海の駅 - 中国舶用工業会

5 .「 海 の 駅 」 の あ り 方 に つ い て の 提 案
(1)基本的考え方
「 海 の 駅 」 の あ り 方 に つ い て 検 討 す る 前 提 と し て 、「 駅 」 の 概 念 に つ い て 整 理
しておく。
そもそも「駅」の誕生は古代律令制の時代にまで遡る。当時国は各地方を統
治 す る た め に 道 路 を 建 設 し 、「 駅 制 」 や 「 駅 伝 制 」 を し き 、 中 央 か ら 辺 境 に の び
る 道 路 に 沿 っ て 適 当 な 間 隔 で 人 ・ 馬 な ど を 常 備 し た 、 駅 家 ( う ま や )、 渡 し 場 に
水駅(すいえき)を置いた。これが最初の「駅」である。平安時代の「延喜式」
には隠岐・淡路・対馬など限定的だが島にも「駅」があったことが記されてい
る。
こ の 駅 家 、水 駅 の 機 能 は 、人 馬 の 飲 料・食 料 や 休 憩・宿 泊 施 設 を 整 え る こ と 、
駅家に到着した官人や公文書を伝送する駅使に、乗り継ぎの駅馬・駅船や案内
する駅子を提供することであり、これによって、国と地方の連絡が円滑に行わ
れるようになった。
中世には交通の要地にあった「駅家」のあとに宿駅が発達し、商人や一般の
旅行者も利用できるようになった。この宿駅は、律令時代同様の機能をもち、
中央と地方の交通や、飛脚による公私の通信の便宜を図ったほか、民間の商品
流通においてもその中継地として重要な役割を果たすようになった。
こ の よ う に 、「 駅 」 は も と も と 人 や 情 報 の 中 継 ・ 休 憩 ・ 宿 泊 の 場 の 提 供 を 行 な
うところであり、単に列車を停止させ、旅客・貨物を取り扱う「停車場」とは
異なる概念をもっていたといえる。
●オリジナリティのある「海の駅」概念の設定
こ れ ま で の 様 々 な 検 討 事 項 か ら 、 「海 の 駅 」の 概 念 に 関 し 、 次 の よ う な 点 を 抽 出
し、整理することができる。
・
瀬 戸 内 海 離 島 振 興 推 進 協 議 会 「 せ と う ち 宣 言 」 で は 、 島 々が 瀬 戸 内 海 を
介 し て 一 体 の 地 域 を 構 成 している と い う 認 識 が 極 め て 重 要 で あ る と さ れ
た。
・
「 海 の 駅( 仮 称 )フ ォ ー ラ ム 」で は 、海に 開 かれた島づくり、そのための
港づくりが重 要 で あ る と さ れ た 。
・
モニター ツアーで のアンケ ートや座 談会では 、既 存の施 設の活用や港の
開放が重要であるとされた。
・
既 存 の 「 道 の 駅 」「 川 の 駅 」「 海 の 駅 」 で は 、 機 能 性 が 重 視 さ れ て い る の
み で 、 必ずしも明 確な定 義があるわけではない。
124
な お 、「 道 の 駅 」「 川 の 駅 」 は 、 人 々 が 自 由 に 立 ち 寄 れ る も の で あ る が 、
「海の駅」においては、プレジャーボート利用者にとって“気軽”に利
用できる環境とはなっていない。
以 上 よ り 、瀬 戸 内 海 島しょ 部において「海の駅」を特色あるものとするため、オ
リジナルな「海の 駅」の概 念 ( 他 の 地 域 で の 「 海 の 駅 」 に 必 ず し も あ て は ま る も
の で な く 、例 え ば「 瀬 戸 内 海 島 し ょ 部 海 の 駅 」と で も 呼 ぶ べ き も の と し て )を 保
有すべきである、と い え る 。
「海の駅」の定義として、下図に示すようなものが考えられる。
図表Ⅲ−5−1
「海の駅」の定義(検討フロー)
「海の駅」の定義に関係した
フォーラムの発言ポイント
「海の駅」の定義に関係した
モニターツアーのポイント
・海を背にして島の反映を考
えてきたが、これからは海に
開かれた島づくりが重要
・施設は海に開かれた設計に
する
・各駅に関する明確な定義
はなし(機能性を重視)
・新しい施設ではなく、既存
の港を開放する
・「道の駅」「川の駅」と
同様に利用できる環境作り
が必要
・地域の勝手口の位置付けで
あった港を、玄関口に変える
海に開かれた
島(港)づくり
「道の駅」「川の駅」「海の駅」
の基本的概念等のポイント
既存の港の開放
瀬戸内海島しょ部において、
「海の駅」を特色あるものとするため、
オリジナルな「海の駅」の概念を保有すべき
明確な定義なし
海から自由に立ち
寄れる環境作り
「海の駅」の定義(概念)
≪瀬戸内海島しょ部に適用する≫
海から、誰でも、いつでも、気軽に、安心して立ち寄り、利用でき、憩える、
(船を着けられる・陸に上がれる・船に乗れる)港(場)を「海の駅」とする。
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●「海の駅」は地域(島)社会とマリンレジャー利用者を結びつけ、地域振興に
寄与するもの
「 海 の 駅 」は 、地 域( 島 )社 会 、マ リ ン レ ジ ャ ー 利 用 者 を 結 び つ け る こ と に よ っ
て、それぞれに下記のような効果をもたらす。
図表Ⅲ−5−2
地 域 (島 )社 会
「海の駅」の概念
海 の駅
マリンレジャー利 用 者
・地 域 の活 性 化
・休 憩 機 能
・気 軽 に、楽 しく、安 心 して
・自 然 環 境 の保 全
・交 流 体 験 機 能
遊 べるレジャーへの発 展
・文 化 /歴 史 の継 承
・地 域 連 携 機 能
⇒利 用 者 の拡 大
・情 報 提 供 機 能
・旅 行 過 程 における満 足 度
・情 報 交 流 機 能
の増大
・島 の玄 関 口 機 能
地域振興
●誰でも、いつでも立ち寄れる「海の駅」
・ 「 海 の 駅 」に は 最 低 限 必 要 な 機 能 が あ る が 、港 の 条 件 に 応 じ て 様 々 な 機
能が付加されてよい。
・
「海の駅」は島の玄関口だが島に1箇所とは限らない。
図表Ⅲ−5−3
「海の駅」イメージ図
「海 の駅 」イメージ図
海 の 駅● ×
トイレ
電話
係留施設
インフ ォメー ション
トイレ
レンタルボー ト
電話
係留施設
インフ ォメー ション
■■海の駅
海 の 駅▲ ■
レンタル自 転 車
係留施設
● ● 海の 駅 ○ マリーナ
トイレ
公共 港湾○
電話
トイレ
電話
北 の 玄関 口
インフ ォメー ション
レンタルボー ト
インフ ォメー ション
係留施設
レンタル自 転 車
トイレ
電話
インフ ォメー ション
レンタル自 転 車
公共港湾○
係留施設
× × 海の 駅
南 の 玄関 口
トイレ
電話
インフ ォメー ション
係留施設
マリーナ
○
海浜 公園
△ △ 海の 駅
レンタルボー ト
レンタカー
宿泊施設
誰 でも、いつでも立ち寄 れ る「海の 駅 」
126
( 2 )「 海 の 駅 」 の 備 え る べ き 要 件
1)瀬戸内海島しょ部がかかえる課題
島は豊かな自然に恵まれ、人情あふれる人々が暮らしを営んでいるが、一方で
次のような課題をかかえている。
<地域社会>
・ 若者の流出と高齢化によるにぎわい不足
・ 地域産業の停滞
・ 赤字経営の航路の増大
<交通体系>
・ 島 へ の ア ク セ ス 、ア ク セ ス 情 報 が 不 十 分 (島 民 の 生 活 を 支 え る こ と を 最
優先した航路体系)
・ 島内の交通手段が不十分
<資源の質>
・ 瀬戸内海の魅力は自然と歴史・文化にあるが、個々の島を見たときに
インパクトに欠ける
・ 都会の住民から見たとき興味深い資源が豊富にあるにもかかわらず、
それらの発掘と見せ方が貧困
<情報提供や観光サービス>
・ 島に来てからの見どころや楽しみなどの情報提供が不足
・ 個々の島では色々な試みがあるが、島外への情報発信が不足
・ 島ならではの体験や食材の提供、特産品販売などが不十分
・ ホスピタリティは感じられるが、サービス商品として改善の余地が多
い
<海とのかかわり>
・ 島への誘客には海とのふれあいが重要なテーマだが、それを促す場が
不足、島民も海とのかかわる機会が減っている
・ 海に背を向けた基盤整備が行われてきた
・ マリーナや漁港関係者の受け入れが十分でないため、恵まれた自然環
境を生かしきれていない(海洋レジャーの発展を阻害)
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2)課題解決の一つの手法としての「海の駅」の役割
瀬戸内海島しょ部がかかえる課題を解決する一つの手法として「海の駅」があ
ると考えると、そこには次のような役割が期待される。
* 住民参加による、住民主体の拠点づくりを促す(もてなす)
* 来 訪 者 を 受 け 入 れ て 地 域 で 賑 わ い の 拠 点 と な り 、地 域 活 性 化 に
寄与する(ふれあう)
* 地 域 住 民 と 来 訪 者 の 交 流 や 、情 報 交 換 の 拠 点 と な る( 案 内 す る )
*「海の駅」ネットワーク化で地域の連帯感(一体感)を高める
(つなぐ)
こ れ を 簡 潔 に い う と 、「もてなす」「ふれあう」「案 内 する」「つなぐ」と い う 4
つの役割にまとめることができる。
ま た 、「 海 の 駅 」に か か わ る 主 体 別 に 見 る と 、以 下 の よ う な 役 割 が 期 待 さ れ て
いるといえる。
<主体別に見た「海の駅」へのニーズ>
a.一般観光客
・ 観光情報、地域情報、交通情報の提供(近接する海の駅、島
の情報を含む)
・ 乗 り 換 え 拠 点 と し て の 利 便 性( レ ン タ サ イ ク ル 、島 内 バ ス へ
の乗り換え、海上タクシー手配等)
・ 島民との交流・ふれあい、島らしい食事やみやげもの購入
・ 宿泊やガイドサービス等の案内・あっせん・予約
b .プレジャーボート利 用 者 ( 潜 在 的 利 用 者を 含む)
・ 島までのアクセスや安全航行のための情報提供
・ 誰でも自由に発着可能な港
・ 停泊、給油、シャワー設備等
・ トラブル発生時の救援サービスの提供
c.島民
・ 自由にふるまえるにぎわいの場
・ 島 外 客 と の 交 流 、産 業 活 動 起 点 → み や げ も の 販 売 、サ ー ビ ス
提供の窓口等
・ 島づくり活動の拠点、域外への情報発信
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3 )「 海 の 駅 」 の 役 割 と 必 要 な 機 能
「 海 の 駅 」の 役 割 に 対 応 し て 必 要 と な る 機 能 を ま と め る と 、以 下 の よ う に な る 。
図表Ⅲ−5−4
「海の駅」の役割と必要な機能
役 割
機 能
交 通 拠 点
つなぐ
休憩サービス
案内・あっせん
もてなす
飲食・販売
案内する
海洋レクリエーション
救 急
ふれあう
情 報 発 信
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4 )「 海 の 駅 」 の 備 え る べ き 要 件
瀬戸内海島しょ部がかかえる課題に対処するために「海の駅」が備えるべき要
件についてまとめると、以下のようになる。
図表Ⅲ−5−5
機
能
交通拠点
休憩サービス
案内・あっせん
飲食・販売
海の駅に求められる機能とサービス
ハード(施設・設備)
定期船発着所
プレジャーボートの係 留 桟 橋
駐車場
バスターミナル
フェリー待 合 所
券 売 り場
船 舶 への燃 料 等 物 資 補 給 所
港 入 口 の交 通 標 識
トイレ
シャワー
一時係留施設
駐車場
公 園 や広 場
博 物 館 等 の展 示 場
公衆電話
公 衆 ファックス
宿泊施設
公 衆 浴 場 などの入 浴 施 設
観光案内所
相 談 コーナー
レストラン・喫 茶
特 産 品 売 り場
青空市場等
コンビニ
アトドア用 品 専 門 店
海 洋 レ ク リ エ ー プレジャーボートの係 留 ・収 容
ション
施設
釣 場 ・海 水 浴 場
救急
情報発信
インフォメーションコーナー
マルチナビゲーション貸 し出 し
「海 の駅 」ネットワーク化
ソフト(サービス)
バイク・自 転 車 のレンタル
乗 り継 ぎ・乗 換 え案 内
入 出 港 ナビゲーション
係 留 予 約 受 け付 け
レンタルボート乗 り継 ぎ・乗 り捨 てシステム
24 時 間 利 用 可 能
係 留 施 設 の監 視
交 流 イベントの企 画 ・開 催
島内宿泊施設予約
海 上 タクシーの手 配
タクシー、レンタカーの手 配
ツアー企 画
他 島 と連 携 した利 用 客 の融 通
観 光 スポット・コースの紹 介
ガイドの紹 介 、あっせん
顧 客 管 理 サービス
地 場 産 品 を生 かしたメニューの提 供
夜 12 時 まで営 業
夏 は水 着 で食 事 可 能
土 産 物 の販 売
宅配取次ぎ
海 鮮 バーベキュー
カヌー・ヨット教 室
レンタルボート・釣 具 等 の貸 し出 し
マリンレジャー結 婚 式
プレジャーボートでの島 巡 り
流 し伝 馬 ・農 耕 船 遊 覧 などの体 験
救 急 医 療 サービス
医 療 機 関 への連 絡
海 事 データの提 供
(海 図 ・潮 汐 表 、潮 流 情 報 、天 気 予 報 、船 舶 の物 資
補給所案内)
交 通 アクセス情 報 提 供
地 域 情 報 の紹 介
( 観 光 スポ ッ ト・ 施 設 ・ コ ー ス ・ イベ ン ト・ 島 の 名 人 ・ そ
の他 の「海 の駅 」等 の紹 介 )
特 産 品 紹 介 、ネットによる予 約 ・販 売
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( 3 )「 海 の 駅 」 の 施 設 イ メ ー ジ と 運 営
1 )「 海 の 駅 」 の 施 設 の イ メ ー ジ
①施設整備のあり方
「 海 の 駅 」に 期 待 さ れ る 役 割 か ら 、施 設 と し て の「 海 の 駅 」の イ メ ー ジ に つ い
て整理すると、以下のような要件を備えることが必要と考えられる。
○海に開かれた設計
・ 海から見た視線を大切にし、海側からすぐにそれとわかる
・ 海に顔を向けた建物の表情がある
・ 海 に 臨 む テ ラ ス が あ る な ど 、利 用 者 が 海 と 親 密 な 関 係 を 保 つ こ と が で き
る
○島の玄関口としての雰囲気を持つ施設
・ 地域固有の歴史や生活スタイルを思い起こさせるような建築の色彩や
形を持つ
・ にぎわいを演出する空間がある
○既存施設の有効利用による整備も検討
・ 未利用の埋立地や既存の漁港の一部、造船所跡などを活用
・ 建 て 屋 も 既 存 の も の が 活 用 で き れ ば 、そ の 島 ら し さ を ア ピ ー ル で き る 可
能性がある
○異なる機能をもつ複合的な施設で構成
・ 海 に 開 い た 港 湾 関 係 の 施 設 と 、各 島 ご と に 地 域 側 が 主 体 的 に 運 営 す る 休
憩・販売・宿泊・展示などの施設で構成される
・ 施設の規模や機能構成が地域の条件や運営方針で異なってくるのは当
然だが、最小限の施設要件を設定しておくことも考えられる
131
②タイプ別分類(案)
「 海 の 駅 」は 、海 か ら 誰 で も が 気 軽 に 安 心 し て 立 ち 寄 り 、利 用 で き る 港 で あ る
が 、地 域 と の か か わ り と い う 観 点 か ら 見 て い く と「 海 の 駅 」の 施 設 タ イ プ と し て 、
以下の 3 類型が考えられる。
a.旅客ターミナル型
旅客船やフェリーの発着場で、地域の玄関として交流の拠点となってい
るもの
b.船だまり型
マリーナ、緑地などで、海だけでなく陸側からの訪問客の玄関にもなっ
ているもの
c.海浜型
港の近くにある海浜が海水浴だけでなく、様々なレジャーの拠点になっ
ているもの
132
2)個々の「海の駅」の運営
①「海の駅」の設置・運営主体
・ 「 海 の 駅 」は 、海 に 開 い た 港 湾 関 係 の 施 設 と 、地 域 側 施 設 と で 構 成 さ れ 、
複数の事業主体が設置・管理にかかわることになる。
・ 桟 橋 、船 だ ま り な ど 基 盤 と な る 港 湾 施 設 は 公 的 な 管 理 下 に あ り 、 休 憩 ・
交 流 ・情 報 提 供 な ど の 機 能 を も つ 地 域 側 施 設 は 民 間 が 関 与 す る 可 能 性 が
あるが、両者は一体的に管理・運営される必要がある。
・ 運営については個別の条件に応じながら多様な機能をカバーする柔軟
性 や き め 細 か さ が 求 め ら れ る こ と に な る こ と か ら 、地 元 住 民 や 民 間( 第
3 セ ク タ ー を 含 む )、 地 方 公 共 団 体 等 、 幅 広 い 参 加 が 考 え ら れ る 。
②地域とかかわるしくみづくりとその運営・管理
・ 「 海 の 駅 」が 機 能 す る た め に は 、地 域 と か か わ る し く み が 作 ら れ 、費 用 捻
出 を 含 め て そ れ を 無 理 な く 動 か し て い く 体 制 が 必 要 で あ る 。以 下 に 、望
まれるしくみの例を示す。
図表Ⅲ−5−6
地域とかかわるしくみづくりとその運営・管理
しくみ
島内交通との接続、交通体系
地域とのかかわりで必要な業務等
→島内バス、レンタサイクルなどとの連携
の再編成
地域情報の集約と発信
→リアルタイム情報の収集(通信員等の確保)
→確認・チェック、編集、発信
産品の流通システム
→ 島 な ら で は の 食 材 や 特 産 品 の 仕 入 れ 、「 海 の
駅 」 ブ ラ ン ド の 商 品 づ く り (「 海 の 駅 」 共 同
による商品化・販売も検討)
各種サービスあっせん・予約
代行、ツアーの主催等
→対象となる施設・機関・人の選定、料金等の
取り決め、サービス等の商品づくり
→ そ の 品 質 チ ェ ッ ク (「 海 の 駅 」 と し て の ブ ラ
ンド維持管理の意味もある)
島の文化・歴史の継承
→埋もれた資源の発掘
→来訪者への紹介・案内
→継承や解説・案内などの担い手の育成
133
3 )「 海 の 駅 」 間 ネ ッ ト ワ ー ク の 運 営 ・ 管 理
・ 島 と 島 を つ な ぐ 役 割 を 果 た す た め に は 、ネ ッ ト ワ ー ク を 運 営・管 理 す る
体制が必要になる。
・ 一 般 的 な 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク の 運 営 に つ い て は 共 通 の 基 盤 を 用 意 し 、参 加
のルールを定めておけば動いていく(ただし基盤を管理する主体は必
要 )。
・ 例えば乗り捨て可能なレンタルボートシステムや海難救助のネットワ
ー ク の よ う に 、個 々 の「 海 の 駅 」の 経 費 や 労 力 面 で の 負 担 が 求 め ら れ る
ようなしくみを運営していくには、参加のメリットを明確にした上で、
役割分担や精算方法などの取り決めが必要になる。
・ 「 人 」の ネ ッ ト ワ ー ク づ く り と い う 観 点 か ら 、各 地 の「 海 の 駅 」が 協 力
し 、瀬 戸 内 海 全 体 を リ ン ク し た 地 域 活 動 グ ル ー プ に よ る NPO 法 人 の 設 立
や 、瀬 戸 内 海 固 有 の 文 化 を 継 承 し て い く た め の リ ー ダ ー 育 成 事 業 な ど に
取り組むことも考えられる。
・ こ れ ら の 管 理・運 営 に は 各 島 の「 海 の 駅 」を つ な ぎ 調 整 を 行 う 横 断 的 な
組織が必要となる。
134
( 4 )「 海 の 駅 」 を 活 用 し た 地 域 活 性 化 方 策
ここまで整理・検討してきた「海の駅」を有効に活用し、地域の活性化を図
っていくための方策に対し、次の5つの視点を枢軸とした「海の駅」のあり方
が存立するものと思われる。
①個々の島をつなぎ全瀬 戸 内 海としての地 域 イメージを形 成する
・ 海に開かれた島づくりを進める拠点とする。
・ 個 々 の 島 々 に 光 を 当 て る と と も に 、瀬 戸 内 海 全 域 を 一 つ の 圏 域 と し て 浮
か び 上 が ら せ る 手 段 と す る ( 瀬 戸 内 海 全 体 が 一 つ の テ ー マ パ ー ク )。
②瀬 戸 内 海 の自 然 環 境 の保 全や 再 生を 促がす
・ 瀬戸内海に自然を取り戻す拠点とする。
・ そ の た め に も 工 場 跡 地 や 既 存 の 港・漁 港 を 再 利 用 し て「 海 の 駅 」を 整 備
する。
・ 恵 ま れ た 潜 在 的 な 資 源 を 発 掘 す る と と も に 、自 然 環 境 を 生 か し た 見 ど こ
ろや楽しみを情報発信する。
③瀬 戸 内 海 固 有の 生 活 文 化をアピールするとともにその継 承を 支 援 する
・ 「 海 の 駅 」全 体 と し て 、瀬 戸 内 海 が も つ 固 有 の 生 活 文 化 や 生 活 ス タ イ ル
を 踏 ま え た 街 づ く り を 行 う 。ま た 、こ れ ら を ア ピ ー ル す る と と も に 継 承
を支援する場となる。
・ 全 国 一 律 で は な く 、文 化 や 伝 統 を 深 く 読 み 解 い て オ リ ジ ナ ル な「 海 の 駅 」
の施設整備を進める。
④「海の 駅」を軸とする公 共 交 通 体 系を 整 備 する( 新たな海 上 交 通 のネットワーク
の創 出 )
・ 島へのアクセスやアクセス情報の入手を容易とする拠点作りを行う。
・
島々が有機的に結び合える海上交通ネットワークを構築する。
⑤マリンレジャーの振興とこれを活 用した 地域 活 性 化を図る
・ マリンレジャーへの入口となる場であり、しかけとなる。
・
地域ににぎわいの場を作り出し、観光振興や産業活性化に寄与する。
・
安全な航行を支援する。
次に、これら「海の駅」のあり方および地域の活性化方策について、今回の
モニターツアーに参加された有識者より、それぞれの視点から、示唆に富んだ
具体的な提言を頂いたので以下に取りまとめることとする。
135
個々の島をつなぎ全瀬戸内海としての地域イメージを形成する
◆瀬戸内海及び島々のもつ魅力とその再発見
【瀬戸内海そのものの価値が見直される時代】
瀬戸内海地域は、温暖で雨の少ない気候、内海特有の静穏な海域、変化に富
む地形と複雑な海水の流動に伴って形成される豊かな生態系など、独特の自然
条 件 に 恵 ま れ て い る 。こ の た め 太 古 の 時 代 か ら 人 々 が 居 住 し 、生 産 性 の 高 い 農 ・
漁業の場となり、今日に到るまで海・山・里の食の宝庫となってきた。また古
く か ら 海 の 道 と し て 利 用 さ れ 、交 易 の 場 と も な っ て き た 。こ う し た 営 み の 結 果 、
瀬戸内海全域で自然と歴史と文化が渾然一体となった風景を見ることができる。
今 日 、 瀬 戸 内 海 沿 岸 域 の 市 町 村 の 人 口 は 、 約 1,700 万 人 に の ぼ る 。 高 度 経 済
成長期、大規模な工場立地や急激な都市化が進み、海の汚染が進んだが、現在
では改善の方向にあり、風光明媚な多島海の景観が維持されている。瀬戸内海
周辺では、工業化・情報化の進んだ都市型生活と、自然に依存する農業・漁業
の営みとが共存している。その共通の基盤として、海の存在が大きい。近代化
が高度に進んだ地域において、海を通して自然のリズムが人々の日常身近に存
在する、世界でもまれな地域といってよい。
こうした瀬戸内海そのものが持つ価値に、より多くの人々が目を向けるよう
になっている。自由時間の増大や人々の価値観の変化、通信・交通体系の拡充
などを背景に、瀬戸内海地域への期待と関心が高まっていくであろう。
【海を介して一体的に形成されてきた歴史】
もともと瀬戸内海は、海の街道と呼ばれるほどに古くから舟運が盛んで、大
陸や西国と都との間の経済、文化交流の動脈の役割を果たしてきた。中国と四
国あるいは内海の島々と本土とを結ぶ、船による行き来も多かった。こうした
ことから、海と船を介した相互のつながりの深い地域ということができる。そ
れは例えば、水軍の根拠地の広がり、島伝いの信仰や芸能活動の流布、塩に代
表される海産物の交易ルートなどをたどるだけでも理解できる。いわばこの地
域は、海を介して一体的に形成されてきた歴史を持っていると言うことができ
る。
他方、密接に交流しながら、各地域が独自に発展してきた面もある。瀬戸内
海の中でも各地域の条件に応じて、様々なまちや村が成立している。島の中で
も、漁業の島と農業の島とは比較的はっきりと分かれている。
136
【島は瀬戸内海らしい自然と文化の宝庫】
瀬戸内海には、有人島だけでも百数十の島々が連なり、瀬戸内海を構成する
重要な要素となっている。それは、多島海の景観を形づくっているという意味
からだけではない。
明治以降の工業化の進展と陸上交通の発達とともに、本土側の町や自然の姿
は大きく変容したが、島は海で隔てられていただけに、こうした変化からいわ
ば「 取 り 残 さ れ 」、今 も 多 様 な 自 然 や 暮 ら し ぶ り が 残 さ れ て い る 。段 々 畑 に 象 徴
されるように、人手がきめ細かく入って維持されてきた、瀬戸内海らしい自然
が受け継がれている。御手洗の街並みのような歴史的遺産も各地の島々に散在
している。
こうした多数の島々が重なり合って、瀬戸内海というひとつの地域の風土を
作り出し、保っているのであり、その全体に地域としての魅力がある、と言う
ことができる。
そしてそれが今、生活にゆとりやうるおいを求める多くの人々に改めて魅力
と感じられるようになっている。
【瀬戸内海と各島々の魅力再発見の動き】
例 え ば「 瀬 戸 内 海 の 路 ネ ッ ト ワ ー ク 推 進 協 議 会 」は 瀬 戸 内 海 沿 岸 地 域 11 府 県
と関係市町村、国土交通省支分局による団体であるが、瀬戸内海を一つのつな
がった地域ととらえ、広域的な観光振興に取り組んできた。
離島を保有する市町村が結成した「瀬戸内海離島振興推進協議会」では、瀬
戸内海の島らしさの追求と広域的な連携のなかに、この地域の離島振興の活路
を 求 め る 方 針 を 明 ら か に し た 。 2001 年 夏 に は 「 瀬 戸 内 海 島 し ょ サ ミ ッ ト 」 を 開
催 し て「 せ と う ち 宣 言 」を 採 択 し 、ネ ッ ト ワ ー ク 拡 大 の 必 要 性 を ア ピ ー ル し た 。
このような行政の動きとは別に、
「 希 少 な 自 然 、個 性 的 な 港 町 、蓄 積 さ れ た 固
有の文化を材料に、瀬戸内海を総合的な世界遺産に登録する運動を」といった
声や「瀬戸内海全体が世界最大のテーマパークであるとの発想から、島々の多
様な資源をつないで魅力をアピールしていくべき」といった声も聞かれる。こ
れらも瀬戸内海を一体のものとして捉え、これまで述べたような特異な条件に
希少価値を見出そうとする、注目すべき動きと言える。
◆地域の魅力や特徴を生かすための課題
【豊かな交流空間の充実へ】
違った特色をもつ島が数多くあることを生かして、瀬戸内海全域を、沿岸部
137
の都市住民や全国の人々が享受できる、楽しみとやすらぎの空間としていくこ
とが考えられる。島をめぐり、豊かな自然や特色ある歴史・文化にふれあうこ
とで、リフレッシュしたり楽しく学習できるようにする、と言うことだ。島側
から見れば、多くの人々を受け入れ、交流人口を拡大すること、すなわち、島
を訪れる人々を増やすことで、交通アクセスの改善や産業の活性化を図り、豊
かな生活空間の形成にも結び付けていく、ということになる。
そのためには、まず何よりも個々の島の魅力アップと海と島の全体の魅力ア
ップが必要である。
【地域資源の見直しと島からの情報発信が求められている】
まず、島の個性と魅力を外に向けてアピールすることが必要になる。では島
の個性と魅力とは何だろうか。個々の島は、これまでは海に背を向けた島づく
りを進めてきたと言われるが、これからは、むしろ海と密接に関わって成り立
っ て き た 島 の 社 会 と そ の 文 化 に 注 目 す べ き で あ ろ う 。漁 業 の 島 に 限 ら ず 、海 は 、
時には制約となるが多くの場合は島に恵みをもたらし、海が地域のアイデンテ
ィティを形づくってきたと言ってよいからだ。
例えば新しい文化は海を経由して各地に広がり、島の自然条件や社会に合っ
たものだけが受け入れられ変化しながら定着していっただろう。島で生まれた
生産技術も、海を介した交流の中で磨かれ改善されていったはずだ。そうした
過去の痕跡は、島に住む人自身も気づかず、埋もれてしまっているものも多い
のではあるまいか。それらを発掘し見直してみることは、ほかの地域にはない
その島らしさを確認することとなり、島外の人々にとって魅力があるだけでな
く 、島 に 住 む 人 々 の 自 信 回 復 に も つ な が る だ ろ う 。そ れ は 島 の 資 源 で あ り 、
「た
から」と言ってもよいものだ。
島にはそんな資源がたくさん眠っている。これらを掘り起こし、際立たせ、
魅力としてアピールしていくことが必要である。
【島どうしの連携から、広域交流圏の形成へ】
しかし瀬戸内海の島の場合、個々の島だけでアピールするには限界がある。
インパクトに欠ける場合が多いからだ。景観を見てもわかるように目を奪うよ
うな突出した資源があるというより、こまごまとした微妙な変化の方にこそ瀬
戸内海らしさがある。
瀬戸内海の場合、連携することで島々の魅力はより高まり、情報発信力も高
まるだろう。その理由は、第1に、複数の島々のつながりで生まれるストーリ
ー性が意味をもつからである。あるいは逆に、よりわかりやすいストーリー性
に沿って連携を図るという考え方もあり得るだろう。もともとつながりのある
138
地域であるということがはっきり見えてくることが重要である。第2に、多様
な選択肢が生まれるからである。1つの島には1つの楽しみしかなくても、ま
とまることで一定の範囲の中でいくつもの楽しみが提供されることになる。産
品販売で言えば、品揃えが豊富になるということだ。第3に、まとまることで
訴 求 力 が 強 く な る か ら で あ る 。個 別 に は 小 さ く て 違 い が 判 別 し に く い 場 合 で も 、
群としてみれば姿かたちがよりはっきりし認識しやすくなる。近くて遠い存在
だった瀬戸内海の島々がわかりやすくなるということだ。また、情報発信に投
入できる資源も大きくなる。産品販売にたとえれば、量的に安定するというこ
と で も あ る 。こ の よ う に 、単 独 で は な く 「歴 史 航 路 な ど 特 定 の テ ー マ で つ な が り
の あ る 島 々 」、「 特 定 の 地 域 の 島 々 」 あ る い は 「 瀬 戸 内 海 地 域 の 島 」 と し て ア ピ
ールしていくことは、個々の島にとっても活性化につながり、大きな意味があ
る。
これまで情報発信という活動に即して連携の重要性を述べてきたが、それを
発展させると、単なる「島々のグループ」から1つの「空間的な広がりを持っ
た圏域」を作っていこうということになっていく。情報と人、もの、金とが合
わさって行き来する、瀬戸内海広域交流圏の形成である。そうした圏域ができ
ることによって、上に述べた連携の意味がより強化されることは明らかであろ
う。
【島間のより自由な行き来の実現を】
島は、今もアクセス手段が海上交通に限られる。しかし、都市化社会では本
土母都市とのつながりが強くなり、島どうしのつながりが失われてきた。とく
に本土との距離が小さい瀬戸内海の島々では、それが顕著である。広域交流圏
を見通して海を通した実質的なつながりを強めるには、島間のより自由な行き
来を再現することが不可欠である。そのためには海上交通の見直しが必要であ
り、海に開かれた形での交通ネットワークづくりが課題になる。
◆海の駅に期待される役割
【人々を島に「受け入れる」しくみであると同時に島と島を「つなぐ」しくみ】
このように考えてくると、
「 海 の 駅 」に 期 待 さ れ る の は 、単 な る 施 設 に と ど ま
らず、しくみとしての役割を果たすことである。すなわち「海の駅」は、島に
来る人を受け入れる場・しくみであると同時に、島々をつなぐしくみでもある
ことが望まれる。
139
まず第1に、人々を島に「受け入れる」しくみとして、個々の島に人々を誘
導し、島での滞留を促す役割が必要である。島の情報を提供する、プレジャー
ボートの自由な係留を可能にする、島の案内人を紹介する、島内交通への乗り
継ぎを案内する、などである。
そ れ と 同 時 に 求 め ら れ て い る の は 、島 と 島 を「 つ な ぐ 」し く み と し て の 「海 の
駅 」で あ る 。「 つ な ぐ 」 し く み と は 、 交 通 ネ ッ ト ワ ー ク 、 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク を 作
っていく結び目(結節点)となるということであり、さらには、ネットワーク
全体として一つのまとまりを作る役割、またはそれを圏域として浮かび上がら
せる役割を果たすということである。前者は例えばクルージングコースの中継
地になり他の島の紹介・案内をする、異なる交通手段の接続を便利にする、な
どであり、後者は例えばまとめて島々をアピールし島々へのアクセスを総合的
に案内する、島での楽しみに多様な選択肢があることを示す、どこからでも共
通の商品やサービスを購入できるようにする、などである。
「海の駅」はこれらを同時に実現するしくみであり、個々の島に立地すると
ともに、
「 海 の 駅 」ど う し が 互 い に 海 で つ な が っ て い る こ と を 意 識 さ せ る も の で
あ る こ と が 望 ま し い 。つ ま り 個 々 の 島 の「 海 の 駅 」を 通 じ て「 瀬 戸 内 海 の 島 々 」
が共通してイメージできるということである。そのためには、第1に、島々を
つないで一つのまとまりを形成する手段であるという役割イメージ、第2に、
島に立ち寄り入っていくための共通サービスが提供される(そこへ行けば安心
してサービスを受けられる)という具体的なイメージを明確に作り出していく
必要がある。
【海に開かれた島づくりの拠点】
個々の島ではインパクトが不足するのを、まとまることでカバーしようとす
るのとちょうど反対に、全体の魅力を高めるには個々の島々の魅力づくりが不
可欠であるとも言える。
「 海 の 駅 」に は 個 と 全 体 を つ な ぐ 役 割 が あ る 以 上 、そ の
島の個性をみがき、島から瀬戸内海らしさを再構築していく役割も同時に期待
される。
島の側から見ると、
「 海 の 駅 」が 主 導 し て 埋 も れ て い た 資 源 を 発 掘 し 島 の 魅 力
アップ、ひいては瀬戸内海地域ならではの島づくりに取り組んでいくというこ
と を 意 味 し て い る 。「 海 の 駅 」が「 海 に 開 か れ た 島 づ く り の 拠 点 」と し て の 役 割
を担うことになるとも言える。
140
◆海の駅の機能や具現化に向けて
【様々なネットワーク化の試みを】
島に「受け入れ」つつ、島と島を「つなぐ」しくみとして「海の駅」を機能
させるためには、情報ネットワークの充実が不可欠であるが、同時に、新しい
交通ネットワークの起点になることも重要である。プレジャーボート、海上タ
ク シ ー 、周 遊 観 光 船 な ど 多 様 な 海 上 交 通 手 段 の 接 続 の 利 便 を 高 め る た め に 、
「海
の駅」が各交通機関に対する積極的なコーディネート機能をもつことが考えら
れ る 。ま た 、「 海 の 駅 」間 で 連 携 し 、乗 り 捨 て 可 能 な レ ン タ ル ボ ー ト の し く み を
作ることなども柔軟な交通ネットワークづくりには有効であろう。
また、個別の島への受け入れのための施設であるがどこの「海の駅」でも何
らかの共通性をもつ、ということも統一したイメージづくりには重要である。
最低限の施設、サービスについてオリジナルな規格を設定することが検討され
てよいと思われる。
広域交流圏の形成、すなわち、つなぐしくみの結果として圏域を浮かび上が
らせることについては、わかりやすさからは、地域小グループのつながりから
始めることも考えられる。すなわち、いきなり全瀬戸内海というまとまりとい
うより、例えば「しまなみ海道周辺地域」などを単位とする、段階的な圏域設
定 も 検 討 す べ き で あ ろ う 。ま た 、地 域 的 ま と ま り だ け で な く 、「 海 の 駅 」と し て
分野ごと(例えば福祉)のつながり、年代ごと(子供、高齢者)のつながりを
意識した「人」の交流ネットワークを媒介する役割なども検討したい。こうし
た 重 ね 合 わ せ か ら 、一 つ の 地 域 と し て の 瀬 戸 内 海 の つ な が り が 形 成 さ れ て い く 。
圏域を実質化するには、瀬戸内海の「海の駅」全体で統一的な商品やサービ
スを売るしくみを作る(海の駅ブランド)ことも考えられる。さらに、将来的
には圏内だけで通用する地域通貨を取り入れ、これを電子マネーとして流通さ
せていく。使用、決済は「海の駅」で行い、これを使えば乗り物・ショッピン
グ・宿泊等が割安になるといった特典を設けることも考えられる。
【資源マップづくりから】
「海の駅」を中心とした地域づくりの当面の課題として、住民参加による地
域資源の掘り起こしが考えられる。掘り起こした資源はマップ化することで、
相互の関係を浮かび上がらせるとともに、関係した人々に地域への共通認識を
深める効果がある。
「 海 の 駅 」が 音 頭 を と っ て で き る だ け 多 く の 人 々 が 参 加 す る
運動として進めることが望ましい。
それによって、地域の価値の再認識と同時に、広域的なつながりやまとまり
のある地域としての見直しや、交流連携が進むことが期待される。また作られ
141
たマップは、個々の地域へ利用客を導く魅力的なガイドともなる。
島ごとのもの、小圏域単位のもの、瀬戸内海全体をカバーするものなどを作
成 し 、「 海 の 駅 」 で 配 布 す る 。「 海 の 駅 」 を つ な ぐ ク ル ー ジ ン グ の コ ー ス づ く り
ための手引きにすることもできよう。
(豊町長/長本憲)
沖 で の 釣 りは
仲 間 同 士 の ク ルージングは
ちょっと 贅 沢 に
大 物 が 釣 れ るぞ
豪 華 ク ルーズ
最 高 に 楽 し いな。
海の駅
海の駅
海の駅
海の駅
海の駅
海の駅を拠 点に
マリンレジャー三 昧 だ
島を 巡って
名 所 旧 跡 を 訪 ねよう
瀬戸内海の海は
何 て 綺 麗 な んだ
多島海の景観と豊かな自然環境を生かし瀬戸内海を一大テーマパークに
142
瀬戸内海の自然環境保全や再生を象徴する場となる
◆「持続可能な観光」の地としての再出発を期待
1999 年 5 月 に 本 四 連 絡 橋 3 ル ー ト の 最 終 の ル ー ト と し て「 し ま な み 海 道 」が
開通したことによって瀬戸内の交通開発は完成した。つまり、今後の地域とし
ての発展を考えるにはふさわしい時点を迎えた。各橋の開通に伴って、観光客
数が一時急増したが、このようなブーム現象は長く続かなかった。そして、す
で に 30 年 前 か ら 日 本 で も マ リ ン レ ジ ャ ー が 定 着 し 、瀬 戸 内 海 へ の 観 光 レ ク リ エ
ーションの需要が急増することが予想されたが、このような現象もみられなか
っ た 。 瀬 戸 内 海 は 「日 本 の エ ー ゲ 海 」と い わ れ な が ら 、 あ き ら か に エ ー ゲ 海 と 観
光の形式や観光開発の歩みが異なっている。
沿 岸 域 に お け る 観 光 地 域 の 原 型 は ヨ ー ロ ッ パ 、ま た は ア メ リ カ で 19 世 紀 か ら
流 行 り は じ め た coastal resort( 沿 岸 域 リ ゾ ー ト ) ま た は beach resort( ビ ー
チ リ ゾ ー ト ) に ま で 遡 る 。 そ の 特 徴 と し て は 太 陽 ・ 砂 ・ 海 (sun-sand-sea)を 中
心に自然資源の海洋性と都市的な機能を同時に提供していることがあげられ、
文化の発生地として栄えた街さえ中には登場した。
沿岸域の観光地域のなかで特に島が人気を集めている。生活から離れた環境
として島は観光客に望ましいイメージを起こしている。西洋の旅行者にとって
は、特に「熱帯の島」がホリデーにかけている期待すべてを代表しているとい
えよう。
島の別世界を期待し、その上欧米で慣れてきた沿岸域観光地の都会的な機能
を求めている西洋の消費者のニーズに答えて開発されたのが現在の太平洋・ア
ジ ア 地 域 で 見 ら れ る 世 界 的 な リ ゾ ー ト で あ る 。そ し て 1987 年 に 施 行 さ れ た 日 本
の総合保養地域整備法もそのような形のリゾートを国内で整備することをめざ
したが、瀬戸内海地域ではほとんど成果をあげなかった。その理由は一般的に
バブル経済の崩壊に求められているが、むしろ長期滞在の普及を前提にしたこ
とを始め、海洋性を中心にしたホリデーへのあこがれ、そして活性のある都会
的なリゾートのような西洋のコンセプトをそのまま瀬戸内海にもってきたこと
に原因があると思われる。
近 年 、 「持 続 可 能 な 観 光 」と い う コ ン セ プ ト が 注 目 さ れ る よ う に な っ た 。 持 続
可能な観光開発には環境への配慮はもちろん、観光地の経済的な自立、地元コ
ミュニティーの決定権、さらに観光開発によるコミュニティー意識や文化の育
成も含まれている。もう一つの要素として、観光開発と地域におけるその他の
活動との総合的な調整がなされることがあげられ、総合的な観光開発が要求さ
143
れ て い る 。 そ こ で 、 「海 の 駅 」構 造 は こ の よ う な 総 合 的 な ア プ ロ ー チ の な か で ど
のような役割が期待されるか、分析したい。
◆マリンレジャーを支える「海の駅」
上にも触れたように、瀬戸内海は欧米の典型的なビーチリゾートと異なり、
マリンレジャーを中心に成り立っている町はない。その背景に、日本全国のマ
リンレジャーへの低い参加率があり、海水浴と釣り以外、ほとんど1%前後に
と ど ま っ て い る 。図 表 Ⅲ -5 − 7 で も 見 ら れ る よ う に 、参 加 率 は 性 別 に よ り 異 な
り、もっとくわしいデータを分析すると、年齢的な差も大きい。サーフィンは
20 代 前 半 の 男 性 、 ダ イ ビ ン グ が 若 い 女 性 に 人 気 が あ り 、 後 者 は 海 外 旅 行 で 行 う
こ と も 多 い 。 対 照 的 に 、 ヨ ッ ト 専 門 誌 の 「舵 」が 調 べ た と こ ろ 、 1973 年 に 読 者 の
45% は 20 代 で あ っ た が 、 1999 年 の 読 者 の 4 割 が 50 代 に な っ て お り 、 ヨ ッ ト 人
口 は 70 年 代 の ヨ ッ ト ブ ー ム か ら そ の ま ま 高 齢 化 し て き て い る と い え る 。
図 表 Ⅲ -5 -7
マリンレジャーの参加率
ダイビング
1991
1996
ヨット
サーフィン
全体
0.5%
0.4%
0.5%
男性
0.7%
0.5%
0.8%
女性
0.4%
0.3%
0.2%
全体
0.8%
0.3%
0.9%
男性
0.9%
0.4%
1.3%
女性
0.8%
0.2%
0.4%
資料:総務庁統計局「社会生活基本調査報告」
プ レ ジ ャ ー ボ ー ト の 数 は 日 本 で 伸 び て い る が 、 最 近 の 増 加 は PWC( 水 上 オ ー
ト バ イ )の 普 及 に 基 づ き 、逆 に ヨ ッ ト の 隻 数 が 減 少 し て い る 。日 本 で は 2001 年
に 27,000 隻 の ヨ ッ ト( デ ィ ン ギ を 含 む )が 数 え ら れ 、日 本 ヨ ッ ト 連 盟 の 会 員 数
が 11,781 人 に と ど ま っ て い た が 、海 岸 線 の 少 な い ド イ ツ で は ド イ ツ ヨ ッ ト 連 盟
の 1,384 ク ラ ブ に 20 万 人 の 会 員 が 登 録 さ れ 、 73,000 隻 を 走 ら せ て い る 。
な お 、地 域 別 の プ レ ジ ャ ー ボ ー ト の 数 を 見 る と( 図 表 Ⅲ -5 -8 )、明 ら か に 人
口 1,000 人 当 た り の 隻 数 は 西 日 本 、 特 に 瀬 戸 内 海 周 辺 に 多 い 。 し か し 、 ヨ ッ ト
や PWC に な る と 自 然 的 な 要 素 や 都 市 へ の 距 離 な ど も 加 わ り 、 滋 賀 県 や 神 奈 川 県
などが盛んである。
144
【海や環境の知識提供、海の利用マナーを指導する場】
以上の状況を見ると、瀬戸内海のマリンレジャーで一番盛んな分野は釣りで
あ る が 、そ こ で 同 じ 海 を 生 活 の 場 と し て い る 漁 業 と の 摩 擦 が 起 こ る こ と が 多 い 。
ま た は 、急 増 の PWC も 騒 音 や 運 転 マ ナ ー の 問 題 で ト ラ ブ ル を 起 こ す こ と が あ る 。
そこでまずレジャーの場としての「海の駅」を考えると、マリンレジャーを楽
しむ人々に現地や海についての知識を提供し、環境や他の利用者に対するマナ
ーについて指導する場所としての役割が期待される。
図 表 Ⅲ -5 -8
プ レ ジ ャ ー ボ ー ト の 隻 数 ( 人 口 1,000 人 当 り )
プレジャーボート
都道府県
ヨット
隻数
都道府県
PWC
(水上オートバイ)
隻数
都道府県
隻数
長崎県
15.2
滋賀県
0.6
滋賀県
3.3
愛媛県
12.8
神奈川県
0.3
香川県
2.1
香川県
12.3
和歌山県
0.3
岡山県
1.8
高知県
11.9
三重県
0.3
三重県
1.8
山口県
11.9
静岡県
0.2
愛知県
1.5
和歌山県
11.5
香川県
0.2
沖縄県
1.5
広島県
10.6
兵庫県
0.2
和歌山県
1.5
沖縄県
9.9
岡山県
0.2
京都府
1.3
岡山県
9.6
広島県
0.2
徳島県
1.3
島根県
9.4
鳥取県
0.2
静岡県
1.2
資料:日本小型船舶検査機構
【マリンレジャーの出発点】
なお、日本におけるマリンレジャー活動を一番制限しているのが、自由時間
の少なさである。日本の都会は海沿いに立地しながら、海岸線が工場や埋め立
て地に利用され、マリンレジャーのできるところが都市から遠い。半日以上の
まとまった余暇がなければマリンレジャーが楽しめないが、もともと少ない休
暇日数、不景気のなかで延びている残業、女性に主にかかっている子供や高齢
者の世話を考えると、まとまった余暇こそとりにくいのが現実である。なぜス
ポ ー ツ を し な い か と い う 問 い に 対 し て 、あ る 世 論 調 査 で は 50% が 「時 間 が な い か
ら 」と 答 え た 。
「海の駅」はもちろん、海から到着する旅人を中心に考えられるが、気軽に
アクセスできるマリンレジャーの出発点としても重要である。そこでは自動車
によるアクセスよりも、定期船などで結びつけた都市からのスムーズなアクセ
スが望ましい。
145
◆住民がかかわる場としての「海の駅」
【レジャー客と住民の出会いの場、住民を海に導く場】
マリンレジャーの低い参加率の背景には、もう一つの課題がある。それは地
元の住民が釣り以外のマリンレジャーをしないことで、そのため指導者も少な
く 、ま た マ リ ン レ ジ ャ ー に 対 す る 理 解 度 が 低 い 。「 海 の 駅 」の 役 割 は 、ヨ ッ ト や
ボートで訪れてくる客と住民の出会いの場を提供し、地元の住民にもマリンレ
ジャーへの入り口を作ることである。
【自然保全の発想を代表する場】
ここで瀬戸内海の二つの島で実施したアンケート調査の結果を紹介したい。
宮 島 町 と 生 口 島 の 瀬 戸 田 町 で 2000 年 に 住 民 に 対 す る ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 い 、観
光開発や今後の観光のあり方について調べた。観光のあり方について、今後力
を 入 れ る べ き 分 野 と し て ど ち ら の 町 で も 「自 然 を 活 か す 」と い う 希 望 が 第 一 位 を
占 め 、 二 位 の 「集 客 施 設 を 作 る 」と い う 答 え を 大 き く 上 回 っ て い た 。 ま た 、 海 の
自 然 や 景 色 の 具 体 的 な 活 か し 方 と し て 、 「自 然 保 全 を 中 心 に 」と い う 希 望 は 両 町
で 回 答 の 45% を 占 め 、 道 路 や 駐 車 場 、 ま た は 施 設 の 整 備 よ り も 自 然 保 護 が 重 視
さ れ て い る こ と が 分 か る ( 淺 野 敏 久 /フ ン ク ・ カ ロ リ ン ( 2001)「 瀬 戸 内 海 観 光
地 域 の 形 成 と 変 容 」総 合 地 誌 研 研 究 叢 書 36)。そ こ で 住 民 か ら み た「 海 の 駅 」を
考えると、新しい施設を整備するよりも、自然保全の発想を代表する場である
べきといえよう。
【住民参加の仕組みづくりを】
もちろん、このような期待は島により、町により異なるはずなので、計画段
階で住民の様々な意見を取り入れる仕組み、または住民とマリンレジャーの
様々な関係者が話し合い、事前に利用について意見交換できる仕組みが必要で
ある。
◆環境保護の場としての「海の駅」
【利用しなくなった建物や開発済みの土地を活用】
瀬戸内海の多島美は評価されてきているが、実際は景観だけでなく、環境の
面 で 様 々 な 問 題 を 抱 え て い る 。 例 え ば 、 自 然 海 岸 が 占 め る 割 合 は 全 国 の 55.2%
に 対 し て 瀬 戸 内 海 岸 線 で は わ ず か 37% で あ る 。 製 塩 業 、 造 船 業 、 海 運 業 な ど 、
従来の基盤産業のほとんどが沿岸域に集中し、そのため埋め立てが進められて
きた。戦後まもなく工業化が急速に進んだだけあって、現在は寂れた工場が海
岸沿いに並び、自然景観に馴染まないものが点在している。また、瀬戸内海の
島では過疎化が進んでいるが、人口密度は決して低くはない。人口密度の高さ
146
に伴う環境への影響も見逃せない。ビーチに散らかっているゴミは瀬戸内海を
通過する船が流したもの、周辺の川から流れてくるもの、そして住民が捨てた
ものからなっている。生活廃水の多くは処理されないまま海に流されている。
著者は実験的に、しまなみ海道沿いの自転車道を走り、2キロごとに写真を撮
っ た が 、 108 枚 の う ち 12 枚 に 工 場 が 写 っ て い た 。
一方、工業構造の変化により、塩田跡や造船場跡のような空き地の増加、ま
たは商店街の空き家やつぶれた観光施設など空いている建物の増加もみられ、
それらの新しい活用方法が必要とされている。国際的な観光開発論のなかで現
在注目をあびているコンセプトは持続可能な(サステイナブルな)観光開発で
あるが、物や土地の再利用がその原則の一つになっている。つまり、観光やレ
ジャーの場を作る際、新しい建物を建て、または今まで自然であった土地を開
発するのではなく、なにかの事情で利用しなくなった既存の建物や、すでに開
発されている土地を利用する原則である。経済構造が変更している瀬戸内海で
こ そ 、こ の よ う な 再 利 用 が 可 能 で あ り 、
「 海 の 駅 」は そ の 手 本 に な る こ と が 期 待
できる。
◆ネットワークの結節点としての「海の駅」
【船、自転車、バスを上手につなぐ】
環境の視点から考えると、移動がもたらす環境への影響も見逃せない。特に
自動車による交通は、騒音や排気ガスの問題のみでなく、駐車場のための土地
利用という課題も抱えており、または現在以上の架橋事業は経済的にも因難と
されている。さらに海の駅の本質から考えると、船を瀬戸内海の主な交通手段
として見直すことが重要である。ただし、船で移動すると、現地に着いてから
の移動が難しく、各島における公共交通機関の充実も同時に図らないといけな
い。自動車でなくても船やバス、または自転車で移動できれば、観光やレジャ
ー客だけでなく、運転しない高齢者の多い島民にも役に立つと思われる。
ドイツのバルチック海には、
100 年 も 前 か ら 画 家 や 小 説 家
などに人気のあった小さな島
が浮かんでいる。このヒッデ
ンザーという島には、昔から
自動車を入れないことになっ
ている。旧東ドイツの時代で
は、あまり観光客が訪れるこ
ヒッデンザー島の港の様子
とがなかったが、統一後、か
147
なり脚光を浴びるようになった。観光客はフェリー乗り場で自動車を置き、フ
ェリーに乗って島に渡る。そこで自転車を借りるか、馬車に乗るか、歩いて行
くかいずれかの手段を選ぶ。その結果、舗装されている道は一つもない村もあ
り、芝生の上に家が点々と立っている不思議な空間ができている。
このような自動車をなるべく避ける交通ネットワークには、船と自転車、船
とバスなどの組み合わせのなかで、
「 海 の 駅 」が 重 要 な 結 節 点 に な る こ と が 期 待
される。
( 広 島 大 学 総 合 科 学 部 / Dr. Carolin Funck)
農耕船を活用し、住民と来訪者、人と海とのふれあいの場を創出
148