講義ノート(シラバス) 組織学を学ぶ前に Ⅰ 解剖学とは、 Anatomy: 切り刻むこと 形態学 Morphology 何をあつかう? 形や色合いなど、部位(空間的位置、隣接物)、材質--構造、素材--由来、 機能解明を最終目標とする 医学部で人体解剖に関わる講座: 解剖学、病理学、法医学 医学の基本的研究手法: 形態学(解剖学)− 生理学 − 生化学(医化学)の三角関係 「生理」系学問と「病理」系学問のちがい Ⅱ 解剖学の細分科目 系統解剖学と局所解剖学 肉眼解剖学と顕微解剖学 組織学 Histology と細胞学 Cytology 細胞生物学 Cell-biology、組織・細胞化学 Histochemistry/Cytochemistry、 分子形態学、機能形態学 Functional morphology、細胞科学 Cell-science 発生学 Embryology(個体発生 Ontogeny と系統発生 Phylogeny) 比較解剖学 人類学、美術解剖学、生体工学 Ⅲ 動物と「ヒト」 「人」と「ヒト」のちがい、 動物のおおまかな分類とヒトの位置付け。 動物の分類例: 恒温と変温、冬眠、卵性と胎生、陸棲・水棲と両棲、空飛ぶ、 ・・・ Ⅳ 正常と異常 平均と標準、教科書記載型 破格 variation 10 Ⅴ 単位 (長さを例に) m (dm) (cm) mm μm nm pm fm km Mm Gm など (1Å=0.1nm) Ⅵ 細胞 Cell 生物としての性質をもった、動植物の最小単位! Ⅶ 生体の成り立ち 生体>系(統)>器官>組織>細胞 系 System とは: 同じ(似た)機能を持った器官の集合、発生学的にも近縁関係 人体を約 10 の系に分ける。 運動器系(筋系、骨格系)、循環器系、(血液)、消化器系、呼吸器系、 内分泌系、泌尿・生殖器系、感覚器系、(皮膚)、神経系 # 多くの「系統解剖学」の教科書は、このような項目に分けて記載がなされている。 器官 organ とは、臓器のことである Ⅵ 「組織」 Tissue とは、 4 種に大別された組織: 上皮組織、支持(結合)組織、筋組織、神経組織 組織学総論では、この順に講義がおこなわれる。 11 細 胞 Ⅰ 細胞とはどんなものか 「細胞」は膜で囲まれた小さな部屋であり、その中で生命現象を営んでいる。すべての生 物は一個以上の「細胞」で構成されており、細胞は生物を構成する基本的な最小単位であ ると考えることができる。 注)細胞は大きく分けて原核細胞 (Prokaryotic cell:単細胞生物などきわめて下等な生物 に見られる、核のないもの ) と真核細胞 (Eukaryotic cell:より高等な多くの動植物に見 られる、核を有する細胞)に分けられる。ここではおもに動物の(とくにヒトの)細胞(つ まり真核細胞)を取り扱う。 Ⅱ 細胞の概観 大きさ: いろいろ! 例えば血液中の細胞のひとつである赤血球は7∼8ミクロン、 一般的には10∼30ミクロンくらい。 大きいものとして卵細胞の直径は約200ミクロン、 ニューロンの突起(神経線維)のように細くても長さが1mにおよぶものもある。 かたち: いろいろ! 球形、卵円形、立方形、円柱形、扁平形、紡錘形などと表現する。 膜による真核細胞の空間区分: 核質 ―{核膜}― 細胞質 ―{細胞膜}―細胞外 光線顕微鏡(光学顕微鏡=光顕): 細胞膜(実際は細胞と細胞外との境界)、細胞質(一部の細胞小器官の存在がうかがえ る こともある)、核(染色質と核小体)。染色を施していてカラーで観察 電子顕微鏡(電顕)で見た細胞: 解像力は高い、すなわち倍率をあげられる。 電子線を媒体として観察し電子密度の濃淡をモノクロで観察 Ⅲ 核 核膜に囲まれた「空間」である。 核小体(nucleolus): rRNA を合成している場所 (古い用語では「仁」と呼んだ) 染色質=クロマチン Hetero-chromatin と Eu-chromatin: ゲノム DNA の保管場所、RNA への転写 transcription の盛んな場所 * ゲノム DNA はヒトでは、約30億塩基対、3∼5万の遺伝子をコードしている。 核基質: 核内の無構造な部分、核膜孔を通じて細胞質基質とつながっている。 12 Ⅳ 細胞質 A. 主要な内容物:「細胞(内)小器官 (cell organelles)」と一般に呼ばれる。 ①小胞体 (endoplasmic reticulum: ER) リボソーム(ribosome) の付いた粗面小胞体(rER)と付いていない滑面小胞体 (sER)がある。 粗面小胞体はおもに円盤状(押しつぶされた袋状)をしており、膜結合型・分泌型タンパ ク質を作る「工場」となっている。 滑面小胞体は細胞質内に網のように広がり、互いに連絡する内腔をもった微細な管状の構 造物。粗面小胞体とともに脂質の合成・代謝の場となっている。 また、特定のイオン類の貯蔵の場でもある。 ②ゴルジ装置 (Golgi apparatus) 扁平なふくろ状のものを数枚重ねたような構造物。rER で合成されたタンパク質を加工・ 分別し、分泌小胞やリソソーム向け小胞等にパッキングする、「最終組立工場兼流通セン ターのようなもの」である。 ③小胞類(vesicles) --- 輸送小胞、飲み込み小胞・エンドソーム、分泌顆粒・分泌小胞など --大きさはいろいろで、球状(大きいものは不定形)の袋状の膜構造物。「袋の中身を輸送 するトラック」のようなものである。 ④リソソーム (lysosome)とペロキシソーム (peroxisome) 形状はいろいろだが基本的に球∼卵円形。 リソソームは加水分解酵素などを含有しており、不要物質の分解と処理を担う。大きい意 味では上記の小胞類の一種であるが、中身が細胞外には出ない。「ゴミ処理場」のような もの。 ペロキシソームはおもにカタラーゼやペルオキシダーゼなどを含有していて過酸 化脂質の代謝などをおこなう。 ⑤ミトコンドリア (mitochondria) 直径 0.2-0.5μm×1-7μm 位の大きさの球・杆状構造物。内外2枚の限界膜をもち内膜は ヒダ状に陥入し、櫛またはクリスタ(クリステ)cristae と呼ばれる。最内側の部分はミト コンドリア基質という。 内膜や基質の部分には、 TCA サイクルに関する諸酵素と電子伝達系に関する諸酵素が含 まれ、細胞内でのエネルギー(ATP)の産生に重要。 「細胞の発電所?」といった存在で、 エネルギー供給の源。 元々外来の微生物(バクテリア)がすべての動物細胞に入り込んだ寄生体(共生体)の一 種と考えられ、独自の(バクテリアに近い構造の)DNA をもち独立して増殖する ⑥中心小体 (centrosome)=直交する2本の中心子(centriole) 中心子は、3本1組の微細小管(微小管)が9組集まった、直径 0.2μm 長さ 0.5μm の円 筒形の構造物。 ⑦ リボソーム (ribosome) 遊離型 (free ribosome)と付着型 (membrane-bound ribosome)がある。 12nm×25nm 位の大きさの、顆粒状(雪だるま型)の構造物。 おもにリボソーム RNA (rRNA) からなる(少量の DNA・タンパク質も含む)。 RNA からポリペプチド(タンパク質)への「翻訳」の場。 13 注)付着型リボソームは小胞体に付着し、そこを粗面小胞体と言う。付着型リボソームで は膜結合型や分泌型タンパク質の翻訳がおこなわれる。 遊離型リボソームは、しばしば 集合してポリリボソーム(ポリソーム)を形成する。ポリソームでは非膜結合・非分泌の タンパク(細胞質基質・核・ミトコンドリアなどで利用されるタンパク質)の翻訳がおこ なわれる。遊離型リボソームを細胞小器官に含めない場合もある。 B. ① ② ③ 封入体または副形質: グリコーゲン顆粒 脂肪滴 色素類(リポフスチンなど) 注)細胞小器官のひとつとして記載した A-③の小胞類はここに区分されることも多い。 逆に、脂肪滴(脂質滴)や色素の一部(メラノソームなど)は細胞小器官に分類され る場合も多い。 参考)原形質と副形質 細胞膜などの形質膜、核質や細胞質(細胞内小器官を含む)のことを原形質という。原形 質は細胞の「生きている」部分のことであり、「死んだ」物質や取り込んだ物質(例えば グリコーゲン顆粒など)はこれに含めないで副形質という。「原形質」と「細胞質」を混 同しないように! というより、原形質や副形質という単語は最近あまり用いないと考え て欲しい。 C.細胞骨格:(細胞内小器官に含めることもある) 線維状のタンパク質でできた骨格構造で、細胞の形の維持や細胞内の物質流動を助ける。 ① 微細小管: Tubulin という 2 本鎖のタンパク質線維が 13 本集まった、25nm 径の構 造物(細胞内物質流動に関連、レール・道路の役割、これに沿って輸送小胞などが運ばれ る)。 ② 微小繊 (線) 維 文字通り、骨格として働く他、一部の線維は運動にかかわる。 a) 細いフィラメント = アクチンフィラメント : Fアクチンの2重らせん、6nm 径。 Gアクチンという球状タンパク質が連なって線維状になったものがFアクチン。 片一方の端は細胞膜に結合している。 b) 太いフィラメント= ミオシンフィラメント 。12-15nm 径。 c) 中間径フィラメント : 8-11 nm 径、Keratin(Tonofilaments はこの1種)、 Desmin、Vimentin、Glial fibrillary acidic protein、Neurofilaments、など (俗称 10nm フィラメント) D.細胞質基質: 細胞質の内、構造物のないゲル状の部分 細胞質ゾルまたはサイトソル(cytosol)と呼ばれる画分にほぼ一致する。 14 Ⅴ 細胞の膜成分 細胞小器官のうち小胞体、ゴルジ装置、リソソーム、分泌顆粒や小胞などの膜は細胞膜と 共通の膜成分でできている 。核膜、ミトコンドリアの外膜、内膜なども、でき方は少し 違う場合もあるが、良く似た構造(単位膜という)をしている。 膜成分の合成: ミトコンドリアなどを除き、小胞体膜が大部分の膜成分の合成部位であ る。 膜の流れ: 小胞体膜→ゴルジ装置→小胞・分泌顆粒→細胞膜 ↓ (膜はリサイクルされる) リソソーム・エンドソームなど 細胞膜 = 形質膜 (plasma membrane) 厚さ 7.5nm、リン脂質の2重層(中間層の疎水基を両側面の親水基が挟む形の3層構造) この流動性の脂質層の中にタンパク質分子がモザイク状にはめ込まれた状態になってい る。タンパク質やリン脂質分子からは細胞の外側に向かって、糖鎖がのびる。細胞膜の 外表面の糖鎖集団は、Glycocalyx と呼ばれる厚さ 50nm の糖衣を形成していて、細胞同 士の認識や、接着に関与している。 受容体・ポンプ・チャネル・トランスポーターは脂質層に浮かぶタンパク質分子である。 細胞の外(と細胞内膜系の内腔)から細胞内(サイトゾル側)への物質移動は簡単では ない。そのため、受容体を利用して細胞外の物質からの情報を細胞内に伝えたり、ポン プ・チャネル・トランスポーターを利用して物質透過の選択をしたりしている。 核膜と細胞膜および(ミトコンドリアを除く)細胞小器官の膜 を含めて、「細胞内膜系」 といい、この膜系により細胞の「うち」と「そと」 が厳密に区別されている。 核膜の本態: 内膜と外膜からなる。核膜の切れ目が核膜孔であり、ここで核内膜と核外 膜はつながっている。核外膜は小胞体膜に連続している(つまり小胞体の一部!)。核 膜孔を通して核基質と細胞質の基質(サイトゾル)が連続することになるが、核と細胞 質の間の物質移動は核膜孔を通しておこなわれるが、その移動には一定の選択性がある。 15 Ⅵ 物質の膜透過 ① 特殊装置を用いる場合 (透出) ポンプ(能動輸送): 膜を1回貫通する糖タンパク質の2量体または多量体 例: Na,K-ATPase(ナトリウムポンプ)、エネルギーが要る、ATP を分解する酵素 チャネル:voltage-gated type: 膜6回貫通ドメインを繰り返す単一の糖タンパク質 ligand-gated type:(受容体の一種)膜4回貫通型の糖タンパク質の多量体 開閉にはエネルギーが要るが、物質通過そのものは単なる拡散による 例: Ca チャネルや Na チャネルなど トランスポーター: 膜を12回貫通する糖タンパク質、輸送にエネルギーが要る 例: グルコーストランスポーター、アミノ酸のトランスポーター ② 特殊装置なしで膜通過できる場合 (透出・拡散 diffusion) 例: O2 や N2 などのガス類、水(H2O)、ステロイド(小分子で脂質の1種)、な ど ③ 膜を透過しない物質輸送 開口放出または開口分泌 (exocytosis)、(←→ 透出分泌) Endocytosis=内部移行(internalization): たべこみ(phagocytosis)、のみこみ(pinocytosis) 細胞内では発芽(budding)や膜融合(membrane-fusion)と言うプロセスを踏む。 〔ここに出てくる多くの用語は細胞の構造ではなく現象に付けられた名前である〕 16 上皮組織 Ⅰ 上皮組織とは 体表面、管腔(消化管、呼吸器、泌尿器、生殖器など)、体腔(心膜腔、胸膜腔、腹膜腔) などの表面を覆う、1ないし十数層の細胞の層でできた組織。 細胞相互が密接して配列し、細胞間質がごくわずかしか介在しない。 ≫上皮の下(表面の反対側)には、多くの場合、結合組織 (connective tissue) が存在し、 上皮組織と結合組織の境には「基底膜」が存在する。 Ⅱ 個体発生的には ... <上皮組織の発生学的分類> 狭義の上皮 (epithelium): 体表面の上皮(すなわち皮膚の表皮など )は、外胚葉(表層外胚 葉)から発生し、消化管・気管・肺胞上皮やそれらの付属腺の腺上皮は内胚葉から発生す る。 内皮 (endothelium):上皮のうち、心臓、血管、リンパ管、関節腔、滑液嚢、くも膜下腔、 内耳の外リンパ腔、前眼房など(これらの中腔には血液やリンパなどの液体が入ってい る)の内面を覆う単層扁平上皮を、特に内皮と言い、中胚葉とくに間葉から発生する。 中皮 (mesothelium):上皮のうち、体腔(心膜腔、胸膜腔、腹膜腔)の内面を覆う単層扁 平上皮(腹膜、胸膜、心膜の裏打ちと同じ結合組織由来)を、特に中皮(=漿膜上皮) と言い、中胚葉から発生する。 Ⅲ 上皮組織の形態学的分類 [1 層の細胞配列] 1) 単層扁平上皮 Simple squamous epithelium 2) 単層立方上皮 Simple cuboidal epithelium 3) 単層円柱上皮 Simple columnar epithelium 4) 多列上皮 Pseudostratified epithelium [複数層の細胞配列] 5) 重層扁平上皮 Stratified squamous (flattened) epithelium 6) 重層立方上皮・重層円柱上皮 Stratified cuboid (or columnar) epithelium 7) 移行上皮 Transitional epithelium ≫この項目は「上皮組織」で一番覚えなくてはならないポイントなので、あえて名称だけを記 載した。これらが、どんな形態をとるか (形態学的特徴 )、どんな機能 (機能的分類)と結び ついているか、どんな場所で利用されているか、などについて完全に理解し記憶していな ければならない。 また「角質層」を持つ (keratinaized) ことがあるのはどの上皮か、微絨毛や線毛を持つこ とが多いのはどの場合か、などの特徴も理解すること。 17 Ⅳ 上皮組織の機能 <上皮組織の機能的分類> 1) 被蓋上皮 (Covering epithelium) : 身体の外表面や、中空器官(管腔)の内面を覆い、 これらを保護する。 2) 腺上皮 (Glandular epithelium) : 元来、被蓋上皮の細胞が上皮の配列から陥没して 分泌能力を持つ細胞群を形成したもの(腺の講義で詳述) 3) 吸収上皮 (Absorptive epithelium) : 被蓋上皮のうち、吸収機能を持つもの。 小腸の粘膜上皮など 4) 呼吸上皮 (Respiratory epithelium): ガス交換にあずかる。 肺胞の上皮。 5) 感覚上皮 (Sensory epithelium): 上皮が感覚受容器に分化し、刺激を受容して興奮し、 その興奮を神経系に伝えるようになったもの。 網膜の感覚上皮など。 Ⅴ 上皮組織の存在部位による命名 上皮組織はその存在部位によっても命名できる。 (例) 気管上皮、肺胞上皮、消化管上皮、胆管上皮、尿細管上皮、角膜上皮、など ≫ 注: 特殊に分化した上皮組織・・・『腺』については別の項目(講義)にてあつか う 『付録』 上皮組織の細胞表面、細胞間接着 [表層側] apical surface 表層側の細胞膜は平らでないことが多い。 微絨毛 Microvilli: Actin filaments の束を含む毛状の「出っ張り」、 光顕的には「刷子縁」または「小皮縁」としてとらえられる。 線毛 Cilia: 微細管 Microtubules を含み、自動能を持っている。 2 本組みの microtubules 9 組が 2 本の microtubules を円筒形状に取り囲んでいる。 [基底側] basal surface 基底膜 (basement membrane または basal lamina): 結合組織が上皮組織に接する(上 皮細胞の細胞膜から 30-40 nm 離れた)ところにある。ムコ多糖に富み(PAS 染色陽性)、 ラミニンと IV 型コラーゲンを多く含む 50-100nm の、上皮細胞が産生した層。 基底膜陥入 Basal plasma-membrane infoldings: 基底側の細胞膜が櫛歯状になっている。 この形質膜には ATP 依存性のポンプ・タンパク質が多数組み込まれ、イオンの輸送を 担っている。細胞質部分にはミトコンドリアが豊富である。 [両外側] lateral surface 隣り合う細胞どうしの関係 (A)接着複合体 ・・・以下の 3 つからなる。 1)と 2)は光顕の「閉鎖堤」に相当 1) 密着帯(閉鎖帯) Zonula occludens (= Tight junction): 両細胞の形質膜外葉どうしが(ひも状部分でだけ)癒合したもの。 2) 接着帯(中間の結合) Zonula adherens (= Intermediate junction): 10‐20nm と少し広い細胞間隙、細胞質側に Actin filaments の付着 3) 接着斑(デスモゾーム) Macula adherens (= Desmosome): 接着帯から多少隔たった所に点在、小円盤状、細胞間隙は約24nm、 細胞質側に Tonofilaments の付着、細胞間を結合する糖タンパク質の存在 (B)ギャップ結合 Gap junction (nexus、または communicating junction とも言う) 細胞膜間は 2nm の間隙で近接、両細胞膜の6量体・膜内タンパク質 Connexon が向き合う、この小孔により小分子が細胞間を移動、 上皮以外の興奮性細胞にも存在 18 支持(および結合)組織 Ⅰ 支持・結合組織とは、 狭義の結合組織(Connective tissue)と、特殊に分化した結合組織(軟骨組織、骨組織、 血液とリンパ)を総称して、支持組織という。 広義に解釈し、支持組織のことを「結合組織」と言ってもかまわない。 個体発生学的には「中胚葉」に由来し、身体の内部構造を保持する役割をもつ。 支持組織の細胞は、自身の作り出した豊富な細胞間質にうもれて散在する。 Ⅱ 結合組織を構成するもの [固定細胞] 線維芽細胞 Fibroblasts 細網細胞 Reticular cells 脂肪細胞 Adipose cells [自由(遊走)細胞] マクロファージ (組織球または大食細胞) Macrophages 肥満細胞 Mast cells 形質細胞 Plasma cells リンパ球 Lymphoid cells 顆粒性白血球 Granulocytes [細胞外基質]=細胞間質、マトリックス Extra-cellular matrix 基質 Ground substance: 水和した多糖類のゲル Glycosaminoglycans ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などの総称(GAG) Proteoglycans GAGs と コアになるタンパク質が共有結合したもの全体をさす Glycoproteins Fibronectin、Laminin など 線維状タンパク質: 基質の中に埋め込まれている Collagen コラーゲン type I → 膠原線維 Collagen fibers、 type III → 細網線維 Reticular fibers Elastin エラスチン → 弾性線維 Elastic fibers Ⅲ 結合組織の分類 固有の結合組織(線維性結合組織) 1) 疎性結合組織 Loose connective tissue 2) 密性(強靭)結合組織 : 線維の方向が平行のもの Dense regular connective tissue 線維が二次元・三次元に交錯するもの Dense irregular connective tissue 非固有(変わり者)の結合組織 3) 膠様組織 Gelatinous tissue 4) 細網組織 Reticular tissue 5) 脂肪組織 Adipose tissue 19 Ⅳ 軟骨組織 1) 硝子軟骨 Hyaline cartilage プロテオグリカンの集合やコンドロネクチンという糖タンパク質でできたき基質に、 線維状タンパク質として type II collagen が埋まっている。 このマトリックスは、石灰化することもある。 マトリックス内にある軟骨小腔に軟骨細胞 chondrocytes という固定細胞がある。 これら全体を軟骨膜 perichondorium(外層は type I collagen、内層は chondrogenic cells)が 覆っている。 2) 弾性軟骨 Elastic cartilage 弾性線維を利用した弾力のある軟骨 3) 線維軟骨 Fibrocartilage 硝子軟骨と密性結合組織の中間型、type I collagen を利用 Ⅴ 骨組織 ハイドロキシアパタイト(水酸化リン灰石)の結晶体で構成される硬い無機性基質 、およ び、コンドロイチン硫酸(硫酸結合型プロテオグリカン)の粘液状の有機性基質 、type I collagen がそれらに埋まってマトリックスを構成する。 基質に含まれる無機分子として カルシウムとマグネシウムが重要。 細胞としては、 骨芽細胞 Osteoblasts と骨細胞 Osteocytes があり、前者は有機性骨基質を盛んに産生し、そこに石灰沈着が起こって層板 状の無機性基質ができる。骨細胞は、骨芽細胞が自ら作った骨基質の中に埋まって骨基質 形成能を失ったものをさし、骨小腔 Bone cavities (lacunae)内にある。 もう1種の細胞と して、多核で巨大な破骨細胞 Osteoclasts があり、これは骨基質融解を起こす。 骨組織は軟骨組織と同様、結合組織である骨膜 periosteum に覆われているが、これに含 まれるシャーピー線維 Sharpey’s fibers(type I collagen)により骨組織に密にくっついている。 『付録』 「組織学総論―支持組織」としてではないが、次のポイントも重要である。 〈1〉 器官としての「骨」 骨膜、緻密質と海綿質(および骨梁)、骨髄腔と骨髄 ハバース層板、ハバース管、骨単位 osteon、フォルクマン管、 介在層板、内基礎層板、外基礎層板 〈2〉 「骨」のできかた 骨膜による骨形成(長管骨の太さの成長、骨基質の再生) 膜内骨化(付加骨; 扁平骨の発生)、 軟骨内骨化(置換骨; 長管骨の発生と長さの成長)・・・骨端軟骨 # Ⅲ・Ⅳ・Ⅴに記載の各組織は、それぞれ体内のどんな場所で利用されているか、 を理解しておくこと Ⅵ 血液とリンパ マトリックスとして血漿またはリンパ液という液体成分のみ、および自由細胞(血球・ リンパ球)だけからなる。 ・・・ この項目は、別な機会にて学ぶことになる ・・・ 血球の名称、顕微鏡的特徴、それらの分化起源については覚えておくこと。 20 筋組織 Ⅰ 筋組織とは 筋線維からなる組織、収縮能を有する興奮性組織。 「筋線維」とは「筋細胞」のことである。 個体発生学的には、ごく一部の例外を除いて、「中胚葉」に由来する。 Ⅱ 筋線維の分類 横紋筋 Striated muscle 平滑筋 Smooth muscle ------- 骨格筋 Skeletal muscle 心筋 Cardiac muscle 内臓筋 ------- 随意筋(体性運動神経支配) 不随意筋(自律神経支配) 不随意筋(自律神経支配) Ⅲ 骨格筋線維 1)酸素結合能をもつミオグロビン Myoglobin の含量により、赤筋線維と白筋線維にわける。 ミオグロビン多い → 赤い、ミトコンドリアも多い、 動きは緩徐だが疲労しにくい → 姿勢制御筋 2)骨格筋線維は、多核の細胞であり、核は細胞膜(Sarcolemma)直下に押しやられている。 その Cytoplasm を Sarcoplasm(筋形質)、Plasma membrane を Sarcolemma(筋鞘)、sER を Sarcoplasmic reticulum (SR; 筋小胞体または筋形質小胞体)と呼ぶ。 3 ) 太さ約 1 μ m の筋原線維 Myofibrils が 見 ら れ る が 、 こ れ は さ ら に 細 い 筋 細 線 維 Myofilaments の集合である。筋細線維は太さ数 nm のアクチンフィラメントと太さ十数 nm のミオシンフィラメントからなる。アクチンフィラメントは、球状のアクチンタンパク質 G-actin が数珠状になり、ひも状のトロポミオシンのまわりをラセン状に double-helical polymer(F-actin という)を構成したもの。 ミオシンフィラメントは二量体のタンパク質で、そのひとつはさらに頭部と尾部をもつ Heavy meromyosin と尾部につづく Light meromyosin の分子に分けられる。 4)横紋の本体: 筋原線維内にある A 帯、I 帯、H 帯、Z 帯(盤)、M 線。 それぞれどこをさすか? 筋収縮は筋細線維のすべり説で説明できるが、筋収縮の際それぞれの帯はどうなるか? Z 帯から Z 帯までをひとつの単位と考え、Sarcomere という。 5) Sarcolemma は、A 帯と I 帯の間 A-I junction のところで、筋原線維の走行と垂直な方向 に落ち込み入り込んでいる。これを T 系 Transverse system という。T 系は、SR(または L 系)の Terminal cisternae と寄り添うように膜が向かい合い、これを三つ組み Triads とい う。 Sarcolemma に起こった脱分極を筋線維全体にすばやく伝える役目をしている。 6) 骨格筋線維は再生が可能であるが、活発に再生できる組織ではない。 21 Ⅳ 心筋線維 1)骨格筋が、細長い 1 本の線維であったのに比し、心筋は枝分かれをしたような形をとる。 核は通常 1 または 2 個で、心筋線維(心筋細胞)の中央にある。 2)筋線維間は連続しているように見えるが、実は介在板 Intercalated disks で隔てられてい る。 ここにデスモゾーム やギャップ結合 (ネクサス )があり、興奮の伝導に役立ってい る。 3)筋原線維、筋細線維、横紋、などは骨格筋の場合と同様。ただし T 系は Z 帯の部分。 4)心筋線維の再生は不可能。 5)内分泌(ホルモンの分泌)をも おこなう筋細胞がある。 → 心房筋特殊顆粒 6)刺激伝導系 Pulse-conducting system または特殊心筋と呼ばれる、興奮伝達に特化した心 筋線維がある。 Ⅴ 平滑筋線維 1)骨格筋線維に比し短い (20‐500μm)。 枝分かれもしない。 核は中央に1個。 2)横紋が見られない。 筋細線維は持つが、明瞭な筋原線維とはならない 。 筋細線維そのものは、骨格筋や心筋の場合と同じであるが、 Sarcomere は存在しない。 T 系も認められない。 3)骨格筋線維の収縮が電位依存性チャネルを通る筋小胞体からの Ca++動員によってなされ るのに反し、Ca++の働きははカルモデュリンによってコントロ−ルされる。 4)ネクサス(ギャップ結合)をもつ。 5)平滑筋線維の再生は、さかんにおこなわれうる。 『付録』 器官としての骨格筋 腱 Tendons: Dense regular connective tissue でできている。 筋内膜 Endomysium: 基底膜に相当するもの、繊細で少量の結合組織性線維成分、など が個々の筋線維を Sarcolemma のすぐ周囲で取り囲んでいる。 筋周膜 Perimysium: 数本から十数本の線維の束を取り囲む疎性結合組織 筋上膜 Epimysium: 筋全体を取り囲む厚くて硬い結合組織 筋紡錘 Muscle spindle: 筋肉の収縮を検知する一種の感覚器。 独特の神経終末を持つ特殊筋線維の束が紡錘状の鞘に包まれたもの。 運動神経との関係: 骨格筋に分布する運動神経は枝分かれしながら筋線維に到達し、その 1 本の神経線維がひとつの筋線維に対して「シナプス」を形成する。これを神経筋接合 Neuromuscular junction という。筋線維と接する神経線維終末部のふくらみが、この神経筋接 合の複合体をふくんで独特の構造をとるが、これを運動終板 Motor end plate という。 22 神経組織 Ⅰ 神経組織とは 筋組織とともに、Ionic flux をともなう興奮性組織である。 (ただしその意味では、他のいくつかの感覚上皮や分泌上皮も同じであるが...) 膜電位の変化 Pulse(action potential)を伝達することができる組織である。 個体発生学的に、「神経外胚葉」由来(未解決の例外:Microglia)、または「神経堤」由来 ニューロン Neurons (Ganglion Cells) および グリア細胞 Glial Cells で構成される。 ≫ 中枢神経系(CNS)と末梢神経系(PNS) について ≫ 用語について: neuron, neurons, neurone(s), neural, neuronal, nervous, ニューロン(○)、神経細胞(×)、神経元(△)、ネウロン(×)、ノイロン (×) Ⅱ ニューロン Neurons の分類 [形態的分類] [機能的分類] 単極性 Unipolar、双極性 Bipolar、多極性 Multipolar、 偽単極性 Pseudounipolar 感覚性 Sensory neurons、介在性 Interneurons、運動性 Motor neurons Ⅱ ニューロンの形態学 細胞体 Cell bodies --- soma (pl., somata) = perikaryon (pl., perikarya) 樹状突起 Dendrites 軸索 Axons ・・・・・ Collaterals、Axon terminals、 (Axolemma についてはⅤにて!) 以上の部分に分けられる。 また、ニューロン内には以下の構造物が見られる。 rER, Ribosome, Golgi apparatus, Mitochondria Melanin-containing or Lipofuscin-containing Granules, Lipid droplets Microfilaments (5nm), Neurofilaments (10nm), Microtubles (25nm) Cell-nucleus ・・・ 形・大きさ・染色性・核小体について Nissl body (Tigroid substance) と Axon hillock Neurofibrils とは? Ⅲ グリア細胞(神経膠細胞) Glial Cells (Neuroglia) CNS: 星状膠細胞 Astrocytes (protoplasmic type, fibrous type) 希突起膠細胞 Oligodendrocytes (or Oligodendroglia) 小膠細胞 Microglia 脳室上衣細胞 Ependymal cells PNS: シュワン細胞 Schwann cells 外套(衛星)細胞 Satellite cells 23 Ⅳ シナプス Synapses <ニューロン間接触の特殊な構造> シナプス接触の仕方により、Axo-dendritic、Axo-somatic、Axo-axonic、Dendro-dendritic、 などに分けられる。 シグナル伝達の仕方により、Chemical synapse、Electrical synapse に分類できる。 [化学シナプスの構造] Presynaptic membrane、Postsynaptic membrane、Synaptic cleft Synaptic vesicles large or small、 spherical or flattened(固定による人工産物)、 dense-cored type それらの組み合わせにより、 TypeⅠ: asymmetric membrane-thickness; 30nm(widths of cleft) containing spherical vesicle; EPSP(?) TypeⅡ: symmetric membrane-thickness; 20nm(widths of cleft) containing flattened vesicles; IPSP(?) Neuro-muscular junction も化学シナプスのひとつである。 Ⅴ 神経線維 Nerve Fibers とは、 Axolemma 軸索部の細胞膜 Myelin sheath (consist of lipoprotein material) 髄鞘 ランヴィエの絞輪 Nodes of Ranvier、 Schmidt-Lantermann の切痕 髄鞘の有無(有髄−無髄) と シュワン鞘の有無(有鞘−無鞘) 神経線維のタイプ分け: Type A: thick myelinated; high-velocity Type B: smaller diameter; moderate-velocity Type C: thin unmyelinated; slow-velocity 『付録』 <ニューロンとグリア細胞の由来> 神経管 Neural Tube(← Neural Plate)、 神経堤 Neural Crest、 脳胞 Brain vesicle 神経管の断面: 蓋板、底板、側板(翼板、基板)、および、上衣層、外套層、縁帯 Roof-, Floor-, Alar-, Basal-plate; Matrix-, Mantle-, Marginal-layer Elevator Theory、神経芽細胞 Neuroblast、 神経膠芽細胞 Glioblast 『付録』 <器官としての神経> 脳を覆う膜: 硬膜 Dura mater(中胚葉由来)、クモ膜 Arachnoid と軟膜 Pia mater(神経堤由来) 脳室系 Ventricular system と クモ膜下腔 Subarachnoid space、 脳脊髄液 Cerebrospinal fluid, Liquor、 脳室上衣層 Ependymal layer、 脳の組織学的構築: 灰白質 Grey matter、白質 White matter、網様体 Reticular formation、 神経核 Nucleus、皮質 Cortex、伝導路 Tractus, Fascicules グリア境界 Glia limitans、血液脳関門 Blood-Brain Barrier 末梢神経を覆う膜: 神経内膜 Endoneurium 神経線維をとりまくシュワン細胞由来の細網線維 神経周膜 Perineurium 膠原線維層と tight-junction で連なる内皮層からなる 神経上膜 Epineurium 「末梢神経」を取り囲む密生結合組織 24 組織から器官へ Ⅰ 腺 ‐‐上皮組織の特殊な分化‐‐ 1)細胞外から素材を取り込み、細胞内で特定の物質を合成し、それを細胞外に放出す る細胞群で、多くのものは上皮組織のひとつである。 2)分泌物の放出機序により、全分泌 Holocrine、離出分泌 Apocrine、漏出分泌 Eccrine、 の3種に区別され、さらに Eccrine は、開口分泌 Exocytocis と透出分泌 Diacrine に分類。 3)集団内の細胞数により、単細胞腺 Unicellular glands と多細胞腺 Multi-cellular glands を区別する。 4)物質放出の場により、外分泌 Exocrine と内分泌 Endocrine がある。 5)内分泌性の多細胞腺は、分泌物(ホルモン)を血中に放出するので「導管」を持たな いが、外分泌性の多細胞腺は、分泌物を(本質的な)体外に導くために、「導管」をも つ。 Ⅱ 器官としての外分泌腺 <実質臓器の成り立ち> 1)多細胞性外分泌腺では、被蓋上皮としての役割をもつ上皮組織が、上皮の層から落ち 込み(陥入し)、分泌機能を持った細胞群(分泌上皮)が「終末部」を、被蓋上皮細 胞群が分泌物を運ぶ管‐‐‐「導管」という ‐‐‐の壁を構成する。 1)終末部の形により、管状腺、胞(房)状腺、管状胞状腺; 導管の分岐状態により、単一腺、複合腺; 腺腔の分岐により、分岐腺、不分岐腺; に分けられる。 (複合腺の場合は分岐・不分岐を区別しない) 3)また、分泌物の種類により、粘液腺、漿液腺、混合腺、などに区別する。 4)分泌腺が例えば消化管の壁内に存在する場合もあるが、外分泌腺だけで器官(臓器) を形成する場合もある。 5)終末部と導管のすぐ周囲は結合組織でうまっている。複合腺の場合は、隣り合う 終末部 −導管どうしの間も当然 結合組織で満たされていることになる。 6)この周囲の結合組織により、終末部−導管系群は分け隔てられていくことになる。 → 小葉 Lobulus という。 よりもっと大きい単位で、分厚い結合組織により分けら れ たものは「葉 Lobus」という。 7)小葉内導管 Intralobular duct は介在部 Intercalated duct と線条部 Striated duct よりなる。 それらが集まり、(葉内)小葉間導管 Interlobular duct、さらに葉間導管 Interlobar duct という順で分泌物が流れていく。 8) 器官(臓器)で、血管や導管が出入りしている場所を「門」という。 とくに漿膜で覆われている臓器では、「門」は特定の狭い領域であり、ここは漿膜の臓 側板と壁側板の折れ返りの部位によって囲まれている。 ≫「小葉」「葉」「門」などは外分泌腺に限らず、一般的に実質臓器にみられる概念である。 25 Ⅲ 消化管はどのようにできているか <管腔臓器の成り立ち> 消化管を例に、管腔臓器の壁の構造 A 粘膜上皮 Epithelium(上皮組織の層) B 粘膜固有層 Lamina propria(疎性結合組織の層) C 粘膜筋板 Muscularis mucosae(平滑筋線維でできた層) D 粘膜下組織 Submucosa(疎性結合組織の層) E 筋層 Muscularis externa(多くのところで内輪・外縦の形態をとる平滑筋でできた 層) F 外膜 Adventitia (疎性結合組織) または 漿膜 Serosa(漿膜中皮、ごくうすい疎性結合組織でできた漿膜下組織を含 む) B や C の疎性結合組織でできた「層」内には、上皮が落ち込んでできた壁内腺、 リンパ小節、血管、自律神経系、などを含んでいる。 ≫ 「粘膜」というのは普通 A+B+C の層をさす。(A+B+C+D と考える人もいる) ≫ 他の管腔臓器でも基本的には似ているけれども、異なる点を有していることが多い。 ≫ 「外膜」、「漿膜」、「粘膜」、というのは、管腔臓器のみならず一般的にとらえられる 概念である。 Ⅳ 器官としての骨 器官としての骨格筋 器官としての神経 脳の場合、 末梢神経の場合 ・・・・・ 以上はそれぞれの項目ですでにあつかった。 26 顕微鏡標本のつくり方、染色法、組織学研究法 Ⅰ 顕微鏡標本作製のおおまかなステップ 固定→脱水→包埋→薄切→染色→封入→観察 電顕も光顕も基本的には同じである 固定とは、組織を死後変化から守って、観察したい状態に「固定」すること 固定剤の種類:架橋性と凝固性 つまりタンパク質の変性 ホルマリンは 40%formaldehyde 溶液のことである。 他にアルデヒド系(架橋性)、酸やアルコール類(凝固性)など 一般には 混剤で使うことが多い。 包埋剤:光顕−パラフィン(ろう)、電顕−エポン(樹脂)、が多く用いられる。 薄切の道具: ミクロトーム microtome(電顕−ウルトラミクロトーム) 組織を包埋せず凍らせて薄切する特殊な装置:クリオスタット Ⅱ 顕微鏡のいろいろ 光線(可視光)顕微鏡と電子顕微鏡、透過型と表面観察型または落射型や走査型、 正立型と倒立型、などに分類される。 具体的には: 一般光学 (光線)顕微鏡、 実体顕微鏡、 (ディスカッション顕微鏡)、 位相差(または微分干渉)顕微鏡、 偏光顕微鏡 透過型蛍光顕微鏡、 落射型蛍光顕微鏡、 透過型電子顕微鏡、 走査型電子顕微鏡 27 Ⅲ 一般染色 Staining 光線顕微鏡用標本に用いる染色液の大部分は水溶性である。そこで、染色に先立って疎水 性の包埋剤(パラフィンなど)を除去しなくてはならない。(パラフィンの場合の操作と しては、キシレンでパラフィンを溶かし、アルコールでキシレンを除去し、水洗すること により親水化する) ○ 色素について 色素を水溶液とした場合、その有する基により、負または正に荷電する。 その荷電状態により酸および塩基性色素に分ける。負が酸性、正が塩基性。 酸性色素:細胞質の染色に適す。 OH, COOH, NO2, SO2OH 等の基を有する。 例えば、エオジン、オレンジG、酸性フクシン、など 塩基性色素:核、粘膜、神経要素、特殊分泌顆粒の染色に用いる。 NH2, NHCH3, NH 等の基を有する。 例えば、ヘマトキシリン、メチレン青、トルイジン青、チオニン、 塩基性フクシン、メチル緑、など 直接染料のトリパン青、油溶性色素の sudan 系などは上記分類に当てはまらない 色素、染色液、染色法のちがい 例えば「ヘマトキシリン」と言った場合は? ○ 一般染色法の例 1)HE(hematoxylin - eosin)染色 ヘマトキシリン:青(核) エオジン :薄赤∼ピンク色(細胞質) 2)Azan 染色 アゾカルミン :赤(核、赤血球) オレンジG :黄赤(分泌顆粒、コロイド) アニリン青 :青(膠原線維、粘液) 3)Sudan 染色 ズダンⅢ or Ⅳ:橙∼赤(脂肪滴) ズダン黒 :黒(脂肪滴) 4)PAS(periodic acid schiff)染色 塩基性フクシンを含む schiff 液:紫紅∼赤紅(多糖類) 過ヨウ素酸で糖をアルデヒドにし、schiff 試薬をつける 5)アルデヒドフクシンまたはアルデヒドチオニン染色 アルデヒドフクシン:濃紫色、 アルデヒドチオニン:深青色 下垂体前葉・膵ランゲルハンス島のβ細胞、神経分泌物、弾性線維) -SS-基や -SH-基を有する物質に色素をつける 6)クロム反応(染色) クロム酸カリや 重クロム酸カリ(固定液に加える): 黄褐色∼暗褐色 (副腎髄質、消化管クロム親性細胞) 7)鍍銀法(Golgi 法、Cajal 法、細網線維鍍銀法) 硝酸銀(写真の現像と同じ理論で発色):褐色∼黒褐色 (神経細胞、神経線維、細網線維、好銀細胞、親銀細胞) 8)ギムザ染色 血球塗抹標本などのための重染色用 28 Ⅳ 組織化学法 Histochemistry 組織標本中で特定の化学分子の局在を明らかにする方法 1 免疫組織化学 immunohistochemistry 求める物質に対する抗体をあらかじめ作成し、それを切片に反応させたのち標識物質によ り可視化する。標本作製操作中に抗原性を失活させない、また抗原を露出させるなどの工 夫を必要とする。 (a) 抗体の種類 モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、カクテル抗体、 この3種は右のものほど特異性も感度も高い。 カクテル抗体とは同一物質の異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体の 2∼3種を混ぜたもの。 モノクローナル抗体はエピトープ特異性は高いが、物質特異性と感度ともに低い。 (b) 可視化標識 酵素:酵素抗体法ともいう。 標識 peroxidase を酵素組織化学の系で発色する 他の酵素として、alkaline phosphatase, glucose oxidase, b-galactosidase など 蛍光物質:蛍光抗体法ともいう。 蛍光顕微鏡で観察する。 FITC、ローダミン、テキサスレッドなど 金属:おもに電顕的免疫組織化学用 金、銀、フェリチンなど アイソトープ:特殊な用法 (c) 直接法と間接法 求める物質に対する抗体そのもの(第一抗体)に標識する:直接法 反応系を2∼3段階にし、第二以降の反応液に可視化の標識をする:間接法 PAP (peroxidase-antiperoxidase)法、ABC (avidin-biotin-peroxidase complex) 法は、酵素抗体間接法の一種でよく使用される手技である。 2 酵素組織化学 enzyme-histochemistry 組織中の酵素の検出には、その酵素に対する抗体を用いた免疫組織化学法も適用できるが、 酵素活性を利用して基質に発色性をもたせた(発色基質という)酵素組織化学を行うこと ができる。固定操作中に酵素活性を失活させないようにする。 3 蛍光組織化学 fluorescent histochemistry カテコールアミンのように簡単な反応系で蛍光物質に変わるものを蛍光顕微鏡で観察する。 もちろん intracellular dye marker として投与されたものや、他の組織化学の標識に用いた 蛍光物質を観察する場合もこれに含める。 蛍光とは、ある物質に光線があたった時、そ の波長が長くなる現象であり、その波長差を利用して観察する。 蛍光顕微鏡には落射型 のものと透過型のものがある。 4 レクチン組織化学 植物種子から抽出された各種のレクチンタンパク質が、それぞれ特定の糖残基と結合する ことを利用した、糖のための組織化学法。 29 5 オートラジオグラフィー auto-radiography ラジオアイソトープを用いた組織化学法。ラジオアイソトープを in vivo に投与する場合 には、14C-デオキシグルコースをエネルギー源として摂取させ functional organization をト 3 レースする方法、細胞内マーカーとして投与する方法、 H−チミジンや、活性物質とそ の前駆物質の摂取の有無を追求する方法がある。 in vitro の場合としては、切片にたいし て反応させ、アイソトープ標識の生理活性物質のリセプターとの結合を調べるほか、他の 組織化学法の標識物質として用いることもある。 いずれにしても、暗条件下で写真用感 光乳剤を切片に塗布し、数日∼数十日後に現像して黒化した銀粒子を観察する。電顕応用 も簡単である。 6 In situ hybridization 法 核酸が相補的に結合することを利用した組織化学。 あらかじめ目的とする核酸( DNA や RNA、特に mRNA の場合が多い)に相補的なプローブ(cDNA や合成オリゴヌクレオ チド)を準備し、それにアイソトープなどで標識し、切片と反応させておこなう。 Ⅴ 機能形態学実験法 静的な画像をあつかう純形態学の手技や発想法を用いながら、 物質や組織の作用・役割という動的な側面を明らかにする実験法 1 臓器摘除 脱落機能をみる。 2 薬物投与 ホルモンとそのアゴニスト・アンタゴンスト、 または、合成・代謝促進(阻害)剤等の投与実験 3 培養法 特定の種類の細胞または組織だけを扱う。 4 移植法 付加機能をみる(1の逆)。他個体を利用した一種の培養法。 5 個体発生や系統発生を追究する。 6 モデル動物 ・実験に適した動物を見つける。(例:スナネズミ) ・変異動物をさがす。または作成する。 ・ ジーン・ターゲッティングによるノックアウトマウスを作成する。 この変異動物は、特定のタンパク質(ホルモンやその受容体)だけを合成で きないので分子レベルで脱落機能を追うことができる。 7 組織化学法の工夫 組織化学法を組み合わせる。(例:mRNA とタンパク質の共存→「合成」の証明) 物質のある状態だけ(例:タンパク質のリン酸化)を認識する抗体を用いる。 特定の状態の細胞に出現する物質を追究する。(PCNA, c-fos, c-jun など) 特定の状態の細胞での物質の特徴を利用する。 (3H-チミジンのオートラジオグラフィーや、 アポトーシスを求める TUNEL 染色、など) 30 『付録』 生化学的な細胞学研究手技 試験管内で液状に破砕され、分画 された細胞成分 試験管内に集められた細胞は種々の方法で「すりつぶす」ことができる。そのとき膜成分 は断片となるが、できた断片はすぐまた閉じて小胞状となる。また破砕処理を注意深くお こなえば、核や一部の細胞小器官は無傷のまま残る。 このようにして、大きさ・電荷・密度の異なる膜粒子が密に懸濁した可溶性抽出液が得ら れ、破砕操作の溶媒をうまく選べば生化学的特性がもとの細胞小器官とほぼ同じ状態で得 られるので、この抽出液を分離すれば、それぞれの細胞小器官ごとに生化学的方法で解析 できる。 分離の方法として、例えば異なった濃さのショ糖液(砂糖水)を重層してショ糖の密度勾 配を利用した(ショ糖を溶質として加え、遠心分離する)方法が良く用いられ、核、ミト コンドリア、リソソーム/ゴルジ、ミクロソームなどに分画される。 なお、「ミクロソーム 」 microsome は小胞体に一致するものであるが、構造名でなく画 分名である事に注意する(分けること=分画 。分けられたもの=画分 と言う)。 31 発生学概論 Ⅰ 一般の細胞の細胞分裂と細胞周期 (Essential 細胞生物学 p554-555 パネル 17-1) 細胞周期: 細胞の活動状態をあらわしていると言える。 ・G1 期(Gap1 Phase、DNA 合成準備期) 細胞が増殖を完全に停止しているときは、G0 期という。 生体内で分裂している細胞はわずかで、ほとんどの細胞は分裂していない。 ・S 期(Synthesis Phase、DNA 合成期) 分裂に先駆けて、DNA を複製する。 ・G2 期(Gap2 Phase、DNA 合成後期) ・M 期(Mitotic Phase、分裂期) 2倍に複製されたゲノム DNA を、2つの細胞に分配する。 DNA は棒状に凝縮し、からまらないように、コンパクトにたたまれ、 染色体の構造をとる。46本の DNA 鎖が顕微鏡で観察される。 細胞質成分も、2つの細胞に分配される。 Ⅱ 有糸分裂 mitosis と減数分裂 meiosis 図1−2、1−3は理解しにくい Essential 細胞生物学p566図17−23 Ⅲ 精子形成と卵子形成 原始生殖細胞 → 精(卵)祖細胞(一次x母細胞) → 精(卵)母細胞(二次x母細胞)→精(卵)子細胞 ♂:精粗細胞は adult でもみられる ♀:卵祖細胞は胎児期に分裂前期に移行 図1−4 およびp20−25 標準組織学各論p235−243、266−272 Ⅳ 排卵、受精と着床 図2−12,2−13、2−11 Ⅴ 胎齢の数え方と妊娠週数 32 Ⅶ 胚盤胞から3層性胚盤へ 図2−8、2−10、3−1、3−3、3−6、 図4−1、4−3、4−4 Ⅷ 胚子期の出来事の概略 図4−4、5−3、5−1&2、 図5−9、5−13、5−18、5−17、 図5−16、5−14(標準組織学各論 p15 参考)、11−46、11−47 表紙裏の表 Ⅸ 胎児期の出来事の概略 表紙裏の表 図11−46、11−47 Ⅹ 胎盤について 図4−17、7−4 標準組織学各論p290−297(図 VI—66、68) ⅩⅠ 遺伝疾患、染色体異常症、先天異常(奇形)について # 発生学の記述中に図 xx とあるのは教科書(ラングマンの人体発生学)の図の番号のことである。 33
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