1 便秘の基礎知識と下剤依存症 Ⅰ.便秘の基礎知識

便秘の基礎知識と下剤依存症
わたしたちのやりたいケア 介護の知識 50
便秘の基礎知識と下剤依存症
高齢者は老化に伴い、代謝機能の低下、水分摂取量の減少などによ
り、自然な排便が出づらくなります。特別養護老人ホームの入居者の
なかには、4~5日排泄がない人もたくさんいます。
その多くが下剤を常用しないと排泄ができない「下剤依存症」と言
われる状態になっています。
また、下剤の使用による腹部の痛み、不快感で認知症の周辺症状が
悪化しているケースも多くみられます。
下剤の画一的な使用から抜け出し、自然な排便を取り戻すためのア
プローチを紹介します。
Ⅰ.便秘の基礎知識
A) 便秘症とは
日本消化器病学会のホームページには、便秘症に明確な定義は
ないと書いてあります。
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便秘習慣は個人差が大きいものです。毎日排便があっても、硬
便や排便困難を感じる場合もあるし、排便が3~4日に1回で、
便が硬くても柔らかくても苦痛を感じない場合もあります。
問題となるのは、排便困難や腹部膨満感など症状を伴う便通異
常=「便秘症」です。
B) 原因と症状
便秘症は、原因により以下のように分けられます。
便秘
器質性便秘
弛緩性
便秘
痙攣性
便秘
直腸型
便秘
機能性便秘
薬剤型
便秘
症候性
便秘
消化管
内容物の
減少
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便秘の基礎知識と下剤依存症
① 器質性便秘(通過障害)
イレウス、大腸がん、腸管癒着などの器質的な原因があり、消
化管(小腸・大腸)に通過障害が起こるタイプ。血便、激しい腹痛、
嘔吐などがあれば、すぐに病院に行かなくてはなりません。
② 機能性便秘
大腸の動きや働きに異常がある場合に生じます。
ア) 弛緩性便秘
大腸の運動が弱くなり、大腸が弛緩し、便が排出できない状
態です。日本人の便秘の中で最も多くみられます。
高齢者や、やせ形の女性、寝たきりの方などに多く、食生活、
排便習慣、腹筋力の低下が原因といわれています。
イ) 痙攣性便秘
大腸が緊張したままになって、便が排出できないような状態
です。ストレスや自律神経のアンバランス、特に副交感神経
が緊張しすぎることによって起こります。
腸の動きが強すぎることが原因なので、刺激性下剤(1)を使
用すると、ますます活発になり症状を悪化させてしまうこと
(1)「刺激性下剤」
>>>テキスト9参照
があります。
ウ) 直腸型便秘
直腸内に入ってきた便をうまく排出できない状態です。便意
を我慢することを繰り返すことで、刺激感受性が低下してし
まうことによって起こります。
また、骨盤底筋(2)が正常に働かないことも原因の一つとい
われています。
(2)「骨盤底筋」
>>>テキスト5参照
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エ) 薬剤型便秘
薬剤の影響により便秘になることがあります。
以下が便秘を引き起こす主な薬剤です。
便秘の原因となる主な薬剤
便秘を引き起こす主な作用
・麻薬系の鎮痛剤(モルヒネ)、鎮咳薬など
⇒ 腸の蠕動運動を抑制
・抗コリン薬(気管支拡張薬、鎮痛薬など)
・抗ヒスタミン薬
・向精神薬
・抗うつ薬
・抗パーキンソン薬
・抗不整脈薬
・風邪薬
⇒ 消化管の緊張を低下
・降圧薬(Ca拮抗薬)
⇒消化管運動を低下
・制酸薬
・鉄剤
・収れん薬(ビスマス製剤)など
⇒ 収れん作用(皮膚やタンパク質と
結合して、保護膜を作る作用。粘膜
への刺激が弱まり、腸の蠕動運動を
抑える)
オ) 症候性便秘
次のような病気の一環として便秘になります。便秘を引き起
こしている疾患を治療する必要があります。
内分泌疾患
・甲状腺機能低下症
・褐色細胞腫
・下垂体機能低下症
・副甲状腺機能亢進症
代謝性疾患
・糖尿病
・アミロイドーシス
・尿毒症
中毒性疾患
・鉛中毒
・ヒ素中毒
神経疾患
膠原病
肛門疾患
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・パーキンソン病
・脳血管障害
・脳腫瘍
・多発性硬化症
・強皮病
・痔疾患
・肛門周囲腫瘍
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カ) 消化管内容物の減少
偏食を続けると、食物繊維の不足から腸内環境が悪くなり便
秘になってしまいます。
繊維質の多い食品や腸内の善玉菌を増やす自然食品の摂取
を促します。また、加齢による食事量の減少も原因となりま
す。
Ⅱ.高齢者介護施設で注意したい便秘
高齢者は、老化により筋力低下や疾患、それに伴う薬の服用をして
いる方が多く、便秘になりやすいことを知っておく必要があります。
しかし、便秘には上記で示したようにあらゆる原因があり、介護施
設では、原因を特定せず、排便が3~4日ないと下剤を服用している
ケースが多々あります。このようなことを長年続けていくうちに、体
にさまざまな悪影響が起こり、人間が本来持っている、自然に排便す
る機能を失ってしまい、下剤がないと排便できないという「下剤依存
症」に陥るのです。
① 食事・水分摂取量の低下による胃内容物の減少による便秘
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利用者の中には、食事量が減ってくる人がいます。食事量が減り、
消化管の内容物が減少していれば便が出にくくなります。
このような場合には、まず食事ケアに取り組み、食事量を増やす
ことが必要です。排泄ケアと食事ケアは連動しています。
② 薬の副作用が影響している便秘
薬剤性便秘で紹介しましたが、介護施設でよく服用しているのが
降圧剤(カルシウム拮抗薬)や風邪薬の中の「PL」です。
薬の副作用が影響している中で、自然排便への取り組んでもなか
なか効果は得られません。
排泄の状態を医師に伝え薬の変更等を相談する必要があります。
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