ブレードワークについて 1.ブレードワークと競技としてのローイング

ブレードワークについて
(2005 年刊行の “Rowing Faster” より抜粋)
マイク・スプラクレン*
クルーをコーチしているときに、あるいはただ観察しているだけのときに、私がまず気が
つくのはブレードの動きである。それは、ブレードワークが技術の巧拙を如実に現している
からに他ならないからである。ボートはブレードによって推進されるものであるから、ブレ
ードコントロールというのが極めて重要な技術になる。ほとんどの技術的問題にブレードが
からんでいるのに、ブレードコントロールが強みであるという選手はめったにいない。すで
に身についた体の動きを変えるというのは円熟した選手にとって容易なことではないし、新
たなブレードのテクニックを学ぶということも例外ではない。私が見た中で最高のブレード
コントロールは、1987 年、1988 年当時にアンドリュー・ホームズと組んで舵なしペアを漕
いだサー・スティーブン・レッドグレーブである。アンディも技術的には非常に優れており、
あの二人がブレードワークを通して創り出した均一性は、とてつもなく強力なコンビを産み
出したものだ。
ブレードワークは、いろいろな観点においてパフォーマンスに影響を与える。一例を示そ
う。エイトがスムーズに走らず、クルーはボートのバランスが悪いと訴えていた。バランス
修正のコーチングにもかかわらず、改善が見られなかった。コーチがリギングを点検したと
ころ、一箇所のクラッチが基準より 25 ミリ高いことが分かった。選手がコーチと相談するこ
となく、クラッチ高さを変更していたのだ。クルーはブレードの深さを適切にする練習をし
ていたのだが、その選手が自分のブレードが水に切り込まないようになるだろうと思ってク
ラッチ高さを上げていたのだ。
生憎なことに、クラッチ高さを上げてもその選手のオールを引く手の動き方が変わったわ
けではない。クラッチを 25 ミリ上げても、ブレードはやっぱり切り込んでいた。1箇所のク
ラッチ高さを上げたことが他のクラッチにも影響を与えていた。反対舷のクラッチが持ち上
げられ、同じサイドのクラッチは押し下げられたのである。クラッチが下がった方の選手は
ブレードを返す余裕を得ようとリガーとは反対側に体を傾けようとする。一方の側の選手が
体を傾けてボートのバランスを得ようとすると、今度は反対側の選手が反対方向に体を傾け
る。こんなバランスの綱引きではボートを水平に保つことが出来ず、両サイド共にどうしよ
うもない状態になってしまう。コーチがリガーを調整し直したところ、ボートはスムーズに
走り始め、選手たちはブレードワークに専念できるようになった。
良いブレードワークというのは、両手を真っ直ぐに引くことの帰結である。リギングを変
更したところで、直線上を引くという動きまで修正してくれるものではない。上の例では、
クラッチ高さを上げたことはブレードの切り込み防止に役立たなかっただけではなく、まっ
たく新たな問題をいろいろ引き起こす結果になったのである。
1.ブレードワークと競技としてのローイング
ローイングとは、力と持久力の運動である。選手の成績のレベルは、身体的な力と、その
力を維持する持久力に依存する。選手が力を伝える効率は、技術レベル、特にブレードコン
トロールによる。ブレードワークは、競技としてのローイングにおいておそらくもっとも重
要な要素である。
ローイングの初期年代においては、コーチたちはブレードワークを至上のものと考えてい
たのだが、今日的標準では技術にあまり力点がおかれていないような印象を受ける。標準が
*
イギリス、カナダ、アメリカのナショナルチームのコーチを歴任
絶えず向上し、ほんのわずかな差で勝敗が分かれる競技界においてこの死活的に重要な技術
が軽視されていることは驚くべきことである。勝利にはいろいろな要素がからんでいるが、
ブレードワークが極めて重要であることに変わりはない。
(a) 艇速に影響する要素
艇速を決定する三つの要素は、一分間あたりのストローク数を示すレート、オールの引き
のスピードを乗ぜられるパワー、そしてブレードが水中にあるときにボートを進める距離で
表される長さである。ブレードワークは、これら三つにすべて影響する。
ストロークレートが高ければ高いほど、長さとパワーが維持される限りにおいて、ボート
はより速く進む。高いストロークレートによって艇速は最大限になるものであるし、比較的
短時間のうちにレートを上げることはできる。しかし、レートが上がると、ブレードコント
ロールはより難しくなり、ブレードコントロールが悪くなると、長さもパワーも悪化する。
漕手のパワーが大きければ大きいほど、漕手は水中でより速くブレードを引くことができ
る。パワーは各部の筋肉をうまく使って発揮するものであるが、漕手がそのパワーを伝える
効率はブレードが水中を引く方向に依存する。
ストロークが長ければ長いほど、パワーが一貫している限りにおいて、ボートは一本毎に
より遠くまで進む。長さは、フォワードを遠くまで伸ばし、ブレードで水をつかんでから抜
くまでの距離によって得られる。
オールは、一次および二次のレバーとなる。一次のレバーとしては、クラッチのピンが支
点になり、水が荷重になる。二次のレバーとしては、水中になるブレードが支点になり、ボ
ートすなわちピンが荷重になる。ストロークというものを考えるときに、ブレードが水中を
移動すると考えることができるし、あるいはブレードは水中に静止してボートを押し出して
いると考えることもできる。実際は、ブレードは「スリップ」という現象を起こして短い距
離を移動するのであるが。
第1図(※平らに引いているイラスト、略)に効率的なブレードの通過経路を示す。ブレ
ードはさっと水中に入り、一定の深さで加速する。その深さは、ブレード部分が水中にあり、
オールのシャフト部分が水中につかってはいけない。ブレードはフィニッシュですぱっと水
から抜かれ、フェザーして、一定の高さでフォワードして、次のストロークに備える。
第2図(※山なりの引きとフォワードのイラスト、略)に効率の悪いブレードの通過経路
を示す。フォワードの途中ではブレードが水面に近過ぎ、ブレードをスクエアにするところ
では水面から離れすぎ、キャッチではオールが戻って漕ぎの長さを損している。水中の引き
は、中ほどでブレードが沈みこみ過ぎる一方、フィニッシュで上向きの動きをしているため、
推進方向の力、水のつかみ、および長さの効果を失う結果になっている。ぎくしゃくしたリ
リースは艇の速度を落とすことになる。
(b)
ストロークの始め
ストロークは、ブレードが水をつかんだところから始まる。
「キャッチ」と呼ばれるこの水
のつかみは、仮想の木の杭にブレードをかませた状態で、そのレバーを使ってボートを進め
るものと考えて良い。長いストロークのためにはフォワードでの前方への伸び出しが必要だ
が、同様に重要なのは正確にブレードに水をつかませることである。水は圧縮しないもので
あるから、ボートを進めようとするブレードの適切な通過経路上の水中速度が速ければ速い
ほど、ブレードはより素早く、そしてより強力に水をつかまなければならないし、その結果、
ストロークもより長くなる。
ブレードで素早く水をつかむためには脚を使う。ブレードが水中にまだロックしていない
のにストレッチャーを蹴ると艇速を落とすはめになってしまうのだが、効率的なキャッチを
行う力を持っているのは両脚しかない。漕手はキャッチの前にわずかながら脚蹴りを消費し
ているが、そのタイミングを正確にすることで損失を最小限に抑え、ストロークに使える十
2
分な量の脚蹴りを保持することができる。幾分の伸び出しの損失は不可避であるが、繰り返
しになるが、良いタイミングでそれを補える。
(c)
ブレードのスプラッシュ
ブレードが水に入るときのスプラッシュは、ストロークの効率に関するフィードバック情
報を与える。小さいスプラッシュはタイミングの良いキャッチの証左になるが、クルーが全
力で、しかも高いレートで漕いでいるときにはスプラッシュは大きくなるのは当然である。
ブレードの前面だけに上がるスプラッシュ(前スプラッシュ)は、ストロークが短くなって
いることを示すし、背面だけに上がるスプラッシュ(後スプラッシュ)は、キャッチの動作
が遅く、やはりストロークが短くなる。両例とも、長さとパワーを損失していることを示し
ている。
効率的なキャッチはブレードの両側に小さくスプラッシュが上がるものであるが、前スプ
ラッシュの方が後スプラッシュよりも多少大きくなる。ブレードの水中への入りが正確にな
ればなるほど、ストローク全体がより効率的になる。いったんブレードが水中である経路上
を進み始めた後に、漕手がその方向を修正しようとすればストロークの効率を損なうことに
なる。
(d)
ストロークの中盤
レース用のボートは軽量であるから、ぐいとしたキャッチに対して瞬時に反応するもので
あり、ブレードは最大推進力を維持するために加速を続けなければならない。それを達成す
る最善の方法は、ブレードが水につかり、シャフトが水にもぐらない状態で、キャッチから
フィニッシュまで真っ直ぐに引くことである。ブレードが上下に動いたり、ある角度で切り
込んだりするようでは、幾分力が失われる。ブレードがあまりに深くなって、シャフトで水
を切るようでは、やはり効率が損なわれる。オールは、ボートを荷重とし、ブレードを支点
とする 2 次レバーであるから、水中に没しているシャフトはオールの動きを阻害するもので
しかない。
ブレードを深くすることはスリップを減少させることにつながるという向きもあるが、利
点よりも不利点の方がはるかに大きい。その不利点には、ストロークにより多くの時間がか
かること、経路のずれ、荒っぽい抜き、方向成分の力のロス、シャフトで水を切るようにな
ること、などがある。
(e)
フィニッシュ
フィニッシュでのブレードのパワーで艇速が決まる。ストロークのどの部分も重要だが、
ボートはストロークの終わりにブレードがボートを押し出す速度以上には速くならない。最
後まで水中にあって、なお加速しているブレードが、長いストロークと強い推進力に貢献す
る。ブレードを水中に保持する時間が長ければ長いほど、より大きい力をブレードは産み出
す。そして、その力はすべてのブレードがぴたっと合って引かれているときに最大になる。
艇速は、ブレードが水からきれいにすぱっと抜かれてボートの前進がまったく阻害されて
いないときに最大になる。ブレードが正しい経路上を引かれているときには、水中に空隙が
できて抜き易くなる。水中でブレードを引きずるようでは艇速は落ちる。
よくありがちな2つのエラーは、手前でフィニッシュしてしまうことと、ストロークの終
了前にブレードが水から浮き上がって表面をひっかくだけになってしまうことである。
(f)
泡
ブレードが水から離れるときに水が激しく乱される。この乱れを「泡」と言い、水が激し
く渦巻いている。ブレードの力が大きければ大きいほど、それによって形成される「泡」は
より激しくなり、長時間その跡が残る。泡を形成する水の大きさ、深さ、力強さは、ストロ
3
ークのパワーと正確さを目に見える形で示す。深すぎるブレードの泡は小さく、シャフト部
が水面を破ったことによる乱れた跡が残る。フィニッシュ時に水から浮き出ていたブレード
は、泡の後部にふわふわと白いあぶくを作ることになるが、これを普通ウォッシュアウトと
言う。ブレードは、乱されていない水の中を進まなければいけないし、ブレードが水を離れ
るまでその前面に白いあぶくができてはいけない。フィニッシュでブレードが引きずり出さ
れた場合には、白いあぶくが混じった泡ができる。時として、クルー全体の泡は、荒っぽい
ブレードの抜きにより白いあぶくがつながった形になる。
(g)
リカバリー
ストロークとストロークの間の時間をリカバリーと言う。それは、ブレードが水から離れ
たときに始まり、次のストロークのために水に入った時点で終了する。リカバリーの間、漕
手はブレードをフェザーして風の抵抗を減じ、ブレードを使ってボートのバランスをとる。
漕手は、ブレードを立てるためにその位置をさらに高くするのではなく、その高さのままで
ブレードを立てることができるような一定の高さを保持する。次のストロークの備えとして、
漕手はブレードを立てて水面に近づけ、ブレードが素早く水中に入れるようにする。
よく見られる間違いは、ブレードをあまりに水面に近づけすぎて、自然な回転でオールを
立てる動きを阻害することである。漕手各人がまったく同一の動きをすることはあり得ず、
そのような違いを許容するものでなければならない。ブレードが水をこする状態では漕手の
動きの自由度は限定され、その結果、緊張が生ずる。また、ブレードが水に近過ぎる場合、
本来なら次のストロークに備えてブレードが水面に近づかなければいけないときに、オール
を立てようとして逆に水面から離れてしまう。水に入る直前にブレードが上がってしまって
は、ブレードのコントロールは難しくなり、ストロークが短くなる上に、ボートのバランス
を崩してしまう。
2.姿勢と動き
艇速は、パワーを産み出す身体的な力と、そのパワーを持続する持久力に依存する。パフ
ォーマンスを極大化するために、漕手は上体をしっかりと真っ直ぐに保持した良い姿勢をと
り、両腕・肩はリラックスさせて、リズミカルに漕ぐことによって、体に回復の機会を与え
る。ストロークは2つのフェーズから成る。つまり、水中でブレード引くパワーフェーズと、
体を休めることができるリカバリーフェーズである。
(a) パワーフェーズ
パワーフェーズは、ブレードを水中に両脚で蹴って押し進めるところから始まる。上体を
しっかりと保持して、両腕は真っ直ぐに伸ばした状態でストレッチャーを押すようにして脚
蹴りを入れる。脚蹴りに引き続いて上体を腰骨を中心にして後方に倒し、さらに両腕でオー
ルのハンドルを胸に引き寄せることによりストロークが終了する。漕手は、適切な姿勢で両
脚とブレードを連結することによって最大のパワーを達成する。つまり、上体はレバーの役
割を果たし、体の動きはできるだけ水平に保持して、もっとも強力な筋肉を最初に働かせる
のである。
(b)
スイープ
両手の間隔を 25cm から 38cm ほどに開いてオールを保持する。片方の手は、レバー効率
がもっとも高くなるハンドルの端を持つ。ストロークの間、両手でハンドルを引くのだが、
外側の手の主な役割は水中でブレードを引くことであり、内側の手はブレードの経路をコン
トロールする。外側の手は指でオールを保持するが、内側の手は手のひら近くでオールを保
持して、フェザーに際してはハンドルを指の方に転がすようにする。
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(c)
スカル
スカルの動きもスイープと基本的に同じである。違いは、スカル漕手はそれぞれの手で2
本のブレードを同時にコントロールしなければならないことだ。両手は、パワーフェーズお
よびリカバリーフェーズの間に交差することになる。ボートを水平に保つために一方の手が
他方の手よりも先行する必要がある。両ハンドルがそれぞれの水平面上を移動できるように
するために両手の間に上下差をもうける。スイープ漕手の内側の手がオールを保持する要領
と同様に、ストロークの間、スカルハンドルは手のひら近くで保持し、リカバリーの間に指
の方に転がすようにする。
よく見られる間違いは、ブレードをフェザーしようとして手首を下げることである。それ
ではブレードが十分に水面から離れることができず、腕と肩に余計な緊張を強いることにな
る。
(d) リカバリーフェーズ
リカバリーは、バックストップで上体はしっかりと真っ直ぐに保持し、かつ両腕・両肩が
リラックスした良い姿勢から始まる。両手は下方へ弧を描くように移動して、ブレードが水
から離れたら速やかにフェザーする。腰骨を中心として上体を前方に倒し、それがいっぱい
に達したところでシートがバックストップから離れてフロントストップへと移動する。フロ
ントストップへの移動間、漕手は体をリラックスさせて回復させ、次のストロークに備える。
わずかなものであるが、この休息がレース全体を通して漕手がフルパワーを維持できるよう
になる。
3.ストロークの長さ
長さは、ブレードコントロールと体をいっぱいに伸ばすことによって得られる。体が、バ
ックストップから前方に伸び出すリーチ(距離)によってフォワードの長さが決まる。この
リーチは、両手が胸から前方に離れていった後に上体を腰骨から旋回させるところから始ま
る。上体の旋回がいっぱいに達したところから、その姿勢を変えることなくフロントストッ
プへと移動する。フォワードいっぱいの位置では、両脛は垂直になり、頭は両膝の上方にあ
ってしっかり前方を見据え、背中は前かがみにならずまっすぐにして、両腕はまっすぐに伸
ばし、胸は両膝の間にある。漕手はリラックスして、獲物を狙って跳びかかろうとする猫の
ように構える。
両手は、両脚がストレッチャーを蹴っているときにブレードを水中でガイドする。上体は、
ブレードがしっかり水をとらえるまでそのままの姿勢を保持し、両腕がフィニッシュのため
に引き寄せられる前に後方に倒す。
よく見られる間違いは、シートがバックストップを離れた後にも上体を倒しこんでフォワ
ードのリーチを得ようとすることである。シートがすでにフロントストップにあるのにさら
に長さを得ようとして前方に伸び出すのは特に有害である。フロントストップでの望ましく
ない動きはストロークの正確さを損なうものであるから、漕手はストローク開始前にすべて
用意を整えておかなければならない。
リギングは、ストローク長さに影響する。ストローク長を大きくするには、スパン(すな
わち、艇中心線からピンまでの距離)を小さくし、オールのアウトボード長さを大きくすれ
ばよい。逆に、ストローク長さを小さくするにはスパンを大きくして、アウトボード長さを
小さくする。スパンの変更は、アウトボード長さの変更よりも2倍半もの効果で荷重に影響
を与える。スパンとアウトボード長さ変更によりストローク長さを大きくすることは漕手に
より大きな荷重を負荷することになるので、オール長さとスパンの間で適切なバランスを図
らなければならない。オールのインボード長さを変更することもストローク長さに影響する。
だが、こうした変更を加えるにしても、オーバーラップはスイープで 30cm、スカルで 19~
21cm をあまりはずれてはいけない。
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艇上の漕手の位置はストロークが描く弧、および多少ながらストローク長さに影響する。
ブレードは、45 度から 135 度の間を移動するのが最も効率的である。ブレードが 45 度を超
えたところから引き始めても、またフィニッシュで上体が 130 度を超えてオールを引き寄せ
ることを阻害するようになってからはストロークの効率が落ちる。これら2つの要素がスト
ロークの長さをコントロールする。ほとんどのクルーはこれらの角度以上で漕ぐことはでき
ない。従って、フォワードでは 45 度、フィニッシュでは 130 度というのが目標とする長さに
ちょうど良い。
クルーの完全な調和のために、各メンバーのオールの角度はストロークの間ずっと同じで
なければならない。フィニッシュでの姿勢がオールを引き寄せる長さを規定するから、漕手
たちはバックストップで同じ姿勢をとる。クルーは、バックストップでのシートを、ワーク
を通るラインから同じ距離にそろえることによって達成する。ワークを通るラインからバッ
クストップ位置にあるシートの中央までの距離は、58cm を推奨する。漕手は、脚の長さに適
合するように足位置を調整する。
4. ブレード形状
現代のハチェット(ビッグブレード)の主要な利点は、グリップが最大になるポイントで
あるブレードの中心が水に近く、素早いエントリーに適していることである。あの形状は、
ブレードを水面下に保ちながらシャフトを水面上に保つことができることである。うちのブ
レード形状はスリップが少ないというオールメーカーのうたい文句は注意してかかった方が
よい。本来、スリップが少ないと荷重が大きくなる。荷重は、漕手の力、技術、効率的なリ
ズムをきざむ能力などに基づいたものでなければならない。正しい荷重は、スパン、オール
全長、ブレード形状などを適切にバランスさせて決定される。
5. ピッチ角
水中を通るブレードの経路は、鉛直線に対するブレードの角度(これをピッチ角という)
に影響される。理論的には、ブレードはゼロピッチがもっとも効率的である。しかし、実際
には、ゼロピッチではボートのバランスをとるのが難しい。ブレードのピッチ角がボートを
安定させて、漕手が他の技術面に集中できるようにする。
ピッチは、オールでも、クラッチでも、またピンでも設定できる。しかし、ピンを垂直に
してクラッチで設定するのが、漕手にとってブレードをコントロールし易い。ピンが前傾あ
るいは外傾していると、ストロークの始めにブレードのピッチ角が大きくなるのに、フィニ
ッシュでは小さくなってしまう。ピンが後傾あるいは内傾していると、その逆の効果が生じ
る。
艇が左右に傾いたり、前後に浮き沈みしたりするにつれて、ピンのピッチ角は常時変化す
る。艇がたとえばストロークサイドに傾くと、ストロークサイドのピンは外傾し、バウサイ
ドのピンは内傾する。艇がバウサイドに傾けば反対のことが起きる。ブレードのピッチ角が
プラス側にある限り、こうした艇の動きはパフォーマンスにほとんど影響しない。しかし、
ピッチ角がマイナス側になるとブレードコントロールが難しくなる。ブレードのピッチ角が
最低4度あれば、こうした変動があってもピッチ角をプラス側に維持できる。ピンは垂直に
して、クラッチのプラグで 4 度に設定すべきである。ピッチ角をクラッチで設定する方が、
オールで設定するよりもブレードをしっかりとロックすることができる。
6. ワーク高さ
ブレードコントロールは、それを操作する者の手の内にあるわけだが、ワーク高さによっ
てその難易度に違いが生じる。クラッチは、フィニッシュまでオールを強く引ききり、きれ
いに水から引き抜くことができる高さでなければならない。その高さが高すぎると、ブレー
6
ドを水中に保持するのが困難になり、低すぎるとブレードをきれいに抜くことが困難になる。
目安であるが、平均体重 86kg の大学クルーであれば、シートからクラッチまでの高さは 16cm
から 18cm くらいのものであろう。バックストップでブレードがちょうど水にもぐっている
とき、外側の前腕は艇と平行になり、その手は下の肋骨あたりに位置するようでなければな
らない。
7. ブレードワークの練習
ブレードワーク向上のための練習にもっとも相応しいものを挙げる。
(a) キャッチ角1
フォワードポジションをとる。姿勢を正しくし、脛は垂直、胸は両膝の間にあるように
する。ブレードは立てて、水に入れておく。両手を繰り返し上げ下げして、ブレードを水
から出し入れする。この間、腕は真っ直ぐに保ち、肩を支点にして上下する。この動きを
数回繰り返す。最初はゆっくり、次第に速くして、それ以上ではコントロールできなくな
るまで速くする。この練習は、適切なブレードの入りを習得するための手の動きを教える
ものである。
(b) キャッチ角2
上述の練習を踏まえたものであるが、ブレードが水中にあるときの手の高さを覚えてお
く。両手がその位置を通るように 10 本漕ぐ。最初の数本は、ストロークの長さが長くなっ
たことで重く感じられることであろう。艇速が上がるにつれて、ブレードの前方への伸び
出しがきちんとできず幾分短くなるという以前の状態に戻ってしまうことにより、重い感
じは次第に薄れる。目的は、10 本きっちりと正しい漕ぎを持続させることである。この際、
重い感じがもう一つ伸び出していることのよい目安になる。ブレードの前方への伸び出し
が少なくなり始めることでストロークが次第に軽くなって来るまでに、重く感じられたス
トロークが何本あったか数える。
(c) 角度とキャッチの入りのスピード
長さを最大限確保するために、ブレードはできるだけ垂直に近く水に入らなければなら
ない。動作を素早く行って水をつかみ、直線的に引くことで力を最大限発揮する。この練
習は、こうした動きを理解するためのものである。
キャッチ角1で示したフォワード姿勢をとり、ブレードを立てたまま、ストロークの最
初の 50cm ほどを数本漕ぐ。腕は真っ直ぐのまま、肩を使ってブレードを水中のストロー
ク径路上に保持する。上体はその姿勢を崩さず、脚蹴りでブレードを引く。
(d) 素早いキャッチ1
この練習は、素早いキャッチの価値を知ってもらうためのものである。まず、ブレード
を通常より高い位置からキャッチする。ブレードは空中でスピードを得て、引きの最初が
速くなり、艇速が上がる。これを異なった引きの力、レートで試してみる。熟練した漕手
は、そんなに何本も動きを変化させることに困難を感じてくるはずで、いずれブレードの
高さは小さくなって落ち着くことになる。しかし、素早いキャッチの感覚は残るであろう。
(e)
素早いキャッチ2
ブレードの入りの素早さと正確さは、短いスライド長さでの練習で向上できる技術であ
る。ブレードは、水中を移動するときに弧を描く。フルストロークを漕ぐときに、ブレー
ドは進行方向を横切る形で弧を描き始める。このとき、水をつかむのは比較的容易である。
ブレードがさらに進んで 90 度の位置までくると、艇の進行方向とは正反対の方向に力をか
けるようになる。このときが、艇速に対してブレードがより速く移動しているストローク
の部分と言える。フォワードを小さくして漕ぐと、ブレードはストローク速度が高いとこ
7
ろで水に入るわけで、水をつかむためにはキャッチを素早くしないといけなくなる。スラ
イド長さを短くすることによりストローク長さを減じると、ブレードが水をつかむために
は脚蹴りを素早くせざるを得なくなる。
姿勢を正しくし、上体を後方に約 15 度傾けたフィニッシュの姿勢から始める。腕漕ぎを
するが、この際、ブレードをストロークの最初に水中に沈めフィニッシュまで水平に引く
ことに注意を払う。ストロークよりもリカバリーを長くして、リズムを保つ。この段階で
は、腕の弱さを体得してもらう。
次に上体の動きを加える。上体を腰骨から旋回させてストロークに長さとパワーを加え
る。ブレードが水をつかむとき、腕は真っ直ぐに保ったままにして、それからフィニッシ
ュへと加速する。上体が腰骨から旋回するときに、レバーとしての上体のパワーを感じる
ことであろう。
最後の段階として、4 分の 1 スライドを使って脚蹴りを加える。脚はこの位置から素早
く動くことができて、ストロークをきびきびしたものにする。上体の姿勢はしっかりと保
って脚蹴りをブレードに伝え、その後に後方に倒してフィニッシュでの引き付けを補助す
る。スライド量を 2 分の1、4 分の 3、そしてフルスライドに増加させて行く。
(f) 一定の深さの保持
効率的なブレードは、水中を一定の深さで直線経路を進む。ブレードが切り込むと進行
方向への力を失い、シャフトが抵抗になる。
この練習では、まず艇が静止状態で、引きの最初、中間、そして終わりでブレードがち
ょうど水に入っている状態を確かめる。次いで、ブレードが正しい深さにある状態から漕
ぐのだが、この際に徐々に引きの強さを強くして、ついには漕手がブレード深さをコント
ロールできなくなるまで強くする。この練習を頻繁に繰り返すことにより、しばらくする
と全力で、高いレートで漕いでもゆったりとブレードをコントロールできるようになる。
(g) フィニッシュの強化
フィニッシュにおけるブレードのスピードが艇の速度を決定する。ブレードに加速をつ
ける良い方法は、フィニッシュ位置から区分してストロークを作り上げていくことである。
ライトパドルで漕ぎ始める。10 本毎のインターバルでストロークの最後の 15cm のとこ
ろの手のスピードを上げる。次第に、最後の 30cm、60cm、120cm、というようにフィニ
ッシュの引きを速め、ついにはフルストロークでもフィニッシュが強くなるようにする。
(h) 艇のバランス
リカバリーの際、ブレードで艇のバランスをとる。バランスをとる練習の一つとして、
コックスあるいはコーチの号令で、いろいろなリカバリー位置でいったん静止する方法が
ある。まず、ブレードが 90 度の位置にあり、シートがバックストップにあるときに静止す
ることから始める。次いで、4 分の 3 スライド位置で静止する。これらの位置でバランス
が修得できたら、リカバリーの他の位置でも静止してみる。
(i)
リズムと(引きとリカバリーの)バランス
ストロークに、速い動きと遅い動きを取り入れ、そのリズムで両者の違いを強調する。
コーチによってリズムについての見解は異なるが、ブレードが水中にある時間と水から離
れているときの時間に差がなければならないことではほぼ一致している。
1 対 3 の割合で漕ぐことが良い練習になる。クルーは、声を出して勘定し、ストローク
に1、リカバリーに3となるように漕ぐ。たとえば、「1、2、3、4」と声を出すとす
ると、
「1、2」の部分が1に相当し、
「2、3、4」の部分が3になるようにする。この
リズムは、5 本の支柱に塀が 4 枚あるようなものだ。たとえば、「1、2」(つまり、ブレ
ードの入りと抜き)の間の時間を 1 秒とすると、「2、3」の時間が 1 秒、「3、4」も 1
8
秒、「4、1」も 1 秒となる。ブレードが水中にある時間が 1 秒、空中にある時間が 3 秒
というわけだ。リズムを1:3にする。この比率を維持しながらレートをゆっくりしたも
のから次第に上げて行き、ついには1:3の比率を守れなくなるまで上げる。目標は、こ
の比率を維持できるレートをできるだけ高くすることだ。
タイミングとバランスを改善するために、リカバリーの時間を意識して大きくする。比
率を1:4、1:5、そして技術レベルが上がるにつれてさらに大きな比率で漕ぐ。リカ
バリー時間を増加させるにつれて、漕手はシートのホイールを動かし続けなければならな
い。
(j)
始め、終わり、そしてバランス
ブレードを立てたまま漕ぐことでブレードをコントロールする練習になる。フェザーし
てフォワードするときには、ブレードの高さは手を下げることなくブレードが立てられる
ものでなければならない。ブレードを立てたまま漕ぐことでその高さを習得するのだ。そ
の高さであれば、フォワードの伸び出しをあまり失うことなく、ブレードを素早く水中に
入れることができる。ブレードを立てたままの漕ぎは、また、正しい高さで引くことをも
教えてくれる。これにより、(フィニッシュで)両手が回り込むように下がってブレード
がきれいに水から抜ける
8. 意思疎通
前述のように、熟練した漕手ほど何年にもわたって体に覚えこませてきた動きをいまさら
変えることには困難があり、コーチにとっても本人にとってもいらいらすることになる。と
きとして、それは意思疎通の問題でもある。コーチは、なぜ変化が必要かを説明するのに違
ったアプローチを試してみる必要がある。
艇速を上げる変化は、漕手に対して動機付けになる。しかし、その他の理由でも変化が必
要なことがある。冬季練習で、私は漕手に対して艇のバランスをとり、リカバリーの間、ブ
レードを水面から離しておくようにコーチした。ある漕手は反応が鈍く、ほとんどストロー
ク 1 本ごとにブレードで水についていた。その漕手に対していろいろな指導を試みたが、い
ずれもうまくいかなかった。私は、チームボートで彼女が漕ぐと、彼女の下手なブレードコ
ントロールが艇のバランスを崩し、クルーの他の漕手をいらいらさせるのではないかと心配
した。
新たなクルーの編成を発表する前日にも、私はまだその問題について心配していた。最後
の手段として、私は違ったことを試してみた。ダブルスカルで 2000m のライトパドルの間に
ブレードが水につかなかった本数を数えるぞ、と言ったのである。私は、自転車で追いかけ、
ブレードが水につかなかった都度、その本数をメガホンを使って大声で数えた。2000m を漕
ぎ終わり、彼女はきれいに漕いだのは 10 本しかなかった。
その晩、私は夕食の席で彼女が落ち込んでいる様子に気がつき、彼女のテーブルの向かい
側に座った。
「あなたには、恥をかかされてしまったわ」と、彼女は目を赤くしながら言った。
大変に取り乱した様子であった。そこで私はもう一度ブレードを水につけないことの重要性
を説明した。しかし、彼女は明らかに落ち込んでおり、反応がなかった。その後長い間、彼
女は私に対してよそよそしく振舞っていた。しかし、あのときの練習以来、彼女はブレード
を水につけることはなくなり、私も注意を与える必要がなくなったのである。その後、彼女
は高いレベルのローイング技術を修得した。
9. 結論
100 年前にはブレードワークはローイングの重要な一部と考えられていた。初心者は、レ
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ース艇を漕ぐ前に、ローイング水槽や幅広の安定した艇でブレードコントロールを学んだ。
ブレードコントロールがおおむねできるようになって初めてレース艇へと進むことが許され
たのである。今日では、初心者も、ブレードコントロールを学ぶ機会がほとんどないまま、
軽量で、敏感で、バランスの難しいレース艇にすぐに乗せられてしまう。
現代のコーチがブレードワークに関心がないわけではないが、初心者はきちんとしたブレ
ードワークを教えられていない。有害な動きがくせになってしまい、後になってそれを修正
させるのは最善のコーチをもってしても難しい。従って、正しいブレードワークを最初から
教え込まなければいけない。
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(訳責
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三原邦夫)