KK. Central nervous pathway for
acupuncture stimulation: localization of processing with functional MR imaging of the brain--preliminary experience.
Radiology 1999; 212:133-141
xi
Napadow V, Makris N, Liu J, Kettner NW, Kwong KK, Hui KK. Effects of electroacupuncture versus manual
acupuncture on the human brain as measured by fMRI. Human Brain Mapping 2004; 24:193-205
xii
Hui KK, Liu J, Makris N, Gollub RL, Chen AJ, Moore CI, Kennedy DN, Rosen BR, Kwong KK. Acupuncture
modulates the limbic system and subcortical gray structures of the human brain: evidence from fMRI studies in normal
subjects. Human Brain Mapping 1999; 21:13-25
xiii
Hsieh JC, Tu CH, Chen FP, Chen MC, Yeh TC, Cheng HC, Wu YT, Liu RS, Ho LT. Activation of the hypothalamus
characterizes the acupuncture stimulation at the analgesic point in human: a positron emission tomography study.
Neurosci Lett 2000; 9:105-108
xiv
Itoh M, Endo M, Kanazawa M, Miyake M, Joeng M, Yamaguchi K, Fukudo S. Functional brain mapping during
electrical stimulation of the Hegu, an acuspot of the hand. J International Society of Information Science 2001;
19:367-372
xv
Yoo SS, Teh EK, Blinder RA, Jolesz FA. Modulation of cerebellar activities by acupuncture stimulation: evidence from
fMRI study. Neuroimage 2004; 22:932-940
xvi
Wu MT, Sheen JM, Chuang KH, Yang P, Chin SL, Tsai CY, Chen CJ, Liao JR, Lai PH, Chu KA, Pan HB, Yang CF.
Neuronal specificity of acupuncture response: a fMRI study with electroacupuncture. Neuroimage 2002; 327:1028-1037
xvii
Cho ZH, Chung SC, Jones JP, Park JB, Park HJ, Lee HJ, Wong EK, Min BI. New findings of the correlation between
acupoints and corresponding brain cortices using functional MRI. Proc Natl Acad Sci U S A 1998; 95:2670-2673
xviii
Siedentopf CM, Golaszewski SM, Mottaghy FM, Ruff CC, Felber S, Schlager A. Functional magnetic resonance
imaging detects activation of the visual association cortex during laser acupuncture of the foot in humans. Neurosci
Lett 2002; 327:53-56
xix
Li G, Cheung RT, Ma QY, Yang ES. Visual cortical activations on fMRI upon stimulation of the vision-implicated
acupoints. Neuroreport 2003; 18:669-673
xx
Kong J, Ma L, Gollub RL, Wei J, Yang X, Li D, Weng X, Jia F, Wang C, Li F, Li R, Zhuang D. A pilot study of
functional magnetic resonance imaging of the brain during manual and electroacupuncture stimulation of acupuncture
point (LI-4 Hegu) in normal subjects reveals differential brain activation between methods. Journal of Alternative and
Complementary Medicine 2002; 8:411-419
xxi
Zhang WT, Jin Z, Cui GH, Zhang KL, Zhang L, Zeng YW, Luo F, Chen AC, Han JS. Relations between brain network
activation and analgesic effect induced by low vs. high frequency electrical acupoint stimulation in different subjects: a
functional magnetic resonance imaging study. Brain Res 2003; 67:168-178
xxii
Litscher G, Rachbauer D, Ropele S, Wang L, Schikora D, Fazekas F, Ebner F. Acupuncture using laser needles
modulates brain function: first evidence from functional transcranial Doppler sonography and functional magnetic
resonance imaging. Lasers in Medical Science 2004; 19:6-11
xxiii
Li G, Huang L, Cheung RT, Liu SR, Ma QY, Yang ES. Cortical activations upon stimulation of the
sensorimotor-implicated acupoints. Magn Reson Imaging 2004; 46:639-644
45
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
xxiv
Chiu JH, Chung MS, Cheng HC, Yeh TC, Hsieh JC, Chang CY, Kuo WY, Cheng H, Ho LT. Different central
manifestations
in
response
to
electroacupuncture
at
analgesic
and
nonanalgesic
acupoints
in
rats:
a
manganese-enhanced functional magnetic resonance imaging study. Can J Vet Res 2003; 67:94-101
xxv
Lee JD, Chon JS, Jeong HK, Kim HJ, Yun M, Kim DY, Kim DI, Park CI, Yoo HS. The cerebrovascular response to
traditional acupuncture after stroke. Neuroradiology 2003; 982:780-784
xxvi
de la Fuente-Fernandez R, Ruth TJ, Sossi V, Schulzer M, Calne DB, Stoessl AJ. Expectation and dopamine release:
mechanism of the placebo effect in Parkinson's disease. Science 2001; 293:1164-1166
xxvii
Levine JD, Gordon NC, Fields HL. The mechanism of placebo analgesia. Lancet 1978; 2:654-657
xxviii
Petrovic P, Kalso E, Petersson KM, Ingvar M. Placebo and opioid analgesia-- imaging a shared neuronal network.
Science 2001; 293:1737-1740
xxix
Wager TD, Rilling JK, Smith EE, Sokolik A, Casey KL, Davidson RJ, Kosslyn SM, Rose RM, Cohen JD.
Placebo-Induced Changes in fMRI in the Anticipation and Experience of Pain. Science 2004; 303:1162-1167
xxx
Lieberman MD, Jarcho JM, Berman S, Naliboff BD, Suyenobu BY, Mandelkern M, Mayer EA. The neural correlates of
placebo effects: a disruption account. Neuroimage 2004; 303:447-455
xxxi
Mayberg HS, Silva JA, Brannan SK, Tekell JL, Mahurin RK, McGinnis S, Jerabek PA. The functional neuroanatomy of
the placebo effect. Am J Psychiatry 2002; 295:728-737
xxxii
Rainville P, Hofbauer R, Paus T, Duncan G, Bushnell M, Price D. Cerebral mechanisms of hypnotic induction and
suggestion. Journal of Cognitive Neuroscience 1999; 11:110-125
xxxiii
Derbyshire SW, Whalley MG, Stenger VA, Oakley DA. Cerebral activation during hypnotically induced and imagined
pain. Neuroimage 2004; 23:392-401
xxxiv
Singer T, Seymour B, O'Doherty J, Kaube H, Dolan RJ, Frith CD. Empathy for pain involves the affective but not
sensory components of pain. Science 2004; 303:1157-1162
xxxv
Gundel H, O'Connor MF, Littrell L, Fort C, Lane RD. Functional neuroanatomy of grief: an FMRI study. Am J
Psychiatry 2003; 54:1946-1953
xxxvi
Gemar MC, Kapur S, Segal ZV, Brown GM, Houle S. Effects of self-generated sad mood on regional cerebral
activity: a PET study in normal subjects. Depression 1993; 150:81-88
xxxvii
Zald DH, Pardo JV. Emotion, olfaction, and the human amygdala: amygdala activation during aversive olfactory
stimulation. Proc Natl Acad Sci U S A 1997; 94:4119-4124
xxxviii
Zald D, Donndelinger M, Pardo J. Elucidating dynamic brain interactions with across-subjects correlational analyses
of positron emission tomographic data: the functional connectivity of the amygdala and orbitofrontal cortex during
olfactory tasks. J Cereb Blood Flow Metab 1998; 18:896-905
xxxix
Kosslyn S, Shin L, Thompson W, McNally R, Rauch S, Pitman R, Alpert N. Neural effects of visualizing and
perceiving aversive stimuli: a PET investigation. Neuroreport 1996; 7:1569-1576
xl
Dougherty DD, Shin LM, Alpert NM, Pitman RK, Orr SP, Lasko M, Macklin ML, Fischman AJ, Rauch SL. Anger in
healthy men: a PET study using script-driven imagery. Biol Psychiatry 1999; 46:466-472
xli
Kimbrell TA, George MS, Parekh PI, Ketter TA, Podell DM, Danielson AL, Repella JD, Benson BE, Willis MW,
Herscovitch P, Post RM. Regional brain activity during transient self-induced anxiety and anger in healthy adults. Biol
Psychiatry 1999; 46:454-465
xlii
Reiman,EM. Raichle,ME. Robins,E. Mintun,MA. Fusselman,MJ. Fox,PT. Price,JL. Hackman,KA. Neuroanatomical
correlates of a lactate-induced anxiety attack. 1989 (46(6)) pp 493-500
xliii
Arch Gen Psychiatry
Zubieta JK, Heitzeg MM, Smith YR, Bueller JA, Xu K, Xu Y, Koeppe RA, Stohler CS, Goldman D. COMT val158met
genotype affects mu-opioid neurotransmitter responses to a pain stressor. Science 2003; 299:1240-1243
46
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
xliv
Hariri AR, Mattay VS, Tessitore A, Kolachana B, Fera F, Goldman D, Egan MF, Weinberger DR. Serotonin
transporter genetic variation and the response of the human amygdala. Science 2002; 297:400-403
xlv
Bench, C J. Friston, K J. Brown, R G. Frackowiak, R S. Dolan, R J. Regional cerebral blood flow in depression
measured by positron emission tomography: the relationship with clinical dimensions.
xlvi
1993 (23(3)) pp 579-590
Drevets WC, Videen TO, Price JL, Preskorn SH, Carmichael ST, Raichle ME. A functional anatomical study of
unipolar depression. J Neurosci 1992; 12:3628-3641
xlvii
Drevets WC, Price JL, Simpson Jr JR, Todd RD, Reich T, Vannier M, Raichle ME. Subgenual prefrontal cortex
abnormalities in mood disorders. Nature 1997; 386:824-827
xlviii
xlix
Drevets WC. Neuroimaging abnormalities in the amygdala in mood disorders. Ann N Y Acad Sci 2001; 11:420-444
Heit S, Owens MJ, Plotsky P, Nemeroff CB. Corticotropin-releasing Factor, Stress, and Depression. Neuroscientist
1997; 3:186-194
l
Kunzel HE, Zobel AW, Nickel T, Ackl N, Uhr M, Sonntag A, Ising M, Holsboer F. Treatment of depression with the
CRH-1-receptor antagonist R121919: endocrine changes and side effects. J Psychiatr Res 2003; 985:525-533
li
Shin LM, Dougherty DD, Orr SP, Pitman RK, Lasko M, Macklin ML, Alpert NM, Fischman AJ, Rauch SL. Activation of
anterior paralimbic structures during guilt-related script-driven imagery. Biol Psychiatry 1999; 46:43-50
lii
Aftanas LI, Golocheikine SA. Human anterior and frontal midline theta and lower alpha reflect emotionally positive
state and internalized attention: high-resolution EEG investigation of meditation. Neurosci Lett 2001; 310:57-60
liii
Nitschke JB, Nelson EE, Rusch BD, Fox AS, Oakes TR, Davidson RJ. Orbitofrontal cortex tracks positive mood in
mothers viewing pictures of their newborn infants. Neuroimage 2003; 160:583-592
liv
Mima T, Oluwatimilehin T, Hiraoka T, Hallett M. Transient interhemispheric neuronal synchrony correlates with object
recognition. J Neurosci 2001; 21:3942-3948
lv
Knyazeva MG, Kiper DC, Vildavski VY, Despland PA, Maeder-Ingvar M, Innocenti GM. Visual stimulus-dependent
changes in interhemispheric EEG coherence in humans. J Neurophysiol 1999; 82:3095-3107
lvi
Towle VL, Syed I, Berger C, Grzesczcuk R, Milton J, Erickson RK, Cogen P, Berkson E, Spire JP. Identification of the
sensory/motor area and pathologic regions using ECoG coherence. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1998;
106:30-39
lvii
Gross J, Kujala J, Hamalainen M, Timmermann L, Schnitzler A, Salmelin R. Dynamic imaging of coherent sources:
Studying neural interactions in the human brain. Proc Natl Acad Sci U S A 2001; 98:694-699
lviii
Manganotti P, Gerloff C, Toro C, Katsuta H, Sadato N, Zhuang P, Leocani L, Hallett M. Task-related coherence and
task-related spectral power changes during sequential finger movements. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1998;
109:50-62
lix
Weiss S, Muller HM, Rappelsberger P. Theta synchronization predicts efficient memory encoding of concrete and
abstract nouns. Neuroreport 2000; 11:2357-2361
lx
Vigario R, Sarela J, Jousmaki V, Hamalainen M, Oja E. Independent Component Approach to the Analysis of EEG and
MEG Recordings. IEEE Trans Biomed Eng 2000; 47:589-593
lxi
Watanabe E, Yamashita Y, Maki A, Ito Y, Koizumi H. Non-invasive functional mapping with multi-channel near
infra-red spectroscopic topography in humans. Neurosci Lett 1996; 205:41-44
lxii
MamiKIDO、Kohei KUSHITA : Biophysica1 Measurements When Practicing Zen and Qi-gong by the
same subject、
Joumal oflntcmationa1 Society ofLife lnformation Science、15(I)、191-199、1997
lxiii
Maml KIDO、Tadashi SATO : Measurements of Biophysical and Menta1 E 氏 cts due to Remote Qi healing、Joumal of
lntemationa1 Society of Life lnformation Scienceヽ19(1)、200-209、2001
lxiv
SHEN Z、ITOH T、ASAYAIVIA M : The Change of Cerebra1 Functions during Bixi Breathing Exercise as observed by
47
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
optical Topography、Joumal of lntcmational Society of Life lnformation Science、21(1)、268-525277、2003
lxv
Litscher, G. Wenzel, G. Niederwieser, G. Schwarz, G. Effects of QiGong on brain function. 2001 (23(5)) pp 501-505
Neurol Res
lxvi
Boenoeczka P、Panczelb G, Nagy,Z. : Vinpocetine increases cerebral blood now and oxygenation in stroke patients: a
ncar infi^afed spectroscopy and transcrania1 Doppler study. European Joumal of Ultrasound、15(1,2)、85-91、2002
lxvii
Vas, A. Gulyas, B. Szabo, Z. Bonoczk, P. Csiba, L. Kiss, B. Karpati, E. Panczel, G. Nagy, Z. Clinical and
non-clinical investigations using positron emission tomography, near infrared spectroscopy and transcranial Doppler
methods on the neuroprotective drug vinpocetine: a summary of evidences.
lxviii
2002 (15(1-2)) pp 259-262
J Neurol Sci
陳偉中:光トポグラフィによる発気課題時の脳血液量変化の研究、人体科学会、12(2)、17-30 2003
lxix
UEDA Y.、KASHIBA H、ISHII M, YANAGIDA T、KITAMURA Y, SAEKI Y : Sound Efrect of a Music Box on EEG
Joumal of lntemational Society of Life lnformation Science、18(1)、269-275、2000
lxx
Gerhard Litscher G, Wang L, Niedcrwicscr G: Computer-aided Neuromonitoring techniques to Objectify thc effects of
Acupuncture in the Trcatmcnt of Migraine、The lnternat J Neuromonitoring 1(1), 2000
lxxi
Litscher G, Schikora D : Near-lnfared Spectroscopy for Objectifying Cerebra1 effects of Needle And Laser needle
Acupuncture. The lntenat J Neuromonitoring、3(1), 2003
lxxii
Arambula P, Peper E, Kawakami M, Gibney KH. The physiological correlates of Kundalini Yoga meditation: a study of
a yoga master. Appl Psychophysiol Biofeedback 2001; 26:147-153
lxxiii
Lazar SW, Bush G, Gollub RL, Fricchione GL, Khalsa G, Benson H. Functional brain mapping of the relaxation
response and meditation. Neuroreport 2000; 11:1581-1585
lxxiv
Lou HC, Kjaer TW, Friberg L, Wildschiodtz G, Holm S, Nowak M. A 15O-H2O PET study of meditation and the
resting state of normal consciousness. Human Brain Mapping 1999; 7:98-105
lxxv
Singh LN, Endo M, Yamaguchi K, Miyake M, Watanuki S, Jeiong MG, Itoh M. Imaging findings of the brain after
performing Yoga: A PET study. J Int Soc Life Inform Sci 2000; 18:521-524
lxxvi
Kjaer TW, Bertelsen C, Piccini P, Brooks D, Alving J, Lou HC. Increased dopamine tone during meditation-induced
change of consciousness. Brain Res Cogn Brain Res 2002; 13:255-259
lxxvii
) 伊藤正敏、Singh L N.、山口慶一郎、他:ヨガによる脳活動の変化に関する脳画像的研究、国際生命情報科学会誌、
20(2):pp. 473-479、2002
lxxviii
) Eysenck, H., Eysenck, S., Manual of the Eysenck Personality Questionnaire. Hodder and Stoughton, London. 155–
160, 1975
lxxix
) 鈴木伸一.嶋田洋徳.三浦正江.片柳弘司.右馬埜力也.坂野雄二.
信頼性・妥当性の検討
lxxx
新しい心理的ストレス反応尺度(SRS-18)の開発と
(4(1)) 22-29 行動医学研究,1997
) Friston,K J. Ashburner,J. Frith,C D. Poline,J-B. Heather,J D. Frackowiak,R S J. Spatial registration and
normalization of images
(2(3)) 165-189
Human Brain Mapping, 1995
lxxxi
) Friston, K J. Holmes, A. Poline, J B. Price, C J. Frith, C D.
Detecting activations in PET and fMRI: levels of
inference and power (4) 223-235 Neuroimage . 1996
lxxxii
Aaronson, N K. Ahmedzai, S. Bergman, B. Bullinger, M. Cull, A. Duez, N J. Filiberti, A. Flechtner, H. Fleishman, S B.
de Haes, J C. et, al.
The European Organization for Research and Treatment of Cancer QLQ-C30: a quality-of-life
instrument for use in international clinical trials in oncology. 1993 (85(5)) pp 365-376 J Natl Cancer Inst
48
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
5. 遺伝子・環境要因からの代替医療評価
■ 5.1 背景と目的
アレルギー疾患における遺伝子と環境要因の関係
本邦を含む先進諸国では、この 30 年間にアレルギー疾患の増加は著しく、発展途上国や経済的に急速な力をつけて
いる地域にもその傾向は見られる。アレルギー疾患は数多くの遺伝子と環境要因が複雑に絡み合って発症すると考えられ
ているが、この何十年間にヒトの遺伝子が突然変異した可能性は考えられず、急速なアレルギー疾患の増加は、遺伝的因
子を修飾する環境暴露やライフスタイル要因の変化によると考えられている 1)。特に、日本においては第二次世界大戦後、
急速な経済発展を遂げるとともに、それまでの生活とは一変して生活水準の向上や衛生環境の整備、予防接種による感染
症の低下などがアレルギー疾患の増加に関与していると考えられている。
この考えは Hygiene hypothesis と呼ばれ、1989 年に Strachan2)らは英国で 17,414 人を対象として、アレルギー疾患の有
病率と家族数、同胞数との関係を調べた。その結果、11 歳時と 23 歳時における花粉症および 1 歳までの湿疹の有病率は
年少の同胞数より年長の同胞数に大きく依存していることを明らかにした。この調査により Strachan は近年の少子化や清潔
志向による家庭内での同胞間の交叉感染の減少がアレルギー疾患の増加、さらに抗生物質の頻用などに関与していると
推察していたが、その後多くの研究により現在概ねこの理論が正しいことが証明されている。
アレルギー疾患と腸内細菌
新生児の免疫系は Th2 に傾いており、臍帯血リンパ球を刺激して産生されるサイトカインは大部分が IL-4,IL-5,などの Th2
型で IFNγのような Th1 型は少ない 3)。無菌マウスでは成長後も Th2 優位であり、IgE 抗体に対する経口免疫寛容の成立に
は、腸内細菌の存在が必須であることを証明している 4)。また、離乳直後に抗生物質で一過性に腸内細菌を除去すると、成
長してからも Th2 反応に傾いた免疫状態が続く 5)。乳幼児期における細菌刺激の低下は、免疫システムと Th1/Th2 の免疫バ
ランスの発達を阻害している可能性があり、アトピー性疾患発症の危険因子は、母親にアトピー性疾患の既往があること、百
日咳ワクチン接種の既往があることに加えて、2 歳までの抗生物質の投与歴があることが疫学的にも証明されている 6)。
エストニア(アレルギーが少ない)とスウェーデン(アレルギーが多い)の 2 国で 2 歳児の糞便中の細菌を調査した結果、ア
レルギー疾患児では好気性菌である Staphylococcus aureus(S.aureus)が有意に高く、Lactobacilli, Bifidobacteria は少なかっ
たことを示している 7)。日本においては、アレルギー児童では、Escherichia coli, Bacteroides vulgatus に対して有意に高い抗
体産生を認めたと報告されている 8)。これらの結果から、腸内細菌とアレルギー疾患との関係が明らかにされている。
アレルギー疾患の予防
アレルギー疾患のメカニズムである Hygiene hypothesis は感染症の原因となる細菌類だけでなく、食品等に含まれる乳
酸菌にも当てはまることが知られている。伝統的な暮らしを守り、乳酸菌で発酵させた食品を多く摂取する民族にアレルギ
ー疾患の発症頻度が低いという疫学的な報告がある。彼らの腸内には腸球菌や乳酸菌が多いことが報告されている。そこ
で、乳酸菌の経口摂取によって腸内細菌叢を変化させ、アレルギー疾患の発症予防を行う方法が考えられてきた。
その考えを基にして、疾病の予防や健康増進に役立つ三次機能(生体調節機能)として、機能性食品が生まれ、平成
13 年には厚生労働省により「保健機能食品制度」も創設された 9)。しかし、現在の市場には多くの機能性食品が出回ってい
るなか、その有効性、あるいはどのような対象者に有効か無効かの判別法は全く確立されておらず、そのため消費者の混
乱を招いていることは周知の事実である。現在、Neutrigenomics として食品成分の分析とそれに反応する遺伝子の解析が
行われているが、疾病の有無による対比研究は行われていない。従って、有効と判定されている機能性食品を対象に有効
者、無効者における個人差を規定する遺伝子的な背景を検討する手法を開発する必要がある。
そこで今回、本サブテーマにおいて様々な疾患を予防するのに有効とされる機能性食品に関して、効果のある対象者が
どのような遺伝子的背景を持つのかを明らかにするために、固定した疫学集団の調査を実施し、総合的な評価を行う。
そこで、白川班はアレルギー疾患と機能性食品の一つでアレルギー疾患に効果があると考えられているプロバイオティク
49
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
スを用いて、症例-対照研究を実施した。本調査にあたり、フィールドの要件としては、①人口の入れ替わりが少ない地域で
あること(後の追跡調査実施のため)、②市町村などの地方自治体が健康への取り組みに熱心であること、③大気汚染など、
他の発症要因が少ない地域であること、④ある程度の新生児の誕生が見込める、などである。これらの要件を満たす地域と
して熊本県阿蘇郡小国町(人口約 9,200 人)が選定された(図1)。京都大学と町の主要メンバーを中心に「代替医療による
健康な町づくり研究会」が発足されていた。この研究会では、プロバイオティクス関連企業への研究会参加の呼びかけ、機
能性食品や代替医療に関する町民の実態を把握するためのアンケートの実施等、代替医療による健康増進の取り組みを
行うための地ならしがなされていた。
また、平成 15 年 6 月には、市民産学官連携により代替医療の医科学的検証を行うプロジェクトとして「小国町代替医療
研究開発プロジェクト委員会」を発足した。委員会メンバーは小国町長、小国公立病院、小国町役場、小国町連合婦人会、
小国町教育委員会、JA 阿蘇、小国町保健師、杖立温泉健康の里づくり実行委員会、京都大学医学研究科、九州大学産
学連携センター、高知大学農学部、NPO 法人ウエルネス健康の森から成っている。
小国町
(人口約9200人
熊本県阿蘇郡小国町
図 1 プロバイオティクスによる成人の花粉症発症予防効果試験熊本県阿蘇郡小国町 フィールド
■ 5.2 臨床試験の実施
プロバイオティクスによる成人の花粉症発症予防効果試験
熊本県阿蘇郡小国町の協力者の下に臨床試験を実施した。対象者の募集は、行政の配布物として参加要請文書を配
布して行い、その後のスクリーニング検診でスギ花粉症と判定された成人 70 名を対象者とした。試験デザインは二重盲検
ランダム化比較試験とした。対象者にはプロバイオティクスの Enterococcus faecalis FK-23 もしくはプラセボを、スギ花粉が
飛散すると考えられるおよそ 2 ヶ月前から 6 ヶ月間(12-5 月)飲用するように指示を行い、両群で花粉によるアレルギー症状
等を比較検討する。
50
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
対象者
スギ花粉症の既往のある小国在住の成人。
試験参加者の募集は、行政の配布物として参加要請文書を配布して行った。花粉症を自己申告した者 90 名のうち、血
液検査および耳鼻咽喉科医の検査によりスギ花粉症と判定された 70 名を試験対象者とした。
試験デザイン
二重盲検ランダム化比較試験(プロバイオティクス投与群:プラセボ投与群=1:1)
食品
試験食品:Enterococcus faecalis FK-23 菌末(FK-23)0.9 g を含む顆粒製剤(1.8 g)
プラセボ:FK-23 をデキストリンに置き換えた顆粒製剤(1.8 g)
方法
サンプルを 1 日 2 包、スギ花粉飛散前の H15 年 12 月中旬から 26 週間投与した。
試験食品飲用中はアレルギー日記への鼻症状等の記載を行うように指示した。また、試験食品投与前・3 ヶ月後・スギ及
びヒノキ花粉の飛散季節終了後(試験食品投与終了後)には、担当の医師による鼻腔所見検診を行うと共に、血液検査
により、総 IgE 量・抗原特異的 IgE 量を測定した。
観察項目
質問票(試験前):属性、アレルギー症状の種類・重症度、生活・環境習慣、その他の疾病症状など
アレルギー日記:食品の飲用、鼻のアレルギー症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)、日常生活への支障度、薬の使用
鼻腔所見:下鼻甲介の浮腫、鼻粘膜の色調、鼻水の量
血液検査:一般生化学項目、総 IgE、抗原特異的 IgE(スギ・ハウスダスト・ダニ)
集計・解析
アレルギー日記の集計
“くしゃみ回数”“鼻をかんだ回数”“鼻づまりの程度”“日常生活への支障度”については、
① スギ花粉飛散季節の 2 月 13 日∼4 月 1 日(小国公立病院での花粉飛散計測による)
② 1 週間毎
の合計スコアをそれぞれ算出した。その後、合計スコアを、その期間の合計日記記入日数で割り、1 日あたりの平均スコ
アを求めた。
“内服”および“点鼻”に関しては、上記①、②それぞれの場合について、1 週間あたりの平均使用日数を算出した。
解析
アレルギー日記
第 1 週目の 1 日あたりの平均スコアをベースラインのスコア、スギ花粉飛散季節の 1 日あたりの平均スコアを花粉飛散
季節のスコアとした。各項目について、ベースライン時に対する花粉飛散期のスコアの変化量について両群の差の検
定をした(群間比較)。“くしゃみ回数”および“鼻をかんだ回数”には t 検定を、その他の項目(“鼻づまりの程度”“日
常生活の支障度”“1 週間あたりの内服日数”“1 週間あたりの点鼻日数”)には Mann-Whitney の U 検定を用いた。ま
た、各群でのベースライン時と花粉飛散期の比較(群内比較)では、“くしゃみ回数”と“鼻をかんだ回数”では対応の
ある t 検定により、その他の項目では Wilcoxon の符号付順位検定により差の検定を行った。
さらに、1 週間毎の平均スコア・標準偏差・中央値・最大値・最小値をもとめ、試験期間中の鼻症状等のスコアの経時
的変化を調べた。
51
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
血液検査
2 群間の“総 IgE 値”の差の検定には t 検定を、“スギ RAST クラス”の差の検定には U 検定を用いた。また、各群での
群内比較(投与前・3 ヶ月後・投与終了後の比較)には“総 IgE 値”では反復測定による一元配置分散分析を、“スギ
RAST クラス”では Friedman 検定を用いた。
鼻腔所見
2 群間の比較では U 検定を、各群での群内比較(投与前・3 ヶ月後・投与終了後の比較)では Friedman 検定を行った。
■ 5.3 結果
対象者
参加要請文書により集まってくださった方のうち、90 名が試験参加に同意した。そのうち、血液検査および耳鼻咽喉科
医の検査により、スギ花粉症と判定された 70 名を試験対象者とした。花粉飛散季節終了後検診まで参加いただいたのは
61 名であり、9 名が脱落した(図 2)。
脱落理由は、食品摂取による体調不良(2 名)、妊娠(1 名)、入院(1 名)、食品の継続摂取が面倒・不安になった(2 名)、忙
しかった・忘れていた等の理由で検診の受診がなかった(3 名)であった。
最後まで試験に参加していただけた試験対象者の年齢・性別等を表1に示した。
年齢、性別、BMI、総 IgE 値、スギ花粉症の重症度(スギ RAST スコア)において両群に差は認められなかった。
表 1 対象者の属性・過ぎ花粉症の重症度
スクリーニング
検診
90 名
FK-23
プラセボ
(参加同意者)
n
29
32
12:17
12:20
年齢(歳) ± S.E.
44.24 ± 2.06
41.91 ± 2.14
BMI ± S.E.
23.05 ± 0.53
22.29 ± 0.45
2.21 ± 0.45
2.01 ± 0.50
性別(男性:女性)
70 名: スギ花粉症
20 名: スギ花粉症
→ 試験対象者
試験対象者
投与
開始
70 名
でない
35 名: FK -23
35 名: プラセボ
3名
総IgE値 (log IU/ml)
脱落
3 ヶ月
検診
投与
終了後
検診
64 名
61 名
(87%)
(87%)
32 名: FK -23
32 名: プラセボ
29 名: FK -23
32 名: プラセボ
スギRAST[人数(%)]
3名
1
脱落
4 (13.8)
1 (3.1)
2
3 (10.3)
5 (15.6)
3名
3
11 (37.9)
17 (53.1)
脱落
4
5 (17.2)
7 (21.9)
5
4 (13.8)
1 (3.1)
6
2 (6.9)
1 (3.1)
図 2 試験対象者数の推移
表2 食品摂取状況(第 1 週目∼第 16 週目)
人数
1週間の食品の摂取数が
半数未満の週
欠測(日記紛失)
0
1
2
3
32
1
2
1
前半
後半
全て
2
9*1
6
欠測(記載なしの週あり)
8
合計
61
*1:前半で食品摂取数半数未満の週が
1週は4名、2週は1名
52
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
食品の摂取状況
投与開始週からスギ花粉飛散終了時(第 16 週)までの食品摂取状況を表2に示した。
1 週間あたりの食品摂取数が半数未満の週が連続してあったものは、記載のあった者のうち 2 名であった。そのうち 1 名
は 3 週連続で半数未満であったが、第 1 週目から第 3 週目までであり、スギ花粉飛散季節 1 ヶ月前の第 4 週からは食品の
摂取があったので、解析に加えることとした。
また、本報告の解析では、食品摂取数が半数未満の週があった者、欠測により不明であった者すべて含めた 61 名で行
うこととした。
アレルギー日記
試験対象者のうち、ベースライン時のデータがない(日記紛失)者 8 名、試験期間中の日記の記入が半分以下であった
者 2 名は解析から除外することとし、残りの 51 名で解析を行った。
花粉飛散期での検討
スギ花粉飛散期は小国公立病院でのスギ花粉飛散状況調査の結果により決定した。試験期間中のスギ花粉飛散数(個
/cm2)の推移を図3に示した。
今回は、スギ花粉の飛散が計測された 2 月 13 日∼4 月 1 日をスギ花粉飛散期とすることとした。
アレルギー日記のデータ集計に関しては、投与開始日から 1 週間(花粉飛散前)の 1 日あたりの平均スコアを baseline
データ、スギ花粉飛散期(2 月 13 日∼4 月 1 日)の 1 日あたりの平均スコアを花粉飛散期データとした。
日記の各項目の 1 日あたりの平均スコアを表 3 に示した。なお、“内服”および“点鼻”の項目に関しては、1 週間あたりの
平均使用日数の数値を示した。
baseline の“1 日あたりの平均くしゃみ回数”において、プラセボ群のほうが多く、両群に有意な差が認められた
(p=0.018)。
次に、baseline スコアに対する花粉飛散期スコアの変化量を調べた(表 4)。
<群間比較>
“1 週間あたりの内服回数”を除く全ての項目で、プラセボ群の方がスコアの変化が小さい、すなわちスギ花粉飛散前後
で症状の程度の変化が小さい傾向が認められた。また、“くしゃみ回数”および“鼻づまり程度スコア”の変化量において両
群に有意差が認められた(p=0.047、p=0.012)。
40
花粉飛散数(個/cm2)
35
30
25
20
15
10
5
0
2/10
2/17
2/23
2/27
3/4
3/10
月日
図 3 H16 年度 スギ花粉飛散量
53
3/16
3/22
3/29
4/2
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 3 Baseline および花粉飛散期のアレルギー日記スコア
花粉飛散前 (baseline)
中央値※
*
(最小値,最大値)
表 4 Baseline に対する花粉飛散期のスコア変化
花粉飛散期 (2月13日−4月1日)
中央値※
*
(最小値,最大値)
mean (S.D.)
前後の差
中央値
(最小値,最大値)
mean (S.D.)
mean (S.D.)
くしゃみ回数
FK-23 0.52 (0.71)
プラセボ 2.95 (4.99)
p値
0.018
0.14 (0.00, 2.71)
1.29 (0.00, 20.29)
0.010
2.93 (2.40)
3.39 (3.95)
0.627
2.40 (0.00, 11.00)
2.51 (0.00. 20.06)
0.992
鼻をかんだ回数
FK-23 1.77 (2.96)
プラセボ 2.65 (3.95)
p値
0.380
0.43 (0.00, 10.71)
1.17 (0.00, 16.71)
0.178
3.53 (3.25)
2.99 (4.64)
0.636
2.89 (0.00, 10.55)
0.89 (0.00, 16.19)
0.196
鼻水
鼻づまり程度
FK-23 0.33 (0.70)
プラセボ 0.59 (0.84)
p値
−
0.00 (0.00, 2.29)
0.14 (0.00. 3.0)
0.101
0.41 (0.46)
0.33 (0.41)
−
日常生活への支障度
FK-23 0.21 (0.60)
プラセボ 0.42 (0.82)
p値
−
0.00 (0.00, 2043)
0.00 (0.00, 2.71)
0.534
1週間あたりの内服日数
FK-23 1.33 (2.16)
プラセボ 0.31 (0.80)
p値
−
1週間あたりの点鼻日数
FK-23 0.33 (1.17)
プラセボ 0.15 (0.77)
p値
−
くしゃみ回数
FK-23
プラセボ
p値*1
p値
95%信頼区間
2.42 (2.36)
0.43 (4.21)
0.047
2.18 (-0.57, 11.00)
1.40 (-16.41, 5.92)
-
4.39E-05*2
0.596*2
(1.42, 3.41)
(-1.23, 2.10)
FK-23
プラセボ
p値*1
1.75 (2.40)
0.34 (4.82)
0.199
0.85 (-1.29, 7.92)
0.34 (-16.65, 11.47)
-
0.002*2
0.720*2
(0.74, 2.77)
(-1.57, 2.24)
0.20 (0.00, 1.43)
0.12 (0.00, 1.35)
0.304
鼻づまり
FK-23
プラセボ
p値※
0.08 (0.66)
-0.26 (0.67)
-
0.04 (-1.56, 1.43)
-0.02 (-2.04, 0.99)
0.012
0.232+
0.061+
-
0.22 (0.33)
0.18 (0.34)
−
0.02 (0.00, 1.16)
0.03 (0.00, 1.21)
0.985
日常生活への支障度
FK-23
0.07 (0.50)
プラセボ -0.24 (0.78)
p値※
0.00 (-1.48, 1.16)
0.00 (-2.69, 0.97)
0.318
0.140+
0.557+
-
0.00 (0.00, 7.00)
0.00 (0.00, 3.50)
0.066
0.65 (1.39)
0.41 (0.59)
−
0.00 (0.00, 5.81)
0.00 (0.00, 1.85)
0.568
1週間あたりの内服日数
FK-23 -0.68 (2.28)
プラセボ 0.09 (0.94)
p値※
0.00 (-7.00, 3.81)
0.00 (-3.00, 1.85)
0.056
0.182+
0.363+
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 1.79)
0.488
0.43 (1.35)
0.15 (0.44)
−
0.00 (6.43, 1.79)
0.00 (0.00, 1.79)
0.541
1週間あたりの点鼻日数
FK-23
0.10 (1.87)
プラセボ 0.00 (0.66)
※
p値
0.00 (-5.00, 6.43)
0.00 (-2.71, 1.79)
0.628
0.612+
0.715+
-
*: t検定
※: Mann-whitney検定
*1: t検定、*2:対応のあるt検定
※: Mann-whitney検定
+: wilcoxonの符号付順位検定
<群内比較>
各々の群で baseline スコアと花粉飛散期スコアについて差の検定を行った。その結果、FK-23 群の“くしゃみ回数”およ
び“鼻をかんだ回数”で有意な差が認められた(p=4.39E-05、p=0.002)。
表 3 のデータおよび表 3,4 で得られた検定結果を図 4 にまとめた。
5
4
く
6
*
FK-23
プラセ ボ
鼻をかんだ回数(回/day)
くしゃみ回数(回 /day)
6
3
2
1
0
3
2
1
0.6
0.4
0.2
花 粉 飛 散前
花 粉飛 散 前
日常生活への支障度(score/day)
鼻づまりの程度(score/day)
鼻づまり
0.0
1.0
1.5
1.0
0.5
常生活
0.6
0.4
0.2
0.0
花 粉飛 散 前
週間あた
花粉 飛 散 期
0.8
花 粉 飛 散期
2.0
点鼻日数(日/week)
内服日数(日/week)
4
花粉 飛散期
0.8
2.0
鼻をかん
0
花粉 飛散前
1.0
5
花 粉 飛散 期
週間あた
1.5
1.0
0.5
0.0
0.0
花粉飛散前
花粉 飛 散前
花粉飛散期
花 粉 飛散 期
*p<0.05 FK-23 群:プラセボ群(t 検定)、
※p<0.05 FK-23 群:プラセボ群 前後の差(くしゃみ;t 検定、鼻づまり;U 検定)、
+p<0.05,++<0.01 群内比較(対応のある t 検定)
図 4 アレルギー日記結果:花粉飛散前と花粉飛散期のスコア比較
54
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
1 週間毎の集計
投与開始日から 1 週間毎の平均スコア、標準偏差、中央値、最大値、最小値を表に、また、平均値と標準誤差の推移を
図に示した。図 5 はそのままのスコア、図 6 は baseline スコアを 0 とした、すなわち baseline からのスコアの変化量を示した
ものである。
くしゃみの回数
鼻をかんだ回数
8
8.00
プラセボ
6.00
4.00
2.00
くしゃみの回数
8
FK-23
6.00
6
くしゃみ回数(回/day)
鼻 をか んだ 回数 (回/day)
くしゃみ回数(回/day)
FK-23
4
2
鼻 をかん だ回 数(回/day)
8.00
プラセボ
4.00
2.00
0.00
-2.00
10
15
20
0
25
5
10
鼻づまりの程度
0.6
0.4
0.2
0.0
5
10
15
20
5
10
0.8
0.6
0.4
0.2
2.5
10
15
20
0.5
0.0
5
10
0.0
-0.2
-0.4
1.5
1.0
0.5
25
0.2
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
5
10
15
20
25
0
5
10
15
20
25
week
1週間あたりの内服日数
1週間あたりの点鼻日数
1.5
1.0
1.0
1.5
20
0.4
week
1週間あたりの点鼻日数
15
日常生活への支障度
0.6
0.2
0
内 服日 数(day/week)
点 鼻日 数(day/week)
1.0
0
week
0.4
25
2.0
1.5
25
鼻づまりの程度
week
2.0
20
-0.8
5
week
1週間あたりの内服日数
15
-0.6
0
0
week
0.6
25
2
-4
0
0.0
0
内 服日 数(day /week )
25
鼻 づまり程 度 (score/day)
0.8
2.5
20
日常生活への支障度
0.8
日 常生 活 への 支障 度 (score/day)
鼻 づまり程 度(score/day)
1.0
15
week
week
日 常生 活 への 支 障 度(score/day)
5
点 鼻日 数(day/week)
0
4
-2
-4.00
0
0.00
鼻をかんだ回数
6
0.5
0.0
-0.5
-1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
0.0
-1.5
-1.5
-0.5
-0.5
0
5
10
15
20
25
0
5
week
10
15
20
0
week
図 5 アレルギー日記結果:1 週間毎のスコア推移
-2.0
-2.0
25
5
10
15
20
25
0
5
week
図 6 アレルギー日記結果:1 週間毎のスコア推移
10
15
20
25
week
(baseline=0)
血液検査
最終まで試験参加していただけた対象者 61 名で解析を行った。
投与開始前、3 ヶ月後(スギ花粉飛散期)、投与終了後(6 ヶ月後・花粉飛散季節終了後)の 3 回、血液検査を実施した。
各群の対数変換後の“総 IgE 値”“スギ RAST スコア”の平均値、中央値等を表 7 に示した。さらに、投与開始前のデータ
を baseline とした、各観察時点のスコアの変化量を表 8 に示した。
<群間比較>
得られたデータについて、各観察時点毎に両群間で差の検定を行った。しかし、いずれの時点においても、両群に有意
差は認められなかった(表 5,6)。
<群内比較>
FK-23・プラセボ群それぞれで、投与前・3 ヶ月後・投与終了後で分散分析を行った(表 5)。その結果、FK-23・プラセボ
両群で、“総 IgE 値”“スギ RAST スコア”ともに有意な結果が得られた。
そこでそれぞれについて多重比較を行った。なお、“総 IgE 値”には Dunet の方法を用いた。“スギ RAST”には「投与前:
3 ヶ月後」「投与前:投与終了後」についてそれぞれ Wilcoxon の符号付順位検定を行い、有意確率が 0.05/2 より小さい組
み合わせを‘有意差あり’とすることとした。
ⅰ) 総 IgE 値
FK-23 群、プラセボ群ともに「投与前:3 ヶ月後」「投与前:投与終了後」で有意差が認められた(FK-23;p=0.003, p=0.001、
プラセボ;p=0.001, p=2.44E-04)。
55
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
ⅱ) スギ RAST スコア
FK-23 群では「投与前:投与用終了後」で有意差があり、p=0.025 であった。プラセボ群では 3 ヶ月後と投与終了後のス
コアが同様であり、「投与前:3 ヶ月後」「投与前:投与終了後」ともに有意差が認められた(p=0.014)。
なお、表 5,6 で得られたデータを図 7 に示した。
表 5 血液検査結果
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
総IgE値 (log IU/ml)
FK-23 2.21 (0.45)
プラセボ 2.01 (0.50)
0.111
p値*
2.15 (1.62, 3.25)
1.97 (1.23, 3.23)
-
2.16 (0.44)
1.96 (0.49)
0.093
2.11 (1.56, 3.20)
1.95 (1.18, 3.16)
-
2.15 (0.46)
1.95 (0.50)
0.104
2.04 (1.54, 3.31)
0.001
1.90 (1.15, 3.16) 1.32E-04
-
スギRAST
FK-23 3.28 (1.41)
プラセボ 3.16 (0.95)
p値※
3.00 (1.00, 6.00)
3.00 (1.00, 6.00)
0.697
3.14 (1.41)
2.97 (0.86)
-
3.00 (1.00, 6.00)
3.00 (1.00, 6.00)
0.534
3.10 (1.47)
2.97 (0.86)
-
3.00 (0.00, 6.00)
3.00 (1.00, 6.00)
0.539
mean
(S.D.)
投与終了後
mean
中央値
(S.D.)
(最小値,最大値)
p値+
0.030
0.002
-
*:t検定
※:U検定
+:反復測定によるANOVA(総IgE値)、Friedman検定(スギRAST)
表 6 血液検査結果(投与前を baseline とした場合)
mean
(S.D.)
総IgE値 (IU/ml)
FK-23
0 (0)
0 (0)
プラセボ
p値*
スギRAST
FK-23
プラセボ
p値※
0 (0)
0 (0)
-
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
投与終了後
mean
中央値
(S.D.)
(最小値,最大値)
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.49 (0.68) -0.35 (-1.85, 1.02) -0.45 (0.97) -0.49 (-2.68, 1.68)
-0.52 (0.83) -0.36 (-3.68, 1.28) -0.52 (1.06) -0.27 (-4.55, 1.20)
0.880
0.780
-
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.14 (0.35) 0.00 (-1.00, 0.00) -0.17 (0.38) 0.00 (-1.00, 0.00)
-0.19 (0.40) 0.00 (-1.00, 0.00) -0.19 (0.40) 0.00 (-1.00, 0.00)
0.609
0.881
*:t検定
※:U検定
56
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 7 鼻腔所見検査
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
下鼻甲介の浮腫
FK-23 1.76 (0.95)
プラセボ 2.25 (0.76)
p値※
2.00 (0.00, 3.00)
2.00 (1.00, 3.00)
0.044
1.66 (0.90)
1.58 (0.99)
-
2.00 (0.00, 3.00)
2.00 (0.00, 3.00)
0.822
0.61 (0.79)
0.60 (0.89)
-
0.00 (0.00, 2.00) 7.11E-06
0.00 (0.00, 2.00) 9.39E-08
0.759
-
鼻粘膜の色調
FK-23 2.00 (1.20)
プラセボ 2.09 (1.06)
p値※
3.00 (0.00, 3.00)
3.00 (0.00, 3.00)
0.745
1.24 (0.69)
0.94 (0.68)
-
1.00 (0.00, 3.00)
1.00 (0.00, 3.00)
0.038
0.96 (0.69)
0.77 (0.82)
-
1.00 (0.00, 3.00)
0.002
1.00 (0.00, 3.00) 1.22E-06
0.160
-
鼻水の量
FK-23 1.00 (0.96)
プラセボ 1.09 (1.06)
p値※
1.00 (0.00, 2.00)
1.00 (0.00, 3.00)
0.762
1.03 (0.68)
0.74 (0.63)
-
1.00 (0.00, 2.00)
1.00 (0.00, 2.00)
0.093
0.39 (0.50)
0.30 (0.47)
-
0.00 (0.00, 1.00)
0.00 (0.00, 1.00)
0.461
mean
(S.D.)
投与終了後
中央値
(最小値,最大値)
p値+
0.002
0.016
-
※:U検定
+:Friedman検定
表 8 鼻腔所見検査(投与前データを baseline とした場合)
mean
(S.D.)
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
投与終了後
中央値
(最小値,最大値)
下鼻甲介の浮腫
FK-23
0 (0)
0 (0)
プラセボ
p値※
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.10 (1.11) 0.00 (-3.00, 2.00) -1.14 (1.18) -1.00 (-3.00, 1.00)
-0.71 (1.01) -1.00 (-3.00, 2.00) -1.60 (1.16) -2.00 (-3.00, 1.00)
0.031
0.143
鼻粘膜の色調
FK-23
0 (0)
0 (0)
プラセボ
※
p値
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.76 (1.38) -1.00 (-3.00, 2.00) -1.00 (1.31) -1.50 (-3.00, 2.00)
-1.13 (1.15) -1.00 (-3.00, 1.00) -1.33 (1.09) -1.50 (-3.00, 1.00)
0.262
0.295
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
0.03 (0.98) 0.00 (-2.00, 2.00) -0.57 (0.92) -0.50 (-2.00, 1.00)
-0.35 (1.25) 0.00 (-3.00, 2.00) -0.77 (1.19) -0.50 (-3.00, 1.00)
0.188
0.491
鼻水の量
FK-23
プラセボ
p値※
0 (0)
0 (0)
※:U検定
57
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
4
総IgE値
総IgE値(log IU/ml)
FK-23
プラセボ
3
++
++
*
2
*
1
0
投与前
6
3ヶ月後
投与終了後
スギRASTクラス
スギRASTスコア
5
4
*
3
+
*
2
1
0
投与前
3ヶ月後
投与終了後
+p<0.05,++<0.01 FK-23 群の群内比較 [ 投与前:3 ヶ月後 or 投与終了後]
(IgE;ダネットの方法、スギ RAST;Wilcoxon の符号付順位検定)
* p<0.025,**<0.01 プラセボ群の群内比較 [ 投与前:3 ヶ月後 or 投与終了後]
(IgE;ダネットの方法、スギ RAST;Wilcoxon の符号付順位検定)
図 7 血液検査結果
鼻腔所見
投与開始前、3 ヶ月後、投与終了後の 3 回ともに受診のあった試験対象者 61 名で解析した。
各観察時点での“下鼻甲介の浮腫”“鼻粘膜の色調”“鼻水の量のスコア”を表 7 に示した。また、投与前のスコアを
baseline とした、各観察時点のスコアの変化量を表 8 示した。
<群間比較>
得られたデータについて、各観察時点毎に両群間で差の検定を行った。その結果、表 7 の場合において、“下鼻甲介の
浮腫スコア”で投与開始前に両群に有意差が認められ(p=0.044)、この差は 3 ヶ月後、投与終了後には認められなくなった。
また、“鼻粘膜の色調スコア”において、3 ヶ月後の時点で両群に有意差が認められた(表 7)。
そこで、投与前のスコアに対する 3 ヶ月後、投与終了後のスコアの変化量について FK-23・プラセボ群間で差の検定を
行った(表 8)。その結果、3 ヶ月後の“下鼻甲介の浮腫スコア”でプラセボ群のスコア変化量が小さく、両群に有意差が認め
られた(p=0.031)。
58
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 7 鼻腔所見検査
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
下鼻甲介の浮腫
FK-23 1.76 (0.95)
プラセボ 2.25 (0.76)
p値※
2.00 (0.00, 3.00)
2.00 (1.00, 3.00)
0.044
1.66 (0.90)
1.58 (0.99)
-
2.00 (0.00, 3.00)
2.00 (0.00, 3.00)
0.822
0.61 (0.79)
0.60 (0.89)
-
0.00 (0.00, 2.00) 7.11E-06
0.00 (0.00, 2.00) 9.39E-08
0.759
-
鼻粘膜の色調
FK-23 2.00 (1.20)
プラセボ 2.09 (1.06)
p値※
3.00 (0.00, 3.00)
3.00 (0.00, 3.00)
0.745
1.24 (0.69)
0.94 (0.68)
-
1.00 (0.00, 3.00)
1.00 (0.00, 3.00)
0.038
0.96 (0.69)
0.77 (0.82)
-
1.00 (0.00, 3.00)
0.002
1.00 (0.00, 3.00) 1.22E-06
0.160
-
鼻水の量
FK-23 1.00 (0.96)
プラセボ 1.09 (1.06)
p値※
1.00 (0.00, 2.00)
1.00 (0.00, 3.00)
0.762
1.03 (0.68)
0.74 (0.63)
-
1.00 (0.00, 2.00)
1.00 (0.00, 2.00)
0.093
0.39 (0.50)
0.30 (0.47)
-
0.00 (0.00, 1.00)
0.00 (0.00, 1.00)
0.461
mean
(S.D.)
投与終了後
中央値
(最小値,最大値)
p値+
0.002
0.016
-
※:U検定
+:Friedman検定
表8
mean
(S.D.)
投与前
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
3ヶ月後
中央値
(最小値,最大値)
mean
(S.D.)
投与終了後
中央値
(最小値,最大値)
下鼻甲介の浮腫
FK-23
0 (0)
0 (0)
プラセボ
p値※
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.10 (1.11) 0.00 (-3.00, 2.00) -1.14 (1.18) -1.00 (-3.00, 1.00)
-0.71 (1.01) -1.00 (-3.00, 2.00) -1.60 (1.16) -2.00 (-3.00, 1.00)
0.031
0.143
鼻粘膜の色調
FK-23
0 (0)
0 (0)
プラセボ
※
p値
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
-0.76 (1.38) -1.00 (-3.00, 2.00) -1.00 (1.31) -1.50 (-3.00, 2.00)
-1.13 (1.15) -1.00 (-3.00, 1.00) -1.33 (1.09) -1.50 (-3.00, 1.00)
0.262
0.295
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-
0.03 (0.98) 0.00 (-2.00, 2.00) -0.57 (0.92) -0.50 (-2.00, 1.00)
-0.35 (1.25) 0.00 (-3.00, 2.00) -0.77 (1.19) -0.50 (-3.00, 1.00)
0.188
0.491
鼻水の量
FK-23
プラセボ
p値※
0 (0)
0 (0)
※:U検定
<群内比較>
FK-23・プラセボ群それぞれで、投与前・3 ヶ月後・投与終了後で分散分析を行った(表 7)。その結果、FK-23・プラセボ
両群のすべての項目で有意な結果が得られた。
そこでそれぞれについて多重比較を行った。ここでは、「投与前:3 ヶ月後」「投与前:投与終了後」についてそれぞれ
Wilcoxon の符号付順位検定を行い、有意確率が 0.05/2 より小さい組み合わせを‘有意差あり’とすることとした。
ⅰ) 下鼻甲介の浮腫
FK-23 群では、「投与前:投与終了後」で有意差があり、p=2.18E-04 であった。プラセボ群では「投与前:3 ヶ月後」
「投与前:投与終了後」ともに有意差があり、それぞれ p=0.001、p=1.28E-05 であった。
59
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
ⅱ) 鼻粘膜の色調
FK-23 群、プラセボ群ともに「投与前:3 ヶ月後」「投与前:投与終了後」で有意差が認められた(FK-23;p=0.006,
p=0.001、プラセボ;p=1.23E-04, p=3.53E-05)。
ⅲ) 鼻水の量
FK-23 群、プラセボ群ともに「投与前:投与終了後」で有意差が認められた(FK-23;p=0.005、プラセボ;p=0.002)。な
お、表 7,8 で得られた結果を図 8 に示した。
下鼻甲介の浮腫
3
*
FK-23
※
浮腫スコア
プラセボ
2
○○
1
++
○○
0
投与前
3ヶ月後
投与終了後
鼻粘膜の色調
色調スコア
3
*
2
++
○○
++
○○
1
0
投与前
3ヶ月後
投与終了後
鼻水の量
2
1
++
○○
分泌スコア
3
0
投与前
3ヶ月後
投与終了後
*p<0.05 FK-23 群:プラセボ群(U 検定)、 ※p<0.05 FK-23 群:プラセボ群 投与前からの変化量(U 検定)
+p<0.05,++<0.01 FK-23 群の群内比較 [ 投与前:3 ヶ月後 or 投与終了後] (Wilcoxon の符号付順位検定)
〇p<0.05,○○<0.01 プラセボ群の群内比較 [ 投与前:3 ヶ月後 or 投与終了後] (Wilcoxon の符号付順位検定)
*参考 全血液検査結果
図 8 鼻腔所見検査結果
血液検査で得られた一般生化学項目およびアレルギー関連項目(ダニ・ハウスダスト)の結果を表 9-13 に示す。
60
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 9 血液検査結果:一般生化学項目(1)
m ean. (S .D .)
白 血 球 数 (/µl)
FK -23
6517 (1858)
プ ラ セ ボ 6578 (1277)
p 値*
0.883
赤 血 球 数 (万 /µl)
FK -23
445.3 (39.1)
プ ラ セ ボ 446.8 (56.1)
*
p値
0.903
H b (g/dl)
FK -23
13.70 (1.36)
プ ラ セ ボ 13.68 (1.70)
p 値*
0.956
H t (%)
FK -23
42.87 (3.78)
プ ラ セ ボ 42.48 (4.69)
*
p値
0.723
M CV (fl)
FK -23
96.34 (3.90)
プ ラ セ ボ 95.38 (5.56)
p 値*
0.444
M CH (pg)
FK -23
30.77 (1.65)
プ ラ セ ボ 30.71 (2.16)
*
p値
0.910
M CH C (%)
FK -23
31.94 (0.85)
プ ラ セ ボ 32.17 (1.03)
p 値*
0.347
血 小 板 数 (万 /µl)
FK -23
25.69 (5.04)
プ ラ セ ボ 27.08 (4.76)
*
p値
0.275
N a (m E q/l)
FK -23
142.8 (1.52)
プ ラ セ ボ 142.3 (1.68)
p 値*
0.279
K (m Eq/l)
FK -23
4.26 (0.23)
プ ラ セ ボ 4.45 (0.66)
p 値*
0.131
C l (m E q/l)
FK -23
102.5 (2.10)
プ ラ セ ボ 102.1 (2.24)
*
p値
0.484
C a (m g/dl)
FK -23
9.42 (0.28)
プ ラ セ ボ 9.57 (0.38)
p 値*
0.091
投与前
m edian (m ax, m in)
m ean. (S.D.)
3ヶ 月 後
m ed ian (m ax, m in)
投与終了後
m ean. (S .D .) m edian (m ax, m in)
5900 (4000, 11000) 6400 (1467) 6600 (4100, 9800) 67 76 (1487)
6500 (3600, 9300) 7031 (1632) 6650 (4300, 12200) 6900 (1 325)
0.119
0.732
6800 (4000, 9700)
6700 (4000, 9800)
p 値※
0.341
0.081
443.0 (376.0, 535.0) 460.8 (37.4) 457.0 (391.0, 543.0) 452.1 (38.4) 455.0 (367.0, 511.0)
432.5 (369.0, 572.0) 459.3 (49.4) 441.5 (372.0, 553.0) 451.4 (52.7) 431.0 (357.0, 557.0)
0.899
0.951
0.010
0.001
13.50 (11.00, 17.20) 14.00 (1.45) 13.90 (11.30, 17.50) 13.66 (1.56) 13.80 (10.60, 16.30)
13.10 (10.30, 17.40) 13.98 (1.68) 13.85 (10.00, 17.30) 13.68 (1.51) 13.25 (11.00, 17.00)
0.963
0.961
0.092
0.005
42.40 (35.60, 51.30) 43.87 (3.48) 43.80 (37.50, 52.60) 43.41 (4.16) 43.60 (35.00, 49.80)
41.20 (34.10, 53.40) 43.22 (4.43) 42.25 (33.90, 52.00) 42.72 (4.33) 41.55 (37.70, 52.00)
0.525
0.528
0.144
0.086
96.70 (87.50, 107.40) 95.32 (4.46) 94.10 (86.80, 105.30) 96.06 (4.71) 96.50 (83.20, 106.90)
94.95 (79.30, 108.10) 94.32 (5.82) 94.85 (76.00, 10 4.80) 94.98 (5.78) 95.45 (79.10, 111.50)
0.456
0.434
0.119
0.012
30.80 (26.90, 35.10) 30.39 (2.01) 30.50 (25.40, 35.30) 30.20 (1.99) 30.30 (24.40, 35.00)
30.65 (24.00, 34.70) 30.50 (2.44) 30.55 (22.40, 34.70) 30.43 (2.29) 30.75 (23.00, 35.00)
0.840
0.677
0.006
0.075
31.80 (29.40, 33.50) 31.88 (1.18) 32.00 (29.00, 34.00) 31.42 (1.16) 31.80 (28.00, 32.90)
32.10 (30.10, 34.70) 32.31 (0.99) 32.40 (29.50, 33.90) 32.02 (1.06) 32.20 (29.00, 34.40)
0.125
0.040
0.003
0.175
25.60 (16.10, 35.10) 25.67 (4.66) 25.20 (15.00, 36.30) 25.58 (4.98) 25.50 (15.60, 36.90)
25.85 (19.00, 36.30) 27.56 (5.32) 27.20 (20.00, 38.90) 26.92 (4.87) 26.40 (18.30, 34.20)
0.146
0.294
0.939
0.412
143.0 (140.0, 146.0) 143.6 (1.35) 144.0 (141.0, 146.0) 142.6 (1.53) 142.0 (140.0, 146.0)
142.0 (138.0, 146.0) 142.7 (1.80) 143.0 (137.0, 146.0) 142.6 (1.50) 143.0 (137.0, 146.0)
0.047
0.851
0.013
0.484
4.30 (3.80, 4.70)
4.30 (3.70, 7.40)
4.09 (0.27)
4.12 (0.31)
0.639
4.10 (3.60, 4.60)
4.10 (3.60, 5.10)
3.85 (0.28)
3.86 (0.23)
0.945
3.80 (3.30, 4.50)
3.85 (3.40, 4.50)
8.05-E08
1.66-E06
102.0 (99.0, 107.0)
102.0 (97.0, 107.0)
103.7 (1.81) 104.0 (101.0, 10 8.0) 103.9 (1.77) 104.0 (101.0, 108.0) 0.005
103.0 (2.20) 103.0 (99.0, 108.0) 10 3.9 (1.96) 104.0 (99.0, 109.0) 1.95-E05
0.168
0.927
9.40 (8.70, 10.00)
9.50 (8.80, 10.30)
9.24 (0.29)
9.38 (0.28)
0.061
9.20 (8.70, 9.90)
9.30 (8.80, 10.00)
*: 群 間 比 較 ・・・t検 定
※ : 群 内 比 較 ・・・対 応 の あ る 一 元 分 散 分 析
61
9.22 (0.40)
9.32 (0.36)
0.318
9.20 (8.50, 10.40)
9.30 (8.60, 10.10)
0.010
0.002
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 10 血液検査結果:一般生化学項目(2)
投与前
3ヶ月後
投与終了後
mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min)
尿素窒素: BUN (mg/dl)
FK-23 13.93 (2.48) 13.80 (9.50, 18.80)
プラセボ 15.21 (4.81) 13.95 (7.50, 30.40)
p 値*
0.194
14.05 (2.99) 14.10 (9.80, 21.50) 15.04 (3.45)
15.79 (3.45) 15.60 (10.30, 24.10) 16.96 (5.75)
0.040
0.123
クレアチニン: CRE (mg/dl)
FK-23
0.69 (0.12)
0.70 (0.40, 0.90)
プラセボ 0.71 (0.25)
0.70 (0.40, 1.80)
p 値*
0.752
0.67 (0.16)
0.71 (0.24)
0.517
0.60 (0.40, 1.10)
0.70 (0.40, 1.70)
尿酸: UA (mg/dl)
FK-23
5.03 (1.22)
プラセボ 5.01 (1.09)
p 値*
0.933
5.11 (1.29)
5.08 (1.23)
0.920
4.60 (3.30, 8.10)
5.00 (3.30, 7.40)
4.80 (3.30, 8.30)
4.90 (2.80, 7.00)
p 値※
14.20 (9.60, 24.00)
16.60 (8.50, 38.00)
0.085
0.026
0.68 (0.13)
0.71 (0.26)
0.619
0.60 (0.40, 0.90)
0.70 (0.40, 1.80)
0.332
0.937
5.07 (1.21)
5.23 (1.30)
0.616
4.60 (3.70, 8.50)
5.20 (2.70, 8.90)
0.798
0.122
AST: GOT (IU/l)
FK-23 21.97 (13.95) 19.00 (14.00, 90.00) 27.90 (49.59) 18.00 (14.00, 285.00) 19.90 (5.59) 18.00 (13.00, 36.00)
プラセボ 20.31 (6.81) 19.00 (11.00, 41.00) 19.31 (5.53) 17.50 (12.00, 32.00) 18.84 (4.55) 17.00 (12.00, 32.00)
p 値*
0.553
0.334
0.421
0.370
0.204
ALT: GPT (IU/l)
FK-23 20.31 (16.05) 16.00 (8.00, 90.00) 27.59 (49.64) 17.00 (9.00, 283.00) 19.48 (11.91) 16.00 (6.00, 59.00)
プラセボ 17.75 (9.07) 15.50 (8.00, 45.00) 18.53 (10.22) 15.50 (8.00, 50.00) 17.50 (8.99) 14.00 (8.00, 41.00)
p 値*
0.441
0.317
0.463
0.302
0.542
ALP (IU/l)
FK-23 213.4 (62.7) 196.0 (123.0, 358.0) 198.9 (59.3) 185.0 (111.0, 309.0) 197.6 (60.9) 197.0 (111.0, 354.0)
プラセボ 201.4 (50.1) 205.5 (111.0, 287.0) 198.8 (50.1) 201.0 (105.0, 311.0) 196.5 (55.8) 192.0 (89.0, 301.0)
p 値*
0.410
0.995
0.939
0.003
0.624
γ-GTP (IU/l)
FK-23 35.97 (39.53) 20.00 (11.00, 176.00) 37.90 (48.86) 20.00 (11.00, 200.00) 33.07 (44.66) 18.00 (9.00, 228.00)
プラセボ 31.50 (30.71) 19.50 (11.00, 148.00) 32.78 (33.58) 19.00 (11.00, 151.00) 36.13 (44.88) 19.00 (11.00, 195.00)
p 値*
0.622
0.633
0.791
0.539
0.336
血糖 (mg/dl)
FK-23 92.14 (12.96) 89.00 (77.00, 129.00) 90.48 (17.30) 89.00 (58.00, 150.00) 97.48 (16.70) 95.00 (69.00, 149.00)
プラセボ 99.00 (32.51) 88.00 (65.00, 234.00) 94.25 (30.70) 86.50 (63.00, 218.00) 91.66 (22.36) 84.00 (69.00, 166.00)
p 値*
0.277
0.563
0.258
0.137
0.290
*: 群間比較・・・t検定
※: 群内比較・・・対応のある一元分散分析
62
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 11 血液検査結果:一般生化学項目(2) (投与前データを baseliene とした場合)
投与前
3ヶ月後
mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min)
投与終了後
mean. (S.D.) median (max, min)
尿素窒素: BUN (mg/dl)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
0.12 (2.98)
0.58 (2.82)
0.532
0.60 (-7.30, 7.00)
0.95 (-6.90, 5.40)
1.11 (3.21)
1.76 (3.90)
0.479
1.40 (-5.60, 7.20)
1.75 (-7.30, 9.10)
クレアチニン: CRE (mg/dl)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-0.02 (0.09)
0.00 (0.05)
0.338
0.00 (-0.20, 0.30)
0.00 (-0.10, 0.10)
-0.01 (0.07)
0.00 (0.08)
0.588
-0.01 (-0.10, 0.10)
0.00 (-0.20, 0.20)
尿酸: UA (mg/dl)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
0.08 (0.63)
0.07 (0.55)
0.961
0.20 (-1.10, 1.40)
0.10 (-0.90, 1.50)
0.03 (0.65)
0.22 (0.63)
0.256
0.10 (-1.30, 2.10)
0.10 (-0.90, 2.00)
AST: GOT (IU/l)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
5.93 (36.49)
-1.00 (5.38)
0.292
ALT: GPT (IU/l)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
*
p値
0 (0, 0)
0 (0, 0)
7.28 (36.08) 1.00 (-11.00, 193.00) -0.83 (7.39) 0.00 (-31.00, 13.00)
0.78 (6.02) 0.00 (-17.00, 22.00) -0.25 (4.68) -1.00 (-11.00, 12.00)
0.320
0.714
ALP (IU/l)
FK-23
プラセボ
p 値*
0 (0)
0 (0)
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-14.59 (27.85) -12.00 (-77.00, 45.00) -15.83 (27.01) -12.00 (-64.00, 37.00)
-2.66 (29.98) 0.50 (-64.00, 65.00) -4.97 (32.42) -9.00 (-58.00, 79.00)
0.114
0.163
γ-GTP (IU/l)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
1.93 (21.45) 0.00 (-26.00, 101.00) -2.90 (21.45) -2.00 (-49.00, 88.00)
1.28 (17.53) 0.00 (-42.00, 82.00) 4.63 (24.52) 0.00 (-17.00, 126.00)
0.897
0.209
血糖 (mg/dl)
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値*
0 (0, 0)
0 (0, 0)
-1.66 (15.82) -1.00 (-39.00, 37.00) 5.34 (20.32) 6.00 (-52.00, 55.00)
-4.75 (22.36) -3.50 (-72.00, 52.00) -7.34 (31.03) -3.00 (-151.00, 40.00)
0.539
0.067
0.00 (-6.00, 195.00) -2.07 (10.31)
0.00 (-23.00, 6.00) -1.47 (5.29)
0.773
0.00 (-54.00, 4.00)
0.00 (-23.00, 5.00)
*: 群間比較・・・t検定
表 12 血液検査結果:ハウスダスト・ダニ
投与前
3ヶ月後
投与終了後
mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min)
ハウスダストRAST
FK-23 1.24 (1.46)
プラセボ 0.97 (1.31)
p 値※
p 値+
1.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 4.00)
0.452
1.14 (1.41)
0.91 (1.25)
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 4.00)
0.528
1.07 (1.33)
0.91 (1.35)
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 5.00)
0.529
0.022
0.565
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 5.00)
0.494
1.24 (1.48)
0.97 (1.26)
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 4.00)
0.547
1.17 (1.49)
0.91 (1.35)
-
0.00 (0.00, 5.00)
0.00 (0.00, 5.00)
0.489
0.449
0.417
-
ダニRAST
FK-23 1.24 (1.53)
プラセボ 1.00 (1.44)
p 値※
※:U検定
+:Friedman検定
63
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
表 13 血液検査結果:ハウスダスト・ダニ(投与前データを baseline とした場合)
投与前
3ヶ月後
投与終了後
mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min) mean. (S.D.) median (max, min)
ハウスダストRAST
FK-23
0 (0)
プラセボ
0 (0)
p 値※
0.00 (0.00, 0.00)
0.00 (0.00, 0.00)
-
-0.10 (0.31) 0.00 (-1.00, 0.00) -0.17 (0.38) 0.00 (-1.00, 0.00)
-0.06 (0.44) 0.00 (-1.00, 1.00) -0.06 (0.44) 0.00 (-1.00, 1.00)
0.707
0.320
ダニRAST
FK-23
プラセボ
p 値※
0.00 (0.00, 0.00)
0.00 (0.00, 0.00)
-
0.00 (0.38) 0.00 (-1.00, 1.00) -0.07 (0.37) 0.00 (-1.00, 1.00)
-0.03 (0.47) 0.00 (-1.00, 1.00) -0.09 (0.39) 0.00 (-1.00, 1.00)
0.771
0.796
0 (0)
0 (0)
※:U検定
■ 5.4 動物試験の実施
アレルギー動物モデルを用いたプロバイオティクスの検討
アレルギー疾患の予防には遺伝・環境要因を視野に入れた包括的研究が必須であると考えられるため、まずフィールド
を用いたヒト対象臨床試験から導き出された機能性食品とアレルギー反応の検討結果を、今後は遺伝子レベルまで解析を
行い、最終的に人体において機能性食品がどのような働きをしており、さらにアレルギー疾患における機能性食品の役割
について明らかにするために、ヒトに応用する前段階として動物モデルを用いて検討を行う必要がある。
今回の検討では、プロバイオティクスサンプルは、ヒトの腸管より単離した腸球菌、Enterococcus faecalis FK-23 で、これを大量
培養し、菌体のみを回収したものを溶菌酵素処理と加熱処理を行い最終的に LFK の作成を行い使用した(図 9)。この LFK は機
能性としてすでに高血圧低下作用、アレルギー抑制作用および皮膚疾患改善作用を有することが臨床試験で確認されている。
特徴が異なる 2 種類のマウスに投与を行いアレルギー疾患の炎症に関係する好酸球数の変化と遺伝的メカニズムを明
らかにした。アレルギー疾患には Th1/Th2 のバランスが重要であるため、特に Th2 優位の状態でアレルギー疾患が起こり
やすくなるため、マウスモデルでも Th2 免疫反応が高い BALB/c マウスを使用し LFK の投与を行った。同様の方法で Th1
免疫反応が高い C57BL/6 マウスを使用し、同じように FK-23 の投与を行った(図 10)。
実験過程
A:スギ抗原誘導好酸球の集積に対す LFK の効果
アレルギーモデルとして、“スギ花粉抗原誘発好酸球の集積モデル”を用いた。
マウスに LFK を 21 日間、連日経口投与しながら、5 回に渡り、スギ花粉抗原を背中の皮内に感作した。21 日目に腹腔
内にスギ花粉抗原を投与して惹起し、24 時間後に腹腔内に集積した細胞を回収して血球分画を行い検討した(図 11)。
図9
64
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
BALB/c
免疫学、薬理学分野で広く使用される
放射線による感受性が高い
喘息やアトピー性皮膚炎様反応が誘導できる
経口寛容が容易に誘導できる
Th2側の免疫反応が高い
C57BL/6
細胞性免疫の加齢による低下が少ない
自然発生腫瘍低発
白血病に対する感受性が高い
Th1側の免疫反応が高い
図 10 アレルギーモデルに用いたマウスの系統
LFK 経口投与
1
2
7
9
15
スギ抗原感作
(皮下投与)
図 11 実験の流れ図
21
惹起
(腹腔投与)
22/day
腹腔浸出細胞回収
細胞カウント
血球分類
スギ抗原誘導好酸球の集積に対する LFK の効果
65
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
■ 5.5 結果
a) スギ抗原誘導好酸球の割合と LFK の効果(図 12)
BALB/C 系マウスでは、control 群は 20%を示したのに対し、LFK 群は 13%と有意な好酸球の集積抑制が認められた。一
方、C57BL/6 系マウスでは、control 群で 30%と BALB/c 系マウスと比較して、明らかに好酸球の集積が多いことが判明した。
さらに、C57BL/6 系マウスの LFK 群では 29%と LFK の有効性が全く認められなかった。
b) スギ抗原誘導好酸球数と LFK の効果(図 13)
総白血球数に先ほどの好酸球の割合をかけて算出を行い、集積した絶対数を示す。
どちらの系統でも、総白血球数で Control 群と LFK 群の間に差は見られなかった。
BALB/c 系マウスでは control 群と比較して LFK 群は有意に低値を示した。一方、C57BL では、好酸球数も2倍以上多く、
さらに LFK 群投与による効果は見られなかった。
図 12 スギ抗原誘導好酸球の割合と LFK の効果
図 13 スギ抗原誘導好酸球数と LFK の効果
B:能動型皮膚アナフィラキシー(ACA)法による LFK の効果
能動型皮膚アナフィラキシー(ACA)法により、LFK の効果について検討を行った。
本実験系では、IgE 抗体に依存的であり、肥満細胞やヒスタミンが関与している系とされている。実験開始日から LFK を
21 日間連日経口投与し、その間にスギ花粉抗原を皮内に感作した。22 日目にはエバンスブルーを尾静脈内から投与し、
抗原を体側部皮内に投与して惹起を行う。惹起 30 分後にマウスの皮膚を切りだし、血管外に漏出したエバンスブルーを抽
出し、吸光度により定量する(図 14)。
結果
BALB/C 系マウスでは、control 群は 0.45 を示したのに対し、LFK 群は 0.29 と低い値を示した。一方、C57BL/6 系マウ
スでは、control 群で 0.7 と BALB/c 系マウスと比較して、明らかに高い反応を示した。これに対し、LFK 群は 0.61 と対照群
との間に明らかな差は認められなかった(図 15)。
66
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
LFK 経口投与
1
2
7
9
アナフィラキシーテスト
15
スギ抗原感作
(皮下投与)
図 14 実験の流れ図
30min
22/day
エバンスブルー 惹起
静脈内投与
(皮内)
皮膚切り出し
色素抽出・定量
能動型皮膚アナフィラキシー(ACA)の実験方法
C3H/HeNマウスとC3H/HeJマウス
高月齢で肝ガン高発
遺伝的網膜異常
揮発油・クロロホルムに対する死亡率が高い
Th1側の免疫反応が高いとされる
C3H/HeJマウスは、C3H/HeNと全く同一遺伝子であるが、
唯一、TLR-4に点突然変異を起こしており、LPSに非感受性である。
図 15 スギ抗原誘発 ACA と LFK の効果
図 16 LFK におけるアレルギー抑制効果の検討
C:LFK におけるアレルギー抑制効果の検討
プロバイオティクスによるアレルギー疾患の発症予防には、その菌体成分が関与しているのではないかと考えられている
が、そういった細菌を認識しているのは、抗原提示細胞に発現している Toll-like レセプター(TLR)である。現在、TLR とし
て 1-10 までの 10 種類が知られているが、例えば、TLR2 はグラム陽性菌等、TLR4 はグラム陰性菌等の認識に関与してい
ると考えられている 10)。摂取されたプロバイオティクスの何らかの成分は、こういった TLR を通じてシグナルを誘導していると
考えられる。従って、プロバイオティクスの効果における個人差は、このシグナルの誘導・発信などの違いによるものと考え
られる。そこで、本実験では C3H/HeN 系および C3H/HeJ マウスを用いて TLR 発現の差異によって、LFK 投与下におけ
るアレルギー反応として好酸球の状態を検討した。C3H/HeN 系および C3H/HeJ は高月齢で肝ガンの発症が高くなること
が知られており、さらに Th1 型の免疫が高いとされている。これらの2系統は、同一の遺伝子形質を持っていますが、唯一
“J”マウスで“TLR-4”に突然変異を起こしており、LPS に対して非感受性であることが特徴である(図 16)。
結果
a)
スギ抗原により誘導された好酸球の割合と LFK の効果
TLR-4 が機能する、LPS 感受性の C3H/HeN マウスは、ごく少数の好酸球の集積が見られた。一方、LPS 非感受性の
C3H/HeJ マウスは2倍以上の好酸球の集積が見られた。
2 系統のマウスにおける LFK の効果は、いずれの系統においても LFK は有意な抑制作用を示した(図 17)。
67
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
b) スギ抗原により誘導された好酸球の数と LFK の効果
好酸球の絶対数では、両系統とも control 群と比較して LFK 群では有意に減少を認めた(図 18)。
c) スギ抗原誘発 ACA と LFK の効果
C3H/HeN マウスは、control 群、LFK 群ともに 0.36 であり、LFK の効果は認められなかった。一方、C3H/HeJ マウスは
control 群が 0.27 であったのに対し、LFK 群は 0.18 と低下傾向を示した(図 19)。
図 17 スギ抗原により誘導された好酸球の割合と LFK の効果
図 18 スギ抗原により誘導された好酸球の数と LFK の効果
図 19 スギ抗原誘発 ACA と LFK の効果
68
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
■ 5.6 考察
アレルギー疾患とプロバイオティクス
腸内細菌とアレルギー疾患
近年、全世界的にアレルギー疾患の増加が報告されており、日本においても、昭和 30 年代には数%と報告されていた
罹患率が現在では 40%近くまで増加したといわれている。アレルギー疾患の原因は、ヘルパーT 細胞(Th)1 と Th2 のバラン
スが Th2 に傾くこと、インターロイキン(IL)4 や IL13 といった Th2 型サイトカインが増加し、免疫グロブリン(Ig)E が産生される
ことであると考えられている。アレルギー疾患は先進諸国で特に増加していることから、Th2 に傾いたバランスには、生活水
準の向上や予防接種、抗生物質の投与による感染症の低下といった環境因子が関係しているのではないかと考えられて
いる。この考えは Hygiene hypothesis と呼ばれるものであり、幼少期の感染とアレルギー疾患発症には逆の相関があるとい
う Strachan による報告に端を発する 10)。
新生児の免疫系は Th2 に傾いているのだが、動物実験において、無菌マウスでは成長後も Th2 優位であり、IgE に対す
る経口免疫寛容(抗原をあらかじめ経口投与することにより、全身の免疫反応が不応答になる現象)の成立には腸内細菌
の存在が必須であることが証明されている 11)。また、離乳直後に抗生剤で一過性に腸内細菌を除去すると、成長してからも
Th2 側に傾いた免疫状態が続くことも報告されている 12)。これらのことから、細菌刺激の低下が Th1/Th2 の免疫バランスの
発達を阻害している可能性が考えられる。
これまでに、エストニア(アレルギー罹患児が少ない)とスウェーデン(アレルギー罹患児が多い)で 2 歳の子供の糞便を
調べた結果、アレルギー罹患児では好気性菌の Staphylococcus aureus が有意に多く、Lactobacilli や Bifidobacteria は少
なかったことが報告されている
13)
。また、同グループの新生児から 2 年間の前向き調査では、アレルギー発症児は健常児
に比べて最初の 1 ヶ月の Enterococci と Bifidobacteria が少ないこと、生後 6 ヶ月の Staphylococcus aureus が多いこと、12
ヶ月の Bacteroides が少ない傾向を示していることが示されている
14)
。以上のような結果は、腸内細菌叢がアレルギー疾患
の発症に関連している可能性を示すものであると考えられる。
そこで今回はプロバイオティクスを用いて臨床試験および動物実験を行った。
検討に使用したプロバイオティクスとは「宿主の腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主に有益な作用をもた
らす、生きた微生物を含んだ食物製剤」と定義されるもので
15)
、近年、それらを含んだヨーグルトや飲料が機能性食品とし
て数多く販売されている。プロバイオティクスとして使われている代表的な細菌は、乳酸菌群(Lactobacillus, Streptococcus,
Bifidobacterium)である
16)
。乳酸菌は乳製品や発酵食品を作る際に古くから利用されてきた菌である。また、正常な腸内細
菌に含まれており、腸内環境を整える重要な役割も果たしている。プロバイオティクスについては、整腸作用のほかにも多く
の有用な作用を有する可能性が報告されており、発ガン予防やコレステロール低下作用、血圧低下作用等が、in vitro、動
物試験、ヒト試験などで確認されつつある
17)
。またアレルギーに関しては、前述したような腸内細菌叢との関連の報告をうけ、
予防に関する疫学的研究が盛んになってきている。
近年、フィンランドにおける二重盲検試験で、プロバイオティクスの 1 種である Lactobacillus GG を妊婦及び新生児に投
与することにより、アトピー性皮膚炎の発症が抑えられたという報告がなされた 18) 。これは、少なくとも 1 親等以内もしくはパ
ートナーにアトピー素因のある母親から産まれた子どもに対する試験であり、妊娠前には母親に、出産後には子どもに対し
て Lactobacillus GG を投与した結果、2 年後の追跡調査の時点で、アトピー性皮膚炎の発症がプラセボ群に比べておよそ
半分であったというものである。その後さらに 2 年追跡調査した結果においても、Lactobacillus GG 投与群の方がアトピー性
皮膚炎の発症率が低かったことが報告されている
19)
。これらの結果は、プロバイオティクスのアレルギー疾患予防への適応
性を示唆するものである。
本試験では、固定フィールドである小国町にて乳酸菌製剤 FK-23 のスギ花粉症発症予防効果を二重盲検ランダム化比
較試験により調べた。その結果、アレルギー日記による鼻症状や血液検査結果等いくつかの項目で、検定では FK-23 群と
プラセボ群とに有意差ありの結果が得られた。しかしいずれの場合も 2 群間のスコアに大きな差は認められなかった。試験
を実施した年度は、全国的にスギ花粉の飛散量の少なかったことが報告されている。小国町でも同様で、実施年度のスギ
花粉飛散量が例年よりも極端に少なかったことから、本試験の結果はそのことにも大きく影響されたものと考えられる。従っ
て、FK-23 の花粉症発症予防効果の確認に関しては今後再検討する必要もあると考える。また、FK-23 群の中でも効果の
69
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
認められた者と認められなかった者がいた。今後はその両者の違い(遺伝的背景やライフスタイル等)を明らかにし、効果
を確認していくことも肝要であると考えている。
アレルギー動物モデルを用いたプロバイオティクスの検討
プロバイオティクスによるアレルギー疾患の発症予防の仮説には、その菌体成分が関与しているのではないかと考えら
れているが、そういった細菌を認識しているのは、抗原提示細胞に発現している Toll-like レセプター(TLR)である。現在、
TLR として 1-10 までの 10 種類が知られているが、例えば、TLR2 はグラム陽性菌等、TLR4 はグラム陰性菌等の認識に関
与していると考えられている
20)
。摂取されたプロバイオティクスの何らかの成分は、こういった TLR を通じてシグナルを誘導
していると考えられる。従って、プロバイオティクスの効果における個人差は、このシグナルの誘導・発信などの違いによるも
のと考えられる。
そこで今回の検討では、Enterococcus faecalis FK-23 を溶菌酵素処理と加熱処理を行い最終的に LFK の作成を行い、
特徴が異なる 2 種類のマウスに投与を行いアレルギー疾患の炎症に関係する好酸球数の変化と遺伝的メカニズムを明ら
かにした。アレルギー疾患には Th1/Th2 のバランスが重要であるため、特に Th2 優位の状態でアレルギー疾患が起こりや
すくなるため、マウスモデルでも Th2 免疫反応が高い BALB/c マウスを使用し FK-23 の投与を行った。同様の方法で Th1
免疫反応が高い C57BL/6 マウスを使用し、同じように FK-23 の投与を行った。さらに LFK の効果を詳細に検討するため
に、異なる 2 種類の特徴を有するマウスを用いて検討を行った。この系統マウスでは自然免疫に関係している受容体の一
つであるトール様受容体(TLR)4 を有する C3H/HeN マウスと TLR4 がノックアウトされている C3H/HeJ マウスを用いた。そ
の結果、Th1 免疫反応が高い C57BL/6 マウスを除いて全てのマウスで好酸球数の低下が認められた。これらの結果から、
LFK の効果は好酸球を誘導する IL-5 を抑制していると考えられる。さらには、IL-5mRNA を発現する Th 細胞数は、好酸
球浸潤の程度と相関するため、LFK は Th 細胞においても抑制的に働いていると考えられた。しかし、LFK は TLR4 には関
係していないことが明らかとなった。従って、LFK の作用は TLR-2、5および6が関与していると仮説が成り立った。
上記の実験により LFK の効果が立証されたが、まだ一部でしかなくこの手法を繰り返し行うことにより、最終的に LFK の効
果を明らかにしていく。
さらには、これらの実験的手法は様々な機能性食品の効果を立証することが可能であり、また機能性食品以外のものに
関してもメカニズム解明が可能であると考えられる。
まとめ
このように現在、生活習慣病などの多因子疾患においては遺伝因子と環境因子の両面からアプローチするという取り組
みが行われており、これから高齢化社会に向けて低コストでより優れた病気の予防方法や治療プログラムが考案されていく
ものと期待される。アレルギー疾患に関しては、日本人では 40 以上の原因遺伝子が特定され、遺伝子間の相互関係や遺
伝子発現のメカニズムにライフスタイルや環境、精神的ストレスなどの心理的要因が関わっていることから、アレルギー疾患
の予防には遺伝・環境因子を視野に入れた包括的研究が必須であると考えられる。
■ 文献
1) Busse WW, Lemanske RF: Asthma. N Engl J Med 344: 350-362, 2001
2) Strachan DP: Hay fever, hygiene, and household size. BMJ 299: 1259-1260, 1989
3) 古賀泰裕:プロバイオティクスによる粘膜免疫制御、医のあゆみ 199(1):130-134,2001
4) Sudo N, et al: The requirement of intestinal bacterial flora for the development of an IgE production system fully
susceptible to oral tolerance induction. J Immunol 159(4): 1739-1745, 1997.
5) Oyama N, et al: Antibiotic use during infancy promotes a shift in the T(H)1/T(H)2 balance toward T(H)2-dominant
immunity in mice. J Allergy Clin Immunol 107(1): 153-159, 2001.
6) Farooqi IS, et al: Early childhood infection and atopic disorder. Thorax 53(11): 927-932, 1998..
70
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
7) Bjorksten B et al: The intestinal microflora in allergic Estonia and Swedish 2-year-old children. Clin Exp Allergy 29(3):
342-346, 1999.
8) 神谷太郎、他:アレルギー疾患における腸内細菌叢の影響.アレルギー 50(2-3): 288, 2001
9) 東京都健康局 他編:“健康食品取扱マニュアル 第 3 版”, 薬事日報社, 東京, pp.105 (2003).
10)Luke AJ O’Neill: Current Opinion in Pharmacology, 3, 396-403, (2003)
11)Strachan D P: Br. Med. J., 299, 1259-1260, (1989)
12)Sudo N. et al.: J. Immunol., 159, 1739-1745, (1997)
13)yama N. et al.: J. Allergy Clin. Immunol., 107, 153-159, (2001)
14)Bjorksten B. et al.: Clin. Exp. Allergy, 29, 342-346, (1999)
15)Bjorksten B. et al.: J. Allergy Clin. Immunol., 108, 516-520, (2001)
16)Fuller R. et al.: Probiotics in man and animals. J. Appl. Bacteriol., 66, 365-378 (1989).
17)金森豊 他: Probiotics −新しい臨床応用への展開−. 医のあゆみ, 198, 921-928 (2001).
18)Kalliomaki M. et al.: Probiotics on primary prevention of atopic disease: a randomized placebo-controlled trial. Lancet,
357, 1076-1079 (2001).
19)Kalliomaki M. et al.: Probiotics and prevention of atopic disease: 4-year follow-up of a randomized placebo-controlled
trial. Lancet, 361, 1869-1871 (2003).
20)Luke AJ O’Neill: Current Opinion in Pharmacology, 3, 396-403, (2003)
71
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
6. 評価方法の現状分析と新方法の開発
■ はじめに
代替医療はこれまで歴史の中でその評価体系が経験的に構築され、現在も多くの人々に利用されている。しかし、その
多くは科学的根拠が存在しない。その一方で、これらの代替医療は従来の科学的評価手法が適用できないことが指摘さ
れており、新たな科学的評価手法の確立が急務となっている。そこで、本研究グループでは、安全で有効性のあるエビデ
ンスの確立、医療としての情報提供体制の構築、エビデンス開発に関する標準技法の開発を目標とし、諸外国における代
替医療評価法の現状を把握すると共に、個体差を用いた代替医療の評価方法の検証を行った。
■ 6.1 諸外国における代替医療評価法の現状分析
第 5 回国際男性加齢学会
期間 平成 18 年 2 月 9−12 日
場所 オーストリア ザルツブルク
Aging Male 国際会議
第 5 回国際男性加齢学会に参加して、演題の発表、代替医療の個別化・標準化に関する情報の収集交換を行った。
内容
加齢現象は、従来非致死性疾患であることからアウトカムの設定が困難な状況であり、代替医療が対象とする検証方法と
重複する領域である。男性加齢による症候群は従来は一つの疾患概念として捉えられていなかった。本学会では、男性加齢
の現象がメタボリック症候群とも密接な関係にあることを中心課題として議論していた。今回の会議では、代替医療の男性加
齢への適応に関するセッションも企画され、標準化について議論がなされた。女性の更年期症状と同様に、多くの症候から
構成されており、現時点で症候、ホルモン、生化学的検査などを用いて診断基準を作成することができず、介入による効果に
ついて有用な指標が開発されていない。本学会では、代替医療の評価技法に関して、二つの側面から有効な議論が得られ
た。前者は、生活の質に関する疾患概念の構築に関するものであり、後者はアウトカムの設定による効果評価に関する議論
であった。前者の疾患概念の構築に関しては、対象者の特定を行う上で重要であり、男性加齢症候群に関しても著者らの発
表でも、複数のクラスターが形成されており、西洋医学の疾患概念で一つとして捉えられるものも、症候を詳細に記載すること
で複数のクラスターに記載できることから、従来の西洋医学の検証プロセスの前に疾患概念を細分化特定化する研究が必要
であることが視された。後者のアウトカムの設定については、国際的な標準調査票が企画されており、これも領域特定のアウト
カム評価に応用可能と考えられた。昨年来、分担研究では疾患特異的な改善指標と全般的 QOL 関連指標の検討を行って
きた。全般的 QOL 関連指標では、SF36(新版)が提案されてきている。代替医療が西洋医学の薬剤に比べ広い作用範囲を
持つことから、全般的 QOL 指標が望ましい一方、対象者の問題解決をアウトカムと設定する方法も調整する必要があると判
断した。また、男性加齢を metabolic syndrome のポータルサイト病態と位置づけてのセッションが持たれ、基盤となるテストス
テロンの評価法について議論が行われ、治療効果の代理指標としての意見が交換された。
第 1 回国際性差医学会
期間 平成 18 年 2 月 23−25 日
場所 ドイツ ベルリン
Gender Specific Medicine 国際会議
国際性差医学会に参加して、演題の発表、個別医療における病態解明と評価法に関する情報の交換を行った。
72
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
内容
本学会では、性差医学の視点は性差研究を通して病態の解明と治療法の個別化を研究する学会であることが総会で承認
され、国際的な研究機関として、情報の収集と発信、検証方法の確立、個別医療(personalized medicine)の確立を主旨とした
機関の設立を検討することが可決された。代替医療の持つ個別評価法との検討では、gender,genomics,timesome という視点
でのとらえ方が議論された。timesome は genomics で規定されている遺伝子発現をネットワーク捉えることで、単にゲノム上で
個人を規定するだけではなく、個体差を表現する領域であり、代替医療の個別性の規定に重要な情報が議論できた。 性差
医学は単に男女による疾患の相違を研究するだけではなく、性差に関連して起こる病態を解明することで診断治療に貢献す
る学術領域である。今回の学会では特に循環器系疾患と悪性新生物の性差に関する議論が中心であった。
第 11 回 Exeter symposium on complementary health care
イギリス、Exeter 2006 年 9 月 17−19 日
ヨーロッパで開催される代替医療に関する学会で、Exeter 大学が主催しており、11 回の歴史を有している。
プライマリケアにおける担癌患者に対する CAM,桑寄生(独活寄生湯)による NK 細胞活性、CAM とリスク認識、入浴サウ
ナによる心不全マーカーへの影響、慢性頚部痛に対する鍼灸療法、漢方療法への回帰の要因、アレルギー性皮膚炎に
対する CAM、統合か協調か、ホメオパシー調査の原案、腰痛に対する脊椎療法の根拠に関連したバイアス、初期乳癌患
者に対する NADA プロトコール、更年期女性の脂質プロフィールの変化に与える亜麻(Linum usitatissimum)、高血圧と肥
満患者に対するアスパラガス P の効果、光彩反射による医療パラメーター、2 型糖尿病患者への CAM、男性担癌患者の
CAM 使用に関する定性研究、獣医学における鍼灸療法の効果、カナダブルーベリによる非糖尿病特性、植物栽培に関
する調査、単一ブラインド法による腰痛に対する徒手療法の有効性評価、韓国におけるリウマチ患者への CAM の応用、
CAM の癌治療に関して患者が必要とする情報、アロマセラピーによる副作用報告システムの開発、鍼灸による頭痛治療、
アユールベーダの有効性評価、セントジョーンズワートによるうつ症状への効果、sabal and urtica extract による下部尿路症
状への効果、ラットを用いたサンザシ(山査子)による硬結性心不全の予防効果、Pelargonium sidoides による内因性毒素
関連疾患の予防、認知障害患者へのホメオパシーの効果、欧州 CAM 研究プログラム、北京における喘息学童への漢方
の適応、小児自閉症に対する代替療法、オステオパシー療法の患者満足度、Yin-Deficiency 質問表の評価、二重盲検法
によるストレス情緒障害の漢方療法、癌患者に対する CAM 研究チーム、ホメオパシー療法の英国における現状、パパイヤ
抽出物による抗加齢効果、伝統医学と CAM による腰痛、うつ、高血圧、喘息への効果、膝置換術後の不測の合併症、
Blankenstein Model を用いた自然療法の効果、セントジョーンズワースと Passiflora incarnata の組み合わせ療法の特性、末
梢動脈炎に対するチベット薬草療法、ホメオパシー療法の 1 年間の追跡調査、Silybum marianum (milk thistle)と indinavir
に関する RCT、霊気の効果、統合医療の選好について、イチョウ葉エキスによるミトコンドリア膜の安定化、英国におけるオ
ステオパシーの全国調査、水力マッサージによる腰痛効果、アレルギー性鼻炎に対する鍼灸の単一ブラインド調査、CAM
文献データベース、鍼灸によるかゆみ対策、癌に対する CAM データベース、減量に対する漢方の副作用、STRICTA ガイ
ドラインによる腰痛の鍼灸治療、腰痛に対する物理療法、抜歯後のホメオパシー療法、生理前・更年期症状に対する NHS
によるホメオパシーのアウトカム調査、思春期急性喘息発作に対する CAM の呼吸機能への効果、代替療法における定性
研究の意味、過敏性腸炎に対する睡眠療法に関する正しい介入と間違ったアウトカム、プライマリケアにおける CAM の記
録、癌治療におけるイメージ療法、CAM 適応後の最良最悪の事例、専門研究者におけるホメオパシーに対する認識、イチ
ョウ葉による血圧凝固効果のレビュー、医学部生の全人医療への関心、日本におけ得る温泉療法の病欠、入院治療への
影響、Vitis vinifera (grape seed) proanthocyanidins による心筋細胞への影響、喘息に対する CAM 使用に関する定性研究、
中枢神経機能への鍼灸治療による影響、韓国脳卒中リハビリセンターでの CAM 使用状況、術後疼痛に対するホメオパシ
ー療法、水治療法の多発神経症状への影響、小児の上気道炎に対するホメオパシーによる治療と予防、患者特性を分析
した無作為化試験が外的妥当性の検証、Bristol 病院における事前の意識調査、エネルギー療法と意識の相関、Buteyko
呼吸法の効果、ヨーロッパにおける CAM 医学教育、癌患者の根拠に対する認識、血液悪性腫瘍患者の積極的希望療法
の効果、癌代替治療の症候学的解釈、健常者への湿布剤の影響、鍼灸療法による神経学的解釈、オーストラリアにおける
CAM、28の代替療法に関する方法論的レビュー、日本における鍼治療による失神、代替療法の定性研究データベースの
73
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
構築、鍼灸治療による腰痛の系統的レビュー、喘息に対する鍼灸療法の信頼性の検証、中国語の QOL 調査票の信頼性
調査、さんざしの心不全治療という演題が報告されている。
表1 諸外国における代替医療評価報の現状分析
Workshop:qualitative research in complementary and alternative medicine
代替療法における定性研究と題するワークショップが開催され、代替療法の特性を考慮した際、有効性検証のために定
性研究と従来の RCT を代表とする定量研究の融合が必要であり、ワークショップが開催され代替医療の根拠作成の一つ
のガイドラインとして検討が行われた。
本ワークショップでの論点は 3 つであった。
1 定性研究が CAM 研究においてどのような場面で貢献できるのか
2 CAM の定性研究に利用されるデータは何か
3 CAM 定性研究における挑戦
であった。
定性研究が CAM 研究においてどのような場面で貢献できるのか
CAM においては、従来の西洋医学の介入と同等で考えていく場合、CAM 本来の個別性について考慮できない問題が
してきされ、固有な科学的評価が行われない問題が指摘されてきた。これまでの指摘事項として、CAM 本来の科学的根拠
とするためには、個別性について考慮することが求められていた。
個別性の議論のためには、固定した対象集団に特定の介入を施行する RCT は適切でない。その前段階として定性研
究を導入することで、対象集団や投与方法などについて、詳細な条件設定に関する情報を収集することが必要であるとい
う結論に達した。
定性研究では症例に関して、十分詳細な記載を行い、
①対象集団の中で有効な症例の特徴を抽出する
②投与量や投与間隔について適切なものを抽出する
③アウトカムについて当初設定した指標の妥当性を検証して、指標の採取時期と適切な方法に関する情報を抽出する
④主効果以外で副次的効果について情報を抽出する
⑤従来指摘されている副作用について検討して、新たな副反応に関する情報を抽出する
以上の点を定性研究で行うことが提案された。
CAM の定性研究に利用されるデータは何か
定性研究が CAM の根拠作成において求められる機能が議論された上で、利用されるデータの設定について以下の点
がまとめられた。
定性研究では、CAM の検証内容が異なり、収集するデータについても十分な対応を取ることが求められた。
定性研究の機能として、対象者、投与手段、アウトカム、副次効果、副反応に関する詳細情報を抽出する必要があること
74
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
から、これらについて記載されていることが必要である。
従来の検証医学で求められる研究では、予め対象者設定、アウトカム指標を特定化して、事前に設定した解析方法で有
効性を検証していくが、定性研究ではこれらの事前設定を行わず、投与について十分な記載をしていくことが求められる。
しかし、詳細な記載を求める一方、情報の質を担保するために記載領域について一定の認識を設定しておくことが求め
られる。
記載領域について、
①対象者属性
性別、年齢、症状、検査値、既往歴について、項目を設定せずに記載していくことが求められる。
②投与量や投与間隔について
施用した内容について、量、間隔、中止や脱落に関して入手できる情報を記載することが求められる。
③アウトカムに関して
西洋医学の検証に関する研究では、アウトカムについては一定の方法で観察することになっているが、定性研究では主
効果の周辺状況についても記載しておくことが求められる。
④主効果以外の生体変化について
主効果に関しても、特定の項目について、改善の有無のみでなく、定量的なデータを記載することが求められる。特に、
従来の検証研究では特定の項目に限定することなく、生体変化について記載することが求められる。
⑤副作用について
観察研究に認められた生体変化については、逐次的に記載しておくことが求められる。逐次的に記載することで事象の
時間的関係を再現することができることが可能である。
以上の記載内容が必要であることから、定性研究に参加する医師は十分な経験が求められる。定性研究では特定の項
目について観察するだけでなく、施用方法についても適切な判断のもとに施用についての増減を行うなど高い専門性が求
められる。
定性研究を行うにあたっては、参加する医師が一定の専門性を有していることを確認しておくことが求められる。
定性研究については、従来の調査票を用いた紙ベースの調査方法ではなく、電子カルテに準じた手法を応用する必要
がある。経過について記載された内容はテキストファイルとして保存されて収集されるべきである。
CAM 定性研究における挑戦
定性研究では、検証研究と異なり、経過について詳細な記載を行うとともに、対象者属性、アウトカム、主効果を含めた
生体変化、施用に関して詳細な記載が求められる。
定性研究では詳細な記載が求められることから、従来の検証研究で求められる項目設定型の調査方法では不十分であ
ることが指摘された。
詳細な記載を行うために、すべてフルテキストで記載すること方法がある他、領域についてタグ付きの記載方法が有用で
ある。
わが国では電子カルテについて、電子カルテの課題として
1 記載項目とその構造
2 データ表現の標準化
3 施設間のデータ通信と共有
4 信頼性の確保に関する技術
5 プライバシー保護
6 入力負担の軽減
の視点で検討されてきた。
データ表現の標準化のために、
75
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
①標準的な医学用語集
②標準コード体系相互の連携
③データ構造の標準化
の要素で検討する必要がある。SNOMED は,The Systematized Nomenclature of Human and Veterinary Medicine であり、
米国の病理関係学会から提案され、臨床所見を記載することが可能であり、12軸で 156,000 用語から構成されている。
標準化について、用語の統一を図るとともに、入力に関する標準化について考察する必要がある。入力についての標準
化の方法として、テンプレート方式が考案されている。テンプレートは入力項目を臨床場面において設定することで、標準
化された情報を収集することが可能になる方法である。漢方の証に関する診断項目を各々の場面で必要に応じて提供す
ることで、すべての情報を収集するのではなく、必要項目についてのみ入力を促すことが可能である。
テンプレートを作成してコンピュータ上で入力を促すことで、
・
必須項目の入力を確認できること
・
教育的観点から重要な項目を医師に伝えることができること
・
テンプレート入力により、条件に合致した場合にはさらに詳しい情報入力を求めることができること
などの利点を有している。
テンプレート作成に関しては、予め専門医の意見を聞いて施療に関する必要項目を設定しておくことが必要である。付
表に現在証に関する項目を引用した。これらをすべて入力するのではなく、必須項目について入力を促すとともに、副次
的変化などについて入力が可能なような自由度の高い設計が求められる。
図2 代替医療における定性研究
図3 諸外国における代替医療評価法の現状分析
■ 6.2 既存資料の収集分析
諸外国の研究論文を収集し、根拠に関する現状を分析した。
特に、プラセーボ研究の現状を調査するとともに、今後のプラセーボの取扱いについての方向性について検討した。
CAM 介入効果として、自己治癒力または自然治癒力が果たす役割が多きことが指摘されている。従来の西洋医学の検
証研究では、介入する施用の有効性に評価が絞られており、その他の要素をプラセーボとして排除する傾向にあり、施用
(投薬)のみの有効性しか対象としていないことが指摘される。この基本発想は、EBM が誕生した際、多くの新しい治療法を
西洋医学の中で検証するという立場から出てきたものであり、この点では施用(投薬)のみに焦点を当てた検証方法につい
ては理解のできるものである。
しかし、西洋医学の枠を超えて、CAM の検証を行うためには、CAM 治療の持つ特徴として、施用(投薬)と施用者、被検
者の3つの関係で治療が構成されている。この点の特徴を整理した検証方法を構築することが望まれる。
PubMED を用いて CAM および Placebo で検索をして関連論文を抽出したところ、25 編の論文を入手した。発表年代を
見ると、2000 年以前の論文は 2 編であり、2000−2001 年で 4 編、2002 年−2003 年で 6 編、2004−2005 年では 13 編とこ
76
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
の 2 年間で CAM の検証についての関心が高まり、placebo の扱いについて議論されるようになってきている。
その内容は、無作為化割付試験を行う際に placebo 対照を置くための CAM 医療の難しさ、自然治癒力の扱いに関する
ものとに分けられた。
CAM の中で、施療的な鍼灸、マッサージ徒手療法では 2 重盲検法が成立しない場合があり、その場合には患者のみを
盲検とする方法がとられる必要がある。
Placebo 効果の影響力を 30%以上あるとする CAM 研究も有り、対照群の設定によってはこの効果が残ってしまうことが懸
念され、balanced placebo design として両群間の比較可能性を担保することが要求されるが、結果解釈については十分な
注意が必要であるとしている。また、被検者が研究に参加する同意を取る際、研究の内容を説明する過程で placebo 効果
が発生することが指摘されている。
■ 6.3 個体差を用いた代替医療の評価方法の検証
6.3.1 評価モデルの開発
RCT で使用される分散分析を基本に SAS プログラムの要因指定を調査して、モデルとしての適合性を検証した。
RCT などで使用される統計モデルは、介入を主効果とした分散分析モデルである。
(効果)= f(介入)+ 誤差
として、誤差部分の変動に対して、介入による変動がどの程度大きいかを持って、有意差を検証している。
このモデルでは、個体差はすべて誤差部分に入ってしまうことから、昨年度の研究でも通常の分析手法では限界がある
ことを指摘してきた。
この対策として、二つの方法を検討した。
一つは、分散分析モデル構築を検討することと、二つ目は実験計画を含めて新たな検定スキームを構築する点で検討
を進めた。
分散分析モデル構築の検討
分散分析は、一元配置分散分析、多元配置分散分析、共分散分析に分けることができる。
通常の介入試験の有効性を評価するだけであれば、一元配置分散分析で対応が可能である。この方法では介入による
変動のみを評価することが可能であるが、CAM で問題となっている個体差成分を分けて適切に評価することは難しい。
多元配置の分散分析を適応することは、個体差を介入効果以外の次元として取り扱う方法である。
効果 = f(介入、個体差に関する群) +誤差
個体差部分をすべて次元として扱ってしまうことは、次元の水準に対して必要なデータを入手することはできず、この方
法を適応することはできない。しかし、個体差を幾つかの群分けをすることが可能であれば、多元配置分散分析を適応する
ことが可能である。具体的には、個体差を属性(性別、年齢、検査値、症候群など)で群別することが可能であれば、多元
配置の分散分析を行うことが可能である。
多元配置の分散分析を応用した際の評価の手順としては
1 交互作用が有効か
交互作用は、次元間の組み合わせによる効果が有意である場合には、その有効な交互作用を検索することで、有意差
を解釈するものである。
具体的には、「一定の症候群を有している場合に、介入が有効である」として解釈する方法である。この方法は個体差を
77
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
一定の群分けすることが可能であれば、この方法を適応することが可能である。
2 交互作用に有効なものがない場合、各々の次元で有意なものがあるか
交互作用が有意でない場合、それぞれの介入や群分けが有効であるかを検証する。
この場合に、介入と群分けがそれぞれ有意であれば、各々の次元が有意に結果に影響を与えていることが示されたと解
釈する。
介入または群分けのどちらかが有意であれば、その次元のみが結果に意味ある影響を与えていることが示されたと解釈
する。介入が有意であれば、群分けをする必要がないことを意味しており、CAM の効果を認めることになる。
また、群分けのみが有意であれば、病態の改善には CAM による介入よりも群分けによる効果(自然治癒が特定の個体
に起こること)を示すものとが解釈される。
3 複数の水準が指定されていた場合
各々の次元が有意であった場合、次元内のどの水準に有意性があるかを検証するため、多重比較(multiple comparison)
を行い、有意な水準を確定することにより、介入の中でどの投与量や頻度などが有効であるかを示すことが可能である。
共分散分析を用いた解析について、CAM 検証への応用を検討した。共分散分析は、共変数を指定することで共変数に
よる影響を調整して分散分析を行う方法である。
効果(共変数による調整)=f(介入)+誤差
として表現されるモデルである。共変数による調整は通常線形回帰による補正を行う。共分散分析を採用する基準としては、
共変数が効果指標に線形関係にあることが前提であり、前提を無視した場合過調整が行われ、本来の介入効果を検定で
きなくなる恐れがある。
CAM 検証への応用を考えると、個体差を調整変数として採用することが考えられるが、個体差が
連続変数であること
効果に対して線形関係が認められること
を前提にして共分散分析を採用する。
図 4 検証プロセスの標準化
78
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
実験計画を含めた検定スキーム
この節では、個体差について統計学的手法の中で検討するのではなく、検証実験計画を見直すことでの検証スキーム
を考える。
検証プロセスの標準化と開発
検証プロセスの標準化として、個体差を以下の考慮するかを考える。個体差として問題になるのは、結果に影響を与える
個体属性であり、検証に入る前段階で、予備調査を行い、結果に影響する属性を確認する。
属性を確認した段階で、検証作業に置いては属性を有する群のみを用いて検証を行う方法である。
この患者選択プロセスを導入する背景には
西洋医学による診断基準で選択された対象者は必ずしも CAM の適応でないことがある。これは、CAM 固有の適応を無視
した検証を行うことになり、CAM の有効性を適切に判断しているとは言えないと考えられるからである。
患者選択に際して、予め CAM 固有の診断基準が明示される場合には、患者選択基準に条件を記載することで通常の
西洋医学の有効性検証と同じステップを踏むことが可能である。
患者選択に関して、CAM の効果を一定の基準で確認できた対象者(responder;反応者)に限定して行う方法が考えられる。
responder の定義をどのように設定するかで、過剰に有意性を検出してしまうバイアスが混入することが懸念される。一方、
CAM は西洋医学の適応基準とは異なる次元の診断体系を有していることから、何らかの対象者選択を行うことは有用な方
法と考えられる。
患者選択に際して、
responder 限定にするか、
non-responder を排除するか、
を判断することが必要であり、検証過程において多くの患者選択を行い、検証結果を公開することが透明性のある検証方
法になるものと期待される。
他施設調査における注意点
この節では、他施設で実施される際に要求される検証過程の問題点を指摘した。
1 倫理
臨床試験であることから、疫学的倫理指針をはじめ、適切な倫理基準に則った検証計画を立案する必要がある。
多くの検証においては、施療を行うことから、文書による同意を取得することが必要である。この説明文書を作成する際、
placebo 効果を極力抑えるような説明資料を作成することが必要になる。
2 施設間バイアス
CAM は通常の西洋医学に比べ、施療者の技術や診察力、治療能力がより反映しやすい治療法であることから、施設間格差を
3 検出力
有効性検証には期待される効果をもとに必要とされる症例数を設定することになる。CAM の有効性は一般西洋医学ほど
強くないと予想されることから、サンプル数が多くなることが推測される。
一方、検証作業において症例数が多いことは、精度管理上も、検証遂行上も実施者に負担を強いることになる。検証の
際に準備する CAM とその placebo を確保するめに、相当の経済的負担が発生する。このような研究を推進するためには、
経済的なバックアップが必要であり、民間主導型で検証を進める場合には、協賛する企業を確保する必要が出てくる。
4 マスキング
西洋医学での検証には、二重盲検として医師、患者とも施用内容を知らないで実施することが基本となっているが、CAM
では施用者の施術が関連するものも多く、マスキングに関して相当の工夫が必要な状況が発生することが予想される。
79
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図5 代替医療における定性研究と検証研究の関係
6.3.2 オントロジー手法の調査
単純モデル化から接続関係概念を規定できるオントロジーによる個体差表現方法について検証した。
近年、知識表現法としてオントロジー的アプローチに関心が向けられている。CAM の施用に関しては、一定の治療法を
進めるよりも、患者の状態に合わせて適宜投与量や投与間隔などを変化させることが行われている。
これらの治療知識を詳細に記載するための「知識表現型」についての議論があった。診断支援システムや知識工学領域
では、
1 プロダクションルール
2 ニューラルネットワーク
3 エージェント型知識
などが提案されてきた。
CAM に関して適切な知識表現を考えると、1 のプロダクションルールではルール数が複雑になり、知識獲得と知識の更
新が困難になることが予想される。また、代替医療の多くの領域がプロダクションルールを作成するほど、知識形態が整理
されていないことが懸念される。
次に、ニューラルネットワークは事例集を元に一定のアルゴリズムで事例内に内在する知識を mimetic に再現していく方
法である。この方法では、適切な教師信号としての事例集を確保することが必要である。診断体型が固定化していない場
合には、同一条件下で複数の事例信号が発生してしまい、自己学習の事例集として適さないことが懸念される。
そこで、注目されるものがオントロジー的知識表現である。オントロジーはタスクオントロジーとドメインオントロジーから構
成されるものであり、前者はドメインオントロジーを参照してタスクオントロジーに記載された内容を処理し、再びその状態を
ドメインオントロジーとして状態を記載するものである。
近年、鍼灸や経絡に関する標準的な記載方法として関心が寄せられている。
■ 6.4 定性研究の理論と検証方法の融合
6.4.1 定性研究と代替医療の検証
昨年来、比較定性研究を用いた検証体制と代替医療の診療記録との関係を整理して、比較定性研究の応用性を検証した。
定性データの分析(基本ステップ)手順について考察した。
80
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
ステップ1意味あるコーディングを行う
定性データとしてデータベースに保存されていることから、意味あるコーディングを行う。「意味ある」コーディングを行い、
数値処理が行えるよう展開をすることである。
コーディングについては、記載に関して併合や分離を繰り返しながら、適切なコーディングを見つけていく作業も予想さ
れる。
ステップ 2 各々のユニットして概念の統合を行う
個々の要素を組み合わせて、一つの概念ユニットを作成する作業である。定性研究でテキストベースで記載された内容
をコーディングと要素の結合を行い、概念として適切なものを形成していくことが必要とされる。
ステップ 3 パターンの抽出
CAM の有効症例に共通する概念パターンを確認する作業である。概念パターンの感度を算出するとともに、特異度を
算出する必要がある。
感度とは、CAM 有効症例において確認される特定のパターンの率を指し、特異度とは CAM 無効症例においてそれ以外
のパターンを認める率を指す。感度特異度が高い項目を見いだしていく。
ステップ 4 ナラティブまたは一般的記載
抽出されたパターンからナラティブの記載を行い、定性データから得られた知識について、以下に記載するバ
イアスの確認と調整を行う。
ステップ 5 方法や結論の妥当性検証
抽出された知識を元に、定性データベースに記載されている項目の妥当性を検証して、必要であれば今後の定性デー
タベース構築の際の基準を提示する。
バイアスの確認と調整のための作業として
1 逆説的な例
2 難解な解釈
3 関係者による確認
4 問題ある提唱意見の確認
5 反対意見との調整
を経て、抽出された知識が妥当性があるものか否かを判断していくことが求められる。
6.4.2 定性比較分析による医療データの分析
6.4.2.1 質的比較分析について
Ragin(1987)によって質的・量的研究方法の統合戦略として考案された質的比較分析(Qualitative Comparative
Analysis)は,主に事例データを対象とした質的比較を体系的,論理的に行うものである.すなわち,質的比較分析は事例
データや歴史比較データに対して,元来電気技術者がスイッチ回路を単純化するために用いるブール代数を適用し,スイ
ッチング論理や論理回路の分野で用いられている論理関数(論理式,論理回路)の簡単化(minimization)を利用する.
ブール代数による論理関数の記述は,「真/偽」または「存在(あり)/欠如(なし)」を表す 2 値の論理変数と論理記号で
なされる.これら 2 値は,真が 1,偽が 0 に対応している.ブール代数による質的比較分析は,ある結果が得られたときに,
どのような原因条件が存在していたかどうかを明らかにしようとする.したがって,少数事例の質的データから因果関係を把
握するのに有効である.Ragin が社会学者であることから,社会現象や歴史現象に関する分析に使われてきたが(例えば,
鹿又他,2001),意思決定モデルとして活用したり,他の分析と組み合わせて活用した研究もなされるようになってきた(例
えば,Yamashita and Kono,2002).
81
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
大量の医療データベースから,例えば薬害などの因果関係を推測するためにはむしろデータマイニングの手法を組み
合わせることが有効であると思われるが,治療事例のように少数の事例データから因果関係のパターンを把握するために
は,質的比較分析が有効であると考えられる.
なお分析のためのプログラムに関しては,従来のQCA及びそのファジィ集合理論による拡張であるファジィ質的比較分
析を包含したプログラム fs/QCA を,http://www.nwu.edu/sociology からダウンロードすることが可能である。
6.4.2.2 分析の具体例
先ず,質的比較分析の基本的な考え方を簡単な例によって説明する.
ある病状に対する治療処置Aの実施と薬Bの投与を論理記号A,Bで,治療Aを行わなかったことをAの否定として論理
記号aで,薬Bを投与しなかったことをBの否定として論理記号bで表すとする.治療処置Cと薬Dについても同様に,C,c,
D,dで表すとする.
それらの治療処置の有無と投薬の有無の組合せは 24=16 通りになる.論理変数A,B,C,Dのすべての組合せ事例を
調べた結果,病状が改善された事例が 75%(カットオフ値)を超えた場合,病状改善を表す論理関数Rの真理値を 1 とする.
調査の結果,表のような真理値表が得られたとする.
質的比較分析では,論理積を積,論理和を和(+)で表記し,論理関数を標準積和形で表す.標準積和形における各
項は,すべての論理変数を論理積の中に含んでおり,最小項と呼ばれる.標準積和形は,真理値表で論理関数の値が 1
(真)である各行を論理積で表し,その論理積の和の形にした式である.すなわち,表の真理値表の論理関数Rを表す標
準積和形は,
R= abCd+abCD+aBCd+aBCD+AbcD
+AbCD+ABcd +ABcD+ABCd+ABCD
となる.
表 6 真理値表
A
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
B
0
0
0
0
1
1
1
1
0
0
0
0
1
1
1
1
C
0
0
1
1
0
0
1
1
0
0
1
1
0
0
1
1
D
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
R
0
0
1
1
0
0
1
1
0
1
0
1
1
1
1
1
標準積和形だけでも現象の因果関係の解釈が可能であるが,解釈の記述が長くなるので,QCAではクワイン・マクラス
キー法を用いて冗長な情報を排した無冗長な最小積和形を導出する.すなわち,最終的には,以下のような論理式が導
出される.
R= AB+aC+AD
この結果より,“病状を改善する”ためには,
“処置Aを行い,かつ薬Bを投与する”,
または,“処置Aを行わず,かつ薬Cを投与する”,
または,“処置Aを行い,かつ薬Dを投与する”
ことが有効であるという結果が得られる.
82
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
6.4.2.3 QCAにおける課題
QCA活用に関する課題を挙げると以下のようである.
・
同じ治療,同じ薬投与をしても,すべての事例において同じような病状改善(あるいは治癒)が見られるとは限らない.
そのような個人差がある場合,QCAではすべての事例における病状改善(治癒)の事例の比率に基づき,カットオフ
値などを設定することにより分析を行う.あるいはファジィQCA(Ragin,2000)では,それをファジィ集合として扱う。しか
し,事例の個人差は実際には変数以外の要因,つまり個人の日常習慣,食生活,・・・などの別の要因が決定要因とし
てある可能性もあり,その場合はQCAによる分析では明らかにはできない
・
事例数が多い治療,薬投与もあれば,事例数が少ない治療,薬投与もある.しかし,その事例数の多寡は論理変数,
論理関数設定に反映されない.つまり,事例数が1つのみで病状が改善された場合,論理関数は1となるが,事例数
が 100 あり 74 名が改善されたとしても,カットオフ値を 75%とすると論理関数は 0 となる.
しかし,QCAはある結果が生じるための原因条件のパターンを抽出するためには効果的な手法であり,他の手法とバッ
テリーを組みながら活用することにより,有益な知見をもたらすと思われる.
文献
・
鹿又伸夫・野宮大志郎・長谷川計二:質的比較分析,ミネルヴァ書房(2001)
・
Ragin,C.C.:The comparative method: Moving beyond qualitative and quantitative strategies, Berkeley and Los
Angels:University of California Press. (1987) (C.レイガン 鹿又伸夫監訳:社会科学における比較研究―質的分析
と計量的分析の統合にむけて―,ミネルヴァ書房(1993))
・
Ragin,C.C. :Fuzzy-set social science, Chicago: University of Chicago Press(2000)
・
山下利之:ファジィ質的比較分析の展望,日本知能情報ファジィ学会誌, 16 巻,3 号,222-228(2004)
・
Yamashita, T., and Kono, Y.:Comparative analysis as a complementary tool for fuzzy reasoning, Journal of Japan
Society for Fuzzy Theory and Systems, 14(4), 412-420(2002)
■ 6.5 根拠データベースの基礎的構築
定性 DB 解析
既存の DB と定性研究 DB の関係を整理して、抽出項目を調整するシソーラスとそのカテゴリの関係について検証した。
(A)CBR における関係性座標の構築
Case-based Reasoning では、類似症霊験策が行われる。この際症例の関係座標を確定しておくことが類似性を判断する
座標になる。この座標が不適切であると、症例データから適切な類似データを取り出せない問題が発生する。また、関係座
標が複雑になるほど類似データ検索に必要とするデータ数が増加してきて現実的な作業が行えない。
CBR の医学への応用
定性研究で上述した意味ある概念形成をテンプレートとして、最適な関係性を抽出するシステムが組み込まれる必要が
ある。
以下に、CBR システムを開発する際に必要とされるステップをまとめた。
1 CBR の基本構築
従来型データベースか、定性研究用データベースかを基本として、症例登録用のデータベースを開発する。この際、デ
ータベースへの登録作業、倫理的手続きなどを整えておく必要がある。
2 バイオインフォマティックスの応用
近似例抽出には、クラスター分析や因子分析などを定期的に行い、記載されている項目と症例の関係について確認を
行い、必要に応じてデータが検索可能であるように症例のバランスを調整しておく。
83
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
3 電子カルテとの統合
基本構築にも関係する点で、症例の自動収集の環境を確保しておく必要がある。医療機関において、電子カルテが導
入されつつあり施設毎にデータベースが構築されていく将来、症例の交換を介して収集できるような体制と関係を構築して
いく必要がある。
4 DB からの抽出
5 検索次元の削減
4 と 5 を通して、全データベースからの検索を行うのではなく、適切に絞り込んだ症例または項目を用いて検索するように
データのサブセットを用意することも時間的制約上必要である。
6 症例の探索
近似症例として類似度を関係座標を用いて、適切な数が抽出できるか否か検討をしておく。
当初の検索条件で症例数が多数や少数である場合に、予め症例数を利用者に示し、検索条件の設定を調整するか否
かの判断を求める機能を設定する必要がある。
7 使いやすい形態
初期条件設定から最終的に類似症例の呈示に至まで、試行錯誤が可能なように、インターフェイスを工夫する必要がある。
特に、条件設定とそれに基づく関係座標の定義については、必要に応じて関係座標についても調整ができるように自由
度を確保しておく必要がある。
8 医学データの複雑さの対応
医学データの複雑さの一つとして、同一の観察項目で記載された症例であっても、CAM の治療反応性が異なる症例が
出現する可能性がある。このような状況が発生するのは、
治療反応性が確率的要素を含んでいる場合
重要な治療反応性を決定する観察項目が欠落している場合
治療反応性の判断が適切でなく、情報の適切さに由来する場合
が考えられる。
このような不確実性または情報の欠落の中で、判断する可能性があることを利用者に周知しておく必要があり、問題点を
定期的にまとめてデータベース登録、利用関係者に広報することも必要である。
9 ガイドラインの作成
一定の CBR 機能が得られる段階で、関係ガイドラインを作成して試験運用に向けて調整を始める。
ガイドラインには、現時点でのデータベースの特性について情報公開をして、使用マニュアルも含めて記載を行う。
データベースの評価ができるように、利用関係者から利便性や問題点について調査をするように計画する。
10 データマイニング
データベースが一定の精度を確保できた段階で、CAM に関するデータマイニングを行い、当該時点で獲得できた知識
を公開して、関係者から意見を調整する。
教育的資料として検討
根拠 DB を用いた教育資料としての活用に関して、表現方法とその蓄積症例との整合性について検証した。 CAM の生
涯教育については、現時点で確定したカリキュラムを明示することができる段階でないことから、データベースを用いた
On-Job-Training(OJT)により、症例の疑似体験を経て教材として利用していく方法が提案される。 これらの OJT と合わせ
て、CAM 専門家による専門知識との統合を図るプロジェクトを計画して、科学的検証を深める必要がある。
84
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
図7 定性研究のステップ
図8 定性研究から Case Based Reasoning
■ 6.6 まとめ
安全性・有効性に基づく代替医療の科学的根拠に関する指針を開発した。従来の西洋医学で用いている検証作業で
は個別性について対応できないことから、全体の研究スキーマとして、
1 定性研究による CAM の特性の記載
2 定性研究の成果を基にした RCT などの検証計画の立案と評価
を行ってから、通常の検証プロセスにはいることが提案された。
検証過程において、統計学的検討の中で個体差を群分けすることで多元分散分析による検定方法が提案された。 デ
ータベースの運用については、段階的なプロセスを経て、専門家からの知識との整合性を検討しながら、データベースを
構築していくことが提案された。 社会システムとして CAM 利用者へのリスクコミュニケーションが大切であり、データベース
を用いて CAM 本来の特性、根拠検討の過程の開示を行い、適切な情報を共有することで、CAM の利用が普及するよう根
拠開発に関する体制を構築することが望まれた。
■ 6.7 文献レビュー
本節では、代替医療に関係する文献レビューおよび特定疾病と代替医療の関係についてレビューした結果を記す。
6.7.1 文献レビュー
(1). Vickers A. Methodological issues in complementary and alternative medicine research: a personal reflection on 10 years
of debate in the United Kingdom.. J Altern Complement Med 1996;2:515-24
相補代替医療 ( CAM ) の評価のために従来の研究技術を使う際、問題がある。これら問題は、代替医療が独特の評
価方式を必要とするよう導いた。英国における経験は、現在の方法論が改作された。従来の研究は、信頼できる知識を引
き起こすために RCT という強力な技術を開発し、そして、これらは、様々な異なるセッティングにおけるかなりの成功によっ
て使われた。これは、偽薬コントロール、または、二重盲検 ( あまり多くの CAM 療法において実行可能ではない ) の特
徴を必須とする RCT が包含するという認識から生じた。CAM に対して、従来の技術で行なわれ、そして、CAM にふさわし
くないという要求を否定してきた。CAM の EBM 方法論的問題を解決するのは、複合的で難解な設計の開発することではな
く単純なガイドラインに従うこと関わる問題である。
85
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
(2). Hilsden RJ, Verhoef MJ. Complementary and alternative medicine: evaluating its effectiveness in inflammatory bowel
disease.. Inflamm Bowel Dis 1998;4:318-23
炎症性腸疾患 ( IBD ) を持つ患者に対する代替医療 ( CAM ) の使用は、一般的である。研究者の見方では、割り付
けられたトライアル ( RCT ) は、介入の効力に関する最も良い証拠を提供する方法である。しかしながら、 IBD ではこれら
の治療を評価した僅かな RCT があり、そして、全ては、方法論的問題を含んでいた。RCT は、疾患病態及び、CAM の処
置に常に適合するとは限らない。多くの CAM は、診断への全体論的なアプローチ、及び、疾患の処置 をとり、そして、処
置は非常にしばしば個別化される。従って、偽薬、盲検及び、 RCT セッティングにおける構造化された処置プロトコルへ
の無作為割付による研究では、しばしば CAM の原理に矛盾している。我々は、 IBD における CAM の使用について
十分な治験を有していない。これらの治療を評価するために、臨床研究に着手する前に、それらの使用に関する従来から
の治療とそれらの潜在的な副作用について更に深い理解が必要とされる。同じく我々は、いかに CAM 施療者がそれらの
治療をするか、それらが何を適切な適応と見なすか、そして、いかに処置が最もよく行われるかを理解する必要がある。
(3). Graham DM, Blaiss MS. Complementary/alternative medicine in the treatment of asthma.. Ann Allergy Asthma
Immunol 2000;85:438-47; quiz 447-9
目的 :総論は、頻繁に使われつつある補完医療 / 代替医療 ( CAM ) の有効性評価について、従来の西洋医学の臨
床アレルギー専門医を慣れさせるであろう。代替健康管理療法の有効性を患者が必要とする再検討するものである。CAM
有効性の差異が、同様に再検討される。本論文は、喘息を治療するために使われる特効治療に焦点を合わせ、そして、利
用可能な文献に基づくこれらの治療の効力を再検討される。MEDLINE を用いて、「補完医療 / 代替医療」、または、「ハ
ーブの治療」、及び、「喘息」、または、「アトピー」に関する文献を探った。結果 :補完医療 / 代替医療は、喘息を含む慢
性状態の患者に対して一般に使われる。米国の人口の 3 分の 1 は、 CAM を試みている。これらの治療の効力を指示
する文献が欠けている。いくつかの報告は、ある薬草の治療の抗アレルギー作用のメカニズムを解明している。しかしなが
ら処置における CAM の効力、及び、喘息、または、アトピーに対する症状の改善を指示するする対照をおいた研究がほ
とんどない。結論 :利用可能な科学的根拠は、喘息の処置において CAM に対して根拠を与えていない。文献研究は、
計画上の欠陥 ( 不十分な患者数による結論、適切な対照の欠如、及び、不十分なブラインド技術 ) をしばしば有してい
た。今後の研究が CAM の効力を証明するために必要とされる。代替医療の根拠について多くの教育が行われる必要性
がある。患者の大多数が何らかの CAM を使っていることからも、医者がそれらの患者と共に CAM の使用を尋ねて治療
することが重要である。
(4). Nayak S, Matheis RJ, Agostinelli S, Shifleft SC. The use of complementary and alternative therapies for chronic pain
following spinal cord injury: a pilot survey.. J Spinal Cord Med
2001;24:54-62
この研究目的は、背髄損傷 ( SCI ) を持つ患者の慢性の疼痛処置としての代替医療 ( CAM ) の使用のためにパター
ンや認識を決定することである。方法 :電話調査は、 SCI 、及び、慢性疼痛を持つ 77 人の人々の対象として行なわれ
た。結果 :調査されたそれらのうちで、 40.3% は、慢性疼痛を管理するために少なくとも 1 つの CAM を使った。最も一
般の理由は、現在の西洋医学に対する不満であった。針療法は、マッサージ、カイロプラクティック、及び、ハーブ薬の順
に最も頻繁に使われた治療であった。針療法は、鎮痛に対する満足では最も低く評価され、そして、マッサージが最も高く
評価された。従来の鎮痛剤を使わない患者は使用者より更に多くの CAM を使う傾向があった。収入、保険加入、及び、苦
痛の期間は、 CAM の使用と関係があった。CAM は、いくらか効果があるものの、完全に効果を示さなかった。結論 : SCI
患者間の CAM の流行は、一般住民におけるそれと類似しているように思われる。偽薬にコントロールされたトライアルは、
SCI 人口において様々な治療の効力を評価するのに必要とされる。最も効果的な治療、マッサージが頻繁に行われなか
ったという事実は、更に多くの有用な研究の必要性を示している。
(5). Mills SY. The House of Lords report on complementary medicine: a summary.. Complement Ther Med 2001;9:34-9
上院科学技術委員会は、 CAM 治療の有用性を検証するために、多種多様な証拠を再検討した。それらの公表された
86
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
レポートにおいて、それらは、 CAM が 3 つの集団に細分化されることを提案している。CAM に対する多くの人の満足が
高いことに注目したものである。より高い効果を持つ CAM が供給され、国民が CAM にアクセスができるべきであり、そして、
その潜在的な利益を得ることができる。一方、各治療に対する適切な方法で有効性を確認されるべきである。針療法、そし
て、薬草の薬は、ホメオパシー療法より優れているようである。薬草の使用については、原則が明瞭にされて、実施される
べきである。CAM 専門家として標準化された訓練を受け、独立して信用されるべきであり、そして ( 多数のために ) 、基
礎的研究も含むべきである。従来の専門家は、 CAM を更に熟知するようになるべきである。CAM の研究は、西洋医学
に要求されるのと同じ巌格さを必要とし、研究が奨励されている。情報の提供についてはより専門的になるべきである。
CAM 専門医は、西洋医学との統合の方向に働くべきである。
(6). Houston EA, Bork CE, Price JH, Jordan TR, Dake JA. How physician assistants use and perceive complementary and
alternative medicine.. JAAPA 2001;14:29-30, 33-4, 39-40 passim
代替医療 ( CAM ) の使用は、米国で増大している。患者、及び、それらの健康管理供給者は、ますます代替療法を受
け入れる。この研究の目的は、医師による支援姿勢を確認することであった、CAM の個人的使用について 500 人の医師
に対して、回収率が50%であった。調査結果は、 CAM のための知識レベルや CAM がプラシーボ効果を有するという考
えは、使用アドバイスの間の有意の関係を見い出した。
(7). Steurer-Stey C, Russi EW, Steurer J. Complementary and alternative medicine in asthma: do they work?. Swiss Med
Wkly 2002;132:338-44
目的 :増大する喘息患者は、代替医療 ( CAM ) に関心を払っている。代替医療の効力に関する科学的証拠が考慮さ
れることは重要である。方法 :我々は、電子データベース Medline を用いて、コントロールされたトライアルのための
Embase 、及び、 Cochrane
Library 、及び、最もポピュラーな代替療法に関する証拠を評価するためのシステマティック
レビューを行った。針療法、技術、植物誌、及び、栄養、ホメオパシー療法について調査した。結果 :針療法が喘息の処置
に対して効果的であるとは、計画された臨床研究の結果からは明らかにされていない。喘息としてホメオパシー療法の役割
は、更なる評価を必要とする。ヨガによって呼吸法は、喘息症状のコントロールに貢献するかもしれない。しかし、患者の少
ない数のために、断定できない。薬草の療法は、現在利用可能な文献に基づいて推薦されない。ビタミン C の摂取び魚
類の脂肪酸は、害を及ぼさないが、臨床上有意義とする証拠に乏しい。結論 :これまで、証拠は、その代替形の薬に欠け
ているが、喘息における偽薬より効果的である。高品質の研究、従来の治療と同様に、促進されるべきである。
(8). Long AF. Outcome measurement in complementary and alternative medicine: unpicking the effects.. J Altern
Complement Med 2002;8:777-86
堅実な EBM の中でどのような方法論の発展があるか、調査された。代替医療 ( CAM ) には、多くの討論が残されてい
る。CAM 介入の 3 タイプの効果は、概念化される :(1) 実践上の有効性であり、(2) 明確にされた機序を有するもの、(3)
治癒プロセスを高めたものだった。それらの概念の分離することは、利用可能な測定手法の開発にかかっている。効果のこ
の記述は、プラシーボ効果の性質に関する西洋医学でも同様の問題を持っている。研究において、全ての 3 つのタイプ
の効果の測定は、本質である。
(9). Eisenberg L. Complementary and alternative medicine: what is its role?. Harv Rev Psychiatry 2002;10:221-30
代替医療 ( CAM ) 療法は、非常に安全、及び、有効性の点で異なる。そして、「正統な」処置の有効性に関する証拠が
以前より明らかにされてきた現段階で、医師は「非特効性の」処置効果を単なる「偽薬」として退けるべきである。不安、また
は、不況を持つ患者の半分以上、あらゆるある年齢層の患者はに CAM 施療者に相談する価値がある。
(10). So DW. Acupuncture outcomes, expectations, patient-provider relationship, and the placebo effect: implications for
health promotion.. Am J Public Health 2002;92:1662-7
87
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
目的 :処置結果は、処置に関する予測、健康状態の属性、心身に関する信念、及び、忍耐強い‐供給者関係因子と関
連しているかどうかを探究した。方法 :62 人の針療法患者は、ゴール達成、心身信念、健康状態について針療法の前後に
インタビューされた。鍼灸治療は、3 ヶ月の処置であった。結果 :患者は、針療法から処置ゴール達成を報告した。結果は、
前処置、針挿入と関連していなかった。結果は、それまでに使用された CAM 処置の数に明らかに関係した。しかし、患者
の希望には関係が認められなかった。結論 :むしろ患者医師関係の基に行われた針療法結果は、プラシーボ効果と関係
がないように示唆された。
(11). Carter B. Methodological issues and complementary therapies: researching intangibles? . Complement Ther Nurs
Midwifery 2003;9:133-9
高品質で厳格な研究が CAM を支援するために要求されている。しかしながら、 RCT の主義は、CAM 研究に適用さ
れることができない。RCT の研究者は、多くの代替治療の本質を破砕して、本質を崩すことを提案しているが、標準化、盲
検、ランダム化、施用者影響、偽薬、対照者を含む挑戦が CAM 研究者により提示されている。
(12). Weintraub MI. Complementary and alternative methods of treatment of neck pain.. Phys Med Rehabil Clin N Am
2003;14:659-74, viii.
代替医療 ( CAM ) に対する関心は、世界的であり、アプローチが安全で、効果的であるという認識に基づいている。実
は、しかしながら、この認識は、厳しい科学検証より文化的で経験則に基づいている。頸部痛の CAM 治療のために適用を
再検討される。CAM の長い歴史にもかかわらず、更に組織的で、更に偽薬に割り付けられたコントロールトライアルは、ど
ちらのアプローチにメリットがあるかを決定するのに必要とされる。
(13). Miller HG, Li RM. Measuring hot flashes: summary of a National Institutes of Health workshop.. Mayo Clin Proc
2004;79:777-81
顔面潮紅の病因学メカニズムは、完全に理解された状態にあるとはいえない。ホルモンの、そして神経系系の将来の研
究は、基礎的現象やプラシーボ効果に関する理解を深めている。客観的な測定法は、胸骨の皮膚コンダクタンスモニタリ
ングには限界がある。しかしながら、更に厳しい限界は、期間、強度、及び、活動への干渉に関するあらゆる情報を提供す
るために、胸骨の皮膚コンダクタンスは無力である。最大の関心事は顔面潮紅を持つ女性が安堵するのに役立っているな
らば、主観的測定法について検討する必要がある。顔面潮紅介入の研究におけるその測定で注目されても、プラシーボ効
果は十分理解されない。プラシーボ効果を時間にわたる症状の自然の消散と区別する研究、非常に役に立つであろう。同
様に、顔面潮紅と関連していた不快、及び、困惑を減少させるようプラシーボ効果を導く能力は、役に立つであろう。動物
モデルは、顔面潮紅、及び、おそらくプラシーボ効果の神経生物学を理解するために特に役に立つであろう。異なるフィー
ルドから科学者を集めることは、前途有望なアプローチのように評価されており、最初に、バイオ‐マーカ、及び、学際的な
研究チームの使用によって症状の自己申告を有効とすることの問題は、 NIH
の Biomedical
Imaging 、及び、 Bioengineering のための新しい National
Roadmap 当初計画である。第二に、 NIH
Institute は、現存する技術を評価して、改
良し、もしくは、新しい技術を顔面潮紅に特有の生理学的なマーカに発達させた。3 番目に、CAM 療法の安全、及び、効
力に関する更に多くの情報に提供する研究である。
(14). Bausell RB, Lee WL, Soeken KL, Li YF, Berman BM. Larger effect sizes were associated with higher quality ratings in
complementary and alternative medicine randomized controlled trials.. J Clin Epidemiol 2004;57:438-46
目的 :代替医療 ( CAM ) 偽薬を用いてコントロールされたトライアル ( RCTs ) の質が効果サイズと関係があるかどうか
を研究するために、介入、及び、結果変数のタイプがコントロールされた 25 の CAM 研究を用いてメタ分析は、
MEDLINE から獲得した。25 のレビューから、 26 組のトライアルが、選択された。結果 :研究の質及び効果サイズの間の
関係を調査した過去の証拠の趨勢と異なり、今回の研究はメタ分析の中で主たる影響力は最も低い効果サイズを有する研
究で構成されていたことを示した。
88
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
(15). Marusic M. "Complementary and alternative" medicine--a measure of crisis in academic medicine.. Croat Med J
2004;45:684-8
CAM 研究に関して、十分な根拠、十分な機序の説明、検証についての報告がないことが問題である。CAM 研究では、
全人的なアプローチを必要としている。N-of-1trail が導入され、placebo 研究についても検討される必要がある。
(16). Esch T, Guarna M, Bianchi E, Zhu W, Stefano GB. Commonalities in the central nervous system's involvement with
complementary medical therapies: limbic morphinergic processes.. Med Sci Monit 2004;10:MS6-17
先進工業国において、代替医療 ( CAM ) は、人気が増大してきている。しかしながら、生物学的構造と同様に、大部分の
内在する、生理学的な、そして分子のメカニズムは、まだ未解決である。非特効性の効果は、 CAM にとって重要である。更
に、信用、信念、及び、期待は、重要であるかもしれない。:大脳辺縁の脳構造は、 CAM で重要な役割を果たす。CAM 効
果の決定的な成分として、感情‐関連の記憶処理 -- endocrinologic な、そして自律神経の機能を伴う―が重要である。しか
しながら、一般の、非特効性の、もしくは、主観的な効果の他に、同じく特効性の ( 目的 ) 生理学的な成分は、存在する。
(17). Miller FG, Emanuel EJ, Rosenstein DL, Straus SE. Ethical issues concerning research in complementary and
alternative medicine.. JAMA
2004;291:599-604
代替医療 ( CAM ) の使用は、近年非常に増大した ( CAM 処置の安全、及び、効力の調査をするように ) 。しかしな
がら、最小の注意は、 CAM の研究に関する倫理の問題に傾けられた。我々の主張は、公衆衛生、及び、安全が CAM
療法を評価する厳しい研究を必要とし、 CAM の研究が臨床的な研究全ての同じ倫理の必要条件にこだわるべきであり、
そして、割り付けられた偽薬にコントロールされた臨床のトライアルがそれが実行可能で、倫理学上正当と認められるときは
CAM 処置の効力を評価するために応用されるべきである。更に、プラシーボ効果のみが効果的であることが示された
CAM と西洋医学治療を提供することの合法を探究することも検討課題である。
(18). Weatherley-Jones E, Nicholl JP, Thomas KJ, Parry GJ, McKendrick MW, Green ST, Stanley PJ, Lynch SP. A
randomised, controlled, triple-blind trial of the efficacy of homeopathic treatment for chronic fatigue syndrome.. J
Psychosom Res
2004;56:189-97
目的 :慢性疲労症候群 ( CFS )を持つ患者は、代替医療 ( CAM ) を使う対象かもしれない。我々の目的は、 CFS の
自覚症状を減少させる際ホメオパシー療法の処置を評価することであった。方法 :3 倍の‐ブラインド設計 (割付に気付い
ていない患者、及び、ホメオパシー療法医、及び、データアナリストのためにバイアスの可能性を減少させるために、最初
の分析の後で集まるためのデータアナリストブラインド ) を使って、我々は、手当たりしだいにホメオパシー療法、偽薬を患
者に投与した。CFS のためにオクスフォード基準を満たす 103 人の患者は、 2 つの専門病院から募集された入院患者
である。患者は、 6 ヶ月の間専門的同毒療法医との毎月の相談をした。主な結果施策は、 Multidimensional
Fatigue
Inventory ( MFI ) のサブ‐スケール、及び、各サブ‐スケール上でかなりの改善を臨床上達成する各集団の割合に関する
スコアであった。二次性の結果は、疲労衝撃スケール ( FIS ) 、及び、機能的な制限プロフィール ( FLP ) であった。92
人の患者は、トライアル ( 47 の同毒療法の処置、 45 の偽薬 ) において処置を完了した。86 人の患者は、治療後の結
果施策 ( 処置を完了した 41 の同毒療法の処置集団、処置を完了しなかった 2 つの同毒療法の処置集団、処置を完了
した 38 の偽薬集団、及び、処置を完了しなかった 5 つの偽薬集団 ) を十分に返した、もしくは部分的に完成した。結
果 :103 人の患者のうちの 17 人は、処置から撤退した、もしくは、追跡調査に失われた。同毒療法の薬集団における患
者は、他のサブ‐スケールではなく著しく MFI に対する更に多くの改善が一般的な疲労サブ‐スケール ( 主要な結果施
策のうちの 1 つ ) 、及び、 FLP の物理的サブ‐スケールであることを示した。集団差異が 5 MFI サブ‐スケール ( 主要
な結果施策 ) から 4 つで統計上有意ではなかったが、同毒療法の薬集団における更に多くの人々は、臨床上かなりの
改善を示した。同毒療法の薬集団における更に多くの人々は、全ての主要な結果 ( 相対危険度=2.75 、 P=.09 ) に対す
る臨床の向上を見せた。結論 :同毒療法の薬の効果が偽薬より優れているという弱く、しかし、二つの意味に取れる証拠が
得られた。非特効性の利益があるかもしれないことを示唆する。
89
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
(19). Markham AW, Wilkinson JM. Complementary and alternative medicines (CAM) in the management of asthma: an
examination of the evidence.. J Asthma 2004;41:131-9.
喘息治療を支援するため Complementary Alternative Medical ( CAM ) 治療を使っているが、喘息患者に CAM の
使用に関するガイドラインに明瞭な方向がない。この文献レビューは、喘息管理において CAM の使用に関する現在の科
学的意思決定を提供する。Medline 、 OVID の十分なテキスト、及び、 Randomised Controlled
て。 PubM、 National
Complementary 、そして、 Alternative
Trials ( RCT ) につい
Medication データベースを検索した。キーワード「喘息」、
及び、「補完医療」を持つ 1997 年、及び、 2002 年の間に英語で英文論文が EBM Reviews を行った。15 の CAM 研
究は、偽薬、または、見せかけの治療の間の有意の差をほとんど見せる。これは、コントロールとして使われる見せかけプラ
シーボ効果、及び、大部分の研究が小規模であることかもしれない。
(20). Lewith GT, Godfrey AD, Prescott P. A single-blinded, randomized pilot study evaluating the aroma of Lavandula
augustifolia as a treatment for mild insomnia.. J Altern Complement Med 2005;11:631-7
不眠症は、全ての睡眠苦情のうちで最も一般的で、そして、研究中である。現在の処置は、催眠剤である。しかし、これら
は、重大な副作用の可能性を持っている。自由で、逸話的な証拠は、ラベンダー色のオイルが不眠症の効果的な処置で
あることを示唆する。しかし、これは、正式に調査されなかった。目的 :この研究の目的は、提案されたトライアル方法論、及
び、不眠症に関する Lavandula augustifolia ( ラベンダー ) の効力を評価することであった。介入 :介入は、偽薬 / コント
ロールとして Lavandula augustifolia ( 処置 ) 、及び、甘いアーモンドオイルから成った。その香りは、 Aromastream デバ
イス ( Tisserand Aromatherapy 、サセックス、 UK ) によって供給された。設計 :これは、パイロットであった、研究する、
に関して、割り付けられた 1 つの‐ブラインド、cross-over デザイン ( 基線、 2 処置期間、及び、クリアランス期間、 1 週
間期間の各々 ) 。地域ベースで扱われた不眠症のボランティアは、研究に参加した。結果は、測定する :結果は、下記に
よって評価された :不眠症 ( エントリーのスコア > 5 ) を示すピッツバーグ睡眠質インデックス ( PSQI ) ;処置信頼性を評
価する Borkovec 、及び、 Nau ( B&N ) Questionnaire ;そして、 CAM 、及び、健康信念に対する姿勢を評価する
Holistic Complementary 、及び、 Alternative Medicine Questionnaire ( HCAMQ ) 。結果 :10 (10) ボランティア ( 5
人の男性、及び、 5 人の女性 ) は、入れられ、そして、 4 週間研究を完了した。ラベンダーは、 PSQI ( p = 0.07 , 95%
CI - 4.95 to - 0.4 ) で -2.5 ポイントの改善を造った。各介入は、等しく信用でき、そして、 CAM への信頼は、結果を予
測しなかった。更に穏やかな不眠症による女性、及び、更に若いボランティアは、他のもの以上を向上させた。期間、また
は、繰越し効果は、観察されなかった。結論 :この試験的研究のための方法論は、適切であるように思われた。結果は、ラ
ベンダーを支持し、そして、更に大きなトライアルは、決定的結論を下すのに必要とされる。
(21). Newton KM, Reed SD, Grothaus L, Ehrlich K, Guiltinan J, Ludman E, Lacroix AZ. The Herbal Alternatives for
Menopause (HALT) Study: background and study design.. Maturitas
2005;52:134-46.
更年期症状を管理するために一般に使われる代替アプローチの短期、そして長期の効果を調査するために、割り付けら
れた二重盲検トライアルを設計した。女性は、以下に無作為に配属された。毎日 (1) black cohosh 160 mg ;毎日 (2) マル
チ‐植物(50 mg black cohosh, alfalfa, chaste tree, dong quai, false unicorn, licorice, oats, pomegranate, Siberian ginseng,
boron) 4 個のカプセル ;増加の食事の大豆 (3) マルチ‐植物プラス電話カウンセリング ;(4) は馬のエストロゲン 0.625
mg +/- 2.5 mg medroxyprogesterone acetate、 (5) 偽薬とした。本来の挑戦にもかかわらず、更年期症状のための代替療
法の研究は、更なる調査に値する重要なエリアである。
(22). Carpenter JS, Neal JG. Other complementary and alternative medicine modalities: acupuncture, magnets, reflexology,
and homeopathy.. Am J Med 2005;118:109-17
我々は、針療法、磁石、反射法、及び、更年期‐関連の症状のための同毒療法の利益と危険に関する証拠を評価しよう
と試みた。検索戦略は、オンラインデータベース ( PubMed 、 PsycINFO 、 Medline ) の電子検索を含み、ターゲットジャ
ーナルの検索を指示し、そして、検索に引用‐インデックスを付ける。計 12 の介入研究がレビューのために確認された。
90
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
針療法は、顔面潮紅頻度、及び、血管運動神経の物理的、そして心理学的な症状の主観的な施策を向上させた。しかし
ながら、改善は、首尾一貫していなかった。針療法のコントロールされた研究は、本当にあまり一貫した調査結果をもたらし
た。総合的に、針療法のコントロールされた研究は、顔面潮紅、睡眠障害、及び、気分を確実に向上させなかった ( 非特
効性の針療法、エストロゲン補充療法、または、表面の縫い物とは比較になったとき ) 。同毒療法は、顔面潮紅頻度、及
び、厳しさ、気分、疲労、及び、自由なオープン‐ラベル研究における不安の主観的な施策を著しく改良した。磁石、及び、
反射法のコントロールされた研究は、偽薬に関して処置のあらゆる利益の増加を示すことができなかった。針療法の追加の
調査の必要性、及び、顔面潮紅、及び、他の menopausal な症状の処置のための同毒療法がある。しかしながら、現存す
る証拠は、顔面潮紅、及び、他の menopausal な症状の処置において磁石、及び、反射法の有益な効果を示さない。理
解、かどうか、のために、人、そして、いかにあらゆるポテンシャルを評価するためにこれらの介入仕事が更年期‐関連の症
状の管理においてこれらの CAM 療法のために必要とされる証拠ベースを造ることにとって決定的であるか。
(23). van Tulder MW, Furlan AD, Gagnier JJ. Complementary and alternative therapies for low back pain.. Best Pract Res
Clin Rheumatol
2005;19:639-54
証拠‐ベースの薬の原理へのサポートは、代替医療 ( CAM ) のフィールド内で増加した。この章の目的は、偽薬、介入
なし、または、激しい亜急性慢性的な非特効性の低い背中の痛み ( LBP ) のための他の介入と比べると CAM 療法の有
効性を決定す ることで ある。針療法、植物医学、マッサ ージ、 neuroreflexotherapy 、 及び、背骨の操作に関する
Cochrane レビューからの結果は、使われた。結果は、もし、他の従来の治療と比較すると有効性における差異がないとい
うことがなければ、慢性的 LBP のために処置なし、または、見せかけの処置より針療法が効果的であることを示した。特効
性の植物の薬は、苦痛、及び、機能的状態における短期の改善に関して慢性的な非特効性の LBP の急性のエピソード
に対して効果的であるかもしれない ;長期の効力は、評価されなかった。マッサージは、慢性的な非特効性の LBP の見
せ か け の処 置 よ り 更 に有 益 な よ う に思 わ れ る 。 し か し 、 他 の 従 来 の治 療 と 比 較 され た 有 効 性 は 、 結 論 が で な い 。
Neuroreflexotherapy は、慢性的な非特効性の LBP のための見せかけのより効果的な処置、または、標準の注意のように
思われる。背骨の操作は、見せかけの操作、または、効果がない治療より効果的で、他の従来の治療として等しく効果的で
あった。要するに、慢性的 LBP のための CAM 療法に関する結果は、前途有望である。しかし、従来の処置と比較され
た相対的な費用効果性に関する更に多くの証拠が、必要とされる。
(24). Hyman SL, Levy SE. Introduction: novel therapies in developmental disabilities--hope, reason, and evidence.. Ment
Retard Dev Disabil Res Rev 2005;11:107-9
発達中の小児に対して、CAM の利用頻度は高く、CAM 利用の意思決定者である家族に十分な情報を提供する必要が
ある。Mental Retardation and Developmental Disabilities Research Reviews(雑誌名)では、意思決定や新規治療法の導入
について十分な説明が求められる。
(25). Passalacqua G, Compalati E, Schiappoli M, Senna G. Complementary and alternative medicine for the treatment and
diagnosis of asthma and allergic diseases.. Monaldi Arch Chest Dis 2005;63:47-54
代替医療( CAM ) の使用は、普及し、増加している ( 特にアレルギー性疾患、及び、喘息の領域において ) 。同毒療
法、鍼灸療法、及び、植物療法は、最も頻繁に利用される処置である、一方、診断の技術は、食物アレルギー‐不耐性の
領域で主として使われる。文献によると、 CAM による臨床のトライアルの大多数が質の低い研究であり、十分な解釈がで
きない。厳密にコントロールされた方式で行われた研究がほとんどなく、そして、それらの研究は、結論のでない結果を提
供している。喘息において、 CAM のうちのいずれも、偽薬より効果的でなかったり、標準の処置として等しく効果的である
と証明されなかった。活性の原理を含むいくらかの薬草の生成物は、臨床の効果 ( 薬草の療法が通常標準化されない )
が定量的にわずかな効果を示したが、一方、このように毒性の効果、または、相互作用の危険を導く。代替医療に関する
診断の技術 ( 皮膚電位的なテスト、運動科学、 l 白血球毒性試験、虹彩診断法、毛髪分析 ) のうちのいずれも、健全な、
そして、アレルギーについて十分な診断することができると証明されなかった。
91
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
6.7.2 Pragmatic Trial − 治療の臨床的有用性を比較する現実的な臨床試験デザイン
2005 年 9 月 19 日、英国 Exeter 大学において第 12 回補完ヘルスケアシンポジウムが開催され、情報収集のために参加
した。この学会はヨーロッパで最も歴史がある CAM の学会であり、CAM の研究方法論を詳細に検討することで有名である。
今回はワークショップを中心として Pragmatic Trial に焦点を絞って討論が行われた。
6.7.2.1
Pragmatic Trial の定義と特徴
臨床試験、特にランダム化比較試験(RCT)は、リサーチクエスチョンの内容によって Pragmatic Trial または Explanatory
Trial のいずれかに大別できる。Pragmatic Trial は、いくつかある治療法の選択肢の中から、現実の臨床において最も実用
的な治療法を選択するために必要な情報を得ることを目的とする臨床試験のデザインである。
ある治療法が日常臨床においてどれくらい有益であるかについて検討したいならば、日常臨床に近い条件設定を行う必
要がある。例えば、緊張型頭痛に対して鎮痛薬のみで十分か、鍼治療のほうが効果的か、あるいは両者を併用したほうが
より効果的か、といった疑問があるとき、「服薬のみ」群と「鍼治療のみ」群と「服薬+鍼治療」群を設定して比較する。鍼を
打つ経穴(ツボ)は東洋医学的な診察によって被験者それぞれが違っていてもよい。また漢方薬の処方も東洋医学的な
「証」分類によって被験者それぞれに異なった漢方薬の処方を行ってもよい。このように Pragmatic Trial では、より日常臨床
的な条件設定にすることを許容しており、プラセボ対照群を設定する必要はない。限られた資源と環境で、より現実的な答
を求めるデザインである。その代わり、設定した治療群の効果にどれくらいプラセボ効果が含まれるか、どの経穴が最も効
果的であったか、といった詳細な分析は困難である。
これに対して Explanatory Trial は、理想的な実験的環境の下でプラセボ効果を除外した真の特異的治療効果がどれくら
いあるのかを検討する場合が多い。例えば上述の緊張型頭痛の例で言えば、鍼治療群と偽鍼治療群や偽経穴刺鍼群を
比較したりする設定になる。また、経穴や漢方処方も最初から指定してあるため、ある特定の経穴や漢方薬処方に東洋医
学的に適合する画一的な患者集団を検討対象とする。したがって、適格な被験者を集めるためには Pragmatic Trial よりも
多くの労力と資源が必要となる。内的妥当性を追求するプロトコルとなるため、時には経穴の数や種類などが現実の臨床
の姿と解離する場合もある。
6.7.2.22
Pragmatic Trial デザインが CAM 研究で支持される理由
Explanatory Trial と Pragmatic Trial のいずれが優れているかといった議論に意味はなく、どのようなリサーチクエスチョン
を提起したかによって、どちらのデザインを用いたプロトコルを作成するかが決定される。CAM 領域における臨床試験では
多くの場合、ある CAM 治療法が現在主流の治療法より臨床的に有用であるかどうかを検証する場合が多い。例えば緊張
型頭痛に対して、従来の鎮痛薬のみの治療よりも鍼治療を併用したほうが自覚症状軽減の度合がよいか、鍼治療併用によ
って服薬量が減り医療費が抑制できるか、といった疑問が中心となる。プライマリ・ケアにおいて器質的病変を伴わないよう
な疾患を扱う場合は、プラセボ効果の大小よりも、結果的に患者がどれくらい満足するかという点に注目する場合も少なく
ない。このような観点から CAM 療法の臨床的有用性を検証する際には、より臨床に導入しやすい(より外的妥当性が高い)
答を見つけることが優先されるため、Pragmatic Trial が実施されることが多くなってきていると思われる。
最近の Pragmatic Trial の実施例としては、2004 年に British Medical Journal に掲載された Vickers らによる片頭痛に対
する鍼治療の Pragmatic RCT などが有名である(BMJ 2004; 328(7442):744)。鍼治療と従来の治療を比較したこの試験結
果は、鍼治療群のほうが服薬量が 15%少なく、診療所受診が 25%少なく、病欠日数が 15%減るというものであり、著者らは
慢性頭痛のプライマリ・ケアに鍼治療を導入すべきであることを示唆している。
6.7.2.3
Pragmatic Trial の適用範囲
以上のように、CAM の領域において少ない資源と労力で、より現実の臨床に近い条件での治療の有用性の有無を検討
するにあたっては Pragmatic Trial デザインが有用である。しかしながら、Pragmatic Trial デザインが Explanatory Trial デザ
インに取って代われるというものではない。内的妥当性を検証する Explanatory Trial と外的妥当性を検証する Pragmatic
92
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
Trial の両者がバランスよく実施されて、論理的にも妥当性があり、日常臨床でも患者の満足度が高い CAM 療法のみに絞
り込まれてゆくことが望ましい。
そのためには、まず計画している研究によって何を知りたいのか、すなわちリサーチクエスチョンを明確にする必要があ
る。ある CAM 療法の有用性を検証する場合、①日常臨床的に近似している状況設定(プラセボ効果を含めた評価をする、
同じ病名ならば一定範囲内で異質な症状の患者も含める、東洋医学であれば経穴や処方に一定の自由度をもたせる、な
ど)の下で、②現在一般に行われている治療法(西洋医学的な薬物療法や手術療法など)と比較して、③実用的であるか
どうか(症状の改善度や患者の満足度が高く、安全性が同等または優れており、コストが同等または低く抑えられる、など)、
といった点についてリサーチクエスチョンが提起されているならば、Pragmatic Trial デザインによる RCT プロトコルの作成と
実施が推奨される。
■ 6.8 代替医療とプラシーボ効果・アウトカム
代替医療におけるプラシーボ効果
従来のプラシーボ効果をめぐる状況
プラシーボ効果とは、一般に薬理効果のない物質や治療法であるにもかかわらず、臨床的効果を及ぼすもの、と言えよ
う。それゆえプラシーボは「不活性または作用のない物質」と定義されることが多い1)。広く医療行為においては、実際に
は不可分に含まれていると考えられるが、研究的側面においては、排除すべきものと考えるのが一般的である。この効果を
いかに排除するかが、臨床研究の成否を握るといってもよく、その方法論上で最重要とされているのが「二重盲検法」であ
る。それゆえこの方法は、広く薬物等の効果判定として用いられているわけであり、代替医療の検証においても例外ではな
い。つまり、プラシーボ効果を除去しなければ、科学的にその効果を証明したことにはならないのである。この方針は、代替
医療の検証において、とりわけ、ハーブや健康食品等の効果の検証において特に有効といえる。
代替医療評価における二重盲検法の問題点
ただし、この方法にはバイアスを完全に除去できているのかという問題点もある1)。バイアスを最小限にした適切な対照
群を設定しなければならないという問題である。薬物類の検証においては「偽薬」を設定しなければならないが、カイロプラ
クティックやアロマセラピーなど、偽薬にあたるコントロールを設定しにくい療法の検証は困難である。鍼灸の検証において
は、偽の鍼等を用いて、方法論の工夫をしているものの、厳密な意味では問題点も少なくない2)。また、そもそも代替医療
の本来の性質から、心理反応を積極的に利用する側面もあり、その効果判定からプラシーボ効果を除去することの是非も
議論されており、積極的に臨床に取り入れるべきという見方もある3)。つまり、代替医療はプラシーボ効果を積極的に用い
る体系である、とも言えるわけである。ここで我々は、代替医療を研究するにあたっては、プラシーボ効果に関して、肯定的
と否定的意義の二つの面を考慮する必要がある。こうしたスタンスの必要性は、通常の現代医療における臨床研究との大
きな相違点といえよう。
代替医療と現代医療の接点としてのプラシーボ効果
それでは、プラシーボを肯定的に取り扱うからといって、そうした代替医療研究は「科学的」ではないのだろうか。プラシ
ーボはただの「気のせい」だけであって、何ら人間に証明しうる生理学的変化をもたらすものではないのだろうか。そもそも
代替医療は、既知、未知を問わず、様々な機序を介して、生体の治癒機転に働きかける医療ともいえる。つまり妥当な科学
的方法であっても、プラシーボであっても、生体の治癒へのメカニズムに働きかけていれば同意義であるととらえられる。想
定する生体の治癒メカニズム(自律神経系・生体防御系・内分泌系等の連携)は、実態をもつものであり、これ自体は科学
的説明が可能である。これらを、プラシーボ研究で著名なミシガン州立大学のハワード・ブローディ教授は自著の中で「体
内の化学工場」と表現している4)。つまり、「実薬」であっても「偽薬」であっても、「体内の化学工場」は同等に治癒機転に
働きかける。その結果、治癒がもたらされるのであれば、その原因は本質的に関係ないとも言える。こうした観点から、代替
医療の臨床においては、プラシーボ反応はことさら、除去すべきものではない、という見方ができるわけである。これは、こと
93
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
代替医療に限る問題でもない。現代医療においても、昨今、個別性を重んじた医療ないしは全人的医療といった概念の重
要性が叫ばれている。また、そこに通低する思想も、科学万能的思想から、「語り」を重視する「ナラティブ」重視へと変貌し
ている。こうした流れの中で、これまでのプラシーボに対する従来の意味づけも変化してくるのは自明である。従来の薬物
療法や外科手術においても多分にプラシーボ効果は観察されている3)。つまり、両者にとって不可欠かつ、共通の接点と
してプラシーボ効果は、非常に重要な役割を持つと言えよう。
統合医療におけるプラシーボ効果
この考えをベースにすると、代替医療を現代医療の中に統合していこうとする「統合医療」において、プラシーボが重要
な意味があることがわかるであろう。つまり、統合医療研究という場合、現段階では、代替医療の基礎研究的側面と実際の
臨床的側面とでわけて考える必要がある。我々は今後、この分野においてプラシーボ効果というものを考えるにあたって、
このように分けて考える必要があるだろう。また将来的には積極的なプラシーボの評価という大きな発想の転換の成否が、
新たな医療、「統合医療」研究の成否ともなるだろう。
代替医療のアウトカム
前述のプラシーボをめぐる議論からもわかるように、純粋な科学的評価だけでは、代替医療のアウトカムが計れないことは
理解されよう。もちろん、従来の二重盲検法によるネガティブな意味でのプラシーボ効果を排除した科学的評価も不可欠であ
る。これは、代替医療の負の面(インチキなデータによる患者および利用者の不利益)を排斥する意味でより促進していかな
ければならない。しかし、患者ニーズの多様化する昨今、ここにさらにポジティブな意味でのプラシーボを評価する観点を付
加しなければならない。それゆえ、代替医療評価に当たっては正の面、負の面をあわせたプラシーボ効果の両側面をも、評
価しなければならないのであり、多様な評価基準が必要になる。また、従来の効果判定の尺度に加えて、QOL や患者満足
度といった指標、さらには将来的逼迫が必至である医療経済的評価も不可欠である。中でも、医療経済分野の研究は十分
であるとは言えず、早急な充実した研究が求められている5)。さらに好き嫌いといった趣向の面も無視できない。こうした指標
を、現代医療 VS 代替医療という図式ではなく、現代医療の中に代替医療を組み込んだ場合(統合医療)と組み込まない場
合(通常医療のみ)という形で比較検討していくことも重要である。何故なら現代において、実際問題、代替医療単独というこ
とは考えにくいからである。その上で以下の項目を総合的に評価すべきである。決してどれかひとつに偏るべきではない。
1.生物医学的効果判定(生理・生化学的評価等)
2.QOL 測定・患者満足度
3.医療経済効果
参考文献
1)A K Shapiro 著/赤居,滝川,藤谷訳: パワフル・プラセボ, 協同医書出版社, 2003
2)川嶋朗,山下仁: 鍼灸治療, 臨床検査 47:719-724, 2003
3)J E Pizzorno, M T Murray 著/帯津良一監修: 自然療法Ⅰ, 産調出版, 2004
4)Howard Brody 著/伊藤はるみ訳: プラシーボの治癒力, 日本教文社, 2004
5)小野直哉, 西村周三: 統合医療と医療経済, 統合医療基礎と臨床, 43-50, 2005
■ 6.9 メタボリック症候群と代替医療
近年、メタボリック症候群(メタボリックシンドローム)に該当する患者数が急増し、予防あるいは治療を目的として代替医療
を利用する人々が増えている。メタボリックシンドロームに対する代替医療としては、各種の食事療法やサプリメント(いわゆ
る健康食品)が用いられている。ただし、これらの代替医療は、従来型治療・標準治療と比べると、臨床試験等の科学的根
拠は十分ではない。一方、基礎研究や予備的臨床試験により、ある程度の効果が示唆されている療法やサプリメントも存
在する。したがって、有効性と安全性に関する科学的評価を実施することで、従来型治療と補完的な併用が可能であると
94
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
考えられる。さらに、費用対効果の見地から、メタボリック症候群の予防や治療において、従来型治療よりも優れた療法が
見出される可能性もある。
6.9.1 メタボリック症候群と代替医療
近年、本邦では代替医療が広く利用されていることが各種調査で報告されてきた。例えば、自然療法を中心とする健康・
癒し関連産業に関するアンケート調査では、代替医療を利用したことがある人は 83.0%に達しており、平均費用を効果別
に分析した場合では「断食」や「ダイエット」が高くなっていたという 1。健康食品・サプリメントについて、ダイエット目的での
利用が多いという報告もある 2。メタボリックシンドロームに対する代替医療としては、①各種の食事療法、②サプリメント(い
わゆる健康食品)が用いられている。
6.9.1.1 各種の食事療法
メタボリック症候群、特に肥満に対する代替医療として、各種の食事療法が行われている。一部の低脂肪ダイエットや低
炭水化物ダイエットに対しては、米国を中心にランダム化比較試験によるデータが報告されているが、本邦では質の高い
RCT は皆無である。具体的な食事療法として、次のような代替医療が知られている。
・低脂肪ダイエット;オーニッシュダイエット Ornish diet
・低炭水化物ダイエット;アトキンスダイエット Atkins diet、サウスビーチダイエット South Beach diet
・バランスダイエット;ゾーンダイエット Zone diet
6.9.2.2 サプリメント(いわゆる健康食品)
メタボリック症候群に対しては、α-リポ酸、L-カルニチン、Gymnema sylvestre、Cyamopsis tetragonoloba、Trigonella
foenum-graecum、Citrus aurantium、Lagerstroemia speciosa、紅麹といった成分が用いられる 3,4。一般に、これらのサプリメン
トは医療用医薬品に比べると科学的根拠が少ない。一方、サプリメントとしては比較的多くの臨床試験によって効能効果が示
されている成分もあり、食事療法や運動療法との組み合わせで効果が期待できる。各成分の概要は以下のようである。
(1)アセチル-L-カルニチン Acetyl-L-carnitine
アセチル-L-カルニチン(ALC)は、体内では細胞のミトコンドリア内膜に存在する成分である。内在性のカルニチンは、Lカルニチンや acyl-carnitine ester から構成されるカルニチンプールとして存在する。ALC はカルニチンプールの主な構成
成分であり、カルニチンアセチルトランスフェラーゼの作用によって L-カルニチンに転換される。ALC は、加齢による認知
機能障害やアルツハイマー病、糖尿病性神経障害、男性不妊症等に効果が示されている。
(2)α-リポ酸 α-Lipoic Acid
α‐リポ酸(ALA)は、ビタミン様物質として扱われる補酵素の 1 種である。内在性の ALA は、ピロホスファターゼとともに炭
水化物代謝や ATP 産生に関連する補酵素として作用する。ALA は、細胞内のミトコンドリアにおいてピルビン酸脱水素酵
素によりアセチル-CoA が生成される過程で補酵素として働く。ALA は、チオクト酸 Thioctic Acid とも呼ばれる。本邦では、
ALA は医薬品成分として利用されてきたが、2004 年 3 月の法改正以降、食品(サプリメント)として使用できるようになった。
サプリメントとしての ALA は、2 型糖尿病や糖尿病性神経障害、肥満、その他の生活習慣病に対して利用されている。基礎
研究では ALA による抗酸化作用が示されてきた。臨床試験では、2 型糖尿病における血糖コントロール改善作用や末梢
神経障害改善作用が報告されている。なお、基礎研究において ALA の抗肥満作用が報告されており、減量目的での利用
もあるが、臨床試験のデータは十分ではない。
(3)ギムネマ Gymnema Sylvestre
ギムネマは、ギムネマ・シルベスタ Gymnema sylvestre というインド原産のガガイモ科の多年草であり、南インドから東南ア
ジア、中国南部などに分布する。インドの伝統医療・アーユルヴェーダでは、糖尿病や肥満に効果のあるハーブとしてギム
ネマが用いられてきた。薬用に利用されるのは、葉から抽出された成分である。有効成分のギムネマ酸は、小腸における炭
95
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
水化物の消化・吸収を遅らせ、食後の過血糖を抑制する。
臨床試験では、1 型および 2 型糖尿病患者における血糖コントロール改善作用が報告されている。長期投与によって、血
糖値および HbA1c 値を低下させる。また、予備的研究では、コレステロール低下作用も示唆されている。さらに、他のハー
ブとの併用による体重減少作用を示した臨床試験も知られている。
(4)グアガム Cyamopsis tetragonoloba
グアガムとは、マメ科の植物グァー(グアー、グアール、guar)の種子に由来する水溶性食物繊維である。グァー(学名
Cyamopsis tetragonoloba)は、主にインドやパキスタンに生育する。有効成分の一つとして、グアガム分解物のガラクトマン
ナンがある。グアガムには、便通(便秘や下痢)の改善、糖尿病や高脂血症の改善、過敏性腸症候群の改善といった作用
が報告されている。
(5)コロハ Trigonella foenum-graecum
コロハ(フェヌグリーク fenugreek)はマメ科一年草の植物である。種子がインドや北アフリカの伝統医療において利用され
てきた。近年の基礎研究および臨床試験では、糖尿病および高脂血症に対する効果が報告されている。動物実験や in
vitro 研究では、コロハによるインスリン分泌促進作用が示されてきた。
(6)シトラス・アランチウム Citrus aurantium
シトラス・アランチウム(ダイダイ、bitter orange)は、アジア原産の柑橘類である。中国医学や日本漢方では、乾燥した果
皮や未熟果実が消化機能不全等に対する薬用植物として利用されてきた。欧米の伝統的なハーブ医学では、未熟果実も
しくは成熟果実の乾燥果皮が食欲改善といった消化機能改善を目的として用いられてきた。有効成分として、果皮や果実
にはシネフリン synephrine とオクトパミン octopamine が存在する。いずれもエピネフリン様作用を有する。また、各種の精油
成分やフラボノイド類が含まれる。米国においてエフェドラ(麻黄)がOTCでの販売禁止になって以降、シトラス・アランチウ
ムがエフェドラに代わる「ダイエット(減量)用サプリメント」として販売されるようになった。エフェドラ・フリー(エフェドラ無配合)
のダイエット用サプリメントとして広く利用される一方で、有害事象報告が散見される。減量目的での利用は比較的最近で
あるため、用量・用法についての検討が十分ではなく、効能効果および安全性についての臨床試験報告も限られている。
6.9.2 代謝性疾患における SNPsの応用
個別化医療の実践のためには、ゲノムやプロテオーム解析による個人差の検証が必要である。現在、SNPs における個
人差が、医薬品やサプリメント、機能性食品成分に対する感受性に存在する個人差に相関すると考えられている。サプリメ
ントに対する感受性に関して、SNPs の差異を検証した報告はまだ多くはなく、今後の研究が必要である。
主な報告として次の研究が知られている。オメガ 3 系脂肪酸サプリメントによる中性脂肪の低下作用に関して、PPARγ2 の
Pro12Ala 変異との相関を示した研究である。研究では、150 名の男女(49±8 歳)を対象にして、魚油サプリメント(2.4gの
EPA と DHA 含有)を 3 ヶ月間投与し、血中脂質を偽薬群と比較したところ、PPARγ2 の Pro12Ala 変異群では、Pro12Pro
群に比べて、サプリメント投与によって、有意に中性脂肪値が低下したという。
一般に、代替医療に関しては、効果や効能の評価に適切なEBMの方法が確立しているとはいえず、現代西洋医学と比べ
ると科学的根拠が十分とはいえない。メタボリック症候群に対する個別化医療において、機能性食品成分や薬用植物を利
用する場合、新たな評価手法の確立が必要になると思われる。
参考文献
1) UFJ 総研:研究レポート 2005/06/02「増大する健康・癒し関連産業のニーズ」
2) 三菱総研:「健康食品」の利用に関する調査(pr050926)
3) 蒲原聖可:医療従事者のためのEBMサプリメント事典.医学出版社,東京,2006.
4) 蒲原聖可(共編著):肥満症診療ハンドブック.医学出版社,東京,2001.
96
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
■ 6.10 セルフモニタリングとアウトカム
セルフモニタリングとは行動療法において用いられる手法の一つで、治療的介入を行おうとする行動(喫煙行動など)や
症状(疼痛など)について、自分自身で観察してその結果を数値(タバコの本数や痛みの程度など)などで記録し評価する
ことを示している。行動療法においては、特定の治療法の効果の評価としてだけでなく、モニタリングした結果を自らチェッ
クしたり評価したりすることにより、日常生活における思考や感情や環境と自分自身の行動や症状との関連性(心身相関)
への気づきを促し、より好ましい行動変容や症状改善を促すという治療的効果も期待して用いる。例えば、疼痛レベルを 0
から 10 までの 11 段階で1時間毎に記録することで、鎮痛剤や代替療法の有効性を判定するだけでなく、日常生活におけ
る疼痛の増強因子と軽快因子について自ら気づく切っ掛けとなり、痛みを増強させるような日常生活行動を避けようとする
行動変容が促される。
次に、代替療法のアウトカム評価としてセルフモニタリングを用いる場合の可能性と注意点について述べてみる。臨床疫
学におけるアウトカム指標としての6Dsのうちセルフモニタリングが有用である指標は、Discomfort(不快)、Disability(能力
障害)、Dissatisfaction(不満足)の3つと考えられる。近代西洋医学におけるアウトカム評価の中心が Death(死亡)、
Disease(疾患)であり、客観的に評価可能である生物学的指標を数値と画像で評価してきたのに対して、代替医療におけ
るアウトカム評価としては上記の3つの指標もQOL(生活の質)に及ぼす影響を評価する上で重要となってくる。例えば、慢
性疼痛においては Discomfort としての痛みの訴えを先に述べた 11 段階のペインスコアで評価すると同時に、痛みによって
制限を受けている日常生活動作 (Disability)についても自己観察を通じて数値化(歩数、外出時間など)して記録する。ま
た、仕事や家事や趣味などの人生における自己実現という視点からは、どの程度満足しているか(Dissatisfaction)を満足度
として数値にて評価することが可能となる。その結果、ある代替医療を行った場合に、従来の評価基準である Death、
Disease の改善が認められなくても、痛みの軽減や日常生活における行動範囲が広がったり、自己実現が可能となり人生
の満足度は上がったという結果が認められたりした場合、その代替医療はQOLの改善という点で有効であったと評価する
ことができる。このように、医療の目的が単に疾病治療だけではないという全人的視点から考えると、病態生理指標以外の
このようなQOL評価において、セルフモニタリングは有用な手法となるであろう。しかし、セルフモニタリングをすること自体
が、「心身相関への気づき」を促し自らより好ましい行動変容を引き起こすという行動療法としての効果もあることから、評価
対象となる代替医療そのものの効果だけを正確に示しているとは限らないとう点について留意しておく必要がある。この点
については、カウンター式の自己観察装置などを使用して、モニタリング結果が本人にフィードバックされないような工夫を
するなど今後さらなる検討が望まれる。
<代替医療と narrative based medicine>
治療医学が中心である近代西洋医学においては、いかにして症状や病気を治すかという機械の修理と同じ考え方の「機
械モデル」を基本にしてきたため、技術者としての専門職が求められ、そこでは要素還元主義を中心とした科学的客観性
が求められる evidence based medicine(EBM)が重視されてきた。一方、患者の立場から考えると、診断名がつかず有効な治
療で病状が改善されなくても、現在の苦悩が少しでも緩和され日常生活を送ることができるような専門的ケアとしての医療
を期待していると言える。患者にとって病気の経験は、人生における物語り(ナラティブ)のひとつの出来事であり、それを苦
痛に満ちた内容から、 意味のある納得できる物語りに新 たに書き換え ていくプロセスを重視する narrative based
medicine(NBM)が近年注目されるようになってきた。 医療人類学においては、病気の生物学的側面を表す disease(疾患)
と、病気の個人的な意味や経験を表す illness(病い)を区別しているが、EBMが前者に対する医療者側の「説明モデル」と
しての視点であるの対して、NBMは後者に対する患者側の「説明モデル」を重視している。この医療者側と患者側の説明
モデルの違いに気づき、両者が共に納得できる新しい説明モデルを見つけ、新たな人生の物語りを作り出していく共同作
業としての医療という枠組の中で、代替医療の意義と役割を考えていくことが重要となる。NBMにおいては、症状や病気
は必ずしも治癒させなければいけない悪い存在ではなく、むしろ現在の日常生活や仕事など人生の方向性を考え直す契
機としてポジティブに捉えていくプロセスを重視する。生活習慣病やがん等の難治性疾患が問題となる中高年における医
療では、このようなナラティブな視点からのアプローチが有用と考えられ、患者自身の考え方や価値観にも配慮した全人的
医療として代替医療を併用していくことが望まれる。
97
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
代替医療をNBMの視点から考える場合、EBMと異なり客観的データの収集は困難である。ナラティブの具体的内容は、
どのような関係にある人がどのような場所でどのような聞き方をするかによって異なった内容になってしまう。すなわち、患者
のナラティブデータを医療者が扱うということではなく、患者と医療者の相互作用の過程をデータとして扱うことになる。患者
のナラティブだけでなく医療者自身のナラティブが実は影響しており、その両者を結びつける架け橋としての代替医療の役
割という視点から考えると、従来の「治療者と患者」「研究者と研究対象」という一方向的関係とは異なった、「互いに癒され
自己成長を促し合う相手」「共同研究者」といった関係性が求められる。そのため、患者が語るナラティブと同時に、それが
どのような場所でどのような関係にある人がどのように聞き出したかといった情報についても詳細に記述する必要が出てくる。
しかしそれでも、患者自身が語るナラティブを聞くという行為そのものが実は治療やケアとなってしまうことから、代替医療の
評価としてNBMを利用する時には、データ収集の時期を慎重に選ぶ必要があると考えられる。
■ 6.11 統合医療のカリキュラム
現在、本邦において統合医療の本格的な、また実践的教育プログラムは存在していない。海外においても、個々の代替
医療に関する教育プログラムは存在しても、統合医療のプログラムは少ないのが現状である。そこで、統合医療を提唱し、
米国で最も古いアリゾナ大学医学部の統合医療のプログラムを参考にしたい。このプログラムは、医師を対象にしており、
次のような Mission・教育内容となっている。
統合医療はライフ・スタイル総ての側面を含む人の全体(身体、心、精神)を考慮する癒し志向の医学であり、各療法の関
係を重視し、西洋医学と代替医療双方の総ての適切な療法を使用して行くものである。アリゾナ大学統合医療プログラム
は 1994 年に全米の理想を求める主要なリーダー達の助力を得て、Andrew Weil 博士を指導者として設立された。
プログラムの内容は、
1
Healing Oriental Medicine(東洋医学による治療)2
Philosophy of Science(科学哲学)3
Art of Medicine(医術)4
Medicine and Culture(医療と文化)5 Spirituality & Medicine(霊性と医療)6 Ethics(倫理)7 Nutritional Medicine(栄養医学)
8 Botanical Medicine(植物医学)9 Mind/Body Medicine(心と体の医療)10 Research Education(研究指導)11 Integrative
Medicine & Law(統合医学と法律)12 Medicine, Leadership and Society(医学・社会学分野、指導者としての教育)
となっている。特に、ヒーリング・プロセスにおける患者と医療従事者間のパートナーシップ、身体が本来持っている治癒反
応を促進させるために、西洋医学と代替医療を適切に適応する、身体とともに心、精神、社会を包含し、健康、病に影響を
及ぼす総ての要素を考慮する、無批判に西洋医学を拒否したり、代替医療を受容したりしないというフィロソフィー、良き医
療は良き科学に基礎を置き、調査・研究によって導かれ、且つ新しいパラダイムに対し開放的であるべきということを認識す
る、可能な限り自然で攻撃的でない治療法を利用する、病気の治療と同様に健康の増進と病気を防ぐことに関するより幅
広いコンセプト、健康と癒しのモデルとして、自己啓発を心がけている医療従事者であること、などを重視している。
まだ本邦には少ない、識授与型ではなく問題解決型のプログラムであり、統合医療において重要な理念・科学哲学も学
ぶ。よく誤解されるのだが、各種代替医療を学ぶのではなく、実践的な統合医療、すなわち単なる寄せ集めではなく、いか
に統合するのかを学習するプログラムである。
6.11 代替医療の禁忌療法
各代替医療における禁忌は、急性疾患、特に感染症に対しての鍼治療や、重度の免疫低下状態における温泉療法、妊
娠中に使用できないハーブ類の使用など、個々の療法においてそれぞれ存在している。しかし統合医療という立場で、各代
替医療共通の禁忌を考えた場合、まず西洋医学的評価を行った上での治療であったかどうかという点が重要となり、そのプロ
セス無しに代替医療が行われていれば、それがどのような代替医療であっても禁忌といえる。統合医療は、現代西洋医学を
踏まえて多角的にその人物や疾患を捉えることから始まるからである。また、より厳密に共通の禁忌を考えると、各診断・治療
手段に関して、各担当者(治療家)が情報交換、議論、討論などを行った上で、その療法が行われたかがポイントとなるであ
ろう。よく吟味され最適な手段の選択、コーディネイトがされたかどうかが統合医療の重要な流れだからである。
前述したプログラムにあったように、根底にある多角的なものの見方(哲学)や、患者と医療従事者との関係性構築など
98
代替医療の科学的評価手法の指針の開発
研究の詳細と参考資料
がより統合医療においては不可欠である。そして、たとえ治療が西洋医学的手段のみであっても、そのプロセスによっては
単なる西洋医学でもあるし、統合医療となる場合もあるし、単に現代西洋医学と代替医療を併用したものが統合医療になる
のでもないのである。
ある代替医療で最適な医療を行ったとしても、統合医療では、それ以上の可能性や、個々に対する適性度を考えるから
である。
以上
99