次回の BOE 量的緩和はいつか

東岳証券株式会社
次回の BOE 量的緩和はいつか
2012 年 1 月 5 日
英中央銀行(BOE)は 2011 年 12 月 21 日に 12 月 7-8 日の金融政策委員会(MPC)
の議事録を発表した。議事録によると、資産買い入れプログラムの規模を 2,750 億ポンド
に維持するとともに、政策金利を過去最低の 0.50%に据え置くことを、9 対 0 の全会一致
で決定した。また、一部のメンバーは、11 月のインフレ報告で示されたリスクバランスから判
断すると、資産買い入れプログラムの一段の拡大がいずれ正当化される可能性があると主
張したが、欧州債務危機の不安定化を鑑み、今のところは追加緩和策の実施タイミング
ではないとの見方を示した。
MPC の声明は市場に一定の想像空間を創り上げ、一部のアナリストは当面英国経済
が低迷しており、BOE が早めに追加金融緩和策を打ち出す必要があるとの見方を示した
一方、インフレの脅威がまだ解除しない場合、急いで量的緩和策を実施すると、物価のさ
らなる上昇につながるほか、経済成長にマイナス影響を与えると指摘したアナリストもいる。
見解の相違は最近のポンドの値動きを見て分かること。図 1 で示されたように、直近の 2 ヶ
月間、ポンドドルはおおむね広いレンジ内での保ち合い展開となり、方向性に乏しい。また、
ユーロの軟化を受けてポンド対ユーロはほぼ上昇トレンドを維持した。
 低迷の英国経済現状
欧州債務危機の深刻化、世界経済の鈍化、及び英国が目下緊縮財政策を実施し
ていることを背景に、英景気回復の勢いは一段と弱まっている。2011 年第 3 四半期の実
質国内総生産(GDP)は第 2 四半期より 0.6%上昇し、4 四半期ぶりの高値を記録した
(図 2)。だが、需要データから見ると、個人消費と企業部門の設備投資が依然としてマイ
ナス成長となった一方、意図せざる在庫が増加しつつあることは、国内需要が低迷し、経
済成長のモメンタムが不足していることを示した。他に、欧州債務危機の拡大はユーロ圏
経済に厳しい影響を与えたため、商品とサービスの輸出増加は既に鈍化し始めた。
*当社の提供したすべての資料は信頼できると判明した情報に基づいて作成されていますが、その正確性、安全性を保証するものでは
ありません。投資などのご利用に際しては、お客様ご自身の判断でお願いいたします。
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参考資料:英国立統計局(ONS)
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参考資料:英国立統計局(ONS)
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製造業部門は引き続き回復のモメンタムが欠ける状態にある。英国最大の輸出先とし
てユーロ圏の経済が減速しつつあるため、英国の輸出は低迷状態にあり、英国製造業の
回復を極めて妨げる。11 月の英製造業購買担当者景気指数(PMI)は 47.6 となり、10
月より若干改善したものの、依然として分水嶺の 50 を下回った。また、10 月の英製造業
生産高は前年比 1.7%減尐し、約 2 年ぶりの安値を更新した。2012 年のユーロ圏経済が
さらに減速すると予想されているため、英国の輸出と製造業の回復に大きな好転が見られ
なく、反対に一段と悪化する恐れがある。
個人消費も伸び悩んだ。英小売売上高の前年比は 2011 年 1 月に一旦プラス 3.9%ま
で回復し、金融危機前の水準に接近したが、その後は一本調子で下落した。最新のデー
タによると、11 月の英小売売上高は前年比 0.7%上昇にとどまった。また、12 月の英 GFK
消費者信頼感調査はマイナス 33 まで低下し、2 年ぶりの安値となった。その上、緊縮財政
策の実施に伴い、政府部門が積極的に人員を削減し、英失業率が既に 3 ヶ月連続で
5.0%に高止まりしている。これも英国の国内需要の増加を大きく抑制している。
2008 年の世界的な金融危機発生前に、英国内の住宅価格が大幅に上伸し、直接
的に住宅ローンの急伸につながり、家計債務負担もつられて増加した。現時点の住宅価
格は 2007 年の最高水準より 20%低下した。家計総債務と可処分所得の比率から見ると、
2011 年第 2 四半期は 1.45 倍と、2007 年の 1.61 倍よりやや下落したものの、同じように
住宅価格の暴騰を経たスペインと米国に比べ、依然として比較的高い水準に止まっている。
従って、マクロ的に見ると、家計のバランスシート調整は引き続き国内需要を圧迫するだろ
う。
 英国の緊縮財政策
今後の英国経済を展望する際には、BOE の金融政策動向を重点的に注目するだけ
ではなく、英国政府が当面実施している緊縮財政策にも注意を向ける必要がある。現在
では、英国の財政赤字はまだ財務的に弱いとされる欧州連合(EU)加盟の 5 カ国
(PIIGS)のような高比率に達していないが、EU 諸国の中でかなり高いものである。2010 年
の英国財政赤字は GDP 比で 10.3%となり、ドイツの 4.3%とフランスの 7.1%を遥かに上回
った。当面英国は 2011 年と 2012 年の財政赤字対 GDP 比の目標をそれぞれ 7.5%、
5.5%に設定し、中期歳出見通しで 2014 年は 3%以下にコントロールする意向を示した。
しかし、英国の赤字削減目標が高過ぎるとの見方が広がっており、目標を達成するために、
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英政府は今後の数年間に大幅に財政赤字を削減しなければならない。それで、英国政
府は第二次大戦以降最大規模、史上最も「過酷な」緊縮財政策の序幕を切って落とし
た。
参考資料:EU 統計局(Eurostat)
英国のオズボーン財務相は 2010 年 10 月 20 日、財政再建のため各省庁の歳出を最
大で 40%減らす「歳出見直し」を公表し、正式に緊縮財政策を実施した。今回の「歳出
見直し」では、2014 年度までの 4 年間で計 810 億ポンドの一般歳出を削減し、その中で
福祉支出を 180 億ポンド削減する。公共部門で約 50 万人の雇用を削減し、総従業員の
10 分の 1 を占める。国民保険料納付の比率を 3%引き上げ、2020 年までに年金の受給
開始年齢を 65 歳から 66 歳に引き上げ、これにより年間 50 億ポンドの経費節減ができる
見込みである。また、収入増加のため、政府は付加価値税、売却益税を引き上げたほか、
年間 20 億ポンド規模の銀行新税を 2011 年から導入する。オズボーン財務相は報告で、
「新政権発足前の 2009-2010 年度の財政赤字は 1,547 億ポンドに達し、史上最高値を
記録し、金利だけでも毎年 430 億ポンドを支払う、即ち 1 日あたり約 1.2 億ポンドである」
と指摘した。故に、財政健全化と持続可能な経済成長を実現するため、悪化しつつある
財政赤字問題を解決することが一番大切なことである。
その報告書の詳細を見れば、財政赤字への対応として英政府は収入増加や支出削
減の両方に取り組み、特に支出削減を重要視している。その計画が順調に進めば、2014
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—2015 年の財政赤字は 370 億ポンドまで削減され、その次の年に財政赤字をゼロにするこ
とが可能である。しかし、その計画は理想の姿を描いただけ、具体的な措置は理論的なも
のに過ぎず、目標を達成できるかどうかにはまだ不確実性が高いと指摘したアナリストがい
る。一部の国民は、その計画は低所得者層に対して不公平であるし、再び英国経済を景
気後退に陥らせるリスクがあると責めた。
実には、英国経済には既に二番底の最初の兆しが現れている。付加価値税の引き上
げにより、消費は抑制され、製造業やサービス業の縮小につながる。政府部門のリストラを
背景に、失業率が高止まりしており、社会の揺れ動く兆候も出た。2011 年 8 月にロンドン
で起きた騒動は、外側から見れば偶然に起きたが、その内面にたち入って見れば、英国経
済の現状に対する中低所得層の不満が漏れたものだと考えられる。
英政府の財政責任局(OBR)は 2011 年 11 月 29 日に公表した秋季経済予測では、
向こう 3 年の景気成長、債務問題や失業状況などが全部楽観視できないとのことを明ら
かにした。欧州が債務危機から脱出したとの仮定に基づき、2011 年の英国内総生産
(GDP)の伸び率は 0.9%になると予想され、3 月の予想は 1.7%であった。また、2012 年の
景気成長見通しは 0.7%、2013 年は 2.1%、3 月にそれぞれ 2.5%、2.9%と予想された。
OBR はまた、2012 年の失業者数は 280 万人に上り、失業率は 8.7%に達するとの見通し
を示した。そのうちで、公共機関の失業者は 71 万人増加すると予想され、従来予想の 40
万人よりおよそ倍増することになるという。ファンダメンタルズに明らかなマイナス材料があるに
も関わらず、厳しい財政緊縮策を進める英政府の決意はまったく動揺していない。オズボ
ーン財務相は秋季経済予測を発表した際には、向こう 5 年英国は財政緊縮策を徹底し、
公的機関の職員給与の引き上げ抑制、優遇税制撤廃、銀行の借り入れ金利の引き上
げなどが盛り込まれていると明示した。
 追加量的緩和策の繰り上げの可能性
英政府の財政責任局(OBR)は GDP 成長率見通しを下方修正したにもかかわらず、
国内外の経済環境から見ると、まだ楽観視し過ぎていると見られる。ユーロ圏の現状は英
国景気成長にとって最大の脅威だと言われる。欧州債務危機収束に包括的な解決策を
打ち出すどころか、更に深刻化する恐れがある。それと伴い、危機が自国に飛び火すること
を防ぐ為に、各国は軒並み緊縮財政に転じた現在、ユーロ圏向けの輸出は引き続き減尐
する一方だと予想できる。2010 年 6 月に英政府が発表した緊急予算案の多くの赤字削
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減措置は既に 2011 年初から相次いで実施してきたものの、その効果の出遅れ感が強いた
め、実体経済に対する影響は 2012 年から次第に露呈することとなる。
英政府は尐なくとも財政緊縮策を 5 年継続するとの姿を示したものの、景気低迷を無
視することができないだろう。保守党と自由民主党の連立政権は保守主義が強く、「小さ
な政府」路線を採る意向に傾いており、財政刺激策を避ける立場を選んだ。しかし、景気
状況が極めて悪化した場合、緊縮財政措置を緩めることを余儀なくされ、自らの景気策を
否定することになってしまうことになると考えられる。目下、英政府には、英中銀の金融政
策が景気回復をある程度下支えすることを願うしかない。英中銀は追加量的緩和策を打
ち出すかどうかは、インフレ率の変化に次第である。
英 11 月消費者株価指数(CPI)の前年比は 9 月に続き、再度 5.2%に達し、金融危
機以来の高水準を記録した。将来のインフレ率の変化という肝心な問題について、英中
銀は 11 月 16 日に公表した第 3 四半期インフレレポートで、2012 年に大幅に低下し、下
半期は目標 2%の下方まで戻り、2013 年初に 1.5%以下の低水準になると予測した。具
体的なデータから見れば、この 1 年余りの物価上昇は、電気、ガスや燃料価格の大幅値
上げ、及び統計上の残存効果などの一時的な要素が一部の原因となったため、2012 年
には、英中銀が予想したインフレ率の大幅低下を実現する可能性がある。
参考資料:英国立統計局(ONS)
目下、財政緊縮策のほか、内需や輸出の軟調が英国経済を抑制する要因である。
世界的な景気減速や財政緊縮策の実施が英国経済に及ぼすマイナスの影響が現れたら、
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ありません。投資などのご利用に際しては、お客様ご自身の判断でお願いいたします。
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早いうちに金融政策を調整して実体経済を安定させなければ、二番底入りを避け、赤字
削減計画を順調に進めることが出来ない。当面、インフレ率の下振れる可能性が高まって
おり、追加量的緩和策の良いチャンスと見なせる。英中銀は早ければ 2012 年 2 月から
QE3(量的金融緩和第 3 弾)打ち出し、資産買い入れ規模を現行の 2,750 億ポンドから
更に 500-750 億ポンド拡大すると見込んでいる。追加量的緩和策による為替相場への影
響と言えば、段階的に行われることから、短期的にポンドは圧迫され下落するものの、中期
的に見れば、英国経済の持ち直し、ひいては回復軌道に乗せることにポジティブな影響を
与えるため、ポンドの買い材料になると思われる。赤字削減への道のりは長く険しいものに
なるに違いないが、目標に辿り着いたら、英国経済は健康で活気に満ちた新たな姿を見
せるだろう。
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