東京和骨董散歩 - Kateigaho

J apanese tex t
2013年 秋/冬号 日本語編
骨董
ることがないものですよね。でも、どうしても欲しくなってし
東京和骨董散歩
まって」とレオニーさん。「買ってしまったものの、どうやっ
愛しい骨董との出会いかた・暮らしかた
て部屋に入れるの? どこに置くの? と大騒ぎになって」と、
自宅に届いたときの様子を苦笑しながら語ってくれた。今で
撮影=ベンジャミン・リー (p.66 ‒ 73)、佐藤竜一郎 (p.74 ‒ 76、p.78 上、
p.79 右上・下 )、葛西亜理沙 (p.77、78 下、79 左上 )
は、リビングの中央にすっかり馴染んだこの 大きな買い物
に、たまらなく愛着が湧いているようだ。レオニーさんは、
文=編集部 地図=上泉隆
p.067
近年の震災や経済不振の影響で、元気のなかった和骨董の
世界だが、徐々に活気を取り戻しつつある。変わらず信頼の
おける老舗名店はもちろん、若主人たちが次世代の視点で盛
り立てている店にも注目だ。お気に入りの品々に囲まれた愛
好家たちの豊かな暮らしを訪ね、縁を運んだ骨董店店主たち
のことばに耳を傾けてみよう。
20 年ほど前の滞在を経て、在日オーストラリア大使館の職員
として再び東京に赴任して 1 年。学生時代、中国やミャンマー
などアジアの国々を旅する度に、古い書画などを集めるよう
になった。
「直感を信じて、心惹かれたものを集めているだけ。
あまり堅苦しく考えず、楽しむようにしているんです。日本の
ものは特に、とても繊細で、美しく作られている点が素晴ら
しい。職人技が生きていると感じます」
インスピレーションに従って手に入れたものには、また別
(p.067)
の楽しみが待っている。ご主人のピーターさんは、歴史や仏
江戸時代の籠と、纏が存在感を放つリビングでくつろぐ、レオニーさんと
文学の博士号をもち心理学の教授を務めていたこともある知
ピーター・ブルースさん夫妻。一見、大胆と思えるインテリアだが、実
性派。もっぱら、骨董品の持つ歴史など、背景をあれこれ調
にのびやかに楽しんでいる。
べる役に回る。「これは、展示会でその力強さにただただ惹
かれて、つい 3 週間ほど前に買い求めた品なんですが」と、
(p.069)
ブルース邸の暮らしのあちこちに、古の香りが漂う。行灯の木枠をディス
壁に掛けられた書に目をやる。木版画家として世界的に知ら
プレイ棚のように使ったり、灯籠を照明器具さながらに配置したり。和骨
れる棟方志功による書だということが後から分かり、嬉しい
董とアジアの美術品、そしてオーストラリアの現代作家による絵画などが
驚きだったという。
調和する。このページ:玄関付近で出迎えてくれるのは室町時代の仏像。
一方、日本に 10 年間暮らす弁護士のドミニク・ラウトン
さんは、ロンドンから赴任した当時、住まいに備えつけてあっ
た量販店のモダンな家具に味気なさを感じ、すぐに時代
1
箪笥を探し求めたそうだ。気に入るものが見つかるまでじっ
日々に寄り添う骨董品
くり探すのがポリシーだが、手に入れるとなればやはり、ひ
p.070
「出会ってしまった」と言うほうが正しい出会いというものが
ある。それは多くの場合、一抹のうしろめたさを伴う。
東京のオーストラリア大使館官舎に暮らす、レオニーさん
とピーター・ブルースさん夫妻の家には、そんな風に偶然
に 出会ってしまった 江戸時代の籠がやってきた。お気に
入りの和骨董店「だんどりおん」(p.077 で紹介)で見つけ
たものだ。「普通なら、歌舞伎の舞台とか、博物館でしか見
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らめきと瞬発力がものをいう。「気に入ったものがあったら、
すぐに決断しないと、二度と同じものには出会えないかもし
れない。そんなちょっとしたスリルが、骨董の楽しさかな」
寝室などほかの部屋にも買い足していき、今やラウトン邸
には6棹の時代箪笥がある。「重厚で存在感があるのに、そ
の佇まいには静けさがある。存在の美しさだけでなく、収納
力も抜群で、機能性がまた魅力です」
パートナーのリジーさんは、「ガラスやアルミなんかより、
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1
木目が温かい命を感じさせてくれるところが好き」という。
「ずっと自分に寄り添ってくれているような。この先、どこで
骨董店店主が指南する
1
今、この骨董が面白い
暮らしても、ひとつひとつの品に触れれば、その時の自分が
どこで何をしていたか、思い出させてくれるでしょうね」 先のピーターさんがこう言っていた。「故郷のオーストラリ
アでは、アボリジナルの人々の思想に触れる機会が多くあり
「はせべや」主人・長谷部 純一さん
行灯の魅力を再発見
p.074
ます。彼らには、その土地のものを所有するという概念がな
い。生まれてから死ぬまでの間、それを預かる 守人 であ
ると考えるんです」
。骨董も同じだ。骨董品を愛するというこ
とは、作り手やかつての所有者たちの想いの跡を預かり、ひ
ととき傍に置いて豊かな気持ちを与えてもらうこと。そして自
分の暮らしの記憶を刻み込み、それをまた先へと伝えていく
ということなのだ。
「うちの店は時代箪笥を中心に扱っていた時期が長かったけ
ど、和の照明は箪笥なんかに比べると、派手さや重厚感は
なく、そっと大人しく座敷にある感じがいいね。もちろん、
照明というのは外見が主張しすぎてもだめで、機能性がなけ
ればいけない。
。江戸後期のもので
例えば、この置行灯(一番上の写真)
すが、この木枠のか細さと全体とのバランス、すごく突き詰
(p.071)
められたデザインだと思う。こんな風に、ポンと部屋の一角
左上から時計回りに:歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』の中で、レ
に置くだけで……すごくモダンでしょう? 洋室にも合うんじゃ
オニーさんのお気に入りは「日本橋 朝の景」
。こんな題材の作品から江
ないかな。これみたいに、灯心(油を燃やすときの芯)や
戸の風俗に興味を持ち、探し求めたという纏。器は、古いもの(奥の膳)
と新しいものも取り混ぜて、食卓にアクセントを添える。明治時代の厨子
に、10 世紀の仏像を組み合わせて。オーストリアの現代作家の絵画を
背景に、調和している。
蠟燭をしまっておく引き出しがついているのもあって、まさ
に 機能美 だと感じます。
江戸時代の照明は油か蠟燭だったけど、庶民にとっては高
価なもので、明るいということは贅沢なことだったんだね。
(p.073)
今では考えられないだろうけれど、当時の照明はほとんど
上:もともと西洋のアンティークも好きだったというドミニク・ラウトンさ
が、手元を見るにも一苦労。「書見行灯」といって、本を読
んのリビングは、ご本人が称するように East meets West の趣の、心地
よい空間。インテリアの主役は、骨董店「灯屋」(p.075 で紹介 ) のご主
人と知り合い、見立ててもらった水屋箪笥。今は寝室など、各部屋で時
代箪笥を使っている。
むときのためにレンズで明るさを増幅させる仕組みになって
いるものなんかもあったんです。
でも明るいばかりが良いわけじゃない、と現代の僕なんか
下、左から:海外の愛好家に人気だという、江戸時代当時の六本木や赤
は思ってしまう。篝火や灯台に始まる奈良・平安時代から、
坂周辺を記した古地図。李朝の箪笥など、アジア旅行の思い出の品も。
日本では明るさがない時代がとても長かった。その長い歴史
蔵戸をテーブルなどの家具にリフォームするのは、近年人気の骨董活用
があって、非常に研ぎ澄まされた、無駄のない造形が生ま
術だ。リビングの一角に置かれた火鉢も、ユニークな味わい。
れたんじゃないか。
もちろん、コレクターが狙う特殊なものも色々あります。
「鼠短檠」って聞いたことありますか?これも江戸時代後期に
出回っていたものなんだけど、現在残っているものは数十本
あるかないか、という希少なもの。ちょっとしたからくりで、
ねずみを象った油壺の口から、受け皿へ自動的にポトポトと
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油を補充するようになっているんです。
『 猩々』は、下の部分の束ね編みで構成されるゆるやかなラ
長い間日本人の日常にあったものだからこそ、機能だけで
インと、上にいくに従って緻密になっていく編み目が、まる
なく洒落なんかも伴って、行き着くところまで進化していった
でグラデーションのようでしょう? 竹籠の研究者の観点から
結果が今、見られるところが、行灯の面白さです。屏風のよ
は、琅玕斎の作風のターニングポイントとして注目される作
うな、鑑賞用の古美術品ほどの値がつくわけではないし、実
品なんです。琅玕斎の多彩な表現の進化の過程が見てとれ
はお手頃なんですよ」
ます。
なんといっても琅玕斎の素晴らしさは、ひとりの作家の作
長谷部さんお気に入りの、江戸時代の行灯。
品とは思えないほどの、表現の幅の広さです。伝統の技法と、
上から:木枠に、和紙をらせん状に貼った繊細な装飾。
鉄枠のストイックな造形も、和紙を通した温かい光で柔らかい印象に。
「有明行灯」は、蓋をかぶせると、月の形の窓を通して光を調節できる
はっとさせられる斬新な表現を自由自在に行き来した天才と
いえます。琅玕斎は創作の中に、『真・行・草』という 3 つ
仕組みだ。枕元に置く小型の行灯で、どこかしっとりとした風情。
の概念を表現として使い分けていました。『真』は、整然と
鉄製の透かし彫りから漏れる明かりを楽しむ。
していて密な編み目、基本的に左右対称を特徴とした表現法。
『行』は、その整然を少し崩して、規格にとらわれずに仕上
はせべや
げる表現。最後の『草』は、心の赴くままに大胆に歪ませた
麻布十番に店を構えて 40 年近く。時代箪笥や古民具の専門店としてス
タートし、現在は仏教美術や古民芸でも知られる名店。
り編みを不規則にしてみたりと、躍動的で自由な表現です。
このような区分けを意識しながら、自身の作品をはっきりと
港区麻布十番 1-7-7
Tel. 03-5775-1308
カテゴライズする作家はあまりいません。そこには何か、己
10:00 ∼ 19:00 不定休
に対する規律と言いましょうか、ものに精神性を込めた琅玕
斎独特の感性が見てとれる気がします。そしてその感性は、
その後の竹工芸家たちの作風にも、大きなインスピレーショ
ンとなりました。この『猩々』は、直線的で細密な編み方と、
「灯屋」主人・渋谷新三郎さん
柔らかく波打つような対照的な表現の両方が共存していると
竹籠は今、出会い時
p.075
「竹籠でしたら、とっておきをお見せしましょう。抜きん出た
技術と表現力で、それまで実用品だった竹工芸を芸術の域
に高めた、飯塚琅玕斎の『猩々』という銘のもの。1938 年
ごろの作品です(一番上の写真)
。実は、今まで所在が不明
だったものが今年になって見つかり、当店で入手したんです。
この姿が再び世に出るのは、これが初めてではないでしょう
か。
これぞ琅玕斎だ、とひと目で分かる特徴はまず、 束ね編
み 。琅玕斎によって 1930 年代後半に世に発表された表現
で、ひとつの竹を細かく裂いて、それをまた 1 本に束ねて編
むという、とても高度な技法です。
ころが、非常に象徴的です。
琅玕斎のものとなると、数百万円と高値がつきますし、実
際にこちらの『猩々』も研究的な価値があり、お売りするこ
とができないのですが、琅玕斎の心を受け継いでいる名品
で、比較的手頃な価格でお求め頂けるものもたくさんあるん
ですよ。
。
例えばこちらの、鈴木旭松斎による花籠(一番下の写真)
ツヤのある煤竹を使って、オーソドックスな籠目を、ちょっと
線を足したりして崩しています。琅玕斎の花籠に非常によく
似ていて、竹工芸界におけるその影響力の強さを物語ってい
る作品です。このような明治以降の竹籠は、まだ市場にたく
さん出回っていて、手頃に楽しめるものも多くありますから、
是非、お気に入りのものを見つけて頂きたいです」
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上から:飯塚琅玕斎作、銘「猩々」
。
左:店主の石井寛美さん。
作家不詳、銘「峰月」
。
下:伝統的なものと、「これはなんだろう」と好奇心を掻き立てるものが
鈴木旭松斎作、「時代竹盛花籠」
。
織り成すバランス。文字通り、
そんな不思議な コレクション が詰まった、
同、無銘。
こぢんまりとした店内。
灯屋
上:宮大工が使った寺院の図面を祈りの象徴として、仏教画などに使わ
1981 年開業以来、時代箪笥、古裂、陶磁器など豊富なセレクションで
れる重厚な軸装で仕立てた、遊び心あるオリジナル商品。
愛されてきた。昔きもの専門の「灯屋 2」が徒歩 3 分の場所にある。暮
右:塗師が漆を塗るときに器を固定するために使う土台も、まるで現代
らしに活かせる骨董が充実の可ナル舎(府中)でも、時代箪笥を豊富に
アートのオブジェのようだ。
扱う。
渋谷区代々木 4-8-1
Ishii Collection
Tel. 03-3465-5578
港区南青山 6-3-14
11:00 ∼ 19:00 日曜・祝祭日定休
Tel. 03-3486-6683
www.akariya.co.jp
11:00 ∼ 19:00 火曜定休
www.ishii-collection.com/en
KIE 厳選
1
古美術上田
東京の骨董店・骨董市ベストガイド
カジュアルな上質
p.076
Ishii Collection
谷中の路地裏に、隠れ家のようにこの店は佇む。来店は完
現代アートとして楽しむ骨董
全予約制。 一見さんお断り のような敷居の高さを想像し
p.076
「骨董品も、インターネットで簡単に手に入ってしまう時代。
ていると、迎えてくれる若き店主・上田昌也さんの人懐っこ
い笑顔に心和むはず。
実際に店で手にとって、もう一歩踏み込んでその面白さを
「直感的に、格好いいと思える」明治期から昭和の工芸品を
知ってほしい」
中心に揃える。「海外のものが入ってきて、作り手が多くの
面白さ、驚き。店主の石井寛美さんが提唱する、骨董を
刺激を受けた時代。戦前・戦後の素材不足のなかで生まれ
楽しむ上でのキーワードだ。ブランドファッション店がひしめ
た工夫と、エネルギーに溢れていました」と上田さん。資料
く南青山に店を構えて 25 年。デザイナ−や建築家からの引
が少なく、時代に埋もれてしまった作家も多いという。「そん
き合いも多い、隠れた人気店だ。
な彼らの作品にも光を当てたいんです」
その理由は、西洋美術商出身の石井さんならではの発想
古い長屋を改装した店内に、常時 10 点ほどの商品を気ま
にある。一見、朽ちかけた塗師の古道具なども、「骨董は、
まにディスプレイするカジュアルさのなかにも、「確かな仕事
現代アートにも通じる」と石井さんに言われるままに見方を
で作られたものにこだわっている」鋭い視点が光る。
変えると、たちまちオブジェのような魅力を放つ。「美しさは、
高価なものだけに宿るとは限らないんです」
上:音丸耕堂作・漆の花器。厚塗りした漆を彫って柄を施す、 彫漆 の
卓越した技法が評価された人間国宝の作品で、ここまでシンプルなもの
は珍しいという。
左:佐々木象堂作、銅製の狸の置物。上の花器ともに昭和中期の作。
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4
古美術上田
「そういえば」と、品物を手渡しながらイヴァンさんが言う。
文京区千駄木 3-41-12
「窓の下に置く、小さな箪笥をお探しでしたよね」「また来る
不定休。来店はウェブサイトの問い合わせフォームから要予約
よ」とフランソワさん。「良いものが入ったら、知らせてくだ
ueda-arts.com
さい」
ふたりを見送ってから、
イヴァンさんが静かに語りはじめた。
「古いものには命があります。例えば 100 年以上前の箪笥は、
「だんどりおん」で和骨董三昧の一日
長く使えるようにと丁寧に作られた、もともと高価なものでし
p.077
た。手を入れながら大切に使えば、親から子へ受け継がれ、
「今日は、おすすめの伊万里をご用意しておいたんですよ」
500 年、1000 年でも 命 が続いていく。その古いものの
「赤だわ!」「そう、お好きな色だし、
こんな絵柄はどうかと思っ
命に価値を与え、その価値を判断するヒントをあげるのが、
て」「日本の赤ね。漆の朱色とか、世界のどこのものとも比
私の役目です」
べ物にならないくらい素敵だもの」と、彼女は愛しそうに、
手に取ったその茶碗の繊細な柄を指でなぞった。
こんなやりとりが、東京の下町の裏通りにひっそりとある店
「実際に手にとって選んで頂きたいから、できるだけこうやって店頭に出
すようにしています」とイヴァンさん。もとは日本酒問屋だったという、
古い家屋の 2 階まで商品がぎっしりと並び、心躍る。
で、しかも軽妙なフランス語で聞こえてくるとは。
「どこから来たものか、なぜこの値段ほどの価値があるのか
だんどりおん
……それぞれの品に物語があると、店主のイヴァンは教えて
伊万里好きのご主人イヴァン・トゥルゥーセルさんと、奥様の春美さんが
くれる。妻が好きな伊万里の器は特に専門としているし、絶
10 年前にオープン。英語、フランス語、日本語で丁寧に対応してくれる
対信頼がおけるね」
。行き着けの骨董店「だんどりおん」にやっ
てきたのは、日本に暮らして 10 年になる、フランソワ=ザ
夫妻の接客も魅力だ。おすすめ商品の紹介がユーモラスにつづられた
ホームページも充実。
台東区台東 2-4-13
ビエル・リエナールさんとイザベルさん夫妻。
Tel. 03-3837-1980
「私はヴェルサイユ出身で、かの宮殿の美術品や庭園などの
不定休(HP に店休日あり)
煌びやかさは日常の一部でした」とイザベルさん。「美を貪
dentsdelion.com/index.htm
欲に追求する日本の心は、私たちフランス人にも通じる部分
です」
。日本の骨董には、美しさを極める作り手の卓越した
心意気を感じるという。「知れば知るほど、その深みが見え
大蔵オリエンタルアート
てくる。部屋の好きな場所に置いて、ちょうど良い光が当た
現代のインテリアにこそ活かしたい骨董
るところを吟味したり……素敵でしょう?」
p.078
本日、夫妻のコレクションに加わったのは、3 品。伊万里
「パリでは、しょっちゅうお店のサイトを見ては懐かしんでい
の酒器は、大正から昭和初期ごろのもので、中国人や書と
るのよ」
。品の良いフランス人のご婦人が、品物を抱え笑顔
おぼしき赤い絵柄が美しい。明治期の蒔絵の文箱は、友人
で手を振る。外国人が多く行き交う六本木に程近い場所。
の結婚祝いに。「物語を感じるね」とフランソワさんの心を
1975 年のオープン以来愛されてきたこの店に、本国に戻っ
特にとらえたのは、1920 年ごろ、大正期の 9 人姉妹を写し
て後も、来日の度に立ち寄ってくれる得意客なのだという。
た珍しい写真だ。
前オーナーから 2000 年に店を受け継いだ、笹垣瑞枝さん
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と清水泰浩さん夫妻は「骨董品を 使い古し のものとして
食卓から豊かな時間が広がるはずです」
ではなく、現代のインテリアの中でいかに輝かせるか」を追
求し続ける。輸入インテリアショップのマネージャーから転身
した泰浩さんの視点も活かし、山中湖にある別荘をショー
ルームとしてオープン。実際の生活空間の中で、明るめの色
合いに仕上げたこだわりの時代箪笥などをしつらえたインテ
陶磁器は、気軽に手に取れる数百円のものから、観賞用の高価格帯の
ものまで充実の品揃え。
上左:1670 ∼ 80 年代の伊万里「染付流水鷺紋輪花皿」
。左:1650 ∼
60 年代の、色絵古九谷「兎紋小皿」
。にわかに絵柄に動きが加わるよう
な動物のモチーフは特に人気で、高値がつくものが多い。
リア実例を見ることができる。
古美術 西川
百人一首の札は人気の品。2 枚 1 組をオリジナルの額装にしたものは、
港区麻布十番 2-20-14
贈り物に喜ばれる。これは幕末の頃のもの。
Tel. 03-3456-1023
11:00 ∼ 19:00 火曜定休
明治から大正期の野弁当(弁当箱)は、繊細な漆塗りの品。泰浩さんこ
www.nishikawa.to/e-index-1.html
だわりのこういった 箱もの や、瑞枝さん好みの伊万里などの器は特
に品揃え豊富だ。
大蔵オリエンタルアート
浦上蒼穹堂
港区麻布台 3-3-14
趣味が高じた、世界一のコレクション
p.079
Tel. 03-3585-5309
10:00 ∼ 18:00 日・月定休
東洋古美術の専門店だが、浮世絵の品揃えもつとに知られ
www.okura-art.com/jp/
る。特に、店主・浦上満さんが 40 年にわたり蒐集している
北斎漫画コレクションは質・量ともに世界随一。「刷られた
ばかりのようで、実は古い、というのが良い浮世絵の約束事」
との浦上さんのことばどおり、状態の良さは絶対保証つき。
古美術 西川
伊万里の器で豊かな時間を
「でも、数万円の手ごろなものも多いんですよ。古美術は敷
p.078
「今の時代は、変化のスピードが速すぎる。 もの もまるで、
使い捨てるために作られているかのようです。それだけ、も
居が高いと思わずに、気軽に親しんでほしい。 買う力 を
養うことは、本当に良いと思える品を判断する目を養うこと
につながります」
のにも魅力がなくなっているのでは」
。店主・西川英樹さん
のことばには、若干の憂いがこもる。
だが、「骨董には、時代を経ても変わらない、ものの魅力
が宿っています」と西川さんは希望を持ってもいる。本店の
浮世絵というと美人画、役者絵、風景画などを連想するが、こんな愛嬌
のあるものも。歌川芳幾『今様擬源氏』より。
浦上蒼穹堂
ある滋賀県から、東京へ進出して 30 余年。伊万里など陶磁
中央区日本橋 3-6-9 箔屋町ビル 3F
器を専門に扱ってきたこの店を、現在切り盛りする。
Tel. 03-3271-3931
「手で作られたものには、量産された無機質なものでは到
10:00 ∼ 18:00 日祝休
底かなわないような力がある。まず骨董を身近に置いてみて
www.uragami.co.jp
ください。例えば、伊万里。器にこだわる文化を知ることで、
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古民藝もりた
ばら売りの古裂のほか、オリジナルの手ぬぐいや、藍染の刺し子などの
トレンド発信地にあるテキスタイルの宝箱
雑貨も充実。
p.079
今や表参道はファッショントレンドの発信地だが、店主の森
田直さん夫妻がここに店を構えた昭和 45(1970)年、付近
Blue & White
港区麻布十番 2-9-2
Tel. 03-3451-0537
には洋装店が 1 軒あるのみだった。街の様変わりとともに、
11:00 ∼ 18:00
染色、織物など古布を中心に豊富に取り揃える「もりた」に
定休日 年末年始
は自然とファッション関係者も多く訪れるように。ジーンズに
も通じる藍の染物や、刺し子のモンペなどの裁断方法に興味
深々だという。骨董通りに面した明るい店内で、森田さん夫
妻が、いつでも朗らかに迎えてくれる。
骨董市でお気に入りの品を見つけよう
p.079
上から:江戸後期の、武士階級の火消しの羽織。絞りの浴衣や、ボロの
(開催期間は 2013 年 9 月以降のもの)
半纏など素朴な藍の布物が人気。ふらりと立ち寄って、日本だけでなく、
平和島 全国古民具骨董まつり
アジア諸国の染物や織物と出会うのも楽しい。
国内で最も古い歴史をもつ、室内骨董市。
古民藝もりた
場所:平和島・東京流通センタービル 2F
港区南青山 5-12-2
開催日:9 月 20 ∼ 22 日、12 月 13 ∼ 15 日
Tel. 03-3407-4466
(年 5 回開催)
10:00 ∼ 19:00
www.kottouichi.com/heiwajima/ENGLISH.html
大江戸骨董市
国内最大規模の青空骨董市。
Blue & White
場所:東京国際フォーラム 地上広場
骨董の、その先へ
開催日:毎月第一・第三日曜日
p.079
アメリカ人の店主エイミー加藤さんが惹かれた 青と白 の
世界が、麻布十番にオープンして 40 年近く。「日本に来て間
antique-market.jp/eng/index.shtml
骨董ジャンボリー
500 店が出店する、国内最大級のイベント。
もないころ、たまたま手に取った藍染の布と会話しているよ
場所:東京ビッグサイト 東1ホール
うな気持ちになって」とエイミーさん。古裂を使ったキルト
開催日:2014 年 1 月 10 ∼ 12 日
や服、バッグなど、古きよきものたちが姿を変えて、暮らし
home.att.ne.jp/sun/jambokun/antique/e.html
に溶け込む。「金ぴかのものより、生活の気配があるものが
好き」
。店内はそんなエイミーさんの優しいまなざしに似た
空気に包まれる。
東美正札会
美術品品質の品々を手頃な価格で購入できる、
伝統ある古美術の展示即売会。
場所:東京美術倶楽部
稲葉玲子さんによる、古裂を使った人気のタペストリー。器は骨董でも
手頃なものや、現代作家のものまで揃う。もちろんテーマは 青と白 。
港区新橋 6-19-15
開催日:12 月 7 日、8 日
www.toobi.co.jp/en/event/index.html
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ザ・美術骨董ショー
新井薬師アンティーク・フェア
古美術から現代美術まで、世界各国の品々が揃う。
場所:新井薬師
場所:東京プリンスホテル
中野区新井 5-3-5
港区芝公園 3-3-1
開催日:毎月第一日曜日
開催日:毎年 5 月開催
www.japantique.org/top_en.html
毎週週末には、東京のどこかの寺社で青空市が開催されている。
ぶらりと出かけた先に、運命の出会いが待っているかもしれない。
花園神社 青空骨董市
場所:花園神社
新宿区新宿 5-17-3
開催日:毎週日曜日
kottou-ichi.jp
靖国神社 青空骨董市
場所:靖国神社
千代田区九段北 3-1-1
開催日:毎週日曜日
www.geocities.jp/thtckal
富岡八幡宮骨董市
場所:富岡八幡宮
江東区富岡 1-20-3
開催日:第一・第二・第四・第五日曜日
www.kotto-rakuichi.com
護国寺骨董市
場所:護国寺
文京区大塚 5-40-1
開催日:9 月 14 日、10 月 12 日、11 月 9 日、12 月 14 日
(毎週第二土曜日)
www.geocities.jp/gokokuji_kottouichi
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